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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D21H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D21H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D21H
管理番号 1371677
異議申立番号 異議2019-700395  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-17 
確定日 2020-12-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6427618号発明「クラフト紙の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6427618号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6427618号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6427618号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成25年3月12日(優先権主張平成24年3月16日)に出願した特願2013-48830号の一部を、平成29年4月18日に新たな特許出願としたものであって、平成30年11月2日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年11月21日)がされたものであり、その特許について、令和元年5月17日に特許異議申立人神谷高伸(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、令和元年7月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和元年9月30日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、令和元年11月5日に申立人より意見書の提出がされ、令和2年1月15日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である令和2年3月17日に特許権者より意見書の提出がされ、令和2年6月26日付けで特許権者と申立人に審尋し、令和2年8月14日に申立人より回答書の提出がされ、令和2年8月28日に特許権者より回答書の提出がされ、令和2年9月28日に特許権者より上申書の提出がされたものである。

第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第6427618号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと以下のとおりのものである。

特許請求の範囲の請求項1に 「該表層と該裏層それぞれの該微細繊維の割合が6.5重量%以上であるクラフト紙。」と記載されているのを、
「該表層と該裏層それぞれの該微細繊維の割合が6.5重量%以上であり、JIS P-8136:1994に従って測定した横方向における表面と裏面の耐磨耗強さが10回以上であるクラフト紙。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2?8も同様に訂正する。)

2.訂正の適否
(1)訂正前の請求項2?8は、訂正前の請求項1を、直接又は間接に引用するものであって、上記訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?8は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項である。

(2)上記訂正は、訂正前の請求項1が、クラフト紙の「JIS P-8136:1994に従って測定した横方向における表面と裏面の耐磨耗強さ」が特定されていなかったものを、「JIS P-8136:1994に従って測定した横方向における表面と裏面の耐磨耗強さが10回以上である」と限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)上記訂正は、訂正前の請求項1の発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)には、段落【0017】に「横方向の耐磨耗強さの表裏差は5回以下であり、好ましくは3回以下である。6回以上だと、表裏の紙粉発生の差が大きく取り扱い性が悪化する。表裏の横方向の耐磨耗強さは10回以上である。表裏の横方向の耐磨耗強さが10回未満だと紙粉が発生して取扱性が悪化する。」と記載され、さらに段落【0023】に「実施例および比較例で得られたクラフト紙は、JIS P-8155:2010に従って王研式平滑度を、JIS P-8136:1994に従って縦方向及び横方向における表面と裏面の耐磨耗強さを測定した。」と記載されていることから、上記訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

3.訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1?8をまとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであり、次のとおりのものである。
「【請求項1】
クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合と、裏層(一番裏の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合の差が0.0?1.5%であり、該表層と該裏層それぞれの該微細繊維の割合が6.5重量%以上であり、JIS P-8136:1994に従って測定した横方向における表面と裏面の耐磨耗強さが10回以上であるクラフト紙。
【請求項2】
JIS P-8155:2010に従って測定した表面と裏面の平滑度差が0?5秒である請求項1に記載のクラフト紙。
【請求項3】
JIS P-8136:1994に従って測定した縦方向における表面と裏面の耐磨耗強さの差が0?5回である請求項1又は2に記載のクラフト紙。
【請求項4】
JIS P-8136:1994に従って測定した横方向における表面と裏面の耐磨耗強さの差が0?5回である請求項1?3のいずれかに記載のクラフト紙。
【請求項5】
ギャップフォーマー型抄紙機にて抄紙されてなる請求項1?4のいずれかに記載のクラフト紙。
【請求項6】
坪量と抄速の積が、20,000?50,000となるように、ギャップフォーマー型抄紙機にて抄紙されてなる請求項1?4のいずれかに記載のクラフト紙。
【請求項7】
原料パルプの全固形分のうち、針葉樹を主原料としたクラフトパルプを50重量%以上含む、請求項1?6のいずれかに記載のクラフト紙。
【請求項8】
原料パルプを叩解処理した後に濃度を0.1?1.0%に調整し、スリット幅が0.2?0.8mmの一次スクリーンを通過させた調成パルプを抄紙してなる、請求項1?7のいずれかに記載のクラフト紙。」

2.取消理由(決定の予告)の概要
本件発明に対して、特許権者に通知した令和2年1月15日付けの取消理由(決定の予告)の、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に係る理由の概要は、以下のとおりである。

本件特許は、明細書の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)特許法第36条第4項第1号に係る理由
本件発明1には、「クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合と、裏層(一番裏の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合の差が0.0?1.5%であり、該表層と該裏層それぞれの該微細繊維の割合が6.5重量%以上」との事項が特定されているが、この発明を実施することができるためには、クラフト紙の表裏各面における0.2mm以下の微細繊維の割合を正確に測定できることが必要である。
しかし、本件特許明細書に記載された測定方法には、セロテープ(登録商標)の「粘着力」、クラフト紙の表裏各面にテープを貼るために掛ける「圧力」及び「時間」の条件が特定されていない。そして、これらの条件が技術常識であるともいえない。クラフト紙の表裏各面に貼るテープの「粘着力」や、クラフト紙の表裏各面にテープを貼るために掛ける「圧力」と「時間」の条件が変われば、クラフト紙の表裏各面から剥がせる表裏各面の厚さや繊維の量が変わることは明らかである。その際、表裏各面の厚さ方向で微細繊維の割合が均等であるとは限らないから、テープに付着した繊維に含まれる微細繊維の割合が、表層及び裏層の剥がれ具合によって、微細繊維の割合が変わることとなり、そのクラフト紙の表裏各面の微細繊維の割合が、正確に測定できているものとはいえない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(2)特許法第36条第6項第2号に係る理由
本件特許明細書に記載された測定方法では、紙の表面(裏面)から厚さ方向の7?13%までの領域に限定された範囲の層の微細繊維を正確に測定できるとはいえないから、本件発明の「クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合と、裏層(一番裏の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合の差が0.0?1.5%であり、該表層と該裏層それぞれの該微細繊維の割合が6.5重量%以上」が、何を特定しようとしているのか明確ではなく、本件発明は明確でない。

3.特許法第36条第4項第1号に係る取消理由についての判断
(1)ア 明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを要するものである(特許法第36条第4項第1号)。本件発明1?8は、「クラフト紙」という物の発明であるところ、物の発明における発明の「実施」とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施をすることができるとは、その物を生産することができ、かつ、その物を使用することができることであると解される。
したがって、本件において、当業者が、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、本件発明に係るクラフト紙を生産し、使用することができるのであれば、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすということができるところ、本件発明に係るクラフト紙は、「クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合と、裏層(一番裏の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合の差が0.0?1.5%であり、該表層と該裏層それぞれの該微細繊維の割合が6.5重量%以上」を満たすクラフト紙であるから、当業者が、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、このようなクラフト紙を生産することができることが必要であり、そのためには、クラフト紙の表層と裏層における0.2mm以下の微細繊維の割合が、上記の数値範囲にあるかどうかを確認するために、当業者が、「クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合」と「裏層(一番裏の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合」を、測定できる必要がある。
イ 本件特許明細書には、微細繊維の割合の測定方法について、「クラフト紙の表裏各面にセロテープ(登録商標)を均一に貼り、均一にローラーで全体に圧力をかけた後にセロテープ(登録商標)をはがし、セロテープ(登録商標)に付着した0.2mm以下の微細繊維の割合をFiberTester(LORENTZEN & WETTRE社)で測定する」(段落【0027】)と記載されている。
本件発明の「クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)」とは、「紙の表面から、紙の厚さの7?13%までの層をいう」(本件特許明細書の段落【0017】)ものであり、この「クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)」の微細繊維の割合を測定できるとは、紙の表面から紙の厚さの7%までの範囲の表層から、紙の表面から紙の厚さの13%までの範囲の表層の、いずれかの範囲の層に含まれる微細繊維の割合を測定できることをいうものと理解される。裏層も同様である。
ウ 本件特許明細書の上記測定方法には、どの程度の「粘着力」のセロテープか、どの程度の「圧力」及び「時間」でローラーにより圧力をかけるか、本件特許明細書には記載されていない。
しかし、どの程度の「粘着力」のセロテープを用い、どの程度の「圧力」及び「時間」でローラーにより圧力をかけるか不明であったとしても、本件発明の「クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合」は、セロテープにより採取される表層が、紙の表面から紙の厚さの7%までの範囲の表層から、紙の表面から紙の厚さの13%までの範囲の表層の、いずれかの範囲の層を採取して、0.2mm以下の微細繊維の割合を測定できれば得られる値だから、本件発明の上記測定方法によって、本件発明の「クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合」は、測定し得るものといえる。
エ 申立人は、甲5に加え、回答書とともに新たに甲11(小林良生、日笠節子共訳、「紙層形成の科学」、有限会社中外産業調査会、昭和55年7月5日、205?225頁)を提出して、紙の厚さ方向の微細繊維の分布は一様ではないことが技術常識であり、「特許権者主張の測定方法は、表層と裏層の採取量が、各々7?13%の範囲で変動する点で不適切であり、少なくともの両層の微細繊維量の差を一義的に定めることは困難である。」(回答書11頁17?19行)旨主張する。
確かに、採取が、表面から7%の範囲、あるいは、表面から13%の範囲と、様々な可能性があり、表裏でその範囲が異なり、その組み合わせにより測定結果が異なることが想定される。
しかし、甲5の図4.66に示す、微細繊維の紙のZ軸方向の割合の変化では、階段状に割合が変化し、表層の「0?20%超の範囲」と裏層の「80弱?100%の範囲」は、同じ割合を示し変化しておらず、紙の厚み方向の中央部から表面及び裏面にかけて、微細繊維の割合が次第に増加することが技術常識であったとしても、本件発明で採取する、表層の「0?13%の範囲」と裏層の「87?100%の範囲」において、微細繊維の割合が測定できないほど、大きく変化することを示す証拠は提出されていない。
そして、本件発明の「クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合と、裏層(一番裏の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合の差が0.0?1.5%であり、該表層と該裏層それぞれの該微細繊維の割合が6.5重量%以上」のクラフト紙であるか否かは、紙の表面から、紙の厚さの7%までの範囲の層から13%までの範囲の層の、いずれの範囲の層の微細繊維の割合も、「6.5重量%以上」であるか否かを測定し、さらに、表層と裏層の、厚さ方向の7?13%のいずれの範囲の層の組み合わせでも、「微細繊維の割合の差が0.0?1.5%」であるか否かを測定することにより確認できるものといえる。
よって、申立人の上記主張は、採用できない。
オ 以上より、本件特許明細書の記載及び技術常識を踏まえれば、本件発明の「クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合と、裏層(一番裏の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合の差が0.0?1.5%であり、該表層と該裏層それぞれの該微細繊維の割合が6.5重量%以上」であることを測定できるものといえる。

(2)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、特許法第36条4項1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

4.特許法第36条第6項第2号に係る取消理由についての判断
上述のように、本件特許明細書に記載された測定方法及び技術常識を踏まえれば、紙の表面(裏面)から厚さ方向の7?13%までの範囲の層の微細繊維の割合を測定できるから、本件発明の「クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合と、裏層(一番裏の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合の差が0.0?1.5%であり、該表層と該裏層それぞれの該微細繊維の割合が6.5重量%以上」は明確である。
よって、本件発明は明確であり、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条6項2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

5.取消理由(決定の予告)で通知しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第2項に係る申立理由
申立人は、以下の甲1?甲6を提出して、本件発明1?8は、いずれも、甲1又は甲2に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。、
甲1:特開2009-235599号公報
甲2:特開2010-229562号公報
甲3:長谷川煌 外1名、「情報用紙および印刷用紙の特性」、日本印刷学会誌、社団法人日本印刷学会、1990年5月31日、第27巻、第3号、264?274頁
甲4:James P.Casey編、大江礼三郎訳、「紙およびパルプ 製紙の化学と技術 第3巻」、有限会社中外産業調査会、昭和58年4月30日発行、284?287頁
甲5:「紙パルプ製造技術シリーズ6(当審注:○の中に6) 紙の抄造」、紙パルプ技術協会、1998年12月14日、156?159頁
甲6:野口昌彦、「パルプ品質を評価するためのカヤーニの新技術」、紙パ技協誌、紙パルプ技術協会、1992年9月1日、第46巻、第9号、48?58頁
しかし、いずれの証拠にも、「クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合と、裏層(一番裏の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合の差が0.0?1.5%であり、該表層と該裏層それぞれの該微細繊維の割合が6.5重量%以上」であることが記載されておらず、これらの割合を満たすことを示唆するものでもない。
そして、本件発明の「クラフト紙」は、上記構成を備えることで、作用効果の点で格別なものを奏するから、本件発明1?8は、甲1又は甲2に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、申立人の、特許法第29条第2項に係る、上記申立理由は採用できない。

(2)特許法第36条第4項第1号に係る申立理由
申立人は、本件特許明細書に記載の「FiberTester(LORENTZEN & WETTRE社)」で測定する際には、微細繊維をパルプ繊維懸濁液の形態で測定することからすると、セロテープで採集した「微細繊維」を、セロテープから分離して水に分散させる必要があるが、本件特許明細書には、セロテープからどのように分離し、水に分散させるか記載されておらず、そのことが技術常識であるともいえない旨主張する。
しかし、セロテープの粘着剤に対応して、溶媒を適宜選択することによりセロテープから微細繊維を分離することが可能であり、その溶媒を適宜選択することが、当業者にとって著しく困難なことともいえない。また、当該選択によって、採集できた繊維中の微細繊維の割合が変化することを示す証拠もない。
よって、申立人の、特許法第36条第4項第1号に係る、上記申立理由は採用できない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフト紙の表層(一番表の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合と、裏層(一番裏の層で厚さ方向の7?13%を占める層)における0.2mm以下の微細繊維の割合の差が0.0?1.5%であり、該表層と該裏層それぞれの該微細繊維の割合が6.5重量%以上であり、JIS P-8136:1994に従って測定した横方向における表面と裏面の耐摩耗強さが10回以上であるクラフト紙。
【請求項2】
JIS P-8155:2010に従って測定した表面と裏面の平滑度差が0?5秒である請求項1に記載のクラフト紙。
【請求項3】
JIS P-8136:1994に従って測定した縦方向における表面と裏面の耐磨耗強さの差が0?5回である請求項1又は2に記載のクラフト紙。
【請求項4】
JIS P-8136:1994に従って測定した横方向における表面と裏面の耐磨耗強さの差が0?5回である請求項1?3のいずれかに記載のクラフト紙。
【請求項5】
ギャップフォーマー型抄紙機にて抄紙されてなる請求項1?4のいずれかに記載のクラフト紙。
【請求項6】
坪量と抄速の積が、20,000?50,000となるように、ギャップフォーマー型抄紙機にて抄紙されてなる請求項1?4のいずれかに記載のクラフト紙。
【請求項7】
原料パルプの全固形分のうち、針葉樹を主原料としたクラフトパルプを50重量%以上含む、請求項1?6のいずれかに記載のクラフト紙。
【請求項8】
原料パルプを叩解処理した後に濃度を0.1?1.0%に調整し、スリット幅が0.2?0.8mmの一次スクリーンを通過させた調成パルプを抄紙してなる、請求項1?7のいずれかに記載のクラフト紙。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-08 
出願番号 特願2017-82130(P2017-82130)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (D21H)
P 1 651・ 121- YAA (D21H)
P 1 651・ 536- YAA (D21H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 大輔  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 井上 茂夫
石井 孝明
登録日 2018-11-02 
登録番号 特許第6427618号(P6427618)
権利者 日本製紙株式会社
発明の名称 クラフト紙の製造方法  
代理人 山田 泰之  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 山田 泰之  
代理人 安藤 達也  
代理人 安藤 達也  

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