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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1371167
審判番号 不服2020-9892  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-14 
確定日 2021-03-04 
事件の表示 特願2016- 86284「プリント配線板用樹脂組成物、プリプレグ、レジンシート、積層板、金属箔張積層板、及びプリント配線板」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月26日出願公開、特開2017-195334、請求項の数(16)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成28年4月22日の出願であって、令和元年11月25日付けで拒絶理由が通知され、令和2年1月23日に手続補正がなされたが、令和2年4月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和2年7月14日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定(令和2年4月22日付け拒絶査定)の理由(特許法第29条第2項)の概要は、次のとおりである。
「この出願の請求項1ないし18に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献1ないし3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1-6、12、13、16-18
・引用文献等 1

・請求項 1-6、9-11、14-18
・引用文献等 2

・請求項 7、8
・引用文献等 1及び3、又は、2及び3

<引用文献等一覧>
1.特開2014-99516号公報
2.特開2014-107295号公報
3.国際公開第2015/105109号」

第3 本願発明
本願の請求項1ないし16に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明16」という。)は、令和2年7月14日の手続補正(以下、「本件補正」という。)によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
なお、本件補正によって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項9及び11が削除されているので、請求項数は16となっている。

「【請求項1】
(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、オレフィン、及び芳香族ビニル化合物からなる群より選択される一種又は二種以上を重合させて得られる重合体並びに/又はシリコーンの重合体、を含む充填材(A)と、
熱硬化性成分(B)と、
無機充填材(G)と、を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は、前記熱硬化性成分(B)100質量部に対して、前記充填材(A)20質量部以上60質量部以下及び前記無機充填材(G)50質量部以上300質量部以下を含み、
前記充填材(A)の内で粒子径が3.0μm以上である充填材の含有量が、前記樹脂組成物の総体積量に対して、0.09体積%以下である、プリント配線板用樹脂組成物。

【請求項2】
前記充填材(A)は、コアと、該コアの外側にシェルと、を有するコア-シェル型粒子 である、請求項1に記載のプリント配線板用樹脂組成物。

【請求項3】
前記コアは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、オレフィン、及び芳香族ビニル化合物からなる群より選択される一種又は二種以上を重合させて得られる重合体並びに/又はシリコーンの重合体を含む、請求項2に記載のプリント配線板用樹脂組成物。

【請求項4】
前記シェルは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、及び芳香族ビニル化合物からなる群より選択される一種又は二種以上を重合させて得られる重合体並びに/ 又はポリメチルシルセスキオキサンの重合体を含む、請求項2又は3に記載のプリント配線板用樹脂組成物。

【請求項5】
前記コアは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、ブタジエン、及び芳香族ビニル化合物からなる群より選択される一種又は二種以上を重合させて得られる重合体を含み、
前記シェルは、メタクリル酸エステルを重合させて得られる重合体を含む、請求項2? 4のいずれか一項に記載のプリント配線板用樹脂組成物。

【請求項6】
前記熱硬化性成分(B)は、マレイミド化合物(C)、エポキシ樹脂(D)、シアン酸エステル化合物(E)、及びアルケニル置換ナジイミド(F)からなる群より選ばれる一種又は二種以上を含む、請求項1?5のいずれか一項に記載のプリント配線板用樹脂組成物。

【請求項7】
前記マレイミド化合物(C)は、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、2,2-ビ ス{4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル}プロパン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ポリテトラメチレンオキシド-ビス(4-マレイミドベンゾエート)、及び下記一般式(1)で表されるマレイミド化合物からなる群より選ばれる一種又は二種以上を含む、請求項6に記載のプリント配線板用樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、複数のR_(5)は、各々独立に水素原子又はメチル基を示し、n_(1)は、1以上の整数を示す。)

【請求項8】
前記シアン酸エステル化合物(E)は、下記一般式(2)で表される化合物及び下記一般式(3)で表される化合物からなる群より選択される一種又は二種以上を含む、請求項6又は7に記載のプリント配線板用樹脂組成物。
【化2】

(式(2)中、複数のR_(6)は、各々独立に水素原子又はメチル基を示し、n_(2)は、1以上の整数を示す。)
【化3】

(式(3)中、複数のR_(7)は、各々独立に水素原子又はメチル基を示し、複数のR_(8)は、各々独立に水素原子又は炭素数が1?4のアルキル基若しくはアルケニル基を示し、n_(3)は、1以上の整数を示す。)

【請求項9】
前記無機充填材(G)は、シリカ、アルミナ、及び窒化アルミニウムからなる群より選択される一種又は二種以上を含む、請求項1?8のいずれか一項に記載のプリント配線板用樹脂組成物。

【請求項10】
基材と、該基材に含浸又は塗布された請求項1?9のいずれか一項に記載のプリント配線板用樹脂組成物と、を有する、プリプレグ。

【請求項11】
前記基材は、Eガラスクロス、Tガラスクロス、Sガラスクロス、Qガラスクロス、及び有機繊維からなる群より選ばれる一種又は二種以上である、請求項10に記載のプリプレグ。

【請求項12】
支持体と、該支持体の表面に配された請求項1?9のいずれか一項に記載のプリント配線板用樹脂組成物と、を有する、レジンシート。

【請求項13】
前記支持体は、樹脂シート又は金属箔である、請求項12に記載のレジンシート。

【請求項14】
請求項10又は11に記載のプリプレグ、及び請求項12又は13に記載のレジンシートからなる群より選択される一種又は二種以上を、複数備える積層板。

【請求項15】
請求項10又は11に記載のプリプレグ、及び請求項12又は13に記載のレジンシートからなる群より選択される一種又は二種以上と、金属箔と、を備える金属箔張積層板。

【請求項16】
請求項1?9のいずれか一項に記載のプリント配線板用樹脂組成物を含む絶縁層と、該絶縁層の表面に形成された導体層と、を備えるプリント配線板。」

第4 引用発明、引用文献等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。
「【0018】
・・・ブタジエンゴム-アクリル樹脂のコアシェル粒子は、乳化重合でブタジエン粒子を重合させ、引き続きアクリル酸エステル、アクリル酸等のモノマーを添加して重合を続ける二段階の重合方法で得る・・・」

「【0019】
・・・ブタジエンゴム-アクリル樹脂のコアシェル粒子はロームアンドハース株式会社製のEXL-2655・・・が挙げられる。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0008】
このような状況において、本発明は、シリカフィラーを高充填化しても凹凸の埋め込み性に優れた接着フィルム、及びこの接着フィルムを用いた多層プリント配線板、ならびにその製造方法を提供することを目的とする。」

「【0034】
本発明の無機充填材の量は、多いほうが、熱硬化後の層間絶縁層の熱膨張係数が下がるため、好ましいが、形成する内層回路基板の配線パターンの凹凸や、スルーホールを埋め込む必要があるため、適切な無機充填材の量がある。このため、好ましくは、無機充填材は固形分のうち、20?95質量%である。20質量%未満であると、先述の熱膨張係数が高くなる傾向があり、95質量%を越えると、埋め込み性が良好でなくなる傾向が認められる。・・・」

「【0040】
(支持体フィルム)
本発明における支持体フィルムとは、本発明の接着フィルムを製造する際の支持体となるものであり、多層プリント配線板を製造する際に、通常、最終的に剥離、または除去されるものである。支持体フィルムが複数層で形成されている場合、本発明の接着フィルムと一緒に多層プリント配線板側に形成して残す層(2層以上でも構わない)と、剥離または除去される層(2層以上でも構わない)に別れていてもよい。・・・」

「【0041】
支持体フィルムは、上述のように単一の成分である必要はなく、上記支持体と合わせて複数層(2層以上)の別材料で形成されていても構わない。例えば、支持体フィルムが上記支持体と合わせて2層構造である例を示すと、1層目のフィルムとして、上記支持体を用い、2層目として、別材料として、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂の硬化剤や充填材などから形成される層があってもよい。この場合、エポキシ樹脂やエポキシ樹脂の硬化剤、充填材などは特に限定されるものではないが、前述の接着フィルムに使用する材料において述べた材料も使用できる。この層は、メッキ銅との接着性の向上などの目的として用いられる。2層目の層の形成方法としては、特に制限されるものではないが、材料を溶媒中に溶解・分散したワニスを1層目のフィルム上に塗布・乾燥させる方法などがある。

【0043】
支持体フィルムが複数層から形成される場合、上記支持体(1層目のフィルム)の厚さは10?100μmであることが好ましく・・・。上記支持体の上に形成された層(2層目以降、2層以上の複数層あってもよい)は、機能をもたせることを意図して作製された層であり、本発明の接着フィルムに機能を付与するための層である。その厚さは1?20μmであることが好ましい。1μmよりも薄いと、意図する機能を果たすことができなくなることがある。また、20μmを超えると、支持体フィルムとして高価になることからこの厚さを厚くする必要もない。」

「【0047】
本発明の接着フィルムは、当業者の公知の方法に従って、例えば、有機溶剤に樹脂組成物を溶解し、無機充填材や有機充填材などの充填材を混合したワニスを調製し、支持体フィルムの上に、このワニスを塗布し、更に加熱、あるいは熱風吹きつけなどによって、有機溶剤を乾燥させて、樹脂組成物の層を形成させることにより製造することができる。」

「【0051】
次に、本発明の接着フィルムを用いて、本発明の多層プリント配線板を製造する方法について説明する。・・・」

「【0058】
(実施例1)
接着フィルムの元になるワニスとして、・・・。
そのほか、併用するエポキシ樹脂硬化剤として、DIC株式会社製のトリアジン変性フェノールノボラック樹脂として、LA-1356-60M(商品名、溶剤;MEK、濃度60%)を4.9部、
・・・ワニスを作製した。
支持体フィルムとして、フィルム厚が50μmのPET(ポリエ チレンテレフタレート)フィルムであるG2(帝人・デュポンフィルム株式会社製、商品名)を用い、ワニスを塗布・乾燥した。
塗工厚さは40μmで、残留溶剤が8.0質量%になるように塗布、乾燥を行い、フィルムをロール状に巻き取って作製し、接着フィルム1を得た。乾燥後、フィルム状に巻き取る前に、塗布面側に保護フィルムとして、厚さ25μmのポリエチレンフィルムであるNF-13(タマポリ株式会社製、商品名)を保護フィルムとして積層し、巻き取りを行った。」

「【0064】
(実施例7)
実施例7として、50μmの厚さのG2を用い、その上に10μmの膜厚になるように、樹脂ワニスを塗布・乾燥し、得られた60μm厚さの支持体フィルム2を使用した。
【0065】
50μmの厚さのG2上に塗布する樹脂ワニスの組成として、
エポキシ樹脂として、NC3000-Hを63.9部、
LA-1356-60Mを18.0部、
コアシェルゴム粒子であるEXL-2655(ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製、商品名)を15.2部、
シリカとして、日本アエロジル株式会社製のヒュームドシリカであるアエロジルR972(商品名、平均粒径;0.02μm、濃度100%)を8.8部、
硬化促進剤として2E4MZを1.28部、
追加溶剤としてシクロヘキサノンを226.1部追加し、溶解、混合、ビーズミル分散処理を施してワニスを作製した。
作製したワニスをフィルム厚が50μmのG2の上に10μmの膜厚になるように塗布・乾燥し、フィルム厚が60μmの支持体フィルム2を得た。支持体フィルムを200℃乾燥機に10分曝した際に、重量変化率が3質量%以下になるように、乾燥条件を設定し、支持体フィルム2を得た。」

よって、引用文献2には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
ア 引用文献2の段落【0008】には、引用文献2の「接着フィルム」が、「シリカフィラーを高充填化しても凹凸の埋め込み性に優れた」ものであることが記載されている。

イ 引用文献2の段落【0040】、【0041】及び段落【0043】より、「複数層」で形成された「支持体フィルム」のうち、「1層目」が、「多層プリント配線板を製造する際に」「剥離または除去される」「支持体」であり、「2層目」が、「接着フィルムと一緒に多層プリント配線板側に形成して残す層」であることは、「2層目」が、「接着フィルム」に「メッキ銅との接着性の向上など」の「機能を付与するための層」であることから、明らかである。
よって、引用文献2の段落【0040】、【0041】及び段落【0043】より、「支持体フィルムは、接着フィルムを製造する際の支持体となるものであり、複数層で形成され、多層プリント配線板を製造する際に、剥離または除去される1層目と、接着フィルムと一緒に多層プリント配線板側に形成して残す2層目とに別れ、1層目のフィルムとして、支持体を用い、2層目として、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂の硬化剤や充填材などから形成される層があり、この層は、メッキ銅との接着性の向上など、接着フィルムに機能を付与するための層であり、2層目の層の形成方法としては、材料を溶媒中に溶解・分散したワニスを1層目のフィルム上に塗布・乾燥させる方法がある。」ことを読み取ることができる。

ウ 引用文献2の段落【0058】より、「G2」が帝人・デュポンフィルム株式会社製の「PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム」の商品名であること、「LA-1356-60M」がDIC株式会社製のトリアジン変性フェノールノボラック樹脂(商品名、溶剤;MEK、濃度60%)であることが分かるから、引用文献2の段落【0064】、【0065】より、「フィルム上に、
エポキシ樹脂 63.9部、
トリアジン変性フェノールノボラック樹脂(濃度60%) 18.0部、
コアシェルゴム粒子であるEXL-2655(ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製、商品名)15.2部、
シリカ 8.8部、
硬化促進剤 1.28部、
追加溶剤 226.1部、
のワニスを塗布・乾燥し、支持体フィルムを得る」
ことを読み取ることができる。

したがって上記アないしウより、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「支持体フィルムは、シリカフィラーを高充填化しても凹凸の埋め込み性に優れた接着フィルムを製造する際の支持体となるものであり、複数層で形成され、多層プリント配線板を製造する際に、剥離または除去される1層目と、接着フィルムと一緒に多層プリント配線板側に形成して残す2層目とに別れ、2層目として、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂の硬化剤や充填材などから形成される層があり、この層は、メッキ銅との接着性の向上など、接着フィルムに機能を付与するための層であり、2層目の層の形成方法としては、材料を溶媒中に溶解・分散したワニスを1層目のフィルム上に塗布・乾燥させる方法があり、フィルム上に、
エポキシ樹脂 63.9部、
トリアジン変性フェノールノボラック樹脂(濃度60%) 18.0部、
コアシェルゴム粒子であるEXL-2655(ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製、商品名)15.2部、
シリカ 8.8部、
硬化促進剤 1.28部、
追加溶剤 226.1部、
のワニスを塗布・乾燥した、支持体フィルム。」

3.引用文献3
原査定の拒絶理由に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。
「[0012] また、特に、プリント配線板用絶縁層に用いる樹脂組成物として、アルケニル置換ナジイミド(A)、マレイミド化合物(B)、シアン酸エステル化合物(C)及び無機充填材(D)を含み、該シアン酸エステル化合物(C)の含有量が、成分(A)?(C)の合計100質量部に対して5?15質量部であって、該アルケニル置換ナジイミド(A)のアルケニル基数(α)と該マレイミド化合物(B)のマレイミド基数(β)の比(〔β/α〕)が、0.9?4.3である樹脂組成物を用いることにより、成形性が良好で、かつ耐熱性や熱時弾性率に優れたプリント配線板用絶縁層を提供することができることを見出し、本発明に到達した。」

「[0062] 本実施形態の絶縁層に用いる樹脂組成物において、無機充填材(D)の含有量は特に限定されないが、成分(A)?(C)の合計100質量部に対して100?1000質量部であることが、低熱膨張や、高熱伝導といった特性の観点から好ましく、その中でも、200?800質量部であることが特に好ましい。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用文献1を主引用例とした拒絶の理由について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、本件補正前の(請求項9を引用する)請求項11となった。そして、本件補正前の(請求項9を引用する)請求項11は、原査定における拒絶の理由のうち、引用文献1を主引用例とした拒絶の理由の対象となっていない請求項である。
よって、本件補正により、引用文献1を主引用例とした拒絶の理由は解消している。
なお、念のため検討すると、引用文献1、引用文献3には、本願発明1における「粒子径が3.0μm以上である充填材の含有量が、前記樹脂組成物の総体積量に対して、0.09体積%以下である」点が記載も示唆もされていないから、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1、引用文献3から容易に発明できたものとはいえない。

以下、原査定の拒絶の理由のうち、引用文献2を主引用例とした拒絶の理由について判断する。
(2)対比
本願発明1と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明2における「コアシェルゴム粒子であるEXL-2655(ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製、商品名)」は、引用文献1の段落【0018】、【0019】の記載より、「ブタジエンゴム-アクリル樹脂のコアシェル粒子」であって、「乳化重合でブタジエン粒子を重合させ、引き続きアクリル酸エステル、アクリル酸等のモノマーを添加して重合を続ける二段階の重合方法で得」られたものといえるから、本願発明1における「(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、オレフィン、及び芳香族ビニル化合物からなる群より選択される一種又は二種以上を重合させて得られる重合体並びに/又はシリコーンの重合体、を含む充填材(A)」に相当する。

イ 引用文献2の段落【0058】に記載されているとおり、「トリアジン変性フェノールノボラック樹脂」は「エポキシ樹脂硬化剤」であるから、引用発明2における「エポキシ樹脂」及びその硬化剤である「トリアジン変性フェノールノボラック樹脂」が、本願発明1における「熱硬化性成分(B)」に相当する。

ウ 引用発明2における「シリカ」が、本願発明1における「無機充填材(G)」に相当する。

エ 引用発明2における「トリアジン変性フェノールノボラック樹脂(濃度60%) 18.0部」は、固形分に換算すると、10.8部(=18.0部×60%)」となる。
この点を踏まえ、引用発明2における、「2層目として、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂の硬化剤や充填材などから形成される層」を形成するための「材料を溶媒中に溶解・分散したワニス」(以下、単に「2層目のワニス」という。)の組成を、「2層目のワニス」に含まれる「エポキシ樹脂」及び「トリアジン変性フェノールノボラック樹脂」(固形分)(以下、「熱硬化性の樹脂成分」ということがある。)の100部に対する比で示すと、次のとおりである。

「エポキシ樹脂 85.5部(=63.9/(63.9+10.8)×100)
トリアジン変性フェノールノボラック樹脂(固形分)14.6部(=10.8/(63.9+10.8) ×100)
熱硬化性の樹脂成分 100部

コアシェルゴム粒子であるEXL-2655 20.3部(=15.2/(63.9+10.8)×100)
シリカ 11.8部(=8.8/(63.9+10.8)×100)」

よって、引用発明2における「コアシェルゴム粒子であるEXL-2655」は、熱硬化性の樹脂成分100部に対して「20.3部」であるから、本願発明1における「前記熱硬化性成分(B)100質量部に対して、前記充填材(A)20質量部以上60質量部以下」の条件を満たしている。

オ 上記エに記載したとおり、引用発明2における「シリカ」の含有量は、熱硬化性の樹脂成分100部に対して、「11.8部」であるから、本願発明1における「前記熱硬化性成分(B)100質量部に対して、」「前記無機充填材(G)50質量部以上300質量部以下を含み、」の条件を満足していない。

カ 引用発明2における「(B)ブタジエンゴム-アクリル樹脂のコアシェル粒子 EXL-2655(ロームアンドハース株式会社製)」(以下、単に「コアシェル粒子 EXL-2655」ということがある。)は、本願明細書の実施例7ないし9で用いられた「有機フィラー[MMAシェル-MBSコア](メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレンの共重合体(MBS)からなるコアとメタクリル酸メチルの重合体(MMA)からなるシェルとを有する粒子、ダウ・ケミカル日本(株)社製の商品名「EXL-2655」)と同じ粒子と認められる。そして、引用発明2において、熱硬化性の樹脂成分100部に対するコアシェル粒子 EXL-2655の含有量が、本願発明1に規定された質量部の範囲内にあることを踏まえれば、引用発明2の「2層目のワニス」(溶剤を除く)も、本願発明1における「前記充填材(A)の内で粒子径が3.0μm以上である充填材の含有量が、前記樹脂組成物の総体積量に対して、0.09体積%以下である」との条件を満たすものと認められる。

キ 引用発明2における「2層目のワニス」を「1層目のフィルム上に塗布・乾燥させ」て形成した層は、「多層プリント配線板を製造する際に」、「接着フィルムと一緒に多層プリント配線板側に形成して残す2層目」であって、「多層プリント配線板」における「メッキ銅との接着性の向上など、接着フィルムに機能を付与するための層」であるから、「多層プリント配線板」の一部を構成していることは明らかである。
よって、引用発明2における「2層目のワニス」は、本願発明1における「プリント配線板用樹脂組成物」に相当するといえる。

以上より、本願発明1と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、オレフィン、及び芳香族ビニル化合物からなる群より選択される一種又は二種以上を重合させて得られる重合体並びに/又はシリコーンの重合体、を含む充填材(A)と、
熱硬化性成分(B)と、
無機充填材(G)と、を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は、前記熱硬化性成分(B)100質量部に対して、前記充填材(A)20質量部以上60質量部以下を含み、
前記充填材(A)の内で粒子径が3.0μm以上である充填材の含有量が、前記樹脂組成物の総体積量に対して、0.09体積%以下である、プリント配線板用樹脂組成物。」

(相違点1)
本願発明1では、無機充填材(G)の含有量が、熱硬化性成分(B)100質量部に対して「50質量部以上300質量部以下」であるのに対し、引用発明2における「シリカ」の含有量は、熱硬化性の樹脂成分100部に対して、「11.8部」である点。

(3)相違点1についての判断
上記相違点1について以下、検討する。
ア 引用文献2の段落【0008】に「本発明は、シリカフィラーを高充填化しても凹凸の埋め込み性に優れた接着フィルム、及びこの接着フィルムを用いた多層プリント配線板、ならびにその製造方法を提供することを目的とする。」と記載され、段落【0034】に「本発明の無機充填材の量は、多いほうが、熱硬化後の層間絶縁層の熱膨張係数が下がるため、好ましいが、形成する内層回路基板の配線パターンの凹凸や、スルーホールを埋め込む必要があるため、適切な無機充填材の量がある。このため、好ましくは、無機充填材は固形分のうち、20?95質量%である。20質量%未満であると、先述の熱膨張係数が高くなる傾向があり、95質量%を越えると、埋め込み性が良好でなくなる傾向が認められる。」と記載されているものの、これらの記載は、「シリカフィラーを高充填化しても凹凸の埋め込み性に優れた」「接着フィルム」についての記載であって、支持フィルムの「2層目のワニス」についての記載ではない。
また、「支持フィルム」の「2層目」は「メッキ銅との接着性の向上など、接着フィルムに機能を付与するための層」であるから、(配線パターンの凹凸やスルーホールの)埋め込み特性と、低い熱膨張係数との両立が求められる「接着フィルム」とは、要求される特性が異なると考えるのが自然である。

イ よって、引用文献2の記載をみても、引用発明2における「2層目のワニス」において、シリカ(無機充填材)の添加量のみを増加させ、「熱硬化性の樹脂成分」の合計100部に対して「50部以上300部以下」となるようにする動機を見出すことはできない。

ウ また、引用文献3に記載された樹脂組成物も、「成形性が良好で、かつ耐熱性や熱時弾性率に優れたプリント配線板用絶縁層」を提供するための組成物であって、引用発明2における「接着フィルム」用の「ワニス」(引用文献2の段落【0047】に記載された「ワニス」)に相当するものであるから、同様の理由により、引用発明2における「2層目のワニス」において、シリカ(無機充填材)の添加量のみを増加させ、「熱硬化性の樹脂成分」の合計100部に対して「50部以上300部以下」となるようにする動機を提示するものではない。

エ したがって、引用発明2において、「2層目のワニス」におけるシリカ(無機充填材)の添加量を上記相違点1の範囲とすることは、当業者であっても、容易に想到し得たことではない。

(4)まとめ
以上のとおり、本願発明1は、当業者であっても引用発明2及び引用文献3に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
なお、本願発明1が、当業者であっても、引用文献1及び引用文献3から容易に発明できたものとはいえないことは、前記「(1)」に記載したとおりである。

2.本願発明2ないし16について
請求項2ないし16は、請求項1を直接的にないし間接的に引用する請求項であるから、本願発明2ないし16は、本願発明1と同じく、「無機充填材(G)の含有量が、熱硬化性成分(B)100質量部に対して「50質量部以上300質量部以下」という構成を備えるものである。
よって、本願発明2ないし16も、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明2及び引用文献3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
なお、本願発明2ないし16は、本願発明1と同じく、「粒子径が3.0μm以上である充填材の含有量が、前記樹脂組成物の総体積量に対して、0.09体積%以下である」という構成を備えるものであるから、当業者であっても、引用文献1及び引用文献3から容易に発明できたものとはいえない。

第6 まとめ
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-02-17 
出願番号 特願2016-86284(P2016-86284)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鹿野 博司  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 清水 稔
須原 宏光
発明の名称 プリント配線板用樹脂組成物、プリプレグ、レジンシート、積層板、金属箔張積層板、及びプリント配線板  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  

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