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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1370325
審判番号 不服2019-8912  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-03 
確定日 2021-01-13 
事件の表示 特願2016-239304「ハロゲン含有プラズマに露出された表面の浸食速度を減じる装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 1日出願公開、特開2017- 95350〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年4月7日(パリ条約による優先権主張2007年4月27日、米国)に出願した特願2008-99381号の一部を平成24年1月6日に特願2012-1609号として新たに出願し、更にその一部を平成27年5月28日に特願2015-108229号として新たに出願し、更にその一部を平成28年1月15日に特願2016-6345号として新たに出願し、更にその一部を平成28年12月9日に特願2016-239304号として新たに出願したものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 1月 4日 :手続補正書、上申書の提出
平成29年 7月 6日付け:拒絶理由通知書
平成29年12月28日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 5月11日付け:拒絶理由通知書
平成30年11月22日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 2月27日付け:拒絶査定
令和 1年 7月 3日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和1年7月3日にされた手続補正についての補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
令和1年7月3日にされた手続補正を却下する。

2 理由
(1)本件補正の内容
令和1年7月3日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正するものであって、その請求項1に係る補正前後の記載は次のとおりである。

ア 本件補正前の請求項1の記載(平成30年11月22日付け手続補正後のもの)
「【請求項1】
ハロゲン含有プラズマによる浸食に耐性のある構造を形成するために有用な粉末であって、26.8mol%?34.1mol%の濃度の酸化ジルコニウムと、73.2mol%?65.9mol%の濃度の酸化イットリウムからなる粉末。」

イ 本件補正後の請求項1の記載(当審注:下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
ハロゲン含有プラズマによる浸食に耐性のある構造を形成するために有用な粉末であって、26.8mol%?34.1mol%の濃度の酸化ジルコニウムと、73.2mol%?65.9mol%の濃度の酸化イットリウムの固溶体を含む粉末。」

(2)本件補正の適否
ア 目的要件について
特許法第36条第5項の規定により、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(発明特定事項)である「酸化ジルコニウムと、・・・酸化イットリウムからなる粉末」(当審注:「・・・」は省略を表す。以下、同じ。)は、「粉末」が「酸化ジルコニウム」及び「酸化イットリウム」以外の物質を含まないことを特定するものと解される。他方、本件補正後の請求項1の発明特定事項である、「酸化ジルコニウムと、・・・酸化イットリウムの固溶体を含む粉末」は、「粉末」が「酸化ジルコニウム」及び「酸化イットリウム」以外の物質を含み得ることを特定するものということができる。そうすると、上記請求項1に係る本件補正は、請求項1に記載されていた発明特定事項を限定するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。
また、当該補正が特許法第17条の2第5項第1、3及び4号に掲げる請求項の削除、誤記の訂正及び明りようでない記載の釈明のいずれを目的とするものとも認められない。

イ 新規事項について
上記請求項1に係る本件補正は、請求項1の「粉末」が酸化ジルコニウムと酸化イットリウムの「固溶体」を含むという発明特定事項を新たに追加するものであるが、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本願当初明細書等」という。)には、酸化ジルコニウムと酸化イットリウムの固溶体を含む粉末について、記載も示唆もされていない。
すなわち、本願当初明細書等において「酸化ジルコニウム」及び「酸化イットリウム」に関する「粉末」について記載されているのは、酸化ジルコニウム粉末と酸化イットリウム粉末の混合粉末、又は、それらをバインダーと共にスプレー乾燥して形成した粉末のみ(【0018】、【0020】、【0050】、【0052】)である。そして、これら粉末が、成形、焼結により固溶体を形成するための原料粉末であって、酸化ジルコニウムと酸化イットリウムの固溶体をいまだ含むものでないことは、本願優先日当時の技術常識からみても明らかであるから、酸化ジルコニウムと酸化イットリウムの固溶体を含む粉末は、本願当初明細書等の記載から自明な事項であるとはいえない。
以上によれば、上記請求項1に係る本件補正により、本願当初明細書等に記載した事項以外のものが個別化されることとなり、したがって、当該補正は本願当初明細書等に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるといえる。
よって、本件補正は、本願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(3)本件補正についてのむすび
以上のとおり、上記請求項1に係る本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件に違反するものであるから、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成30年11月22日にされた手続補正により補正された、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項4に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項4】
半導体処理に用いられるハロゲン含有プラズマによる浸食に耐性のある固体セラミック物品であって、前記固体セラミック物品は37.9mol%?65mol%の濃度の酸化ジルコニウムと、62.1mol%?35mol%の濃度の酸化イットリウムで形成される物品。」

2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、平成30年5月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2であり、要するに本願発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、同引用文献1に記載された事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2000-1362号公報

3 引用文献1の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、耐食性セラミックス材料(発明の名称)に関する以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 周期律表3A族に属する元素のうち少なくとも1種の元素と周期律表4A族に属する元素のうち少なくとも1種の元素とを含む酸化物を主体とすることを特徴とする耐食性セラミックス材料。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、腐食性の高いハロゲン系プラズマに曝される雰囲気下で使用される部材、例えばプラズマエッチング装置等の半導体製造装置の内壁材、ベルジャー、チャンバー、サセプター、クランプリング、フォーカスリング等に適用可能な耐食性セラミックス材料に関する。
【0002】
【従来の技術】半導体製造プロセスにおいては、耐食性の高い環境下で用いられる部材が多い。例えばベルジャー、チャンバー、サセプター、クランプリング、フォーカスリング等が、CVD、ドライエッチング、チャンバー内クリーニング等の各工程において腐食性の高いガス、例えばフッ素系ガス(例えばSF_(6)、CF_(4)、NF_(3)等)や塩素系ガス(例えばBCl_(3)、Cl_(2)、SiCl_(4)等)を含む雰囲気中で使用される。」

ウ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】・・・
【0007】本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、価格および形状制約の問題が生じず、ハロゲン系プラズマに対する耐性が高い耐食性セラミック材料を提供すること、および、さらに減圧時の脱ガス量が少ない耐食性セラミックス材料を提供することを目的とする。」

エ 「【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明について具体的に説明する。本発明の耐食性セラミックス材料は、周期律表3A族に属する元素のうち少なくとも1種の元素と周期律表4A族に属する元素のうち少なくとも1種の元素とを含む酸化物を主体とする。
・・・
【0014】周期律表3A族に属する元素としてはY、La、Ybのうち少なくとも1種であることが好ましく、周期律表4A族に属する元素としてはTi、Zrのうち少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】周期律表4A族に属する元素の量は、酸化物換算で全体の0.03?70wt%であることが好ましい。その量が0.03wt%未満であると合成される複合酸化物の量が少なく耐食性を向上する効果が小さく、70wt%を超えると単独で存在する4A族元素の量が多くなり、やはり耐食性向上効果が小さくなる。4A族に属する元素のより好ましい範囲は、0.5?65wt%であり、さらに好ましくは5?60wt%である。
・・・
【0018】次に、本発明に係る耐食性セラミックス材料の製造方法について説明する。本発明の耐食性セラミックス材料は、基本的には原料粉末を成形および焼成して製造される。原料粉末は98%以上の純度のものが好ましく、99%以上が一層好ましい。純度が98%未満であると、焼結体中に存在する不純物のため耐食性が低下し、かつチャンバー内が汚染されるため好ましくない。また、原料粉末の粒径は5μm以下が好ましく、3μm以下が一層好ましい。粒径が5μmより大きいと焼結の駆動力が低下し、緻密な焼結体を得ることが難しい。」

オ 「【0023】
【実施例】(実施例1?34)表1、2に示すように、純度98%以上、平均粒径3μmの周期律表3A族元素の酸化物と、純度98%以上、平均粒径2μmの周期律表4A族元素の酸化物を合計で250g秤量し、ポリエチレンポット中にそれぞれの粉末と、イオン交換水300gと、φ10mmの鉄芯入りナイロンボール250gを入れ、必要に応じて焼結助剤としてSiO_(2)またはMgOを0.5wt%添加し、16時間混合した。得られたスラリーをロータリーエバポレーターで減圧乾燥した後、得られた粉末を#100のナイロンメッシュでメッシュパスした。この粉末をφ50mmの金型を用いて圧力10kgf/cm^(2)で厚さ6mmに一次成形した後、圧力1200kgf/cm^(2)で冷間静水圧プレス成形して成形体を得た。得られた成形体を表1、表2に示す温度で3時間焼成した。得られた焼結体の一部は、表1、表2の雰囲気および温度・圧力条件で2時間のHIP処理を行った。このようにして得られたセラミックス材料について、表面を加工し、中心線平均粗さ(Ra)およびポア数を測定した。中心線平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601「表面粗さ」に従って測定した。ポア数は、表面の任意の箇所を走査型電子顕微鏡写真で撮影して測定した。その後、RIE(反応性イオンエッチング)装置を用いてNF_(3)プラズマまたはBCl_(3)プラズマに4時間暴露試験を行い、エッチングレートを測定した。エッチングレートは、試料表面の一部をポリイミドテープでマスキングして、マスクのある面と内面の段差を段差計で測定することにより求めた。
【0024】表1、表2に示すように、本発明に係る耐食性セラミックス材料は、エッチングレートが低く、耐食性が高いことが確認された。特に、Raが1.0μm以下であり、かつ表面に存在するポアが100個/mm^(2)以下である実施例1?8、11?25および28?34は脱ガス量が少ないため特にエッチングレートが低かった。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】(比較例35?50)表3、表4に示すように、本発明の範囲外とした場合について、実施例と同様の手順により試料を作製し、中心線平均粗さ(Ra)、ポア数、エッチングレートを測定した。その結果、表3に示すようにエッチングレートが実施例よりも大きく、耐食性が低いことが確認された。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】



カ 「【0030】
【発明の効果】・・・本発明の耐食性セラミックス材料は、腐食性の高いハロゲン系プラズマに曝される雰囲気下で使用される部材、例えばプラズマエッチング装置等の半導体製造装置の内壁材、ベルジャー、チャンバー、サセプター、クランプリング、フォーカスリング等に好適に用いることができる。」

(2)引用文献1に記載された発明(引用発明)
引用文献1には、上記(1)アの請求項1の記載のとおり、特定の酸化物を主体とする耐食性セラミックス材料が記載され、その製造方法について、上記(1)エの【0018】には、原料粉末を成形および焼成して製造することが記載され、上記(1)オの実施例10、11、27、28には、その具体例として、当該原料粉末を、Y_(2)O_(3)75wt%とZrO_(2)25wt%とし、これを成形および焼成して製造した耐食性セラミックス材料が記載されている。
そして、当該耐食性セラミックス材料は、上記(1)イ、ウ、カのとおり、半導体製造プロセスにおいて、腐食性の高いハロゲン系プラズマに曝される雰囲気下で使用される、プラズマエッチング装置等の半導体製造装置の内壁材等に適用することが予定されるものであって、当該ハロゲン系プラズマに対する耐性が高いという特性を有するものであることを理解することができる。
そうすると、引用文献1には、特定の酸化物を主体とする耐食性セラミックス材料、具体的には、Y_(2)O_(3)75wt%とZrO_(2)25wt%からなる原料粉末を成形および焼成して製造した耐食性セラミックス材料が記載され、なおかつ、当該セラミックス材料は、半導体製造プロセスにおいて、腐食性の高いハロゲン系プラズマに曝される雰囲気下で使用されるものであって、当該ハロゲン系プラズマに対する耐性が高いという特性を有するものであることが記載されているということができる。
以上をまとめると、引用文献1には、耐食性セラミックス材料に関する次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。
「半導体製造プロセスにおいて、腐食性の高いハロゲン系プラズマに曝される雰囲気下で使用される、当該ハロゲン系プラズマに対する耐性が高い耐食性セラミックス材料であって、前記セラミックス材料は、Y_(2)O_(3)75wt%とZrO_(2)25wt%からなる原料粉末を成形および焼成して製造されたもの。」

(3)対比・判断
ア 特許法第29条第1項第3号(新規性)について
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明に係る耐食性セラミックス材料は、「半導体製造プロセス」、すなわち、本願発明でいう「半導体処理」に用いられるものであり、「原料粉末を成形および焼成して製造されたもの」であるから、本願発明でいう「固体セラミック物品」に相当するものといえる。
また、引用発明に係る耐食性セラミックス材料は、腐食性の高い「ハロゲン系プラズマに対する耐性が高い」という特性を有するものであるところ、本願発明でいう「浸食」とは、本願明細書の【0004】の記載に照らすと、「腐食」を含む意味合いと解されるから、当該特性は、本願発明の「ハロゲン含有プラズマによる浸食に耐性のある」という特性にほかならない。
してみると、両者は、「半導体処理に用いられるハロゲン含有プラズマによる浸食に耐性のある固体セラミック物品」である点で一致し、その材質に関し、本願発明は、「37.9mol%?65mol%の濃度の酸化ジルコニウムと、62.1mol%?35mol%の濃度の酸化イットリウムで形成される」と特定しているのに対して、引用発明は、「Y_(2)O_(3)75wt%とZrO_(2)25wt%からなる原料粉末を成形および焼成して製造したもの」と特定している点で一応相違するものと認められる。
しかしながら、引用発明の耐食性セラミックス材料のY_(2)O_(3)及びZrO_(2)の分子量をそれぞれ225.8及び123.2として、質量パーセント濃度をモルパーセント濃度に換算してみると、引用発明における「Y_(2)O_(3)75wt%とZrO_(2)25wt%」は、おおよそ「Y_(2)O_(3)62.08mol%とZrO_(2)37.92mol%」となるから、引用発明の耐食性セラミックス材料の材質は、本願発明の範囲内のものであることが分かる。
したがって、上記の相違点は形式上のものであり、実質的なものではないから、本願発明は、引用発明、すなわち、引用文献1に記載された発明であるといえる。

イ 特許法第29条第2項(進歩性)について
仮に、両者の材質において違いがみられるとしても、それは容易想到の範ちゅうの事項というべきである。その理由は以下のとおりである。

引用文献1には、上記(1)エ(【0015】)のとおり、周期律表4A族に属する元素の量が少ないと合成される複合酸化物の量が少なく耐食性を向上する効果が小さくなり、多いと単独で存在する4A族元素の量が多くなり耐食性向上効果が小さくなるとの記載、及び、4A族に属する元素のより好ましい範囲は5?60wt%(耐食性セラミックス材料がZrO_(2)とY_(2)O_(3)からなる場合にモル換算すると91?27mol%の濃度のY_(2)O_(3)、9?73mol%の濃度のZrO_(2))であるとの記載があり、実際、上記(1)オの具体例をみると、4A族元素がTiの例ではあるものの、4A族元素の量によってエッチングレートが大きく変化することが看取できる。具体的には、NF_(3)プラズマガス種の実施例では、HIP処理された実施例2(4A族元素の含有量0.03wt%)、実施例4?5(同40wt%)、実施例6(同70wt%)、実施例8(同85wt%)の、比較例35(Y_(2)O_(3))に対するエッチングレート比は、約0.11?0.52倍となり、BCl_(3)プラズマガス種の実施例では、HIP処理された実施例19(4A族元素の含有量0.03wt%)、実施例21?22(同40wt%)、実施例23(同70wt%)、実施例25(同85wt%)の、比較例43(Y_(2)O_(3))に対するエッチングレート比は、約0.06?0.51倍)となることが理解できるので、これら記載に触れた当業者であれば、引用発明において、更に良好な耐食性が得られるように、「ZrO_(2)」と「Y_(2)O_(3)」の濃度比を実験的に好適化し、本願発明と同等の濃度比とすることは、容易に想到し得るものである。

なお、本願発明の効果に関して、本願明細書には「トレンチをエッチングするのに用いる種類のCF_(4)/CHF_(3)プラズマ」において、「約69モル%の酸化イットリウムと約31モル%の酸化ジルコニウムの固溶体セラミックの侵食速度は、約0.1μm/hrであり、固体酸化イットリウムのエッチング速度より3倍遅い」(本願明細書【0048】)なる記載があるが、この記載を69モル%の酸化イットリウムと31モル%の酸化ジルコニウムの場合とみると、これは本願発明の濃度範囲外である。
ここで、「本明細書で用いる「約」という単語は、±10%の精度を表す公称値を意味している」(本願明細書【0023】)なる記載を斟酌して、上記69モル%の酸化イットリウムと31モル%の酸化ジルコニウムから最も離れた、酸化イットリウムの-10%値の場合を考えると、62.1モル%の酸化イットリウムと37.9モル%の酸化ジルコニウムとなり、本願発明の濃度範囲の境界値で重複するものとなる。
しかしながら、4A族元素の量によってエッチングレートが大きく変化するという上記引用文献1に記載の技術的事項等を考慮すると、「±10%」という広い濃度範囲に渡ってエッチング速度が一定であることを、当業者が首肯し得るとはいい難いから、上記10%も離れた62.1モル%の酸化イットリウムと37.9モル%の酸化ジルコニウムにおいても、当該「固体酸化イットリウムのエッチング速度より3倍遅い」なる効果が得られることを、上記の記載から当業者が直ちに理解できるということはできない。
仮に、本願発明が当該効果を有することを当業者が理解し得たとしても、当該「固体酸化イットリウムのエッチング速度より3倍遅い」(すなわち固体酸化イットリウムのエッチング速度の0.33倍)なる数値が格別顕著なものとは認められない。例えば、引用文献1(上記(1)オ)における実施例28(引用発明の材質に相当)をみると、そのエッチングレートは比較例43(Y_(2)O_(3))のエッチングレートの0.55倍であるし、上記のとおり4A族元素の量によってエッチングレートが大きく変化(Y_(2)O_(3)のエッチングレートに対して「約0.11?0.52倍」又は「約0.06?0.51倍」に変化)することからすれば、当該「0.33倍」なる数値が、引用発明の上記好適化により得られる効果に比して、当業者が予測し得ないほどの格別顕著なものであるとまではいえない。また、本願明細書には、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムに加えて酸化アルミニウムを含む系ではあるものの、トレンチエッチングプロセス条件では、バルク酸化イットリウムよりもエッチング速度が遅く、片や、ビアエッチングプロセス及び金属エッチングプロセス条件では、バルク酸化イットリウムよりもエッチング速度が速いものもあることが記載され(本願明細書【0032】?【0034】)、エッチング速度がエッチングプロセス条件によって大きく異なることが理解できるので、引用文献1の実施例とは異なる特定のエッチングプロセス条件における当該「0.33倍」なる数値が、引用発明に比して当業者が予測し得ないほどの格別顕著なものであると、結論付けることもできない。
更に、本願明細書には、本願発明が規定する「37.9mol%?65mol%の濃度の酸化ジルコニウムと、62.1mol%?35mol%の濃度の酸化イットリウム」なる濃度範囲内のものが、当該濃度範囲外のものよりも耐食性が優れていることを示す記載はなく、そもそも、当該酸化ジルコニウムの「37.9mol%」なる濃度及び酸化イットリウムの「62.1mol%」なる濃度の境界値は、上記のとおり単に、「約69モル%の酸化イットリウム」(本願明細書【0048】)の-10%値に基づく値であって、効果に基づく厳密な濃度範囲であるとはいえない。
以上を併せ考えると、当該濃度範囲に臨界的意義が存するものと、当業者が理解することは到底できない。

よって、本願発明は引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

第4 むすび
上記のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-08-04 
結審通知日 2020-08-11 
審決日 2020-08-25 
出願番号 特願2016-239304(P2016-239304)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (C04B)
P 1 8・ 572- Z (C04B)
P 1 8・ 121- Z (C04B)
P 1 8・ 113- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷本 怜美小川 武原 和秀今井 淳一  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 村岡 一磨
金 公彦
発明の名称 ハロゲン含有プラズマに露出された表面の浸食速度を減じる装置及び方法  
代理人 安齋 嘉章  

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