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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B29D 審判 全部申し立て 2項進歩性 B29D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B29D 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B29D |
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管理番号 | 1370040 |
異議申立番号 | 異議2020-700673 |
総通号数 | 254 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-02-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-09-08 |
確定日 | 2021-01-15 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6660949号発明「タイヤ加熱プレスとタイヤブランクを操縦するための輸送設備の装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6660949号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6660949号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)11月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年(平成26年)11月18日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、令和2年2月13日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、特許掲載公報が同年3月11日に発行され、その後、その特許に対し、同年9月8日に特許異議申立人 笹井栄治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし11の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件特許発明1」などといい、これらを併せて「本件特許発明」という場合がある。)。 「【請求項1】 タイヤ加熱プレス(100)とタイヤブランクを操縦するための輸送設備(70)の装置であって、 倉庫床の高さレベル(H)でタイヤ加熱プレス(100)へのタイヤブランク(200)の材料流れを実施する前記輸送設備(70)は、タイヤ加熱プレス(100)にタイヤブランク(200)を供給する少なくとも1つの荷積み装置(40)と、前記倉庫床の高さレベル(H)に対して第2高さレベル(H2)に少なくとも1つの輸送装置(60)とを有し、 少なくとも1つのブランクスタンド(10)が、前記輸送装置(60)と前記荷積み装置(40)の間で材料流れ方向に第1高さレベル(H1)に配置され、 前記ブランクスタンド(10)は、少なくとも1つのタイヤブランク(200)をタイヤ加熱プレス(100)に隣接するように受容し及び/又は一時的に貯蔵するために配置され、 前記ブランクスタンド(10)は、少なくとも1つのタイヤブランク(200)を保持する少なくとも3つの把持ホルダ(11)を有し、 前記把持ホルダ(11)が、回転対称な領域にて、前記領域に対応するフリーギャップを介して前記タイヤブランク(200)を受容し、 少なくとも1つのタイヤブランク(200)を保持する前記少なくとも3つの把持ホルダ(11)がフレーム(12)上に位置しており、 少なくとも1つのタイヤブランク(200)を保持する前記少なくとも3つの把持ホルダ(11)が、中央軸x-xに対して半径方向に移動できるように配置され、それにより回転対称な外側領域又は内側領域での前記タイヤブランク(200)の受容が促進されるように、前記タイヤブランク(200)を受容するための前記フリーギャップが変更可能である、装置において、 前記第1高さレベル(H1)が前記倉庫床の高さレベル(H)よりも上に位置し、前記第2高さレベル(H2)が前記第1高さレベル(H1)よりも上に位置しており、 前記ブランクスタンド(10)が荷積み装置(40)の作動領域と輸送装置(60)の作動領域の両方に位置するように、前記少なくとも1つのブランクスタンド(10)が、供給されるべき前記タイヤ加熱プレス(100)の倉庫床(H)より上の高さレベル(H1)に配置される、ことを特徴とする装置。 【請求項2】 少なくとも1つのタイヤブランク(200)を保持する前記少なくとも3つの把持ホルダ(11)が、少なくとも1つの回転板(14)と、それぞれに把持ホルダ(11)に割り当てられた1つのプル-プッシュロッド(15)とから形成されるドライブ(13)によって移動可能である、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。 【請求項3】 前記ドライブ(13)が原動力により又は手動で作動されるように構成される、ことを特徴とする請求項2に記載の装置。 【請求項4】 少なくとも1つのタイヤブランク(200)を保持する前記少なくとも3つの把持ホルダ(11)がそれぞれ、段付き作用エリア(16)を有し、それにより前記タイヤブランク(200)の保持が少なくとも2つの空間方向で支援される、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。 【請求項5】 前記ブランクスタンド(10)が、タイヤ加熱プレス(100)に隣接して配置されるように、少なくとも1つのタイヤブランク(200)の緩衝貯蔵として配置される、ことを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の装置。 【請求項6】 前記少なくとも1つのブランクスタンド(10)が、供給されるべき前記タイヤ加熱プレス(100)の倉庫床(H)より上の高さレベル(H1)に配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。 【請求項7】 前記ブランクスタンド(10)が、少なくとも1つのタイヤブランク(200)を有する前記ブランクスタンド(10)より上の第2高さレベル(H2)で輸送装置(60)によって送られるように、前記少なくとも1つのブランクスタンド(10)が、供給されるべき前記タイヤ加熱プレス(100)の倉庫床(H)より上の第1高さレベル(H1)に配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。 【請求項8】 前記少なくとも1つのブランクスタンド(10)が、倉庫床(H)より上の高さレベル(H1)で防護柵(80)に又は防護柵(80)上に固定される、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。 【請求項9】 面積の減少した安全スキャナ領域(S)が、前記輸送設備(70)の構成部品(40,10,60)の異なった高さレベル(H,H1,H2)により促進される、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。 【請求項10】 前記輸送装置(60)の移動経路と前記荷積み装置(40)の移動経路が、前記少なくとも1つのブランクスタンド(10)により減少し、それにより荷積み時間が減少し及び/又は位置決め精度が高められる、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。 【請求項11】 前記輸送設備(70)が前記材料流れを自動的に実施する、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。」 第3 特許異議申立理由の概要 1 特許異議申立理由の要旨 特許異議申立人が提出した特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。 (1) 申立理由1(甲1を根拠とする新規性欠如) 本件特許発明1、4ないし7及び9ないし11は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるベきものである。 (2) 申立理由2(甲1を根拠とする進歩性欠如) 本件特許発明1ないし11は、甲1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3) 申立理由3(甲3を根拠とする進歩性欠如) 本件特許発明1ないし11は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4) 申立理由4(明確性要件違反) 本件特許の請求項1ないし11についての特許は、その特許請求の範囲の記載が以下の理由で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ア 申立理由4-1(請求項1の明確性要件違反) 本件特許発明1における、ブランクスタンド(10)の高さは、単に第1高さレベル(H1)と特定されているのみであり、具体的にどのような高さであってどのような技術的意義を有する高さであるか明らかではない。 請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし11も同様である。 イ 申立理由4-2(請求項5の明確性要件違反) 本件特許発明5において、タイヤブランク(200)の緩衝貯蔵として配置されることで、「何故」ブランクスタンド(100)がタイヤ加熱プレス(100)に隣接して配置されるのか技術的関係が不明である。 また、ブランクスタンド(10)とタイヤ加熱プレス(100)との相対位置と、ブランクスタンド(10)がタイヤブランク(200)の緩衝貯蔵として配置されることとの技術的関係について、本件特許出願時における技術常識や本件明細書の記載を参酌しても明らかではない。 ウ 申立理由4-3(請求項8の明確性要件違反) 本件特許発明8において、タイヤブランク(200)を保持するブランクスタンドがどのように防護柵(80)又は防護柵(80)上にタイヤブランク(200)及びブランクスタンド(10)を支持可能に固定されているかについて、本件特許出願時における技術常識や本件明細書の記載を参酌しても明らかではない。 エ 申立理由4-4(請求項9の明確性要件違反) 本件特許発明9において、輸送設備(70)の構成部品(40,10,60)の異なった高さレベル(H,H1,H2)により「何故」面積の減少した安全スキャナ領域(S)が促進されるのか技術的関係が不明であり、また、安全スキャナ領域(S)がどのように促進されるか不明である。 また、構成部品(40、10、60)の位置と安全スキャナ領域(S)の促進の程度との技術的関係、安全スキャナ領域の促進とはどのような状態を示すかについて、本件特許出願時における技術常識や本件明細書の記載を参酌しても明らかではない。 オ 申立理由4-5(請求項10の明確性要件違反) 本件特許発明10において、輸送装置(60)及び荷積み装置(40)について、それぞれどのような移動経路をもってタイヤを輸送する装置なのか、本件特許の請求項10及び請求項10が従属する請求項1の記載を見ても必ずしも明らかではなく、また、本件特許出願時における技術常識及び本件明細書を参照しても必ずしも明らかではない。このため、ブランクスタンド(10)により「何故」「何と比較してどのように」それぞれの移動経路が減少するか技術的関係が不明である。 また、本件特許発明10では、「位置決め精度が高められる」とされるが、「何の」位置決め精度が高められるのか不明であり、また、輸送装置(60)及び荷積み装置(40)の移動経路が減少することで、「何故」位置決め精度が高められるのか不明である。 (5) 申立理由5(実施可能要件違反) 本件特許の請求項1、5及び8ないし10についての特許は、その明細書の発明の詳細な説明の記載が以下の理由で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ・ 本件特許発明1、5及び8ないし10について、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、上記(4)申立理由4において、不明確であるとした事項に関し、具体的な説明が記載されていないから、本件特許出願時における技術常識を参照しても理解することができない。 2 証拠方法 特許異議申立人は、証拠として、以下の文献等を提出する。 甲1:国際公開第2013/182772号及び抄訳文 甲2:米国特許出願公開第2015/0165704号明細書及び抄訳文 甲3:特表2002-532284号公報 甲4:特開2002-316322号公報 甲5:特開昭58-38141号公報 甲6:特開昭56-93535号公報 甲7:特開2009-298032号公報 甲8:特開2008-296479号公報 第4 当審の判断 当審は、以下述べるように、申立理由1ないし5には、いずれも理由はないと判断する。 1 申立理由1及び2(甲1を根拠とする新規性・進歩性欠如)について (1) 甲1の記載事項 甲1には、「空気入りタイヤの製造用の生ゴムタイヤ支持装置」に関し、以下の事項が記載されている(下線は当審において付した。以下同様。)。 なお、原文の摘記は省略し、対応する日本語訳を記す。 ア 「[45] 図9と関係して、設備104は、例えば、ゴムが硬化することを可能としタイヤの外包を取得することを可能とする一又は複数の加硫プレス機108、この実施例では2つの加硫プレス機108を含む加硫ワークステーション106を含む。 [46] 設備104は、ガイドトラック116上に、加硫ワークステーション106について動く能力を有して取り付けられた輸送要素114を含む。輸送要素114は、ガイドトラック116上で、この特定の実施例において2つある装置2を持つ構造を含む車両が形成されている。 ・・・ [48] ガイドトラック116は、加硫されることが予定される生タイヤをローディングするためのワークステーションから延びている。また、ガイドトラック116は、加硫されたタイヤの外包の冷却のためのワークステーションまで延びている。また、ガイドトラック116は、加硫ステーション106の近くを通過する。より具体的には、ガイドトラック116は、加硫ステーション106のローディング及びアンローディング領域を横切っている。このローディングとオフローディングは、ジブクレーン140のような少なくとも一つの要素によって達成される。したがって、この領域において、車両上に位置する生タイヤを、ジブクレーン140の一つによって、車から対応する加硫プレス機108まで輸送することができるとともに、加硫されたタイヤの外包を加硫プレス機108から車両まで輸送することができる。」 イ 「 ![]() 」 (2) 甲1に記載された発明 図9の記載を、段落[45]ないし[48]の記載を踏まえつつ整理すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認める(以下、「甲1発明」という。)。 「ゴムが硬化することを可能としタイヤの外包を取得することを可能とする2つの加硫プレス機108、 ガイドトラック116上に、加硫ワークステーション106について動く能力を有して取り付けられた輸送要素114であって、ガイドトラック116上で、2つの装置2を持つ構造を含む車両として形成された輸送要素114、 輸送要素114の車両上に位置する生タイヤを、車両から対応する加硫プレス機108まで輸送するとともに、加硫されたタイヤの外包を加硫プレス機108から車両まで輸送するジブクレーン140、を有し、 加硫プレス機108を含む加硫ワークステーション106は、床面に設置され、また、床面より高い位置に、前記ガイドトラック116及び輸送要素114が設置されている、 設備104。」 (3) 本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明における「加硫プレス機108」及び「生タイヤ」は、本件特許発明1の「タイヤ加熱プレス(100)」及び「タイヤブランク」に相当し、 また、甲1発明における「ガイドトラック116」と「輸送要素114」は、生タイヤを加硫プレス機に隣接する場所まで搬送する設備であるから、本件特許発明1の「輸送装置(60)」に相当する。 そして、甲1発明における「ジブクレーン140」は、「加硫プレス機」まで生タイヤを輸送する設備であるから、本件特許発明1の「荷積み装置(40)」に相当する。 甲1発明において、上記の「タイヤブランク」を搬送する装置である、「ガイドトラック116」、「輸送要素114」及び「ジブクレーン140」を併せたものが、本件特許発明1の「輸送設備(70)」に相当する。 甲1発明における「床面」及び「床面より高い位置」が、それぞれ本件特許発明1の「倉庫床の高さレベル(H)」及び倉庫床の高さレベル(H)よりも上に位置する「第2高さレベル(H2)」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。 <一致点> 「タイヤ加熱プレス(100)とタイヤブランクを操縦するための輸送設備(70)の装置であって、 倉庫床の高さレベル(H)でタイヤ加熱プレス(100)へのタイヤブランク(200)の材料流れを実施する前記輸送設備(70)は、タイヤ加熱プレス(100)にタイヤブランク(200)を供給する少なくとも1つの荷積み装置(40)と、前記倉庫床の高さレベル(H)に対して第2高さレベル(H2)に少なくとも1つの輸送装置(60)を有する装置。」 <相違点1> 本件特許発明1は、「少なくとも1つのブランクスタンド(10)」を有するのに対し、甲1発明は、そのように特定されず、 当該ブランクスタンド(10)に対応する特定事項が存在しないことに伴い、本件特許発明1は、「輸送設備(70)」において、「少なくとも1つのブランクスタンド(10)が、前記輸送装置(60)と前記荷積み装置(40)の間で材料流れ方向に第1高さレベル(H1)に配置され、 前記ブランクスタンド(10)は、少なくとも1つのタイヤブランク(200)をタイヤ加熱プレス(100)に隣接するように受容し及び/又は一時的に貯蔵するために配置され、 前記ブランクスタンド(10)は、少なくとも1つのタイヤブランク(200)を保持する少なくとも3つの把持ホルダ(11)を有し、 前記把持ホルダ(11)が、回転対称な領域にて、前記領域に対応するフリーギャップを介して前記タイヤブランク(200)を受容し、 少なくとも1つのタイヤブランク(200)を保持する前記少なくとも3つの把持ホルダ(11)がフレーム(12)上に位置しており、 少なくとも1つのタイヤブランク(200)を保持する前記少なくとも3つの把持ホルダ(11)が、中央軸x-xに対して半径方向に移動できるように配置され、それにより回転対称な外側領域又は内側領域での前記タイヤブランク(200)の受容が促進されるように、前記タイヤブランク(200)を受容するための前記フリーギャップが変更可能である、装置において、 前記第1高さレベル(H1)が前記倉庫床の高さレベル(H)よりも上に位置し、前記第2高さレベル(H2)が前記第1高さレベル(H1)よりも上に位置しており、 前記ブランクスタンド(10)が荷積み装置(40)の作動領域と輸送装置(60)の作動領域の両方に位置するように、前記少なくとも1つのブランクスタンド(10)が、供給されるべき前記タイヤ加熱プレス(100)の倉庫床(H)より上の高さレベル(H1)に配置される」のに対し、甲1発明は、そのように特定されない点。 イ 相違点についての検討 (ア) 新規性に関する検討 甲1発明は、「ガイドトラック116」上の「輸送要素114」によって輸送された生タイヤをジブクレーン140によって、直接的に加硫プレス機108まで輸送するものであって、甲1には、上記「ブランクスタンド」に相当する構成について記載されていない。 そして、この点は、タイヤ加熱プレスに対するタイヤブランクの搬送において、一時的にタイヤブランクを保持する経路が増えるかどうかという点からも相違するものとなるから、相違点1は、実質的な相違点である。 したがって、本件特許発明1は、甲1発明ではない。 (イ) 進歩性に関する検討 相違点1における「ブランクスタンド」について、甲1には、その設置につき、記載も示唆もされておらず、また、甲1の図9のように、床面に近い高さに敷設された「ガイドトラック116」と「輸送要素114」によって加硫プレス機108の近傍まで輸送された生タイヤを「受容し及び/又は一時的に貯蔵するため」の設備を更に追加し、しかも当該設備を「ガイドトラック116」と床面との間の高さに設置する動機付けも存在しない。 そして、本件特許発明1は、タイヤの輸送装置(60)と、タイヤ加熱プレス(100)との間に、「ブランクスタンド」を、特に両者に挟まれた高さ位置に設置することによって、本件特許明細書の段落【0013】や【0017】に記載されるように、スペースや床面積低減及びタイヤの加熱プレス前の緩衝貯蔵によって安全性や作業性等における格別顕著な効果を有するものである。 よって、甲1発明において、上記相違点1における「ブランクスタンド」について、その採用及び特定の高さ位置への設置は当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (ウ) 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書第65ページにおいて、甲1の記載における本件特許発明1のブランクスタンド(10)に対応する特定事項の認定について、以下の主張をしている。 「(エ) 発明特定事項Dについて 甲1発明の装置2は、上記適切な手段によって生タイヤを配置するワークステーションから、ジブクレーン140によって生タイヤを加硫プレス機108まで輸送できる位置まで延びるガイドトラック116上に配置されており、すなわち本件特許発明1の輸送装置(60)に相当する適切な手段と、本件特許発明1の荷積み装置(40)に相当するジブクレーン140との間に配置されている。そして、装置2は、ガイドトラック116上において、タイヤ加硫機108が配置される床面の高さAよりも高い位置にある高さBに配置されている。すなわち、甲1発明の装置2は、本件特許発明1のブランクスタンド(10)に相当する。 したがって、甲1発明の構成1Dは、本件特許発明1の発明特定事項Dと一致する。」 上記主張を検討する。 甲1発明の「装置2」は、「輸送要素114」と一体となって生タイヤ等を固定する手段であって、本件特許発明1のように、「輸送要素114」と「加硫プレス機108」との間にあって、タイヤを一時的に貯留する設備でとはいえない。 そして、仮に「装置2」が、本件特許発明1の「ブランクスタンド(10)」に相当するとしても、甲1発明において、「装置2」が、「輸送要素114」のさらに上方に位置していることから、本件特許発明の各装置の高さ関係と一致しないことから、特許異議申立人による、本件特許発明1と甲1発明の相当関係の認定は誤りというべきものであって、それに基づく主張は採用できるものではない。 ウ 本件特許発明1についての小括 そうすると、本件特許発明1は、甲1発明とはいえないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4) 本件特許発明2ないし11について 本件特許発明1が、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(3)のとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2ないし11についても同様であるから、本件特許発明4ないし7及び9ないし11は、甲1発明ではなく、また、本件特許発明2ないし11は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5) 申立理由1及び2のまとめ したがって、本件特許発明1、4ないし7及び9ないし11は、甲1発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとする申立理由1には理由がない。 また、本件特許発明1ないし11は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとする申立理由2には理由がない。 2 申立理由3(甲3を根拠とする進歩性欠如)について (1) 甲3の記載事項 甲3には、「グリーンタイヤ自動搬送装置」に関し、以下の事項が記載されている。なお、下記アは、特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書として記載されている部分のものである。 ア 「【請求項1】 複数のグリーンタイヤ(24)を複数のタイヤプレス(40)に移動する自動グリーンタイヤ搬送装置(10)において、各タイヤプレスが垂直なタイヤ軸を有するグリーンタイヤの水平移動が出来る付設したプレスローダ(38)を有し、前記搬送装置は1つまたは複数のモノレールキャリヤ(18)が上を移動できる高架モノレール軌道(16)を含み、 それぞれが前記複数のタイヤプレスの1つの近くにそれに付設して配置され、前記1つまたは複数のモノレールキャリヤからグリーンタイヤを受け取る複数のエレベータ装置(31)と、 前記複数のエレベータ装置それぞれが1つのエレベータ(30)を有し、該エレベータが垂直なタイヤ軸で前記グリーンタイヤを前記プレスローダに与えるように、前記1つまたは複数のモノレールキャリヤから該エレベータの近くの前記タイヤプレスのプレスローダに前記グリーンタイヤを搬送することを特徴とする、搬送装置。 【請求項2】 前記エレベータ(30)が垂直経路を移動し、前記エレベータ(30)に支持アーム(29)が取り付けられ、該支持アームの末端部にバスケット(28)が結合されていて、前記バスケットが、第1の位置において前記1つまたは複数のモノレールキャリヤ(18)から前記グリーンタイヤ(24)を受け取り、前記グリーンタイヤが前記エレベータの近くの前記タイヤプレス(40)の対応するプレスローダ(38)によって前記バスケットから降ろされる第2の位置まで移動可能であることを特徴とする、請求項1に記載の搬送装置(10)。」 イ 「【0005】 グリーンタイヤが組み立てられた後、グリーンタイヤを、タイヤの成形および硬化が行われるタイヤ製造設備またはタイヤ製造用の建造物の一部に移動しなくてはならない。熱せられたタイヤ成形プレスで成形と硬化が行われ、プレス内では、圧力下で、トレッドパターンなどを備えたグリーンタイヤの外部ゴム表面が形作られる。また、タイヤ成形プレスは、それまで未硬化であったゴムに、熱で誘発される化学変化を生じさせ、完成品のタイヤ特有の硬く安定した形状保持ゴムの類を生成させる硬化または加硫工程を誘発するようにタイヤを加熱する。 【0006】 前述の2工程は、グリーンタイヤをタイヤ組立エリアから硬化用プレスの場所まで搬送するまでの時間分、離れている。標準的でない場合、グリーンタイヤの搬送は、中間保管エリア内でグリーンタイヤの途中降ろしを伴うことが多い。任意のグリーンタイヤは、この特殊タイプのグリーンタイヤに合った適切なプレスのタイヤ受入れ準備が整うまで保管される。・・・ 【0007】 ・・・別の検討事項は、製造設備が車輪付き搬送車に対応するように設計されていなくてはならないことであり、すなわち、製造設備は、車両と静止物体、他の車両、または人との衝突の機会を最小限にするように、装輪車が十分な空間をもって移動できる広い表面”道路”を有していなくてはならない。」 ウ 「【0010】 前述の操作方法によって提起される問題の中に、労働者が使用する同一エリア内での車輪付き搬送車の使用があり、これは明らかに危害を引き起こす。別の問題は、工場床面積の多くの部分が搬送車移動用の経路に使用されていることである。」 エ 「【0014】 本発明の目的の1つは、グリーンタイヤ組立位置から、タイヤが成形され加硫させられる硬化用プレスの位置までタイヤを搬送することを含む、タイヤ製造工程の一部を自動化する自動モノレール搬送装置を提供することである。 【0015】 本発明の別の目的は、そうでなければ、人間と駆動式装輪車の両方を安全に収容するのに十分な広さの道路に対して与えられる工場床面積部を最小限にする自動モノレール搬送装置を提供することである。」 オ 「【0024】 【発明の概要】 本発明は、タイヤ製造工場内でグリーンタイヤ(すなわち未加硫のタイヤ)を搬送するための自動モノレール搬送装置に関する。本発明は、特に、複数のグリーンタイヤを複数の硬化用プレスに搬送することに関する。それは1つまたは複数のモノレール搬送キャリヤを載せるモノレール軌道を含む。搬送装置は、モノレールキャリヤからグリーンタイヤを受け取る複数のタイヤプレスのそれぞれの近傍に位置する1つまたは複数のエレベータ装置を特徴としている。各エレベータ装置は、モノレールキャリヤからタイヤプレスのローダまでタイヤを搬送するための、垂直に移動可能なエレベータを有する。エレベータは垂直な支持レールに乗り、アームの末端にバスケットが取り付けられた支持アームを含んでいる。作動時、バスケットは、モノレール軌道の第1の位置でグリーンタイヤを受け取り、その後、垂直な経路に沿って第2の位置まで移動することができ、そこでプレスのローダによってグリーンタイヤがバスケットから降ろされる。 ・・・ 【0027】 グリーンタイヤをプレスに対して予め決められた角度方向で供給する際に、エレベータ装置とプレスローダのその後の角移動を考慮して、各モノレールキャリヤのタイヤ把持位置は、各グリーンタイヤをタイヤの軸線を中心として角度的に方向付けることができる。エレベータ装置のバスケットは、各プレスと関連付けられたプレスローダと連携して、加工中のグリーンタイヤの緩和保管場所としての機能を果たす。 【0028】 本発明は、複数のグリーンタイヤを1つまたは複数のモノレール搬送キャリヤを備えた複数のタイヤ硬化用プレスに搬送する方法に関するものでもある。この方法は、各グリーンタイヤを1つのモノレールキャリヤからタイヤプレスのローダへまで搬送する搬送段階を含む。搬送段階は、タイヤをモノレールキャリヤからエレベータへ、そして第2の位置へ搬送する場合に、第1の位置から垂直な経路に沿ってグリーンタイヤを移動させることを含む。」 カ 「【0062】 【モノレール装置の操作順序の概略】 図2Aに、モノレール22から吊り下げられているモノレールキャリヤ18を簡単に示す。グリーンタイヤ24は、グリーンタイヤ24を把持したり解放したりするために伸縮可能なキャリヤのタイヤ把持機構26によって吊り下げられている。モノレールキャリヤ18のタイヤ把持機構26は、グリーンタイヤ24を、垂直支持レール32に載っているエレベータ30に取り付けられたバスケット28を含むエレベータ装置31の中で解放する。 【0063】 モノレールキャリヤ18のタイヤ把持機構26は、以下に詳細に説明するように、タイヤ24の軸線を中心としてタイヤ24を回転させることができる。支持レール32に固定されているモータ33は、エレベータ30およびそのバスケット28の垂直方向の動きを制御する。図2Bに、エレベータ30と、垂直支持レール32と、モータ33などの従来の手段によって駆動されてバスケット28およびエレベータ30を上昇または下降させるチェインまたはケーブル32とを備えているエレベータ装置31の第2の図を示す。”エレベータ装置”という用語は、一般に、以下に論じるように個々のグリーンタイヤをモノレールキャリヤから受け取って各タイヤプレスによるプレスローダの把持範囲内にタイヤを移動させる、垂直経路内を垂直支持部32に対して上下移動できる付属バスケット28付きのエレベータ30を有する、中間のタイヤ搬送装置のことを言う。 【0064】 モノレールキャリヤ18が、エレベータ30に取り付けられているバスケット28の第1の位置すなわち上方位置にてグリーンタイヤ24を置き、その後、エレベータ30が垂直経路に沿って第2の位置すなわち下方ポジションまたは場所36まで移動する。その後、エレベータ30に取り付けられたバスケット28内のグリーンタイヤ24は、下方ポジション36で、バスケット28を支持するアーム29によって画定される半径の円弧を通ってバスケットがエレベータ30に対して移動するように、バスケット28に入ったまま運ばれる。バスケットは、一般的にはタイヤプレス40の一部であるローダ38まで、垂直経路に沿ったその動きと一緒に円弧を通って動くこともできるし、グリーンタイヤを搬送する下方位置に到着した後で動くこともできる。・・・ 【0065】 図3Aに、型の上半分44が上がっている状態の開位置にあるタイヤプレス40を示す。各プレス40と連携して作動するプレスローダ38は、それらは上下移動可能およびそれは水平面内の回転可能という2種類の運動度を有する。例えば、図2Aに示されているように、ローダ38は、エレベータ装置31のバスケット28からグリーンタイヤを取り出した後、各グリーンタイヤ24をプレス40の中に移動させることができる。図3Bに、型の下半分46に対して型の上半分44が下げられた位置にある閉位置のタイヤプレス40を示す。プレス40は、タイヤ24がプレスに装着された後で閉じられる。 ・・・ 【0068】 作動時、第1の位置において、エレベータ30はグリーンタイヤ24をモノレールキャリヤ18からバスケット28に受け取る。その後、エレベータ30は、タイヤをプレス40のプレスローダ38に搬送できるように、バスケットとともに、アームとバスケットがエレベータに対して水平面内で角移動できる第2の位置まで下降させられる。そして最後にプレスローダ38がグリーンタイヤを水平に移動させることによってタイヤをプレスに装着する。バスケット28は、一般的にはアーム29に対して移動不可能に取り付けられているが、グリーンタイヤをタイヤプレスに装着する角度位置を容易に調節できるようにバスケット28をアーム29に対して回転させる動力装置(図示せず)を設けることも本発明の範囲内である。 【0069】 【中間のタイヤ保管とタイヤ保管緩和域】 図2A、2B、4、および5Aに示されたエレベータ装置31とその関連部品は、本発明の本質的特徴である。エレベータ装置31は、グリーンタイヤを新型タイヤプレス、すなわち、本発明の型の下半分31から垂直に持ち上がる型の上半分44を有するプレスに、自動搬送することができる。モノレールからタイヤプレスへのグリーンタイヤの搬送の中間段階としてエレベータ装置を使用することの別の大きな利点は、モノレールキャリヤが他のグリーンタイヤを他のプレスに搬送するのが自由のときに、エレベータ30が、それぞれの各タイヤプレス40での加工待ちのタイヤのための固有の中間タイヤ保管場所すなわち緩和域となることである。・・・本発明では、エレベータ装置31の使用によってまさに各タイヤプレスの位置に付加的なタイヤ緩和保管装置を取り入れることにより、グリーンタイヤを供給して即座にバスケット28に移載し、モノレールキャリヤを空にすることができるので、モノレールキャリヤの必要性が減少させられる。また、タイヤを、各プレスに対応付けられたタイヤローダに搬送できるので、各プレスに設けられたタイヤ緩和保管場所には2つのタイヤ、すなわちバスケットに一方およびローダに他方、が存在している。言い換えると、エレベータ装置は、各タイヤプレスに対応付けられたプレスローダと組み合わさって各プレスの場所に2タイヤ保管緩和域を形成し、それによって組立エリア12からタイヤプレスエリ14へのグリーンタイヤの搬送の効率と速度を増加させる。」 キ 「【図2A】 ![]() 」 (2) 甲3に記載された発明 【図2A】の記載を、【請求項1】、【請求項2】及び段落【0062】ないし【0069】の記載を踏まえつつ整理すると、甲3には、以下の発明が記載されていると認める(以下、「甲3発明」という。)。 「タイヤプレス(40)と、 グリーンタイヤ(24)をタイヤプレス(40)に移動する自動グリーンタイヤ搬送装置(10)であって、 各タイヤプレス(40)が垂直なタイヤ軸を有するグリーンタイヤ(24)の水平移動が出来る付設したプレスローダ(38)を有し、 前記搬送装置はモノレールキャリヤ(18)が上を移動できる高架モノレール軌道(16)を含み、 前記タイヤプレス(40)の1つの近くにそれに付設して配置され、モノレールキャリヤ(18)からグリーンタイヤ(24)を受け取るエレベータ装置(31)と、 前記エレベータ装置(31)が1つのエレベータ(30)を有し、 前記エレベータ(30)が垂直経路を移動し、前記エレベータ(30)に支持アーム(29)が取り付けられ、該支持アームの末端部にバスケット(28)が結合されていて、前記バスケット(28)が、第1の位置において前記モノレールキャリヤ(18)から前記グリーンタイヤ(24)を受け取り、前記グリーンタイヤ(24)が前記エレベータ(30)の近くの前記タイヤプレス(40)の対応するプレスローダ(38)によって前記バスケット(28)から降ろされる第2の位置まで移動可能である搬送装置(10)。」 (3) 本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲3発明とを対比する。 甲3発明における「タイヤプレス(40)」及び「グリーンタイヤ」は、それぞれ本件特許発明1の「タイヤ加熱プレス(100)」及び「タイヤブランク」に相当し、 また、甲3発明における「プレスローダ(38)」は、グリーンタイヤを床面に設置したタイヤプレス(40)に輸送する装置である点で、本件特許発明1の「倉庫床の高さレベル(H)でタイヤ加熱プレス(100)へのタイヤブランク(200)の材料流れを実施する」、「荷積み装置(40)」に相当する。 甲3発明における「高架モノレール軌道(16)」及び「モノレールキャリヤ(18)」は、床に対して「高架」する位置に配置されているから、本件特許発明1の倉庫床の高さレベル(H)に対して第2高さレベル(H2)に少なくとも1つある「輸送装置(60)」に相当する。 よって、本件特許発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。 <一致点> 「タイヤ加熱プレス(100)とタイヤブランクを操縦するための輸送設備(70)の装置であって、 倉庫床の高さレベル(H)でタイヤ加熱プレス(100)へのタイヤブランク(200)の材料流れを実施する前記輸送設備(70)は、タイヤ加熱プレス(100)にタイヤブランク(200)を供給する少なくとも1つの荷積み装置(40)と、前記倉庫床の高さレベル(H)に対して第2高さレベル(H2)に少なくとも1つの輸送装置(60)とを有し、に配置される、ことを特徴とする装置。」 <相違点2> 本件特許発明1は、高さ方向の位置が固定されている「少なくとも1つのブランクスタンド(10)」を有するのに対し、甲3発明は、そのように特定されず、 甲3発明には、ブランクスタンド(10)に対応する構成が存在しないことに伴い、本件特許発明1における「輸送設備(70)」において、「少なくとも1つのブランクスタンド(10)が、前記輸送装置(60)と前記荷積み装置(40)の間で材料流れ方向に第1高さレベル(H1)に配置され、 前記ブランクスタンド(10)は、少なくとも1つのタイヤブランク(200)をタイヤ加熱プレス(100)に隣接するように受容し及び/又は一時的に貯蔵するために配置され、 前記ブランクスタンド(10)は、少なくとも1つのタイヤブランク(200)を保持する少なくとも3つの把持ホルダ(11)を有し、 前記把持ホルダ(11)が、回転対称な領域にて、前記領域に対応するフリーギャップを介して前記タイヤブランク(200)を受容し、 少なくとも1つのタイヤブランク(200)を保持する前記少なくとも3つの把持ホルダ(11)がフレーム(12)上に位置しており、 少なくとも1つのタイヤブランク(200)を保持する前記少なくとも3つの把持ホルダ(11)が、中央軸x-xに対して半径方向に移動できるように配置され、それにより回転対称な外側領域又は内側領域での前記タイヤブランク(200)の受容が促進されるように、前記タイヤブランク(200)を受容するための前記フリーギャップが変更可能である、装置において、 前記第1高さレベル(H1)が前記倉庫床の高さレベル(H)よりも上に位置し、前記第2高さレベル(H2)が前記第1高さレベル(H1)よりも上に位置しており、 前記ブランクスタンド(10)が荷積み装置(40)の作動領域と輸送装置(60)の作動領域の両方に位置するように、前記少なくとも1つのブランクスタンド(10)が、供給されるべき前記タイヤ加熱プレス(100)の倉庫床(H)より上の高さレベル(H1)に配置される」ことに対応する特定が甲3発明にはなされない点。 イ 相違点についての検討 (ア) 相違点2について 甲3発明は、「モノレールキャリヤからグリーンタイヤを受け取るエレベータ装置(31)」でモノレールキャリアの近傍(本件特許発明1のH2近傍)まで、エレベータ装置を上昇させてグリーンタイヤを受け取ることによって、「エレベータ装置31の使用によって・・・グリーンタイヤを供給して即座にバスケット28に移載し、モノレールキャリヤを空にすることができるので、モノレールキャリヤの必要性が減少させられる。」(甲3の段落【0069】)という、輸送効率上の効果を奏するものである。 そうすると、甲3発明において、高さ方向のエレベータ装置をあえて固定式にすること、つまり、本件特許発明1における「ブランクスタンド」に相当するものとすることには、動機付けがなく、むしろ阻害要因があるといえる。 そして、相違点2に係る効果について、本件特許発明は、タイヤの輸送装置(60)と、タイヤ加熱プレス(100)との間に「ブランクスタンド」を、特に両者の中間の位置の高さに固定して設置することによって、本件特許明細書の段落【0013】や【0017】に記載されるように、スペースや床面積低減及びタイヤの加熱プレス前の緩衝貯蔵によって、安全性や作業性等における格別顕著な効果を有するものである。 (イ) 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、特許異議申立書第87ページにおいて、甲3の記載における、本件特許発明1のブランクスタンド(10)に対応する特定事項の認定について、以下の主張をしている。 「(エ) 発明特定事項Dについて 甲3発明のバスケット28は、本件特許発明1の輸送装置(60)に相当するモノレールキャリア18と、本件特許発明1の荷積み装置(40)に相当するローダ38との間で、グリーンタイヤ24が搬送される上下方向に、すなわちグリーンタイヤ24の材料流れの方向に、硬化用プレス40が配置される床面の高さAよりも高い高さB(第1の位置から第2の位置まで)に配置されている。 すなわち、甲3発明の「バスケット28」は、本件特許発明1の「ブランクスタンド(10)」に相当する。 したがって、甲3発明の構成3Dは、本件特許発明1の発明特定事項Dと一致する。」 上記主張を検討する。 確かに甲3発明の「バスケット(28)」は、その動作範囲は、タイヤプレス(40)が配置される床面の高さよりも高く、モノレールキャリア(18)の高さよりも低い場所に存在し、そして、本件特許発明1と同様に、タイヤを一時的に貯留する設備といえるものである。 しかしながら、本件特許発明1における「ブランクスタンド(10)」は、「少なくとも1つのブランクスタンド(10)が、前記輸送装置(60)と前記荷積み装置(40)の間で材料流れ方向に第1高さレベル(H1)に配置され」と特定され、ここでいう「高さレベル」は、高さの水準を意味し、当業者にとって、水準となるものは通常、固定されて対比の基準となるものと解されるから、本件特許発明1における「ブランクスタンド(10)」は、その構成要素の高さ方向の位置が固定されているものであるといえる。そうすると、高さ方向に固定されている本件特許発明1のブランクスタンド(10)に対応する特定は甲3発明に存在しないというべきである。 そして、甲3発明の「エレベータ装置(31)」は、昇降動作を行う搬送装置として機能するものであるが故に、モノレールキャリアの近傍位置まで移動可能であって、その近傍位置でグリーンタイヤを搭載することによって、モノレールキャリアを直ちに空にし、モノレールキャリアの稼働効率を向上させるものであって、甲3発明において、このような「エレベータ装置(31)」をあえて、モノレールキャリア(18)の高さから低い位置に固定する動機付けもなく、また、上記のモノレールキャリアの稼働効率からも、むしろ阻害要因となるものといえる。 さらに、グリーンタイヤを積載する「バスケット(28)」を、相違点2における「少なくとも3つの把持ホルダ(11)」を有する機構に代えることについて検討すると、その場合、把持ホルダ(11)による把持の時間がさらに要することから、効率性を課題とする甲3において、相違点2に係る特定事項を採用することには、動機付けもなく、阻害要因があるものといえる。 よって、特許異議申立人による、本件特許発明1と甲3発明との相当関係の認定は誤りというべきものであって、それに基づく主張は採用できるものではない。 ウ 本件特許発明1についての小括 そうすると、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4) 本件特許発明2ないし11について 本件特許発明1が、甲3発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(3)のとおりであるから、本件特許発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件特許発明2ないし11についても同様に、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5) 申立理由3のまとめ したがって、本件特許発明1ないし11は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとする申立理由3には理由がない。 4 申立理由4(明確性要件)について (1) 申立理由4-1(請求項1)について 第1高さレベル(H1)の具体的な高さと技術的意義を不明とする特許異議申立人の主張に関し、第1高さレベル(H1)は、倉庫床の高さレベル(H)と、第2高さレベル(H2)の間に位置するという相対的な位置関係は、請求項1の記載において明らかである。 なお、本件特許明細書の段落【0009】及び【0011】に記載されるように、能率的なタイヤ製造のために、レール上で作動する輸送装置からタイヤ加硫機械のところまで、比較的急速にタイヤブランクを降ろされなければならないことに起因する安全上の問題は、当該輸送装置とタイヤ加硫機械の間の高さにブランクスタンドを設置することで解決するといえる。 (2) 申立理由4-2(請求項5)について 本件特許発明5において、タイヤ加熱プレス(100)の前工程でブランクスタンド(10)によってタイヤブランク(200)が保持されることで、次工程のタイヤ加硫の緩衝貯蔵となることは明らかであるし、次工程を行うタイヤ加熱プレス(100)に隣接してブランクスタンド(10)を配置することは、タイヤブランク(200)の搬送効率から当業者にとって当然のことといえる。 (3) 申立理由4-3(請求項8)について 本件特許発明8における、ブランクスタンドを防護柵(80)又は防護柵(80)上に固定することという特定は明確である。 なお、具体的な態様は、【図1】及び【図3】ないし【図6】にも図示され、段落【0016】、【0021】及び【0022】にも当該固定について記載されている。 (4) 申立理由4-4(請求項9)について 請求項9の記載によって、本件特許発明9の装置において、安全スキャナ領域(S)の面積が減少するように、輸送設備(70)の構成部品(40,10,60)が異なった高さレベル(H,H1,H2)に構成することが明確に特定されている。 なお、上記の輸送設備(70)と安全スキャナ領域(S)の面積との因果関係も段落【0017】に記載されている。 (5) 申立理由4-5(請求項10)について 請求項10の記載によって、本件特許発明10の装置において、「少なくとも1つのブランクスタンド(10)」を設けることによって、輸送装置(60)と荷積み装置(40)の移動経路が減少するように構成することが明確に特定されている。 なお、ブランクスタンド(10)が存在する場合、輸送装置(60)又は荷積み装置(40)によるタイヤブランク(200)を移動させる距離は、ブランクスタンド(10)が存在しない場合より減少することは明らかであるし、荷積み装置の移動距離が減少すれば、荷積み時間が減少することも明らかである。 (6) 申立理由4のまとめ したがって、申立理由4には理由がない。 5 申立理由5(実施可能要件)について (1) 発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明の記載には、おおむね以下のとおりの記載がある。 ア 「【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明によれば、この目的は、少なくとも1つのブランクスタンドが、倉庫床領域に対して垂直の間隔を置いて、例えば加熱プレスなどのタイヤ製造設備又はタイヤ加硫機械の横にそれぞれ並ぶように、位置決めされることにより達成される。この目的のために、タイヤブランクが操縦設備によって入れられる保持設備が、加熱プレス及び/又はタイヤ加硫機械の間で使用される。この場合、少なくとも衝突の下側潜在的領域における操縦設備用の移動領域が、加熱プレスの上にのみ延びている。操作人員に対する危険が異なった高さレベルによって排除される。 【0014】 一般に、1つの受容設備が、割り当てられた加熱プレス又はタイヤ加硫機械の横にそれぞれ左右に配置される。受容設備からのタイヤブランクの回収・取り出しは、タイヤ加熱プレス上に配置されたグリッパを用いて実行される。グリッパは、要求に応じて保持設備からタイヤブランクを回収し、加硫工程のために当該タイヤブランクをタイヤ加熱プレスの型に挿入する。 ・・・ 【0016】 例えば、ブランクスタンドが倉庫床レベルの上の2.5mに位置し、例えば加熱プレスの横に位置するように配置されたオプションの防護柵の上に、場合によっては加熱プレスの横に位置決めされ場合、以下の利点が得られる。 【0017】 -自動荷積み装置が操作人員との衝突の恐れの無い高さレベルで作動するので、加熱プレスの前のスペース要件が顕著に低減される。 -大きさの減少した安全スキャナ領域が必要とされず又は少なくとも1つの大きさの減少した安全スキャナ領域しか必要とされないので、1つ以上の高さ領域での格納庫体積の利用の結果、倉庫床面積が減少される。 -少なくとも2つのタイヤブランクが貯蔵でき、従って加熱プレスの前に材料流れ方向に言わば緩衝貯蔵できる。第1タイヤブランクは積み込み機/グリッパ内にあり、少なくとも1つの第2タイヤブランクはブランクスタンド内にある。 -減少した又は削除された安全スキャナ領域面積によるスペースに関する獲得とは別に、加熱プレスの前の面積が場合により生じる型変更のために自由に利用できる。 -荷積み装置及び供給設備によるタイヤブランクの自動的で人員から独立した操縦の結果、製造の中断が生じない。」 イ 「【発明を実施するための形態】 【0020】 図1は、本発明に従うブランクスタンド(10)を有する、好ましくは自動的に作動する荷積み装置に関連するタイヤブランクの操縦を視覚化するための斜視外観図を示す。 【0021】 ここでは本発明の教示に従うブランクスタンド(10)は、倉庫床より上の高さレベルに、従って供給されるべきタイヤ加熱プレス(100)より上の高さレベルに配置される。図1に従う本例示の実施形態におけるブランクスタンド(10)は、頂部にて、タイヤ加熱プレス(100)の横に設けられた防護柵(80)の端部側に位置するように固定される。 【0022】 防護柵(80)は機能の点で、この選択された配置により2つの方法で利用される。防護柵は、荷積み装置(40)の隣接した安全に関連する作動スペースへの接近制限と、ブランクスタンド(10)用の保持装置の両方として機能する。 【0023】 ブランクスタンド(10)の配置は、それが荷積み装置(40)の作動領域と、ブランクスタンド(10)にタイヤブランクを供給及び補給する操縦設備の作動領域の両方に位置するように、実行される。荷積み装置(40)は、少なくとも1つのアウトリガー(51)によって直線及び/又は回転運動ドライブの設備に連結された操縦装置(50)を有する。操縦装置(50)は、タイヤブランク(200)を受けるためのグリッパ(52)を有する。操縦装置は、ブランクスタンド(10)へ又はブランクスタンドからのタイヤブランク(200)のそれぞれの受容と、タイヤブランク(200)のタイヤ加熱プレス(100)への補給の両方、及び、好ましくは終端位置として実施されるこれら空間固定位置の間の全ての運動位置が促進・支援されるように、運動ドライブにより直線及び回転方向の運動において移動可能である。 ・・・ 【0025】 図2は、斜視図にて、受容したタイヤブランク(200)を有する、本発明に従うブランクスタンド(10)を示す。ブランクスタンド(10)の建設は、好ましくは中央軸x-xに対して半径方向に直線的に半径方向フレーム(12)上を移動できるように配置された少なくとも3つの把持ホルダ(11)によって実施される。回転対称な対象物、そのうちの1つであるタイヤブランク(200)を、圧入・圧力嵌めにより、統計に基づいて決定した方法で、支持し、把持し又はクランプ可能にするために、好ましくは外周上に一様に分配されたまさに3つの接触点が必要である。ブランクスタンド(10)の本例示の実施形態におけるタイヤブランク(200)は、半径方向及び一様な配置の4つの把持ホルダ(11)によって受容される。 【0026】 回転板(14)の形状のドライブ(13)が示されている例では設けられている。ドライブは、プル-プッシュロッド(15)と連通し、原動力により又は手動で駆動可能であり、把持ホルダ(11)の直線運動を実行することができる。当該回転板(14)は中央軸x-xに対して中心に配置されている。このようにして、把持ホルダ(11)により画定されるフリーギャップ(遊びの隙間)がそれぞれのタイヤブランク径に適合できる。前記少なくとも3つの把持ホルダ(11)は、タイヤブランク(200)に向かって指向する段付き作用エリア(16)を有し、それによりタイヤブランク(200)の保持が2つの空間方向で、好ましくは水平及び垂直方向に保証される。 ・・・ 【0028】 図3は、輸送装置(60)によるタイヤブランク(200)の供給輸送のための材料流れの状態における、本発明に従う輸送設備(70)の3次元図面を示す。図示の状況における輸送装置(60)はブランク(200)を受容しており、ブランクスタンド(10)は受容されていたタイヤブランク(200)が無いために受容待機モードにある。ブランクスタンド(10)は好ましくは、当該ブランクスタンド(10)が2つのタイヤブランク(200)を受容できるように構成される。この結果、1つのタイヤブランク(200)が既に受容されているときでも、ブランクスタンド(10)の受容待機モードは存在し得る。 【0029】 本発明の基本的概念のうちの1つを示すために、関連する高さレベル線H,H1,H2が明瞭のために示されている。倉庫床レベル(H)から、第1高さレベル(H1)及び第2高さレベル(H2)を有するコリドー(通路)への輸送機能及び操縦機能の移動によって、作業場の安全に必要とされるスキャナ安全領域とタイヤ加熱プレスに対する全体的スペース要件の両方が著しく低減できる。 ・・・ 【0033】 図6は、ブランクスタンド(10)に収容された及び開いたタイヤ加熱プレス(100)に収容された1つのタイヤブランク(200)をそれぞれに有する、本発明に従う輸送設備(70)の3次元図面である。荷積み装置(40)が横断して駆動できる少なくともその領域を有しなければならない安全スキャナ領域(S)がさらに質的に図示されている。 【0034】 図7は、平面図にて、安全スキャナ領域(S)の大きさと、荷積み装置(40)の運動の自由度の表面投影の関係を明らかにする。」 ウ 「 ![]() 」 (2) 実施可能要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1、5及び8ないし10の各発明特定事項について具体的かつ矛盾なく記載されており、当業者であれば、上記(1)に示した【発明を実施するための形態】欄の記載を参考にすることによって、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1、5及び8ないし10を実施することができるといえる。 また、特許異議申立人は、本件特許発明1、5及び8ないし10について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記第3 1(4)申立理由4において、不明確であるとした事項に関し、具体的な説明が記載されていないから、本件特許出願時における技術常識を参照しても理解することができないから、本件はいわゆる実施可能要件を満足しない旨主張する(特許異議申立書第104ないし106ページ)。 しかしながら、上記4で述べたように、請求項1、5及び8ないし10の記載は、本件特許明細書の発明の詳細な説明との対応関係においても不明確な点はない。そして、本件特許明細書の【発明を実施するための形態】欄の記載によれば、具体的な装置の構造や機能が示されており、当業者であれば出願時の技術常識に基づいて過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1、5及び8ないし10の物を実施することができることは明らかである。 (3) 申立理由5のまとめ したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、いわゆる実施可能要件を満たすと判断されるから、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないとする申立理由5には、理由がない。 第5 むすび したがって、特許異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-01-05 |
出願番号 | 特願2017-522368(P2017-522368) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B29D)
P 1 651・ 113- Y (B29D) P 1 651・ 537- Y (B29D) P 1 651・ 536- Y (B29D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 赤澤 高之 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
大畑 通隆 植前 充司 |
登録日 | 2020-02-13 |
登録番号 | 特許第6660949号(P6660949) |
権利者 | ハールブルク・フロイデンベルガー マシーネンバウ ゲーエムベーハー |
発明の名称 | タイヤ加熱プレスとタイヤブランクを操縦するための輸送設備の装置 |
代理人 | 今井 秀樹 |