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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01F
審判 全部申し立て 特29条の2  H01F
管理番号 1369995
異議申立番号 異議2019-700899  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-14 
確定日 2020-11-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6512188号発明「リアクトル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6512188号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、5、6について訂正することを認める。 特許第6512188号の請求項1ないし3、5及び6に係る特許を維持する。 特許第6512188号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6512188号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成28年7月22日に出願されたものであって、平成31年4月19日付けでその特許権の設定登録がされ、令和1年5月15日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和1年11月14日 :特許異議申立人宮川貴浩(以下、「特許異議 申立人」という。)による特許異議の申立て
令和2年2月25日付け :取消理由通知
令和2年4月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年6月8日付け :訂正拒絶理由通知
平成2年7月7日 :特許権者による意見書及び訂正請求書に係る
手続補正書の提出

そして、令和2年7月14日付けの通知書で、特許異議申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からは応答がなかったものである。

第2 本件訂正についての判断
1 訂正請求書の補正の適否
令和2年4月27日に提出された訂正請求書(以下、「訂正請求書」という。)及びこれに添付した訂正特許請求の範囲は、同年7月7日に提出された手続補正書により補正されたので、当該補正の適否について検討する。

(1)補正の内容
訂正請求書の「7 請求の理由」「(2)訂正事項」に、訂正事項4として「特許請求の範囲の請求項4を削除する。」という訂正事項を加えるものである。
なお、上記の補正に合わせて「訂正前後の請求項対応表」も補正されている。

(2)補正の適否
請求項の削除という訂正事項を追加する補正及びそれに整合させるための訂正事項の補正であるから、訂正請求書の要旨を変更するものには該当しないので、当該補正は認められる。

2 訂正の内容
上記1のとおり、令和2年7月7日の手続補正書による訂正請求書の補正は認められたので、令和2年4月27日の訂正請求の内容は、上記手続補正書の訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし6について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部を備える」とあるのを、「前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部を備え、前記外側コア部と前記内側コア部とが一体に繋がって形成されている」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に
「前記絶縁性部材は、前記コイルに被覆されるコイルモールド部であって、
前記コイルモールド部は、
前記巻回部の各ターンを一体化するターン被覆部と、
前記巻回部の端面と前記外側コア部との間に介在される端面被覆部と、を備え、
前記ギャップ部は、前記端面被覆部における前記コイルが配置される側とは反対側の面に一体に設けられている請求項1または請求項2に記載のリアクトル。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改めて、
「並列された一対の巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内部に配置される内側コア部、および前記巻回部から露出する外側コア部を有する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部を備え、
前記絶縁性部材は、前記コイルに被覆されるコイルモールド部であって、
前記コイルモールド部は、
前記巻回部の各ターンを一体化するターン被覆部と、
前記巻回部の端面と前記外側コア部との間に介在される端面被覆部と、を備え、
前記ギャップ部は、前記端面被覆部における前記コイルが配置される側とは反対側の面に一体に設けられているリアクトル。」とし、新たに請求項5とする。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に
「前記絶縁性部材は、前記コイルに被覆されるコイルモールド部であって、
前記コイルモールド部は、
前記巻回部の各ターンを一体化するターン被覆部と、
前記巻回部の端面と前記外側コア部との間に介在される端面被覆部と、を備え、
前記ギャップ部は、前記端面被覆部における前記コイルが配置される側とは反対側の面に一体に設けられている請求項1または請求項2に記載のリアクトル。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、独立形式に改めて、
「並列された一対の巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内部に配置される内側コア部、および前記巻回部から露出する外側コア部を有する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部を備え、
前記磁性コアが、軟磁性粉末と樹脂との複合材料で構成されており、
前記絶縁性部材は、前記コイルに被覆されるコイルモールド部であって、
前記コイルモールド部は、
前記巻回部の各ターンを一体化するターン被覆部と、
前記巻回部の端面と前記外側コア部との間に介在される端面被覆部と、を備え、
前記ギャップ部は、前記端面被覆部における前記コイルが配置される側とは反対側の面に一体に設けられているリアクトル。」とし、新たに請求項6とする。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)一群の請求項及び別の訂正単位とする求め
本件訂正請求による訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし4は、一群の請求項を構成するものであるから、それに対応する訂正後の請求項1ないし6は、一群の請求項を構成するものである。
なお、訂正後の請求項5及び6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めるものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「内側コア部」及び「外側コア部」を有する「磁性コア」の構成について、「前記外側コア部と前記内側コア部とが一体に繋がって形成されている」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加について
本件明細書の段落【0026】には「本例では、外側コア部32と内側コア部とは一体に繋がっている。」と記載されており、段落【0028】には磁性コアの製造方法について「ケース6にコイル2を収納した後、ケース6の内部に複合材料を充填することで形成される。」と記載されていることから、外側コア部32と内側コア部とが一体に繋がっており、これらはケース6の内部に複合材料を充填することによって一体に繋がって形成されていることが明らかであり、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に係る発明における、「内側コア部」及び「外側コア部」を有する「磁性コア」の構成を限定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項4が請求項1又は2の記載を引用する記載であったところ、請求項2を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び同ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項2は、引用請求項数を削減することを除き、何ら実質的な内容の変更を伴うものでないから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項4が請求項1又は2の記載を引用する記載であったところ、請求項1を引用しないものとした上で、請求項2を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び同ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項3は、引用請求項数を削減することを除き、何ら実質的な内容の変更を伴うものでないから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、請求項4を削除するものであるから、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項4は、請求項4を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)独立特許要件
訂正事項1ないし3は、上記(1)ア、(2)ア、(3)アで示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが、本件においては、訂正前の請求項1ないし4について特許異議の申立てがされているから、対応する訂正後の請求項1ないし3、5及び6に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1-4〕、5、6について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし3、5及び6に係る発明(以下「本件発明1ないし3、5及び6」という。)は、令和2年7月7日提出の手続補正書の訂正特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである(下線は、訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】
並列された一対の巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内部に配置される内側コア部、および前記巻回部から露出する外側コア部を有する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部を備え、
前記外側コア部と前記内側コア部とが一体に繋がって形成されているリアクトル。
【請求項2】
前記磁性コアが、軟磁性粉末と樹脂との複合材料で構成されている請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記絶縁性部材は、前記巻回部の端面と前記外側コア部との間に介在される端面介在部材であって、
前記ギャップ部は、前記端面介在部材における前記コイルが配置される側とは反対側の面に一体に設けられている請求項1または請求項2に記載のリアクトル。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
並列された一対の巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内部に配置される内側コア部、および前記巻回部から露出する外側コア部を有する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部を備え、
前記絶縁性部材は、前記コイルに被覆されるコイルモールド部であって、
前記コイルモールド部は、
前記巻回部の各ターンを一体化するターン被覆部と、
前記巻回部の端面と前記外側コア部との間に介在される端面被覆部と、を備え、
前記ギャップ部は、前記端面被覆部における前記コイルが配置される側とは反対側の面に一体に設けられているリアクトル。
【請求項6】
並列された一対の巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内部に配置される内側コア部、および前記巻回部から露出する外側コア部を有する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部を備え、
前記磁性コアが、軟磁性粉末と樹脂との複合材料で構成されており、
前記絶縁性部材は、前記コイルに被覆されるコイルモールド部であって、
前記コイルモールド部は、
前記巻回部の各ターンを一体化するターン被覆部と、
前記巻回部の端面と前記外側コア部との間に介在される端面被覆部と、を備え、
前記ギャップ部は、前記端面被覆部における前記コイルが配置される側とは反対側の面に一体に設けられているリアクトル。」

第4 当審の判断
1 取消理由の概要
令和2年2月25日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願(以下、「先願」という。)であって、本件特許の出願後に出願公開がされた甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)取消理由2
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第2号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

<甲号証一覧>
甲第1号証 特願2016-99600号(特開2017-208442号公報)
甲第2号証 特開2016-66720号公報


2 取消理由についての判断
(1)取消理由1について
ア 先願明細書等の記載事項及び先願発明
甲第1号証には、図面とともに、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(ア)「【請求項1】
複数のコア分割体から構成されるコアと、このコアにボビンを介して巻回されたコイルとを備え、前記コアのいずれかの隣り合う前記コア分割体の間に磁気ギャップを有する門型インダクタにおいて、前記ボビンは、前記磁気ギャップとなるスペーサを有することを特徴とする門型インダクタ。」

(イ)「【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の門型インダクタにおいて、前記ボビンは、軸方向両端にそれぞれフランジ部を有する筒状であり、前記コイルが筒状の前記ボビンの外周面に巻回され、前記スペーサは、いずれか一方または両方のフランジ部から軸方向に延在した部分に設けられている門型インダクタ。」

(ウ)「【0001】
この発明は、U形やUR形、角板形のインダクタを組み合わせたいわゆる門型インダクタおよびそのボビンに関し、例えば、電圧変換、ノイズ低減、またはサージ電流の対策等に適用される技術に関する。」

(エ)「【0022】
図1は、この実施形態に係る門型インダクタ1の断面図である。図2はこの同門型インダクタ1の斜視図である。図1および図2に示すように、この門型インダクタ1は、所謂UUR型の門型インダクタであって、前記複数のコア分割体から構成されるコア2と、このコア2にボビン3を介して巻回されたコイル4とを備える。
【0023】
図3は、この門型インダクタ1の一部分を切り離して表した斜視図である。同図3に示すように、コア2は、上部コア分割体5,下部コア分割体6,および4つの柱部コア分割体7を有する。以下の説明において各分割体5?7をそれぞれ「上部5」,「下部6」,「柱部7」と称す。上部5と下部6は同一形状であり、上部5,下部6,および四つの柱部7は、同一の磁性材料から形成された磁性体である。前記磁性材料としては、例えば、アモルファス合金等が適用される。但し、アモルファス合金に限定されるものではない。
?(中略)?
【0026】
軸方向に並ぶ柱部7,柱部7に、後述するボビン3の筒状部分8が挿入されている。ボビン3は、コイル4を巻回する部品であって、この門型インダクタ1に一対設けられる。これら一対のボビン3,3は、中心軸が平行に配置される。円筒形状のボビン3の外周面にコイル4が巻回されている。コイル4の両端は、図示しないがコア2の外に取り出されている。軸方向に並ぶ柱部7,柱部7、これら柱部7,7に挿入されたボビン3およびコイル4は、同心に配置される。
?(中略)?
【0028】
ボビン3について説明する。図4は、この門型インダクタのボビン3の一部破断した斜視図である。換言すれば、同図4は、図3の切り離して表した門型インダクタ1からボビン3のみ抜き出して示す斜視図である。図3および図4に示すように、ボビン3は、絶縁性の材料により円筒形状に形成される。絶縁性の材料として、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂材料が適用される。このボビン3は、円筒形状の筒状部分8と、フランジ部9,10と、磁気ギャップとなるスペーサ11とを有する。これら筒状部分8、フランジ部9,10およびスペーサ11は、例えば、射出成形等により一体成形される。」

(オ)「【0039】
図10は、さらに他の実施形態に係る門型インダクタ1Bの断面図である。図11は、この門型インダクタ1Bの斜視図である。図10および図11に示すように、この門型インダクタ1BはUUR形の門型インダクタであって、スペーサ11が両方のフランジ部9,10から軸方向に延在した部分にそれぞれ設けられている。上部5は、スペーサ11,11を隔ててボビン3の並び方向に沿って第1,第2上部5A,5Bが並ぶ二分割構造になっている。
【0040】
下部6も、上部5と同様に、スペーサ11,11を隔てて二つのボビン3の並び方向に沿って第1,第2下部6A,6Bが並ぶ二分割構造になっている。第1上部5Aと、この第1上部5Aに繋がる柱部7と、この柱部7に繋がる第1下部6Aとにより正面視UR形のインダクタを成す。第2上部5Bと、この第2上部5Bに繋がる柱部7と、この柱部7に繋がる第2下部6Bとにより正面視UR形のインダクタを成す。これらが組み合わされてUUR形の門型インダクタ1Bが構成される。
【0041】
スペーサ11は、一対のボビン3,3の並び方向に対し直交する平面状であり、且つ、前記軸方向および前記並び方向にそれぞれ直交する長手方向に沿って延びる矩形板状である。一方のボビン3の上側のフランジ部9から軸方向一方に立設するスペーサ11と、他方のボビン3の上側のフランジ部9から軸方向一方に立設するスペーサ11とが重なり合うように配置される。一方のボビン3の下側のフランジ部10から軸方向他方に立設するスペーサ11と、他方のボビン3の下側のフランジ部10から軸方向他方に立設するスペーサ11とが重なり合うように配置される。重なり合うスペーサ11の厚みが、定められた磁気ギャップに応じて一定の厚みに形成される。
【0042】
この構成によれば、スペーサ11は、両方のフランジ部9,10から軸方向に延在した部分に設けられているため、コイルへの漏れ磁束の流入を低減できる。このため、この門型インダクタ1Bの発熱を抑制することができる。」

(カ)図10及び11を参照すると、二つの柱部7、7に、ボビン3の筒状部分が挿入されている。

上記から(ア)ないし(カ)から、甲第1号証には以下の事項が記載されている。
・上記(ウ)によれば、U形やUR形、角板形のインダクタを組み合わせたいわゆる門型インダクタに関するものである。
・上記(ア)によれば、複数のコア分割体から構成されるコアと、このコアにボビンを介して巻回されたコイルとを備え、前記コアのいずれかの隣り合う前記コア分割体の間に磁気ギャップを有する門型インダクタにおいて、前記ボビンは、前記磁気ギャップとなるスペーサを有するものである。
・上記(イ)によれば、前記ボビンは、軸方向両端にそれぞれフランジ部を有する筒状であり、前記コイルが筒状の前記ボビンの外周面に巻回され、前記スペーサは、いずれか一方または両方のフランジ部から軸方向に延在した部分に設けられているものである。
・上記(オ)の【0039】によれば、門型インダクタ1BはUUR形の門型インダクタであって、スペーサ11が両方のフランジ部9,10から軸方向に延在した部分にそれぞれ設けられている。上部5は、スペーサ11,11を隔ててボビン3の並び方向に沿って第1,第2上部5A,5Bが並ぶ二分割構造になっているものである。
・上記(オ)の【0040】によれば、門型インダクタ1Bは、下部6も、上部5と同様に、スペーサ11,11を隔てて二つのボビン3の並び方向に沿って第1,第2下部6A,6Bが並ぶ二分割構造になっており、第1上部5Aと、この第1上部5Aに繋がる柱部7と、この柱部7に繋がる第1下部6Aとにより正面視UR形のインダクタを成し、第2上部5Bと、この第2上部5Bに繋がる柱部7と、この柱部7に繋がる第2下部6Bとにより正面視UR形のインダクタを成し、これらが組み合わされてUUR形の門型インダクタ1Bが構成されるものである。
・上記(カ)によれば、二つの柱部7、7に、ボビン3の筒状部分が挿入されている。
・上記(オ)の【0041】によれば、スペーサ11は、一対のボビン3,3の並び方向に対し直交する平面状であり、且つ、前記軸方向および前記並び方向にそれぞれ直交する長手方向に沿って延びる矩形板状であり、一方のボビン3の上側のフランジ部9から軸方向一方に立設するスペーサ11と、他方のボビン3の上側のフランジ部9から軸方向一方に立設するスペーサ11とが重なり合うように配置され、一方のボビン3の下側のフランジ部10から軸方向他方に立設するスペーサ11と、他方のボビン3の下側のフランジ部10から軸方向他方に立設するスペーサ11とが重なり合うように配置され、重なり合うスペーサ11の厚みが、定められた磁気ギャップに応じて一定の厚みに形成されるものである。

したがって、上記摘記事項を総合勘案すると、甲第1号証には次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。
「U形やUR形、角板形のインダクタを組み合わせたいわゆる門型インダクタに関し、
複数のコア分割体から構成されるコアと、このコアにボビンを介して巻回されたコイルとを備え、前記コアのいずれかの隣り合う前記コア分割体の間に磁気ギャップを有する門型インダクタにおいて、前記ボビンは、前記磁気ギャップとなるスペーサを有し、
前記ボビンは、軸方向両端にそれぞれフランジ部を有する筒状であり、前記コイルが筒状の前記ボビンの外周面に巻回され、前記スペーサは、いずれか一方または両方のフランジ部から軸方向に延在した部分に設けられており、
門型インダクタ1BはUUR形の門型インダクタであって、スペーサ11が両方のフランジ部9,10から軸方向に延在した部分にそれぞれ設けられており、上部5は、スペーサ11,11を隔ててボビン3の並び方向に沿って第1,第2上部5A,5Bが並ぶ二分割構造になっており、
下部6も、上部5と同様に、スペーサ11,11を隔てて二つのボビン3の並び方向に沿って第1,第2下部6A,6Bが並ぶ二分割構造になっており、第1上部5Aと、この第1上部5Aに繋がる柱部7と、この柱部7に繋がる第1下部6Aとにより正面視UR形のインダクタを成し、第2上部5Bと、この第2上部5Bに繋がる柱部7と、この柱部7に繋がる第2下部6Bとにより正面視UR形のインダクタを成し、これらが組み合わされてUUR形の門型インダクタ1Bが構成され、
二つの柱部7、7に、ボビン3の筒状部分が挿入されており、
スペーサ11は、一対のボビン3,3の並び方向に対し直交する平面状であり、且つ、前記軸方向および前記並び方向にそれぞれ直交する長手方向に沿って延びる矩形板状であり、一方のボビン3の上側のフランジ部9から軸方向一方に立設するスペーサ11と、他方のボビン3の上側のフランジ部9から軸方向一方に立設するスペーサ11とが重なり合うように配置され、一方のボビン3の下側のフランジ部10から軸方向他方に立設するスペーサ11と、他方のボビン3の下側のフランジ部10から軸方向他方に立設するスペーサ11とが重なり合うように配置され、重なり合うスペーサ11の厚みが、定められた磁気ギャップに応じて一定の厚みに形成される、門型インダクタ。」

イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
本件発明1と、先願発明を対比する。
・先願発明の「コイル」は、門型インダクタの二つの柱部7、7にボビンを介して券回されているから、本件発明1の「並列された一対の巻回部を有するコイル」に相当する。
・先願発明の複数のコア分割体から構成される「コア」は、本件発明1の「磁性コア」に相当し、先願発明1の「コア」のうち、ボビンを介してコイルが券回されている部分、すなわち「柱部」は、本件発明1の「前記巻回部の内部に配置される内側コア部」に相当し、コイルが券回されていない部分、すなわち「第1,第2上部5A,5B」及び「第1,第2下部6A,6B」は、本件発明1の「前記巻回部から露出する外側コア部」に相当する。
ただし、本件発明1は、「前記外側コア部と前記内側コア部とが一体に繋がって形成されている」のに対して、先願発明のコアは複数のコア分割体から構成される点で相違する。
・先願発明の「ボビン」は、コイルとコアとの間にあり、絶縁性の材料からなることが明白であるから、本件発明1の「前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材」に相当する。
・先願発明において、ボビンの一部である「スペーサ11」は、第1,第2上部5A,5B及び第1,第2下部6A,6Bをそれぞれ分断する磁気ギャップとなっているから、本件発明1の「前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部」に相当する。
・先願発明の「門型インダクタ」は、本件発明1でいう「一対の巻回部を有するコイル、内側コア部および外側コア部を有する磁性コア、絶縁性部材の一部で構成されるギャップ部」を備えているから、本件発明1の「リアクトル」に相当する。

そうすると、両者は、
「並列された一対の巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内部に配置される内側コア部、および前記巻回部から露出する外側コア部を有する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部を備えるリアクトル。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は「前記外側コア部と前記内側コア部とが一体に繋がって形成されている」のに対して、先願発明のコアは複数のコア分割体から構成される点。

以上のとおりの相違点1があり、当該相違点1は、単なる周知、慣用技術の付加や転換といえるものではなく、実質的な相違点であるから、本件発明1は、先願発明と同一ではない。

なお、異議申立人が証拠としてあげた甲第4ないし7号証に記載があるように、軟磁性粉末と樹脂との複合材料により、磁性コアを一体に繋がって形成することは周知の技術事項である(甲第4号証の【0002】、甲第5号証の【0002】、甲第6号証の【0019】、甲第7号証の【0002】参照)。
しかしながら、先願発明のコアは複数のコア分割体から構成される上に、フランジ部及びスペーサを有する筒状のボビンに挿入されて形成されており、そのようなコアを一体に繋がって形成することは、単なる周知・慣用技術の付加であるということはできない。
したがって、本件発明1は先願発明と実質的に同一の発明であるとはいえない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、特許法第29条の2に該当しない。

(イ)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、上記(ア)と同様の理由により、本件発明2及び3は先願発明と実質的に同一の発明であるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明2及び3は、特許法第29条の2に該当しない。

(2)取消理由2について
ア 引用文献及び引用発明
甲第2号証には、図面とともに、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(ア)「【0001】
本発明は、例えば、電気自動車やハイブリッド車などの車両に使用される磁気結合型リアクトルに関する。」

(イ)「【0022】
[1.第1実施形態]
[1.1構成]
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の磁気結合型リアクトルは、2つのU字形コア1a,1bと、2つのI字形コア2a,2bを組み合わせて成るθ形の環状コアと、環状コアの対向する外脚にそれぞれ巻回された2つの連結コイル3a,3bとを備える。
【0023】
(1)環状コア
図2及び図6に示すとおり、θ形の環状コアは、U字形コア1a,1bの両端部の間にI字形コア2a,2bの基部(I字形コアの一方の端部)が挟持され、I字形コア2a,2bの先端(I字形コアの他方の端部)の間に外脚と略平行にギャップ4が形成されている。これにより、環状コアには、対向する一対のヨーク部と、ヨーク部と平行に設けられた中央の中脚と、中脚の両側にそれぞれ設けられた一対の外脚が形成されている。
?(中略)?
【0025】
本実施形態のU字形コア1a,1b及びI字形コア2a,2bとしてはダストコアを使用するが、その他フェライトコアやケイ素鋼を積層した積層コアを用いることができる。この場合、U字形コア1a,1bとI字形コア2a,2bを同一材料から構成しても良いし、異なる材料から構成しても良い。U字形コア1a,1bの両端部とI字形コア2a,2bの基部との接合面は、両者を直接接着剤で固定しても良いし、スペーサを介して接合しても良い。ギャップ4も、エアギャップでも、スペーサを設けたギャップでも良い。
【0026】
(2)コイル
図1及び図2に示すように、2つの連結コイル3a,3bは、U字形コア1a,1bの外脚を構成する部分に、中脚を挟んでその両側にそれぞれ装着されている。各連結コイル3a,3bは、図7に示すように、1本の導体を使用して2つのコイル3a-1,3a-2または3b-1,3b-2を形成したもので、環状コアに装着した状態では、1本の導体が一方の外脚の外周に巻回されて第1のコイル3a-1,3b-1を形成し、同じ導体が反対側の外脚に巻回されて第2のコイル3a-2,3b-2を形成している。そのため、図1及び図2に示すように、1つのコイル3a,3bの巻き始めの端部5と巻き終わりの端部6が、中脚の両側に一つずつ設けられている。コイル3a,3bの巻き始めの端部5と巻き終わりの端部6には、それぞれバスバーが溶接され、そのバスバーの端部にリアクトルの外部配線が接続される。2つのコイル3a-1,3a-2または3b-1,3b-2の連結部7は、コイルの巻軸方向と垂直な面において、平角線が同一平面上で連結されている。
?(中略)?
【0029】
(3)樹脂成型品
U字形コア1a,1bとI字形コア2a,2bは、それぞれ専用の樹脂成型品10a,10bまたは11内部に埋設されている。各コアは、それぞれの樹脂成型品の金型内にセットされた状態で、金型中に樹脂を注入・固化することにより、樹脂成型品と一体的に形成されている。樹脂成型品は、各コアと連結コイル3a,3bを絶縁する部材であると共に、リアクトルを別途用意したケースや設置箇所に固定するための支持部材を埋設した部材でもある。樹脂成型品の主材料としては、例えば、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、BMC(バルクモールディングコンパウンド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PBT(ポリブチレンテレフタラート)等を用いることができる。
?(中略)?
【0032】
図2及び図4に示すとおり、I字形コア用の樹脂成型品11は、2つのI字形コア2a,2bの全体を被覆すると共に、2つのI字形コア2a,2bをその間にギャップ4が形成されるように保持するものである。そのため、図5の断面図のとおり、樹脂成型品11内部には、ギャップ4の寸法に合わせた厚みの隔壁17が形成され、この隔壁17を挟んで2つのI字形コア2a,2bが対向している。この樹脂成型品11におけるU字形コア1a,1b側の端面は、内部のI字形コア2a,2bの端面が露出する開口部18になっている。この開口部18の周囲には、U字形コア用の樹脂成型品10a,10bに設けた凹部15に嵌合するリブ19が形成されている。
?(中略)?
【0036】
次いで、図1に示すように、内部にコアと支持金具が埋設された2つのU字形コア用の樹脂成型品10a,10bの外脚部分をコイル3a,3bの内側に挿入し、次いで、2つのU字形コア用の樹脂成型品10a,10bの間に、I字形コア用の樹脂成型品11を挟持して、各樹脂成型品10a,10b及び11の開口部14,18に露出しているU字型コア1a,1bとI字形コア2a,2bの端面同士を接着して、全体をθ形に接合することより、リアクトルを作製する。その場合、樹脂成型品から露出している各コアの端面を接着剤により固定すると共に、U字形コア用の樹脂成型品10a,10bの端部に設けた凹部15の外周に、I字形コア用の樹脂成型品11の端部に設けたリブ19を嵌め込む。これにより、各樹脂成型品及びコアの正確な位置決めが可能になる。」

上記(ア)及び(イ)から、甲第2号証には以下の事項が記載されている。
・上記(ア)によれば、電気自動車やハイブリッド車などの車両に使用される磁気結合型リアクトルに関するものである。
・上記(イ)の【0022】によれば、磁気結合型リアクトルは、2つのU字形コア1a,1bと、2つのI字形コア2a,2bを組み合わせて成るθ形の環状コアと、環状コアの対向する外脚にそれぞれ巻回された2つの連結コイル3a,3bとを備えるものである。
・上記(イ)の【0023】によれば、θ形の環状コアは、U字形コア1a,1bの両端部の間にI字形コア2a,2bの基部(I字形コアの一方の端部)が挟持され、I字形コア2a,2bの先端(I字形コアの他方の端部)の間に外脚と略平行にギャップ4が形成され、これにより、環状コアには、対向する一対のヨーク部と、ヨーク部と平行に設けられた中央の中脚と、中脚の両側にそれぞれ設けられた一対の外脚が形成されているものである。
・上記(イ)の【0025】によれば、U字形コア1a,1b及びI字形コア2a,2bとしてはダストコアを使用するものである。
・上記(イ)の【0029】によれば、U字形コア1a,1bとI字形コア2a,2bは、それぞれ専用の樹脂成型品10a,10bまたは11内部に埋設されるものである。
・上記(イ)の【0032】によれば、I字形コア用の樹脂成型品11は、2つのI字形コア2a,2bの全体を被覆すると共に、2つのI字形コア2a,2bをその間にギャップ4が形成されるように保持するものであり、そのため、樹脂成型品11内部には、ギャップ4の寸法に合わせた厚みの隔壁17が形成され、この隔壁17を挟んで2つのI字形コア2a,2bが対向しているものである。

したがって、上記摘記事項を総合勘案すると、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「電気自動車やハイブリッド車などの車両に使用される磁気結合型リアクトルに関し、
磁気結合型リアクトルは、2つのU字形コア1a,1bと、2つのI字形コア2a,2bを組み合わせて成るθ形の環状コアと、環状コアの対向する外脚にそれぞれ巻回された2つの連結コイル3a,3bとを備え、
θ形の環状コアは、U字形コア1a,1bの両端部の間にI字形コア2a,2bの基部(I字形コアの一方の端部)が挟持され、I字形コア2a,2bの先端(I字形コアの他方の端部)の間に外脚と略平行にギャップ4が形成されており、これにより、環状コアには、対向する一対のヨーク部と、ヨーク部と平行に設けられた中央の中脚と、中脚の両側にそれぞれ設けられた一対の外脚が形成されており、
U字形コア1a,1b及びI字形コア2a,2bとしてはダストコアを使用し、
U字形コア1a,1bとI字形コア2a,2bは、それぞれ専用の樹脂成型品10a,10bまたは11内部に埋設されており、
I字形コア用の樹脂成型品11は、2つのI字形コア2a,2bの全体を被覆すると共に、2つのI字形コア2a,2bをその間にギャップ4が形成されるように保持するものであり、そのため、樹脂成型品11内部には、ギャップ4の寸法に合わせた厚みの隔壁17が形成され、この隔壁17を挟んで2つのI字形コア2a,2bが対向している、磁気結合型リアクトル。」

イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
次に、本件発明1と、甲2発明を対比する。
・甲2発明の「環状コアの対向する外脚にそれぞれ巻回された」「連結コイル3a」は、本件発明1の「並列された一対の巻回部を有するコイル」に相当する。
・甲2発明の「環状コア」は、本件発明1の「磁性コア」に相当し、甲2発明の「環状コア」のうち、連結コイル3aが券回されている「外脚」は、本件発明1の「前記巻回部の内部に配置される内側コア部」に相当し、コイルが券回されていない部分、すなわち「ヨーク部」及び「中脚」は、本件発明1の「前記巻回部から露出する外側コア部」に相当する。
ただし、本件発明1は「前記外側コア部と前記内側コア部とが一体に繋がって形成されている」のに対して、甲2発明の環状コアはU字形コアとI字形コアを組み合わせて成る点で相違する。
・甲2発明において、I字形コアと連結コイルとの間に「I字形コア用の樹脂成型品11」が存在することは明白であり、該「I字形コア用の樹脂成型品11」は、本件発明1の「前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材」に相当する。
・甲2発明において、2つのI字形コア2a,2bの間に形成される「ギャップ4」は、「I字形コア用の樹脂成型品11」の「隔壁17」によって形成されているから、本件発明1の「前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部」に相当する。
・甲2発明の「磁気結合型リアクトル」は、本件発明1でいう「一対の巻回部を有するコイル、内側コア部および外側コア部を有する磁性コア、絶縁性部材の一部で構成されるギャップ部」を備えているから、本件発明1の「リアクトル」に相当する。

そうすると、両者は、
「並列された一対の巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内部に配置される内側コア部、および前記巻回部から露出する外側コア部を有する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部を備えるリアクトル。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1’>
本件発明1は「前記外側コア部と前記内側コア部とが一体に繋がって形成されている」のに対して、甲2発明の環状コアはU字形コアとI字形コアを組み合わせて成る点。

以上のとおり、本件発明1と甲2発明は、相違点1’において相違するものであって、本件発明1は、甲2号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

なお、異議申立人が証拠としてあげた甲第4ないし7号証によると、軟磁性粉末と樹脂との複合材料により、磁性コアを一体に繋がって形成することは周知の技術事項である(甲第4号証の【0002】、甲第5号証の【0002】、甲第6号証の【0019】、甲第7号証の【0002】参照)。
しかしながら、樹脂成型品の隔壁を2つのI字形コアが挟むことで環状コアのギャップを形成する甲2発明において、周知の技術事項のように、コアを複合材料により一体に繋がって形成する動機付けはない。
したがって、相違点1’は、実質的な相違点であり、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲2発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないともいえない。

(イ)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、上記(ア)と同様の理由により、本件発明2及び3は、甲2発明であるとはいえず、また、甲2発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明2及び3は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないともいえない。

(3)取消理由1及び2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、取消理由1及び2によっては取り消すことができない。

3 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について
本件発明5及び6は、本件訂正前の請求項4の内容を含み、申立人による下記(1)の異議申立の対象である。
(1)甲第2号証及び甲第3号証に基づく進歩性の判断について
申立人は、特許異議申立書において、本件補正前の請求項4に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項に該当する旨主張している。

ここで、本件補正前の請求項4の内容を含む本件発明5と甲2発明とを対比すると、次の点で相違する。

<相違点a>
本件発明1は「前記絶縁性部材は、前記コイルに被覆されるコイルモールド部であって、前記コイルモールド部は、前記巻回部の各ターンを一体化するターン被覆部と、前記巻回部の端面と前記外側コア部との間に介在される端面被覆部と、を備え、前記ギャップ部は、前記端面被覆部における前記コイルが配置される側とは反対側の面に一体に設けられている」のに対して、甲2発明にはその旨の特定がない点。

上記<相違点a>について検討する。
甲第3号証には、リアクトルの固定構造に関して、並列に配置される2つのコイルの径外側全体を樹脂でモールドして一体化することが記載されている。
しかしながら、樹脂成型品の隔壁を2つのI字形コアが挟むことで環状コアのギャップを形成する甲2発明において、コイルの径外側全体を一体化するモールドによりギャップが形成されるようにする動機付けはない。
したがって、本件発明5は、甲2発明及び甲第3号証記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

次に、本件発明6と甲2発明とを対比すると、上記<相違点a>と同様の相違点があり、上記検討と同様であるから、本件発明6は、甲2発明及び甲第3号証記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
以上のとおり、本件発明5及び6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえないから、申立人の主張する上記申立理由に理由はない。

第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件請求項1ないし3、5及び6に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項1ないし3、5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項4に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列された一対の巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内部に配置される内側コア部、および前記巻回部から露出する外側コア部を有する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部を備え、
前記外側コア部と前記内側コア部とが一体に繋がって形成されているリアクトル。
【請求項2】
前記磁性コアが、軟磁性粉末と樹脂との複合材料で構成されている請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記絶縁性部材は、前記巻回部の端面と前記外側コア部との間に介在される端面介在部材であって、
前記ギャップ部は、前記端面介在部材における前記コイルが配置される側とは反対側の面に一体に設けられている請求項1または請求項2に記載のリアクトル。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
並列された一対の巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内部に配置される内側コア部、および前記巻回部から露出する外側コア部を有する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部を備え、
前記絶縁性部材は、前記コイルに被覆されるコイルモールド部であって、
前記コイルモールド部は、
前記巻回部の各ターンを一体化するターン被覆部と、
前記巻回部の端面と前記外側コア部との間に介在される端面被覆部と、を備え、
前記ギャップ部は、前記端面被覆部における前記コイルが配置される側とは反対側の面に一体に設けられているリアクトル。
【請求項6】
並列された一対の巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内部に配置される内側コア部、および前記巻回部から露出する外側コア部を有する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記コイルと前記磁性コアとの間に介在される絶縁性部材の一部で構成され、前記巻回部の並列方向に前記外側コア部を分断するギャップ部を備え、
前記磁性コアが、軟磁性粉末と樹脂との複合材料で構成されており、
前記絶縁性部材は、前記コイルに被覆されるコイルモールド部であって、
前記コイルモールド部は、
前記巻回部の各ターンを一体化するターン被覆部と、
前記巻回部の端面と前記外側コア部との間に介在される端面被覆部と、を備え、
前記ギャップ部は、前記端面被覆部における前記コイルが配置される側とは反対側の面に一体に設けられているリアクトル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-10-27 
出願番号 特願2016-144599(P2016-144599)
審決分類 P 1 651・ 16- YAA (H01F)
P 1 651・ 113- YAA (H01F)
P 1 651・ 121- YAA (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森 透  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 五十嵐 努
須原 宏光
登録日 2019-04-19 
登録番号 特許第6512188号(P6512188)
権利者 株式会社オートネットワーク技術研究所 住友電装株式会社 住友電気工業株式会社
発明の名称 リアクトル  
代理人 山野 宏  
代理人 山野 宏  
代理人 山野 宏  
代理人 山野 宏  

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