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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01R
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01R
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  H01R
管理番号 1369988
異議申立番号 異議2019-700412  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-21 
確定日 2020-11-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6428781号発明「プラグ、ソケット、および、それらを備える基板接続用コネクタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6428781号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、〔5?8〕について訂正することを認める。 特許第6428781号の請求項1、2、4ないし8に係る特許を維持する。 特許第6428781号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6428781号の請求項1?8に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)9月17日を国際出願日として出願され、平成30年11月9日にその特許権の設定登録がされ、同年11月28日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和1年5月21日 :特許異議申立人内山信一(以下、「異議申立
人」という。)による請求項1?8に係る特
許に対する特許異議の申立て
令和1年7月26日付け :取消理由通知書
令和1年9月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和1年11月15日付け:訂正請求があった旨の通知書
令和1年12月20日 :異議申立人による意見書の提出
令和2年1月30日付け :取消理由通知書(決定の予告)
令和2年3月30日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年4月6日 :訂正請求があった旨の通知書
令和2年5月7日 :異議申立人による意見書の提出
令和2年6月15日付け :訂正拒絶理由通知書
令和2年6月24日 :特許権者による上申書の提出
令和2年7月22日付け :取消理由通知書(決定の予告)
令和2年9月3日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者によって令和2年9月3日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
なお、本件訂正請求によって、令和2年3月30日に提出された訂正請求書による訂正請求は取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。
(1)訂正事項1
請求項1に、「第1の基板に配され、ソケット接続口を有し移動可能に支持されるソケット連結部材と、該ソケット連結部材を着脱方向に対し直交する方向に移動可能に支持するとともに前記第1の基板に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト端子および信号用コンタクト端子を含む複数のコンタクト端子と、を備えるプラグ」とあるのを、「第1の基板に配され、ソケット接続口を有し移動可能に支持されるソケット連結部材と、該ソケット連結部材を収容する収容部を有する外郭部と、前記ソケット連結部材を着脱方向に対し直交する二方向に移動可能に支持するとともに前記第1の基板に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト端子および信号用コンタクト端子を含む複数のコンタクト端子と、を備えるプラグ」と訂正する(請求項1を引用する請求項2及び4も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
請求項1に、「前記プラグの電源用コンタクト端子の接触片部は、前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する互いに離隔した一対の端子固定壁のうちのいずれかに固定され、静電気を前記第1の基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される複数に分岐した可動片部を有する」とあるのを、「前記プラグの前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子の接触片部は、前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する、互いに離隔した一対の端子固定壁および互いに離隔した一対の側壁のうち、前記互いに離隔した一対の端子固定壁のそれぞれにおいて、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの一方の側壁に連接して固定され、前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子は、静電気を前記第1の基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される複数本に分岐した可動片部と固定部を有し、該固定部は、前記外郭部の端子固定壁の内周部に形成された溝に挿入され、前記静電気除去部材は、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの他方の側壁のうちの他方の側壁に隣接して配設される」と訂正する(請求項1を引用する請求項2及び4も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
請求項2に、「前記プラグおよびソケットは、それぞれ、静電気を前記第1の基板および前記第2の基板に逃がす静電気除去部材をさらに備え、該静電気除去部材が、前記複数のコンタクト端子に隣接して配される接地用コンタクト端子である」とあるのを、「前記ソケットは、静電気を前記第2の基板に逃がす静電気除去部材をさらに備え、前記プラグおよび前記ソケットの前記静電気除去部材が、それぞれ、前記複数のコンタクト端子に隣接して配され、互いに接触するように配置される接地用コンタクト端子である」と訂正する。
(4)訂正事項4
請求項3を削除する。
(5)訂正事項5
請求項5に、「基板に配され、ソケット接続口を有し移動可能に支持されるソケット連結部材と、該ソケット連結部材を着脱方向に対し直交する方向に移動可能に支持するとともに前記基板に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト端子および信号用コンタクト端子を含む複数のコンタクト端子と、を備え」とあるのを、「基板に配され、ソケット接続口を有し移動可能に支持されるソケット連結部材と、該ソケット連結部材を収容する収容部を有する外郭部と、前記ソケット連結部材を着脱方向に対し直交する二方向に移動可能に支持するとともに前記基板に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト端子および信号用コンタクト端子を含む複数のコンタクト端子と、を備え」と訂正する(請求項1を引用する請求項2及び4も同様に訂正する。)。
(6)訂正事項6
請求項5に、「前記電源用コンタクト端子の接触片部は、前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する互いに離隔した一対の端子固定壁のうちのいずれかに固定され、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される複数に分岐した可動片部を有する」とあるのを、「前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子の接触片部は、前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する、互いに離隔した一対の端子固定壁および互いに離隔した一対の側壁のうち、前記互いに離隔した一対の端子固定壁のそれぞれにおいて、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの一方の側壁に隣接して固定され、前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子は、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される複数本に分岐した可動片部と固定部を有し、該固定部は、前記外郭部の端子固定壁の内周部に形成された溝に挿入され、前記静電気除去部材は、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの他方の側壁に隣接して配設される」と訂正する(請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6?8も同様に訂正する。)。
(7)訂正事項7
請求項6に、「前記プラグは、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材をさらに備え、該静電気除去部材が、前記複数のコンタクト端子に隣接して配される接地用コンタクト端子である」とあるのを、「前記静電気除去部材が、前記複数のコンタクト端子に隣接して配される接地用コンタクト端子である」と訂正する。
(8)訂正事項8
請求項7に、「基板に配される前記接続端部が前記プラグのソケット接続口に接続される場合、前記プラグにおける電源用コンタクト端子、信号用コンタクト端子、および、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材にそれぞれ、接続されるとともに該基板に電気的に接続される電源用コンタクト端子、信号用コンタクト端子、および、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材」とあるのを、「基板に配される前記接続端部が前記プラグのソケット接続口に接続される場合、前記プラグにおける電源用コンタクト端子、信号用コンタクト端子、および、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材にそれぞれ、接続されるとともに該基板に電気的に接続されるソケットにおける電源用コンタクト端子、信号用コンタクト端子、および、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材」と訂正する(請求項7を引用する請求項8も同様に訂正する。)。
(9)訂正事項9
請求項8に、「前記静電気除去部材が、前記複数のコンタクト端子に隣接して配される接地用コンタクト端子である」とあるのを、「前記ソケットにおける静電気除去部材が、前記ソケットの複数の信号用コンタクト端子に隣接して配される接地用コンタクト端子である」と訂正する。
なお、訂正前の請求項1?4は、請求項2?4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあり、また、訂正前の請求項5?8は、請求項6?8が、訂正の請求の対象である請求項5の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1?4及び5?8について請求されている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、請求項1に記載の発明特定事項である、「プラグ」の構造について、「該ソケット連結部材を収容する収容部を有する外郭部と」という限定を付加するものであるとともに、「ソケット連結部材」の移動可能な方向が不明瞭であったものを、「着脱方向に対し直交する二方向」と明瞭化するものであるといえる。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
訂正事項1のうち、「プラグ」の構造について、「該ソケット連結部材を収容する収容部を有する外郭部と」という限定を付加する訂正は、願書に添付した明細書の段落【0026】の記載に基づいており、また、「ソケット連結部材」の移動可能な方向を、「着脱方向に対し直交する二方向」とする訂正は、願書に添付した明細書の段落【0038】の記載に基づいているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項1における、電源用コンタクト端子の接触片部が固定されている箇所について、訂正前の「前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する互いに離隔した一対の端子固定壁のうちのいずれかに」から、「前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する、互いに離隔した一対の端子固定壁および互いに離隔した一対の側壁のうち、前記互いに離隔した一対の端子固定壁のそれぞれにおいて、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの一方の側壁に隣接して」に限定し、請求項1における、静電気除去部材が配設される箇所について、訂正前には特定されていなかったのを、「前記静電気除去部材は、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの他方の側壁に隣接して配設される」と特定し、請求項1における電源用コンタクト端子の構造について、訂正前の「静電気を前記第1の基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される複数に分岐した可動片部を有する」から、「前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子は、静電気を前記第1の基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される複数本に分岐した可動片部と固定部を有し、該固定部は、前記外郭部の端子固定壁の内周部に形成された溝に挿入され、」に限定する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、請求項1における電源用コンタクト端子について、訂正前の「電源用コンタクト端子の接触片部」から、「前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子の接触片部」として、記載の明瞭化を図るものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるともいえる。
訂正事項2のうち、電源用コンタクト端子の接触片部が固定されている箇所についての限定は、願書に添付した明細書の段落【0041】の記載に基づいており、静電気除去部材が配設される箇所についての限定は、願書に添付した明細書の段落【0042】の記載に基づいており、電源用コンタクト端子の構造についての限定は、願書に添付した明細書の段落【0030】、【0032】及び【0034】の記載に基づいているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。そして、「前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子の接触片部」とする訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3
プラグが静電気除去部材を有することは請求項1に規定されているから、請求項1を引用する請求項2において、かかる点を重ねて規定する必要はない。訂正事項3は、訂正前の請求項2において、プラグが静電気除去部材を有することが規定されていたのを削除し、請求項1との間で整合を図るとともに、当該削除に伴う請求項2における表現上の整合を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
また、訂正事項3が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえ、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、請求項5に記載の発明特定事項である、「プラグ」の構造について、「該ソケット連結部材を収容する収容部を有する外郭部と」という限定を付加するものであるとともに、「ソケット連結部材」の移動可能な方向が不明瞭であったものを、「着脱方向に対し直交する二方向」と明瞭化するものであるといえる。
したがって、訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮、および、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
訂正事項5のうち、「プラグ」の構造について、「該ソケット連結部材を収容する収容部を有する外郭部と」という限定を付加する訂正は、願書に添付した明細書の段落【0026】の記載に基づいており、また、「ソケット連結部材」の移動可能な方向を、「着脱方向に対し直交する二方向」とする訂正は、願書に添付した明細書の段落【0038】の記載に基づいているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)訂正事項6
訂正事項6は、請求項5における、電源用コンタクト端子の接触片部が固定されている箇所について、訂正前の「前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する互いに離隔した一対の端子固定壁のうちのいずれかに」から、「前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する、互いに離隔した一対の端子固定壁および互いに離隔した一対の側壁のうち、前記互いに離隔した一対の端子固定壁のそれぞれにおいて、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの一方の側壁に隣接して」に限定し、請求項5における、静電気除去部材が配設される箇所について、訂正前には特定されていなかったのを、「前記静電気除去部材は、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの他方の側壁に隣接して配設される」と特定し、請求項5における電源用コンタクト端子の構造について、訂正前の「静電気を前記第1の基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される複数に分岐した可動片部を有する」から、「前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子は、静電気を前記第1の基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される複数本に分岐した可動片部と固定部を有し、該固定部は、前記外郭部の端子固定壁の内周部に形成された溝に挿入され、」に限定する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、請求項5における電源用コンタクト端子について、訂正前の「電源用コンタクト端子の接触片部」から、「前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子の接触片部」として、記載の明瞭化を図るものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるともいえる。
訂正事項6のうち、電源用コンタクト端子の接触片部が固定されている箇所についての限定は、願書に添付した明細書の段落【0041】の記載に基づいており、静電気除去部材が配設される箇所についての限定は、願書に添付した明細書の段落【0042】の記載に基づいており、電源用コンタクト端子の構造についての限定は、願書に添付した明細書の段落【0030】、【0032】及び【0034】の記載に基づいているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。そして、「前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子の接触片部」とする訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかである。
また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、という事情は認められない。
したがって、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)訂正事項7
プラグが静電気除去部材を有することは請求項5に規定されているから、請求項5を引用する請求項6において、かかる点を重ねて規定する必要はない。訂正事項7は、訂正前の請求項6において、プラグが静電気除去部材を有することが規定されていたのを削除し、請求項5との間で整合を図るとともに、当該削除に伴う請求項6における表現上の整合を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
また、訂正事項7が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(8)訂正事項8
訂正事項8は、訂正前の請求項7において、プラグにおける電源用コンタクト端子等に、ソケットにおける電源用コンタクト端子等を接続することが明確でなかったのを明瞭にするための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
また、プラグにおける電源用コンタクト端子等に、ソケットにおける電源用コンタクト端子等を接続することは、願書に添付した明細書の段落【0031】の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(9)訂正事項9
訂正事項9は、請求項8において、静電気除去部材、複数のコンタクト端子が、それぞれ、ソケットに設けられたものであり、複数のコンタクト端子が複数の信号用コンタクト端子であることを明確にするための訂正である。
したがって、訂正事項9は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
また、静電気除去部材、複数のコンタクト端子が、それぞれ、ソケットに設けられたものであり、複数のコンタクト端子が複数の信号用コンタクト端子であることは、願書に添付した明細書の段落【0020】の記載に基くものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正事項1?9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕、〔5?8〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、2及び4?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」及び「本件発明4」?「本件発明8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2及び4?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
[本件発明1]
「第1の基板に配され、ソケット接続口を有し移動可能に支持されるソケット連結部材と、該ソケット連結部材を収容する収容部を有する外郭部と、前記ソケット連結部材を着脱方向に対し直交する二方向に移動可能に支持するとともに前記第1の基板に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト端子および信号用コンタクト端子を含む複数のコンタクト端子と、を備えるプラグと、
第2の基板に配され、前記ソケット連結部材のソケット接続口に取り外し可能に接続される接続端部を有し、該接続端部がソケット接続口に接続される場合、前記プラグの複数のコンタクト端子に電気的に接続されるとともに該第2の基板に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト端子および信号用コンタクト端子を含む複数のコンタクト端子を備えるソケットと、を備え、
前記プラグの前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子の接触片部は、前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する、互いに離隔した一対の端子固定壁および互いに離隔した一対の側壁のうち、前記互いに離隔した一対の端子固定壁のそれぞれにおいて、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの一方の側壁に隣接して固定され、前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子は、静電気を前記第1の基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される複数本に分岐した可動片部と固定部を有し、該固定部は、前記外郭部の端子固定壁の内周部に形成された溝に挿入され、前記静電気除去部材は、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの他方の側壁に隣接して配設されることを特徴とする基板接続用コネクタ。」
[本件発明2]
「前記ソケットは、静電気を前記第2の基板に逃す静電気除去部材をさらに備え、前記プラグおよび前記ソケットの前記静電気除去部材が、それぞれ、前記複数のコンタクト端子に隣接して配され、互いに接触するように配置される接地用コンタクト端子であることを特徴とする請求項1記載の基板接続用コネクタ。」
[本件発明4]
「前記ソケットの接続端部が前記ソケット連結部材のソケット接続口に接続される場合、該ソケットの接続端部の誤挿入を防止する誤挿入防止機構を備えることを特徴とする請求項1記載の基板接続用コネクタ。」
[本件発明5]
「基板に配され、ソケット接続口を有し移動可能に支持されるソケット連結部材と、該ソケット連結部材を収容する収容部を有する外郭部と、前記ソケット連結部材を着脱方向に対し直交する二方向に移動可能に支持するとともに前記基板に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト端子および信号用コンタクト端子を含む複数のコンタクト端子と、を備え、
前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子の接触片部は、前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する、互いに離隔した一対の端子固定壁および互いに離隔した一対の側壁のうち、前記互いに離隔した一対の端子固定壁のそれぞれにおいて、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの一方の側壁に隣接して固定され、前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子は、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される複数本に分岐した可動片部と固定部を有し、該固定部は、前記外郭部の端子固定壁の内周部に形成された溝に挿入され、前記静電気除去部材は、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの他方の側壁に隣接して配設されることを特徴とするプラグ。」
[本件発明6]
「前記静電気除去部材が、前記複数のコンタクト端子に隣接して配される接地用コンタクト端子であることを特徴とする請求項5記載のプラグ。」
[本件発明7]
「請求項5記載のプラグのソケット連結部材のソケット接続口に取り外し可能に接続される接続端部と、
基板に配される前記接続端部が前記プラグのソケット接続口に接続される場合、前記プラグにおける電源用コンタクト端子、信号用コンタクト端子、および、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材にそれぞれ、接続されるとともに該基板に電気的に接続されるソケットにおける電源用コンタクト端子、信号用コンタクト端子、および、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材と、を備えて構成されるソケット。」
[本件発明8]
「前記ソケットにおける静電気除去部材が、前記ソケットの複数の信号用コンタクト端子に隣接して配される接地用コンタクト端子であることを特徴とする請求項7記載のソケット。」

第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1?8に係る特許に対して、当審が令和2年7月22日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。
請求項1、2及び5?8に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び3に記載された周知・慣用手段1並びに引用文献4?6に記載された周知・慣用手段2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項3に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び3に記載された周知・慣用手段1並びに、同じく引用文献2及び3に記載された周知・慣用手段3並びに引用文献4?6に記載された周知・慣用手段2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、さらに、請求項4に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び3に記載された周知・慣用手段1並びに、同じく引用文献2及び3に記載された周知・慣用手段3並びに引用文献4?6に記載された周知・慣用手段2並びに引用文献7及び8に記載された周知・慣用手段4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

引用文献
1:特開2007-220327号公報(異議申立人の提出した甲第1号証、以下同様。)
2:特開2005-63796号公報(甲第2号証の1)
3:特開2006-120448号公報(甲第2号証の2)
4:特開2006-286530号公報(甲第3号証の1)
5:特開2013-120702号公報(甲第3号証の2)
6:特開2012-129109号公報(甲第3号証の3)
7:特開平8-321358号公報(甲第4号証の1)
8:特開2007-242416号公報(甲第4号証の2)

第5 当審の判断
1 引用文献1の記載及び発明
(1)引用文献1の記載
取消理由通知(決定の予告)において引用した引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
(1a)「【0001】
本発明は、基板に対して固定された固定側ハウジングと相手方コネクタと嵌合する嵌合部を有した可動側ハウジングとを有し、可動側ハウジングが固定側ハウジングに対して移動自在な構成とすることにより、相手方コネクタとの嵌合結合時にハウジング同士の位置ずれがあった場合でもこれを吸収してコネクタ同士を確実に結合させることができるようにしたフローティング型コネクタに関する。」
(1b)「【0006】
このように構成された低背型のフローティング型コネクタにおいては、複数のコンタクト130は信号伝達に用いられており、信号用の小さな電流の伝達を行えば良く、また小型コンパクト化の要求に伴ってその幅は極く細いものであった。ところが、このコネクタを介して信号電流とともに電源電流の伝達を求められることがあり、このような場合に、信号用コンタクトは幅が細すぎて電源用のコンタクトとして用いるのに適していないという問題があった。電源用コンタクトとして幅が広いコンタクトを用いるということが考えられるが、幅の広いコンタクトを用いた場合には、可動側ハウジング120が固定側ハウジング110に対して移動できるようする可撓部(中間部)も幅広となるため、この移動に対する抵抗力が大きくなりすぎるという使用上の問題がある。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、電源用コンタクトを備えるとともに、相手方コネクタとの嵌合時にハウジング同士の位置ずれを吸収するときの抵抗力を小さく抑えることが可能な構成のフローティング型コネクタを提供することを目的としている。」
(1c)「【0010】
本発明に係るフローティング型コネクタでは、電源用コンタクトにおいて電源用接触部と電源用接合部を繋ぐ電源用中間部が、可動側ハウジングが固定側ハウジングに対して移動したときに対する抵抗力が小さくなるような構成であるので、幅広で電源用として大きな容量を確保した電源用コンタクトを設けた上で、相手方コネクタとの嵌合時にハウジング同士の位置ずれを吸収するときの抵抗力を小さく抑えて実用上での問題のないフローティングコネクタを得ることができる。」
(1d)「【0011】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図1?図12(図8を除く)は本発明の一実施形態に係るフローティング型コネクタであるレセプタクルコネクタ1およびその構成部品を示している。また、図8および図11にはこのレセプタクルコネクタ1と嵌合するプラグコネクタ70を示している。本実施形態では説明の便宜上、各図中に示すように前後、左右、上下方向を定義しているが、実際の使用はこの方向に限定されるものではなく、このことは請求の範囲の記載についても同様である。
【0012】
レセプタクルコネクタ1は、下面側において基板90に対して固定される固定側ハウジング10と、上方に開口した受容凹部(嵌合空間)23を有した可動側ハウジング20と、これら固定側ハウジング10および可動側ハウジング20の双方に跨って保持された複数の信号用コンタクト30と、これらコンタクト30と同列に並んで配設された電源用コンタクト40と、固定金具50とを有して構成されている。
【0013】
固定側ハウジング10および可動側ハウジング20は図1および図2に示すように前後方向に延びた矩形形状を有しており、ともに樹脂等の電気絶縁性材料から構成される。固定側ハウジング10は上下方向に貫通した内部空間12を有した枠形状の部材から構成される。内部空間12を形成する前後方向に延びた左右壁11,11の内面には、信号用コンタクト30を保持するための多数の信号用コンタクト取り付け溝13aが前後に並んで且つ上下に延びて設けられ、左右壁11,11の前部側には左右一対の電源用コンタクト取り付け溝13bが上下に延びて設けられている。上記のように固定側ハウジング10に形成される内部空間12は必ずしも上下に貫通する必要はなく、少なくとも上方に開口した空間であれば良い。
【0014】
可動側ハウジング20は平板状の基部21と、この基部21の中央から矩形枠状に下方に突出した前後方向に長い形状の突出部22とを有している。突出部22は、外周面が固定側ハウジング10の上記内部空間12内に上方から、少なくとも左右に間隙を有して入り込むことができる形状に形成されている。この突出部22には上面側に開口した上記受容凹部23が形成されており、突出部22は全体として矩形状の有底鉢状に形成されている。受容凹部23の内壁面には上記信号用コンタクト30を保持するための多数の信号用コンタクト取り付け溝24aが前後に並んで且つ上下に延びて設けられ、受容凹部23の内壁面の前部側には左右一対の電源用コンタクト取り付け溝24bが上下に延びて設けられている。これらコンタクト取り付け溝24a,24bの下部は突出部22の底壁を貫通する信号用および電源用コンタクト取り付け孔24c,24dに繋がって上下に貫通している。
【0015】
各信号用コンタクト30は例えば板金(弾性体からなる導電性材料)を打ち抜き加工した後、図2に示すように所定の形状に曲げ成形されて構成されている。各信号用コンタクト30は一端側において信号用コンタクト取り付け溝13内に挿入されて固定側ハウジング10に保持され、他端側において信号用コンタクト取り付け溝24内に挿入されて可動側ハウジング20に保持され、この結果、固定側ハウジング10と可動側ハウジング20とが複数の信号用コンタクト30を介して繋がってレセプタクルコネクタ1が構成される。各信号用コンタクト30は、このように両ハウジングに跨って保持された状態で内側に位置する信号用接触部34と、下面外側に延びる信号用リード部(信号用接合部)33と、これらを繋ぐ逆U字状の信号可撓部(信号用中間部)35とを有して構成される。なお、信号用コンタクト30は可動側ハウジング20の左右両側に、前後方向に一定のピッチで並んで設けられる(図1参照)。」
(1e)「【0018】
電源用コンタクト40は、図6および図7に示すように、可動側ハウジング20に保持される第1電源用コンタクト41と、固定側ハウジング10に保持される第2電源用コンタクト45とから構成される。これら第1および第2電源用コンタクト41,45は、例えば板金(弾性体からなる導電性材料)を打ち抜き加工した後、図示の形状に曲げ成形されて作られる。第1電源用コンタクト41は、可動側ハウジング20の電源用コンタクト取り付け溝24b内に挿入配設される電源用接触部42と、第2電源用コンタクト46と当接接触する第1当接部44と、電源用接触部42と第1当接部44とを繋ぐ逆U字状の第1可撓部43とから構成される。電源用接触部42の下部の左右側端には左右に突出した第3圧入係止部42aが形成されており、この第3圧入係止部42aが可動側ハウジング20の電源用コンタクト取り付け孔24d内に圧入保持される。
【0019】
第2電源用コンタクト45は、上記第1当接部44と当接接触する第2当接部46と、第2当接部46に繋がる逆U字状の第2可撓部47と、第2可撓部47の下部に繋がって外方に水平に延びる電源用リード部(電源用接合部)48とから構成される。第2可撓部47の左右側端には左右に突出した第4圧入係止部47aが形成されており、この第4圧入係止部47aが固定側ハウジング10の電源用コンタクト取り付け溝13b内に圧入保持される。第2当接部46の内面には内方に突出する接触突起46aが形成されており、この接触突起46aが第1電源用コンタクト41の第1当接部44と当接接触するように構成されている。」
(1f)「【0021】
以上のように構成されたレセプタクルコネクタ1と嵌合接続される相手方コネクタであるプラグコネクタ70について、図8および図11を参照して説明する。プラグコネクタ70は図示のようにレセプタクルコネクタ1の受容凹部23と嵌合し得る形状の突起部72を有した電気絶縁性材料からなるプラグハウジング71と、このプラグハウジング71に保持された弾性体かつ導電性材料からなる複数の信号用コンタクト73と、同じくプラグハウジング71に保持された弾性体かつ導電性材料からなる左右一対の電源用コンタクト75とを有する。これら信号用コンタクト73および電源用コンタクト75は、レセプタクルコネクタ1の各信号用コンタクト30および電源用コンタクト40と対応するよう、突起部72の左右両側に、前後方向に所定のピッチで設けられている。
【0022】
各信号用コンタクト73は、図示のようにS字状に折り曲げ成形された信号用接触部73a(なお、信号用接触部73aは、図11に示すように「く」の字状に折り曲げ成形しても良い)と、信号用接触部73aの下部に設けられた係止保持部73bと、係止保持部73bの下端から直角に折れ曲がって外方に延びる信号用リード部73cとから構成される。係止保持部73bにおいてプラグハウジング71に係止保持されるため、信号用接触部73aは片持ち状態で上方に延び左右に弾性変形自在となっている。信号用リード部73cはプラグコネクタ70が取り付けられる基板(図示せず)上の所定の配線パターンに半田接合(サーフェスマウント)されている。同様に、電源用コンタクト75は係止保持部(図示せず)において片持ち支持されて上方に延びた電源用接触部75aが左右方向に弾性変形自在となっており、係止保持部に一体に繋がって外方に延びる電源用リード部75cがこの相手方コネクタ70が取り付けられる基板(図示せず)上の所定の配線パターンに接続されている。
【0023】
プラグコネクタ70の突起部72をレセプタクルコネクタ1の受容凹部23内に、図16に示すように上方から挿入すると、プラグコネクタ70の突起部72はレセプタクルコネクタ1の受容凹部23内に嵌入する。このときプラグコネクタ70の信号用コンタクト73はレセプタクルコネクタ1の信号用コンタクト30(信号用接触部34)と接触しつつ左右方向に弾性変形させられるので、両信号用コンタクト30,73は適切な接触力をもって接触し、両コネクタ1,70間での信号伝送が可能となる。同様に、電源用コンタクト75はレセプタクルコネクタ1の電源用コンタクト40(第1電源用コンタクト41の電源用接触部42)と接触しつつ左右方向に弾性変形させられるので、両信号用コンタクト40,73は適切な接触力をもって接触し、両コネクタ1,70間での電源接続(電力伝送)が可能となる。」
(1g)「【0028】
これに対して電源用コンタクト40は電源電流という比較的大きな電流を流す必要から、図示のように信号用コンタクト30より大きな幅を有しており、信号用コンタクト30と同一の側面形状の一体に繋がった構成とした場合には第2変形力が過度に大きくなりすぎてプラグコネクタ70の嵌合に要する力が大きくなりすぎるという問題がある。しかしながら、上述のように、電源用コンタクト40を第1および第2電源用コンタクト41,45の二つに分割して構成しているめ、第1可撓部44および第2可撓部47をそれぞれ独立して弾性変形させることになり、第2変形力を小さく抑えることができる。この結果、レセプタクルコネクタ1の受容凹部23の中心軸面S1とプラグコネクタ70の突起部72の中心軸面S2とが一致していない場合でも、可動側ハウジング20を比較的小さな抵抗力で左右に移動させることができ、レセプタクルコネクタ1とプラグコネクタ70とをスムーズに嵌合させることが可能である。」
(1h)「【0031】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明してきたが、本発明の範囲は上述の実施形態に示したものに限定されない。例えば、上述の実施形態においては、第2変形力を小さくするため、電源用コンタクト40を第1および第2電源用コンタクト41,42に分割しているが、これを弾性変形力が小さくなるような材料もしくは形状として、信号用コンタクトと同一の側面視形状となる一体構成としても良い。」
(1i)「【請求項1】
上方に開口した内部空間を有し、下面側において基板等に接合固定可能な固定側ハウジングと、上方に開口した相手方コネクタと嵌合する嵌合空間を有し、前記固定側ハウジングの前記内部空間内に少なくとも左右方向に間隙を有して配置される部分を有した可動側ハウジングと、一端側が前記固定側ハウジングに保持されるとともに他端側が前記可動側ハウジングに保持されて前後方向に並んで配設された複数の信号用コンタクトと、一端側が前記固定側ハウジングに保持されるとともに他端側が前記可動側ハウジングに保持されて前記信号用コンタクトと同列に前後方向に並んで配設され、前記信号用コンタクトより前後方向寸法が大きな電源用コンタクトとを有して構成され、
前記複数の信号用コンタクトがそれぞれ、前記一端側において前記嵌合空間内に露出して設けられて前記相手側コネクタの信号用コンタクトと接触するための信号用接触部と、前記他端側において前記基板の信号配線部に接合される信号用接合部と、前記信号用接触部と前記信号用接合部を繋ぐ信号用中間部を有し、前記信号用中間部が弾性変形可能であり、前記信号用中間部が弾性変形して前記可動側ハウジングが前記固定側ハウジングに対して少なくとも左右方向に移動自在であり、
前記電源用コンタクトが、前記一端側において前記嵌合空間内に露出して設けられて前記相手側コネクタの電源用コンタクトと接触する電源用接触部と、前記他端側において前記基板の電源配線部に接合される電源用接合部と、前記電源用接触部と前記電源用接合部を繋ぐ電源用中間部を有し、
前記電源用中間部が、前記可動側ハウジングが前記固定側ハウジングに対して移動したときに対する抵抗力が小さくなるような構成であることを特徴とするフローティング型コネクタ。」

(2)引用文献1に記載の事項
上記引用文献1の記載並びに【図1】?【図9】及び【図11】の記載内容より、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているといえる。
(2a)レセプタクルコネクタ1とプラグコネクタ70とからなる嵌合接続構成(摘記(1a)、(1d)、(1e)及び(1f)並びに【図5】、【図8】及び【図11】)。
(2b)レセプタクルコネクタ1は、受容凹部23を有し、一方の基板90に移動可能に支持されるよう配置されている可動側ハウジング20と、可動側ハウジング20の突出部22を収容する内部空間12を有する枠形状の部材と、該可動側ハウジング20を着脱方向に対して直交する左右方向(長方形である可動側ハウジング20の短手方向、以下、「左右方向」という。)に移動可能に支持するとともに基板90に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト40及び信号用コンタクト30を含む複数のコンタクト端子とを備える固定側ハウジング10とを備える(摘記(1d)及び(1e)並びに【図1】?【図5】及び【図9】)。
(2c)プラグコネクタ70は、他方の基板に配され、可動側ハウジング20の受容凹部23に取り外し可能に接続される突起部72を有し、該突起部72が受容凹部23に接続される場合、レセプタクルコネクタ1の複数のコンタクト端子に電気的に接続されるとともに、他方の基板に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト75及び信号用コンタクト73を含む複数のコンタクト端子を備える(摘記(1f)並びに【図8】及び【図11】)。
(2d)レセプタクルコネクタ1における可動側ハウジング20に設けられた受容凹部23は、信号用コンタクト30及び電源用コンタクト40が取り付けられている互いに離隔した一対のコンタクト取り付け壁及び互いに離隔した一対の側壁から形成される(摘記(1d)及び【図1】?【図5】)。
(2e)レセプタクルコネクタ1の少なくとも一つの電源用コンタクト40の電源用接触部42は、可動側ハウジング20の受容凹部23を形成する互いに離隔した一対のコンタクト取り付け壁のそれぞれにおいて、その端部に固定されている(摘記(1d)及び(1e)並びに【図2】、【図4】、【図5】、【図6】及び【図7】)。
(2f)レセプタクルコネクタ1の少なくとも一つの電源用コンタクト40は、信号用コンタクト30の信号用接触部34の面積よりも大なる面積を有する電源用接触部42に連結される、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対して移動したときに対する抵抗力が小さくなるように構成されている電源用中間部と、固定側ハウジング10の電源用コンタクト取り付け溝13b内に圧入保持される第4圧入係止部47aとを有する(摘記(1e)、(1f)、(1g)、(1h)及び(1i)並びに【図5】及び【図6】)。
(2g)電源用コンタクト取り付け溝13bは、固定側ハウジング10の枠形状の部材の端子を固定している部分の内周部に形成されている(摘記(1e)及び【図2】)。

(3)引用文献1に記載の発明
上記引用文献1に記載の技術的事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているといえる。
[引用発明]
「一方の基板90に配され、受容凹部23を有し移動可能に支持される可動側ハウジング20と、
可動側ハウジング20の突出部22を収容する内部空間12を有する枠形状の部材と、該可動側ハウジング20を着脱方向に対し直交する左右方向に移動可能に支持するとともに前記基板90に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト40および信号用コンタクト30を含む複数のコンタクト端子とを備える固定側ハウジング10と、
を備えるレセプタクルコネクタ1と、
他方の基板に配され、前記可動側ハウジング20の受容凹部23に取り外し可能に接続される突起部72を有し、該突起部72が前記受容凹部23に接続される場合、前記レセプタクルコネクタ1の複数のコンタクト端子に電気的に接続されるとともに前記他方の基板に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト75および信号用コンタクト73を含む複数のコンタクト端子を備えるプラグコネクタ70と、を備え、
前記レセプタクルコネクタ1の前記少なくとも一つの電源用コンタクト40の電源用接触部42は、可動側ハウジング20の受容凹部23を形成する、前記信号用コンタクト30及び電源用コンタクト40が取り付けられている互いに離隔した一対のコンタクト取り付け壁及び互いに離隔した一対の側壁のうち、互いに離隔した一対のコンタクト取り付け壁のそれぞれにおいて、その端部に固定されており、前記少なくとも一つの電源用コンタクト40は、信号用コンタクト30の信号用接触部34の面積よりも大なる面積を有する電源用接触部42に連結される、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対して移動したときに対する抵抗力が小さくなるように構成されている電源用中間部と、第4圧入係止部47aを有し、該第4圧入係止部47aは、前記固定側ハウジング10の枠形状の部材の端子を固定している部分の内周部に形成されている電源用コンタクト取り付け溝13bに圧入保持されている、
レセプタクルコネクタ1とプラグコネクタ70とからなる嵌合接続構成。」

2 対比・判断
(1)本件発明1について
a 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
(a)引用発明の「一方の基板90」は、本件発明1の「第1の基板」に相当する。
以下同様に、「受容凹部23」は、「ソケット接続口」に、「可動側ハウジング20」は、「ソケット連結部材」に、「枠形状の部材」は、「外郭部」に、「電源用コンタクト40」は、「電源用コンタクト端子」に、「信号用コンタクト30」は、「信号用コンタクト端子」に、「複数のコンタクト端子」は、「複数のコンタクト端子」に、「レセプタクルコネクタ1」は、「プラグ」に、「他方の基板」は、「第2の基板」に、「突起部72」は、「接続端部」に、「電源用コンタクト75」は、「電源用コンタクト端子」に、「信号用コンタクト73」は、「信号用コンタクト端子」に、「プラグコネクタ70」は、「ソケット」に、「電源用接触部42」は、「接触片部」に、「第4圧入係止部47a」は、「固定部」に、「電源用コンタクト取り付け溝13b」は、「溝」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「内部空間12」は、「可動側ハウジング20の突出部22を収容する」ものであり、可動側ハウジング20を収容するといえるから、本件発明1の「収容部」に相当する。
さらに、引用発明の「固定側ハウジング10の枠形状の部材の端子を固定している部分の内周部」は、枠形状の部材の端子固定壁の内周部といえるから、本件発明1の「外郭部の端子固定壁の内周部」に相当する。
(b)引用発明の「可動側ハウジング20」は、「着脱方向に対し直交する左右方向に移動可能に支持」されているものであるから、引用発明の「該可動側ハウジング20を着脱方向に対し直交する左右方向に移動可能に支持する」ことは、本件発明1の「前記ソケット連結部材を着脱方向に対し直交する二方向に移動可能に支持する」こととの対比において、「前記ソケット連結部材を着脱方向に対し直交する左右方向に移動可能に支持する」との限度で一致する。
(c)引用発明の「電源用中間部」は、「可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対して移動したときに対する抵抗力が小さくなるように構成されている」ものであり、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対して移動したときに、当該電源用中間部において可動であるように形成されているといえるので(摘記(1f)段落【0023】を参照。)、本件発明1の「可動片部」に相当する。
また、引用発明の「受容凹部23」は、「前記信号用コンタクト30及び電源用コンタクト40が取り付けられている互いに離隔した一対のコンタクト取り付け壁及び互いに離隔した一対の側壁」から形成されているものであるところ、引用発明の「電源用コンタクト40の電源用接触部42は」は、「可動側ハウジング20の受容凹部23を形成する」「互いに離隔した一対のコンタクト取り付け壁のそれぞれにおいて、その端部に固定されて」いるものであり、ここで、コンタクト取り付け壁の端部は、互いに離隔した一対の側壁のうちの一方の側壁に隣接する部分であるといえる。
したがって、引用発明の「前記レセプタクルコネクタ1の前記少なくとも一つの電源用コンタクト40の電源用接触部42は、可動側ハウジング20の受容凹部23を形成する、前記信号用コンタクト30及び電源用コンタクト40が取り付けられている互いに離隔した一対のコンタクト取り付け壁及び互いに離隔した一対の側壁のうち、互いに離隔した一対のコンタクト取り付け壁のそれぞれにおいて、その端部に固定されて」いることは、本件発明1の「前記プラグの前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子の接触片部は、前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する、互いに離隔した一対の端子固定壁および互いに離隔した一対の側壁のうち、前記互いに離隔した一対の固定壁のそれぞれにおいて、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの一方の側壁に隣接して固定され」ていることに相当する。
(d)引用発明の「信号用コンタクト30の信号用接触部34の面積よりも大なる面積を有する電源用接触部42に連結される」ことは、本件発明1の「前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される」ことに相当する。
(e)引用発明の「レセプタクルコネクタ1とプラグコネクタ70とからなる嵌合接続構成」は、当該接続構成により、一方の基板90と他方の基板を接続するコネクタが形成されるといえるから、本件発明1の「基板接続用コネクタ」に相当する。
(f)以上のとおりであるから、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「第1の基板に配され、ソケット接続口を有し移動可能に支持されるソケット連結部材と、該ソケット連結部材を収容する収容部を有する外郭部と、前記ソケット連結部材を着脱方向に対し直交する左右方向に移動可能に支持するとともに前記第1の基板に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト端子および信号用コンタクト端子を含む複数のコンタクト端子と、を備えるプラグと、
第2の基板に配され、前記ソケット連結部材のソケット接続口に取り外し可能に接続される接続端部を有し、該接続端部がソケット接続口に接続される場合、前記プラグの複数のコンタクト端子に電気的に接続されるとともに該第2の基板に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト端子および信号用コンタクト端子を含む複数のコンタクト端子を備えるソケットと、を備え、
前記プラグの前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子の接触片部は、前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する、互いに離隔した一対の端子固定壁および互いに離隔した一対の側壁のうち、前記互いに離隔した一対の端子固定壁のそれぞれにおいて、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの一方の側壁に隣接して固定され、前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子は、前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される可動片部と固定部を有し、該固定部は、前記外郭部の端子固定壁の内周に形成された溝に挿入されている、基板接続用コネクタ。」
[相違点1]
本件発明1は、プラグの「ソケット連結部材を着脱方向に対し直交する二方向に移動可能に支持する」もので、プラグの電源用コンタクト端子が、「可動片部と固定片部を有し」、可動片部と固定部を「複数本に分岐した」ものとするのに対し、引用発明は、レセプタクルコネクタ1の「可動側ハウジング20を着脱方向に対し直交する左右方向に支持する」もので、電源用コンタクト40が、「可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対して移動したときに対する抵抗力が小さくなるように構成されている電源用中間部と、第4圧入係止部47aを有し」、電源用中間部と第4圧入形止部47aが複数本に分岐していない点。
[相違点2]
本件発明1は、「前記プラグの信号用コンタクト端子」が「静電気を前記第1の基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される」ものであり、「前記静電気除去部材は、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの他方の側壁に隣接して配置される」という構成を有するのに対し、引用発明は、静電気除去部材については特定されておらず、「信号用コンタクト30」との位置関係についても特定されていない点。

b 判断
(a)相違点1について
ア 引用発明の「電源用中間部」は、「可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対して移動したときに対する抵抗力が小さくなるように構成されている」ものであるところ、ここでの抵抗力とは、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対して、左右方向に移動したときの抵抗力であると解される。そして、引用文献1には、かかる抵抗力を小さくするための具体的な構成として、電源用コンタクト40を、可動側ハウジング20に保持される第1電源用コンタクト41と、固定側ハウジング10に保持される第2電源用コンタクト45の2つの部材から構成することにより、両電源用コンタクト41、45にそれぞれ可撓部43、47を有する構成が記載されている。そして、かかる引用文献1に記載のものは、2つの可撓部43、47を有することにより、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対して左右方向に移動したときに対する抵抗力を小さくするようにしたものである(引用文献1の段落【0018】、【0019】、【0027】及び【0028】を参照。)。
このように、引用文献1には、もっぱら可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対して左右方向に移動したときの抵抗力を小さくするという課題が示され、かかる課題を解決する具体的手段についての記載があるにとどまり、それに加え、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対し前後方向に移動したときの課題及びその解決手段については記載も示唆もない。
したがって、仮に、可動側ハウジングが固定側ハウジングに左右方向のみならず前後方向に移動可能であるというフローティングコネクタが当業者に周知・慣用の技術であったとしても、もっぱら可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対し左右方向に移動したときの課題および当該課題解決手段を開示する引用文献1に接した当業者においては、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対し左右方向に移動したときの課題のみならず、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対し前後方向に移動したときの課題までをも認識し、かかる課題を解決しようと試みることはもはや容易に想到し得たことであるということはできない。
イ また、コネクタにおいて、固定側のハウジングに対して可動側のハウジングを容易に移動ならしめるために、コンタクトの可動部を複数本に分岐した構成とすることは、周知・慣用であるとはいえる(引用文献4の段落【0054】及び【図10】、引用文献5の段落【0018】及び【図7】、引用文献6の段落【0021】及び【図5】?【図8】を参照。)。
しかしながら、コンタクトの可動部に連続する固定部まで複数本に分岐した構成は、引用文献4?6及び異議申立人が異議申立書とともに提出した甲第3号証の4(特開2008-84756号公報)のいずれにも記載されていないし、引用文献2、3、7及び8の他、異議申立人が異議申立書とともに提出したその他の証拠(甲第2号証の3?甲第2号証の8、甲第4号証の3?甲第4号証の9)のいずれからも当該構成が周知・慣用であるとはいえない。
(ここで、甲第2号証の3は、特開2012-221841号公報、甲第2号証の4は、特開2012-89507号公報、甲第2号証の5は、特開2014-82104号公報、甲第2号証の6は、特開2013-242971号公報、甲第2号証の7は、特開2010-231961号公報、甲第2号証の8は、特開平6-13134号公報、甲第4号証の3は、特表2013-546131号公報、甲第4号証の4は、特開平9-129311号公報、甲第4号証の5は、特開2005-197035号公報、甲第4号証の6は、特開平10-50410号公報、甲第4号証の7は、特開2005-209471号公報、甲第4号証の8は、特開2013-164902号公報及び甲第4号証の9は、実願昭52-128132号(実開昭54-53687号)のマイクロフィルムである。)
ウ ア及びイより、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成となすことは、当業者であっても容易にはなし得ない。
(b)以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明並びに引用文献2?8並びに甲第2号証の3?甲第2号証の8、甲第3号証の4及び甲第4号証の3?甲第4号証の9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2及び4について
本件発明2及び4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定したものである。
本件発明1が、上記(1)で説示のとおり、引用発明並びに引用文献2?8並びに甲第2号証の3?甲第2号証の8、甲第3号証の4及び甲第4号証の3?甲第4号証の9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2及び4も引用発明並びに引用文献2?8並びに甲第2号証の3?甲第2号証の8、甲第3号証の4及び甲第4号証の3?甲第4号証の9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明5について
本件発明5は、実質的には、本件発明1の「プラグ」と「ソケットと、を備え」た「基板接続用コネクタ」のうち「プラグ」に関する部分を取り出し独立した発明としたものである。
上記(1)aでの本件発明1と引用発明との相違点1?3は、もっぱら本件発明1における「プラグ」の構成について生じているものである。
したがって、本件発明5と引用発明との間には、上記(1)aの相違点1及び2と同じ相違点が存在することとなる。
そうすると、上記(1)bと同様の理由により、本件発明5は、引用発明並びに引用文献2?8並びに甲第2号証の3?甲第2号証の8、甲第3号証の4及び甲第4号証の3?甲第4号証の9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明6について
本件発明6は、本件発明5の発明特定事項を全て含み、更に限定したものである。
本件発明5が、上記(3)で説示のとおり、引用発明並びに引用文献2?8並びに甲第2号証の3?甲第2号証の8、甲第3号証の4及び甲第4号証の3?甲第4号証の9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明6も引用発明並びに引用文献2?8並びに甲第2号証の3?甲第2号証の8、甲第3号証の4及び甲第4号証の3?甲第4号証の9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明7について
本件発明7は、実質的には、本件発明1の「プラグ」と「ソケットと、を備え」た「基板接続用コネクタ」のうち「ソケット」に関する部分を取り出し、さらに、「静電気を前記基板に逃す静電気除去部材」という限定を付加し、その上で、当該「ソケット」が請求項5に記載のプラグ(本件発明5)と接続されることを特定した発明である。
したがって、本件発明7には、本件発明5の発明特定事項が全て含まれることとなるところ、本件発明5は、上記(3)で説示のとおり、引用発明並びに引用文献2?8並びに甲第2号証の3?甲第2号証の8、甲第3号証の4及び甲第4号証の3?甲第4号証の9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明7も、同様の理由により、引用発明並びに引用文献2?8並びに甲第2号証の3?甲第2号証の8、甲第3号証の4及び甲第4号証の3?甲第4号証の9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件発明8について
本件発明8は、本件発明7の発明特定事項を全て含み、更に限定したものである。
本件発明7が、上記(5)で説示のとおり、引用発明並びに引用文献2?8並びに甲第2号証の3?甲第2号証の8、甲第3号証の4及び甲第4号証の3?甲第4号証の9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明8も引用発明並びに引用文献2?8並びに甲第2号証の3?甲第2号証の8、甲第3号証の4及び甲第4号証の3?甲第4号証の9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)異議申立人の意見について
a 異議申立人の意見の概略
異議申立人は、令和2年5月7日付け意見書において、概ね次のように主張する。
(a)訂正後の請求項1、5においては、電源コンタクト端子が、固定部までも分岐した構造を発明特定事項としているところ、かかる構造はいわゆる新規事項を追加するものである。
(b)複数のコンタクト端子がソケット連結部材を二方向に移動可能に支持する点は、引用文献1(甲第1号証)に記載のコネクタも備えている。

b 当審の判断
(a)本件特許の願書に添付された明細書の段落【0034】の「・・・電源用コンタクト端子22aiは、薄板金属材料で作られ、プリント回路板PCB1の電子デバイス搭載面に半田付け固定される固定端止部22afと、平板上の接点部を先端に有する接触片部22acと、固定端子部22afに連なる固定部22amと、固定部22amと接触片部22acとを連結する可動片部22anとを有している。固定部22amおよび可動片部22anは、それぞれ、複数本、例えば、5本に分岐しており、・・・このように固定部22amおよび可動片部22anが複数に分岐しているので接触片部22acの平板状の接点部が、固定端子部22afに対し相対的に容易に移動可能となる。固定部22amおよび可動片部22anは、斯かる例に限られることなく、例えば、4本、または、6本以上で構成されてもよい。」との記載、段落【0030】の「各端子固定壁14WFの内周部には、・・・電源用コンタクト端子22aiの固定部22amが挿入される溝が形成されている。・・・」、段落【0032】の、「電源用コンタクト端子22aiの固定部22amが挿入される溝14Gの幅は、他の接地用コンタクト端子20aiの固定部20am、信号用コンタクト端子20biの固定部20bmが挿入される溝の幅に比して大に設定されている。」との記載および【図1】の記載からすれば、本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面には、電源用コンタクト端子の固定部が複数本に分岐したものであり、当該固定部が、端子固定壁の内周部に形成された溝に挿入されていることが記載されているといえる。
したがって、異議申立人の意見(a)は採用できない。
(b)上記(1)b(b)に説示のとおり、引用文献1には、もっぱら可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対して、左右方向に移動したときの抵抗力を小さくするという課題が示され、その課題を解決する具体的手段についての記載があるにとどまり、それに加え、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対し前後方向に移動したときの課題及びその解決手段については記載も示唆もない。
したがって、仮に、引用文献1に記載のものにおいて、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対し左右方向のみならず前後方向に移動可能であったとしても、もっぱら可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対し左右方向に移動したときの課題および当該課題解決手段を開示する引用文献1に接した当業者において、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対し左右方向に移動したときの課題のみならず、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対し前後方向に移動したときの課題までをも認識し、かかる課題を解決しようと試みることはもはや容易に想到し得たことであるということはできない。
なお、引用文献1に記載のものは、具体的には、電源用コンタクト40を、可動側ハウジング20に保持される第1電源用コンタクト41と、固定側ハウジング10に保持される第2電源用コンタクト45の2つの部材から構成するというものであるから、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対し前後方向に移動したときの抵抗力は、第1電源用コンタクト41と第2電源用コンタクト45の前後方向のずれ(摺動)によって減少されるものともいえるから、可動側ハウジング20が固定側ハウジング10に対し前後方向に移動したときの抵抗力を小さくするという課題を当業者が認識し得るとはいえず、仮に、コネクタにおいて、固定側のハウジングに対して可動側のハウジングを容易に移動ならしめるために、コンタクトの可動部を複数本に分岐した構成とすることが、周知・慣用であるとしても、かかる周知・慣用の技術を引用発明に適用する動機付けが存在しないともいえる。
したがって、異議申立人の意見(b)は採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるので、請求項1、2、4?8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由(特許異議申立書に記載された特許異議申立て理由)によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1、2、4?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項3に係る特許は、上記のとおり訂正により削除された。これにより特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項3に係る申立ては申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板に配され、ソケット接続口を有し移動可能に支持されるソケット連結部材と、該ソケット連結部材を収容する収容部を有する外郭部と、前記ソケット連結部材を着脱方向に対し直交する二方向に移動可能に支持するとともに前記第1の基板に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト端子および信号用コンタクト端子を含む複数のコンタクト端子と、を備えるプラグと、
第2の基板に配され、前記ソケット連結部材のソケット接続口に取り外し可能に接続される接続端部を有し、該接続端部がソケット接続口に接続される場合、前記プラグの複数のコンタクト端子に電気的に接続されるとともに該第2の基板に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト端子および信号用コンタクト端子を含む複数のコンタクト端子を備えるソケットと、を備え、
前記プラグの前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子の接触片部は、前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する、互いに離隔した一対の端子固定壁および互いに離隔した一対の側壁のうち、前記互いに離隔した一対の端子固定壁のそれぞれにおいて、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの一方の側壁に隣接して固定され、前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子は、静電気を前記第1の基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される複数本に分岐した可動片部と固定部を有し、該固定部は、前記外郭部の端子固定壁の内周部に形成された溝に挿入され、前記静電気除去部材は、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの他方の側壁に隣接して配設されることを特徴とする基板接続用コネクタ。
【請求項2】
前記ソケットは、静電気を前記第2の基板に逃がす静電気除去部材をさらに備え、前記プラグおよび前記ソケットの前記静電気除去部材が、それぞれ、前記複数のコンタクト端子に隣接して配され、互いに接触するように配置される接地用コンタクト端子であることを特徴とする請求項1記載の基板接続用コネクタ。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記ソケットの接続端部が前記ソケット連結部材のソケット接続口に接続される場合、該ソケットの接続端部の誤挿入を防止する誤挿入防止機構を備えることを特徴とする請求項1記載の基板接続用コネクタ。
【請求項5】
基板に配され、ソケット接続口を有し移動可能に支持されるソケット連結部材と、該ソケット連結部材を収容する収容部を有する外郭部と、前記ソケット連結部材を着脱方向に対し直交する二方向に移動可能に支持するとともに前記基板に電気的に接続される少なくとも一つの電源用コンタクト端子および信号用コンタクト端子を含む複数のコンタクト端子と、を備え、
前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子の接触片部は、前記ソケット連結部材のソケット接続口を形成する、互いに離隔した一対の端子固定壁および互いに離隔した一対の側壁のうち、前記互いに離隔した一対の端子固定壁のそれぞれにおいて、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの一方の側壁に隣接して固定され、前記少なくとも一つの電源用コンタクト端子は、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材に隣接して配置される前記信号用コンタクト端子の接触片部の面積よりも大なる面積を有する接触片部に連結される複数本に分岐した可動片部と固定部を有し、該固定部は、前記外郭部の端子固定壁の内周部に形成された溝に挿入され、前記静電気除去部材は、前記互いに離隔した一対の側壁のうちの他方の側壁に隣接して配設されることを特徴とするプラグ。
【請求項6】
前記静電気除去部材が、前記複数のコンタクト端子に隣接して配される接地用コンタクト端子であることを特徴とする請求項5記載のプラグ。
【請求項7】
請求項5記載のプラグのソケット連結部材のソケット接続口に取り外し可能に接続される接続端部と、
基板に配される前記接続端部が前記プラグのソケット接続口に接続される場合、前記プラグにおける電源用コンタクト端子、信号用コンタクト端子、および、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材にそれぞれ、接続されるとともに該基板に電気的に接続されるソケットにおける電源用コンタクト端子、信号用コンタクト端子、および、静電気を前記基板に逃がす静電気除去部材と、を備えて構成されるソケット。
【請求項8】
前記ソケットにおける静電気除去部材が、前記ソケットの複数の信号用コンタクト端子に隣接して配される接地用コンタクト端子であることを特徴とする請求項7記載のソケット。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-11-04 
出願番号 特願2016-548479(P2016-548479)
審決分類 P 1 651・ 853- YAA (H01R)
P 1 651・ 121- YAA (H01R)
P 1 651・ 851- YAA (H01R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山本 裕太高橋 学  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 杉山 健一
尾崎 和寛
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6428781号(P6428781)
権利者 山一電機株式会社
発明の名称 プラグ、ソケット、および、それらを備える基板接続用コネクタ  
代理人 特許業務法人谷・阿部特許事務所  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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