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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01B |
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管理番号 | 1370039 |
異議申立番号 | 異議2020-700725 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-09-24 |
確定日 | 2021-01-15 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6670638号発明「導電性フィルム及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6670638号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6670638号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成28年3月4日に出願され、令和2年3月4日にその特許権の設定登録がされ、令和2年3月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年9月24日に特許異議申立人池田孝義(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。 2 本件発明 特許第6670638号の請求項1?6の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 フィルム基材の少なくとも一方の面に導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて導電層を形成する導電層形成工程を有し、 前記導電性高分子分散液が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、気圧1013hPaで液状である高導電化剤と、水分散性樹脂とを含有し、前記高導電化剤の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して300質量部以上20000質量部以下、前記水分散性樹脂の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上9000質量部以下であり、 前記導電層形成工程では、前記導電性高分子分散液を、前記導電層における前記導電性複合体由来の厚さが12.3nm以下になるように塗布する、導電性フィルムの製造方法。 【請求項2】 前記高導電化剤が、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の導電性フィルムの製造方法。 【請求項3】 前記水分散性樹脂が、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ウレタン樹脂、水溶性アクリル樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の導電性フィルムの製造方法。 【請求項4】 フィルム基材と、該フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された導電層とを備え、 前記導電層が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、気圧1013hPaで液状である高導電化剤と、水分散性樹脂とを含有し、前記水分散性樹脂の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上9000質量部以下であり、 前記導電層における前記導電性複合体由来の厚さが12.3nm以下である、導電性フィルム。 【請求項5】 前記高導電化剤が、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシドよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の導電性フィルム。 【請求項6】 前記水分散性樹脂が、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ウレタン樹脂、水溶性アクリル樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4又は5に記載の導電性フィルム。」 3 申立理由の概要 申立人は、主たる証拠として特開2015-166447号公報(以下「文献1」という。)及び従たる証拠として特開2012-97227号公報(以下「文献2」という。)を提出し、請求項1?6に係る特許は特許法第29条第1項第3号に該当し、同法同条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。 また、申立人は、主たる証拠として特開2008-212836号公報(以下「文献3」という。)及び従たる証拠として文献1、2を提出し、請求項1?6に係る特許は同法同条第1項第3号に該当し、同法同条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。 4 文献の記載 (1)文献1の記載と引用発明1 ア 文献1の記載 文献1には、以下の事項が記載されている(下線は合議体が付加した。以下同じ。)。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、インク用組成物及び透明電極に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明は、グラビアオフセット印刷やパッド印刷に用いた場合であっても膜厚が厚く表面抵抗率の低い透明導電膜を得ることができ、また、印刷性に優れたインク用組成物を提供することを目的とする。」 「【0019】 <<インク用組成物>> まず、本発明のインク用組成物について説明する。 本発明のインク用組成物は、(A)導電性高分子、(B)バインダー、及び(C)導電性向上剤を含有する組成物であって、 25℃における粘度が5?500dPa・sであり、固形分率が10?80重量%であり、ウェット膜厚15μmで塗工した際の表面抵抗率が2000Ω/□以下、かつ、全光線透過率が70%以上であることを特徴とするインク用組成物である。 【0020】 <(A)導電性高分子> (A)導電性高分子は、透明導電膜に導電性を付与するための配合物である。(A)導電性高分子としては特に限定されず、従来公知の導電性高分子を用いることができ、具体例としては、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、及びこれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。中でも、チオフェン環を分子内に含むことで導電性が高い分子ができやすい点で、分子内にチオフェン環を少なくとも1つ含む導電性高分子が好ましい。(A)導電性高分子は、ポリ陰イオン等のドーパントと複合体を形成していてもよい。」 「【0028】 (A)導電性高分子は、透明導電膜の透明性及び導電性が特に優れることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体であることが好ましい。 【0029】 (A)導電性高分子の導電率は、特に限定されないが、透明電導膜に十分な導電性を付与する観点からは、0.01S/cm以上であることが好ましく、0.05S/cm以上であることがより好ましい。」 「【0049】 <(B)バインダー> (B)バインダーは、本発明のインク用組成物中の配合物同士を結合させ、より確実に透明導電膜(導電性パターンを含む)を形成させる目的で添加される。(B)バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アルコキシシランオリゴマー、及びポリオレフィン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。」 「【0063】 <(C)導電性向上剤> (C)導電性向上剤は、本発明のインク用組成物を用いて形成した透明導電膜の導電性を向上させる目的で添加される。(C)導電性向上剤は、透明導電膜を形成する際に加熱により蒸散するが、その際に(A)導電性高分子の配向を制御することで透明導電膜の導電性を向上させるものと推定される。また、(C)導電性向上剤を使用する場合、(C)導電性向上剤を使用しない場合と比較して、表面抵抗率を維持しつつ(A)導電性高分子の配合量を少なく出来る結果、透明性を改善できる利点がある。」 「【0067】 沸点が100℃以上で分子内に少なくとも1つのスルフィニル基を有する化合物(iii)としては、例えば、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。」 「【0070】 沸点が100℃以上で分子内に2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物(vi)としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、β-チオジグリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、エリトリトール、グリセリン、インマトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、スクロース等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。」 「【0107】 <<透明電極>> 次に、本発明の透明電極について説明する。 本発明の透明電極は、本発明のインク用組成物を用いて得られた透明電極であり、本発明のインク用組成物を基材上に印刷することで基材上に透明導電膜が形成された透明導電積層体からなる。 【0108】 基材としては透明基材が好ましい。透明基材の材質としては、透明である限り特に限定されないが、例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂等が挙げられる。 【0109】 透明基材の厚みは、特に限定されないが、10?10000μmであることが好ましく、25?5000μmであることがより好ましい。また、透明基材の全光線透過率は、特に限定されないが、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。 【0110】 本発明の透明電極は、本発明のインク用組成物を基材上に印刷する工程を経て製造される。具体的には、例えば、後述する(I)印刷による塗布工程及び(II)形成工程により得ることができる。印刷することによって、パターニングを行うことができ、非導電部分と導電部分とを備え、導電部分を導体パターンとすることができる。 【0111】 (I)印刷による塗布工程では、本発明のインク用組成物を基材に直接塗布しても良いし、予め基材上に形成されたプライマー層上に塗布しても良いが、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、スクリーン印刷、パッド印刷といった印刷手段によって基材上に塗布することが好ましい。また、必要に応じて、予め基材の表面に表面処理を施した後に(I)印刷による塗布工程を行っても良い。表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、イトロ処理、火炎処理等が挙げられる。 【0112】 (II)形成工程では、基材上に塗布された本発明のインク用組成物を、150℃以下の温度で加熱処理することで、基材の少なくとも1面に透明導電膜を形成する。加熱処理は、特に限定されず公知の方法により行えば良く、例えば、送風オーブン、赤外線オーブン、真空オーブン等を用いて行えば良い。なお、(I)印刷による塗布工程で用いるインク用組成物が溶媒を含有する場合、溶媒は、加熱処理により除去される。 【0113】 加熱処理は、150℃以下の温度条件で行う。加熱処理の温度が150℃を超えると、用いる基材の種類が限定され、例えば、PETフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルフィルム等の一般に透明電極フィルムに用いられる基材を用いることが出来なくなる。本発明では、150℃以下の温度条件での加熱処理であっても、十分な透明性及び導電性を有する透明導電積層体を得ることが出来る利点を有する。加熱処理の温度は、50?140℃であることが好ましく、60?130℃であることがより好ましい。加熱処理の処理時間は、特に限定されないが、0.1?60分間であることが好ましく、0.5?30分間であることがより好ましい。 【0114】 本発明の透明電極の用途としては、透明性及び導電性が要求される用途であれば特に限定されないが、例えば、液晶、プラズマ、フィールドエミッション等の各種ディスプレイ方式のテレビ、携帯電話等の各種電子機器のタッチパネルやタッチセンサー、表示素子における透明電極、太陽電池、電磁波シールド材、電子ペーパー、エレクトロルミネッセンス調光素子等における透明電極等の用途が挙げられる。これらの用途の中では、静電容量タッチパネルや静電容量スイッチ、静電容量タッチセンサーの用途に用いられることが好ましい。その理由は、本発明のインク用組成物を用いて得られた塗膜が示す透明性及び導電性のバランスがタッチパネルや静電容量スイッチといった用途に好適だからである。 【実施例】 【0115】 以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「重量部」又は「重量%」を意味する。 【0116】 1.使用原料 下記の実施例及び比較例において、以下の原料を使用した。 (A)導電性高分子 ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を含む水分散液(ヘレウス株式会社製、Clevios PH1000、固形分1.1%) PEDOT/PSSペレット(アグファ株式会社製、Orgacon DRY、固形分100%) (B)バインダー ポリウレタンバインダー(DIC株式会社製、ハイドラン APX101H、固形分45%) ポリウレタンバインダー(DIC株式会社製、ハイドラン WLS-202、固形分35%) ポリエステルバインダー(ナガセケムテックス株式会社製、ガブセンES-210、固形分25%) メチルシリケートオリゴマー(三菱化学株式会社製、MS-51) (C)導電性向上剤 2-メトキシフラン(ナカライテスク株式会社製、試薬) エチレンシアノヒドリン(東京化成工業株式会社製、δD=17.2、δH=18.8、δP=17.6) 増粘剤 ポリアクリル酸(東亞合成株式会社製、ジュンロン PW-160、固形分100%) 界面活性剤/レベリング剤 ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン株式会社製、BYK -348、不揮発分>96%) フッ素系界面活性剤(デュポン株式会社製、CAPSTONE FS-3100、不揮発分100%) ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン(第一工業製薬株式会社製、アモーゲンCB-H、不揮発分29%) 金属ナノワイヤ 銀ナノワイヤ(星光PMC株式会社製、T-YP808、アスペクト比230、固形分1.0%) 中和剤 アンモニア水(和光純薬工業株式会社製、10%アンモニア水) 水溶性酸化防止剤 タンニン酸(和光純薬工業株式会社製) L-アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製) 【0117】 2.(A)導電性高分子の製造 (製造例1)PEDOT/PSS濃縮品1の製造 ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を含む水分散液(ヘレウス株式会社製、Clevios PH1000、固形分率1.1%)を減圧条件下、35℃で120分間加熱することにより、固形分4%の高固形分PEDOT/PSSを調製した。 【0118】 (製造例2)PEDOT/PSS濃縮品2の製造 ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)を含む水分散液(ヘレウス株式会社製、Clevios PH1000、固形分率1.1%)を減圧条件下、35℃で240分間加熱することにより、固形分10%の高固形分PEDOT/PSSを調製した。 【0119】 (製造例3)PEDOT/PSS重合品の製造 スターラー及び窒素入り口を装備した10Lの反応容器中に、1400gのイオン交換水、492gの12.8重量%ポリスチレンスルホン酸(PSS)(Mw=56000)水溶液を入れ、窒素を吹き込みながら25℃に保って1時間撹拌した。この時の溶液中の温度は25℃、酸素濃度は0.5mg/L、pHは0.8、撹拌速度は300rpmであった(酸素濃度はインプロ6000シリーズO2センサーを用いるニック・プロセス・ユニット73O2(メトラー・トレド株式会社製)を用いて測定した)。次に、25.4g(179ミリモル)の3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)(モノマー濃度は1.0重量%)、0.45gのFe2(SO4)3・3H2O、450gの10.9重量%H2S2O8水溶液を加え、重合反応を開始させた。25℃において12時間反応させた後、さらに30gのNa2S2O8を加えた。12時間の追加反応時間後に、イオン交換樹脂LewatitS100H、LewatitMP62を用いて処理することにより、濃青色の高粘度PEDOT/PSSを2200g得た(固形分 5.0%)。」 「【0130】 (実施例1?14、比較例1、2) 下記表1に示す重量比で各成分を混合し、ろ紙(Seitz社製、T5500)を用いてフィルターろ過することにより、インク用組成物を調製した。得られたインク用組成物について、固形分率、粘度、表面張力、分散性、グラビアオフセット印刷性、パッド印刷性を上述の方法により評価した。また、得られたインク用組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製、ルミラーT-60)上にバーコーターを用いてウェット膜厚が15μmとなるよう塗布し、120℃で10分間加熱乾燥して塗膜を得た。得られた塗膜について、表面抵抗率、全光線透過率、ヘイズ、耐熱性を上述の方法により評価した。結果を表1に示す。 【0131】 【表1】 ![]() 」 イ 引用発明1 (ア)文献1のインク用組成物の各成分の重量比は、【表1】に示され、実施例1の重量比は、導電性高分子(PEDOT/PSS濃縮品1):バインダー(ポリウレタンバインダー ハイドラン APX101H):導電性向上剤(2-メトキシフラン)=29:63:4であり、PEDOT/PSS濃縮品1の固形分は4%(段落【0117】)、ハイドラン APX101Hの固形分は45%(段落【0116】)であることから、導電性向上剤の含有量が、導電性高分子100質量部に対して、4×100/(29×0.04)=345質量部、バインダーの含有量が、導電性高分子100質量部に対して、63×0.45×100/(29×0.04)=2444質量部と求められるから、「インク用組成物は、PEDOT/PSSからなる導電性高分子と、2-メトキシフランからなる導電性向上剤、ポリウレタンバインダーからなるバインダーとを含有し、導電性向上剤の含有量が、導電性高分子100質量部に対して345質量部、バインダーの含有量が、導電性高分子100質量部に対して2444質量部である。」と解される。 (イ)そうすると、文献1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「インク用組成物を基材上に(I)印刷による塗布工程及び(II)形成工程により透明電極を製造する方法であって、 基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの透明基材が好ましく、透明基材の厚みは、10?10000μmであり、 (II)形成工程では、基材上に塗布された本発明のインク用組成物を、150℃以下の温度で加熱処理することで、溶媒は、加熱処理により除去され、基材の少なくとも1面に透明導電膜を形成し、 インク用組成物は、PEDOT/PSSからなる導電性高分子と、2-メトキシフランからなる導電性向上剤、ポリウレタンバインダーからなるバインダーとを含有し、導電性向上剤の含有量が、導電性高分子100質量部に対して345質量部、バインダーの含有量が、導電性高分子100質量部に対して2444質量部である、透明電極を製造する方法。」 (2)文献2の記載 次に、文献2には、以下の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、透明電極等に用いられる導電性塗膜を形成するための導電性高分子溶液、入力デバイスの透明電極等に用いることができる導電性塗膜、タッチパネル等の入力デバイスに関する。」 「【0076】 導電性塗膜の厚さは0.001?10μmであることが好ましく、0.01?1μmであることがより好ましい。導電性塗膜の厚みが前記下限値以上であれば、充分な導電性を確保でき、前記上限値以下であれば、充分な可撓性を確保できる。」 (3)文献3の記載と引用発明2 ア 文献3の記載 次に、文献3には、以下の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、摩擦や剥離による帯電が抑制された表面保護フィルムに関するものである。さらに詳しくは、本発明は、偏光板や位相差板等の光学機能を有する光学用シートの表面保護用として特に好適で、しかもその表面に容易に印字することができる表面保護フィルムに関するものである。」 「【0066】 [実施例1、2および比較例1?4] 厚みが38μmの2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの両面にコロナ処理を行い、ぬれ張力試験用混合液でぬれ張力が54mN/m以上にしたポリエステルフィルムの片面に表1に記載の表面層組成1?6を有効成分として濃度が2重量%になるように作成した塗工液を、リバースロールコーターを用いて塗布量を4g/m^(2)で塗工し、ドライヤーゾーン140℃下で1分間の乾燥により、表面層を設けたポリエステルフィルムを得た。次に、アクリル系粘着剤として、2-エチルヘキシルアクリレート(主モノマー)、n-ブチルアクリレート(主モノマー)、酢酸ビニル(コモノマー)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(官能基含有モノマー)が5:2:2:1の重量比で混合された組成物と、エポキシ変性ステアリルアクリレートからなる添加剤とを、前者の組成物10重量部に対し後者の添加物0.5重量部となるように加え、酢酸エチルの溶剤下で反応触媒としてアゾビスイソブチロニトリルを用い溶液重合した。得られた粘着剤用ポリマーの重量平均分子量は約35万であった。この粘着剤用ポリマーに、TDI系イソシアネート架橋剤(日本ポリウレタン社製コロネートL)を固形分比で粘着剤用ポリマー100重量部に対し、架橋剤7重量部の割合で添加した後、25μmのポリエステルフィルムの片面にシリコーン離型層を持つ剥離フィルムの離型層側面に乾燥後の厚みが15μmとなるように塗布し、100℃2分乾燥した後、前記表面層を設けたポリエステルフィルムの表面層とは反対側の面と該粘着剤面とを貼り合せた、45℃で1週間のエージング処理を行い実施例1、2と比較例1?4の表面保護フィルムを得た。得られた表面保護フィルムの物性を表2にまとめた。 【0067】 [実施例3] 縦延伸終了後のフィルムの片面に、プライマー層として下記の塗布液を、乾燥横延伸後の厚みが40nmとなるように塗布し、同じ条件で製膜した2軸配向ポリエステルフィルムを使用したこと以外、実施例2と同じ条件で表面保護フィルムを作成した。得られた表面保護フィルムの物性を表2にまとめた。 【0068】 プライマー層に用いた塗布液:シランカップリング剤(γ-グリシドプロピルトリメトキシシラン)83重量部、無機微粒子(平均粒径6nm、20%分散液pH9.5のシリカゾル)2重量部、ノニオン界面活性剤15重量部を含み、クエン酸でpH6.3に調整した水性塗布液。 【0069】 【表1】 ![]() 【0070】 プラスコートZ450 互応化学工業株式会社 バイトロンP スタルク株式会社 レザムM643 中京油脂株式会社 DMSO 和光純薬工業株式会社 エマルゲン420 花王株式会社 【0071】 【表2】 ![]() 」 イ 引用発明2 (ア)文献3の比較例1となる表面層組成3には、帯電防止剤(バイトロンP)5.0重量%、樹脂(プラスコートZ450)92.5重量%の不揮発成分が含まれるから、樹脂の含有量が、帯電防止剤100質量部に対して、92.5×100/5=1850質量部と求められる。また、表面層組成3の高沸点液体(DMSO)は、溶剤に1.5重量%含まれ、「表面層組成1?6を有効成分として濃度が2重量%になるように作成した塗工液」(段落【0066】)であることから、高沸点液体の含有量が、帯電防止剤100質量部に対して、1.5×0.98×100/(5×0.02)=1470質量部と求められる。つまり、文献3の比較例1の「塗工液は、バイトロンPからなる帯電防止剤と、DMSOからなる高沸点液体、プラスコートZ450からなる樹脂とを含有し、高沸点液体の含有量が、帯電防止剤100質量部に対して1470質量部、樹脂の含有量が、帯電防止剤100質量部に対して1850質量部である。」と解される。 (イ)文献3の比較例1の塗工液は、不揮発成分を上記(ア)に示される2重量%の濃度で含み、「塗布量を4g/m^(2)で塗工」するもの(段落【0066】)であり、【表1】から溶剤成分の98.3重量%が水、つまりほとんどが水であることから、水の比重で乾燥膜厚を計算すると、80nmとなり、5重量%の帯電防止剤由来の厚さは、4nm程度となるため、「塗工液を、表面層における帯電防止剤由来の厚さが4nm程度になるように塗工する。」と解される。 (ウ)そうすると、文献3には比較例1として以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「ポリエステルフィルムの片面に表面層組成3を有効成分として濃度が2重量%になるように作成した塗工液を、リバースロールコーターを用いて塗布量を4g/m^(2)で塗工し、ドライヤーゾーン140℃下で1分間の乾燥により、表面層を設けたポリエステルフィルムを製造する方法であって、 塗工液は、バイトロンPからなる帯電防止剤と、DMSOからなる高沸点液体、プラスコートZ450からなる樹脂とを含有し、高沸点液体の含有量が、帯電防止剤100質量部に対して1470質量部、樹脂の含有量が、帯電防止剤100質量部に対して1850質量部であり、 塗工液を、表面層における帯電防止剤由来の厚さが4nm程度になるように塗工する、表面層を設けたポリエステルフィルムを製造する方法。」 5 当審の判断 (1)請求項1に係る発明について ア 引用発明1との対比 請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。また、請求項2?6に係る発明を、順にそれぞれ「本件発明2」?「本件発明6」という。)と引用発明1とを対比する。 (ア)引用発明1の「基材」は、「ポリエチレンテレフタレート(PET)などの透明基材が好ましく、透明基材の厚みは、10?10000μm」であるから、本件発明1の「フィルム基材」に相当し、引用発明1の「インク用組成物」に含まれる「PEDOT/PSSからなる導電性高分子」、「2-メトキシフランからなる導電性向上剤」、「ポリウレタンバインダーからなるバインダー」は、それぞれ、本件発明1の「π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体」、「気圧1013hPaで液状である高導電化剤」、「水分散性樹脂」に相当するから、引用発明1の「インク用組成物」は、本件発明1の「導電性高分子分散液」に相当する。 (イ)引用発明1では、「インク用組成物を基材上に(I)印刷による塗布工程」を行い、「(II)形成工程では、基材上に塗布された本発明のインク用組成物を、150℃以下の温度で加熱処理することで、溶媒は、加熱処理により除去され、基材の少なくとも1面に透明導電膜を形成」するものであり、ここで引用発明1の「透明導電膜」は、本件発明1の「導電層」に相当するから、本件発明1と引用発明1とは、「フィルム基材の少なくとも一方の面に導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて導電層を形成する導電層形成工程」を有する点で一致する。 (ウ)引用発明1の「インク用組成物」は、「導電性向上剤の含有量が、導電性高分子100質量部に対して345質量部、バインダーの含有量が、導電性高分子100質量部に対して2444質量部」であることから、本件発明1と引用発明1とは、「前記高導電化剤の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して300質量部以上20000質量部以下、前記水分散性樹脂の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上9000質量部以下」である点で一致する。 (エ)引用発明1の「透明電極を製造する方法」は、「透明電極」をフィルムである「基材」上に形成されるものであるから、本件発明1の「導電性フィルムの製造方法」と、「フィルムの製造方法」である点で共通する。 (オ)そうすると、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。 (一致点) 「フィルム基材の少なくとも一方の面に導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて導電層を形成する導電層形成工程を有し、 前記導電性高分子分散液が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、気圧1013hPaで液状である高導電化剤と、水分散性樹脂とを含有し、前記高導電化剤の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して300質量部以上20000質量部以下、前記水分散性樹脂の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上9000質量部以下である、フィルムの製造方法。」 (相違点) (相違点1)本件発明1では、「前記導電層形成工程では、前記導電性高分子分散液を、前記導電層における前記導電性複合体由来の厚さが12.3nm以下になるように塗布する」のに対し、引用発明1では、そのような特定はなされていない点。 (相違点2)製造方法において、本件発明1では、「導電性フィルム」を製造するのに対し、引用発明1では、透明電極が形成された「フィルム」を製造する点。 イ 本件発明1と引用発明1との相違点についての判断 (ア)相違点1、2について 相違点1、2について、まとめて検討する。 本件発明1の「導電性フィルム」について、本件特許明細書には、以下のように記載されている。 「【0002】 電子部品を包装する際に使用するフィルムとしては、電子部品の故障の原因となる静電気の発生を防止する導電性フィルムが広く使用されている。また、食品等の包装フィルムにおいても、包装フィルムに埃が付着して食品等の見栄えを損ねることを防ぐために、導電性フィルムを使用することがある。 導電性フィルムとしては、例えば、フィルム基材の少なくとも一方の面に、界面活性剤を含む導電層を設ける方法が知られている。しかし、界面活性剤を含む導電層においては、帯電防止性に湿度依存性が生じる。 そこで、フィルム基材の少なくとも一方の面に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンからなる導電性複合体を含む導電層を設け、必要に応じて延伸する導電性フィルムの製造方法が提案されている(特許文献1)。」 「【0028】 導電性高分子分散液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。 上記のうち、簡便に塗工できることから、バーコーターを用いることがある。バーコーターにおいては、種類によって塗工厚が異なり、市販のバーコーターでは、種類ごとに番号が付されており、その番号が大きい程、厚く塗工できるものとなっている。 前記導電性高分子分散液のフィルム基材への塗工量は、形成される導電層の導電性複合体由来の厚さが12.3nm以下になるように塗布する。」 上記段落【0002】、【0028】の記載に照らすと、本件発明1の「導電性フィルム」とは、帯電防止の包装用のフィルムのように、フィルム基材の一方の面の全面に導電層が形成されたものといえる。 一方、引用発明1の透明電極が形成された「フィルム」は、文献1の段落【0110】に「印刷することによって、パターニングを行うことができ、非導電部分と導電部分とを備え、導電部分を導体パターンとすることができる。」と記載されているように、「フィルム」上に「パターニングされた」透明電極を備えるものであるから、引用発明1の「フィルム」は、本件発明1の「導電性フィルム」に相当するということはできない。したがって、相違点2は、実質的な相違点であるといえる。そして、引用発明1において、相違点2に係る構成を採用することが、文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たことであるとは認められない。 さらに、相違点1も、実質的な相違点であり、仮に、文献2に記載された技術から、透明電極等に用いられる導電性塗膜の厚さとして12.3nm以下のものが周知であることを認めたとしても、引用発明1の組成を有する「インク用組成物」を用いて、導電性複合体由来の厚さを12.3nm以下として膜を形成した場合において、引用発明1が解決しようとする課題、すなわち、文献1の段落【0004】に記載された「膜厚が厚く表面抵抗率の低い透明導電膜を得ること」という課題を解決して、例えば、文献1の【表1】の実施例1における塗膜評価にかかる、表面抵抗率500Ω/□と同程度の低い表面抵抗率を得ることができるとは、示された証拠からは認められないことから、引用発明1において、相違点1に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に相当することができたものではない。 (イ)したがって、本件発明1は、引用発明1であるということはできず、また、本件発明1は、引用発明1及び文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ)申立人は、異議申立書において、以下のように主張する。 「甲第1号証の表1には導電性フィルムを得るためのインク用組成物の配合比が実施例及び比較例として列挙されています。」(異議申立書12ページ24?25行) 「以上説明しましたとおり、請求項1に記載の発明の要件(A)?(C)は甲第1号証に記載されているか、若しくは記載されているに等しいと思料します。よって、請求項1に記載の発明は新規性(特許法第29条第1項第3号)の要件を欠如しているものと思料します。 また、仮に、請求項1に記載の要件(C)が周知事項に該当しないとしても、当該要件は甲第2号証に記載されています。甲第1号証と甲第2号証とはともに導電性膜用の塗工液に関するものですので、これらを組み合わせることに何ら矛盾は有りません。よって、甲第1号証と甲第2号証の記載から当業者であれば、容易に、請求項1に記載の発明に想到すると思料します。従って、請求項1に記載の発明は進歩性(特許法第29条第2項)の要件を欠如するものと思料します。」(異議申立書13ページ16?25行) しかしながら、文献1(甲第1号証)には、上記(ア)のとおり、「導電性フィルム」について記載されていない。また、上記(ア)のとおり、文献1の「インク用組成物」の組成において、導電性複合体由来の厚さが12.3nm以下で膜を形成した場合に、導電膜として十分に機能する根拠もないことから、申立人の上記主張を採用することはできない。 ウ 引用発明2との対比 次に、本件発明1と引用発明2とを対比する。 (ア)引用発明2の「ポリエステルフィルム」は、本件発明1の「フィルム基材」に相当し、引用発明2の「表面層組成3を有効成分として濃度が2重量%になるように作成した塗工液」は、「バイトロンPからなる帯電防止剤」、つまりPEDOT/PSSを含むものであり、本件発明1の「導電性高分子分散液」に相当し、引用発明2の「表面層」は、本件発明1の「導電層」の「層」である点で共通する。 (イ)引用発明2では、「ポリエステルフィルムの片面に表面層組成3を有効成分として濃度が2重量%になるように作成した塗工液を、リバースロールコーターを用いて塗布量を4g/m^(2)で塗工し、ドライヤーゾーン140℃下で1分間の乾燥により、表面層を設け」るものであるから、本件発明1と引用発明2とは、「フィルム基材の少なくとも一方の面に導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて」「層を形成する」「層形成工程」を有する点で共通する。 (ウ)引用発明2の「バイトロンPからなる帯電防止剤」は、PEDOT/PSSであり、本件発明1の「π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体」に相当し、引用発明2の「DMSOからなる高沸点液体」は、ジメチルスホキシドであり、本件発明1の「気圧1013hPaで液状である高導電化剤」に相当し、引用発明2の「プラスコートZ450からなる樹脂」は、水溶性ポリエステル樹脂であり、本件発明1の「水分散性樹脂」に相当する。 (エ)引用発明2の「塗工液」は、「高沸点液体の含有量が、帯電防止剤100質量部に対して1470質量部、樹脂の含有量が、帯電防止剤100質量部に対して1850質量部」であることから、本件発明1と引用発明2とは、「前記高導電化剤の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して300質量部以上20000質量部以下、前記水分散性樹脂の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上9000質量部以下」である点で一致する。 (オ)引用発明2では、「塗工液を、表面層における帯電防止剤由来の厚さが4nm程度になるように塗工する」ものであるから、本件発明1と引用発明2とは、「層形成工程では、前記導電性高分子分散液を、」「層における前記導電性複合体由来の厚さが12.3nm以下になるように塗布する」点で共通する。 (カ)引用発明2の「表面層を設けたポリエステルフィルムを製造する方法」は、本件発明1の「導電性フィルムの製造方法」と、「フィルムの製造方法」である点で共通する。 (キ)そうすると、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。 (一致点) 「フィルム基材の少なくとも一方の面に導電性高分子分散液を塗布し、乾燥させて層を形成する層形成工程を有し、 前記導電性高分子分散液が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、気圧1013hPaで液状である高導電化剤と、水分散性樹脂とを含有し、前記高導電化剤の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して300質量部以上20000質量部以下、前記水分散性樹脂の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上9000質量部以下であり、 前記層形成工程では、前記導電性高分子分散液を、前記層における前記導電性複合体由来の厚さが12.3nm以下になるように塗布する、フィルムの製造方法。」 (相違点) (相違点3)層形成工程は、本件発明1では、「導電層を形成する導電層形成工程」であるのに対し、引用発明2では、そのような特定はなされていない点。 (相違点4)製造方法において、本件発明1では、「導電性フィルム」を製造するのに対し、引用発明2では、「表面層を設けたポリエステルフィルム」を製造する点。 エ 本件発明1と引用発明2との相違点についての判断 (ア)相違点3、4について 相違点3、4について、まとめて検討する。 引用発明2において、「バイトロンPからなる帯電防止剤と、DMSOからなる高沸点液体、プラスコートZ450からなる樹脂とを含有し、高沸点液体の含有量が、帯電防止剤100質量部に対して1470質量部、樹脂の含有量が、帯電防止剤100質量部に対して1850質量部」からなる「塗工液」を用いて形成された「表面層」が設けられたポリエステルフィルムは、文献3の比較例1であるから、引用発明2の「表面層」の表面抵抗率は、文献3の【表2】の記載から、10^(14)Ω/□より大きいと認められ、引用発明2の「表面層」は「導電層」とはいえず、したがって、引用発明2は、「導電性フィルム」の製造方法であるとは認められない。また、比較例1の含有量の比率(組成比)を維持した状態で、表面抵抗率を下げて「導電層」とすることは、文献3に記載も示唆もされていない。 さらに、文献1、2にも、引用発明2の組成比を維持したまま導電層を形成することは記載されていない。したがって、引用発明2において、相違点3、4に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に相当することができたものではない。 (イ)したがって、本件発明1は、引用発明2であるということはできず、また、本件発明1は、引用発明2及び文献1、2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ)申立人は、異議申立書において、以下のように主張する。 「(4-4-4) 請求項1に記載の特許発明の要件(C)について 甲第3号証の表1に示されるNo.3の塗液(比較例1)の導電層の厚さは4nmとなります。詳細は甲3号証の説明(ウ-C)を参照ください。 ここに、特許発明の要件(C):「前記導電層形成工程では、前記導電性高分子分散液を、前記導電層における前記導電性複合体由来の厚さが12.3nm以下になるように塗布する」は、甲第3号証に開示されているといえます。 (4-4-5) 請求項1と甲第3号証との対比のまとめ 以上説明しましたとおり、請求項1に記載の発明の要件(A)?(C)は甲第3号証に記載されているか、若しくは記載されているに等しいと思料します。よって、請求項1に記載の発明は新規性(特許法第29条第1項第3号)の要件を欠如しているものと思料します。 また、仮に、異議申立人が計算により求めた要件(B-1)及び要件(C)の数値が、甲第3号証に記載されていると認められない場合につきましても、当該要件(B-2)は甲第1号証に、要件(C)は甲第2号証に記載されています。甲第1?3号証は、ともに、導電性塗膜の塗工液に関するものですので、これらを組み合わせることに何ら矛盾はありません。よって、これら証拠に記載の先行技術に基づき、当業者であれば請求項1に記載の特許発明に容易に想到すると思料します。従って、請求項1に記載の発明は進歩性(特許法第29条第2項)の要件を欠如するものと思料します。」(異議申立書20ページ18行?21ページ16行) しかしながら、文献3(甲第3号証)の比較例1には、上記(ア)のとおり、「導電層」や「導電性フィルム」について記載されていない。また、上記(ア)のとおり、文献3の比較例1の「塗工液」の組成を維持した状態で、導電膜として機能することは、文献1や文献2(甲第2号証)に記載されていないことから、申立人の上記主張を採用することはできない。 (2)本件発明2、3について 本件発明2、3は、それぞれ、本件発明1に対して、さらに技術的事項を追加したものを含む発明である。 よって、上記(1)イ、エに示した理由と同様の理由により、本件発明2、3は、引用発明1又は引用発明2であるということはできず、本件発明2、3は、引用発明1及び文献2に記載された技術、又は、引用発明2及び文献1、2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明4について ア 引用発明1との対比 本件発明4と引用発明1とを対比する。 (ア)上記(1)ア(ア)、(イ)のとおり、引用発明1の「基材」、「透明導電膜」は、それぞれ、本件発明4の「フィルム基材」、「導電層」に相当する。 (イ)上記(1)ア(ア)、(ウ)のとおり、本件発明4と引用発明1とは、「前記導電層が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、気圧1013hPaで液状である高導電化剤と、水分散性樹脂とを含有し、前記水分散性樹脂の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上9000質量部以下」である点で一致する。 (ウ)引用発明1の「透明電極」が形成されたフィルムである「基材」は、本件発明4の「導電性フィルム」と、「フィルム」である点で共通する。 (エ)そうすると、本件発明4と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。 (一致点) 「フィルム基材と、該フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された導電層とを備え、 前記導電層が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、気圧1013hPaで液状である高導電化剤と、水分散性樹脂とを含有し、前記水分散性樹脂の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上9000質量部以下である、フィルム。」 (相違点) (相違点5)本件発明4では、「前記導電層における前記導電性複合体由来の厚さが12.3nm以下である」のに対し、引用発明1では、そのような特定はなされていない点。 (相違点6)フィルムとして、本件発明4では、「導電性フィルム」であるのに対し、引用発明1では、そのような特定はなされていない点。 イ 本件発明4と引用発明1との相違点についての判断 相違点5、6について、上記(1)イに示した理由と同様の理由により、本件発明4は、引用発明1であるということはできず、また、本件発明4は、引用発明1及び文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 引用発明2との対比 次に、本件発明4と引用発明2とを対比する。 (ア)上記(1)ウ(ア)のとおり、引用発明2の「ポリエステルフィルム」は、本件発明4の「フィルム基材」に相当し、引用発明2の「表面層」は、本件発明4の「導電層」の「層」である点で共通する。 (イ)上記(1)ウ(ウ)、(エ)のとおり、本件発明4と引用発明2とは、「層が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、気圧1013hPaで液状である高導電化剤と、水分散性樹脂とを含有し、前記水分散性樹脂の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上9000質量部以下」である点で一致する。 (ウ)上記(1)ウ(オ)のとおり、本件発明4と引用発明2とは、「層における前記導電性複合体由来の厚さが12.3nm以下である」点で一致する。 (エ)引用発明2の「表面層を設けたポリエステルフィルム」は、本件発明4の「導電性フィルム」と、「フィルム」である点で共通する。 (オ)そうすると、本件発明4と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。 (一致点) 「フィルム基材と、該フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された層とを備え、 前記層が、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、気圧1013hPaで液状である高導電化剤と、水分散性樹脂とを含有し、前記水分散性樹脂の含有量が、前記導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上9000質量部以下であり、 前記層における前記導電性複合体由来の厚さが12.3nm以下である、フィルム。」 (相違点) (相違点7)形成された層として、本件発明4では、「導電層」であるのに対し、引用発明2では、そのような特定はなされていない点。 (相違点8)フィルムとして、本件発明4では、「導電性フィルム」であるのに対し、引用発明2では、そのような特定はなされていない点。 エ 本件発明4と引用発明2との相違点についての判断 相違点7、8について、上記(1)エに示した理由と同様の理由により、本件発明4は、引用発明2であるということはできず、また、本件発明4は、引用発明2及び文献1、2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明5、6について 本件発明5、6は、それぞれ、本件発明4に対して、さらに技術的事項を追加したものを含む発明である。 よって、上記(3)イ、エに示した理由と同様の理由により、本件発明5、6は、引用発明1又は引用発明2であるということはできず、本件発明5、6は、引用発明1及び文献2に記載された技術、又は、引用発明2及び文献1、2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおり、本件発明1?6に係る発明は、文献1に記載された発明又は文献3に記載された発明であるということはできず、また、本件発明1?6は、文献1に記載された発明及び文献2に記載された技術、又は、文献3に記載された発明及び文献1、2に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-01-06 |
出願番号 | 特願2016-42795(P2016-42795) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01B)
P 1 651・ 113- Y (H01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 神田 太郎 |
特許庁審判長 |
加藤 浩一 |
特許庁審判官 |
▲吉▼澤 雅博 脇水 佳弘 |
登録日 | 2020-03-04 |
登録番号 | 特許第6670638号(P6670638) |
権利者 | 信越ポリマー株式会社 |
発明の名称 | 導電性フィルム及びその製造方法 |
代理人 | 伏見 俊介 |
代理人 | 西澤 和純 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 高橋 詔男 |
代理人 | 川越 雄一郎 |
代理人 | 志賀 正武 |