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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C12C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12C |
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管理番号 | 1370884 |
異議申立番号 | 異議2020-700762 |
総通号数 | 255 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-03-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-10-07 |
確定日 | 2021-02-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6678028号発明「発酵麦芽飲料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6678028号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6678028号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年12月28日に出願され、令和2年3月18日にその特許権の設定登録がされ、同年4月8日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の全請求項に対し、同年10月7日付けで特許異議申立人 山内 博明より特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 特許第6678028号の請求項1?8に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 なお、以下、これらを「本件特許発明1」などといい、まとめて「本件特許発明」という場合もある。 「【請求項1】 麦芽比率が50?66質量%の発酵原料と水とを含む混合物を糖化した後、煮沸して発酵原料液を調製する仕込工程と、 前記仕込工程により得られた発酵原料液に酵母を接種し、発酵を行う発酵工程と、 を少なくとも有し、 前記発酵原料が、麦芽と、コーンスターチ、コーングリッツ及び液糖からなる群より選択される1種以上と、からなり、 プロリンの含有量が15?30mg/100mLであり、かつ苦味価が10?30BUである発酵麦芽飲料を製造することを特徴とする、発酵麦芽飲料の製造方法。 【請求項2】 リナロールの含有量が10質量ppb以下である発酵麦芽飲料を製造する、請求項1に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。 【請求項3】 発酵原料の麦芽比率が50?66質量%であり、プロリンの含有量が15?30mg/100mLであり、かつ苦味価が10?30BUであることを特徴とする、発酵麦芽飲料。 【請求項4】 苦味価が10?20BUである、請求項3に記載の発酵麦芽飲料。 【請求項5】 4VGの含有量が50?300質量ppbである、請求項3又は4に記載の発酵麦芽飲料。 【請求項6】 リンゴ酸の含有量が50?150質量ppmである、請求項3?5のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。 【請求項7】 リナロールの含有量が10質量ppb以下である、請求項3?6のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。 【請求項8】 インベルターゼ活性を有する、請求項3?7のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。」 第3 申立理由の概要 特許異議の申立ての理由の概要は、以下のとおりである。 1 申立ての理由 (1)理由1(公然実施発明に基づく新規性欠如、並びに同発明を主引用発明とする進歩性欠如) 本件特許発明3?8は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であって、特許法第29条第1項第2号に該当するから、本件特許発明3?8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。 本件特許発明3?8は、その出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明及びその出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第2?8号証に記載された発明に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 申立人は、甲1-1に示された写真の飲料が公然実施発明であるとし、該公然実施発明に基づいて新規性欠如の主張を、また該公然実施発明及び本件特許の出願日における技術常識に基づいて進歩性欠如の主張をしている。 (2)理由2(甲9の参考例1に記載された飲料の発明に基づく新規性欠如、並びに同発明を主引用発明とする進歩性欠如) 本件特許発明3?8は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第9号証の参考例1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。 本件特許発明3?8は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第9号証の参考例1及び甲第3、5、6、8号証に記載された発明に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3)理由3(甲9の実施例1に記載された飲料の発明を主引用発明とする進歩性欠如) 本件特許発明3?8は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第9号証の実施例1及び甲第3、5、6、10-1?10-6号証に記載された発明に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (4)理由4(甲5に記載された発明を主引用発明とする進歩性) 本件特許発明1、2は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第5号証及び甲第1-1、3、8号証に記載された発明に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (5)理由5(甲9の参考例1に記載された飲料の製法発明に基づく新規性欠如、並びに同発明を主引用発明とする進歩性欠如) 本件特許発明1、2は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第9号証の参考例1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。 本件特許発明1、2は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第9号証の参考例1、及び甲第3、5、8号証に記載された発明に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (6)理由6(甲9の実施例1に記載された飲料の製法発明を主引用発明とする進歩性欠如) 本件特許発明1、2は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の甲第9号証の実施例1、及び甲第3、5、9、10-1?10-6号証に記載された発明に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 証拠方法 甲第1-1号証:山内博明、報告書(ホップス<生>)、2020年9月30日(作成日) 甲第1-2号証:株式会社静岡新聞社、静岡新聞第19030号、1994年10月5日 甲第2号証:国際公開公報2017/038437号 甲第3号証:ビール酒造組合国際技術委員会(BCOJ)編、「ビールの基本技術」、2010年4月20日、第125?127頁 甲第4号証:特開2017-55709号公報 甲第5号証:宮地秀夫、「ビール醸造技術」、1999年12月28日、第29?71、215?293頁 甲第6号証:財団法人日本醸造協会、「醸造物の成分」、1999年12月10日、第226、236?237頁 甲第7-1号証:鈴木卓也、「ビール・ウイスキーの表示に関する公正競争規約について」、1981年2月15日、日本醸造協会雑誌、第76巻、第2号、第95?97頁 甲第7-2号証:「ビールの表示に関する公正競争規約及び施行規則」[online]、施行日2018年4月1日、インターネット<URL: https://www.jfftc.org/rule_kiyaku/pdf_kiyaku_hyouji/beer.pdf> 甲第7-3号証:一般社団法人全国公正取引協議会連合会、「表示に関する公正競争規約条文」[online]、検索日2020年9月30日、インターネット<URL: https://www.jfftc.org/rule_kiyaku/kiyaku_hyoji.html> 甲第8号証:特開2015-216904号公報 甲第9号証:特開2015-154746号公報 甲第10-1号証:特開2006-204172号公報 甲第10-2号証:特開2005-168441号公報 甲第10-3号証:特開2004-173533号公報 甲第10-4号証:谷川篤史、「ビール造りの研究とは?」、生物工学、2012年、第90巻、第242?245頁 甲第10-5号証:近藤平人、「発泡酒醸造におけるビール酵母の活躍」、バイオミディア、2005年、第3号、第151頁 甲第10-6号証:近藤平人、「ビール発酵と発泡酒発酵における酵母の応答と香味形成」、醸協、2005年、第100巻、第11号、第787?795頁 第4 甲号証に記載された事項 1 各号証の記載 甲1-1及び甲1-2には、以下の事項が記載されている。 (1)甲第1-1号証及び甲第1-2号証の記載 (甲1-1a)甲1-1、第1頁 「本報告書に掲載する写真について、以下のとおりご報告致します。 第1 撮影状況 1 撮影日 2020年6月25日 2 撮影対象 1996年に製造販売された、サントリー株式会社が製造した発泡酒「ホップス<生>」 第2 写真 写真A(2頁):ホップス<生>の正面写真 写真B(3頁):ホップス<生>の側面写真 写真C(4頁):ホップス<生>の缶底写真」 (甲1-1b)甲1-1、第2頁 「[写真A] ホップス<生>の正面写真 ![]() 」 (甲1-1c)甲1-1、第3頁 「[写真B] ホップス<生>の側面写真 ![]() 」 写真Bには、以下のことが示されている。 「発泡酒(麦芽使用率65%)」 「●原材料 麦芽、ホップ、スターチ」 「●アルコール分 5%」 「●サントリー株式会社」 「●製造所固有記号 製造年月旬 ロット記号は缶底に表示」 (甲1-1d)甲第1-1号証、第4頁 「[写真C] ホップス<生>の缶底写真 ![]() 」 写真Bには、以下のことが示されている。 「サントリー(株)F 9412上DA」 (甲1-2a)甲第1-2号証 「サントリーは新しいジャンルの発泡酒「ホップス<生>」を全国に先駆けて県内で二十日から新発売する。」 「「ホップス<生>」は発酵力の強い米国産の麦芽と欧州産のホップなどビールと同じ原料を使いビールと同じ方法で製造している。そう快な味わいと心地よいのどごしが特徴でアルコール度数は五% 酒税法上、麦芽の使用率が水を除く原料の三分の二以上のものをビールというが、「ホップス<生>」は麦芽使用率が六五%で酒税法上、ビールではなく発泡酒に区分される。」 (甲1-2b)甲第1-2号証 「 ![]() 20日から全国に先駆けて売り出すサントリーの新しいジャンルの発泡酒「ホップス<生>」」 (2)甲2号証の記載 (甲2a)段落0048 「[0048] プロリンは、麦芽等の麦に比較的多く含まれており、発酵工程を経ても、最終製品での残存量においてあまり変化しないアミノ酸である。このため、麦芽使用比率が高いビール様発泡性飲料では、麦芽使用比率が低いビール様発泡性飲料や麦芽を使用していないビール様発泡性飲料に比べて、プロリン含有量が明らかに多くなる。つまり、ビール様発泡性飲料中のプロリン含有量は、原料として用いた麦の使用量の目安、特に麦芽の使用量の目安になる。麦使用比率が30%以上と高いため、本発明に係る製造方法によって製造されたビール様発泡性飲料中のプロリン含有量も高くなる。本発明に係る製造方法によって製造されたビール様発泡性飲料としては、プロリン含有量が4mg/100mL以上であるものが好ましく、7mg/100mL以上であるものがより好ましく、10mg/100mL以上であるものがさらに好ましい。当該ビール様発泡性飲料のプロリン含有量の上限値には特に限定はないが、多くの場合、20mg/100mL以下である。」 (甲2b)段落0064?0071 「[0064] [実施例14] 原料として麦芽、水4000mL、グルコアミラーゼ(アマノエンザイム社、「グルクザイムNLP」)15g、及びプルラナーゼ(アマノエンザイム社、「アマノ3」)15gを混合した。グルコアミラーゼの添加量は、麦芽1gあたり63Uであり、プルラナーゼの添加量は、麦芽1gあたり45.0Uであった。得られた混合物を62℃で240分間、その後76℃で5分間加熱処理する仕込みダイアグラムで仕込を行い、マイシェ液を得た。得られたマイシェ液を濾過した後、ホップ1g、硫酸アンモニウム0.3w/v%、酵母エキス0.1w/v%、及びショ糖を添加して30分間煮沸し、麦汁を得た。得られた麦汁を発酵させて濾過し、ビール様発泡性飲料を得た。各飲料において、使用した麦芽とショ糖の使用量、及び麦芽使用比率(麦芽とショ糖の合計使用量に対する麦芽の使用量の比率)を表4に示す。 [0065] 得られた各ビール様発泡性飲料の糖質とプロリンの含有量を測定した。測定結果を表4に示す。 また、各ビール様発泡性飲料のビールらしさ、コク、軽快さ、及び総合評価について官能評価を行った。官能評価は、3名の専門パネリストが、各ビール様発泡性飲料をそれぞれブラインドで官能試飲を行い、下記に示す5段階で評価した。評価結果を表4に示す。 [0066] ビールらしさの評価; 5:非常にビールらしい。 4:ビールらしい。 3:どちらでもない。 2:ビールらしくない。 1:非常にビールらしくない。 [0067] コクの評価; 5:非常にコクがある。 4:コクがある。 3:どちらでもない。 2:コクがない。 1:非常にコクがない。 [0068] 軽快さの評価; 5:非常に軽快さがある。 4:軽快さがある。 3:どちらでもない。 2:軽快さがない。 1:非常に軽快さがない。 [0069] 総合評価(ビールらしさがあり、コクと軽快さのバランスが良いかどうか); 5:非常に良い。 4:良い。 3:どちらでもない。 2:悪い。 1:非常に悪い。 [0070] [表4] ![]() 」 (3)甲3号証の記載 (甲3a)第126頁、第2表 「 ![]() 」 (4)甲4号証の記載 (甲4a)段落0072?0073 「【0072】 参考として、表4に、調査を行った市販品(赤色を呈するビールテイスト飲料)のL^(*)値、a^(*)値、b^(*)値、苦味価(BU)を開示する。 なお、L^(*)値、a^(*)値、b^(*)値の測定については、各市販品を10mmセルに投入し、分光測色計(装置名:CM-3600d コニカミノルタ株式会社製)を用いた透明物体色測定(CM-3600dの取扱説明書に沿った測定)により求めた。また、苦味価の測定については、BCOJビール分析法(財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編集1996年4月1日発行)の「8.15苦味価」に記載されている方法によって求めた。 【0073】 【表4】 ![]() 」 (5)甲5号証の記載 (甲5a)第67頁「ビールの原料としては麦芽のみでなく、それ以外の澱粉及び糖質原料が副原料として使用されている。 副原料使用の目的は次のようである。 (1) 仕込原価の低減ができる。 (2) 製造量の増加が可能となる。 (3) 柔らかな口当たりの良いビールとなる。 (4) 日持ちの良い安定したビールができる。 (5) 米国製品のような軽いビールの製造が可能となる。 (6) 泡持ち向上のために穀物を使用することがある。 副原料の種類 添加する副原料としては、ビールでは酒税法により定められている。 固体と液体に分けられる。 固体副原料 黄色コーングリッツ 精製コーングリッツ コーンスターチ 米 小麦澱粉 甘薯澱粉 馬鈴薯澱粉 もろこし(ソルガム) 液体副原料(米国では常用) コーンシラップ 大麦シラップ 小麦シラップ 糖(蔗糖、添加糖)シラップ」 (甲5b)第226頁 「7. 2. 仕込 7. 2. 1. 仕込の理論 麦芽と副原科から水可溶性物質を浸出し、不溶性物質を酵素作用により可溶化させ、溶出して麦汁を製造する作業を仕込という。可溶成分はエキスと呼び醗酵性と非発酵性より成る。収量を高めると共にビールの種類品質に応じたものでなければならない。このために仕込では、原料、水、の選択、仕込方法、温度と時間を変えて酵素作用を調節する。麦芽からの麦汁エキスの炭水…(略)…化物組成(%)はつぎのようである。 7. 2. 1. 1. 澱粉分解 麦芽澱粉はアミロースとアミロペクチンよりなる。アミロースは葡萄糖単位がα-1→ 4-グルコシド結合直鎖状につながっており、アミノペクチンは枝分れした多糖でα-1→ 6結合は分岐点にあり主成分はα-1→ 6-グルコシド結合より成り立っている。澱粉は冷水には溶解しないが温水では粒の周囲に水が入り容積は大きくなり次のような各種段階を経て分解する。 1. 澱粉粒の糊化 2. 澱粉の液化 3. 澱粉の糖化 澱粉の糊化は、麦芽は50℃で著しく進むが、70℃では少ない。澱粉粒は割れ目を生じ種々の層に崩壊し水可溶となる。糊化温度は穀物によって異なるが、澱粉は糊化することによりアミラーゼの作用を受けやすくなる。」 (甲5c)第251頁 「7. 4. 麦汁濾過 7. 4. 1. 濾過槽 濾過作業では、効率良く、良質な麦汁が得られなければならない。麦汁の品質は透明度、エキス、濁度と溶存酸素により定まる。」 (甲5d)第261頁 「7. 7. 麦汁煮沸 濾過した麦汁は煮沸釜に移し、ホップを添加して煮沸し、ホップ苦味質を溶解し芳香を与える。麦汁煮沸の目的は次のようである。 1. 水分の蒸発 2. 蛋白質の凝固による麦汁の透明化 3. ホップα-酸のイソ化とホップ油溶解 4. 麦汁の殺菌 5. 酵素の破壊 6. 不快臭成分の蒸発 7. 揮発成分の形成 8. 麦汁の還元物質の生成と着色 9. 麦汁の酸性化」 (甲5e)第291?292頁 「8. 発酵 …(略)… 発酵には上面酵母を使用する上面発酵と下面酵母を使用する下面発酵の2種類がある。上面発酵は主としてイギリスで発展した。下面発酵はドイツからコペンハーゲンに移り改良されて世界中に広まった。 近年は両法とも技術が改良されている。発酵日数を短くして設備の稼動率を向上させるために、酵母の使用量を高めるとか、温度を高めにするとかまたは酵母の活性を高い状態に保つようになってきている。ドイツ以外では高濃度仕込による発酵が普及してきた。 発酵には主(前)発酵と貯酒(後発酵)に分けられる。 8. 1. 1. 発酵度 発酵の進行に伴い麦汁のエキスは減少する。発酵前の原麦汁エキス(0. G.)に対する消費されたエキスの比率を発酵度という。 V = 発酵エキス/原麦汁エキス×l00%」 (6)甲6号証の記載 略 (7)甲7-1?7-3号証の記載 (甲7-1a)甲7-1には、「ビール・ウイスキーの表示に関する公正競争規約」(1980年7月1日施行)に関する解説が記載されている。 (甲7-2a)甲7-2には、「ビールの表示に関する公正競争規約及び施行規則」(2018年4月1日施行)が記載されている。 (甲7-3a)甲7-3には、「表示に関する公正競争規約」の改正施行日履歴が記載されている。 (8)甲8号証の記載 略 (9)甲9号証の記載 (甲9a)請求項1 「【請求項1】 発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり、酪酸の含有量が0.2?0.5ppmであり、3-メチルブタン酸の含有量が0.4?0.6ppmであり、4-ヴィニルグアイアコールの含有量が80?120ppbであり、ジメチルスルフィドの含有量が12?25ppbであり、フラネオールの含有量が220?290ppbであり、リナロール含有量が0.5?3ppbであることを特徴とする、発酵麦芽飲料。」 (甲9b)段落0006 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、発酵原料に対する麦芽の使用比率が低く、麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、深みのあるコクを有し、かつ軽快感も良好な発酵麦芽飲料を提供することを目的とする。」 (甲9c)段落0036?0037 「【0036】 [参考例1] 発酵原料として麦芽粉砕物とコーンスターチを用いて、ビールテイストの発酵麦芽飲料における麦芽オフフレーバーの強さに対する麦芽比率の影響を調べた。具体的には、麦芽比率が20、40、又は60質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用いた。 まず、200Lスケールの仕込設備を用いて、発酵麦芽飲料の製造を行った。仕込槽に、40kgの発酵原料及び160Lの原料水を投入し、当該仕込槽内の混合物を常法に従って加温して糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過し、得られた濾液にホップを添加した後、煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得た。次いで、80?99℃程度の麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却した。当該冷麦汁にビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させた。熟成後の発酵液をフィルター濾過(平均孔径:0.65μm)し、目的の発酵麦芽飲料を得た。 【0037】 得られた発酵麦芽飲料の麦芽オフフレーバーについて、6名の訓練されたビール専門パネリストによる官能検査を行った。この結果、麦芽比率60質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーが感じられたが、麦芽比率40質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーはあまり感じられず、麦芽比率20質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーは感じられなかった。すなわち、発酵原料に対する麦芽比率の低下により、麦芽オフフレーバーが低減されることが確認された。」 (甲9d)段落0038?0039 「【0038】 [実施例1] 酪酸、3-メチルブタン酸、4-ヴィニルグアイアコール、ジメチルスルフィド、フラネオール、及びリナロールを含有する発酵麦芽飲料において、各香味成分の配合バランスと香味への影響を調べた。 具体的には、麦芽比率が49質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用い、ビール酵母接種前の冷麦汁に、酪酸、3-メチルブタン酸、4-ヴィニルグアイアコール、ジメチルスルフィド、フラネオール、リナロール(いずれも香料)を飲料中の最終濃度が表1に示す濃度になるように添加した以外は参考例1と同様にして発酵麦芽飲料を製造した。 【0039】 なお、発酵麦芽飲料中の酪酸、フラネオール及び3-メチルブタン酸の含有量(濃度)は、ジクロロメタン液々抽出を用いたGC/MS分析により測定した。具体的には、酪酸及びフラネオールの測定は、まず、容器にサンプルを採取し、硫酸アンモニウムを加え、次に当該容器にジクロロメタンを加えて内部標準物質を添加した後、振とう抽出した。この際に、当該容器内にガスがある場合にはガス抜きを行った。その後、遠心分離処理を行い、溶媒層を回収し、この回収した溶媒層を、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、窒素パージにて濃縮した後に、GC/MS分析に供した。3-メチルブタン酸の測定は、容器に採取したサンプルに、硫酸アンモニウムを加えた後、塩酸を加えて酸性条件としたものにジクロロメタンを加えた以外は、酪酸等と同様にして行った。」 (10)甲10-1?10-6号証の記載 (甲10-1a)甲第10-1号証、段落0003 「【0003】 しかしながら、通常、発泡酒や所謂ノンアルコールビールは、ビールに比し、麦芽使用比率が低く(例えば、発泡酒では25%以下)、副原料として比較的多量のコーンスターチや米などを用いる。そのため、これらの飲料では、アルコール発酵により、発泡酒に特有の臭気(以下、発泡酒臭と言う)が発生するといった問題が指摘されている。また、これらの飲料は、ビールに比し香味の低下が問題視されている一方、その麦芽使用比率が低くなればなるほど、泡持ち時間が低くなり、ビールテイストの劣った製品となってしまう。このような問題を解決すべく、例えば、発泡酒の製造において、大麦分解物を副原料として使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)が、大麦に含まれるグルカンなどの成分により、仕込工程及び濾過工程中のろ過に長時間を要することとなり、製造効率の低下が問題となっている。 また、発泡酒や所謂ノンアルコールビールでは、ビールに比し、泡持時間が低く、グラスに注いだ場合の外観の悪さが一層問題となっている。」 (甲10-2a)甲第10-2号証、段落0003 「【0003】 発泡酒は、ビールに比べて麦芽の使用量が少ないため、硫黄系(S)臭やコゲ臭等のいわゆる発泡酒臭が増加し、味覚的にも酸味が増加して後味も悪くなるうえ、泡の持続性(泡もち)やグラスへの付着性(泡つき)といった泡特性も悪くなる。このため、発泡酒臭を改善し、ビールに劣らない香味を付加する方法が検討されている。」 (甲10-3a)甲第10-3号証、段落0004 「【0004】 このような発泡酒において、仕込等を同1条件で製造したとしても、麦芽の使用量が少ないために、酵母が麦汁中のエキス分を資化するスピード(一日の最大エキス資化量を以下、「発酵性」という。)が減少する上、その味及び香り(以下、「香味」という。)に変化を生ずる。つまり、麦芽の使用量を減らして行き、麦芽以外の副原料の使用量に対して麦芽の使用量を少なくした場合には、ビールと同1条件で製造したとしても、ビール特有の麦芽感が減少する他、酵母の発酵性が悪いためにプラスチック様のS(硫黄)系臭、コゲ臭などの発酵不順臭(発泡酒臭)が目立つようになる。」 (甲10-4a)甲第10-4号証、第244頁右欄31?43行 ![]() (甲10-5a)甲第10-5号証、第151頁左欄13?28行、右欄1?18行 ![]() (甲10-6a)甲第10-6号証、第789頁左欄1行?第790頁右欄3行 略 第5 当審の判断 1 理由1(公然実施発明に基づく新規性欠如、並びに同発明を主引用発明とする進歩性欠如)について (1)甲1に基づいて認定できる発明 ア 甲1-1は、申立人が2020年9月30日に作成した報告書であり、サントリー株式会社が製造販売したとされる発泡酒、商品名「ホップス<生>」(以下、「甲1物品」という。)の空き缶の外観を撮影した写真が示されている(上記摘記甲1-1b?甲1-1d参照)。 そして、正面写真(甲1-1b)及び側面写真(甲1-1c)から、甲1物品は、麦芽使用率が65%であり、原材料として麦芽、ホップ及びスターチを用いて製造されたアルコール分5%の発泡酒であることが理解できる。 したがって、甲1からは、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が一応認定できる。 甲1発明: 「麦芽使用率が65%であり、原材料として麦芽、ホップ及びスターチを用いて製造されたアルコール分5%の発泡酒。」 (2)公然実施発明であるかについて 甲1物品に係る発明(甲1発明)が、本件特許の出願日前に公然実施をされた発明(以下、単に「公然実施発明」という。)といえるかについて検討する。 甲1-1の報告書の作成日は2020年9月30日とされ、甲1-1の報告書において、報告書に示された「ホップス<生>」の入手経緯や保管経緯など一切明らかでない点、ロット記号と製造年月日および販売時期との関係が不明である点、「ホップス<生>」との同一商標であるものの甲1-1に示されたものと甲1-2の新聞記事に示されたものと関係が不明である点、並びに販売予定の新聞記事があるだけで実際に販売された証拠がない点を考慮すると、甲1物品が公然実施発明であるとはいえない。 以上のとおり、甲1発明は、公然実施発明とはいえないが、念のため公然実施発明であると仮定して以下検討する。 (3)甲1発明と本件特許発明3との対比 甲1発明の「麦芽使用率」とは、通常、ホップ及び水を除いた発酵原料を基準に麦芽の使用比率を算出されるものであるから、本件特許発明3の「発酵原料の麦芽比率」に相当する。また、甲1発明の「原材料として麦芽、ホップ及びスターチを用いて製造されたアルコール分5%の発泡酒」は、原材料にアルコール成分を含まないにもかかわらずアルコール分5%を含有するため、麦芽等の原材料を発酵させる発酵工程を経てアルコールを産生させた「発酵麦芽飲料」であると認められる。 そうすると、本件特許発明3と甲1発明とは「発酵原料の麦芽比率が50?66質量%である、発酵麦芽飲料。」の点で一致し、下記の点で相違する。 相違点3-1:本件特許発明3は、「プロリンの含有量が15?30mg/100mL」であるのに対して、甲1発明は、そのプロリンの含有量が明らかでない点。 相違点3-2:本件特許発明3は、「苦味価が10?30BU」であるのに対して、甲1発明は、その苦味価が明らかでない点。 (4)検討 ア 相違点3-1 相違点3-1について検討すると、申立人は、特許異議申立書の第24頁11行?第28頁3行において、甲2(摘記甲2a)及び本件明細書(段落0012、0040、0048)等を引用し、プロリンの含有量は麦芽使用比率によって決まり、麦芽比率とプロリン含有量とは相関関係にあるため、甲1発明のプロリンの含有量は本件実施例の試験品D(麦芽比率58%)より大きく、試験品B(麦芽比率66%)のプロリン含有量より小さいと考えられるため、22.7?26.1mg/100mLといえる旨記載している。 しかしながら、麦芽発酵飲料のプロリンの含有量が麦芽使用比率と相関関係にあるとしても、その絶対値は、麦芽使用比率のみならず、使用する麦芽のプロリン含量、麦芽以外の発酵原料のプロリン含量、並びに製造時の仕込工程や発酵工程の違いによっても変動するといえる。このことは、甲2(摘記甲2b)における、麦芽使用比率が100%であっても、そのビールのプロリンの含有量が14.4mg/100mLであったとの記載によっても確認できる。したがって、使用する麦芽や麦芽以外の発酵原料並びに製造工程が本件実施例の試験品DやBと同じとはいえない甲1発明のプロリンの含有量は、15?30mg/100mLの範囲内であるとは認められない。 したがって、相違点3-1は実質的な相違点である。 そして、甲1-1、甲1-2及び甲2?8の記載を考慮しても、甲1発明のプロリンの含有量を15?30mg/100mLとすることが、当業者が容易に行い得ることであるといえる理由も見いだせない。 イ 相違点3-2 相違点3-2について検討すると、申立人は、特許異議申立書の第28頁4行?第31頁7行において、甲3(摘記甲3a)には日本の一般的なビール(ラガー、ライト)の苦味価は18?29と記載されていること、並びに甲4(摘記甲4a)には市販ビールの苦味価が17.8?24.2BUと記載されていることを引用し、したがって、原料としてホップを用い、一般的なビールと同じ方法で製造された市販の発酵麦芽飲料であるホップス<生>の苦味価は15?30BUといえると記載している。 この点について、甲1物品は1994年12月頃に販売された公然実施発明であると仮定すれば、当時、甲1物品は日本において酒税法上は発泡酒に分類される飲料である。そうすると、ビールの表示に関する公正競争規約及び施行規則(甲7-2)施行日前の2010年の文献である甲3に記載の「日本の一般的なビール」にはあたらないのであるから、その記載をもって苦味価について市販のビールの苦味価と同程度であるとは認められない。さらに、甲3(摘記甲3a)には、ドイツのピルスナーの苦味価は21?42BU、アメリカ・カナダのラガーの苦味価は11?14、同ライトの苦味価は8?14BUであることも記載されているから、ビール又は発泡酒等のビールテイスト飲料の苦味価が必ずしも15?30BUであるとも認められない。また、甲4(摘記甲4a)には、「市販品(赤色を呈するビールテイスト飲料)」の苦味価を測定したものであって、甲1物品は赤色を呈する発酵麦芽飲料ではないのであるから、その記載をもって甲4記載の市販品と同程度の苦味価を有するとも認められない。 したがって、相違点3-2は実質的な相違点である。 そして、上記のとおり、ビール又は発泡酒等のビールテイスト飲料の苦味価は必ずしも15?30BUであるとも認められないから、当業者が甲1発明において苦味価を15?30BUの範囲内に調整する動機はない。また、甲1-1、甲1-2、及び甲2?8の記載を考慮しても、本件特許発明3は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえる理由も見いだせない。 (5)小括 上記のとおり、甲1発明は、公然実施発明といえない上に、本件特許発明3は甲1発明に対して実質的な相違点である相違点3-1及び相違点3-2を有しているから、本件特許発明3は甲1発明とはいえず、また、商品として確立している甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 また、本件特許発明3を直接、間接に引用し、さらに技術的限定をした本件特許発明4?8に関しても同様である。 以上のとおりであるから、本件特許発明3?8は、甲1物品に係る発明を根拠として、公然実施発明であるということはできず、また、公然実施発明及び本件特許の出願日における技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 したがって、本件特許発明3?8に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものではなく、取り消すべきものではない。 2 理由2(甲9の参考例1に記載された飲料の発明に基づく新規性欠如、並びに同発明を主引用発明とする進歩性欠如)について (1)甲9に記載された発明 甲9には、摘記甲9cに記載のとおり、「麦芽比率が20、40、又は60質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用い」、該発酵原料から得られた糖化液を濾過し、「得られた濾液にホップを添加し」、煮沸して得られた麦汁を発酵、熟成して得られた「発酵麦芽飲料」が記載されている。 したがって、甲9からは、次の発明(以下、「甲9参考例飲料発明」という。)が記載されている。 甲9参考例飲料発明: 「発酵原料の麦芽比率が60質量%であり、原材料としてホップ、麦芽粉砕物、及びコーンスターチを含む、発酵麦芽飲料。」 (2)甲9参考例飲料発明と本件特許発明3との対比 本件特許発明3と甲9参考例飲料発明とを対比すると、両者は「発酵原料の麦芽比率が50?66質量%である、発酵麦芽飲料。」の点で一致し、下記の点で相違する。 相違点3-1:本件特許発明3は、「プロリンの含有量が15?30mg/100mL」であるのに対して、甲9参考例飲料発明は、そのプロリンの含有量が明らかでない点。 相違点3-2:本件特許発明3は、「苦味価が10?30BU」であるのに対して、甲9参考例飲料発明は、その苦味価が明らかでない点。 (3)検討 ア 相違点3-1 相違点3-1について検討すると、申立人は、特許異議申立書の第45頁4行?第46頁下から12行において、甲1発明において主張したのと同様に、本件明細書、甲2等の記載によると、プロリン含有量は麦芽比率に相関性が強いから、甲9参考例飲料発明のプロリン含有量は22.7?26.1mg/100mLといえる旨記載している。 しかしながら、上記1(4)アで相違点3-1について述べたのと同様に、使用する麦芽や麦芽以外の発酵原料、並びに製造工程における仕込工程や発酵工程が本件実施例の試験品DやBと同じとはいえない甲9参考例飲料発明のプロリンの含有量は、15?30mg/100mLの範囲内であるとは認められない。 したがって、相違点3-1は実質的な相違点である。 そして、甲9及び甲3、5、6、8の記載を考慮しても、甲9参考例飲料発明のプロリンの含有量を15?30mg/100mLとすることが、当業者が容易に行い得ることであるといえる理由も見いだせない。 イ 相違点3-2 相違点3-2について検討すると、申立人は、特許異議申立書の第46頁下から11行?第47頁下から8行において、甲1発明において主張したのと同様に、甲3を引用し、甲9参考例飲料発明は、原材料にホップを用いているから苦味価が高い飲料であり、甲9参考例飲料発明の苦味価は15?30BUといえると記載している。 しかしながら、甲9の公開日は2015年8月27日であって、甲9参考例飲料発明は当時日本において酒税法上は発泡酒に分類される飲料である。そうすると、ビールの表示に関する公正競争規約及び施行規則(甲7-2)施行日前の2010年の文献である甲3に記載の「日本の一般的なビール」にはあたらないのであるから、その記載をもって苦味価についても市販のビールの苦味価と同程度であるとは認められない。さらに、上記1(4)イで相違点3-2について述べたのと同様に、甲3(摘記甲3a)には、ドイツのピルスナーの苦味価は21?42BU、アメリカ・カナダのラガーの苦味価は11?14、同ライトの苦味価は8?14BUであることも記載されているから、ビール又は発泡酒等のビールテイスト飲料の苦味価が必ずしも15?30BUであるとも認められない。また、甲4(摘記甲4a)には、「市販品(赤色を呈するビールテイスト飲料)」の苦味価を測定したものであって、甲1物品は赤色を呈する発酵麦芽飲料ではないのであるから、その記載をもって甲4記載の市販品と同程度の苦味価を有するとも認められない。 したがって、相違点3-2は実質的な相違点である。 そして、該相違点3-2について、申立人は、特許異議申立書の第47頁下から8行?第47頁下から1行において、甲9参考例飲料発明において、甲3に記載された苦味価18?29BUに調整することは設計事項であり容易である旨記載している。しかしながら、上記のとおり、ビール又は発泡酒等のビールテイスト飲料の苦味価は必ずしも15?30BUであるとは認められないから、当業者が甲9参考例飲料発明において苦味価を15?30BUの範囲内に調整する動機はない。また、甲9、及び甲3、5、6、8の記載を考慮しても、本件特許発明3は、甲9参考例飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえる理由も見いだせない。 (4)小括 上記のとおり、本件特許発明3は甲9参考例飲料発明に対して実質的な相違点である相違点3-1及び相違点3-2を有しているから、本件特許発明3は甲9参考例飲料発明とはいえず、また、甲9参考例飲料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 本件特許発明3を直接、間接に引用し、さらに技術的限定をした本件特許発明4?8に関しても同様である。 以上のとおりであるから、本件特許発明3?8は、甲9の参考例1に記載された発明であるということはできず、また、甲9の参考例1に記載された発明及び本件特許の出願日における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 したがって、本件特許発明3?8に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものではなく、取り消すべきものではない。 3 理由3(甲9の実施例1に記載された飲料の発明を主引用発明とする進歩性欠如)について (1)甲9に記載された発明 甲9には、摘記甲9dに記載のとおり、「麦芽比率が49質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用い」、「参考例1と同様にして発酵麦芽飲料を製造した」ことが記載されている。 したがって、甲9からは、次の発明(以下、「甲9実施例飲料発明」という。)が記載されている。 甲9実施例飲料発明: 「麦芽比率が49質量%であり、原料としてホップ、麦芽粉砕物、及びコーンスターチを含む、発酵麦芽飲料。」 (2)甲9実施例飲料発明と本件特許発明3との対比 本件特許発明3と甲9実施例飲料発明とを対比すると、両者は「発酵麦芽飲料。」の点で一致し、下記の点で相違する。 相違点3-1:本件特許発明3は、「プロリンの含有量が15?30mg/100mL」であるのに対して、甲9実施例飲料発明は、そのプロリンの含有量が明らかでない点。 相違点3-2:本件特許発明3は、「苦味価が10?30BU」であるのに対して、甲9実施例飲料発明は、その苦味価が明らかでない点。 相違点3-3:本件特許発明3は、「麦芽比率が50?66質量%」であるのに対して、甲9実施例飲料発明は、「麦芽比率が49質量%」である点。 (3)検討 ア 相違点3-1 相違点3-1について検討すると、申立人は、特許異議申立書の第55頁14行?第56頁下から3行において、甲1発明において主張したのと同様に、本件明細書、甲2等の記載によると、プロリン含有量は麦芽比率に相関性が強いから、甲9実施例飲料発明のプロリン含有量は19.6mg/100mLといえる旨記載している。 しかしながら、上記1(4)アで相違点3-1について述べたのと同様に、使用する麦芽や麦芽以外の発酵原料並びに製造工程が本件実施例の試験品DやBと同じとはいえない甲9実施例飲料発明のプロリンの含有量は、15?30mg/100mLの範囲内であるとは認められない。 したがって、相違点3-1は実質的な相違点である。 そして、甲9及び甲3、5、6、10-1?10-6の記載を考慮しても、甲9実施例飲料発明のプロリンの含有量を15?30mg/100mLとすることが、当業者が容易に行い得ることであるといえる理由も見いだせない。 イ 相違点3-2 相違点3-2について検討すると、申立人は、特許異議申立書の第56頁下から2行?第57頁10行において、甲1発明において主張したのと同様に、甲3を引用し、甲9実施例飲料発明は、原材料にホップを用いているから苦味価が高い飲料であり、甲9実施例飲料発明の苦味価は15?30BUといえると記載している。 しかしながら、甲9の公開日は2015年8月27日であって、甲9実施例飲料発明は当時日本において酒税法上は発泡酒に分類される飲料である。そうすると、ビールの表示に関する公正競争規約及び施行規則(甲7-2)施行日前の2010年の文献である甲3に記載の「日本の一般的なビール」にはあたらないのであるから、その記載をもって苦味価についても市販のビールの苦味価と同程度であるとは認められない。さらに、上記1(4)イで相違点3-2について述べたのと同様に、甲3(摘記甲3a)には、ドイツのピルスナーの苦味価は21?42BU、アメリカ・カナダのラガーの苦味価は11?14、同ライトの苦味価は8?14BUであることも記載されているから、ビール又は発泡酒等のビールテイスト飲料の苦味価が必ずしも15?30BUであるとも認められない。また、甲4(摘記甲4a)には、「市販品(赤色を呈するビールテイスト飲料)」の苦味価を測定したものであって、甲1物品は赤色を呈する発酵麦芽飲料ではないのであるから、その記載をもって甲4記載の市販品と同程度の苦味価を有するとも認められない。 したがって、相違点3-2は実質的な相違点である。 そして、相違点3-2について、申立人は、特許異議申立書の第57頁11行?第58頁6行において、甲9実施例飲料発明において、甲3に記載された苦味価18?29BUに調整することは設計事項であり容易である旨主張している。 しかしながら、上記のとおり、ビール又は発泡酒等のビールテイスト飲料の苦味価は必ずしも15?30BUであるとは認められない上に、当業者が甲9実施例飲料発明において苦味価に着目して15?30BUの範囲内にあえて調整する動機はない。また、甲9、及び甲3、5、6、10-1?10-6の記載を考慮しても、甲9実施例飲料発明の苦味価を15?30BUとすることが、当業者が容易に行い得ることであるといえる理由も見いだせない。 ウ 相違点3-3 相違点3-3について検討すると、申立人は、特許異議申立書の第58頁7行?第63頁12行において、甲10-1?甲10-6を引用し、発酵麦芽飲料において麦芽比率が低いと発酵性が悪化し、風味や泡持ちが低下することが技術常識であり、当業者は発酵麦芽飲料の麦芽比率を向上させようと動機付けられるものであった旨主張している。 しかしながら、申立人が主張する上記技術常識があったとしても、甲9は「発酵原料の麦芽比率が50質量%未満」である発酵麦芽飲料の発明に関する特許文献であり(摘記甲9a)、発酵原料に対する麦芽の使用比率が低いにもかかわらず、深みのあるコクを有し、かつ軽快感も良好な発酵麦芽飲料を提供することを目的としているから(摘記甲9b)、甲9においては、発酵原料に対する麦芽の使用比率が低い発酵麦芽飲料を検討することが前提であって、当該特許文献の実施例である甲9実施例飲料発明において、麦芽の使用比率を50質量%より高くして、発酵原料の麦芽比率を50?66質量%とする動機付けがあるとはいえない。また、甲9、及び甲3、5、6、10-1?10-6の記載を考慮しても、甲9実施例飲料発明の麦芽比率を50?66質量%とすることが、当業者が容易に行い得ることであるいえる理由も見いだせない。 (4)小括 上記のとおり、本件特許発明3は甲9実施例飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。本件特許発明3を直接、間接に引用し、さらに技術的限定をした本件特許発明4?8に関しても同様である。 以上のとおりであるから、本件特許発明3?8は、甲9の実施例1に記載された発明及び本件特許の出願日における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 したがって、本件特許発明3?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、取り消すべきものではない。 4 理由4(甲5に記載された発明を主引用発明とする進歩性)について (1)甲5に記載された発明 甲5には、ビールの一般的な製法が工程別に記載されており、「麦芽と副原科から水可溶性物質を浸出し、不溶性物質を酵素作用により可溶化させ、溶出して麦汁を製造する」工程であって、「澱粉粒の糊化」、「澱粉の液化」、及び「澱粉の糖化」により「澱粉分解」を行う「仕込」工程(摘記甲5b)、「麦汁濾過」工程(摘記甲5c)、「濾過した麦汁」の「煮沸」工程(摘記甲5d)、並びに「上面酵母」又は「下面酵母」により「原麦汁エキス」の発酵を行う「発酵」工程(摘記甲5e)が記載されている。 したがって、甲5からは、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。 甲5発明: 「麦芽と副原料と水とを含む混合物を糖化し濾過した麦汁を煮沸する工程と、前記工程により得られた原麦汁エキスを上面酵母又は下面酵母により発酵を行う発酵工程とを有する、ビールの製造方法。」 (2)甲5発明と本件特許発明1との対比 本件特許発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「麦芽と副原料」、「ビール」は、それぞれ本件特許発明1の「発酵原料」、「発酵麦芽飲料」に相当する。また、甲5発明の「麦汁」又は「原麦汁エキス」は本件特許発明1の「発酵原料液」に相当する。 したがって、本件特許発明1と甲5発明は、「麦芽を含む発酵原料と水とを含む混合物を糖化した後、煮沸して発酵原料液を調整する仕込工程と、前記仕込工程により得られた発酵原料液に酵母を摂取し、発酵を行う発酵工程と、を少なくとも有する、発酵麦芽飲料の製造方法。」の点で一致し、下記の点で相違する。 相違点1-1:本件特許発明1は、「麦芽比率が50?66質量%の発酵原料」であって、「前記発酵原料が、麦芽と、コーンスターチ、コーングリッツ及び液糖からなる群より選択される一種以上と、からな(る)」のに対して、甲5発明は、麦芽比率と副原料について特定されていない点。 相違点1-2:本件特許発明1は、「プロリンの含有量が15?30mg/100mL」であるのに対して、甲5発明は、製造するビールのプロリンの含有量が明らかでない点。 相違点1-3:本件特許発明1は、「苦味価が10?30BU」であるのに対して、甲5発明は、製造するビールの苦味価が明らかでない点。 (3)検討 ア 相違点1-1及び相違点1-2 相違点1-1について検討すると、申立人は、特許異議申立書の第70頁13行?第71頁12行において、甲1-1、1-2等を引用し、甲5発明において、ビールと同じ製造方法で製造された甲1発明の原材料配合における麦芽使用比率(麦芽比率)を適用することは容易である旨記載している。 ここで、上記1(2)で検討したとおり、甲1発明は公然実施発明とは認められないが、公然実施発明であると一応仮定して以下検討しておく。 甲1発明は、上記1(1)のとおり、「麦芽使用率が65%であり、原材料として麦芽、ホップ及びスターチを用いて製造されたアルコール分5%の発泡酒。」であり、甲5(摘記甲5a)には、ビールの副原料として種々の固体又は液体副原料が例示されており、コーンスターチ、コーングリッツ、「糖(庶糖、添加糖)シラップ」(「液糖」に相当)等が例示されてはいる。 しかしながら、相違点1-2のプロリン含量は、上記1(4)アで相違点3-1について述べたとおり、プロリン含量が比較的多い麦芽の比率のみによって定まるわけではなく、使用する麦芽のプロリン含量、麦芽以外の発酵原料のプロリン含量、並びに仕込工程や発酵工程等の製造工程の違いによって変動する値である。 したがって、甲5発明において、甲1発明の示唆により麦芽比率を65%としたとしても、さらに、使用する麦芽のプロリン含量、副原料、並びに製造工程を調整して、15?30mg/100mLのプロリン含量の発酵麦芽飲料を調製する必要があり、プロリン含量に着目して、そのような調製を行う動機付けはなく、当業者が容易になし得たとはいえない。また、甲5、及び甲1-1、3、8の記載を考慮しても、相違点1-1及び相違点1-2を当業者が容易に想到することができたものであるといえる理由も見いだせない。 イ 相違点1-3 相違点1-3について検討すると、申立人は、特許異議申立書の第71頁13行?第72頁16行において、甲1発明において主張したのと同様に、甲3、4を引用し、甲5発明において、ビールと同じ製造方法で製造された甲1発明の原材料配合を適用すると、苦味価は15?30BUとなる旨記載している。 しかしながら、本件特許発明1の「麦芽比率が50?66質量%の発酵原料」から製造された発酵麦芽飲料は、出願時、日本において酒税法上は発泡酒に分類される飲料である。そうすると、ビールの表示に関する公正競争規約及び施行規則(甲7-2)施行日前の2010年の文献である甲3に記載の「日本の一般的なビール」にはあたらないのであるから、甲5発明において、甲1-1、1-2の示唆より麦芽比率を65%とした場合に、苦味価を市販のビールの苦味価と同程度に調製する動機はない。さらに、上記1(4)イで相違点3-2について述べたのと同様に、甲3(摘記甲3a)には、ドイツのピルスナーの苦味価は21?42BU、アメリカ・カナダのラガーの苦味価は11?14、同ライトの苦味価は8?14BUであることも記載されているから、ビール又は発泡酒等のビールテイスト飲料の苦味価が必ずしも15?30BUであるとも認められない。また、甲4(摘記甲4a)には、「市販品(赤色を呈するビールテイスト飲料)」の苦味価を測定したものであって、甲1物品は赤色を呈する発酵麦芽飲料ではないのであるから、その記載をもって甲4記載の市販品と同程度の苦味価を有するとも認められない。また、甲5、及び甲1-1、3、8の記載を考慮しても、本件特許発明1は、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえる理由も見いだせない。 (4)小括 上記のとおり、本件特許発明1は甲5発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。本件特許発明1を引用し、さらに技術的に限定した本件特許発明2に関しても同様である。 以上のとおりであるから、本件特許発明1?2は、甲5に記載された発明及び本件特許の出願日における技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 したがって、本件特許発明1?2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、取り消すべきものではない。 5 理由5(甲9の参考例1に記載された飲料の製法発明に基づく新規性欠如、並びに同発明を主引用発明とする進歩性欠如)について (1)甲9に記載された発明 甲9には、摘記甲9cに記載のとおり、「麦芽比率が20、40、又は60質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用い」、「発酵原料」及び「原料水」の「混合物を情報に従って加温して糖化液」を製造し、得られた糖化液を濾過し、「得られた濾液にホップを添加し」、煮沸して得られた「麦汁にビール酵母を摂取」し、「発酵」させることによる「発酵麦芽飲料」の製造方法が記載されている。 したがって、甲9からは、次の発明(以下、「甲9参考例製法発明」という。)が記載されている。 甲9参考例製法発明: 「麦芽比率が60質量%の発酵原料と原料水とを含む混合物を糖化した後、ホップを添加し、煮沸して麦汁を得る工程と、前記工程により得られた麦汁にビール酵母を接種し、発酵を行う工程とを有し、発酵原料が、麦芽粉砕物及びコーンスターチからなる、発酵麦芽飲料の製造方法。」 (2)甲9参考例製法発明と本件特許発明1との対比 本件特許発明1と甲9参考例製法発明とを対比すると、甲9参考例製法発明の「麦汁」、「ビール酵母」、及び「麦芽粉砕物」は、本件特許発明1の「発酵原料液」、「酵母」、及び「麦芽」にそれぞれ相当する。したがって、両者は「麦芽比率が50?66質量%の発酵原料と水とを含む混合物を糖化した後、煮沸して発酵原料液を調製する仕込工程と、前記仕込工程により得られた発酵原料液に酵母を接種し、発酵を行う発酵工程と、を少なくとも有し、前記発酵原料が、麦芽と、コーンスターチ、コーングリッツ及び液糖からなる群から選択される1種以上と、からなる、発酵麦芽飲料の製造方法。」の点で一致し、下記の点で相違する。 相違点1-1:本件特許発明1は、「プロリンの含有量が15?30mg/100mL」の発酵麦芽飲料を製造するのに対して、甲9参考例製法発明は、製造する発酵麦芽飲料のプロリンの含有量が明らかでない点。 相違点1-2:本件特許発明1は、「苦味価が10?30BU」の発酵麦芽飲料を製造するのに対して、甲9参考例製法発明は、製造する発酵麦芽飲料の苦味価が明らかでない点。 (3)検討 ア 相違点1-1 相違点1-1について検討すると、上記2(3)アで相違点3-1について述べたのと同様に、相違点1-1は実質的な相違点であり、甲9及び甲3、5、8の記載を考慮しても、本件特許発明1は、甲9参考例製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえる理由も見いだせない。 イ 相違点1-2 相違点1-2について検討すると、上記2(3)イで相違点3-2について述べたのと同様に、相違点1-2は実質的な相違点であり、甲9、及び甲3、5、8の記載を考慮しても、本件特許発明3は、甲9参考例製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえる理由も見いだせない。 (4)小括 上記のとおり、本件特許発明1は甲9参考例製法発明に対して実質的な相違点である相違点1-1及び相違点1-2を有しているから、本件特許発明1は甲9参考例製法発明とはいえず、また、甲9参考例製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。本件特許発明1を引用し、さらに技術的に限定した本件特許発明2に関しても同様である。 以上のとおりであるから、本件特許発明1、2は、甲9の参考例1に記載された発明であるということはできず、また、甲9の参考例1に記載された発明及び本件特許の出願日における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 したがって、本件特許発明1、2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものではなく、取り消すべきものではない。 6 理由6(甲9の実施例1に記載された飲料の製法発明を主引用発明とする進歩性欠如)について (1)甲9に記載された発明 甲9には、摘記甲9dに記載のとおり、「麦芽比率が49質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用い」、「参考例1と同様にして発酵麦芽飲料を製造したこと」が記載されている。 したがって、甲9からは、次の発明(以下、「甲9実施例製法発明」という。)が記載されている。 甲9実施例製法発明: 「麦芽比率が49質量%の発酵原料と原料水とを含む混合物を糖化した後、ホップを添加し、煮沸して麦汁を得る工程と、前記工程により得られた麦汁にビール酵母を接種し、発酵を行う工程とを有し、発酵原料が、麦芽粉砕物及びコーンスターチからなる、発酵麦芽飲料の製造方法。」 (2)甲9実施例製法発明と本件特許発明1との対比 本件特許発明1と甲9実施例製法発明とを対比すると、甲9実施例製法発明の「麦汁」、「ビール酵母」、及び「麦芽粉砕物」は、本件特許発明1の「発酵原料液」、「酵母」、及び「麦芽」にそれぞれ相当する。したがって、両者は「発酵原料と水とを含む混合物を糖化した後、煮沸して発酵原料液を調製する仕込工程と、前記仕込工程により得られた発酵原料液に酵母を接種し、発酵を行う発酵工程と、を少なくとも有し、前記発酵原料が、麦芽と、コーンスターチ、コーングリッツ及び液糖からなる群から選択される1種以上と、からなる、発酵麦芽飲料の製造方法。」の点で一致し、下記の点で相違する。 相違点1-1:本件特許発明1は、「プロリンの含有量が15?30mg/100mL」の発酵麦芽飲料を製造するのに対して、甲9実施例製法発明は、製造する発酵麦芽飲料のプロリンの含有量が明らかでない点。 相違点1-2:本件特許発明1は、「苦味価が10?30BU」の発酵麦芽飲料を製造するのに対して、甲9実施例製法発明は、製造する発酵麦芽飲料の苦味価が明らかでない点。 相違点1-3:本件特許発明1は、「麦芽比率が50?66質量%」であるのに対して、甲9実施例製法発明は、「麦芽比率が49質量%」である点。 (3)検討 ア 相違点1-1 相違点1-1について検討すると、上記3(3)アで相違点3-1について述べたのと同様に、本件特許発明1は、甲9実施例製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 イ 相違点1-2 相違点1-2について検討すると、上記3(3)イで相違点3-2について述べたのと同様に、甲9、及び甲3、5、10-1?10-6の記載を考慮しても、本件特許発明3は、甲9実施例製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 ウ 相違点1-3 相違点1-3について検討すると、上記3(3)ウで相違点3-3について述べたのと同様に、甲9、及び甲3、5、6、10-1?10-6の記載を考慮しても、本件特許発明1は、甲9実施例製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)小括 上記のとおり、本件特許発明1は甲9実施例製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。本件特許発明1を引用し、さらに技術的に限定した本件特許発明2に関しても同様である。 以上のとおりであるから、本件特許発明1、2は、甲9の実施例1に記載された発明及び本件特許の出願日における技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 したがって、本件特許発明1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、取り消すべきものではない。 7 申立人の主張について 異議申立書第23頁15行?第83頁15行における、甲1発明に関する相違点3-1、3-2についての申立人の主張、甲9参考例飲料発明又は甲9参考例製法発明に関する相違点1-1、1-2、3-1、3-2についての申立人の主張、並びに甲9実施例飲料発明又は甲9実施例製法発明に関する相違点1-1?1-3、3-1?3-3についての申立人の主張は、上記1?6に記載したとおり、本件特許発明との各相違点が甲1、甲5、又は甲9に係る各発明との対比において実質的な相違点でないとは認められないし、甲1、甲5、又は甲9に係る各発明に対して、その他の技術的事項を組み合わせる動機付けも示されていない(さらに、甲1発明が公然実施発明とも認められない。)から、いずれも採用できない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-01-22 |
出願番号 | 特願2015-255917(P2015-255917) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C12C)
P 1 651・ 112- Y (C12C) P 1 651・ 121- Y (C12C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 西 賢二 |
特許庁審判長 |
瀬良 聡機 |
特許庁審判官 |
井上 千弥子 黒川 美陶 |
登録日 | 2020-03-18 |
登録番号 | 特許第6678028号(P6678028) |
権利者 | アサヒビール株式会社 |
発明の名称 | 発酵麦芽飲料及びその製造方法 |
代理人 | 大槻 真紀子 |
代理人 | 棚井 澄雄 |