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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1370702
審判番号 不服2019-4217  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-01 
確定日 2021-01-25 
事件の表示 特願2017-504358「洗濯洗剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月11日国際公開、WO2016/022783、平成29年 8月24日国内公表、特表2017-524048〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年8月6日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年8月7日(EP)欧州特許庁、2015年7月9日(EP)欧州特許庁〕を国際出願日とする出願であって、
平成30年2月28日付けの拒絶理由通知に対して、平成30年6月6日付けで意見書と手続補正書の提出がなされ、
平成30年11月29日付けの拒絶査定に対して、平成31年4月1日付けで審判請求がなされ、
令和元年12月12日付けの審判合議体による拒絶理由に対して、令和2年4月30日付けで意見書と手続補正書の提出がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は、令和2年4月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
水溶性フィルムおよび液体組成物を含む、水溶性単位用量物品であって、
前記水溶性単位用量物品は、少なくとも2つの区画を含み、
前記液体組成物が、
アニオン性界面活性剤と、
非イオン性界面活性剤と、
0.5重量%?25重量%の水と、
前記液体組成物の0.05重量%?2重量%のトリメチルアンモニウム置換エポキシドにより誘導体化されているヒドロキシエチルセルロースポリマーであるカチオン性ポリマーと、を含む、液体洗濯洗剤組成物であり、
前記アニオン性界面活性剤は線状アルキルベンゼンスルホネートおよび脂肪酸を含み、
前記非イオン性界面活性剤が、アルコールアルコキシレート非イオン性界面活性剤、アミンオキシド界面活性剤およびこれらの混合物から選択され、
前記カチオン性ポリマーは、前記液体組成物の0.1重量%?1重量%のレベルで存在し、
前記カチオン性ポリマーの前記アニオン性界面活性剤に対する重量比が1:5より低く、
前記カチオン性ポリマーの前記非イオン性界面活性剤に対する重量比が1:10より高く、
前記カチオン性ポリマーの界面活性剤の総量に対する重量比が1:5より低く、
前記アニオン性界面活性剤の前記非イオン性界面活性剤の重量比が5:1?23:1であり、
前記「界面活性剤の総量」は、前記液体洗濯洗剤組成物中に存在する、全てのアニオン性、非イオン性、カチオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されない全ての界面活性剤の量を意味し、
前記カチオン性ポリマーが、粒子として、存在することを特徴とする、水溶性単位用量物品。」

第3 令和元年12月12日付けの拒絶理由通知の概要
令和元年12月12日付けの拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」という。)には、理由1?3として、次の理由が示されている。

理由1:この出願の請求項1?14に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2:この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3:この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

そして、その「記」には、記載不備として、次の1.(3)ウ.?エ.の点が指摘され、刊行物1?5として、次の2.(1)の刊行物が提示されている。

1.(3)サポート要件
ウ.材料の種類と量の範囲
エ.重量比について

2.(1)引用刊行物
刊行物1:特表2013-525564号公報(原査定の文献1)
刊行物2:国際公開第2007/107215号
刊行物3:米国特許出願公開第2008/0261850号明細書
刊行物4:特表2013-521401号公報
刊行物5:特表2013-534981号公報(原査定の文献4)

第4 当審の判断
1.本願明細書の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
摘示a:背景技術
「【0002】ヒドロキシエチルセルロースポリマーを含むカチオン性ポリマーは、洗濯洗剤組成物において布地を柔らかくするのに有用であることが知られている。しかし、カチオン性セルロースポリマーと、洗濯洗剤組成物中に存在するアニオン性洗浄界面活性剤との相互作用により、この布地を柔らかくする効果が薄れることがよくある。洗浄界面活性剤を増量することにより洗浄効果が改善するが、これは布地を柔らかくする効果を弱める作用がある。」

摘示b:発明が解決しようとする課題
「【0003】当該技術分野において公知のカチオン性セルロースポリマーを含む洗濯洗剤組成物を使いながら、洗濯時の布地を柔らかくする効果を改善しつつ、布地を洗浄する効果を維持した洗濯洗剤組成物を提供するニーズが当該技術分野において存在している。
【0004】驚くべきことに、本発明者らは、洗剤組成物中のカチオン性ポリマー、アニオン性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤の比率を注意深く制御することにより、上述の技術的課題を解決できることを見出した。」

摘示c:単位容量パウチ
「【0026】単位用量パウチは、少なくとも1つの区画に液体組成物を完全に封入する水溶性フィルムを含む。単位用量物品は、追加の区画を任意に含んでもよく、この追加の区画は追加の組成物を含んでもよい。係る追加の組成物は、流体、固体、又はそれらの混合物であってよい。或いは、任意の追加の固体成分を流体入り区画に懸濁させてもよい。各区画は、同一の又は異なる組成物を含んでもよい。化学的に適合しない成分を分けたり、成分が一部先行して又は後に洗剤に放出されることが望ましい場合に、単位容量物品が複数区画を有することが好ましい。単位用量物品は、少なくとも1つ、又は少なくとも2つ、又は少なくとも3つ、又は少なくとも4つ、又は少なくとも5つの区画を有してもよい。単位用量物品は、2つの区画を含んでもよく、ここで第1区画は区画の5重量%?20重量%のキレート剤を有し、好ましくはキレート剤は固体状である。」

摘示d:実施例
「【0104】(実施例1)
以下に異なる界面活性剤比率を有する液体洗剤組成物とについて説明する。例Aは本発明の例であり、例B、C、及びDは本発明の範囲にない例である。
【0105】【表1】

*プロパンジオール、グリセロール、エタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0106】調合物AからD28gをPVAフィルム(酵素から分離されたカチオン変性ヒドロキシエチルセルロース)に封入し、これをテリートレーサー及び3.0kgの混成(綿、ポリコットン、)バラスト荷重と共に洗浄した(40℃、2.5mmol/L水硬度を用いたMiele W1714ショートコットンサイクル)。サイクル間で、テリートレーサーを回転式乾燥機で乾燥した。第4サイクル後、テリー繊維に対して一定の温度(21℃)、相対湿度(50%)で乾燥工程を行った。翌日、テリートレーサーは、23℃/55%RHで4時間平衡化し、その間条件は一定に保たれた。動摩擦係数はThwing Albert摩擦剥離テスタFP-2250で測定された。2kgのロードセルで、200gのスレッドを引っ張った。ロードセルとスレッドの間の距離は、永久糸にて10センチ(4インチ)に固定された。。…
【0110】測定が開始され、10往復分の動摩擦係数が記録された。以下の表から平均値が読み取れる。
【0111】【表2】

【0112】各組にスチューデントのt検定をおこない、統計ソフトウェアパッケージ(JMP)から以下のとおりのp値と有意差が抽出された。
【0113】【表3】

【0114】この結果から、本発明の範囲外の構成物により洗った場合に比較して、本発明の構成物で洗った方が布地がより柔らかくなることがわかる。柔らかい感触の差は、統計的に示された。」

2.理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の観点
一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。…当然のことながら,その数式の示す範囲が単なる憶測ではなく,実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。』とされているところ〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕、このような観点に基づいて、本願特許請求の範囲の記載がサポート要件に違反するものであるか否かを検討する。

(2)解決しようとする課題について
本1発明の解決しようとする課題は、本願明細書の段落0003(摘示b)の記載の記載を含む発明の詳細な説明の全体の記載からみて『公知のカチオン性セルロースポリマーを含む洗濯洗剤組成物を使いながら、洗濯時の布地を柔らかくする効果を改善しつつ、布地を洗浄する効果を維持した水溶性単位用量物品の提供』にあるものと認められる。
そして、同段落0004には「洗剤組成物中のカチオン性ポリマー、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤の比率を注意深く制御することにより、上述の技術的課題を解決できる」との記載がなされている。

(3)上記第3の「1.(3)ウ.材料の種類と量の範囲」の点について
本願請求項1には「組成物の0.05重量%?2重量%のトリメチルアンモニウム置換エポキシドにより誘導体化されているヒドロキシエチルセルロースポリマーであるカチオン性ポリマーと、を含む、液体洗濯洗剤組成物であり、…前記カチオン性ポリマーは、前記液体組成物の0.1重量%?1重量%のレベルで存在し、…前記カチオン性ポリマーが、粒子として、存在する」ということが発明特定事項として記載されている。
しかしながら、本願明細書の段落0105(摘示d)の「例A」で用いられている「カチオン変性ヒドロキシエチルセルロース」は、これが「トリメチルアンモニウム置換エポキシドにより誘導体化」されているものなのか、これが「粒子」として存在するものなのか、その詳細が明らかにされていないので、当該「例A」で示された効果が、本願請求項に係る発明による効果を示しているとは直ちに認めることができない。
そして、当該「0.05重量%?2重量%」と「0.1重量%?1重量%」という数値範囲の発明特定事項は、カチオン性ポリマーの量を異なる範囲で二重に規定しているという点において不明確であるところ、ここでは後者の「0.1重量%?1重量%」を意図するものとして以下に検討を続けるに、本願明細書の発明の詳細な説明を精査しても、上記「例A」の「0.45重量%」以外の範囲にまで発明を拡張ないし一般化できるといえる「実験結果」や「作用機序」の裏付けが見当たらず、そのような裏付けがなくても拡張ないし一般化できるといえる本願出願時の「技術常識」の存在も見当たらない。
また、令和2年4月30日付けの意見書の記載を精査しても、カチオン性ポリマーの種類と量について、本願請求項1の記載が明細書のサポート要件を満たす範囲にあることを立証する主張は見当たらない。
さらに、本願請求項1の「アニオン性界面活性剤」と「非イオン性界面活性剤」については、補正により「前記アニオン性界面活性剤は線状アルキルベンゼンスルホネートおよび脂肪酸を含み、前記非イオン性界面活性剤が、アルコールアルコキシレート非イオン性界面活性剤、アミンオキシド界面活性剤およびこれらの混合物から選択され」というものに限定されているが、非イオン性界面活性剤が「アミンオキシド界面活性剤」である場合の具体例の記載はなく、アニオン性界面活性剤の「線状アルキルベンゼンスルホネート」及び「脂肪酸」並びに非イオン性界面活性剤の「アルコールアルコキシレート非イオン性界面活性剤」のアルキル基等の炭素数の違いなどによって、布地に対する柔軟性や洗浄性が大きく左右されることも明らかであるから、これらの材料の広範な種類及び量(比率)の範囲のもの全てが、上記『公知のカチオン性セルロースポリマーを含む洗濯洗剤組成物を使いながら、洗濯時の布地を柔らかくする効果を改善しつつ、布地を洗浄する効果を維持した水溶性単位用量物品の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。
したがって、本1発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

(4)上記第3の「1.(3)エ.重量比について」の点について
ア.洗浄効果の維持について
本願明細書の段落0105の表1(摘示d)には、本願発明の唯一の実施例として「例A」の「液体洗剤組成物」が記載され、比較例として「例B、C、及びD」のものが記載されている。そして、同段落0114には「本発明の範囲外の構成物により洗った場合に比較して、本発明の構成物で洗った方が布地がより柔らかくなることがわかる。」という試験結果の考察が記載されている。
しかしながら、当該試験結果は「柔軟性」の観点のみの試験結果であって、本1発明の範囲内の例Aのものが、本1発明の範囲外の例B?Dと同等又はそれ以上の「洗浄性」を維持しているか否かについて何ら裏付けるものではない。このため、本願請求項1に記載された発明の広範な範囲のもの全てが、上記『公知のカチオン性セルロースポリマーを含む洗濯洗剤組成物を使いながら、洗濯時の布地を柔らかくする効果を改善しつつ、布地を洗浄する効果を維持した水溶性単位用量物品の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。
この点に関して、令和2年4月30日付けの意見書の第2?3頁において、審判請求人は『上記ご指摘の洗浄効果の点につきましては、当業者であれば、これら実施例の組成においては、通常の洗濯洗剤成分である界面活性剤等が含有されていることから、所定の洗浄効果が得られるであろうことは自明であるものと思料いたします。すなわち、通常、十分な量の界面活性剤、特にアニオン性界面活性剤が配合されていれば、必要にして十分な洗浄効果が得られることについては当業者であればよく理解できる筈であり、たとえば、典型的には、界面活性剤の総量が15%以上配合されている洗剤組成物、たとえば19.5重量%程度のアニオン性界面活性剤が配合されていれば十分であります。』主張する。
しかしながら、本願明細書の段落0002(摘示a)の「洗浄界面活性剤を増量することにより洗浄効果が改善するが、これは布地を柔らかくする効果を弱める作用がある。」との記載にあるように、洗濯時の「布地を洗浄する効果」と「布地を柔らかくする効果」は二律背反的な「トレードオフの関係」にあると一般には解されることから、本願明細書の例A?Dの試験結果において、例Aのものの「布地を柔らかくする効果」が例B?Dのものよりも優れているからといって、例Aのものの「布地を洗浄する効果」が例B?Dのものと同等又はそれ以上にある(洗浄効果を維持したままにある)と直ちに解することはできない。
すなわち、上記意見書の「実施例の組成においては、通常の洗濯洗剤成分である界面活性剤等が含有されていることから、所定の洗浄効果が得られるであろうことは自明であるものと思料いたします。」との主張について、本1発明の唯一の実施例である「例A」の組成に「通常の洗濯洗剤成分である界面活性剤等が含有されている」からといって、例Aの洗浄効果が例B?Dを含む従来技術相当品の洗浄効果を「維持」できる水準にあると解することはできない。
また、本願請求項1の「前記カチオン性ポリマーは、前記液体組成物の0.1重量%?1重量%のレベルで存在し、…前記カチオン性ポリマーの界面活性剤の総量に対する重量比が1:5より低く」との記載からみて、本1発明は、液体組成物の総量に対する界面活性剤の総量が、0.1×5=0.5重量%の下限値よりも多いものとして特定されているにすぎないので、上記意見書の「典型的には、界面活性剤の総量が15%以上配合されている洗剤組成物、たとえば19.5重量%程度のアニオン性界面活性剤が配合されていれば十分であります。」との主張を参酌しても、本1発明の範囲に含まれるもの全てが、本1発明の上記課題を解決できる範囲にあると直ちに認識することができない。
したがって、上記意見書の主張を検討しても、本願請求項1に記載された発明の広範な範囲のもの全てが、上記『公知のカチオン性セルロースポリマーを含む洗濯洗剤組成物を使いながら、洗濯時の布地を柔らかくする効果を改善しつつ、布地を洗浄する効果を維持した水溶性単位用量物品の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。

イ.4種類の重量比の範囲について
本願請求項1には「前記カチオン性ポリマーの前記アニオン性界面活性剤に対する重量比が1:5より低く、前記カチオン性ポリマーの前記非イオン性界面活性剤に対する重量比が1:10より高く、前記カチオン性ポリマーの界面活性剤の総量に対する重量比が1:5より低く、前記アニオン性界面活性剤の前記非イオン性界面活性剤の重量比が5:1?23:1であり、」という4種類の「重量比」に関する発明特定事項が記載されている。
そして、本願明細書の段落0105の表1(摘示d)においては、当該4種類の「重量比」について直接的な記載がないため、その例A?Dの4つの具体例のうちの例A及び例Dの重量比を求めると、
(あ)カチオン性ポリマーのアニオン性界面活性剤に対する重量比が、例Aで1:100、例Dで1:92(範囲内)、
(い)カチオン性ポリマーの非イオン性界面活性剤に対する重量比が、例Aで1:9、例Dで1:19(範囲外)、
(う)カチオン性ポリマーの界面活性剤の総量に対する重量比が、例Aで1:107、例Dで1:111(範囲内)、
(え)アニオン性界面活性剤の非イオン性界面活性剤の重量比が、例Aで12:1、例Dで5:1(範囲内)と計算される。
してみると、上記(あ)、(う)及び(え)の「重量比」について、本1発明の範囲内にある「例D」のものの「柔軟性」が不十分であるという試験結果からみて、
上記(あ)に対応する本願請求項1に記載の「前記カチオン性ポリマーの前記アニオン性界面活性剤に対する重量比が1:5より低く」との広範な範囲の全て、
上記(う)に対応する本願請求項1に記載の「前記カチオン性ポリマーの界面活性剤の総量に対する重量比が1:5より低く」との広範な範囲の全て、及び
上記(え)に対応する本願請求項1に記載の「前記アニオン性界面活性剤の前記非イオン性界面活性剤の重量比が5:1?23:1であり」との広範な範囲の全てが、
本1発明の上記課題を解決できると認識できる範囲にあると直ちに認めることができない。
そして、本願請求項1に特定される4種類の「重量比」についての特定は、いずれも絶対組成ではなく、相対的な組成比での定義によるものであって、例えば、例Aと同様に、カチオン性ポリマーが0.45重量%で、非イオン界面活性剤が3.9重量%である場合のものにおいて、アニオン性界面活性剤は19.5?89.7重量%という広範な範囲で本願請求項1に記載された発明特定事項を満たすものとなるところ、その下限値の19.5重量%近傍であっても有用な洗浄性を示すといえる「試験結果」や「作用機序」や「技術常識」の存在は見当たらず、その上限値の89.7重量%近傍であっても有用な柔軟性を示すといえる「試験結果」や「作用機序」や「技術常識」の存在も見当たらないので、本願請求項1に記載された広範な範囲のもの全てが、本願発明の上記課題を解決できると認識できる範囲にあると直ちに認めることができない。
この点に関して、令和2年4月30日付けの意見書の第2?3頁において、審判請求人は『通常、十分な量の界面活性剤、特にアニオン性界面活性剤が配合されていれば、必要にして十分な洗浄効果が得られることについては当業者であればよく理解できる筈であり、たとえば、典型的には、界面活性剤の総量が15%以上配合されている洗剤組成物、たとえば19.5重量%程度のアニオン性界面活性剤が配合されていれば十分であります。』主張する。
しかしながら、本願明細書の段落0002(摘示a)の「洗浄界面活性剤を増量することにより洗浄効果が改善するが、これは布地を柔らかくする効果を弱める作用がある。」との記載からみて、上記「上限値の89.7重量%近傍」であっても有用な柔軟性を示すとはいえない。
また、上記「例A」の具体例は、20.5+13.7+10.8=45.0重量%のアニオン性界面活性剤と、3.9重量%のノニオン性界面活性剤の、合計48.9重量%の界面活性剤を用いるものであり、上記「例D」の具体例は、18.2+12.2+10.8=41.2重量%のアニオン性界面活性剤と、8.6重量%のノニオン性界面活性剤の、合計49.8重量%の界面活性剤を用いるものであるところ、例Aのアニオン性界面活性剤の量を19.5重量%にまで削減した場合に、上記「例D」と同等又はそれ以上の洗浄効果を維持できるといえる合理的な理由が見当たらないので、上記「下限値の19.5重量%近傍」であっても有用な洗浄性を示すとはいえない。
したがって、上記意見書の主張を検討しても、本願請求項1に記載された発明の広範な範囲のもの全てが、上記『公知のカチオン性セルロースポリマーを含む洗濯洗剤組成物を使いながら、洗濯時の布地を柔らかくする効果を改善しつつ、布地を洗浄する効果を維持した水溶性単位用量物品の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。

ウ.「重量比について」の点のまとめ
以上総括するに、本願明細書の発明の詳細な説明の「試験結果」と「作用機序」の記載によっては、本願出願時の「技術常識」及び令和2年4月30日付けの意見書の主張を考慮しても、本願請求項1の記載が明細書のサポート要件を満たす範囲にあると認めることはできない。
したがって、本願請求項1に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

3.理由1(進歩性)について
(1)刊行物1?3及び5の記載事項
ア.上記刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項2及び24
「【請求項2】前記有益剤が、香料、増白剤、虫除け剤、シリコーン、ワックス、香味料、ビタミン、繊維製品用柔軟剤、スキンケア剤、酵素、プロバイオティクス、染料ポリマー共役体、染料粘土共役体、香料送達系、1つの態様では冷却剤である感覚剤、1つの態様ではフェロモンである誘引剤、抗菌剤、染料、顔料、漂白剤、及びそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載の組成物。…
【請求項24】前記組成物が、流体布地強化剤、固体布地強化剤、流体シャンプー、固体シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、固体制汗剤、流体制汗剤、固体脱臭剤、流体脱臭剤、流体保湿剤、固体保湿剤、流体ローション、流体洗顔クレンザー、固体洗顔クレンザー、流体化粧品、固体化粧品、流体毛髪着色剤組成物、固体毛髪着色剤組成物、流体洗剤、固体洗剤、流体硬表面洗浄剤、固体硬表面洗浄剤、又は洗剤及び前記洗剤をカプセル化する水溶性被膜を含む単位用量洗剤である、請求項1に記載の組成物。」

摘記1b:段落0001?0002及び0021
「【0001】本発明は、カプセル化有益剤、かかるカプセル化有益剤を含む組成物、並びにかかるカプセル化有益剤を含む組成物の製造プロセス及び使用プロセスに関する。
【0002】香料、シリコーン、ワックス、香味料、ビタミン、及び柔軟剤等の有益剤は高価であり、パーソナルケア組成物、洗浄組成物、及び布地ケア組成物において高濃度で使用される場合、概して効果が弱い。結果として、かかる有益剤の効率を最大限にすることが望ましい。この目標を達成する1つの方法は、配合され、配合された製品組成物中で熟成する間のかかる有益剤の保持及びかかる有益剤の送達効率を改善することである。残念ながら、かかる有益剤が有益剤の物理的又は化学的特性のために喪失され得るか、あるいはかかる有益剤が他の組成成分又は処理される部位と不適合であり得ることから、有益剤の保持力及び送達効率を改善することは困難である。…
【0021】百分率及び比率は全て、特に指示しない限り、重量で計算される。百分率及び比率は全て、特に指示しない限り、組成物全体を基準にして計算される。」

摘記1c:段落0067
「【0067】本発明の態様は、洗濯洗剤組成物(例えば、TIDE(商標))、硬表面洗浄剤(例えば、MR CLEAN(商標))、自動食器洗い用液体(例えば、CASCADE(商標))、及び床洗浄剤(例えば、SWIFFER(商標))における本発明の粒子の使用を含む。」

摘記1d:段落0091及び0099
「【0091】…本発明の組成物は、カチオン性ポリマーを含有してもよい。本組成物中のカチオン性ポリマーの濃度は、典型的には、約0.05%?約3%、別の実施形態では約0.075%?約2.0%、なおも別の実施形態では約0.1%?約1.0%の範囲である。…このような好適なカチオン性ポリマーの平均分子量は一般に、約10,000?10,000,000であり、一実施形態では、約50,000?約5,000,000であり、別の実施形態では、約100,000?約3,000,000である。…
【0099】有用なカチオン性セルロースポリマーは、トリメチルアンモニウム置換エポキシドと反応したヒドロキシエチルセルロースの塩を含み、当業界(CTFA)においてポリクオタニウム10と称され、Amerchol Corp.(Edison,N.J.,USA)からポリマーのUcare(商標)Polymer LR、Ucare(商標)PolymerJR、及びUcare(商標)PolymerKGシリーズで入手可能である。」

摘記1e:段落0191
「【0191】界面活性剤-本発明による組成物は、界面活性剤又は界面活性剤系を含むことができ、界面活性剤は、非イオン性及び/若しくはアニオン性及び/若しくはカチオン性界面活性剤並びに/又は両性及び/若しくは双極性及び/若しくは半極性非イオン性界面活性剤から選択できる。界面活性剤は、典型的には洗浄組成物の約0.1重量%から、約1重量%から、又は更には約5重量%から、洗浄組成物の約99.9重量%まで、約80重量%まで、約35重量%まで、又は更には約30重量%までの濃度で存在する。」

摘記1f:段落0320及び0325?0326
「【0320】実施例31.液体洗濯配合物(HDL)
前述の実施例の精製された香料マイクロカプセルを含有する製品配合物の非限定的な例は、以下の表に要約される。…
【0325】【表35】

【0326】【表36】…
*25?35%の活性スラリー(水溶液)として加えられるマイクロカプセル。コア/壁比の範囲は80/20?最大90/10であることができ、平均粒径は5μm?50μmの範囲であり、前述の実施例のいずれかにより精製することができる。マイクロカプセルの好適な組み合わせは、実施例1?21に提供される。
**ポリビニルアルコールの単回投与量/サッシェ中の低水分液体洗剤」

摘記1g:段落0329?0330
「【0329】実施例33:液体単位用量
以下は、液体組成物がPVAフィルム内に封入される単位容量の実施例である。本実施例で使用される好ましいフィルムは、厚さ76μmのMonosol M8630である。
【0330】【表38】

^(1) -NHあたり20個のエトキシレート基を有するポリエチレンイミン(MW=600)。
^(2) RA=アルカリ保存性(NaOHのg/投与量)
^(*)25?35%の活性スラリー(水溶液)として加えられるマイクロカプセル。コア/壁比の範囲は80/20?最大90/10であることができ、平均粒径は5μm?50μmの範囲であり、前述の実施例のいずれかにより精製することができる。マイクロカプセルの好適な組み合わせは、実施例1?21に提供される。
^(**)ポリビニルアルコールの単回投与量/サッシェ中の低水分液体洗剤」

イ.上記刊行物2には、和訳にして、次の記載がある。
摘記2a:請求項1、6及び17
「1.以下の工程を含む、20重量%よりも少ない水を含有する非水性布地処理組成物を調製するための方法。
a)カチオン性セルロースポリマー、水及び任意の溶媒を含むプレミックスの供給;
b)少なくとも1種のアニオン性界面活性剤のプリミックスへの混合;及び
c)これに続く非イオン性界面活性剤の添加;
ここで工程a)からc)は順々に行われる。…
6.カチオン性セルロースポリマーが、850,000ダルトン未満の分子量を有する、前記請求項の方法。…
17.請求項2?15の何れか一項に記載された方法で得られる液体単位用量布地処理製品。」

摘記2b:第10頁第31行?第11頁6行、第14頁第26?27行、第19頁第6行?第20頁第3行及び第25頁第26?28行
「適切な溶媒には、アルコール、エーテル、ポリエーテル、ポリオール、アルキルアミン、アルカノールアミン及び脂肪族アミン、アルキル(又は脂肪族)アミド、並びにそのモノ-及びジ-N-アルキル置換の誘導体、アルキル(又は脂肪族)カルボン酸の低級アルキルエステル、ケトン、アルデヒド、グリセリド、並びにアルコキシ化アルコールのような非イオン界面活性剤又はその混合物が含まれる。…
好ましいアニオン性界面活性剤は、線状アルキルベンゼンスルホネート(LAS)材料である。…
本発明の液体組成物はまた、アニオン性界面活性剤成分として脂肪酸を含むことができる。本発明での使用に好適な脂肪酸の例は、パルミトレイン酸、サフラワー油、ヒマワリ油、大豆油、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、菜種油又はそれらの混合物に由来する純粋な又は硬化脂肪酸が挙げられる。飽和及び不飽和脂肪酸の混合物もここで使用することができる。
なお、脂肪酸は主に石鹸の形態で液体洗剤組成物中に存在するであろうことが認識されるであろう。適当なカチオンは、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム、テトラアルキルアンモニウム、例えばテトラメチルアンモニウムからテトラデシルアンモニウムまでなど、のカチオンである。
脂肪酸の量は、本発明の最終液体組成物に望まれる特定の特性に依存して変化するであろう。存在する場合、脂肪酸混合物のレベルは、洗剤組成物の重量当たり0.1?30%、好ましくは0.5%?25%、より好ましくは10?20%が適当である。
好ましくはアニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤混合物の全重量%は、全組成物の2?70重量%である。…
水溶性のポリビニルアルコールフィルム形成樹脂が、単位用量布地処理製品の包装材料として使用されるのが好ましい。」

摘記2c:第36頁第11行?第37頁第4行
「実施例2-非イオン性界面活性剤の異なるレベルでの本発明の方法を用いたカチオン性セルロース柔軟ポリマーを用いた非水性洗剤組成の調製
┌────────────┬───┬───┬───┬──────┐
│組成 │ 2A │ 2B │ 2C │ 2D │
├────────────┼───┼───┼───┼──────┤
│ポリマープレミックス │ │ │
│MPG │ … │19.70%│
│LR-400 │ … │ 0.5% │
│水 │ … │ 2.9% │
│グリセリン 1,26 │ … │ 2.9% │
│界面活性剤 │ │ │
│モノエタノールアミン │ … │ 11.3% │
│LAS酸型1L(受領品)│ … │ 53.8% │
│Prifac 5908 │ … │ - │
│LAS酸型1L(受領品)│ … │ - │
│Neodol 25-7E│ … │ 2.8% │
│微少量成分 │ │ │
│Dequest 2046(受領品) │ … │ 3.2% │
│香料を含む他の微小量成分│ … │ 2.9% │
│合計 │ … │ 100% │
│… │ … │ … │
└────────────┴───┴───┴───┴──────┘
表4-組成2A?Dの全界面活性剤の重量百分率での非イオン性界面活性剤のレベルの安定性及び粘度における効果の詳細」

ウ.上記刊行物3には、和訳にして、次の記載がある。
摘記3a:段落0117
「[0117]…(2)ネオドール25-7E、C12-15アルコール7EO」

エ.上記刊行物5には、次の記載がある。
摘記5a:請求項1
「【請求項1】
非水性液体組成物であって、
a)粒子形態のカチオン性ポリマーと、
b)非水性分散剤と、
を含み、前記カチオン性ポリマーが前記非水性液体組成物中に安定的に分散している、非水性液体組成物。」

摘記5b:段落0012、0022及び0032
「【0012】粒子形態のカチオン性ポリマー:
本発明の非水性液体組成物は、0.01重量%?20重量%、好ましくは0.1重量%?15重量%、より好ましくは0.6重量%?10重量%の粒子形態のカチオン性ポリマーを含み得る。すなわち、カチオン性ポリマーは、非水性液体組成物に不溶性であり、あるいは非水性液体組成物に完全には溶解しない。…
【0022】構造式Iのカチオン性セルロースエーテルには、同様に、市販のものが包含され、市販物質を従来の化学修飾によって調製できる物質が更に包含される。構造式Iを有する市販のセルロースエーテルの例としては、INCI名ポリクアテルニウム10(商標名…LR 400…として市販されるものなど)…が挙げられる。…
【0032】…ポリマーの重量平均分子量は、分子ふるいクロマトグラフィーを用い、RI検出によりポリエチレンオキシド標準に対して測定した場合に、概して10,000?5,000,000、又は100,000?200,000、又は200,000?1,500,000ダルトンであり得る。」

摘記5c:段落0062?0063及び0075
「【0062】単位用量物品は、非水性組成物を保持するのに好適な、すなわち単位用量物品を水と接触させる前に非水性組成物及び任意の追加の成分を単位用量物品から漏れさせない任意の形態、形状、及び材料であってよい。正確な実行法は、例えば、単位用量物品に含まれる組成物の種類及び量、単位用量物品に含まれる区画の数、並びに組成物又は成分の保持、保護、及び送達又は放出に必要とされる特徴に依存して決まる。
【0063】単位用量物品は、非水性組成物を含む少なくとも1つの内部容積が完全に密閉された、水溶性又は水分散性フィルムを含む。単位用量物品は、所望により、非水性液体及び/又は固体成分を含む追加の区画を含み得る。あるいは、任意の追加の固体成分を液体入り区画に懸濁させてもよい。化学的に不適合性の成分を分離するという理由で、又は成分の一部分を初期又は後期に洗濯水に放出させることが望ましい場合に、複数区画の単位用量形態が望ましい。…
【0075】多区画単位用量物品の調製方法では、1片の水溶性又は水分散性フィルム材料片を少なくとも2回折り畳んだ、又は少なくとも3回折り畳んだフィルム材料を使用し、あるいは少なくとも1片のフィルム材料を少なくとも1回折り畳んだ少なくとも2片のフィルム材料を使用する。第三フィルム材料片又はフィルム材料折り畳み片は、フィルム材料を合わせてシールした場合に、単位用量物品の内部容量を2つ以上の区画に分割するバリア層を生成する。」

(2)刊行物2に記載された発明
摘記2aの「20重量%よりも少ない水を含有する非水性布地処理組成物を調製するための方法。a)カチオン性セルロースポリマー、水及び任意の溶媒を含むプレミックスの供給;b)少なくとも1種のアニオン性界面活性剤のプリミックスへの混合;及びc)これに続く非イオン性界面活性剤の添加;…で得られる液体単位用量布地処理製品。」との記載、
摘記2bの「適切な溶媒には、…アルカノールアミン…が含まれる。…本発明の液体組成物はまた、アニオン性界面活性剤成分として脂肪酸を含むことができる。…水溶性のポリビニルアルコールフィルム形成樹脂が、単位用量布地処理製品の包装材料として使用されるのが好ましい。」との記載、及び
摘記2cの「実施例2…LR-400…0.5%…水…2.9%…界面活性剤…LAS酸型…53.8%…Neodol 25-7E…2.8%」との記載、並びに
摘記2cの「実施例2」で用いられている「モノエタノールアミン」が、摘記2bで「アルカノールアミン」が「溶媒」として位置づけられていることからみて、刊行物2には、
『a)カチオン性セルロースポリマー(LR400)0.5%、水2.9%及び任意の溶媒を含むプレミックスの供給;b)少なくとも1種のアニオン性界面活性剤(LAS酸型)53.8%のプリミックスへの混合;及びc)これに続く非イオン性界面活性剤(ネオドール25-7E)2.8%の添加で得られる、水溶性のポリビニルアルコールフィルム形成樹脂が包装材料として使用される液体単位用量布地処理製品。』についての発明(以下「刊2発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
本1発明と刊2発明とを対比する。
刊2発明の「カチオン性セルロースポリマー(LR400)0.5%」は、刊行物1の段落0099(摘記1d)の「有用なカチオン性セルロースポリマーは、トリメチルアンモニウム置換エポキシドと反応したヒドロキシエチルセルロースの塩を含み、…ポリクオタニウム10と称され、…ポリマーのUcare(商標)Polymer L…シリーズで入手可能である。」との記載、及び刊行物5の段落0012及び0022(摘記5b)の「粒子形態のカチオン性ポリマー:…カチオン性ポリマーは、非水性液体組成物に不溶性であり、あるいは非水性液体組成物に完全には溶解しない。…市販のセルロースエーテルの例としては、…ポリクアテルニウム10(商標名…LR 400…が挙げられる。」との記載、並びに本願明細書の段落0079の「構造式Iのカチオン性セルロースポリマーには、…LR 400…の商品名で販売されているもの等のINCI名ポリクオタニウム10」との記載からみて、本1発明の「前記液体組成物の0.05重量%?2重量%のトリメチルアンモニウム置換エポキシドにより誘導体化されているヒドロキシエチルセルロースポリマーであるカチオン性ポリマー」及び「前記カチオン性ポリマーは、前記液体組成物の0.1重量%?1重量%のレベルで存在し」並びに「前記カチオン性ポリマーが、粒子として、存在する」に相当する。
刊2発明の「水2.9%」は、本1発明の「0.5重量%?25重量%の水」に相当する。
刊2発明の「少なくとも1種のアニオン性界面活性剤(LAS酸型)」は、刊行物2の第14頁(摘記2b)の「好ましいアニオン性界面活性剤は、線状アルキルベンゼンスルホネート(LAS)材料である。」との記載からみて、本1発明の「アニオン性界面活性剤」及び「前記アニオン性界面活性剤は線状アルキルベンゼンスルホネート」を「含み」に相当する。
刊2発明の「非イオン性界面活性剤(ネオドール25-7E)」は、刊行物3の段落0117(摘記3a)の「ネオドール25-7E、C12-15アルコール7EO」との記載、及び本願明細書の段落0066の「非イオン性洗浄界面活性剤の非限定的な例としては、a)C_(12)?C_(18)アルキルエトキシレート(NEODOL(登録商標)非イオン性界面活性剤類(Shell)など)」との記載にある「NEODOL」に合致するものであるから、本1発明の「非イオン性界面活性剤」及び「前記非イオン性界面活性剤が、アルコールアルコキシレート非イオン性界面活性剤、アミンオキシド界面活性剤およびこれらの混合物から選択され」に相当する。
刊2発明の「水溶性のポリビニルアルコールフィルム形成樹脂が包装材料として使用される液体単位用量布地処理製品」は、本1発明の「水溶性フィルムおよび液体組成物を含む、水溶性単位用量物品」に相当する。
そして、刊2発明の「カチオン性セルロースポリマー」と「アニオン性界面活性剤」と「非イオン性界面活性剤」の配合量は、
カチオン性ポリマーのアニオン性界面活性剤に対する重量比が、0.5:53.8=1:107.6となるので、本1発明の「1:5より低く」を満たし、
カチオン性ポリマーの非イオン性界面活性剤に対する重量比が、0.5:2.8=1:5.6となるので、本1発明の「1:10より高く」を満たし、
カチオン性ポリマーの界面活性剤の総量に対する重量比が、0.5:(53.8+2.8)=1:113.2となるので、本1発明の「1:5より低く」を満たし、
アニオン性界面活性剤の非イオン性界面活性剤の重量比が、53.8:2.8=19.2:1となるので、本1発明の「5:1?23:1であり」を満たす。

してみると、本1発明と刊2発明は、両者とも『水溶性フィルムおよび液体組成物を含む、水溶性単位用量物品であって、
前記液体組成物が、
アニオン性界面活性剤と、
非イオン性界面活性剤と、
0.5重量%?25重量%の水と、
前記液体組成物の0.05重量%?2重量%のトリメチルアンモニウム置換エポキシドにより誘導体化されているヒドロキシエチルセルロースポリマーであるカチオン性ポリマーと、を含む、液体洗濯洗剤組成物であり、
前記アニオン性界面活性剤は線状アルキルベンゼンスルホネートを含み、
前記非イオン性界面活性剤が、アルコールアルコキシレート非イオン性界面活性剤、アミンオキシド界面活性剤およびこれらの混合物から選択され、
前記カチオン性ポリマーは、前記液体組成物の0.1重量%?1重量%のレベルで存在し、
前記カチオン性ポリマーの前記アニオン性界面活性剤に対する重量比が1:5より低く、
前記カチオン性ポリマーの前記非イオン性界面活性剤に対する重量比が1:10より高く、
前記カチオン性ポリマーの界面活性剤の総量に対する重量比が1:5より低く、
前記アニオン性界面活性剤の前記非イオン性界面活性剤の重量比が5:1?23:1であり、
前記「界面活性剤の総量」は、前記液体洗濯洗剤組成物中に存在する、全てのアニオン性、非イオン性、カチオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されない全ての界面活性剤の量を意味し、
前記カチオン性ポリマーが、粒子として、存在することを特徴とする、水溶性単位用量物品。』という点において一致し、次の(α)及び(β)の点において相違する。

(α)水溶性単位用量物品が、本1発明は「少なくとも2つの区画を含」むのに対して、刊2発明は「区画」について言及がない点。

(β)アニオン性界面活性剤が、本1発明は「脂肪酸」を含むのに対して、刊2発明は「脂肪酸」を含むものではない点。

(4)判断
ア.相違点(α)について
上記(α)の相違点について検討するに、刊行物1の段落0329?0330(摘記1g)には「実施例33」として「2区画」及び「3区画」のものが記載されており、刊行物5の段落0063(摘記5c)には「化学的に不適合性の成分を分離するという理由で、又は成分の一部分を初期又は後期に洗濯水に放出させることが望ましい場合に、複数区画の単位用量形態が望ましい。」との記載がなされているところ、液体単位用量布地処理製品の技術分野において、複数の区画を設けることは、当業者にとって適宜の設計事項にすぎないので、刊2発明の「液体単位用量布地処理製品」の区画を2以上のものとすることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。

イ.相違点(β)について
上記(β)の相違点について検討するに、刊行物2の第19頁(摘記2b)には「本発明の液体組成物はまた、アニオン性界面活性剤成分として脂肪酸を含むことができる。」との記載がなされているので、刊2発明の「アニオン性界面活性剤」の成分として「脂肪酸」を含むようにすることは、刊行物2に明示的な記載があるという点において強い「動機付け」があるものであり、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。

ウ.本1発明の効果について
本願明細書の段落0104及び0114には「例Aは本発明の例であり、例B、C、及びDは本発明の範囲にない例である。…本発明の範囲外の構成物により洗った場合に比較して、本発明の構成物で洗った方が布地がより柔らかくなることがわかる。柔らかい感触の差は、統計的に示された。」との記載があるが、そもそも当該「例A」のものは「水溶性単位用量物品」が「少なくとも2つの区画を含」むものではないという点において、本1発明の範囲外であるから、例A?Dの実験データによっては、本1発明に格別の効果が得られていると認めるに至らない。
加えて、例A?Dのものは、いずれも「脂肪酸」を「10.8重量%」の量で配合してなるものであるから、本願明細書の記載によっては、本1発明において「アニオン性界面活性剤」として「脂肪酸」を含むことにより格別の効果が得られるようになったと認めるに至らない。
そして、刊2発明は「カチオン性セルロースポリマー(LR400)0.5%」を用いるものであるから、刊2発明の「液体単位用量布地処理製品」が「柔軟性」の効果を有することは当業者にとって自明であり、刊2発明は「少なくとも1種のアニオン性界面活性剤(LAS酸型)53.8%」と「非イオン性界面活性剤(ネオドール25-7E)2.8%」を用いるものであるから、刊2発明の「液体単位用量布地処理製品」が「洗浄性」の効果を有することも当業者にとって自明であって、本1発明に当業者にとって格別予想外の効果があるとはいえない。
さらに、本願明細書の段落0004には「洗剤組成物中のカチオン性ポリマー、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤の比率を注意深く制御することにより、上述の技術的課題を解決できる」との記載がなされているところ、刊2発明は、本1発明の「カチオン性ポリマー」と「アニオン性界面活性剤」と「非イオン性界面活性剤」の重量比を満たす組成にあるので、本1発明に格別の効果があるとはいえない。
よしんば、本願明細書の例Aの具体例が、同段落0004に記載の「比率を注意深く制御する」こと、及び令和2年4月30日付けの意見書の第4頁の「配合する成分の量については厳格に制限する必要があることから、この相互に矛盾する問題を解決する」との記載にある「厳格」な制限をすることによって、その「柔軟性」と「洗浄性」の二律背反的な性能において優れた効果を発揮し得るに至っている蓋然性が高いと善解しても、本願明細書の例Aの具体的な組成以外のものを含む本1発明の広範な範囲のもの全てが、当業者にとって格別予想外の効果を奏し得る範囲にあると認めるに足る技術的な根拠は全く見当たらない。
したがって、本1発明の広範な範囲のもの全てに、当業者にとって格別の効果があるとは認められない。

エ.審判請求人の主張について
令和2年4月30日付けの意見書の第4頁において、審判請求人は『本願発明は、カチオン性セルロースポリマーを含む洗濯洗剤組成物を使いながら、一定の洗浄効果を維持しつつ、洗濯時の布地を柔らかくする効果を有意に改善し得る水溶性単位用量物品物を提供することを解決すべき技術的課題とするものであります。…上記のような本願発明の技術的課題につきましては、ご引用の刊行物1?5のいずれにも認識はされておりません。したがいまして、まず、課題が認識されていないところからは、刊行物中のいかなる記載を組み合わせたとしても、本願発明を想到するに至ることは不可能であるものと思料いたします。』と主張する。
しかしながら、刊行物1の段落0002(摘記1b)の「柔軟剤等の有益剤は高価であり、…洗浄組成物…において高濃度で使用される場合、概して効果が弱い。…かかる有益剤が他の組成成分…と不適合であり得ることから、有益剤の保持力及び送達効率を改善することは困難である。」との記載にあるように、柔軟剤等の有益剤と、洗浄組成物の界面活性剤等の他の成分との適合性の関係から、柔軟剤による「柔軟性」と洗浄剤による「洗浄性」との関係に二律背反的なトレードオフの関係があることは、当業者にとって周知の技術常識になっていたことが明らかなので、審判請求人の上記主張は採用できない。

オ.進歩性のまとめ
以上総括するに、本1発明は、刊行物1?3及び5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第49条第4号の『その特許出願が第36条第6項に規定する要件を満たしていないとき』に該当し、また、同2号の『その特許出願に係る発明が第29条の規定により特許をすることができないものであるとき』に該当するから、その余の理由及び請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-08-25 
結審通知日 2020-08-28 
審決日 2020-09-08 
出願番号 特願2017-504358(P2017-504358)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C11D)
P 1 8・ 121- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安孫子 由美  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 木村 敏康
古妻 泰一
発明の名称 洗濯洗剤組成物  
代理人 永井 浩之  
代理人 小島 一真  
代理人 朝倉 悟  
代理人 出口 智也  
代理人 中村 行孝  
代理人 末盛 崇明  

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