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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1370386
審判番号 不服2019-15513  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-20 
確定日 2021-01-14 
事件の表示 特願2017-552605「角度検出装置及び電動パワーステアリング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 1日国際公開、WO2017/090146〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)11月26日を国際出願日とする特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 6月28日付け:拒絶理由通知書
平成30年 9月 3日 :意見書の提出
平成31年 2月21日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月18日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 9月27日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年10月 8日 :原査定の謄本の送達
令和 元年11月20日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1から13に係る発明は、令和元年11月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1から13に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

「【請求項1】
回転軸に固定され、回転角を検出するための磁界を発生するセンサマグネットと、
前記センサマグネットと対向して配置され、前記磁界に応じた正弦信号及び余弦信号を出力するセンサであって、前記センサが前記正弦信号及び前記余弦信号の両方を出力する第1及び第2のセンサの2つのセンサで構成され、前記第1及び第2のセンサが前記センサマグネットの回転軸を中心とした円周を6等分する3本の放射線のうちの異なる2本の放射線上に配置され、かつ、前記第1のセンサと前記第2のセンサとは、それぞれの出力の位相差が±60度又は±120度であるセンサと、
前記第1及び第2のセンサのそれぞれが出力した前記正弦信号及び前記余弦信号の各々の奇数次高調波成分における3n次(nは自然数)高調波成分同士を相殺するように演算することで前記回転角を算出する角度演算部とを備えた
角度検出装置。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の一つは、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2から3に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。



引用文献1:国際公開第2009/084346号
引用文献2:国際公開第2009/031557号
引用文献3:国際公開第99/13296号

第4 引用文献に記載された発明等
1 引用文献1
(1)引用文献1には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。

「[0001] 本発明は、ロボットや工作機などに使用するサーボモータの回転位置を検出する磁気式エンコーダ装置に関する。」

「[0006] 図11は、この第3の従来技術の位置信号検出部の構成図である。
図において、2は図示しない回転体に取付けられた永久磁石であり、図中矢印Mで示すような回転体の軸方向と垂直な一方向に磁化されている。矢印Rは回転方向を示す。4は永久磁石2の磁界を検出し電圧に変換するホールセンサである。
ホールセンサ4は、永久磁石2の周囲に空隙を介して90°おきに順に配置されたA_(1)相、B_(1)相、A_(2)相、B_(2)相ホールセンサと、A_(1)相、B_(1)相、A_(2)相、B_(2)相ホールセンサに対してそれぞれ機械角で60°(α=180/N、N=3の場合に相当)位置に配置されたC_(1)相、D_(1)相、C_(2)相、D_(2)相ホールセンサの合計8個のホールセンサから構成されている。
図12は、この第3の従来技術における磁気式エンコーダ装置のホールセンサの接続図である。
図において70は8個のホールセンサからなる位置信号検出部である。また、aはホールセンサ4の正入力端子、bは負入力端子、cは正出力端子、dは負出力端子を示す。8個ホールセンサの入力側は直列に接続され、信号処理回路80に配置された電源9で駆動されている。
出力側は、互いに機械角で60°位置にあるホールセンサを組として正出力端子同士及び負出力端子同士を接続した並列接続となっている。すなわち、A_(1)相ホールセンサとC_(1)相ホールセンサについては、A_(1)相ホールセンサ正出力端子cとC_(1)相ホールセンサ正出力端子cを接続し、A_(1)相ホールセンサ負出力端子dとC_(1)相ホールセンサ負出力端子dを接続している。B_(1)相ホールセンサとD_(1)相ホールセンサ、A_(2)相ホールセンサとC_(2)相ホールセンサ、B_(2)相ホールセンサとD_(2)相ホールセンサについても同様に接続されている。

[0007] この第3の従来技術の特徴は、90°おきに順に配置されたA_(1)、B_(1)、A_(2)及びB_(2)相ホールセンサに対してそれぞれ機械角で60°位置にC_(1)、D_(1)、C_(2)及びD_(2)相ホールセンサを配置し、A_(1)、B_(1)、A_(2)及びB_(2)相ホールセンサとC_(1)、D_(1)、C_(2)及びD_(2)相ホールセンサの出力をそれぞれ並列に接続している点である。
なお、この接続は、図12に示す位置信号検出部70で行なうものであり、位置信号検出部から信号処理回路80へのリード線の本数は、通常は信号線としてセンサ数×2と電源線2本が必要であり、第2従来技術のように6個のホールセンサを用いる場合、6×2+2=14本必要であるがこの実施例では10本にまで削減できる。

[0008] 次に、動作について説明する。
永久磁石2が回転すると各ホールセンサ4は磁界の変化を検出し、1回転に1周期の正弦波状の信号を出力する。実際には、各ホールセンサからの出力信号は1回転に1周期の基本波信号のほかに偶数次及び奇数次の高調波成分を含んでいる。この実施例おいて3次及び偶数次の高調波成分を抑制できることを説明する。

[0009] 図13はこの従来技術における検出原理を示すグラフである。
図においてVa1はA_(1)相ホールセンサから得られる基本波の出力信号、Vc1はC_(1)相ホールセンサから得られる基本波の出力信号、Va3はA_(1)相ホールセンサの出力信号がもつ3次高調波信号、Vc3はC_(1)相ホールセンサの出力信号がもつ3次高調波信号である。Vac1はA_(1)相ホールセンサとC_(1)相ホールセンサの出力を並列接続したときの出力信号である。
この第3の従来技術では位置信号検出部70において、A_(1)相とC_(1)相ホールセンサは互いに機械角で60°位置に配置し、両ホールセンサを並列に接続しているので、A_(1)相とC_(1)相ホールセンサの出力信号に含まれる3次高調波成分はお互いに電気角で180°の位相差を持つことになり、3次高調波成分はキャンセルされる。すなわち、並列接続したホール素子の出力端子間(端子cd間)からは3次高調波成分がキャンセルされた信号が得られる。
同様にしてB_(1)相とD_(1)相ホールセンサ、A_(2)相とC_(2)相ホールセンサ、B_(2)相とD_(2)相ホールセンサにおいて、それぞれの並列接続した出力端子間は3次高調波成分がキャンセルされた信号となる。

[0010] これらの並列接続された4組のホールセンサからの出力信号は、図12に示す信号処理回路80において、それぞれ差動増幅器81乃至84で増幅された後、差動増幅器81と83からの出力信号は差動増幅器85で差動増幅され、差動増幅器82と84からの出力信号は差動増幅器86で差動増幅される。差動増幅器81と83からの出力信号及び差動増幅器82と84からの出力信号は、お互いに180°対向位置にあるホールセンサ組からの出力信号であり、差動増幅することによって偶数次の高調波成分が除去される。
差動増幅器85からの出力信号Va及び差動増幅器86からの出力信号Vbは角度変換回路87に入力される。Va及びVbは互いに90°位相の異なる正弦波状の信号であり、tan^(-1)(Va/Vb)の演算によって角度信号θに変換される。

[0011] このように、この第3の従来技術では、位置信号検出部において互いに機械角で60°位置にあるホールセンサの出力端子を並列接続し、信号処理回路において180°対向位置にあるホールセンサ組からの出力信号を差動増幅しているので、3次及び偶数次の高調波成分が抑制され、少ないリード線数で、精度の良い角度信号が得られる。」

「[図11]



「[図12]



(2)引用文献1の前記(1)の記載をまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「サーボモータの回転位置を検出する磁気式エンコーダ装置であって([0001])、
回転体に取付けられた永久磁石2と([0006])、
永久磁石2の周囲に空隙を介して配置されたホールセンサ4であって、永久磁石2が回転すると各ホールセンサ4は磁界の変化を検出して1回転に1周期の正弦波状の信号を出力し、前記ホールセンサ4がA_(1)相、B_(1)相、C_(1)相、D_(1)相ホールセンサを含み、A_(1)相、B_(1)相ホールセンサは90°離れて配置され、C_(1)相、D_(1)相ホールセンサはそれぞれA_(1)相、B_(1)相ホールセンサに対して機械角60°の位置に配置されたホールセンサ4と([0006]、[0008]、[図11])、
A_(1)相とC_(1)相ホールセンサの出力を並列接続し、B_(1)相とD_(1)相ホールセンサの出力を並列接続することで、3次高調波成分がキャンセルされた信号をそれぞれ出力する位置信号検出部70と([0009]、[図12])、
位置信号検出部70が出力した信号から得られた90°位相の異なる正弦波状の信号Va、Vbを、tan^(-1)(Va/Vb)の演算によって角度信号θに変換する信号処理回路80と([0010]、[図12])、を備えた
磁気式エンコーダ装置。」

2 周知技術
(1)引用文献2
引用文献2には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。

「[0002] 従来、円環形状を有する磁石を回転軸の周囲に配設すると共に、当該磁石の外周近傍に90度ずらした位置に2つのホール素子を配設し、各ホール素子によって検出された径方向の磁場強度に基づいて、上記回転軸の回転角度を算出する角度センサが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。」

「[0003] しかしながら、上述したような従来の角度センサにおいては、2つのホール素子を異なる位置に配設することから、磁石との関係でこれらの位置精度を確保することが困難であり、高度の角度検出精度を確保することができないという問題がある。特に、これらのホール素子との位置精度を確保しようとする場合には、角度センサを組み込む作業が煩雑になるという問題も生じる。

[0004] また、2つのホール素子を異なる位置に配設することから、磁石の外周近傍にホール素子を配置するためのスペースが2つ必要となると共に、これらのホール素子を上記スペースに配設する作業も2回必要となる。このため、角度センサを設計する上で制約となると共に、角度センサを組み込む作業が煩雑になるという問題がある。」

「[0014] 図1は、本発明の一実施の形態に係る角度センサ1の構成を説明するための模式図である。図2は、本実施の形態に係る角度センサ1の磁石から発生する磁場、並びに、角度センサ1のホール素子が検出する磁場方向の成分を説明するための模式図である。」

「[0017] ホール素子3は、磁石2の外周近傍における周方向の単一箇所に配設されている。磁石2の外周面に一定距離をおいて対向配置されており、磁石2から発生する磁場の強度を検出する。ここで、ホール素子3は、図2に示すように、磁石2の径方向であるR方向成分の磁場の強度を検出すると共に、磁石2の径方向の磁場と直交する回転角方向であるθ方向成分の磁場の強度を検出可能に構成されている。

[0018] このような構成を有し、本実施の形態に係る角度センサ1は、磁石2の回転に伴うR方向成分及びθ方向成分の磁場の強度をホール素子3で検出し、それぞれの磁場の強度に対応する信号を規格化した後に、規格化した信号間のアークタンジェントを求めて磁石2の回転角度(すなわち、検出対象の回転角度)を算出する。」

「[0029] このように本実施の形態に係る角度センサ1においては、磁石2のR方向成分及びθ方向成分の磁場強度を検出するホール素子3を、磁石2の外周近傍における周方向の単一箇所に配設したことから、ホール素子3を組み込む際に煩雑な作業を必要とすることなく、組み込まれる装置に応じて自由に角度センサ1を設計することが可能となる。また、このホール素子3により検出されたR方向成分及びθ方向成分の磁場強度に応じた信号を規格化した信号に基づいて磁石2の回転角度を算出することから、磁石2のR方向成分及びθ方向成分の磁場強度を調整した上で磁石2の回転角度を算出することができるので、高度の角度検出精度を確保することが可能となる。

[0030] 特に、本実施の形態に係る角度センサ1においては、単一のホール素子3で磁石2のR方向成分及びθ方向成分の磁場強度を検出するようにしたことから、簡単な作業でホール素子3を組み込むことできると共に、組み込まれる装置に応じてより自由に角度センサ1を設計することが可能となる。」

「[図2]



(2)引用文献3
引用文献3には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。

(明細書3ページ29行?4ページ18行)
「図1は本発明の第1の実施例を示す回転体の絶対位置を検出する磁気式エンコーダ装置の斜視図である。
図において、1は回転体、2は回転体1に回転軸を同一になるように固定された中空円板状の永久磁石、3は永久磁石2の外周側に設けられたリング状の固定体、4は磁界検出素子である。
永久磁石3は、材質はフェライト系磁石、Sm-Co系磁石、Ne-Fe-B系磁石、または前記各種磁石を高分子材料で結合した分散型複合磁石によって形成し、平面部21に回転体1の軸に垂直方向と平行に一方向に磁化されN-Sの2極となっている。寸法は直径が3mm、厚さが1mmである。
磁界検出素子4は、4個のホール効果素子からなり、永久磁石2の外周面に対して空隙を介して対向し、かつ互いに電気角で90度位相をずらしてA_(1)相検出素子41とB_(1)相検出素子42を設け、さらにA_(1)相検出素子41に対して電気角で180度位相をずらしてA_(2)相検出素子43を、B_(1)相検出素子42に対して電気角で180度位相をずらしてB_(2)相検出素子44を設けてある。
図2は磁界検出素子4から出力されるA_(1)、A_(2)、B_(1)、B_(2)の各相信号を処理する信号処理回路5を示す回路図である。信号処理回路5はA_(1)相とA_(2)相の差動信号V_(a)を出力する差動アンプ51と、B_(1)相とB_(2)相の差動信号V_(b)を出力する差動アンプ52と、差動信号V_(a)とV_(b)とからarctan(V_(b)/V_(a))の演算を行って回転角度を演算する角度演算回路53とを設けてある。」

(明細書7ページ7?23行)
「図9は第3の実施例を示す磁気式エンコーダ装置の全体構成を示す図で、(a)は斜視図、(b)は磁界検出素子の拡大斜視図である。本実施例は磁界検出素子1個で周方向と径方向の磁界を同一位置で同時に検出する構成である。
永久磁石2は、第1の実施例と同じであるが、直線異方性の磁石を用いている。すなわち、材質はフェライト系磁石、Sm-Co系磁石、Nd-Fe-B系磁石または前記各種磁石を高分子材料で結合した分散型複合磁石によって形成し、回転体1の回転軸に垂直方向と平行に一方向に磁化されている。固定体3は、非磁性材料のステンレス鋼をリング形状にしたものである。固定体3は磁性体を用いてもよい。磁界検出素子4は、固定体3の内側に永久磁石2に空隙を介して対向するように固定されたもので、図9(b)に示すように、径方向の磁界の磁束密度Brを検出する径方向感磁部45と周方向の磁界の磁束密度Bθを検出する周方向感磁部46を内蔵している。
信号処理回路5は、磁界検出素子4から出力される径方向の磁界の磁束密度Brの信号に対応する出力Vr、および磁界の磁束密度Bθの信号に対応する出力Vθを処理する。信号処理回路5には、図10に示すように、信号VrおよびVθから、arctan(Vθ/Vr)の演算と、Vr、Vθの正負を考慮して回転角度を演算する角度演算回路51を設けてある。」

(明細書9ページ1?9行)
「このように、本実施例では、つぎの効果がある。
(1)回転体が偏心して回転することを考慮し、差動信号を得るようにしても、磁界検出素子の数が増えることがなく、安価となる。
(2)90度あるいは180度の位相差が正確に出るように、各磁界検出素子を正確に設置する必要がないので、組み立て調整を容易に短時間で行うことができる。
(3)磁気式エンコーダの内部で温度分布が異なっても、磁界検出素子が1個であるため、特性に誤差が生じることがないため、回転位置の検出精度が向上する。」

「図9



(3)引用文献2及び3に記載された、次の技術は周知技術である。

「永久磁石の回転に伴って90°位相が異なる2つの信号をホール素子が出力するようにし、前記2つの信号から逆正接演算(tan^(-1))により回転角度を算出する角度検出装置において、2つのホール素子を90°ずらして配置して前記2つの信号を得る代わりに、直交する2方向の磁場を検出してそれぞれ出力する1つのホール素子を配置して前記2つの信号を得る技術。」

第5 対比、一致点及び相違点の認定
1 対比
本願発明と引用発明を対比する。

(1)引用発明の「磁気式エンコーダ装置」は、「サーボモータの回転位置を検出する」ものであるから、本願発明の「角度検出装置」に相当し、本願発明と引用発明は「角度検出装置」である点において一致する。

(2)引用発明の「回転体に取付けられた永久磁石2」は、本願発明の「回転軸に固定され」た「センサマグネット」に相当し、引用発明の「永久磁石2」が発生する磁界は「ホールセンサ4」で検出されて回転位置の検出に用いられるから、本願発明と引用発明は、「回転軸に固定され、回転角を検出するための磁界を発生するセンサマグネット」を備える点で一致する。

(3)引用発明の「永久磁石2の周囲に空隙を介して配置されたホールセンサ4」は、本願発明の「前記センサマグネットと対向して配置され」た「センサ」に相当する。そして、引用発明の「ホールセンサ4」は、90°離れて配置された「A_(1)相、B_(1)相ホールセンサ」及び「C_(1)相、D_(1)相ホールセンサ」を含み、各々が「永久磁石2が回転する」と「磁界の変化を検出して1回転に1周期の正弦波状の信号を出力」するものであるところ、90°位相がずれた「正弦波状の信号」のうち、一方が「正弦信号」で他方が「余弦信号」であることは技術常識である。
したがって、本願発明と引用発明は、「前記センサマグネットと対向して配置され、前記磁界に応じた正弦信号及び余弦信号を出力するセンサ」を備える点で一致する。

(4)引用発明の「位置信号検出部70」は、「A_(1)相とC_(1)相ホールセンサの出力を並列接続し、B_(1)相とD_(1)相ホールセンサの出力を並列接続することで、3次高調波成分がキャンセルされた信号をそれぞれ出力する」ものであるところ、2つの出力を並列接続して得られる信号は当該2つの出力の和を演算した結果にほかならない。そして、A_(1)相及びC_(1)相の3×(2k+1)次高調波成分の出力(ただし、kは自然数)の位相差と、B_(1)相及びD_(1)相の3×(2k+1)次高調波成分の出力の位相差は、A_(1)相及びC_(1)相と、B_(1)相及びD_(1)相の機械角のずれがいずれも60°であるから、60°×3×(2k+1)=360°×k+180°となり、引用発明においても、奇数次高調波成分における3n次(nは自然数)高調波成分同士は相殺されているということができる。また、引用発明の「信号処理回路80」は、「位置信号検出部70」の出力に基づいて角度信号θを演算するものである。
そうすると、引用発明の「位置信号検出部70」及び「信号処理回路80」は、協働して「奇数次高調波成分における3n次(nは自然数)高調波成分同士を相殺するように演算することで前記回転角を算出」するようになっており、本願発明の「角度演算部」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、いずれも「前記正弦信号及び前記余弦信号の各々の奇数次高調波成分における3n次(nは自然数)高調波成分同士を相殺するように演算することで前記回転角を算出する角度演算部」を備える点で一致する。

2 一致点及び相違点
前記1の対比の結果をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(1)一致点
「回転軸に固定され、回転角を検出するための磁界を発生するセンサマグネットと、前記センサマグネットと対向して配置され、前記磁界に応じた正弦信号及び余弦信号を出力するセンサと、前記正弦信号及び前記余弦信号の各々の奇数次高調波成分における3n次(nは自然数)高調波成分同士を相殺するように演算することで前記回転角を算出する角度演算部とを備えた角度検出装置。」

(2)相違点
センサについて、本願発明は、「前記正弦信号及び前記余弦信号の両方を出力する第1及び第2のセンサの2つのセンサで構成され、前記第1及び第2のセンサが前記センサマグネットの回転軸を中心とした円周を6等分する3本の放射線のうちの異なる2本の放射線上に配置され、かつ、前記第1のセンサと前記第2のセンサとは、それぞれの出力の位相差が±60度又は±120度であるセンサ」を備えるのに対して、引用発明は、「A_(1)相、B_(1)相、C_(1)相、D_(1)相ホールセンサを含み、A_(1)相、B_(1)相ホールセンサは90°離れて配置され、C_(1)相、D_(1)相ホールセンサはそれぞれA_(1)相、B_(1)相ホールセンサに対して機械角60°の位置に配置されたホールセンサ4」を備える点。

第6 判断
1 相違点について
「永久磁石の回転に伴って90°位相が異なる2つの信号をホール素子が出力するようにし、前記2つの信号から逆正接演算(tan^(-1))により回転角度を算出する角度検出装置において、2つのホール素子を90°ずらして配置して前記2つの信号を得る代わりに、直交する2方向の磁場を検出してそれぞれ出力する1つのホール素子を配置して前記2つの信号を得る技術」は周知技術である(前記第4の2(3))。
引用発明は、90°離れて配置されたA_(1)相、B_(1)相ホールセンサ及びC_(1)相、D_(1)相ホールセンサからそれぞれ90°位相が異なる正弦波状の信号が出力されるようになっているから、「永久磁石の回転に伴って90°位相が異なる2つの信号をホール素子が出力するようにし、前記2つの信号から逆正接演算(tan^(-1))により回転角度を算出する角度検出装置」であり、センサの数を減らして組み立てを容易にするために、周知技術を適用する動機を当業者は有していたというべきである。
そして、引用発明に周知技術を適用して得られる最も自然なセンサの配置は、90°離れて配置されたA_(1)相、B_(1)相ホールセンサに代えて、A_(1)相の位置に、直交する2方向の磁場を検出してそれぞれ出力する1つのホール素子を配置し、かつ、90°離れて配置されたC_(1)相、D_(1)相ホールセンサに代えて、C_(1)相の位置に、直交する2方向の磁場を検出してそれぞれ出力する1つのホール素子を配置する、というものである。
このようにして得られた角度検出装置において、A_(1)相の位置に配置された1つのホール素子とC_(1)相の位置に配置された1つのホール素子は、それぞれ相違点に係る「第1のセンサ」及び「第2のセンサ」に相当し、機械角60°の位置に配置されているから、相違点に係る「前記第1及び第2のセンサが前記センサマグネットの回転軸を中心とした円周を6等分する3本の放射線のうちの異なる2本の放射線上に配置され」という構成要件と、「前記第1のセンサと前記第2のセンサとは、それぞれの出力の位相差が±60度又は±120度である」という構成要件は、いずれも満たされている。
したがって、引用発明に対して周知技術を適用し、引用発明が相違点に係る構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

2 作用効果について
本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術から予測されるものを超える格別顕著なものであるとは認めることができない。

3 審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、「独立請求項1に係る本願発明は、「第1のセンサ」及び「第2のセンサ」を最低限の構成要件とし、これら2つのセンサのみの検出結果に基づいて回転角を検出でき、引用文献1とは構成が明らかに異なるものである。さらに、本願発明では、図2、図17、図18、図22に示されたように、センサマグネットの回転軸を中心とした円周を6等分する3本の放射線に関して、同一の放射線状に2つのセンサが配置されることはなく、図2、図17、図18、図22に示されたような配置とすることは、請求項1、4、5にも明記されており、センサの配置構成の面でも、本願発明は、引用文献1とは全く異なるものである。」と主張している。
しかしながら、当合議体は、請求項1の「前記センサが前記正弦信号及び前記余弦信号の両方を出力する第1及び第2のセンサの2つのセンサで構成され」という記載から、回転角の検出に用いられるセンサが「第1のセンサ」及び「第2のセンサ」の2つのみであると解釈することは、妥当でないと考える。理由は次のとおりである。
もし、本願発明が、回転角の検出に用いられるセンサが「第1のセンサ」及び「第2のセンサ」の2つのみであるものであるのならば、請求人は、請求項1にその点を明示して明確にすることができたはずである。
その一方で、請求項1の記載を引用する請求項4、5の末尾の記載は、「請求項1に記載の角度検出装置」であるところ、「前記センサは、前記第1及び第2のセンサに加え、さらに第3のセンサによる3つのセンサで構成され」と記載されており(下線は、当合議体が付した。)、「請求項1に記載の角度検出装置において、前記センサは、前記第1及び第2のセンサに加え、さらに第3のセンサによる3つのセンサで構成されるように変更された、角度検出装置。」などのような記載でないから、請求項4及び請求項5が請求項1の概念範囲に包含されると理解することが適切であると考える。
以上の点を鑑みると、本願発明におけるセンサは、「第1のセンサ」及び「第2のセンサ」の2つのみで構成されると理解すべきではない。
よって、請求人の主張は採用することができない。

4 上申書について
審判請求人は、令和2年3月4日に提出した上申書において、2つのセンサのみの検出結果に基づいて回転角を検出することを特定するために、請求項4、5に追記を施す補正案を提示している。
しかしながら、仮に、本願発明において、回転角の検出に用いられるセンサが「第1のセンサ」及び「第2のセンサ」の2つのみであると解釈したとしても、本願発明は当業者が容易に想到し得たものである。理由は次のとおりである。
引用文献1に記載された発明における「ホールセンサ4」は、「A_(1)相、B_(1)相、C_(1)相、D_(1)相ホールセンサ」と「A_(2)相、B_(2)相、C_(2)相、D_(2)相ホールセンサ」の合計8個のホールセンサで構成されているところ([0006]を参照。)、このうち「A_(2)相、B_(2)相、C_(2)相、D_(2)相ホールセンサ」は偶数次の高調波成分を除去するためのものであり([0010]を参照。)、回転体の偏心量が極めて小さく偶数次の高調波成分が無視できる場合に「A_(2)相、B_(2)相、C_(2)相、D_(2)相ホールセンサ」が不要であることは、引用文献3の明細書5ページ9?11行の記載(4個の各相検出素子41、42、43、44を、A相、B相の2個の検出素子にしてもよい旨の記載)からみて、当業者にとって自明である。
したがって、本願発明において、回転角の検出に用いられるセンサが「第1のセンサ」及び「第2のセンサ」の2つのみであることが特定されたとしても、当業者が容易に想到し得たものであるとの結論に変わりはない。

5 判断のまとめ
前記1-4で示したとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-10-29 
結審通知日 2020-11-10 
審決日 2020-11-26 
出願番号 特願2017-552605(P2017-552605)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 眞岩 久恵  
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 岸 智史
濱野 隆
発明の名称 角度検出装置及び電動パワーステアリング装置  
代理人 大宅 一宏  
代理人 曾我 道治  
代理人 梶並 順  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 上田 俊一  

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