• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23G
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23G
管理番号 1370032
異議申立番号 異議2020-700750  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-01 
確定日 2021-01-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6675025号発明「カカオ原料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6675025号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6675025号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成31年3月27日に特許出願され、令和2年3月11日にその特許権の設定登録がされ、同年4月1日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年10月1日に特許異議申立人渡辺陽子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6675025号の請求項1?12に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」等という。また、これらをまとめて「本件特許発明」ということがある。)。
「【請求項1】
カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法であって、
前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、
前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持することを特徴とするロースト済みカカオ原料の製造方法。
【請求項2】
前記ロースト工程が、カカオ豆表面の品温を2?3℃/分の速度で昇温しながらカカオ豆の表面品温が130?150℃に達するまで昇温し、表面品温が130?150℃に達した後速やかに加熱を停止することを特徴とする、請求項1に記載のロースト済みカカオ原料の製造方法。
【請求項3】
前記ロースト工程の前に、カカオ豆を、加熱水蒸気を用いて加熱する水蒸気加熱工程を含む、請求項1又は2に記載のロースト済みカカオ原料の製造方法。
【請求項4】
前記水蒸気加熱工程は、カカオ豆の表面品温が70?90℃となるまで昇温し、表面品温が70?90℃に達した後速やかに加熱を停止することを特徴とする、請求項3に記載のロースト済みカカオ原料の製造方法。
【請求項5】
請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。
【請求項6】
テオブロミン100質量部に対して、ピラジン類を0.04?0.09質量部含有することを特徴とする、請求項5に記載のロースト済みカカオ原料。
【請求項7】
ピラジン類100質量部に対して、テトラメチルピラジンを40?70質量部含有することを特徴とする、請求項6に記載のロースト済みカカオ原料。
【請求項8】
前記テオブロミン100質量部に対して、イソ吉草酸を0.025?0.085質量部含むことを特徴とする、請求項5?7の何れかに記載のロースト済みカカオ原料。
【請求項9】
さらに、テトラメチルピラジンとイソ吉草酸との質量比が1:1?1:3であることを特徴とする、請求項5?8の何れかに記載のロースト済みカカオ原料。
【請求項10】
酢酸2-フェニルエチルとテトラメチルピラジンとの質量比が1:1?1:3であることを特徴とする、請求項5?9の何れかに記載のロースト済みカカオ原料。
【請求項11】
カカオ原料を2?30質量%含む10℃以下で喫食される油中水型食品であって、前記カカオ原料の総量のうち、請求項5?10の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の割合が5?100質量%であることを特徴とする、油中水型食品。
【請求項12】
請求項11に記載の油中水型食品からなる第1部分と、他の食品からなる第2部分を該第1部分に接した状態で含む複合食品であって、
前記第1部分は、前記第2部分に対し、前記複合食品に占める体積割合が小さく、かつ、板状、薄層状及び粒状の何れかの状態で存在する、複合食品。」

第3 申立理由の概要及び証拠
異議申立人が申し立てた理由の概要及び証拠方法は、次のとおりである。

1.申立理由の概要
(1)申立理由1(新規性)
本件特許発明1、3乃至10は、甲第1号証乃至甲第10号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明1、3乃至10に係る特許は、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(進歩性)
本件特許発明1乃至12は、甲第1号証乃至甲第15号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1乃至12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?12を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本件特許発明1?12に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(サポート要件)
本件特許発明1?12は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許発明1?12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものである。

(5)申立理由5(明確性要件)
本件特許発明2?12は、明確でないから、本件特許発明2?12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものである。

(6)なお、上記申立理由1、2について、主引例となる証拠ごとに分けた申立理由の概要は次のとおりである。

ア 甲第1号証を主引例とする申立理由1、2
本件特許発明1、3乃至10は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明1、3乃至10に係る特許は、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
また、本件特許発明1乃至12は、甲第1号証乃至甲第15号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1乃至12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

イ 甲第2号証を主引例とする申立理由1、2
本件特許発明1、3乃至10は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明1、3乃至10に係る特許は、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
また、本件特許発明1乃至12は、甲第1号証乃至甲第15号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1乃至12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

ウ 甲第3号証を主引例とする申立理由1、2
本件特許発明6、7、10は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明6、7、10に係る特許は、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
また、本件特許発明6、7、10乃至12は、甲第1号証乃至甲第15号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明6、7、10乃至12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

エ 甲第4号証を主引例とする申立理由1、2
本件特許発明6、7は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明6、7に係る特許は、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
また、本件特許発明6、7、11、12は、甲第1号証乃至甲第15号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明6、7、11、12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

オ 甲第5号証を主引例とする申立理由1、2
本件特許発明6、7、9、10は、甲第5号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明6、7、9、10に係る特許は、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
また、本件特許発明6、7、9乃至12は、甲第1号証乃至甲第15号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明6、7、9乃至12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

カ 甲第6号証を主引例とする申立理由1、2
本件特許発明9、10は、甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明9、10に係る特許は、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
また、本件特許発明9乃至12は、甲第1号証乃至甲第15号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明9乃至12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

キ 甲第7号証を主引例とする申立理由1、2
本件特許発明9、10は、甲第7号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明9、10に係る特許は、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
また、本件特許発明9乃至12は、甲第1号証乃至甲第15号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明9乃至12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

ク 甲第8号証を主引例とする申立理由1、2
本件特許発明9は、甲第8号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明9に係る特許は、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
また、本件特許発明9、11、12は、甲第1号証乃至甲第15号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明9、11、12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

ケ 甲第9号証を主引例とする申立理由1、2
本件特許発明8は、甲第9号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明8に係る特許は、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
また、本件特許発明8、11、12は、甲第1号証乃至甲第15号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明8、11、12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

コ 甲第10号証を主引例とする申立理由1、2
本件特許発明8は、甲第10号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明8に係る特許は、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
また、本件特許発明8、11、12は、甲第1号証乃至甲第15号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明8、11、12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件特許発明8、11、12に係る特許は、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。

2.証拠方法
甲第1号証:S.T.BECKETT,"INDUSTRIAL CHOCOLATE MANUFACTURE AND USE: FOURTH EDITION", Wiley-Blackwell, Chapter 6, pp.121-141, 2009
甲第2号証:特開昭58-851号公報
甲第3号証:Journal of Food Processing and Preservation, 2006, 30, pp.280-298
甲第4号証:J.AGR.FOOD CHEM., 1972, VOL.20, NO.2, pp.202-206
甲第5号証:Food Research International, 2015, 77, pp.657-669
甲第6号証:Food Research International, Available online 24 January 2019, 119, pp.84-98
甲第7号証:Food Chemistry, 2016, 205, pp.66-72
甲第8号証:INTERNATIONAL JOURNAL OF FOOD PROPERTIES, 2017, VOL.20, NO.10, pp.2396-2408
甲第9号証:J.Agric.Food Chem., 2008, Vol.56, No.21, pp.10244-10251
甲第10号証:J.Agric.Food Chem., 2006, Vol.54, No.15, pp.5521-5529
甲第11号証:特開2005-95177号公報
甲第12号証:国際公開第2014/103415号
甲第13号証:国際公開第2006/092922号
甲第14号証:特開2005-261391号公報
甲第15号証:Stephen T. Beckett著、古谷野哲夫訳、「チョコレートの科学 その機能性と製造技術のすべて」、株式会社光琳、第3章、第35?44頁、2007年6月30日

第4 証拠の記載事項
1.甲第1号証(以下、「甲1」という。)の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

(1a)「Whole bean roasting was the original method and often used to produce cocoa masses with delicate flavours, due to the preservation of the volatile cocoa flavour notes within the shell during roasting. Also the removal of the shell after this type of roasting is relatively easy, as the shell becomes loose during the roasting.」(第128頁8?12行)

(1aの翻訳)「豆ローストは元来の方法であり、ロースト中、揮発性のカカオの香気成分を殻の中に閉じ込めるので、繊細な香気のカカオマスを生産するためにしばしば使用されていた。ロースト中に殻がゆるんでいるので、このタイプのローストの後の殻の除去は比較的簡単である。」

(1b)「Effective debacterization can be carried out by adding water and assuring the presence of steam in the drum. Roasting temperatures, holding times and amount of water added vary according to the equipment being used and the desired flavour profile of the product.Generally, the final roasting temperature is between 110℃ and 140℃(230°F and 284°F).」(第129頁7?11行)

(1bの翻訳)「有効な殺菌は、ドラムに水を加えて水蒸気を充満させることにより行うことができる。ロースト温度、保持時間、及び添加する水の量は、使用する装置や、製品にどのような香りを希望するかによって変化する。一般的に、最終的なロースト温度は110℃から140℃(230°Fから284°F)である。」

(1c)「Several suppliers also make continuous drum roasters. A continuous flow of nib or beans is fed into a drum, which is heated by a hot air flow. Air temperature and dwell time regulate the degree of roast.」(第130頁1?3行)

(1cの翻訳)「連続式ドラムロースターを製造する供給元もいる。ニブ又は豆の連続的な流れをドラムに供給し、熱風で加熱する。熱風温度及び滞留時間でローストの程度を調節する。」

(1d)「Ziegleder and Oberparleiter (1996) have proposed a moisture treatment prior to roasting. In this, steam is condensed on the nib, resulting in a water addition of about 15%. This moisture aids the formation of more flavour precursors during the 10-15 min processing time at 40-60℃(104-140°F).」(第127頁20?23行)

(1dの翻訳)「ZieglederとOberparleiter(1996年)は、ロースト前の加湿処理を提案した。これにより、水蒸気がニブの上で凝縮し、約15%の水分が添加される。この水分は、40から60℃(104から140°F)における10から15分の処理時間で、より香気成分前駆体の生成を促す。」

(1e)「Cocoa flavour is the most distinctive feature of chocolate and depends amongst other things upon the raw materials used, especially the cocoa beans. The processing, in particular roasting, is also very important in developing the desired chocolate flavour.
Following bean or nib roasting the cocoa nib is ground into cocoa mass, which is a liquid when hot, but solid at room temperature.」(第121頁2?7行)

(1eの翻訳)「カカオフレーバーは、チョコレートの最も顕著な特徴であり、とりわけ使用される原料、特にカカオ豆に依存する。加工、特に焙煎も、所望のチョコレート風味を発現させるのに非常に重要である。
豆またはニブを焙煎した後、カカオニブを粉砕して、熱いときは液体であるが室温では固体であるカカオマスにする。」


2.甲第2号証(以下、「甲2」という。)の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(2a)「剥皮処理前のカカオ豆に水もしくは蒸気またはこれらと共に糖類もしくは乳固形分を施与し、カカオ豆のニブ水分を8?30重量%に加水調整した後、水分を除去してニブ水分を1?5重量%に調整し、引続いて加熱焙炒することを特徴とするカカオマスの調整方法。」(特許請求の範囲(1))

(2b)「ブラジル産カカオ豆を庶糖0.05%、乳糖0.05%、全脂粉乳0.1%を含む98℃の水溶液に60分間浸漬し、カカオ豆のニブ部分を水分含有率13.1%に調整した後、熱風乾燥機を用い100℃で2時間予備加熱乾燥を行いカカオ豆の二ブ部分を水分含有率3.9%に調整した。このカカオ豆を熱風式縦型カカオ豆ローセターに投入して130℃で40分間加熱焙炒した後、通常の方法で破砕して皮と胚芽とを除去し、ローラーミルで磨砕してカカオマスを得た。」(第4頁右上欄第12行?左下欄第1行)

(2c)「

」(第1及び2表)

(2d)「カカオ豆のニブ部水分を温度60?100℃で熱風乾燥して除去する特許請求の範囲第1項記載のカカマスの調整方法。」(特許請求の範囲(6))

(2e)「チョコレートの作製
上記、調整方法によって得られたカカオマス35%と、あらかじめ加温し液状にしておいたカカオバター15%と全脂粉乳5%と、粉糖45%とを混合機に入れ38?43℃で30?45分間充分に混合した後、リファイナーに移して35?36℃においてその粒子が40μ以下になるように均ーに微細化した。次いでコンチングマシンに移し約60℃に加温しながら40時間撹拌混和し、コンチング終了直前に乳化剤としてレシチン0.5%と若干の香料とを添加して均質化したのち27?32℃でテンパリングを行った。この液状チョコレートを所定のモールドに充填し、モールドを振動せしめ脱気し冷却トンネルを通過させチョコレートを冷却固化した。この結果を本発明例(試料1)として第1表に示す。
次に第1表に記載のカカオ豆を用い、これに所定の操作を施しカカオマスを得、該カカオマスを用いて実施例1と同様に配合してチョコレートを得た結果を本発明例(試料2、3)及び比較例として併せて第1表に示した。これら本発明例(試料1?3)及び比較例のチョコレートについて前記試験し、その結果を第2表に示した。」(第4頁左下欄2行?右下欄5行)

3.甲第3号証(以下、「甲3」という。)の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

(3a)「



(3aの翻訳)「



(3b)「



(3bの翻訳)「



(3c)「



(3cの翻訳)「



(3d)「



(3dの翻訳)「



(3e)「Chocolate Preparation
Dark chocolates were prepared by the standard method (Cook and Meursing 1982). After roasting, about 500-g cocoa nibs was ground with an end runner mi11 for about 1 h to produce cocoa liquor. Dark chocolates were prepared using the following recipe: sugar(46%), cocoa liquor(19%), lecithin(0.41%) and cocoa butter(0.02%). The dark chocolates were kept in a capped sample bottle and kept in an oven maintained at 45-50C.」(第284頁、第2段落)

(3eの翻訳)「チョコレートの製造
ダークチョコレートは、標準的な方法で製造した(Cook及びMeursing1982年)。焙煎後、約500gのカカオニブをエンドランナーミルで約1時間挽き、カカオリカーを製造した。ダークチョコレートは以下の処方を用いて製造した:砂糖(46%)、カカオリカー(19%)、レシチン(0.41%)及びカカオバター(0.2%)。ダークチョコレートは蓋つきの試料瓶に保存し、45から50℃のオーブン中で保存した。」

(3f)「



(3fの翻訳)「



(3g)「Materials
The Malaysian cocoa beans (grade SMC1A) were obtained from KL-Kepong Cocoa Specialities Sdn. Bhd., Klang, Selangor, Malaysia.」(第282頁下から4行?2行)

(3gの翻訳)「材料
マレーシアのカカオ豆(グレードSMC1A)は、マレーシアセランゴール州クランのKL-Kepong Cocoa Specialities Sdn Bhd.から入手した。」

(3h)「Roasting and Sample Preparation
Approximately 500-g portions of cocoa beans of uniform size were poured and roasted in a forced airflow-drying oven (Memmert, Schwabach, Germany).
The parameters of thermal processing were as follows: temperatures of 120, 130, 140, 150, 160 and 170C for 20,30,40 and 50 min; airflow rate of 1.0m/s, which was regarded as the optimum flow rate based on the results of earlier studies carried out by Krysiak et al. (2003); and relative air humidity of 0.5% at all the temperatures.」(第283頁8?15行)

(3hの翻訳)「焙煎および試料調製
均一なサイズのカカオ豆約500gを注ぎ、強制気流乾燥オーブン(Memmert,Schwabach,Germany)で焙煎した。熱処理のパラメータは、以下のとおりであった:温度120、130、140、150、160および170℃で20、30、40および50分間;気流速度1.0m/s、これは、Krysiakらの2003年の論文によって行われた以前の研究の結果に基づいて最適な流速とみなされた。;および全ての温度で0.5%の相対空気湿度。」

4.甲第4号証(以下、「甲4」という。)の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。

(4a)「



(4aの翻訳)「



(4b)「Source of Cocoa Beans. Cocoa beans from the major producing countries were supplied by several chocolate manufacturers. Included were beans from Brazil (Bahia), Ghana, Ecuador(Arriba), Mexico (Tabasco), the Dominican Republic (Sanchez), and Samoa.」
(第202頁右欄20?24行)

(4bの翻訳)「カカオ豆の供給源。主要生産国からのカカオ豆はチョコレート製造業者によって供給されたものである。ブラジル(バヒア)、ガーナ、エクアドル(アリバ)、メキシコ(タバスコ)、ドミニカ共和国(サンチェス)及びサモアからの豆を含む。」

5.甲第5号証(以下、「甲5」という。)の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。

(5a)「



(5aの翻訳)「



(5b)「



(5bの翻訳)「



(5c)「Prior to analysis, all samples were roasted in the same manner at 150°C for 30 min in a hot air oven (Termaks, Lien 79, N-5057 Bergen, Norway).」(第659頁右欄13?15行)

(5cの翻訳)「分析に先立ち、すべての試料は熱風オーブン中にて、150℃で30分間、同じように焙煎した(ノルウェー、ベルゲン、Termaks , Lien 79, N- 5057)」

6.甲第6号証(以下、「甲6」という。)の記載事項
甲6には、以下の事項が記載されている。

(6a)「



(6aの翻訳)「



(6b)「



(6bの翻訳)「



(6c)「A preliminary study on the impact of PS and RT on the aroma profiles of Ghanaian cocoa liquors was performed to select the PS and RT to be applied in the present study. In this preliminary study, a 3×5 full factorial experiment comprising of PS; 0, 3 and 7 days and roasting conditions; 100, 120, 135, 140 and 160°C each with a constant roasting duration of 35 min was used.」(第85頁右欄7?12行)

(6cの翻訳)「PS及びRTが、ガーナのカカオリカーの芳香性の特徴に与える影響について予備調査を行い、本研究に用いるPS及びRTを選択した。この予備調査において、PSについて0、3、7日、RTについて100、120、135、140、160℃の3×5通りのすべてについて要因実験を行った。いずれの実験においても一定の35分間という焙煎時間を使用した。」

(6d)「2. 3. Chocolate production
Sixteen batches of 70% dark chocolate (total fat=43%) consisting of 30.00% pre-broken sugar (Barry Callebaut Belgium, Wieze, Belgium), 64.65% cocoa liquor, 5.00% cocoa butter (Puratos-Belcolade, Erembodegem, Belgium) and 0.35% soy lecithin (Soya International Ltd., Cheshire, U.K.) were produced on a 5 kg scale. Mixing was carried out using the VEMA BM 30/20 planetary mixer (Machinery Verhoest NV/Vema Construct, Izegem, Belgium) for a duration of 20 min at 45°C. The mixed ingredients (27% fat) was refined with the Exakt 80S 3-roll refiner (Exakt Technologies, inc., USA) at gap setting 2-1, roller speed of 400rpm and temperature of 35°C. The refined chocolate mass was then conched in a Buhler ELK'olino conche (Richard Frisse GmbH, Bad Salzuflen, Germany) in two phases. The dry phase was carried out at 60°C with 1200 rpm for two hours (clockwise) and 80°C with 1200 rpm for four hours (anti-clockwise). At the liquid phase, calculated amounts of pre-conched cocoa liquor, cocoa butter and the soy lecithin were added, such that, the final fat content of the chocolate was 43%. Here, the process was carried out as follows; 45°C with 2400 rpm for 15 min (clockwise) and 15 min (anti-clockwise). Pre-conching of part of the cocoa liquor was necessary since the entire amount of cocoa liquor required to produce final chocolate consisting of 70% cocoa could not be included in the recipe prior to the dry conching phase. Hence, for each batch, equal amounts of cocoa liquor was previously dry-conched using the same dry conching procedure, of which specific required amounts were later added at the stage of liquid conching in order to make up for this final concentration. This production method was inspired by the Cocoa of Excellence Program.」
(第86頁左欄下から28行?最下行)

(6dの翻訳)「2.3 チョコレートの製造
30.00%の粉糖(ベルギー、ウィーゼ、Barry Callebaut Belgium社)、64.65%のカカオリカー、5.00%のカカオバター(ベルギー、エーレムボーデゲム、Puratos-Belcolade社)、及び0.35%の大豆レシチン(イギリス、チエシャ州、Soya International Ltd.)からなる70%ダークチョコレート(全脂肪=43%)のバッチ16個を5kgのスケールで製造した。攪拌は、遊星型ミキサーVEMA BM 30/20(ベルギー、イゼゲム、Machinery Verhoest NV/Vema Construct社)を用いて45℃で20分間、行った。攪拌した原材料(27%脂肪)は、Exakt 80S 3本ロール精製機(米国、Exakt Technologies社)を、ギャップ設定2-1、ローラースピード400rpm、及び35℃の温度で用いて磨砕した。次に、磨砕したチョコレートマスをBuhler ELK'olino撹拌機(ドイツ、バート・ザルツウフレン州Richard Frisse社)において2つの相でコンチングした。乾燥相は60℃、1200rpmで2時間(時計周り)、及び80℃、1200rpmで4時間(反時計回り)行った。液相では、チョコレートの最終的な脂肪含有量が43%になるように計算した量の、予備コンチングされたカカオリカー、カカオバター、及び大豆レシチンを添加した。ここでは、45℃、2400rpmにおいて時計周りで15分間、さらに反時計回りで15分間、処理を行った。カカオリカーの一部を予備コンチングすることが必要であったのは、70%のカカオからなる最終的なチョコレートを製造するために必要なカカオリカーの量を、乾燥コンチング相の前に、レシピに含めることができなかったからである。したがって、各バッチについて、同じ乾燥コンチング手順で、同じ量のカカオリカーの乾燥コンチングを前もって行い、その特定の必要な量は、この最終的な濃度を達成するために、後で、液体コンチングの段階で、添加された。この製造方法は、『素晴らしいプログラムのカカオ』からヒントを得た。」

(6e)「The impact of pod storage (PS) and roasting temperature (RT) on the aroma profiles of dark chocolates were evaluated.」(第84頁ABSTRACT1?2行)

(6eの翻訳)「ダークチョコレートの芳香プロファイルに対するポッド貯蔵(PS)および焙煎温度(RT)の影響を評価した。」

(6f)「Pod storage is an on/off-farm practice of storing harvested cocoa pods under specific duration of time prior to fermentation (Hinneh et al., 2018)」(第85頁左欄15?17行)

(6fの翻訳)「さや貯蔵は、発酵前の特定の持続時間の下で収穫されたカカオさやを貯蔵するオン/オフ農場の慣行である(Hinnehら、2018)」

7.甲第7号証(以下、「甲7」という。)の記載事項
甲7には、以下の事項が記載されている。

(7a)「



(7aの翻訳)「



(7b)「For each batch a part was roasted separately at 150°C for 30 min in a hot air oven (Termaks, Lien 79, N-5057 Bergen, Norway) (Tran et al., 2015).」
(第67頁右欄49?51行)

(7bの翻訳)「各バッチについて、一部を熱風オーブン中にて、150℃で30分間、別に焙煎した(ノルウェー、ベルゲン、Termaks, Lien 79, N-5057) (Tran等、2015年)。」

8.甲第8号証(以下、「甲8」という。)の記載事項
甲8には、以下の事項が記載されている。

(8a)「



(8aの翻訳)「



(8b)「Three batches of cocoa liquors from five geographical regions: Ghana (forastero), CM (forastero), ID (forastero), Ivory Coast (CI; forastero), and PNG (forastero) were supplied by Barry Callebaut (Klang, Malaysia). All the products were prepared, including roasting, decladding, and grinding, based on the cocoa liquor preparation stages of the International Office of Cocoa, Chocolate, and Sugar Confectionery (IOCCC) Analytical Method Number 13, 1971.」(第2397頁44?48行)

(8bの翻訳)「5ヵ所の地理的領域:ガーナ(フォラステロ)、CM(フォラステロ)、ID(フォラステロ)、コートジボワール(CI;フォラステロ)、PNG(フォラステロ)のカカオリカーの3つのバッチが、Brary Callebaut (マレーシア、クラング)により供給された。すべての製品は、焙煎、脱殻、及び粉砕を含めて、「ココア、チョコレート、砂糖菓子国際事務局(IOCCC)分析方法番号13、1971年」のカカオリカー製造段階に基づいて、製造したものである。」

9.甲第9号証(以下、「甲9」という。)の記載事項
甲9には、以下の事項が記載されている。

(9a)「



(9aの翻訳)「



(9b)「Cocoa Beans. Fermented and dried Criollo cocoa beans (Theobroma cacao L.) from Grenada were supplied by a chocolate producing company. Roasting of the beans was performed in a laboratory scale with a coffee-roaster (Probat BRZ 4, Emmerich, Germany). Cocoa beans were freshly roasted for each experiment, and roasting conditions were optimized by variation of roasting time and temperature. The overall aroma generated was checked by sensorial evaluation of the roasted samples in comparison to industrially roasted samples. A temperature of 95°C applied for 14 min was finally judged to deliver the characteristic and desired aroma of roasted cocoa beans.」(第10245頁左欄26行?右欄3行)

(9bの翻訳)「カカオ豆。グレナダ産の発酵乾燥済みクリオロ種カカオ豆(Theobroma cacao L.)は、チョコレート製造会社によって提供されたものである。豆の焙煎は、コーヒー焙煎機(ドイツ、エメリッヒ、Probat BRZ 4)を使用して実験室スケールで行った。カカオ豆は、実験ごとに新しく焙煎し、焙煎条件は、焙煎時間及び温度の変更に応じて最適化した。生じた芳香物質の全体を、工業的に焙煎した試料と比較して、焙煎済み試料の官能評価により確認した。95℃の温度で14分間というのが、焙煎済みカカオ豆の特徴的かつ望ましい芳香を伝えると判断した。」

10.甲第10号証(以下、「甲10」という。)の記載事項
甲10には、以下の事項が記載されている。

(10a)「



(10aの翻訳)「



(10b)「For chocolate production, roasted cocoa nibs (broken beans) are ground and liquified by heating to obtain the cocoa liquor, which is then separated into cocoa powder and cocoa butter by pressing.」(第5521頁左欄10?13行)

(10bの翻訳)「チョコレート製造のために、焙煎されたカカオニブ(粉砕された豆)を粉砕し、加熱によって液化させてカカオリカーを得、次いでこれを圧縮によってカカオ粉末とカカオバターとに分離する。」

(10c)「Materials. Partially defatted cocoa powder (20% fat content) was obtained from a cocoa powder manufacture and was stored at 4℃ before analysis.」(第5522頁右欄2?6行)

(10cの翻訳)「材料 部分的に脱脂されたココア粉末(20%の脂肪含有量)をココア粉末製造会社から得、分析前に4℃で保存した。」

11.甲第11号証(以下、「甲11」という。)の記載事項
甲11には、以下の事項が記載されている。

(11a)「



12.甲第12号証(以下、「甲12」という。)の記載事項
甲12には、以下の事項が記載されている。

(12a)「



(12b)「



13.甲第13号証(以下、「甲13」という。)の記載事項
甲13には、以下の事項が記載されている。

(13a)「焙煎開始時から15分程度までに、125℃前後となるように炭釜13からの熱量をコントロールする。」(【0044】)

(13b)「焙煎開始時から20分程度までに、135℃前後となるように炭釜13からの熱量をコントロールする。」(【0045】)

(13c)「焙煎開始後15分程度から20分程度に至るまでに、2℃/分のペースで炭火による昇温を行うようにしてもよい。このとき、昇温ペースは、0.5?3℃/分程度の範囲でばらつきがあってもよいが、1.5?2.5℃/分のペースの範囲内で昇温を行うことが望ましい。」(【0050】)

14.甲第14号証(以下、「甲14」という。)の記載事項
甲14には、以下の事項が記載されている。

(14a)「次にアルカリ処理されたカカオニブの焙焼を行う。通常カカオニブの焙焼は、カカオニブに熱風をあてたり、転動するカカオニブに熱せられた壁面から熱を伝達することによって行われる。」(【0017】)

(14b)「焙焼温度は、好ましくは120?180℃、より好ましくは145?165℃がよい。120℃未満ではカカオの生焼けした風味が残り、180℃を越える場合には焦げが発生するので好ましくない。なお焙焼温度とはカカオニブ表面の到達最高温度を意味する。」(【0018】)

15.甲第15号証(以下、「甲15」という。)の記載事項
甲15には、以下の事項が記載されている。

(15a)「

」(第38頁図3-3)

第5 当審の判断
1.申立理由1、2(新規性進歩性)
(1)甲1を主引用例とする申立理由1、2
ア 甲1に記載された発明
甲1の第121頁(摘記1e)には、カカオ豆について、豆を焙煎した後、カカオマスにする製造方法が記載され、第130頁(摘記1c)には、豆を熱風で加熱すること、熱風温度及び滞留時間でローストの程度を調節すること、第129頁(摘記1b)には、一般的に最終的なロースト温度は、110℃から140℃であることが記載されている。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。
(甲1発明)
カカオ豆を熱風で加熱して、最終的なロースト温度を110℃から140℃とした後、カカオマスにする製造方法。

イ 本件特許発明1と甲1発明の対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「カカオマス」は、本件特許明細書【0025】の記載によれば、本件特許発明1の「カカオ原料」に相当する。
そして、甲1発明は、カカオ豆を熱風で加熱しているところ、加熱によりローストされているといえるから、甲1発明の「カカオ豆を熱風で加熱して」いる工程は、本件特許発明1の「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程」に相当し、甲1発明の「カカオマス」は、加熱されているから本件特許発明1の「ロースト済みカカオ原料」に相当するものといえる。
また、甲1発明では、「最終的なロースト温度を110℃から140℃」としているから、カカオ豆の表面品温も110℃から140℃となるように昇温していると認められ、そうすると、甲1発明と本件特許発明1は、「ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含」む方法である点で表面品温の範囲が重複している。
以上によると、本件特許発明1と甲1発明は、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法であって、前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含むロースト済みカカオ原料の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点1」という。)。
(相違点1)
本件特許発明1は、「前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」方法であるのに対し、甲1発明は、そのような方法であるか不明な点。

ウ 相違点1の判断
甲1には、「前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」方法について、記載も示唆もされていない。
そして、本件特許明細書【0033】には、上記「前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」方法とするために、「初めに、焙煎前のカカオ豆の表面温度を50?70℃程度としておき、ここから、例えば20?30分、・・・かけてカカオ豆の表面温度を130?150℃、・・・に昇温する」こと、「焙煎前のカカオ豆の中心温度も、表面温度より10?20℃低いことが好ましく、・・・例えば、40?60℃程度としておくことが好ましい」こと、「カカオ豆の表面温度は1?3.5℃/分、・・・の速度で昇温させることが好ましい」こと、並びに、焙煎前のカカオ豆の中心温度を10?20℃低くしておく方法として、「焙煎前に、カカオ豆に水蒸気を5分程度供給し、カカオ豆の表面温度を約70?90℃とした後、一旦冷却してカカオ豆の表面温度を50?70℃程度とする方法が好ましい。」こと、「このように、カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面を十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心はあまり加熱しない(つまりカカオ豆の表面温度に対して10?20℃低い温度に維持する)ことができ、本発明のカカオ原料を製造することができる。」と記載されている。
また、本件特許明細書【0039】?【0040】には、実施例として、「初めに、釜内のカカオ豆に対し、水蒸気を5分供給し、表面温度を約80℃に到達させた。この時点で速やかに水蒸気の供給を停止し、釜内よりカカオ豆を取り出して、熱風式の焙煎装置内(熱風温度:170℃)へ投入し、各実施例、比較例について、以下の表に示す条件で焙煎をした。
そして、約30分の焙煎後、表に示す表面温度に到達した時点で焙煎装置内から取り出し、自然冷却した。」ことが記載され、【表1】によれば、この実施例は、「前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」方法であったことが理解できる。
これら本件特許明細書の記載によれば、「前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」ための具体的な方法として、焙煎前のカカオ豆の表面温度と表面温度130?150℃までの昇温時間の制御、焙煎前のカカオ豆の中心温度の制御、カカオ豆の表面温度の昇温速度の制御、並びに、焙煎前に、カカオ豆に水蒸気を5分程度供給し、カカオ豆の表面温度を約70?90℃とした後、一旦冷却してカカオ豆の表面温度を50?70℃程度とする方法が挙げられることが理解できる。
一方、甲1には、甲1発明について、上記の焙煎前のカカオ豆の表面温度や中心温度の制御、昇温時間や昇温速度の制御、並びに、「焙煎前に、カカオ豆に水蒸気を5分程度供給し、カカオ豆の表面温度を約70?90℃とした後、一旦冷却してカカオ豆の表面温度を50?70℃程度とする方法」は記載も示唆もされていないから、甲1発明が、「前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」方法であるということはできない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であり、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、甲1に記載された発明とはいえない。

また、甲1?甲15の記載を検討しても、上記相違点1を、当業者が容易に想到し得るものといえる理由は見当たらないから、本件特許発明1が、甲1発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

エ 異議申立人の主張
異議申立人は、甲1には、ロースト工程の前にカカオ豆を水蒸気処理し、ニブ中の水分を15%程度にすること、該水分が40?60℃において10?15分の処理時間で香味前駆体生成を増大させることが記載されていること(摘記1d)、ニブはカカオ豆の内部に存在するから、ニブ中の水分温度が40?60℃であることは、カカオ豆の中心品温が40?60℃程度であることに相当する蓋然性が高く、したがって、甲1には、焙煎前に、カカオ豆に水蒸気を供給し、一旦冷却してカカオ豆の中心温度を40?60℃程度とすることの開示があるとして、相違点1は、実質的な相違点ではないと主張している。
そこで、上記摘記1dについて検討すると、摘記1dによれば、1996年のZiegleder とOberparleiterによる文献に、ロースト前の、40?60℃、10?15分の加湿処理により、水蒸気がニブの上で凝縮することが記載されていることは理解できるが、同文献の中に記載された加湿処理が、「カカオ豆を熱風で加熱して、最終的なロースト温度を110℃から140℃とした後、カカオマスにする製造方法。」において行われている処理であることは記載されていないから、甲1発明である「カカオ豆を熱風で加熱して、最終的なロースト温度を110℃から140℃とした後、カカオマスにする製造方法。」において、上記ロースト前の40?60℃、10?15分の加湿処理が行われることが、甲1に記載されているということはできない。
また、そもそも、上記文献では、「水蒸気がニブの上で凝縮する」と記載されていることからみて、加湿処理はニブに対して行われており、カカオ豆に加湿処理を行うことは記載されていないから、ニブではなく、カカオ豆をローストする甲1発明において、カカオ豆に加湿処理を行うことが甲1に記載されているとはいえない。
したがって、甲1に、ロースト工程の前に加湿処理を行うことが記載されているとはいえないから、本件特許明細書【0033】や実施例の記載を考慮したとしても、甲1に、相違点1について記載又は示唆されているということはできない。
よって、異議申立人の上記主張は、採用することができない。

オ 甲1を主引例とする申立理由1、2について小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、同様の理由により、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用して限定する本件特許発明2?12も、甲1に記載された発明ではない。
また、本件特許発明1は、甲1発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、同様の理由により、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用して限定する本件特許発明2?12も、甲1発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲2を主引用例とする申立理由1、2
ア 甲2に記載された発明
甲2の本発明例1(摘記2b)には、カカオ豆を98℃の水溶液に浸漬した後、予備乾燥を行い、熱風式縦型カカオ豆ロースターに投入して加熱焙炒することを含むカカオマスの製造方法が記載され、第1表には、本発明例3として、本件発明1の98℃の水溶液の浸漬に代えて100℃の飽和蒸気で6分間処理したこと、予備乾燥は90℃で3時間行ったこと、加熱焙炒は140℃で40分間行ったことが記載されている(摘記2c)。
そうすると、甲2には、本発明例3として、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲2発明」という。)。
(甲2発明)
カカオ豆を100℃の飽和蒸気で6分間処理した後、90℃で3時間の予備乾燥を行い、熱風式縦型カカオ豆ロースターに投入して140℃で40分間加熱焙炒することを含むカカオマスの製造方法。

イ 本件特許発明1と甲2発明の対比
本件特許発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「カカオマス」は、本件特許明細書【0025】の記載によれば、本件特許発明1の「カカオ原料」に相当し、また、甲2発明において、カカオマスはロースターに投入されて加熱焙炒されたものであるから、甲2発明の「カカオマス」は、「ロースト済みカカオ原料」に相当する。
そして、甲2発明は、カカオ豆を熱風式縦型カカオ豆ロースターに投入して加熱焙炒することを含む方法であるから、本件特許発明1とは「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法」である点で一致する。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明は、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点1」、「相違点2」という。)。
(相違点1)
本件特許発明1は、「前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」方法であるのに対し、甲2発明は、そのような方法であるか不明な点。
(相違点2)
本件特許発明1は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温する方法」であるのに対し、甲2発明は、「140℃で40分間加熱焙炒」していても、カカオ豆の表面品温は不明であるから、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温する方法」であるのか不明な点

ウ 相違点1の判断
甲2には、「前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」方法については、記載も示唆もされていない。
そして、上記(1)ウで述べたように、本件特許明細書の【0033】の記載及び【0039】?【0040】の実施例の記載によれば、「前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」方法とするための手段として、焙煎前のカカオ豆の表面温度と表面温度130?150℃までの昇温時間の制御、焙煎前のカカオ豆の中心温度の制御、カカオ豆の表面温度の昇温速度の制御、並びに、焙煎前に、カカオ豆に水蒸気を5分程度供給し、カカオ豆の表面温度を約70?90℃とした後、一旦冷却してカカオ豆の表面温度を50?70℃程度とする方法が挙げられることが理解できる。
一方、甲2発明は、焙煎前に、「カカオ豆を100℃の飽和蒸気で6分間処理した後、90℃で3時間の予備乾燥を行う」方法ではあるが、飽和蒸気を供給後のカカオ豆の表面温度は不明であり、一旦冷却する工程も含まず、昇温速度も不明であるから、甲2発明が、「前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」方法を含むと推認することはできない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点である。

エ 相違点2の判断
甲2発明は、「140℃で40分間加熱焙炒」しているが、140℃で40分間加熱焙炒した結果、カカオ豆の表面品温がどの程度の温度となるのかは不明であるから、甲2発明において加熱焙炒、すなわち、ロースト工程が、「カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温する方法」であるということはできないから、上記相違点2は、実質的な相違点である。

以上のとおり、上記相違点1、2は、いずれも実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲2発明ではなく、甲2に記載された発明ではない。
また、甲1?甲15の記載を検討しても、上記相違点1、2を、当業者が容易に想到し得るものといえる理由は見当たらないから、本件特許発明1が、甲2発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

オ 異議申立人の主張
(ア)相違点1について
異議申立人は、甲2には、ロースト工程の前にカカオ豆を温度60?100℃で熱風乾燥することが記載されており(摘記2d)、かかる場合、ロースト前のカカオ豆の表面品温は60?100℃又はそれ以下である蓋然性が高いから、甲2には、ロースト前のカカオ豆の表面品温は50?70℃程度であることが開示されているといえること、また、甲2発明は、ロースト工程を140℃で行っているところ、その場合、表面品温は140℃まで到達すると理解できることは技術常識であること(摘記15a)を挙げて、甲2には、「ロースト前のカカオ豆の表面品温が50?70℃であること」及び「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温すること」が記載されているから、甲2発明において、カカオ豆の表面品温が130又は140℃である間、カカオ豆の中心品温はカカオ豆の表面品温よりも10?20℃低くなっている蓋然性が高いとして、相違点1は、実質的な相違点ではないと主張している。
しかし、異議申立人の主張となる甲15をみても、温度計指示温と豆外部温度は一致しておらず、本件特許明細書記載の実施例でも、焙煎装置内の熱風温度は170℃であるときに(【0039】)、30分の焙煎時間で表面温度は170℃には達していないから(【表1】)、甲2発明において、ロースト工程を140℃で行っていても、カカオ豆の表面品温は必ずしも140℃とはいえない。同様に、甲2発明において、加熱焙炒前に90℃で予備乾燥をしていても、ロースト前にカカオ豆の表面品温が50?70℃であるかどうかは不明である。
そうすると、甲2発明が、「ロースト前のカカオ豆の表面品温が50?70℃であること」及び「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温すること」を満たす方法であるとはいえず、また、「前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」方法であるともいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は、採用することができない。

(イ)相違点2について
異議申立人は、甲2発明は、ロースト工程を140℃で行っているところ、その場合、表面品温は140℃まで到達すると理解できることは技術常識であるから(摘記15a)、甲2発明は、ロースト工程におけるカカオ豆の表面品温は、140℃に到達すると理解でき、よって、相違点2は、実質的な相違点ではないと主張している。
しかし、上記(ア)で述べたとおり、甲15の記載を検討しても、ロースト工程が140℃であるからといって、カカオ豆の表面品温も140℃であるとは必ずしもいえないから、上記異議申立人の主張は採用できない。

カ 甲2を主引例とする申立理由1、2について小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲2に記載された発明ではなく、同様の理由により、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用して限定する本件特許発明2?12も、甲2に記載された発明ではない。
また、本件特許発明1は、甲2発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、同様の理由により、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用して限定する本件特許発明2?12も、甲2発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲3を主引用例とする申立理由1、2
ア 甲3に記載された発明
甲3の第282?283頁(摘記3g、3h)には、材料としてマレーシア産のカカオ豆を用い、当該マレーシア産のカカオ豆を強制気流乾燥オーブンで温度120、130、140、150、160及び170℃で焙煎する方法が記載されている。
そして、表3には、120から170℃において20分間焙煎したカカオ豆におけるカカオの香りの揮発性成分の濃度(mg/kg)が記載され、例えば、150℃のときに、ピラジン類の合計濃度が7.76、テトラメチルピラジン濃度が0.57、酢酸2-フェニルエチル濃度が1.18である焙煎したカカオ豆が記載されている(摘記3a)。
そうすると、甲3には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲3発明」という。)。
(甲3発明)
マレーシア産のカカオ豆を、強制気流乾燥オーブンにより温度150℃で焙煎する工程を含む方法により製造された、ピラジン類の合計濃度が7.76(mg/kg)、テトラメチルピラジン濃度が0.57(mg/kg)、酢酸2-フェニルエチル濃度が1.18(mg/kg)である焙煎したカカオ豆。

イ 本件特許発明6と甲3発明の対比
本件特許発明6と甲3発明を対比すると、甲3発明の「焙煎したカカオ豆」は、本件特許明細書【0025】の記載によれば、本件特許発明6の「ロースト済みカカオ原料」に相当する。また、甲3発明において、カカオ豆は強制気流乾燥オーブンにより焙煎されるから、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む製造方法で製造されているということができ、そうすると、甲3発明は、本件特許発明6が引用する請求項5における「請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法」とは「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法」である点で一致する。
以上によれば、本件特許発明6と甲3発明は、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点3」、「相違点4」という。)。
(相違点3)
本件特許発明6は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲3発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点4)
本件特許発明6のロースト済みカカオ原料は、「テオブロミン100質量部に対して、ピラジン類を0.04?0.09質量部含有する」ものであるのに対し、甲3発明は、「ピラジン類の合計濃度が7.76(mg/kg)」である点。

ウ 相違点3の判断
甲3には、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法については、記載も示唆もされていない。
そして、本件特許明細書【0020】には、上記「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により、10℃以下、特に冷凍下で喫食される食品に好適な香気を生成することができると記載され、本件特許明細書【表1】、【表2】には、上記製造方法により製造された実施例1?3は、上記製造方法とは、表面温度や中心温度が異なる製造方法により製造された比較例1、2よりも、カカオ風味に優れたものであることが記載されている。
そうすると、上記製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料は、それとは表面温度や中心温度が異なる製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料とは、物として異なることが理解できる。
したがって、上記相違点3は、実質的な相違点である。

エ 相違点4の判断
甲3発明は、「ピラジン類の合計濃度が7.76(mg/kg)」であるが、甲3発明のテオブロミンの含有量は不明であるから、甲3発明が、テオブロミン100質量部に対してどの程度ピラジン類を含有するものであるか不明であり、したがって、甲3発明が、「テオブロミン100質量部に対して、ピラジン類を0.04?0.09質量部含有する」ものであるということはできないから、上記相違点4は、実質的な相違点である。

以上のとおり、相違点3、4は、いずれも実質的な相違点であるから、本件特許発明6は、甲3発明ではなく、甲3に記載された発明とはいえない。
また、甲1?甲15の記載を検討しても、上記相違点3を、当業者が容易に想到し得るものといえる理由も見当たらないから、本件特許発明6が、甲3発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 異議申立人の主張
(ア)相違点3について
異議申立人は、本件特許発明6は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに相当し、本件特許発明6と甲3発明が物として同一であれば、本件特許発明6の新規性は、甲3発明によって否定されると主張している。
しかし、上記ウで述べたとおり、本件特許発明6の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料は、それとは表面温度や中心温度が異なる製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料とは、物として異なることが理解できるから、上記異議申立人の主張は、採用することができない。

(イ)相違点4について
異議申立人は、甲11には、マレーシア産のカカオ豆のテオブロミンの含有量は、1.31%と記載されているから(摘記11a)、甲3発明のマレーシア産のカカオ豆のテオブロミンの含有量は1.31%であり、甲3発明のピラジン類の含有量を、テオブロミン100質量部に対する値として算出すると、甲3には、本件特許発明6と同様に、「テオブロミン100質量部に対して、ピラジン類を0.04?0.09質量部含有する」ロースト済みカカオ原料が記載されており、上記相違点4は実質的な相違点ではないと主張している。
しかし、甲11に記載された特定のマレーシア産カカオ豆のテオブロミン含有量が1.31%であっても、その他のマレーシア産カカオ豆のテオブロミン含有量も1.31%であるとは必ずしもいえないから、甲3発明のテオブロミン含有量が1.31%であるということはできない。
そして、甲3発明のテオブロミン含有量が不明である以上、テオブロミン100質量部に対するピラジン類の含有量も不明であるとせざるを得ないから、甲3発明が、「テオブロミン100質量部に対して、ピラジン類を0.04?0.09質量部含有する」ものということはできず、上記異議申立人の主張は、採用することができない。

カ 本件特許発明10と甲3発明の対比
本件特許発明10と甲3発明を対比すると、上記イと同様に、両発明は、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点3」、「相違点5」という。)。
(相違点3)
本件特許発明10は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲3発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点5)
本件特許発明10のロースト済みカカオ原料は、「酢酸2-フェニルエチルとテトラメチルピラジンとの質量比が1:1?1:3である」ものであるのに対し、甲3発明は、「テトラメチルピラジン濃度が0.57(mg/kg)、酢酸2-フェニルエチル濃度が1.18(mg/kg)」である点。

キ 相違点3、5の判断
上記ウで述べたとおり、上記相違点3は、実質的な相違点であるから、相違点5について検討するまでもなく、本件特許発明10は、甲3発明ではなく、甲3に記載された発明ということはできない。

また、甲1?甲15の記載を検討しても、上記相違点3を、当業者が容易に想到し得るものといえる理由も見当たらないから、本件特許発明10が、甲3発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ク 甲3を主引例とする申立理由1、2について小括
以上のとおり、本件特許発明6、10は、甲3に記載された発明ではなく、同様の理由により、本件特許発明6、10を直接的又は間接的に引用する本件特許発明7も、甲3に記載された発明であるとはいえない。
また、本件特許発明6、10は、甲3発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、同様の理由により、本件特許発明6、10を直接的又は間接的に引用する本件特許発明7、11、12も、甲3発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)甲4を主引用例とする申立理由1、2
ア 甲4に記載された発明
甲4の表IIには、150℃で30分間焙煎した(表II脚注a)焙煎済みカカオ豆のピラジン濃度が記載され、例えばガーナ産の焙煎済みカカオ豆についてみると、ピラジン合計濃度32.8μg/100g、テトラメチルピラジン濃度μg/100gであることが記載されている(摘記4a)。
そうすると、甲4には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲4発明」という。)。
(甲4発明)
ガーナ産のカカオ豆を、150℃で30分間焙煎する工程を含む方法により製造された、ピラジン合計濃度が32.8μg/100gである焙煎済みカカオ豆。

イ 本件特許発明6と甲4発明の対比
本件特許発明6と甲4発明を対比すると、甲4発明の「焙煎済みカカオ豆」は、本件特許明細書【0025】の記載によれば、本件特許発明6の「ロースト済みカカオ原料」に相当する。また、甲4発明において、カカオ豆は150℃で30分間焙煎されており、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む製造方法で製造されているということができ、そうすると、甲4発明は、本件特許発明6が引用する請求項5における「請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法」とは「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法」である点で一致する。
以上によれば、本件特許発明6と甲4発明は、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点3」、「相違点6」という。)。
(相違点3)
本件特許発明6は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲4発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点6)
本件特許発明6のロースト済みカカオ原料は、「テオブロミン100質量部に対して、ピラジン類を0.04?0.09質量部含有する」ものであるのに対し、甲4発明は、「ピラジン合計濃度が32.8μg/100g」である点。

ウ 相違点3の判断
甲4には、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法については、記載も示唆もされていない。
そして、上記(3)ウで述べたとおり、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料は、それとは表面温度や中心温度が異なる製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料とは、物として異なるから、上記相違点3は、実質的な相違点である。

エ 相違点6の判断
甲4発明は、「ピラジン合計濃度が32.8μg/100g」であるが、甲4発明のテオブロミンの含有量は不明であるから、甲4発明が、テオブロミン100質量部に対してどの程度ピラジン類を含有するものであるか不明であり、したがって、甲4発明が、「テオブロミン100質量部に対して、ピラジン類を0.04?0.09質量部含有する」ものであるということはできず、上記相違点6は、実質的な相違点である。

以上のとおり、相違点3、6は、実質的な相違点であるから、本件特許発明6は、甲4発明ではなく、甲4に記載された発明とはいえない。

また、甲1?甲15の記載を検討しても、上記相違点3、6を、当業者が容易に想到し得るものといえる理由は見当たらないから、本件特許発明6が、甲4発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 異議申立人の主張
(ア)相違点3について
異議申立人は、本件特許発明6は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに相当し、本件特許発明6と甲4発明が物として同一であれば、本件特許発明6の新規性は、甲4発明によって否定されると主張するが、上記(3)オ(ア)で述べたとおり、上記異議申立人の主張は、採用することができない。

(イ)相違点6について
異議申立人は、甲11には、ガーナ産のカカオ豆のテオブロミンの含有量は、1.31%と記載されているから(11a)、甲4発明のマレーシア酸のカカオ豆のテオブロミンの含有量は1.31%であるとして、甲4には、本件特許発明6と同様に、「テオブロミン100質量部に対して、ピラジン類を0.04?0.09質量部含有する」ロースト済みカカオ原料が記載されており、上記相違点6は実質的な相違点ではないと主張している。
しかし、上記(3)オ(イ)で述べたと同様に、甲11に記載された特定のガーナ産カカオ豆のテオブロミン含有量が1.31%であっても、甲3発明のテオブロミン含有量が1.31%であるということはできないから、それを前提とする上記異議申立人の主張は、採用することができない。

カ 甲4を主引例とする申立理由1、2について小括
以上のとおり、本件特許発明6は、甲4に記載された発明ではなく、同様の理由により、本件特許発明6を直接的又は間接的に引用する本件特許発明7も、甲4に記載された発明ではない。
また、本件特許発明6は、甲4発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、同様の理由により、本件特許発明6を直接的又は間接的に引用する本件特許発明7、11、12も、甲4発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)甲5を主引用例とする申立理由1、2
ア 甲5に記載された発明
甲5の表4には、各国の焙煎済みカカオ豆の芳香性化合物の平均準定量的濃度(μg/g)が記載され(摘記5a)、例えば、一番左にはG2の列があるところ、このG2は表1によれば、ガーナ産のカカオ豆であるから(摘記5b)、表4には、酢酸2-エチルフェニルが0.18±0.06(μg/g)、テトラメチルピラジンが0.32±0.05(μg/g)、ピラジン合計が2.05(μg/g)である焙煎済みのガーナ産カカオ豆が記載されている(摘記5a)。
また、甲5の第659頁には、分析に先立ち、すべての試料は熱風オーブン中にて、150℃で30分間焙煎したと記載されている(摘記5c)。
そうすると、甲5には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲5発明」という。)。
(甲5発明)
ガーナ産のカカオ豆を、熱風オーブン中にて、150℃で30分間焙煎する工程を含む方法により製造された、酢酸2-エチルフェニルが0.18±0.06(μg/g)、テトラメチルピラジンが0.32±0.05(μg/g)、ピラジン合計が2.05(μg/g)である焙煎したカカオ豆。

また、甲5の表4には、例えば、P2の列があるところ(摘記5a)、このP2は表1によれば、ペルー産のカカオ豆であるから(摘記5b)、表4には、3-メチル酪酸が0.17±0.00(μg/g)、酢酸2-エチルフェニルが0.3±0.00(μg/g)、テトラメチルピラジンが9.29±0.02(μg/g)、ピラジン合計が15(μg/g)である焙煎済みのガーナ産カカオ豆が記載されている(摘記5a)。
また、甲5の第659頁には、分析に先立ち、すべての試料は熱風オーブン中にて、150℃で30分間焙煎したと記載されている(摘記5c)。
そうすると、甲5には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲5’発明」という。)。
(甲5’発明)
ガーナ産のカカオ豆を、熱風オーブン中にて、150℃で30分間焙煎する工程を含む方法により製造された、3-メチル酪酸が0.17±0.00(μg/g)、酢酸2-エチルフェニルが0.3±0.00(μg/g)、テトラメチルピラジンが9.29±0.02(μg/g)、ピラジン合計が15(μg/g)である焙煎したカカオ豆。

イ 本件特許発明6と甲5発明の対比
本件特許発明6と甲5発明を対比すると、甲5発明の「焙煎したカカオ豆」は、本件特許明細書【0025】の記載によれば、本件特許発明6の「ロースト済みカカオ原料」に相当する。また、甲5発明において、カカオ豆は熱風オーブン中にて、150℃で30分間焙煎する工程を含む方法により製造されるから、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む製造方法で製造されているということができ、そうすると、甲5発明は、本件特許発明6が引用する請求項5における「請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法」とは「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法」である点で一致する。
以上によれば、本件特許発明6と甲5発明は、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点3」、「相違点7」という。)。
(相違点3)
本件特許発明6は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲5発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点7)
本件特許発明6のロースト済みカカオ原料は、「テオブロミン100質量部に対して、ピラジン類を0.04?0.09質量部含有する」ものであるのに対し、甲5発明は、「ピラジン類の合計濃度が2.05(μg/g)」である点。

ウ 相違点3の判断
甲5には、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法については、記載も示唆もされていない。
そして、上記(3)ウで述べたとおり、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料は、それとは表面温度や中心温度が異なる製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料とは、物として異なるから、上記相違点3は、実質的な相違点である。

エ 相違点7の判断
甲5発明は、「ピラジン類の合計濃度が2.05(μg/g)」であるが、甲5発明のテオブロミンの含有量は不明であるから、甲5発明が、テオブロミン100質量部に対してどの程度ピラジン類を含有するものであるか不明であり、したがって、甲5発明が、「テオブロミン100質量部に対して、ピラジン類を0.04?0.09質量部含有する」ものであるということはできず、上記相違点7は、実質的な相違点である。

以上のとおり、上記相違点3、7は、いずれも実質的な相違点であるから、本件特許発明6は、甲5発明ではなく、甲5に記載された発明ではない。
また、甲5に記載された、甲5発明として認定した焙煎済みカカオ豆以外の、甲5’発明その他の焙煎済みカカオ豆について検討しても、甲5には、上記相違点3、7に係る技術事項が記載されていないから、本件特許発明6が、甲5に記載された発明とはいえない。
そして、甲1?甲15の記載を検討しても、上記相違点3、7を、当業者が容易に想到し得るものといえる理由は見当たらないから、本件特許発明6が、甲5発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 異議申立人の主張
(ア)相違点3について
異議申立人は、本件特許発明6は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに相当し、本件特許発明6と甲5発明が物として同一であれば、本件特許発明6の新規性は、甲5発明によって否定されると主張している。
しかし、上記ウで述べたとおり、本件特許発明6の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料は、それとは表面温度や中心温度が異なる製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料とは、物として異なることが理解できるから、上記異議申立人の主張は、採用することができない。

(イ)相違点7について
異議申立人は、甲11には、ガーナ産のカカオ豆のテオブロミンの含有量は、1.31%と記載されているから(摘記11a)、甲5発明のガーナ産のカカオ豆のテオブロミンの含有量は1.31%であり、甲5発明のピラジン類の含有量を、テオブロミン100質量部に対する値として算出すると、甲5には、本件特許発明6と同様に、「テオブロミン100質量部に対して、ピラジン類を0.04?0.09質量部含有する」ロースト済みカカオ原料が記載されており、上記相違点7は実質的な相違点ではないと主張している。
しかし、甲11に記載された特定のガーナ産カカオ豆のテオブロミン含有量が1.31%であっても、その他のガーナ産カカオ豆のテオブロミン含有量も1.31%であるとは必ずしもいえないから、甲5発明のテオブロミン含有量が1.31%であるということはできない。
そして、甲5発明のテオブロミン含有量が不明である以上、テオブロミン100質量部に対するピラジン類の含有量も不明であるとせざるを得ないから、甲5発明が、「テオブロミン100質量部に対して、ピラジン類を0.04?0.09質量部含有する」ものということはできず、上記異議申立人の主張は、採用することができない。

カ 本件特許発明9と甲5’発明の対比
本件特許発明9と甲5’発明を対比すると、上記イと同様に、両発明は、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点3」、「相違点8」という。)。
(相違点3)
本件特許発明9は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲5’発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点8)
本件特許発明9のロースト済みカカオ原料は、「さらに、テトラメチルピラジンとイソ吉草酸との質量比が1:1?1:3である」ものであるのに対し、甲5’発明は、「3-メチル酪酸が0.17±0.00(μg/g)、テトラメチルピラジンが9.29±0.02(μg/g)」である点。

キ 相違点3、8の判断
上記ウで述べたとおり、上記相違点3は、実質的な相違点であるから、相違点8について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲5’発明ではなく、甲5に記載された発明とはいえない。

また、甲1?甲15の記載を検討しても、上記相違点3を、当業者が容易に想到し得るものといえる理由も見当たらないから、本件特許発明9が、甲5発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ク 本件特許発明10と甲5発明の対比
本件特許発明10と甲5発明を対比すると、上記イと同様に、両発明は、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点3」、「相違点9」という。)。
(相違点3)
本件特許発明10は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲5発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点9)
本件特許発明10のロースト済みカカオ原料は、「酢酸2-フェニルエチルとテトラメチルピラジンとの質量比が1:1?1:3である」ものであるのに対し、甲5発明は、「酢酸2-エチルフェニルが0.3±0.00(μg/g)、テトラメチルピラジンが9.29±0.02(μg/g)」である点。

ケ 相違点3、9の判断
上記ウで述べたとおり、上記相違点3は、実質的な相違点であるから、相違点9について検討するまでもなく、本件特許発明10は、甲5発明ではなく、甲5に記載された発明とはいえない。

また、甲1?甲15の記載を検討しても、上記相違点3を、当業者が容易に想到し得るものといえる理由は見当たらないから、本件特許発明10が、甲5発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

コ 甲5を主引例とする申立理由1、2について小括
以上のとおり、本件特許発明6、9、10は、甲5に記載された発明ではなく、同様の理由により、本件特許発明6を直接的又は間接的に引用する本件特許発明7も、甲5に記載された発明であるとはいえない。
また、本件特許発明6、9、10は、甲5発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、同様の理由により、本件特許発明6、9、10を直接的又は間接的に引用する本件特許発明7、11、12も、甲5発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)甲6を主引用例とする申立理由1、2
ア 甲6に記載された発明
甲6の表3aには、「種々のポッド・ストレージ-焙煎条件のカカオ豆から製造したダークチョコレートから同定された芳香性揮発性物質の濃度(ng/gカカオ)」が記載され、例えば一番左の「0PS-100℃」列には、イソ吉草酸濃度が213.77±3.21(ng/gカカオ)、テトラメチルピラジン濃度が178.26±23.40(ng/gカカオ)、酢酸フェニルエチル濃度が99.28±6.74であるダークチョコレートが記載されている(摘記6a)。
そうすると、上記ダークチョコレートに用いられた焙煎されたカカオ豆は、100℃で焙煎されたといえるから、甲6には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲6発明」という。)。
(甲6発明)
カカオ豆を、100℃で焙煎する工程を含む方法により製造された、焙煎されたカカオ豆。

イ 本件特許発明9と甲6発明の対比
本件特許発明9と甲6発明を対比すると、甲6発明の「焙煎されたカカオ豆」は、本件特許明細書【0025】の記載によれば、本件特許発明9の「ロースト済みカカオ原料」に相当する。また、甲6発明において、カカオ豆は100℃で焙煎されており、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む製造方法で製造されているということができ、そうすると、甲6発明は、本件特許発明9が引用する請求項5における「請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法」とは「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法」である点で一致する。
以上によれば、本件特許発明9と甲6発明は、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点3」、「相違点10」という。)。
(相違点3)
本件特許発明9は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲6発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点10)
本件特許発明9のロースト済みカカオ原料は、「さらに、テトラメチルピラジンとイソ吉草酸との質量比が1:1?1:3である」ものであるのに対し、甲6発明は、そのようなものであるか不明な点。

ウ 相違点3、10の判断
甲6には、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法については、記載も示唆もされていない。
そして、上記(3)ウで述べたとおり、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料は、それとは表面温度や中心温度が異なる製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料とは、物として異なるから、上記相違点3は、実質的な相違点である。
したがって、相違点10について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲6発明ではなく、甲6に記載された発明とはいえない。

また、甲1?甲15の記載を検討しても、上記相違点3を、当業者が容易に想到し得るものといえる理由は見当たらないから、本件特許発明9が、甲6発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件特許発明10と甲6発明の対比
本件特許発明10と甲6発明を対比すると、上記イと同様に、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点3」、「相違点11」という。)。
(相違点3)
本件特許発明10は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲6発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点11)
本件特許発明10のロースト済みカカオ原料は、「酢酸2-フェニルエチルとテトラメチルピラジンとの質量比が1:1?1:3である」ものであるのに対し、甲6発明は、そのようなものであるか不明な点。

しかし、上記ウと同様に、相違点3は、実質的な相違点であるから、相違点11について検討するまでもなく、本件特許発明10は甲6発明ではなく、本件特許発明10は、甲6に記載された発明ということはできず、甲6発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

オ 異議申立人の主張
異議申立人は、本件特許発明9、10は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに相当し、本件特許発明9、10と甲6発明が物として同一であれば、本件特許発明9、10の新規性は、甲6発明によって否定されると主張するが、上記(3)オ(ア)で述べたとおり、上記異議申立人の主張は、採用することができない。

カ 甲6を主引例とする申立理由1、2について小括
以上のとおり、本件特許発明9、10は、甲6に記載された発明ではなく、甲6発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
そして、同様の理由により、本件特許発明9、10を直接的又は間接的に引用する本件特許発明11、12も、甲6発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)甲7を主引用例とする申立理由1、2
ア 甲7に記載された発明
甲7の表1には、種々の起源及び発酵度のガーナ産またはタンザニア産のカカオ豆を測定した濃度が記載され、例えば、左の「ガーナF+」の濃度(ng/g)は、酢酸フェニルエチル濃度が352(ng/g)、テトラメチルピラジン濃度が1780(ng/g)、ピラジン合計が1931(ng/g)、3-メチル酪酸濃度が1115(ng/g)であるカカオ豆が記載されている(摘記7a)。
また、甲7の第6頁には、熱風オーブン中にて、150℃で30分間焙煎したと記載されているから(摘記7b)、甲7には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲7発明」という。)。
(甲7発明)
カカオ豆を、熱風オーブン中にて、150℃で30分間焙煎する工程を含む方法により製造された、焙煎されたカカオ豆であって、酢酸フェニルエチル濃度が352(ng/g)、テトラメチルピラジン濃度が1780(ng/g)、ピラジン合計が1931(ng/g)、3-メチル酪酸濃度が1115(ng/g)である焙煎されたカカオ豆。

イ 本件特許発明9と甲7発明の対比
本件特許発明9と甲7発明を対比すると、甲7発明の「焙煎されたカカオ豆」は、本件特許明細書【0025】の記載によれば、本件特許発明9の「ロースト済みカカオ原料」に相当する。また、甲7発明において、カカオ豆は、熱風オーブン中にて、150℃で30分間焙煎されており、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む製造方法で製造されているということができ、そうすると、甲7発明は、本件特許発明9が引用する請求項5における「請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法」とは「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法」である点で一致する。
以上によれば、本件特許発明9と甲7発明は、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点3」、「相違点12」という。)。
(相違点3)
本件特許発明9は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲7発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点12)
本件特許発明9のロースト済みカカオ原料は、「さらに、テトラメチルピラジンとイソ吉草酸との質量比が1:1?1:3である」ものであるのに対し、甲7発明は、「テトラメチルピラジン濃度が1780(ng/g)、3-メチル酪酸濃度が1115(ng/g)」である点。

ウ 相違点3、12の判断
甲7には、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法については、記載も示唆もされていない。
そして、上記(3)ウで述べたとおり、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料は、それとは表面温度や中心温度が異なる製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料とは、物として異なるから、上記相違点3は、実質的な相違点である。
したがって、相違点12について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲7発明ではなく、甲7に記載された発明とはいえない。

また、甲1?甲15の記載を検討しても、上記相違点3を、当業者が容易に想到し得るものといえる理由は見当たらないから、本件特許発明9が、甲7発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件特許発明10と甲6発明の対比
本件特許発明10と甲6発明を対比すると、上記イと同様に、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点3」、「相違点13」という。)。
(相違点3)
本件特許発明10は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲7発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点13)
本件特許発明10のロースト済みカカオ原料は、「酢酸2-フェニルエチルとテトラメチルピラジンとの質量比が1:1?1:3である」ものであるのに対し、甲7発明は、「酢酸フェニルエチル濃度が352(ng/g)、テトラメチルピラジン濃度が1780(ng/g)」である点。

しかし、上記ウと同様に、相違点3は、実質的な相違点であるから、相違点13について検討するまでもなく、本件特許発明10は甲7発明ではなく、本件特許発明10は、甲7に記載された発明ということはできず、甲7発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

オ 異議申立人の主張
異議申立人は、本件特許発明9、10は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに相当し、本件特許発明9、10と甲7発明が物として同一であれば、本件特許発明9、10の新規性は、甲7発明によって否定されると主張するが、上記(3)オ(ア)で述べたとおり、上記異議申立人の主張は、採用することができない。

カ 甲7を主引例とする申立理由1、2について小括
以上のとおり、本件特許発明9、10は、甲7に記載された発明ではなく、甲7発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
そして、同様の理由により、本件特許発明9、10を直接的又は間接的に引用する本件特許発明11、12も、甲7発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(8)甲8を主引用例とする申立理由1、2
ア 甲8に記載された発明
甲8の表1には、5種類のカカオリカー中の主要な芳香活性化合物の相対濃度が記載され、例えば、左のパプアニューギニアの列には、酢酸β-フェニルエチル濃度が52.43±1.69(ng/g)、テトラメチルピラジン濃度(ng/g)が532.37±4.91、3-メチル酪酸濃度(ng/g)が573.78±13.33であるカカオリカーが記載されている(摘記8a)。
また、甲8の第2397頁には、カカオリカーは、焙煎を含めて製造したものであることも記載されているから(摘記8b)、甲8には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲8発明」という。)。
(甲8発明)
焙煎を含めて製造したカカオリカーであって、酢酸β-フェニルエチル濃度が52.43±1.69(ng/g)、テトラメチルピラジン濃度(ng/g)が532.37±4.91、3-メチル酪酸濃度(ng/g)が573.78±13.33であるカカオリカー。

イ 本件特許発明9と甲8発明の対比
本件特許発明9と甲8発明を対比すると、甲8発明の「焙煎を含めて製造されたカカオリカー」及び「カカオリカー」は、本件特許明細書【0025】の記載によれば、本件特許発明9の「ロースト済みカカオ原料」に相当する。また、甲8発明において、カカオリカーは、焙煎、すなわち、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含めて製造されているから、甲8発明は、本件特許発明9が引用する請求項5における「請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法」とは「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法」である点で一致する。
以上によれば、本件特許発明9と甲8発明は、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点3」、「相違点14」という。)。
(相違点3)
本件特許発明9は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲8発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点14)
本件特許発明9のロースト済みカカオ原料は、「さらに、テトラメチルピラジンとイソ吉草酸との質量比が1:1?1:3である」ものであるのに対し、甲8発明は、「テトラメチルピラジン濃度(ng/g)が532.37±4.91、3-メチル酪酸濃度(ng/g)が573.78±13.33」である点。

ウ 相違点3、14の判断
甲8には、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法については、記載も示唆もされていない。
そして、上記(3)ウで述べたとおり、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料は、それとは表面温度や中心温度が異なる製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料とは、物として異なるから、上記相違点3は、実質的な相違点である。
したがって、相違点14について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲8発明ではなく、甲8に記載された発明とはいえない。

また、甲1?甲15の記載を検討しても、上記相違点3を、当業者が容易に想到し得るものといえる理由は見当たらないから、本件特許発明9が、甲8発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 異議申立人の主張
異議申立人は、本件特許発明9は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに相当し、本件特許発明9と甲8発明が物として同一であれば、本件特許発明9の新規性は、甲8発明によって否定されると主張するが、上記(3)オ(ア)で述べたとおり、上記異議申立人の主張は、採用することができない。

オ 甲8を主引例とする申立理由1、2について小括
以上のとおり、本件特許発明9は、甲8に記載された発明ではなく、甲8発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
そして、同様の理由により、本件特許発明9を直接的又は間接的に引用する本件特許発明11、12も、甲8発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(9)甲9を主引用例とする申立理由1、2
ア 甲9に記載された発明
甲9の表3には、未焙煎及び焙煎済みクリオロ種のカカオ豆の臭気活性化合物の濃度(μg/kg)が記載され、焙煎済豆の平均値として、3-メチル酪酸濃度(μg/kg)が9700、酢酸2-フェニルエチル濃度(μg/kg)が930であることが記載されている(摘記9a)。
そうすると、甲9には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲9発明」という。)。
(甲9発明)
焙煎済みクリオロ種のカカオ豆であって、3-メチル酪酸濃度(μg/kg)が9700、酢酸2-フェニルエチル濃度(μg/kg)が930である焙煎済みクリオロ種のカカオ豆。

イ 本件特許発明8と甲9発明の対比
本件特許発明8と甲9発明を対比すると、甲9発明の「焙煎済みクリオロ種のカカオ豆」は、本件特許明細書【0025】の記載によれば、本件特許発明8の「ロースト済みカカオ原料」に相当する。また、甲9発明は、焙煎、すなわち、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含んで製造されているから、甲9発明は、本件特許発明8が引用する請求項5における「請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法」とは「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法」である点で一致する。
以上によれば、本件特許発明8と甲9発明は、「カカオ豆を、熱風を用いて加熱してローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点3」、「相違点15」という。)。
(相違点3)
本件特許発明8は、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲9発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点15)
本件特許発明8のロースト済みカカオ原料は、「前記テオブロミン100質量部に対して、イソ吉草酸を0.025?0.085質量部含む」ものであるのに対し、甲9発明は、「3-メチル酪酸濃度(μg/kg)が9700」である点。

ウ 相違点3、15の判断
甲9には、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法については、記載も示唆もされていない。
そして、上記(3)ウで述べたとおり、「前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料は、それとは表面温度や中心温度が異なる製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料とは、物として異なるから、上記相違点3は、実質的な相違点である。
したがって、相違点15について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲9発明ではなく、甲9に記載された発明とはいえない。

また、甲1?甲15の記載を検討しても、上記相違点3を、当業者が容易に想到し得るものといえる理由は見当たらないから、本件特許発明8が、甲9発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 異議申立人の主張
異議申立人は、本件特許発明8は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに相当し、本件特許発明8と甲9発明が物として同一であれば、本件特許発明8の新規性は、甲9発明によって否定されると主張するが、上記(2)オで述べたとおり、上記異議申立人の主張は、採用することができない。
また、異議申立人は、甲11に記載された最も一般的なカカオ豆の産地であるガーナ産のカカオ豆のテオブロミンの含有量(1.31%)を参照し(摘記11a)、甲9発明のテオブロミンの含有量を1.31%としたうえで、甲9発明のテオブロミン100質量部に対する、イソ吉草酸の含有量を算出しているが、甲11に記載されたカカオ豆のテオブロミン含有量が1.31%であるからといって、甲9発明のテオブロミン含有量も1.31%とは限らないことは、上記(4)オ(イ)で述べたとおりであるから、上記異議申立人の主張は、採用することができない。

オ 甲9を主引例とする申立理由1、2について小括
以上のとおり、本件特許発明8は、甲9に記載された発明ではなく、甲9発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
そして、同様の理由により、本件特許発明8を直接的又は間接的に引用する本件特許発明11、12も、甲9発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(10)甲10を主引用例とする申立理由1、2
ア 甲10に記載された発明
甲10の表3には、カカオパウダー中の臭気活性化合物の濃度(μg/kg)が記載され、平均値として、3-メチル酪酸濃度(μg/kg)が8550、酢酸2-フェニルエチル濃度(μg/kg)が315であることが記載されている(摘記10a)。
そうすると、甲10には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲10発明」という。)。
(甲10発明)
3-メチル酪酸濃度(μg/kg)が8550、酢酸2-フェニルエチル濃度(μg/kg)が315であるカカオパウダー。

イ 本件特許発明8と甲10発明の対比
本件特許発明8と甲10発明を対比すると、甲10発明の「カカオパウダー」は、本件特許明細書【0025】の記載によれば、本件特許発明8の「カカオ原料」に相当する。そして、カカオパウダーは、通常ローストされていると認められるから、甲10発明のカカオパウダーは、本件特許発明8の「ロースト済みカカオ原料」に相当する。
そうすると、本件特許発明8と甲10発明は、「ロースト済みカカオ原料。」である点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点16」、「相違点17」という。)。
(相違点16)
本件特許発明8は、「カカオ豆を、熱風を用いてローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法であって、前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであるのに対し、甲10発明は、そのようなものであるか不明な点。
(相違点17)
本件特許発明8のロースト済みカカオ原料は、「前記テオブロミン100質量部に対して、イソ吉草酸を0.025?0.085質量部含む」ものであるのに対し、甲10発明は、「3-メチル酪酸濃度(μg/kg)が8550」である点。

ウ 相違点16、17の判断
甲10には、分析に用いたカカオパウダーは、市販のカカオパウダーであること(摘記10c)、一般に、カカオパウダーは、焙煎されたカカオニブ(粉砕された豆)を粉砕し、加熱によって液化させてカカオリカーを得、次いでこれを圧縮によってカカオ粉末とカカオバターとに分離することによって製造されること(摘記10b)が記載されているから、分析に用いられた甲10発明のカカオパウダーは、どのように製造されたものであるか不明であり、また、カカオ豆ではなく、カカオニブを焙煎することも一般に行われているから、甲10発明のカカオパウダーは、カカオ豆をローストしたものであるかどうかも不明である。
したがって、甲10には、甲10発明のカカオパウダーが、「カカオ豆を、熱風を用いてローストするロースト工程を含む、ロースト済みカカオ原料の製造方法であって、前記ロースト工程は、カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温することを含み、かつ、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」製造方法により製造されたものであることは、記載も示唆もされていない。
そして、上記(3)ウで述べたように相違点3は、実質的な相違点であるから、相違点3を含む相違点16も同様に実質的な相違点である。
したがって、相違点17について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲10発明ではなく、甲10に記載された発明とはいえない。

また、甲1?甲15の記載を検討しても、相違点3について当業者が容易に想到し得るといえる理由が見当たらない以上、相違点3を含む相違点16も、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、本件特許発明8が、甲10発明及び甲1?甲15に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 異議申立人の主張
異議申立人は、本件特許発明8は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに相当し、本件特許発明8と甲10発明が物として同一であれば、本件特許発明8の新規性は、甲10発明によって否定されると主張するが、上記(3)オ(ア)で述べたとおり、上記異議申立人の主張は、採用することができない。

オ 甲10を主引例とする申立理由1、2について小括
以上のとおり、本件特許発明8は、甲10に記載された発明ではなく、甲10発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
そして、同様の理由により、本件特許発明8を直接的又は間接的に引用する本件特許発明11、12も、甲10発明及び甲1乃至15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(11)小括
以上のとおり、本件特許発明1、3?10は、甲1?10に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえない。
そして、本件特許発明1?12は、甲1?15に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
したがって、申立理由1、2によっては、本件特許発明1?12に係る特許を取り消すことはできない。

2.申立理由3、4(実施可能要件、サポート要件)
(1)異議申立人の主張
異議申立人は、以下のア?コの点を挙げて、本件特許発明1?12は、本件特許発明1?12が解決しようとする課題である、「所望のカカオ風味を付与できるカカオ原料の提供」を解決できると当業者が認識できる範囲のものではなく、また、当業者は、本件特許発明1?12を実施することができないと主張している。

ア ロースト済みカカオ原料の香気成分の含有量や、該カカオ原料を用いたチョコレートの風味は、ロースト時間によって大きく変わることが技術常識であるから、ロースト時間が特定されていない本件特許発明1?12は、当業者の技術常識に照らしても課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであり、また、任意のロースト時間で所望のカカオ原料が得られることは発明の詳細な説明に記載されていないから、当業者は、本件特許発明1?12を実施することができない。

イ ロースト工程でのカカオ豆の表面温度が異なれば、得られるチョコレートのカカオ風味が異なることは技術常識である。さらに、本件特許明細書記載の比較例2のカカオ豆の表面温度は、151?160℃であり、本件特許発明1の上限温度150℃と極めて近いから、本件特許発明1?12のうち、カカオ表面温度が145℃超?150℃である場合は、当業者の技術常識に照らしても課題を解決できると認識することはできず、また、発明の詳細な説明には、145℃超?150℃である場合について具体的に開示されていないから、当業者が実施することもできない。

ウ 本件特許発明1?12の「カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温すること」には、以下の2つの態様が含まれる。
(態様1)ロースト工程における最終的な到達温度として、表面品温が130?150℃となる態様。
(態様2)ロースト工程の途中で表面品温が130?150℃になる態様(つまり、最終的な到達温度は150℃を超える態様。)
しかし、本件特許明細書記載の実施例では(態様1)しか開示されておらず、(態様2)であっても課題を解決できると当業者が認識することはできない。
また、(態様2)としては、比較例2が該当し、比較例2では課題を解決できていないことを考慮すれば、本件特許発明1?12は、当業者が課題を解決できない部分を含む発明であって、当業者が実施することもできない。

エ カカオ豆の産地、発酵程度、製造ロットなどによって、香気成分は異なるのが技術常識であるから、カカオ豆の産地、発酵程度、製造ロット等を特定しない本件特許発明1?12は、当業者が課題を解決できると理解できる範囲のものではなく、当業者が実施することもできないものである。

オ ロースト工程でのカカオ豆の表面温度の昇温速度が異なれば、カカオ豆の熱履歴が異なり、熱履歴が異なれば、得られるチョコレートの風味も異なることは、技術常識である。
さらに、本件特許明細書記載の比較例2の昇温速度は、2.6-3℃/分であり、本件特許発明2で特定される昇温速度に含まれる。
したがって、本件特許発明2の「カカオ豆表面の品温を2?3℃/分の速度で昇温」に関しては、その全体にわたって当業者が課題を解決できると認識できるものではなく、また、当業者が実施することもできないものである。本件特許発明2を引用する本件特許発明3?12も同様である。

カ 本件特許発明5では、香気成分の比率が特定されておらず、また、本件特許発明6?10は、香気成分の比率を特定する要件のいずれかを満たせば良いことが特定されているが、課題解決できると認識できるのは本件特許明細書に記載された実施例1?3のカカオ原料のみであり、これらのカカオ原料は、ピラジン類、テトラメチルピラジン、イソ吉草酸、酢酸2-フェニルエチルを所定量含むものである。そして、ロースト済みカカオ原料の香気成分の組成が異なれば、得られるカカオ風味が異なることは技術常識であるから、上記ピラジン類、テトラメチルピラジン、イソ吉草酸、酢酸2-フェニルエチルを所定量含む場合以外については、当業者が課題を解決できると認識することができず、実施することもできない。本件特許発明5?10を引用する本件特許発明11、12も同様である。

キ チョコレートコーチングへのカカオ原料の配合量が異なれば、得られるチョコレートのカカオ風味も異なるのが技術常識であるところ、課題解決できると認識できるのは、本件特許明細書に記載された実施例であるカカオ原料を「全質量の9%」配合したチョコレートコーチングのみであり、9%とは大きく配合量が異なる場合は、当業者が課題を解決できると認識できるとはいえず、また、実施することもできないから、本件特許発明11、12は、その全体にわたって、課題解決できると認識することができるものではなく、実施することもできないものである。

ク 本件特許発明1?12は、中心品温を表面品温よりも10?20℃低く維持することが特定されている。そして、そのための手段が本件特許明細書【0033】に記載されている。
しかし、本件特許明細書記載の実施例は、上記【0033】に記載された手段を用いているにもかかわらず、実施例2では、中心品温が表面品温よりも12?21℃低くなっており、実施例3では、10?23℃低くなっているから、【0033】記載の手段では、中心品温を表面品温よりも10?20℃低く維持することができない場合がある。
したがって、発明の詳細な説明の記載からは、本件特許発明1?12を実施することはできない。

ケ 本件特許発明2?12では、昇温速度が特定されているが、発明の詳細な説明には、昇温の具体的な方法が記載されておらず、本件特許発明2?12で特定された昇温速度とすることができないから、本件特許発明2?12は、実施可能要件を満たしていない。

コ カカオ豆の産地、発酵程度、製造ロット等によりロースト済みカカオ原料の香気成分の含有量は異なるのが技術常識であるところ、本件特許明細書記載の実施例には、使用するカカオ豆の産地、発酵程度、製造ロットが具体的に記載されていないから、当業者は本件特許発明6?12のロースト済みカカオ原料を製造することができず、本件特許発明6?12は、実施可能要件を満たしていない。

(2)判断
上記異議申立人の主張ア?コは、いずれも採用できず、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を、本件特許発明1?12の範囲まで拡張ないし一般化することができないということはなく、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?12を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないともいえないから、本件特許発明1?12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
その理由は、以下のとおりである。

ア 本件特許発明1?12の特許請求の範囲の記載
本件特許発明1?12の特許請求の範囲の記載は、上記第2で述べたとおりである。

イ 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。

(a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、カカオ豆から得られるカカオ原料、及びその製造方法に関する。特に、本発明は、チルド食品や冷凍食品に適したカカオ原料、及びその製造方法に関する。」

(b)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
・・・
【0010】
そこで、本発明は、油中水型食品、より具体的には、チョコレートコーチング等の油中水型食品に対し、濃厚なカカオ風味を付与できるカカオ原料を提供することを課題とする。」

(c)「【0020】
本発明の好ましい形態では、前記カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する。
このように、表面のみを相対的に高温で加熱し、内部の温度上昇を抑制することで、10℃以下、特に冷凍下で喫食される食品に好適な香気を生成することができる。」

(d)「【発明の効果】
【0024】
本発明のカカオ原料を用いることで、10℃以下、特に冷菓等の冷凍下で喫食される油中水型食品に対し、従来のカカオ原料に対して相対的に少量でカカオ風味を付与できる。
また、本発明のカカオ原料の製造方法を用いることで、本発明のカカオ原料を製造することができる。」

(e)「【0033】
本発明のカカオ原料は、焙煎条件を以下の通りに調整することで、製造することができる。本発明のカカオ原料の製造において、焙煎工程は、カカオ豆の皮を剥離せずにホールビーンズの形態で行うことが好ましい。
焙煎工程は、カカオ豆の表面温度が好ましくは130?150℃、さらに好ましくは135?145℃となるような温度で行う。
また、焙煎は、カカオ豆の表面温度が前述した温度にある間、カカオ豆の中心温度をカカオ豆の表面温度より10?20℃低く維持することが好ましく、12℃以上、さらには15℃以上低く維持することが好ましい。すなわち、カカオ豆の中心温度は、140℃以下に抑制する。このような温度制御のためには、初めに、焙煎前のカカオ豆の表面温度を50?70℃程度としておき、ここから、例えば20?30分、好ましくは25?40分、さらに好ましくは30?35分かけてカカオ豆の表面温度を130?150℃、好ましくは135?145℃に昇温する。また、焙煎前のカカオ豆の中心温度も、表面温度より10?20℃低いことが好ましく、12℃以上、さらには15℃以上低いことが好ましく、例えば、40?60℃程度としておくことが好ましい。
カカオ豆の表面温度は1?3.5℃/分、好ましくは2?3℃/分の速度で昇温させることが好ましい。
そして、前記目的とする表面温度まで昇温したら、加熱操作を停止し、冷却することで表面温度を下げる。
前述した、焙煎前のカカオ豆の表面温度を50?70℃程度、中心温度をこれより10?20℃低くしておく方法として、焙煎前に、カカオ豆に水蒸気を5分程度供給し、カカオ豆の表面温度を約70?90℃とした後、一旦冷却してカカオ豆の表面温度を50?70℃程度とする方法が好ましい。
このように、カカオ豆に一定の水分を与え、表面温度を50?70℃程度とし、中心温度をこれより10?20℃低くした状態から焙煎することで、カカオ豆の表面を十分に加熱しつつ、カカオ豆の中心はあまり加熱しない(つまりカカオ豆の表面温度に対して10?20℃低い温度に維持する)ことができ、本発明のカカオ原料を製造することができる。
なお、水蒸気加熱の後に、特段の乾燥工程を含む必要はない。
焙煎のための装置としては、カカオ豆の焙煎に通常用いられる熱風式、間接加熱式の焙煎装置を用いることができる。
本発明のカカオ原料の特徴である、ピラジン類の含有量と焙煎条件について着目すると、高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、ピラジン類は増加する。
従って、前述したピラジン類の含有量となるように、後述の実施例の条件を基準として、前述の範囲内で焙煎条件(温度と時間)を調整することで、本発明のカカオ原料を製造することができる。
また、本発明のカカオ原料の特徴である、ピラジン類におけるテトラメチルピラジンの含有量と焙煎条件について着目すると、高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、ピラジン類の中でも特にテトラメチルピラジンが増加していくことが明らかとなった。
従って、前述したテトラメチルピラジン類の含有量となるように、後述の実施例の条件を基準として前述の範囲内で焙煎条件(温度と時間)を調整することで、本発明のカカオ原料を製造することができる。
また、本発明のカカオ原料の特徴である、テトラメチルピラジンに対するイソ吉草酸、酢酸2-フェニルエチルの含有比率と焙煎条件について着目すると、高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、前記比率は増加する。
従って、前述したイソ吉草酸、酢酸2-フェニルエチルの含有量となるように、後述の実施例の条件を基準として前述の範囲内で焙煎条件(温度と時間)を調整することで、本発明のカカオ原料を製造することができる。
焙煎においては、糖類やアミノ酸を添加することができる。」

(f)「【実施例】
【0039】
以下、本発明について、実施例を示しながらより詳細に説明する。
発酵、及び乾燥を経たカカオ豆(脂肪:55質量%)を以下の方法で焙煎した。
初めに、釜内のカカオ豆に対し、水蒸気を5分供給し、表面温度を約80℃に到達させた。この時点で速やかに水蒸気の供給を停止し、釜内よりカカオ豆を取り出して、熱風式の焙煎装置内(熱風温度:170℃)へ投入し、各実施例、比較例について、以下の表に示す条件で焙煎をした。
そして、約30分の焙煎後、表に示す表面温度に到達した時点で焙煎装置内から取り出し、自然冷却した。
なお、表面温度及び中心温度は、焙煎工程における最終的な到達温度である。また、表面温度及び中心温度は、表面温度計ならびに熱電対温度計を用いて測定した(以下の試験でも同じ)。
【0040】
【表1】



(g)「【0041】
焙煎した各カカオ豆を磨砕し、ペレット状にして、カカオマスを製造した。得られたカカオマスについて、風味成分の分析を行った。
分析対象は、有機酸(酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸及びピログルタミン酸)、テオブロミン、遊離アミノ酸の他、焙煎したカカオ豆に含まれるとされる香気成分であって、閾値との関係で風味に影響を与える以下の香気成分について行った。
ピラジン類、イソ吉草酸、2-ペンタノールアセテート、酢酸イソアミル、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、アセトフェノン、リナロール、5-メチル-2-フェニル-2-ヘキセナール、酢酸2-フェニルエチル、フェネチルアルコール、2-フェニル-2-ブテナール、2-アセチルピロール」

(h)「【0049】
ここで、前記分析対象とした風味成分(香気成分含む)は、カカオ原料に含まれるカカオ風味の形成に主要な成分である。
中でも、イソ吉草酸、2-ペンタノールアセテート、酢酸イソアミル、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、アセトフェノン、リナロール、5-メチル-2-フェニル-2-ヘキセナール、ピラジン類は、カカオ風味の基本骨格を形成し、他の成分はカカオ風味の香りのバリエーションに寄与する。
また、イソ吉草酸は、むしろ、それ自体は好ましくない香気成分であるが、閾値との関係で、香りの強さに影響を与えることが本発明者らによって明らかにされた。
また、酢酸2-フェニルエチルは甘みのあるモモやはちみつ様の香りと知られているが、この量が増加することで、油中水型食品への適用において、他の香気成分で増強されたカカオ風味の質が良好となることが本発明者らによって明らかにされた。
【0050】
テオブロミン100に対するピラジン類の割合、テオブロミン100に対するイソ吉草酸の割合を、測定値(質量)を用いて算出し、表2に示した。
また、ピラジン類100に対するテトラメチルピラジンの割合、テトラメチルピラジン1に対するイソ吉草酸の割合、酢酸2-フェニルエチル1に対するテトラメチルピラジンの割合を測定値(質量)として算出し、表2に示した。
ここで、各実施例及び比較例において、テオブロミンの含有量に実質的な差異はなかった。また、2-ペンタノールアセテート、酢酸イソアミル、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、アセトフェノン、リナロール、5-メチル-2-フェニル-2-ヘキセナール、フェネチルアルコール、2-フェニル-2-ブテナール、2-アセチルピロールについては、油中水型食品に適用するという条件において、香りに大きく影響を与えるような差異は見られなかった。
なお、カカオ原料には、前述した香気成分以外にも風味のバリエーションに寄与する微量の香気成分、あるいは閾値が高い香気成分が存在し、本発明者らは、これらの香気成分の検出も行った。その結果、各実施例、比較例の間でいくつかの香気成分の量に差異がみられたが、油中水型食品に適用することを前提とする場合には、全体の風味形成に影響をほとんど与えない範囲の差異であると判断された。」

(i)「【0051】
続いて、各実施例及び比較例のカカオ原料を含むチョコレートコーチングを製造した(カカオ原料(カカオマス):全重量の9%)。
前述の方法で得られたカカオマスに、乳製品や砂糖を混合後、微細化し、混練して調製したチョコレートコーチング生地を、モールドに充填して-10℃に冷却した。冷却したチョコレートコーチングをカカオ製品の専門家4名により、表2に示す項目について評価を行った。
評価は、以下の基準を用いた相対評価で行った。結果を、表2に示す。
〔評価基準〕
5・・・強い
4・・・やや強い
3・・・普通
2・・・やや弱い
1・・・弱い
【0052】
【表2】



ウ 本件特許発明1?12の解決しようとする課題
上記摘記bによれば、本件特許発明1?12の解決しようとする課題は、「チョコレートコーチング等の油中水型食品に対し、濃厚なカカオ風味を付与できるカカオ原料の提供」であるといえる。

エ 異議申立人の主張ア?コについて
(ア)主張アについて
異議申立人は、ロースト済みカカオ原料の香気成分の含有量や、該カカオ原料を用いたチョコレートの風味は、ロースト時間によって大きく変わることが技術常識であるから、ロースト時間が特定されていない本件特許発明1?12は、課題解決できると認識できる範囲を超えるものであり、また、任意のロースト時間で所望のカカオ原料が得られることは発明の詳細な説明に記載されていないから、当業者は、本件特許発明1?12を実施することができないものであると主張している。
しかし、ロースト時間によって、チョコレートの風味が変わるとしても、本件特許明細書【0020】には、「カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する。
このように、表面のみを相対的に高温で加熱し、内部の温度上昇を抑制することで、10℃以下、特に冷凍下で喫食される食品に好適な香気を生成することができる。」と記載され(摘記c)、実施例においても「カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」ことで、本件特許発明1?12の解決しようとする課題を解決できることが具体的に確認されている(摘記f、i)。
そうすると、ロースト時間によって、風味が変わるとしても、それぞれのロースト時間で「カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」ことで、課題解決できると当業者は理解できるから、本件特許発明1?12は、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えるということはなく、また、実施することもできるといえる。
したがって、上記主張アは、採用することができない。

(イ)主張イについて
異議申立人は、ロースト工程でのカカオ豆の表面温度が異なれば、得られるチョコレートのカカオ風味が異なることは技術常識であり、さらに、本件特許明細書記載の比較例2のカカオ豆の表面温度は、151?160℃であり、本件特許発明1の上限温度150℃と極めて近いから、本件特許発明1?12のうち、カカオ表面温度が145℃超?150℃である場合は、課題解決できると認識することはできず、また、発明の詳細な説明には、145℃超?150℃である場合について具体的に開示されていないから、当業者が実施することもできないと主張している。
しかし、本件特許明細書記載の比較例2のカカオ豆の表面温度は、151?160℃であり、本件特許発明1の上限温度150℃と極めて近いとしても、実施例1?3として、表面品温が130?145℃のときに課題解決できることが記載されている以上、14℃と近似した表面品温である145?150℃である場合についても、130?145℃と同様に課題解決できると当業者は認識できるといえる。
したがって、本件特許発明1?12のうち、カカオ表面温度が145℃超?150℃である場合は、当業者が課題を解決できると認識することはできないということはなく、また、145℃超?150℃である場合について、当業者は実施できないということもない。
したがって、上記主張イは、採用することができない。

(ウ)主張ウについて
異議申立人は、本件特許発明1?12の「カカオ豆の表面品温が130?150℃となるように昇温すること」には、
(態様1)ロースト工程における最終的な到達温度として、表面品温が130?150℃となる態様。
(態様2)ロースト工程の途中で表面品温が130?150℃になる態様(つまり、最終的な到達温度は150℃を超える態様。)
の2つの態様が含まれるが、本件特許明細書記載の実施例では、(態様1)しか開示されておらず、(態様2)であっても課題解決できるとは認識することはできず、また、(態様2)としては、比較例2が該当し、比較例2では課題解決できていないことを考慮すれば、本件特許発明1?12は、課題解決できない部分を含む発明であり、当業者が実施することもできないものであると主張している。
しかし、本件特許明細書【0033】には、焙煎工程は、カカオ豆の表面温度が130?150℃となるような温度で行うこと、そして、目的とする表面温度まで昇温したら、加熱操作を停止し、冷却することで表面温度を下げることが記載されているから(摘記e)、最終的な到達温度が130?150℃であることが記載されているということができ、また、【0039】の実施例においても、「表面温度及び中心温度は、焙煎工程における最終的な到達温度である」と記載されているから(摘記f)、本件特許発明1?12における「表面品温」とは、上記異議申立人がいうところの(態様1)であるということができる。
そうすると、異議申立人が主張する、本件特許発明1?12は、課題解決できない(態様2)を含むという前提は採用できないから、主張ウについても、採用することはできない。

(エ)主張エについて
異議申立人は、カカオ豆の産地、発酵程度、製造ロットなどによって、香気成分は異なるのが技術常識であるから、カカオ豆の産地、発酵程度、製造ロット等を特定しない本件特許発明1?12は、当業者が課題を解決できると理解できる範囲のものではなく、当業者が実施することもできないものであると主張している。
しかし、カカオ豆の産地、発酵程度、製造ロットなどによって、香気成分が異なるとしても、本件特許明細書【0020】には、「カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する。
このように、表面のみを相対的に高温で加熱し、内部の温度上昇を抑制することで、10℃以下、特に冷凍下で喫食される食品に好適な香気を生成することができる。」と記載され(摘記c)、実施例においても「カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」ことで、本件特許発明1?12の解決しようとする課題を解決できることが具体的に確認されている(摘記f、i)。
そうすると、カカオ豆の産地、発酵程度、製造ロットなどによって、香気成分が異なるとしても、それぞれのカカオ豆において「カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」ことで、課題を解決できると当業者は理解できるから、本件特許発明1?12は、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えるということはなく、また、実施することもできるといえる。
したがって、上記主張エは、採用することができない。

(オ)主張オについて
異議申立人は、ロースト工程でのカカオ豆の表面温度の昇温速度が異なれば、得られるチョコレートの風味も異なることは、技術常識であり、さらに、本件特許明細書記載の比較例2の昇温速度は、2.6-3℃/分であり、本件特許発明2?12で特定される昇温速度に含まれるから、本件特許発明2?12は、その全体にわたって当業者が課題を解決できると認識できるものではなく、また、当業者が実施することもできないと主張している。
しかし、本件特許明細書【0020】には、「カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する。
このように、表面のみを相対的に高温で加熱し、内部の温度上昇を抑制することで、10℃以下、特に冷凍下で喫食される食品に好適な香気を生成することができる。」と記載され(摘記c)、実施例においても「カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」ことで、本件特許発明1?12の解決しようとする課題を解決できることが具体的に確認されている(摘記f、i)。
そうすると、本件特許発明2?12は、昇温速度にかかわらず、「カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」ことで、本件特許発明2?12の解決しようとする課題を解決できると当業者は認識できるといえる。
そして、本件特許明細書【0033】には、「カカオ豆の表面温度は1?3.5℃/分、好ましくは2?3℃/分の速度で昇温させることが好ましい。」と記載されているから(摘記e)、本件特許発明2で特定された昇温速度は、より好ましい範囲を特定したものと理解することができ、昇温速度が特定の範囲でないと課題を解決できないと当業者が認識するともいえない。
さらに、異議申立人は、本件特許明細書記載の比較例2の昇温速度は、2.6-3℃/分であり、本件特許発明2?12で特定される昇温速度に含まれるから、本件特許発明2?12は、課題を解決できない部分を含むと主張するが、上記比較例2は、表1のとおり、表面温度が151-160℃であり、「カカオ豆の表面品温が130?150℃である間、カカオ豆の中心品温をカカオ豆の表面品温より10?20℃低く維持する」ものではないために、課題を解決できないものとして記載されていると理解でき、昇温速度が2.6-3であることで課題を解決できないものとして記載されているのではないといえる。
したがって、上記主張オは、採用することができない。

(カ)主張カについて
異議申立人は、本件特許発明5では、香気成分の比率が特定されておらず、また、本件特許発明6?10は、香気成分の比率を特定する要件のいずれかを満たせば良いことが特定されているが、課題解決できると認識できるのは本件特許明細書に記載された実施例1?3のカカオ原料、すなわち、ピラジン類、テトラメチルピラジン、イソ吉草酸、酢酸2-フェニルエチルを所定量含むもののみであることを挙げて、本件特許発明5?12は、課題解決できると認識することができる範囲のものではなく、実施することができる範囲のものでもないと主張している。
しかし、本件特許発明5?12は、「請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法により製造された」ものであることが特定された発明であり、「請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法により製造された」カカオ原料及びそれを用いた食品が、課題解決できることは、本件特許明細書全体の記載及び実施例の記載から認識できるから、本件特許発明5?12は、その全体にわたって、当業者が課題を解決できると認識することができ、実施することもできるといえる。
したがって、上記主張カは、採用することができない。

(キ)主張キについて
異議申立人は、チョコレートコーチングへのカカオ原料の配合量が異なれば、得られるチョコレートのカカオ風味も異なるのが技術常識であるところ、課題解決できると認識できるのは、本件特許明細書に記載された実施例であるカカオ原料を「全質量の9%」配合したチョコレートコーチングのみであり、9%とは大きく配合量が異なる場合は、課題解決できると認識できるとはいえず、また、実施することもできないから、本件特許発明11、12は、その全体にわたって、当業者が課題を解決できると認識することができるものではなく、実施することもできないものであると主張している。
しかし、食品へのカカオ原料の配合量が異なれば、カカオ風味が異なるとしても、本件特許明細書【0024】には、本発明のカカオ原料を用いることで、従来のカカオ原料に対して相対的に少量でカカオ風味を付与できると記載されているから(摘記d)、それぞれの配合量において、本件特許発明5?10のカカオ原料を用いることで、従来のカカオ原料よりも優れたカカオ風味を付与できると認識できると理解できる。
したがって、本件特許発明11、12は、その全体にわたって当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであり、実施することもできる範囲のものであるから、上記主張キは、採用することができない。

(ク)主張クについて
異議申立人は、本件特許明細書記載の実施例は、【0033】に記載された手段を用いているにもかかわらず、実施例2では、中心品温が表面品温よりも12?21℃低くなっており、実施例3では、10?23℃低くなっているから、【0033】記載の手段では、中心品温を表面品温よりも10?20℃低く維持することができない場合があり、発明の詳細な説明の記載からは、本件特許発明1?12を実施することはできないと主張している。
そこで、実施例2、3について検討すると、【表1】には、以下のとおり記載され(摘記f)、

本件特許明細書【0039】には、「表面温度及び中心温度は、焙煎工程における最終的な到達温度である。」と記載されているから(摘記f)、表1に記載された実施例2の表面温度135-139℃、中心温度118-123℃は、いずれも最終的な到達温度であるといえる。
そうすると、実施例2は、表面温度が139℃のときに中心温度が118℃と中心が表面よりも21℃低くなっているようなものではなく、また、表面温度が135℃のときに中心温度が123℃と、中心が表面よりも12℃低いことが記載されているものでもないといえるから、本件特許明細書【0033】の手段によっては、本件特許発明1?12を実施することができないということはないと認められる。実施例3についても同様であるから、上記主張キは、採用することができない。

(ケ)主張ケについて
異議申立人は、本件特許発明2?12では、昇温速度が特定されているが、発明の詳細な説明には、昇温の具体的な方法が記載されておらず、本件特許発明2?12で特定された昇温速度とすることができないから、本件特許発明2?12は、実施可能要件を満たしていないと主張している。
しかし、例えば、焙煎装置の熱風温度を高温とすれば昇温速度は速くなり、低温にすれば昇温速度が遅くなると認められるから、当業者であれば、所望の昇温速度とすることに過度の試行錯誤を必要とすることはない。
したがって、上記主張ケは、採用することができない。

(コ)主張コについて
異議申立人は、カカオ豆の産地、発酵程度、製造ロット等によりロースト済みカカオ原料の香気成分の含有量は異なるのが技術常識であるところ、本件特許明細書記載の実施例には、使用するカカオ豆の産地、発酵程度、製造ロットが具体的に記載されていないから、当業者は本件特許発明6?12のロースト済みカカオ原料を製造することができないと主張している。
しかし、本件特許明細書【0033】には、ピラジン類の含有量、ピラジン類におけるテトラメチルピラジンの含有量、テトラメチルピラジンに対するイソ吉草酸、酢酸2-フェニルエチルの含有比率と焙煎条件について着目すると、高温であればあるほど、又は長時間であればあるほど、いずれも増加すること、また、所望の含有量、含有比率となるように、実施例の条件を基準として本件特許発明1?12で特定される範囲内で焙煎条件(温度と時間)を調整することで、本発明のカカオ原料を製造することができることが記載されている(摘記e)。
そうすると、カカオ豆の産地、発酵程度、製造ロット等によりカカオ豆に含まれる香気成分の比率が異なるとしても、本件特許明細書記載の実施例の条件を基準として、所望の含有量、含有比率よりも低ければ、焙煎条件を高温又は長時間し、所望の含有量、含有比率よりも高ければ、焙煎条件を低温又は短時間とするなどして焙煎条件(温度と時間)を調整することで、当業者であれば、本件特許発明6?12を実施することができるといえる。
したがって、上記主張コは、採用することができない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1?12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
したがって、申立理由3、4によっては、本件特許発明1?12に係る特許を取り消すことはできない。

3.申立理由5(明確性)
(1)異議申立人の主張
ア 本件特許発明5?12は、物の発明であり、請求項にその物の製造方法が記載されているところ、当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でない事情があることについて、本件特許明細書には記載されていない。
また、カカオ風味は、カカオ原料の香気成分を分析すれば特定できることが技術常識であり、しかも、本件特許明細書【0041】、【0049】では、風味に影響を与える香気成分が特定され、【0050】には、その他にも、微量の香気成分は存在するが、全体の風味形成に影響をほとんど与えない差異であると記載されている。
そうすると、本件特許発明5?12は、上記風味に影響を与える香気成分の組成によって直接発明を特定できるから、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定すること」が可能な発明であるにもかかわらず、請求項にその物の製造方法が記載されており、発明が明確に特定されていない。

イ 本件特許発明2?12における「カカオ豆表面の品温を2?3℃/分の速度で昇温しながらカカオ豆の表面品温が130?150℃に達するまでに昇温し」とは、昇温速度を2?3℃/分に維持しながら、130?150℃に達することを意味するのか、それとも、130?150℃に達するまでの平均の昇温速度が2?3℃/分であるのか明確でないから、本件特許発明2?12は明確でない。

(2)判断
ア 主張アについて
本件特許発明5?12は、「請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料」またはそれを含む食品であるところ、「請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料」は、極めて多数の香気成分を含み、当該カカオ原料に含まれるあらゆる香気成分をその構造又は特性により直接特定するためには、あらゆる香気成分を測定し特定する必要があるから、本件特許発明5?12を、その構造又は特性により直接特定することは、実質的に不可能であり、およそ実際的ではないといえる。
また、異議申立人が指摘する本件特許明細書【0041】、【0049】、【0050】の記載について検討しても(摘記g、h)、カカオ風味の形成に主要な成分と、影響をほとんど与えない成分について記載しているだけで、上記主要な成分のみを特定することにより、「請求項1?4の何れかに記載のロースト済みカカオ原料の製造方法により製造されたロースト済みカカオ原料」をその構造又は特性により直接特定できることを記載したものではないから、上記主張アは採用することができない。

イ 主張イについて
本件特許発明2?12における「カカオ豆表面の品温を2?3℃/分の速度で昇温しながらカカオ豆の表面品温が130?150℃に達するまでに昇温し」とは、その記載を素直に読めば、「昇温速度を2?3℃/分に維持しながら、130?150℃に達する」ことを意味していると理解するのが自然であり、本件特許明細書の記載をみても、「130?150℃に達するまでの平均の昇温速度が2?3℃/分である」ことは記載されておらず、平均の昇温速度と理解する技術常識が存在するということもない。
したがって、本件特許発明2?12における「カカオ豆表面の品温を2?3℃/分の速度で昇温しながらカカオ豆の表面品温が130?150℃に達するまでに昇温し」との記載に接した当業者は、「昇温速度を2?3℃/分に維持しながら、130?150℃に達する」ことを特定していると理解でき、本件特許発明2?12が明確でないということはないから、上記主張イは、採用することができない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明2?12について、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていないとはいえない。
したがって、申立理由5によっては、本件特許発明2?12に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-12-22 
出願番号 特願2019-61966(P2019-61966)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23G)
P 1 651・ 536- Y (A23G)
P 1 651・ 121- Y (A23G)
P 1 651・ 113- Y (A23G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野村 英雄  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 黒川 美陶
井上 千弥子
登録日 2020-03-11 
登録番号 特許第6675025号(P6675025)
権利者 森永製菓株式会社
発明の名称 カカオ原料  
代理人 辻田 朋子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ