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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1370536
審判番号 不服2020-5701  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-27 
確定日 2021-01-21 
事件の表示 特願2018-525069「増幅用光ファイバ、及び、レーザ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月 4日国際公開、WO2018/003574〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)6月19日(優先権主張 平成28年12月5日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年4月2日付け:拒絶理由通知書
令和元年8月7日:意見書、手続補正書の提出
令和2年1月20日付け:拒絶査定
令和2年4月27日:審判請求書、手続補正書の提出
なお、本願についてなされた優先権主張(先の出願の番号 特願2016-129763)に係る手続は、平成31年1月24日付け手続却下の処分により、却下された。

第2 令和2年4月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年4月27日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所として、請求人が付したものである。)
「活性元素が添加されたコアと、
前記コアを囲い前記コアより屈折率が低い内側クラッドと、
前記内側クラッドを囲い前記内側クラッドより屈折率が低い外側クラッドと、
を備え、
前記内側クラッドは、前記コアの中心軸を中心とするねじれが付加され、
長手方向に垂直な断面において、前記内側クラッドの外周は多角形の角に丸みを帯びた形状とされ、
前記多角形の頂点の数をn、前記内側クラッドの外周の外接円の直径をd2、前記内側クラッドの外周の内接円の直径をd1とするときに下記式(1)及び下記式(2)で定義される角張り度cが0.15以上0.64以下であり、
長手方向に平行な方向の長さ1m当たりでの前記ねじれの回転数をNとするときに、
2.5≦c×N≦8.25
が成り立ち、
前記nは、6以上8以下である
ことを特徴とする増幅用光ファイバ。
A=cos(π/n) ・・・(1)
c={1-(d1/d2)}/(1-A) ・・・(2)」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和元年8月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「活性元素が添加されたコアと、
前記コアを囲い前記コアより屈折率が低い内側クラッドと、
前記内側クラッドを囲い前記内側クラッドより屈折率が低い外側クラッドと、
を備え、
前記内側クラッドは、前記コアの中心軸を中心とするねじれが付加され、
長手方向に垂直な断面において、前記内側クラッドの外周は多角形の角に丸みを帯びた形状とされ、
前記多角形の頂点の数をn、前記内側クラッドの外周の外接円の直径をd2、前記内側クラッドの外周の内接円の直径をd1とするときに下記式(1)及び下記式(2)で定義される角張り度cが0.15以上0.8以下である
ことを特徴とする増幅用光ファイバ。
A=cos(π/n) ・・・(1)
c={1-(d1/d2)}/(1-A) ・・・(2)」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「頂点の数n」、「角張り度c」及び「ねじれ」について、「頂点の数n」を「6以上8以下」に、「角張り度c」は「0.15以上0.8以下」を「0.15以上0.64以下」に、「ねじれ」を「2.5≦c×N≦8.25(Nは、長手方向に平行な方向の長さ1m当たりでの前記ねじれの回転数)」に、限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2011-171619号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。

「【0032】
図2の(A)に示すように、増幅用光ファイバ20は、コア21と、コア21の外周を被覆するクラッド22と、クラッド22の外周を被覆する外部クラッド23と、外部クラッド23の外周を被覆する保護層24とを備えている。また、増幅用光ファイバ20の断面において、コア21の外形は、円形とされ、クラッド22の外形は、多角形とされている。また、外部クラッド23の外形、及び、保護層24外形は、円形とされている。なお、本実施形態において、クラッド22の断面における外形は7角形とされており、クラッド22の頂点は、丸みを帯びている。
【0033】
更に、図2の(A)においては、増幅用光ファイバ20の断面におけるクラッド22の外形の内接円c、及び、外接円Cを破線で示している。そして、図2の(A)に示すように、内接円cの直径をrとし、外接円Cの直径をRとする場合、クラッド22は、0.92≦r/R≦0.97を満たしている。」
「【0035】
また、この増幅用光ファイバ20においては、図2の(B)に示すように、クラッド22の屈折率はコア21の屈折率よりも低く、外部クラッド23の屈折率はクラッド22の屈折率よりもさらに低くされ、保護層24の屈折率はコア21の屈折率よりも高くされる。」
「【0063】
(実施例1)
コア母材の材料をYbが1.2質量%、及び、Alが3.5質量%共添加された石英とし、クラッド母材を添加物のない石英として、コア母材の外周がクラッド母材で被覆された光ファイバ母材の中間体をMCVD法により作製した。その後、光ファイバ母材の中間体を切削加工して、長手方向に垂直な断面におけるクラッド母材の外形が7角形の光ファイバ母材を作製した。次にこの光ファイバ母材を紡糸して、さらにクラッドの外周を紫外線硬化樹脂から成る外部クラッドで被覆した。そして、さらに外部クラッドの外周を紫外線硬化樹脂から成る保護層で被覆して、長さが10mの増幅用光ファイバを作製した。このとき紡糸中に紡糸炉の温度を調整して、断面におけるクラッドの外形の頂点に丸みを帯びさせるようにした。
【0064】
こうして作製した増幅用光ファイバは、コアの直径が7μmであった。さらにクラッドの内接円の直径r、及び、外接円の直径Rは、表1に示す大きさであった。従って、r/Rは、表1に示す値であった。また、外部クラッドの外経は、160μmであった。」
「【0076】
(実施例5)
実施例1の光ファイバ母材と同様の光ファイバ母材を作製した。そして、紡糸炉の温度、及び、紡糸の速度を実施例1と異なる温度及び速度に調整して、実施例1と直径が異なる増幅用光ファイバを作製した。こうして、作製した増幅用光ファイバは、コアの直径が30μmであった。さらにクラッドの内接円の直径r、及び、外接円の直径Rは、表2に示す大きさであった。従って、r/Rは、表2に示す値であった。また、外部クラッドの外経は、460μmであった。」
「表2


「図2


(イ)上記記載から、引用文献1の実施例5の増幅用ファイバについて、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
実施例5の増幅用光ファイバは、当該光ファイバを説明する【0076】によれば、「実施例1の光ファイバ母材と同様の光ファイバ母材」から作製されたものであるから、実施例1に係る【0063】の記載を踏まえれば、「コア母材の材料」は、「Ybが1.2質量%、及び、Alが3.5質量%共添加された石英」であり、「クラッド母材」は「添加物のない石英」であり、「母材の外形が7角形の光ファイバ母材を紡糸し」することから、「クラッド」の「断面における外形は7角形」であり、「クラッドの外周を紫外線硬化樹脂から成る外部クラッドで被覆し」、「紡糸中に紡糸炉の温度を調整して、断面におけるクラッドの外形の頂点に丸みを帯びさせるようにし」ていることから、「断面におけるクラッドの外形の頂点に丸みを帯び」ていると認められる。
そして、表2によれば、当該クラッドの内接円の直径rは418.9μm、外接円の直径Rは444.7μmである。
(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、実施例5の増幅用ファイバについて、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献1の記載等に係る段落番号等を括弧内に付してある。

<引用発明>
「コア21と、コア21の外周を被覆するクラッド22と、クラッド22の外周を被覆する外部クラッド23と、を備え、(【0032】)
クラッド22の屈折率はコア21の屈折率よりも低く、外部クラッド23の屈折率はクラッド22の屈折率よりもさらに低くされ、(【0035】)
クラッド22の断面における外形は7角形であって、断面におけるクラッドの外形の頂点に丸みを帯びている、増幅用光ファイバ20であって、(上記(イ))
コア母材の材料をYbが1.2質量%、及び、Alが3.5質量%共添加された石英とし、(上記(イ))
クラッド母材を添加物のない石英とし、(上記(イ))
母材の外形が7角形の光ファイバ母材を紡糸し、さらにクラッドの外周を紫外線硬化樹脂から成る外部クラッドで被覆して、増幅用光ファイバを作製し、(上記(イ))
紡糸中に紡糸炉の温度を調整して、断面におけるクラッドの外形の頂点に丸みを帯びさせるようにし、(上記(イ))
クラッドの内接円の直径rは418.9μm、外接円の直径Rは444.7μmである、増幅用光ファイバ。(上記(イ))」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2016-149432号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【0003】
第1クラッド(インナークラッド)と第2クラッド(アウタークラッド)とを有するダブルクラッドファイバを増幅用光ファイバに採用した場合を想定する。
第1クラッドの断面形状が例えば正6角形等の回転対称性を有する形状であると、第1クラッド内を伝播する光は、第1クラッドと第2クラッドとの界面において一定の角度で全反射しつつ螺旋状に進行する。このように、一旦コアから外れた励起光は、界面に対する入射角(反射角)が変化することなく第1クラッド内を進行する。そのため、この励起光は、何回反射してもコアに到達することはない。したがって、実質的に励起光として寄与する光は増幅用光ファイバに入射した光の一部に過ぎず、励起光の利用効率が低いという問題がある。
この問題を解決するため、下記の特許文献1に、第1クラッドが2つ以上の直線状の反射面を有し、コアに対する反射面の向きが光伝播方向の任意の箇所で異なるダブルクラッドファイバを備えた光増幅器が開示されている。」
「【0011】
本発明の一つの態様のファイバレーザ装置において、前記増幅用光ファイバのねじれ量は、前記第1の反射部側から前記第2の反射部側に向かうにつれて大きくなっていてもよい。
本明細書において、「増幅用光ファイバのねじれ量」は、「増幅用光ファイバの単位長さ当たりの増幅用光ファイバの回転数」と定義する。
通常、増幅用光ファイバにおいて、励起光は主に入力側(第1の反射部側)でコアに吸収され、出力側(第2の反射部側)に向かうにつれてスキュー光成分が多くなる。その点、上記の構成によれば、増幅用光ファイバのねじれ量が、第1の反射部側から第2の反射部側に向かうにつれて大きくなっているため、スキュー光成分が出力側のコアにより吸収されやすくなる。これにより、局所的な発熱を抑制しつつ、増幅用光ファイバのビーム品質の低下を抑え、かつ、励起光の利用効率を高めることができる。」
「【0030】
本実施形態の増幅用光ファイバ25は、第1クラッド29の外形、すなわち第1クラッド29と第2クラッド30との境界の形状が2回軸対称でない正7角形であるため、クラッドを導波してコアに到達せず、励起光として寄与しない光、いわゆるスキュー光を抑制することができる。しかしながら、第1クラッド29の断面形状を多角形にしただけでは、依然としてスキュー光が残り、励起光の利用効率をより向上させることができない。そこで、スキュー光をさらに低減し、励起光の利用効率をさらに向上させるため、本実施形態では、増幅用光ファイバ25は、増幅用光ファイバ25の中心軸を中心として周方向にねじられた状態で巻回されている。」

(イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
a 上記【0030】の記載から、「クラッド外形が正7角形であるため、クラッドを導波してコアに到達せず、励起光として寄与しない光、いわゆるスキュー光を抑制することができる」こと、そして、「クラッドの断面形状を多角形にしただけでは、依然としてスキュー光が残るので、増幅用光ファイバの中心軸を中心として周方向にねじることにより、スキュー光をさらに低減し、励起光の利用効率をさらに向上させることができること」が理解できる。
b 上記【0011】の記載からみて、ねじれ量が大きいほど、スキュー光成分がコアにより吸収されやすくなることが理解できる。

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「コア21」は、「コア母材の材料をYbが1.2質量%、及び、Alが3.5質量%共添加された石英」としたものであるから、本件補正発明の「活性元素が添加されたコア」に相当するといえる。
(イ)引用発明の「クラッド22」は、「コア21の外周を被覆」し、「屈折率はコア21の屈折率よりも低く」されているから、本件補正発明の「前記コアを囲い前記コアより屈折率が低い内側クラッド」に相当するといえる。
(ウ)引用発明の「外部クラッド23」は、「クラッド22の外周を被覆」し、「屈折率はクラッド22の屈折率よりもさらに低く」されているから、本件補正発明の「前記内側クラッドを囲い前記内側クラッドより屈折率が低い外側クラッド」に相当するといえる。
(エ)引用発明の「クラッド22」は、「断面における外形は7角形」であり、「外形の頂点に丸みを帯びて」いることから、本件補正発明の「長手方向に垂直な断面において、前記内側クラッドの外周は多角形の角に丸みを帯びた形状とされ」との構成を備え、「前記多角形の頂点の数をnとするときに」、「前記nは、6以上8以下である」との構成を満たしているといえる。
イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「活性元素が添加されたコアと、
前記コアを囲い前記コアより屈折率が低い内側クラッドと、
前記内側クラッドを囲い前記内側クラッドより屈折率が低い外側クラッドと、
を備え、
長手方向に垂直な断面において、前記内側クラッドの外周は多角形の角に丸みを帯びた形状とされ、
前記多角形の頂点の数をnとするときに、前記nは、6以上8以下である増幅用光ファイバ。」

<相違点>
・相違点1
「多角形の角に丸みを帯びた形状」について、本件補正発明では、「前記多角形の頂点の数をn、前記内側クラッドの外周の外接円の直径をd2、前記内側クラッドの外周の内接円の直径をd1とするときに下記式(1)及び下記式(2)で定義される角張り度cが「0.15以上0.64以下」であるのに対して、引用発明では、「角張り度」は不明である点。
「 A=cos(π/n) ・・・(1)
c={1-(d1/d2)}/(1-A) ・・・(2)」

・相違点2
「内側クラッド」について、本件補正発明は、「前記コアの中心軸を中心とするねじれが付加され」、「長手方向に平行な方向の長さ1m当たりでの前記ねじれの回転数をNとするときに、2.5≦c×N≦8.25が成り立」つのに対し、引用発明は、ねじられていない点。

(4)判断
以下、相違点1?2について検討する。
ア 相違点1について
引用発明の「クラッド22」は、「断面における外形は7角形」であって、「断面におけるクラッドの外形の頂点に丸みを帯びて」おり、「クラッド22の内接円の直径は418.9μm、外接円の直径は444.7μm」である。
そして、多角形の頂点の数nが7、内接円の直径rが418.9μm、及び外接円の直径Rが444.7μmということは、本件補正発明の式(1)及び式(2)における、「n」が7であり、「d1」が「418.9」であり、「d2」が「444.7」であることを意味する。
これらの値によれば、引用発明における「クラッド22」は、その角張り度cが「0.58」と計算されることになり、当該値は、本件補正発明の角張り度cの範囲である「0.15以上0.64以下」に含まれている。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではないものである。
イ 相違点2について
(ア)いわゆる「増幅用ダブルクラッド光ファイバ」において、励起光のスキューモードを抑制することは自明な課題であるから、当業者であれば、引用発明においても、励起光のスキューモードを可能な限り抑制することを動機づけられるといえる。
(イ)a 一方、上記(2)イ(イ)aのとおり、引用文献2には、「クラッドの断面形状を多角形にしただけでは、依然としてスキュー光が残るので、増幅用光ファイバの中心軸を中心として周方向にねじることにより、スキュー光をさらに低減し、励起光の利用効率をさらに向上させることができること」が記載されているところ、引用発明は、ここでいう「クラッドの断面形状を多角形にしただけ」のものといえる。
b なお、引用文献2の【0003】には、上記aのねじりにより励起光の利用効率がさらに向上するメカニズムに関し、「実質的に励起光として寄与する光は増幅用光ファイバに入射した光の一部に過ぎず、励起光の利用効率が低いという問題があ」り、「この問題を解決するため、下記の特許文献1に、第1クラッドが2つ以上の直線状の反射面を有し、コアに対する反射面の向きが光伝播方向の任意の箇所で異なるダブルクラッドファイバを備えた光増幅器が開示されている。」と記載されているところ、「第1クラッドが2つ以上の直線状の反射面を有し、コアに対する反射面の向きが光伝播方向の任意の箇所で異なる」ことにより、励起光の利用効率を向上させているのであるから、上記aにおいて、クラッドの断面形状が、引用発明のように、外形は7角形であって、外形の頂点に丸みを帯びているとしても、直線状の反射面を有する以上、ねじりの効果は当然に生じるものである。
(ウ)そうすると、当業者であれば、引用発明において、励起光のスキューモードを可能な限り抑制するとの課題を解決するために、引用文献2の上記技術的事項を採用し、引用発明の増幅用光ファイバを、中心軸を中心として周方向にねじるようにすることは、容易に想到し得ることである。
その際、引用発明の増幅用光ファイバを、中心軸を中心として周方向にどの程度「ねじる」かについては、ねじれ量が大きいほど、スキュー光成分がコアにより吸収されやすくなる(上記(2)イ(イ)b)以上、スキュー光成分が所望に抑制されるようになされるものということができ、その「ねじる」程度として、「2.5≦c×N≦8.25が成り立つ」ようにすることは、その回転数の大きさに照らしても、当業者が適宜になし得るものといえる。

ウ 本件補正発明の効果について
そして、上記相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「さらに、引用文献2には、[0031]、[0039]、[0041]において、M^(2)増加量を0.01以下とする為に、増幅用光ファイバ1mあたりのねじれ量が3回転以下とする旨が記載されています。」(第6頁第3行?第5行)と主張している。
しかしながら、引用文献2の請求項1は、ねじれ量に上限を設定するものではないし、【0031】の記載も、「また、増幅用光ファイバ25のねじれ量は、3回転/m以下であることが望ましい。」とするにとどまるから、引用文献2に記載された技術的事項は、ねじれ量が「3回転/m以下であること」を必須とするものではない。【0039】及び【0041】の記載も以上の理解を左右しない。
したがって、引用文献2に、請求人が挙げる上記各記載があるからといって、上記判断が左右されることはない。

オ 結論
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和元年8月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?7に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。

引用文献1:特開2011-171619号公報
引用文献2:特開2016-149432号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1?2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「頂点の数n」及び「ねじれ」に係る限定事項を削除し、「角張り度c」が「0.15以上0.64以下」との限定事項を「0.15以上0.80以下」と、その数値範囲を広げたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-11-20 
結審通知日 2020-11-24 
審決日 2020-12-07 
出願番号 特願2018-525069(P2018-525069)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01S)
P 1 8・ 575- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村井 友和  
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 野村 伸雄
吉野 三寛
発明の名称 増幅用光ファイバ、及び、レーザ装置  
代理人 森村 靖男  

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