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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1370904
異議申立番号 異議2020-700567  
総通号数 255 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-03-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-07 
確定日 2021-02-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6695815号発明「ポリ乳酸含有水系分散体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6695815号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6695815号(請求項の数4。以下、「本件特許」という。)は、平成28年1月25日(優先権主張:平成27年1月30日、日本国)を国際出願日とする特許出願(特願2016-572022号)に係るものであって、令和2年4月24日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年5月20日である。)。
その後、令和2年8月7日に、本件特許の請求項1?4に係る特許に対して、特許異議申立人である山本圭一郎(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。


第2 本件発明
特許第6695815号の特許請求の範囲の記載は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?4に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?4に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
(1)ポリ乳酸、
(2)アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上の可塑剤、
(3)カチオン性高分子化合物、アニオン性高分子化合物、ポリビニルアルコール及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上の分散安定化剤、及び
(4)水、
を含有し、
下記の物性(A)?(D):
(A)ポリ乳酸を構成する総モノマー分子の80?100モル%が乳酸モノマーである;
(B)ポリ乳酸を構成するL-乳酸とD-乳酸とのモル比(L-乳酸/D-乳酸)が1?7である;
(C)還元粘度が0.3?1.5dl/gである;
(D)数平均分子量が10,000?90,000である;
を満たす、ポリ乳酸含有水系分散体。
【請求項2】
ポリ乳酸100重量部に対する可塑剤の配合割合が3?40重量部である、請求項1に記載のポリ乳酸含有水系分散体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリ乳酸含有水系分散体を含む化粧料。
【請求項4】
ネイルマニキュア液、マスカラ液、又はアイライナー液である、請求項3に記載の化粧料。」


第3 異議申立ての理由の概要及び証拠方法
異議申立人の申立ての理由の概要は、以下のとおりである。
1 申立理由の概要
(1)申立理由1
本件発明1?3に係る発明は、甲第2?4号証に記載された事項も参酌すると、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1?3に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

(2)申立理由2
本件発明1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?10号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到したものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、本件発明1?4に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

(2)申立理由3
本件の特許請求の範囲の請求項1?4の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、概略下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものではない。
よって、本件発明1?4の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

ア 本件発明1の「ポリ乳酸含有水系分散体」は、「ポリ乳酸」、「可塑剤」、「分散安定化剤」、「水」を含有するものであるところ、これらの配合、含有割合は無限定であり、これらについてあらゆる配合量で所定の作用・効果を有することは、出願時の本件の技術分野の技術常識を勘案したとしても認められない。
本件発明2では、可塑剤の配合量について「ポリ乳酸100重量部に対する可塑剤の配合割合が3?40重量部である」と規定されているが、製造例5においては「ポリ乳酸100重量部に対して30重量部」であり、本件発明2で規定される可塑剤の配合量の数値範囲の全体にわたり効果を有することは、出願時における本件の技術分野の技術常識を勘案したとしても認められない。

イ 本件発明1では、「分散安定化剤」について、「カチオン性高分子化合物、アニオン性高分子化合物、ポリビニルアルコール及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上の分散安定化剤」と規定されているが、本件明細書の実施例においては、「ポリビニルアルコール」及び「非イオン性界面活性剤」の例はなく、また、実施例で確認している「分散安定化剤」は「アクリルアミド/メタクリル酸ポリマー」等の数種であるから、その結果について、本件発明1で規定される「分散安定化剤」の全てを使用する場合にまで作用・効果を同等に有することは当然に認められず、出願時における本件の技術分野の技術常識を勘案したとしても認められない。

ウ 本件発明1では、「ポリ乳酸」について、物性(A)?(D)の全てを満たすものと規定しているが、本件明細書の実施例において、室温で透明な膜が得られるという効果が具体的に検証されているのは、ポリ乳酸A?Dのみであり、本件明細書の実施例において具体的に検証されているポリ乳酸A?Dのそれぞれの物性は非常に限定的な数値であり、本件発明1で規定される物性(A)?(D)の数値範囲の全体にわたり効果を有することは当然に認められず、出願時における本件の技術分野の技術常識を勘案したとしても認められない。
また、本件明細書において、効果が認められなかった比較例として記載されているのは、ポリ乳酸F、Gの2種のみであり、物性(B)?(D)の臨界的意義を説明する記載としては根拠不十分である。

2 証拠方法
甲第1号証:特開2004-107413号公報
甲第2号証:特開2006-232975号公報
甲第3号証:特開2006-022242号公報
甲第4号証:特表2008-504404号公報
甲第5号証:特開2002-097359号公報
甲第6号証:特開2007-262119号公報
甲第7号証:特開2011-126798号公報
甲第8号証:特開2004-204219号公報
甲第9号証:特開2006-077186号公報
甲第10号証:特開2002-121288号公報


第4 本件明細書及び各甲号証に記載された事項
申立人が提示した甲第1号証ないし甲第10号証について記載された事項を以下に確認する。

1 本件明細書に記載された事項
本件明細書には、以下の事項が記載されている。

(本a)「【技術分野】
【0001】
ポリ乳酸を含有する分散体が開示される。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題に対する意識の高まりから、生分解性素材を利用した製品の開発が行われている。生分解性素材として乳酸がエステル結合によって重合したポリ乳酸が知られている。ポリ乳酸は、植物由来の成分であるグルコース及びスクロース等から合成可能であるため、カーボンニュートラルなバイオプラスチックとしても注目されており、種々の製品への利用が実用化され、また開拓されつつある。
【0003】
例えば、特許文献1には、インキ用のバインダーとしての使用に適した、乳酸残基を80?100モル%含有し、そのうちL-乳酸とD-乳酸のモル比(L/D)が1?9であるポリ乳酸が開示されている。特許文献2には、繊維製品及び紙製品等への塗工、含侵、噴霧、及び内部添加等の利用に適した、ポリ乳酸を可塑剤及び分散安定化剤の存在下で水に分散させた水系分散体が開示されている。特許文献3には、ポリ乳酸、ニトロセルロース、有機顔料、ゲル化剤、及び非芳香族系有機溶媒を含有する美爪料が開示されている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2には、ポリ乳酸を含有する水系分散体が開示されている。しかし、特許文献2に開示されるポリ乳酸含有水系分散体では、後述する比較例に示される通り、室温で透明な皮膜を形成することはできない。特許文献3に開示される美爪料は、ニトロセルロース及び有機溶剤を必須成分として含み、有機溶剤による引火性、溶剤臭、人体への影響、特に、爪そのものへの影響が懸念される。このような事情を踏まえ、室温で透明な皮膜形成が可能なポリ乳酸含有水系分散体を提供すること等が課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
室温で透明な皮膜形成が可能な処方を鋭意検討したところ、特定のジカルボン酸エステルを可塑剤として採用することにより、それが可能であることが見出された。
・・・
【発明の効果】
【0008】
室温で透明な皮膜形成が可能なポリ乳酸含有水系分散体が提供される。ポリ乳酸含有水系分散体、及び、それによって形成される皮膜は、生分解性及び/又はカーボンニュートラルという観点で優れている。ポリ乳酸含有水系分散体によって、環境に配慮した各種製品(例えば、化粧料)が提供される。」

(本b)「【0010】
ポリ乳酸は、分散安定化剤及び可塑剤の存在下で水に安定的に分散され、そのようにして得られる分散体は室温で透明皮膜の形成が可能であることが好ましい。このような観点及び皮膜に良好な生分解性を与えるという観点から、一実施形態において、ポリ乳酸を構成する総モノマー分子に占める乳酸モノマーの割合の下限値は、例えば、80モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上であり、上限は100モル%である。
【0011】
ポリ乳酸を構成する総モノマーに占める乳酸モノマーの割合(モル比)は、次のようにして求められる。ポリ乳酸を、重クロロホルム又は重ジメチルスルホキシドに溶解し、VARIAN社製 NMR装置400-MRを用いて、1H-NMR分析及び13C-NMR分析を行い、得られる積分比より、組成を求める。得られた組成をもとに乳酸モノマーの割合(モル比)を算出する。
【0012】
ポリ乳酸を構成する乳酸モノマーは、L-乳酸及びD-乳酸のいずれであってもよいが、上記と同様の観点から、ポリ乳酸を構成する総乳酸モノマーにおけるL-乳酸とD-乳酸とのモル比(L-乳酸/D-乳酸)の上限は、例えば、9以下であり、好ましくは7以下、より好ましくは5以下であり、下限は1である。
【0013】
ポリ乳酸を構成するD-乳酸とL-乳酸とのモル比(L/D)は、次のようにして測定される。ポリ乳酸を純水、1N水酸化ナトリウム及びイソプロピルアルコールの混合溶媒に添加し、70℃で加熱攪拌して加水分解する。これを濾過し、濾液中の固形分を除去した後、硫酸を加えて中和し、L-乳酸及びD-乳酸を含有する水溶液を得る。この水溶液を試料として、キラル配位子交換型のカラム(SUMICHIRAL OA-5000(株式会社住化分析センター製))を用いた高速液体クロマトグラフ(HPLC)でL-乳酸及びD-乳酸の量を測定する。L-乳酸由来のピーク面積とD-乳酸由来のピーク面積の比率より、モル比(L-乳酸/D-乳酸)を算出する。
【0014】
ポリ乳酸を構成する乳酸モノマーは、繰り返し単位とも呼ばれ、下記式1で示される構造を有する。
・・・
【0016】
ポリ乳酸は、乳酸モノマー以外のモノマー分子を有していても良い。そのようなモノマー分子は、特に制限されないが、例えば、カプロラクトン、グリコール酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、2-ヒドロキシ-2-メチル酪酸、10-ヒドロキシステアリン酸、リンゴ酸、クエン酸、及びグルコン酸等のオキシ酸、コハク酸、プロピレングリコール、並びにグリセリン等を挙げることができる。これらは、単独で用いても良く、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0017】
ポリ乳酸の還元粘度(ηSP/C)は、特に制限されないが、例えば、下限は、0.3dl/g以上であり、好ましくは0.4dl/g以上である。ポリ乳酸の還元粘度(ηSP/C)の上限は、例えば、1.5dl/g以下であり、好ましくは1.3dl/g以下であり、更に好ましくは1.2以下である。ポリ乳酸の還元粘度は、重合反応時の重合時間、重合温度、減圧の程度等の条件を変化させること、及び共重合成分として使用するアルコール成分の使用量を変化させることによって調整することができる。ポリ乳酸の還元粘度は、0.1gのポリ乳酸をフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶かし、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定される。
【0018】
ポリ乳酸のガラス転移温度(Tg)は、室温で透明な皮膜を形成するという観点から、その下限は、好ましくは20℃以上であり、好ましくは25℃以上であり、好ましくは30℃以上であり、好ましくは35℃以上である。一方、Tgの上限は、好ましくは60℃以下であり、好ましくは55℃以下であり、好ましくは53℃以下であり、好ましくは50℃以下である。ポリ乳酸のTgは、例えば、共重合成分の割合を変化させることにより調整することができる。ポリ乳酸のTgはDSC(示差走査熱量計)法により測定した値である。
【0019】
ポリ乳酸の数平均分子量は、特に制限されないが、室温で透明な皮膜を形成するという観点から、その下限は好ましくは10,000であり、より好ましくは30,000である。一方、ポリ乳酸の数平均分子量の上限は、好ましくは、90,000であり、より好ましくは70,000である。数平均分子量がこの範囲にあることにより、ポリ乳酸が分散体の中で適当な粒径で存在し、それが良好な透明皮膜の形成に資すると考えられる。
【0020】
ポリ乳酸の数平均分子量は次の手順で測定される。濃度が0.5質量%程度となるようにポリ乳酸をテトラヒドロフランに溶解し、これを孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブレンフィルターで濾過する。濾過したポリ乳酸について、ウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)Alliance GPCシステムを用いて30℃で数平均分子量を測定する。分子量標準サンプルにはポリスチレン標準物質を用いる。
【0021】
上記のような物性を満たすポリ乳酸は公知であり、例えば、特許文献1に開示される方法に従って製造することができる。合成方法としては、乳酸の二量体であるラクチドと、乳酸以外のモノマー分子を溶融混合し、公知の開環重合触媒(例えばオクチル酸スズ、アルミニウムアセチルアセトナート等)を使用して加熱開環重合させる方法や、加熱および減圧による直接脱水重縮合を行う方法等が挙げられる。また、乳酸の二量体であるラクチドのみを用いて合成することもできる。
【0022】
ポリ乳酸含有水系分散体中でのポリ乳酸の配合割合は、室温で透明皮膜が形成可能である限り特に制限されないが、例えば、重量換算で、下限は30%であり、好ましくは35%であり、上限は70%であり、好ましくは60%である。」

(本c)「【0023】
ポリ乳酸含有水系分散体は、室温での透明な皮膜形成が可能であるように、可塑剤を含有することが好ましい。そのような可塑剤としては、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、及びこれらの任意の混合物からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。これらはいずれも商業的に入手可能である。より好ましい可塑剤は、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、及びこれらの任意の組み合わせから成る群より選択される一種以上である。
【0024】
ポリ乳酸含有水系分散体における上記可塑剤の配合割合は、室温で透明皮膜が形成される限り特に制限されない。例えば、可塑剤は、ポリ乳酸100重量部に対して40重量部以下、好ましくは30重量部以下の割合で配合される。可塑剤の配合割合の下限は、特に制限されないが、例えば、ポリ乳酸100重量部に対して、3重量部以上、又は5重量部以上である。」

(本d)「【0025】
ポリ乳酸含有水系分散体は、ポリ乳酸を水系溶媒に安定的に分散させるために、分散安定化剤を含有することが好ましい。そのような分散安定化剤は、ポリ乳酸を安定的に水に分散させることができる限り特に制限されず、好ましくは、カチオン性高分子化合物、アニオン性高分子化合物、ポリビニルアルコール及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上である。カチオン性高分子化合物、及びアニオン性高分子化合物の平均分子量は特に制限されない。一実施形態において、カチオン性高分子化合物、及びアニオン性高分子化合物の平均分子量は、例えば、5000以上であり、好ましくは1万以上である。
【0026】
分散安定化剤として用いることができるカチオン性高分子化合物としては、例えば、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノプロピル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノプロピル、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジメチルアミノメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のカチオン性アクリル系モノマー、これらカチオン性アクリル系モノマーにハロゲン化アルキル、ジアルキル硫酸、モノクロル酢酸等を反応して得られる、例えばメタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、メタクリル酸ジエチルアミノエチルジメチル硫酸塩、メタクリル酸ジメチルアミノプロピルクロル酢酸塩等の4級アンモニウム塩等の単独重合体や共重合体が挙げられる。また、上記カチオン性アクリル系モノマーと、アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、アクリル酸ポリオキシエチレンエステル、アクリル酸アルコキシポリオキシエチレンエステル、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、メタクリル酸ポリオキシエチレンエステル、メタクリル酸アルコキシポリオキシエチレンエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、モルホリルアクリルアミド等のアクリルモノマー、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、トリエチレングリコールビニルエーテル、メトキシトリエチレングリコールビニルエーテル等のビニルエーテル類、ヒドロキシエチルアリルエーテル、テトラエチレングリコールアリルエーテル、メトキシエチレングリコールアリルエーテル等のアリルエーテル類、酢酸ビニル、モノクロル酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、メチルビニルイミダゾール等のビニルアミン類、ジアリルアンモニウムクロライド、或いは上記カチオン性アクリル系モノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとの共重合体等のアクリル系ポリマーが挙げられる。一実施形態において、ポリ乳酸含有水系分散体は、これらのカチオン性高分子化合物から成る群より選択される1種以上を含有することが好ましい。他の実施形態において、ポリ乳酸含有水系分散体は、これらのカチオン性高分子化合物から成る群より選択される1種以上を含有しないことが好ましい。
【0027】
分散安定化剤として用いることができる他のカチオン性高分子化合物としては、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリ-3-メチルプロピルイミン、ポリ-2-エチルプロピルイミン等の環状イミンの重合体、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の不飽和アミンの重合体等、これらの4級アンモニウム塩等のカチオン系ポリマーが挙げられる。また、これらのカチオン系ポリマーに、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ポリオキシアルキレン基、及びカルボキシアルキル基等から成る群より選択される一種以上が付加したポリマーを用いることもできる。アルキル基はアルキルハライドをカチオン系ポリマーと反応さることで付加することができる。ヒドロキシアルキル基は1,2-エポキシアルカンをカチオン系ポリマーと反応さることで付加することができる。アシル基は、脂肪酸またはアシルハライドをカチオン系ポリマーと反応さることで付加することができる。ポリオキシアルキレン基は酸化エチレンをカチオン系ポリマーと反応さることで付加することができる。カルボキシアルキル基はモノクロル酢酸及び/又はアクリル酸等をカチオン系ポリマーと反応さることで付加することができる。一実施形態において、ポリ乳酸含有水系分散体は、これらのカチオン性高分子化合物から成る群より選択される1種以上を含有することが好ましい。他の実施形態において、ポリ乳酸含有水系分散体は、これらのカチオン性高分子化合物から成る群より選択される1種以上を含有しないことが好ましい。
【0028】
カチオン性高分子化合物は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、及びセバシン酸等の二塩基酸類、並びに、これら二塩基酸類のアルキルエステル類、ヘキサメチレンジイソシアネートグリシジルエーテル、及びジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート類、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びオルソフタル酸ジグリシジルエーテル等のジエポキシ類、ソルビタンポリグリシジルエーテル、及びトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル類、尿素、グアニジン類、二塩基酸ジハライド、及びジアルデヒド等で架橋したものでも良い。
【0029】
カチオン性高分子化合物が、カチオン性アクリル系モノマーと他のモノマーとの共重合体である場合、カチオン性高分子化合物を構成するモノマー分子におけるカチオン性アクリル系モノマーの含有率は30モル%以上であることが好ましい。
【0030】
一実施形態において好ましいカチオン性高分子化合物は、(スチレン/アクリレーツ/メタクリル酸アンモニウム)共重合体、(エチレンジアミン/ダイマージリノール酸ステアリル)共重合体、アクリル酸アルキルコポリマーアンモニウム、(アクリレーツ/アクリル酸エチルヘキシル)コポリマー、アクリレーツコポリマーアンモニウム、(メタクリル酸ジエチルアミノエチル/HEMA/メタクリル酸パーフルオロヘキシルエチル)クロスポリマー、アクリル酸アルキルコポリマーアンモニウム、(ステアリン酸アリル/VA)コポリマー、及びこれらの任意の組み合わせから成る群より選択される1種以上である。
【0031】
カチオン性高分子化合物は、通常、適当な酸性化合物の塩の形態で用いるのが好ましい。酸性化合物としては、塩酸、硫酸、蟻酸、リン酸等の無機酸、酢酸、蓚酸、酒石酸、リンゴ酸、安息香酸、乳酸等の有機酸を挙げることができる。これらの酸性化合物及びその任意の組み合わせから成る群より選択される一種以上を使用することができる。安全性、価格、熱安定性、及び着色性等の観点から好ましい酸性化合物は、酢酸、リン酸、及び乳酸、並びにこれらの組み合わせから成る群より選択される1種以上である。
【0032】
一実施形態において好ましいカチオン性高分子化合物は、アクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、及びこれらの中和物等のモノマー、並びにこれらモノマーの4級塩から成る群より選択される少なくとも一種を主モノマー単位成分とするポリマーである。
【0033】
分散安定化剤として用いることができるアニオン性高分子化合物としては、例えば、不飽和モノカルボン酸系モノマー、不飽和ジカルボン酸系モノマー、及び不飽和スルホン酸系モノマー等から成る群より選択されるモノマーで構成されるホモポリマー、前記モノマーの任意の組み合わせからなる共重合体、前記モノマーと共重合可能な他のモノマー(以下、単に「他のモノマー」と呼ぶ。)との共重合体等が挙げられる。不飽和モノカルボン酸系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、これらの酸の中和物、及び部分中和物等が挙げられる。不飽和ジカルボン酸系モノマーとしては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、これらの酸の中和物、及び部分中和物等が挙げられる。不飽和スルホン酸系モノマーとしては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホエチルマレイミド、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、これら酸の中和物、及び部分中和物等が挙げられる。一実施形態において、ポリ乳酸含有水系分散体は、これらのアニオン性高分子化合物から成る群より選択される1種以上を含有することが好ましい。他の実施形態において、ポリ乳酸含有水系分散体は、これらのアニオン性高分子化合物から成る群より選択される1種以上を含有しないことが好ましい。
【0034】
上記他のモノマーとしては、特に制限されないが、例えば(メタ)アクリルアミド、イソプロピルアミド、及びt-ブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマー、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレン、2-メチルスチレン、及び酢酸ビニル等の疎水性モノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリルアルコール、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、3-メチル-3-ブテン-1-オール(イソプレノール)、ポリエチレングリコールモノイソプレノールエーテル、ポリプロピレングリコールモノイソプレノールエーテル、3-メチル-2-ブテン-1-オール(プレノール)、ポリエチレングリコールモノプレノールエステル、ポリプロピレングリコールモノプレノールエステル、2-メチル-3-ブテン-2-オール(イソプレンアルコール)、ポリエチレングリコールモノイソプレンアルコールエーテル、ポリプロピレングリコールモノイソプレンアルコールエーテル、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、グリセロールモノアリルエーテル、及びビニルアルコール等の水酸基含有モノマー、(メタ)アクリルアミドメタンホスホン酸、(メタ)アクリルアミドメタンホスホン酸メチルエステル、及び2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンホスホン酸等のリン含有モノマー、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、及びエトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0035】
アニオン性高分子化合物は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、及びセバシン酸等の二塩基酸類、並びに、これら二塩基酸類のアルキルエステル類、ヘキサメチレンジイソシアネートグリシジルエーテル、及びジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート類、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びオルソフタル酸ジグリシジルエーテル等のジエポキシ類、ソルビタンポリグリシジルエーテル、及びトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル類、尿素、グアニジン類、二塩基酸ジハライド、及びジアルデヒド等で架橋したものでも良い。
【0036】
アニオン性高分子化合物は、通常、適当な塩基性化合物の塩の形態で用いることが好ましい。このような塩基性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、モノエタノールアミン、及びジイソプロパノールアミン等のアミン化合物、並びにアンモニア等を挙げることができる。これらの酸性化合物及びその任意の組み合わせから成る群より選択される一種以上を使用することができる。
【0037】
一実施形態において好ましいアニオン性高分子化合物は、メタクリル酸又はその中和物を主モノマー単位成分とするポリマーである。
【0038】
分散安定化剤として用いるポリビニルアルコールは、特に制限されないが、その鹸化度は70?90モル%が好ましく、平均分子量は5?30万であることが好ましい。
【0039】
分散安定化剤として用いる非イオン性界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルポリグルコシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリコール、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等を挙げることができる。一実施形態において、ポリ乳酸含有水系分散体は、これらの非イオン性界面活性剤から成る群より選択される1種以上を含有することが好ましい。
【0040】
上述する分散安定化剤は、ポリ乳酸を安定的に水に分散させることができる限り、1種のみを用いても2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。一実施形態において、ポリ乳酸をより安定に分散させるという観点から、分散安定化剤は、カチオン性高分子化合物及び/又はアニオン性高分子化合物と非イオン性界面活性剤及び/又はポリビニルアルコールとを併用することが好ましい。
【0041】
ポリ乳酸含有水系分散体における分散安定化剤の配合割合は、ポリ乳酸を水系溶媒中に安定的に分散させることができる限り特に制限されない。例えば、分散安定化剤の配合割合の下限は、ポリ乳酸100重量部に対して0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上であり、上限は20重量部以下、好ましくは10重量部以下である。」

(本e)「【0042】
ポリ乳酸含有水系分散体に含有される水の種類は特に制限されず、ポリ乳酸含有水系分散体の使用目的に応じて適宜選択することができる。例えば、水道水、並びに、RO水、脱イオン水、蒸留水、及び精製水等の純水から適宜選択して使用することができる。
【0043】
ポリ乳酸含有水系分散体に含有される水の量は、ポリ乳酸を安定に分散させることが可能であり、常温で透明な皮膜が形成可能である限り特に制限されない。例えば、水は、水系分散体全量の30?70重量%、好ましくは40?60重量%である。」

(本f)「【0044】
一実施形態において、ポリ乳酸含有水系分散体においてポリ乳酸は略球形で分散しており、その平均粒径は、室温で透明な皮膜を形成するという観点から、好ましくは3μm未満であり、好ましくは2.5μm未満であり、好ましくは2μm未満であり、好ましくは1.5μm未満であり、好ましくは1.0μm未満である。平均粒径の下限は特にないが、例えば、0.01μm以上である。このような粒径を有する分散したポリ乳酸は、上述する好ましい物性を有するポリ乳酸、分散安定化剤、及び可塑剤を組み合わせて使用することによって得られる。
【0045】
分散したポリ乳酸の平均粒径は、水系分散体の製造直後に粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所株式会社性:LA-910型粒度分布測定装置)にて測定できる。
【0046】
一実施形態において、ポリ乳酸含有水系分散体の粘度は、室温で透明な皮膜を形成するという観点から、好ましくは100mPa・s以上であり、好ましくは150mPa・s以上である。粘度の上限は、例えば、1000Pa・s以下、好ましくは900Pa・s以下、好ましくは800Pa・s以下、好ましくは700Pa・s以下、好ましくは600Pa・s以下、好ましくは500mPa・s以下、好ましくは450mPa・s以下、好ましくは400mPa・s以下である。なお、粘度は、B型粘度計で測定できる。」

(本g)「【0047】
一実施形態において、ポリ乳酸含有水系分散体は、化粧料(例えば、ネイルマニキュア、マスカラ、又はアイライナー)に適した性質を有することが好ましい。例えば、ポリ乳酸含有水系分散体は、爪に塗布した際に室温で3分以内(好ましくは2分以内)に透明且つ艶のある皮膜を形成可能な性質を有することが好ましい。また、このようにして爪上に形成される皮膜は、除光液等を用いなくても水(又は温水)で簡単に洗い流すことができる性質を有することが好ましい。
【0048】
ポリ乳酸含有水系分散体は、その使用目的等に応じて、更に任意の成分を含有することができる。例えば、ポリ乳酸含有水系分散体は、増粘剤、表面平滑剤、流動性調製剤等を含有することができる。・・・」

(本h)「【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0065】
製造例1:ポリ乳酸A
L-ラクチド120g、DL-ラクチド80g、エチレングリコール0.3g、アセトアセチルアルミニウム180mgをフラスコ内に加え、窒素雰囲気下、180℃で3時間反応させた後、減圧によりラクチドモノマーを除去し、ポリ乳酸Aを作製した。
【0066】
製造例2:ポリ乳酸B
L-ラクチド120g、DL-ラクチド80g、エチレングリコール0.1g、オクチル酸スズ36mgをフラスコ内に加え、窒素雰囲気下、180℃で3時間反応させた後、減圧によりラクチドモノマーを除去し、ポリ乳酸Bを作製した。
【0067】
製造例3:ポリ乳酸C
L-ラクチド120g、DL-ラクチド80g、イセチオン酸ナトリウム1.1g、オクチル酸スズ36mgをフラスコ内に加え、窒素雰囲気下、180℃で3時間反応させた後、減圧によりラクチドモノマーを除去し、ポリ乳酸Cを作製した。
【0068】
製造例4:ポリ乳酸D
L-ラクチド108g、DL-ラクチド72g、カプロラクタム20g、ソルビトール1.0g、オクチル酸スズ37mgをフラスコ内に加え、窒素雰囲気下、180℃で3時間反応させた後、減圧によりラクチドモノマーを除去し、ポリ乳酸Dを作製した。
【0069】
試験例1:ポリ乳酸の物性
ポリ乳酸A?Dの数平均分子量、ガラス転移温度(Tg)、比重、還元粘度、ポリ乳酸を構成するL-ポリ乳酸とD-乳酸のモル比率(L/D)、及びポリ乳酸を構成する総モノマーに占める乳酸モノマーのモル比率(乳酸率)を測定した。これらの測定方法は、下記の通りである。また、測定結果を下記表1に示す。
【0070】
数平均分子量の測定方法
濃度が0.5質量%程度となるように各ポリ乳酸をテトラヒドロフランに溶解し、これを孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブレンフィルターで濾過した。ろ過したポリ乳酸について、ウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)Alliance GPCシステムを用いて30℃で数平均分子量を測定した。分子量標準サンプルにはポリスチレン標準物質を用いた。
【0071】
Tgの測定方法
5mgの各ポリ乳酸をアルミニウム製サンプルパンに入れて密封し、セイコーインスツルメンツ社製の示差走査熱量分析計「DSC-220」を用いて、一旦、昇温速度20℃/分で-20℃から120℃まで昇温し、任意の速度で冷却後、昇温速度10℃/分で-20℃から120℃まで昇温して、DSC曲線を測定した。得られた中点法によりガラス転移温度(Tg)を決定した。
【0072】
還元粘度の測定方法
0.1gの各ポリ乳酸をフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶かし、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。
【0073】
比重の測定方法
各ポリ乳酸を適当量はかりとり、電子比重計SD-200Lを用いて30℃で測定した。
【0074】
D-乳酸とL-乳酸とのモル比(L/D)の測定方法
各ポリ乳酸を純水、1N水酸化ナトリウム及びイソプロピルアルコールの混合溶媒に添加し、70℃で加熱攪拌して加水分解した。これを濾過し、濾液中の固形分を除去した後、硫酸を加えて中和し、L-乳酸及びD-乳酸を含有する水溶液を得た。この水溶液を試料として、キラル配位子交換型のカラム(SUMICHIRAL OA-5000(株式会社住化分析センター製))を用いた高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いてL-乳酸及びD-乳酸の量を測定した。L-乳酸由来のピーク面積とD-乳酸由来のピーク面積の比率より、モル比(L-乳酸/D-乳酸)を算出した。
【0075】
総モノマーに占める乳酸モノマーのモル比率の測定方法
ポリ乳酸15mgを0.5mLの重クロロホルムに溶解し、400MHzの核磁気共鳴(NMR)スペクトル装置(Varian製)を用いてプロトンの積分値を求め、それに基づいて乳酸モノマーのモル比率を求めた。測定条件は、室温、d1=26sであった。
【0076】
【表1】


【0077】
製造例5:ポリ乳酸含有水系分散体
ポリ乳酸Aを50g量り取り、100gの酢酸エチルに溶解した。この溶液に、0.3gのアクリルアミド/メタクリル酸コポリマー、及び15gの下記表1に示す各種可塑剤のいずれか、及び脱イオン水を62.5g加え、高圧分散機に仕込み、120℃に加熱し
て10,000rpmで3分間撹拌した後、40℃に冷却した。その後、加温濃縮にて酢酸エチルを除去してポリ乳酸Aが分散した水系分散体を得た。得られたポリ乳酸A含有水系分散体の固形分含量は、47.4重量%であり、平均粒径は0.5μmであり、粘度は330mPa・sである、pHは2.4であった。
【0078】
試験例2:製膜性評価
製造例5で得られたポリ乳酸A含有水系分散体をポリプロピレン板に塗布し、100μmの厚みとなるようにアプリケーターを用いて広げ、20、25、30、40、又は75℃で放置し60分後に製膜の有無、並びに、膜の透明性及びつやを評価した。これらの測定結果を下記表2に示す。
【0079】
【表2】


【0080】
表2において、○は透明な膜が形成されたことを意味し、△は若干透明感がある白い膜が形成されたことを示し、×は透明感のない真っ白な膜が形成されたことを意味する。興味深いことに、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、又はセバシン酸ジイソプロピルを用いた場合にのみ室温で透明な皮膜が形成された。膜が形成されたポリプロピレン版の下に黒文字(文字サイズ14pt)が書かれた白い紙を敷き、文字がはっきり確認できる場合を透明と判断した。膜に光沢が確認された場合に、つやがあると判断した。尚、表2において、*は、ポリ乳酸に使用可能な可塑剤として市販されている「DAIFATTY-101」(大八化学工業株式会社製)である。
【0081】
試験例3:製膜性評価
アクリルアミド/メタクリル酸コポリマーに代えてメタクリル酸ジメチルアミノエチルアクリルアミドコポリマーを用いた以外は、上記の製造例5と同様にしてポリ乳酸Aが分散した水系分散体を作製した。得られたポリ乳酸A含有水系分散体の固形分含量は、48.9重量%であり、平均粒径は0.5μmであり、粘度は398mPa・sである、pHは2.6であった。得られたポリ乳酸A含有水系分散体について上記試験例2と同様に製膜性を評価した。その結果を下記表3に示す。
【0082】
【表3】


【0083】
上記の通り、試験例2の場合と同様の結果が得られた。即ち、可塑剤として、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、又はセバシン酸ジイソプロピルを用いた場合にのみ室温で透明な皮膜が形成された。
【0084】
試験例4:製膜性評価
アクリルアミド/メタクリル酸コポリマーに代えてアクリル酸ジメチルアミノエチル/アクリルアミド/メタクリルアミドを用いた以外は、上記の製造例5と同様にしてポリ乳酸Aが分散した水系分散体を作製した。得られたポリ乳酸A含有水系分散体について上記試験例2と同様に製膜性を評価した。その結果、試験例2及び3と同様の結果が得られた。即ち、可塑剤として、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、又はセバシン酸ジイソプロピルを用いた場合にのみ室温で透明な皮膜が形成された。
【0085】
試験例5:製膜性評価
ポリ乳酸Aをポリ乳酸Bに変更した外上記の製造例5と同様にしてポリ乳酸Aが分散した水系分散体を作製した。得られたポリ乳酸B含有水系分散体について上記試験例2と同様に製膜性を評価した。その結果、試験例2及び3と同様の結果が得られた。即ち、可塑剤として、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、又はセバシン酸ジイソプロピルを用いた場合にのみ室温で透明な皮膜が形成された。
【0086】
上記の通り、試験例2と同様の結果が得られた。即ち、可塑剤として、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、又はセバシン酸ジイソプロピルを用いた場合にのみ室温で透明な皮膜が形成された。尚、ポリ乳酸Aをポリ乳酸C又はDに変更した場合も同様の結果が得られた。
【0087】
試験例6:製膜性評価
ポリ乳酸Aを下記表4に示す物性を満たすポリ乳酸に変更した外上記の製造例5と同様にしてポリ乳酸Aが分散した水系分散体を作製した。得られたポリ乳酸B含有水系分散体について上記試験例2と同様に製膜性を評価した。その結果、表2に示すいずれの可塑剤を用いた場合も、室温で膜形成は見られず分散体が乾燥した白い固形物が形成され、透明な膜を得ることはできなかった。
【0088】
【表4】


【0089】
試験例6:爪上での製膜性評価
製造例5で得られたポリ乳酸A含有水系分散体(可塑剤としてアジピン酸ジメチルを使用)をパネラーの爪に塗布し、2分間放置した後、製膜の有無を試験例2と同様に評価した。その結果、透明且つ艶のある膜の形成が確認された。」

2 各甲号証に記載された事項
(1)甲第1号証に記載された事項
本件特許に係る出願の優先日前の平成16年4月8日に頒布された刊行物である特開2004-107413号公報(甲第1号証)には、以下の事項が記載されている。

(甲1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂と生分解性を有する乳化剤とを混合して乳化し、次いで、可塑剤を100℃以下で添加することにより得られるポリ乳酸系樹脂水分散体。
【請求項2】
ポリ乳酸系樹脂100重量部に対し、生分解性を有する乳化剤1?25重量部、可塑剤5?50重量部からなる請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂水分散体。
【請求項3】
ポリ乳酸系樹脂が、ポリ乳酸単独又はポリ乳酸と他の生分解性ポリエステルからなる樹脂である請求項1または2に記載のポリ乳酸系樹脂水分散体。
【請求項4】
他の生分解性ポリエステルが、テレフタル酸、アジピン酸およびブタンジオールからなるポリエステル、ポリブチレンサクシネートならびにポリカプロラクトンからなる群より選択される少なくとも一つの生分解性ポリエステルである請求項3に記載のポリ乳酸系樹脂水分散体。
【請求項5】
生分解性を有する乳化剤が、ポリビニルアルコールである請求項1?4の何れかに記載のポリ乳酸系樹脂水分散体。
【請求項6】
可塑剤が、多塩基酸エステル、多価アルコールエステル、オキシ酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つの可塑剤である請求項1?5の何れかに記載のポリ乳酸系樹脂水分散体。
【請求項7】
請求項1?6の何れかに記載のポリ乳酸系樹脂水分散体であって、ポリ乳酸系樹脂の粒子径が2.0μm以下であるポリ乳酸系樹脂水分散体。
【請求項8】
請求項1?7の何れかに記載のポリ乳酸系樹脂水分散体を乾燥することにより得られる粒子。
【請求項9】
請求項1?7の何れかに記載のポリ乳酸系樹脂水分散体又は請求項8に記載の粒子から形成される被膜。
【請求項10】
請求項1?7の何れかに記載のポリ乳酸系樹脂水分散体又は請求項8に記載の粒子から形成される被膜であって、25℃以下で成膜する被膜。
【請求項11】
ポリ乳酸系樹脂と生分解性を有する乳化剤とを混合し乳化し、次いで、100℃以下で生分解性を有する可塑剤を添加するポリ乳酸系樹脂水分散体の製造方法。」

(甲1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、容易にコンポスト中で生分解し、土壌、河川、海洋中で水と二酸化炭素に分解することで廃棄が容易であり、耐候性、加工性、耐油性、耐薬品性、耐腐食性及び樹脂、金属、紙、繊維、木材等の材料との密着性などにも優れた被膜および微粒子を形成することができ、室温で乾燥させることにより成膜及び接着し、特にポリ乳酸を原料とする、フィルム、シート、繊維、不織布などとの密着性に富み、さらにポリ乳酸を可塑化することで、柔軟性、耐衝撃性、低温成膜性を改良した生分解性樹脂水分散体、その微粒子及びその被膜に関するものである。
・・・
【0003】
ポリ乳酸の単量体である乳酸はトウモロコシやイモなどの天然素材を原料としており、石油資源と異なり枯渇する可能性が無く、近年大量かつ安価に製造されるようになった。ポリ乳酸樹脂は土壌や海洋中で数年内に水と二酸化炭素に分解される性質を持ち、安全性が高く人体に無害である。さらにその水分散体は、優れた塗膜加工性、各種基材への密着性を利用して、・・・、シャンプー、リンス、化粧品、乳液、整髪料、メイク落し、香水、ローション、軟膏、抗菌塗料などトイレタリー製品の利用分野で幅広く用いられる可能性がある。
・・・
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を解決するために、密着性、耐油性、耐薬品性、耐食性、防カビ性に優れ、さらには低温での成膜性、低温接着性、柔軟性、耐衝撃性、透明性、引張り破断伸び率に優れたポリ乳酸水分散を提供することにある。」

(甲1c)「【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においてポリ乳酸系樹脂とは、ポリ乳酸単独又はポリ乳酸と他の生分解性ポリエステルからなる樹脂とを混合することにより得られる樹脂である。
本発明において、ポリ乳酸とは乳酸の単量体及び2量体から重合される高分子のことである。原料である乳酸の具体例としては、乳酸単量体としてL-乳酸、D-乳酸、DL-乳酸又はそれらの混合物、乳酸の環状2量体としてL-ラクタイド、D-ラクタイド、DL-ラクタイドを挙げることができる。本発明において使用されるポリ乳酸の製造方法の具体例としては、例えば、乳酸又は乳酸とヒドロキシカルボン酸の混合物を原料として、直接脱水重縮合する方法(例えば、USP 5,310,865号に示されている製造方法)、乳酸の環状二量体(ラクタイド)を溶融重合する開環重合法(例えば、米国特許2,758,987号に開示されている製造方法)、乳酸とヒドロキシカルボン酸の環状2量体、例えば、ラクタイドやグリコライドとε-カプロラクトンを、触媒の存在下、溶融重合する開環重合法(例えば、米国特許4,057,537号に開示されている製造方法)、乳酸、ジアルコール成分とジカルボン酸成分の混合物を、直接脱水重縮合する方法(例えば、米国特許5,428,126号に開示されている製造方法)、ポリ乳酸とジアルコールとジカルボン酸とのポリマーを、有機溶媒存在下に縮合する方法(例えば、欧州特許公報0712880 A2号に開示されている製造方法)等を挙げることができるが、その製造方法には、特に限定されない。少量のヒドロキシブタン酸などのヒドロキシアルカン酸を含むポリエステル共縮合体や、ジアルコール成分とジカルボン酸成分などと共縮合しているもの、又ジイソシアネート化合物等のような結合剤(高分子鎖延長剤)を用いて分子量を延長したものも含む。」

(甲1d)「【0008】
本発明において乳化剤とは、上述したポリ乳酸及び他の生分解性樹脂を水中で安定させる物質であるが、ここではポリビニルアルコールが好ましく、アニオン又はノニオン系界面活性剤を組合せて使用することもできる。
【0009】
本発明において生分解性を有する乳化剤とは、上述したポリ乳酸及び他の生分解性樹脂を水中で安定させる物質であるが、ここではポリビニルアルコールが好ましい。また、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアニオン又はノニオン系界面活性剤を組合わせて使用することもできる。
【0010】
本発明においてポリビニルアルコールとはポリ酢酸ビニルをけん化することで得られる完全けん化及び部分けん化ポリビニルアルコールのことをいうが、生分解性などから部分けん化ポリビニルアルコールが好ましい。」

(甲1e)「【0015】
本発明において可塑剤とはポリ乳酸及び他の生分解性樹脂に目的とする柔軟性(弾性率10000kgf/cm2以下)を付与することを目的とし、生分解性を有し、更に、ポリ乳酸との相溶性が良好である必要があり、一種又は二種以上の混合物として用いる事もできる。また、本水分散体から得られる被膜は、引張破断強度が1.0MPa以上かつ引張破断伸び率が100%以上であることを特徴とする。この様な可塑剤としては、多価カルボン酸エステル、多価アルコールエステル、オキシ酸エステル、ロジンエステル等が挙げられる。多塩基酸エステルとしては、例えば、ジメチルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等が挙げられる。
【0016】
多価アルコールエステルとしては、例えば、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ポリエチレングリコールモノオレイルエーテル、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノオレイルエーテル、トリアセチン、グリセリントリプロピオネート、等が挙げられる。
【0017】
オキシ酸エステル類としては、例えば、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチル、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。特に、トリアセチン、アセチルクエン酸トリブチル、ジブチルセバケート、トリエチレングリコールジアセテート、グリセリンジアセトモノラウレート、ジグリセリンテトラアセテート等が挙げられる。
【0018】
ロジンエステルとしては、アビエチン酸メチル、アビエチン酸ジエチルグリコール、2-ヒドロアビエチン酸ジエチレングリコール、2-ヒドロキシアビエチン酸ジエチレングリコールなど及びその水添物、ロジンのモノエチレングリコールエステル、ロジンのペンタエリトリットエステルなどが挙げられる。
・・・
【0021】
可塑剤の添加量は、可塑化効果が十分となり目的の柔軟性を付与し、組成物の耐熱性を維持し、可塑剤のブリードアウトを避けるには高分子成分(A)100重量部に対し、5?50重量部、好ましくは10?30重量部が良い。」

(甲1f)「【0022】
本発明に係るポリ乳酸系樹脂組成物には、目的(例えば、引張強度、耐熱性、耐候性等の向上)に応じて各種添加剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、内部離型剤、無機添加剤、帯電防止剤、表面ぬれ改善剤、焼却補助剤、顔料等滑剤、滑剤、増粘剤)などを添加することができる。
【0023】
本発明における微粒子とは、直径0.01μm?100μmのポリ乳酸水性分散体乾燥することで得られる粒子である。本発明における被膜とは、膜厚が0.01?1μmの薄膜及び1μm?500μmの厚膜であるが、ポリ乳酸水分散体を乾燥すること及び微粒子を熱処理することで得られる。」

(甲1g)「【0025】
本発明のポリ乳酸水性分散体は、優れた生分解性、耐候性、加工性、密着性、洗浄性さらには低温成膜性や低温での熱接着性を利用して、種々の用途に展開することが可能である。例えば・・・歯磨、シャンプー、リンス、化粧品、乳液、整髪料、メイク落し、香水、ローション、軟膏、抗菌塗料等が考えられる。これらは下水を通じて環境中に放出されるが、容易に生分解し、毒性も極めて低く大変有用である。農業、園芸用農薬又は肥料の徐放剤では土壌で分解しながら持続的に効果を発揮し、コーティングした樹脂は土壌で分解するため、環境負荷が少ないなど大変有用である。」

(甲1h)「【0028】
【実施例】
以下に本発明の好適な実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、これらの実施例はいかなる点においても本発明の範囲を限定するものではない。実施例中に部とあるのは重量部を表わす。
【0029】
各種の特性値の測定方法は以下の方法で行った。
1.水分散体の分散状態
100メッシュの金網に分散液を通過させることにより調べた。
2.水分散体の粒径(μm)
マイクロトラックHRA(ハネウエル社製)にて、体積50%平均粒径を測定した。
3.水分散体のpH
pHメーター(HORIBA製)により測定した。
4.水分散体被膜の生分解性
100μmのポリ乳酸フィルムに水分散体を10μmの厚さで塗工し、40℃にて乾燥した。被膜形成したフィルムを28日間、25℃にてコンポスト中に埋設し、生分解性評価を目視にて行った。その結果を○、△、×の3段階で評価した。
5.最低成膜温度試験
塗工膜の厚さが10μmとなるようにバーコーダーにてアルミニウム箔に塗布し、最低成膜温度測定装置(高林理化製)にて5?70℃までの成膜温度を測定した。目視及び顕微鏡により表面の成膜性を確認した。最低の成膜温度を表1に示す。
6.ポリ乳酸系フィルムの引張破断強度、引張破断伸び率試験
塗工膜が100μmになるようにポリエチレンテレフタレートフィルムに塗工し、40℃(比較例1のみ80℃)で1時間乾燥後、試験片を引張り試験機(AGS-500B,島津製作所製)を用い、フィルム破断強度、破断伸び率を測定した。測定条件としてはチャック間距離20mm、引張り速度20mm/分で行なった。
7.被膜の透明性
目視にて実施した。
【0030】
〔製造例:ポリ乳酸〕
L-ラクタイドとD‐ラクタイドを72/18の比率で調製し、L-及びD-ラクタイドに対して触媒としてオクタン酸第一錫0.1%とラウリルアルコールの0.03%を仕込、真空で2時間脱気後、窒素置換して200℃/10mmHgで2時間攪拌しながら脱水縮合反応し、下部取り出し口からポリ乳酸溶融物を抜き出し、空冷し、ペレタイザーでカットした。最終的に得られたポリ乳酸は重量平均分子量170,000であった。
【0031】
〔実施例1〕
L-乳酸/D-乳酸の比率が72/18のポリ乳酸を85部、部分けん化ポリビニルアルコールを15部の混合物を、100部/時間の速度で、同方向回転型二軸押出機(池貝鉄工製、PCM-30、L/D=40)に供給し、設定温度180℃、スクリュー回転数150rpmで溶融混練するとともに、同押出機の中間部に設けた供給口より水を40部/時間の速度で連続的に供給した。押出された樹脂等混合物は、同押出機出口に設置した単軸押出機を通過させることにより90℃まで冷却し、吐出させた。吐出物は白色又は白色透明の固体であり、乾燥前後の重量差から計算される固形分濃度は重量%であった。この水分散体を温水中に加えると微細分散し、白色の水分散体が得られた。その固形分濃度が40?50重量%となるよう調整し、100メッシュの金網にて濾過したが、未分散物は認められず、分散状態は良好であった。この水分散体の分散粒子の体積50%平均粒径は1.0μm、pHは3.8であった。この水分散体を、アセチルトリブチルクエン酸20部を徐々に加えて行き、1時間程度攪拌することで当該水分散体を得た。
またこの水分散体を厚さ125μmのコロナ処理ポリエチレンテレフタレートフィルム上に乾燥後の塗膜の厚さが10μmとなるようにバーコーターを用いて塗布した後、180℃で1分間乾燥した。得られた被膜の密着性は良好であった。またこれを25℃で3日間または60℃で2時間水に浸漬した後の被膜はいずれも白化はなく、密着性も良好であり、優れた、良好な生分解性を示した。評価結果を表1に示す。」

(甲1i)「【0032】
〔実施例2〕
アセチルクエン酸トリブチルの代わりにトリアセチンを用いた以外は実施例1同様に水分散体を得て、評価した。評価結果を表1に示す。
【0033】
〔実施例3〕
アセチルクエン酸トリブチルの代わりにグリセリンジアセトモノラウレートを用いた以外は実施例1同様に水分散体を得て、評価した。評価結果を表1に示す。
【0034】
〔実施例4〕
アセチルクエン酸トリブチルを20部加える代わりに10部加えた以外は実施例1と同様に水分散体を得て評価した。評価結果を表1に示す。
【0035】
〔実施例5〕
アセチルクエン酸トリブチル20部加える代わりに40部加えた以外は実施例1と同様に水分散体を得て評価した。評価結果を表1に示す。
・・・
【0039】
【表1】




(2)甲第2号証に記載された事項
本件特許に係る出願の優先日前の平成18年9月7日に頒布された刊行物である特開2006-232975号公報(甲第2号証)には、以下の事項が記載されている。

(甲2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(I)と、グリシジル基および/またはイソシアネート基を1分子あたり2個以上含有し重量平均分子量200以上50万以下である反応性化合物(II)を含むことを特徴とするポリエステル樹脂用改質剤。
・・・
【請求項10】
ポリ乳酸樹脂(I)と、グリシジル基および/またはイソシアネート基を1分子あたり2個以上含有し重量平均分子量200以上50万以下である反応性化合物(II)と、非晶性ポリエステル樹脂(III)が含まれるポリエステル樹脂組成物。
【請求項11】
ポリ乳酸樹脂(I)のL-乳酸残基とD-乳酸残基のモル比(L/D)が90/10?10/90である請求項10に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項12】
ポリ乳酸樹脂(I)の酸価が、5?80当量/106gであることを特徴とする請求項10または11に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項13】
ポリ乳酸樹脂(I)が、ポリグリセリンセグメントを含む請求項10?12のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項14】
ポリグリセリンの重合度が、3?20の範囲にある請求項13に記載のポリエステル樹
脂組成物。
【請求項15】
ポリ乳酸樹脂(I)が、スルホン酸金属塩基を有する請求項10?14のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項16】
スルホン酸金属塩基に由来する硫黄原子の濃度が2500ppm以下である請求項15に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項17】
ポリ乳酸樹脂(I)が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールおよびこれら3種のエチレンオキサイド付加物、ポリカプロラクトンならびにダイマージオールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を0.01モル以上含むことを特徴とする請求項10?16のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項18】
反応性化合物(II)が、(X)20?99重量%のビニル芳香族モノマー、(Y)1?80重量%のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたは、グリシジルアルキル(メタ)アクリレート、および(Z)0?79重量%のアルキル(メタ)アクリレートからなる共重合体であることを特徴とする請求項10?17のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項19】
非晶性ポリエステル樹脂(III)が、炭素数8?14の芳香族ジカルボン酸と炭素数2?10の脂肪族または脂環族グリコールを酸成分とグリコール成分それぞれの50モル%以上含むことを特徴とする請求項10?18のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項20】
炭素数8?14の芳香族ジカルボン酸が、テレフタル酸および/またはイソフタル酸であることを特徴とする請求項19に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項21】
炭素数2?10の脂肪族または脂環族グリコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール1,4-ブタンジオールおよびトリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項19または20に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項22】
非晶性ポリエステル樹脂(III)が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールおよびこれら3種のエチレンオキサイド付加物、ポリカプロラクトンならびにダイマージオールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を0.01モル以上含むことを特徴とする請求項10?21のいずれかに記載のポリエステル樹脂用改質剤。
【請求項23】
非晶性ポリエステル樹脂(III)が、モノマー成分としてカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を3個以上有する多官能化合物単位を、酸成分および/またはグリコール成分それぞれの0.001?5モル%含有することを特徴とする請求項10?22のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項24】
ポリ乳酸樹脂(I)と、グリシジル基および/またはイソシアネート基を1分子あたり2個以上含有し重量平均分子量200以上50万以下である反応性化合物(II)と、結晶性ポリエステル樹脂(IV)が含まれるポリエステル樹脂組成物。
【請求項25】
ポリ乳酸樹脂(I)のL-乳酸残基とD-乳酸残基のモル比(L/D)が90/10?10/90である請求項24に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項26】
ポリ乳酸樹脂(I)の酸価が、5?80当量/10^(6)gであることを特徴とする請求項24または25に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項27】
ポリ乳酸樹脂(I)が、ポリグリセリンセグメントを含む請求項24?26のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項28】
ポリグリセリンの重合度が、3?20の範囲にある請求項27に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項29】
ポリ乳酸樹脂(I)が、スルホン酸金属塩基を有する請求項24?28のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項30】
スルホン酸金属塩基に由来する硫黄原子の濃度が2500ppm以下である請求項29に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項31】
ポリ乳酸樹脂(I)が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールおよびこれら3種のエチレンオキサイド付加物、ポリカプロラクトンならびにダイマージオールからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を0.01モル以上含むことを特徴とする請求項24?30のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
・・・」

(甲2b)「【0045】
ポリ乳酸樹脂(I)の還元粘度(ηsp/c)は0.1?1.5dl/gであることが望ましい。還元粘度が0.1dl/g未満だと、顔料分散性が低下することがあり、1.5dl/gを越えても顔料分散性が低下する場合がある。還元粘度の好ましい範囲は0.15?1.0dl/g、より好ましくは0.2?0.8dl/gである。尚、ポリ乳酸樹脂(I)の還元粘度はサンプル濃度0.125g/25ml、測定溶剤クロロホルム、測定温度25℃でウベローデ粘度管を用いて測定した値である。」

(甲2c)「【0083】
本発明において、改質剤やそれと非晶性ポリエステル樹脂(III)および/または結晶性ポリエステル樹脂(IV)からなる樹脂組成物には、用途に応じて他の成分も適宜添加することができる。例えば、耐衝撃性向上剤、充填剤、紫外線吸収剤、表面処理剤、滑剤、光安定剤、顔料、帯電防止剤、抗菌剤、架橋剤、イオウ系酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、加工助剤、発泡剤等が挙げられる。」

(甲2d)「【実施例】
【0084】
本発明を更に詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。合成例に記載された測定値は以下の方法によって測定したものである。
・・・
【0090】
ポリ乳酸の還元粘度:サンプル0.125mgを測定溶剤クロロホルム25ccに溶かし、25℃の測定温度、ウベローデ粘度管で測定した。
・・・
【0092】
<ポリ乳酸樹脂(a)の合成例>
L-ラクタイド400重量部およびオクタン酸第一スズ0.04重量部と、ラウリルアルコール0.12重量部を、攪拌機を備えた肉厚の円筒型ステンレス製重合容器へ封入し、真空で2時間脱気した。窒素ガスで置換した後、200℃/10mmHgで2時間加熱攪拌した。反応終了後、下部取り出し口からポリ乳酸 の溶融物を抜き出し、空冷し、ペレタイザーにてカットした。得られたポリ乳酸樹脂(a) は、収量340重量部、収率85%、重量平均分子量(Mw)13.8万であった。樹脂特性と組成を表1に示す。
【0093】
<ポリ乳酸樹脂(b)の合成例>
Dien-Starkトラップを設置した反応器に、90%L-乳酸100重量部、錫末0.45重量部を装入し、150℃/50mmHgで3時間攪拌しながら水を留出させた後、150℃/30mmHgでさらに2時間攪拌してオリゴマー化した。このオリゴマーにジフェニルエーテル210重量部を加え、150℃/35mmHg共沸脱水反応を行い、留出した水と溶媒を水分離器で分離して溶媒のみを反応機に戻した。2時間後、反応機に戻す有機溶媒を46重量部のモレキュラシーブ3Aを充填したカラムに通してから反応機に戻るようにして、130℃/17mmHgで20時間反応を行い、重量平均分子量(Mw)15.0万のポリ乳酸 溶液を得た。この溶液に脱水したジフェニルエーテル440重量部を加え希釈した後、40℃まで冷却して、析出した結晶を瀘過した。この結晶に0.5N-HCl120重量部とエタノール120重量部を加え、35℃で1時間撹拌した後瀘過し、60℃/50mmHgで乾燥して、ポリ乳酸 粉末61重量部(収率85%)を得た。この粉末を押出機で溶融しペレット化し、ポリ乳酸 のペレットを得た。このポリマーの重量平均分子量(Mw)は14.7万であった。
【0094】
またポリ乳酸樹脂(c)?(f)は、ポリ乳酸樹脂(a)と同様にして、原料としてDL-ラクチドを併用(または使用)して製造を行った。5-ナトリウムスルホイソフタル酸のビスエチレングリコール、カプロラクトン、ポリグリセリンはそれぞれの量を開始剤として用いて共重合を行った。組成、及び測定結果を表1に示す。(数値は樹脂中のモル%)
【0095】
【表1】



(3)甲第3号証に記載された事項
本件特許に係る出願の優先日前の平成18年1月26日に頒布された刊行物である特開2006-022242号公報(甲第3号証)には、以下の事項が記載されている。

(甲3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
異性体比率が8%以上の低結晶性乃至非晶性のポリ乳酸を主たる成分とし、ポリ酢酸ビニルまたはその部分ケン化物を必須成分として2%以上20%未満含むポリ乳酸系樹脂組成物からなるポリ乳酸系樹脂発泡粒子。
【請求項2】
樹脂組成物の樹脂成分がイソシアネート基に由来する尿素結合、ウレタン結合、アロファネート結合の少なくとも1種以上の結合で架橋されていることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系樹脂発泡粒子。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂発泡粒子を成形してなる成形体。」

(甲3b)「【0024】
なお、本発明の樹脂組成物中には、難燃剤、帯電防止剤、柔軟剤、顔料/染料のごとき着色剤、造核剤などを含んでいてもよい。」

(甲3c)「【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。
[製造例1]
D体比率10%、数平均分子量10万、重量平均分子量21万、残留ラクチド0.2%のポリ乳酸(PLA-1)とゴーセニールPV-500(日本合成化学工業(株))を二軸押出機(東芝機械(株)製 TEX35B、L/D=35)を用いて混合比99/1?80/20の混合率でポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製、MR200)2%とともに溶融混練し、水中カッターを用いて約1mmφのビーズ状樹脂組成物とした。
【0030】
[製造例2]
D体比率10%、数平均分子量10万、重量平均分子量21万、残留ラクチド0.2%のポリ乳酸(PLA-1)を二軸押出機(東芝機械(株)製 TEX35B、L/D=35)を用いてポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製、MR200)2%とともに溶融混練し、水中カッターを用いて約1mmφのビーズ状樹脂組成物とした。
【0031】
[製造例3]
D体比率4.5%、数平均分子量11万、重量平均分子量22万、残留ラクチド0.2%のポリ乳酸(PLA-2)とゴーセニールPV-500(日本合成化学工業(株))を二軸押出機(東芝機械(株)製 TEX35B、L/D=35)を用いて混合比PLA-2/PV-500=10/90の混合率でポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製、MR200)2%とともに溶融混練し、水中カッターを用いて約1mmφのビーズ状樹脂組成物とした。
【0032】
[製造例4]
D体比率7.5%、数平均分子量11万、重量平均分子量22万、残留ラクチド0.2%のポリ乳酸(PLA-3)とゴーセニールPV-500(日本合成化学工業(株))を二軸押出機(東芝機械(株)製 TEX35B、L/D=35)を用いて混合比PLA-2/PV-500=10/90の混合率でポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製、MR200)2%とともに溶融混練し、水中カッターを用いて約1mmφのビーズ状樹脂組成物とした。
【0033】
[製造例5]
D体比率12%、数平均分子量9万、重量平均分子量17万、残留ラクチド0.2%のポリ乳酸(PLA-4)とゴーセニールPV-500(日本合成化学工業(株))を二軸押出機(東芝機械(株)製 TEX35B、L/D=35)を用いて混合比PLA-2/PV-500=10/90の混合率でポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製、MR200)2%とともに溶融混練し、水中カッターを用いて約1mmφのビーズ状樹脂組成物とした。」

(4)甲第4号証に記載された事項
本件特許に係る出願の優先日前の平成20年2月14日に頒布された刊行物である特表2008-504404号公報(甲第4号証)には、以下の事項が記載されている。

(甲4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端水酸基若しくはカルボン酸基、又は末端水酸基及びカルボン酸基の両反応基を持つポリラクチド樹脂と、1分子当たり平均2?15個の遊離エポキシ基を持つアクリルポリマー又はコポリマーとの反応産物からなる、長鎖の分枝を持つ溶融加工可能なポリラクチド樹脂。
【請求項2】
前記反応産物において、前記アクリルポリマー又はコポリマーが、開始ポリラクチド樹脂1モル当たり0.5モル以下である請求項1に記載のポリラクチド樹脂。
【請求項3】
前記アクリルポリマー又はコポリマーが、開始ポリラクチド樹脂1モル当たり0.05?0.4モルである請求項2に記載のポリラクチド樹脂。
【請求項4】
前記開始ポリラクチド樹脂が、分子当たり平均0.8?1.5個のカルボキシル基を含有する請求項2に記載のポリラクチド樹脂。
【請求項5】
前記開始ポリラクチド樹脂が、ポリスチレンを標準物質としたゲル浸透クロマトグラフィーによる測定で、数平均分子量が30,000?250,000である請求項4に記載のポリラクチド樹脂。
【請求項6】
前記開始ポリラクチド樹脂が、1分子当たり平均0.8?1.25個の末端カルボン酸基を有し、かつ前記アクリルポリマー又はコポリマーが、1分子当たり、平均2?10個の遊離エポキシ基を有する請求項1に記載のポリラクチド樹脂。
【請求項7】
溶融加工可能なポリラクチド樹脂とアクリルポリマー又はコポリマーとの混合物を該ポリラクチド樹脂のガラス転移温度以上まで加熱する工程からなる方法であって、該ポリラクチド樹脂が少なくとも40℃のガラス転移温度を有し、かつ末端水酸基若しくはカルボン酸基、又は末端巣酸基及びカルボン酸基の両反応基を有し、該アクリルポリマー又はコポリマーが1分子当たり平均2?15個の遊離エポキシ基を持つ溶融加工可能なポリラクチド樹脂に長鎖分枝を導入する方法。
【請求項8】
開始ポリラクチド樹脂に対するアクリルポリマー又はコポリマーのモル比が0.5以下である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
開始ポリラクチド樹脂に対するアクリルポリマー又はコポリマーのモル比が0.05?0.4である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記開始ポリラクチド樹脂が、分子当たり平均0.8?1.5個のカルボキシル基を含有する請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記開始ポリラクチド樹脂が、ポリスチレンを標準物質としたゲル浸透クロマトグラフィーによる測定で、数平均分子量が30,000?250,000である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記開始ポリラクチド樹脂が、1分子当たり平均0.8?1.25個の末端カルボン酸基を有し、かつ前記アクリルポリマー又はコポリマーが、1分子当たり、平均2?10個の遊離エポキシ基を有する請求項7に記載の方法。
【請求項13】
遊離エポキシ基を有するポリラクチド樹脂。
【請求項14】
開始ポリラクチド樹脂と、1分子当たり平均2?10個の遊離エポキシ基を持つアクリルポリマー又はコポリマーとの反応産物であって、開始ポリラクチド樹脂1モルに対し、アクリルポリマー又はコポリマーが0.5?20モルの反応産物である請求項13に記載のポリラクチド樹脂。
【請求項15】
前記開始ポリラクチド樹脂が、分子当たり平均0.8?1.5個のカルボキシル基を含有する請求項14に記載のポリラクチド樹脂。
【請求項16】
前記開始ポリラクチド樹脂が、ポリスチレンを標準物質としたゲル浸透クロマトグラフィーによる測定で、数平均分子量が30,000?250,000である請求項15に記載のポリラクチド樹脂。
【請求項17】
前記開始ポリラクチド樹脂が、1分子当たり平均0.8?1.25個の末端カルボン酸基を有し、かつ前記アクリルポリマー又はコポリマーが、1分子当たり、平均2?10個の遊離エポキシ基を有する請求項16に記載のポリラクチド樹脂。
【請求項18】
末端水酸基又はカルボン酸基を有する溶融加工可能ポリラクチド樹脂と、1分子当たり平均2?15個の遊離エポキシ基を有する固体アクリルポリマー又はコポリマーとの乾式混合物。
【請求項19】
ポリラクチド樹脂に対するアクリルポリマー又はコポリマーのモル比が0.5以下である請求項18に記載の乾式混合物。
【請求項20】
ポリラクチド樹脂に対するアクリルポリマー又はコポリマーのモル比が0.05?0.4である、請求項19に記載の乾式混合物。
【請求項21】
前記ポリラクチド樹脂が、1分子当たり0.8?1.5個の末端カルボン酸基を有し、かつ前記アクリルポリマー又はコポリマーが、1分子当たり、平均2?10個の遊離エポキシ基を有する請求項18に記載の乾式混合物。
・・・」

(甲4b)「【0035】
本発明の分枝型PLA樹脂は、抗酸化剤、保存剤、触媒不活剤、安定剤、可塑剤、充填剤、核生成剤、全種類の染料、及び膨張剤を含め、あらゆる種類の添加剤と混合することができる。分枝型PLA樹脂は他の樹脂と混合出来て、また他の材料を薄板で覆ったり、同時押し出しして複雑なかたちを形成できる。」

(甲4c)「【0038】
実施例1?4及び比較試料A
・・・
【0043】
実施例5?7及び比較試料B.
PLA樹脂Bは、1重量%のクロロホルム溶液として、30℃で相対粘度3.04を有する、90.5%L-及び9.5%D-ラクチドのコポリマーである。このMwは約170,000である。PLA樹脂Bは約1末端カルボキシル基/分子及び1末端水酸基/分子を有する。
実施例5?7の分枝型PLA樹脂は、実施例1?4に記載されたと同一の方法で合成され、評価される。
・・・
【0050】
実施例16?20及び比較試料E
マスターバッチを、?90,000のMnと?170,000のMwを持つPLA樹脂Bのロット及びJoncryl(R)4368アクリルポリマーから、34-mm、11-加熱ゾーンを持つ押し出し機を用いて合成する。実施例16の場合、ゾーン1に対する加熱ゾーン温度は170℃、ゾーン2に対しては180℃、ゾーン3?10に対しては200℃、そしてゾーン11に対しては220℃である。実施例17における加熱ゾーン温度は、最終ゾーンの温度が225℃である以外は、同一である。実施例16において、PLA樹脂を約20ポンド/時間の速度で供給し、アクリル樹脂を約2ポンド/時間の速度で供給する。実施例17において、供給速度はそれぞれ、18及び2ポンド/時間である。これはPLA樹脂モル当たり、約19.64当量のエポキシ基に対応する。・・・」

(5)甲第5号証に記載された事項
本件特許に係る出願の優先日前の平成14年4月2日に頒布された刊行物である特開2002-097359号公報(甲第5号証)には、以下の事項が記載されている。

(甲5a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 乳酸残基を80?100モル%含有し、そのうちL-乳酸とD-乳酸のモル比(L/D)が1?9である生分解性ポリエステルが溶媒に溶解されていることを特徴とする生分解性ポリエステル溶解物。
【請求項2】 生分解性ポリエステル中に、乳酸以外のオキシ酸、コハク酸、プロピレングリコールまたはグリセリンの残基が含有されている請求項1記載の生分解性ポリエステル溶解物。」

(甲5b)「【0002】
【従来技術・発明が解決しようとする課題】近年の環境問題に対する意識の高まりから、天然素材または生分解性合成素材を利用した商品の開発が盛んに行われている。例えば、生分解性フィルム上に印刷したラベル等では、生分解性のインキの使用が必要となってくる。しかしながら、従来より使用されているインキ用バインダーは、ウレタン系ポリマー、アクリル系ポリマー、芳香族系ポリエステル等であり、これらは生分解性を持たないものである。そこで、生分解性を有するインキ用バインダーの出現が望まれている。
【0003】本発明の目的は、優れたインキ性能および生分解性を有する生分解性インキを得ることのできるバインダー用の生分解性ポリエステル溶解物を提供することである。」

(甲5c)「【0006】本発明における生分解性ポリエステルは、下式
【0007】
【化1】
・・・
【0008】で表される乳酸残基を当該ポリエステル全体の80?100モル%含有していることが必要であり、好ましくは85?95モル%である。80モル%未満では、良好な生分解性および塗膜物性は得られない。
【0009】また、L-乳酸とD-乳酸のモル比(L/D)が1?9であることも必要であり、好ましくは1?3である。L/Dが9を越えると、使用溶剤(C)に対する当該ポリエステルの溶解性が悪くなり、インキ用バインダーとして使用できなくなる。L/Dが1未満(D-乳酸過剰)であると原料コストが高くなる。なお、乳酸としては、L-乳酸、D-乳酸、DL-乳酸のいずれも用いることができる。
・・・
【0012】当該生分解性ポリエステルの還元粘度(ηSP/C)は通常0.4?1.5dl/gであり、好ましくは0.5?1.2dl/gである。0.4?1.5dl/gの範囲内であれば、良好な塗工適性および塗膜物性が得られる。還元粘度は、例えばポリエステルの重合時間、重合温度、減圧の程度(減圧しながら重合させる場合)を変化させたり、共重合成分としてアルコール成分の使用量を変化させたりすることにより、調整することができる。なお、当該還元粘度は、サンプル濃度0.125g/25ml、測定溶剤クロロホルム、測定温度25℃で、ウベローデ粘度管を用いて測定した値である。」

(甲5d)「【0015】本発明の生分解性ポリエステル溶解物は生分解性を有するインキ用バインダーとして使用されうるものであり、その際生分解性インキ用として使用されるインキ顔料としては、通常使用されるものであれば特に限定されず、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、黄色酸化鉄、べんがら、カーボンブラック、アルミニウム粉、雲母、チタン粉等が挙げられる。これらは、1種でも2種以上でも用いることができる。
【0016】本発明における生分解性ポリエステル溶解物用の溶剤としては、生分解性ポリエステルの溶解性、作業性、乾燥速度等の点から、好ましくはメチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン、イソプロピルアルコール等が用いられる。これらは、1種でも2種以上でも用いることができる。
・・・
【0018】また、本発明に関して、生分解性インキには、上記成分以外にも必要に応じて、多官能イソシアネート、多官能エポキシ、メラミン等の架橋剤、顔料分散剤、粘度調整剤等を配合することができる。」

(甲5e)「【0021】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
・・・
【0023】実施例2
L-ラクチド100g、DL-ラクチド100g、カプロラクトン20g、グリセリン0.5g、オクチル酸スズ50mgをフラスコ内に加え、窒素雰囲気下、190℃で1時間加熱開環重合させて、ポリエステルBを得た。また、実施例1と同様にして生分解性ポリエステル溶解物を得、さらに白インキを得た。
・・・
【0028】
【表1】




(6)甲第6号証に記載された事項
本件特許に係る出願の優先日前の平成19年10月11日に頒布された刊行物である特開2007-262119号公報(甲第6号証)には、以下の事項が記載されている。

(甲6a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸残基を80?100モル%含有し、そのうちL-乳酸とD-乳酸のモル比(L/D)が1?9である、溶媒に可溶なポリエステル樹脂(A)に集光ビーズが分散していることを特徴とする光散乱シート用生分解性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
上記ポリエステル樹脂(A)および該ポリエステル樹脂(A)と反応し得る硬化剤(B)が、(A)/(B)=95/5?60/40(重量比)の割合で配合され、且つ、集光ビーズが分散していることを特徴とする請求項1に記載の光散乱シート用生分解性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光散乱シート用生分解性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。」

(甲6b)「【0031】
本発明の塗料組成物は目的、用途に応じて酸化チタンなどの顔料、ガラスファイバー、シリカ、ワックスなどの添加剤を添加することができる。」

(甲6c)「【実施例】
【0047】
本発明を以下の実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中、単に部とあるのは重量部を示す。なお、実施例中の各測定項目は以下の方法に従った。
【0048】
1.還元粘度(dl/g)
ポリエステル樹脂0.10gをフェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)の混合溶媒25ccに溶かし、30℃で測定した。
・・・
【0057】
本発明樹脂Bの合成例
L-ラクチド100g、DL-ラクチド100g、カプロラクトン20g、グリセリン0.5g、オクチル酸スズ50mgをフラスコ内に加え、窒素雰囲気下、190℃で1時間加熱開環重合させて、ポリエステルBを得た。また、実施例1と同様にして生分解性ポリエステル溶解物を得た。
・・・
【0064】
【表1】




(7)甲第7号証に記載された事項
本件特許に係る出願の優先日前の平成23年6月30日に頒布された刊行物である特開平2011-126798号公報(甲第7号証)には、以下の事項が記載されている。

(甲7a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤とポリ乳酸系樹脂とを含有することを特徴とするネイルマニキュア液組成物。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系樹脂のガラス転移温度が20℃以上80℃以下である請求項1記載のネイルマニキュア液組成物。
【請求項3】
前記ポリ乳酸系樹脂全体を100%としたとき、前記ポリ乳酸系樹脂を構成する乳酸残基の重量分率がポリ乳酸系樹脂全体に対して60%以上であり、且つL-乳酸とD-乳酸のモル比L/Dが1/10?10の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載のネイルマニキュア液組成物。
【請求項4】
前記ポリ乳酸系樹脂全体を100%としたとき、前記ポリ乳酸系樹脂を構成する乳酸残基の重量分率がポリ乳酸系樹脂全体に対して20%以上80%以下であり、且つL-乳酸とD-乳酸のモル比L/Dが1/10未満または10以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のネイルマニキュア液組成物。
【請求項5】
前記有機溶剤を除いた成分の30%以上の重量が前記ポリ乳酸系樹脂である請求項1?4いずれかに記載のネイルマニキュア液組成物。
【請求項6】
前記有機溶剤が、脂肪酸のアルキルエステルおよび脂肪族アルコールのいずれか1種以上を含有する、請求項1?5いずれかに記載のネイルマニキュア液組成物。」

(甲7b)「【技術分野】
【0001】
この発明は、手や足の爪に塗布するネイルマニキュア液組成物に関し、特に塗布時の速乾性に優れ、なおかつ形成されたネイルマニキュア皮膜が除光液によって除去し易いものであるネイルマニキュア液組成物に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記事情に着目してなされたものであり、その目的は、1分程度の短時間で乾燥硬化して指先を使うことができると共に、除光液によって除去しやすいネイルマニキュア皮膜を形成することのできるネイルマニキュア液を提供することである。
・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明のネイルマニキュア液組成物は、1分程度の短時間で乾燥硬化するので短時間でネイルマニキュア皮膜を形成することができ、また形成されたネイルマニキュア皮膜は除光液によって除去しやすいので自爪の表面を傷めにくい傾向にある、との効果を発揮する。また、本発明のネイルマニキュア液組成物から形成されたマニキュア皮膜は一般的な除光液に対する溶解性が優れており、このため、除光液を使用する時間および量を低く抑えることが可能である。」

(甲7c)「【0024】
本発明のマニキュア液組成物には、アルキド樹脂やアクリル樹脂などのポリ乳酸系樹脂以外の樹脂を配合することが可能である。また、ニトロセルロースなどの皮膜形成剤、皮膜光沢剤、可塑剤、顔料、着色剤、香料、粘度調整剤、紫外線吸収剤、顔料分散剤、などのマニキュア用として公知の各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で含むことができる。」

(甲7d)「【実施例】
【0026】
次に本発明を以下の実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
・・・
【0029】
3.数平均分子量
試料樹脂を、樹脂濃度が0.5重量%程度となるようにテトラヒドロフランに溶解または希釈し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過し、GPC測定試料とした。テトラヒドロフランを移動相とし、島津製作所社製のゲル浸透クロマトグラフ(GPC)Prominenceを用い、示差屈折計(RI計)を検出器として、カラム温度30℃、流量1ml/分にて樹脂試料のGPC測定を行なった。数平均分子量既知の単分散ポリスチレンのGPC測定結果を用いて試料樹脂のポリスチレン換算数平均分子量を求め、それを本願における試料樹脂の数平均分子量とした。ただしカラムは昭和電工(株)製のshodex KF-802、804L、806Lを用いた。
・・・
【0035】
<ポリ乳酸系樹脂の合成方法>
ポリ乳酸系樹脂Aの合成
L-ラクチド250部、DL-ラクチド250部、エチレングリコール0.7部、開環重合触媒としてオクチル酸錫0.1部、触媒失活剤としてジエチルホスホノ酢酸エチル0.6部を4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、190℃で1時間加熱し、開環重合を進め、その後、残留ラクチドを減圧下留去することによりポリ乳酸の主鎖中にエチレングリコール残基を有する乳酸系樹脂を得た。得られたポリ乳酸系樹脂の組成と物性を表1に示す。
【0036】
ポリ乳酸系樹脂Bの合成
L-ラクチド400部、D-ラクチド100部、5-スルホイソフタル酸ジエチレングリコールエステルナトリウム塩3.56部、開環重合触媒としてオクチル酸錫0.1部、触媒失活剤としてジエチルホスホノ酢酸エチル0.7部を4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、190℃で1時間加熱し、開環重合を進め、その後、残留ラクチドを減圧下留去することによりポリ乳酸の主鎖中にスルホン酸金属塩を有する乳酸系樹脂を得た。得られたポリ乳酸系樹脂の組成と物性を表1に示す。
【0037】
ポリ乳酸系樹脂Cの合成
DL-ラクチド450部、ε-カプロラクトン50部、ポリグリセリン5部、開環重合触媒としてオクチル酸錫0.1部、触媒失活剤としてジエチルホスホノ酢酸エチル0.6
部を4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、190℃で1時間加熱し、開環重合を進め、その後、残留ラクチドを減圧下留去することによりポリ乳酸の主鎖中にポリグリセリン構造を有する乳酸系樹脂を得た。得られたポリ乳酸系樹脂の組成と物性を表1に示す。
【0038】
【表1】




(8)甲第8号証に記載された事項
本件特許に係る出願の優先日前の平成16年7月22日に頒布された刊行物である特開2004-204219号公報(甲第8号証)には、以下の事項が記載されている。

(甲8a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸プラスチックに可塑剤を配合したものを乳化してなる乳酸プラスチックエマルションであって、
可塑剤として、次式(I)で表されるベンジルアルコール及び/又は脂肪族アルコールエチレンオキシド付加物の二塩基酸エステル化合物を配合したことを特徴とする乳酸プラスチックエマルション。
【化1】


但し、式(I)において、Rは-CH_(2)-Ph又は-(C_(2)H_(4)O)m-C_(l)H_(2l+1)であり、l、m、nは、それぞれl=1?4、m=1?4、n=4?10の範囲の整数である。2個のRは同じでも異なっていてもよい。
・・・」

(甲8b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸プラスチックエマルションに関し、特に15?80℃という低温領域での乾燥による造膜が可能な乳酸プラスチックエマルションに関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、乳酸プラスチックの新たな用途展開を図るため、15?80℃、より好ましくは15?60℃という低温で造膜し、エマルションの乳化安定性等にも優れる乳酸プラスチックエマルションを提供することを目的とする。」

(甲8c)「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で使用する乳酸プラスチックは特に限定されず、乳酸の単独重合体の他、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、リンゴ酸、グリコール酸等のヒドロキシアルカン酸、又は、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン等のラクトン類等との共重合体も使用可能である。共重合体を使用する場合、共重合体中の乳酸単位の割合は80重量%以上であることが好ましい。」

(甲8d)「【0013】
本発明では、上記式(I)で表されるベンジルアルコール及び/又は脂肪族アルコールエチレンオキシド付加物の二塩基酸エステル化合物を可塑剤として使用する。式(I)において、lで表されるアルキル鎖長(炭素数)は1?10であり、1?4であることがより好ましい。mで表されるエチレンオキサイド繰り返し単位数は1?4であり、2であることがより好ましい。nで表される二塩基酸炭素数は4?10であり、4?8であることがより好ましい。本可塑剤を適量使用することにより、乳酸プラスチックエマルションの造膜温度を大幅に低下させ、かつ得られる塗膜の物性も向上させることができる。
【0014】
上記式(I)で表される化合物は、例えば、「BXP」、「SN-0219」(共に大八化学工業株式会社製)等の商品名により市販されているものを利用することができる。
【0015】
上記可塑剤の添加量は、乳酸プラスチック(樹脂固形分)に対し5?30重量%の範囲が好ましく、10?20重量%の範囲がより好ましい。添加量が5重量%未満では、15?80℃という低温領域での造膜が困難となる傾向があり、30重量%を超えると塗膜にブリードアウトが生じ易くなる。」

(甲8e)「【0017】
使用する乳化剤は特に限定されず、従来から知られているものを適宜使用することができるが、例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩、N-アシルアミノ酸塩、カルボン酸塩、リン酸エステル等のアニオン性界面活性剤、アルキルアンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤、アルキル(アミド)ベタイン、アルキルジメチルアミンオキシド等の両性界面活性剤が挙げられる。乳化剤の使用量は、その種類、配合等によって異なるが、おおよその目安としては乳酸プラスチックに対して2?100重量%である。」

(甲8f)「【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
[実施例1?8、比較例1?3]
乳酸プラスチック(分子量:12000、Tg:55?60℃、d体含有量:8%)と可塑剤とを表1に示す割合で配合して総量50部にしたものをトルエン200部に溶解させ、この溶液にポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(EO:20mol、分子量:1200)3部とスルホコハク酸ジオクチルナトリウム3部を添加し、ホモディスパーによる攪拌下、水55部を徐々に添加して乳化を試みた。
【0022】
乳化できたものについては、減圧下でトルエンを除去し、残存トルエン量0.8重量%以下で固形分約50重量%のエマルションになるように濃度調節した。得られたエマルションにつき、以下の方法で造膜温度を測定し、可塑性、乳化適正(粒子径、収率)、乳化経時安定性、ブリードアウトの有無を調べた。結果を表1に示す。
・・・
【0030】
[比較例4(ブランク)]
可塑剤を使用せず、乳酸プラスチックのみで50部としたものを使用した以外は、上記実施例及び比較例と同様にして乳酸プラスチックエマルションを調整し、その造膜温度を測定し、可塑性、乳化適正、乳化経時安定性を調べた。結果を表1に併せて示す。
【表1】


【0031】
表1に示されたように、実施例1?4の式(I)で表される構造を有する化合物(実施例1?4:ジブチルジグリコールアジペート、l=4,m=2,n=4;実施例5?8:ベンジルメチルジグリコールアジペート、Rが-CH_(2)-Ph及び-(C_(2)H_(4)O)m-C_(l)H_(2l+1)であってl=1、m=2、n=4)を所定量配合したエマルションは、造膜温度が低く、乳化適正及び経時安定性に優れた性質を示し、ブリードアウトもほとんど見られなかった。また、可塑性も実施例3,7を除き、極めて優れていた。
【0032】
これに対し、比較例1のように、式(I)におけるl,m,nの値が所定値の範囲外である化合物を用いた場合(l=9,m=0,n=4)や、比較例2,3のように、式(I)で表される構造を有しない化合物を使用した場合は、造膜温度が高いのみならず、可塑性、乳化適正及び経時安定性においても劣り、ブリードアウトの発生も見られた。」

(9)甲第9号証に記載された事項
本件特許に係る出願の優先日前の平成18年3月23日に頒布された刊行物である特開2006-077186号公報(甲第9号証)には、以下の事項が記載されている。

(甲9a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂エマルジョンと生分解性可塑剤とが配合されていることを特徴とする水性樹脂組成物。
【請求項2】
ベース生分解性樹脂の水系分散液の存在下において酢酸ビニルがシード重合されて調製された生分解性樹脂エマルジョンが配合されていることを特徴とする請求項1記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
生分解性樹脂が酢酸ビニルに溶解された溶液を、乳化剤を含む水溶液中に滴下しながら乳化重合するか、生分解性樹脂が酢酸ビニルに溶解された溶液の乳化液を乳化剤を含む水溶液若しくは水中に滴下しながら乳化重合して得られる生分解性樹脂エマルジョンが配合されていることを特徴とする請求項1記載の水性樹脂組成物。」

(甲9b)「【技術分野】
【0001】
本発明は生分解性のある水性樹脂組成物に関するものであり、詳しくは生分解性樹脂エマルジョンと生分解性可塑剤とが配合されたものからなる水性樹脂組成物に関するものである。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記のような課題、即ち、生分解性が求められる合紙、封筒、製袋、包装材、容器などの用途に適用できる生分解性の水性樹脂組成物を実現しようとするものである。」

(甲9c)「【0012】
該生分解性樹脂エマルジョンは、例えば、(1)ベース生分解性樹脂の水系分散液の存在下において酢酸ビニル(以下VAcと略称)をシード重合させる、或いは(2)生分解性樹脂をVAcに溶解させたものを乳化したのち、乳化剤を溶解させた水溶液中に滴下しながら乳化重合せしめて得られる。
【0013】
前記(1)のベース生分解性樹脂の水系分散液には、ジオールジカルボン酸系の脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂、ポリカプロラクトン系生分解性樹脂、ポリ乳酸系分解性樹脂、並びにこれらの生分解性樹脂とその他の樹脂との複合物、などが乳化調製されたものが使用される。
【0014】
前記(1)ベース生分解性樹脂の水系分散液の存在下においてVAcをシード重合させて得られる生分解性樹脂エマルジョンの合成方法の例を示せば、例えばポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリホキサメチレンアジペート、ポリエチレンオキザレート、ポリエチレンセバケート、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンブチレンサクシネート、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレートなどの芳香族ポリエステル、或いは若しくはポリアスパラギン酸、ポリγ-グルタミン酸、ポリ(ε-リジン)などのポリアミノ酸や、キチン、キトサン、カゼインコラーゲン、大豆タンパクなどの生分解性樹脂から調整されたベース生分解性樹脂の水系分散液、好ましくはガラス転移点が0℃以下の脂肪族ポリエステルから調製されたベース生分解性樹脂の水系分散液、あるいはガラス転移点が0℃以下になるように変性された脂肪族ポリエステルから調整されたベース生分解性樹脂の水系分散液の存在下において、以下に述べるような方法によりシード重合する方法により調製される。」

(甲9d)「【0021】
該生分解性樹脂エマルジョンとともに配合される生分解性可塑剤には、具体例として、フタル酸エステル(フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチルなど)、芳香族カルボン酸エステル(トリメリット酸トリオクチル、ジエチレングリコールベンゾエート、オキシ安息香酸オクチルなど)、脂肪族二塩基酸エステル(アジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、オレイン酸ジブチルなど)、脂肪族エステル誘導体(トリアセン、トリプロピオン、ジアセチレングリセリン、アセチルクエン酸トリエチルなど)、リン酸エステル(リン酸トリブチル、リン酸トリフェニルなど)などのほか、アセチルトリブチルクエン酸、ジブチルセバケート、トリエチレングリコールジアセテート、ポリアルキレングレコール、多価アルコール、ポリエステル系可塑剤、グリセリンジアセトモノラウリレート、グリセリンジアセトモノオレート、グリセリンモノアセトステアレート、などが挙げられる。これらは単独で使用されるか、或いは2種類以上を混合して使用することができる。
なお、脂肪族エステル誘導体であるアジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチルの混合体がデュポン社から商品名「DBE」として市販されており使用に好都合である。
【0022】
該生分解性樹脂エマルジョンと該生分解性可塑剤の適正な配合割合は、前者の固形分100重量部に対して、後者を5?30重量部配合したものが適正配合であり、後者が30重量部を超えた配合では、接着剤としての凝集力が低下する、低温保存性が悪くなるなどの問題があり好ましくない。一方、5重量部未満では初期接着性が低下するため適さない。」

(甲9e)「【0023】
生分解性樹脂エマルジョンAの合成例
攪拌機、温度調節器、還流冷却管、温度計を備えた反応容器に水282部、PVA(平均重合度500、ケン化度88モル%)24.5部を加え、80℃まで加熱して溶解させたのち、べース生分解性樹脂の水系分散液として、PVAを乳化剤として調製されたポリブチレンサクシネートアジペート樹脂エマルジョン(昭和高分子株式会社製、ビオノーレエマルジョンEM-530 固形分53%、23℃における粘度3Pa・s、ガラス転移点-55℃)を85部添加した。系内温度を80℃に保ったまま攪拌しながら水10部に35%過酸化水素水1部を溶解させた水溶液とVAc165部を3時間かけて滴下して80℃においてシード重合を進めた。得られた生分解性樹脂エマルジョンの固形分41.5%、最低造膜温度0℃、23℃における粘度4Pa・sであつた。
【0024】
生分解性樹脂エマルジョンBの合成例
生分解性樹脂エマルジョン1の合成例に使用したと同一の反応容器に水130部、乳化剤として平均重合度500、ケン化度88モル%のPVA8.0部を加え、80℃まで加温してPVAを溶解させたものを分散媒体として、生分解性樹脂であるPCL「セルグリーンPH-5」(ダイセル化学工業株式会社製、GPC法による測定で数平均分子量6.4万)31.3部をVAc137部に溶解させたものを前記と同一のPVAの15%水溶液78部中に添加し、水60部を加えたものを1000RPMで強制攪拌して乳化液として、該乳化液と過硫酸アンモニウム1部を水10部に溶解したものを80℃に加熱され攪拌された該分散媒体中に3時間かけて滴下しながら乳化重合を進めて生分解性樹脂エマルジョンCを調製した。
得られた生分解性樹脂エマルジョンの固形分41.4%、最低造膜温度0℃、23℃における粘度3Pa・sであつた。
【0025】
酢酸ビニル樹脂エマルジョンCの合成例
生分解性樹脂エマルジョン1の合成に使用したと同一の反応容器に、水256部、平均重合度500、ケン化度88モル%のPVA16部を80℃に加温して溶解させたのち、同温度で攪拌しながらVAc161部と過硫酸アンモニウム1部を水10部に溶解させたものを3時間かけて滴下しながら乳化重合を進め、滴下終了後、冷却して酢酸ビニル樹脂エマルジョンEを調製した。23℃における粘度5Pa・s、最低造膜温度2℃、固形分41.0%であつた。
【0026】
エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンDとして、AE156(アイカ工業株式会社製、エチレン含有率16重量%、樹脂固形分56重量%、粘度4Pa・s/23℃)を使用した。
実施例・比較例
【0027】
以下、実施例、比較例により本発明を詳細に説明する。なお、表1の配合数値は重量部を表す。
実施例1?4、比較例1?6
前記の生分解性樹脂エマルジョンA及びB、酢酸ビニル樹脂エマルジョンC、エチレン酢酸ビニル共重合エマルジョンD、生分解性可塑剤としてグルタル酸ジメチル(以下、GDMと略称する)を表1の配合割合で配合した実施例、比較例の接着剤組成物を調製し、生分解性、最低造膜温度、初期接着性ならびに低温保存性を試験評価した結果は表の通りであった。
【表1】




(10)甲第10号証に記載された事項
本件特許に係る出願の優先日前の平成14年4月23日に頒布された刊行物である特開2002-121288号公報(甲第10号証)には、以下の事項が記載されている。

(甲10a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 生分解性樹脂が可塑剤及び分散安定化剤の存在下に水に分散安定化されていることを特徴とする生分解性樹脂水系分散体。
【請求項2】 生分解性樹脂が、ポリ乳酸樹脂及び/又は乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体である請求項1記載の生分解性樹脂水系分散体。
【請求項3】 可塑剤が、クエン酸誘導体、エーテルエステル誘導体、グリセリン誘導体、フタル酸誘導体、アジピン酸誘導体より選ばれた1種又は2種以上である請求項1又は2記載の生分解性樹脂水系分散体。
【請求項4】 分散安定化剤が、平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物又は平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物を含有する請求項1?3のいずれかに記載の生分解性樹脂水系分散体。
【請求項5】 請求項1?4のいずれかに記載の生分解性水系分散体を、シート基材と複合化してなることを特徴とする生分解性複合材料。」

(甲10b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は生分解性樹脂水系分散体及び生分解性複合材料に関する。
・・・
【0006】
本発明は上記の現状に鑑みなされたもので、繊維製品や紙製品等の天然素材を原料とする製品への塗工、含浸、噴霧、内部添加用等としての利用が可能で、生分解性に優れ、製造が容易な生分解性樹脂水系分散体及び、この生分解性樹脂水系分散体を用いた耐水性、光沢、熱接着性の良好な生分解性複合材料を提供することを目的とする。」

(甲10c)「【0009】
【発明の実施の形態】本発明の生分解性樹脂水系分散体において、生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂、アセチルセルロース系生分解性樹脂、化学変性澱粉系生分解性樹脂、ポリアミノ酸系生分解性樹脂、ポリエステルポリカーボネート系生分解性樹脂等が用いられ、これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0010】脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂としては、例えばポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル、ポリカプロラクトン、カプロラクトンと他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートと他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0011】またアセチルセルロース系生分解性樹脂としては、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース等が挙げられるが、光沢、透明性、引っ張り強さ、硬度等の物理的特性と生分解性が良好である点でアセチルセルロースが特に好ましい。
【0012】化学変性澱粉系生分解性樹脂としては、例えば高置換度エステル化澱粉、エステル化ビニルエステルグラフト重合澱粉、エステル化ポリエステルグラフト重合澱粉等の澱粉エステル、エーテル化ビニルエステルグラフト重合澱粉、エーテル化ポリエステルグラフト重合澱粉等の澱粉エーテル、ポリエステルグラフト重合澱粉等が挙げられるが、これらの中でもエステル化ビニルエステルグラフト澱粉、エステル化ポリエステルグラフト重合澱粉が好ましい。これらエステル化ビニルエステルグラフト澱粉、エステル化ポリエステルグラフト重合澱粉に用いられるエステル化試薬としては、アシル基の炭素数2?18のビニルエステル、又は酸無水物、酸塩化物が好ましく、グラフト試薬としては、アシル基の炭素数2?18のビニルエステル、環員数2?12のラクトンが好ましい。これら化学変性澱粉系生分解性樹脂は、2種以上を併用することができる。
【0013】本発明において上記生分解性樹脂は単独で用いるのみならず、同一種類又は異なる種類から選択した2種以上の樹脂を適宜混合して用いることができる。
【0014】本発明の生分解性水系分散体において、生分解性樹脂としては、ポリ乳酸樹脂及び/又は乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体が、樹脂の耐熱性、耐水性、耐溶剤性、光沢等の点で好ましい。乳酸と共重合する他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、2-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシバレリン酸、2-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシヘプタン酸、2-ヒドロキシオクタン酸、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸、2-ヒドロキシ-2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ-2-エチル酪酸、2-ヒドロキシ-2-メチルバレリン酸、2-ヒドロキシ-2-エチルバレリン酸、2-ヒドロキシ-2-プロピルバレリン酸、2-ヒドロキシ-2-ブチルバレリン酸、2-ヒドロキシ-2-メチルカプロン酸、2-ヒドロキシ-2-エチルカプロン酸、2-ヒドロキシ-2-プロピルカプロン酸、2-ヒドロキシ-2-ブチルカプロン酸、2-ヒドロキシ-2-ペンチルカプロン酸、2-ヒドロキシ-2-メチルヘプタン酸、2-ヒドロキシ-2-エチルヘプタン酸、2-ヒドロキシ-2-プロピルヘプタン酸、2-ヒドロキシ-2-ブチルヘプタン酸、2-ヒドロキシ-2-メチルオクタン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、4-ヒドロキシ酪酸、5-ヒドロキシバレリン酸、6-ヒドロキシカプロン酸、7-ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられる。上記乳酸及びヒドロキシカルボン酸は、D体、L体、D/L体などの形をとる場合があるが、本発明においてその形態に何ら制限は無い。」

(甲10d)「【0015】本発明の生分解性水系分散体に用いる可塑剤としては、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸誘導体、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジプロピオネート等のエーテルエステル誘導体、グリセリントリアセテート、グリセリントリプロピオネート、グリセリントリブチレート等のグリセリン誘導体、エチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のフタル酸誘導体、アジピン酸と1,4-ブタンジオールとの縮合体等のアジピン酸誘導体、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン等のポリヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。これらのうちアジピン酸誘導体、フタル酸誘導体を用いたものが、造膜性向上効果が高い点で特に好ましい。可塑剤の使用量は生分解性樹脂100重量部あたり5から40重量部が好ましい。5重量部未満となると可塑化効果が発揮できなくなる虞れがあり、40重量部を超えると可塑剤のブリードアウトが発生する虞れがある。」

(甲10e)「【0016】本発明において分散安定化剤としては、通常のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、高分子界面活性剤、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を用いることができるが、平均分子量30万以上のカチオン性高分子化合物、または平均分子量30万以上のアニオン性高分子化合物の何れかを用いると、分散体の粒子径が十分に小さくなり好ましい。」

(甲10f)「【0035】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0036】実施例1?5、比較例1?4
表1に示す生分解性樹脂、可塑剤、分散安定化剤、脱イオン水、酢酸エチルを同表に示す割合でホモミキサーを装着したオートクレーブ中に仕込み、120℃に加熱して10,000r.p.m.で3分間撹拌した後、40℃まで急冷した。その後、減圧下に酢酸エチルを除去して生分解性樹脂水系分散体を得た。尚、分散安定化剤としてカチオン性高分子化合物を用いた場合、pHが6以上のときには酢酸でpHを6に調整し、アニオン性高分子化合物を用いた場合、pHが8以下のときには水酸化ナトリウムでpHを8に調整してから加熱、撹拌した。得られた各水系分散体中に分散している生分解性樹脂の粒子径を比較するために、水系分散体の製造直後に粒度分布測定装置(堀場製作所株式会社製:LA-910型粒度分布測定装置)にて分散している生分解性樹脂の粒子径(メジアン径及び平均径)を測定した。またこの水系分散体を、20℃と40℃の雰囲気下で保持し、それぞれの温度における水系分散体の経時安定性を評価した。これらの結果を表1にあわせて示す。
【0037】
【表1】


【0038】表1に示した水系分散体の安定性は、100mlのスクリュー管に水系分散体50mlを入れ、20℃と40℃の恒温槽中で静置した後、1カ月後及び2カ月後の分散状態を目視観察し、
◎・・・分離が認められない。
○・・・分離が認められるが、沈殿物の発生は認められない。
△・・・分離が認められるが、スクリュー管の横倒し、立て直し操作を10回繰り返すと、再分散して均一となる。
×・・・分離が認められると共に沈降物がハードケーキ状となり、スクリュー管の横倒し、立て直し操作を10回繰り返しても再分散しない。として評価した。
【0039】尚、上記表1に示す生分解性樹脂、可塑剤、分散安定化剤等は以下の通りである。
【0040】(1)生分解性樹脂
生分解性樹脂A:三井化学(株)製ポリ乳酸樹脂「レイシア100H」
生分解性樹脂B:島津製作所(株)製ポリ乳酸樹脂「ラクティ9020」
生分解性樹脂C:島津製作所(株)製ポリ乳酸樹脂「ラクティ9800」
【0041】(2)可塑剤
可塑剤A:エチルフタリルエチルグリコレート
可塑剤B:ブチルジグリコールジアジペート
可塑剤C:アセチルクエン酸トリエチル
可塑剤D:グリセリントリプロピオネート
【0042】(3)分散安定化剤
分散安定化剤A:アクリルアミド/メタクリル酸(重量比で90:10)共重合体(平均分子量2100万)
分散安定化剤B:メタクリル酸ジメチルアミノエチル/アクリルアミド(重量比で80:20)共重合体(平均分子量600万)
分散安定化剤C:アクリル酸ジメチルアミノエチル/アクリルアミド/メタクリルアミド(重量比で33:39:28)共重合体(平均分子量20万)
分散安定化剤D:ポリビニルアルコール(鹸化度:88.1%、平均分子量22万)」


第5 当審の判断
事案に鑑み、まずは申立ての理由3を検討し、その後、申立ての理由1?2を検討する。

1 申立理由3について
申立理由3のうち、特許法第36条第6項第2号の理由については、申立書の第40?45頁の「<iV>サポート要件及び明瞭性要件の欠如について」をみると、特許法第36条第6項第2号明確性違反の具体的な理由は記載されておらず、いずれの理由も、実質的に特許法第36条第6項第1号のサポート要件の理由であるといえるから、特許法第36条第6項第1号のサポート要件の理由のみ判断する。
仮に、上記申立理由3のウの「本件明細書において、効果が認められなかった比較例として記載されているのは、ポリ乳酸F、Gの2種のみであり、物性(B)?(D)の臨界的意義を説明する記載としては根拠不十分である」との主張が特許法第36条第6項第2号明確性違反の理由と解したとしても、物性の数値範囲の臨界的意義が明確でなくとも、特許請求の範囲の記載自体が明確ではないとはいえないから、この主張を採用することができない。

(1)特許法第36条第6項第1号の考え方について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点に立って検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
上記「第2」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、上記「2(3)」で示した事項が記載されている。

(4)本件発明の課題について
本件発明の課題は、上記摘記(本a)の「・・・このような事情を踏まえ、室温で透明な皮膜形成が可能なポリ乳酸含有水系分散体を提供すること等が課題である」との記載からみて、「室温で透明な皮膜形成が可能なポリ乳酸含有水系分散体を提供すること」であるといえる。

(5)判断
本件明細書の発明の詳細な説明の(本b)?(本e)には、本件発明1の「ポリ乳酸含有水系分散体」の各成分である「ポリ乳酸」、「可塑剤」、「分散安定化剤」、「水」について、具体的な記載がされている。
(本b)には、「ポリ乳酸」について、「皮膜に良好な生分解性を与えるという観点」から「ポリ乳酸を構成する総モノマー分子に占める乳酸モノマーの割合の下限値は、例えば、80モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上であり、上限は100モル%である」ことが記載され(段落【0010】)、同様の観点から「ポリ乳酸を構成する総乳酸モノマーにおけるL-乳酸とD-乳酸とのモル比(L-乳酸/D-乳酸)の上限は、例えば、9以下であり、好ましくは7以下、より好ましくは5以下であり、下限は1である」ことが記載され(段落【0012】)、「ポリ乳酸」を構成する「乳酸モノマー以外のモノマー分子」についても具体的に記載されている(段落【0016】)。また、「ポリ乳酸」の物性に関して、「還元粘度(ηSP/C)」について、「特に制限されないが、例えば、下限は、0.3dl/g以上であり、好ましくは0.4dl/g以上である。ポリ乳酸の還元粘度(ηSP/C)の上限は、例えば、1.5dl/g以下であり、好ましくは1.3dl/g以下であり、更に好ましくは1.2以下である」こと、「ポリ乳酸の還元粘度は、重合反応時の重合時間、重合温度、減圧の程度等の条件を変化させること、及び共重合成分として使用するアルコール成分の使用量を変化させることによって調整することができる」ことが記載され(段落【0017】を参照)、「ポリ乳酸」の「数平均分子量」について「室温で透明な皮膜を形成するという観点から、その下限は好ましくは10,000であり、より好ましくは30,000である。一方、ポリ乳酸の数平均分子量の上限は、好ましくは、90,000であり、より好ましくは70,000である」ことが記載され、これらの物性等の測定方法についても記載されている(段落【0019】?【0020】)。さらに、「ポリ乳酸」の製造方法(段落【0021】)について記載され、「ポリ乳酸含有水系分散体」中での「ポリ乳酸」の配合割合について「室温で透明皮膜が形成可能である限り特に制限されないが、重量換算で、下限は30%であり、好ましくは35%であり、上限は70%であり、好ましくは60%である」ことが記載されている(段落【0022】)。
(本c)には、「室温での透明な皮膜形成が可能である」との観点から「可塑剤」について具体的に記載され(段落【0023】)、また、「ポリ乳酸含有水系分散体」中での「可塑剤」の配合割合について「室温で透明皮膜が形成される限り特に制限されない。例えば、可塑剤は、ポリ乳酸100重量部に対して40重量部以下、好ましくは30重量部以下の割合で配合される。可塑剤の配合割合の下限は、特に制限されないが、例えば、ポリ乳酸100重量部に対して、3重量部以上、又は5重量部以上である」ことが記載されている(段落【0024】)。
(本d)には、「ポリ乳酸を水系溶媒に安定的に分散させる」ために「分散安定化剤」を含有させることが記載され、「分散安定化剤」は、「ポリ乳酸を安定的に水に分散させることができる限り特に制限されず、好ましくは、カチオン性高分子化合物、アニオン性高分子化合物、ポリビニルアルコール及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上である」こと(段落【0025】)が記載されている。また、「分散安定化剤」について具体的な例が記載され(段落【0026】?【0039】)、また、その含有量について「ポリ乳酸を水系溶媒中に安定的に分散させることができる限り特に制限されない。例えば、分散安定化剤の配合割合の下限は、ポリ乳酸100重量部に対して0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上であり、上限は20重量部以下、好ましくは10重量部以下である」ことが記載されている(段落【0041】)。

そして、本件明細書の(本h)の実施例では、本件発明1の「ポリ乳酸」の具体例として、原料の配合が異なるポリ乳酸A?Dの製造方法や物性が示され(段落【0065】?【0075】)、製造例5、試験例2として、「アクリルアミド/メタクリル酸コポリマー」を「分散安定化剤」として用い、「ポリ乳酸A」、「水」及び各種「可塑剤」を構成成分とする「ポリ乳酸含有水系分散体」が製造され、「可塑剤」について本件発明1に規定されるものが「製膜性評価」において本件発明の課題が解決されることが示されている(段落【0077】?【0080】)。試験例3?4では「メタクリル酸ジメチルアミノエチルアクリルアミドコポリマー」、「アクリル酸ジメチルアミノエチル/アクリルアミド/メタクリルアミド」を「分散安定化剤」として用い、「水」及び各種「可塑剤」を構成成分とする「ポリ乳酸含有水系分散体」が製造され、「可塑剤」について本件発明1に規定されるものが「製膜性評価」において本件発明の課題が解決されることが示され(段落【0081】?【0084】)、試験例5では「ポリ乳酸A」に代えて「ポリ乳酸B?D」を用い、試験例2と同様の試験を行い、「可塑剤」について本件発明1に規定されるものが「製膜性評価」において本件発明の課題が解決されることが確認されている。これらの製造例5及び試験例2?5は、本件発明1の具体例であるといえ、また、本件発明の上記課題が解決されることを確認したものであるといえる。一方、試験例6として、本件発明1の「ポリ乳酸」の物性(B)の「還元粘度」、(C)の「L-乳酸/D-乳酸」及び(D)「数平均分子量」の範囲を満たさない「ポリ乳酸F」、(C)の「L-乳酸/D-乳酸」及び(D)「数平均分子量」の範囲を満たさない「ポリ乳酸G」については、「室温で膜形成は見られず分散体が乾燥した白い固形物が形成され、透明な膜を得ることができなかった」ことを確認している。

以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、一般的な記載として、本件発明1において特定される「ポリ乳酸含有水系分散体」が「室温で透明な皮膜形成が可能」であることが記載され、さらに、実施例として、製造方法の異なる「ポリ乳酸A?D」、「分散安定化剤」として「アクリルアミド/メタクリル酸コポリマー」、「メタクリル酸ジメチルアミノエチルアクリルアミドコポリマー」、「アクリル酸ジメチルアミノエチル/アクリルアミド/メタクリルアミド」を用いた例が示され、可塑剤について本件発明1に規定されるものが「製膜性評価」において本件発明の課題が解決されることが具体的なデータとともに示されていることから、本件発明1の全般にわたり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(6)申立人がする申立理由について
ア 申立人がする申立理由
申立人がする申立理由は、上記「第3 1(3)」で述べたとおりであり、以下再掲する。なお、見出しの「ア」?「ウ」は、「(ア)」?「(ウ)」と記載した。

(ア)本件発明1の「ポリ乳酸含有水系分散体」は、「ポリ乳酸」、「可塑剤」、「分散安定化剤」、「水」を含有するものであるところ、これらの配合、含有割合は無限定であり、これらについてあらゆる配合量で所定の作用・効果を有することは、出願時の本件の技術分野の技術常識を勘案したとしても認められない。
本件発明2では、可塑剤の配合量について「ポリ乳酸100重量部に対する可塑剤の配合割合が3?40重量部である」と規定されているが、製造例5においては「ポリ乳酸100重量部に対して30重量部」であり、本件発明2で規定される可塑剤の配合量の数値範囲の全体にわたり効果を有することは、出願時における本件の技術分野の技術常識を勘案したとしても認められない。

(イ)本件発明1では、「分散安定化剤」について、「カチオン性高分子化合物、アニオン性高分子化合物、ポリビニルアルコール及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上の分散安定化剤」と規定されているが、本件明細書の実施例においては、「ポリビニルアルコール」及び「非イオン性界面活性剤」の例はなく、また、実施例で確認している「分散安定化剤」は「アクリルアミド/メタクリル酸ポリマー」等の数種であるから、その結果について、本件発明1で規定される「分散安定化剤」の全てを使用する場合にまで作用・効果を同等に有することは当然に認められず、出願時における本件の技術分野の技術常識を勘案したとしても認められない。

(ウ)本件発明1では、「ポリ乳酸」について、物性(A)?(D)の全てを満たすものと規定しているが、本件明細書の実施例において、室温で透明な膜が得られるという効果が具体的に検証されているのは、ポリ乳酸A?Dのみであり、本件明細書の実施例において具体的に検証されているポリ乳酸A?Dのそれぞれの物性は非常に限定的な数値であり、本件発明1で規定される物性(A)?(D)の数値範囲の全体にわたり効果を有することは当然に認められず、出願時における本件の技術分野の技術常識を勘案したとしても認められない。

イ 申立人がする申立理由の検討
(ア)について
本件発明1は、「ポリ乳酸含有水系分散体」であることから、主要な樹脂成分である「(1)ポリ乳酸」及び溶媒である「(4)水」の含有量は、特に含有量の規定がなくても、「水系分散体」を形成することができるような一定の範囲含有していることは当然であるといえ、また、「(2)・・・可塑剤」及び「(3)・・・分散安定剤」にの含有量も、それぞれの作用・機能を発揮するために一定の範囲内のものとなることは当然であるといえる。以下、この前提で検討を進める。
申立人がする申立理由に関する本件明細書の記載をみると、本件明細書の(本b)の段落【0022】には「ポリ乳酸含有水系分散体」中での「ポリ乳酸」の配合割合について「室温で透明皮膜が形成可能である限り特に制限されないが、重量換算で、下限は30%であり、・・・、上限は70%であり、・・・である」ことが記載され、(本c)の段落【0024】には「ポリ乳酸含有水系分散体」中での「可塑剤」の配合割合について「室温で透明皮膜が形成される限り特に制限されない。例えば、可塑剤は、ポリ乳酸100重量部に対して40重量部以下、・・・以下の割合で配合される。可塑剤の配合割合の下限は、特に制限されないが、例えば、ポリ乳酸100重量部に対して、3重量部以上、又は5重量部以上である」ことが記載され、(本d)の段落【0041】には「分散安定化剤」の含有量について「ポリ乳酸を水系溶媒中に安定的に分散させることができる限り特に制限されない。例えば、分散安定化剤の配合割合の下限は、ポリ乳酸100重量部に対して0.01重量部以上、・・・であり、上限は20重量部以下、・・・である」ことが記載され、(本e)の段落【0043】には、「ポリ乳酸含有水系分散体」に含有される「水」の量について、「ポリ乳酸を安定に分散させることが可能であり、常温で透明な皮膜が形成可能である限り特に制限されない。例えば、水は、水系分散体全量の30?70重量%、・・・である」ことが記載されている。
これらの記載によれば、「ポリ乳酸」、「可塑剤」、「水」の含有量については「室温で透明皮膜が形成可能である限り特に制限されない」こと、「分散安定化剤」の含有量について「ポリ乳酸を水系溶媒中に安定的に分散させることができる限り特に制限されない」ことは理解できるし、また、上述のそれぞれの成分の好ましい値についても、それぞれの成分の目的に照らして、格別特異な値ではないといえる。
そして、本件発明1が、発明の詳細な説明の記載や技術常識に基づいて本件発明の課題が解決できると認識できる範囲であるといえることは、上記(5)で述べたとおりである。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。

(イ)について
申立人がする申立理由に関する本件明細書の記載をみると、本件明細書の(本d)の段落【0025】には、「分散安定剤」について「ポリ乳酸を水系溶媒に安定的に分散させる」ためのものであること、「ポリ乳酸を安定的に水に分散させることができる限り特に制限され」ないことが記載されており、「ポリ乳酸を水系溶媒に安定的に分散させる」ものであれば特に制限なく利用できることが理解できる。そして、「ポリビニルアルコール」及び「非イオン性界面活性剤」とも分散安定化剤としても機能を有することはよく知られたことであるから、当業者であれば、いずれの「分散安定化剤」であっても用いることができることは理解できるといえるし、本件発明の課題を解決できることを認識できるといえる。
これに対して、申立人は、具体的な反証、例えば、具体的に製造できない例を挙げた上で発明の課題が解決できるといえないことを主張している訳ではない。
そして、本件発明1が、発明の詳細な説明の記載や技術常識に基づいて本件発明の課題が解決できると認識できる範囲であるといえることは、上記(5)で述べたとおりである。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。

(ウ)について
申立人がする申立理由に関する本件明細書の記載をみると、本件明細書の(本b)の段落【0010】には「ポリ乳酸を構成する総モノマー分子に占める乳酸モノマーの割合」について「分散安定化剤及び可塑剤の存在下で水に安定的に分散され、そのようにして得られる分散体は室温で透明皮膜の形成が可能であることが好ましい。このような観点及び皮膜に良好な生分解性を与えるという観点」から「下限値は、例えば、80モル%以上、・・・であり、上限は100モル%である」ことが記載され、段落【0012】には、同様の観点から「ポリ乳酸を構成する総乳酸モノマーにおけるL-乳酸とD-乳酸とのモル比(L-乳酸/D-乳酸)の上限は、例えば、9以下であり、・・・であり、下限は1である」ことが具体的に記載され、段落【0017】には「ポリ乳酸の還元粘度(ηSP/C)」について、「特に制限されないが、例えば、下限は、0.3dl/g以上であり、・・・。ポリ乳酸の還元粘度(ηSP/C)の上限は、例えば、1.5dl/g以下であり、・・・である」ことが記載され、段落【0019】には、「ポリ乳酸の数平均分子量」について、「特に制限されないが、室温で透明な皮膜を形成するという観点から、その下限は好ましくは10,000であり、・・・。一方、ポリ乳酸の数平均分子量の上限は、好ましくは、90,000であり、・・・である」ことが記載され、さらに、実施例において、製造方法が異なるが、これらの物性の範囲内の「ポリ乳酸A?D」について具体的に本件発明の上記課題を解決できたことを確認している。
これらの記載をみると、「(A)ポリ乳酸」の本件発明1で規定される物性(A)?(D)の特定は、それぞれの観点から特定されるものであり、これらの特定がないと課題が解決できないことが記載されている訳ではない。
これに対して、申立人は、具体的な反証を挙げた上で発明の課題が解決できるといえないことを主張している訳ではない。
そして、本件発明1が、発明の詳細な説明の記載や技術常識に基づいて本件発明の課題が解決できると認識できる範囲であるといえることは、上記(5)で述べたとおりである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(7)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由3によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。


2 申立理由1?2について
(1)特許請求の範囲の記載
上記「第2」に記載したとおりである。

(2)甲第1?10号証の記載
上記「第4」2に記載したとおりである。

(3)甲第1号証に記載された発明について
甲第1号証の上記摘記(甲1h)の段落【0031】には、実施例1として、
「L-乳酸/D-乳酸の比率が72/18のポリ乳酸を85部、部分けん化ポリビニルアルコールを15部の混合物を、100部/時間の速度で、同方向回転型二軸押出機(池貝鉄工製、PCM-30、L/D=40)に供給し、設定温度180℃、スクリュー回転数150rpmで溶融混練するとともに、同押出機の中間部に設けた供給口より水を40部/時間の速度で連続的に供給した。押出された樹脂等混合物は、同押出機出口に設置した単軸押出機を通過させることにより90℃まで冷却し、吐出させた。吐出物は白色又は白色透明の固体であり、・・・。この水分散体を温水中に加えると微細分散し、白色の水分散体が得られた。その固形分濃度が40?50重量%となるよう調整し、100メッシュの金網にて濾過したが、未分散物は認められず、分散状態は良好であった。この水分散体の分散粒子の体積50%平均粒径は1.0μm、pHは3.8であった。この水分散体を、アセチルトリブチルクエン酸20部を徐々に加えて行き、1時間程度攪拌することで当該水分散体を得た」ことが記載されているから、この実施例1に着目すると、

「L-乳酸/D-乳酸の比率が72/18のポリ乳酸を85部、部分けん化ポリビニルアルコールを15部の混合物を、100部/時間の速度で、同方向回転型二軸押出機(池貝鉄工製、PCM-30、L/D=40)に供給し、
設定温度180℃、スクリュー回転数150rpmで溶融混練するとともに、同押出機の中間部に設けた供給口より水を40部/時間の速度で連続的に供給し、
押出された樹脂等混合物は、同押出機出口に設置した単軸押出機を通過させることにより90℃まで冷却し、吐出させ、
吐出物は白色又は白色透明の固体であり、
この水分散体を温水中に加えて微細分散し、白色の水分散体が得て、
その固形分濃度が40?50重量%となるよう調整し、100メッシュの金網にて濾過し、
この水分散体の分散粒子の体積50%平均粒径は1.0μm、pHは3.8であり、
この水分散体を、アセチルトリブチルクエン酸20部を徐々に加えて行き、1時間程度攪拌することで得た水分散体」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(4)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「L-乳酸/D-乳酸の比率が72/18のポリ乳酸」は、「72/18」は「4」であるから、本件発明1の「(A)ポリ乳酸を構成する総モノマー分子の80?100モル%が乳酸モノマー」であり、「(B)ポリ乳酸を構成するL-乳酸とD-乳酸とのモル比(L-乳酸/D-乳酸)が1?7」である「ポリ乳酸(A)」に相当する。

甲1発明の「部分けん化ポリビニルアルコール」は、(甲1d)及び(本d)の段落【0025】及び【0038】の記載からみて、本件発明1の「(3)カチオン性高分子化合物、アニオン性高分子化合物、ポリビニルアルコール及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上の分散安定化剤」に相当するといえる。

甲1発明の「アセチルトリブチルクエン酸」は、(甲1e)の段落【0015】及び【0017】の記載からみて「可塑剤」であり、本件発明1の「(2)アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上の可塑剤」と、「可塑剤」である限りにおいて一致する。

甲1発明の「水分散体」は、本件発明1と同様に、「ポリ乳酸」及び「水」を含有するものであるから、「(4)水」を含有する「ポリ乳酸含有水系分散体」であるといえる。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「(1)ポリ乳酸、
(2)可塑剤、
(3)カチオン性高分子化合物、アニオン性高分子化合物、ポリビニルアルコール及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上の分散安定化剤、及び
(4)水、
を含有し、
下記の物性(A)?(B):
(A)ポリ乳酸を構成する総モノマー分子の80?100モル%が乳酸モノマーである;
(B)ポリ乳酸を構成するL-乳酸とD-乳酸とのモル比(L-乳酸/D-乳酸)が1?7である;
を満たす、ポリ乳酸含有水系分散体」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:「可塑剤」について、本件発明1では、「アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上」のものであるのに対し、甲1発明では、「アセチルトリブチルクエン酸」である点。

相違点2:「ポリ乳酸含有水系分散体」中の「(1)ポリ乳酸」の「(C)還元粘度」について、本件発明1では「0.3?1.5dl/g」と特定されているのに対し、甲1発明では、「(C)還元粘度」について特定されていない点。

相違点3:「ポリ乳酸含有水系分散体」中の「(1)ポリ乳酸」の「(D)数平均分子量」について、本件発明1では、「10,000?90,000」と特定されているのに対し、甲1発明では、「(D)数平均分子量」について特定されていない点。

イ 判断
上記相違点1について、まず検討を行う。

(ア)相違点1について
本件発明1は、上記1(4)で述べたとおり「室温で透明な皮膜形成が可能なポリ乳酸含有水系分散体を提供すること」を課題とする発明であり、本件発明1で特定される(1)?(4)の成分を含有する「ポリ乳酸含有水系分散体」に係る発明である。そして、その具体的な効果について、本件明細書の(本h)の試験例2?5では、本件発明1の「ポリ乳酸含有水系分散体」中の「可塑剤」について、数多くの「可塑剤」について、「ポリ乳酸A?D」を含有する「水系分散体」を「ポリプロピレン板に塗布し、100μmの厚みとなるようにアプリケーターを用いて広げ、20、25、30、40、又は75℃で放置し60分後に製膜の有無、並びに、膜の透明性及びつやを評価」する製膜評価を行い、本件発明1において特定する「アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル」を用いた場合にのみ室温で透明な皮膜が形成されたことを確認しており、その他の「可塑剤」では、化学構造が比較的類似のものであったとしても室温で透明な皮膜が形成されなかったことを確認している。

一方、甲1発明は、「可塑剤」として「アセチルトリブチルクエン酸」を用いるものであり、甲第1号証の(甲1e)には「多価カルボン酸エステル、多価アルコールエステル、オキシ酸エステル、ロジンエステル等が挙げられる」とし、多数の「可塑剤」について列記され、この中には、「多価カルボン酸エステル」として本件発明1と同じ「ジメチルアジペート」及び「ジブチルアジペート」のみが例示されている。そして、甲第1号証の実施例において用いられているのは、「オキシ酸エステル類」である「アセチルトリブチルクエン酸」及び「トリアセチン」、「グリセリンジアセトモノラウレート」のみであり、「多価カルボン酸エステル」の例は記載されていない。 そうすると、甲1発明において、「可塑剤」として、「アセチルトリブチルクエン酸」に代えて、(甲1e)において多数列記されるものの中から特に「多価カルボン酸エステル」の具体例の中の「ジメチルアジペート」及び「ジブチルアジペート」を選択する動機付けはあるとはいえないし、ましてや、甲第1号証に具体的な記載のない本件発明1の「・・・アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、・・・、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル」を選択する動機付けがあるともいえない。念のため、本件発明1の効果について検討すると、甲第1号証には、あくまで可塑剤を配合することが記載されているのみであり、甲第1号証の記載から、本件発明1の上記「20、25、30、40、又は75℃で放置し60分後」のいずれの場合であっても「室温で透明な皮膜が形成」できるという効果を予測することはできない。
したがって、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、また、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に想到し得た発明であるともいえない。

甲第2?7号証の上記「第4 本件明細書及び各甲号証に記載された事項」「2 各甲号証に記載された事項」(2)?(7)の摘記には、ポリ乳酸を含む組成物や混合物が記載されており、甲第2、4、7号証には「可塑剤」を添加できることは記載されているものの(甲第2号証の(甲2c)、甲第4号証の(甲4b)、甲第7号証の(甲7c)を参照)、本件発明1において具体的に特定される「可塑剤」については記載されていない。甲第3、5、6号証には、可塑剤を用いることができることも記載されていない。

甲第8号証の上記摘記(甲8a)?(甲8f)には、「乳酸プラスチックに可塑剤を配合したものを乳化してなる乳酸プラスチックエマルション」であって、「可塑剤」として、(甲8a)の式(I)で表される化合物を配合した「乳酸プラスチックエマルション」について記載され、(甲8d)には「可塑剤」について具体的に記載され、(甲8f)の実施例では、「可塑剤」として、「ジブチルジグリコールアジペート」、「ベンジルメチルジグリコールアジペート」、「ジイソノニルアジペート」、「ジブチルマレート」、「ジオクチルフタレート」を用いた例が記載されているが、本件発明1の「アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル」を「可塑剤」として用いることが記載されていないから、甲第8号証には、甲1発明において、上記本件発明1の「可塑剤」を選択する動機付けとなる記載があるとはいえない。

甲第9号証の(甲9a)?(甲9e)には、「生分解性樹脂エマルジョンと生分解性可塑剤とが配合されていることを特徴とする水性樹脂組成物」について記載され、(甲9c)には「生分解性樹脂」として多数列記された中に「ポリ乳酸」を用いることができることが記載され、(甲9d)には「可塑剤」として多数列記され、「脂肪族エステル誘導体であるアジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチルの混合体がデュポン社から商品名「DBE」として市販されており使用に好都合である」ことも記載されている。一方、(甲9e)の実施例では、「可塑剤」として「グルタル酸ジメチル」を用いているものの、「生分解性樹脂」として「ポリ乳酸」を用いた例はないから、甲第9号証の記載は、「ポリ乳酸」を樹脂成分とする甲1発明において、「可塑剤」として、「アジピン酸ジメチル」、「コハク酸ジメチル」、「グルタル酸ジメチル」を特に選択する動機付けとなるとはいえない。念のため、本件発明1の効果について検討すると、甲第9号証には、「ポリ乳酸」と、「アジピン酸ジメチル」、「コハク酸ジメチル」、「グルタル酸ジメチル」とを組み合わせて用いることにより「室温で透明な皮膜が形成」できることは記載されていないから、甲第9号証の記載からは、本件発明1の「ポリ乳酸含有水系分散体」において上記「20、25、30、40、又は75℃で放置し60分後」のいずれの場合であっても「室温で透明な皮膜が形成」できるという効果を予測することはできない。

甲第10号証の(甲10a)?(甲10f)には、「生分解性樹脂が可塑剤及び分散安定化剤の存在下に水に分散安定化されていることを特徴とする生分解性樹脂水系分散体」について記載され、(甲10c)には、「生分解性樹脂」として「ポリ乳酸」を用いることができること、(甲10d)には「可塑剤」として「アジピン酸誘導体」を用いることができることが記載され、(甲10f)の実施例では、「ポリ乳酸樹脂」と、「可塑剤」として「アジピン酸誘導体」である「ブチルグリコールジアジペート」を用いた例は記載されているものの、本件発明1の「アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジアリル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)、アジピン酸ビス(2-メトキシエチル)、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル」を「可塑剤」として用いることが記載されていないから、甲1発明において、上記本件発明1の「可塑剤」を選択する動機付けとなる記載はない。

したがって、相違点1は、甲1発明及び甲第2?10号証に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(イ)異議申立書における申立人の主張について
異議申立書の第27?28頁において、申立人は、「・・・また、甲第1号証には、可塑剤としての「多塩基酸エステル」が「ジメチルアジペート」または「ジブチルアジペート」等であることも記載されている(段落0015)。これは、本件特許発明1における「可塑剤」に相当する。してみると、甲第1号証には、本件特許発明1の構成要件としての前記の通りの技術的事項である・・・(2)可塑剤・・・を含有する「ポリ乳酸含有水系分散体」が記載されており、・・・がわかる」と主張している。
しかしながら、上述したとおり、甲第1号証には、具体的な実施例として、本件発明1の「可塑剤」を用いた例は記載されていないし、(甲1e)において多数列記されるものの中から特に「ジメチルアジペート」及び「ジブチルアジペート」を選択する動機付けはあるとはいえない。

また、異議申立書の第37?38頁において、申立人は、「(a)可塑剤について・・・そうすると、甲第1号証記載の発明において、造膜性を良好にし、造膜温度を調整するために甲第8号証記載の式(I)に係る可塑剤、甲第9号証記載の可塑剤(アジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、または、グルタル酸ジメチル)、または、甲第10号証に記載のアジピン酸誘導体を使用することは、単なる最適材料の選択や設計変更であり、当業者であれば格別困難性を有するものでもない」と主張している。
しかしながら、上述のとおり、甲第8号証及び甲第10号証には、本件発明1で具体的に特定される「可塑剤」を使用することは記載されていないし、甲第9号証には「ポリ乳酸」との組み合わせで本件発明1において具体的に特定される「可塑剤」を使用することは記載されていないから、甲第8?10号証には、甲1発明において、本件発明1で特定される「可塑剤」を用いる動機付けがあるとはいえない。

ウ 小括
以上のとおり、上記相違点2?3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1号証に記載された発明及び甲第2?10号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2?4は、上記(4)イで示した理由と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第10号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)まとめ
以上のとおり、申立理由1?2の理由によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり、申立人が主張する異議申立ての理由1?3及び証拠によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2021-02-04 
出願番号 特願2016-572022(P2016-572022)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤本 保吉田 早希大久保 智之  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 杉江 渉
安田 周史
登録日 2020-04-24 
登録番号 特許第6695815号(P6695815)
権利者 大東化成工業株式会社 東洋紡株式会社
発明の名称 ポリ乳酸含有水系分散体  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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