ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01F |
---|---|
管理番号 | 1371549 |
審判番号 | 不服2019-16499 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-12-05 |
確定日 | 2021-03-04 |
事件の表示 | 特願2015-229395「コイル部品及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 4日出願公開、特開2016-139786〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年11月25日(パリ条約による優先権主張 2015年1月27日 韓国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年10月30日付け:拒絶理由通知 平成31年 2月 5日 :意見書、手続補正書の提出 令和 1年 7月30日付け:拒絶査定 令和 1年12月 5日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 2年 3月19日 :上申書の提出 第2 令和1年12月5日の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和1年12月5日の手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 令和1年12月5日の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項1を本件補正における請求項1に変更する補正事項を含むものである。 そして、補正前の請求項1及び本件補正における請求項1は、それぞれ、以下のとおりである(本件補正における請求項1の下線部は、補正された箇所を示す。)。 〈補正前の請求項1〉 「【請求項1】 ビアパッドを含む多層構造のコイル導体と、 各層の前記ビアパッド間を連結するビアと、を含み、隣接する二つの層の前記ビアパッドは一部または全部が重なり、前記ビアパッドを介して連続する二つの層の前記ビアは互いにずれて配置され、 前記ビアパッドは、前記コイル導体とそれぞれ同一層に配置される、 コイル部品。」 〈本件補正における請求項1〉 「【請求項1】 ビアパッドを含む多層構造のコイル導体と、 各層の前記ビアパッド間を連結するビアと、を含み、隣接する二つの層の前記ビアパッドは一部または全部が重なり、前記ビアパッドを介して連続する二つの層の前記ビアは互いにずれて配置され、 前記ビアパッドは、前記コイル導体とそれぞれ同一層に配置され、 前記ビアパッドのうちの少なくとも1つは、同一層上の前記コイル導体に囲まれ、該コイル導体と離隔している コイル部品。」 2.新規事項について 本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ビアパッド」について、「少なくとも1つは、同一層上のコイル導体に囲まれ、該コイル導体と離隔している」旨の限定を付加するものである。 本件補正により、ビアパッドは少なくとも1つは同一層上のコイル導体に囲まれるものとされたから、本件補正における請求項1に記載された発明は、「同一層上のコイル導体に囲まれるビアパッド」と「同一層上のコイル導体に囲まれないビアパッド」との両方を有するコイル部品を含むものである。 しかしながら、願書に最初に添付した明細書または図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「同一層上のコイル導体に囲まれるビアパッド」と「同一層上のコイル導体に囲まれないビアパッド」との両方を有するコイル部品の記載はない。 したがって、本件補正に係る事項は、当初明細書等には記載されておらず、また、当初明細書等から自明なことともいえず、本件補正は、当初明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。 よって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.独立特許要件について(予備的見解) 本件補正は、上記「2.」で検討したように新たな技術的事項を導入するものであるが、仮に、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ビアパッド」について限定を付加するものであり、特許請求の範囲を減縮するものであるとして、本件補正における請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、独立して特許を受けることができたものであるか否かも検討する。 (1)本願補正発明 本願補正発明は、上記「1.」の〈本件補正における請求項1〉に記載したとおりのものである。 (2)引用文献、引用発明 ア.本願の優先日前に公開された、特開2014-135361号公報(以下、「引用文献A」という。)には、「積層コモンモードフィルタ」について、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。 「【0015】 積層コモンモードフィルタCFは、図1?図3に示されるように、素体1と、素体1の外表面に配置される第一?第四端子電極11?14と、を備えている。 素体1は、非磁性体部3と、素体1の高さ方向で非磁性体部3を挟むように配置された一対の磁性体部5と、を有している。」 「【0019】 素体1は、非磁性体部3と、素体1の高さ方向で非磁性体部3を挟むように配置された一対の磁性体部5と、を有している。非磁性体部3では、図3にも示されるように、複数の非磁性体層4が積層されている。すなわち、非磁性体部3は、積層された複数の非磁性体層4により構成されている。本実施形態では、非磁性体部3は、5層の非磁性体層4により構成されている。各磁性体部5では、図3にも示されるように、複数の磁性体層6が積層されている。すなわち、磁性体部5は、積層された複数の磁性体層6により構成されている。 【0020】 各非磁性体層4は、たとえば非磁性材料(Cu-Zn系フェライト材料、誘電体材料、又はガラスセラミック材料など)を含むセラミックグリーンシートの焼結体から構成される。各磁性体層6は、たとえば磁性材料(Ni-Cu-Zn系フェライト材料、Ni-Cu-Zn-Mg系フェライト材料、又はNi-Cu系フェライト材料など)を含むセラミックグリーンシートの焼結体から構成される。実際の素体1では、各非磁性体層4及び各磁性体層6は、層間の境界が視認できない程度に一体化されている。素体1の高さ方向、すなわち第一主面1aと第二主面1bとの対向方向は、複数の非磁性体層4の積層方向及び複数の磁性体層6の積層方向(以下、単に「積層方向」と称する。)と一致する。」 「【0024】 積層コモンモードフィルタCFは、図2及び図3に示されるように、第一コイル導体21、第二コイル導体22、第三コイル導体23、第四コイル導体24、第一引出導体31、第二引出導体32、第三引出導体33、及び第四引出導体34を、非磁性体部3内に備えている。各導体21?24,31?34は、導電材(たとえば、Ag又はPdなど)を含んでいる。各導体21?24,31?34は、導電性材料(たとえば、Ag粉末又はPd粉末など)を含む導電性ペーストの焼結体として構成される。 【0025】 第一コイル導体21は、図4にも示されるように、渦巻き状であり、積層方向に隣り合う一対の非磁性体層4の間に配置されている。第一コイル導体21の一端部(外側端部)21aは、第一コイル導体21と同じ層に位置する第一引出導体31に接続されている。第一引出導体31は、端部が第一側面1cに露出している。第一引出導体31は、第一側面1cに露出している端部で第一端子電極11に接続されている。第一コイル導体21の他端部(内側端部)21bは、第一コイル導体21と同じ層に位置する第一パッド導体41に接続されている。 【0026】 第二コイル導体22は、図5にも示されるように、渦巻き状であり、積層方向に隣り合う一対の非磁性体層4の間に配置されている。第二コイル導体22の一端部(外側端部)22aは、第二コイル導体22と同じ層に位置する第二引出導体32に接続されている。第二引出導体32は、端部が第二側面1dに露出している。第二引出導体32は、第二側面2dに露出している端部で第二端子電極12に接続されている。第二コイル導体22の他端部(内側端部)22bは、第二コイル導体22と同じ層に位置する第二パッド導体42に接続されている。 【0027】 第三コイル導体23は、図6にも示されるように、渦巻き状であり、積層方向に隣り合う一対の非磁性体層4の間に配置されている。第三コイル導体23の一端部(外側端部)23aは、第三コイル導体23と同じ層に位置する第三引出導体33に接続されている。第三引出導体33は、端部が第一側面2cに露出している。第三引出導体33は、第一側面2cに露出している端部で第三端子電極13に接続されている。第三コイル導体23の他端部(内側端部)23bは、第三コイル導体23と同じ層に位置する第三パッド導体43に接続されている。 【0028】 第四コイル導体24は、図7にも示されるように、渦巻き状であり、積層方向に隣り合う一対の非磁性体層4の間に配置されている。第四コイル導体24の一端部(外側端部)24aは、第四コイル導体24と同じ層に位置する第四引出導体34に接続されている。第四引出導体34は、端部が第二側面2dに露出している。第四引出導体34は、第二側面2dに露出している端部で第四端子電極14に接続されている。第四コイル導体24の他端部(内側端部)24bは、第四コイル導体24と同じ層に位置する第四パッド導体44に接続されている。 【0029】 第一コイル導体21と第三コイル導体23とが積層方向で非磁性体層4を介して互いに隣り合い、第三コイル導体23と第二コイル導体22とが積層方向で非磁性体層4を介して互いに隣り合い、第二コイル導体22と第四コイル導体24とが非磁性体層4を介して積層方向で互いに隣り合っている。すなわち、第一?第四コイル導体21?24は、積層方向において、第一コイル導体21、第三コイル導体23、第二コイル導体22、第四コイル導体24の順に配置されている。第一?第四コイル導体21?24は、積層方向から見て、同じ方向に巻き回されていると共に互いに重なり合うように位置している。 【0030】 第一パッド導体41と第二パッド導体42とは、積層方向から見て、互いに重なり合うように位置している。第一パッド導体41と第二パッド導体42との間には、第三コイル導体23と同じ層に位置する第五パッド導体45が、積層方向から見て、第一及び第二パッド導体41,42と互いに重なり合うように配置されている。すなわち、第一パッド導体41と第五パッド導体45とが積層方向で非磁性体層4を介して互いに隣り合い、第五パッド導体45と第二パッド導体42とが積層方向で非磁性体層4を介して互いに隣り合っている。 【0031】 第一パッド導体41と第五パッド導体45と第二パッド導体42とは、それぞれ第一スルーホール導体51を介して接続されている。第一スルーホール導体51は、第一パッド導体41と第五パッド導体45との間に位置する非磁性体層4と、第五パッド導体45と第二パッド導体42との間に位置する非磁性体層4と、を貫通している。 【0032】 第三パッド導体43と第四パッド導体44とは、積層方向から見て、互いに重なり合うように位置している。第三パッド導体43と第四パッド導体44との間には、第二コイル導体22と同じ層に位置する第六パッド導体46が、積層方向から見て、第三及び第四パッド導体43,44と互いに重なり合うように配置されている。すなわち、第三パッド導体43と第六パッド導体46とが積層方向で非磁性体層4を介して互いに隣り合い、第六パッド導体46と第四パッド導体44とが積層方向で非磁性体層4を介して互いに隣り合っている。 【0033】 第三パッド導体43と第六パッド導体46と第四パッド導体44とは、それぞれ第二スルーホール導体52を介して接続されている。第二スルーホール導体52は、第三パッド導体43と第六パッド導体46との間に位置する非磁性体層4と、第六パッド導体46と第四パッド導体44との間に位置する非磁性体層4と、を貫通している。 【0034】 第一コイル導体21と第二コイル導体22とは、第一パッド導体41、第五パッド導体45、第二パッド導体42、及び第一スルーホール導体51を通して、電気的に接続されており、第一コイルC1を構成している。第三コイル導体23と第四コイル導体24とは、第三パッド導体43、第六パッド導体46、第四パッド導体44、及び第二スルーホール導体52を通して、電気的に接続されており、第二コイルC2を構成している。すなわち、積層コモンモードフィルタCFは、素体1(非磁性体部3)内に、第一コイルC1と第二コイルC2を備える。第一コイルC1と第二コイルC2とは、第一コイル導体21と第三コイル導体23とが積層方向で互いに隣り合い且つ第三コイル導体23と第二コイル導体22とが積層方向で互いに隣り合い且つ第二コイル導体22と第四コイル導体24とが積層方向で互いに隣り合うように、非磁性体部3内に配置されている。 【0035】 第五及び第六パッド導体45,46並びに第一及び第二スルーホール導体51,52は、導電材(たとえば、Ag又はPdなど)を含んでいる。第五及び第六パッド導体45,46並びに第一及び第二スルーホール導体51,52は、導電性材料(たとえば、Ag粉末又はPd粉末など)を含む導電性ペーストの焼結体として構成される。第一及び第二スルーホール導体51,52は、対応する非磁性体層4を構成することとなるセラミックグリーンシートに形成された貫通孔に充填された導電性ペーストが焼結することにより形成される。」 「 」 「 」 ・【0015】の記載事項によれば、「積層コモンモードフィルタCF」は、「非磁性体部3を有している素体1を備え」ている。 ・【0019】、【0020】の記載事項によれば、「非磁性体部3は、セラミックグリーンシートの焼結体から構成される複数の非磁性体層4が積層され」ている。 ・【0029】の記載事項によれば、第一?第四コイル導体21?24は、積層方向において、(第一コイル導体21、第三コイル導体23、第二コイル導体22、第四コイル導体24の)順に配置され、【0025】-【0028】の記載事項によれば、第一?第四コイル導体21?24は渦巻き状であり、【0024】の記載事項によれば、積層コモンモードフィルタCFは、第一コイル導体21、第二コイル導体22、第三コイル導体23、第四コイル導体24、第一引出導体31、第二引出導体32、第三引出導体33、及び第四引出導体34を、非磁性体部3内に備えている。 してみると、「積層コモンモードフィルタCF」は、「積層方向において順に配置された渦巻き状の第一?第四コイル導体21?24と、第一?第四引出導体31?34を、非導電性体部3内に備え」ている。 ・【0025】-【0028】の記載事項によれば、「第一?第四コイル導体21?24の内側端部21b?24bは、第一?第四コイル導体21?24と同じ層に位置する第一?第四パッド導体41?44に接続され」ている。 ・図6からは、第五パッド導体45が、第三コイル導体23に囲まれ、第三コイル導体23と離隔して配置されることが見てとれる。【0030】、【0031】の記載事項及び図6によれば、「第三コイル導体23に囲まれ離隔された第五パッド導体45が、積層方向から見て、第一及び第二パッド導体41,42と互いに重なり合うように配置され、それぞれ第一スルーホール導体51を介して接続され」ている。 ・図5からは、第六パッド導体46が、第二コイル導体22に囲まれ、第二コイル導体22と離隔して配置されることが見てとれる。【0032】、【0033】の記載事項及び図5によれば、「第二コイル導体22に囲まれ離隔された第六パッド導体46が、積層方向から見て、第三及び第四パッド導体43,44と互いに重なり合うように配置され、それぞれ第二スルーホール導体52を介して接続され」ている。 上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献Aには、次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されている。 「非磁性体部3を有している素体1を備え、 非磁性体部3は、セラミックグリーンシートの焼結体から構成される複数の非磁性体層4が積層され、 積層方向において順に配置された渦巻き状の第一?第四コイル導体21?24と、第一?第四引出導体31?34を、非導電性体部3内に備え、 第一?第四コイル導体21?24の内側端部21b?24bは、同じ層に位置する第一?第四パッド導体41?44に接続され、 第三コイル導体23に囲まれ離隔された第五パッド導体45が、積層方向から見て第一及び第二パッド導体41,42と互いに重なり合うように配置され、それぞれ第一スルーホール導体51を介して接続され、 第二コイル導体22に囲まれ離隔された第六パッド導体46が、積層方向から見て第三及び第四パッド導体43,44と互いに重なり合うように配置され、それぞれ第二スルーホール導体52を介して接続されている 積層コモンモードフィルタCF。」 イ.原査定の引用文献1とされ本願の優先日前に公開された特開2012-253332号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。 「【0028】 図1及び図2を参照すると、本発明の一実施形態によるチップ型コイル部品1は、複数の磁性体層40を積層して形成された本体10と、上記本体10の外部面のうち実装面として提供される面に形成された外部端子20、20’と、上記磁性体層40に形成された導体パターン30が上記磁性体層40の積層方向に沿って螺旋状構造を形成するコイル部50と、上記磁性体層40の積層方向に沿って形成され、上記コイル部50の末端と上記外部端子20、20’とを電気的に連結する引出し部31、31’と、を含み、上記引出し部31、31’は、上記磁性体層を貫通して形成されたビア導体100?103及び上記ビア導体をカバーするビアパッド110からなり、上下に隣合う上記磁性体層に形成された上記ビア導体の中心線は互いに一致しないように形成されることができる。」 「【0049】 しかし、上下に隣合う磁性体層に形成されたビア導体の中心線が互いに一致しない場合は、積層されたビア導体のうち何れか一つで焼成収縮が発生しても、これが他のビア導体に与える影響は非常に少ない。 【0050】 即ち、各ビア導体では焼成収縮が発生するが、他のビア導体の焼成収縮との上昇効果を示さないため、ビア抜け現象が発生しない。」 上記【0028】、【0049】-【0050】の記載事項によれば、引用文献1には、次の技術的事項(以下、「引用文献1記載の技術」という。)が記載されている。 「磁性体層を貫通して形成されたビア導体100?103及び上記ビア導体をカバーするビアパッド110において、上下に隣合う上記磁性体層に形成された上記ビア導体の中心線は互いに一致しないように形成することにより、積層されたビア導体のうち何れか一つで焼成収縮が発生しても、これが他のビア導体に与える影響は非常に少なく、ビア抜け現象を発生させない」技術。 (3)本願補正発明と引用発明Aとの対比 ア.引用発明Aの「パッド導体」は「スルーホール導体」を介して接続されるものであるから、本願補正発明の「ビアパッド」に相当する。 そして、引用発明Aの「第一?第四コイル導体21?24」は積層されたものであり、内側端部21b?24bは、第一?第四パッド導体41?44に接続されている。 してみると、引用発明Aの「第一?第四コイル導体21?24」はビアパッドを含んで接続された積層構造であるから、本願補正発明の「ビアパッドを含む多層構造のコイル導体」に相当する。 イ.引用発明Aの「第一スルーホール導体51」は第五パッド導体45と第一及び第二パッド導体41,42とを接続し、「第二スルーホール導体52」は第六パッド導体46と第三及び第四パッド導体43,44とを接続するから、これら「第一スルーホール導体51」「第二スルーホール導体52」は、本願補正発明の「各層の前記ビアパッド間を連結するビア」に相当する。 ウ.引用発明Aの「第三コイル導体23に囲まれ離隔された第五パッド導体45」は、積層方向から見て第一及び第二パッド導体41,42と互いに重なり合うように配置され、「第二コイル導体22に囲まれ離隔された第六パッド導体46」は、積層方向から見て第三及び第四パッド導体43,44と互いに重なり合うように配置されているから、引用発明Aは本願補正発明の「隣接する二つの層の前記ビアパッドは一部または全部が重な」ることに相当する構成を備えている。 エ.引用発明Aの「第一?第四パッド導体41?44」は第一?第四コイル導体21?24と同じ層に位置し、「第五パッド導体45」は第三コイル導体23に囲まれ、「第六パッド導体46」は第二コイル導体22に囲まれているから、引用発明Aは本願補正発明の「前記ビアパッドは、前記コイル導体とそれぞれ同一層に配置され」ることに相当する構成を備えている。 オ.引用発明Aの「第五パッド導体45」が第三コイル導体23に囲まれ離隔され、「第六パッド導体46」が第二コイル導体22に囲まれ離隔されるから、引用発明Aは本願補正発明の「前記ビアパッドのうちの少なくとも1つは、同一層上の前記コイル導体に囲まれ、該コイル導体と離隔している」ことに相当する構成を備えている。 カ.引用発明Aの「積層コモンモードフィルタ」はコイル導体を有するものであるから、「コイル部品」ともいい得るものである。 したがって、本件補正発明と引用発明Aとは、次の一致点及び相違点を有するといえる。 〈一致点〉 「ビアパッドを含む多層構造のコイル導体と、 各層の前記ビアパッド間を連結するビアと、を含み、隣接する二つの層の前記ビアパッドは一部または全部が重なり、 前記ビアパッドは、前記コイル導体とそれぞれ同一層に配置され、 前記ビアパッドのうちの少なくとも1つは、同一層上の前記コイル導体に囲まれ、該コイル導体と離隔している コイル部品。」 〈相違点〉 本願補正発明は「前記ビアパッドを介して連続する二つの層の前記ビアは互いにずれて配置され」るのに対し、引用発明Aはその旨特定されていない点。 (4)相違点の判断 引用文献1記載の技術は、ビア導体の中心線を互いに一致しないように形成することにより、積層されたビア導体のいずれか一つで焼成収縮が発生してもこれが他のビア導体に与える影響を少なくし、ビア抜けを発生させないためのものである。 引用文献Aの段落【0035】の記載(上記「(2)ア.」参照)によれば、引用発明Aの「パッド導体」および「スルーホール導体」は導電性材料(たとえば、Ag粉末又はPd粉末など)を含む導電性ペーストの焼結体として構成されるものであり、引用発明Aと引用文献1記載の技術は共に、ビアパッド間を接続するスルーホール導体(ビア導体)を焼成により形成するものである。 そして、引用発明Aにおいて、ビアパッド及びスルーホール導体は電気的接続を図るものであり、ビアパッドの範囲内でスルーホール導体との接続位置をずらしてもビアパッド及びスルーホール導体の機能に影響を及ぼすことはない。 よって、引用発明Aに引用文献1記載の技術を適用して、パッド導体を介して連続する二つの層に配置されたスルーホール導体の中心線を互いに一致しないように形成(連続する二つの層のスルーホール導体は互いにずれて配置して形成)し上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 そして、本願補正発明の奏する効果は、引用発明Aに引用文献1記載の技術を適用したことにより得られる効果に対して、当業者が想起し得ないものとも認められない。 (5)まとめ 以上のとおりであるから、本願補正発明は引用文献Aに記載された発明及び引用文献1記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成31年2月5日付の手続補正書の請求項1に記載されたとおりのものであり、上記「第2」の「1.」の〈補正前の請求項1〉に摘記されたとおりのものである。 1.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。 (1)(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ●理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(特許法第29条第2項)について ・請求項 1-2,7,15 ・引用文献等 1 ・請求項 1,5,7,10 ・引用文献等 2 ●理由2(特許法第29条第2項)について ・請求項 1-2,5,7,10 ・引用文献等 1-5 ・請求項 3-5,7-10 ・引用文献等 1-6 ・請求項 6-11 ・引用文献等 1-8 ・請求項 12-14 ・引用文献等 1-5,9-10 ・請求項 15 ・引用文献等 1,4-8 <引用文献等一覧> 1.特開2012-253332号公報 2.特開2001-044038号公報 3.特開平11-297531号公報 4.特開2014-123643号公報 5.特開2013-21279号公報 6.特開2001-210522号公報 7.特開2014-192487号公報 (周知技術を示す文献) 8.特開2004-260017号公報 (周知技術を示す文献) 9.特開2014-232837号公報 (周知技術を示す文献) 10.特開2013-120924号公報 (周知技術を示す文献) 2.引用文献の記載及び引用発明 引用文献1には、図面とともに以下の記載がある。 「【0028】 図1及び図2を参照すると、本発明の一実施形態によるチップ型コイル部品1は、複数の磁性体層40を積層して形成された本体10と、上記本体10の外部面のうち実装面として提供される面に形成された外部端子20、20’と、上記磁性体層40に形成された導体パターン30が上記磁性体層40の積層方向に沿って螺旋状構造を形成するコイル部50と、上記磁性体層40の積層方向に沿って形成され、上記コイル部50の末端と上記外部端子20、20’とを電気的に連結する引出し部31、31’と、を含み、上記引出し部31、31’は、上記磁性体層を貫通して形成されたビア導体100?103及び上記ビア導体をカバーするビアパッド110からなり、上下に隣合う上記磁性体層に形成された上記ビア導体の中心線は互いに一致しないように形成されることができる。」 「【0062】 図3及び図4を参照して、上記引出し部31、31’について説明する。 【0063】 図3では、便宜のために、上下に隣合う磁性体層に形成されたビア導体が離隔されて形成された場合を例にとって説明するが、本発明がこれに制限されるものではない。 【0064】 図3の(a)は図2のB部分に対して、A-A’に沿って投影した投影図である。 【0065】 便宜のために、引出し部31の「B」部分について説明するが、引出し部31’のB’の場合も同様である。但し、引出し部31’の長さが引出し部31の長さより長いという差がある。 【0066】 図3の(b)及び(c)は上記磁性体層の積層方向に沿って投影した投影図であり、(b)はビアパッドが矩形の場合であり、(c)はビアパッドが円形の場合である。 【0067】 図3の(a)を参照すると、上記ビア導体100?103はジグザグに離隔されて形成されることができる。即ち、二つのビア導体100、101を一単位として、これを繰り返して積層することにより引出し部31を形成することができる。しかし、上下に隣合っていない磁性体層に形成されたビア導体100、102の中心線は一致することができる。 【0068】 上下に隣合う磁性体層に形成されたビア導体100、101の中心線が一直線に形成されないため、焼成時に発生するビア導体の収縮を防止することができ、これによる電気的断線を防止することができる。」 「【0075】 ビアパッド110は、上下に隣合う磁性体層に形成されたビア導体100、101をカバーするように形成されることができる。」 「 」 「 」 ・【0028】の記載事項によれば、「チップ型コイル部品1」は、「複数の磁性体層40を積層して形成された本体10と、磁性体層40に形成された導体パターン30が積層方向に沿って螺旋状構造を形成してなるコイル部50と、コイル部50の末端と上記外部端子20、20’とを電気的に連結する引出し部31、31’と、を含」んでいる。また、「引出し部31、31’は、磁性体層(40)を貫通して形成されたビア導体100?103及びビア導体をカバーするビアパッド110からなり、上下に隣合う磁性体層(40)に形成されたビア導体(100?103)の中心線は互いに一致しないように形成され」る。また、【0075】の記載事項によれば、「ビアパッド110は、上下に隣合う磁性体層(40)に形成されたビア導体100、101をカバーするように形成され」る。 ・図2からは、「コイル部50の上部の末端と外部端子20’とが、導体パターン30が形成された磁性体層40を貫通する引き出し部31’により連結され」ることが見てとれる。 ・【0064】、【0065】、【0067】の記載事項によれば、「引出し部31’」は「ジグザグに離隔されて形成された二つのビア導体100、101を一単位として、これを繰り返し積層することにより形成され」る。 上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。 「複数の磁性体層40を積層して形成された本体10と、磁性体層40に形成された導体パターン30が積層方向に沿って螺旋状構造を形成してなるコイル部50と、コイル部50の末端と外部端子20、20’とを電気的に連結する引出し部31、31’と、を含んたチップ型コイル部品1であって、 引出し部31、31’は、磁性体層40を貫通して形成されたビア導体100?103及び該ビア導体をカバーするビアパッド110からなり、上下に隣合う磁性体層40に形成されたビア導体100?103の中心線は互いに一致しないように形成され、ビアパッド110は、上下に隣合う磁性体層40に形成されたビア導体100、101をカバーするように形成され、 コイル部50の上部の末端と外部端子20’とが、導体パターン30が形成された磁性体層40を貫通する引き出し部31’により連結され、 引き出し部31’は、ジグザグに離隔されて形成された二つのビア導体100、101を一単位として、これを繰り返し積層することにより形成される チップ型コイル部品1。」 3.対比・判断 本願発明と引用発明1を対比する。 (1)引用発明1の「コイル部50」及び「引出し部31、31’」は、螺旋状構造のコイル部50とビアパッド110からなる引出し部31、31’が連結された積層構造であるから、本願発明の「ビアパッドを含む多層構造のコイル導体」に相当する。 (2)引用発明1は「ビアパッド110は、上下に隣合う磁性体層に形成されたビア導体100、101をカバーするように形成され」、「二つのビア導体100、101を一単位として、これを繰り返し積層」するものであるから、ビアパッド110は各磁性体層に設けられ、「ビア導体100、101が各層のビアパッド110間を連結」し、「ビア導体100、101をカバーする位置に各層のビアパッド110が互いに重なって設けられる」ことは明らかである。 よって、引用発明1の「ビアパッド」及び「ビア導体」は、本願発明の「各層の前記ビアパッド間を連結するビア」および「隣接する二つの層の前記ビアパッドは一部または全部が重な」ることに相当する構成を備えている。 (3)引用発明1の「上下に隣合う磁性体層40に形成されたビア導体100?103の中心線は互いに一致しないように形成され」ることは、本願発明の「前記ビアパッドを介して連続する二つの層の前記ビアは互いにずれて配置」されることに相当する。 (4)引用発明1は「引出し部31、31’は、磁性体層40を貫通して形成されたビア導体100?103及び該ビア導体をカバーするビアパッド110」からなり、「引き出し部31’」は「導体パターン30が形成された磁性体層40を貫通する」ものであるから、「引き出し部31’」を構成する「ビアパッド110」が「導体パターン30」と同一の層にも配置されていることは明らかである。 よって、引用発明1の「引出し部31’」は、本願発明の「前記ビアパッドは、前記コイル導体とそれぞれ同一層に配置され」ることに相当する構成を備えている。 (5)引用発明1の「チップ型コイル部品1」は、本願発明の「コイル部品」に相当する。 上記(1)ないし(5)によれば、本願発明と引用発明1とは、全ての発明特定事項において一致し、本願発明は引用発明1である。 4.令和2年3月19日の上申書について 審判請求人は上申書において、請求項1に係る発明の「ビア」について「全層の前記ビアは互いに異なる垂直線上に配置されて互いに重なる領域を形成しない」と限定する補正案を提示している。 しかしながら、上記「第2」のとおり、手続補正を却下し、上記「1.」ないし「3.」のとおり原査定の理由で特許にすることができないから、補正の機会を与えることはできない。 予備的に補正案の事項を以下検討する。 ビア導体の中心線が互いに一致しないように形成されている引用発明1において、「全層の前記ビアは互いに異なる垂直線上に配置されて互いに重なる領域を形成しない」構成とすることは、形成可能なビアパッドの大きさを考慮して当業者が適宜なし得ることである。 また、全層のビアを互いに異なる垂直線上に配置することにより、引用発明1より得られる効果に対して、当業者が想起し得ない格別な作用効果が得られるものとも認められない。 よって、上申書に記載された補正案のように補正したとしても、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、請求項1に係る発明は引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明ついて検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2020-09-18 |
結審通知日 | 2020-09-23 |
審決日 | 2020-10-16 |
出願番号 | 特願2015-229395(P2015-229395) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(H01F)
P 1 8・ 113- Z (H01F) P 1 8・ 575- Z (H01F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 健一 |
特許庁審判長 |
酒井 朋広 |
特許庁審判官 |
山田 正文 石川 亮 |
発明の名称 | コイル部品及びその製造方法 |
代理人 | 龍華国際特許業務法人 |