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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1370709
審判番号 不服2019-865  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-23 
確定日 2021-01-27 
事件の表示 特願2016-571315「防食効果を有するコーティング組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月10日国際公開、WO2015/185266、平成29年 8月10日国内公表、特表2017-522405〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年4月23日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年6月5日(EP)欧州特許庁〕を国際出願日とする特許出願であって、
平成29年12月18日付けの拒絶理由通知に対し、平成30年4月9日付けで意見書の提出がなされ、
平成30年9月18日付けの拒絶査定に対し、平成31年1月23日付けで審判請求と同時に手続補正がなされ、
令和元年11月8日付けの審判合議体による拒絶理由通知に対し、令和2年5月12日付けで意見書の提出とともに手続補正(以下「第2補正」ともいう。)がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?14に係る発明は、第2補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものであって、本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
多層塗装系による金属基板の少なくとも部分的なコーティングの方法であって、
(1)前記基板の少なくとも部分的な下塗りの塗布のために、前記金属基板を、コーティング組成物と接触させる工程、及び
(2)工程(1)によって塗布された前記下塗りに、上塗りを施与する工程
を含み、
前記コーティング組成物が、
少なくとも1種のポリマー樹脂(A1)及び少なくとも1種の架橋剤(A2)を含む少なくとも1種のバインダー(A)、
少なくとも1種の防食顔料(B)、及び
少なくとも1種の有機溶媒(C)、並びに任意に少なくとも1種のさらなる成分(D)を含み、
前記防食顔料(B)が、亜鉛及びマグネシウム並びに任意に少なくとも1種のさらなる金属及び/又は半金属の合金であり、いずれの場合にも前記防食顔料(B)の総質量に基づいて、亜鉛を少なくとも70質量%、最大80質量%の量で、マグネシウムを少なくとも20質量%、最大30質量%の量で、並びに前記任意に存在する少なくとも1種のさらなる金属及び/又は半金属を最大で10質量%の量で含み、前記防食顔料(B)に存在する亜鉛、マグネシウム並びに前記任意に存在する少なくとも1種のさらなる金属及び/又は半金属の質量%における量が、合計で100質量%になり、
前記コーティング組成物が、5.0%?25.0%の範囲の顔料体積濃度(PVC)を有し、
前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の総質量に基づいて、5.0?25.0質量%の範囲の量で前記防食顔料(B)を含む方法。」

第3 令和元年11月8日付けの拒絶理由通知の概要
令和元年11月8日付けの拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」という。)には、理由1及び2として、次の理由が示されている。

理由1:
本願の請求項1?12に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由2:
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

そして、その「記」には、次の1.(4)の記載不備と、2.(1)の引用刊行物が指摘されている。

1.(4)顔料体積濃度(PVC)の範囲について
本願請求項1の「コーティング組成物が、5.0%?25.0%の範囲の顔料体積濃度(PVC)を有し」との記載、及び同請求項2の「5.0%?20.0%の範囲の顔料体積濃度(PVC)」との記載にある広範なPVCの濃度範囲について、本願明細書の段落0143の表4には、コーティング組成物Z1?Z6として、PVC濃度が、最大13.10%で、最小9.92%であるものが記載され、同段落0154の表5bには、PVC濃度が21.31%のコーティング組成物V4(本発明ではない)が「接着性」の評価で「層間剥離が観察される」等の試験結果が示されているにすぎないので、本願請求項1及び2の「顔料体積濃度(PVC)」の広範な濃度範囲について、本願明細書の「試験結果」及び「作用機序」の説明によっては、本願出願時の「技術常識」を考慮しても「9.92%?13.10%の範囲の顔料体積濃度(PVC)」以外の全範囲にまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。

2.(1)引用刊行物
刊行物1:国際公開第2007/046301号
刊行物2:国際公開第2014/029781号(原査定の文献1に同じ)
刊行物3:特開2008-223137号公報
刊行物4:特開2010-51897号公報
刊行物5:特開平6-248473号公報

第4 当審の判断
1.理由1(進歩性)について
(1)上記『第3 2.(1)』に示した刊行物1?5の記載事項
上記刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1、9、14、16及び22?23
「[1]
(A)多官能エポキシ樹脂と、
(B)変性脂肪族ポリアミンと、
(C)防錆顔料と、
(D)シランカップリング剤と、
(E)水分吸着剤と、
を含んでなる防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物。…
[9]防錆顔料(C)が、亜鉛粉末、亜鉛合金粉末、…からなる群より選択された1種、または、2種以上である請求項1?8のいずれかに記載の防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物。…
[14]さらに、エポキシ樹脂を溶解可能な有機溶剤(G)を含有する請求項1?13のいずれかに記載の防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物。…
[16]塗料中に、
多官能エポキシ樹脂(A)を5?50重量%、
変性脂肪族ポリアミン(B)を5?40重量%、
防錆顔料(C)を15?70重量%、
シランカップリング剤(D)を0.1?3重量、
水分吸着剤(E)を0.1?3重量%の量(但し、各成分(A)?(E)の含量は、それぞれ固形分換算値であり、塗料中に含まれる全固形分の合計を100重量%とする。以下同様。)で含有する請求項1?15のいずれかに記載の防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物。…
[22]LNG船舶タンク内面壁に、防食塗膜層と、該防食塗膜層と防熱層とを結合するマスティック(レジンロープ)と、防熱層とがこの順序(タンク内壁面/防食塗膜層/マスティック/防熱層)で積層形成されている積層構造体であって、上記防食塗膜層が請求項1?17のいずれかに記載の防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物から形成されている積層構造体。…
[23]基材の表面を、請求項1?17のいずれかに記載の防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物から形成された防食塗膜層で被覆することを特徴とする、鋼材の防食方法。」

摘記1b:段落0054?0055
「[0054]<(C)防錆顔料>
上記防錆顔料(C)としては、何れも、その平均粒径が20μm以下のものが好ましく、より好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm程度である。上記防錆顔料の平均粒径が20μmを超えると、得られる塗料組成物中へのこれら成分の分散性が悪くなり塗装ムラが発生し、塗膜の緻密性が劣り、防錆性が劣る傾向がある。亜鉛粉末以外の防錆顔料である亜鉛合金としては、従来より公知の亜鉛-アルミニウム、亜鉛-マグネシウム等の合金が挙げられる。…
[0055]これらの防錆顔料(C)は、上記塗料中の固形分合計100重量%に対して、通常、15?70重量%、好ましくは20?60重量%、特に好ましくは20?40重量%の量で含まれていることが防食性の点で望ましい。」

摘記1c:段落0095
「[0095]本発明に係る防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物を用いると、上記の認定機関の規定する高接着強度を満足することができる。よって、該塗料組成物からなる塗膜を、被塗物である船体とマスティック(レジンロープ)との間に形成しこれらを接着すれば、船体とマスティックとを強固に結合することができる。」

摘記1d:段落0134
「[0134][表1]



上記刊行物2には、和訳にして、次の記載がある。
摘記2a:請求項1及び11
「1.微小板形状の亜鉛-マグネシウム合金顔料であって、微小板形状の亜鉛-マグネシウム合金顔料が、それぞれの場合において元素のZn、Mg、Mn、Be、Y、Li、Sn、Al、Ti、Fe、およびCuの全モル量を基準にして、25.1?76.85mol%のZn、23?67.3mol%のMg、0.15?7.6mol%のMn、Be、Y、Li、Sn、およびそれらの混合物、ならびに0?5mol%のAl、Ti、Fe、Cu、およびそれらの混合物を含む(ここでそれらのモルパーセントを合計したものが100mol%である)、微小板形状の亜鉛-マグネシウム合金顔料。…
11.耐食性コーティングであって、耐食性コーティングが、先行する請求項のいずれかに記載の微小板形状の亜鉛-マグネシウム合金顔料を含む、耐食性コーティング。」

摘記2b:第28頁第4?9行
「亜鉛-マグネシウム合金顔料の割合は、耐食性コーティングにおけるそれぞれの必要プロファイルに合わせて調節することができる。典型的には、耐食性コーティング中での亜鉛-マグネシウム合金顔料の割合は、耐食性コーティングの全重量を基準にして、好ましくは10重量%?80重量%、さらに好ましくは15重量%?70重量%、よりさらに好ましくは20重量%?65重量%の範囲である。」

摘記2c:第41頁第20行?第42頁第2行
「実施例2:亜鉛-マグネシウム-マンガン合金顔料(50.64mol%の亜鉛、48.53mol%のマグネシウム、0.83mol%のマンガン)
292kgの亜鉛、104kgのマグネシウム、および4kgのマンガンを、アルゴンで不活性化させた融解るつぼの中で、1300℃を超える温度で融解させた。次いでその融解物を、ノズルを通してスプレーバンカーの中へアトマイズさせて、D10が6.9μm、D50が16.8μm、そしてD90が34.9μmの粒子サイズ分布を有する粉体を得た。」

摘記2d:第45頁の表




上記刊行物3には、次の記載がある。
摘記3a:請求項1及び8
「【請求項1】質量%で、Mg:0.01?30%を含有し、残部Znおよび不可避的不純物からなり、物理的破砕面および/または長さ0.01μm以上のき裂、もしくは深さ0.01μm以上のき裂を有し、平均粒径が0.05?200μmで、最大径と最小径のアスペクト比(最大径/最小径)の平均値が1?1.5であるZn合金粒子を、乾燥塗膜中に、質量%で、30%以上含有し、残部無機系バインダーからなる無機系プライマーを、下地層として塗布することを特徴とする、相対湿度30%以上?100%以下の環境下に置かれる船舶鋼材の防錆方法。…
【請求項8】前記無機系プライマーに代えて、有機系バインダーからなる有機系プライマーを用いることを特徴とする、請求項1?7の何れか1項に記載の船舶鋼材の防錆方法。」

摘記3b:段落0033
「【0033】船舶鋼材は、造船所の初期工程もしくは、製鉄所の最終工程にて、鋼板表面をブラスト処理し、その表層に無機系Znプライマーを塗布する。これら無機系Znプライマーが塗布された鋼板は目的に即した形状に溶断・溶接され船舶を建造していく。最終工程では、その上層に変性タールエポキシ塗装などの重防食塗装が施され、防食される。」

摘記3c:段落0068
「【0068】…【表1-6】



上記刊行物4には、次の記載がある。
摘記4a:請求項1
「【請求項1】鋳鉄管の外表面上に、(1)末端に複数のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、(2)末端に複数のアクリレート基をもつエポキシアクリレート樹脂、および(3)ポリアミンを含有するプライマー塗料組成物(a)を塗布して、乾燥膜厚が15?100μmであるプライマー塗膜を形成する工程(A)、および前記プライマー塗膜の上に、2液型ポリウレタン塗料組成物(b)を塗布して、上塗り塗膜を形成する工程(B)を含むことを特徴とする、鋳鉄管の外表面の防食方法。」

摘記4b:段落0015
「【0015】…2液型ポリウレタン塗料組成物(b)におけるPVC(顔料体積濃度)は、好ましくは15?25%である。PVCが低すぎる場合、得られる塗料に十分なチクソトロピー性を付与することができず、タレ性などが悪化する場合があったり、塗膜硬度および防食性が低くなる場合がある。一方、PVCが高すぎる場合、得られる塗料の粘度が高くなりすぎてスプレーに適した粘度に調整することが難しくなったり、得られた塗膜の耐衝撃性が低くなる場合があり好ましくない。」

上記刊行物5には、次の記載がある。
摘記5a:請求項1
「【請求項1】溶融アルミニウム鍍金鋼材表面を清浄した後、pH7.5?9を示す防錆顔料を、顔料容積濃度5?40%となるように含有せしめた塗料を、乾燥膜厚50?300μmになるように塗装し、次いで乾燥することを特徴とする溶融アルミニウム鍍金鋼材の防食方法。」

摘記5b:段落0007
「【0007】…本発明において使用する塗料は、以上説明したような成分から構成されるが、結合剤は、塗料中10?60重量%、有機溶剤は約25?50重量%になるように配合するのが適当である。また防錆顔料は、顔料容積濃度(PVC)で5?40%、好ましくは10?35%になるように配合するのが適当である。なお、防錆顔料の配合量が、前記範囲より少ないとピッチングコロージョンの発生防止効果が少なく、一方、前記範囲より多いと塗膜の各種物理的強度が低下するのでいずれも好ましくない。」

(2)刊行物1に記載された発明
摘記1aの「(A)多官能エポキシ樹脂と、(B)変性脂肪族ポリアミンと、(C)防錆顔料と、(D)シランカップリング剤と、(E)水分吸着剤と、を含んでなる防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物。…防錆顔料(C)が…亜鉛合金粉末、…さらに、エポキシ樹脂を溶解可能な有機溶剤(G)を含有する…防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物。…LNG船舶タンク内面壁に、防食塗膜層と、該防食塗膜層と防熱層とを結合するマスティック(レジンロープ)と、防熱層とがこの順序(タンク内壁面/防食塗膜層/マスティック/防熱層)で積層形成され…上記防食塗膜層が請求項1?17のいずれかに記載の防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物から形成され…請求項1?17のいずれかに記載の防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物から形成された防食塗膜層で被覆する…鋼材の防食方法。」との記載、
摘記1cの「本発明に係る防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物を用いると…船体とマスティック(レジンロープ)…とを強固に結合することができる。」との記載、及び
摘記1dの「表1」の実施例6?8及び比較例2の記載からみて、刊行物1には、
『多官能エポキシ樹脂(エピコート#545)17重量部と、変性脂肪族ポリアミン(ラッカマイドTD961)20重量部と、防錆顔料(亜鉛末F2000など)20重量部(乾燥塗膜中の固形分として39.0重量%)と、エポキシ樹脂を溶解可能な有機溶剤(キシレン、メチルエチルケトン、及びイソプロピルアルコール)を含有する防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物から形成された防食塗膜層で被覆する鋼材の防食方法であって、タンク内壁面/防食塗膜層/マスティック/防熱層の順序で積層形成する、船体とマスティック(レジンロープ)とを強固に結合することができる方法。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
本1発明と刊1発明とを対比する。
刊1発明の「防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物から形成された防食塗膜層で被覆する鋼材の防食方法であって、タンク内壁面/防食塗膜層/マスティック/防熱層の順序で積層形成する、船体とマスティック(レジンロープ)とを強固に結合することができる方法」は、
その「タンク内壁面/防食塗膜層/マスティック/防熱層の順序で積層形成する」が、本1発明の「多層塗装系による」に該当し、
その「鋼材」及び「タンク内壁面」が、本1発明の「金属基板」に該当し、
その「塗料組成物…で被覆する…方法」が、本1発明の「コーティングの方法」に該当し、
その「防食塗膜層」と「マスティック」の各々が、本1発明の「下塗り」と「上塗り」の各々に該当し、
その「タンク内壁面/防食塗膜層」の順序で積層形成する工程が、本1発明の「(1)前記基板の少なくとも部分的な下塗りの塗布のために、前記金属基板を、コーティング組成物と接触させる工程」に該当し、
その「防食塗膜層/マスティック」の順序で積層する工程が、本1発明の「(2)工程(1)によって塗布された前記下塗りに、上塗りを施与する工程」に該当するので、
本1発明の「多層塗装系による金属基板の少なくとも部分的なコーティングの方法であって、(1)前記基板の少なくとも部分的な下塗りの塗布のために、前記金属基板を、コーティング組成物と接触させる工程、及び(2)工程(1)によって塗布された前記下塗りに、上塗りを施与する工程を含み、」に相当する。

刊1発明の「多官能エポキシ樹脂(エピコート#545)17重量部と、変性脂肪族ポリアミン(ラッカマイドTD961)20重量部」は、本1発明の「少なくとも1種のポリマー樹脂(A1)及び少なくとも1種の架橋剤(A2)を含む少なくとも1種のバインダー(A)」に相当し、
刊1発明の「防錆顔料(亜鉛末F2000など)20重量部(乾燥塗膜中の固形分として39.0重量%)」は、本1発明の「少なくとも1種の防食顔料(B)」及び「前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の総質量に基づいて、5.0?25.0質量%の範囲の量で前記防食顔料(B)を含む」に相当し、
刊1発明の「エポキシ樹脂を溶解可能な有機溶剤(キシレン、メチルエチルケトン、及びイソプロピルアルコール)」は、本1発明の「少なくとも1種の有機溶媒(C)」に相当し、
本1発明の「任意に少なくとも1種のさらなる成分(D)」は、任意事項であるから、本1発明と刊1発明との対比において相違点を構成しない。

してみると、本1発明と刊1発明は、両者とも『多層塗装系による金属基板の少なくとも部分的なコーティングの方法であって、
(1)前記基板の少なくとも部分的な下塗りの塗布のために、前記金属基板を、コーティング組成物と接触させる工程、及び
(2)工程(1)によって塗布された前記下塗りに、上塗りを施与する工程を含み、
前記コーティング組成物が、
少なくとも1種のポリマー樹脂(A1)及び少なくとも1種の架橋剤(A2)を含む少なくとも1種のバインダー(A)、
少なくとも1種の防食顔料(B)、及び
少なくとも1種の有機溶媒(C)、並びに任意に少なくとも1種のさらなる成分(D)を含み、
前記コーティング組成物が、前記コーティング組成物の総質量に基づいて、5.0?25.0質量%の範囲の量で前記防食顔料(B)を含む方法。 』という点において一致し、次の(α)及び(β)の点において相違する。

(α)防食顔料(B)が、本1発明は「亜鉛及びマグネシウム並びに任意に少なくとも1種のさらなる金属及び/又は半金属の合金であり、いずれの場合にも前記防食顔料(B)の総質量に基づいて、亜鉛を少なくとも70質量%、最大80質量%の量で、マグネシウムを少なくとも20質量%、最大30質量%の量で、並びに前記任意に存在する少なくとも1種のさらなる金属及び/又は半金属を最大で10質量%の量で含み、前記防食顔料(B)に存在する亜鉛、マグネシウム並びに前記任意に存在する少なくとも1種のさらなる金属及び/又は半金属の質量%における量が、合計で100質量%にな」るというものであるのに対して、刊1発明は「亜鉛及びマグネシウムの合金」ではない点。

(β)コーティング組成物の「顔料体積濃度(PVC)」が、本1発明においては「5.0%?25.0%の範囲」に特定されているのに対して、刊1発明はPVCの値が不明な点。

(4)判断
ア.相違点(α)について
刊行物1の段落0054(摘記1b)の「亜鉛粉末以外の防錆顔料である亜鉛合金としては、従来より公知の…亜鉛-マグネシウム等の合金が挙げられる。」との記載にあるように、刊行物1に記載された発明は「防錆顔料」の種類として「亜鉛-マグネシウム」のような「亜鉛合金」を用いることができるとしているものである。
そして、刊行物2の請求項11(摘記2a)の「微小板形状の亜鉛-マグネシウム合金顔料を含む、耐食性コーティング」との記載、及び同第41頁(摘記2c)の「実施例2:亜鉛-マグネシウム-マンガン合金顔料…292kgの亜鉛、104kgのマグネシウム、および4kgのマンガン」との記載にあるように、刊行物2には、亜鉛292kg(73重量%)と、マグネシウム104kg(26重量%)と、マンガン4kg(1重量%)とからなる「耐食性コーティング」用の「微小板形状の亜鉛-マグネシウム合金顔料」についての発明が記載されており、
刊行物3の請求項8の「有機系バインダーからなる有機系プライマーを用いる…船舶鋼材の防錆方法」との記載、及び同段落0068(摘記3c)の表1-6の「本発明例104」の記載にあるように、刊行物3には『Mg濃度が20.2質量%のZn合金粒子』を船舶鋼材の防錆のために用いた有機系プライマーが記載されているところ、
本1発明の「亜鉛及びマグネシウム並びに任意に少なくとも1種のさらなる金属及び/又は半金属の合金であり、いずれの場合にも前記防食顔料(B)の総質量に基づいて、亜鉛を少なくとも70質量%、最大80質量%の量で、マグネシウムを少なくとも20質量%、最大30質量%の量で、並びに前記任意に存在する少なくとも1種のさらなる金属及び/又は半金属を最大で10質量%の量で含み、前記防食顔料(B)に存在する亜鉛、マグネシウム並びに前記任意に存在する少なくとも1種のさらなる金属及び/又は半金属の質量%における量が、合計で100質量%にな」るという「亜鉛及びマグネシウムの合金」の金属組成は、本願優先日前の技術水準における周知慣用の組成比を示したにすぎないものと認められる。
してみると、摘記1bの「亜鉛-マグネシウム等の合金」との記載を動機付けとして、刊1発明の「防錆顔料(亜鉛末F2000など)」の種類を、刊行物2?3に記載された周知慣用の組成比の「亜鉛-マグネシウム合金顔料」にすることは、当業者が容易に想到し得るものと認められる。

イ.相違点(β)について
本願明細書の段落0145には「PVCの計算に関連する個々の成分…これらの各成分について、1.0g/cm^(3)の密度に基づいている。」との記載がなされ、
同段落0028には「本発明のコーティング組成物は、5.0%?25.0%の範囲の顔料体積濃度(PVC)を有する。…前記顔料体積濃度(PVC)は、いずれの場合にも100の係数を乗じた、前記コーティング組成物中に存在する前記顔料及び充填剤の体積の、前記コーティング組成物中の不揮発性成分の総体積に対する比、すなわち、さらに具体的には前記コーティング組成物中に存在する前記顔料及び充填剤の体積の、前記コーティング組成物中に存在する前記顔料及び充填剤、並びにバインダーの不揮発性成分の総体積に対する比を特定する。」との記載がなされ、
一般に、亜鉛末(Zn)の密度は7.13g/cm^(3)であり、弁柄(Fe_(2)O_(3))の密度は5.24g/cm^(3)であることが知られている。
そこで、相違点(β)の「刊1発明はPVCの値が不明な点」という点について、刊行物1に記載された具体例のPVCを実際に計算してみると、刊行物1の実施例1及び5?8並びに比較例2で用いられている防錆顔料(亜鉛末F2000など)の密度を「7.13g/cm^(3)」とし、着色顔料(弁柄530R)の密度を「5.24g/cm^(3)」とし、それ以外の成分の密度を「1.0g/cm^(3)」として、
刊1発明の基礎となる刊行物1の実施例6?8の具体例は、防錆顔料20重量部(乾燥塗膜中の固形分として39.0重量%)の他に、着色顔料(弁柄530R)を2.5重量部(乾燥塗膜中の固形分として4.9重量%)と、体質顔料(シリカ)を0重量部の量で用いるものであるから、乾燥塗膜100gあたりで、防錆顔料は39.0÷7.13=5.47cm^(3)、着色顔料は4.9÷5.24=0.94cm^(3)、その他の成分は100-(39.0+4.)=56.1cm^(3)の容積をそれぞれ占めることとなり、そのPVCは(5.47+0.94)/(5.47+0.94+56.1)×100=10.3%と計算され、
防錆顔料(亜鉛末F2000)の固形分が最も多い実施例である刊行物1の実施例1の具体例は、防錆顔料(固形分として52.1%)と、着色顔料(固形分として3.8重量%)と、体質顔料(固形分として0質量%)を含むものであることから、そのPVCは(7.31+0.73)/(7.31+0.73+44.1)=15.4%と計算され、
防錆顔料(亜鉛末F2000)の固形分が最も少ない実施例である刊行物1の実施例5の具体例は、防錆顔料(固形分として39.5%)と、着色顔料(固形分として3.8重量%)と、体質顔料(固形分として0質量%)を含むものであることから、そのPVCは(5.54+0.73)/(5.54+0.73+56.7)=10.0%と計算され、
刊1発明の基礎となる刊行物1の比較例2の具体例は、防錆顔料(固形分として39.0%)と、着色顔料(固形分として6.8重量%)と、体質顔料(固形分として0質量%)を含むものであることから、そのPVCは(5.47+1.30)/(5.47+1.30+54.2)=11.1%と計算されるので、
刊1発明の「顔料体積濃度(PVC)」の値は、本1発明の「5.0%?25.0%の範囲」にあるものと解される。
また、刊1発明は「船体とマスティック(レジンロープ)とを強固に結合することができる」ものであるから、刊1発明の「顔料体積濃度(PVC)」の値が、本1発明の「5.0%?25.0%の範囲」から逸脱した範囲にあるとは解せない。
してみると、相違点(β)に実質的な差異があるとはいえない。

そして、仮に相違点(β)に実質的な差異があるとしても、刊行物4の段落0015(摘記4b)の「塗料組成物(b)におけるPVC(顔料体積濃度)は、好ましくは15?25%である。…PVCが高すぎる場合、得られる塗料の粘度が高くなりすぎてスプレーに適した粘度に調整することが難しくなったり、得られた塗膜の耐衝撃性が低くなる場合があり好ましくない。」との記載、及び刊行物5の段落0007(摘記5b)の「防錆顔料は、顔料容積濃度(PVC)で5?40%、好ましくは10?35%になるように配合するのが適当である。…前記範囲より多いと塗膜の各種物理的強度が低下するのでいずれも好ましくない。」との記載からみて、本1発明の「5.0%?25.0%の範囲の顔料体積濃度(PVC)」という濃度範囲は、本願優先日前の技術水準における周知慣用の濃度範囲を示したにすぎないものと認められる。
してみると、刊1発明の「防錆顔料含有多官能性エポキシ樹脂系塗料組成物」の「顔料体積濃度(PVC)」の値を、刊行物4?5に記載される周知慣用の濃度範囲で好適化することは、当業者が容易に想到し得るものと認められる。

ウ.本1発明の効果について
本願明細書の段落0155には「25%超のPVCを有する比較のコーティング組成物V4」が「層間剥離又は不十分な接着性」があるのに対して「本発明のコーティング組成物」は「上塗りの十分な接着性」を観察できることが記載され、同段落0156には「V2(防食顔料(B)を含まない)、V3(5質量%未満の防食顔料(B)含有量)」という「比較のコーティング組成物」が「本発明のコーティング組成物と比較」した場合に「十分な腐食防止」が達成できないことが記載されている。
しかして、刊1発明は「防錆顔料(亜鉛末F2000など)20重量部」を含有し、なおかつ、金属基板(船体)と上塗り(レジンロープ)とを「強固に結合」することができる下塗り(防食塗膜層)を形成するものであるから、本1発明の「接着性」と「腐食防止」という効果が、当業者にとって格別予想外の効果であるとはいえない。
また、刊1発明は、クロメート処理の手順をせずに「強固に結合」する「防食塗膜層」を形成しているところ、本願明細書の比較実験データによっては、本1発明の「特定の組成の亜鉛及びマグネシウムの合金」を防食顔料として用いることにより、格別の効果が得られたと認めることはできない。

エ.審判請求人の主張について
令和2年5月12日付けの意見書の第7?8頁において、審判請求人は『刊行物1について、特に挙げれたF2000は亜鉛末であり、本発明の創作の出発点となった上記質量割合の亜鉛及びマグネシウムを含む防食顔料(B)とは異なります。相違点αとして認定されたとおりであると思料します。また、刊行物1の請求項9及び段落0019には、亜鉛合金の記載が含まれ、段落0054には亜鉛-マグネシウム合金の記載があります。しかしながら、この記載は極めて多種類の顔料の中の一例であり、実施例でも使用されておらず、上述の亜鉛末(F2000)が使用されているのみで、特に亜鉛-マグネシウム合金に着目するような記載はありません。さらに本願発明では「前記コーティング組成物の総質量に基づいて、5.0?25.0質量%の範囲の量で前記防食顔料(B)を含む」ことが必須であることに対し、刊行物1には「防錆顔料(C)を通常、15?70重量%、 好ましくは20?60重量%の量、特に好ましくは20?40重量%で」(段落0026)用いられることが記載されているのみであり、本願発明で接着性向上に必要とされた25質量%以下の配合(本願明細書段落0155)とは相反しています)。』との主張をしている。
しかしながら、刊行物1の段落0054(摘記1b)には「亜鉛-マグネシウム等の合金」が「亜鉛粉末以外の合金」として明示的に記載されており、同意見書の第2?4頁の(5-2)及び(5-4)の項における「特許文献2、3の従来技術等、出願時の技術常識に照らし、…従来技術における…亜鉛およびマグネシウムの含有量として一般的な範囲を記載しました。」との主張をも参酌するに、刊行物1の「亜鉛-マグネシウム等の合金」との記載に接した当業者であれば、その防錆顔料の金属組成が、刊行物2?3に記載される周知技術のとおりの組成を意味するものとして直ちに想起し得るものといえる。
また、刊行物1に記載の発明は、防錆顔料を「特に好ましくは20?40重量%」の範囲で用いるものであるから、第2補正後の本願請求項4の「コーティング組成物の総質量に基づいて、5.0?20.0質量%未満の範囲の量で前記防食顔料(B)を含む」との記載にある範囲に限定していない本1発明が、刊行物1に記載の発明と相反する構成にあると認められない。
このため、相違点αに関する審判請求人の主張は採用できない。

また、同意見書の第8頁において、審判請求人は『本願発明で規定する顔料体積濃度(PVC)は、「100の係数を乗じた、前記コーティング組成物中に存在する前記顔料及び充填剤の体積の、前記コーティング組成物中の不揮発性成分の総体積に対する比」(段落0028)であり、乾燥塗膜中の各重量として、防錆顔料が39.0重量%、体質顔料4.9重量%とされていることを勘案しても「コーティング組成物が、5.0%?25.0%の範囲の顔料体積濃度(PVC)を有し」という本願発明の特徴を有さないことになります。』との主張をしている。
しかしながら、亜鉛末を防錆顔料として用いた刊行物1の実施例1及び5並びに比較例2の具体例における「顔料体積濃度(PVC)」の計算値は、上記イ.に示したように、それぞれ、15.4%、10.0%、11.1%となるので、本1発明の「5.0%?25.0%の範囲」から逸脱した範囲にあるものではない。
このため、相違点βに関する審判請求人の主張は採用できない。

また、同意見書の主張を精査しても、本1発明の範囲に含まれるもの全てに、格別顕著な効果があると認めるに至らない。

オ.まとめ
以上総括するに、本1発明は、刊行物1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.理由2(サポート要件)について
(1)一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。…当然のことながら,その数式の示す範囲が単なる憶測ではなく,実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。

(2)ここで、本願明細書の段落0008を含む本願明細書の発明の詳細な説明の全体的な記載からみて、本願請求項1?12に係る発明の解決しようとする課題は『クロメート処理の手順をせずに同等の、さらに具体的には改善した防食効果を得ることが可能で、さらに、他の上部コーティングによりコーティングされた基板の効果的な接着を達成することが可能であるコーティング方法の提供』にあるものと認められる。

(3)そして、本願請求項1の「コーティング組成物が、5.0%?25.0%の範囲の顔料体積濃度(PVC)を有し」との記載にある広範なPVCの濃度範囲について、本願明細書の段落0143の表4には、コーティング組成物Z1?Z6として、PVC濃度が、最大13.10%(Z2)で、最小9.31%(Z4)であるものが記載され、同段落0154の表5bには、PVC濃度が21.31%のコーティング組成物V4(本発明ではない)が「接着性」の評価で「層間剥離が観察される」等の試験結果が示されているので、本願請求項1の「顔料体積濃度(PVC)」の広範な濃度範囲について、本願明細書の「試験結果」及び「作用機序」の説明によっては、本願出願時の「技術常識」を考慮しても「9.31%?13.10%の範囲の顔料体積濃度(PVC)」以外の全範囲にまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(4)この点に関して、令和2年5月12日付けの意見書の第3頁において、審判請求人は『比較例V4のコーティング組成物は、その総質量に対して35.0質量%の防食顔料(B)を含み、「5.0?25.0質量%の範囲の量で前記防食顔料(B)」の範囲を超えるため「比較例」とされていることはご理解のとおりです。同比較例V4顔料体積濃度(PVC)は21.31%とし、敢えて、PVCのみをみれば本願請求項1の範囲となるような実験を取り上げました。なお、この比較例V4は、本願発明が先行技術(特許文献3)として挙げるWO2014/029781A2の45頁の表に使用実施例1として記載したベースコート材料の成分に近いものとされています。同表に記載のベースコート材料には顔料ペースト75g(固形分91%)が含まれているため、68.3g(顔料固形分質量)/211.6g(ベースコート材料総質量)=32.3%となり、特許文献3の使用実施例として取り上げたものに近い防食顔料含有率のコーティング組成物が、本願明細書では比較例として取り上げてられていることになります。すなわち、比較例V4は、従来技術により腐食防止効果が優れていると認識されていた塗膜において、接着力が十分ではなかったことを示しています。更には、単にPVCのみを制御しても、防食顔料(B)の含有量も同時に制御しなければ、優れた接着力は得られないことも示されています。』との主張をしている。
しかしながら、当該「比較例V4のコーティング組成物」に含まれる「35.0質量%の防食顔料(B)」のうち「10.0?30.0質量%」に相当する量の防食顔料(B)を、その「顔料体積濃度(PVC)」を「21.31%」のままに維持できる量の「二酸化チタン」などの各種の顔料に置き換えた場合のものは、本1発明の範囲に含まれるものとなるところ、このような場合のものは、防食顔料の絶対量が少なくなるという点において「クロメート処理の手順をせずに同等の、さらに具体的には改善した防食効果を得ること」という課題の達成に利点を与えないことが明らかであり、その一方で「顔料体積濃度(PVC)」が「21.31%」という高い数値範囲のままなので、本願明細書の段落0154の表5bの試験結果で確認された「コーティングされた基板からの上塗りの層間剥離が観察される」という問題点を解決できるようになるとは認識できない。
このため、上記審判請求人の主張ないし立証を考慮しても、本願請求項1の記載が明細書のサポート要件を満たす範囲にあると認めるに至らない。

(5)したがって、本願請求項1に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

第5 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条の規定により特許をすることができないものであるから、同法第49条第2号に該当する。
また、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、同法第49条第4号に該当する。
したがって、その余の理由及び請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-08-18 
結審通知日 2020-08-25 
審決日 2020-09-08 
出願番号 特願2016-571315(P2016-571315)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09D)
P 1 8・ 121- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 磯貝 香苗  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 木村 敏康
蔵野 雅昭
発明の名称 防食効果を有するコーティング組成物  
代理人 江藤 聡明  

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