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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F16L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16L
管理番号 1371693
異議申立番号 異議2020-700116  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-27 
確定日 2020-12-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6568624号発明「配管または機器用耐火性断熱被覆材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6568624号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕、4について訂正することを認める。 特許第6568624号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6568624号(以下「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、2015年2月27日(優先権主張2014年2月27日、日本国)を国際出願日とする特願2015-516344号の一部を平成28年7月7日に新たな特許出願(特願2016-134724号)とし、さらに、その一部を平成30年6月21日に新たな特許出願(特願2018-118218号)としたものであって、令和1年8月9日にその特許権の設定登録がされ、令和1年8月28日に特許掲載公報が発行されたものである。そして、特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和2年 2月27日:特許異議申立人河井清悦(以下「特許異議申立人 」という。)による請求項1?4に係る特許に対 する特許異議の申立て
令和2年 5月 8日:取消理由通知書
令和2年 7月 2日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年 8月27日:特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年7月2日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件特許の請求項1の「ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれ
る少なくとも1つとを含む、難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備えた配管または機器用耐火性断熱被覆材。」を、
「ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む、難燃性ウレタン組成物であって、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備えた配管または機器用耐火性断熱被覆材。」に訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許の請求項2の「難燃性ウレタン組成物において、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、
三量化触媒が0.1?10重量部の範囲であり、
発泡剤が0.1?30重量部の範囲であり、
整泡剤が0.1重量部?10重量部の範囲であり、
添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、
添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、請求項1に記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材。」を、
「難燃性ウレタン組成物において、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、
三量化触媒が0.1?10重量部の範囲であり、
発泡剤が0.1?30重量部の範囲であり、
整泡剤が0.1重量部?10重量部の範囲である、請求項1に記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材。」に訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許の請求項4の「配管または機器の外周を、ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備えた配管または機器用耐火性断熱被覆材で被覆することからなる配管または機器用耐火性断熱被覆材の施工方法。」を、
「配管または機器の外周を、ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む難燃性ウレタン組成物であって、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備えた配管または機器用耐火性断熱被覆材で被覆することからなる配管または機器用耐火性断熱被覆材の施工方法。」に訂正する。

なお、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-3〕及び請求項4に対して請求されたものである。

2 訂正の適否について
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「難燃性ウレタン組成物」について、「ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、難燃性ウレタン組成物」という事項を付加して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項但し書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正前の請求項2には、「難燃性ウレタン組成物において、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、
三量化触媒が0.1?10重量部の範囲であり、
発泡剤が0.1?30重量部の範囲であり、
整泡剤が0.1重量部?10重量部の範囲であり、
添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、
添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、請求項1に記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材。」と記載されており、訂正事項1は、その一部であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「願書に添付した明細書等」という。)の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして、訂正事項1は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正事項1において、訂正前の請求項2の記載の一部を請求項1の発明特定事項として付加したことに伴い、訂正前の請求項2の記載から付加した内容を削除し、訂正事項1にかかる請求項1の発明特定事項との整合を図るものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項2は、上記のとおり、訂正前の請求項2の記載から、訂正事項1において付加した内容を削除するものであるから、願書に添付した明細書等の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項2は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項3の「難燃性ウレタン組成物」について、「ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、難燃性ウレタン組成物」という事項を付加して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項但し書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正前の請求項2には、「難燃性ウレタン組成物において、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、
三量化触媒が0.1?10重量部の範囲であり、
発泡剤が0.1?30重量部の範囲であり、
整泡剤が0.1重量部?10重量部の範囲であり、
添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、
添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、請求項1に記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材。」と記載されており、訂正事項3は、その一部であるから、願書に添付した明細書等の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして、訂正事項3は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項3は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。

3 小活
したがって、本件訂正の訂正事項1?3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するから、訂正後の請求項〔1-3〕、4について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明4」ということがある。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む、難燃性ウレタン組成物であって、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備えた配管または機器用耐火性断熱被覆材。
【請求項2】
難燃性ウレタン組成物において、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、
三量化触媒が0.1?10重量部の範囲であり、
発泡剤が0.1?30重量部の範囲であり、
整泡剤が0.1重量部?10重量部の範囲である、請求項1に記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材で被覆された配管または機器。
【請求項4】
配管または機器の外周を、ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む難燃性ウレタン組成物であって、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備えた配管または機器用耐火性断熱被覆材で被覆することからなる配管または機器用耐火性断熱被覆材の施工方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
(1)(新規性)請求項1、3、4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1、3、4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(2)(進歩性)請求項1?4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1?8号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1?8号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)(サポート要件)本件特許出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、請求項1、3、4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

甲第1号証:特開昭57-36114号公報
甲第2号証:特開2002-363241号公報
甲第3号証:特開昭48-17598号公報
甲第4号証:特開2001-200027号公報
甲第5号証:特表2005-500417号公報
甲第6号証:特公昭41-13154号公報
甲第7号証:特開2000-226425号公報
甲第8号証:特開平10-147623号公報

2 甲各号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。

(1-a)「【特許請求の範囲】
(1) イソシアネート化合物と活性水素原子を有する化合物及び発泡剤その他必要に応じ発泡助剤を添加した混和物からポリイソシアヌレートフォームを製造する方法において、樹脂で被覆した赤りんを全重量に対して0.5?5.0重量%添加して重合させることを特徴とする低発煙性ポリイソシアヌレートフォームの製造方法。
(2) 活性水素原子を有する化合物をイソシアネート基1当量あたり0.05?0.5当量の範囲で使用することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の低発煙性ポリイソシアヌレートフォームの製造方法。
(3) 発泡剤としてポリオール化合物100重量部に対し0.1?2.0重量部の水を使用することを特徴とする特許請求の範囲第1項及び第2項記載の低発煙性ポリイソシアヌレートフォームの製造方法。
(4) 密度0.07?0.95g/cm^(3)を有することを特徴とする特許請求の範囲第1項乃至第3項記載の低発煙性ポリイソシアヌレートフォームの製造方法。
(5) イソシアネート化合物としてポリメチレンポリ(フェニルイソシアネート)を使用することを特徴とする特許請求の範囲第1項乃至第4項記載の低発煙性ポリイソシアヌレートフォームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
本発明は優れた難燃性と耐熱性を有し、しかも発煙性の少いポリイソシアヌレートフォームの製造方法を提供せんとするものである。」(第1頁左欄第5行?第1頁右欄第15行)

(1-b)「本発明の方法は特に樹脂にて被覆された赤りんを使用することを特徴とするものである。この赤りんによって取扱上並に配化液の安定性は高く、優れた難燃性と耐熱性を有し且つ脆性も比較的小さく発煙性の低いポリイソシアヌレートフォームを得ることができたものである。
この発煙性を抑制する機構についてはこれを詳にすることは出来えないが、赤りんが樹脂にて被覆されているためイソシアヌレート基による架橋が促進され更に赤りん特有の難燃効果との相乗作用によるものと推考される。
而して本発明に使用する樹脂にて被覆された赤りんの製造方法を示すと例えば特開昭51-105996号公報及び特開昭52-125489号公報において赤りんの水懸濁液に熱硬化性樹脂の合成原料物質または初期重合物を赤りんに対し0.2?15重量%添加し40?100℃の加熱下において1?3時間重合し、ろ過(当審注:ろ過の「ろ」はさんずいに戸)、水洗した後、90?150℃の温度で乾燥して得るものである。
なお赤りん懸濁液には必要に応じて重合触媒または赤りんの安定化剤例えば水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを併用してもよい。」(第2頁右下欄第11行?第3頁左上欄第13行)

(1-c)「次に本発明方法において使用するポリイソシアネート化合物としては例えば2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート及びこれらの混合物、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリ(フェニルイソシアネート)及びこれらの混合物、m及びp-フェニレンジイソシアネート、ナフタリン1,5-ジイソシアネート及びこれらのポリイソシアネートの過剰量とポリオールとを反応させて得られるプレポリマーである。・・・
又本発明方法において使用する活性水素原子を有する化合物としては、主としてポリオール化合物であり、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、末端ヒドロキシル基を含有するポリブタジエン、ヒドロキを含有する油脂類、ポリエポキシド、フェノール樹脂の初期縮合物である。」(第3頁右上欄第12行?第3頁右上欄第第4行)

(1-d)「又本発明において使用する発泡剤としては主として水であり、ポリオール化合物100重量部に対し0.1?2.0重量部が好ましい。
この発泡剤としての水が発煙性を抑制する作用を有することは既に特公昭54-32479号公報に開示されており、ポリイソシアヌレートフォームの難燃性を高めるためにりん酸エステル、金属酸化物、塩化物等の難燃剤を併用する場合には発煙性の抑制効果はなくなる。また赤りんを難燃剤として使用する場合にも発泡剤の水により発煙性は大きくなると共に耐熱性、配合原液の保存安定性も低下する。これは難燃剤が加水分解をうけてその生成物がポリイソシアヌレートフォームの触媒活性を低下せしめるためと推考される。
然るに本発明方法においては樹脂により被覆された赤りんを使用することにより優れた難燃性と低発煙性とを有するポリイソシアヌレートフォームを製造することが可能になったものである。」(第4頁左上欄第4行?第4頁右上欄第3行)

(1-e)「本発明方法は三量化触媒を添加して重合反応を行うものであるがウレタン反応を促進する触媒、尿素結合及びビユレット結合、アロファネート結合を促進する触媒を併用してもよい。
三量化触媒の具体例を示すと、N,N′,N″-トリス(ジメチルアミノプロピル)-sym-ヘキサヒドロトリアジン、2,4,6トリス(ジメチルアミノメチル)フェニール、ベンジルトリメチルアンモニウム、メトキシド、カルボン酸のアルカリ金属塩例えば酢酸カリ、プロピオン酸カリ、オクタン酸カリ及びナトリウムメトキシド等の強塩基等であり、その他既に特公昭45-27982号等により公開されたものも使用出来る。
また本発明方法において使用する界面活性剤は通常のウレタンフォームの製造に際して有効なものであれば使用出来、例えばポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系、オルガノポリシロキサン、オルガノポリシロキサン-ポリオキシアルキレン共重合体等のシリコーン系、非イオン系、アニオン系、カチオン系のものである。」(第4頁右上欄第17行?第4頁左下欄第17行)

(1-f)「実施例(6)
実施例(1)と同様にして得たポリイソシアヌレートフォームを図面に示す如き蒸気配管本体1の外側を保温材3にて包被しこれを支持体2を介して蒸気配管をえた。
而してこの蒸気管を150℃において1ケ月間放置した後、常温の圧縮強度を測定した。その結果は53kg/cm^(2)であり、試験前の強度56.1kg/cm^(2)に比してほぼ同等の値を示した。また脆性及び形状の変化はほとんど認められなかった。
以上詳述した如く本発明方法によれば次の如き効果を有するものである。
(1) 難燃性に優れ、酸素指数は28以上を有する。
(2) 発煙性が極めて少い。
(3) 耐熱性に優れ150℃に1ケ月間放置するも圧縮強度の変化は殆んどなかった。
(4) 独立気泡率、熱伝導率は従来の硬質ウレタンフォームと同等の値を示す。
(5) 高密度のポリイソシアヌレートフォームをモールド成型することが出来る。
(6) 断熱材等として幅広い用途に使用することが出来る。
(7) 脆弱性(もろさ)が低い。
【図面の簡単な説明】」(第6頁右下欄第12行?第7頁左上欄第15行)

以上を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。
「ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、三量化触媒、水である発泡剤、ポリオキシアルキレン系、シリコーン系、非イオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤、および、添加剤を含み、添加剤が、樹脂で被覆した赤りんと、赤りんの安定化剤として、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを含み、全重量に対して、赤りんを0.5?5.0重量%添加させて重合させたポリイソシアヌレートフォームからなる保温材により蒸気配管本体の外側を包被した蒸気配管またはその保温材。」

また、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明2」という。)も記載されていると認められる。
「蒸気配管本体の外側を、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、三量化触媒、水である発泡剤、ポリオキシアルキレン系、シリコーン系、非イオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤、および、添加剤を含み、添加剤が、樹脂で被覆した赤りんと赤りんの安定化剤として、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを含み、全重量に対して、赤りんを0.5?5.0重量%添加させて重合させたポリイソシアヌレートフォームからなる保温材で包被することからなる蒸気配管の保温材の施工方法。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【0040】上記の原料からポリイソシアヌレートフォームを製造するにあたっては、均一に混合可能であればいかなる装置でも使用することができる。例えば、小型ミキサーや、一般のウレタンフォームを製造する際に使用する、注入発泡用の低圧又は高圧発泡機、スラブ発泡用の低圧又は高圧発泡機、連続ライン用の低圧又は高圧発泡機等を使用することができる。
【0041】本発明は、ボード、パネル、庇、ドア、雨戸、サッシ、サイディング、コンクリート系住宅、バスタブ、パイプカバー、スラブ等、各種断熱材用途等に適用できる。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(3-a)「ポリイソシアネートを、イソシアネート重合触媒および膨張剤、所望により安定剤および他の助剤の存在下、さらに所望により、活性水素原子をもつ化合物の当量より少ない量の存在下で重合させることによって、イソシアヌレート基を含有するフォーム樹脂を製造する方法において、重合をアリールホスフエートおよび/またはアリールホスフアイトの存在下、所望により赤りんを共用して行なうことを特徴とする、上記のフォーム樹脂の製造方法」(特許請求の範囲の請求項1)

(3-b)「このアリールホスフェートおよび/またはホスフェートの使用によって、フォーム樹脂の物理的性質が不利な影響を受けないこと、そしてそのフォーム樹脂は、高い耐炎性によって特色を示すことが判明した。」(第3頁左上欄第9?13行)」

(4)甲第4号証
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(4-a)「【請求項1】ポリヒドロキシル化合物、ポリイソシアネート、ウレタン化触媒、難燃剤、整泡剤および発泡剤を反応、硬化させて得られる難燃性硬質ポリウレタンフォームにおいて、難燃剤が、ポリリン酸アンモニウム含有化合物と硫酸アンモニウムとからなる複合難燃剤であることを特徴とする難燃性硬質ポリウレタンフォーム。
・・・
【請求項3】ポリリン酸アンモニウム含有化合物が、ポリリン酸アンモニウム単独もしくは該ポリリン酸アンモニウムと、無機リン酸塩、赤燐、有機燐酸エステル、無機系難燃剤、膨張性黒鉛、多価アルコール、スルファミン酸塩および1,3,5-トリアジン骨格含有化合物からなる群より選ばれた1種以上の化合物との混合物である請求項1もしくは請求項2のいずれか1項記載の難燃性硬質ポリウレタンフォーム。」

(4-b)「【0002】
【従来の技術】硬質ポリウレタンフォームは低い熱伝導率によって断熱性が優れ、各種用途の断熱材、例えば、LPGもしくはLNGタンク、LPGもしくはLNGタンカー、冷凍船、冷凍車両、冷凍倉庫、各種化学プラント、電気冷蔵庫、建築用等の各種保温材、断熱材に使用されている。 しかしながら、硬質ポリウレタンフォームは難燃性が乏しく、難燃性を付与する検討が行われてきている。」

(5)甲第5号証
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(5-a)「【0049】
ポリオールとポリイソシアネートとの反応のために1種以上の有機金属触媒を使用できる。典型的な有機金属触媒としては、有機水銀触媒、有機鉛触媒、有機鉄触媒及び有機錫触媒が挙げられ、これらの中で有機
錫触媒が好ましい。好適な錫触媒としては、塩化錫、カルボン酸の錫塩、例えばジブチル錫ジラウレートや、例えば米国特許第2,846,408号に開示されている他の有機金属化合物が挙げられる。ポリイソシアヌレートをもたらすポリイソシアネートの3量化用の触媒、例えばアルカリ金属アルコキシドも本発明において必要に応じて使用できる。アミン触媒が依然として必要な場合に、アミン触媒の量は、配合において0.02?5%で様々な値をとることができ、配合において0.001?1%の有機金属触媒を使用することができる。」

(5-b)「【0051】
好適な難燃剤としては、例えば、トリクレシルホスフェート、トリス-(2-クロロエチル)-ホスフェート、トリスー(2-クロロプロピル)ホスフェート、トリスー(2,3-ジブロモプロピル)-ホスフェート、トリス(1,2-ジクロロプロピル)ホスフェート及びテトラキス-(2-クロロエチル)-エチレンジホスフェートが挙げられる。
【0052】
上記ハロゲン置換ホスフェートに加えて、無機難燃剤、例えば赤リン、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、酸化ヒ素、ポリリン酸アルミニウム及び硫酸カルシウム;膨張性グラファイト;又はシアヌル酸誘導体、例えばメラミンを使用してもよく、必要に応じてフォーム、特に硬質フォームを難燃性にするためにスターチ類を加える。概して、難燃剤を使用する場合には、難燃剤は配合の1?50質量部で存在する。」

(6)甲第6号証
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
(6-a)「本発明の対象は、反応性水素原子を有する有機化合物、ポリイソシアナート、水及び(又は)その他の発泡剤からウレタン基含有の耐焔性泡化物質を製造する方法である。而してこの方法の特徴とするところは泡化を元素状赤燐の存在下に行うことである。
この発見は、周知の如く赤燐自体は極めてよく燃焼するものであるが故に、全く驚くべきことである。実際赤燐の使用下に製造されたポリウレタン泡化物質はなお僅かな表面燃焼性を有するが、これは少量のハロゲン含有化合物の添加によって完全に抑制され、その結果泡化物質はこの場合自己消火性となる。
特別な実施態様によれば、元素状赤燐と一緒にハロゲン含有化合物が泡化物質中に組入れられ、それによって燐/ハロゲンの組合せによる相乗効果が利用される。」(第1頁右欄下から4行目?第2頁左欄第13行)

(6-b)「ハロゲン含有化合物としては、種々の化学構造の物質を使用することが出来る。この場合ハロゲン含有化合物は無機のものでも有機のものでもよい。例えば三塩化アンチモン、三塩化砒素、五塩化アンチモン、塩
化アンモニウム、臭化アンモニウム、ハロゲン化された天然生成物(例えば塩素化又は臭素化されたヒマシ油)、更にハロゲン化炭化水素(例えばテトラブロムエタン及びテトラクロルエタン、ポリクロルジフェニル)、更にヘキサクロルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸のエステル又はペンタブロムジフェニルエーテルが使用される。
本発明の意味に於けるハロゲン含有有機化合物なる概念は分子中にハロゲンの他に燐原子をも含有する如き有機化合物をも含むことを了解すべきことは勿論である。この様な化合物としては例えばトリス-(2-クロルエチル)-フオスフアート、トリス-( 2,3-ジブロムプロピル)-フオスフアート、更にエピクロルヒドリンと燐酸との附加生成物が挙げられる。ハロゲン含有物質は、火焔防護の所望度に適応した量で使用され、一般には得られた泡化物質が0.5?30%、しかし好ましくは1?5%のハロゲンを含有する様にする。勿論前記ハロゲン含有物質の各種のものを相互に組合せて使用しても好結果を得ることが出来る。」(第2頁左欄第37行?右欄第15行)

(7)甲第7号証
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
(7-a)「ポリオールと、該ポリオール100重量部に対して、5重量部以上15重量部以下の赤燐と、80重量部以上95重量部以下の3価金属の水酸化物と、0.1重量部以上5重量部以下のアルカリ土類金属水酸化物
と、0.01重量部以上2重量部以下のSiO_(2)とを含有することを特徴とするポリオール組成物。」(請求項1)

(7-b)「【0019】難燃剤として機能する赤燐の含有量は、上記ポリオール100重量部に対して、5重量部以上15重量部以下の範囲であることが好ましい。赤燐の含有量が5重量部より少ないと十分な難燃性が得られず、また、赤燐の含有量が15重量部より多いとこれを混合する際の粘度が上昇し撹拌が困難となるので好ましくない。
【0020】3価金属の水酸化物としでは、高い難燃性を付与し得るという観点から、水酸化アルミニウムが好ましい。3価金属の水酸化物の含有量は、上記ポリオール100重量部に対して、80重量部以上95重量部以下の範囲であることが好ましい。3価金属の水酸化物の含有量が80重量部より少ないと十分な難燃性が得られず、また、3価金属の水酸化物の含有量が95重量部より多くても、含有量に見合った効果が得られないので好ましくない。
【0021】アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等を例示することができるが、中でも、高い分散性を付与し得るという観点から、水酸化マグネシウム好ましい。水酸化マグネシウムの含有量は、上記ポリオール100重量部に対して、0.1重量部以上5重量部以下の範囲であることが好ましい。水酸化マグネシウムの含有量が0.1重量部より少ないと、十分な難骼性及び分散性が得られず、5重量部より多いと、粘度の上昇により流動性が低下するとともに耐湿性が劣ることとなるので好ましくない。」

(8)甲第8号証
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】ポリヒドロキシル化合物、有機ポリイソシアネート、ウレタン化触媒、難燃剤、整泡剤及び発泡剤とから得られる軟質ポリウレタンフォーム用組成物であって、該難燃剤がポリリン酸アンモニウムと赤燐とからなる複合難燃剤であることを特徴とする難燃性軟質ポリウレタンフォーム用組成物。
・・・
【請求項3】複合難燃剤を構成するポリリン酸アンモニウムと赤燐との重量比が96:4?75:25である請求項1記載の難燃性軟質ポリウレタンフォーム用組成物。」

3 当審の判断
3-1 特許法第29条第1項第3号(新規性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「ポリイソシアネート化合物」、「ポリオール化合物」、「三量化触媒」、「水である発泡剤」、「ポリオキシアルキレン系、シリコーン系、非イオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤」は、それぞれ、本件発明1の「ポリイソシアネート」、「ポリオール」、「三量化触媒」、「発泡剤」、「整泡剤」に相当する。
また、添加剤については、甲1発明1の「赤りん」、「水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム」は、それぞれ、本件発明1の「赤リン」、「金属水酸化物」に相当する。

したがって、本件発明1と甲1発明1とは、
「ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む、難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備えた配管または機器用耐火性断熱被覆材。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
添加剤に関して、本件発明1では「ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である」のに対して、甲1発明1では「樹脂で被覆した赤りんと、赤りんの安定化剤として、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを含み、全重量に対して、赤りんを0.5?5.0重量%添加させて重合させた」点。

イ 判断
上記相違点について検討する。
甲1発明1の「樹脂で被覆した赤リン」の製造方法について、甲第1号証の上記(1-b)には、「赤りんの水懸濁液に熱硬化性樹脂の合成原料物質または初期重合物を赤りんに対し0.2?15重量%添加し40?100℃の加熱下において1?3時間重合し、濾過、水洗した後、90?150℃の温度で乾燥して得るものである。なお赤りん懸濁液には必要に応じて重合触媒または赤りんの安定化剤例えば水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを併用してもよい。」と記載されている。
すなわち、甲1発明1の赤りんの安定化剤としての水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムは、樹脂で被覆した赤りんの製造時に赤りんの懸濁液に配合するものであり、ポリイソシアヌレートフォーム全体に難燃剤として作用するものではない。
しかしながら、甲1発明1の水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムは、ポリイソシアヌレートフォームに添加されるものに変わりはないから、本件発明1で特定される添加剤に含まれるものといえる。
そして、本件発明1は、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲であるが、甲1発明1には水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムの添加量については開示されていない。
したがって、甲1発明1には、添加剤全体の添加量及び赤りん以外の添加剤の添加量について開示されていないから、本件発明1は甲1発明1と同一とはいえない。

ウ 小活
よって、本件発明1は、甲1発明1であるとはいえない。

(2)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用するものであるから、同様に甲1発明1であるとはいえない。

(3)本件発明4について
本件発明4と甲1発明2とを対比すると、以下の点で一致し、
「配管または機器の外周を、ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備えた配管または機器用耐火性断熱被覆材で被覆することからなる配管または機器用耐火性断熱被覆材の施工方法。」
上記相違点と同等の相違点で相違する。そして、上記(1)イにおける検討を踏まえると、同様に、本件発明4は甲1発明2とは同一とはいえない。
よって、本件発明4は甲1発明2であるとはいえない。

(4)まとめ
以上のことから、本件発明1、本件発明3、本件発明4は、甲1発明1又は甲1発明2(以下、こられをまとめて「甲1発明」ということがある。)であるとはいえない。

3-2 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)本件発明1について
取消理由通知で示したとおり、甲第2号証には、ポリイソシアヌレートフォームをパイプカバーや各種断熱材用途に適用した点が記載されており、ポリイソシアヌレートフォームを配管や機器用の耐火性断熱被覆材として用いることは周知技術であり、また、甲第3号証?甲第8号証には、赤リンを本件発明1と同様に様々な物質と組み合わせて使用することが記載されており、耐火性・難燃性向上の観点から、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる1つを添加剤として使用することは周知技術である。
しかし、特許権者の令和2年7月2日付けの意見書における主張を踏まえて再検討したところ、以下のとおり、本件発明1のポリイソシアヌレートフォームに甲第3号証?甲第8号証に示された周知技術の添加剤を配合することは当業者が容易になし得たことではない。
甲1発明1の課題は、上記(1-a)に記載されたとおり、「優れた難燃性と耐熱性を有し、しかも発煙性の少いポリイソシアヌレートフォームの製造方法を提供せんとする」ものである。特に、発煙性については、上記(1-d)に記載されたとおり、「ポリイソシアヌレートフォームの難燃性を高めるためにりん酸エステル、金属酸化物、塩化物等の難燃剤を併用する場合には発煙性の抑制効果はなくなる。・・・然るに本発明方法においては樹脂により被覆された赤りんを使用することにより優れた難燃性と低発煙性とを有するポリイソシアヌレートフォームを製造することが可能になった」ものである。
すなわち、甲1発明1は、樹脂により被覆された赤りんを使用することにより、低発煙性を達成しているものであり、そして、ポリイソシアヌレートフォームの難燃性を高めるためにりん酸エステル、金属酸化物、塩化物等の難燃剤を併用する場合には発煙性の抑制効果はなくなるのであるから、甲1発明1において、甲第3号証?甲第8号証に示された周知技術の添加剤を配合することは、阻害事由に該当する。
したがって、甲1発明1に甲第3号証?甲第8号証に示された周知技術の添加剤を適用する動機付けはない。また、甲1発明1に甲第2号証に示されたポリイソシアヌレートフォームを配管や機器用の耐火性断熱被覆材として用いる点を適用しても本件発明1を導き出すことはできないから、本件発明1は、甲1発明1及び甲第2号証?甲第8号証に示された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

特許異議申立人は、令和2年8月27日付けの意見書において、「訂正後の請求項1には、依然として、赤リン以外の添加剤として金属水酸化物も含まれています。そして、取消理由通知書の第4頁第13?17行において、『難燃性ウレタン組成物の技術分野において、・・・赤リン、赤リンを除く添加剤をどの程度の重量比で含有させるか、適宜調節してみることは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものであり、請求項2に記載の広範な数値範囲の特定に臨界的意義があるとは認められない。』と述べられている通り、訂正前の請求項2の数値限定を一部含んでいる訂正後の請求項1、及び、三量化触媒、発泡剤、整泡剤についての数値限定を含んでいる訂正後の請求項2について、取消理由2は依然として解消していないと思量いたします。」と主張する(第2頁第24?30行)。
しかしながら、甲1発明1の水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムは、赤りんの安定化剤として添加されるものであり、本件発明1の金属水酸化物は、本件特許明細書における段落【0102】の「金属水酸化物の範囲が1.5重量部以上の場合は、難燃性ウレタン樹脂組成物の自己消火性が保持され、また52重量部以下の場合には難燃性ウレタン樹脂組成物の発泡が阻害されない。」との記載を踏まえると、自己消化性を保持する(すなわち、難燃性を高めること)ために添加されるものであり、両者は添加する目的が異なるものである。
そして、甲1発明1の水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを、難燃性を高めるための添加量である1.5重量部?52重量部の範囲とした場合には発煙性の抑制効果はなくなるから、甲1発明1の課題に反することになる。
したがって、甲1発明1の水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムを、本件発明1における赤リンを除く添加剤の量である1.5重量部?52重量部の範囲とすることは、阻害事由に該当し、当業者が適宜なし得たこととはいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであるから、同様に甲1発明1に基いて、又は甲1発明1及び甲第2号証?甲第8号証に示された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明4について
上記「3-1(3)」の検討を踏まえると、上記(1)と同様に、本件発明4は、甲1発明2に基いて、又は甲1発明2及び甲第2号証?甲第8号証に示された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
以上のことから、本件発明1?本件発明4は、甲1発明及び甲第2号証?甲第8号証に示された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3-3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件訂正により、請求項1において、添加剤の量について「添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である」と特定されたため、請求項1、3、4について「赤リン以外の添加剤を含みさえすれば本件発明1の課題が解決できるとはいえない。」との取消理由は解消された。
そして、上記の特定により、本件発明の課題を解決できることを当業者が十分に認識できるものである。
よって、請求項1、3、4の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たす。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において除外した請求項2について(新規性、サポート要件)
本件発明2は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同様に甲1発明1であるとはいえない。
また、請求項2の記載は、請求項1の記載を引用するものであるから、同様に特許法第36条第6項第1号の要件を満たす。

2 他の特許異議申立理由について
(1)36条第4項第1号(実施可能要件)について
特許異議申立人は、(訂正前の)請求項1に係る発明は、本件特許明細書の記載及び出願時の技術常識を参酌しても、具体的にどのようにすれば、耐火性に優れ、難燃性を示す難燃性ウレタン樹脂組成物からなる発泡ウレタン断熱層を製造することができるのか、当業者といえども理解できるとはいえない。(訂正前の)請求項2に係る発明は、赤リン以外の添加剤が具体的に特定されておらず、赤リンの添加量や針状フィラーの添加量が適切に限定されていないため、請求項2に係る発明を実施するためには過度の思考錯誤が必要である旨主張する(特許異議申立書第47?50頁)。
しかしながら、本件訂正により請求項1の添加剤について「ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である」と特定された。
また、発明の詳細な説明には、請求項1?4に係る発明の発明特定事項を全て満たす具体的な物質及びその配合割合が実施例1?実施例19として記載されているから、当業者は、請求項1?4に係る発明を実施することができる。そして、赤リンや針状フィラーの量については、実施例に示された量を基本にして適宜増減させることで当業者が適宜決定し得るから、請求項1?4に係る発明のものの製造は、当業者が通常行われる試行錯誤の範囲内で行うことができるものである。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1?4に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

(2)36条第4項第1号(実施可能要件)及び36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 赤リン以外の添加剤が具体的に特定されるべきこと
特許異議申立人は、本件特許明細書の実施例で用いられている赤リン以外の添加剤は、リン酸二水素アンモニウム、TMCPP、TCP、CDP、HBB、ホウ酸亜鉛、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、針状フィラーの9つの物質のみであるのに対して、請求項1に係る発明、請求項4に係る発明には、これよりも広い概念で特定されている旨主張する(特許異議申立書第54、55頁)。
しかしながら、請求項1に係る発明において、難燃性ウレタン組成物に添加する添加剤として「リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラー」が記載されているが、実施例の評価試験で用いられているリン酸二水素アンモニウム、TMCPP、TCP、CDP、HBB、ホウ酸亜鉛、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、針状フィラー」以外のものを用いても、物性値が多少異なるものの難燃剤などの添加剤として同様の機能を有することは、当業者であれば十分に理解できるものであり、請求項1?4に係る発明のものの製造は、当業者が通常行われる試行錯誤の範囲内で行うことができるものである。
そして、請求項1?4に係る発明の記載が、本件明細書の実施例において実際に評価試験を行っていない物質を含むものであったとしても、その配合割合を適宜選択することで「耐火性に優れた発泡ポリウレタン断熱層を備えた配管または機器用耐火性断熱被覆材を提供する」(段落【0007】)という本件発明の課題を解決できることを当業者が十分に認識できるものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

イ 赤リンの添加量が限定されるべきこと
特許異議申立人は、本件特許明細書の表2及び表4を参照すると、赤リンが2重量部(比較例14)では判定「NG」であるが、赤リン6重量部(実施例12)では判定「OK」であるため、少なくとも赤リンの添加量を6重量部以上に限定すべきと主張する(特許異議申立書第56、57頁)。
しかしながら、本件特許明細書の実施例に記載された赤リンは必ずしも6重量部以上となるものではなく、例えば実施例13では、赤リンが3重量部であっても判定「OK」となっているから、赤リンの添加量を6重量部以上に限定すべきであるとはいえない。
そして、本件訂正により、請求項1に係る発明の赤リンは、「ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として」「3重量部?18重量部の範囲」と特定され、この特定により、本件発明の課題を解決できることを当業者が十分に認識できるものである。
また、赤リンの量は、実施例に示された量を基本にして適宜増減させることで当業者が適宜決定し得るから、請求項1?4に係る発明のものの製造は、当業者が通常行われる試行錯誤の範囲内で行うことができるものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

ウ 針状フィラーの添加量が限定されるべきこと
特許異議申立人は、本件特許明細書の表2及び表4を参照すると、針状フィラーが1重量部(比較例15)では判定「NG」であるが、針状フィラーが6重量部(実施例12)では判定「OK」となっているため、少なくとも針状フィラーの添加量を6重量部以上に限定すべきと主張する(特許異議申立書第57頁)。
しかしながら、実施例に記載された針状フィラーは必ずしも6重量部以上となるものではなく、例えば、実施例13では、針状フィラーが1.5重量部であっても判定「OK」となっているから、針状フィラーの添加量を6重量部以上に限定すべきであるとはいえない。
そして、本件訂正により、請求項1に係る発明の赤リンを除く添加剤は、「ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として」「1.5重量部?52重量部の範囲」と特定され、この特定により、本件発明の課題を解決できることを当業者が十分に認識できるものである。
また、赤リンを除く添加剤の量は、赤リンの量や選択された赤リン以外の添加剤の種類によって変化するものであり、実施例に示された量を基本にして適宜増減させることで当業者が適宜決定し得るから、請求項1?4に係る発明のものの製造は、当業者が通常行われる試行錯誤の範囲内で行うことができるものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

エ 三量化触媒について
特許異議申立人は、本件特許明細書の実施例(実施例1?19)において用いられている三量化触媒は、オクチル酸カリウム(東京化成工業社製、製品コード:P0048)、3量化触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-TR20)のみであり、三量化触媒として実施例で用いた以外の化合物を用いた場合でも、発泡後の組成物が同様の物性や難燃性等を示すことを合理的に予測することは困難であるから、請求項1?4に係る発明は、本願特許明細書において、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないと主張する(特許異議申立書第58、59頁)。
しかしながら、三量化触媒とは、イソシアヌレート環の生成を促進させる機能をもつ触媒として知られており、実施例に記載されたオクチル酸カリウム(東京化成工業社製、製品コード:P0048)、3量化触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-TR20)以外のものを用いても同様の機能を有することは、当業者であれば十分に理解できるものである。
よって、本件明細書の実施例において三量化触媒の全てについて記載されていないとしても、当業者は発明の課題を解決できると認識できるものである。
そして、請求項1?4に係る発明の記載が、本件明細書の実施例において実際に評価試験を行っていない物質を含むものであったとしても、その配合割合を適宜選択することで本件発明1?4の課題を解決できることを当業者が十分に認識できるものである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

オ まとめ
以上のことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たす。また、請求項1?4の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たす。

第6 むすび
したがって、本件発明1ないし本件発明4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1ないし本件発明4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む、難燃性ウレタン組成物であって、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備えた配管または機器用耐火性断熱被覆材。
【請求項2】
難燃性ウレタン組成物において、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、
三量化触媒が0.1?10重量部の範囲であり、
発泡剤が0.1?30重量部の範囲であり、
整泡剤が0.1重量部?10重量部の範囲である、請求項1に記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の配管または機器用耐火性断熱被覆材で被覆された配管または機器。
【請求項4】
配管または機器の外周を、ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、発泡剤、整泡剤、および添加剤を含み、前記添加剤が、赤リンと、リン酸エステル、リン酸塩含有難燃剤、臭素含有難燃剤、ホウ酸含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、金属水酸化物、および針状フィラーから選ばれる少なくとも1つとを含む難燃性ウレタン組成物であって、ポリイソシアネートおよびポリオールからなるポリウレタン樹脂組成物100重量部を基準として、添加剤が4.5重量部?70重量部の範囲であり、添加剤は、赤リンが3重量部?18重量部の範囲であり、赤リンを除く添加剤が1.5重量部?52重量部の範囲である、難燃性ウレタン組成物からなる発泡ポリウレタン断熱層を備えた配管または機器用耐火性断熱被覆材で被覆することからなる配管または機器用耐火性断熱被覆材の施工方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-18 
出願番号 特願2018-118218(P2018-118218)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (F16L)
P 1 651・ 121- YAA (F16L)
P 1 651・ 537- YAA (F16L)
P 1 651・ 113- YAA (F16L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柳本 幸雄  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 平城 俊雅
槙原 進
登録日 2019-08-09 
登録番号 特許第6568624号(P6568624)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 配管または機器用耐火性断熱被覆材  
代理人 田口 昌浩  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 田口 昌浩  

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