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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1370008
異議申立番号 異議2020-700036  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-22 
確定日 2020-11-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6551104号発明「静電チャック装置及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6551104号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6551104号の請求項1-3、5-8に係る特許を維持する。 特許第6551104号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6551104号の請求項1-8に係る特許についての出願は、平成27年9月18日に出願され、令和元年7月12日にその特許権の設定登録がされ、令和元年7月31日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 2年 1月22日 :特許異議申立人 坂岡 範穗による請求項1-8に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年 5月20日付け:取消理由通知書
令和 2年 7月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 8月27日 :特許異議申立人 坂岡 範穗による意見書の提出

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に係る「一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、接着層と、前記静電チャック部を所望の温度に調整する温度調整用ベース部とをこの順に有し、
前記接着層に対して160℃、100時間の条件で加熱を行ったとき、該接着層の該加熱前の20℃におけるヤング率E1(20)及び該加熱後の20℃におけるヤング率E2(20)が、下記(1)式を満たすとともに、
|(E2(20)-E1(20))/E1(20)|≦2.0 ・・・ (1)
前記接着層の、前記加熱前の180℃におけるヤング率E1(180)及び前記加熱後の180℃におけるヤング率E2(180)が、下記(2)式を満たす、静電チャック装置。
|(E2(180)-E1(180))/E1(180)|≦2.0 ・・・ (2)」を、
「一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、接着層と、前記静電チャック部を所望の温度に調整する温度調整用ベース部とをこの順に有し、
前記接着層に対して160℃、100時間の条件で加熱を行ったとき、該接着層の該加熱前の20℃におけるヤング率E1(20)及び該加熱後の20℃におけるヤング率E2(20)が、下記(1)式を満たすとともに、
|(E2(20)-E1(20))/E1(20)|≦2.0 ・・・ (1)
前記接着層の、前記加熱前の180℃におけるヤング率E1(180)及び前記加熱後の180℃におけるヤング率E2(180)が、下記(2)式を満たす、
|(E2(180)-E1(180))/E1(180)|≦2.0 ・・・ (2)
静電チャック装置であって、
前記接着層が、平均粒子径が1μm以上10μm以下のフィラーを含む、静電チャック装置。」に訂正する。(請求項1を引用する請求項2-8についても同様に訂正する。)

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5の「・・・30体積%以下である請求項4に記載の静電チャック装置。」を「・・・30体積%以下である請求項1?3のいずれか1項に記載の静電チャック装置。」に訂正する。(請求項5を引用する請求項6-8についても同様に訂正する。)

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6の「・・・反応性希釈剤を含む請求項1?5のいずれか1項に記載の静電チャック装置。」を「・・・反応性希釈剤を含む請求項1?3、5のいずれか1項に記載の静電チャック装置。」に訂正する。(請求項6を引用する請求項7、8についても同様に訂正する。)

オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8の「請求項1?7のいずれか1項に記載の静電チャック装置の製造方法であって、・・・」を「請求項1?3、5?7のいずれか1項に記載の静電チャック装置の製造方法であって、・・・」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び独立特許要件及び一群の請求項について
ア.一群の請求項について
訂正前の請求項1-8について、訂正事項1を含む請求項1の記載を、その他の請求項2-8がそれぞれ引用しているものであるから、請求項1-8は、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1-8に対応する訂正後の請求項〔1-8〕は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

イ.訂正の適否
(ア)訂正事項1
a.訂正の目的
訂正事項1は、請求項1の「接着層」に、「平均粒子径が1μm以上10μm以下のフィラーを含む」と限定を加えることで、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
(a)明細書には、以下のように記載されている。(下線は合議体が付加した。以下同じ。)
「【0042】
また、接着層8には、平均粒子径が1μm以上10μm以下の無機酸化物、無機窒化物、無機酸窒化物からなるフィラー、例えば、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面に酸化ケイ素(SiO_(2))からなる被覆層が形成された表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子が含有されていることが好ましい。
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、接着層の熱伝導性を改善するために混入されるものであるが、その混入率を調整することにより、接着層8の高温での使用におけるヤング率の変動をより抑えることができ、その結果高温使用時における静電チャック部2の変形をさらに低減させることができる。」

(b)上記の段落【0042】には、フィラーの平均粒子径が、「1μm以上10μm以下」であることが開示されている。

(c)したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるといえるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

c.実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明及び請求項2-8に係る発明の技術的範囲を狭めるものであるにとどまり、それらのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

d.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許異議の申立てにおいては、本件訂正前の請求項1-8に係る発明の特許に対して特許異議の申立がされているので、本件訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

(イ)訂正事項2
a.訂正の目的
訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

c.実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

d.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許異議の申立てにおいては、本件訂正前の請求項1-8に係る発明の特許に対して特許異議の申立がされているので、本件訂正前の請求項4に係る訂正事項2に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

(ウ)訂正事項3-5
a.訂正の目的
訂正事項3-5は、請求項4の削除に伴い引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

b.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3-5は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

c.実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3-5は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

d.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件特許異議の申立てにおいては、本件訂正前の請求項1-8に係る発明の特許に対して特許異議の申立がされているので、本件訂正前の請求項5、6、8に係る訂正事項3-5に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。

3.訂正後の本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された請求項1-8に係る発明(以下、順に「本件訂正発明1」-「本件訂正発明8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1-8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、接着層と、前記静電チャック部を所望の温度に調整する温度調整用ベース部とをこの順に有し、
前記接着層に対して160℃、100時間の条件で加熱を行ったとき、該接着層の該加熱前の20℃におけるヤング率E1(20)及び該加熱後の20℃におけるヤング率E2(20)が、下記(1)式を満たすとともに、
|(E2(20)-E1(20))/E1(20)|≦2.0 ・・・ (1)
前記接着層の、前記加熱前の180℃におけるヤング率E1(180)及び前記加熱後の180℃におけるヤング率E2(180)が、下記(2)式を満たす、
|(E2(180)-E1(180))/E1(180)|≦2.0 ・・・ (2)
静電チャック装置であって、
前記接着層が、平均粒子径が1μm以上10μm以下のフィラーを含む、静電チャック装置。
【請求項2】
前記接着層の、前記加熱後の20℃、180℃におけるヤング率E2(20)、E2(180)が、ともに20MPa以下である請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記接着層が接着剤を用いて形成され、該接着剤がシリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれる1種以上を含む請求項1または2に記載の静電チャック装置。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記フィラーの前記接着剤中の含有量が、接着剤全体積基準で5体積%以上30体積%以下である請求項1?3のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【請求項6】
前記接着剤がシリコーン系樹脂を含み、さらに1種以上の反応性希釈剤を含む請求項1?3、5のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【請求項7】
前記反応性希釈剤の含有量が、接着剤全体積基準で5体積%以上30体積%以下である請求項6に記載の静電チャック装置。
【請求項8】
請求項1?3、5?7のいずれか1項に記載の静電チャック装置の製造方法であって、
一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、該静電チャック部を所望の温度に調整する温度調整用ベース部とを、接着剤を介して接着する工程と、
前記接着剤により静電チャック部及び温度調整用ベース部間に形成された接着層を、100℃以上200℃以下の温度で80時間以上熱処理する工程と、を有する静電チャック装置の製造方法。」


4.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1-3、8に係る特許に対して、当審が令和2年5月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1(新規性)請求項1-3、8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1-3、8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2(進歩性)請求項1-8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記引用文献1-6に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用文献1:特開2011-238682号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開2010-40644号公報(甲第2号証)
引用文献3:特開2007-194320号公報(甲第3号証)
引用文献4:特開2007-191537号公報(甲第4号証)
引用文献5:特開2014-207374号公報(甲第5号証)
引用文献6:特開2008-218992号公報(甲第6号証)

(2)引用文献の記載及び引用発明
ア.引用文献1
(ア)取消理由通知で引用した引用文献1(特開2011-238682号公報)には以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同じ。)
「【請求項1】
ウエハーを表面に吸着可能な円盤状でセラミックス製のプレートと、
円盤状で金属製の冷却板と、
前記プレートの裏面と前記冷却板の表面とを接着し、流動性接着剤の硬化物からなる第1接着部及び両面テープからなる第2接着部を有する接着層と、
を備え、
前記第2接着部は、前記プレートの裏面の外周縁と前記冷却板の表面の外周縁とを接着している、
ウエハー載置装置。」

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハー載置装置及びその製造方法に関する。」

「【0017】
次に、本発明の実施するための形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態であるウエハー載置装置10の斜視図、図2は図1のA-A断面図、図3は図2のB-B断面図である。
【0018】
ウエハー載置装置10は、プレート12と、冷却板20と、ガス供給孔23と、リフトピン孔24と、端子孔25、26と、接着層30とを備えている。なお、ガス供給孔23と、リフトピン孔24と、端子孔25、26とが、本発明の貫通孔に相当する。
【0019】
プレート12は、図2に示すように、セラミックス製(例えばアルミナ製や窒化アルミニウム製)の円盤状部材であり、静電電極14と抵抗発熱体16とを内蔵している。静電電極14は、円形の薄膜形状に形成されており、静電電極14の略中央には導電性の端子14aが固着されている。この端子14aは冷却板20及び接着層30を貫通する端子孔25の底部に露出しており、図示しない棒状端子と端子孔25内で電気的に接続されている。この棒状端子を介して静電電極14とプレート12の表面に載置されるウエハーWとの間に電圧を印加すると、プレート12の表面とウエハーWとの間に発生する静電気的な力によってウエハーWがプレート12に吸着される。抵抗発熱体16は、プレート12の全面にわたって配線されるように例えば一筆書きの要領でパターン形成されている。抵抗発熱体16の一端及び他端には導電性の端子16a(1つのみ図示)が固着されている。この端子16aはそれぞれ冷却板20及び接着層30を貫通する端子孔26の底部に露出しており、図示しない棒状端子と端子孔26内で電気的に接続されている。この棒状端子を介して抵抗発熱体16に電圧を印加すると、抵抗発熱体16が発熱してウエハーWを加熱する。なお、プレート12のうち静電電極14よりも上側の部分を誘電体層12a、静電電極14と抵抗発熱体16とに挟まれる部分を中層12b、抵抗発熱体16よりも下側の部分を下層12cと称するものとする。また、このプレート12をアルミナで形成した場合には、体積抵抗率が高いためクーロン型の静電チャックとして機能し、窒化アルミニウムで形成した場合には、アルミナよりも体積抵抗率が低いためジョンソン・ラーベック型の静電チャックとして機能する。
【0020】
冷却板20は、プレート12と直径が略同一である小径円盤部20aと、小径円盤部20aよりも大径の大径円盤部20bとを同軸に連ねた形状をした段差付き円盤状部材である。この冷却板20は、プレート12と同軸に位置し、小径円盤部20aの表面がプレート12の裏面に接着層30を介して接着されている。この冷却板20は、金属製(例えばアルミニウム製)であり、冷媒(例えば水)が通過可能な冷媒通路22を内蔵している。この冷媒通路22は、プレート12の全面にわたって冷媒による冷却が可能なように形成されている。なお、冷媒通路22には、冷媒の供給口と排出口(いずれも図示せず)が設けられている。また、冷却板20には、冷却板20の中心軸から外れた位置を厚さ方向に貫通する熱電対孔21が形成されている。この熱電対孔21は、図示しない熱電対を挿入してプレート12の温度を測定するための孔である。なお、熱電対孔21の中心軸は、例えば冷却板20の中心軸から半径の22?32%の長さだけ外れた位置に形成する。さらに、大径円盤部20bのうち小径円盤部20aよりも外側には、大径円盤部20bのみを貫通する固定孔27が形成されている。この固定孔27は、後述するウエハー載置装置10の製造工程で使用するための孔であり、図3に示すように計4箇所に設けられている。」

「【0024】
接着層30は、プレート12の裏面と冷却板20の表面とを接着するものであり、厚さは例えば100μm?500μmである。この接着層30は、主接着部31と、外周接着部32と、ガス供給孔接着部33と、リフトピン孔接着部34と、端子孔接着部35、36とを備えている。なお、主接着部31が本発明の第1接着部に相当し、外周接着部32と、ガス供給孔接着部33と、リフトピン孔接着部34と、端子孔接着部35、36とが本発明の第2接着部に相当する。主接着部31は、流動性接着剤の硬化物からなるものである。流動性接着剤は、好ましくは樹脂であり、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂のいずれかである。外周接着部32は、両面テープからなるものである。この両面テープの断面図を図4に示す。図4に示すように、両面テープは中間層とその両面にある粘着層とからなる3層構造をなしている。中間層は、好ましくは樹脂であり、例えば、ポリイミド樹脂又はポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂である。粘着層は、好ましくは樹脂であり、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂のいずれかである。この外周接着部32は、プレート12の裏面の外周縁と冷却板20の表面の外周縁とを接着している。ガス供給孔接着部33、リフトピン孔接着部34、端子孔接着部35、36は、いずれも図4に示した両面テープからなるものであり、ウエハー載置装置10の厚さ方向から見てリング状をしている。ガス供給孔接着部33は、プレート12の裏面におけるガス供給孔23の外周縁と冷却板20の表面におけるガス供給孔23の外周縁とを接着している。リフトピン孔接着部34は、プレート12の裏面におけるリフトピン孔24の外周縁と冷却板20の表面におけるリフトピン孔24の外周縁とを接着している。端子孔接着部35、36は、それぞれプレート12の裏面と冷却板20の表面における端子孔25、26の外周縁とを接着している。外周接着部32、ガス供給孔接着部33、リフトピン孔接着部34、端子孔接着部35、36の径方向の幅は、例えば1?2mmである。また、外周接着部32、ガス供給孔接着部33、リフトピン孔接着部34、端子孔接着部35、36の合計接着面積は、冷却板20の表面の面積の例えば1?2%である。なお、プレート12の裏面、冷却板20の表面、外周接着部32で囲まれる空間のうち、ガス供給孔接着部33、リフトピン孔接着部34、端子孔接着部35、36、ガス供給孔23、リフトピン孔24、端子孔25、26以外の部分は全て主接着部31で満たされている。」

「【0026】
こうしたウエハー載置装置10の製造方法の一例を以下に説明する。」

「【0032】
図7に示した両面テープ140を用意すると、保護フィルム141のうち、外周接着テープ132a、ガス供給孔接着テープ133、リフトピン孔接着テープ134、端子孔接着テープ135、136の部分のみを剥がして粘着層142を露出させる。この状態で、外周接着テープ132aがプレート12の裏面の外周縁と対向し、ガス供給孔接着テープ133、リフトピン孔接着テープ134がそれぞれプレート12の裏面のプレート側ガス供給孔123、プレート側リフトピン孔の外周縁と対向し、端子孔接着テープ135、136内にそれぞれ端子14a、16aが収まるように位置を合わせて、両面テープ140のうち保護フィルム141側の面を、プレート12の裏面に貼り付ける。これにより、両面テープ140のうち、保護フィルム141を剥がした部分である外周接着テープ132a、ガス供給孔接着テープ133、リフトピン孔接着テープ134、端子孔接着テープ135、136の粘着層142のみがプレート12の裏面と接着される。続いて、両面テープ140のうち、保護フィルム145と、外周接着テープ132a、ガス供給孔接着テープ133、リフトピン孔接着テープ134、端子孔接着テープ135、136以外の部分とを除去する。これにより、外周接着テープ132a、ガス供給孔接着テープ133、リフトピン孔接着テープ134、端子孔接着テープ135、136の粘着層142、中間層143、粘着層144のみがプレート12の裏面に残った状態になる。なお、除去した部分のうち、外周接着テープ132bは後の工程で用いる。この状態で、外周接着テープ132aが冷却板20の表面の外周縁と対向し、ガス供給孔接着テープ133、リフトピン孔接着テープ134、端子孔接着テープ135、136がそれぞれ冷却板20の表面の冷却板側ガス供給孔223、冷却板側リフトピン孔224、冷却板側端子孔225、226の外周縁と対向するように位置を合わせ、粘着層144と冷却板20の表面とを貼り合わせて仮接合体110とする。図8(a)は仮接合体110の断面図、図8(b)はそのD-D断面図である。図示するように、この仮接合体110には、外周接着テープ132aの内周側と外周側とに通じる通路112が形成されている。この通路112は、両面テープ140をプレート12の裏面に貼り付けた際に外周接着テープ132bを除去したことにより形成されたものである。なお、通路112は、後述する流動性接着剤の注入時に、仮接合体110のうちプレート12の裏面と冷却板20の表面と外周接着テープ132aとで囲まれる空間114内の空気を外部に逃がすためのものである。」

「【0034】
仮接合体110を固定具150により固定した後、互いに連通している連結孔152bと熱電対孔21とを介して、外部から仮接合体110の空間114内にシリコーン樹脂製の流動性接着剤131を所定圧力(例えば0.01?0.1MPa、好ましくは0.04MPa)で注入する。これにより、注入された流動性接着剤131は熱電対孔21の位置を中心として空間114内に広がっていき、空間114内は流動性接着剤131で満たされていく。なお、ガス供給孔接着部33、リフトピン孔接着部34、端子孔接着部35、36によりガス供給孔23と、リフトピン孔24と、端子孔25、26内に流動性接着剤131は侵入しない。また、このとき空間114内の空気は流動性接着剤131に押し出されて通路112から逃げていく。そして、通路112は空間114において流動性接着剤131の注入孔である熱電対孔21から最も遠い場所に位置するため、流動性接着剤131は空間114のうち通路112に最後に到達して、通路112を塞ぐ。通路112が塞がれたら流動性接着剤131の注入を終了する。図10(a)はこのときの仮接合体110の断面図、図10(b)は図10(a)のE-E断面図である。その後、外周接着テープ132bを用いて通路112を外側から塞いで封止する。図11は、通路112を封止する様子を示す説明図である。図11(a)は、外周接着テープ132bを通路112の外側から貼り付ける様子を示し、図11(b)は、外周接着テープ132bによる封止後の状態を示している。図示するように、外周接着テープ132bによる通路112の封止は、外周接着テープ132bが外周接着テープ132aと同様にプレート12の裏面の外周縁及び冷却板20の表面の外周縁とを接着し且つ通路112内で外周接着テープ132aと連なるように貼り付け、外周接着テープ132aと外周接着テープ132bとが一体となって図2、3で示した外周接着部32となるようにすることで行う。通路112を封止することにより、仮接合体110の側面において流動性接着剤131が露出する部分がなくなる。
【0035】
続いて、仮接合体110を大気中にて静置し、空間114内に注入された流動性接着剤131の内圧が解放されるまで待つ。待つ時間は、流動性接着剤131の材質や注入圧力に応じて適宜定めてもよく、例えば10時間としてもよい。その後、大気炉に入れて所定条件(例えば、80℃?150℃で1?12時間)下で流動性接着剤131を硬化させる。そして、固定具150を取り外してから仮接合体110を真空中(例えば1×10-3Pa未満)、所定条件(例えば、145℃?155℃で70?90時間)下でベーキングして流動性接着剤131を完全に硬化させる。これにより、流動性接着剤131が硬化して主接着部31となり、ウエハー載置装置10を得ることができる。なお、流動性接着剤131を硬化させる条件下では、両面テープの接着性は影響を受けない。」

「【0049】
[実施例1]
実施例1として、図5?11を用いて説明した製造方法により図1?3に示した実施形態のウエハー載置装置10を作製した。具体的には以下のように作成した。」

「【0055】
続いて、図9に示したように固定具150により仮接合体110を上下逆にした状態で固定し、且つ冷却板20の裏面における面圧が0.011MPaとなるバネ荷重を仮接合体110に印可した。この状態で、連通している連結孔152b、熱電対孔21を介して、外部から仮接合体110の空間114内にシリコーン樹脂製の流動性接着剤131を0.04MPaの圧力で注入した。そして、空間114内が流動性接着剤131で満たされ、通路112が塞がれたときに流動性接着剤131の注入を終了した。その後、外周接着テープ132bを用いて図11のように通路112を外側から塞いで封止した。
【0056】
そして、流動性接着剤131を注入した仮接合体110を大気中にて10時間静置した。その後、大気炉に入れて150℃で8時間経過させて流動性接着剤131を硬化させ、さらに固定具150を取り外してから仮接合体110を真空中(1×10-3Pa未満)において150℃で80時間ベーキングして流動性接着剤131を完全に硬化させた。このようにして、実施例1のウエハー載置装置10を得た。」

「【図1】



「【図2】



(イ)上記(ア)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1A」という。)が記載されていると認められる。
「一主面をウエハーWを載置する載置面とするとともに静電電極14を内蔵したプレート12と、主接着部31を含む接着層30と、プレート12を所望の温度に調整する冷却板20とをこの順に有し、
接着層30のうち主接着部31は、シリコーン樹脂である流動性接着剤の硬化物からなる、ウエハー載置装置10。」

(ウ)上記(ア)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1B」という。)が記載されていると認められる。
「一主面をウエハーWを載置する載置面とするとともに静電電極14を内蔵したプレート12と、主接着部31を含む接着層30と、プレート12を所望の温度に調整する冷却板20とをこの順に有し、
接着層30のうち主接着部31は、シリコーン樹脂である流動性接着剤の硬化物からなるウエハー載置装置10の製造方法であって、
プレート12と冷却板20とを貼り合わせて仮接合体を110とする工程と、
仮接合体110のうちプレート12と冷却板20との間の空間内に注入した流動性接着剤131を、大気炉にて所定条件下で硬化させる工程と、
仮接合体110を真空中、145℃?155℃の温度で70?90時間(例えば、150℃、80時間)でベーキングして流動性接着剤131を完全に硬化させて、硬化物からなる主接着部31とする工程と、
を有するウエハー載置装置10の製造方法。」

イ.引用文献2について
(ア)取消理由通知で周知技術を示す文献として引用した引用文献2(特開2010-40644号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0023】
図1は、本発明の一実施形態の静電チャック装置を示す断面図であり、この静電チャック装置21は、円板状の静電チャック部22と、この静電チャック部22の下方に配設され厚みのある円板状の温度調整用ベース部23と、これら静電チャック部22及び温度調整用ベース部23を接着一体化する有機系接着剤層24と、この有機系接着剤層24に内蔵されたヒータエレメント(加熱部材)25とから主として構成されている。」

「【0035】
有機系接着剤層24は、熱応力の緩和作用を有するもので、温度調整用ベース部23と接着一体化する第1の有機系接着剤層24aと、この有機系接着剤層24aと静電チャック部22とを接着一体化する第2の有機系接着剤層24bとの2層構造とされ、かつ、有機系接着剤層24bの熱伝達率は、有機系接着剤層24aの熱伝達率よりも大とされている。」

「【0039】
この有機系接着剤層24は、例えば、シリコーン系樹脂組成物の硬化体で形成されている。このシリコーン系樹脂組成物は、耐熱性、弾性に優れた樹脂であり、シロキサン結合(Si-O-Si)を有するケイ素化合物である。このシリコーン系樹脂組成物は、例えば、下記の式(1)または式(2)の化学式で表すことができる。
【0040】
【化1】

但し、Rは、Hまたはアルキル基(C_(n)H_(2n+1)-:nは整数)である。
【0041】
【化2】
但し、Rは、Hまたはアルキル基(C_(n)H_(2n+1)-:nは整数)である。



「【0044】
この有機系接着剤層24には、平均粒径が1μm以上かつ10μm以下のフィラー、例えば、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面に酸化ケイ素(SiO_(2))からなる被覆層が形成された表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子が含有されていることが好ましい。
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、シリコーン樹脂の熱伝導性を改善するために混入されたもので、その混入率を調整することにより、有機系接着剤層24a、14b各々の熱伝達率を制御することができる。」

「【0071】
また、シリコーン樹脂TSE3221(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)に、表面が酸化ケイ素(SiO_(2))により被覆された表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末TOYALNITE(東洋アルミニウム(株)社製)を、上記のシリコーン樹脂及び表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末の体積の合計量に対して30vol%となるように混合し、この混合物に攪拌脱泡処理を施し、第1のシリコーン系樹脂組成物を得た。
なお、窒化アルミニウム粉末は、湿式篩により選別した粒径が平均7?20μmのものを用いた。この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末の被覆層である酸化ケイ素(SiO_(2))の厚みは0.008μmであった。
【0072】
次いで、静電チャック部22の温度調整用プレート部23との接合面をアセトンを用いて充分脱脂・洗浄し、この接合面に第1のシリコーン系樹脂組成物を、硬化後の厚みが40μmとなるようにバーコータを用いて塗布し、この塗布面上に厚み100μmのチタン(Ti)薄板を載置した。次いで、大気中、115℃にて12時間保持し、静電チャック部22とチタン(Ti)薄板とを接着固定した。
【0073】
次いで、チタン(Ti)薄板をフォトリソグラフィー法により、図2に示すヒータパターンにエッチング加工し、ヒータエレメント25とした。また、このヒータエレメント25に、チタン製の給電用端子51を溶接法を用いて立設した。
一方、温度調整用ベース部23の静電チャック部22との接合面を、アセトンを用いて脱脂、洗浄し、この接合面上に上記のスペーサを、常温硬化型シリコーン接着剤信越シリコーンKE4895T(信越化学工業(株)社製)を用いて接着した。
次いで、この温度調整用プレート部23を大気中に5時間静置し、常温硬化型シリコーン接着剤を十分硬化させた。
【0074】
また、シリコーン樹脂TSE3221(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)に、表面が酸化珪素(SiO_(2))により被覆された表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末TOYALNITE(東洋アルミニウム(株)社製)を、上記のシリコーン樹脂及び表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末の体積の合計量に対して20vol%となるように混合し、この混合物に攪拌脱泡処理を施し、第2のシリコーン系樹脂組成物を得た。
なお、窒化アルミニウム粉末は、湿式篩により選別した粒径が平均7?20μmのものを用いた。この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末の被覆層である酸化ケイ素(SiO_(2))の厚みは0.008μmであった。
【0075】
次いで、第2のシリコーン系樹脂組成物を、ヘラを用いて、静電チャック部22及び温度調整用ベース部23それぞれの接合面に塗布した。
塗布後、50℃、1Pa以下の条件下にて30分間保持し、真空脱泡処理を行った。次いで、これら静電チャック部22と温度調整用ベース部23とを重ね合わせ、50℃、大気中にて、静電チャック部22と温度調整用ベース部23との間隔が300μm、即ち、角形状のスペーサの高さになるまで落し込んだ。
次いで、大気中、115℃にて12時間保持し、第2のシリコーン樹脂組成物を硬化させて静電チャック部22と温度調整用ベース部23とを接合させ、実施例の静電チャック装置21を作製した。」

(イ)上記(ア)から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。
a.静電チャック装置21を構成する静電チャック部22と温度調整用ベース部23とを接着する有機系接着剤層24が、シリコーン系樹脂組成物の硬化体により形成されていること。

b.有機系接着剤層24には、平均粒径が1μm以上かつ10μm以下のフィラーが含有されていることが好ましいこと。

c.有機系接着剤層24は、例えば、シリコーン樹脂 TSE3221にAlN粉末を、シリコーン樹脂及びAlN粉末の体積の合計量に対して20vol%または30vol%となるように混合することにより得られたシリコーン系樹脂組成物を、115℃、12時間の熱処理によって硬化させることにより形成されること。

ウ.引用文献3について
(ア)取消理由通知で周知技術を示す文献として引用した引用文献3(特開2007-194320号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、静電チャック装置に関し、さらに詳しくは、IC、LSI、VLSI等の半導体装置を製造する半導体製造装置にてシリコンウェハ等の板状試料を固定する際に好適に用いられ、板状試料を一定温度に効率よく保持しつつ、この板状試料を静電吸着により固定することにより、プラズマ処理等の各種処理を施すことが可能な静電チャック装置に関するものである。」

「【0018】
図1は、本発明の一実施形態の静電チャック装置を示す断面図であり、この静電チャック装置1は、円板状の静電チャック部材2と、この静電チャック部材2の下方に配設され厚みのある円板状の温度調整用ベース部材3と、これら静電チャック部材2及び温度調整用ベース部材3を接合・一体化する接合層4とにより構成されている。」

「【0027】
接合層4は、図2に示すように、硬化体であるシリコーン系樹脂組成物と、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面に酸化珪素(SiO_(2))からなる被覆層を形成した表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子とを含有した複合材料31に、角形状のセラミックスからなるスペーサ32が複数個、同一平面内に略一定の密度で略規則的に配列されている。
図2では、最外周の同心円上に等間隔に8個、それより内側の同心円上に等間隔に8個、最内周の同心円上に等間隔に4個配置されている。これらのスペーサ31は、直線状に並ばない様に配置されている。」

「【0029】
以下、接合層4について、詳細に説明する。
シリコーン系樹脂組成物としては、公知文献(特開平4-287344号公報)に記載されているシリコーン樹脂を用いることができる。
このシリコーン樹脂は、耐熱性、弾性に優れた樹脂であり、シロキサン結合(Si-O-Si)を有する珪素化合物重合体である。この樹脂は、例えば、下記の化学式で表すことができる。」

「【0038】
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の平均粒径は、1μm以上かつ20μm以下であることが好ましい。
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子の平均粒径が1μmを下回ると、粒子同士の接触が不十分となり、結果的に熱伝導率が劣化する虞があり、また、粒径が細か過ぎると取扱等の作業性の低下を招くこととなり好ましくない。一方、平均粒径が20μmを越えると、局所的に見た場合、接合層内におけるシリコーン系樹脂組成物の占める割合が減少し、接合層の伸び性、接着強度の低下を招く虞があり、また、その場合、粒子の脱離が発生し易くなり、接合層に空孔(ポア)が生じることとなり、結果的に熱伝導性、伸び性、接着強度の劣化を招くので好ましくない。」

「【0056】
「実施例1」
シリコーン樹脂TSE3221(東芝シリコーン(株)社製)に、表面が酸化珪素(SiO2)により被覆された表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末TOYALNITE(東洋アルミニウム(株)社製)を、上記のシリコーン樹脂及び表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末の体積の合計量に対して25vol%となるように混合し、この混合物に攪拌脱泡処理を施し、シリコーン系樹脂組成物を得た。このシリコーン系樹脂組成物の粘度は240Pa・Sであった。なお、窒化アルミニウム粉末は、粒径が平均7?20μmのものを湿式篩により選別して用いた。この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末の被覆層である酸化珪素(SiO_(2))の厚みは0.008μmであった。
【0057】
次いで、温度調整用プレート部材の接合面をアセトンを用いて充分脱脂・洗浄し、この接合面に幅1mm、長さ1mm、厚み0.1mmのアルミナ(Al_(2)O_(3))からなるスペーサを、常温硬化型シリコーン接着剤信越シリコーンKE4895T(信越化学工業(株)社製)を用いて接着した。スペーサの配置は、最外周の同心円上に等間隔に8個、さらに内側の同心円上に等間隔に8個、さらに内側の同心円上に等間隔に8個配置、さらに内側の同心円上に等間隔に4個、最内周の同心円上に等間隔に4個、それぞれ配置した。
次いで、このプレート部材を大気中に5時間静置して常温硬化型シリコーン接着剤を十分硬化させ、その後、上記のシリコーン系樹脂組成物をヘラを用いて静電チャック部材の接合面に17g、温度調整用ベース部材の接合面に22g、それぞれ塗布した。
【0058】
塗布後、50℃、1Pa以下の条件下にて30分間保持し、真空脱泡処理を行った。その後、静電チャック部材と温度調整用ベース部材とを重ね合わせ、再度、50℃、1Pa以下の条件下にて30分間保持し、真空脱泡処理を施した。
次いで、50℃、大気中にて、静電チャック部材と温度調整用ベース部材との間隔が120μmとなるまで落し込んだ。次いで、大気中、115℃にて12時間保持してシリコーン樹脂組成物を硬化させ、静電チャック部材と温度調整用ベース部材とを接合させ、実施例1の静電チャック装置を作製した。」

「【0060】
「実施例2」
実施例1に準じて静電チャック装置を作製した。
ただし、表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末の添加量を、シリコーン樹脂及び表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粉末の体積の合計量に対して30vol%とした。」

(イ)上記(ア)から、引用文献3には、次の技術が記載されていると認められる。
a.静電チャック装置1を構成する静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とを接着する接合層4が、シリコーン系樹脂組成物の硬化体と、AlN粒子とを含有していること。

b.接合層4におけるAlN粒子の含有量は、20vol%以上かつ40vol%以下であることが好ましいこと。

c.AlN粒子の平均粒径は、1μm以上かつ20μm以下であることが好ましいこと。

d.接合層4は、例えば、シリコーン樹脂 TSE3221にAlN粉末を、シリコーン樹脂及びAlN粉末の体積の合計量に対して25vol%または30vol%となるように混合することにより得られたシリコーン系樹脂組成物を、115℃、12時間の熱処理によって硬化させることにより形成されること。

エ.引用文献4について
(ア)取消理由通知で周知技術を示す文献として引用した引用文献4(特開2007-191537号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、金属とセラミックスとを接着する際に好適に用いられ、金属とセラミックスとの間の熱膨張係数の差に起因する熱応力を緩和することにより、これら金属とセラミックスとを精度良く、かつ強固に接着することが可能な樹脂組成物に関するものである。」

「【0013】
図1は、本実施形態の複合部材を示す断面図であり、この複合部材1は、金属板2とセラミックス板3とが接着剤層4を介して接合・一体化されている。
金属板2は、例えば、直径が400mm、厚みが30mmの円板状のもので、材料としては、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこの金属を含む合金であれば特に制限はなく、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)等の金属、またはこれらの金属を1種以上含むステンレススチール等の合金を例示することができる。」

「【0016】
接着剤層4は、図2に示す熱硬化型のシリコン系樹脂11に窒化アルミニウム粒子12の表面を酸化珪素13により被覆した複合粒子14を分散させた樹脂組成物15を、熱により硬化させたもので、この接着剤層4には、図3に示すように、角形状のセラミックスからなるスペーサ16が多数、同一平面内にて一定の密度となるように分散・配置されている。」

「【0027】
複合粒子14の平均粒子径は1μm以上かつ20μm以下であることが好ましい。その理由は、平均粒子径が1μm未満であると、粒子同士の接触が不十分となり、結果的に熱伝導率が低下する虞があり、また、粒子が細かすぎると取扱等の作業性が低下するからであり、一方、平均粒子径が20μmを超えると、局所的に見た場合に、接着剤層4におけるシリコン系樹脂11の占める割合が減少し、接着剤層4の伸び性及び接着強度の低下を招く虞があり、また、伸び性及び接着強度が低下した場合、接着剤層4からの複合粒子14の脱離が発生し易くなり、接着剤層4に空孔(ポア)が生じる虞があり、結果的に、熱伝導性、伸び性、接着強度が低下するからである。
【0028】
複合粒子14の含有量は、樹脂組成物15(シリコン系樹脂11と複合粒子14との合計量)の20v/v%(体積%)以上かつ40v/v%(体積%)以下であることが好ましい。
その理由は、含有量が20v/v%未満であると、接着剤層4の熱伝導性が低下し、ひいては金属板2に接触する試料の熱伝導性が低下し、試料の温度を一定の温度に保つことが困難となるからであり、一方、含有量が40v/v%を超えると、接着剤層4の伸び性が低下して熱応力緩和が不充分となり、金属板2の表面の平面度、平行度が低下するのみならず、この金属板2とセラミックス板3との接合強度が低下し、両者間で剥離が生じる虞があるからである。」

「【0041】
「実施例1」
シリコーン樹脂(東芝シリコーン(株)製、TSE3221)に、酸化珪素(SiO_(2))により表面被覆された窒化アルミニウム(AlN)粉末(東洋アルミニウム(株)製、TOYALNITE)を、その添加量がシリコーン樹脂と窒化アルミニウム(AlN)粉末の合計量に対して25v/v%となるように混合し、次いで、この混合物に攪拌脱泡処理を施し、シリコン系樹脂組成物を得た。このシリコン系樹脂組成物の粘度は240Pa・Sであった。
なお、窒化アルミニウム粉末は、湿式篩により粒径が7?20μmのものを選別して用いた。この窒化アルミニウム粉末における酸化珪素被膜の厚みは0.008μmであった。
【0042】
次いで、上記のアルミニウム板の表面をアセトンを用いて充分脱脂・洗浄し、この表面に上記のアルミナ製スペーサを常温硬化型シリコーン接着剤(信越化学工業(株)製、信越シリコーン:KE4895T)を用いて接着した。
スペーサーの配置は、アルミニウム板の表面に最外周同心円状に8個、さらに適度に中心方向寄りに同心円状に8個、さらに中心方向で同心円状に8個配置した。さらに加えて、中心方向で同心円状に4個、最内周として同心円状に4個配置した。
次いで、このスペーサ付きアルミニウム板を大気中にて5時間、静置し、シリコーン接着剤を十分硬化させてスペーサをアルミニウム板に固定した。
【0043】
次いで、上記のシリコン系樹脂組成物を、ヘラを用いて上記のアルミナ基複合焼結体板の表面に17g、スペーサ付きアルミニウム板の表面に22g塗布し、これらを50℃、1Pa以下の条件下にて30分間保持し、真空脱泡処理を行った。その後、これらアルミナ基複合焼結体板及びスペーサ付きアルミニウム板のシリコン系樹脂組成物が塗布された面同士を重ね合わせ、50℃、1Pa以下の条件下にて30分間保持し、真空脱泡処理を行った。
【0044】
次いで、スペーサ付きアルミニウム板を上方から加圧し、これらスペーサ付きアルミニウム板及びアルミナ基複合焼結体の合計の厚みが120μmになるまで押圧した。
その後、これを大気中、115℃にて12時間放置してシリコン系樹脂組成物を硬化させた。これにより、このシリコン系樹脂組成物を硬化させた接着剤層によりアルミニウム板とアルミナ基複合焼結体とを接合・一体化した実施例1の複合部材が得られた。」

(イ)上記(ア)から、引用文献4には、次の技術が記載されていると認められる。
a.複合部材1を構成するセラミックス板3と金属板2とを接着する接着剤層4が、熱硬化型のシリコーン系樹脂と、AlN粒子とを含有していること。

b.接着剤層4におけるAlN粒子の含有量は、20vol%以上かつ40vol%以下であることが好ましいこと。

c.接着剤層4は、例えば、シリコーン樹脂 TSE3221にAlN粉末を、シリコーン樹脂及びAlN粉末の体積の合計量に対して25vol%または30vol%となるように混合することにより得られたシリコーン系樹脂組成物を、115℃、12時間の熱処理によって硬化させることにより形成されること。

オ.引用文献5について
(ア)取消理由通知で周知技術を示す文献として引用した引用文献5(特開2014-207374号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、半導体製造装置用部品及びその製造方法に関し、例えば、半導体ウェハの固定、半導体ウェハの平面度の矯正などに用いられる静電チャック等に適用可能な半導体製造装置用部品及びその製造方法に関するものである。」

「【0037】
・第1の接着剤層の材料としては、耐熱性を考慮すると、(熱硬化型樹脂等の)シリコーン樹脂が好ましい。接着剤組成物の硬化後の伸び率が大きくなるためには、少なくとも分子量3万以上の付加型官能基を有するシリコーン樹脂を含有するとよい。シリコーンの硬化反応には、縮合型、過酸化物架橋型、付加型などがあるが、副生成物がない点で付加型が好ましい。触媒は、ロジウム、白金などあるが、反応性の高い白金が好ましい。無機粉末としては、シリカ、アルミナ、酸化イットリウム、フッ化イットリウム、窒化アルミニウム、炭化珪素及び窒化珪素等があげられる。」

「【0047】
・なお、第1の接着剤層の材料に接着付与剤を添加する場合には、接着付与剤として、シランカップリング剤(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリスメトキシエトキシシラン、2-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどを用いることができる。」

「【0053】
図1に示す様に、本実施例の静電チャック1は、図1の上側にて半導体ウェハ3を吸着する装置であり、第1主面(吸着面)5及び第2主面(接合面)7を有する(例えば直径300mm×厚み3mmの)円盤状のセラミック絶縁板9と、第1主面(接合面)11及び第2主面(裏面)13を有する(例えば直径340mm×厚み20mmの)円盤状の金属ベース(クーリングプレート)15とを、熱硬化型接着剤からなる複合接着剤層17を介して接合したものである。」

「【0072】
更に、外部ダム91と第1、第2内部ダム93、95とで囲まれた領域S、すなわち、(接合面11の平面方向において)外部ダム91の内側と第1、第2内部ダム93、95の外側との間の閉鎖された領域Sには、各ダム91?95と同様な例えばシリコーン接着剤である熱硬化型接着剤からなる接着剤層(第1の接着剤層)97が構成されている。」

(イ)上記(ア)から、引用文献5には、次の技術が記載されていると認められる。
a.静電チャック1を構成するセラミック絶縁板9と金属ベース15とを接着する複合接着剤層17の一部である第1の接着剤層97の形成材料は、シリコーン樹脂が好ましく、かつ、接着付与材としてシランカップリング材を含有していてもよいこと。

カ.引用文献6について
(ア)取消理由通知で周知技術を示す文献として引用した引用文献6(特開2008-218992号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、静電チャック又はヒータ付静電チャック等の半導体製造装置用サセプターと冷却板を接合する接合剤及びこの接合剤により接合された半導体製造装置用サセプターと冷却板を備える半導体支持装置に関する。」

「【0008】
本発明に係る接合剤は、付加硬化型シリコーン粘着剤からなる硬化シートにより形成され、付加硬化型シリコーン粘着剤は、1分子に2個以上のビニル基を含有するオルガノポリシロキサンと、R_(3)S_(i)O_(1/2)(Rは脂肪族不飽和結合を有しない炭素数1?6の1価炭化水素基)で表される単位(以下Mと表記)とSiO_(4/2)で表される単位(以下Qと表記)とをR_(3)S_(i)O_(1/2)単位/S_(i)O_(4/2)単位のモル比(M/Q比)が0.6以上1.6以下の範囲内になる割合で含むオルガノポリシロキサンレジンと、ケイ素原子結合水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金触媒と、20[vol%]以上50[vol%]以下の含有率を有する熱伝導性フィラーとを含有する。
【0009】
付加反応硬化型シリコーン粘着剤組成物は、好ましくは、
(A)1分子中に2個以上のビニル基を有するジオルガノポリシロキサン、
(B)R_(3)S_(i)O_(1/2)単位(Rは脂肪族不飽和結合を有しない炭素数1?6の1価炭化水素基)及びS_(i)O_(4/2)単位を含有し、R_(3)S_(i)O_(1/2)単位/S_(i)O_(4/2)単位のモル比が0.6?1.6であるオルガノポリシロキサンレジン、
(C)SiH基を1分子中に3個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(D)白金系触媒、及び
(E)熱伝導性フィラー
とを含有する組成物よりなるものである。」

「【0028】
本発明に係る接合剤は、例えば図1に示すような、半導体ウェハ1を支持する半導体製造装置用サセプター2と、冷却媒体供給路3aに供給された冷却媒体によって半導体製造装置用サセプター2を冷却することにより半導体ウェハ1の温度を制御する冷却板3とを備える半導体支持装置における、半導体製造装置用サセプター2と冷却板3を接合するための接合剤4に適用することができる。なお、図1に示す半導体支持装置では、半導体製造装置用サセプター2、冷却板3、及び接合剤4には、半導体ウェハ1と半導体製造装置用サセプター2の間にガスを供給するためのガスチャンネル5と、リフトピンを挿入して半導体製造装置用サセプター2から半導体ウェハ1を取り外すためのリフトピン穴6が形成されている。」

(イ)上記(ア)から、引用文献6には、次の技術が記載されていると認められる。
a.半導体支持装置を構成する半導体製造装置用サセプター2と冷却板3とを接着する接合材4の形成材料は、付加硬化型シリコーン粘着剤であり、該付加硬化型シリコーン粘着材は、オルガノポリシコキサンレジンを含有すること。

(3)当審の判断
ア.本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と引用発明1Aとを対比すると、次のことがいえる。
a.引用発明1Aの「ウエハーW」は、本件訂正発明1の「板状試料」に相当する。

b.引用発明1Aの「一主面をウエハーWを載置する載置面」は、本件訂正発明1の「一主面を板状試料を載置する載置面」に相当する。

c.引用発明1Aの「静電電極14」は、本件訂正発明1の「静電吸着用内部電極」に相当する。

d.引用発明1Aの「一主面をウエハーWを載置する載置面とするとともに静電電極14を内蔵したプレート12」は、本件訂正発明1の「一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部」に相当する。

e.引用発明1Aの「接着層30」は、本件訂正発明1の「接着層」と、後記相違点1、2で相違するものの、接着層である点で一致する。

f.引用発明1Aの「プレート12を所望の温度に調整する冷却板20」は、本件訂正発明1の「静電チャック部を所望の温度に調整する温度調整用ベース部」に相当する。

g.引用発明1Aの「ウエハー載置装置10」は、「プレート12」と「接着層30」と「冷却板20」とをこの順に有するから、本件訂正発明1の「静電チャック装置」と、下記相違点1で相違するものの、「静電チャック部」と「接着層」と「温度調整用ベース部」とをこの順に有する点で一致する。

したがって、本件訂正発明1と引用発明1Aとの間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、接着層と、前記静電チャック部を所望の温度に調整する温度調整用ベース部とをこの順に有する静電チャック装置。」

<相違点>
(相違点1)
本件訂正発明1の「静電チャック装置」は、「前記接着層に対して160℃、100時間の条件で加熱を行ったとき、該接着層の該加熱前の20℃におけるヤング率E1(20)及び該加熱後の20℃におけるヤング率E2(20)が、下記(1)式を満たすとともに」、
「|(E2(20)-E1(20))/E1(20)|≦2.0・・・(1)
前記接着層の、前記加熱前の180℃におけるヤング率E1(180)及び前記加熱後の180℃におけるヤング率E2(180)が、下記(2)式を満たす」、
「|(E2(180)-E1(180))/E1(180)|≦2.0・・・(2)」のに対して、引用発明1Aはこの点について特定しておらず不明である点。

(相違点2)
本件訂正発明1の「接着層」は、「平均粒子径が1μm以上10μm以下のフィラーを含む」のに対して、引用発明1Aはこの点について特定しておらず不明である点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点1、2についてまとめて検討する。
上記(2)ア.(ア)のとおり、引用文献1の段落【0026】、【0034】、【0035】、【0049】、【0055】、【0056】、図1には、引用発明1Aの「ウエハー載置装置10」の製造方法として、プレート12と冷却板20とを貼り合わせて仮接合体を110とし、仮接合体110のうちプレート12と冷却板20との間の空間内に注入した流動性接着剤131を、大気炉にて所定条件下で硬化させ、仮接合体110を真空中、145℃?155℃の温度で70?90時間下でベーキングして流動性接着剤131を完全に硬化させて、主接着部31とする製造方法が開示されている。特に、実施例1として、該硬化物に対して150℃、80時間ベーキングして流動性接着剤を完全に硬化させる製造方法が開示されている。
上記ベーキングの条件である「145℃?155℃の温度で70?90時間」及び「150℃、80時間」は、本件訂正発明1の相違点1に係る加熱の条件「160℃、100時間」とほぼ同等であり、しかも、本件特許明細書の段落【0059】に開示された熱処理条件の数値範囲「100℃以上200℃以下の温度で80時間以上」を満たしていることに照らすと、当該ベーキングによって得られる引用発明1Aの接着層30は、相違点1に係る160℃、100時間の条件での加熱前後の、20℃におけるヤング率の差及び180℃におけるヤング率の差の数値範囲を満たす態様を含むと解される。
一方、引用文献1には、接着層30にフィラーが含まれることを示唆する記載が存在しない。
そこで、引用発明1Aにおいて、接着層30にフィラーを加えた後、ベーキングの処理を行うことの可否について検討すると、フィラーが含まれる接着剤に対して、本件訂正発明1を満たす条件で加熱を行ったときに、接着層のヤング率が、本件訂正発明1の(1)及び(2)の数値範囲を満たすことは、引用文献1-6には記載も示唆もされていない。
ここで、引用文献2ないし4に記載されているとおり、「静電チャック装置を構成する静電チャック部と温度調整用ベース部とを接着する接着層に、接着剤全体積基準で5体積%以上30体積%以下であるフィラーを含有させること」は、周知の技術であったといえ、また、引用文献5、6に記載されているとおり、「シリコーン系樹脂の反応性希釈剤の具体的な組成物として、モノマーベースではシランカップリング剤、ポリマーではレジン等」は、周知であったといえる。
しかしながら、「静電チャック装置を構成する静電チャック部と温度調整用ベース部とを接着する接着層に、平均粒子径が1μm以上10μm以下のフィラーを含有させること」、及び「静電チャック装置を構成する静電チャック部と温度調整用ベース部とを接着する接着層に、接着剤全体積基準で5体積%以上30体積%以下であるフィラーを含有させること」が周知の技術であり、また、「シリコーン系樹脂の反応性希釈剤の具体的な組成物として、モノマーベースではシランカップリング剤、ポリマーではレジン等」が周知であるとしても、160℃、100時間の加熱前後のヤング率が不明である接着層30を有する引用発明1Aにおいて、接着層30の当該ヤング率を所定の数値範囲を満たすものとする動機付けがない。
そして、本件訂正発明1は、このような構成を備えることにより、「高温で長時間使用しても静電チャック部に形状変化がなく、面内の温度均一性に優れる静電チャック装置を提供する」という効果を含む本願明細書に記載された顕著な効果を奏するものと認められる。

(ウ)小括
上記(イ)のとおりであるから、引用発明1Aに引用文献2-6に記載された技術を適用して、相違点1、2について本件訂正発明1の構成とすることを、当業者が容易になし得たとはいえない。

イ.本件訂正発明2、3、5-7について
本件訂正発明2、3、5-7は、相違点1、2に係る構成を含み、更に限定したものであるから、本件訂正発明2、3、5-7も、引用発明1A及び引用文献2-6に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.本件訂正発明8について
(ア)対比
本件訂正発明8と引用発明1Bとを対比すると、引用発明1Bの「硬化させる工程」と、「145℃?155℃の温度で70?90時間(例えば、150℃、80時間)でベーキングして流動性接着剤131を完全に硬化させて、硬化物からなる主接着部31とする工程」は、それぞれ本件訂正発明8の「接着する工程」と、「100℃以上200℃以下の温度で80時間以上熱処理する工程」に相当する。また、その他の一致点及び相違点は、上記ア.(ア)と同様である。

(イ)判断
上記ア.(イ)と同様にして、引用発明1Bに引用文献2-6に記載された技術を適用して、相違点について本件訂正発明8の構成とすることを、当業者が容易になし得たとはいえない。

エ.特許異議申立人の意見について
特許異議申立人 坂岡 範穗は、「文献1に記載された接着層30は、セラミックス製のプレート12の裏面と冷却板20の表面を接着するものである(段落0024)。そのため、文献1では、冷却板20によってプレート12を効率よく冷却するために、接着層30には高い熱伝導性が求められる。」と主張し、文献2-4において静電チャック装置に1μm以上かつ10μm以下のフィラー、又はAlN粒子を含有させる目的は、静電チャック装置の接着層の熱伝導性を改善するためであるから、文献1において、接着層30の熱伝導性を向上させるために、接着層30に平均粒径が1μm以上かつ10μm以下のフィラーを含有させることには、明確な動機付けが存在することを主張するとともに、
本件特許明細書の段落0068に記載された実施例1-6を参照すれば、接着層30に平均粒径が1μm以上かつ10μm以下のフィラーを含有させたものは、本件訂正発明1におけるヤング率の数値範囲を満たしている蓋然性が極めて高い旨を主張する。
しかしながら、上記ア.(イ)で検討したとおり、接着層に平均粒径が1μm以上かつ10μm以下のフィラーを加えることが周知であるとしても、引用発明1Aにおいて、160℃、100時間の加熱前後のヤング率が不明であるから、接着層30の当該ヤング率を所定の数値範囲を満たすものとする動機付けがない。
よって、特許異議申立人 坂岡 範穗の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-3、5-8に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件請求項1-3、5-8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項4に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人 坂岡 範穗による特許異議の申立てについて、本件請求項4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、接着層と、前記静電チャック部を所望の温度に調整する温度調整用ベース部とをこの順に有し、
前記接着層に対して160℃、100時間の条件で加熱を行ったとき、該接着層の該加熱前の20℃におけるヤング率E1(20)及び該加熱後の20℃におけるヤング率E2(20)が、下記(1)式を満たすとともに、
|(E2(20)-E1(20))/E1(20)|≦2.0 ・・・ (1)
前記接着層の、前記加熱前の180℃におけるヤング率E1(180)及び前記加熱後の180℃におけるヤング率E2(180)が、下記(2)式を満たす、
|(E2(180)-E1(180))/E1(180)|≦2.0 ・・・ (2)
静電チャック装置であって、
前記接着層が、平均粒子径が1μm以上10μm以下のフィラーを含む、静電チャック装置。
【請求項2】
前記接着層の、前記加熱後の20℃、180℃におけるヤング率E2(20)、E2(180)が、ともに20MPa以下である請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記接着層が接着剤を用いて形成され、該接着剤がシリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれる1種以上を含む請求項1または2に記載の静電チャック装置。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記フィラーの前記接着剤中の含有量が、接着剤全体積基準で5体積%以上30体積%以下である請求項1?3のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【請求項6】
前記接着剤がシリコーン系樹脂を含み、さらに1種以上の反応性希釈剤を含む請求項1?3、5のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【請求項7】
前記反応性希釈剤の含有量が、接着剤全体積基準で5体積%以上30体積%以下である請求項6に記載の静電チャック装置。
【請求項8】
請求項1?3、5?7のいずれか1項に記載の静電チャック装置の製造方法であって、
一主面を板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、該静電チャック部を所望の温度に調整する温度調整用ベース部とを、接着剤を介して接着する工程と、
前記接着剤により静電チャック部及び温度調整用ベース部間に形成された接着層を、100℃以上200℃以下の温度で80時間以上熱処理する工程と、を有する静電チャック装置の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-11-09 
出願番号 特願2015-185732(P2015-185732)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 正和  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 西出 隆二
辻本 泰隆
登録日 2019-07-12 
登録番号 特許第6551104号(P6551104)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 静電チャック装置及びその製造方法  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  

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