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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01G
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C01G
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01G
管理番号 1371692
異議申立番号 異議2019-700708  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-06 
確定日 2021-01-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6479633号発明「ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6479633号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。 特許第6479633号の請求項1?6、13に係る特許を維持する。 特許第6479633号の請求項7?12に係る特許についての特許異議の申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6479633号に係る出願は、平成27年11月30日を出願日とする出願であって、平成31年 2月15日にその請求項1?13に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年 3月 6日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和 1年 9月 6日付けで特許異議申立人金澤 毅(以下、「異議申立人」という。)により甲第1?8号証を添付して特許異議の申立がされ、同年11月27日付で当審より取消理由が通知され、その指定期間内である令和 2年 2月25日付けで特許権者より意見書の提出並びに訂正の請求がされ、同年 4月 2日付けで異議申立人より意見書が提出され、同年 6月 2日付で当審より取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年 9月 4日付けで特許権者より意見書の提出並びに訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年10月28日付けで異議申立人より意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。

第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1?6からなるものである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
なお、令和 2年 2月25日付けの訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に
「以下の式(1)で表されるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。」
と記載されているのを、
「以下の式(1)で表される、リチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項1に
「(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を500℃?850℃の温度域で3?40時間焼成することにより、焼成物を得る工程。ただし工程2において、上記混合物は焼成雰囲気に開口して設置された容器に敷設されており、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスが導入され、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスが噴射され、焼成雰囲気内のガスが上記酸化性ガスの流路とは異なる流路によって焼成雰囲気外に排出される。」
と記載されているのを、
「(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を500℃?850℃の温度域で3?40時間焼成することにより、焼成物を得る工程。ただし工程2において、810℃以上に昇温して焼成し、上記混合物は焼成雰囲気に開口して設置された容器に敷設されており、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスが導入され、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスが噴射され、焼成雰囲気内のガスが上記酸化性ガスの流路とは異なる流路によって焼成雰囲気外に排出される。ここで上記酸化性ガスは上記容器の開口部に位置する管の端部から噴出し、上記酸化性ガスの流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達し、上記酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する。」
に訂正する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項2に
「工程2の昇温時に上記混合物の表面温度が500℃に達した時点での焼成雰囲気の二酸化炭素濃度が0.1体積%以下となるように焼成温度と焼成雰囲気ガスを調節する、」
と記載されているのを、
「工程2の昇温時に上記混合物の表面温度が500℃に達した時点での焼成雰囲気の二酸化炭素濃度が0.1体積%以下となるように焼成温度と焼成雰囲気ガスを調節する、ただし上記工程2では上記容器開口部に焼成雰囲気ガスサンプリング用ステンレス管が設置されており、サンプリングの際に上記ステンレス管から5秒間吸引して集められた焼成雰囲気ガスの炭酸ガス濃度をガス検知管にて測定する、」
に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項7、8、9、10、11、12を削除する。

(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項13に
「請求項1?6のいずれか1項に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」
と記載されているのを、
「請求項1?6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」
に訂正する。

(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項13に
「焼成雰囲気内部のガスを排出するための上記酸化性ガスの導入管とは異なる流路が設けられている、
焼成炉。」
と記載されているのを、
「焼成雰囲気内部のガスを排出するための上記酸化性ガスの導入管とは異なる流路が設けられている、
ここで上記酸化性ガスは上記容器の開口部に位置する管の端部から噴出し、上記酸化性ガスの流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達し、上記酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する、
焼成炉。」
に訂正する。

本件訂正前の請求項2?6、8?13は、いずれも直接的又は間接的に請求項1を引用するものであり、本件訂正前の請求項8?12は、いずれも直接的又は間接的に請求項7を引用するものであり、本件訂正前の請求項8?12は請求項1、7を引用することから、本件訂正前の請求項1?13は一群の請求項である。
そして、訂正事項1?6の特許請求の範囲の訂正は、この一群の請求項1?13に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の用途を「リチウムイオン電池用正極活物質として用いる」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書には、
「【0059】
本発明により炭酸リチウムを原料に用いて比較的大スケールで効率よく、リチウムイオン電池の正極活物質として好適なニッケルリチウム金属複合酸化物が提供される。…」(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)
と記載されているから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「工程2」における「焼成」を「810℃以上に昇温して焼成」するものに限定すると共に、「酸化性ガス」の流れを「容器の開口部に位置する管の端部から噴出し、上記酸化性ガスの流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達し、上記酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書には、
『【0048】
上記酸化性ガスは、焼成炉外から上記容器の開口部に至る管によって焼成雰囲気中に導入される。…上記容器の開口部に位置する上記管の端部から酸化性ガスが噴出する。酸化性ガスは容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する。この「流圧を伴って」は、一旦焼成雰囲気中に流入した酸化性ガスが拡散によって上記混合物表面に接触するのではなく、酸化性ガス自体の流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達するという意味である。…』
「【0061】
(工程2)図1に示すセラミック製焼成鉢を搭載した焼成炉を用いて工程1で得られた前駆体混合物を焼成した。…昇温して810℃で10時間維持した。…」
と記載されているから、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2の「工程2」において、「焼成雰囲気」中の「二酸化炭素濃度」を測定する際のサンプリングする位置が明らかでなかったのを、「上記工程2では上記容器開口部に焼成雰囲気ガスサンプリング用ステンレス管が設置されて」いるものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3による訂正は、上記「二酸化炭素濃度」を測定する際の工程を、「サンプリングの際に上記ステンレス管から5秒間吸引して集められた焼成雰囲気ガスの炭酸ガス濃度をガス検知管にて測定する」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書には、
「【0061】
(工程2)図1に示すセラミック製焼成鉢を搭載した焼成炉を用いて工程1で得られた前駆体混合物を焼成した。…セラミック容器開口部には焼成雰囲気ガスサンプリング用ステンレス管が設置されている。サンプリングの際にはステンレス管から5秒間吸引して集められた焼成雰囲気ガスの炭酸ガス濃度をガス検知管にて測定する。…」
と記載されているから、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は請求項7、8、9、10、11、12を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえ、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13の「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の用途を「リチウムイオン電池用正極活物質として用いる」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5による訂正は、上記(1)に記載したのと同じ理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13における「酸化性ガス」の流れを「容器の開口部に位置する管の端部から噴出し、上記酸化性ガスの流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達し、上記酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6による訂正は、上記(2)に記載したのと同じ理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(7)申立人意見書について
(ア)異議申立人は、本件訂正について、申立人意見書において、訂正事項2による訂正の根拠とされた願書に添付した明細書の【0061】には、「昇温して810℃で10時間維持した。」のように記載されているに過ぎず、焼成温度を810℃以上とすることは記載されていないし、【0062】?【0064】においても焼成温度を810℃とすることが記載されているのみであるから、願書に添付した明細書の記載は、810℃よりも高温の領域を含むものではなく、「810℃以上に昇温して焼成」するものとする訂正事項2は新規事項の追加に当たる旨を主張している。

(イ)そこで、上記(ア)の主張について検討すると、願書に添付した明細書、特許請求の範囲には、「【請求項1】…(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を500℃?850℃の温度域で3?40時間焼成することにより、…」、「【0051】 昇温開始後は、500℃?850℃の温度域、好ましくは500℃?850℃の温度域で焼成する。…」と記載されている。
そして、これらの記載によれば、願書に添付した明細書、特許請求の範囲には、「工程2」の焼成温度が810℃よりも高温の850℃までの温度域を含むことが記載されているから、「工程2」を「810℃以上に昇温して焼成」するものとする訂正事項2は新規事項の追加に当たるものではないので、異議申立人の上記(ア)の主張は採用できない。

なお、本件においては、訂正前の全ての請求項1?13について特許異議申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 小括
以上のとおりであるので、本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同条同項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
本件訂正が認められることは上記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1?6、13に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明6」、「本件発明13」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6、13に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
リチウム原料として炭酸リチウムを使用し、
以下の工程1及び/又は工程1’と、工程2とを含む、
以下の式(1)で表される、リチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
(工程1)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物とを含む前駆体に、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物と、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。
(工程1’)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。
(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を500℃?850℃の温度域で3?40時間焼成することにより、焼成物を得る工程。ただし工程2において、810℃以上に昇温して焼成し、上記混合物は焼成雰囲気に開口して設置された容器に敷設されており、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスが導入され、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスが噴射され、焼成雰囲気内のガスが上記酸化性ガスの流路とは異なる流路によって焼成雰囲気外に排出される。ここで上記酸化性ガスは上記容器の開口部に位置する管の端部から噴出し、上記酸化性ガスの流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達し、上記酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する。
【化1】

(式(1)中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。)
【請求項2】
工程2の昇温時に上記混合物の表面温度が500℃に達した時点での焼成雰囲気の二酸化炭素濃度が0.1体積%以下となるように焼成温度と焼成雰囲気ガスを調節する、ただし上記工程2では上記容器開口部に焼成雰囲気ガスサンプリング用ステンレス管が設置されており、サンプリングの際に上記ステンレス管から5秒間吸引して集められた焼成雰囲気ガスの炭酸ガス濃度をガス検知管にて測定する、請求項1に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項3】工程2で連続式炉あるいはバッチ式炉を用いる、請求項1又は2に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
工程2でロータリーキルン、ローラーハースキルン、マッフル炉から選ばれる焼成炉を用いる、請求項1?3のいずれか1項に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
工程2を経て炭酸リチウムの残留量が0.5重量%以下(ただし工程2で得られた焼成物全量を100重量部とする)であるニッケルリチウム金属複合酸化物焼成物が得られる、請求項1?4のいずれか1項に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
工程2の後に、工程2で得られた焼成物を解砕する工程及び/又は工程2を経た焼成物を篩掛する工程をさらに含む、請求項1?5のいずれか1項に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】
請求項1?6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法に用いる焼成炉であって、
焼成雰囲気に焼成される材料を収納した容器が置かれ、
上記容器は焼成雰囲気に開口しており、
酸化性ガスを焼成雰囲気中に導入するための管が焼成炉外から上記容器の開口部に至って設置され、
上記管の端部は上記容器に収納された焼成される原料の表面に酸化性ガスの噴射流が直接接触する位置にあり、
焼成雰囲気内部のガスを排出するための上記酸化性ガスの導入管とは異なる流路が設けられている、
ここで上記酸化性ガスは上記容器の開口部に位置する管の端部から噴出し、上記酸化性ガスの流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達し、上記酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する、
焼成炉。」

第4 特許異議申立書に記載された特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について
甲第1号証:特開2010-70431号公報
甲第2号証:特開平6-163035号公報
甲第3号証:特開2015-128004号公報
甲第4号証:特開2009-215143号公報
甲第5号証:特開2010-9967号公報
甲第6号証:国際公開第2015/050031号
甲第7号証:特開平11-260401号公報
甲第8号証:特開2009-245911号公報
(1)甲第1号証を主引用例とする場合について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項と、本件特許の出願日における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)甲第2号証を主引用例とする場合について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明と本件特許の出願日における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)甲第3号証を主引用例とする場合について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7?12に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるか、甲第3号証に記載された発明と本件特許の出願日における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)第1の理由
本件特許明細書の実施例には、組成が明らかでないものの特定の1つの組成の実施例が開示されているのみであり、Ni、Co、元素Mの比率や、元素Mの種類が異なる場合等においても課題を解決できるか否かは明らかでないので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
また、上記実施例の組成が明らかでないから、本件訂正前の特許請求の範囲の組成に関する発明特定事項を充足するニッケルリチウム金属複合酸化物は本件特許明細書に具体的に記載されていないので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。

(2)第2の理由
本件特許明細書の実施例及び比較例を対比すると、「工程2」の昇温時に混合物の表面温度が500℃に達した時点での焼成雰囲気の二酸化炭素濃度が0.05体積%以下であることは、課題解決のための必須の要件であり、係る発明特定事項を含まない本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項2?6、8?13に係る発明は、本件特許明細書に開示されたものでなく、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。

(3)第3の理由
本件特許明細書の【0048】に照らせば、「工程2」において、酸化性ガス自体の流れが管の端部から混合物の表面に達することが、課題解決のための必須の要件といえるが、係る発明特定事項を含まない本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項2?6、8?13に係る発明は、本件特許明細書に開示されたものでなく、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。

3 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(1)第1の理由
焼成雰囲気の二酸化炭素濃度は、二酸化炭素濃度を測定するためにサンプリングする位置等の条件により大きく変化するものといえるが、二酸化炭素を測定する位置等の条件を具体的に特定していない本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項3?6、8?13に係る発明においては、二酸化炭素濃度がどのようなサンプリング条件における二酸化炭素濃度を意味しているのかが明らかでないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2?6、8?13に係る発明は明確でない。

(2)第2の理由
リチウムイオン電池が、正極や負極以外に例えばセパレータや電解液の種類により放電容量や充放電効率が影響を受けることは本件特許の出願日における周知技術であるが、セパレータや電解液の種類を特定していない本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項8?12に係る発明においては、放電容量や充放電効率がどのような条件下における放電容量や充放電効率を意味しているのかが明らかでないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7?12に係る発明は明確でない。

第5 取消理由の概要
1 令和 2年 6月 2日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由の概要
(1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
令和 2年 2月25日付けの訂正請求(以下、「一次訂正請求」という。)により訂正された特許請求の範囲の請求項7において、「0.1C放電容量」や「初回の充放電効率」を測定する際の電解液の組成やセパレータの材質・構造が特定されているとはいえないから、上記請求項7に係る発明、及びこれを直接的又は間接的に引用する同請求項9?12に係る発明は、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を一義的に特定したことにはならないので、明確でない。

2 令和 1年11月27日付け取消理由通知書の取消理由の概要
(1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(ア)「焼成雰囲気」について、二酸化炭素濃度を測定するためにサンプリングする位置が特定されない本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項3?6、8?13に係る発明により、「焼成雰囲気中」を一義的に特定したことにはならないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2?6、8?13に係る発明は明確でない。

(イ)「ニッケルリチウム金属複合酸化物」について、リチウムイオン電池とすることのみが特定され、電解液の組成やセパレータの材質・構造が特定されない本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項8?12に係る発明により、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を一義的に特定したことにはならないので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7?12に係る発明は明確でない(当審注:令和 1年11月27日付け取消理由通知書の第2の1(2)(ア)の「圧縮成形体」、「圧縮成形体」の解砕物、の記載はいずれも誤記と認める。)。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(ア)本件特許明細書の【0004】?【0019】によれば、本件特許に係る発明は、リチウムイオン電池の正極活物質として用いられる「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を、炭酸リチウムを唯一のリチウム源として製造した場合、リチウムイオン電池の放電容量や初期効率の点で、満足できる性能が得られていなかった、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものであるが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項2?6、13に係る発明においては、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」がリチウムイオン電池に用いられることが特定されていないから、本件課題とは無関係の「ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」も包含するので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?6、13に係る発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

(イ)本件特許明細書には、本件特許明細書の【0060】?【0074】に記載される実施例1?4(以下、「本件実施例」という。)により製造された「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の組成が記載されていないから、本件実施例において、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?6、8?13に係る発明で特定される組成の「ニッケルリチウム金属複合酸化物粉体」が製造されているとはいえないので、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?6、8?13に係る発明により本件課題を解決できることを認識できない。

(ウ)本件実施例の工程からみれば、本件実施例により製造された「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の組成は一種類のみであって、かつ、本件特許明細書には、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?6、8?13に係る発明により本件課題を解決する際の機序が記載されるものでもないから、仮に、本件実施例において、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?6、8?13に係る発明で特定される組成の「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が製造されているとしても、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件実施例により製造された一種類の組成の「ニッケルリチウム金属複合酸化物」から、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?6、8?13に係る発明で特定される全ての組成範囲の「ニッケルリチウム金属複合酸化物」に拡張ないし一般化して本件課題を解決できることを認識できない。

(エ)本件実施例においては、「工程2」の昇温時に混合物の表面温度が500℃に達した時点での焼成雰囲気の二酸化炭素濃度が0.05体積%以下となるように焼成温度と焼成雰囲気ガスを調節しており、二酸化炭素濃度が0.05体積%以下ではない比較例においては、放電容量や初回効率の結果が悪いから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、酸化性ガスが混合物の表面に十分達していない場合や、混合物の表面付近の炭酸ガス濃度が高くなっている場合をも包含し、「工程2」の昇温時に混合物の表面温度が500℃に達した時点での焼成雰囲気の二酸化炭素濃度が0.05体積%以下となるように焼成温度と焼成雰囲気ガスを調節していない本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?6、8?13に係る発明により本件課題を解決できることを認識できない。

(オ)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?6、8?13に係る発明においては、酸化性ガス自体の流れが上記管の端部から混合物の表面に達することが特定されていないので、当業者は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?6、8?13に係る発明により本件課題を解決できることを認識できない。

(カ)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に係る発明、及びこれを直接的または間接的に引用する同請求項9?12に係る発明においては、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明において特定される工程により製造されたものであることが特定されておらず、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7、9?12に係る発明により本件課題を解決できることを認識できない。

(3)特許法第29条第2項(進歩性)について
引用文献:特開平11-135118号公報
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1?6、13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び引用文献に記載された事項に基いて、または、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証、引用文献に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 取消理由についての当審の判断
1 令和 2年 6月 2日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由について
(1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
本件訂正により特許請求の範囲の請求項7、9?12は削除されるものとなったから、上記第5の1(1)の取消理由は対象となる請求項が存在しないので、理由がない。

なお、令和 2年 6月 2日付け取消理由通知書(決定の予告)には、以下の審尋が付記されている。
(ア)本件特許明細書においては、一次訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項を満たすように調製した「ニッケルリチウム金属複合酸化物」により、本件課題を解決するものとされている。

(イ)ここで、甲第1号証(【0040】?【0042】)、甲第3号証(【0047】?【0051】)(当審注:審尋における「甲第2号証」は「甲第3号証」の誤記と認められる。)によれば、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を650℃?680℃以下の温度で焼成した場合、未反応のリチウム化合物が残留する、あるいは得られるリチウム複合ニッケル酸化物の結晶性が低くなり、これを用いてリチウム二次電池を構成しても、得られるリチウム二次電池の電池性能が低下する、とか、その結晶が未発達で構造的に不安定であり充放電による相転移などにより容易に構造が破壊されてしまう、といったものとなるのであり、この場合、本件課題を解決できるものとは考え難いから、本件特許に係る発明において、本件課題を解決できる「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の焼成温度は、少なくとも650℃?680℃程度以上であると推認される。
更に、上記甲第1、3号証によれば、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を800℃以上の温度で焼成した場合、リチウムニッケル複合酸化物が異なる構造あるいは組成を有する化合物に変化し、これを用いてリチウム二次電池を構成しても、得られるリチウム二次電池の性能が著しく低下する、とか、カチオンミキシングが生じやすくなり層状構造が崩れ、リチウムイオンの挿入、脱離が困難となったり、さらには分解により酸化ニッケルなどが生成されてしまう、といったものとなるのであり、この場合も、本件課題を解決できるものとは考え難いから、本件特許に係る発明において本件課題を解決できる「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の焼成温度は、高くても800℃程度以下であると推認される。

(ウ)また、本件実施例からは、「混合物」を650℃?680℃程度以下(例えば500℃)で焼成した場合、あるいは800℃程度以上(例えば850℃)で焼成した場合に本件課題を解決できるものと直ちには理解できないのに対して、一次訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明の「(工程2)」における「混合物」を焼成する際の温度は「500℃?850℃」であり、上記請求項1に係る発明は、「混合物」を650℃?680℃程度以下で焼成するものや、800℃程度以上で焼成するものを包含するものであって、このことと上記(イ)によれば、上記請求項1に係る発明は本件課題を解決できないものを包含する、との疑義がある。

(エ)また、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を焼成する温度が放電容量等に影響を及ぼすことは本件特許の出願日において周知の技術であって、本件実施例の焼成温度からみれば、上記請求項1に係る発明は、焼成の最高温度を少なくとも810℃とすることで、「0.1C放電容量」及び「初回の充放電効率」が優れたものとなるとも推認されるものである。
そうすると、上記請求項1に係る発明において本件課題を解決するためには、焼成の最高温度を少なくとも810℃とする必要があるとも推認されるので、「(工程2)」における「混合物」を焼成する際の温度が「500℃?850℃」である上記請求項1に係る発明は本件課題を解決できないものを包含する、との疑義がある。

(オ)そこで、上記審尋について検討すると、本件発明1の「工程2」は、「混合物」を少なくとも810℃以上に昇温して焼成するものであり、650℃?680℃程度以上の温度で焼成するものといえる。

(カ)また、本件特許明細書の【0051】には、以下の記載がある。
「【0051】
昇温開始後は、500℃?850℃の温度域、好ましくは500℃?850℃の温度域で焼成する。焼成温度が500℃未満では未反応の炭酸リチウムが多量に残存しニッケルリチウム金属複合酸化物の生産効率が低下する。しかもこのような低すぎる温度で焼成して製造されたニッケルリチウム金属複合酸化物のリチウムイオン電池用正極活物質に利用すると、十分な電池性能が得られない。焼成温度が850℃を超えると未反応の炭酸リチウムは減少するが、製造されたニッケルリチウム金属複合酸化物のリチウムイオン電池用正極活物質に利用すると、十分な電池性能が得られない。このような高すぎる温度で焼成した場合にはいわゆるカチオンミックス現象が生じると考えられる。」
そして、上記記載によれば、本件発明においては、焼成温度が850℃を超えると未反応の炭酸リチウムは減少するが、製造されたニッケルリチウム金属複合酸化物のリチウムイオン電池用正極活物質に利用すると、十分な電池性能が得られないのであり、このような高すぎる温度で焼成した場合にはいわゆるカチオンミックス現象が生じると考えられるものであるが、「工程2」は850℃を超える温度で焼成するものではない。

(キ)上記(オ)、(カ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「混合物」を少なくとも810℃以上に昇温して焼成するものであり、850℃を超える温度で焼成するものではない「工程2」を有する本件発明1により本件課題を解決できることを認識できるから、上記審尋における(ウ)?(エ)の疑義は解消した。

(2)小括
したがって、令和 2年 6月 2日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由は理由がない。

2 令和 1年11月27日付け取消理由通知書の取消理由について
(1)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(ア)本件発明2は、焼成雰囲気ガスをサンプリングして二酸化炭素を測定する位置として、「容器開口部に焼成雰囲気ガスサンプリング用ステンレス管が設置」されることが特定されたうえで、「サンプリングの際に上記ステンレス管から5秒間吸引して集められた焼成雰囲気ガスの炭酸ガス濃度をガス検知管にて測定する」、というサンプリング条件が特定されており、「焼成雰囲気の二酸化炭素濃度」を測定する条件は明らかであるので、本件発明2は明確であるというべきである。
したがって、上記第5の2(1)(ア)の取消理由は理由がない。

(イ)本件訂正により特許請求の範囲の請求項7?12は削除されるものとなったから、上記第5の2(1)(イ)の取消理由は対象となる請求項が存在しないので、理由がない。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(ア)本件発明1及び本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2?6、13は、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の用途が「リチウムイオン電池用正極活物質として用いる」ものに特定されたので、上記第5の2(2)(ア)の取消理由は理由がない。

(イ)上記第5の1(2)(ア)によれば、本件発明は、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を炭酸リチウムを唯一のリチウム源として製造する場合に生じる本件課題を解決するものである。
一方、本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0045】
(工程2) 工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を500℃?850℃の温度域で3?40時間焼成する工程である。工程2では焼成雰囲気ガスの流入と排出を制御する。すなわち工程2において、ただし工程2において、上記混合物は焼成雰囲気に開口して設置された容器に敷設されており、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスが導入され、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスが噴射され、焼成雰囲気内のガスが上記酸化性ガスの流路とは異なる流路によって焼成雰囲気外に排出される。このように工程2は焼成雰囲気のガスの流れと組成を制御しながら行われる。」
『【0048】
上記酸化性ガスは、焼成炉外から上記容器の開口部に至る管によって焼成雰囲気中に導入される。酸化性ガスの流量は焼成炉外のガスタンク、管に設けられたセンサーによって自在に調節できる。上記容器の開口部に位置する上記管の端部から酸化性ガスが噴出する。酸化性ガスは容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する。この「流圧を伴って」は、一旦焼成雰囲気中に流入した酸化性ガスが拡散によって上記混合物表面に接触するのではなく、酸化性ガス自体の流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達するという意味である。上記管の端部の位置は、このような状態で酸化性ガスが混合物表面に接触するような位置に決められる。より広い表面に酸化性ガス流を均一に到達させるために管の端部を拡張することもできる。
【0049】
焼成雰囲気内部のガスは、上記酸化性ガスの導入管とは異なる流路で焼成炉外に排出される。通常は焼成部位の上部の排気口を経て焼成雰囲気内部のガスが排出される。
【0050】
工程2では、容器に敷設された混合物の表面温度が昇温開始後500℃に達した時点で焼成雰囲気ガスの炭酸ガス濃度が0.1体積%以下となるように、上記酸化性ガスの流入量、排気量を調節する。この調節のため、容器に敷設された混合物の表面温度と焼成雰囲気ガス組成を測定する。』
「【0054】
工程2の終了時に炭酸リチウムはほぼ完全に消費されてニッケルリチウム金属複合酸化物を形成している。その結果、正極活物質としての性能に優れるニッケルリチウム金属複合酸化物が得られる。このような本発明の方法で得られたニッケルリチウム金属複合酸化物の性能は、以下の評価によって確認することができる。」
そして、上記記載及び上記1(2)(イ)【0051】によれば、本件発明においては、容器の開口部に位置する管の端部から酸化性ガスが噴出し、酸化性ガス自体の流れが上記管の端部から混合物の表面に達し、酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触することで、未反応の炭酸リチウムが多量に残存しない「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が生産されて、本件課題を解決するものである。

(ウ)すると、本件発明は、容器の開口部に位置する管の端部から酸化性ガスが噴出し、酸化性ガス自体の流れが上記管の端部から混合物の表面に達し、酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触することを技術的特徴とするものであって、「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の組成に技術的特徴を有するものではないから、本件発明における「ニッケルリチウム金属複合酸化物」の組成は、従来使用されるものと同等のものに過ぎないと解するのが妥当であり、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明は、従来使用されるものと同等の組成の「ニッケルリチウム金属複合酸化物」を炭酸リチウムを唯一のリチウム源として製造する場合に、容器の開口部に位置する管の端部から酸化性ガスが噴出し、酸化性ガス自体の流れが上記管の端部から混合物の表面に達し、酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触することで、未反応の炭酸リチウムが多量に残存しない「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が生産され、本件課題を解決するものと理解できる。

(エ)してみれば、本件実施例に、組成が明らかでなく、かつ特定の1つの組成の実施例が開示されているのみであり、また、本件特許明細書に、本件発明により課題を解決する際の機序が記載されていないとしても、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1及び本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2?6、13により本件課題を解決できることを認識できるから、上記第5の2(2)(イ)、(ウ)の取消理由はいずれも理由がない。

(オ)本件発明においては、容器の開口部に位置する管の端部から酸化性ガスが噴出し、酸化性ガス自体の流れが上記管の端部から混合物の表面に達し、酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触することで、未反応の炭酸リチウムが多量に残存しない「ニッケルリチウム金属複合酸化物」が生産されて、本件課題を解決するものであることは、上記(イ)に記載のとおりであり、本件実施例において昇温時に混合物の表面温度が500℃に達した時点での焼成雰囲気の二酸化炭素濃度が0.05体積%以下となることは、容器の開口部に位置する管の端部から酸化性ガスが噴出し、酸化性ガス自体の流れが上記管の端部から混合物の表面に達し、酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触することにより達成される、好ましい条件として記載されているに過ぎないと解するのが妥当である。
すると、「工程2」において昇温時に混合物の表面温度が500℃に達した時点での焼成雰囲気の二酸化炭素濃度が0.05体積%以下であることは、本件課題の解決のために必須の要件であるとはいえないのであり、更に、本件発明1は、「ここで上記酸化性ガスは上記容器の開口部に位置する管の端部から噴出し、上記酸化性ガスの流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達し、上記酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する。」、との発明特定事項を有するものである。
してみれば、本件発明1が、「工程2」において昇温時に混合物の表面温度が500℃に達した時点での焼成雰囲気の二酸化炭素濃度が0.05体積%以下であるという発明特定事項を有しないとしても、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1及び本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2?6、13により本件課題を解決できることを認識できるから、上記第5の2(2)(エ)、(オ)の取消理由はいずれも理由がない。

(エ)本件訂正により特許請求の範囲の請求項7、9?12は削除されるものとなったから、上記第5の2(2)(カ)の取消理由は対象となる請求項が存在しないので、理由がない。

(3)特許法第29条第2項(進歩性)について
(3-1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証には,以下(1a)?(1d)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示され、かつ単分散の一次粒子であることを特徴とするニッケル含有水酸化物。
一般式(1):NiM(OH)_(2)
(式中MはNi以外の遷移金属、アルカリ土類金属元素、Al、Ga、In、Siのうち少なくとも1種以上の元素を示す)

【請求項5】
請求項1または2記載のニッケル含有水酸化物、あるいは請求項3または4記載のニッケル含有酸化物の内の少なくとも1種とリチウム化合物とを加熱して得られるものであり、下記一般式(3)に示され、かつ単分散の一次粒子であることを特徴とするリチウム複合ニッケル酸化物。
一般式(3):LiNiMO_(2)
(式中MはNi以外の遷移金属、アルカリ土類金属元素、Al、Ga、In、Siのうち少なくとも1種以上の元素を示す)

【請求項12】
前記ニッケル含有水酸化物と前記ニッケル含有酸化物の内の少なくとも1種とリチウム化合物とを混合し、680?800℃で焙焼することを特徴とする請求項5又は6記載のリチウム複合ニッケル酸化物の製造方法。」

(1b)「【0042】
本発明では、得られた混合物を680?800℃で焙焼するが、焙焼温度が680℃を下回ると、未反応のリチウム化合物が残留する、あるいは得られるリチウム複合ニッケル酸化物の結晶性が低くなり、これを用いてリチウム二次電池を構成しても、得られるリチウム二次電池の電池性能が低下する。一方、焙焼温度が800℃を超えるとリチウムニッケル複合酸化物が異なる構造あるいは組成を有する化合物に変化し、これを用いてリチウム二次電池を構成しても、得られるリチウム二次電池の性能が著しく低下するからである。
【0043】
また、前記680?800℃で焙焼するに際して、前記混合物をセラミック匣鉢もしくはステンレス匣鉢に充填し、炭酸ガスを含まない乾燥状態の含酸素雰囲気中で焼成することが好ましい。炭酸ガスや水分の極力少ないガスの雰囲気とする理由は、炭酸ガスが多い場合には、焼成物であるリチウム複合ニッケル酸化物表面のリチウム分が炭酸化し、リチウム二次電池の抵抗となるからである。

また、このようなリチウム複合ニッケル酸化物を用いて作成した電池を使用すると、充放電時に水の電気分解により酸素や水素が発生し破裂の危険を引き起こす要因となることがあるからである。用いうる焙焼炉としては、雰囲気調整可能な炉であれば支障はないが、例えば、ボックス型電気炉、昇降炉等のバッチ式炉、ローラーハースキルン、プッシャー炉等の連続式炉を用いることが効率上好ましい。」

(1c)「【0048】
(実施例1)
塊状のNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)(OH)_(2)の組成からなるニッケル含有水酸化物原料を粉砕して得た粉末1molを原料とし、これを反応槽内の水酸化ナトリウム水溶液(2.5mol/200cc)に懸濁させ十分攪拌させた後、反応槽の温度を140℃に保温し浴温が同温度に到達後30分保持し、その後冷却してニッケル含有水酸化物の粉末を得た。得られた粉末は平均粒子径1.6μmで単分散状態であった。また、組成はニッケル含有水酸化物原料と同じであった。
次に、得られた粉末を水酸化リチウム一水和物とスパルタンリューザーにてLi/(Ni+Co+Al)モル比=1.02となるよう混合し、760℃で炭酸ガス吸着設備と乾燥設備を等した工業用酸素気流中で24時間焼成を行った。得られた焼成物を解砕後、網目50μmの超音波篩で分級して粗大ゴミを除去し、篩下を真空乾燥して製品であるリチウム複合ニッケル酸化物を製造した。
得られたリチウム複合ニッケル酸化物の化学組成はLi_(1.02)Ni_(0.818)Co_(0.149)Al_(0.033)O_(2)で有り、平均粒子径は1.5μmで単分散状態であった。
このリチウム複合ニッケル酸化物を用いて電池を作成し、電池容量を求めたところ、2C電池容量(相対比)は120であった。」

(1d)「【0064】
(実施例17)
水酸化リチウム一水和物の代わりに炭酸リチウムを用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム複合ニッケル酸化物を製造した。得られたリチウム複合ニッケル酸化物の化学組成はLi_(1.02)Ni_(0.821)Co_(0.149)Al_(0.030)O_(2)で有り、平均粒子径は1.5μmで単分散状態であった。
このリチウム複合ニッケル酸化物を用いて電池を作成し、電池容量を求めたところ、2C電池容量(相対比)は120であった。」

(イ)上記(ア)(1a)によれば、甲第1号証には「リチウム複合ニッケル酸化物の製造方法」に係る発明が記載されており、同(1c)、(1d)によれば、当該「リチウム複合ニッケル酸化物の製造方法」は、塊状のNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)(OH)_(2)の組成からなるニッケル含有水酸化物原料を粉砕して得た粉末1molを原料とし、これを反応槽内の水酸化ナトリウム水溶液(2.5mol/200cc)に懸濁させ十分攪拌させた後、反応槽の温度を140℃に保温し浴温が同温度に到達後30分保持し、その後冷却してニッケル含有水酸化物の粉末を得て、次に、得られた粉末を炭酸リチウムとスパルタンリューザーにてLi/(Ni+Co+Al)モル比=1.02となるよう混合し、760℃で炭酸ガス吸着設備と乾燥設備を等した工業用酸素気流中で24時間焼成を行い、得られた焼成物を解砕後、網目50μmの超音波篩で分級して粗大ゴミを除去し、篩下を真空乾燥して製品であるリチウム複合ニッケル酸化物を製造したものであり、得られたリチウム複合ニッケル酸化物の化学組成はLi_(1.02)Ni_(0.818)Co_(0.149)Al_(0.033)O_(2)であり、このリチウム複合ニッケル酸化物を用いて電池を作成し、電池容量を求めたところ、2C電池容量(相対比)は120であったものである。

(ウ)上記(イ)によれば、甲第1号証には以下の発明が記載されているといえる。
「塊状のNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)(OH)_(2)の組成からなるニッケル含有水酸化物原料を粉砕して得た粉末1molを原料とし、これを反応槽内の水酸化ナトリウム水溶液(2.5mol/200cc)に懸濁させ十分攪拌させた後、反応槽の温度を140℃に保温し浴温が同温度に到達後30分保持し、その後冷却してニッケル含有水酸化物の粉末を得て、
次に、得られた粉末を炭酸リチウムとスパルタンリューザーにてLi/(Ni+Co+Al)モル比=1.02となるよう混合し、760℃で炭酸ガス吸着設備と乾燥設備を等した工業用酸素気流中で24時間焼成を行い、
得られた焼成物を解砕後、網目50μmの超音波篩で分級して粗大ゴミを除去し、篩下を真空乾燥して製品であるリチウム複合ニッケル酸化物を製造するものであり、
得られたリチウム複合ニッケル酸化物の化学組成はLi_(1.02)Ni_(0.818)Co_(0.149)Al_(0.033)O_(2)であり、
このリチウム複合ニッケル酸化物を用いて電池を作成し、電池容量を求めたところ、2C電池容量(相対比)は120であった、リチウム複合ニッケル酸化物の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)

(エ)また、上記(ア)(1b)によれば、甲1発明の「リチウム複合ニッケル酸化物の製造方法」は、焙焼炉として、ボックス型電気炉、昇降炉等のバッチ式炉、ローラーハースキルン、プッシャー炉等の連続式炉を用いるものである。

(オ)上記(エ)によれば、甲第1号証には以下の発明が記載されているといえる。
「甲1発明のリチウム複合ニッケル酸化物の製造方法に用いる焙焼炉であって、ボックス型電気炉、昇降炉等のバッチ式炉、ローラーハースキルン、プッシャー炉等の連続式炉である、焙焼炉。」(以下、「甲1’発明」という。)

(3-2)対比・判断
(3-2-1)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明において「リチウム複合ニッケル酸化物」を用いて電池を作成し、電池容量を求めたところ、2C電池容量(相対比)は120であったことからみれば、甲1発明における「リチウム複合ニッケル酸化物の製造方法」は、本件発明1における「リチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」に相当するものであって、甲1発明における「塊状のNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)(OH)_(2)の組成からなるニッケル含有水酸化物原料を粉砕して得た粉末1molを原料とし、これを反応槽内の水酸化ナトリウム水溶液(2.5mol/200cc)に懸濁させ十分攪拌させた後、反応槽の温度を140℃に保温し浴温が同温度に到達後30分保持し、その後冷却」して得た「ニッケル含有水酸化物の粉末」は、本件発明1における「ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体」に相当し、甲1発明において、「ニッケル含有水酸化物の粉末」を「炭酸リチウムとスパルタンリューザーにてLi/(Ni+Co+Al)モル比=1.02となるよう混合」することは、本件発明1において、「リチウム原料として炭酸リチウムを使用し」、「ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る」ことに相当し、甲1発明において、「760℃で炭酸ガス吸着設備と乾燥設備を等した工業用酸素気流中で24時間焼成を行」うことは、本件発明1において「混合物を500℃?850℃の温度域で3?40時間焼成することにより、焼成物を得る」ことに相当する。
また、甲1発明において「得られたリチウム複合ニッケル酸化物の化学組成」である「Li_(1.02)Ni_(0.818)Co_(0.149)Al_(0.033)O_(2)」は、本件発明1における式(1)に合致する。

(イ)上記(ア)によれば、本件発明と甲1発明とは、
「リチウム原料として炭酸リチウムを使用し、
以下の工程1及び/又は工程1’と、工程2とを含む、
以下の式(1)で表される、リチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
(工程1)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物とを含む前駆体に、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物と、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。
(工程1’)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。
(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を500℃?850℃の温度域で3?40時間焼成することにより、焼成物を得る工程。
【化1】

(式(1)中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。)」の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:本件発明1は、「ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」が、「工程2において、810℃以上に昇温して焼成し、上記混合物は焼成雰囲気に開口して設置された容器に敷設されており、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスが導入され、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスが噴射され、焼成雰囲気内のガスが上記酸化性ガスの流路とは異なる流路によって焼成雰囲気外に排出される。ここで上記酸化性ガスは上記容器の開口部に位置する管の端部から噴出し、上記酸化性ガスの流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達し、上記酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する。」との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は上記発明特定事項を有しない点。

イ 判断
以下、上記ア(イ)の相違点1について検討すると、上記(3-1)(ア)(1b)(【0042】)によれば、甲1発明においては、ニッケル含有酸化物とリチウム化合物の混合物の焙焼温度が800℃を超えるとリチウムニッケル複合酸化物が異なる構造あるいは組成を有する化合物に変化し、これを用いてリチウム二次電池を構成しても、得られるリチウム二次電池の性能が著しく低下するのであって、甲1発明において上記混合物を810℃以上に昇温して焼成することには阻害要因が存在するものである。
そうすると、甲1発明において、「ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」を、「工程2において、810℃以上に昇温して焼成し、上記混合物は焼成雰囲気に開口して設置された容器に敷設されており、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスが導入され、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスが噴射され、焼成雰囲気内のガスが上記酸化性ガスの流路とは異なる流路によって焼成雰囲気外に排出される。ここで上記酸化性ガスは上記容器の開口部に位置する管の端部から噴出し、上記酸化性ガスの流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達し、上記酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する。」との上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、当業者が容易になし得るとはいえないのであり、このことは、引用文献の記載事項に左右されるものでもない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び引用文献に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-2-2)本件発明2?6について
本件発明2?6は、直接的または間接的に本件発明1を引用するものであって、本件発明2?6のいずれかと甲1発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも上記(3-2-1)ア(イ)の相違点1の点で相違する。
そうすると、上記(3-2-1)イに記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2?6は、甲1発明及び甲第1号証に記載された事項、引用文献に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-2-3)本件発明13について
ア 対比
(ア)本件発明13と甲1’発明とを対比すると、甲1’発明における「リチウム複合ニッケル酸化物の製造方法」は、本件発明13における「リチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」に相当するものであって、甲1’発明における「焙焼炉」は、本件発明13における「焼成炉」に相当する。

(イ)上記(ア)によれば、本件発明13と甲1’発明とは、
「リチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法に用いる焼成炉。」の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点2:本件発明13は、「焼成炉」が、「請求項1?6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法に用いる焼成炉」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲1’発明は、「甲1発明のリチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法に用いる焼成炉」である点。

相違点3:本件発明13は、「焼成炉」が、「焼成雰囲気に焼成される材料を収納した容器が置かれ、上記容器は焼成雰囲気に開口しており、酸化性ガスを焼成雰囲気中に導入するための管が焼成炉外から上記容器の開口部に至って設置され、上記管の端部は上記容器に収納された焼成される原料の表面に酸化性ガスの噴射流が直接接触する位置にあり、焼成雰囲気内部のガスを排出するための上記酸化性ガスの導入管とは異なる流路が設けられている、ここで上記酸化性ガスは上記容器の開口部に位置する管の端部から噴出し、上記酸化性ガスの流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達し、上記酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1’発明は上記発明特定事項を有しない点。

イ 判断
(ア)まず、上記ア(イ)の相違点2について検討すると、本件発明1は、甲1発明及び引用文献に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、上記(3-2-1)イに記載のとおりであり、本件発明2?6は、甲1発明及び甲第1号証に記載された事項、引用文献に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、上記(3-2-2)に記載のとおりである。

(イ)そうすると、同様の理由により、甲1’発明において、「焼成炉」を、「請求項1?6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法に用いる焼成炉」である、との上記相違点2に係る本件発明13の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1号証に記載された事項、引用文献に記載された事項に基いて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明13は、甲1’発明及び甲第1号証に記載された事項、引用文献に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
したがって、令和 1年11月27日付け取消理由通知書の取消理由はいずれも理由がない。

3 申立人意見書について
(1)申立人意見書の主張の概要
申立人意見書における申立人の主張の概要は以下のとおりである。
(1-1)特許法第36条第6項第2号について
ア 第1の理由
「工程2」の「500℃?850℃の温度域」で焼成する旨の発明特定事項は810℃よりも低温の温度域を含み、「810℃以上に昇温して焼成し」との発明特定事項と整合しないから、「工程2」においてどのような温度条件で焼成することを意味するのかが明らかでなく、本件発明1は明確でない。

イ 第2の理由
二酸化炭素を測定する位置等の条件を具体的に特定しておらず、サンプリングの際に吸引する時間が特定されているだけである本件発明2は、特許異議申立書の「(4-2-1)第1の理由」に記載されたのと同じ理由により、不明確である。

(1-2)特許法第36条第6項第1号について
ア 第1の理由
「工程2」において、810℃以上の温度で焼成する際の焼成時間の条件について特定されていない本件発明1は、本件課題を解決できないものを包含し、サポート要件を充足しない。

イ 第2の理由
「工程2」において昇温時に混合物の表面温度が500℃に達した時点での焼成雰囲気の二酸化炭素濃度が0.05体積%以下であることが特定されていない本件発明1は、特許異議申立書の「(4-2-2)第2の理由」に記載されたのと同じ理由により、サポート要件を充足しない。

ウ 第3の理由
本件特許明細書の実施例には、組成が明らかでないものの特定の1つの組成の実施例が開示されているのみであり、Ni、Co、元素Mの比率や、元素Mの種類が異なる場合等においても課題を解決できるか否かは明らかでなく、そもそも上記実施例の組成が明らかでないから、本件発明1の組成に関する発明特定事項を充足するニッケルリチウム金属複合酸化物は本件特許明細書に具体的に記載されていないので、特許異議申立書の「(4-1-1)第1の理由」に記載されたのと同じ理由により、本件発明1はサポート要件を充足しない。
また、この点についての特許権者の令和 2年 2月25日付け意見書における主張はいずれも根拠がなく、妥当性を欠いており、いずれも認められない。

(2)当審の判断
上記(1)(1-1)イ、(1-2)イ、ウの事項については上記2(1)(ア)、(2)(イ)?(オ)で検討したので、以下、上記(1)(1-1)ア、(1-2)アについて検討する。
(2-1)特許法第36条第6項第2号について
ア 第1の理由について
本件実施例における実施例1は、「工程2」において昇温して810℃で10時間維持し、その後温度を780℃に下げて5時間維持するものであり、実施例2は、「工程2」において昇温して690℃で35時間維持し、更に昇温して810℃で10時間維持するものであり、実施例3は、「工程2」において昇温して690℃で10時間維持し、更に昇温して810℃で10時間維持するものであり、実施例4は、「工程2」において昇温して690℃で10時間維持し、更に昇温して810℃で10時間維持するものである。
そして、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「工程2」が「500℃?850℃の温度域」で焼成するものであって、その過程において「810℃以上に昇温して焼成」する段階を含むものであることを理解できるので、「工程2」においてどのような温度条件で焼成するかは明らかであり、本件発明1は明確であるというべきである。

(2-2)特許法第36条第6項第1号について
ア 第1の理由について
本件発明1は、「工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を500℃?850℃の温度域で3?40時間焼成することにより、焼成物を得る工程。ただし工程2において、810℃以上に昇温して焼成し」、との発明特定事項を有するものであり、このことと上記(2-1)アに記載される本件実施例の焼成温度及び時間からみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明が、「810℃以上に昇温して焼成」する時間と、そのほかの温度で焼成する温度及び時間とを、「3?40時間」の焼成時間内で調整することで、本件課題を解決するものであることを理解できるから、本件発明1の「工程2」において、810℃以上の温度で焼成する際の焼成時間が特定されていないとしても、本件発明1はサポート要件を充足するというべきである。

(2-3)小括
したがって、申立人意見書における申立人の主張はいずれも採用できない。

第7 特許異議申立理由についての当審の判断
上記第4の2(1)?(3)、同3(1)?(2)の特許異議申立理由については上記第6の2(1)、(2)で検討したので、以下、上記第4の1(1)?(3)の特許異議申立理由について検討する。
1 特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について
(1)甲第1号証を主引用例とする場合について
(ア)上記第6の2(3)(3-2)(3-2-1)ア(イ)の相違点1について、甲1発明において上記混合物を810℃以上に昇温して焼成することには阻害要因が存在することは、同イに記載のとおりであり、このことは、甲第2号証の記載事項や本件特許の出願日における周知技術に左右されるものでもない。

(イ)すると、上記第6の2(3)(3-2)(3-2-1)イ、同(3-2-2)、同(3-2-3)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、本件発明1?6、13は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項、本件特許の出願日における周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないので、上記第4の1(1)の特許異議申立理由は理由がない。

(2)甲第2号証を主引用例とする場合について
(2-1)甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
(ア)甲第2号証には以下(2a)?(2d)の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 含水二酸化マンガンを加熱処理して脱水する際に、加熱炉内に酸素含有気体を送入すると共に、発生した水蒸気含有ガスを該加熱炉外に排出することを特徴とするリチウム一次電池用二酸化マンガンの製造方法。」

(2b)「【0001】本発明はリチウム一次電池の陽極活物質に用いられる二酸化マンガンの製造方法に関し、特に熱処理による比表面積の低下や三酸化二マンガンの生成を抑え、電池の放電特性を向上させたリチウム一次電池用二酸化マンガンの製造方法に関する。」

(2c)「【0019】
【実施例】以下、本発明を実施例等に基づき具体的に説明する。
【0020】実施例1?12および比較例1?6
図1に示す加熱処理装置を用い、二酸化マンガンの熱処理を行なった。同図において、1は加熱処理装置外壁、2は加熱炉(容器)、3は耐熱ガラス製ビーカー、4は熱電対、5は気体流入管、6は気体排出管、7は流量計、8はポンプ、9,10はバルブ、11は原料(含水二酸化マンガン)をそれぞれ示す。
【0021】原料2である含水二酸化マンガンとして、電解により得られた比表面積42m^(2)/gの電解二酸化マンガン400gを用い、これを耐熱ガラス製ビーカー3中に装入した。この耐熱ガラス製ビーカー3は、気体流入管5と気体排出管6とを取り付けた蓋を有するステンレス鋼製容器(加熱炉)2に収納されている。この加熱炉2の容積は7リットルである。
【0022】この加熱炉2を380℃に加熱すると共に、ポンプ8からバルブ9,10を備えた気体流入管5を通って表1に示される一定の気体を送入した。気体の流量と、気体の流量を酸素含有量から空気に換算した時の加熱炉の容積に対する比率(x)は表1に示される通りとし、この気体の流量は流量計7で測定制御した。一方、加熱炉2内の二酸化マンガンより発生した蒸気は、気体排出管6より強制的に排出した。加熱処理時間は3時間とした。…」

(2d)「【図1】



(イ)上記(ア)(2a)、(2b)によれば、甲第2号証には、含水二酸化マンガンを加熱処理して脱水する際に、加熱炉内に酸素含有気体を送入すると共に、発生した水蒸気含有ガスを該加熱炉外に排出する、「リチウム一次電池用二酸化マンガンの製造方法」に係る発明が記載されており、当該「リチウム一次電池用二酸化マンガンの製造方法」は、熱処理による比表面積の低下や三酸化二マンガンの生成を抑え、電池の放電特性を向上させたリチウム一次電池用二酸化マンガンの製造方法に関するものである。
また、上記(ア)(2c)、(2d)によれば、甲第2号証には、上記「リチウム一次電池用二酸化マンガンの製造方法」に用いる、加熱処理装置外壁、加熱炉(容器)、耐熱ガラス製ビーカー、熱電対、気体流入管、気体排出管、流量計、ポンプ、バルブを備える「加熱処理装置」が記載されるものである。

(ウ)上記(イ)によれば、甲第2号証には以下の発明が記載されているといえる。
「熱処理による比表面積の低下や三酸化二マンガンの生成を抑え、電池の放電特性を向上させたリチウム一次電池用二酸化マンガンの製造方法であって、
含水二酸化マンガンを加熱処理して脱水する際に、加熱炉内に酸素含有気体を送入すると共に、発生した水蒸気含有ガスを該加熱炉外に排出する、リチウム一次電池用二酸化マンガンの製造方法に用いる、
加熱処理装置外壁、加熱炉(容器)、耐熱ガラス製ビーカー、熱電対、気体流入管、気体排出管、流量計、ポンプ、バルブを備える加熱処理装置。」(以下、「甲2発明」という。)

(2-2)対比・判断
本件発明13と甲2発明とを対比すると、本件発明13は、「リチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」に用いる、焼成を行う「焼成炉」に係るものであるのに対して、甲2発明は、「リチウム一次電池用二酸化マンガンの製造方法」に用いる、含水二酸化マンガンを加熱処理して脱水する「加熱処理装置」に係るものである点で、少なくとも相違するので、本件発明13が甲2発明であるとはいえない。
そして、「リチウム一次電池用二酸化マンガンの製造方法」に用いる含水二酸化マンガンを加熱処理して脱水する「加熱処理装置」を、「リチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法」に用いる、焼成を行う「焼成炉」とする動機付けは存在しないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明13を、甲2発明及び本件特許の出願日における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、上記第4の1(2)の特許異議申立理由は理由がない。

(3)甲第3号証を主引用例とする場合について
本件訂正により特許請求の範囲の請求項7?12は削除されるものとなったので、上記第4の1(3)の特許異議申立理由は対象となる請求項が存在しない。

(4)小括
したがって、上記第4の1(1)?(2)の特許異議申立理由はいずれも理由がなく、同(3)の特許異議申立理由は対象となる請求項が存在しない。

第8 むすび
以上のとおり、請求項1?6、13に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。また、他に請求項1?6、13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項7?12は、本件訂正により削除されたため、これらの請求項に係る特許に対する特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項が準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム原料として炭酸リチウムを使用し、
以下の工程1及び/又は工程1’と、工程2とを含む、
以下の式(1)で表される、リチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
(工程1)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物とを含む前駆体に、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物と、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。
(工程1’)ニッケル水酸化物及び/又はニッケル酸化物と、コバルト水酸化物及び/又はコバルト酸化物と、金属Mの水酸化物及び/又は金属Mの酸化物とを含む前駆体に、炭酸リチウムを混合することにより混合物を得る、混合工程。
(工程2)工程1及び/又は工程1’で得られた混合物を500℃?850℃の温度域で3?40時間焼成することにより、焼成物を得る工程。ただし工程2において、810℃以上に昇温して焼成し、上記混合物は焼成雰囲気に開口して設置された容器に敷設されており、焼成雰囲気外から焼成雰囲気内に酸化性ガスが導入され、上記混合物の表面に向かって上記酸化性ガスが噴射され、焼成雰囲気内のガスが上記酸化性ガスの流路とは異なる流路によって焼成雰囲気外に排出される。ここで上記酸化性ガスは上記容器の開口部に位置する管の端部から噴出し、上記酸化性ガスの流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達し、上記酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する。
【化1】

(式(1)中、0.90<a<1.10、1.7<b<2.2、0.01<x<0.15、かつ0.005<y<0.10であり、MはAlを必須元素として含み、Mn、W、Nb、Mg、Zr、及びZnから選ばれる元素を含んでもよい金属である。)
【請求項2】
工程2の昇温時に上記混合物の表面温度が500℃に達した時点での焼成雰囲気の二酸化炭素濃度が0.1体積%以下となるように焼成温度と焼成雰囲気ガスを調節する、ただし上記工程2では上記容器開口部に焼成雰囲気ガスサンプリング用ステンレス管が設置されており、サンプリングの際に上記ステンレス管から5秒間吸引して集められた焼成雰囲気ガスの炭酸ガス濃度をガス検知管にて測定する、請求項1に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項3】工程2で連続式炉あるいはバッチ式炉を用いる、請求項1又は2に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
工程2でロータリーキルン、ローラーハースキルン、マッフル炉から選ばれる焼成炉を用いる、請求項1?3のいずれか1項に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
工程2を経て炭酸リチウムの残留量が0.5重量%以下(ただし工程2で得られた焼成物全量を100重量部とする)であるニッケルリチウム金属複合酸化物焼成物が得られる、請求項1?4のいずれか1項に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
工程2の後に、工程2で得られた焼成物を解砕する工程及び/又は工程2を経た焼成物を篩掛する工程をさらに含む、請求項1?5のいずれか1項に記載のニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】
請求項1?6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極活物質として用いるニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法に用いる焼成炉であって、
焼成雰囲気に焼成される材料を収納した容器が置かれ、
上記容器は焼成雰囲気に開口しており、
酸化性ガスを焼成雰囲気中に導入するための管が焼成炉外から上記容器の開口部に至って設置され、
上記管の端部は上記容器に収納された焼成される原料の表面に酸化性ガスの噴射流が直接接触する位置にあり、
焼成雰囲気内部のガスを排出するための上記酸化性ガスの導入管とは異なる流路が設けられている、
ここで上記酸化性ガスは上記容器の開口部に位置する管の端部から噴出し、上記酸化性ガスの流れが上記管の端部から上記混合物の表面に達し、上記酸化性ガスが容器の開口部に広がる上記混合物の表面に流圧を伴って接触する、
焼成炉。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-18 
出願番号 特願2015-233365(P2015-233365)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C01G)
P 1 651・ 113- YAA (C01G)
P 1 651・ 121- YAA (C01G)
P 1 651・ 853- YAA (C01G)
P 1 651・ 851- YAA (C01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 手島 理  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 村岡 一磨
金 公彦
登録日 2019-02-15 
登録番号 特許第6479633号(P6479633)
権利者 ユミコア
発明の名称 ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法  
代理人 茂木 康彦  
代理人 井澤 幹  
代理人 井澤 洵  
代理人 三谷 祥子  
代理人 井澤 洵  
代理人 井澤 幹  
代理人 特許業務法人井澤国際特許事務所  
代理人 特許業務法人井澤国際特許事務所  
代理人 三谷 祥子  
代理人 茂木 康彦  

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