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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01R
管理番号 1370000
異議申立番号 異議2019-700353  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-26 
確定日 2020-11-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6414498号発明「差動型磁気センサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6414498号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6414498号の請求項1?3に係る特許を取り消す。  
理由 第1 手続の経緯
特許第6414498号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成27年3月27日にされたものであり、平成30年10月12日にその特許権の設定の登録がされ、同月31日にその特許掲載公報が発行された。本件特許の特許請求の範囲に記載された請求項の数は3である。
これに対して、平成31年4月26日に特許異議申立人東京総合コンサルティング株式会社(以下「申立人」という。)は、証拠として甲第1号証ないし甲第5号証を提出し、本件特許の請求項1?3について特許異議の申立てをした。
その後の経緯は、次のとおりである。

令和元年 7月 5日付け:取消理由通知書
令和元年 9月 9日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和元年 9月24日付け:通知書(申立人宛て)
令和元年10月29日 :申立人による意見書の提出
令和2年 1月29日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和2年 4月 4日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年 6月18日付け:通知書(申立人宛て)
令和2年 7月21日 :申立人による意見書の提出

なお、令和元年9月9日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
以下、令和2年4月4日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。


第2 本件訂正について
1 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正の請求の趣旨は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲を、それぞれ、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求めるものであって、その内容は次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する磁場信号電圧を出力する2つの磁気検知手段と、」と記載されているのを「前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する交流電圧を信号処理手段によって前記感磁体の周辺の磁場強さに対応するレベルの磁場信号電圧に変換して出力する2つの磁気検知手段と、」に訂正し(以下、この訂正を「訂正事項1-1」という。)、
「前記駆動手段と前記差動演算手段との間に設けられ、検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段が、前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号を調整する信号調整手段を備え、」と記載されているのを「前記2つの磁気インピーダンス素子および信号処理手段を含む回路を介して前記駆動手段と前記差動演算手段とが接続されるとともに、前記駆動手段および前記2つの磁気インピーダンス素子または前記2つの信号処理手段および前記差動演算手段に接続され、検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段のそれぞれが、前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である前記磁場信号電圧を調整する抵抗値に設定された抵抗または抵抗回路より成る信号調整手段を備え、」に訂正する(以下、この訂正を「訂正事項1-2」という。)。
(請求項1の記載を引用する請求項2及び3も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、「互いに磁気インピーダンス素子の検出感度が略同じであると見做せるような出力信号を調整するようにして、」と記載されているのを「互いに磁気インピーダンス素子の検出感度が略同じであると見做せるように出力信号を調整するようにして、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2及び3も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2において、「前記請求項1において、前記信号調整手段が、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記駆動手段から供給される前記駆動電流が調整されるように構成されていることを特徴とする差動型磁気センサ。」と記載されているのを「前記請求項1において、前記信号調整手段が、前記駆動手段と前記2つの磁気インピーダンス素子との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記駆動手段から供給される前記駆動電流が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されていることを特徴とする差動型磁気センサ。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3において、「前記請求項1において、前記信号調整手段が、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記2つの磁気インピーダンス素子に接続される前記磁気検知手段を構成する信号処理手段の利得が調整されるように構成されていることを特徴とする差動型磁気センサ。」と記載されているのを「前記請求項1において、前記信号調整手段が、前記磁気検知手段の前記信号処理手段と前記差動演算手段との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記2つの磁気インピーダンス素子に接続される前記磁気検知手段を構成する信号処理手段の利得が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されていることを特徴とする差動型磁気センサ。」に訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0011】において、「前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する磁場信号電圧を出力する2つの磁気検知手段と、」と記載されているのを「前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する交流電圧を信号処理手段によって前記感磁体の周辺の磁場強さに対応するレベルの磁場信号電圧に変換して出力する2つの磁気検知手段と、」に訂正し、
「前記駆動手段と前記差動演算手段との間に設けられ、検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段が、前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号を調整する信号調整手段を備え、」と記載されているのを「前記2つの磁気インピーダンス素子および信号処理手段を含む回路を介して前記駆動手段と前記差動演算手段とが接続されるとともに、前記駆動手段および前記2つの磁気インピーダンス素子または前記2つの信号処理手段および前記差動演算手段に接続され、検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段のそれぞれが、前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である前記磁場信号電圧を調整する抵抗値に設定された抵抗または抵抗回路より成る信号調整手段を備え、」に訂正し、
「互いに磁気インピーダンス素子の検出感度が略同じであると見做せるような出力信号を調整するようにして、」と記載されているのを「互いに磁気インピーダンス素子の検出感度が略同じであると見做せるように出力信号を調整するようにして、」に訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0012】において、「前記第1発明において、前記信号調整手段として、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記駆動手段から供給される前記駆動電流が調整されるように構成されている」と記載されているのを「前記第1発明において、前記信号調整手段として、前記駆動手段と前記2つの磁気インピーダンス素子との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記駆動手段から供給される前記駆動電流が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されている」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0013】において、「前記第1発明において、前記信号調整手段として、前記2つの磁気インピーダンスセンサを構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記2つの磁気インピーダンス素子に接続される前記磁気検知手段を構成する信号処理手段の利得が調整されるように構成されている」と記載されているのを「前記第1発明において、前記信号調整手段として、前記磁気検知手段の前記信号処理手段と前記差動演算手段との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記2つの磁気インピーダンス素子に接続される前記磁気検知手段を構成する信号処理手段の利得が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されている」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0014】において、「上記構成より成る第1発明の差動型磁気センサは、駆動電流を出力する駆動手段と、離れた2つの地点に配設された前記駆動電流が印加される2つの感磁体より成る2つの磁気インピーダンス素子を備え、前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する磁場信号電圧を出力する2つの磁気検知手段と、前記2つの磁気検知手段から出力される2つの磁場信号電圧の差を演算することにより、前記2つの地点の磁場の強さの差の信号を出力する差動演算手段とから成る差動型磁気センサにおいて、前記駆動手段と前記差動演算手段との間に設けられた前記信号調整手段が、前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号を調整することにより、検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段が周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように出力信号を調整し、互いに磁気検知手段の検出感度が略同じであると見做せるような出力信号を調整するようにして、前記2つの地点共通の背景磁場成分を相殺して、局所的な前記背景磁場成分に比べて微弱である磁場の検出を可能にするという効果を奏する。」と記載されているのを「上記構成より成る第1発明の差動型磁気センサは、駆動電流を出力する駆動手段と、離れた2つの地点に配設された前記駆動電流が印加される2つの感磁体より成る2つの磁気インピーダンス素子を備え、前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する交流電圧を信号処理手段によって前記感磁体の周辺の磁場強さに対応するレベルの磁場信号電圧に変換して出力する2つの磁気検知手段と、前記2つの磁気検知手段から出力される2つの磁場信号電圧の差を演算することにより、前記2つの地点の磁場の強さの差の信号を出力する差動演算手段とから成る差動型磁気センサにおいて、前記2つの磁気インピーダンス素子および信号処理手段を含む回路を介して前記駆動手段と前記差動演算手段とが接続されるとともに、前記駆動手段および前記2つの磁気インピーダンス素子または前記2つの信号処理手段および前記差動演算手段に接続され、検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段のそれぞれが、前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である前記磁場信号電圧を調整する抵抗値に設定された抵抗または抵抗回路より成る信号調整手段が、互いに磁気インピーダンス素子の検出感度が略同じであると見做せるように出力信号を調整するようにして、前記2つの地点共通の背景磁場成分を相殺して、該背景磁場成分に比べて微弱である磁場の検出を可能にするという効果を奏する。」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0015】において、「上記構成より成る第2発明の差動型磁気センサは、前記第1発明における前記信号調整手段として、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記駆動手段から供給される前記駆動電流が調整されるように構成されていることにより、前記2つの磁気インピーダンス素子が検出感度が異なっていても前記アモルファスワイヤの周辺の磁場強さに対応する磁場信号電圧を出力する際に、互いに検出感度が略同じとなるような磁場信号電圧に調整されて出力されるため、前記2つの地点共通の背景磁場成分を消去して、局所的な微弱磁場の精確な検出を可能にするという効果を奏する。」と記載されているのを「上記構成より成る第2発明の差動型磁気センサは、前記第1発明における前記信号調整手段として、前記駆動手段と前記2つの磁気インピーダンス素子との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記駆動手段から供給される前記駆動電流が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されていることにより、前記2つの磁気インピーダンス素子が検出感度が異なっていても前記アモルファスワイヤの周辺の磁場強さに対応する磁場信号電圧を出力する際に、互いに検出感度が略同じとなるような磁場信号電圧に調整されて出力されるため、前記2つの地点共通の背景磁場成分を消去して、局所的な微弱磁場の精確な検出を可能にするという効果を奏する。」に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の段落【0016】において、「上記構成より成る第3発明の差動型磁気センサは、前記信号調整手段が、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記2つの磁気インピーダンス素子に接続される前記それぞれの信号処理手段の利得が調整されるように構成されているので、検出感度が異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を用いても、前記差動演算手段へ入力するまでの間に互いに略同一の感度となるように前記信号処理手段の利得を調整することができるので、前記2つの地点共通の背景磁場成分を消去して、局所的な微弱磁場の精確な検出を可能にするという効果を奏する。」と記載されているのを「上記構成より成る第3発明の差動型磁気センサは、前記信号調整手段が、前記磁気検知手段の前記信号処理手段と前記差動演算手段との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記2つの磁気インピーダンス素子に接続される前記それぞれの信号処理手段の利得が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されているので、検出感度が異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を用いても、前記差動演算手段へ入力するまでの間に互いに略同一の感度となるように前記信号処理手段の利得を調整することができるので、前記2つの地点共通の背景磁場成分を消去して、局所的な微弱磁場の精確な検出を可能にするという効果を奏する。」に訂正する。

なお、請求項1?3に係る訂正は、一群の請求項〔1?3〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1?3〕について請求されたものである。


2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的
ア 訂正事項1
上記訂正事項1-1は、請求項1に係る発明の「2つの磁気検知手段」が「出力」する「磁場信号電圧」について、「前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する交流電圧を信号処理手段によって前記感磁体の周辺の磁場強さに対応するレベル」に「変換」したものと限定するものであり、上記訂正事項1-2は、請求項1に係る発明において、「前記2つの磁気インピーダンス素子および信号処理手段を含む回路を介して前記駆動手段と前記差動演算手段とが接続される」として「駆動手段」と「差動演算手段」との接続関係を限定するとともに、請求項1に係る発明の「信号調整手段」の構成を、「前記駆動手段および前記2つの磁気インピーダンス素子または前記2つの信号処理手段および前記差動演算手段に接続され、検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段のそれぞれが、前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である前記磁場信号電圧を調整する抵抗値に設定された抵抗または抵抗回路より成る」と限定するものであるから、上記訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 訂正事項2
上記訂正事項2は、「…見做せるような出力信号を調整…」を「…見做せるように出力信号を調整…」と訂正するものであるから、上記訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当する。

ウ 訂正事項3
上記訂正事項3は、請求項2に係る発明の「信号調整手段」の構成を、「前記駆動手段と前記2つの磁気インピーダンス素子との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記駆動手段から供給される前記駆動電流が調整されるように構成されている」と限定するとともに、「前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されている」という構成を付加するものであるから、上記訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

エ 訂正事項4
上記訂正事項4は、請求項3に係る発明の「信号調整手段」の構成を、「前記磁気検知手段の前記信号処理手段と前記差動演算手段との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記2つの磁気インピーダンス素子に接続される前記磁気検知手段を構成する信号処理手段の利得が調整されるように構成されている」と限定するとともに、「前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されている」という構成を付加するものであるから、上記訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

オ 訂正事項5?10
上記訂正事項5?10は、上記訂正事項1?4に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、上記訂正事項5?10に係る訂正は、いずれも特許法120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(小括)
上記ア?オの検討内容をまとめると、
上記訂正事項1、3及び4に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
上記訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当する。
上記訂正事項5?10に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(2)新規事項の追加
上記訂正事項1、3?10に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当しないから、これらの訂正における新規事項の追加の有無を判断する際の基準となる明細書等は、特許権の設定の登録がされた時点での願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「特許明細書等」という。)である。
上記訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当するから、この訂正における新規事項の追加の有無を判断する際の基準となる明細書等は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)である。

ア 訂正事項1
上記訂正事項1-1及び1-2は、特許明細書等の段落【0025】?【0106】、【図5】?【図9】の記載に基づくものであると認められる。
したがって、上記訂正事項1に係る訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たす。

イ 訂正事項2
上記訂正事項2は、当初明細書等の段落【0009】及び【0056】の記載に基づくものであると認められる。
したがって、上記訂正事項2に係る訂正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たす。

ウ 訂正事項3
上記訂正事項3は、特許明細書等の段落【0025】?【0072】並びに【図5】及び【図6】の記載に基づくものであると認められる。
したがって、上記訂正事項3に係る訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たす。

エ 訂正事項4
上記訂正事項4は、特許明細書等の段落【0073】?【0106】及び【図7】?【図9】の記載に基づくものであると認められる。
したがって、上記訂正事項4に係る訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たす。

オ 訂正事項5?10
上記訂正事項5?10は、上記ア?エにおいて指摘した箇所の記載に基づくものであると認められる。
したがって、上記訂正事項5?10に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(小括)
上記ア?オの検討内容をまとめると、
上記訂正事項1?10に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たす。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張・変更
ア 訂正事項1
上記訂正事項1-1は、請求項1に係る発明の「2つの磁気検知手段」が「出力」する「磁場信号電圧」の構成を限定するものであり、上記訂正事項1-2は、請求項1に係る発明において、「駆動手段」と「差動演算手段」との接続関係を限定するとともに、「信号調整手段」の構成を限定するものであるところ、かかる限定により、訂正後の請求項1に係る特許発明の技術的範囲の一部または全部について、訂正前の特許発明の技術的範囲外のものも含むとはいえないから、上記訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たす。

イ 訂正事項2
上記訂正事項2は、「…見做せるような出力信号を調整…」を「…見做せるように出力信号を調整…」として誤記の訂正をするものであるところ、かかる誤記の訂正により、訂正後の請求項1に係る特許発明の技術的範囲の一部または全部について、訂正前の特許発明の技術的範囲外のものも含むとはいえないから、上記訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たす。

ウ 訂正事項3
上記訂正事項3は、請求項2に係る発明の「信号調整手段」の構成を限定するとともに、「前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されている」という構成を付加するものであるところ、かかる限定・付加により、訂正後の請求項2に係る特許発明の技術的範囲の一部または全部について、訂正前の特許発明の技術的範囲外のものも含むとはいえないから、上記訂正事項3に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たす。

エ 訂正事項4
上記訂正事項4は、請求項3に係る発明の「信号調整手段」の構成を限定するとともに、「前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されている」という構成を付加するものであるところ、かかる限定・付加により、訂正後の請求項3に係る特許発明の技術的範囲の一部または全部について、訂正前の特許発明の技術的範囲外のものも含むとはいえないから、上記訂正事項3に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たす。

オ 訂正事項5?10
上記訂正事項5?10は、上記訂正事項1?4に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるところ、かかる整合を図るための記載変更により、訂正後の請求項1?3に係る特許発明の技術的範囲の一部または全部について、訂正前の特許発明の技術的範囲外のものも含むとはいえないから、上記訂正事項5?10に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たす。

(小括)
上記ア?オにおける検討内容をまとめると、上記訂正事項1?10に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たす。

(4)独立特許要件
この特許異議の申立てにおいては、請求項1?3について特許異議の申立てがされているところ、上記訂正事項1及び2は請求項1?3に係るものであり、上記訂正事項3は請求項2に係るものであり、上記訂正事項4は請求項3に係るものであるから、本件訂正後における請求項1?3に記載されている事項により特定される発明について、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(5)まとめ
上記(1)?(4)において検討した訂正要件についての判断をまとめると、本件訂正は適法なものである。
よって、上記結論のとおり、訂正することを認める。


第3 取消理由の概要
本件訂正前の令和元年9月9日に提出された訂正請求書により訂正された請求項1?3に係る特許に対して、当審が令和2年1月29日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

理由1
本件特許の請求項1?3に係る発明は明確ではないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由2
本件特許の請求項1?3に係る発明は、下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



甲第1号証:特開2014-190774号公報
周知例1 :毛利佳年雄著「磁気センサ理工学」第101?104頁、
2004年11月5日、株式会社コロナ社
(申立人が令和元年10月29日に提出した意見書に添付された参考文献1)
周知例2 :特開2003-315376号公報
周知例3 :特開2003-149311号公報
周知例4 :特開平9-80132号公報(甲第4号証)


第4 当審の判断
1 本件特許に係る発明
上記第2において述べたとおり、本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、次のとおり、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであると認められる。

「【請求項1】
駆動電流を出力する駆動手段と、離れた2つの地点に配設された前記駆動電流が印加される2つの感磁体より成る2つの磁気インピーダンス素子を備え、前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する交流電圧を信号処理手段によって前記感磁体の周辺の磁場強さに対応するレベルの磁場信号電圧に変換して出力する2つの磁気検知手段と、
前記2つの磁気検知手段から出力される2つの磁場信号電圧の差を演算することにより、前記2つの地点の磁場の強さの差の信号を出力する差動演算手段とから成る差動型磁気センサにおいて、
前記2つの磁気インピーダンス素子および信号処理手段を含む回路を介して前記駆動手段と前記差動演算手段とが接続されるとともに、前記駆動手段および前記2つの磁気インピーダンス素子または前記2つの信号処理手段および前記差動演算手段に接続され、検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段のそれぞれが、前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である前記磁場信号電圧を調整する抵抗値に設定された抵抗または抵抗回路より成る信号調整手段を備え、
互いに磁気インピーダンス素子の検出感度が略同じであると見做せるように出力信号を調整するようにして、前記2つの地点共通の背景磁場成分を相殺して、該背景磁場成分に比べて微弱な磁場を検出するように構成されている
ことを特徴とする差動型磁気センサ。
【請求項2】
前記請求項1において、
前記信号調整手段が、前記駆動手段と前記2つの磁気インピーダンス素子との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記駆動手段から供給される前記駆動電流が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されている
ことを特徴とする差動型磁気センサ。
【請求項3】
前記請求項1において、
前記信号調整手段が、前記磁気検知手段の前記信号処理手段と前記差動演算手段との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記2つの磁気インピーダンス素子に接続される前記磁気検知手段を構成する信号処理手段の利得が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されている
ことを特徴とする差動型磁気センサ。」

2 引用文献
(1)甲第1号証
甲第1号証には、図面とともに以下の記載がある。
なお、下線は当審が付したものである。

「【0012】
本発明は、以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、上記課題を解決することを目的としたものであり、磁気異方性材料とピックアップコイルとを含む一対の磁気センサを有する磁気計測装置であって、該一対の磁気センサの出力の差分を算出することにより磁気の静磁界成分を高精度に計測することが可能な磁気計測装置を提供することにある。」

「【0022】
図1は、本発明の一実施例である磁気計測装置10の構成の概要を説明する図である。磁気計測装置10は後述するクロック回路24、電源部26、パルスジェネレータ(パルスゲート)18、一対のMIセンサ14、16、ACカップル器20、インスツルメンツアンプ22、ACカップル器30、ロックインアンプ32、ローパスフィルタ34などを含んで構成されている。
【0023】
このうち、クロック回路24は後述するパルスジェネレータ18やロックインアンプ32の差動のタイミングを決定するためのクロック信号をそれらに供給する。クロック回路24としては、繰り返し時間の精度が高く、好適には5桁以上の精度を持って正確に繰り返すファンクションジェネレータなどがクロックとして使用される。このクロック回路24において、クロック信号の繰り返し時間を可変にする事により、適切な励起効率を得ることが出来る。
【0024】
パルスジェネレータ18は、後述するMIセンサ(磁気センサ)14、16を駆動するためのパルス状の駆動電流PeをMIセンサ14、16に供給するためのもので、電源部(powersupply)26によって供給された電力により作動する。またパルスジェネレータ18は前記クロック回路24から出力されたクロック信号に基づいて駆動電流を反復的に出力する。この駆動電流Peは、地磁気などの影響を考慮して、例えば5V、100ns程度のパルスが0.25乃至1MHz程度の周波数とされる。
【0025】
一対のMIセンサ14、16はそれぞれ、前記パルスジェネレータ18から供給される駆動電流(励磁電流)Peが流されるためのMI素子と該MI素子の周囲の磁界を計測するための検出コイルとを含んで構成されている。一対のMIセンサ14、16の両者は同様の構成を有している。
【0026】
図2はこの一対のMIセンサ14、16の構成の一例を説明する図である。図2に示す一対のMIセンサ14、16は、2つのセンサに共通するMI素子38と、それぞれのMIセンサ14、16に対して設けられた検出コイル40、42を含んでいる。この検出コイル40、42は、MI素子によって生ずる磁界変化を検出することができる位置に設けられており、図2の例においてはソレノイド状のコイル40、42の中心をMI素子38が突き抜けるように配設されている。前記パルスジェネレータ18とMIセンサ14、16のMI素子38とは電気的に接続されており、パルスジェネレータ18から出力された駆動電流Peは、MI素子38を流れるようになっている。このように一対のMIセンサ14、16で共通するMI素子38を有することで、それらMIセンサ14、16の出力を共通する磁界に対して同じものとすることができる。共通するMI素子38はアモルファスワイヤなどの磁気異方性材料により構成されている。そのため、駆動電流PeがMI素子38に流されるとその表皮効果により検出コイル40、42に一過性の誘導起電力波形を生ずることとなる。MIセンサ14の検出コイル40の出力Ocoil1およびMIセンサ16の検出コイル42の出力Ocoil2(以下それぞれ、MIセンサ14の出力Ocoil1およびMIセンサ16の出力Ocoil2ともいう。)はそれぞれ後述するACカップル器20に入力される。本実施例の磁気計測装置10は、前記一過性の誘導起電力波形の所定の位相における値、例えばピーク値に基づいて磁界を計測する。具体的には、一対のMIセンサ14、16の両方には地磁気などの環境磁界が加わっている一方、一方のMIセンサ、例えばMIセンサ14にのみ計測対象となる磁界Bmesを加えることにより、一対のMIセンサ14、16が出力する誘導起電力波形は異なるものとなる。本発明の磁気計測装置10はその波形の相違に基づいて計測対象の磁界Bmesを計測するものである。
【0027】
(省略)
【0028】
図1に戻って、MIセンサ14、16のOcoil1およびOcoil2はそれぞれACカップル器(バンドパスフィルタ)20に入力され、例えば10kHzから100MHz程度のカップリングが行われる。そして、インスツゥルメンツアンプ22においてオフセット等のバランス調整、差分の算出、所定の増幅率による増幅が行われる。このインスツゥルメンツアンプ22には、好適には例えば2MHz以上の信号伝達が可能な高速インスツゥルメンツアンプが用いられる。
【0029】
インスツゥルメンツアンプ22の出力は、更にACカップル器30によりクロック回路24のクロック周波数(繰り返し周波数)に適合した所定のバンドパスフィルタによる処理が行われ、さらにロックインアンプ32に入力される。ロックインアンプ32には前述のクロック回路部24からクロック信号が供給されるようになっており、ロックインアンプ32はインスツゥルメンツアンプ22によって差分されたMIセンサ14、16の出力Ocoil1、Ocoil2の振幅を、クロック回路24のクロック信号と同期して検出する。具体的には検出した振幅、すなわちピーク値を連続的に出力する。そしてこの出力は、所定のオフセット電圧だけオフセットされた後に所定の増幅率、例えば1000倍程度に増幅される。このロックインアンプ32の出力は、さらにローパスフィルタ34により高周波成分が取り除かれた後、磁気計測装置10の出力信号とされる。なお、好適には、このように生成した出力信号だけではなく、前記オフセット電圧や、検出位相(ディレイ時間)についても併せて出力するようにしてもよい。
【0030】
また、図2の例においては、磁気計測装置10を構成する部材のうち、パルスジェネレータ18、MIセンサ14、16、ACカップル器20、およびインスツゥルメンツアンプ22が一つの筐体に収められて、センサプローブ12とされている。このようにすれば、センサプローブ12を磁気計測装置10の本体部分とケーブルなどにより接続されることによりその本体部分とは離れて設けられるとができるので、センサプローブ12のみを計測対象となる部分に近接させることができる。
【0031】
さらに、本実施例の磁気計測装置10は、一対のMIセンサ14、16の位置における局所磁界差および一対のMIセンサ14、16間の感度差がそれぞれ所定の許容値以下となるように調整する調整手段を有している。この調整手段は、前記一対の磁気センサの方向を相対的に変更する機械的機構であるセンサ位置調整手段45と、一対のMIセンサ14、16の少なくとも一方の近傍に配置する調整部材である局所磁界調整手段50とを含む。
【0032】
図3は前記センサ位置調整手段45の一例を説明する図である。図3に示すように、センサ位置調整手段45は一対のボード46、47を含んでおり、それら一対のボード46、47はそれぞれと一体的に設けられた回転軸48、49を中心に回動可能とされている。一方、ボード46、47にはそれぞれ一対のMIセンサ14、16が固定されている。ボード46、47、および一対のMIセンサ14、16はそれぞれ同一平面内を動くものとされている。すなわちボード46、47がそれぞれ回転軸48、49を中心に回動することにより、一対のMIセンサ14、16の相対的な角度を増減することができるものとされている。
【0033】
例えば、環境磁界として最大のものである磁気の影響を考慮すると、MIセンサ14、16は地磁気の影響を低減するため、いずれも南北方向に直交して設置することが考えられる。このように同一の向きに一対のMIセンサ14、16が配設され、共通する環境磁界が加えられると、一対のMIセンサ14、16が同一のセンサである場合には、理想的には同一の磁界を印加した場合において同一の出力が得られることとなる。しかしながら、両者の個体差などによりその出力が相違する場合には、例えば出力が大きくなるMIセンサを、そのセンサが配設されたボード46または47を回動させ環境磁界との角度を異ならせることで環境磁界の影響を弱めることができ、その出力を補正し、結果として一対のMIセンサ14、16の出力を予め定められた所定値以下、例えば同一なものとすることができる。
【0034】
図4は、局所磁界調整手段50の一例を説明する図である。図4の例においては、局所磁界調整手段50は例えば調整部材としての磁性体52であり、一対のMIセンサ14、16の少なくとも一方の近傍に配設される。この磁性体52は、前記センサ位置調整手段45と同様、一対のMIセンサ14、16に同一の磁界を印加した場合に両者の出力が相違する場合に、少なくとも一方の出力を補正するために用いられる。例えば磁性体52が図4のx、y、zの各方向に可動とされており、その磁性体による磁界Beqが一対のMIセンサ14,16の前記少なくとも一方に影響を与える結果、一対のMIセンサ14、16に同一の磁界を印加した場合に両者の出力が予め定められた所定値以下、例えば等しくなるように実験的にその位置が決定されればよい。
【0035】
本実施例の磁気計測装置10によれば、調整手段50により前記一対のMIセンサ14、16の位置における局所磁界差およびそれら一対のMIセンサ14、16間の感度差が許容値以下とされるので、一対のMIセンサ14、16の出力Ocoil1,Ocoil2の差を算出した場合に、例えば地磁気のようにこれらの一対のMIセンサ14、16に共通して印加される磁界の影響が精度よく相殺されることになる。そのため前記一対のMIセンサ14、16の一方にのみ印加される計測対象の磁界が直流成分を含むものであったとしても好適に計測可能となる。
【0036】
また、本実施例の磁気計測装置10によれば、調整手段50は、一対のMIセンサ14、16の近傍に配置する調整部材として局所磁界調整手段を有し、その調整部材は、磁性体、磁石、電磁石、導体、コイルの少なくとも1つであるので、一対のMIセンサ14、16の位置における局所磁界差を予め設定された許容値以下とすることができる。
【0037】
また、本実施例の磁気計測装置10によれば、調整手段は、一対のMIセンサ14、16の方向を相対的に変更する機械的機構としての相互に回動可能なボード46、47であるので、一対のMIセンサ14、16間の感度差を予め設定された許容値以下とすることができる。」

「【0049】
図8は、本発明の別の実施例における一対のMIセンサ114、116の態様を説明する図であって、前述の実施例における図2のMIセンサ14、16に対応する図である。図8のMIセンサ114、116はそれぞれMI素子138、139および検出コイル140、142を有して構成されている。このMI素子138、139はそれぞれパルスジェネレータ18(図1などを参照)に電気的に接続され、パルスジェネレータ18によって発生させられるパルス状の駆動電流Peが流されるようになっている。また、MIセンサ114、116の検出コイル140、142の誘導起電力は出力信号Ocoil1、Ocoil2としてそれぞれ出力されるようになっている。すなわち、図2のMIセンサ14、16は相互に共通するMI素子38を有していた一方、本実施例のMIセンサ114、116はそれぞれがMI素子138および139を有している点において異なる。このような場合であっても、2つのMIセンサ114、116のMI素子138、139の局所磁界差及び出力の感度差を本発明の手段で許容値以下の精度で等しくすることにより、一対のMIセンサ114、116の出力Ocoil1、Ocoil2を差動させることにより測定対象となる静磁界成分を含む磁界Bmesを計測しうる。」

「【0054】
また、前述の実施例においては、調整手段としてセンサ位置調整手段45と局所磁界調整手段50とが設けられたが、両方が同時に設けられる必要はなく、いずれか一方のみが設けられた場合であっても一定の効果を生ずる。」

「【0057】
前述の実施例において、一対のMIセンサ14、16の出力の差分を増幅するアンプの増幅率は可変としてもよい。また、一対のMIセンサ14、16の出力の相違をセンサ位置調整手段45、145および局所磁界調整手段50によっても十分に調整できない場合には、いずれか一方のセンサの出力を微調整増幅するためのアンプをさらに設けることもできる。」

「【図1】



「【図2】



「【図3】



「【図4】



「【図8】



上記記載事項及び図示内容を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲1発明]
「一対の磁気センサの出力の差分を算出することにより磁気の静磁界成分を高精度に計測することが可能な磁気計測装置であって、
(段落【0012】)

パルス状の駆動電流PeをMIセンサ114、116に供給するパルスジェネレータ18と、(段落【0049】、【0024】、【図8】)

それぞれがアモルファスワイヤにより構成されるMI素子138、139及び検出コイル140、142を有し、駆動電流PeがMI素子138、139に流されるとその表皮効果により検出コイル140、142に一過性の誘導起電力波形を生ずる一対のMIセンサ114、116と、
(段落【0049】、【0026】、【図8】)

一対のMIセンサ114、116の出力Ocoil1、Ocoil2が入力するACカップル器(バンドパスフィルタ)20と、
(段落【0049】、【0028】、【図1】、【図8】)

ACカップル器(バンドパスフィルタ)20の後段においてオフセット等のバランス調整、差分の算出、所定の増幅率による増幅を行うインスツゥルメンツアンプ22と、(段落【0028】、【図1】)

一対のMIセンサ114、116の位置における局所磁界差及び一対のMIセンサ114、116間の感度差がそれぞれ所定の許容値以下となるように調整するセンサ位置調整手段45及び局所磁界調整手段50とを備え、
(段落【0049】、【0031】、【図3】、【図4】、【図8】)

一対のMIセンサ114、116の両方には地磁気などの環境磁界が加わっている一方、一方のMIセンサにのみ計測対象となる磁界Bmesを加えることにより、一対のMIセンサ114、116が出力する誘導起電力波形は異なるものとなり、その波形の相違に基づいて計測対象の磁界Bmesを計測することができ、(段落【0049】、【0026】、【図8】)

一対のMIセンサ114、116の出力の相違をセンサ位置調整手段45及び局所磁界調整手段50によって十分に調整できないため、いずれか一方のセンサの出力を微調整増幅するためのアンプをさらに設けた、
(段落【0057】)

磁気計測装置。」


(2)周知例1
上記周知例1(毛利佳年雄著「磁気センサ理工学」、2004年11月5日、株式会社コロナ社)には、以下の記載がある。
なお、下線は当審が付したものである。

「磁気記録媒体や磁石が発生する磁界は局所磁界であり,地磁気より小さな場合でも,その空間分布の違いを利用すれば,センサで分離検出することができる。この磁界センサが,一様磁界を相殺して非一様磁界(勾配磁界,局所磁界)のみを検出するセンサであり,勾配磁界センサ,磁界差センサあるいはグラジオセンサ(gradio sensor)などとよばれている。
図4.15に,勾配磁界センサの例として,MIヘッドを2個直列に配したCMOSマルチバイブレータ形勾配磁界センサの回路構成を示す。
2mm長,30μm径アモルファスワイヤMI素子を10mm間隔で直列に配し,それぞれのワイヤ通電パルス電流の大きさおよびコイルによる同方向直流バイアス電流の大きさを,可変抵抗器で調整して地磁気を相殺すると,0.1mOeの勾配磁界(磁界差)まで検出することができる。」
(第102頁の下から第11行?最終行)

「図4.15(a)



(3)周知例2
上記周知例2(特開2003-315376号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付したものである。

「【0020】図3は、本第1実施形態の電流センサ2における電気回路200を示したものであり、前記電流路1とマグネト-インダクティブ磁気検出器20とから成っている。前記被検出電線1としての電流路10は測定する電流を流すためのものであり、この電流により生じる磁場はアモルファスワイヤ30に内部磁場変化を与える。
【0021】前記電気回路200において、パルス発生器210は、アモルファスワイヤ30、検波回路220のアナログスイッチS221および励磁回路250のアナログスイッチS251にそれぞれP1、P2、P3の同期したパルスを出力する。この三つのパルスは、P3が最も先行しており続いてP1、P2の順で発生し、たとえば1MHzの周波数で繰り返すので磁場の測定は1MHzの頻度である。
【0022】パルスP3が発生すると励磁回路250のアナログスイッチs251が、瞬間的に閉となり、前記アモルファスワイヤ30に巻回した前記検出コイル4に電源VDDから抵抗器R251を介して励磁電流が流れ、前記アモルファスワイヤ30が一時的に励磁されるとともに初期化される。
【0023】該励磁電流が終了し所定の時間後にパルスP1が発生しアモルファスワイヤ30にパルス電流P1が印加されると、アモルファスワイヤ30にはパルス電流P1ならびにアモルファスワイヤが置かれている周辺磁場に対応して内部磁場変化が生じる。このとき電磁誘導作用により検出コイル4の端子には、該内部磁場変化に対応する電圧が発生する。
【0024】この電圧を、前記信号変換回路5を構成する検波回路220の前記アナログスイッチが瞬間的に閉になることで、サンプルホールド回路のコンデンサC221がホールドする。オペレーショナルアンプからなる増幅器230は、前記検波回路220の電圧を増幅するとともに、測定するべき電流に対応する電圧信号を出力端子に出力する。」

「【0030】(第2実施形態)本第2実施形態の電流センサは、図6および図7に示されるように上記第1実施形態に対して電流路10の下方に前記検出コイル4を巻回したアモルファスワイヤ30および前記検出コイル4に接続された前記信号変換回路5を追設した点が相違点であり、以下相違点を中心に説明する。
【0031】本第2実施形態の電流センサは、マグネト-インダクティブ磁気検出器20を2個用いて、互いの検出方向が同一で、かつ測定電流による磁場の方向が互いに逆方向となる前記電流路10に対して点対称の所定の位置に配設し、前記二つのマグネト-インダクティブ磁気検出器20のそれぞれの出力信号の差を演算する差動増幅器62とで構成し、混入する地磁気などのノイズ成分の影響を相殺排除して、高精度の電流計測を可能にするものである。」

「【図3】



「【図6】



(4)周知例3
上記周知例3(特開2003-149311号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付したものである。

「【0009】具体的には、本発明に使用する磁気インピーダンス効果素子よりなるセンサーヘッド部20A,20Bは、図2に示す如く、直径30μmのCoFeSiBよりなるアモルファスワイヤ21(DC-2T((株)ユニチカ製))を、長さa=3mmに切断し、これをチューブ22内に通し、次いで、バイアスコイル23A,23Bを30回巻き、これを同一直線上にb数mm離して、対に置く構成とした。また、アモルファスワイヤ21の両端は半田等適宜接続手段により、接続線24を介し図1,図3に示すように回路の所定位置に接続されている。なお、バイアスコイル23A,23Bの間隔bは、接続線24の半田付けを行うことが出来る間隔で設置する。ここで、磁気インピーダンス効果素子は、単ヘッド形を使用することが出来るが、特に双ヘッド形磁気インピーダンス効果素子の2つのセンサーヘッド部の磁気インピーダンス効果素子の差をとることで、回路共通のノイズ、コモンモードノイズ等をカットし、感度の向上を図ることが出来る為、双ヘッド形磁気インピーダンス効果素子を使用することが望ましい。
【0010】次に上記バイアスコイル23A,23Bに流す電流は、1つ1つのセンサの感度が一番高くなるように可変抵抗器R_(f)で調節する(本実施例では7mAと8.8mA)。また、それぞれのセンサーヘッド部20A,20Bの通電パルス電流の大きさを可変抵抗器V_(R)で調節する。ここで、可変抵抗器R_(f)で調節し、センサの感度が一番高くなるよう設定するのは、センサーヘッド部20A,20Bの長さ等の個々差があり、インピーダンスが個々に相違しても有効に素子の出力を得ようとするものである。そして、バイアスコイル23A,23Bに電流を流し、センサーヘッド部20A,20Bに磁界を与えた状態とする。そして、このセンサーヘッド部20A,20Bにアクテイブシールド場所の磁界が加わると、前述に述べた如く、センサーヘッド部20A,20Bのインピーダンスが変化する。この為、センサーヘッド部20A,20Bを通過する電流に対する電圧が変化し、磁界変化が電圧変化に対応することになる。なお上述の例では、アモルファスワイヤを用いたセンサーヘッドの例を述べているが、これに限らず、例えばパーマロイ薄膜、アルモファス薄膜等、他の磁気インピーダンス効果素子を用いても良い。
【0011】(検波回路)次いで、検波回路は、前記センサーヘッド部20A,20Bで得た誘起電圧には、前記発信器から出る高周波を遮断する。測定する磁界が小さいとき磁気インピーダンス効果素子の誘起電圧も小さいため、順方向電圧の小さいショットキーバリアダイオード(SBD)を利用している。ここで、遮断周波数は
f>1/2πR_(2)C_(2) ≒312[Hz]
となる。しかし、増幅器のOP入力部が、仮想設置になっているため、R_(3)を考慮に入れると実際の遮断周波数は16kHzとなる。また、センサーヘッド部と検波回路が、対称形に構成されているので、電源電圧や電源ラインに混入するコモンモードノイズなどを相殺する構成となっている。
【0012】(差動増幅器)差動増幅器は、センサーヘッド部20A,20Bからの誘起電圧の差を得て、これを増幅し、逆方向に磁界を発生させる電源としての意義を有する。なお、増幅度を大きく例えば100倍となるよう設計し、OPの電源には電源ノイズの影響をなくすために電池等を使用することが好ましい。電解コンデンサC_(3)とセラミックコンデンサC_(1)を並列接続することで、発信器の電流電圧の安定化を図っている。」

「【図1】



(5)周知例4(甲第4号証)
上記周知例4(特開平9-80132号公報)には、以下の記載がある。
なお、下線は当審が付したものである。

「【0017】図5は図4の耐圧容器内に収容されている電子回路20の一構成例を示したものである。この図において、11および12は前述したコイル、201および202は、それぞれ、コイル11および12の出力信号が入力される可変利得型増幅器、203は、可変利得型増幅器201および202からの出力信号の差信号を出力する差動増幅器、204はケーブルに流される交流電流の周波数の信号を通過させるバンドパスフィルタである。
【0018】このように構成された電子回路20において、コイル11および12からの信号はそれぞれ利得を調整することができる可変利得増幅器201および202により増幅された後、差動増幅器203に入力され、差動増幅器203からその差の信号が出力される。その出力信号はバンドパスフィルタ204を通されることにより、海底ケーブルに流れる交流電流と同じ周波数の信号が取り出される。なお、初段の可変利得増幅器201あるいは202の利得を個別に制御することにより、コイル11および12の感度に差がある場合に、その感度差を補償することができる。」

「【図5】




3 対比、判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のとおりである。

ア 甲1発明の「磁気計測装置」は、「一対の磁気センサの出力の差分を算出することにより磁気の静磁界成分を高精度に計測」しているから、本件発明1の「差動型磁気センサ」に相当する。

イ 甲1発明の「MIセンサ114、116に供給」される「パルス状の駆動電流Pe」は、本件発明の「駆動電流」に相当するから、甲1発明の「パルス状の駆動電流PeをMIセンサ114、116に供給するパルスジェネレータ18」は、本件発明1の「駆動電流を出力する駆動手段」に相当する。

ウ 甲1発明の「MI素子138、139」は、「それぞれがアモルファスワイヤにより構成される」から、「MI素子138、139」のそれぞれが有する甲1発明の「アモルファスワイヤ」は、本件発明1の「2つの感磁体」に相当する。
また、甲1発明では、「一対のMIセンサ114、116の両方には地磁気などの環境磁界が加わっている一方、一方のMIセンサにのみ計測対象となる磁界Bmesを加えることにより、一対のMIセンサ114、116が出力する誘導起電力波形は異なるものとなり、その波形の相違に基づいて計測対象の磁界Bmesを計測することができ」るとされ、また図1?4,8から見ても、この「一対のMIセンサ114、116」が有する「MI素子138、139」は、互いに離れた2つの地点に配設されることは明らかである。
そうすると、甲1発明の「駆動電流Pe」が流される「MI素子138、139」は、本件発明1の「離れた2つの地点に配設された前記駆動電流が印加される2つの感磁体より成る2つの磁気インピーダンス素子」に相当する。

エ 甲1発明の「一対のMIセンサ114、116」では、「駆動電流PeがMI素子138、139に流されるとその表皮効果により検出コイル140、142に一過性の誘導起電力波形を生」じて、「一対のMIセンサ114、116の出力Ocoil1、Ocoil2」となり、「一対のMIセンサ114、116の両方には地磁気などの環境磁界が加わっている一方、一方のMIセンサにのみ計測対象となる磁界Bmesを加えることにより、一対のMIセンサ114、116が出力する誘導起電力波形は異なるものとな」るから、この「一対のMIセンサ114、116の出力Ocoil1、Ocoil2」は、本件発明1の「感磁体の周辺の磁場強さに対応する」「磁場信号電圧」に相当する。
そうすると、甲1発明の「一対のMIセンサ114、116」は、本件発明1の「感磁体の周辺の磁場強さに対応する」「磁場信号電圧」を「出力する2つの磁気検知手段」に相当する。

オ 甲1発明における「ACカップル器(バンドパスフィルタ)20」の後段で「差分の算出」等を行う「インスツゥルメンツアンプ22」が、本件発明1の「前記2つの磁気検知手段から出力される2つの磁場信号電圧の差を演算することにより、前記2つの地点の磁場の強さの差の信号を出力する差動演算手段」に相当する。

カ 甲1発明では、「一対のMIセンサ114、116間の感度差」が「所定の許容値以下となるように調整するセンサ位置調整手段45及び局所磁界調整手段50」が設けられており、このような「感度差」のある「一対のMIセンサ114、116」は、本件発明1の「検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段」に相当する。
また、甲1発明では、「一対のMIセンサ114、116の出力の相違をセンサ位置調整手段45及び局所磁界調整手段50によって十分に調整できないため、いずれか一方のセンサの出力を微調整増幅するためのアンプ」がさらに設けられているところ、上記「センサ位置調整手段45」、「局所磁界調整手段50」及び「一方のセンサの出力を微調整増幅するためのアンプ」は、全体としてみれば、「一対のMIセンサ114、116」の有する「アモルファスワイヤ」の周辺の磁場強さが同じレベルであれば同じレベルのセンサの出力となるように感度差に応じて出力信号の調整を行う信号調整手段であるといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段のそれぞれが、前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である前記磁場信号電圧を調整する信号調整手段」を備える点で共通する。

キ 甲1発明では、「センサ位置調整手段45及び局所磁界調整手段50」によって「一対のMIセンサ114、116間の感度差」が「所定の許容値以下となるように調整」し、「一対のMIセンサ114、116の出力の相違をセンサ位置調整手段45及び局所磁界調整手段50によって十分に調整できないため、いずれか一方のセンサの出力を微調整増幅するためのアンプ」がさらに設けられているから、上記「センサ位置調整手段45」、「局所磁界調整手段50」及び「一方のセンサの出力を微調整増幅するためのアンプ」は、全体として、「感度差」が「所定の許容値以下」となるように「一対のMIセンサ114、116」の出力を調整しており、このことは、本件発明1における「互いに磁気インピーダンス素子の検出感度が略同じであると見做せるように出力信号を調整する」ことに相当する。
また、甲1発明は、「一対のMIセンサ114、116の両方には地磁気などの環境磁界が加わっている一方、一方のMIセンサにのみ計測対象となる磁界Bmesを加えることにより、一対のMIセンサ114、116が出力する誘導起電力波形は異なるものとなり、その波形の相違に基づいて計測対象の磁界Bmesを計測することができ」るところ、この「一対のMIセンサ114、116の両方」に「加わっている」「地磁気などの環境磁界」は、本件発明1の「2つの地点共通の背景磁場成分」に相当する。
そして、甲1発明では、「一対の磁気センサの出力の差分を算出することにより磁気の静磁界成分を高精度に計測することが可能」となっているところ、「一対の磁気センサの出力の差分を算出することにより」、「地磁気などの環境磁界」が相殺され、より微弱な磁場を検出できることは明らかであるから、このことは、本件発明1における「前記2つの地点共通の背景磁場成分を相殺して、該背景磁場成分に比べて微弱な磁場を検出するように構成されている」ということに相当する。

ク 上記カ及びキの対比内容に関し、特許権者は、令和2年4月4日に提出された意見書において、以下の主張をしている。

上記意見書第18頁下から12行目から第19頁下から2行目まで
「しかしながら、甲第1号証には、「センサ位置調整手段45および局所磁界調整手段50によっても十分に調整できない場合には、いずれか一方のセンサの出力を微調整増幅するためのアンプをさらに設けることもできる」と記載されているのであり、十分に調整できた場合には、アンプをさらに設ける必要が無いのである。
また甲第1号証において、センサ位置調整手段45はMIセンサ14、16に関する段落【0033】には「両者の個体差などによりその出力が相違する場合には、例えば出力が大きくなるMIセンサを、そのセンサが配設されたボード46または47を回動させ環境磁界との角度を異ならせることで環境磁界の影響を弱めることができ、その出力を補正し、結果として一対のMIセンサ14、16の出力を予め定められた所定値以下、例えば同一なものとすることができる。」との記載がある。
MIセンサ14,16のいずれか出力が大きくなるMIセンサを、ボード46,47を回転することにより、MIセンサ14,16の互いの向きを異ならせることで環境磁界のMIセンサへの影響を弱める(磁界の印加量を減ずる)ことによって、一対のMIセンサ14、16の出力を予め定められた所定値以下、例えば同一にするものであって、出力が大きくなるセンサに対する磁界の印加量を減ずることにより、出力が小さい方のセンサの出力と同一にするものであり、すなわち出力が同一になった時にはMIセンサ14、16に対して印加されている磁界の印加量が異なっているのであって、本件第1特許発明のように前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば感度を調整することにより、同じレベルの磁場信号電圧を出力するようにするものではないのであり、すなわち前記出力が大きくなるMIセンサの感度を調整して出力を減ずるものではないから、MIセンサ14、16の相互の検出感度が略同じであると見做せるように調整されるものではないのである。
さらに局所磁界調整手段50に関する段落【0034】「一対のMIセンサ14、16に同一の磁界を印加した場合に両者の出力が相違する場合に、少なくとも一方の出力を補正するために用いられる。例えば磁性体52が図4のx,y,zの各方向に可動とされており、その磁性体による磁界Beqが一対のMIセンサ14,16の前記少なくとも一方に影響を与える結果、一対のMIセンサ14、16に同一の磁界を印加した場合に両者の出力が予め定められた所定値以下、例えば等しくなるように実験的にその位置が決定されればよい。」との記載がある。
したがって甲1発明は、一対のMIセンサ14,16の出力を同一にするために、一方のMIセンサの磁界Beqの印加量を増減するものであって、一方のセンサの周囲の磁場強さを高めるまたは弱めるものであり、上述の本件第1特許発明のように周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するようにセンサ周辺の磁場強さを調整すること無くMIセンサの感度を調整して、出力を調整するものではないのである。」

ケ 特許権者の上記主張について検討する。
(ア)まず、甲第1号証の段落【0057】の記載に関し、十分に調整できた場合にはアンプをさらに設ける必要がないとの主張について、上記記載には「十分に調整できない場合」と明示されているから、そのような場合が存在し得ることを是認しているのであって、「センサの出力を微調整増幅するためのアンプ」を追加的に設けることを排除していないことは明らかである。
したがって、この主張を採用することはできない。

(イ)次に、甲第1号証の段落【0033】の記載に関し、特許権者は、要するに、甲1発明は、出力が大きくなるセンサに対する磁界の印加量を減ずることにより、出力が小さい方のセンサの出力と同一にするものであり、出力が同一になった時にはMIセンサ14、16に対して印加されている磁界の印加量が異なっているから、本件発明1の「前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように」「前記磁場信号電圧を調整する」ことに相当しない旨主張している。
しかしながら、本件発明1は、「前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように」と規定しているのであって、「前記感磁体が感じる周辺の磁場強さ」とは規定していないから、上記記載がセンサに印加されている磁界の印加量(感磁体が感じる周辺の磁場強さ)が同じであることを前提としていると限定して解釈するのは適当ではなく、甲1発明においても、感磁体(「アモルファスワイヤ」)がどのように磁場を感じているかに関わらず、周辺の磁場の強さ(「地磁気などの環境磁界」の大きさ)は同じである。
また、本件発明1は、「前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば感度を調整することにより、同じレベルの磁場信号電圧を出力するように」とは規定されていないし、「前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である前記磁場信号電圧を調整する」と規定されていても、検出感度そのものを調整するとは規定していない。
さらに、「互いに磁気インピーダンス素子の検出感度が略同じであると見做せるように出力信号を調整する」との規定ぶりからも、「検出感度」そのものを調整することに限定されているとはいえず、「出力信号を調整する」ことにより、結果的に「検出感度」の調整をすることなしに「検出感度が略同じであると見做せるように」なれば足りるような場合も本件発明1には含まれると解する余地がある。
そうすると、本件発明1が、センサに印加されている磁界の印加量(感磁体が感じる周辺の磁場強さ)が同じであることや、センサの感度を調整することにより出力を調整することを前提とするものに限られると解するのは適当ではないところ、このような前提を欠く甲1発明が本件発明1と異なる旨の特許権者の上記主張は、結局のところ、本件特許の請求項1の記載から離れたところのものであって、およそ採用することはできない。

(ウ)最後に、甲第1号証の段落【0034】の記載に関し、「甲1発明は、一対のMIセンサ14,16の出力を同一にするために、一方のMIセンサの磁界Beqの印加量を増減するものであって、一方のセンサの周囲の磁場強さを高めるまたは弱めるものであり」、「周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するようにセンサ周辺の磁場強さを調整すること無くMIセンサの感度を調整して出力を調整するものではない」との主張については、本件発明1には、「センサ周辺の磁場強さを調整することなく」とも、「MIセンサの感度を調整して」とも規定されておらず、上記主張は本件特許の請求項1の記載から離れたところのものである。また、甲第1号証の段落【0054】には「前述の実施例においては、調整手段としてセンサ位置調整手段45と局所磁界調整手段50とが設けられたが、両方が同時に設けられる必要はなく、いずれか一方のみが設けられた場合であっても一定の効果を生ずる。」と記載されているから、甲1発明において、「局所磁界調整手段50」を設けないようにすることも可能であり、そのような場合には上記主張が当てはまる余地はない。

(エ)以上(ア)?(ウ)の検討内容を踏まえると、上記クにおける特許権者の主張を採用することはできない。

コ 以上ア?ケの内容をまとめると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点において一致し、以下の相違点1及び2において相違する。

[一致点]
「駆動電流を出力する駆動手段と、離れた2つの地点に配設された前記駆動電流が印加される2つの感磁体より成る2つの磁気インピーダンス素子を備え、前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する磁場信号電圧を出力する2つの磁気検知手段と、
前記2つの磁気検知手段から出力される2つの磁場信号電圧の差を演算することにより、前記2つの地点の磁場の強さの差の信号を出力する差動演算手段とから成る差動型磁気センサにおいて、
検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段のそれぞれが、前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である前記磁場信号電圧を調整する信号調整手段を備え、
互いに磁気インピーダンス素子の検出感度が略同じであると見做せるように出力信号を調整するようにして、前記2つの地点共通の背景磁場成分を相殺して、該背景磁場成分に比べて微弱な磁場を検出するように構成されている、
差動型磁気センサ。」

[相違点1]
本件発明1では、「前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する磁場信号電圧を出力する2つの磁気検知手段」が「前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する交流電圧を信号処理手段によって前記感磁体の周辺の磁場強さに対応するレベルの磁場信号電圧に変換して出力する」ものであり、また、「前記2つの磁気インピーダンス素子および信号処理手段を含む回路を介して前記駆動手段と前記差動演算手段とが接続される」のに対して、甲1発明では、そのような構成を備えていない点。

[相違点2]
「信号調整手段」について、本件発明1では、「前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である前記磁場信号電圧を調整する抵抗値に設定された抵抗または抵抗回路より成る」ものとし、「前記駆動手段および前記2つの磁気インピーダンス素子または前記2つの信号処理手段および前記差動演算手段に接続され」ているのに対して、甲1発明では、そのような構成を備えていない点。

サ 上記相違点1及び2について、以下検討する。

(ア)相違点1について
a 2つの磁気インピーダンス素子の感磁体の周辺の磁場強さに対応する交流電圧を信号処理手段によって前記感磁体の周辺の磁場強さに対応するレベルの磁場信号電圧に変換して出力するようにすることは、例えば、上記周知例1の第103頁の図4.15(a)(2つのショットキーバリアダイオードSBD)や、上記周知例2の段落【0020】?【0034】、【図3】、【図6】(サンプルホールド回路によって構成された2つの信号変換回路5)に記載されているように周知の技術である(以下「周知技術1-1」という)。

b また、2つの磁気インピーダンス素子および信号処理手段を含む回路を介して駆動手段と差動演算手段とが接続されることも、上記周知例1の第103頁の図4.15(a)(2つのアモルファスワイヤMI素子と2つのショットキーバリアダイオードSBDを含む回路を介して励磁パルス電流源と差動アンプとが接続されていることが読み取れる。)に記載されているように周知の技術である(以下「周知技術1-2」という)。」

c そして、上記周知例1及び2に開示された技術は、差動増幅器により、地磁気などによるノイズ(背景磁場成分)を相殺して、高精度に磁場を検出するという点で、甲1発明と共通するものであるから、上記周知技術1-1及び1-2を甲1発明に適用して、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

d この点に関し、特許権者は、令和2年4月4日に提出した意見書において以下の主張している。

上記意見書第22頁下から3行目から第23頁下から2行目まで
「しかしながら周知例1は、2つの磁気インピーダンス素子の感磁体の周辺の磁場強さに対応する交流電圧を感磁体周辺の磁場強さに対応するレベルの磁場信号電圧に変換して出力するものである。
甲第1号証における図1は、MIセンサ14,16の交流信号出力がACカップル器20を介して差動演算手段であるインスツゥルメンツアンプ22に入力されて差動演算結果の信号が、ACカップル器30を介してロックインアンプ32で信号処理されて磁場信号に変換され、その出力信号が出力端子Outから出力されるものである。
ここで周知技術1を甲1発明に適用することを考えると、甲1のMIセンサ14,16のそれぞれに磁場信号に変換するための周知技術1(周知例1)の2つのショットキーバリアダイオードSBDのアノード側電極をそれぞれ接続し、変換された磁場信号を前記2つのショットキーバリアダイオードSBDのカソード側電極をACカップル器20の入力端子にそれぞれ接続して出力することになる。
ACカップル器20は、たとえば10KHzから1000MHz程度のカップリング帯域の信号を通過させるので、前記変換された磁界信号から直流を含む10KHz以下の磁場信号成分が減衰されてインスツゥルメンツアンプに入力されることになる。
さらに、前記インスツゥルメンツアンプの出力端子にはクロック周波数に適合した所定のバンドパスフィルタであるACカップル器30が接続されているので、前記インスツゥルメンツアンプの磁場信号出力はさらに直流信号成分を含めて前記バンドパスの所定の帯域外の信号成分が減衰させられてロックインアンプに接続されることになる。したがって甲1発明の磁気計測装置の出力端子であるロックインアンプの出力端子からは静磁界信号が出力されることがない。
さらに、甲1発明の磁気計測装置は目的であるBmesの静磁界成分を計測することも出来ないのである。
すなわち、周知技術1を甲1発明に適用すると静磁界を計測することが出来ないのであるから、当業者にとって発明的努力無く容易に本願発明に到達することが出来ないのである。」

e しかしながら、甲1発明において、「一対の磁気センサの出力の差分を算出することにより磁気の静磁界成分を高精度に計測する」にあたり、当該「差分を算出する」ための「インスツゥルメンツルアンプ22」の前段及び後段にある「ACカップル器20」及び「ACカップル器30」の通過帯域は、検出したい磁界成分の周波数特性に応じて規定されるべきものであって、これらのACカップル器のカットオフ周波数に係る回路パラメータ(コンデンサー容量や抵抗値等)を適宜設定することにより、静磁界を検出することも可能であるといえる。
(甲第1号証の段落【0028】には、「MIセンサ14、16のOcoil1およびOcoil2はそれぞれACカップル器(バンドパスフィルタ)20に入力され、例えば10kHzから100MHz程度のカップリングが行われる。」と記載されており、上記通過帯域は例示にすぎないことも参照。)
したがって、特許権者の上記主張は格別のものではなく採用することはできない。

(イ)相違点2について
a 上記周知例1の第102頁の下から第6行?最終行には、「図4.15に,勾配磁界センサの例として,MIヘッドを2個直列に配したCMOSマルチバイブレータ形勾配磁界センサの回路構成を示す。2mm長,30μm径アモルファスワイヤMI素子を10mm間隔で直列に配し,それぞれのワイヤ通電パルス電流の大きさおよびコイルによる同方向直流バイアス電流の大きさを,可変抵抗器で調整して地磁気を相殺すると,0.1mOeの勾配磁界(磁界差)まで検出することができる。」と記載されている(下線は当審が付与した)。

b また、上記周知例3の段落【0010】には、「次に上記バイアスコイル23A,23Bに流す電流は、1つ1つのセンサの感度が一番高くなるように可変抵抗器R_(f)で調節する(本実施例では7mAと8.8mA)。また、それぞれのセンサーヘッド部20A,20Bの通電パルス電流の大きさを可変抵抗器V_(R)で調節する。ここで、可変抵抗器R_(f)で調節し、センサの感度が一番高くなるよう設定するのは、センサーヘッド部20A,20Bの長さ等の個々差があり、インピーダンスが個々に相違しても有効に素子の出力を得ようとするものである。そして、バイアスコイル23A,23Bに電流を流し、センサーヘッド部20A,20Bに磁界を与えた状態とする。そして、このセンサーヘッド部20A,20Bにアクテイブシールド場所の磁界が加わると、前述に述べた如く、センサーヘッド部20A,20Bのインピーダンスが変化する。この為、センサーヘッド部20A,20Bを通過する電流に対する電圧が変化し、磁界変化が電圧変化に対応することになる。」と記載されている(下線は当審が付与した)。

c このように、2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である磁場信号電圧を調整する信号調整手段が、所定の抵抗値に設定された抵抗または抵抗回路より成るものとし、駆動手段および2つの磁気インピーダンス素子に接続されていることは、周知の技術である(以下「周知技術2」という。)。

d そして、上記周知例1及び3に開示された技術は、差動増幅器により、地磁気などによるノイズ(背景磁場成分)を相殺して、高精度に磁場を検出するという点で、甲1発明と共通するものであり、高精度に磁場を検出するためには、出力信号である磁場信号電圧をより精密に調整することが望まれるから、甲1発明における、「センサ位置調整手段45」、「局所磁界調整手段50」及び「一方のセンサの出力を微調整増幅するためのアンプ」という、全体として信号調整手段をなす構成に加えて、さらに上記周知技術2に開示された「抵抗または抵抗回路より成る信号調整手段」を甲1発明に加えることにより、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

e この点に関し、特許権者は、令和2年4月4日に提出された意見書において、以下の主張をしている。

上記意見書第24頁下から12行目から同頁最終行目まで
「しかしながら、甲1発明は、上述した様に本件第1特許発明の信号調整手段には成り得ないセンサ位置調整手段45、局所磁界調整手段50によって十分調整できない場合には、一方のセンサの出力を微調整増幅するためのアンプを用いて微調整したものであり、もはや周知技術2に開示された抵抗または抵抗回路よりなる信号調整手段を甲1発明にさらに加える必要性が存在しないのであるから、当業者であれば審判官殿が認定されているように抵抗または抵抗回路よりなる信号調整手段をさらに加えることはしないのであるが、それにもかかわらず、さらに周知技術に開示された抵抗または抵抗回路によりなる信号調整手段を追加したとすると、前記微調整アンプによって微調整された調整状態が崩れてしまうという弊害が生ずるので、「抵抗または抵抗回路より成る信号調整手段」を甲1発明に適用したとしても、当業者が発明的努力無く容易に本件第1特許発明には到達し得るものではないのである。」

f しかしながら、上記dにおいて述べたとおり、高精度に磁場を検出するためには、出力信号である磁場信号電圧をより精密に調整することが望まれるから、甲1発明において、機械的、磁気的及び補助的手段からなる信号調整手段に加えて、さらに「抵抗または抵抗回路」という周知の電気的調整手段を追加的に設ける必要性が存在しないとまではいえない。
そして、上記周知技術2は、抵抗または抵抗回路より成る信号調整手段を、2つの磁気インピーダンス素子よりも上流側に設けるものであるから、かかる周知技術2を甲1発明に適用した場合に、2つの磁気インピーダンス素子よりも下流側にある「いずれか一方のセンサの出力を微調整増幅するためのアンプ」は、抵抗または抵抗回路より成る信号調整手段、センサ位置調整手段45及び局所磁界調整手段50によって調整できない分だけ微調整を行えばよいから、特許権者が主張するような「微調整された調整状態が崩れてしまうという弊害が生ずる」ことはないのである。
したがって、特許権者の上記主張を採用することはできない。
なお、上記周知例3の【図1】に示されているように、差動増幅器4には可変抵抗が含まれており、増幅器の可変抵抗の抵抗値を変更することにより、増幅率を変更して調整することは広く知られている事項であるから、甲1発明の「一対のMIセンサ114、116の出力の相違をセンサ位置調整手段45及び局所磁界調整手段50によって十分に調整できないため、いずれか一方のセンサの出力を微調整増幅するためのアンプ」においても、抵抗または抵抗器が含まれていることは当業者にとって自明である。このような観点からみても、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであることに変わりがない。

シ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件発明1の奏する作用効果は、甲1発明及び周知技術1-1、1-2、2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

ス したがって、本件発明1は、甲1発明及び周知技術1-1、1-2、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


(2)本件発明2について

ア 2つの磁気インピーダンス素子を構成する感磁体の検出感度の差異に対応して、駆動回路から供給される駆動電流を調整する信号調整手段を、駆動回路と2つの磁気インピーダンス素子との間の回路に設けることは、上記(1)サ(イ)a及びbにおいて引用した上記周知例1及び3に開示されており、周知の技術である(以下「周知技術3」という。)。

イ また、磁気インピーダンス素子の感磁体に卷回された磁気検知手段を構成する検出コイルが、信号処理手段に接続されていることは、上記周知例2の段落【0020】?【0034】、【図3】、【図6】(検出コイル4がサンプルホールド回路5に接続されている)に記載されているように周知の技術である(以下「周知技術4」という。)。

ウ したがって、本件発明2は、甲1発明及び周知技術1-1、1-2、2?4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


(3)本件発明3について

ア 2つのセンサを備えた差動型の計測装置において、2つのセンサの感度差を補償するために、それぞれのセンサの信号を増幅する増幅器の利得を調整することは、上記周知例4(特に、段落【0018】、【図5】を参照。)に記載されるように、周知の技術である(以下「周知技術5」という。)。

イ そして、同じく2つのセンサを備えた差動型の計測装置である甲1発明では、「一対のMIセンサ114、116の出力の相違をセンサ位置調整手段45及び局所磁界調整手段50によって十分に調整できないため、いずれか一方のセンサの出力を微調整増幅するためのアンプをさらに設け」ているところ、このような「一対のMIセンサ114、116の出力の相違」を無くすために、上記周知技術5を考慮し、当該「アンプ」を「いずれか一方のセンサ」に設けるのではなく、それぞれのセンサに設けるようにして、利得を調整できるようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

ウ その際、当該「アンプ」には抵抗または抵抗回路が含まれているのが通常であって、当該「アンプ」を磁気検知手段の信号処理手段と差動演算手段との間の回路に設けることは、当業者が適宜なし得た設計事項にすぎない。

エ また、磁気インピーダンス素子の感磁体に卷回された磁気検知手段を構成する検出コイルが、信号処理手段に接続されていることは、周知の技術である(上記(2)のイの周知技術4を参照)。

オ したがって、本件発明3は、甲1発明及び周知技術1-1、1-2、2、4、5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 小括
上記1?3より、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


第5 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1?3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
差動型磁気センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、離れた2つの地点に配設された2つの磁気インピーダンスセンサにより、2つの地点共通の背景磁場成分を消去して、一方の磁気インピーダンスセンサによって、局所的な微弱磁場の検出を可能にする磁気センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、物理化学研究の分野で鉄粉等のような非常に微弱な磁気を計測するニーズが多くなっており、異なる2つの地点の磁場の差を高感度で計測することで局所的な微弱磁場を計測できる高感度な差動型磁気センサのニーズが多くなってきている。
【0003】
ここで差動型磁気センサとは、2つの磁気インピーダンスセンサより成る磁気検知手段を用い、一方の磁気センサを鉄粉等の測定対象物に近づけ、もう一方の磁気センサを鉄粉等の測定対象物から離れた位置に配置して、それぞれの地点の磁気センサの磁場信号の差を演算することにより、2つの地点共通の背景磁場成分すなわち背景ノイズ成分(地磁気等)を消去し、鉄粉等の測定対象物のみから発生している磁場等、局所的な微弱磁場を抽出可能とするものである。
【0004】
ここで磁気インピーダンスセンサは、感磁体としてアモルファスワイヤあるいは薄膜体を用いて磁気インピーダンス素子を構成することができるが、ここではアモルファスワイヤを用いた例を中心に説明する。すなわち、磁気インピーダンスセンサは、特許文献1に示されるようにアモルファスワイヤ等の感磁体にパルス電流あるいは高周波電流を通電することにより、アモルファスワイヤに磁気インピーダンス効果を発現させ、これにより生じる外部磁場(アモルファスワイヤが置かれている周囲の磁場)に対応する交流電圧を、前記アモルファスワイヤの両端またはアモルファスワイヤに巻回した検出コイルの両端から取り出し、サンプルホールド回路その他の信号処理回路によって、磁気あるいは磁場信号電圧として出力するものである。
【0005】
前記従来の差動型磁気センサは、図1に示されるように、距離L[m]離れた二つの地点の磁場H1、H2の環境におかれた検出感度が互いに等しい2つの磁気検知手段S1、S2と、この磁気検知手段から得られる磁場信号の差を求める差動演算手段DAとによって、2つの磁気検知手段から得られる磁場信号の差H1-H2を出力するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2005/019851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、たとえば直径0.1mmの鉄粉の磁場が1nTほどと極めて小さい磁場であるのに対して、ノイズとなる背景の磁場は、例えば、地磁気を例にとると数万nTとなり、測定目的の磁場に比べ非常に大きいものとなることもある。一方、これよりも低い磁場レベルである工場、作業場、実験室などのモータ、照明器具等から発せられる背景磁気ノイズでも、数百nT以上のこともあり、たとえば2つの磁気検知手段の感度差が1%であるとすると、差動演算の結果、すなわち前記H1-H2に相当する残留磁場成分が数nT相当の背景磁場として残ってしまい、前記鉄粉による磁場成分の1nTと区別ができないという不都合が生じる。そして、これにより大きい背景磁場の場合には、さらに感度差の影響が大きくなる。従って、このような局所的に存在する微弱磁場を精度よく抽出するためには、2つの磁気検知手段の検出感度の差が極力小さくなるようにし、理想的にはほぼ一致させる必要があり、2つの磁気信号が差動演算手段に入力されるまでに精確に検出感度を合わせておく必要がある。
【0008】
このため従来においては、2つの磁気検知手段の特性が互いに一致するようにインライン検査をしながら製作するか、あるいは複数製作した中から特性の一致するものを選択して用いるという手法がとられてきたが、このような手法は工数および時間が増加することから、製作費用が高額になるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決し、高感度差動型磁気センサを安価に製作可能とするために、磁気インピーダンスセンサに信号調整手段を付加することによって、前記磁気インピーダンス素子の感度特性にばらつきによる差があっても検出された磁場信号電圧が差動演算手段に入力されるまでの間において調整され、2つの磁気検知手段の検出感度を極力等しいと見做せるように調整するという本発明の第1の技術的思想に着眼したものである。
【0010】
本発明者らは、さらに検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンスセンサの検出感度の差異に対応して、信号調整手段により駆動手段から供給される駆動電流を調整するという本発明の第2の技術的思想に着眼するとともに、信号調整手段により2つの磁気インピーダンス素子に接続される信号処理手段の利得を調整するという本発明の第3の技術的思想に着眼した。
すなわち、前記した通り、差動型磁気センサで鉄粉等の局所的な微小磁場を測定しようとすると、2つの磁気インピーダンス素子の検出感度をほぼ一致させる必要があるが、実際には、製造上のばらつき等により、同じ検出感度の磁気インピーダンス素子を提供しようとしても、結果的に検出感度に差が生じてしまう場合がある。本発明では、このような場合でも信号調整手段を設けて、前記検出感度の差に応じて駆動電流または信号処理手段の利得が調整されることにより、局所的な微小磁場を精度良く測定可能とすることができる。
【0011】
以上の検討の結果得られた本発明(請求項1に記載の第1発明)の差動型磁気センサは、
駆動電流を出力する駆動手段と、離れた2つの地点に配設された前記駆動電流が印加される2つの感磁体より成る2つの磁気インピーダンス素子を備え、前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する交流電圧を信号処理手段によって前記感磁体の周辺の磁場強さに対応するレベルの磁場信号電圧に変換して出力する2つの磁気検知手段と、
前記2つの磁気検知手段から出力される2つの磁場信号電圧の差を演算することにより、前記2つの地点の磁場の強さの差の信号を出力する差動演算手段とから成る差動型磁気センサにおいて、
前記2つの磁気インピーダンス素子および信号処理手段を含む回路を介して前記駆動手段と前記差動演算手段とが接続されるとともに、前記駆動手段および前記2つの磁気インピーダンス素子または前記2つの信号処理手段および前記差動演算手段に接続され、検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段のそれぞれが、前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である前記磁場信号電圧を調整する抵抗値に設定された抵抗または抵抗回路より成る信号調整手段を備え、
互いに磁気インピーダンス素子の検出感度が略同じであると見做せるように出力信号を調整するようにして、前記2つの地点共通の背景磁場成分を相殺して、該背景磁場成分に比べて微弱な磁場を検出するように構成されている
ものである。
【0012】
本発明(請求項2に記載の第2発明)の差動型磁気センサは、
前記第1発明において、
前記信号調整手段として、前記駆動手段と前記2つの磁気インピーダンス素子との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記駆動手段から供給される前記駆動電流が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されている
ものである。
【0013】
本発明(請求項3に記載の第3発明)の差動型磁気センサは、
前記第1発明において、
前記信号調整手段として、前記磁気検知手段の前記信号処理手段と前記差動演算手段との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記2つの磁気インピーダンス素子に接続される前記磁気検知手段を構成する信号処理手段の利得が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されている
ものである。
【発明の効果】
【0014】
上記構成より成る第1発明の差動型磁気センサは、駆動電流を出力する駆動手段と、離れた2つの地点に配設された前記駆動電流が印加される2つの感磁体より成る2つの磁気インピーダンス素子を備え、前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する交流電圧を信号処理手段によって前記感磁体の周辺の磁場強さに対応するレベルの磁場信号電圧に変換して出力する2つの磁気検知手段と、前記2つの磁気検知手段から出力される2つの磁場信号電圧の差を演算することにより、前記2つの地点の磁場の強さの差の信号を出力する差動演算手段とから成る差動型磁気センサにおいて、前記2つの磁気インピーダンス素子および信号処理手段を含む回路を介して前記駆動手段と前記差動演算手段とが接続されるとともに、前記駆動手段および前記2つの磁気インピーダンス素子または前記2つの信号処理手段および前記差動演算手段に接続され、検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段のそれぞれが、前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である前記磁場信号電圧を調整する抵抗値に設定された抵抗または抵抗回路より成る信号調整手段が、互いに磁気インピーダンス素子の検出感度が略同じであると見做せるように出力信号を調整するようにして、前記2つの地点共通の背景磁場成分を相殺して、該背景磁場成分に比べて微弱な磁場の検出を可能にするという効果を奏する。
【0015】
上記構成より成る第2発明の差動型磁気センサは、前記第1発明における前記信号調整手段として、前記駆動手段と前記2つの磁気インピーダンス素子との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記駆動手段から供給される前記駆動電流が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されていることにより、前記2つの磁気インピーダンス素子が検出感度が異なっていても前記アモルファスワイヤの周辺の磁場強さに対応する磁場信号電圧を出力する際に、互いに検出感度が略同じとなるような磁場信号電圧に調整されて出力されるため、前記2つの地点共通の背景磁場成分を消去して、局所的な微弱磁場の精確な検出を可能にするという効果を奏する。
【0016】
上記構成より成る第3発明の差動型磁気センサは、前記信号調整手段が、前記磁気検知手段の前記信号処理手段と前記差動演算手段との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記2つの磁気インピーダンス素子に接続される前記それぞれの信号処理手段の利得が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されているので、検出感度が異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を用いても、前記差動演算手段へ入力するまでの間に互いに略同一の感度となるように前記信号処理手段の利得を調整することができるので、前記2つの地点共通の背景磁場成分を消去して、局所的な微弱磁場の精確な検出を可能にするという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】
従来の差動型磁気センサにおける基本構成を説明するためのブロック回路図である。
【図2】
本発明の第1実施形態の差動型磁気センサの要部を説明するためのブロック回路図である。
【図3】
本発明の第2実施形態の差動型磁気センサの要部を示す回路図である。
【図4】
本発明の第3実施形態の差動型磁気センサの要部を示す回路図である。
【図5】
本発明の第1実施例の差動型磁気センサの詳細を示す詳細回路図である。
【図6】
本発明の第2実施例の差動型磁気センサの詳細を示す詳細回路図である。
【図7】
本発明の第3実施例の差動型磁気センサの詳細を示す詳細回路図である。
【図8】
本発明の第4実施例の差動型磁気センサの要部を示す部分詳細回路図である。
【図9】
本発明の第5実施例の差動型磁気センサの要部を示す部分詳細回路図である。
【図10】
本第5実施例の差動型磁気センサによる計測例および信号調整手段を適用しない比較例における計測例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の最良の実施の形態について、実施形態および実施例に基づき、図面を用いて説明する。
【実施形態1】
【0019】
本第1実施形態の差動型磁気センサは、図2に示される様に2つの感磁体としてのアモルファスワイヤを備える磁気インピーダンス素子を含む2つの磁気検知手段S1およびS2と差動演算手段DAからなり、異なる2つの地点の磁場の差の信号を出力する差動型磁気センサにおいて、前記磁気検知手段S1およびS2と差動演算手段DAとの間に前記2つの磁気インピーダンス素子の前記アモルファスワイヤの検出感度の差に応じて周辺の磁場強さが同じであれば同じ大きさの磁場信号電圧が出力されるように出力信号を調整する信号調整手段STを設けるものである。
【0020】
上記構成より成る第1実施形態の差動型磁気センサは、前記信号調整手段STが前記2つの磁気インピーダンス素子の検出感度に応じて信号を調整するので、前記2つの磁気インピーダンス素子の間に仮に検出感度に差異があったとしても2つの磁気インピーダンス素子の周辺の磁場強さが同じであれば、同じ大きさの磁場信号電圧が出力されると見做せるように、信号電圧が調整される。従って、前記差動演算手段DAにより前記2つの地点共通の背景磁場成分を相殺して、局所的な微弱磁場の検出を可能にするという効果を奏する。
【実施形態2】
【0021】
本第2実施形態の差動型磁気センサは、前記第1実施形態において、図3に示されるように前記2つの磁気インピーダンスセンサS1およびS2が、前記アモルファスワイヤより成る磁気インピーダンス素子E1およびE2とパルス電流を出力する駆動回路DCを含み、前記それぞれの磁気インピーダンス素子E1およびE2の検出感度とそれぞれの磁気インピーダンス素子に印加される駆動電流との積が互いに略等しくなるように前記磁気インピーダンス素子E1およびE2と前記駆動回路DCとの間に前記信号調整手段STとして抵抗回路r1およびr2を挿入するものである。
【0022】
上記構成より成る第2実施形態の差動型磁気センサは、前記駆動回路DCに挿入された前記抵抗回路r1およびr2の抵抗値が、前記2つの磁気インピーダンス素子E1およびE2の検出感度の比率に応じた駆動電流が印加されるように設定されているので、前記2つの磁気インピーダンス素子E1およびE2の周辺の磁場強さに対応する交流電圧を検出コイルKC1およびKC2を介して出力するとともに前記駆動回路DCのもう一つのパルス出力によって動作するアナログスイッチAS11、AS21とコンデンサCh11、Ch21からなるサンプルホールド回路SH1、SH2により磁場信号に変換し、前記差動演算手段DAにより前記2つの地点共通の背景磁場成分を相殺して、微小鉄粉等に基づく局所的な微弱磁場の精確な検出を可能にするという効果を奏する。
【実施形態3】
【0023】
本第3実施形態の差動型磁気センサは、図4に示されるように前記2つの磁気インピーダンスセンサS1およびS2は、増幅回路A1およびA2を含むサンプルホールド回路SH1およびSH2を含み、前記それぞれの感磁体より成る磁気インピーダンス素子E1およびE2の検出感度とそれぞれの磁気インピーダンス素子に接続される信号処理手段としてのサンプルホールド回路SH1およびSH2の利得との積が互いに略等しくなるように、前記信号調整手段STとして抵抗回路(図示せず)を挿入して前記サンプルホールド回路SH1およびSH2の前記増幅回路A1およびA2の増幅度が設定されているものである。
【0024】
上記構成より成る第3実施形態の差動型磁気センサは、前記サンプルホールド回路SH1およびSH2の前記増幅回路A1およびA2の増幅度が、前記2つの磁気インピーダンス素子E1およびE2の検出感度の比率に応じて設定されているので、前記2つの磁気インピーダンス素子E1およびE2の周辺の磁場強さが同一であれば対応する磁場信号電圧に基づく増幅出力が同じ値と見做せるように調整され、前記差動演算手段DAに出力されることにより、前記差動演算手段DAの演算により前記2つの地点共通の背景磁場成分を相殺して、局所的な微小鉄粉等に基づく微弱磁場の精確な検出を可能にするという効果を奏する。
【実施例1】
【0025】
第1実施例の差動型磁気センサは、2つのアモルファスワイヤに通電する駆動電流を検出感度に応じて調整することにより、感度を一致させるもので、ある2点の外部磁場強さH1およびH2の差すなわち磁場の差(H1-H2)を計測する差動型磁気センサ、すなわち高感度磁気傾度計を構築するもので、本第1発明および第2発明に基づく実施例である。
【0026】
第1実施例の差動型磁気センサは、図5に示されるように検出コイル12および22が卷回された感磁体としての第1および第2のアモルファスワイヤ11および21と、2つのパルスP1およびP2を出力するパルス発振回路10と、2つの磁気インピーダンス素子E10およびE20を構成する前記第1および第2のアモルファスワイヤ11および21を駆動する駆動電流を出力する駆動回路2と、前記第1および第2のアモルファスワイヤ11および21の検出感度に応じた駆動電流に調整する信号調整回路3と、前記第1および第2の検出コイル21および22が出力する外部磁場信号をホールドする第1および第2のサンプルホールド回路41および42より成る信号処理手段4と、外部磁場の差(H1-H2)を演算する差動演算手段5とから成る。
【0027】
前記感磁体を構成する前記アモルファスワイヤ11、21からなる2つの磁気インピーダンス素子E10、E20は、図5に示されるように距離Lだけ離して配置される。このLは、通常は0.01から10m程度のニーズが多いが、これ以外のニーズもある。
【0028】
前記アモルファスワイヤ11は、外径10μm、長さ6mmのFeCoSiB系合金より成り、外部磁場H1が作用するある地点に配設され、一端は後述する直列に2個接続された抵抗r11、r21の一方の抵抗r11の一端に接続され、他端は、接地、周囲に検出コイル12が巻回されている。
【0029】
前記アモルファスワイヤ21は、外径10μm、長さ6mmのFeCoSiB系合金より成り、前記ある地点からLメートル(m)離れた外部磁場H2が作用する点に配設され、一端は後述する直列に2個接続された抵抗r11,r21の他方の抵抗r21の一端に接続され、他端は接地され、周囲に検出コイル22が卷回されている。
【0030】
パルス発振回路10(詳細図は省略)は、直列に接続された2個のロジック素子と抵抗およびコンデンサから成り、一定のパルス幅のパルス出力P1を出力する第1の出力端10Aと、該パルス出力P1のパルス幅より狭いパルスP2を同期させて出力する第2の出力端10Bを備えている。
【0031】
駆動回路2は、所定の直流電流を出力する電圧源Eと、該電圧源Eのプラス端に一端が接続され、前記パルス発振回路11からのパルスP1が制御端に出力されている時に前記電圧源Eから出力される直流電流を供給するように制御する電子スイッチDSとから成る。
【0032】
前記信号調整回路3は、直列に接続された第1および第2の抵抗r11およびr21とから成り、該第1の抵抗r11と第2の抵抗r21との接続点rcが前記駆動回路2の前記電子スイッチDSの他端に接続され、前記電子スイッチDSの前記制御端に前記パルス出力P1が印加されている間は、前記接続点に電圧源Eからの直流電流が通電されるように構成されている。
【0033】
前記第1の検出コイル12は、一端121が所定の直流電位の直流電源(図示せず)に接続され、他端122がサンプルホールド回路41のアナログスイッチAS11に接続され、両端の間に前記アモルファスワイヤ11が置かれている周囲の外部磁場H1に対応する交流電圧が発生し、出力するように構成されている。
【0034】
前記第2の検出コイル22は、一端221が所定の直流電位の直流電源(図示せず)に接続され、他端222がサンプルホールド回路のアナログスイッチAS21に接続され、前記両端221,222の間に前記アモルファスワイヤ21に前記信号調整回路3の前記第2の抵抗r21を介して駆動電流が印加されている時に、前記アモルファスワイヤ21が置かれている周囲の外部磁場H2に対応する交流電圧が発生し、出力するように構成されている。
【0035】
前記信号処理手段4は、図5に示されるように前記第1の検出コイルに接続された第1のサンプルホールド回路41と前記第2の検出コイルに接続された第2のサンプルホールド回路42とから成る。
【0036】
前記第1のサンプルホールド回路41は、前記第1の検出コイル12の前記他端122に一端が接続されるとともに、制御端が前記パルス発振回路10の第2の出力端10Bに接続された第1のアナログスイッチAS11と、該第1のアナログスイッチAS11の他端に一端が接続されるとともに、他端が前記直流電源(図示せず)に接続されたホールドコンデンサCh11とから成り、前記アナログスイッチAS11の他端に接続され、ホールドされた磁場H1に対応する電圧を増幅して出力する第1の緩衝増幅器A11を備えている。
【0037】
前記第2のサンプルホールド回路42は、前記第2の検出コイル22の前記他端222に一端が接続されるとともに、制御端が前記パルス発振回路10の前記第2の出力端10Bに接続された第2のアナログスイッチAS21と、該第2のアナログスイッチAS21の他端に一端が接続されるとともに、他端が前記直流電源(図示せず)に接続されたホールドコンデンサCh21とから成り、前記アナログスイッチAS21の他端に接続され、ホールドされた磁場H2に対応する電圧を増幅して出力する第2の緩衝増幅器A21を備えている。
【0038】
前記差動演算手段5は、前記第1の緩衝増幅器A11の出力端P11にプラス入力端が接続されるとともに、前記第2の緩衝増幅器A21の出力端P21にマイナス入力端が接続され、前記第1および第2の緩衝増幅回路A11およびA21からの出力電圧の差の電圧を出力する差動増幅器A31によって構成されている。
【0039】
上記構成より成る第1実施例の差動型磁気センサにおける2つの磁気インピーダンスセンサの検出感度の調整について説明する。
前記アモルファスワイヤ11、21と前記検出コイル12、22からなる磁気インピーダンス素子E10、E20は、それぞれ製造過程においてばらつきが発生するので、磁気インピーダンス素子として組上げたときには、互いに検出感度における差を持つおそれがある。
【0040】
たとえば前記パルスP1に基づき、前記アモルファスワイヤ11、21に所定の同じパルス電流を流したときの磁気インピーダンス素子としての検出感度をk1、k2とすると、両者の素子の感度に差異がある場合には通常以下の数1に示されるように検出感度k1とk2は同じ値にならなくなる。
【0041】
(数1)
k1≠k2
【0042】
したがって上記2つの磁気インピーダンス素子を同一の基準となる磁場環境H0においたときの前記緩衝増幅器A11、A21の利得を1とすると出力端子P11、P21のそれぞれの出力H0×k1およびH0×k2は、以下の数2に示されるように同じ出力にはならない。製造上のばらつきによる検出感度の差異は微差のことが多く、大きな差異となることは少ないかもしれないが、前記した用途のように、例えば数nTレベルの非常に微小な鉄粉の磁場を測定しようとする場合には、このような検出感度の違いは、致命的な精度低下の原因となる。
【0043】
(数2)
H0×k1≠H0×k2
【0044】
すなわち前記出力端子P11、P21は、前記差動演算手段5としての差動増幅器A31の入力端子を兼ねているので、該差動演算手段5の入力端子における2つの磁気検知手段の出力が異なるということであり、精確な磁場検出を可能にする差動型磁気センサとはならないため、検出感度の調整が必要になる。
【0045】
前記2つの磁気インピーダンス素子の検出感度k1、k2は、前記パルスP1にもとづいて前記駆動回路2による前記アモルファスワイヤ11、21に流される電流の大きさに略比例するので、前記2つのアモルファスワイヤ11、21に流す電流を調整することにより、磁気インピーダンス素子としての検出感度の調整をすることができることになる。
【0046】
すなわち前記2つの磁気検知手段の検出感度を同一にするには、検出感度の低い側の磁気インピーダンス素子のアモルファスワイヤに対してより大きなパルス電流を流すようにするか、または検出感度の高い側のアモルファスワイヤに対するパルス電流を減らすことで達成できるのである。
【0047】
すなわち各アモルファスワイヤ11、12に流すパルス電流を、以下の数3に示される関係が成立するパルス電流i11、i21とすることにより、2つの磁気インピーダンス素子の検出感度を実質的に同一にすることができるのである。
【0048】
(数3)
H0×k1×i11=H0×k2×i21
【0049】
上記の式を整理すると、以下の数4に示されるようになる。すなわちこれが、2つの磁気インピーダンス素子の検出感度とそれぞれの磁気インピーダンス素子の駆動電流との積を互いに略等しくすることによって、検出感度を実質的に同一にする技術的原理である。
【0050】
(数4)
k1×i11=k2×i21
【0051】
前記2つのアモルファスワイヤ11、12に流れるパルス電流i11、i21は、2つのアモルファスワイヤの抵抗値をw11、w21および駆動回路2の電源Eの電圧をEdとすると、以下の数5および数6のようになる。なお、以下抵抗器の説明として記載するr21、r22等は、抵抗器の記号と抵抗値の両方を兼ねる意味で記載する。
【0052】
(数5)
i11=Ed/(r11+w11)
【0053】
(数6)
i21=Ed/(r21+w21)
【0054】
上記数5および数6を、上述の数4に適用すると、以下の数7が得られる。
【0055】
(数7)
r21=k2/k1(r11+w11)-w21
【0056】
すなわち、一方の磁気インピーダンス素子に所望の検出感度を与えるための駆動電流を印加することが出来る抵抗値の抵抗器r11を決定し、もう一方の磁気インピーダンス素子にこれと同じ感度を得るための抵抗器r21の抵抗値を上記数7により決定して、前記信号調整手段3として前記駆動回路2に前記抵抗器r11、r21より成る抵抗回路を挿入して駆動電流を調整すればよいのである。これにより2つの磁気検知手段のトータルの検出感度を実質的に同一と見做せるように調整することができるのである。
【0057】
上記構成より成り、上述の調整が成された第1実施例の差動型磁気センサは、2つの磁気検知手段としての前記2つの磁気インピーダンスセンサと1つの差動演算手段とからなり、各磁気インピーダンスセンサはそれぞれのアモルファスワイヤ11、21をパルス駆動するための共通のパルス発振回路10とアモルファスワイヤ駆動回路2を備えている。
【0058】
すなわち前記パルス発振回路10は、互いに同期関係にある所定周期のパルスP1とP2を2つの出力端10Aおよび10Bより出力する。
前記駆動回路2において、電子スイッチDSはその制御端子が、前記パルス発振回路10の前記パルスP1を出力する出力端10Aに接続され、接点が開閉制御される。該電子スイッチDSの一方の接点電極は、前記電圧源Eに接続され、もう一方の接点電極は前記アモルファスワイヤ11、21に直列接続された抵抗器r11、r21にそれぞれ接続されていることから、これにより前記パルスP1のオンオフに対応して前記アモルファスワイヤ11、21に対して、それぞれパルス電流i11、i21が通電される。
【0059】
このパルス電流により前記アモルファスワイヤ11、21は、磁気インピーダンス効果を発現し、前記検出コイル12、22の各端子間にそれぞれのアモルファスワイヤ11、21が置かれている周囲の外部磁場H1、H2に対応する交流電圧が発生する。
【0060】
この交流電圧はアナログスイッチAS11、AS21とホールドコンデンサCh11、Ch21と緩衝増幅器A11、A21からなる2つのサンプルホールド回路41および42により、前記パルスP2に基づき所定のタイミングでそれぞれサンプルされ、前記ホールドコンデンサCh11、Ch21に電圧としてホールドされ、該緩衝増幅器A11、A21からそれぞれ出力される。
該緩衝増幅器A11、A21の各出力端子P11、P21から出力される出力は、前記磁場H1とH2に対応し、かつ、両者の検出感度が同じと見做せるような出力に調整された出力となっている。
【0061】
よって第1実施例の差動型磁気センサは、前記差動演算手段5を構成する前記差動増幅器A31に入力されるまでの間に2つの磁気検知手段の検出感度を極力等しくするような出力に調整することができるので、従来のように同じ感度の磁気インピーダンス素子の組み合わせを探す工程も不要で、かつ生産した磁気インピーダンス素子をすべて有効に活用して、安価で微小鉄粉等の微弱磁場の高感度および高精度の検出を可能にするとともに、高感度・高精度の差動型磁気センサを実現することができるという作用効果を奏する。
【実施例2】
【0062】
第2実施例の差動型磁気センサは、図6に示されるように上述の第1実施例の差動型磁気センサにおける前記信号調整手段3に対して、可変抵抗r32を付加するもので、以下相違点を中心に説明する。
【0063】
前記信号調整手段において、電流調整を行う抵抗器の選択工程に可変抵抗器を用いる例であって、本第2実施例においては固定抵抗器r12、r22は同じ抵抗値とし、可変抵抗器r32の一方の電極と摺動子との間の抵抗値をra、もう一方の電極と摺動子との間の抵抗値をrbとすると、パルス電流i11、i21は以下の数8および数9のごとく設定できる。
【0064】
(数8)
i11=Ed/(r12+ra+w11)
【0065】
(数9)
i21=Ed/(r22+rb+w21)
【0066】
この数8および数9を上記数4に適用すると、以下の数10を得ることが出来る。
【0067】
(数10)
rb=k2/k1(r11+ra+w11)-(r21+w21)
【0068】
すなわち前記信号調整手段3として前記駆動回路2と前記アモルファスワイヤ11および21の間に抵抗r12、raおよびr22、rbによる抵抗回路32を介挿配設することで、2つの磁気検知手段のトータルの検出感度を実質的に同一と見做せるように調整することができるのである。
【0069】
本第2実施例の差動型磁気センサは、前記可変抵抗器r32により抵抗値raおよびrbを連続的に高精度で設定ができるので、上述の第1実施例における固定抵抗器の取替え作業に比べて、感度を同一にするための工程の生産性をいちじるしく向上させることが出来るとともに、検査中に検出感度のバランスが変化しても、速やかに調整して対応出来るという作用効果を奏する。
【0070】
本第2実施例においては、電子回路を簡略化する観点より磁気インピーダンス素子E10、E20の各検出コイル12、22を差動接続することにより、前記第1実施例における差動増幅器を省略するものである。
【0071】
すなわち本第2実施例の差動型磁気センサは、各検出コイル12、22の巻終わり電極b、dを互いに接続して、巻き始め電極aとcの両電極間の電圧すなわち前記検出コイル12、22に生じる前記交流電圧の差の電圧を前記アナログスイッチAS31および前記ホールドコンデンサCh31から成り、前記緩衝増幅器を省略した1個のサンプルホールド回路のみによって、サンプルホールドすることにより、2つの磁場H1とH2との差の磁場信号を、緩衝増幅器を兼ねた差動演算手段5としての高入力インピーダンス増幅器A32の出力端子から出力するものであるので、電子回路を簡素化することにより、コストダウンを可能にして、精確な微弱磁場検出を可能にするという効果を奏する。
【0072】
上記構成より成る第2実施例の差動型磁気センサは、高入力インピーダンス増幅器A32が、通常のOPアンプ(演算増幅器)を用いて高入力インピーダンス増幅回路を実現することも可能であり、高感度差動型磁気センサをより安価に実現するという作用効果を奏するものである。
【実施例3】
【0073】
本第3実施例の差動型磁気センサは、信号処理手段におけるサンプルホールド回路において利得調整する本第3発明に基づく実施例であり、以下上述した第1実施例との相違点を中心に説明する。
【0074】
本第3実施例の差動型磁気センサは、前記した本第1実施例および第2実施例とは異なり、アモルファスワイヤに通電する駆動電流の調整によって、感度を調整するものではなく、図7に示すように前記2つのアモルファスワイヤ11、21は、従来の差動型磁気センサと同様に同じ抵抗値の抵抗器r0を介して同じパルス電流で駆動されている。従って、製造工程のばらつき等により、前記2つの磁気インピーダンス素子E10およびE20の検出感度が相違していた場合には、前記2つの磁気インピーダンス素子からの出力は互いに異なることとなる。
【0075】
そこで、本第3実施例においては、磁気インピーダンス素子の検出感度の調整は前記信号処理手段4としての前記サンプルホールド回路に信号調整手段3としての抵抗回路331,332を挿入することにより、1以下の利得として減衰率を調整することにより行うものである。
【0076】
より具体的には、緩衝増幅器としてOPアンプによる増幅度1のフォロワーA11、A21の出力端子と出力端子P11、P21との間に直列に接続された抵抗器r11、r12からなり、一端が直流電流源(図示せず)に接続され他端がフォロアーA11の出力端に接続されるとともに、抵抗器r11およびr12の接続点が前記出力端子P11に接続された第1の抵抗回路331と、直列に接続された抵抗r21、r22とからなり、一端が直流電流源(図示せず)に接続され他端がフォロアーA21の出力端子に接続されるとともに、抵抗器r21およびr22の接続点が前記出力端子P21に接続された第2の抵抗回路332をそれぞれ挿入するものである。
【0077】
前記第1および第2の抵抗回路の減衰率は、
r11/(r11+r12)および
r21/(r21+r22)である。
【0078】
ここで前記2つの磁気インピーダンス素子E10およびE20の固有の検出感度をk1、k2とするとき、以下の数11に示されるように前記抵抗器r11、r12、r21、r22の抵抗値を設定することにより、前記差動演算手段5を構成する差動増幅器A33に入力されるまでの間に前記2つの磁気インピーダンス素子の検出感度が実質的に等しいと見做せるような出力信号に調整することができるのである。
【0079】
(数11)
k1×r11/(r11+r12)=k2×r21/(r21+r22)
【0080】
具体的には、以下の数12に示されるようであり、前記抵抗器r11、r12、r21の抵抗値をあらかじめ決定し、r22の抵抗値を下記数12に基づき算出して前記抵抗回路に適用するものである。
【0081】
(数12)
r22=(k2×r21)/(k1×r11)×(r11+r12)-r21
【0082】
なお前記抵抗r11、r21は、一例として緩衝増幅器A12、A21に対して大きな負荷とならない通常1kΩ以上とし、前記抵抗r12は抵抗r11との比において減衰率がたとえば10%程度となるようたとえば0.1kΩとした。これは磁気インピーダンス素子の検出感度のばらつきが高々数%以内であるので、この範囲内で如何なるばらつきに対しても信号調整を可能にするr22の抵抗値の算出を可能にするためである。
なお前記抵抗器r11、r12、r21、r22として可変抵抗器を採用することもできる。
【0083】
上記構成より成る第3実施例の差動型磁気センサは、製造上のばらつき等により前記2つの磁気インピーダンス素子の検出感度に差異が生じた場合であっても、前記サンプルホールド回路41および42に介挿された信号調整手段としての第1および第2の抵抗回路331および332によって、前記差動演算手段5を構成する差動増幅器A33に入力される出力信号は、磁気検知手段の最終的な検出感度が実質的に同一になると見做せるような出力信号に調整することができるので、前記2つの地点共通の背景磁場成分を相殺して、検出すべき微小鉄粉等に基づく局所的な微弱磁場の精確な検出を可能にするという効果を奏する。
【実施例4】
【0084】
第4実施例の差動型磁気センサは、低価格化を可能にするために、図8に要部が示されるように、上述の第3実施例における差動演算手段5に対応するものとして、高入力インピーダンスの差動増幅器A34を用いることと、信号処理手段4としてのサンプルホールド回路41および42の緩衝増幅器A11、A21を省略したものであり、以下相違点を中心に説明する。
【0085】
前記サンプルホールド回路41および42のホールドコンデンサCh1、Ch2と前記差動演算手段5としての高入力インピーダンス差動増幅器A34の入力端子P11、P21との間に、前記信号調整手段3として挿入する抵抗器r11、r12および抵抗r21、r22からなる抵抗回路331および332による減衰回路を挿入するものである。
【0086】
ここで 2つの磁気インピーダンス素子の検出感度を同一にする条件は、図7と同様であり既に記載した数12に基づいてr22を算出する。
【0087】
ここで抵抗器r11、r21とサンプルホールド回路41および42のホールドコンデンサCh1、Ch2との積で決まる放電時定数t1、t2は、以下の数13および数14のようになる。
【0088】
(数13)
t1=(r11+r12)×Ch1≒r11×Ch1 ∵ r11≫r12
【0089】
(数14)
t2=(r21+r22)×Ch2≒r21×Ch2 ∵r21≫r22
【0090】
前記パルス発振回路10から出力される前記パルスP1、P2の周期をTとすると、前記サンプルホールド回路41および42による磁気信号の更新も周期Tで行われる。
上記放電時定数t1、t2がこの周期Tと同じか、それよりも大、すなわち以下の数15を満足するものであれば、サンプルホールドされたホールドコンデンサの電圧、すなわち検出した磁場信号を次の新たなサンプルホールドのタイミングまで所定の正確さで保持することができる。
【0091】
(数15)
t1、t2 ≥T
【0092】
この場合に前記差動増幅器A34の入力インピーダンスが、前記抵抗器r11、r21よりも十分高ければ、図7に示された前記緩衝増幅器A11、A21を省略することができるのである。
【0093】
なお本第4実施例においては前記パルスP1、P2の繰り返し周期Tを1μs(マイクロ秒)、前記抵抗回路331、332によって構成される減衰回路の抵抗器の抵抗器r11、r21を、一例として300kΩ、コンデンサCh1、Ch2を100pF(ピコファラッド)に設定した。
【0094】
この場合の前記放電時定数t1、t2は、以下の数16および数17のようになる。
【0095】
(数16)
t1=r11×Ch1=300×103×100×10-12=30×10-6=30μs
【0096】
(数17)
t2=r21×Ch2=300×103×100×10-12=30×10-6=30μs
【0097】
よって前記放電時定数t1、t2は、ともにパルスP1、P2の周期T=1μsよりも十分大であり、前記数15が成り立ち、また通常の高入力インピーダンス増幅器の入力インピーダンスは、抵抗器r11、r21に用いた300kΩに比べて無視できるほど高いので、前記のごとく緩衝増幅器を省略できた。
【0098】
なお前記信号調整手段3としての抵抗器r11とr12およびr21とr22からなる前記抵抗回路331および332より成る減衰回路により、2つの信号検知手段の感度を精確度高く調整できることは上記説明したとおりである。
【0099】
以上から明らかな様に第4実施例の差動型磁気センサは、上述の第3実施例における緩衝増幅器としてのOPアンプのフォロワー回路を用いる必要がないので、さらなる低コスト化が実現できるという作用効果を奏する。
なお第3実施例と同様に前記抵抗器r11、r12、r21、r22として可変抵抗器を採用することができる。
【実施例5】
【0100】
第5実施例の差動型磁気センサは、図9に示す通り、信号調整手段3としてサンプルホールド回路41および42の緩衝増幅器A12およびA22をOPアンプと抵抗回路351,352による非反転増幅器によって実現して差動演算器A35に出力するものである。
【0101】
前記緩衝増幅器としてOPアンプA12、抵抗器r13、r14とOPアンプA22、抵抗器r23、r24からなる2つの非反転増幅器の利得は、以下のように設定できる。
(1+ r14/ r13)
(1+ r24/ r23)
【0102】
したがって 前記2つの磁気インピーダンス素子の固有の感度をk1、k2とするとき、以下の数18となるように、抵抗器r13、r14、r23、r24の抵抗値を設定することにより、差動演算手段A35に入力されるまでの間に前記2つの磁気インピーダンス素子の検出感度を実質的に等しくなるように調整することができるのである。
【0103】
(数18)
k1×(1+r14/r13)=k2×(1+r24/r23)
【0104】
具体的には抵抗器r13、r14の抵抗値の設定によって、一方の磁気インピーダンス素子を所望の検出感度に設定し、もう一方の磁気インピーダンス素子の検出感度は抵抗r23=r13として数19によって算出したr24を適用する。
【0105】
(数19)
r24=r23/k2×(k2-k1-k1×r14/r13)
なお前記抵抗器r13、r14、r23、r24を可変抵抗器によって構成することができる。
【0106】
上記構成より成る第5実施例の差動型磁気センサは、前記信号調整手段3として前記サンプルホールド回路41および42の緩衝増幅器A12およびA22をOPアンプと抵抗回路351,352による非反転増幅器によって実現して差動演算器A35に出力するものであるので、前記抵抗回路351および352の抵抗値を設定することにより、利得を1以上で増幅しながら実質的に磁気検知手段の最終的な検出感度が同一と見做せるような出力電圧を得ることができるため、より高感度な差動型磁気センサを実現するという作用効果を奏する。
【0107】
本第5実施例の差動型磁気センサを用いて、実際に磁場計測を行った計測例について、図10(A)を用いて以下に説明する。
すなわち2つの磁気検知手段の2つの磁気インピーダンスセンサ素子の距離を30mmとし、一方をベルトコンベアーにより通過する直径0.3mmの鉄粉の通過路近傍上部に、配設するとともに、もう一方をそれよりも上部にずらして配設して、計測を行ったものである。
【0108】
上記計測の結果を示す図10(A)において、a、bは、各磁気検知手段の出力端子P11,P21からの出力の波形を示す。a、bは、ほぼ同等の波形であり、見やすくするため図10(A)においては上下にずらして表示している。
aの波形には鉄粉通過の微弱な磁気信号が含まれているが、ノイズとなる背景磁場成分がa、bともに最大で約80nT程度あるため、そのままでは微小な鉄粉通過時の磁気信号が、背景磁場成分に隠れてしまい、明確には視認できない。cは、前記差動演算器A35の差動演算の出力であり、差動演算効果により両出力の背景ノイズが約1/400に小さくなるとともにピーク値1.2nTの鉄粉通過による磁場変動波形を観察することができた。なお、cの波形は、磁場変動を見やすくするため、a、bに比べて縦軸のスケールを拡大して表示したものである。
なお、上記の計測実験では、地磁気が直流磁場であることを考慮し、低周波を除去するフィルタを用いて測定結果に影響が及ばないようにし、実験を行っている。
【0109】
図10(B)に示される波形dは、本第5実施例の特徴である信号調整手段を適用せずに上記と同じ計測を行った比較例における差動演算後の出力波形である。この場合、背景ノイズが十分に小さくならず、それによって矢印で示した位置にみられるはずの鉄粉通過の波形が隠されてしまった例である。
【0110】
上述の実施形態および実施例は、説明のために例示したもので、本発明としてはそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲、発明の詳細な説明および図面の記載から当業者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更および付加が可能である。
【0111】
上述の実施形態および実施例においては、一例として感磁体としてアモルファスワイヤを採用したものについて説明したが、本発明としてはそれらに限定されるものではなく、感磁体として薄膜その他のものを必要に応じて採用することができるものである。
【0112】
上述の実施形態および実施例においては、一例として感磁体としてのアモルファスワイヤの周囲に巻回した検出コイルによって外部磁場を検出する例について説明したが、本発明としてはそれらに限定されるものではなく、感磁体としてのアモルファスワイヤの両端の出力電圧によって外部磁場を検出する例を採用することができるものである。
【0113】
上述の実施形態および実施例においては、一例として2つの磁気インピーダンス素子の検出感度の差に応じて、周辺の磁場強さが同じであれば同じ大きさの磁場信号電圧が出力されるように信号を調整する信号調整手段の例について説明したが、本発明としてはそれに限定されるものではなく、2つの磁気インピーダンス素子の検出感度の差を補うように信号を調整して、磁場信号電圧のレベルを等しくする信号調整手段や、2つの磁気検出手段のトータルの検知感度が等価と見做せるレベルの磁場信号電圧が出力されるように信号を調整する信号調整手段や、2つの磁気インピーダンス素子の検出感度に差があっても、2つの磁気検出手段の最終的な検知感度が等価であると仮定できるように、信号を調整する信号調整手段等を必要に応じて採用することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0114】
理化学研究分野における微弱磁気検出、火山活動などによる地磁気その他の微小変動計測、複数の地点における磁場検出などの用途に好適である。
【符号の説明】
【0115】
11、21 アモルファスワイヤ
10 パルス発振回路
2 駆動回路
3 信号調整手段
5 差動演算手段
12、22 検出コイル
41、42 サンプルホールド回路
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電流を出力する駆動手段と、離れた2つの地点に配設された前記駆動電流が印加される2つの感磁体より成る2つの磁気インピーダンス素子を備え、前記感磁体の周辺の磁場強さに対応する交流電圧を信号処理手段によって前記感磁体の周辺の磁場強さに対応するレベルの磁場信号電圧に変換して出力する2つの磁気検知手段と、
前記2つの磁気検知手段から出力される2つの磁場信号電圧の差を演算することにより、前記2つの地点の磁場の強さの差の信号を出力する差動演算手段とから成る差動型磁気センサにおいて、
前記2つの磁気インピーダンス素子および信号処理手段を含む回路を介して前記駆動手段と前記差動演算手段とが接続されるとともに、前記駆動手段および前記2つの磁気インピーダンス素子または前記2つの信号処理手段および前記差動演算手段に接続され、検出感度の異なる前記2つの磁気インピーダンス素子を備えた前記2つの磁気検知手段のそれぞれが、前記感磁体の周辺の磁場強さが同じであれば同じレベルの磁場信号電圧を出力するように前記2つの磁気インピーダンス素子の異なる検出感度に応じて出力信号である前記磁場信号電圧を調整する抵抗値に設定された抵抗または抵抗回路より成る信号調整手段を備え、
互いに磁気インピーダンス素子の検出感度が略同じであると見做せるように出力信号を調整するようにして、前記2つの地点共通の背景磁場成分を相殺して、該背景磁場成分に比べて微弱な磁場を検出するように構成されている
ことを特徴とする差動型磁気センサ。
【請求項2】
前記請求項1において、
前記信号調整手段が、前記駆動手段と前記2つの磁気インピーダンス素子との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記駆動手段から供給される前記駆動電流が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されている
ことを特徴とする差動型磁気センサ。
【請求項3】
前記請求項1において、
前記信号調整手段が、前記磁気検知手段の前記信号処理手段と前記差動演算手段との間の回路に設けられ、前記2つの磁気インピーダンス素子を構成する前記感磁体の検出感度の差異に対応して、前記2つの磁気インピーダンス素子に接続される前記磁気検知手段を構成する信号処理手段の利得が調整されるように構成されているとともに、前記感磁体に卷回された前記磁気検知手段を構成する検出コイルが、前記信号処理手段に接続されている
ことを特徴とする差動型磁気センサ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-09-24 
出願番号 特願2015-66524(P2015-66524)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (G01R)
最終処分 取消  
前審関与審査官 菅藤 政明  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 濱野 隆
中澤 真吾
登録日 2018-10-12 
登録番号 特許第6414498号(P6414498)
権利者 愛知製鋼株式会社
発明の名称 差動型磁気センサ  
代理人 ▲高▼橋 克彦  
代理人 ▲高▼橋 克彦  

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