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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H05K
管理番号 1371708
異議申立番号 異議2020-700092  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-19 
確定日 2021-01-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6564944号発明「セラミックス回路基板、及び、セラミックス回路基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6564944号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6564944号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6564944号の請求項1ないし10に係る発明についての出願は、2017年6月8日(優先権主張 平成28年6月10日)を国際出願日とする出願であって、令和1年8月2日にその特許権が設定登録され、令和1年8月21日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 2年 2月19日:特許異議申立人茂木早苗による請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 2年 5月29日付け:取消理由通知書
令和 2年 7月28日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 8月14日付け:手続補正指令書
令和 2年 8月27日 :特許権者による手続補正書の提出
令和 2年10月28日 :特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年7月28日の訂正請求の趣旨は、特許第6564944号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
特許請求の範囲の請求項1に「前記活性金属化合物層と前記セラミックス基板との接合面積の割合が、88%以上である」と記載されているのを「前記活性金属化合物層と前記セラミックス基板との接合面積の割合が、88%以上95%以下である」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?10も同様に訂正する)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
(1)一群の請求項
本件訂正前の請求項1?10について、請求項2?10は訂正する請求項1を引用しているものであるから、請求項1?10は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。

(2)本件訂正について
ア 訂正の目的
本件訂正は、訂正前の請求項1に記載された「前記活性金属化合物層と前記セラミックス基板との接合面積の割合」について、上限が設定されていなかったものを、上限を95%と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0028】には「この接合面積に関連する割合については、当然に高ければ高いほど好ましい。現実的には、95%程度が限界であり」と記載されていることから、上限を95%とすることは明細書に記載されている事項である。
したがって、本件訂正は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

そして、本件訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 独立特許要件
(ア)請求項1ないし7に係る本件訂正について
訂正前の請求項1ないし7について特許異議の申立がされているので、訂正前の請求項1ないし7に係る本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されてない。

(イ)請求項8に係る本件訂正について
請求項1を引用する訂正後の請求項8に係る発明(以下、「訂正発明8」という。)は「銅系材料からなる銅板材の片面に、ろう材成分と活性金属とが合金化してなる活性金属ろう材をクラッドした複合材料を用意し、セラミックス基板の両面に、前記活性金属ろう材が接するように前記複合材料を配置した後、前記複合材料を加熱して前記活性金属ろう材を溶融し、前記銅板材を前記セラミックス基板の両面に接合する工程を有する、セラミックス回路基板の製造方法」を発明特定事項として含むものである。
そして、当該発明特定事項は、特許異議の申立で証拠として提出された甲第1号証(特開2013-42165号公報)及び甲第2号証(特開2003-34585号公報)に記載されておらず、訂正発明8は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
したがって、訂正発明8については、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しないから、請求項8に係る本件訂正は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。

(ウ)請求項9及び10に係る本件訂正について
訂正発明8を引用する請求項9及び10に係る本件訂正は、上記(イ)と同様な理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しないから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合する。

3 小活
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし10に係る発明(以下「本件発明1ないし10」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
セラミックス基板と、
前記セラミックス基板の一方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅回路と、
前記セラミックス基板の他方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅放熱板よりなるセラミックス回路基板において、
前記接合層は、Agを必須成分とすると共に少なくとも2種以上の金属からなるろう材成分と、少なくとも1種以上の活性金属成分とからなり、前記活性金属の含有量が、接合層全体の金属元素量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下となっており、
前記接合層は、前記ろう材成分からなるろう材層と前記活性金属を含む活性金属化合物層とからなり、前記活性金属化合物層が前記セラミックス基板との接合界面に沿って形成されており、
更に、前記接合層と前記セラミックス基板との接合面積に占める、前記活性金属化合物層と前記セラミックス基板との接合面積の割合が、88%以上95%以下であることを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項2】
ろう材成分として、Cu、Sn、In、Ni、Si、Liの少なくともいずれかを含む請求項1記載のセラミックス回路基板。
【請求項3】
活性金属として、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、V、Cr、Y、Al、Moの少なくともいずれかを含む請求項1又は請求項2記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】
活性金属化合物層の厚さが、接合層全体に対して1/40以上1/10以下である請求項1?請求項3のいずれかに記載のセラミックス回路基板。
【請求項5】
接合層の厚さは、5μm以上50μm以下である請求項1?請求項4のいずれかに記載のセラミックス回路基板。
【請求項6】
接合層は、Ag-Cu-Ti合金、Ag-Cu-Ti-Sn合金、Ag-Cu-Ti-Zr-Sn合金、Ag-Cu合金、Ag-Cu-Sn合金、Ag-Cu-Zr合金の少なくともいずれかを含む請求項1?請求項5のいずれかに記載のセラミックス回路基板。
【請求項7】
セラミックス基板は、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、ホウ化ランタン、窒化ホウ素、炭化ケイ素、グラファイトのいずれかよりなる請求項1?請求項6のいずれかに記載のセラミックス回路基板。
【請求項8】
請求項1?請求項7のいずれかに記載のセラミックス回路基板の製造方法であって、
銅系材料からなる銅板材の片面に、ろう材成分と活性金属とが合金化してなる活性金属ろう材をクラッドした複合材料を用意し、
セラミックス基板の両面に、前記活性金属ろう材が接するように前記複合材料を配置した後、
前記複合材料を加熱して前記活性金属ろう材を溶融し、前記銅板材を前記セラミックス基板の両面に接合する工程を有する、セラミックス回路基板の製造方法。
【請求項9】
活性金属ろう材は、Ag-Cu-Ti合金、Ag-Cu-Ti-Sn合金、Ag-Cu-Ti-Zr-Sn合金からなる請求項8記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項10】
セラミックス基板の一方の面に接合する複合材料は、その平面形状が回路形状となるように加工されている請求項8又は請求項9記載のセラミックス回路基板の製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和2年5月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

・請求項1ないし7
・引用文献1:特開2013-42165号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開2003-34585号公報(甲第2号証)

2 当審の判断
(1)刊行物の記載事項・引用発明
ア 引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。以下同様)。
「【0002】
近年、電動車両用インバータとして高電圧、大電流動作が可能なパワー半導体モジュール(IGBT、パワーMOSFET等)が用いられている。パワー半導体モジュールに使用される基板としては、窒化アルミニウムや窒化珪素からなる絶縁性セラミックス基板の一方の面(上面)に回路となる導電性金属板(金属回路板)を接合し、他方の面(下面)に放熱用の金属板(金属放熱板)を接合した回路基板が広く用いられている。この金属板としては、銅板またはアルミニウム板等が使用されている。そして、金属回路板の上面には、半導体素子等が搭載される。また、絶縁性セラミックス基板と金属板との接合はろう材による活性金属法や銅板を直接接合する、いわゆる銅直接接合法が採用されている。
【0003】
しかしながら、金属回路板および金属放熱板を絶縁性セラミックス基板に接合した回路基板を用いたパワー半導体モジュールにおいては、大電流を流せるように金属回路板および金属放熱板の厚さを0.5mm以上と比較的厚くしている場合がある。」

「【0018】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る回路基板は、特に異方性の強い絶縁性セラミックス基板を用いた場合に有効である。この回路基板1の平面図およびそのI-I方向における断面図が図1である。この回路基板1においては、絶縁性セラミックス基板2の一方の面に金属回路板3が、他方の面に金属放熱板4が、それぞれろう材5を介して接合されている。絶縁性セラミックス基板2としては、例えば窒化珪素セラミックスが用いられる。金属回路板3および金属放熱板4としては例えば銅が用いられる。ろう材5は、例えばTiが添加されたAg-Cu系合金に代表される活性金属であり、これを用いて金属回路板3および放熱板4は750℃程度の温度で絶縁性セラミックス基板2に接合される。なお、この回路基板1を用いた半導体モジュールは、金属回路板3上に半導体チップ(図示せず)がはんだで接続されて搭載されることによって形成される。」

「【0032】
上記の回路基板1に半導体チップを搭載して半導体モジュールが形成される。この半導体モジュールにおいては、金属回路板3と半導体チップとが例えばはんだによって接合される。この半導体モジュールは冷熱サイクルに対する高い耐久性を有する。」

上記記載(特に、【0018】参照)より、引用文献1には、回路基板1に関して、絶縁性セラミックス基板2の一方の面に金属回路板3が、他方の面に金属放熱板4が、それぞれろう材5を介して接合されており、絶縁性セラミックス基板2として窒化珪素セラミックスが用いられ、金属回路板3及び金属放熱板4として銅が用いられ、また、ろう材5が、Tiが添加されたAg-Cu系合金に代表される活性金属であることが記載されている。
したがって、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。
「窒化珪素セラミックスを用いた絶縁性セラミックス基板2の一方の面に銅を用いた金属回路板3が、他方の面に銅を用いた金属放熱板4が、それぞれろう材5を介して接合されている回路基板1であって、
前記ろう材5が、Tiが添加されたAg-Cu系合金に代表される活性金属である回路基板1。」

イ 引用文献2には、次の事項が記載されている。
「【0005】本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、窒化物系セラミックス基板と金属回路板の接合強度を高めかつ、耐熱サイクル特性をも向上させた窒化物系セラミックス部材と金属部材の接合体およびそれを用いた窒化物系セラミックス回路基板を提供するものである。」

「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明の窒化物系セラミックス部材と金属部材の接合体は、活性金属を含むろう材によって接合した接合体である。本発明の接合体の一例を図1に示す。図中、1は窒化物系セラミックス部材、2は接合層、3は金属部材である。
【0010】本発明における活性金属とはTi,Zr,Hf,Nbから選ばれた少なくとも1種である。本発明は、該活性金属を含むろう材を窒化物系セラミックス部材と金属部材の間に介して熱処理することにより作製されるものである。この熱処理後の接合体においては、窒化物系セラミックス部材側の接合界面に該活性金属窒化物相が形成されていると共に、該活性金属窒化物相中にはAg,Cu,In,Snが含まれていることを特徴とするものである。該活性金属窒化物相中にAg,Cu,In,Snが存在するか否かはEPMA分析またはTEM分析により確認することができる。接合後の接合層の一例を図2に示す。図中、4は活性金属窒化物相、5はAgとCuの混合相である。
【0011】該活性金属窒化物相中に含まれるAg,Cu,In,Snとは活性金属を含むろう材成分から供給されたものであっても良いし、窒化物系セラミックス部材中または金属部材中に含まれる金属成分であっても良いが、ろう材成分として活性金属、Ag、Cu、In、Snを含むことが好ましい。また、該活性金属窒化物相中に含まれるAg,Cu,In,Snは活性金属窒化物に固溶して活性金属窒化物との化合物を形成していても良いし、金属元素として存在していても良い。
【0012】また、窒化物系セラミックス部材としては、窒化アルミニウム焼結体または窒化珪素焼結体の少なくとも1種が好ましい。」

「【0013】金属部材としては、銅、アルミニウム、または銅合金、アルミニウム合金の少なくとも1種からなることが好ましい。」

「【0017】また、共晶点が650℃未満のSnおよびIn成分を添加していることから、接合温度を800℃以下にすることも可能となる。前述のように活性金属は窒化物系セラミックスと反応して活性金属窒化物相を形成する。このとき接合温度が800℃を超えて例えば850?900℃以上になると活性金属窒化物相が急速にできてしまう。例えば、TiN相などの活性金属窒化物相の形成は接合強度を上げるためには必要であるが、TiN相はもともと元々脆性材料であり、必ずしも強度の高いものではなかった。また、TiN相がTiN98質量%以上、さらには100%に近くなると窒化物系セラミックス、TiN相、その他のろう材成分相(AgとCuの混合相など)、金属部材の4層構造が実質的に形成されてしまい、各層の熱膨張差により耐熱サイクル特性(TCT特性)の更なる向上は見込めなかった。
【0018】そこで接合温度を800℃以下とすることにより、活性金属窒化物相中に接合ろう材成分(Ag,Cu,In,Sn)を含有させることにより、各層の熱膨張差を緩和し、耐熱サイクル特性を向上させることを可能とした。
【0019】活性金属を含むろう材ペ-ストにおいて、活性金属の含有量が0.5?7質量%が好ましい。」

「【0024】このような製造方法によれば、接合処理後の接合体の窒化物系セラミックス部材と金属部材の接合層の厚さは30μm以下となる。」

「【0026】また、上記熱処理温度を750?800℃とすると、活性金属窒化物相中にAg,Cu,Sn,Inが取り込まれ易いだけでなく、接合後のAgとCuの混合相中にSnおよびInが存在する形態となる。このような形態になると、窒化物系セラミックス部材/[活性金属窒化物相+Ag+Cu+Sn+In]/[Ag-Cu-Sn-In(場合によっては活性金属を含む)]/金属部材、の傾斜組成が実質的に形成され、共晶温度650℃未満の成分であるSnおよびInを添加する効果が得易くなる。このような窒化物系セラミックス部材と金属部材の接合体は、特に耐熱サイクル特性が優れていることから回路基板に好適である。」

「【0032】・・・また、EPMAにより確認したところ、いずれの実施例も接合層の窒化物系セラミックス側には活性金属窒化物相が形成されており、接合層は活性金属窒化物相/(AgとCuの混合相)を主相とすることが確認された。
【0033】次に、実施例1?18、比較例1および参考例3の接合体の接合強度を測定した。また、EPMAまたはTEM分析により(測定1)として活性金属窒化物相中にAg,Cu,Sn,Inが存在するか否か、(測定2)としてAgとCuの混合相中にSnおよびInが存在するか否かを確認した。また、(測定3)として(測定1)の分析の結果「活性金属窒化物相中にAg,Cu,Sn,Inが存在した」場合、活性金属窒化物相中に存在する「Ag,Cu,Sn,In」の質量%を測定し、[(Ag,Cu,Sn,Inの合計量)/[活性金属窒化物相+(Ag,Cu,Sn,Inの合計量)]]×100(%)で5質量%以上だったものを「○」、5質量%未満だったものを「△」で表示した。その結果を、表4に示す。」

「【0035】表4から分かる通り、本発明の実施例にかかる接合体は、その接合層において活性金属窒化物相中にAg,Cu,Sn,Inがすべて存在することが確認された。また、前述の健全率が95%以上のものは前記活性金属窒化物相中のAg,Cu,Sn,Inの合計量が5質量%以上であることが確認された。これにより接合層内で実質的な傾斜組成を形成することができるため耐熱サイクル特性が向上したものと言える。」

【表1】


【表4】






上記記載より、引用文献2には、窒化物系セラミックス基板と金属回路板の接合強度を高め、耐熱サイクル特性を向上させた窒化物系セラミックス回路基板を提供すること(【0005】)を課題とし、活性金属を含むろう材によって接合した、窒化物系セラミックス部材1と金属部材3の接合体が記載されている(【0009】、図1)。また、接合後の接合層2が、活性金属窒化物相4と、AgとCuの混合相5からなり、当該活性金属窒化物相4が窒化物系セラミックス部材1側の接合界面に形成されていることが記載されている(【0010】、図2)。
そして、上記ろう材における活性金属の含有量は0.5?7質量%が好ましいところ(【0019】)、実施例2では、ろう材成分として、Ag、Cu、Sn及びIn(計99wt%)と活性金属Ti(1wt%)とを含有し、金属板(金属部材3)として銅を用いている(【表1】)。
また、接合体をEPMAまたはTEM分析した結果、測定3として活性金属窒化物相4中に存在するAg、Cu、Sn及びInの合計量が5質量%未満だったものを△で表示することが記載されており(【0033】)、実施例2の当該測定項目は△であるから(【表4】)、活性金属窒化物相4中にAg、Cu、Sn及びInが5質量%未満存在する。
ここで、Ag、Cu、Sn及びInの原子量からすると、これらのモル質量は、活性金属窒化物(TiN)のモル質量より大きいから、活性金属窒化物相4中のAg、Cu、Sn及びInの合計量が5質量%未満であれば、活性金属窒化物相4中に存在するAg、Cu、Sn及びInの数は5%未満になる。また、活性金属窒化物相4は窒化物系セラミックス部材1との接合界面に形成されるものであるところ、それぞれの原子半径から見て、活性金属窒化物(TiN)の分子は、Ag、Cu、Sn及びInの原子よりも大きいから、活性金属窒化物相4中に占めるAg、Cu、Sn及びInの接合面積は5%未満になる。
そして、接合層2と窒化物系セラミックス部材1との接合面積(以下、「全接合面積」という)に占める、活性金属Tiを含む活性金属窒化物相4と窒化物系セラミックス部材1との接合面積の割合は、全接合面積からAg、Cu、Sn及びInの接合面積(5%未満)を引くと求まるから、その割合は95%より多くなる。
以上によれば、引用文献2には、窒化物系セラミックス部材と銅部材の接合体に関して、窒化物系セラミックス基板と金属回路板の接合強度を高め、耐熱サイクル特性を向上させた窒化物系セラミックス回路基板を提供するために、以下の技術事項が記載されている。
「Ag、Cu、Sn及びInを計99wt%と活性金属Tiを1wt%含有するろう材を用いることにより、接合層2が、AgとCuの混合相5と、窒化物系セラミックス部材1との接合界面に形成された活性金属窒化物相4とからなり、接合層2と窒化物系セラミックス部材1との接合面積に占める、活性金属Tiを含む活性金属窒化物相4と窒化物系セラミックス部材1との接合面積の割合が95%より多くなること。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「絶縁性セラミックス基板2」、「銅を用いた金属回路板3」、「銅を用いた金属放熱板4」及び接合後の「ろう材5」は、本件発明1の「セラミックス基板」、「銅系材料からなる銅回路」、「銅系材料からなる銅放熱板」及び「接合層」に相当する。また、引用発明の「回路基板1」は、絶縁性セラミックス基板2に金属回路板3及び金属放熱板4が接合されたものであるから、セラミックス回路基板といえる。
したがって、引用発明の「回路基板1」と本件発明1の「セラミックス回路基板」は、「セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅回路と、前記セラミックス基板の他方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅放熱板よりなる」点で共通する。

(イ)また、引用発明のろう材5の「Ti」及び「Ag-Cu系合金」は、本件発明1の「活性金属成分」及び「Agを必須成分とすると共に少なくとも2種以上の金属からなるろう材成分」に相当する。したがって、引用発明と本件発明1は「接合層」が「Agを必須成分とすると共に少なくとも2種以上の金属からなるろう材成分と、少なくとも1種以上の活性金属成分とからな」る点で共通する。
ただし、本件発明1は「前記活性金属の含有量が、接合層全体の金属元素量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下となっており、前記接合層は、前記ろう材成分からなるろう材層と前記活性金属を含む活性金属化合物層とからなり、前記活性金属化合物層が前記セラミックス基板との接合界面に沿って形成されており、更に、前記接合層と前記セラミックス基板との接合面積に占める、前記活性金属化合物層と前記セラミックス基板との接合面積の割合が、88%以上95%以下である」のに対して、引用発明はそのような旨の特定がされていない点で相違する。

(ウ)以上によれば、本件発明1と引用発明は、
「セラミックス基板と、
前記セラミックス基板の一方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅回路と、
前記セラミックス基板の他方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅放熱板よりなるセラミックス回路基板において、
前記接合層は、Agを必須成分とすると共に少なくとも2種以上の金属からなるろう材成分と、少なくとも1種以上の活性金属成分とからなることを特徴とするセラミックス回路基板。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本件発明1は「前記活性金属の含有量が、接合層全体の金属元素量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下となっており、前記接合層は、前記ろう材成分からなるろう材層と前記活性金属を含む活性金属化合物層とからなり、前記活性金属化合物層が前記セラミックス基板との接合界面に沿って形成されており、更に、前記接合層と前記セラミックス基板との接合面積に占める、前記活性金属化合物層と前記セラミックス基板との接合面積の割合が、88%以上95%以下である」のに対して、引用発明はそのような旨の特定がされていない点

イ 判断
上記相違点について検討する。
引用文献2には、Ag、Cu、Sn及びInを計99wt%と活性金属Tiを1wt%含有するろう材を用いることにより、接合層2が、AgとCuの混合相5と、窒化物系セラミックス部材1との接合界面に形成された活性金属窒化物相4とからなり、接合層2と窒化物系セラミックス部材1との接合面積に占める、活性金属Tiを含む活性金属窒化物相4と窒化物系セラミックス部材1との接合面積の割合が95%より多くなることが記載されている(上記「(1) イ」)。
そうすると、引用発明において、Tiが添加されたAg-Cu系合金に代表される活性金属であるろう材5として、引用文献2に記載されたAg、Cu、Sn及びInを計99wt%と活性金属Tiを1wt%含有するろう材を用いたとしても、活性金属化合物層とセラミックス基板との接合面積の割合が95%より多くなり、上記相違点に係る構成を得ることができない。

したがって、本件発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明できたものでない。

(3)本件発明2ないし7について
本件発明1を引用する本件発明2ないし7は、本件発明1を限定するものであるから、本件発明1と同様な理由により、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明できたものでない。

(4)まとめ
よって、取消理由通知書に記載した取消理由により、本件発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。

第5 令和2年10月28日の意見書における、特許異議申立人の主張について
1 特許法第29条第2項
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は「引用文献2には、前述の健全率が95%以上のものは活性金属窒化物相中のAg,Cu,Sn,Inの合計量が5重量%以上であり(【0035】)、好ましい結果が得られたことが記載されています。このため、引用文献2には、活性金属窒化物中のAg,Cu,Sn,Inの合計量が5重量%以上とすることへの動機付けが記載されています。」(意見書第4頁)と主張している。

(2)当審の判断
引用文献2には「本発明の実施例にかかる接合体は、その接合層において活性金属窒化物相中にAg,Cu,Sn,Inがすべて存在することが確認された。また、前述の健全率が95%以上のものは前記活性金属窒化物相中のAg,Cu,Sn,Inの合計量が5質量%以上であることが確認された。」(【0035】)と記載されているが、何れの実施例にも、活性金属窒化物相中のAg,Cu,Sn,Inの合計量について具体的に数字が記載されておらず、合計量の質量%が不明である。そうすると、活性金属化合物層とセラミックス基板との接合面積の割合についての推定もできず、接合面積の割合が88%以上となるか不明である。
したがって、引用発明において、Tiが添加されたAg-Cu系合金に代表される活性金属であるろう材5として、引用文献2に実施例として記載されたろう材を用いたとしても、回路基板1において、活性金属化合物層とセラミックス基板との接合面積の割合を、88%以上95%以下とすることは、当業者が容易に発明できたものでない。

よって、特許異議申立人の主張を採用することができない。

2 特許法第36条第6項第1号
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は「ここで、『接合』の用語に着目すると、同じ訂正後の請求項1では、『前記セラミックス基板の一方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅回路』、『前記セラミックス基板の他方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅放熱板』などが記載されています。これらの記載を踏まえると、訂正後の請求項1では、直接的か間接的かに拘わらず、異なる部材同士をつなぎ合わせることを『接合』と呼んでいるものと解釈できます。そして、この解釈に基づくと、『前記活性金属化合物層と前記セラミックス基板との接合面積』は、活性金属化合物層がセラミック基板に接触している場合の接合面積のみならず、接合層において、活性金属化合物層がセラミック基板に直接接触してない場合の接合面積を含みうると考えられます。」(意見書第2頁)として、
訂正後の請求項1及びこれを引用する請求項2ないし7に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張している。

(2)当審の判断
特許法第36条第6項第1号に係る理由は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由ではなく、特許異議の申立ての期間の終了後に提出された新たな理由であり採用することはできない。

なお、本件特許の明細書に「接合面積とは、活性金属化合物層又は接合層のそれぞれについて、セラミックス基板と接する領域の面積である。」(【0010】)と記載されているように、「接合面積」の定義は明確である。
そして、訂正後の請求項1に記載された「前記セラミックス基板の一方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅回路」は、「セラミックス基板」と「銅回路」の関係を特定するものであり、「接合面積」の解釈に影響を及ぼすものではない。また、「前記セラミックス基板の他方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅放熱板」の記載も同様である。
そうすると、訂正後の請求項1に記載された「前記活性金属化合物層と前記セラミックス基板との接合面積」は、活性金属化合物層がセラミック基板に接触している場合の接合面積であるといえる。

3 特許法第36条第4項第1号
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は「本件特許の明細書には、接合層とセラミックス基板との接合面積に占める、活性金属化合物層とセラミックス基板との接合面積の割合を高めることが困難であることが示唆されています(【0028】)。当該割合について、実施形態では、88%?92%の範囲の製造方法しか記載されていません(【表1】)。すなわち、本件特許の明細書には、当該割合を92%よりも高める方法が記載されていません。従って、本件出願の発明の詳細な説明は、当業者が、当該割合が92%?95%であるセラミック回路基板を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないと思料します。」(意見書第3頁)として、
本件特許の明細書は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張している。

(2)当審の判断
特許法第36条第4項第1号に係る理由は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由ではなく、特許異議の申立ての期間の終了後に提出された新たな理由であり採用することはできない。

なお、本件特許の明細書に「本発明者等によれば、接合層とセラミックス基板との接合面積に占める、活性金属化合物層とセラミックス基板との接合面積の割合が88%未満であると、回路基板に繰返しの熱応力負荷があったときの耐久時間が不十分となる。この接合面積に関連する割合については、当然に高ければ高いほど好ましい。現実的には、95%程度が限界であり、この上限付近ではきわめて高い耐久性が期待できる。」(【0028】)と、95%程度まで接合面積を高められることが記載されている。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と、
前記セラミックス基板の一方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅回路と、
前記セラミックス基板の他方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅放熱板よりなるセラミックス回路基板において、
前記接合層は、Agを必須成分とすると共に少なくとも2種以上の金属からなるろう材成分と、少なくとも1種以上の活性金属成分とからなり、前記活性金属の含有量が、接合層全体の金属元素量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下となっており、
前記接合層は、前記ろう材成分からなるろう材層と前記活性金属を含む活性金属化合物層とからなり、前記活性金属化合物層が前記セラミックス基板との接合界面に沿って形成されており、
更に、前記接合層と前記セラミックス基板との接合面積に占める、前記活性金属化合物層と前記セラミックス基板との接合面積の割合が、88%以上95%以下であることを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項2】
ろう材成分として、Cu、Sn、In、Ni、Si、Liの少なくともいずれかを含む請求項1記載のセラミックス回路基板。
【請求項3】
活性金属として、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、V、Cr、Y、Al、Moの少なくともいずれかを含む請求項1又は請求項2記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】
活性金属化合物層の厚さが、接合層全体に対して1/40以上1/10以下である請求項1?請求項3のいずれかに記載のセラミックス回路基板。
【請求項5】
接合層の厚さは、5μm以上50μm以下である請求項1?請求項4のいずれかに記載のセラミックス回路基板。
【請求項6】
接合層は、Ag-Cu-Ti合金、Ag-Cu-Ti-Sn合金、Ag-Cu-Ti-Zr-Sn合金、Ag-Cu合金、Ag-Cu-Sn合金、Ag-Cu-Zr合金の少なくともいずれかを含む請求項1?請求項5のいずれかに記載のセラミックス回路基板。
【請求項7】
セラミックス基板は、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、ホウ化ランタン、窒化ホウ素、炭化ケイ素、グラファイトのいずれかよりなる請求項1?請求項6のいずれかに記載のセラミックス回路基板。
【請求項8】
請求項1?請求項7のいずれかに記載のセラミックス回路基板の製造方法であって、
銅系材料からなる銅板材の片面に、ろう材成分と活性金属とが合金化してなる活性金属ろう材をクラッドした複合材料を用意し、
セラミックス基板の両面に、前記活性金属ろう材が接するように前記複合材料を配置した後、
前記複合材料を加熱して前記活性金属ろう材を溶融し、前記銅板材を前記セラミックス基板の両面に接合する工程を有する、セラミックス回路基板の製造方法。
【請求項9】
活性金属ろう材は、Ag-Cu-Ti合金、Ag-Cu-Ti-Sn合金、Ag-Cu-Ti-Zr-Sn合金からなる請求項8記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項10】
セラミックス基板の一方の面に接合する複合材料は、その平面形状が回路形状となるように加工されている請求項8又は請求項9記載のセラミックス回路基板の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-15 
出願番号 特願2018-521768(P2018-521768)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ゆずりは 広行  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 山本 章裕
須原 宏光
登録日 2019-08-02 
登録番号 特許第6564944号(P6564944)
権利者 田中貴金属工業株式会社
発明の名称 セラミックス回路基板、及び、セラミックス回路基板の製造方法  
代理人 特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ  
代理人 特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ  

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