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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1371680
異議申立番号 異議2020-700008  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-09 
確定日 2020-12-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6543247号発明「水性化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6543247号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-3]について訂正することを認める。 特許第6543247号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6543247号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年 6月30日(優先権主張 平成26年 6月30日)に出願され、令和 1年 6月21日にその特許権の設定登録がされ、同年 7月10日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 2年 1月 9日差出: 特許異議申立人 宮崎 喜美子 (以下、「申立人 宮崎」という。)による特許異議の申立て
令和 2年 1月10日差出: 特許異議申立人 田中 和幸 (以下、「申立人 田中」という。)による特許異議の申立て
令和 2年 4月13日付け: 取消理由通知書
同 年 6月15日差出: 特許権者による意見書
同 年 7月17日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
同 年 9月17日差出: 特許権者による意見書及び訂正請求書
同 年10月28日差出: 申立人 宮崎による意見書

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
上記令和2年 9月17日差出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、一群の請求項である請求項1?3からなる本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。(下線は、訂正箇所を表す。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「(A)0.1?5質量%のHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーン」と記載されているのを、
「(A)0.1?5質量%の、下記一般式:

(上記式中、mは1?1000、nは1?40、aは5?50、bは0?50である)
で表されるHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーン」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1における(A)ポリエーテル変性シリコーンの「HLB(Si)」について、
「HLB(Si)は、下記の計算式:

で求められる値である」なる記載を追加する訂正をする(請求項1の記載を引用する請求項2?3も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1における訂正は、段落【0014】に基づきポリエーテル変性シリコーンの構造を限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである 。
そして、本件特許明細書の段落【0014】には、「<(A)HLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーン> 本発明の水性化粧料における(A)ポリエーテル変性シリコーンは、ポリオキシエチレン(POE)及びポリオキシプロピレン(POP)から選択されるポリオキシアルキレン基を有するシリコーン誘導体である。特に、下記一般式で表されるポリエーテル変性シリコーンが好ましい。

上記式中、mは1?1000、好ましくは5?500であり、nは1?40である。また、m:nは200:1?1:1であることが好ましい。また、aは5?50、bは0?50である。」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
申立人 宮崎は、令和 2年10月28日差出の意見書の第3頁において、訂正事項1は、発明を特定するために必要な事項を限定するものではないため、実質上特許請求の範囲を拡張または変更する訂正である旨主張する。
しかしながら、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていたポリエーテル変性シリコーンについて、構造式と重合度の数値範囲を特定することにより、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、申立人宮崎の主張は採用できない。

(2)訂正事項2
訂正事項2における訂正は、令和2年7月17日付け取消理由3に対応して、段落【0016】に基づき「HLB(Si)」の定義を明確とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0016】には、「本発明に使用されるポリエーテル変性シリコーンは、そのHLB(Si)が5?14、好ましくは7?14のものから選択される。ここで言うHLB(Si)とは、下記の計算式で求められる値である。【数1】

」と記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおり、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
また、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-3]について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求によって訂正された請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1?3」といい、これらを総称して「本件発明」ともいう。)は、令和2年 9月17日差出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
(A)0.1?5質量%の、下記一般式:

(上記式中、mは1?1000、nは1?40、aは5?50、bは0?50である)
で表されるHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーンであって、HLB(Si)は、下記の計算式:

で求められる値である、ポリエーテル変性シリコーン
(B)親水性増粘剤、
(C)ポリオール及び/又はエチルアルコール、
(D)金属石鹸以外で疎水化処理された金属酸化物、疎水性の有機粉末、シリコーン粉末から選ばれる1種又は2種以上の疎水性粉末を含有し、
(D)疎水性粉末が水相に分散しており、
(B)親水性増粘剤が、ポリアクリルアミド化合物から選択される少なくとも1種と多糖類又はその誘導体から選択される少なくとも1種とを含む、水性化粧料。
【請求項2】
疎水化処理された金属酸化物が、シリコーン処理又は脂肪酸デキストリン処理によって疎水化されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
疎水性の有機粉末が、ポリメタクリル酸メチル粉末、ナイロン粉末、ポリウレタン粉末、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の化粧料。

第4 取消理由の概要及び特許異議申立理由の概要
1 令和 2年 7月17日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、当審が令和 2年 7月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由2(特許法第36条第4項第1号)
本件特許発明1?3に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由3(特許法第36条第6項第2号)
本件特許発明1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 令和 2年 4月13日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要
訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、当審が令和 2年 4月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由1(特許法第29条第2項)
本件特許発明1、2は、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された事項及び引用文献2に例示される周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(第36条第4項第1号)
本件特許発明1?3に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)取消理由3(特許法第36条第6項第2号)
本件特許発明1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)刊行物
・引用文献1:国際公開第2013/018827号(申立人 宮崎の提出した甲第5号証)
・引用文献2:特開2007-119741号公報(申立人 田中の提出した甲第1号証)
・引用文献3:徳永邦行他2名「細孔多分散型SEC用充てんカラムTSK-GEL^(R)SuperMultiporeHZシリーズの特性とその応用」(東ソー研究・技術報告 第51巻(2007)、東ソー株式会社、2007年発行)(申立人 宮崎の提出した甲第2号証)

3 特許異議申立ての理由(申立人 宮崎)
(1)A 特許法第36条第6項第2号(同法 第113条第4号)について
本件特許発明1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)B 特許法第36条第4項第1号(同法113条第4号)について
本件特許発明1?3に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)C 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
本件特許の請求項1,2に係る発明は、甲第5号証に記載された発明に基いて、または、甲第5号証と甲第6号証に記載された発明に基づいて、または、甲第5号証に記載された発明と周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの請求項に係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)証拠方法
甲第1号証:「化学大事典」表紙、奥付、第278頁
甲第2号証:徳永邦行他2名「細孔多分散型SEC用充てんカラムTSK-GELRSuperMultiporeHZシリーズの特性とその応用」(東ソー研究・技術報告 第51巻(2007)、東ソー株式会社、2007年発行)
甲第3号証:東ソー株式会社 研究・技術報告の目次(https://www.tosoh.co.jp/technology/report/)
甲第4号証:ポリエーテル変性シリコーンオイルの一覧(https://www.silicone.jp/products/personalcare/products/polyether_modified_silicones.shtml)
甲第5号証:国際公開第2013/018827号
甲第6号証:特開2014-24765号公報
甲第7号証:特開2009-286757号公報
甲第8号証:2014年2月24日に発売された商品名「アレクサンドル ドゥ パリ レジスタンシエル UV AGエクスペール ナチュラル ベージュ ベース」の「Cosmetic-Info.jp」の全成分リスト(https://www.cosmetic-info.jp/prod/detail.php?id=31652)
甲第9号証:2013年3月15日に発売された商品名「ピュアミネラル BB クリームUV(02)」の「Cosmetic-Info.jp」の全成分リスト(https://www.cosmetic-info.jp/prod/detail.php?id=24064)
甲第10号証:日本エマルジョン株式会社のポリソルベート80「EMALEX ET-8020」の製品情報(https://www.nihon-emulsion.co.jp/products/detail/EMALEX%20ET-8020)
甲第11号証:日本エマルジョン株式会社のポリソルベート80「EMALEX ET-8020」の化学物質等安全データシート(https://www.nihon-emulsion.co.jp/pdf/msds/ET-8020_SDS.pdf)

4 特許異議申立ての理由(申立人 田中)
(1)A 特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2項)について
本件特許の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するので、これらの請求項に係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)B 特許法第29条第2項(同法第113条第2項)について
本件特許の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの請求項に係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)C 特許法第36条第6項第1号
本件特許の請求項1?3の記載は特許法第36条第6項第1号の規定を満たしておらず、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)D 特許法第36条第4項第1号
本件特許発明1?7に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)証拠方法
甲第1号証:特開2007-119741号公報
甲第2号証:特開2013-95713号

第5 当審の判断
令和 2年 7月17日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、令和 2年 4月13日付け取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立ての理由の順で、当審の判断を示す。以下、下線は当審で付した。

1 令和 2年 7月17日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由に対する当審の判断
(1)取消理由2(特許法第36条第4項第1号)について
ア 取消理由2の内容
本件特許発明1?3は、「(A)0.1?5質量%のHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーン」なる発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明1?3の生産にあたっては、ポリエーテル変性シリコーンのHLB(Si)の値を得ることが必要となる。
ここで、本件特許明細書の段落【0016】には
「本発明に使用されるポリエーテル変性シリコーンは、そのHLB(Si)が5?14、好ましくは7?14のものから選択される。ここで言うHLB(Si)とは、下記の計算式で求められる値である。
【数1】

」との記載がある。
しかしながら、高分子の分子量には、数平均分子量(Mn)や重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)等、いくつかの種類が存在し、採用する分子量の種類によって値が異なり得ることは技術常識であるから(要すれば、引用文献3の第54頁表2等参照)、上記【数1】から求められるHLB(Si)の値も、採用する分子量の種類によって異なり得るといえる。そして、それにも関わらず、本件特許明細書には、どの種類の分子量を採用するのかが記載されていないから、当業者であっても、本件特許でいうHLB(Si)の値を上記【数1】 から精度よく求めることはできない。
また、本件特許明細書には、
「【0018】
本発明で使用する(A)ポリエーテル変性シリコーンは市販されているものでもよく、例えば、
・商品名BY11-030(東レ・ダウコーニング社製:PEG/PPG-19/19ジメチコン、HLB(Si)=7.7)、
・商品名SH3773M(東レ・ダウコーニング社製:PEG-12ジメチコン、HLB(Si)=7.7)、
・商品名BY25-339(東レ・ダウコーニング社製:PEG/PPG-30/10ジメチコン、HLB(Si)=12.2)、
・商品名KF6011(信越化学工業株式会社製:PEG-11メチルエーテルジメチコン、HLB(Si)=12.7)等を挙げることができる。」
との記載や【表1】?【表4】の記載があるものの、HLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーンを網羅しているわけではない。

さらに、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で分子量を得る場合に、用いるカラムの種類や測定流速、試料注入量によって、理論段高さ(HETP)やポリマーの分離能が変化するとの技術常識(要すれば、引用文献3の第47頁左欄第1行?第50頁右欄最終行及び図5?9等参照)を踏まえれば、 分子量の測定条件によっても分子量の値は変わり得るといえる。そして、それにも関わらず、本件特許明細書には、分子量の具体的な測定条件が記載されていないから、本件特許でいう分子量の種類が明らかであったとしても、上記HLB(Si)の値を上記【数1】から精度よく求めることはできない。

イ 判断
上記の点について検討すると、本件訂正により、本件発明1は、「(A)0.1?5質量%の、下記一般式:

(上記式中、mは1?1000、nは1?40、aは5?50、bは0?50である)
で表されるHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーンであって、HLB(Si)は、下記の計算式:

で求められる値である、ポリエーテル変性シリコーン」と訂正され、親水基がPOEとPOPのみに規定された。
そうすると、HLB=20×(親水基の重量%)で表される式であるGriffin法として広く知られる一般的な計算式(グリフィンの式)と同様に、HLB(Si)は算出可能であるから、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものであるといえ、実施可能要件を満たしている。

ウ 申立人 宮崎の主張について
申立人 宮崎は、令和 2年10月28日差出の意見書(第6?7頁)において、以下の主張をしている。
(i)高分子の重合度は分散していることが技術常識である。本件特許の発明の詳細な説明には、ポリエーテル変性シリコーンが単分散であることは開示も示唆もされていないし、ポリエーテル変性シリコーンが単分散であることが請求項1で特定されているわけでもない。ポリエーテル変性シリコーンの重合度が分散していれば、重合度をどのような測定方法で測定しても、測定の結果、得られる重合度は単一の値にならない。重合度が単一の値にならなければ、HLB(Si)の計算に必要なそれぞれの分子量(全体の分子量、POEの分子量、POPの分子量)を構造式に基づいて算出する場合、分子量(全体の分子量、POEの分子量、POPの分子量)も単一の値にならない。その結果、HLB(Si)の値を正確に求めることもできない。
(ii)一方、分子量を構造式と重合度に基づいて算出するのではなく、直接測定しようとする場合も、令和 2年 1月 9日提出の異議申立書に記載の通り、HLB(Si)を計算するために必要な分子量の定義、分子量の測定方法、分子量の測定条件が特定されていないため、HLB(Si)を求めることができない。そして、HLB(Si)を導出することができない以上、HLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーンを含有する本件特許発明1?3の水性化粧料全般を生産することはできない。
主張(i)について検討するに、高分子の分子量は分散しているものであり、(重量平均であろうと数平均であろうと)平均で表すことが技術常識であり、平均の分子量や平均のm値、a値等に基づいて把握するものであるから、親水基がPOEとPOPのみに規定されれば、本件特許出願前に広く使用されていたHLBと同様にHLB(Si)は算出可能なものである。したがって、実施可能要件違反とすることはできない。
また、主張(ii)については主張(i)が否定されるものであるからそもそも検討を要しない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

エ 小括
よって、本件発明1?3に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているから、同法第113条第4号により取り消されるべきものではない。

(2)取消理由3(特許法第36条第6項第2号)について
ア 取消理由3の内容
本願請求項1には、「(A)0.1?5質量%のHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーン」なる記載があり、本件特許明細書の段落【0016】において、HLB(Si)は
「ここで言うHLB(Si)とは、下記の計算式で求められる値である。
【数1】

」と定義されている。
しかしながら、高分子の分子量には、数平均分子量(Mn)や重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)等、いくつかの種類が存在し、採用する分子量の種類によって値が異なり得ることは技術常識であるから(要すれば、引用文献3の第54頁表2等参照)、上記【数1】から求められるHLB(Si)の値も、採用する分子量の種類によって異なり得るといえる。そして、それにも関わらず、本件特許明細書には、どの種類の分子量を採用するのかが記載されていないから、本願請求項1でいうHLB(Si)の定義は判然としない。
また、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で分子量を得る場合に、用いるカラムの種類や測定流速、試料注入量によって、理論段高さ(HETP)やポリマーの分離能が変化するとの技術常識(要すれば、引用文献3の第47頁左欄第1行?第50頁右欄最終行及び図5?9等参照)を踏まえれば、分子量の測定条件によっても分子量の値は変わり得るといえる。
そして、それにも関わらず、本件特許明細書には、分子量の具体的な測定条件が記載されていないから、上記分子量の種類が明らかであったとしても、本願請求項1でいう「HLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーン」に包含されるポリエーテル変性シリコーンは判然としない(同一のポリエーテル変性シリコーンであっても、測定条件によってHLB(Si)が5?14の範囲内に含まれる場合と含まれない場合とがあり得る。)。

イ 判断
上記の点について検討すると、本件訂正により、本件発明1は、「(A)0.1?5質量%の、下記一般式:

(上記式中、mは1?1000、nは1?40、aは5?50、bは0?50である)
で表されるHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーンであって、HLB(Si)は、下記の計算式:

で求められる値である、ポリエーテル変性シリコーン」と訂正され、親水基がPOEとPOPのみに規定されたため、技術常識からみてHLBと同様にHLB(Si)は算出可能であるといえ、明確になったといえる。
したがって、本件発明1は明確である。本件発明1を引用する本件発明2、3も同様に、明確である。

ウ 申立人 宮崎の主張について
申立人 宮崎は、令和 2年10月28日差出の意見書(第8?9頁)において、以下の主張をしている。
(i)高分子の重合度は分散していることが技術常識である。なお、本件特許の発明の詳細な説明には、ポリエーテル変性シリコーンが単分散であることは開示も示唆もされていないし、ポリエーテル変性シリコーンが単分散であることが請求項1で特定されているわけでもない。ポリエーテル変性シリコーンの重合度が分散していれば、重合度をどのような測定方法で測定しても、測定の結果、得られる重合度は単一の値にならない。重合度が単一の値にならなければ、HLB(Si)の計算に必要なそれぞれの分子量(全体の分子量、POEの分子量、POPの分子量)を構造式に基づいて算出する場合、分子量(全体の分子量、POEの分子量、POPの分子量)も単一の値にならない。その結果、HLB(Si)の値を正確に求めることもできない。
(ii)一方、分子量を構造式と重合度に基づいて算出するのではなく、直接測定しようとする場合も、令和 2年 1月 9日提出の異議申立書に記載の通り、HLB(Si)を計算するために必要な分子量の定義、分子量の測定方法、分子量の測定条件が特定されていないため、HLB(Si)を求めることができない。
主張(i)について検討するに、高分子の分子量は分散しているものであり、(重量平均であろうと数平均であろうと)平均で表すことが技術常識であり、平均の分子量や平均のm値、a値等に基づいて把握するものであるから、親水基がPOEとPOPのみに規定されれば、HLBと同様にHLB(Si)は算出可能なものであり明確である。
また、主張(ii)については主張(i)が否定されるものであるからそもそも検討を要しない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

エ 小括
よって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしているから、同法第113条第4号により取り消されるべきものではない。

2 令和 2年 4月13日付け取消理由に対する当審の判断
(1)取消理由1(特許法第29条第2項)について
ア 引用文献1に記載された事項
記載事項1-1
「[0014]本発明の分散体は、撥水性有機表面処理した無機粉体を水中に均一に分散させたものであることから、取り扱いが容易であり、化粧品・塗料・インキ等の分野において撥水処理した無機粉体を水系の組成物に容易に配合することができる。」

記載事項1-2
「[0042]上記化粧料は、化粧品分野において使用することができる任意の水性成分、油性成分を併用するものであってもよい。上記水性成分及び油性成分としては特に限定されず、例えば、油剤、界面活性剤、保湿剤、高級アルコール、金属イオン封鎖剤、天然及び合成高分子、水溶性及び油溶性高分子、紫外線遮蔽剤、各種抽出液、有機染料等の色剤、防腐剤、酸化防止剤、色素、増粘剤、pH調整剤、香料、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、皮膚賦活剤、各種粉体等の成分を
有するものであってもよい。」

記載事項1-3
「[0050]上記天然の水溶性高分子としては特に限定されず、例えば、アラアビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、クインスシード(マルメロ)、アルゲコロイド(カッソウエキス)、デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)、グリチルリチン酸等の植物系高分子、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系高分子・・・を挙げることができる。
[0051]半合成の水溶性高分子としては特に限定されず、例えば、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系高分子、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CM C)、結晶セルロース、セルロース末等のセルロース系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子等を挙げることができる。
[0052]合成の水溶性高分子としては特に限定されず、例えば、・・・ポリアクリルアミド等のアクリル系高分子・・・等を挙げることができる。」

記載事項1-4
「[0063]マヨネーズ瓶に水86gと表1の分散剤4gを入れ、さらにシリコーンで表面処理された微粒子酸化亜鉛(堺化学工業製FINEX-50S-LP2:粒子径20nm)10gとφ1.5ガラスビーズ100g投入した。ペイントシェーカーで分散し、ビーズを分離した後、水分散体を表1の通りに得た。」

記載事項1-5
「[0070]実施例8
マヨネーズ瓶に水64gとポリエーテル変性シリコーン(KF-6011:信越化学工業製)10gと1,3-ブチレングリコール6gを入れた。そこにシリコーンで表面処理されているシリカ表面処理微粒子酸化チタン(堺化学工業製STR-100W-LP:粒子径短軸20nm、長軸100nmの紡錘状粒子)20gとφ1.5ガラスビーズ100g投入した。ペイントシェーカーで分散し、均一な水分散体を得ることができた。」

記載事項1-6
「[0074]実施例11 水中油型サンカットクリーム
(成分) 重量(%)
1.メトキシケイ皮酸エチルヘキシル 7.5
2.ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル 2.0
3.イソノナン酸イソトリデシル 13.2
4.デカメチルシクロペンタシロキサン 3.0
5.ベヘニルアルコール 0.7
6.ジステアリン酸ポリグリセリル-10 1.6
7.ペンチレングリコール 5.0
8.カーボマー(1%) 10.0
9.アクリル酸アルキル共重合体(1%) 10.0
10.トリエタノールアミン 0.2
11.エタノール 5.0
12.精製水 26.8
13.実施例8の分散体 15.0
(製造方法)
A:成分1?7を混合、加熱溶解する。
B:成分8?12を混合、加熱する。
C:BにAを加えて乳化する。
D:Cに成分13を加え、水中油型サンカットクリームを得た。
以上のようにして得られた水中油型サンカットクリームは、のび広がりが軽くべたつきや油っぽさがなくてみずみずしく、さっぱりとした使用感を与えると共に化粧持ちも良く、経時による変化がなく安定性に優れていることがわかった。」

イ 引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載事項1-1?1-6、特に記載事項1-5、1-6の記載からみて、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認める。

「以下の成分からなる水中油型サンカットクリーム。
(成分) 重量(%)
1.メトキシケイ皮酸エチルヘキシル 7.5
2.ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル 2.0
3.イソノナン酸イソトリデシル 13.2
4.デカメチルシクロペンタシロキサン 3.0
5.ベヘニルアルコール 0.7
6.ジステアリン酸ポリグリセリル-10 1.6
7.ペンチレングリコール 5.0
8.カーボマー(1%) 10.0
9.アクリル酸アルキル共重合体(1%) 10.0
10.トリエタノールアミン 0.2
11.エタノール 5.0
12.精製水 26.8
13.水とポリエーテル変性シリコーン 15.0
(KF-6011:信越化学工業製)と
1,3-ブチレングリコールと
シリコーンで表面処理されている
シリカ表面処理微粒子酸化チタンとを
64:10:6:20の重量比で含有する
均一な水分散体 」
(以下、「引用発明1」という。)

ウ 本件発明1、2について
(ア)対比
引用発明1の「7.ペンチレングリコール」、「11.エタノール」及び「1,3-ブチレングリコール」は、本件発明1の「ポリオール及び/又はエチルアルコール」に相当し、引用発明1の「サンカットクリーム」は、本件発明1の「化粧料」に相当する。
また、本件特許明細書の段落【0018】における「本発明で使用する(A)ポリエーテル変性シリコーンは市販されているものでもよく、例えば、・・・
・商品名KF6011(信越化学工業株式会社製:PEG-11メチルエーテルジメチコン、HLB(Si)=12.7)等を挙げることができる。」
との記載から、引用発明1の「ポリエーテル変性シリコーン (KF-6011:信越化学工業製)」は、本件特許発明1の「HLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーン」に相当するといえるし、その含有量は15.0×10/100=1.5重量%と算出される。
さらに、引用発明1の「シリコーンで表面処理されているシリカ表面処理微粒子酸化チタン」は、本件発明1の「金属石鹸以外で疎水化処理された金属酸化物、疎水性の有機粉末、シリコーン粉末から選ばれる1種又は2種以上の疎水性粉末」に相当し、均一な水分散体中に存在していることから、水相に分散しているといえる。
また、本件特許明細書の段落【0013】には、「水性化粧料」について、「なお、本発明において、水性化粧料とは、化粧料全体の50質量%以上を水が占める化粧料を意味し、(1)基剤が水性成分のみからなる化粧料(実質的に水性成分と粉末成分とからなる化粧料)の態様、及び、(2)水性成分を外相とする水中油型乳化化粧料の態様を含む。」と記載されている。このように、本件発明1の「水性化粧料」とは、化粧料全体の50質量%以上を水が占める化粧料であり、水性成分を外相とする水中油型乳化化粧料を包含するものであるところ、引用発明1の水中油型サンカットクリーム中の水の含有量は、26.8+15.0×64/100=36.4重量%である。

そうすると、本件発明1と引用発明1は
「(A)0.1?5質量%のHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーン、(C)ポリオール及び/又はエチルアルコール、(D)金属石鹸以外で疎水化処理された金属酸化物、疎水性の有機粉末、シリコーン粉末から選ばれる1種又は2種以上の疎水性粉末を含有し、(D)疎水性粉末が水相に分散している、化粧料。」
の発明である点で一致し、両者は次の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1が、ポリアクリルアミド化合物から選択される少なくとも1種と多糖類又はその誘導体から選択される少なくとも1種とを含む(B)親水性増粘剤を含有しているのに対し、引用発明1は、該(B)親水性増粘剤を含有していない点。

<相違点2>
本件発明1の化粧料は、化粧料全体の50質量%以上を水が占める化粧料である「水性化粧料」の発明であるのに対し、引用発明1の「化粧料」は、水の含有量が36.4重量%である水中油型化粧料の発明である点。

(イ)判断
(i)相違点1について
令和 2年 4月13日付けの取消理由通知書で示したとおり、引用文献1の記載事項1-2、1-3には、化粧料にポリアクリルアミド化合物や多糖類又はその誘導体等の水溶性高分子を併用してもよい旨が記載されているし、また、化粧料にポリアクリルアミド化合物と多糖類又はその誘導体とを含有させることは周知の技術であるから(要すれば、引用文献2の実施例13、51等参照)、引用発明1にポリアクリルアミド化合物と多糖類又はその誘導体とを含有させることは一見すると、当業者が容易に想到し得たことであると考えられる。
これに対して、特許権者は、令和 2年 6月15日提出の意見書において以下のように主張している。
「本件特許発明は、(B)親水性増粘剤として、ポリアクリルアミド化合物と多糖類又はその誘導体という特定の組合せを用いることにより、他の増粘剤又はそれらの組合せを使用した場合と比較して、特に安定性と使用性において予想外に優れた効果を達成します(本件特許明細書【0028】)。
この特定の組合せによって達成される効果を客観的に説明するために、令和1年5月24日付けで提出した意見書に、他の組成が同じ条件下で(B)親水性増粘剤と他の増粘剤とを対比したデータを掲載しました。以下に、当該データを改めて掲載します。

上記の表中の使用性の評価における「-」は、すぐに分離してしまうため使用性を評価できなかったことを表しています。
上記の表から明らかなように、本件特許発明に規定する(A)、(C)、(D)成分を含み、さらに(B)成分としてポリアクリルアミド化合物と多糖類又はその誘導体との組合せを含む場合には、分散安定性、みずみずしさ、なめらかさ、のびの軽さ、化粧持ちの全ての評価項目において優れた結果が得られています(追加実施例1?2)。
一方、(B)成分の組合せを含まない場合、すなわち、ポリアクリルアミド化合物及び多糖類又はその誘導体の少なくとも一方を欠くか、(B)成分を別の親水性増粘剤に置き換えた場合には、すぐに分離して使用性の評価ができないか(追加比較例1、3、4、7)、使用性の評価が不十分なものとなっています(追加比較例2、5、6)。
上記データは、(B)親水性増粘剤以外の組成が同じであるため、(B)親水性増粘剤としてポリアクリルアミド化合物と多糖類又はその誘導体とを併用したことに起因する効果が顕著なものであることを十分に確認できるものと思量します。」
確かに、本件特許明細書段落【0028】の記載を裏付ける上記のデータは、(B)親水性増粘剤としてポリアクリルアミド化合物と多糖類又はその誘導体とを併用した場合に、分散安定性、みずみずしさ、なめらかさ、のびの軽さ、化粧もちの全ての評価項目において優れた結果が得られること、すなわち、顕著な効果が奏されることを示している。
一方、引用文献1、2には、親水性増粘剤としてポリアクリルアミド化合物と多糖類又はその誘導体とを併用することで、分散安定性、みずみずしさ、なめらかさ、のびの軽さ、化粧もちの全ての評価項目において優れた結果が奏されることは記載されておらず、化粧料にポリアクリルアミド化合物と多糖類又はその誘 導体とを含有させることが周知の技術であったということから直ちに、当業者が本件特許発明の効果を予測することができたということもできない。
したがって、相違点1は特許権者の上記の主張を踏まえると容易であるとはいえないから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、上記取消理由1で取り消すことはできない。
本件発明1を引用する本件発明2も同様に、上記取消理由1で取り消すことはできない。

エ 小括
本件発明1、2は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、令和 2年 4月13日付け取消理由において通知された取消理由1により、取り消すべきものではない。

(2)取消理由2(特許法第36条第4項第1号)について
上記1(1)で検討したとおり、本件発明1?3に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているから、同法第113条第4号により取り消されるべきものではない。

(3)取消理由3(特許法第36条第6項第2号)について
上記1(2)で検討したとおり、本件発明1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしているから、同法第113条第4号により取り消されるべきものではない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立人 田中が主張した特許異議申立理由A(特許法29条第1項第3号)について
ア 特開2007-119741号公報(甲第1号証)に記載された事項
記載事項2-1
「【請求項1】
下記(I)オルガノポリシロキサン又はその縮合物、(II)オルガノポリシロキサン、及び(III)アクリル-シリコーン共重合体を、(I)と(II)、(I)と(III)、又は(I)と(II)と(III)、のいずれかの組み合わせで、夫々、(I):(II)、(I):(III)、又は(I):[(II)+(III)]の重量比95:5?5:95で含み、但し、(I)、(II)及び(III)は夫々、個別包装されていてもよい、粉体表面処理剤系、(I)下記組成式(1)で示されるオルガノポリシロキサン又はその縮合物

(但し、式中R^(1)は、互いに異なっていてよい、炭素数1?30の、アルキル基、アリール基、アラールキル基、フッ素置換アルキル基又はアミノ置換アルキル基であり、R^(2)は炭素数1?6のアルキル基であり、aは0.75≦a≦1.5、bは0.2≦b≦3で、かつ0.9<a+b≦4を満足する数である) (II)下記組成式(2)で示されるオルガノポリシロキサン

(式(2)において、R^(3)は、互いに異なっていてよい、炭素数1?30の、アルキル基、アリール基、アラールキル基又はフッ素置換アルキル基であり、R^(4)は、炭素、酸素あるいは珪素原子を介して式(2)におけるSiに結合していてもよい、水素原子、ヒドロキシ基、又は炭素数1?6のアルコキシ基であり、R^(5)は下記式(3)

で表されるシリコーン化合物残基であり、c、d、eはそれぞれ1.0≦c≦2.5、0.001≦d≦1.5、0≦e≦1.5を満たす数であり、xは1≦x≦5の整数であり、yは0≦y≦500の整数である)(III)1分子中に少なくとも1個の加水分解性シリル基を有するアクリル-シリコーン共重合体。」

記載事項2-2
「【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項記載の表面処理剤組成物で処理されてなる表面処理粉体。

【請求項5】
前記粉体が酸化亜鉛であることを特徴とする請求項4記載の表面処理粉体。

【請求項6】
前記粉体が酸化チタンであることを特徴とする請求項4記載の表面処理粉体。」

記載事項2-3
「【請求項13】
C)水をさらに含有する請求項8?12の何れか1項に記載の化粧料。

【請求項14】
D)アルコール性水酸基を有する化合物をさらに含有する請求項8?13の何れか1項に記載の化粧料。

【請求項15】
前記D)アルコール性水酸基を有する化合物が、水溶性一価アルコール、及び水溶性多価アルコールから選ばれる少なくとも1種である、請求項14記載の化粧料。

【請求項16】
E)水溶性或いは水膨潤性高分子をさらに含有する請求項8?15の何れか1項に記載の化粧料。

【請求項17】
F)粉体、但し請求項4?7のいずれか1項記載のA)表面処理粉体を除く、をさらに含有する請求項8?16の何れか1項に記載の化粧料。

【請求項18】
前記F)粉体の少なくとも一部が、ジメチルシリコーンが架橋されてなる架橋型シリコーン微粉末、ポリメチルシルセスキオキサンの微粉末、疎水化シリカ、あるいはポリメチルシルセスキオキサン粒子で表面が被覆された球状シリコーンゴムである、請求項17記載の化粧料。

【請求項19】
前記F)粉体の少なくとも一部が、フッ素含有基を有する物質からなる、請求項17又は18記載の化粧料。

【請求項20】
G)界面活性剤をさらに含有する請求項8?19の何れか1項記載の化粧料。

【請求項21】
前記G)界面活性剤が分子中にポリオキシアルキレン鎖、又はポリグリセリン鎖を有する、直鎖或いは分岐状のオルガノポリシロキサン、又はポリオキシアルキレン・アルキル共変性オルガノポリシロキサンである、請求項20記載の化粧料。」

記載事項2-4
「【0067】
合成例1 (I)オルガノポリシロキサンの合成
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えたガラス製フラスコにメチルトリエトキシシラン270g、エタノール90g、イオン交換樹脂(ピューロライトCT-169DR)1.5gを入れて混合し、水24gを添加後、室温にて1時間及びエタノールの還流下で2時間反応させ、その後、常圧にてエタノールを留去し、粘度21mm^(2)/s(25℃)、数平均分子量1000(ポリスチレン換算)の、メチルトリエトキシシラン加水分解物の縮合物を得た。」

記載事項2-5
「【0070】
実施例1?9、比較例1?6、参考例1?2
減圧乾燥によってあらかじめ熱処理した酸化チタン(石原産業社製)98重量部又はセリサイト(三信鉱工業社製)95部を反応器に入れ、各々表1に示す量(重量部)の、合成例1?3で得られた各オルガノポリシロキサン、又は、処理剤1[KF-99P(メチルハイドロジェンポリシロキサン)信越化学工業(株)製]を、夫々含むトルエン溶液(約30重量%の濃度)を、攪拌下で、徐々に加えた。さらに昇温してトルエンを溜去し、150℃にて3時間攪拌しながら粉体と反応させて、各処理粉体を調製した。
【0071】
【表1】



記載事項2-6
「【0081】
実施例13:ボディーローション
(成分) 重量(%)
1.エタノール 17.0
2.1,3-ブチレングリコール 3.0
3.ポリグリセリン変性分岐型シリコーン(注1) 0.5
4.トリオクタン酸グリセリル 2.0
5.オルガノポリシロキサン処理タルク(注2) 5.0
6.ハイブリッドシリコーン複合粉体(注3) 5.0
7.アンモニウムアクリロイルジメチルタウリン/VPコポリマー (2%水溶液) 20.0
8.キサンタンガム(2%水溶液) 6.0
9.塩化ナトリウム(1%水溶液) 1.0
10.防腐剤 適 量
11.香料 適 量
12.精製水 40.5
(注1)ポリグリセリン変性分岐型シリコーン;KF-6100(信越化学工業(株)製)
(注2)合成例1/合成例2=1/1、計2重量部で98重量部の粉体を前記処理方法に従い処理したもの
(注3)ハイブリッドシリコーン複合粉体;KSP-100(信越化学工業(株)製)
(製造方法)
A:成分1?6を混合した。
B:成分7?12を混合した。
C:工程Aで得た混合物を工程Bで得た混合物に加えて攪拌混合し、ボディーローションを得た。得られたボディーローションは、キメが細かく、経時安定性に優れ、皮膚上での延びが良く、べたつきのない、さっぱりとした使用感を与えた。」

記載事項2-7
「【0119】
実施例51:水中油型サンカットクリーム
(成分) 重量(%)
1.架橋型メチルフェニルポリシロキサン(注1) 5.0
2.イソオクタン酸セチル 7.0
3.微粒子酸化チタン(実施例1) 6.0
4.デカメチルシクロペンタシロキサン 8.0
5.ポリエーテル変性分岐型シリコーン(注2) 1.0
6.ポリエーテル変性シリコーン(注3) 1.0
7.アクリル酸アミド系混合物(注4) 2.0
8.プロピレングリコール 5.0
9.メチルセルロース(2%水溶液)(注5) 5.0
10.防腐剤 適 量
11.香料 適 量
12.精製水 60.0
(注1)架橋型メチルフェニルポリシロキサン;KSG-18(信越化学工業(株)製)
(注2)ポリエーテル変性分岐型シリコーン;KF-6028(信越化学工業(株)製)
(注3)ポリエーテル変性シリコーン;KF-6011(信越化学工業(株)製)
(注4)アクリル酸アミド系混合物;セピゲル 305(セピック製)
(注5)メチルセルロース;メトローズSM-4000(セピック製)
(製造方法)
A:成分3?5を均一に混合した。
B:成分1?2を混合したものに工程Aで得た混合物を加えて混合した。
C:成分6?10、及び12を混合した。
D:工程Bで得た混合物を工程Cで得た混合物に添加して乳化した。 得られた水中油型サンカットクリームは、きめが細かく、経時安定性に優れた。また、皮膚上での延びが良く、さっぱりした使用感を与えた。施与されたサンカットクリームは、耐汗性に優れ、高い紫外線防止効果を持続した。」

イ 特開2007-119741号公報(甲第1号証)に記載された発明
甲第1号証の記載事項2-1?2-7、特に記載事項2-5?2-7の記載からみて、引用文献2には、以下の発明が記載されていると認める。
「以下の製造方法により製造され、
以下の成分を含むボディーローション;
(成分) 重量(%)
1.エタノール 17.0
2.1,3-ブチレングリコール 3.0
3.ポリグリセリン変性分岐型シリコーン(注1) 0.5
4.トリオクタン酸グリセリル 2.0
5.オルガノポリシロキサン処理タルク(注2) 5.0
6.ハイブリッドシリコーン複合粉体(注3) 5.0
7.アンモニウムアクリロイルジメチルタウリン/VPコポリマー (2%水溶液) 20.08.キサンタンガム(2%水溶液) 6.0
9.塩化ナトリウム(1%水溶液) 1.0
10.防腐剤 適 量
11.香料 適 量
12.精製水 40.5
(注1)ポリグリセリン変性分岐型シリコーン;KF-6100(信越化学工業(株)製)
(注2)合成例1/合成例2=1/1、計2重量部で98重量部の粉体を前記処理方法に従い処理したもの
(注3)ハイブリッドシリコーン複合粉体;KSP-100(信越化学工業(株)製)
(製造方法)
A:成分1?6を混合した。
B:成分7?12を混合した。
C:工程Aで得た混合物を工程Bで得た混合物に加えて攪拌混合した。」(以下、「引用発明2-1」という。)

「以下の製造方法により製造され、
以下の成分を含む水中油型サンカットクリーム
(成分) 重量(%)
1.架橋型メチルフェニルポリシロキサン(注1) 5.0
2.イソオクタン酸セチル 7.0
3.微粒子酸化チタン(実施例1) 6.0
4.デカメチルシクロペンタシロキサン 8.0
5.ポリエーテル変性分岐型シリコーン(注2) 1.0
6.ポリエーテル変性シリコーン(注3) 1.0
7.アクリル酸アミド系混合物(注4) 2.0
8.プロピレングリコール 5.0
9.メチルセルロース(2%水溶液)(注5) 5.0
10.防腐剤 適 量
11.香料 適 量
12.精製水 60.0
(注1)架橋型メチルフェニルポリシロキサン;KSG-18(信越化学工業(株)製)
(注2)ポリエーテル変性分岐型シリコーン;KF-6028(信越化学工業(株)製)
(注3)ポリエーテル変性シリコーン;KF-6011(信越化学工業(株)製)
(注4)アクリル酸アミド系混合物;セピゲル 305(セピック製)
(注5)メチルセルロース;メトローズSM-4000(セピック製)
(製造方法)
A:成分3?5を均一に混合した。
B:成分1?2を混合したものに工程Aで得た混合物を加えて混合した。
C:成分6?10、及び12を混合した。
D:工程Bで得た混合物を工程Cで得た混合物に添加して乳化した。」(以下、「引用発明2-2」という。)

ウ 本件発明1、2について
(ア)引用発明2-1に対して
引用発明2-1の「1.エタノール」及び「2.1,3-ブチレングリコール」は、本件発明1の「ポリオール及び/又はエチルアルコール」に相当し、引用発明2-1の「アンモニウムアクリロイルジメチルタウリン/VPコポリマー (2%水溶液)」は、本件発明1の「ポリアクリルアミド化合物である親水性増粘剤」に相当し、引用発明2-1の「8.キサンタンガム(2%水溶液)」は、本件発明1の「多糖類又はその誘導体から選択される親水性増粘剤」に相当する。
また、本件特許明細書の段落【0013】には、「水性化粧料」について、「なお、本発明において、水性化粧料とは、化粧料全体の50質量%以上を水が占める化粧料を意味し、(1)基剤が水性成分のみからなる化粧料(実質的に水性成分と粉末成分とからなる化粧料)の態様、及び、(2)水性成分を外相とする水中油型乳化化粧料の態様を含む。」と記載されている。このように、本件発明1の「水性化粧料」とは、化粧料全体の50質量%以上を水が占める化粧料であるところ、引用発明2-1は、「精製水40.5重量%」、「7.アンモニウムアクリロイルジメチルタウリン/VPコポリマー (2%水溶液) 20.0重量%」、「8.キサンタンガム(2%水溶液) 6.0重量%」、「9.塩化ナトリウム(1%水溶液) 1.0重量%」を含むから、その水の含有量は50重量%を超える。したがって、引用発明2-1における「ボディーローション」は、本件発明1の「水性化粧料」に相当する。
また、引用発明2-1の「6.ハイブリッドシリコーン複合粉体」は、本件発明1の「金属石鹸以外で疎水化処理された金属酸化物、疎水性の有機粉末、シリコーン粉末から選ばれる1種又は2種以上の疎水性粉末」に相当し、その製造工程からみて、水相に分散している。
しかしながら、引用発明2-1の「3.ポリグリセリン変性分岐型シリコーン」である「KF-6100(信越化学工業(株)製)」は「下記一般式:

(上記式中、mは1?1000、nは1?40、aは5?50、bは0?50である)」という構造を満たさない。
したがって、本件発明1は、引用発明2-1と相違するものである。
また、本件発明1を引用する本件発明2も、引用文献2-1と相違する。

(イ)引用発明2-2に対して
引用発明2-2の「8.プロピレングリコール」は、本件発明1の「ポリオール及び/又はエチルアルコール」に相当し、引用発明2-2の「アクリル酸アミド系混合物;セピゲル 305(セピック製)」は、本件発明1の「ポリアクリルアミド化合物である親水性増粘剤」に相当し、引用発明2-2の「9.メチルセルロース(2%水溶液);メトローズSM-4000(セピック製)」は、本件発明1の「多糖類又はその誘導体から選択される親水性増粘剤」に相当する。
また、本件特許明細書の段落【0013】には、「水性化粧料」について、「なお、本発明において、水性化粧料とは、化粧料全体の50質量%以上を水が占める化粧料を意味し、(1)基剤が水性成分のみからなる化粧料(実質的に水性成分と粉末成分とからなる化粧料)の態様、及び、(2)水性成分を外相とする水中油型乳化化粧料の態様を含む。」と記載されている。このように、本件発明1の「水性化粧料」とは、化粧料全体の50質量%以上を水が占める化粧料であるところ、引用発明2-2は、「精製水60.0重量%」、「9.メチルセルロース(2%水溶液)を含むから、その水の含有量は50重量%を超える。したがって、引用発明2-2における「水中油型サンカットクリーム」は、本件発明1の「水性化粧料」に相当する。
さらに、本件特許明細書の段落【0018】における「本発明で使用する(A)ポリエーテル変性シリコーンは市販されているものでもよく、例えば、・・・
・商品名KF6011(信越化学工業株式会社製:PEG-11メチルエーテルジメチコン、HLB(Si)=12.7)等を挙げることができる。」
との記載から、引用発明2-2の「ポリエーテル変性シリコーン;KF-6011(信越化学工業(株)製)」は、本件特許発明1の「下記一般式:

(上記式中、mは1?1000、nは1?40、aは5?50、bは0?50である)
で表されるHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーンであって、HLB(Si)は、下記の計算式:

で求められる値である、ポリエーテル変性シリコーン
」に相当するといえる。
また、引用発明2-2の「3.微粒子酸化チタン(実施例1)」は、本件発明1の「金属石鹸以外で疎水化処理された金属酸化物、疎水性の有機粉末、シリコーン粉末から選ばれる1種又は2種以上の疎水性粉末」に相当する。しかしながら、先に、微粒子酸化チタンを親油性溶媒と混ぜた後、水相を混合するという製造工程からみて、微粒子酸化チタンは水相に分散しているとはいえない。
したがって、本件発明1は、引用発明2-2と相違するものである。
また、本件発明1を引用する本件発明2も、引用文献2-2と相違する。

(2)申立人 田中が主張した特許異議申立理由B(特許法29条第2項)について
ア 本件発明3について
(ア)引用発明2-1に対して
(i)対比
本件発明3は、本件発明1又は2において、「疎水性の有機粉末が、ポリメタクリル酸メチル粉末、ナイロン粉末、ポリウレタン粉末、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末からなる群から選択される」ことを特定したものである。
そうすると、本件発明3と引用発明2-1は
「(A)ポリエーテル変性シリコーン、
(B)親水性増粘剤、
(C)ポリオール及び/又はエチルアルコール、
(D)金属石鹸以外で疎水化処理された金属酸化物、疎水性の有機粉末、シリコーン粉末から選ばれる1種又は2種以上の疎水性粉末を含有し、
(D)疎水性粉末が水相に分散しており、
(B)親水性増粘剤が、ポリアクリルアミド化合物から選択される少なくとも1種と多糖類又はその誘導体から選択される少なくとも1種とを含む、水性化粧料。」
の発明である点で一致し、両者は次の点で相違する。

<相違点1>
ポリエーテル変性シリコーンとして、本件発明3が、「下記一般式:

(上記式中、mは1?1000、nは1?40、aは5?50、bは0?50である)
で表されるHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーンであって、HLB(Si)は、下記の計算式:

で求められる値である、ポリエーテル変性シリコーン」を含んでいるのに対して、引用発明2-2は、「ポリエーテル変性シリコーン;KF-6011(信越化学工業(株)製)」を含んでいる点。

<相違点2>
本件発明3において、疎水性の有機粉末がポリメタクリル酸メチル粉末、ナイロン粉末、ポリウレタン粉末、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末からなる群から選択されることが特定されているのに対して、引用発明2-1はそのような特定がない点。

(ii)判断
(a)相違点1について
引用発明2-1において、「ポリエーテル変性シリコーン;KF-6011(信越化学工業(株)製)」に代えて「下記一般式:

(上記式中、mは1?1000、nは1?40、aは5?50、bは0?50である)
で表されるHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーンであって、HLB(Si)は、下記の計算式:

で求められる値である、ポリエーテル変性シリコーン」を用いる動機付けがなく、引用発明2-1において、「ポリエーテル変性シリコーン;KF-6011(信越化学工業(株)製)」に代えて「下記一般式:

(上記式中、mは1?1000、nは1?40、aは5?50、bは0?50である)
で表されるHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーンであって、HLB(Si)は、下記の計算式:

で求められる値である、ポリエーテル変性シリコーン」を用いることは当業者が容易に想到し得ないものである。
また、本件発明3は、このことによりみずみずしい使用性を維持しながら、優れたなめらかさ、耐水性、化粧持ちを実現できるという格別の効果を奏するものである。

(b)相違点2について
本件発明3は、疎水性粉末として「金属石鹸以外で疎水化処理された金属酸化物」及び「シリコーン粉末」も選択されうるものであり、この点引用発明2-1と相違しない。

よって、本件発明3は、引用発明2-1及び甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

(イ)引用発明2-2に対して
(i)対比
本件発明3は、本件発明1又は2において、「疎水性の有機粉末が、ポリメタクリル酸メチル粉末、ナイロン粉末、ポリウレタン粉末、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末からなる群から選択される」ことを特定したものである。
そうすると、本件発明3と引用発明2-2は
「(A)下記一般式:

(上記式中、mは1?1000、nは1?40、aは5?50、bは0?50である)
で表されるHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーンであって、HLB(Si)は、下記の計算式:

で求められる値である、ポリエーテル変性シリコーン、
(B)親水性増粘剤、
(C)ポリオール及び/又はエチルアルコール、
(D)金属石鹸以外で疎水化処理された金属酸化物、疎水性の有機粉末、シリコーン粉末から選ばれる1種又は2種以上の疎水性粉末を含有し、
(B)親水性増粘剤が、ポリアクリルアミド化合物から選択される少なくとも1種と多糖類又はその誘導体から選択される少なくとも1種とを含む、水性化粧料。」
の発明である点で一致し、両者は次の点で相違する。

<相違点1>
本件発明3が「(D)疎水性粉末が水相に分散して」いるのに対して、引用発明2-2は「(D)疎水性粉末が油相に分散して」いる点。

<相違点2>
本件発明3において、疎水性の有機粉末がポリメタクリル酸メチル粉末、ナイロン粉末、ポリウレタン粉末、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末からなる群から選択されることが特定されているのに対して、引用発明2-2はそのような特定がない点。

(ii)判断
(a)相違点1について
引用発明2-2において、疎水性粉末を水相に分散させる動機付けはなく、引用発明2-2において、疎水性粉末を油相ではなく水相に分散させることは当業者が容易に想到し得ないものである。
また、本件発明3は、このことによりみずみずしい使用性を維持しながら、優れたなめらかさ、耐水性、化粧持ちを実現できるという格別の効果を奏するものである。

(b)相違点2について
本件発明3は、疎水性粉末として「金属石鹸以外で疎水化処理された金属酸化物」及び「シリコーン粉末」も選択されうるものであり、この点引用発明2-2と相違しない。

よって、本件特許発明3は、引用発明2-2及び甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

(3)申立人 田中が主張した特許異議申立理由C(特許法36条第6項第1号)について
ア 特許異議申立理由Cの概要は以下のとおりである。
本件特許明細書の実施例14では、水相部及び油相部を混合して、水中油型エマルションを作成したのちに、粉末部を添加して水性化粧料を調整しているから、疎水化粉末が主に水相に分散していることが理解できる。
一方で、疎水性粉末を揮発性油に分散させて乳化させた水性化粧料も、配合される成分の種類や組成によって、疎水性粉末の一部が水相に移行することは技術常識であり、その場合であっても、疎水性粉末が水相に分散していることとなる。油相成分の種類や配合量について何ら規定していない本件特許発明は多量の油相成分を含む水性組成物も包含し、油相成分中に疎水性粉末を含む水性化粧料も包含する。しかしながら、水中油型乳化化粧料については、水相部と疎水性粉末を含まない油相部と混合して乳化したのちに粉末部を添加して調製した実施例14の1つの水性化粧料のみ開示があるだけである。
したがって、「(D)疎水性粉末が水相に分散して」いることのみ規定する水性化粧料が、すべて、みずみずしい使用感を損なうことなく、疎水性粉末に特有の優れたなめらかさ、耐水性、化粧持ちを有する水性化粧料であるとは言えない。

イ この点について検討するに、本件発明1?3における「水性化粧料」について、本件特許明細書の段落【0013】には、「水性化粧料」について、「なお、本発明において、水性化粧料とは、化粧料全体の50質量%以上を水が占める化粧料を意味し、(1)基剤が水性成分のみからなる化粧料(実質的に水性成分と粉末成分とからなる化粧料)の態様、及び、(2)水性成分を外相とする水中油型乳化化粧料の態様を含む。即ち、「粉末が水相に分散している」とは、前記(1)の態様では化粧料全体に分散していること、前記(2)の態様では外相(水相)に分散していることを意味する。」と記載されている。このように、本件発明1の「水性化粧料」とは、化粧料全体の50質量%以上を水が占める化粧料であるところ、本件発明1?3は、申立人 田中が主張するように「多量の油相成分を含む水性組成物も包含」するものでもなく、また、水相部に疎水性粉末が分散していればある程度のみずみずしい使用感を損なうことなく、疎水性粉末に特有の優れたなめらかさ、耐水性、化粧持ちをもたらすものと認められるから、本件発明1?3について、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえない。したがって、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定を満たしているから、同法第113条第4号により取り消されるべきものではない。

(4)申立人 田中が主張した特許異議申立理由D(特許法36条第4項第1号)について
ア 特許異議申立理由Dの概要は以下のとおりである。
水中油型乳化化粧料としては実施例14の水性化粧料のみ開示されている。
本件特許明細書の実施例14では、水相部及び油相部を混合して先に乳化組成物を調製し、(A)成分のポリエーテル変性シリコーン及び(D)成分の疎水性粉末を含む粉末部を当該乳化組成物に添加しているから、(A)成分も主に水相に存在し、これが(D)成分と水相で共存し所望の効果を奏すると理解できる。
一方で、本件発明1では、(A)成分は単に水性化粧料に含まれることのみ規定され、水性化粧料中での(D)成分との関係性については何ら規定されていない。
そのため、本件実施例14以外の調整方法で本件特許発明の所望の効果を有する、水中油型乳化組成物である水性化粧料を得ることは、当業者に過度の試行錯誤を強いることとなる。

イ この点について検討するに、そもそも本件発明1は特定の効果について発明の特定事項において特定されているものでなく、本件特許明細書の記載からみてその製造について、当業者に過度の試行錯誤を強いるものとは認められない。また、特定の効果を奏するものについても、実施例14の方法で作成できることが示されており、当該方法を参考にそのようなものを得ることは、当業者当業者に過度の試行錯誤を強いることとなるとは認められない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているから、同法第113条第4号により取り消されるべきものではない。このことは、本件発明2,3についても同様である。

(5)小括
したがって、上記特許異議申立理由により、本件発明1?3に係る特許が取り消されるものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?3に係る特許は、令和 2年 4月13日付け及び令和 2年 7月17日付けの取消理由通知書に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に、本件の請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。

よって、結論の通り決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)0.1?5質量%の、下記一般式:

(上記式中、mは1?1000、nは1?40、aは5?50、bは0?50である)で表されるHLB(Si)が5?14のポリエーテル変性シリコーンであって、HLB(Si)は、下記の計算式:

で求められる値である、ポリエーテル変性シリコーン、
(B)親水性増粘剤、
(C)ポリオール及び/又はエチルアルコール、
(D)金属石鹸以外で疎水化処理された金属酸化物、疎水性の有機粉末、シリコーン粉末から選ばれる1種又は2種以上の疎水性粉末を含有し、
(D)疎水性粉末が水相に分散しており、
(B)親水性増粘剤が、ポリアクリルアミド化合物から選択される少なくとも1種と多糖類又はその誘導体から選択される少なくとも1種とを含む、水性化粧料。
【請求項2】
疎水化処理された金属酸化物が、シリコーン処理又は脂肪酸デキストリン処理によって疎水化されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
疎水性の有機粉末が、ポリメタクリル酸メチル粉末、ナイロン粉末、ポリウレタン粉末、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の化粧料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-10 
出願番号 特願2016-531380(P2016-531380)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 典之  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 西村 亜希子
冨永 みどり
登録日 2019-06-21 
登録番号 特許第6543247号(P6543247)
権利者 株式会社 資生堂
発明の名称 水性化粧料  
代理人 内田 直人  
代理人 内田 直人  
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