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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1370535
審判番号 不服2020-4294  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-01 
確定日 2021-01-21 
事件の表示 特願2018-126634号「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月20日出願公開、特開2018-143888号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、平成27年3月9日に出願した特願2015-46342号の一部を平成30年7月3日に新たな特許出願としたものであって、令和1年5月8日付けで拒絶の理由が通知され、同年7月8日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月19日付け(謄本送達日:令和2年1月7日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対し、令和2年4月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年4月1日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲についてする補正を含むものであって、令和1年7月8日提出の手続補正書によって補正された本件補正前の請求項1に、
「第1の特別遊技の作動に係る第1の特別役が持ち越された第1の特定遊技状態で遊技可能な遊技機であって、
前記第1の特定遊技状態において、ベット数が特定数である場合には、前記第1の特別遊技は作動せず、
前記特別役が持ち越されていない遊技状態では、ベット数を前記特定数とは異なる所定数にするように指示する旨の報知が行われる
ことを特徴とする遊技機。」とあったものを、

「第1の特別遊技の作動に係る第1の特別役が持ち越された第1の特定遊技状態で遊技可能な遊技機であって、
前記第1の特定遊技状態において、ベット数が特定数である場合には、前記第1の特別遊技は作動せず、
前記第1の特別役が持ち越されておらず且つ前記第1の特定遊技状態から前記第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態では、ベット数を前記特定数とは異なる所定数にするように指示する旨の報知が行われる
ことを特徴とする遊技機。」とする補正を含むものである(なお、下線は補正前後の箇所を明示するために合議体が付した。)。

2 補正の適否について
(1) 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「遊技状態」に関して、「前記第1の特定遊技状態から前記第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な」ものであることに限定するものである。

(2)新規事項
本件補正は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面における【0099】、【0102】及び図8等の記載に基づくものであり、新たな技術事項を導入するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)についても、以下、検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明を再掲すると、次のとおりのものである。なお、A1ないしD1については、分説するため合議体が付した。

「A1 第1の特別遊技の作動に係る第1の特別役が持ち越された第1の特定遊技状態で遊技可能な遊技機であって、
B1 前記第1の特定遊技状態において、ベット数が特定数である場合には、前記第1の特別遊技は作動せず、
C1 前記第1の特別役が持ち越されておらず且つ前記第1の特定遊技状態から前記第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態では、ベット数を前記特定数とは異なる所定数にするように指示する旨の報知が行われる
D1 ことを特徴とする遊技機。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2013-70821号公報(平成25年4月22日出願公開、以下「引用例」という。)には、遊技機(発明の名称)に関し、次の事項が図とともに記載されている(なお、下線は引用発明等の認定に関連する箇所を明示するために合議体が付した。以下同様。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるパチスロ機などの遊技機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の遊技機としては、複数種類のボーナスを設け、ボーナスの内部当籤からボーナスの入賞までの遊技区間を再遊技高確率状態(RT)とするとともに、内部当籤したボーナスの種類に応じて再遊技の確率を異なるものとしたものがある。この遊技機ではさらに、RT中において、当籤した小役を入賞させるための報知(AT)を行うこととしている(例えば、特許文献1参照)。このような遊技機は、ART機と呼ばれており、ボーナスの内部当籤後からボーナスの入賞までの遊技区間をRT状態に制御することでメダルの減少を抑制し、AT状態とすることでメダルを増加させる遊技が可能となる。
【0003】
ART機としては、ボーナスの内部当籤後において、ボーナスフラグを持ち越した状態でARTの抽籤を行うものもある。
【0004】
しかしながら、ARTの抽籤を、ボーナスフラグを持ち越した状態で行うとすると、小役や再遊技役に当籤していない単位遊技、いわゆるハズレの単位遊技では、ARTに当籤する前にボーナスを入賞させることが可能となる。そのため、目押しの出来ない遊技者は、誤ってボーナスを入賞させてしまう虞があり、仮に誤ってボーナスを入賞させてしまった場合には、本来獲得できるはずの利益が消滅してしまう。すなわち、ARTを抽籤する権利を失うために、ART状態でのメダルの増加という利益を受けることができないため、遊技に対する興趣の低下を招く虞がある。
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、目押しの出来ない遊技者であっても、ARTの抽籤状態の終了役(例えばボーナス役)の入賞を、簡易に回避することできる遊技機を提供することにある。」

イ 「【0071】
[パチスロ機のゲームフロー]
図6に示したように、パチスロ機1は、MB1及びMB2という2つのボーナス役を有しているものの、ARTにおける小役の入賞によりメダルを増加させるものである。このパチスロ機1では、ART抽籤準備遊技状態→ART抽籤遊技状態→MB1遊技状態→ART発動準備遊技状態→ART遊技状態→MB2遊技状態→ART抽籤準備遊技状態のループを基本ゲームフローとし、所定の条件を満たすときにART抽籤準備遊技状態→ART遊技状態→MB2遊技状態→ART抽籤準備遊技状態のループに沿ってゲームが進行する。
【0072】
ART抽籤準備遊技状態は、ART抽籤遊技状態又はART遊技状態へ移行することが可能な遊技状態であり、MB1フラグ、MB2フラグ及びARTフラグのいずれも成立していない遊技状態である。この遊技状態は、2枚掛けで行われ、MB1又はMB2に内部当籤するまで継続する。図11を参照して後述する内部抽籤テーブルに示したように、2枚掛け遊技では、MB1とMB2とを比較した場合、MB1に当籤しやすく(20556/65536)、MB2に当籤する確率は極めて低い(1/65536)。そのため、ART抽籤準備遊技状態では、MB1の内部当籤によるART抽籤遊技状態への移行が基本となり、MB1よりも先にMB2に当籤したときにART遊技状態に移行する。
【0073】
ART抽籤遊技は、ART遊技状態への移行準備状態であるART発動準備遊技状態へ移行することが可能な遊技状態であり、3枚掛けで行われる。この遊技状態は、ART抽籤準備遊技状態においてMB1に内部当籤したことによるMB1フラグを持ち越した状態であり、ART抽籤に当籤したときに終了する。ART抽籤は、単一遊技の内部抽籤において特定の乱数値を取得した時、例えばチェリー等の特定役に内部当籤したときに行われる。ART抽籤は、当籤確率が30?70%程度に設定され、また当籤確率に設定差を設けてもよい。なお、特定役の当籤により無条件でARTに内部当籤するようにしてもよい。特定役の当籤により無条件でARTに当籤させる場合、内部抽籤自体がART抽籤となる。
【0074】
MB1遊技状態は、MB1を消化するためのボーナス遊技状態であり、入賞判定ライン8(図2参照)に特定図柄の組み合わせ(例えば「BAR-BAR-BAR」)が揃うことを条件に移行される。このMB1遊技状態における単位遊技は、2枚掛けで行われ、入賞役は2枚ベルのみである。そのため、MB1遊技状態では、メダルの投入枚数及び払い出し枚数ともに2枚であるため、このMB1遊技状態での純増枚数は0枚である。MB1遊技状態は、払出枚数が予め定められた最大払出枚数(例えば12枚)を超えたときに終了する。
【0075】
ここで、パチスロ機1では、MB1遊技状態の開始契機となる特定図柄は、2枚掛け遊技においてのみ入賞し、3枚掛け遊技では入賞しないようになされている。より具体的には、2枚掛け遊技において、MB1の入賞判定を行う一方で、3枚掛け遊技において、MB1の当籤フラグが持ち越されていても、停止図柄の組み合わせに関係なくMB1の入賞判定を行わないよう制御される。すなわち、入賞判定手段では、2枚掛け遊技において、MB1は存在しないものとして扱われ、リール3L,3C,3Rが如何様な停止表示であってもMB1が入賞として判定されることはない。したがって、ART抽籤遊技状態において2枚掛け遊技を行えば、MB1の入賞によりART抽籤遊技状態が終了することがないので、遊技者は、2枚掛け遊技を行うことで、ART抽籤遊技状態において本来得られる利益、ひいてはART遊技状態で本来得られる利益を十分に得ることができ、遊技の興趣の低下を招くことも回避することができる。
【0076】
なお、3枚掛け遊技における入賞判定によってMB1の入賞を回避することに代えて、リール制御により、入賞判定ライン8(図2参照)にMB1の入賞図柄を揃えないようにしてMB1の入賞を回避するようにしてもよい。
【0077】
ART発動準備遊技状態は、ART当籤フラグがオンの状態であり、ART遊技状態への移行準備状態である。この遊技状態は、MB1の消化後において、3枚掛けでMB2に内部当籤するまで継続する。ARTフラグが成立しているときには、MB2の当籤はARTの発動契機となる。すなわち、ART発動準備遊技状態においてMB2に内部当籤した場合には、遊技状態がART発動準備遊技状態からリプレイの内部当籤確率が他の遊技状態よりも高いART遊技状態(RT作動遊技状態)に移行する。図11に示したように、3枚掛けでは、MB1の当籤乱数値は存在せず、ボーナス役としてはMB2の当籤乱数値のみが存在する。また、3枚掛け遊技時のMB2の当籤確率は32583/65536(=1/2)であり、MB1の消化後において直ぐにMB2の当籤、ART遊技状態への移行が行われる。
【0078】
ART遊技状態は、ART発動準備遊技状態においてMB2に当籤したときに移行する3枚掛けで行う遊技状態である。この遊技状態では、図10に示したように、他の遊技状態(RT未作動)に比べてリプレイに高確率で当籤することに加えて、押し順の正解により入賞するベル(押し順ベル)の当籤時に、正解の押し順が報知される。押し順の報知は、例えば音声による報知、ランプによる報知、及び液晶表示装置5における表示のいずれか単独で、あるいは2以上の報知を組み合わせて行われる。ART遊技状態は、予め定められた規定ゲーム数(例えば77ゲームの単一遊技)の消化により終了する。
【0079】
MB2遊技状態は、ART遊技状態の終了後においてMB2を消化するためのボーナス遊技状態であり、入賞判定ライン8に特定図柄(例えば「BAR-BAR-赤7」))が揃って入賞判定されることを条件に開始される。このMB2状態における単位遊技は、は、2枚掛けで行われ、入賞役は2枚ベルのみである。そのため、MB2遊技状態では、メダルの投入枚数及び払い出し枚数ともに2枚であるため、このMB2遊技状態での純増枚数は0枚である。MB2遊技状態は、払出枚数が予め定められた最大払出枚数(たとえば12枚)を超えたときに終了する。
【0080】
パチスロ機1では、図6のゲームフローからわかるように、2枚掛け遊技と3枚掛け遊技とを遊技者が使い分ける必要があり、この使い分けを誤れば、本来得られる利益を遊技者が享受できないこともある。例えば、ART抽籤遊技状態のときに3枚掛け遊技を行わずに2枚掛け遊技を行えば、ARTに当籤しないばかりか、MB1が入賞してARTに当籤する機会を失ってしまう。また、ARTの発動後に2枚掛け遊技を行えばMB2に入賞してART遊技状態が規定ゲーム数に達する前に終了してしまうこともある。そのため、パチスロ機1では、後述するように、遊技者に不利とならないように、2枚掛け遊技あるいは3枚掛け遊技の別を遊技者に報知するようにしている。」

ウ 「【図6】




エ 「【0092】
「MB1役」は、2枚掛け遊技において、入賞判定ライン8に沿って「BAR-BAR-BAR」が並んだ場合に入賞判定される役である。「MB1」の入賞判定時の払い出し枚数は0枚であり、その入賞判定によりMB1遊技が作動する。MB1遊技は、2枚掛けで行われ、中リール3Cの中断に「ベル」が停止するリール制御とされる。すなわち、後述するように「ANY-ベル-ANY」の「2枚ベル」の停止図柄となるため、2枚の払い出しとなる。このMB1は、12枚を超えるメダルの払い出し、すなわち7ゲームの単位遊技で終了する。このMB1での純増枚数は「0枚」である。なお、「2枚ベル」の入賞図柄組み合わせにおける「ANY」とは、いかなる図柄でもよく、停止図柄の種別を問わないとことを意味している。
【0093】
ここで、3枚掛け遊技では、入賞判定ライン8に沿って「BAR-BAR-BAR」が並んだ場合には、MB1の入賞とは判定されず、単なるハズレとなる。すなわち、3枚掛け遊技では、MB1は入賞判定の対象として規定されておらず、いかなる図柄の組み合わせが入賞判定ライン8に揃ったとしてもMB1の入賞として判定されることはない。これにより、ART当籤待ち遊技やART準備遊技において3枚掛け遊技を行うことにより、MB1の入賞を回避することができる。
【0094】
「MB2役」は、3枚掛け遊技又は2枚掛け遊技において、入賞判定ライン8に沿って「BAR-BAR-赤7」が並んだ場合に入賞判定される役である。「MB2」の入賞判定時の払い出し枚数は0枚であり、その入賞判定によりMB2遊技が作動する。MB2遊技は、2枚掛けで行われ、MB1遊技と同様に中リール3Cの中断に「ベル」が停止するリール制御とされる。すなわち、後述するように「ANY-ベル-ANY」の「2枚ベル」の停止図柄となるため、2枚の払い出しとなる。このMB2遊技は、12枚を超えるメダルの払い出し、すなわち7ゲームの単位遊技で終了する。このMB2遊技での純増枚数は「0枚」であり、「2枚ベル」の入賞図柄組み合わせにおける「ANY」の意味も同様である。」

オ 「【0334】
<<RT制御処理>>
図40は、RT制御処理のサブルーチンを示すフローチャートである。
【0335】
最初に、メインCPU31は、MB2内部当たり中(MBフラグを持ち越し中)か否かを判断する(ステップS190)。所定の図柄組合せが表示されたことを契機に開始されるRTは、ボーナス作動中には、作動させることができないので、このような判断処理を実行する。
【0336】
メインCPU31は、ステップS190の判断処理で、MB2内部当たり中であると判別したときには(YES)、遊技状態をRT作動中(ART遊技状態)に更新し(ステップS191)、本サブルーチンを終了する。すなわち、メインCPU31は、MB2に内部当籤した後のRT作動中遊技状態であると判別し、RT作動中遊技状態を維持する処理を行う。
【0337】
メインCPU31は、ステップS190の判断処理で、MB2作動中でないと判別したときには(NO)、MB2の図柄の組み合わせが表示されたか否かを判断する(ステップS192)。
【0338】
メインCPU31は、ステップS192の判断処理で、MB2の図柄の組み合わせが表示されていない判別したときには(NO)、本サブルーチンを終了する。一方、メインCPU31は、ステップS192の判断処理で、MB2の図柄の組み合わせが表示されている判別したときには(YES)、遊技状態をRT未作動に更新し、本サブルーチンを終了する。すなわち、メインCPU31は、RT作動中遊技状態ではなく、MB2遊技状態でもないと判別し、RT未作動遊技状態を維持する処理を行う。
【0339】
このように、本実施の形態では、MB2フラグを持ち越していることを条件に、遊技状態をRT作動中遊技状態に維持する。」

カ 「【0409】
<<スタートコマンド受信時処理>>
図49、図50及び図51は、スタートコマンド受信時処理を示すフローチャートである。
・・・略・・・
【0429】
次に、サブCPU81は、ARTゲーム数が0であるか否かを判断する(ステップS325)。サブCPU81は、ステップS325の判断処理でARTゲーム数が0であると判断したときには(YES)、次遊技から2掛け遊技を要求する(ステップS325)。すなわち、ART遊技状態が終了したと判断して、遊技者に2枚掛け遊技によってMB2の入賞を促す。」

キ 「【0448】
本願発明は上述した実施の形態には限定されず、種々に変更可能である。例えば、3枚掛け遊技及び2枚掛け遊技の要求(報知)は、必ずしも一方の要求のみによって達成する必要はない。2枚掛け遊技で当籤したMB1は2枚掛け遊技でしか入賞させることができず、また、ARTは3枚掛け遊技でしか当籤しない遊技性のため、3枚掛け遊技及び2枚掛け遊技の要求は両方行い、逆に両方行わないようにするとともに、液晶表示装置5において3枚掛け遊技及び2枚掛け遊技の説明を行うようにしてもよい。」

ク 上記アないしキから、引用例には、次の発明が記載されている。なお、a1ないしd1については本願補正発明のA1ないしD1に概ね対応させて付与し、引用箇所の段落番号等を併記した。
「a1 ART抽籤準備遊技状態→ART抽籤遊技状態→MB1遊技状態→ART発動準備遊技状態→ART遊技状態→MB2遊技状態→ART抽籤準備遊技状態のループを基本ゲームフローとし(【0071】)、ART発動準備遊技状態において、入賞判定によりMB2遊技を作動させるためのMB2に当籤したときに、3枚掛けで行うART遊技状態に移行するとともに(【0078】、【0094】)、該ART遊技状態はMB2フラグを持ち越していることを条件に維持される(【0336】、【0339】)、パチスロ機1(【0071】)であって、
b1 MB2遊技状態は、ART遊技状態の終了後においてMB2を消化するためのボーナス遊技状態であり、3枚掛け遊技又は2枚掛け遊技において、入賞判定ライン8に特定図柄(例えば「BAR-BAR-赤7」))が揃って入賞判定されることを条件に開始され(【0079】、【0094】)、
c1 MB1フラグ、MB2フラグ及びARTフラグのいずれも成立していないART抽籤準備遊技状態は、2枚掛けで行われ、2枚掛け遊技では、MB1に当籤しやすく(20556/65536)、MB2に当籤する確率は極めて低い(1/65536)ため、ART抽籤準備遊技状態では、MB1の内部当籤によるART抽籤遊技状態への移行が基本となり(【0072】)、遊技者に不利とならないように、2枚掛け遊技あるいは3枚掛け遊技の別を遊技者に報知するようにしている(【0080】)、
d1 パチスロ機1(【0071】)。」(以下「引用発明1」という。)

(3)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する(見出し(a1)ないし(d1)は、本願補正発明の特定事項A1ないしD1に概ね対応する。)。

(a1)(d1)引用発明1の「MB2遊技状態」、「MB2」、「パチスロ機1」は、それぞれ本願補正発明の「第1の特別遊技」、「第1の特別役」、「遊技機」に相当する。
また、引用発明1のa1の「ART遊技状態」は、MB2(第1の特別役)に当籤したときにART発動準備遊技状態から移行されるとともに、MB2(第1の特別役)フラグを持ち越していることを条件に維持されるものであるから、本願補正発明の「第1の特別遊技の作動に係る第1の特別役が持ち越された第1の特定遊技状態」に相当する。
そうすると、引用発明1のa1、d1は、それぞれ本願補正発明の特定事項A1、D1に相当する。

(b1)引用発明1の「3枚掛け」は、本願補正発明の「ベット数が特定数」に相当する。
そして、引用発明1の「ART遊技状態」は、3枚掛け(ベット数が特定数)で行うものであるから、引用発明1のb1と、本願補正発明の特定事項B1とは、「B1’『前記第1の特定遊技状態において、ベット数が特定数である場合』があり、」で一致する。

(c1)引用発明1において、a1のように、ART遊技状態(第1の特定遊技状態)→MB2遊技状態(第1の特別遊技)→ART抽籤準備遊技状態と進行することと、cのように、ART抽籤準備遊技状態が、MB2(第1の特別役)フラグが成立していない状態、すなわち、持ち越されていない状態であることを踏まえれば、引用発明1の「ART抽籤準備遊技状態」は、本願補正発明の「前記第1の特別役が持ち越されておらず且つ前記第1の特定遊技状態から前記第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態」に相当する。
また、引用発明1の「2枚掛け」は、本願補正発明の「ベット数を前記特定数とは異なる所定数」にすることに相当する。
そして、引用発明1は、2枚掛け(ベット数を所定数)遊技あるいは3枚掛け(ベット数を特定数)遊技の別を遊技者に報知するようにしているのであるから、本願補正発明の「ベット数を前記特定数とは異なる所定数にするように指示する旨の報知が行われる」ことに相当する構成を備える。
してみると、引用発明1のc1と、本願補正発明の特定事項C1とは、「C1’『前記第1の特別役が持ち越されておらず且つ前記第1の特定遊技状態から前記第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態』を有し、『ベット数を前記特定数とは異なる所定数にするように指示する旨の報知が行われる』」点で一致する。

以上のとおりであるから、本願補正発明と引用発明1とは、
「A1 第1の特別遊技の作動に係る第1の特別役が持ち越された第1の特定遊技状態で遊技可能な遊技機であって、
B1’前記第1の特定遊技状態において、ベット数が特定数である場合があり、
C1’前記第1の特別役が持ち越されておらず且つ前記第1の特定遊技状態から前記第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態を有し、ベット数を前記特定数とは異なる所定数にするように指示する旨の報知が行われる
D1 遊技機。」である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1(特定事項B1)
「前記第1の特定遊技状態において、」
本願補正発明では、「ベット数が特定数である場合には、前記第1の特別遊技は作動せず」であるのに対し、
引用発明1では、3枚(特定数)掛け遊技又は2枚(所定数)掛け遊技において、入賞判定ライン8に特定図柄が揃って入賞判定されることを条件にMB2遊技状態(第1の特別遊技)が開始されるものであり、本願補正発明のように、「ベット数が特定数である場合には、前記第1の特別遊技は作動せず」というものではない点。

・相違点2(特定事項C1)
「ベット数を前記特定数とは異なる所定数にするように指示する旨の報知が行われる」のが、
本願補正発明では、「前記第1の特別役が持ち越されておらず且つ前記第1の特定遊技状態から前記第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態」であるのに対し、
引用発明1では、ART抽籤準備遊技状態(第1の特別役が持ち越されておらず且つ第1の特定遊技状態から第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態)であるのかどうかが明らかでない点。

(4)判断
ア 相違点1について検討する。
(ア)引用発明1は、3枚(特定数)掛け遊技又は2枚(所定数)掛け遊技において、入賞判定ライン8に特定図柄が揃って入賞判定されることを条件にMB2遊技状態(第1の特別遊技)が開始されるものである。
(イ)一方、引用例の【0080】(上記(2)イ)には、「ARTの発動後に2枚掛け遊技を行えばMB2に入賞してART遊技状態が規定ゲーム数に達する前に終了してしまうこともある。」(以下「引用例の記載事項」という。)と記載されており、当該記載からみて、ART遊技状態において、2枚掛け遊技ではなく3枚(特定数)掛け遊技である場合には、MB2(第1の特定役)が入賞し難く、ART遊技状態(第1の特定遊技状態)も終了する可能性が低く、MB2遊技状態(第1の特別遊技)も作動する可能性が低いものと解される。
(ウ)そうすると、引用発明1及び引用例の記載事項に接した当業者であれば、引用発明1において、ART遊技状態(第1の特定遊技状態)で、3枚(特定数)掛け遊技である場合に、MB2(第1の特定役)が入賞させないようにし、MB2遊技状態(第1の特別遊技)を作動しないようになすことは、容易に想到できたものである。
(エ)してみると、引用発明1において、上記相違点1に係る本願補正発明の特定事項となすことは当業者が引用例の記載事項に基づいて容易になし得たことである。

イ 相違点2について検討する。
(ア)引用発明1は、ART抽籤準備遊技状態(第1の特別役が持ち越されておらず且つ第1の特定遊技状態から第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態)は、2枚掛けで行われ、2枚掛け遊技では、MB1に当籤しやすく(20556/65536)、MB2に当籤する確率は極めて低い(1/65536)ため、ART抽籤準備遊技状態では、MB1の内部当籤によるART抽籤遊技状態への移行が基本となるものであるから、2枚掛け遊技の方が遊技者に不利とならないことは自明である。
そして、引用発明1は、遊技者に不利とならないように、2枚掛け遊技あるいは3枚掛け遊技の別を遊技者に報知するようにしているものであるから、ART抽籤準備遊技状態(第1の特別役が持ち越されておらず且つ第1の特定遊技状態から第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態)では、2枚(所定数)掛け遊技をするように報知がなされることは自明である。したがって、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。
(イ)仮に上記相違点2が実質的な相違点であるとしても、引用発明1において、遊技者に不利とならないように、2枚掛け遊技あるいは3枚掛け遊技の別を遊技者に報知するようにしているものであるから、ART抽籤準備遊技状態(第1の特別役が持ち越されておらず且つ第1の特定遊技状態から第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態)で、2枚(所定数)掛け遊技をするように報知するようになすこと、すなわち、上記相違点2に係る本願補正発明の特定事項のようになすことは当業者が適宜なし得たことである。

(5)本願補正発明の奏する効果は、引用発明1の奏する効果及び引用例の記載事項の奏する効果から予測することができた程度のものである。

(6)請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の「c.拒絶理由2(新規性)及び3(進歩性)について」において、概ね以下のとおり主張している。
「しかしながら、本審判請求書と同日に提出しました手続補正書では、上記3.a及び3.bで述べましたように、補正前の「前記特別役が持ち越されていない遊技状態では、ベット数を前記特定数とは異なる所定数にするように指示する旨の報知が行われる」という記載を、「前記第1の特別役が持ち越されておらず且つ前記第1の特定遊技状態から前記第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態では、ベット数を前記特定数とは異なる所定数にするように指示する旨の報知が行われる」という記載に補正し、本願請求項1に記載の第1の特別役が持ち越されていない遊技状態が、本願明細書に記載の「RT0遊技状態」に相当することを明確にしました(第1の特別役が持ち越されていない遊技状態に本願明細書に記載の「RT2遊技状態」が含まれないことを明確にしました)。
それに対しまして、引用文献1に記載のART遊技状態の終了後の遊技状態(補正前の請求項1の「特別役が持ち越されていない遊技状態」に相当)は、ART抽籤遊技状態(補正前の請求項1の「第1の特定遊技状態」に相当)からMB1遊技(補正前の請求項1の「MB1遊技」に相当)を消化した後直接移行可能な遊技状態ではありません。
すなわち、引用文献1に記載のART遊技状態の終了後の遊技状態は、本願請求項1に記載の「前記第1の特別役が持ち越されておらず且つ前記第1の特定遊技状態から前記第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態」に相当するものではありません。
それゆえ、引用文献1には、本願請求項1に記載の「前記第1の特別役が持ち越されておらず且つ前記第1の特定遊技状態から前記第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態では、ベット数を前記特定数とは異なる所定数にするように指示する旨の報知が行われる」という上記第2の特徴に相当する技術的事項は開示も示唆もされていません。」

しかしながら、上記(3)で示したとおり、引用文献1(引用例)の「MB2遊技状態」、「『MB2』又は『MB2フラグ』」、「ART抽籤準備遊技状態」が、それぞれ本願補正発明の「第1の特別遊技」、「第1の特別役」、「前記第1の特別役が持ち越されておらず且つ前記第1の特定遊技状態から前記第1の特別遊技の消化後に直接移行可能な遊技状態」に相当するといえるから、上記主張は採用できない。

(7)まとめ
以上のように、本願補正発明は、当業者が、引用発明1及び引用例の記載事項に基いて容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願に請求項1ないし3に係る発明は、令和1年7月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2〔理由〕1にも本件補正前の請求項1として記載したとおりの次のものである。なお、A2ないしD2については、分説するため合議体が付した。

「A2 第1の特別遊技の作動に係る第1の特別役が持ち越された第1の特定遊技状態で遊技可能な遊技機であって、
B2 前記第1の特定遊技状態において、ベット数が特定数である場合には、前記第1の特別遊技は作動せず、
C2 前記特別役が持ち越されていない遊技状態では、ベット数を前記特定数とは異なる所定数にするように指示する旨の報知が行われる
D2 ことを特徴とする遊技機。」

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、この出願の令和1年7月8日提出の手続補正書により補正された請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2013-70821号公報

3 引用例
(1)引用例(引用文献1)は、上記第2〔理由〕3(2)アないしキに記載したとおりである。

(2)上記第2〔理由〕3(2)アないしキから、引用例には、次の発明が記載されている。なお、a2ないしd2については本願発明のA2ないしD2に概ね対応させて付与し、引用箇所の段落番号等を併記した。

「a2 ART抽籤準備遊技状態→ART抽籤遊技状態→MB1遊技状態→ART発動準備遊技状態→ART遊技状態→MB2遊技状態→ART抽籤準備遊技状態のループを基本ゲームフローとし(【0071】)、ART抽籤準備遊技状態においてMB1に内部当籤したことによるMB1フラグを持ち越した状態であるART抽籤遊技状態(【0073】)を有する、パチスロ機1(【0071】)であって、
b2 MB1遊技状態の開始契機となる特定図柄は、2枚掛け遊技においてのみ入賞し、3枚掛け遊技では入賞しないようになされ(【0075】)、
c2 MB1の消化後において直ぐにMB2が当籤し、ART遊技状態への移行が行われ(【0077】)、ARTゲーム数が0であると判断したときにはART遊技状態が終了したと判断して、遊技者に2枚掛け遊技によってMB2の入賞を促すために、2枚掛け遊技を要求する(【0429】)、
d2 パチスロ機1(【0071】)。」(以下「引用発明2」という。)

4 対比
本願発明と引用発明2とを対比する(見出し(a2)ないし(d2)は、本願発明の特定事項A2ないしD2に概ね対応する。)。

(a2)(d2)引用発明2の「MB1遊技状態」、「MB1」、「パチスロ機1」は、それぞれ本願発明の「第1の特別遊技」、「第1の特別役」、「遊技機」に相当する。
また、引用発明2のa2の「ART抽籤遊技状態」は、MB1(第1の特別役)に内部当籤したときにART抽籤準備遊技状態から移行されるとともに、MB1(第1の特別役)フラグを持ち越した状態であるから、本願発明の「第1の特別遊技の作動に係る第1の特別役が持ち越された第1の特定遊技状態」に相当する。
そうすると、引用発明2のa2、d2は、それぞれ本願発明の特定事項A2、D2に相当する。

(b2)引用発明2の「3枚掛け」は、本願発明の「ベット数が特定数」に相当する。
そして、引用発明2は、MB1フラグを持ち越した状態であるART抽籤遊技状態(第1の特定遊技状態)において、MB1遊技状態の開始契機となる特定図柄は、3枚掛け(ベット数が特定数)遊技では入賞せず、MB1遊技状態(第1の特別遊技)が開始(作動)し得ないから、引用発明2のb2は、本願発明のB2に相当する。

(c2)引用発明2の「2枚掛け」は、本願発明の「ベット数を前記特定数とは異なる所定数」に相当する。
また、引用発明2の「2枚掛け遊技を要求」している遊技状態は、MB1(第1の特定役)の消化後において直ぐにMB2が当籤し、ART遊技状態への移行が行われ、ARTゲーム数が0であると判断したときにはART遊技状態が終了したと判断して、遊技者に2枚掛け遊技によってMB2の入賞を促す状態であり、MB1(第1の特定役)が持ち越されていない状態であるといえるから、本願発明の「前記特別役が持ち越されていない遊技状態」に相当する。
そして、引用発明2において、2枚掛け遊技を要求している遊技状態(特別役が持ち越されていない遊技状態)では、2枚掛け(ベット数を前記特定数とは異なる所定数)遊技を要求しているものである。
してみると、引用発明2のc2は、本願発明の特定事項C2に相当する。

以上のとおりであるから、本願発明と引用発明2とは、
「A2 第1の特別遊技の作動に係る第1の特別役が持ち越された第1の特定遊技状態で遊技可能な遊技機であって、
B2 前記第1の特定遊技状態において、ベット数が特定数である場合には、前記第1の特別遊技は作動せず、
C2 前記特別役が持ち越されていない遊技状態では、ベット数を前記特定数とは異なる所定数にするように指示する旨の報知が行われる
D2 遊技機。」である点で一致し、相違する点はなく、本願発明は引用発明2と同一である。

よって、本願発明は、引用例に記載された発明である。

6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-11-10 
結審通知日 2020-11-17 
審決日 2020-12-01 
出願番号 特願2018-126634(P2018-126634)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 113- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 一  
特許庁審判長 ▲吉▼川 康史
特許庁審判官 鉄 豊郎
太田 恒明
発明の名称 遊技機  
代理人 特許業務法人信友国際特許事務所  

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