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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C25D
審判 一部申し立て 2項進歩性  C25D
管理番号 1370041
異議申立番号 異議2020-700284  
総通号数 254 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-22 
確定日 2021-01-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6593574号発明「容器用鋼板および容器用鋼板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6593574号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6593574号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は,2019年(平成31年)2月8日(優先権主張平成30年2月9日)を国際出願日とする出願であって,令和1年10月4日に特許権の設定登録がされ,同年10月23日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後,令和2年4月22日に,本件特許の請求項1?4に係る特許に対して,特許異議申立人である前田洋志(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ,以降の本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

令和 2年 8月 3日付け:取消理由通知書
同年10月 2日 :特許権者による意見書の提出
同年11月10日 :申立人による上申書の提出

なお,異議申立書1頁「3.申立ての理由」に「特許法第36条第4項第1号(請求項1?5)」と記載され,請求項5についても「特許法第36条第4項第1号」の記載不備が指摘されているようにもみえるが,請求項1?4が「容器用鋼板」に係る発明であり,請求項5が「容器用鋼板の製造方法」であること,特許異議申立書中の特許法第36条第4項第1号に関する他の記載は全て「請求項1?4」を対象としていること等に鑑み,総合的に見て,「特許法第36条第4項第1号」の記載不備は請求項1?4について申し立てられているものと認める。


第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下,それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」といい,本件発明1?本件発明4を総称して「本件発明」ということがある。)は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
母材鋼板と、
金属クロム層と、
クロム含有層と、
を有し、
前記金属クロム層は、前記母材鋼板の少なくとも一方の表面上に位置し、
前記クロム含有層は、前記金属クロム層上に位置し、粒状の3価クロム化合物を含み、または粒状の3価クロム化合物および粒状の金属クロムを含み、
前記金属クロム層および前記クロム含有層は、前記母材鋼板の上に2層に分離して配置され、
前記クロム含有層において、前記3価クロム化合物および前記金属クロムの平均粒径が10nm以上100nm以下であり、
前記クロム含有層の付着量は、Cr量で、1.0mg/m^(2)以上100mg/m^(2)以下である、
ことを特徴とする容器用鋼板。
【請求項2】
前記金属クロム層の付着量は、Cr量で、1.0mg/m^(2)以上350mg/m^(2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の容器用鋼板。
【請求項3】
前記クロム含有層は、硫酸化合物を、S量で、0.10mg/m^(2)以上40mg/m^(2)以下含むことを特徴とする請求項1または2に記載の容器用鋼板。
【請求項4】
前記金属クロム層と前記クロム含有層とは、硫酸化合物を、S量で、合計0.5mg/m^(2)以上80mg/m^(2)以下含むことを特徴とする請求項1または2に記載の容器用鋼板。
【請求項5】
母材鋼板を複数の化成処理浴で処理して、前記母材鋼板の少なくとも一方の表面上に2層に分離した金属クロム層ならびに当該金属クロム層上の粒状の3価クロム化合物を含む、または粒状の3価クロム化合物および粒状の金属クロムを含むクロム含有層を形成する化成処理工程を有し、
前記複数の化成処理浴は、3価クロムイオン0.10?250g/Lと、硫酸イオン1.0?250g/Lと、ギ酸イオン1.0?250g/Lと、ホウ酸イオン1.0?150g/Lとを含み、
前記複数の化成処理浴のpHが3.0以上であり、
前記母材鋼板を前記複数の化成処理浴の間で移動させる時に0.1秒以上20秒以下の無電解時間を設ける、
ことを特徴とする容器用鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記化成処理工程において、前記複数の化成処理浴の温度が、5℃以上90℃未満であることを特徴とする請求項5に記載の容器用鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記複数の化成処理浴において、前記母材鋼板は、電流密度0.5A/dm^(2)以上50A/dm^(2)以下で、0.05秒以上10秒以下電解処理されることを特徴とする請求項5または6に記載の容器用鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記複数の化成処理浴は、さらに、塩化物イオン1.0?100g/Lと、カリウムイオン1.0?100g/Lと、を含むことを特徴とする請求項5?7のいずれか一項に記載の容器用鋼板の製造方法。」


第3 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は,異議申立理由として以下(3)の証拠方法に基づき,以下(1)及び(2)を概要とする理由を主張し,本件特許の請求項1?4に係る特許は取り消されるべき旨を申立てた。

(1)異議申立理由1(進歩性)
本件特許の請求項1?4に係る発明は,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,同発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきものである。

(2)異議申立理由2(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明の記載に不備があり、本件特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。

(3)証拠方法
ア 甲第1号証:国際公開第2017/098991号
イ 甲第2号証:井川進,「水和酸化クロム皮膜の検討」,金属表面技術,1971年,第22巻,第3号,p.117?121
ウ 甲第3号証:特開昭62-54096号公報
(以下,甲第1号証?甲第3号証を,それぞれ「甲1」?「甲3」という。)

さらに,申立人は,缶用鋼板(容器用鋼板)の技術分野において,粒径について円相当径以外の径を適用した例として以下を提示した。

エ 参考資料1:特開2012-62519号公報
オ 参考資料2:特開2007-1081号公報
カ 参考資料3:特開2001-303183号公報
キ 参考資料4:特開2006-219717号公報
ク 参考資料5:特開2006-299406号公報

2 当審から通知した取消理由
当審は,上記1の異議申立理由を検討した結果,異議申立理由2を採用し,取消理由(実施可能要件)として,令和2年8月3日付けで取消理由を通知した。


第4 当審の判断
当審は,特許権者が提出した令和2年10月2日付けの意見書及び申立人が提出した同年11月10日付けの上申書を踏まえて検討した結果,以下のとおり,取消理由は解消するとともに,特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由及びその他の理由によっても,本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由はないと判断した。

1 取消理由通知に記載した取消理由(実施可能要件)について
(1)取消理由(実施可能要件)の概要
ア 本件明細書の記載について
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明及び図面には、3価クロム化合物及び金属クロムの平均粒径に関して、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与し,「・・・」は記載の省略を表すものであって,以下同様である。

「【0037】
(平均粒径)
クロム含有層中に存在し得る粒状の金属クロムおよび3価クロム化合物の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)によりクロム含有層の表面の画像を得て、当該表面画像中に存在する粒状の金属クロムおよび3価クロム化合物について、複数個、例えば100個を特定して粒径を測定し、その粒径を平均することにより得られる。ここで用いる平均粒径とは、拡大率50000倍で得られた表面画像中で、粒径1nm以上の粒の平均粒径である。
表面に露出した金属クロム層中の粒状の金属クロムの平均粒径を測定するには、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により金属クロム層の表面の画像を得て、当該表面画像中に存在する粒状の金属クロムについて、複数個、例えば100個を特定して粒径を測定し、その粒径を平均することにより得られる。ここで用いる平均粒径とは、拡大率50000倍で得られた表面画像中で、粒径1nm以上の粒の平均粒径である。
しかし、金属クロム層が表面に出ている表1の比較例a6、a8では平均粒径は、観察できないほど小さく、測定できなかった。」

「【0061】
表1?3に各例について得られた容器用鋼板の構成を示す。なお、各層における各成分の付着量(含有量)は、X線光電子分光法(XPS)で測定した。各層のCrの付着量(Cr量)は、X線光電子分光法(XPS)により約1.5nmピッチごとの深さ方向分析のピーク分離で行った。ピーク分離はX線光電子分光法(XPS)に付属するデータ処理ソフトで行った。具体的にはX線光電子分光法(XPS)には、Quantera SXM(アルバック・ファイ製)を、データ処理ソフトはMultiPakを使用した。各層のSの付着量(S量)はX線光電子分光法(XPS)で得られた各層の深さに対して、GDSの深さ方向分析により得られた表層から各層までの信号強度の積算値で同定した。信号強度の積算値とSの付着量(含有量)の検量線は、一般的な標準試料で事前に作成した。なお、表4および表6の各層における各成分の付着量(含有量)についても同様の測定方法で行った。
また、金属クロム層およびクロム含有層の境界は、各容器用鋼板の断面試料を作成し、X線光電子分光法(XPS)を用いて容器用鋼板の深さ方向におけるCrおよび3価クロム化合物の結合エネルギーのスペクトルを取得し、Crのピークのみが認められる層が金属クロム層であり、3価クロム化合物または3価クロム化合物およびCrのピークが認められる層がクロム含有層である、と定義した。また、クロム含有層における粒状の3価クロム化合物および金属クロムの平均粒径は走査型電子顕微鏡(SEM)での表面観察を行った。走査型電子顕微鏡の拡大率を50000倍とし、各粒状の3価クロム化合物および金属クロムの粒径1nm以上の粒を100個特定し、これらより平均粒径を測定、算出することにより行った。なお、表中の化合物についての「-」は、その化合物を含有していないことを示す。また、表1の比較例a6およびa8の平均粒径についての「-」は、平均粒径が観察できないほど小さく測定できなかったため、「-」で示した。表1の比較例a9およびa10の金属クロム層の金属Cr量についての「-」は、金属クロムを含有していなかったので金属クロム層を確認できなかったことを示す。」

「【0070】
図1に、発明例A6に係る容器用鋼板の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察像を示す。走査型電子顕微鏡は、JSM-7001F(日本電子製)を使用した。走査型電子顕微鏡の拡大率は50000倍、視野サイズは2×1.5μmとした。図1により、容器用鋼板の表面には粒状の金属クロムおよび粒状の3価クロム化合物の粒子による緻密なクロム含有層が形成されていることが観察された。」

「【図1】



実施可能要件違反について
(ア)上記アの図1について、同【0070】では「容器用鋼板の表面には粒状の金属クロムおよび粒状の3価クロム化合物の粒子による緻密なクロム含有層が形成されていることが観察された。」と説明されているが、図1によれば、「粒」の形状は、必ずしも円形だけでなく、むしろ円形以外の種々の形状が多く認められる。

(イ)しかしながら、上記アの【0037】及び【0061】には、単に、「粒径1nm以上の粒」を特定することだけが記載されているにすぎず、図1のように円形以外の「粒」を含む場合、「粒径1nm以上の粒」とは、円相当径が1nm以上である粒を意味するのか、あるいは、最長部分の長さが1nmである粒を意味するのか、それとも、それら以外を意味するのか、本件明細書の記載からは明らかでない。

(ウ)さらに、図1では、「粒」の下に別の「粒」の一部が重なって存在していたり、1つの「粒」が分裂して存在していたりするのも見て取ることができ、このような場合、どのようにして「粒」の形状を特定するのかについても、本件明細書の記載からは、明らかではない。

(エ)よって、本件発明が特定する3価クロム化合物及び金属クロムの平均粒径をどのようにして求めるのか明らかでないため、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(2)特許権者の主張について
特許権者は,令和2年10月2日付けの意見書の3頁8行?5頁16行において以下のとおり主張するとともに,下記乙第1?13号証を提出した。

ア 粒径の意味(上記(1)イ(イ))について
「取消理由では、本件図面の図1によれば、「粒」の形状は、必ずしも円形だけでなく、円形以外の種々の形状が多く認められる。図1のように円形以外の「粒」を含む場合、「粒径1nm以上の粒」とは、円相当径が1nm以上である粒を意味するのか、あるいは、最長部分の長さが1nmである粒を意味するのか、それとも、それら以外を意味するのか、本件明細書の記載からは明らかでない。としている。しかしながら、図1に示された「粒」は、方形のような角張った形状ではなく、角が無い丸みを帯びた形状である。
本件発明において、ホウ酸イオンは、錯化作用を有し、複数の化成処理浴中の3価クロムイオンを安定化させ、また、金属クロムおよび3価クロム化合物の粒子の偏析を防止し、金属クロムおよび3価クロム化合物の粒子の粒径を比較的小さなものとすることができる(本件明細書【0045】)。ホウ酸イオンによって3価クロム化合物の粒子の偏析が防止されるため、3価クロム化合物及び金属クロムは均一に粒成長する。そのため、3価クロム化合物及び金属クロムの粒の形状は、円形に近い形状になり易い。よって、本件請求項1の発明における「粒径」は、「円相当径Jを意味すると考えるのが妥当である。
また、三省堂「大辞林」第三版(乙第1号証)には、「粒状」の意味として、「丸くて小さい、粒の形状をしたさま。」と記載されている。「粒状」の辞書的意味からも、本件請求項1の発明における「粒径」は、「円相当径」を意味すると考えるのが妥当である。
また、粒径について、例えば、下記の特許文献に記載されているとおり、当業者が円相当径を適用した例は多数存在する。

特開平9-209171号公報の【0016】 (乙第2号証)
特開平11-131285号公報の【0017】 (乙第3号証)
特開平11-193489号公報の【0019】 (乙第4号証)
特開平11-193490号公報の【0033】 (乙第5号証)
特開平11-193491号公報の【0013】 (乙第6号証)
特開2002-317247号公報の【0028】 (乙第7号証)
特開2013-245394号公報の【0014】 (乙第8号証)
特開2017-025402号公報の【0020】 (乙第9号証)
特開2017-031498号公報の【0021】 (乙第10号証)
特開2017-031499号公報の【0019】 (乙第11号証)
特開2020-100870号公報の【0042】 (乙第12号証)
国際公開第2017/204267号の[0029](乙第13号証)

本件請求項1の発明においても、上記特許文献に示された従来の方法と同様に、「粒径」は「円相当径」を示すものである。
また、本件明細書【0037】 の「平均粒径とは、拡大率50000倍で得られた表面画像中で、粒径1nm以上の粒の平均粒径である。」、及び「複数個、例えば100個を特定して粒径を測定し、その粒径を平均することにより得られる。」という記載、【0061】の「平均粒径は走査型電子顕微鏡(SEM)での表面観察を行った。走査型電子顕微鏡の拡大率を50000倍とし、各粒状の3価クロム化合物および金属クロムの粒径1nm以上の粒を100個特定し、これらより平均粒径を測定、算出する」という記載、並びに【0070】の「電子顕微鏡の拡大率は50000倍、視野サイズは2×1.5μmとした。」という記載から分かるとおり、平均粒径は、走査型電子顕微鏡の拡大率50000倍、視野サイズ2×1.5μmで得られた電子顕微鏡画像中で、円相当径1nm以上の粒を100個特定し、それらの粒子の円相当径から算出されるものである。
取消理由では、円形以外の「粒」を含む場合、「粒径1nm以上の粒」とは、円相当径が1nm以上である粒を意味するのか、あるいは、最長部分の長さが1nmである粒を意味するのか、それとも、それら以外を意味するのか、本件明細書の記載からは明らかでない、としている。しかしながら、本件請求項1の発明における「粒径」 は「円相当径」であるため、本件請求項1に記載の「粒径1nm以上の粒」とは、円形以外の種々の形状の粒であっても、円相当径が1nm以上である粒を意味するものである。」

イ 粒の形状の特定(上記(1)イ(ウ))について
「また、取消理由では、「粒」の下に別の「粒」の一部が重なって存在していたり、1つの「粒」が分裂して存在していたりするのも見て取ることができ、このような場合、どのようにして「粒」の形状を特定するのかについても、本件明細書の記載からは、明らかではない、としている。本件請求項1の発明において、別の「粒」に一部が重なって存在する「粒」及び1つの「粒」が分裂して存在している「粒」は、上記方法で取得された電子顕微鏡画像に写し出された粒の数が多い場合は、平均粒径を求めるために特定する100個の粒から除外するが、電子顕微鏡画像中の粒の数が少ない場合は、円相当径で整理した粒として特定する100個に含む場合もある。」

(3)申立人の主張について
上記(2)に対して,申立人は,令和2年11月10日付けの上申書の1頁下から6行?4頁下から8行において以下のとおり主張するとともに,上記参考資料1?5を提出した。

ア 粒径の意味(上記(1)イ(イ))について
「3.2.1 反論1
・・・例えば、下記の参考資料1?5に記載されているとおり、缶用鋼板(容器用鋼板)の技術分野において、当業者が円相当径以外の径を適用した例も多数存在する(下線は筆者(以下同様))。
したがって、乙第2?13号証があるとしても、「本件請求項1の発明においても・・・従来の方法と同様に、「粒径」は「円相当径」を示すものである」とは言えないことは明らかである。

参考資料1:特開2012-62519号公報(発明の名称: 容器用鋼板)
「また、処理表面をSEM観察し、任意の粒子の一端と他端とを結ぶ線分のうち最大の長さを有する線分である長径の長さをa(nm)、粒子の一端と他端とを結ぶ線分であり長径と直交する線分のうち最大の長さを有する線分である短径の長さをb(nm)とし、本実施例に含まれる皮膜中の粒子の粒子径(nm)として、{(a+b)/2}(nm)の値を求めた。(【0090】)

参考資料2:特開2007-1081号公報(発明の名称:樹脂フィルム被覆金属板及び樹脂フィルム被覆金属缶)
「なお、ここでいう平均粒径は、数平均粒径で代表した値を用いることとする。そのため、本発明の範囲を損なわない範囲であれば、粒径0.5μm未満および5μmを超える粒子を含んでいても構わない。しかし、フィルムの機械的性能を劣化させるほかフィルムコストを上昇させるため、なるべくそれらの比率が少ないものが好ましく、粒径分布は鋭く、標準偏差0.5以下が好ましい。さらに、粒子の形状は真球に近いものが望ましく、好ましくは長径/短径の比が1.0?1.2である。なお、粒子の粒径は、楕円体形状のものについては長径と短径の平均を粒径とする。」(【0048】)

参考資料3:特開2001-303183号公報(発明の名称:欠陥が少なく加工性に優れた缶用鋼板およびその製造方法)
「なお、表1および表2における*1?*4の意味は以下のとおりである。
*1:Tr:分析可能下限以下
*2:1介在物当たり3箇所に25gの荷重をかけて、介在物10個の室温における平均値を算出
*3,4:最大介在物径の測定方法は、重量1±0.1kgの全厚鋳片からスライム電界抽出(最小メッシュ38μmを使用)した介在物を実体顕微鏡にて写真撮影(40倍)し、写真撮影した介在物の長径と短径の平均値を全ての介在物で求めてその平均値の最大値を最大介在物径とした。介在物個数は重量1±0.1kgの全厚鋳片からスライム電界抽出した介在物であり、光学顕微鏡(100倍)で観察した全ての個数を1kg単位個数に換算した。」(【0037】)

参考資料4 :特開2006-219717号公報(発明の名称:耐変形性、表面特性、溶接性が著しく良好な容器用鋼板及びその製造方法)
「また、形状が延伸した窒化物が見られる場合があるが、形状が等方的でないものについては、長径と短径との平均を、その析出物の直径とする。」(【0043】)

参考資料5:特開2006-299406号公報(発明の名称:耐久性に優れた移送用潤滑表面処理鋼板)
「なお、ここでいう粒子径とは、粒子径と累積堆積比率の関係曲線をプロットし,累積体積比率が50%のところの粒径を読み取った「d50(50%平均粒径」のことである。その際の測定方法は、溶媒に粒子を分散させた状態でレーザ一光を照射し、その時生じる干渉縞を解析することによりd50や粒径分布を求めるものであり、好適な測定装置としては、島津製作所製 SALD、CILAS社製 CILAS、堀場製作所製LAなどが挙げられる。)(【0026】)」

イ 粒の形状の特定(上記(1)イ(ウ))について
「3.2.1 反論2
・・・このような取り扱いは、本件特許明細書中にはもちろん、乙第2?13号証にも、全く記載されていない。そうすると、依然として、「このような場合、どのようにして「粒」の形状を特定するのかについても、本件特許明細書の記載からは、明らかではない」状況と言える。
また、そのような状況において、特許権者が述べているような取り扱いを当業者に要求するとすれば、それは、「当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤」を要求するものであり、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていないことにほかならない。」

(4)実施可能要件についての当審の判断
ア 粒径の意味(上記(1)イ(イ))について
(ア)本件明細書には,以下の記載がある。

「【0023】
上述したように、クロム含有層において、粒状の3価クロム化合物および金属クロムの平均粒径は、10nm以上100nm以下である。粒状の3価クロム化合物および金属クロムの平均粒径が10nm未満の場合、3価クロム化合物および金属クロムの表面積が少なくなる結果、容器用鋼板の塗料密着性を十分なものとすることができない。塗料密着性が十分でないと、外部からの腐食因子が直接的にクロム含有層に接触するため、クロム含有層上に塗料が存在する箇所として耐食性が低下することとなる。一方で、粒状の3価クロム化合物および金属クロムの平均粒径が100nmを超えると、容器用鋼板の表面に露出する粒状の3価クロム化合物および金属クロムが大きすぎる結果、容器用鋼板表面への入射光がこれらにより散乱してしまい、容器用鋼板の光沢が低くなる。粒状の3価クロム化合物および金属クロムの平均粒径は、上述した範囲内であればよいが、好ましくは15nm以上、より好ましくは20nm以上であり、また好ましくは95nm以下、より好ましくは90nm以下である。」

(イ)上記(ア)の【0023】から,本件発明において,3価クロム化合物及び金属クロムの平均粒径を10nm以上100nm以下に特定するのは,耐食性及び外観,特に光沢に優れた容器用鋼板とするために,「3価クロム化合物および金属クロムの表面積が少なく」ならないようにすること及び「表面に露出する粒状の3価クロム化合物および金属クロムが大きすぎ」ないようにするためであって,それはすなわち,3価クロム化合物及び金属クロムの面積を特定することにあると認められる。

(ウ)他方,粒子径の求め方には,上記(2)において特許権者が主張する円相当径以外にも,申立人が上記(3)において主張するように,各種の求め方が存在するものであるが,円相当径は,例えば上記乙第8号証の【0014】に記載のように,粒子1個あたりの専有面積に相当する円の直径として粒子径を求めるものであって,粒子の面積に基づくものであることから,上記(イ)のとおり,本件発明における粒径の特定は,粒の面積を特定することに技術的意義があることを踏まえれば,本件発明において,円相当径に基づいて粒径を求めることは,本件明細書の記載から,当業者が過度の試行錯誤をすることなく行い得ることと認められる。

イ 粒の形状の特定(上記(1)イ(ウ))について
(ア)本件特許の図面における図1では、「粒」の下に別の「粒」の一部が重なって存在していたり、1つの「粒」が分裂して存在していたりするのも見て取ることができ、このような場合、どのようにして「粒」の形状を特定するのかについて、特許権者は, 上記(2)イのとおり,「電子顕微鏡画像に写し出された粒の数が多い場合は、平均粒径を求めるために特定する100個の粒から除外するが、電子顕微鏡画像中の粒の数が少ない場合は、円相当径で整理した粒として特定する100個に含む場合もある」と主張している。

(イ)これに対して申立人は,上記(3)イのとおり,特許権者の主張は本件明細書及び乙第2?13号証に全く記載されていないと主張するが,特許権者の主張は,本件明細書及び乙第2?13号証に記載がなくても,100個の粒を選ぶにあたって当業者が当然に行うことと理解でき,さらに,重なったり分裂したりした粒を100個に含める場合にも,当該粒の面積から円相当径として粒径を求めるものであることも,同様に理解できることであって,当業者が過度の試行錯誤をすることなく行い得ることと認められる。

(3)取消理由通知に記載した取消理由(実施可能要件)についての小括
よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであって,本件特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから,同法113条4号に該当することを理由として取り消すことはできない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(進歩性)について
(1)甲1?3の記載事項
ア 甲1の記載事項と引用発明
(ア)甲1の記載事項
上記甲1には,以下の記載がある。

「[請求項1] 鋼板の表面に、前記鋼板側から順に、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を有し、
前記金属クロム層の付着量が、50?200mg/m^(2)であり、
前記クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量が、3?15mg/m^(2)であり、
前記金属クロム層が、
厚さが7nm以上である平板状金属クロム層と、
前記平板状金属クロム層の表面に形成された粒状突起を有し、前記粒状突起の最大粒径が150nm以下であり、かつ、前記粒状突起の単位面積あたりの個数密度が10個/μm^(2)以上である粒状金属クロム層と、を含む缶用鋼板。
[請求項2] 前記粒状突起の最大粒径が、100nm以下である、請求項1に記載の缶用鋼板。」

「[0002] 飲料や食品に適用される容器である缶は、内容物を長期保管できることから世界中で使用されている。・・・」

「[0018] 〈平板状金属クロム層〉
平板状金属クロム層は、主に、鋼板表面を被覆し、耐食性を向上させる役割を担う。
また、本発明における平板状金属クロム層は、一般的にTFSに要求される耐食性に加えて、ハンドリング時に不可避的に缶用鋼板どうしが接触した際に、表層に設けられた粒状突起状金属クロムが平板状金属クロム層を破壊して鋼板が露出しないように十分な厚みを確保していることを要する。」

「[0022] 〈粒状金属クロム層〉
粒状金属クロム層は、上述した平板状金属クロム層の表面に形成された粒状突起を有する層であり、主として、缶用鋼板どうしの接触抵抗を低下させて溶接性を向上させる役割を担う。接触抵抗が低下する推定のメカニズムを以下に記述する。
金属クロム層の上に被覆されるクロム水和酸化物層は、不導体皮膜であるため、金属クロムよりも電気抵抗が大きく、溶接の阻害因子になる。金属クロム層の表面に粒状突起を形成させると、溶接する際の缶用鋼板どうしの接触時の面圧により、粒状突起がクロム水和酸化物層を破壊して、溶接電流の通電点になり、接触抵抗が大幅に低下する。」

「[0024]・・・
なお、最大粒径の下限は、特に限定されないが、例えば、10nm以上が好ましい。」

「[0026] 〔クロム水和酸化物層〕
鋼板の表面において、クロム水和酸化物は、金属クロムと同時に析出し、主に耐食性を向上させる役割を担う。本発明においては、缶用鋼板の耐食性を確保する理由から、クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量を、3mg/m^(2)以上とする。」

「[0029][缶用鋼板の製造方法]
次に、本発明の缶用鋼板の製造方法を説明する。
本発明の缶用鋼板の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう)は、上述した本発明の缶用鋼板を得る、缶用鋼板の製造方法であって、六価クロム化合物、フッ素含有化合物、および、硫酸を含有する水溶液を用いて、鋼板に対して、前段陰極電解処理を行ない、続けて、電気量密度が0.3C/dm^(2)超5.0C/dm^(2)未満の条件で陽極電解処理を行ない、更に続けて、電流密度が60.0A/dm^(2)未満、かつ、電気量密度が30.0C/dm^(2)未満の条件で後段陰極電気処理を行なう、缶用鋼板の製造方法である。」

「[0039]〈硫酸〉
水溶液中の硫酸(H_(2)SO_(4))の含有量は、SO_(4)^(2-)量として、0.0001?0.1mol/Lが好ましく、0.0003?0.05mol/Lがより好ましく、0.001?0.05mol/Lが更に好ましい。」

「[0054]〔付着量〕
作製した缶用鋼板について、金属クロム層(金属Cr層)の付着量、および、クロム水和酸化物層(Cr水和酸化物層)のクロム換算の付着量(下記表2では単に「付着量」と表記)を測定した。測定方法は、上述したとおりである。結果を下記表2に示す。
[0055]〔金属Cr層構成〕
作製した缶用鋼板の金属Cr層について、平板状金属クロム層(平板状金属Cr層)の厚さ、ならびに、粒状金属クロム層(粒状金属Cr層)の粒状突起の最大粒径および単位面積あたりの個数密度を測定した。測定方法は、上述したとおりである。結果を下記表2に示す。」

「[0061]



(イ)引用発明
上記(ア)の請求項1に着目すると,甲1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

<引用発明>
鋼板の表面に、前記鋼板側から順に、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を有し、
前記金属クロム層の付着量が、50?200mg/m^(2)であり、
前記クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量が、3?15mg/m^(2)であり、
前記金属クロム層が、
厚さが7nm以上である平板状金属クロム層と、
前記平板状金属クロム層の表面に形成された粒状突起を有し、前記粒状突起の最大粒径が150nm以下であり、かつ、前記粒状突起の単位面積あたりの個数密度が10個/μm^(2)以上である粒状金属クロム層と、を含む缶用鋼板。

イ 甲2の記載事項
上記甲2には,以下の事項が記載されている。



」(118頁右欄2?6行)

ウ 甲3の記載事項
上記甲3には,以下の事項が記載されている。

「(1) 鋼板表面に目付量5?200mg/m^(2)の金属クロム層と、その上部に金属クロム換算で目付量3?30mg/m^(2)のクロム酸化物を主体とするクロム水和酸化物層とを有し、前記金属クロム層表面が、鋼板の総ての結晶方位面上において多数の粒状若しくは角状の突起を有していることを特徴とする溶接性に優れた電解クロメート処理鋼板。
(2)鋼板を電解クロメート処理するに当り、少なくとも1回、陰極電解処理途中で陽極電解処理を行うことを特徴とする溶接性に優れた電解クロメート処理鋼板の製造方法。」(特許請求の範囲)

「〔産業上の利用分野〕
本発明は溶接性に優れた電解クロメート処理鋼板、具体的には、電気抵抗シーム溶接により製缶される溶接缶用電解クロメート処理鋼板に関する。」(1頁左欄下から1行?右欄4行)

「4.図面の簡単な説明
第1図は本発明の電解クロメート処理銅版の皮膜断面構造を模式的に示す説明図である。第2図(a)?(k)は実施例における電解クロメート処理鋼板の金属クロム結晶構造透過電子顕微鏡写真である。第3図は実施例の結果をもとに陽極処理位置と接触抵抗との関係を示したものである。
図において、(1)は鋼板、(2)は金属クロム層,(3)はクロム水和酸化物層、(4)は突起である。
」(7頁左下欄)



」(11頁第1図)

(2)本件発明1について
ア 引用発明との対比
本件発明1と引用発明とを対比すると,引用発明は,鋼板側から順に,「金属クロム層」及び「クロム水和酸化物層」を有することから,引用発明における「金属クロム層」及び「クロム水和酸化物層」は,本件発明1における母材鋼板の少なくとも一方の表面上に位置する「金属クロム層」及び金属クロム層上に位置する「クロム含有層」にそれぞれ相当するとともに,両者は,「金属クロム層」及び「クロム含有層」が母材鋼板の上に2層に分離して配置されている点で共通する。
また,引用発明における「クロム水和酸化物層のクロム換算の付着量が、3?15mg/m^(2)」であることは,本件発明1における「クロム含有層の付着量は、Cr量で、1.0mg/m^(2)以上100mg/m^(2)以下」を満たすものである。
さらに,引用発明の「缶用鋼板」は,本件発明1の「容器用鋼板」に相当する。
してみると,本件発明1と引用発明とは,以下の一致点及び相違点を有するものと認められる。

<一致点>
「 母材鋼板と、
金属クロム層と、
クロム含有層と、
を有し、
前記金属クロム層は、前記母材鋼板の少なくとも一方の表面上に位置し、
前記クロム含有層は、前記金属クロム層上に位置し、
前記金属クロム層および前記クロム含有層は、前記母材鋼板の上に2層に分離して配置され、
前記クロム含有層の付着量は、Cr量で、1.0mg/m^(2)以上100mg/m^(2)以下である容器用鋼板。」である点。

<相違点1>
クロム含有層について,本件発明1は,「粒状の3価クロム化合物を含み、または粒状の3価クロム化合物および粒状の金属クロムを含」むものであるのに対し,引用発明は,その特定がなされていない点。

<相違点2>
本件発明1は,クロム含有層における3価クロム化合物および金属クロムの「平均粒径が10nm以上100nm以下」であるのに対し,引用発明は,その特定がなされていない点。

イ 相違点についての判断
(ア)引用発明の「クロム水和酸化物層」において,相違点1に係る事項であるクロム水和酸化物を粒状とすることは,甲1に何ら記載されておらず,甲2及び甲3にも,クロム水和酸化物を粒状とすることの動機付けとなる記載は何ら認められないし,相違点2に係る事項である粒状の3価クロム化合物及び粒状の金属クロムの平均粒径を「10nm以上100nm以下」とすることについても,甲1?3には何ら記載されていない。

(イ)そして,本件発明は,本件明細書の【0023】に記載のように,粒状の3価クロム化合物及び粒状の金属クロムの平均粒径を10nm以上100nm以下とすることによって,耐食性及び光沢に優れた容器用鋼板が得られるという格別顕著な効果を奏するものである。

(ウ)申立人は,異議申立書の15頁8行?下から2行において,相違点1に係る事項について,以下のとおり主張している。

「甲第3号証(第1図)を踏まえると、甲第1号証(請求項1)の「缶用鋼板」は、下記図1Xのような断面図として図示される。
下記図1Xにおける符号は、1:缶用鋼板、2:鋼板、3:金属クロム層、3a:平板状金属クロム層、3b:粒状金属クロム層(粒状突起),4:クロム水和酸化物層である。
[図1X]


ここで、本件特許明細書(【0061】,【0070】,【図1】)においては、SEMを用いて「容器用鋼板の表面」を観察することにより、「クロム含有層」の「3価クロム化合物」が「粒状」であることを認識している。
上記図1Xに示す缶用鋼板1について、本件特許明細書の記載と同様にして、表面を観察した場合、粒状突起3bを覆うクロム水和酸化物層4は、粒状突起3bの形状(球状)に追従しているから、「粒状」と認識されるはずである。
すなわち、甲1発明の「クロム含有層」の「3価クロム化合物」は、「粒状」であるはずである。」

(エ)しかしながら,甲1における粒状金属クロム層は,[0022]に記載のように,「溶接する際の缶用鋼板どうしの接触時の面圧により、粒状突起がクロム水和酸化物層を破壊して、溶接電流の通電点になり、接触抵抗が大幅に低下する」ものであることから,粒状突起の形状が,上記(ウ)の[図1X]のような曲面となる断面では,クロム水和酸化物層を十分に破壊できるとはいえないから,引用発明における粒状突起が,同[図1X]のような形状となるものとは認められない。
さらに,本件明細書の【0055】において,クロム含有層における粒状の金属クロム及び粒状の3価クロム化合物の粒径制御は,化成処理浴における析出効率の変化によって行うことが記載されており,析出した粒状物は重なり合うものであって,その様子は本件特許の図1からも見てとれるところ,本件発明1における「粒状の3価クロム化合物を含み、または粒状の3価クロム化合物および粒状の金属クロムを含」む「クロム含有層」と,申立人が主張する下地の粒状突起により形成される層とが異なることは明らかである。
よって,申立人の上記主張を採用することはできない。

ウ 本件発明1についての小括
したがって,本件発明1は,引用発明と甲2及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)本件発明2?4について
本件発明2?4は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから,少なくとも上記相違点1及び2において引用発明と相違するものであるところ,当該相違点についての判断は,上記(2)イのとおりであるから,本件発明2?4も,引用発明と甲2及び甲3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)異議申立理由1(進歩性)についての小括
よって,本件特許の請求項1?4に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとはいえないから,同法113条2号に該当することを理由として取り消すことはできない。


第5 むすび
以上のとおり,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-01-13 
出願番号 特願2019-538701(P2019-538701)
審決分類 P 1 652・ 536- Y (C25D)
P 1 652・ 121- Y (C25D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 國方 康伸  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 平塚 政宏
亀ヶ谷 明久
登録日 2019-10-04 
登録番号 特許第6593574号(P6593574)
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 容器用鋼板および容器用鋼板の製造方法  
代理人 山口 洋  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 寺本 光生  
代理人 棚井 澄雄  

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