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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A47L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A47L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A47L
管理番号 1370819
審判番号 不服2019-12567  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-24 
確定日 2021-02-04 
事件の表示 特願2016-197713「自走式電気掃除機」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月12日出願公開、特開2018- 57615〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年10月 6日に出願された特願2016-197713号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

平成30年11月 6日付け 拒絶理由通知
平成31年 1月11日 意見書、手続補正書
令和 元年 6月18日付け 拒絶査定
令和 元年 9月24日 審判請求書、手続補正書
平成 2年 7月29日付け 拒絶理由通知
平成 2年10月 9日 意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)


第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「左右に配置されたサイドブラシに動力を伝達する左右に配置された直流モータと、壁面を検知する左右に配置された測距センサと、下ケースとを備える本体と、
を有する自走式電気掃除機であって、
前記サイドブラシは、下ケースの円弧の延長線より外側に配置された曲率半径の小さな部分に固定され、
前記直流モータは、当該自走式電気掃除機が壁際を走行する壁際清掃モードの実行中に右側の測距センサが壁を検知している際は前記サイドブラシの回転速度を高くする又は前記直流モータのデューティ比を大きくする制御を実行し、左側の測距センサが壁を検知している際は前記左側のサイドブラシの回転速度を高くする又は前記左側の直流モータのデューティ比を大きくすることを特徴とする自走式電気掃除機。」


第3 拒絶の理由
令和2年7月29日付けの当審が通知した拒絶理由のうちの理由4は、次の理由を含むものである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2014-108356号公報
引用文献2:特開2016-153058号公報


第4 引用文献の記載及び引用発明等
1 引用文献1の記載
(1)引用文献1には、以下の事項が記載されている。
「【0006】
他の側面は、障害物を追従する際に、障害物との距離に基づいて、メイン掃除ツールのサイドブラシの回転速度及び補助掃除ツールのサイドブラシの回転速度を制御することができる掃除ロボット及びその制御方法を提供する。」
「【0026】
一側面によれば、障害物の検出時に、補助掃除ツールのサイドアームを突出させて、サイドブラシの位置を本体の内部から本体の外部に延長できるので、掃除範囲を広げることができ、これによって、障害物または壁と床面とが接する部分、壁面同士が接する部分など、メインブラシが掃除できない部分を効果的に掃除することができる。
【0027】 また、障害物追従走行の状態で回転する時に、補助掃除ツールに設けられたサイドアームを挿入させることによって、障害物との衝突及び挟まりを事前に防止することができる。また、障害物追従走行中に、障害物との距離に基づいて、メイン掃除ツールに設けられたメインブラシの回転速度、吸入力及び補助掃除ツールに設けられたサイドブラシの回転速度を制御することによって、壁や障害物での掃除効率を向上させることができる。」
「【0035】
掃除ロボット100は、使用者によって掃除命令が入力されたり、または予約時間になると、掃除領域を自律走行しながら床面の埃のような異物を吸入して掃除を行うロボットであって、掃除が完了したり、またはバッテリーの量が基準量より低くなると、充電台200とドッキングを行い、ドッキングが完了すると、充電台200から電力の供給を受けて充電を行うことができる。」
「【0047】
図1Bに示すように、障害物検出部132は、本体110の前面及び左右側面に装着された複数個の障害物センサL1,L2,L3,L4,L5,R1,R2,R3,R4,R5を含む。障害物センサは、障害物の有無だけでなく、掃除ロボットと障害物との間の距離を測定することができる距離センサであってもよい。」
「【0074】
補助掃除ツール180は、本体110に分離可能に装着されたボディー181と、ボディー181に回転可能に装着されたサイドアーム182と、サイドアーム182に回転可能に装着されたサイドブラシ183と、サイドアーム182を回転させるアームモータ184と、サイドブラシ183を回転させる第2ブラシモータ185とを含むことができる。」
「【0091】
図5Aは、補助掃除ツール180が本体110の収容部113から突出した突出状態の平面例示図であり、図5Bは、補助掃除ツール180が本体110の収容部113から突出した突出状態の底面例示図である。」
「【0104】
障害物検出部132は、例えば、接触センサ、近接センサ、超音波センサ、イメージセンサ、レーザースキャナー及び赤外線センサのうち少なくとも一つの種類のセンサを少なくとも一つ含むことができる。」
「【0125】
制御部191は、障害物検出部132の複数のセンサのうち少なくとも一つのセンサから障害物検出信号が入力されると、サイドアームの突出を制御することも可能である。制御部191は、掃除のために走行中に障害物が存在すると判断されると、障害物隣接掃除のために障害物を追従(following)するようになる。障害物が本体の左側または右側に位置する場合は障害物に沿って追従し、前面で検出される場合は、本体が障害物を追従する方向を決定するようになる。」
「【0127】
例えば、制御部191は、左側に障害物である壁があると判断されると、左側のサイドアームが突出するように左側のアームモータの正回転を制御し、右側に壁があると判断されると、右側のサイドアームが突出するように右側のアームモータの正回転を制御することができる。
【0128】
制御部191は、障害物を追従しながら走行する時に、障害物が位置する方向に設けられたサイドブラシ183の回転速度が増加するように、第2ブラシモータの回転速度を制御することができる。また、追加的にメインブラシ172の回転速度を増加させる制御を行うことができる。」
「【0189】
図11A及び図11Bは、掃除走行中に障害物が検出された場合に、補助掃除ツールを制御する制御方法を示すフローチャートである。」
「【0192】
掃除ロボットは、障害物が存在すると判断されると、障害物検出部132の複数のセンサのうち障害物検出信号を出力したセンサを確認して、障害物の位置を判断することができえる。
【0193】
掃除ロボットは、判断された障害物の位置が本体110を基準に右側であるか否かを判断(503)し、このとき、障害物が右側に位置すると判断されると、本体110を中心に右側に位置したサイドアーム182の状態が突出状態であるか否かを判断(504)する。
【0194】
掃除ロボットは、障害物が右側に位置する状態で右側のサイドアームの状態が突出状態であると判断されると、右側のサイドアームの突出状態を維持制御(505)し、一方、障害物が右側に位置する状態で右側のサイドアームの状態が挿入状態であると判断されると、右側のサイドアームが突出(506)するように、右側に位置したアームモータを第1方向に回転させる。このとき、右側のアームモータを予め設定された第1目標角度まで回転させることができる。
【0195】
そして、掃除ロボットは、右側のサイドアームを突出させると同時に、右側の第2ブラシモータ185の回転速度を増加させて、右側のサイドブラシ183の回転速度を増加(507)されるようにする。なお、掃除ロボットは、第1ブラシモータの回転速度を増加させて、メインブラシの回転速度を共に増加(508)させることも可能である。」
「【0198】
掃除ロボットは、障害物の位置判断過程で、障害物の位置が本体を基準に左側であると判断されると、本体を中心に左側に位置したサイドアームの状態が突出状態であるか否かを判断(509)する。
【0199】
掃除ロボットは、障害物が左側に位置する状態で左側のサイドアームの状態が突出状態であると判断されると、左側のサイドアームの突出状態を維持制御(510)し、一方、障害物が左側に位置する状態で左側のサイドアームの状態が挿入状態であると判断されると、左側のサイドアームが突出(511)するように、左側に位置したアームモータを第1方向に回転させる。このとき、左側のアームモータを予め設定された第1目標角度まで回転させることができる。
【0200】
そして、掃除ロボットは、左側のサイドアームを突出させると同時に、左側の第2ブラシモータ185の回転速度を増加させて、左側のサイドブラシ183の回転速度が増加(512)されるようにする。なお、掃除ロボットは、第1ブラシモータの回転速度を増加させて、メインブラシの回転速度を共に増加(508)させることも可能である。」

また、段落[0091]の記載、及び下記に示す図2、図5A、図5Bから、サイドアームの収容部は本体底面に設けられているといえる。



(2)上記(1)から、引用文献1には次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 障害物検出部132は障害物の有無や掃除ロボットと障害物との間の距離を測定する距離センサであってもよく(【0047】)、壁は障害物であり(【0127】)、障害物検出部132から障害物検出信号が制御部に入力されて、掃除のために走行中に障害物が存在すると判断されると、障害物隣接掃除のために障害物を追従するようになる(【0125】)ことから、距離センサが壁を検出すると、掃除ロボット100は壁を追従しながら走行する。

(3)引用発明
上記(1)(2)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「左側及び右側のサイドアーム182に装着されたサイドブラシ183を回転させる左側及び右側の第2ブラシモータ185と、障害物である壁を検出する本体110の左右側面に装着された障害物検出部132である距離センサと、本体110の底面に設けられた収容部113とを含む本体110と、
を有する自律走行する掃除ロボット100であって、
前記サイドブラシ183は、前記収容部113に挿入又は突出状態となる前記サイドアーム182に装着され、
前記第2ブラシモータ185は、前記自律走行する掃除ロボット100が前記障害物である壁を追従しながら走行する時に、複数の前記距離センサのうち障害物検出信号を出力した前記距離センサを確認して前記障害物である壁が右側に位置すると判断されると右側の前記サイドブラシ183の回転速度を増加させ、複数の前記距離センサのうち障害物検出信号を出力した前記距離センサを確認して前記障害物である壁が左側であると判断されると左側の前記サイドブラシ183の回転速度を増加させる、自律走行する掃除ロボット100。」


2 引用文献2の記載
(1)引用文献2には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。
「【0008】
そこで、本発明は、容易な機構かつ容易な制御により隅部を掃除できる自律走行型掃除機を提供する。」
「【0015】
自律走行型掃除機101は、自律的に部屋の中を走行しながら、塵埃を回収することで部屋の中を掃除する機器である。その主な構成は、図1に示す、本体1をなす上ケース2a、下ケース2b、バンパー3と、図2に示す、下ケース2bの底面に設けられた自律走行用の左右の駆動輪4a、4bと、塵埃を床面から回収する吸口5と、下ケース2bの左右前方に配したサイドブラシ6a、6bと、図示しない、本体内部に納められた制御装置7である。」
「【0024】
また、下ケース2bの底面には駆動輪4a、4bの前側にサイドブラシ6a、6bが回転可能に設けられている。これらサイドブラシ6a、6bは3束の刷毛で構成されており、それら3束の刷毛は放射状に略等間隔にブラシホルダー20a、20bに取り付けられている。ブラシホルダー20a、20bは下ケース2bの底面に回転可能に取り付けられ、その回転軸は減速機21a、21bを介してサイドブラシ用モーター22a、22bにつながっており、サイドブラシ用モーター22a、22bによって回転させられる。また、サイドブラシ6a、6bの刷毛は先端に行くほど下方になるように傾斜しており、先端は床面に接している。サイドブラシ6aとサイドブラシ6bは互いに逆の方向に回転しており、前側にある塵埃を吸口5に送り込むように、上から見たときに右側のサイドブラシ6aは左回りに、左側のサイドブラシ6bは右回りに回転している。」
「【0028】
また、駆動輪4a、4bにより自律的に本体1を移動させるが、本体1が部屋の壁や家具等の障害物に衝突することを防ぐために、本体1前面から側面にかけて複数の測距センサー23a?23gが設けられている。」
「【0043】
また、図8は部屋の壁際を掃除させるときの走行軌跡を示し、壁や障害物に沿って掃除する壁際走行パターンを示している。本体1の側面を壁もしくは障害物から15mm程度離れて隣接させた状態を維持しながら走行させる。」
「【0049】
そのため、隅部の掃除性能を向上させるためにはサイドブラシ6a、6bを隅部に近づけることが重要であり、特許文献1のように本体からサイドブラシ自体が離れるようにし、サイドブラシを移動させて隅部に近づけることが提案されている。しかし、サイドブラシを分離するために複雑な機構を設けたり、動かすために複雑な制御を施したりする必要がある。また、掃除機はごみや埃を集めるため、可動部や伸縮機構にゴミや埃が溜まると動作できなくなる可能性もあり、望ましくない。また、複雑にすれば、その分部品も増えるためコスト高になることも考えられる。そこで、上記のような複雑な機構および制御をより容易にすることにより、動作の信頼性や低コスト性を向上させながら、隅部の掃除性能を向上させるために、本体1の形状を円形ではなく、隅部に近づけた形状にして、サイドブラシ6a、6bを隅部に近づけるようにする。」
「【0051】
そこで、本実施例では、本体1の外周を形成する曲面のうち、主に移動させる方向となる前側の曲面の曲率半径を、後側の曲面の曲率半径よりも大きくしている。そして、この前側の曲面は、本体の中央正面から左右に45度付近まで広がっており、その幅は前記後側の曲面の幅よりも狭い形状となっている。このような形状にすることで本体1に略外接する矩形で囲んだときにできる隅部に対して、本体1の外周を近づけることができる。また、本体1の外周が壁方向に近づくことで、より確実に隅部までサイドブラシ6a、6bを届かせることができ、より隅部を掃除することができる。」

また、図2からは、サイドブラシは、本体の下ケースの円弧の延長線より左右前方外側に配置された曲率半径の小さな部分(図2の左上部及び右上部に看取される部分)に固定されていることが看取される。


(2)上記(1)から、引用文献2には、次の技術が記載されているものと認められる。
「自律走行型掃除機101において、壁際を掃除させるときの掃除性能を向上させるために、本体1の形状を円形ではなく、隅部に近づけた形状にして、サイドブラシ6a、6bは、本体1の下ケース2bの円弧の延長線より左右前方外側に配置された曲率半径の小さな部分に固定する技術。」


第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「左側及び右側のサイドアーム182に装着されたサイドブラシ183」は本願発明の「左右に配置されたサイドブラシ」に相当し、
同様に「サイドブラシ183を回転させる左側及び右側の」という事項は「サイドブラシに動力を伝達する左右に配置された」という事項に相当する。

(2)引用発明の「第2ブラシモータ185」と本願発明の「直流モータ」は、「モータ」である点において共通する。

(3)引用発明の「障害物である壁」は本願発明の「壁面」に相当し、以下同様に、
「検出する」という事項は「検知する」という事項に、
「本体110の左右側面に装着された障害物検出部132である距離センサ」は「左右に配置された測距センサ」に、
「本体110の底面に設けられた収容部113とを含む」という事項は「下ケースとを備える」という事項に、
「自律走行する掃除ロボット100」は「自走式電気掃除機」に、それぞれ相当する。

(4)引用発明の「前記サイドブラシ183は、前記収容部113に挿入又は突出状態となる前記サイドアーム182に装着され」という事項と、本願発明の「前記サイドブラシは、下ケースの円弧の延長線より外側に配置された曲率半径の小さな部分に固定され」という事項は、「前記サイドブラシは、下ケースの所定の位置に設けられ」ている点において共通する。

(5)引用発明の「前記自律走行する掃除ロボット100が前記障害物である壁を追従しながら走行する時」は、本願発明の「当該自走式電気掃除機が壁際を走行する壁際清掃モードの実行中」に相当する。

(6)本願発明において、壁際清掃モードの実行中に右側の測距センサが壁を検知している際に回転速度を高くするサイドブラシは、左右いずれとも特定されていないから、右側のサイドブラシの回転速度を高くすることを含んでおり、引用発明の「複数の前記距離センサのうち障害物検出信号を出力した前記距離センサを確認して前記障害物である壁が右側に位置すると判断されると右側の前記サイドブラシ183の回転速度を増加させ」るという事項は、本願発明の「右側の測距センサが壁を検知している際は前記サイドブラシの回転速度を高くする制御を実行」するという事項に相当する。

(7)引用発明の「複数の前記距離センサのうち障害物検出信号を出力した前記距離センサを確認して前記障害物である壁が左側であると判断されると左側の前記サイドブラシ183の回転速度を増加させる」という事項は、本願発明の「左側の測距センサが壁を検知している際は前記左側のサイドブラシの回転速度を高くする」という事項に相当する。


2 一致点及び相違点
以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「左右に配置されたサイドブラシに動力を伝達する左右に配置されたモータと、壁面を検知する左右に配置された測距センサと、下ケースとを備える本体と、
を有する自走式電気掃除機であって、
前記サイドブラシは、下ケースの所定の位置に設けられ、
前記モータは、当該自走式電気掃除機が壁際を走行する壁際清掃モードの実行中に右側の測距センサが壁を検知している際は前記サイドブラシの回転速度を高くする制御を実行し、左側の測距センサが壁を検知している際は前記左側のサイドブラシの回転速度を高くする自走式電気掃除機。」

<相違点1>
サイドブラシに動力を伝達するモータに関し、本願発明では「直流」モータであるのに対し、引用発明の第2ブラシモータ185は直流モータか否か不明な点。

<相違点2>
サイドブラシを設ける下ケースの所定の位置に関し、本願発明では「下ケースの円弧の延長線より外側に配置された曲率半径の小さな部分に固定され」ているのに対し、引用発明では、サイドブラシ183は、本体底面に設けられた収容部113に挿入又は突出状態となるサイドアーム182に装着され、サイドアーム182が収容部113から突出状態となることで、本体110の円弧の延長線より外側にサイドブラシ183が位置することになるものの、本願発明のような位置に固定されるものではない点。

<相違点3>
壁際清掃モードの実行中に行う制御に関し、本願発明では「サイドブラシの回転速度を高くする又は前記直流モータのデューティ比を大きくする制御を実行し」ているのに対し、引用発明ではサイドブラシ183の回転速度を高くする制御を実行しているものの、モータのデューティ比を大きくする制御であるか不明な点。


第6 判断
以下、相違点について検討する。
1 相違点1について
自律走行する掃除機内で用いる各種モータとして直流モータを採用することは例示するまでもない周知技術(以下、「周知技術1」という。)であるから、引用発明の第2ブラシモータ185を直流モータとすることは当業者の通常の創作能力の発揮と認められる。

2 相違点2について
壁と床面とが接する部分を効果的に掃除することを課題としている(【0026】)引用発明において、かかる課題の下で引用文献2に接した当業者であれば、引用発明のサイドブラシの取り付け構造として、引用文献2に記載された技術を採用して、相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。
この点について、さらに検討すると、引用発明は、壁と床面とが接する部分を掃除するために、サイドブラシ183を本体110の底面に設けられた収容部113から突出状態となるサイドアーム182に装着し、壁側のサイドアーム182を突出状態とすることで、サイドアーム182に装着されたサイドブラシ183により壁と床面とが接する部分を掃除するものである。
ここで、引用発明は、サイドブラシ183による掃除により、サイドブラシ183及びサイドアーム182が埃や塵に晒され、可動部であるサイドアーム182等に埃や塵が溜まり、故障の原因となることは、当業者であれば予測し得る事項であり、また、機械技術一般において、構造の簡素化は当然考慮すべき課題であるところ、引用発明において、サイドアームを可動させる必要があることから、その構造が複雑であり、これを簡素化しようとすることも当業者であれば当然考慮する事項である。
一方、引用文献2の【0049】には、本体からサイドブラシ自体が離れることにより隅部を掃除する機構に関して、機構や制御が複雑化すること、可動部や伸縮機構にゴミや埃が溜まり動作できなくなる可能性があること、及び、機構の複雑化により部品が増えるためコスト高になることが考えられ、複雑な機構および制御をより容易にし、動作の信頼性や低コスト性を向上させながら、隅部の掃除性能を向上させるために、本体の形状を円形ではなく、隅部に近づけた形状にして、サイドブラシを隅部に近づけるようにしたことが記載されている。
そして、引用発明において、サイドブラシ183により壁と床面とが接する部分を掃除できるようにしつつ、上記した故障の防止や簡素化を図るために、サイドブラシ183をサイドアーム182に装着することに換え、引用文献2に記載された技術を採用し、本体110の形状を円形ではなく、隅部に近づけた形状にし、本体110の円弧の延長線より左右前方外側に配置された曲率半径の小さな部分にサイドブラシ183を固定することで、相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

3 相違点3について
本願発明では「サイドブラシの回転速度を高くする」制御と「直流モータのデューティ比を大きくする」制御を択一的に実行するのに対し、引用発明はサイドブラシ183の回転速度を高くする制御を実行していることから、相違点3は実質的な相違点ではない。
なお、モータ制御のデューティー比を大きくして回転速度を高くすることは、例示するまでもない周知技術(以下、「周知技術2」という。)であるから、引用発明におけるサイドブラシ183の回転速度を増加させる制御として、周知技術2を採用することは当業者の通常の創作能力の発揮と認められる。

4 そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2に記載された技術、周知技術1の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術、周知技術1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。

5 請求人は、令和 2年10月 9日の意見書において、「『前記直流モータは、当該自走式電気掃除機が壁際を走行する壁際清掃モードの実行中に右側の測距センサが壁を検知している際は前記サイドブラシの回転速度を高くする又は前記直流モータのデューティ比を大きくする制御を実行し、左側の測距センサが壁を検知している際は前記左側のサイドブラシの回転速度を高くする又は前記左側の直流モータのデューティ比を大きくする』(以下、「構成A」という。)についてはいずれの引例においても記載も示唆もされておらず、周知技術ではなく、出願時の技術常識を鑑みても当業者によって容易に相当し得たものではありません。」と主張している。
しかし、構成Aのうち「自走式電気掃除機が壁際を走行する壁際清掃モードの実行中に右側の測距センサが壁を検知している際は前記サイドブラシの回転速度を高くする制御を実行し、左側の測距センサが壁を検知している際は前記左側のサイドブラシの回転速度を高くする」ことは、上記のように、引用発明が備える事項であるから、引用発明との実質的な相違点は、上記「第5 対比」で検討したとおり相違点1のみであり、相違点1についての検討は上述したとおりであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明、引用文献2に記載された技術、及び周知技術1に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-11-18 
結審通知日 2020-11-24 
審決日 2020-12-14 
出願番号 特願2016-197713(P2016-197713)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A47L)
P 1 8・ 55- WZ (A47L)
P 1 8・ 121- WZ (A47L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 邦喜  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 小川 恭司
長馬 望
発明の名称 自走式電気掃除機  
代理人 戸田 裕二  

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