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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1369998
異議申立番号 異議2019-701055  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-24 
確定日 2020-11-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6535146号発明「皮膚バリア機能改善剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6535146号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。 特許第6535146号の請求項3?6、9?13に係る特許を維持する。 特許第6535146号の請求項1、2、7、8に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6535146号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2019-42252号)は、平成31年3月8日に出願人、佐藤製薬株式会社によりなされた特許出願であり、令和元年6月7日に特許権の設定登録がされ、その後、本件特許に対して、同年12月24日に特許異議申立人、合同会社SAS(以下、単に「申立人SAS」という。)、及び、同年12月25日(受理日:同年12月26日)に特許異議申立人、仲谷 徳子(以下、単に「申立人仲谷」という。)により特許異議申立がされた。
当審において令和2年4月3日付けで取消理由を通知し、同年7月9日(受理日:同年7月10日)で意見書及び訂正請求書が提出され、当審において同年7月27日付けで申立人SAS及び申立人仲谷に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をしたところ、同年8月25日(受理日:同年8月26日)で申立人SAS及び同年8月28日(受理日:同年8月31日)で申立人仲谷より、それぞれ意見書が提出された。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
上記令和2年7月9日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、一群の請求項である請求項1?13からなる特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。(下線は、訂正箇所を表す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩の濃度が1.6?16μmol/Lである、請求項1に記載の皮膚バリア機能改善剤。」と記載されているのを、「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を1.6?16μmol/Lの濃度で含む、皮膚バリア機能改善剤。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を生薬エキスとして含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の皮膚バリア機能改善剤。」と記載されているのを、「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を生薬エキスとして含む、請求項3に記載の皮膚バリア機能改善剤。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「トコフェロール、ヒアルロン酸Na、ミツバアケビ茎エキス、加水分解エラスチン、加水分解コラーゲン、アカヤジオウ根エキス、アセチルヒアルロン酸Na、アルニカ花エキス、アロエベラ葉エキス、オウゴンエキス、オーキッドエキス、オタネニンジン根エキス、カッコンエキス、カミツレ花エキス、カンゾウ根エキス、キュウリ果実エキス、クズ根エキス、クロレラエキス、セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス、セイヨウキズタ葉/茎エキス、セイヨウシロヤナギ樹皮エキス、セイヨウニワトコ花エキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、ダイズエキス、トウキンセンカ花エキス、トリスヘキシルデカン酸ピリドキシン、パリエタリアエキス、パルミチン酸レチノール、フユボダイジュ花エキス、マクロプチリウムアトロプルプレウム花/葉/茎エキス、メマツヨイグサ種子エキス、ヤグルマギク花エキス、ローマカミツレ花エキス、ローヤルゼリーエキス、及び加水分解ハトムギ種子からなる群より選択される1つ以上を更に含有する、請求項1?5のいずれか1項に記載の皮膚バリア機能改善剤。」と記載されているのを、「トコフェロール、ヒアルロン酸Na、ミツバアケビ茎エキス、加水分解エラスチン、加水分解コラーゲン、アカヤジオウ根エキス、アセチルヒアルロン酸Na、アルニカ花エキス、アロエベラ葉エキス、オウゴンエキス、オーキッドエキス、オタネニンジン根エキス、カッコンエキス、カミツレ花エキス、カンゾウ根エキス、キュウリ果実エキス、クズ根エキス、クロレラエキス、セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス、セイヨウキズタ葉/茎エキス、セイヨウシロヤナギ樹皮エキス、セイヨウニワトコ花エキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、ダイズエキス、トウキンセンカ花エキス、トリスヘキシルデカン酸ピリドキシン、パリエタリアエキス、パルミチン酸レチノール、フユボダイジュ花エキス、マクロプチリウムアトロプルプレウム花/葉/茎エキス、メマツヨイグサ種子エキス、ヤグルマギク花エキス、ローマカミツレ花エキス、ローヤルゼリーエキス、及び加水分解ハトムギ種子からなる群より選択される1つ以上を更に含有する、請求項3?5のいずれか1項に記載の皮膚バリア機能改善剤。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩の濃度が1.6?16μmol/Lである、請求項7に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。」と記載されているのを、「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を1.6?16μmol/Lの濃度で含む、皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を生薬エキスとして含む、請求項7?9のいずれか1項に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。」と記載されているのを、「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を生薬エキスとして含む、請求項9に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。」に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12に「トコフェロール、ヒアルロン酸Na、ミツバアケビ茎エキス、加水分解エラスチン、加水分解コラーゲン、アカヤジオウ根エキス、アセチルヒアルロン酸Na、アルニカ花エキス、アロエベラ葉エキス、オウゴンエキス、オーキッドエキス、オタネニンジン根エキス、カッコンエキス、カミツレ花エキス、カンゾウ根エキス、キュウリ果実エキス、クズ根エキス、クロレラエキス、セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス、セイヨウキズタ葉/茎エキス、セイヨウシロヤナギ樹皮エキス、セイヨウニワトコ花エキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、ダイズエキス、トウキンセンカ花エキス、トリスヘキシルデカン酸ピリドキシン、パリエタリアエキス、パルミチン酸レチノール、フユボダイジュ花エキス、マクロプチリウムアトロプルプレウム花/葉/茎エキス、メマツヨイグサ種子エキス、ヤグルマギク花エキス、ローマカミツレ花エキス、ローヤルゼリーエキス、及び加水分解ハトムギ種子からなる群より選択される1つ以上を更に含有する、請求項7?11のいずれか1項に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。」と記載されているのを、「トコフェロール、ヒアルロン酸Na、ミツバアケビ茎エキス、加水分解エラスチン、加水分解コラーゲン、アカヤジオウ根エキス、アセチルヒアルロン酸Na、アルニカ花エキス、アロエベラ葉エキス、オウゴンエキス、オーキッドエキス、オタネニンジン根エキス、カッコンエキス、カミツレ花エキス、カンゾウ根エキス、キュウリ果実エキス、クズ根エキス、クロレラエキス、セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス、セイヨウキズタ葉/茎エキス、セイヨウシロヤナギ樹皮エキス、セイヨウニワトコ花エキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、ダイズエキス、トウキンセンカ花エキス、トリスヘキシルデカン酸ピリドキシン、パリエタリアエキス、パルミチン酸レチノール、フユボダイジュ花エキス、マクロプチリウムアトロプルプレウム花/葉/茎エキス、メマツヨイグサ種子エキス、ヤグルマギク花エキス、ローマカミツレ花エキス、ローヤルゼリーエキス、及び加水分解ハトムギ種子からなる群より選択される1つ以上を更に含有する、請求項9?11のいずれか1項に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1?6のいずれか1項に記載の皮膚バリア機能改善剤、又は、請求項7?12のいずれか1項に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤を含む、スキンケア製品。」と記載されているのを、「請求項3?6のいずれか1項に記載の皮膚バリア機能改善剤、又は、請求項9?12のいずれか1項に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤のみからなる、スキンケア製品。」に訂正する。

2 訂正要件の適合についての検討
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する126条6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであること
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する126条5項に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する126条6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであること
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する126条5項に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1の記載を引用する記載であるところ、請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項へ改めるものであり、訂正前の「塩の濃度が1.6?16μmol/Lである」を訂正後の「塩を1.6?16μmol/Lの濃度で含む」とするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること」、及び、同2号に規定する「誤記又は誤記の訂正」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項3は、上記(ア)のとおり、実質的な内容を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する126条6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであること
訂正事項3は、上記(ア)のとおり、実質的な内容を変更するものではないから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する126条5項に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1?3の記載を引用する記載であるところ、請求項1,2を引用しないものとするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1?3の記載を引用する記載であるところ、請求項1,2を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する126条6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであること
訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1?3の記載を引用する記載であるところ、請求項1,2を引用しないものとするものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する126条5項に適合するものである。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項6が請求項1?5の記載を引用する記載であるところ、請求項1,2を引用しないものとするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項5は、訂正前の請求項6が請求項1?5の記載を引用する記載であるところ、請求項1,2を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する126条6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであること
訂正事項5は、訂正前の請求項6が請求項1?5の記載を引用する記載であるところ、請求項1,2を引用しないものとするものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する126条5項に適合するものである。
(6)訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、請求項7を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項6は、請求項7を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する126条6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであること
訂正事項6は、請求項7を削除するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する126条5項に適合するものである。
(7)訂正事項7
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、請求項8を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項7は、請求項8を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する126条6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであること
訂正事項7は、請求項8を削除するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する126条5項に適合するものである。
(8)訂正事項8
ア 訂正の目的について
訂正事項8は、訂正前の請求項9が請求項7の記載を引用する記載であるところ、請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項へ改めるものであり、訂正前の「塩の濃度が1.6?16μmol/Lである」を訂正後の「塩を1.6?16μmol/Lの濃度で含む」とするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること」、及び、同2号に規定する「誤記又は誤記の訂正」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項8は、上記(ア)のとおり、実質的な内容を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する126条6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであること
訂正事項8は、上記(ア)のとおり、実質的な内容を変更するものではないから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する126条5項に適合するものである。
(9)訂正事項9
ア 訂正の目的について
訂正事項9は、訂正前の請求項10が請求項7?9の記載を引用する記載であるところ、請求項7,8を引用しないものとするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項9は、訂正前の請求項10が請求項7?9の記載を引用する記載であるところ、請求項7,8を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する126条6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであること
訂正事項9は、訂正前の請求項10が請求項7?9の記載を引用する記載であるところ、請求項7,8を引用しないものとするものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する126条5項に適合するものである。
(10)訂正事項10
ア 訂正の目的について
訂正事項10は、訂正前の請求項12が請求項7?11の記載を引用する記載であるところ、請求項7,8を引用しないものとするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項10は、訂正前の請求項12が請求項7?11の記載を引用する記載であるところ、請求項7,8を引用しないものとするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する126条6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであること
訂正事項10は、訂正前の請求項12が請求項7?11の記載を引用する記載であるところ、請求項7,8を引用しないものとするものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する126条5項に適合するものである。
(11)訂正事項11
ア 訂正の目的について
訂正事項11は、訂正前の請求項13が請求項1?6及び7?12の記載を引用する記載であるところ、請求項1,2及び7,8を引用しないものとするものであり、訂正前の「皮膚バリア機能改善剤」、又は、「皮膚タイトジャンクション機能改善剤」「を含む、スキンケア製品」を訂正後の「皮膚バリア機能改善剤」、又は、「皮膚タイトジャンクション機能改善剤」「のみからなる、スキンケア製品」とし、「皮膚バリア機能改善剤」、又は、「皮膚タイトジャンクション機能改善剤」と「スキンケア製品」の関係を明瞭にするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」、同ただし書き3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項11は、訂正前の請求項13が請求項1?6及び7?12の記載を引用する記載であるところ、請求項1,2及び7,8を引用しないものとするものであり、訂正前の「皮膚バリア機能改善剤」、又は、「皮膚タイトジャンクション機能改善剤」「を含む、スキンケア製品」を訂正後の「皮膚バリア機能改善剤」、又は、「皮膚タイトジャンクション機能改善剤」「のみからなる、スキンケア製品」とし、「皮膚バリア機能改善剤」、又は、「皮膚タイトジャンクション機能改善剤」と「スキンケア製品」の関係を明瞭にするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する126条6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであること
訂正事項11は、訂正前の請求項13が請求項1?6及び7?12の記載を引用する記載であるところ、請求項1,2及び7,8を引用しないものとするものであり、訂正前の「皮膚バリア機能改善剤」、又は、「皮膚タイトジャンクション機能改善剤」「を含む、スキンケア製品」を訂正後の「皮膚バリア機能改善剤」、又は、「皮膚タイトジャンクション機能改善剤」「のみからなる、スキンケア製品」とし、「皮膚バリア機能改善剤」、又は、「皮膚タイトジャンクション機能改善剤」と「スキンケア製品」の関係を明瞭にするものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する126条5項に適合するものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法120条の5第4項、及び特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?13について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1?13に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明13」といい、まとめて「本件各発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を1.6?16μmol/Lの濃度で含む、皮膚バリア機能改善剤。
【請求項4】
ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を生薬エキスとして含む、請求項3に記載の皮膚バリア機能改善剤。
【請求項5】
ベルベリン含有生薬エキスが、オウバクエキス、オウレンエキス又は南天葉エキスである、請求項4に記載の皮膚バリア機能改善剤。
【請求項6】
トコフェロール、ヒアルロン酸Na、ミツバアケビ茎エキス、加水分解エラスチン、加水分解コラーゲン、アカヤジオウ根エキス、アセチルヒアルロン酸Na、アルニカ花エキス、アロエベラ葉エキス、オウゴンエキス、オーキッドエキス、オタネニンジン根エキス、カッコンエキス、カミツレ花エキス、カンゾウ根エキス、キュウリ果実エキス、クズ根エキス、クロレラエキス、セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス、セイヨウキズタ葉/茎エキス、セイヨウシロヤナギ樹皮エキス、セイヨウニワトコ花エキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、ダイズエキス、トウキンセンカ花エキス、トリスヘキシルデカン酸ピリドキシン、パリエタリアエキス、パルミチン酸レチノール、フユボダイジュ花エキス、マクロプチリウムアトロプルプレウム花/葉/茎エキス、メマツヨイグサ種子エキス、ヤグルマギク花エキス、ローマカミツレ花エキス、ローヤルゼリーエキス、及び加水分解ハトムギ種子からなる群より選択される1つ以上を更に含有する、請求項3?5のいずれか1項に記載の皮膚バリア機能改善剤。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を1.6?16μmol/Lの濃度で含む、皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。
【請求項10】
ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を生薬エキスとして含む、請求項9に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。
【請求項11】
ベルベリン含有生薬エキスが、オウバクエキス、オウレンエキス又は南天葉エキスである、請求項10に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。
【請求項12】
トコフェロール、ヒアルロン酸Na、ミツバアケビ茎エキス、加水分解エラスチン、加水分解コラーゲン、アカヤジオウ根エキス、アセチルヒアルロン酸Na、アルニカ花エキス、アロエベラ葉エキス、オウゴンエキス、オーキッドエキス、オタネニンジン根エキス、カッコンエキス、カミツレ花エキス、カンゾウ根エキス、キュウリ果実エキス、クズ根エキス、クロレラエキス、セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス、セイヨウキズタ葉/茎エキス、セイヨウシロヤナギ樹皮エキス、セイヨウニワトコ花エキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、ダイズエキス、トウキンセンカ花エキス、トリスヘキシルデカン酸ピリドキシン、パリエタリアエキス、パルミチン酸レチノール、フユボダイジュ花エキス、マクロプチリウムアトロプルプレウム花/葉/茎エキス、メマツヨイグサ種子エキス、ヤグルマギク花エキス、ローマカミツレ花エキス、ローヤルゼリーエキス、及び加水分解ハトムギ種子からなる群より選択される1つ以上を更に含有する、請求項9?11のいずれか1項に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。
【請求項13】
請求項3?6のいずれか1項に記載の皮膚バリア機能改善剤、又は、請求項9?12のいずれか1項に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤のみからなる、スキンケア製品。

第4 取消理由の概要(本件訂正前の特許請求の範囲に対して通知)
1 取消理由1
本件特許の下記請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(1)請求項1?5、7?10、11、13に係る発明は、引用文献1に記載された発明である。
(2)請求項1?5、7?10、11、13に係る発明は、引用文献2に記載された発明である。
(3)請求項13に係る発明は、引用文献6に記載された発明である。
2 取消理由2
本件特許の下記請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(1)請求項1?5、7?10、11、13に係る発明は、引用文献1、3、6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)請求項6、12、13に係る発明は、引用文献1、3、6、8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)請求項1?3、7?9に係る発明は、引用文献4、5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)請求項4?6、10、13に係る発明は、引用文献4、5、3、6、8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
<引用文献>
引用文献1:特開2011-168555号公報(異議申立人仲谷徳子の提出した甲第1号証)
引用文献2:特開2007-176830号公報(異議申立人仲谷徳子の提出した甲第2号証)
引用文献3:安田女子大学紀要 2012 40 p.395-402(異議申立人仲谷徳子の提出した甲第3号証)
引用文献4:Phytomedicine 2008 15 p.340-347(異議申立人合同会社SASの提出した甲第4号証)
引用文献5:Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2009 296 L751-762(異議申立人合同会社SASの提出した甲第5号証)
引用文献6:特公昭62-5890号公報(異議申立人合同会社SASの提出した甲第6号証)
引用文献7:コスメトロジー研究報告 2013 vol.21 p.61-64(異議申立人仲谷徳子の提出した甲第4号証、異議申立人合同会社SASの提出した甲第7号証)
引用文献8:特開2007-161612号公報(異議申立人合同会社SASの提出した甲第8号証)
3 取消理由3
本件特許は、特許請求の範囲の請求項13の記載が不備であり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
4 取消理由4
本件特許は、特許請求の範囲の請求項13の記載が不備であり、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

第5 取消理由に対する当審の判断
1 取消理由1(特許法29条1項3号)及び取消理由2(特許法29条2項)について
(1)引用文献に記載された事項、及び、引用文献に記載された発明
ア 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の記載がなされている(下線は合議体によるもの)。
(ア)「【請求項1】刺激感受性の高い人のための肌状態を改善するために外用で投与すべき素材の鑑別方法であって、ヒトの皮膚乃至はヒトの皮膚細胞に対する、抗菌ペプチドの産生促進作用の度合いを計測し、該促進作用が大きい場合には、肌改善作用が大きい素材であると鑑別し、小さい場合には肌改善作用が低いと鑑別することを特徴とする、外用で投与すべき素材の鑑別方法。
(中略)
【請求項5】前記上皮系細胞由来の抗菌ペプチドが、β-ディフェンシン1(hBD1:human β-defensin-1)であることを特徴とする、請求項1?4の何れか一項に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
(中略)
【請求項7】前記外用で投与すべき素材が、表皮細胞におけるタイトジャンクション(TJ:Tight junction)の形成促進作用を更に有することを特徴とする、請求項1?6の何れか一項に記載の外用で投与すべき素材の鑑別方法。
(中略)
【請求項9】請求項1?8に記載の 外用で投与すべき素材の鑑別方法であって、外用で投与すべき素材としての的確性を認められた素材を含有してなる組成物。
【請求項10】化粧料(但し、医薬部外品を含む)であることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】皮膚外用剤であることを特徴とする、請求項9又は10に記載の組成物。」
(イ)「【0007】本発明は、この様な状況下において為されたものであり、化粧料原料(但し、医薬部外品を含む)として好適な外用で投与すべき素材を見出し、化粧品や医薬品に応用可能である、肌改善用に好適な、抗菌ペプチド産生促進作用を指標とする外用で投与すべき素材の簡便、且つ、確実な鑑別方法を提供することを課題とする。」
(ウ)「【0014】一方、皮膚バリア機能は、外部刺激より身体を守るバリアの役割を果たす皮膚の機能であり、セラミド、ヒアルロン酸、コラ-ゲン等の角質細胞間脂質の構成成分の減少とは別に、角層細胞の形状及び細胞間接合状態等の要因に大きく影響を受ける。皮膚バリア機能を評価する方法としては、例えば、特開2005-189011号公報に記載の経皮的散逸水分量(TEWL値:Transepidermal Water Loss)、前記特許文献4に記載の経上皮電気抵抗値(TER値:Transepitherial Electrical Resistance)等の測定による評価方法が広く知られている。特に、表皮細胞に存在し、細胞同士を密接に結び付けることにより細胞間の隙間を塞ぎ物質の透過性に影響を与えるTJ等の細胞間接着構造体の形成状態は、TER値を測定することにより評価可能である(例えば、特開2007-174931号公報参照)。また、皮膚における刺激感受性の高さは、TJ等の細胞間接着構造体の形成状態と密接に関係するため、TER値を測定することによりTJ形成促進作用による皮膚バリア機能の向上効果、即ち、刺激感受性の高い人の肌改善作用を評価することが出来る。」
(エ)「【0020】本発明の前記植物より得られる植物抽出物は、・・・抽出物製造においては、・・・溶媒を1?30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬する。
【0021】前記抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノ-ル、イソプロピルアルコ-ル、ブタノ-ルなどのアルコ-ル類、1、3-ブタンジオ-ル、ポリプロピレングリコ-ルなどの多価アルコ-ル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエ-テル、テトラヒドロフランなどのエ-テル類から選択される1種乃至は2種以上が好適に例示出来る。」
(オ)「【0024】本発明の抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別される成分としては、単純な化学物質、動植由来の抽出物とその分画生精製物などの混合精製物のいずれでもよい。本発明の組成物には、前記の抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別される成分を、唯1種含有させることも出来るし、2種以上を組み合わせて含有させることも出来る。本発明の組成物は、前記の抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別される成分を配合することにより、抗菌ペプチド産生量、取り分け、ディフェンシン1産生量を増加させることにより皮膚バリア機能向上作用を発揮する。本発明の組成物は、抗菌ペプチド産生促進作用が大であると判別される成分を配合することにより、TJ等の細胞間接着構造体の形成促進作用を介し皮膚バリア機能向上効果を発揮する。」
(カ)「【0032】<試験例2: 抗菌ペプチド遺伝子(hBD1mRNA)発現量の測定>
以下の手順に従い、β-ディフェンシン1mRNA発現促進作用を評価した。本試験に用いた植物抽出物は、丸善製薬株式会社等より購入した植物抽出物を用いた。以下に試験手順を示す。
1)正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)(倉敷紡績株式会社)をHumedia-KG2(倉敷紡績株式会社)でサブコンフルエントになるまで培養した。
(中略)
5)前記4)にて調製したライセ-トをテンプレ-トとし、QuantiTect Multiplex RT-PCR Kit(QIAGEN社)を用いたリアルタイム(RT-PCR)により、各被験物質添加時のhBD1 mRNA発現量を検出し、ddCt法にて相対定量値を算出した。また、内在性コントロ-ルとしてTBP(TATA Binding Protein (TATA box結合因子で、ハウスキ-ピング遺伝子の一種))のmRNA発現量も同時に測定し、ddCt法にて相対定量値を算出した。結果を図3及び図4に示す。
【0033】 図3及び図4の結果より、本発明の評価に用いた植物抽出物には、何れも顕著なhBD1mRNA発現促進作用が認められた。本発明の抗菌ペプチド産生促進作用を有する成分には、TJ等の細胞間接着構造体の形成促進作用による皮膚バリア機能向上作用が期待される。
図3



(キ)上記(ア)?(カ)からみて、引用文献1には、「β-ディフェンシン1の産生促進作用を有し、表皮細胞におけるタイトジャンクション(TJ)の形成促進作用をさらに有する、肌状態を改善する素材及び当該素材を含有する化粧料組成物又は皮膚外用剤組成物」が記載されている。さらに、上記(オ)及び(カ)からみて、オウバクエキス及びオウレンエキスが、肌状態の改善作用として、ディフェンシン1産生量を増加させることにより、TJ等の細胞間接着構造体の形成促進作用を介し皮膚バリア機能向上作用を発揮するものであることが記載されていると認められる。
したがって、引用文献1には、
「β-ディフェンシン1の産生促進作用を有し、表皮細胞におけるタイトジャンクション(TJ)の形成促進作用を介し皮膚バリア機能向上作用を発揮するオウバクエキス又はオウレンエキス組成物」の発明(以下、「引用発明1-1」という。)、及び、
「β-ディフェンシン1の産生促進作用を有し、表皮細胞におけるタイトジャンクション(TJ)の形成促進作用を介し皮膚バリア機能向上作用を発揮するオウバクエキス又はオウレンエキス組成物を含有する化粧料組成物又は皮膚外用剤組成物」の発明(以下、「引用発明1-2」という。)
が記載されていると認める。

イ 引用文献2の記載
引用文献2には、以下の記載がなされている。
(ア)「【請求項1】キンポウゲ科キンポウゲ属オウレンの根茎を極性溶媒で抽出し、抽出物を得て、所望により、前記抽出物を分画、精製、溶媒除去した後、これを皮膚外用剤に含有させる場合において、表皮角化細胞をカルシウムを0.1?0.2mM含有する液体培地で0.1?12μmの微細孔を有する支持体上でコンフルエントになるまで培養し、しかる後、カルシウムイオンを1?2mM含有する液体培地で培養し、得られる表皮角化細胞層膜を前記抽出物で処理した場合、該表皮角化細胞層膜の物質透過性を抑制する作用を有することを確認した上で、該抽出物を皮膚外用剤に含有せしめることを特徴とする皮膚外用剤の製造法。
【請求項2】前記表皮角化細胞がヒト由来のものであることを特徴とする、請求項1に記載の皮膚外用剤の製造法。
【請求項3】前記極性溶剤が含水エタノール又は含水1、3-ブタンジオールであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の皮膚外用剤の製造法。」
(イ)「【0006】皮膚そのもののバリア機能を向上させる手段を提供することを課題とした。」
(ウ)「【実施例1】
【0018】 キンポウゲ科オウレン属オウレンの根茎1kgを裁断し、50%エタノール水溶液10L中に浸漬し、1週間放置した。濾過後、濾液を濃縮し、凍結乾燥した。この凍結乾燥物中のパルマチンの濃度を測定した。パルマチンの定量は、HPLCを用いて以下の条件で実施したところ、1.24質量%であった。これを50%エタノール水溶液で20倍に希釈して、パルマチン含量0.062質量%の本発明の皮膚外用剤に適用するのに適当なオウレン抽出物を得た。
(中略)
抽出物の添加時のTER(Transepitherial Electrical Resistance)値(Ωm)に対する、一定時間後のTER値の割合(%)で示した。結果を図1に示す。さらに、前記実施例1において、作製したパルマチン含有量の低い比較品1に関しても同様の測定を実施した。結果を図2に示す。
【0021】 図1の結果より、エキス類無添加のコントロールに比べて、オウレン抽出物を添加して培養した表皮角化細胞層膜ではTER値が上昇し、培養表皮角化細胞層のバリア機能が向上していることが判った。しかも、TER値はコントロールと比べて10%以上高くなり、本発明の皮膚外用剤に使用するのに適当であるオウレン抽出物であることも判った。」
(エ)上記(ア)?(ウ)からみて、引用文献2には、
「表皮角化細胞層膜のTER値を上昇させ、バリア機能を向上させる、オウレンのエタノール水溶液抽出物」(以下、「引用発明2-1」という。)、及び、
「表皮角化細胞層膜のTER値を上昇させ、バリア機能を向上させる、オウレンのエタノール水溶液抽出物を含有する皮膚外用剤」の発明(以下、「引用発明2-2」という。)
が記載されている。

ウ 引用文献4の記載
引用文献4には、以下の記載がなされている(訳は異議申立人による)。
(ア)「図1 MMP-9タンパク質の発現および活性は、NHKにおいてベルベリンによって用量依存的に低下する。(中略)(C)ウエスタンブロッティングおよび(D)ザイモグラフィーによるMMP-9タンパク質の発現および活性の検出のために、培養培地をそれぞれ収集した。これらの結果は、3種の独立した実験の代表である。示される値は、平均±SEMである。^(*)p<0.05、^(**)p<0.01 対 対照。Con、対照;HT、HT1080;BBR、ベルベリン。」(第342頁 図1の説明)
(イ)「ベルベリンは、MMP-9の基礎発現および活性を用量依存的に抑制した。(以下、略)」(第343頁右欄第10?11行)
(ウ)「我々は、ベルベリンが、ヒトケラチノサイトにおいて、基礎およびTPA誘導性のMMP-9発現を阻害し、またTPA誘導性のIL-6産生も阻止することを実証した。」(第344頁右欄下から6?3行)
(エ)「MMP-9発現が、ヒト皮膚においてUV照射によってアップレギュレーションされたこと、そし、老化ヒト皮膚および光老化ヒト皮膚においても増加したことがよく知られている。」(第345頁右欄第3?5行)
(オ)上記(ア)?(エ)からみて、引用文献4には、
「ヒト皮膚においてUV照射によってアップレギュレーションされるMMP-9の基礎発現および活性を用量依存的に抑制するベルベリン含有組成物」の発明(以下、「引用発明4」という。)
が記載されている。

エ 引用文献5の記載
引用文献5には、以下の記載がなされている(訳は異議申立人による)。
(ア)「図1 マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP9)処理による、経上皮伝導度の増加
A:活性化MMP9の処理24時間後に経上皮電気伝導度が増加する。(以下、略)」(L753頁右欄 図1の説明)
(イ)「MMP9は、タイトジャンクションタンパク質の局在を変化させる。MMP誘導性のバリア機能障害は、MMP9が細胞間結合の1以上の成分を変化させることを示唆している。(中略)これらのデータは、MMP9が、タイトジャンクションの少なくとも2つの成分クローディン-1及びオクルジンの局在を変化させることを示唆している。」(L755頁左欄第8行?右欄第10行)

オ 引用文献6の記載
引用文献6の10欄29?36行には、配合処方例4として、黄柏の抽出物であるB液(実施例1及び2参照)、または、黄柏の抽出物から得られたベルベリンを含む乾固体であるCエキス(実施例3参照)を含む、化粧水又は医薬外用剤の発明が記載されている。

(2)対比・検討
ア 引用発明1-1又は引用発明1-2との対比、検討
(ア)本件発明3について
本件発明3と引用発明1-1を対比すると、一致点と相違点1は以下のとおりである。
<一致点>
オウバクエキス及びオウレンエキスがベルベリンを主成分として含むものであることは、当該分野における技術常識である(要すれば、引用文献6の1頁右欄下から11?4行、引用文献3の395頁1?15行等)。すると、両者は、
「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩をオウバクエキス又はオウレンエキスとして含む、皮膚バリア機能改善剤」の点で一致する。
<相違点1>
本件発明3は、オウバクエキス又はオウレンエキスに含まれるベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩の濃度が1.6?16μmol/Lであることが特定されているのに対して、引用発明1-1では特定されていない点で、相違する。

以下、相違点1について検討する。
a 本件明細書の段落【0013】には、「例えば抽出溶媒として水やアルコール等を用いた抽出方法が使用できる。」と記載され、引用発明1-1の抽出溶媒も、上記(1)ア(エ)の記載から、水、エタノール等の極性溶媒であること、引用発明1-1の皮膚バリア機能改善剤は、上記(1)ア(キ)の記載から、β-ディフェンシン1の産生促進作用を有し、表皮細胞におけるタイトジャンクション(TJ)の形成促進作用を介し皮膚バリア機能向上作用を発揮するものであることまではいえる。
しかしながら、引用文献1には、皮膚バリア機能改善剤において、1.6?16μmol/L程度の濃度のベルベリンを含むことが記載されておらず、本件発明3と引用発明1-1の抽出溶媒が同じであっても、その他の抽出条件が不明であって、抽出されるベルベリンの濃度が同じであるとはいえないので、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明3は引用文献1に記載された発明ではない。
b 次に、相違点1の容易想到性について検討する。
引用発明1-1の課題は、上記(1)ア(イ)のとおり、「化粧料原料(但し、医薬部外品を含む)として好適な外用で投与すべき素材を見出し、化粧品や医薬品に応用可能である、肌改善用に好適な、抗菌ペプチド産生促進作用を指標とする外用で投与すべき素材の簡便、且つ、確実な鑑別方法を提供すること」である(【0007】)。
引用発明1-1の皮膚バリア機能改善剤は、上記(1)ア(キ)の記載から、β-ディフェンシン1の産生促進作用を有し、表皮細胞におけるタイトジャンクション(TJ)の形成促進作用を介し皮膚バリア機能向上作用を発揮するものであること、また、オウバクエキス及びオウレンエキスがベルベリンを主成分として含むものであることは、当該分野における技術常識であるが、引用文献1には、発明の課題を解決するために、ベルベリンに注目した上でベルベリンの濃度を調整することやベルベリンが課題解決にどの程度貢献するのかについても記載されていない。
また、本件発明3において、皮膚バリア機能向上作用を有するエキス組成物中のベルベリンの濃度を特定することにより、本件明細書図2のとおり、TERの改善がみられ、TJの形成促進作用に予測しえない有利な効果が奏されたといえる。
なお、引用文献3、6は、上記一致点のとおり、オウバクエキス及びオウレンエキスがベルベリンを主成分として含むものであることを示すに過ぎない。
c 以上のとおりであるから、本件発明3は、引用文献1に記載された発明ではなく、引用文献1、3、6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(イ)本件発明4?6、9?12について
本件発明3を引用する本件発明4、5、又は、本件発明3の「皮膚バリア機能改善剤」を「皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤」とした本件発明9?12も、上記(ア)と同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、引用文献1、3、6、8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
なお、引用文献8は、皮膚外用剤の成分に生薬エキスを配合することを示す文献に過ぎないから、上記判断を左右しない。
(ウ)本件発明13について
本件発明13は、本件発明3?6の「皮膚バリア機能改善剤」、又は、本件発明9?12の「皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤」のみからなる、スキンケア製品」としたものであって、本件発明13の比較対象の引用発明1-2は、引用発明1-1の「表皮細胞におけるタイトジャンクション(TJ)の形成促進作用を介し皮膚バリア機能向上作用を発揮するオウバクエキス又はオウレンエキス組成物」を「表皮細胞におけるタイトジャンクション(TJ)の形成促進作用を介し皮膚バリア機能向上作用を発揮するオウバクエキス又はオウレンエキス組成物を含有する化粧料組成物又は皮膚外用剤組成物」としたものであるから、本件発明13は、上記(ア)、(イ)と同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、引用文献1、3、6、8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。

イ 引用発明2-1又は引用発明2-2との対比、検討
(ア)本件発明3について
本件発明3と引用発明2-1を対比すると、一致点と相違点2は以下のとおりである。
<一致点>
オウレンエキスがベルベリンを主成分として含むものであることは、当該分野における技術常識である(要すれば、引用文献6の1頁右欄下から11?4行、引用文献3の395頁1?15行等)。すると、両者は、
「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩をオウレンエキスとして含む、皮膚バリア機能改善剤」の点で一致する。
<相違点2>
本件発明3は、オウレンエキスに含まれるベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩の濃度が1.6?16μmol/Lであることが特定されているのに対して、引用発明2-1では特定されていない点で、相違する。

以下、相違点2について検討する。
本件明細書の段落【0013】には、「例えば抽出溶媒として水やアルコール等を用いた抽出方法が使用できる。」と記載され、引用発明2-1の抽出溶媒も、上記(1)イ(ア)の記載から、含水エタノール又は含水1、3-ブタンジオールの極性溶媒であること、引用発明2-1の皮膚バリア機能改善剤は、上記(1)イ(ウ)の記載から、表皮角化細胞層膜でTER値が上昇し、培養表皮角化細胞層のバリア機能の向上作用を発揮するものであることまではいえる。
しかしながら、引用文献2には、皮膚バリア機能改善剤において、1.6?16μmol/L程度の濃度のベルベリンを含むことが記載されておらず、本件発明3と引用発明2-1の抽出溶媒が同じであっても、その他の抽出条件が不明であって、抽出されるベルベリンの濃度が同じであるとはいえないので、上記相違点2は実質的な相違点であるから、本件発明3は引用文献2に記載された発明ではない。
(イ)本件発明4、5、9?11について
本件発明3を引用する本件発明4、5、又は、本件発明3の「皮膚バリア機能改善剤」を「皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤」とした本件発明9?11も、上記(ア)と同様の理由により、引用文献2に記載された発明ではない。
なお、引用文献3、6は、上記一致点のとおり、オウバクエキス及びオウレンエキスがベルベリンを主成分として含むものであることを示すに過ぎないから、上記判断を左右しない。
(ウ)本件発明13について
本件発明13は、本件発明3?6の「皮膚バリア機能改善剤」、又は、本件発明9?12の「皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤」のみからなる、スキンケア製品」としたものであって、本件発明13の比較対象の引用発明2-2は、引用発明2-1の「オウレンのエタノール水溶液抽出物」を「オウレンのエタノール水溶液抽出物を含有する皮膚外用剤」としたものであるから、本件発明13は、上記(ア)、(イ)と同様の理由により、引用文献2に記載された発明ではない。

ウ 引用発明4との対比、検討
(ア)本件発明3について
本件発明3と引用発明4を対比すると、一致点と相違点3は以下のとおりである。
<一致点>
上記(1)ウ(エ)、(1)エ(イ)の記載からみて、MMP9はタイトジャンクションによるバリア機能障害をもたらすものであるから、引用発明4の「ヒト皮膚においてUV照射によってアップレギュレーションされるMMP-9の基礎発現および活性を用量依存的に抑制する」とは、本件特許発明1の「皮膚バリア機能改善」に相当するものである。
すると、両者は、
「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を含む、皮膚バリア機能改善剤」である点で一致する。
<相違点3>
本件発明3は、ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩の濃度が1.6?16μmol/Lであることが特定されているのに対して、引用発明4は、ベルベリンの濃度が特定されていない点で、相違するものである。

以下、相違点3について検討する。
a 引用文献4には、皮膚バリア機能改善剤において、1.6?16μmol/L程度の濃度のベルベリンを含むことが記載されておらず、ベルベリンに注目した上でベルベリンの濃度を調整することやベルベリンが皮膚バリア機能改善にどの程度貢献するのかについても記載されていない。
また、本件発明3において、皮膚バリア機能向上作用を有するエキス組成物中のベルベリンの濃度を特定することにより、本件明細書図2のとおり、TERの改善がみられ、TJの形成促進作用に予測しえない有利な効果が奏されたといえる。
なお、引用文献3、6は、上記一致点のとおり、オウバクエキス及びオウレンエキスがベルベリンを主成分として含むものであることを示すに過ぎない。
b 以上のとおりであるから、本件発明3は、引用文献4、5、3、6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(イ)本件発明4?6、9?13について
本件発明3を引用する本件発明4?6、13又は、本件発明3の「皮膚バリア機能改善剤」を「皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤」とした本件発明9?12も、上記(ア)と同様の理由により、引用文献4、5、3、6、8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
なお、引用文献8は、皮膚外用剤の成分に生薬エキスを配合することを示す文献に過ぎないから、上記判断を左右しない。

エ 引用発明6との対比、検討
本件発明13は、スキンケア製品中のベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩の濃度や用途等を特定するものであるから、引用文献6に記載された発明ではない。

2 取消理由3(特許法36条6項2号)について
(1)取消理由3の内容は以下のとおりである。
本件発明13は、請求項1?6いずれか1項に記載の皮膚バリア機能改善剤、又は、請求項7?12のいずれか1項に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤を含む、スキンケア製品に係る発明である。
しかしながら、請求項6及び12は、皮膚バリア機能改善剤又は皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤自体が、トコフェロール等を更に含有するものであるため、皮膚バリア機能改善剤又は皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤と、スキンケア製品の関係が不明である。
したがって、請求項13に係る発明は、明確でない。
(2)上記の点について検討すると、本件訂正により、本件発明13は、「請求項3?6のいずれか1項に記載の皮膚バリア機能改善剤、又は、請求項9?12のいずれか1項に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤のみからなる、スキンケア製品。」と訂正され、スキンケア製品において、トコフェロール等の他成分によらずに、皮膚バリア機能改善剤又は皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤自体で、改善機能を発揮することが明らかとなり、皮膚バリア機能改善剤又は皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤とスキンケア製品との関係は明確になったといえる。
したがって、本件発明13は明確である。

3 取消理由4(特許法36条6項1号)について
(1)取消理由4の内容は以下のとおりである。
本件特許は、皮膚バリア機能改善効果の高い製品の開発を解決しようとする課題とするものである(【0005】)。
しかしながら、請求項13は、スキンケア製品中の皮膚バリア機能改善剤又は皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤の含有量が記載されるものでも、皮膚バリア機能改善効果を有する有効成分の濃度が規定されるものでもないため、請求項13は、皮膚バリア機能改善効果を奏さない製品をも包含するものである。
したがって、請求項13に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、請求項13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(2)上記の点について検討すると、本件訂正により、本件発明13は、「請求項3?6のいずれか1項に記載の皮膚バリア機能改善剤、又は、請求項9?12のいずれか1項に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤のみからなる、スキンケア製品。」と訂正され、スキンケア製品中の皮膚バリア機能改善剤又は皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤の含有量や、皮膚バリア機能改善効果を有する有効成分が皮膚バリア機能改善剤又は皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤であることが規定されることとなったため、本件発明13は、皮膚バリア機能改善効果を奏する製品であることが明らかとなった。
したがって、本件発明13は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであり、発明の詳細な説明に記載したものである。

第6 特許異議申立書に記載のその他の取消理由について
1 申立人SAS
(1)その他の取消理由の概略
申立人SASのその他の取消理由の概略、及び、当審の検討内容は、以下のとおりである。
ア 本件特許の請求項1?3、7?9、13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 本件特許の請求項1?13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲1?8に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
ウ 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1?13の記載が不備であり、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
エ 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備であり、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
<引用文献>
以下、申立人SASの提出した「甲〇号証」を「甲〇」と略す。
甲1:Jpn J Opphthalmol 2007;51:64-67
甲2:Ophthalmic Res 2006;38:149-157
甲3:Fitoterapia 80(2009) 241-248
甲4:Phytomedicine 15 (2008) 340-347
甲5:Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 296:L751-L762, 2009
甲6:特公昭62-5890号公報
甲7:コスメトロジー研究報告Vol.21, 2013
甲8:特開2007-161612号公報

(2)上記(1)ア、イについての検討
ア 甲1の記載
甲1には、以下のとおり記載されている。(訳文は、合議体又は申立人SASによる。)
「要約
目的:ヒト網膜色素上皮細胞(ARPE-19)のバリア機能の崩壊に対する、薬用ハーブの数種から抽出されるアルカロイドである、ベルベリンの効果の検証
・・・
結論:ベルベリンは用量依存的に、IL-1βによる刺激後ARPE-19細胞のバリア機能の崩壊を阻害した。」(64頁冒頭)
「結果
IL-1βによる刺激後のTERに対するベルベリンの効果
細胞生存率は97%を超えた;IL-1β(5ng/ml)、0.1% DMSO、およびベルベリン(50μM)と24時間インキュベートしたARPE-19細胞のほとんどが生存していた。TER測定後、失われた培養細胞はなかった。
DMSO(0.05%)およびベルベリン(0.2?25μM)は、TERに対して効果がなかった。0.05% DMSOと24時間インキュベートした細胞のTERは66.6ohm・cm^(2)であった。IL-1βによる刺激後の細胞のTER(23ohm・cm^(2))は、対照培地中の細胞のTER(66.6ohm・cm^(2))よりも優位に低かった(P<0.05、Scheffeの検定)(図1a)。ベルベリン(1?25μM)は、IL-1βによる刺激後24時間目のARPE-19細胞におけるTERの減少を容量依存的に維持した(図1b)。」(65頁右欄)
上記記載から、甲1には、「網膜色素上皮細胞においてIL-1β刺激によるタイトジャンクションバリア破壊作用を抑制する効果を発揮する、ベルベリンを1?25μM含む組成物」(甲1発明)が開示されている。

イ 本件発明3について
本件発明3と甲1発明を対比すると、一致点と相違点4は以下のとおりである。
<一致点>
「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を1.6?16μmol/Lの濃度で含む、バリア機能改善剤」である点で一致する。
<相違点4>
本件発明3は、バリア機能の対象が皮膚であるのに対して、甲1発明は、網膜色素上皮細胞である点で相違する。

上記相違点4について検討すると、皮膚と網膜色素上皮細胞とは生体組織として明らかに異なっており、実質的な相違点であるから、本件発明3は、甲1に記載された発明ではない。
また、甲2?8の記載をみても、皮膚と網膜色素上皮細胞とが組織として等価であることや置換し得るような記載や示唆もなく、そのような技術常識も存在しない。
したがって、本件発明3は、甲1?8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。
ウ 本件発明4?6、9?13についても、同様に甲1?8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。
エ 以上のとおり、申立人SASの取消理由を採用することができない。

(3)上記(1)ウ、エについての検討
ア 上記(1)ウ、エの拒絶理由の内容は、おおむね以下のとおりである。
甲7に教示されているように、皮膚バリアは角質層とタイトジャンクションからなっているので、タイトジャンクションバリア機能のみが改善されても、皮膚バリア機能改善作用が改善されているとまではいうことができない。本件明細書の発明の詳細な説明において、実施例で確認されているのは、タイトジャンクションバリア機能のみであり、皮膚バリア機能が改善されていない。したがって、請求項1?13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、発明の詳細な説明は、当該発明の実施ができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
本件明細書の発明の詳細な説明には、トコフェロールその他の成分を配合した「皮膚バリア機能改善剤」、「皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤」、「スキンケア製品」の実施例が含まれていないため、請求項6、12、13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、発明の詳細な説明は、当該発明の実施ができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
イ 上記アについて検討する。
本件各発明の課題は、「皮膚バリア機能改善効果の高い製品を提供すること」である。(【0005】)
本件明細書には、本件各発明を実施するための形態として以下の通り記載されている。
【0009】
〔有効成分〕
本発明の皮膚バリア機能改善剤は、ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含有する。
【0010】
ベルベリンは、以下の化学構造式で表される化合物である。
【化1】
(化学構造式 略)
【0011】
薬学的に許容可能なベルベリンの塩(以下、「ベルベリン塩」又は「その塩」ともいう )としては、ベルベリン塩化物やベルベリン硫酸塩等が挙げられる。ベルベリン塩には、その水和物(例えば、ベルベリン塩化物水和物)が含まれる。
ベルベリン及びその塩は公知物質であり、市場で容易に入手可能であるか、又は、調製可能である。
【0012】
ベルベリン又はその塩の濃度は、皮膚バリア機能改善剤の総容量に対して1.0?25 μmol/L、好ましくは1.0?20μmol/L、特に好ましくは1.6?16μm ol/Lである。この濃度範囲であると、TJのバリア機能の高い改善効果、ひいては皮膚バリア機能の高い改善効果が得られる。
【0013】
本発明では、有効成分として、ベルベリン又はその塩を含む生薬エキス(以下、「生薬エキス」ともいう)を使用してもよい。
生薬エキスとしては、オウバクエキス、オウレンエキス、南天葉エキス、メギエキス、オホトリトマラズエキスやタツタソウエキス等が挙げられ、好ましくはオウバクエキス、オウレンエキス及び南天葉エキスであり、より好ましくはオウバクエキスである。
生薬エキスは公知物質であり、市場で容易に入手可能であるか、又は調製可能である。生薬エキスの製造には当該技術分野で周知の方法を使用できるが、例えば抽出溶媒として 水やアルコール等を用いた抽出方法が使用できる。例えば、オウバクエキスは、ミカン科 植物であるキハダ(Phellodendron amurense Ruprecht又はPhellodendron chinense Schneider)の周皮を除いた樹皮を、水や1,3-ブチレングリコール等で抽出して調製できる。
【0014】
〔皮膚バリア機能の改善〕
皮膚バリア機能とは、皮膚が有するバリア機能(外部からの刺激によるダメージや体内 からの水分の喪失を防ぐ等)をいい、皮膚(表皮)の構成要素である角層とTJとが有するバリア機能によりもたらされる。
TJ(タイトジャンクション)は、角層直下の顆粒層の2層目の細胞同士を接着するタンパク質であり、その細胞接着構造によってバリア機能が発揮される。
本発明では、紫外線等により低下したTJのバリア機能をベルベリン又はその塩が改善することにより、皮膚バリア機能が改善される。
皮膚バリア機能の改善により、肌の乾燥や肌荒れ等が抑制及び/又は改善され、また皮膚老化の進行が抑制される。
【0015】
〔任意成分〕
皮膚バリア機能改善剤には、ベルベリン又はその塩に加え、本発明の効果を損なわない 範囲でスキンケア製品(皮膚用化粧品)に適用可能な1種以上の成分を任意に配合できる。任意成分としては、以下に示すものが挙げられる。
〔基剤成分〕
水(例えば、精製水)、低級アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例え ば、プロピレングリコール)、油脂、界面活性剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、増粘剤 、色素、顔料、防腐剤、香料等
〔その他〕
乳化剤、香料、防腐剤等
〔保湿成分〕
トコフェロール、ヒアルロン酸Na、ミツバアケビ茎エキス、加水分解エラスチン、加水 分解コラーゲン、アカヤジオウ根エキス、アセチルヒアルロン酸Na、アルニカ花エキス 、アロエベラ葉エキス、オウゴンエキス、オーキッドエキス、オタネニンジン根エキス、 カッコンエキス、カミツレ花エキス、カンゾウ根エキス、キュウリ果実エキス、クズ根エ キス、クロレラエキス、セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス、セイヨウキズタ葉/茎 エキス、セイヨウシロヤナギ樹皮エキス、セイヨウニワトコ花エキス、ゼニアオイエキス 、センブリエキス、ダイズエキス、トウキンセンカ花エキス、トリスヘキシルデカン酸ピ リドキシン、パリエタリアエキス、パルミチン酸レチノール、フユボダイジュ花エキス、 マクロプチリウムアトロプルプレウム花/葉/茎エキス、メマツヨイグサ種子エキス、ヤグルマギク花エキス、ローマカミツレ花エキス、ローヤルゼリーエキス、加水分解ハトムギ種子
【0016】
〔製造方法〕
皮膚バリア機能改善剤は、スキンケア製品(皮膚用化粧料)の一般的な製法にしたがい製造できる。例えば、有効成分を基剤成分へ添加し、混合することで製造できる。
【0017】
〔剤型〕
皮膚バリア機能改善剤はスキンケア製品として製剤化できる。例えば、クリーム、乳液 、化粧水やパック等の剤型を任意に選択できる。
【0018】
〔皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤〕
ベルベリン又はその塩は、タイトジャンクションのバリア機能を改善することで皮膚バリア機能改善効果を発揮する。したがって、本発明の皮膚バリア機能改善剤は、皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤としても把握できる。
皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤の有効成分、任意成分、製造方法や剤型は、皮膚バリア機能改善剤について述べた説明が適用される。
【実施例】
【0019】
次に、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
・・・
【0021】
〔ベルベリンによるTJのバリア機能改善効果〕
紫外線(UVB)照射によりTJのバリア機能が低下することが知られている(Takuo Yuki, J Invest Dermatol, 2011, 131, 3, p.744-52)。そこで、UVB照射条件及び添加ベルベリン濃度を変えた1?7群(表1)についてTJのバリア機能を測定した。TJのバリア機能は、TER(Transepidermal Electrical Resistance)を指標にして評価した。TERは、細胞層のインピーダンスから算出される電気抵抗値であり、TJの形成に伴い高い抵抗値を示すことから、バリア強度の指標として用いられている。
【0022】

【0023】
気液界面培養開始から14日目のヒト三次元培養皮膚モデルへUVBを照射した(波長:302nm。積算照射量:640mJ/cm^(2))。照射完了後、ベルベリンを添加した。添加から50時間後、TERをEVOM^(2)を用いて測定した。結果を図2に示す。
UVB照射によりTER(TJのバリア機能)が低下した(1群対2群)。本発明の範囲外のベルベリン濃度を用いた3群及び7群では、2群に対しTERの有意な改善はみられなかった。一方、本発明の範囲内のベルベリン濃度を用いた4?6群では2群に対しTERの有意な改善がみられた。したがって、本発明の範囲内のベルベリンを用いることでTJのバリア機能が大きく改善することが確認された。
【図2】

そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の、特に、下線部の記載から、以下のことがいえる。
本件各発明の皮膚バリア機能改善剤は、ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含有するものであること、
ベルベリン又はその塩の濃度は、皮膚バリア機能改善剤の総容量に対して、特に好ましくは1.6?16μmol/Lの濃度範囲であると、TJのバリア機能の高い改善効果、ひいては皮膚バリア機能の高い改善効果が得られること、
本件各発明では、有効成分として、ベルベリン又はその塩を含む生薬エキスを使用してもよく、生薬エキスとしては、好ましくはオウバクエキス、オウレンエキス及び南天葉エキスであること、
皮膚バリア機能とは、皮膚が有するバリア機能(外部からの刺激によるダメージや体内からの水分の喪失を防ぐ等)をいい、皮膚(表皮)の構成要素である角層とTJとが有するバリア機能によりもたらされ、TJ(タイトジャンクション)は、角層直下の顆粒層の2層目の細胞同士を接着するタンパク質であり、その細胞接着構造によってバリア機能が発揮されること、
皮膚バリア機能改善剤には、ベルベリン又はその塩に加え、本発明の効果を損なわない範囲でスキンケア製品(皮膚用化粧品)に適用可能な1種以上の成分を任意に配合でき、任意成分としては、基剤成分、保湿成分(トコフェロール等)であること、
実施例において、本発明の範囲内のベルベリンを用いることでTJのバリア機能が大きく改善することが確認されたこと、
皮膚バリア機能改善剤はスキンケア製品として製剤化できること。

したがって、本件発明3の皮膚バリア機能改善剤は、ベルベリンの濃度が特定されているから、発明の詳細な説明の記載から、TJのバリア機能の高い改善効果、ひいては皮膚バリア機能の高い改善効果が得られること、皮膚バリア機能は、皮膚(表皮)の構成要素である角層とTJとが有するバリア機能によりもたらされ、TJは、角層直下の顆粒層の2層目の細胞同士を接着するタンパク質であり、その細胞接着構造によってバリア機能が発揮されること、実際に実施例において、TJのバリア機能が大きく改善することが明らかであるから、本件発明3は、当業者が発明の課題を解決すると認識できる範囲内のものであるといえるので、発明の詳細な説明に記載された発明である。
また、同様に、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明3を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
本件発明4?6は、本件発明3において、「ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を生薬エキスとして含む」旨規定するものであるが、上記のとおり、発明の詳細な説明には、皮膚バリア機能改善剤は、ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含有するもので、有効成分として、ベルベリン又はその塩を含む生薬エキスを使用してもよいことが記載されているから、本件発明3と同様に判断される。
本件発明9?12は、本件発明3の「皮膚バリア機能改善剤」と「皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤」とするものであるから、本件発明3?6と同様に判断される。
本件発明13は、本件発明3?6の「皮膚バリア機能改善剤」、又は、本件発明9?12「皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤」のみからなる「スキンケア製品」とするものであるが、上記のとおり、発明の詳細な説明には、皮膚バリア機能改善剤はスキンケア製品として製剤化できることが記載されているから、本件発明3?6、9?12と同様に判断される。
ウ 以上のとおり、申立人SASの取消理由を採用することができない。

2 申立人仲谷
(1)その他の取消理由の概略
ア 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備であり、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
イ 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備であり、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
ウ 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備であり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(2)上記(1)ア、イについての検討
ア 上記(1)ア、イの拒絶理由の内容は、おおむね以下のとおりである。
請求項1?6における「皮膚バリア機能」は、皮膚タイトジャンクションバリア機能のみではなく、皮膚角層バリア機能も広く含むところ、皮膚角層バリア機能改善効果については何らも示されておらず、皮膚タイトジャンクションバリア機能改善効果を奏する物質であれば皮膚角層バリア機能改善効果も奏するという技術常識も存在しない。したがって、請求項1?6に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
請求項1?13において、対象とする皮膚バリア機能を低下させる原因を特定していないから、請求項1?13に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、請求項1?13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
請求項4、5、10、11、13において、「ベルベリン又は薬学的に許容可能な塩を生薬エキスとして含む」との記載があり、生薬エキスの成分の中には、ベルベリンによるバリア機能改善効果を抑制する方向に作用する成分が含まれている可能性もあるから、請求項4、5、10、11、13に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、請求項4、5、10、11、13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
イ しかし、上記1(3)のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、皮膚バリア機能は、皮膚(表皮)の構成要素である角層とTJとが有するバリア機能によりもたらされ、TJは、角層直下の顆粒層の2層目の細胞同士を接着するタンパク質であり、その細胞接着構造によってバリア機能が発揮されること、皮膚バリア機能改善剤は、ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を有効成分として含有するもので、有効成分として、ベルベリン又はその塩を含む生薬エキスを使用してもよいことが記載されており、また、皮膚バリア機能を低下させる原因が異なれば、皮膚バリア機能改善剤が機能しないという技術常識も存在しない。
したがって、上記1(3)と同様に判断され、本件発明3?6、9?13は、当業者が発明の課題を解決すると認識できる範囲内のものであるといえるので、発明の詳細な説明に記載された発明である。
また、同様に、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本件発明3?6、9?13を実施ができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(3)上記(1)ウについての検討
ア 上記(1)ウの拒絶理由の内容は、おおむね以下のとおりである。
請求項1?13においては、どのような原因によって皮膚バリア機能が低下した人を対象としているのか、バリア機能の何が低下しているのかが特定されていないため、何が悪いところで、何を改善するのかが不明であるから、明確でない。
イ 上記(2)イのとおり、皮膚バリア機能を低下させる原因が異なれば、皮膚バリア機能改善剤が機能しないという技術常識も存在しないから、本件発明3?6、9?12が、原因を特定しないとしても、本件発明3?6、9?12自体は明確であり、不明確な点はない。
(4)以上のとおり、申立人仲谷の取消理由を採用することができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件特許発明3?6、9?13に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件発明3?6、9?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件発明1、2、7、8に係る特許は、訂正により削除されたため、本件発明1、2、7、8に対して、申立人がした特許異議の申し立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を1.6?16μmol/Lの濃度で含む、皮膚バリア機能改善剤。
【請求項4】
ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を生薬エキスとして含む、請求項3に記載の皮膚バリア機能改善剤。
【請求項5】
ベルベリン含有生薬エキスが、オウバクエキス、オウレンエキス又は南天葉エキスである、請求項4に記載の皮膚バリア機能改善剤。
【請求項6】
トコフェロール、ヒアルロン酸Na、ミツバアケビ茎エキス、加水分解エラスチン、加水分解コラーゲン、アカヤジオウ根エキス、アセチルヒアルロン酸Na、アルニカ花エキス、アロエベラ葉エキス、オウゴンエキス、オーキッドエキス、オタネニンジン根エキス、カッコンエキス、カミツレ花エキス、カンゾウ根エキス、キュウリ果実エキス、クズ根エキス、クロレラエキス、セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス、セイヨウキズタ葉/茎エキス、セイヨウシロヤナギ樹皮エキス、セイヨウニワトコ花エキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、ダイズエキス、トウキンセンカ花エキス、トリスヘキシルデカン酸ピリドキシン、パリエタリアエキス、パルミチン酸レチノール、フユボダイジュ花エキス、マクロプチリウムアトロプルプレウム花/葉/茎エキス、メマツヨイグサ種子エキス、ヤグルマギク花エキス、ローマカミツレ花エキス、ローヤルゼリーエキス、及び加水分解ハトムギ種子からなる群より選択される1つ以上を更に含有する、請求項3?5のいずれか1項に記載の皮膚バリア機能改善剤。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を1.6?16μmol/Lの濃度で含む、皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。
【請求項10】
ベルベリン又は薬学的に許容可能なその塩を生薬エキスとして含む、請求項9に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。
【請求項11】
ベルベリン含有生薬エキスが、オウバクエキス、オウレンエキス又は南天葉エキスである、請求項10に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。
【請求項12】
トコフェロール、ヒアルロン酸Na、ミツバアケビ茎エキス、加水分解エラスチン、加水分解コラーゲン、アカヤジオウ根エキス、アセチルヒアルロン酸Na、アルニカ花エキス、アロエベラ葉エキス、オウゴンエキス、オーキッドエキス、オタネニンジン根エキス、カッコンエキス、カミツレ花エキス、カンゾウ根エキス、キュウリ果実エキス、クズ根エキス、クロレラエキス、セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス、セイヨウキズタ葉/茎エキス、セイヨウシロヤナギ樹皮エキス、セイヨウニワトコ花エキス、ゼニアオイエキス、センブリエキス、ダイズエキス、トウキンセンカ花エキス、トリスヘキシルデカン酸ピリドキシン、パリエタリアエキス、パルミチン酸レチノール、フユボダイジュ花エキス、マクロプチリウムアトロプルプレウム花/葉/茎エキス、メマツヨイグサ種子エキス、ヤグルマギク花エキス、ローマカミツレ花エキス、ローヤルゼリーエキス、及び加水分解ハトムギ種子からなる群より選択される1つ以上を更に含有する、請求項9?11のいずれか1項に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤。
【請求項13】
請求項3?6のいずれか1項に記載の皮膚バリア機能改善剤、又は、請求項9?12のいずれか1項に記載の皮膚タイトジャンクションバリア機能改善剤のみからなる、スキンケア製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-11-06 
出願番号 特願2019-42252(P2019-42252)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松井 一泰  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 原田 隆興
西村 亜希子
登録日 2019-06-07 
登録番号 特許第6535146号(P6535146)
権利者 佐藤製薬株式会社
発明の名称 皮膚バリア機能改善剤  
代理人 山崎 一夫  
代理人 服部 博信  
代理人 市川 さつき  
代理人 星野 貴光  
代理人 山崎 一夫  
代理人 服部 博信  
代理人 須田 洋之  
代理人 星野 貴光  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 須田 洋之  
代理人 市川 さつき  
代理人 田中 伸一郎  

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