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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D04H
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  D04H
審判 一部申し立て 2項進歩性  D04H
管理番号 1371709
異議申立番号 異議2020-700176  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-13 
確定日 2021-01-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6575523号発明「メルトブロー不織布およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6575523号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6575523号の請求項1、4、7に係る特許を維持する。 特許第6575523号の請求項2、3、5、6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯

特許第6575523号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年8月21日(優先権主張:平成26年8月27日、日本国、平成27年3月4日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和元年8月30日にその特許権の設定登録がされ、令和元年9月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和2年3月13日に特許異議申立人山内憲之(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和2年7月1日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和2年8月31日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)を行った。
なお、本件訂正請求がされたので、期間を指定して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をしたが、当該期間内に申立人からはなんら応答がなかった。

第2.本件訂正の適否についての判断

1.本件訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)?(7)のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1

本件訂正前の請求項1の
「熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる不織布であって、見掛け密度が0.1?0.4g/cm^(3)であり、かつ少なくともシート片面のKES表面粗さが1.2μm以下であることを特徴とするメルトブロー不織布。」を、
「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布であって、不織布を構成する繊維の平均単繊維径が0.1?10μmであり、前記不織布が、200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下であり、前記不織布の長手方向および幅方向の引張強力がともに44.3N/15mm以上300N/15mm以下であり、前記不織布の厚さが0.12?0.35mmであり、さらに、見掛け密度が0.1?0.4g/cm^(3)であり、かつ少なくともシート片面のKES表面粗さが0.1μm以上1.2μm以下であることを特徴とするメルトブロー不織布。」
に訂正する(請求項1を引用する請求項4及び請求項7についても、同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4

本件訂正前の請求項4の
「シート両面のKES表面粗さが1.6μm以下である請求項1?3のいずれかに記載のメルトブロー不織布。」を、
「シート両面のKES表面粗さが1.6μm以下である請求項1に記載のメルトブロー不織布。」
に訂正する(請求項4を引用する請求項7についても、同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5

特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6

特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7

本件訂正前の請求項7の
「請求項1?6のいずれかに記載のメルトブロー不織布を用いてなる不織布電池セパレータ。」を、
「請求項1または4に記載のメルトブロー不織布を用いてなる不織布電池セパレータ。」
に訂正する。

2.一群の請求項

本件訂正前の請求項1?7において、請求項2?7は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているから、本件訂正前の請求項1?7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはされていないから、本件訂正請求は、一群の請求項である訂正前の請求項1?7に対応する訂正後の請求項〔1-7〕を訂正単位とするものであり、訂正事項1?7は、一体の訂正事項として取り扱われるものである。

3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1

本件訂正前の請求項1の
「熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる不織布であって、見掛け密度が0.1?0.4g/cm^(3)であり、かつ少なくともシート片面のKES表面粗さが1.2μm以下であることを特徴とするメルトブロー不織布。」を、
「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布であって、不織布を構成する繊維の平均単繊維径が0.1?10μmであり、前記不織布が、200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下であり、前記不織布の長手方向および幅方向の引張強力がともに44.3N/15mm以上300N/15mm以下であり、前記不織布の厚さが0.12?0.35mmであり、さらに、見掛け密度が0.1?0.4g/cm^(3)であり、かつ少なくともシート片面のKES表面粗さが0.1μm以上1.2μm以下であることを特徴とするメルトブロー不織布。」
に訂正することは、主成分を「ポリフェニレンスルフィド樹脂」とし、平均単繊維径を「不織布を構成する繊維の平均単繊維径が0.1?10μm」とし、乾熱収縮率を「200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下」とし、引張強力を「不織布の長手方向および幅方向の引張強力がともに44.3N/15mm以上300N/15mm以下」とし、厚さを「厚さが0.12?0.35mm」とし、シート片面のKES表面粗さを「少なくともシート片面のKES表面粗さが0.1μm以上1.2μm以下」と技術的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

そして、訂正事項1による本件訂正は、願書に添付した明細書の以下の記載(なお、下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ア.「【0032】KES表面粗さの下限は特に定めるものではないが、製造時の加熱や加圧の強化によって不織布に歪みが発生することを防ぐため、0.1μm以上であることが好ましい態様である。」

イ.「【0034】また、本発明のメルトブロー不織布は、200℃の温度における乾熱収縮率は、2%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下である。このようにすることにより、高温環境下でも使用中の寸法変化や不織布内部の構造変化がない不織布とすることができる。また、加熱による張力緩和等で不織布が伸長する場合があり、上記同様、高温環境下での使用中の寸法変化や不織布内部の構造変化を防ぐため、乾熱収縮率は好ましくは-2%以上、より好ましくは-1%以上であり、乾熱収縮率は0%に近いことが好ましい態様である。」

ウ.「【0035】本発明のメルトブロー不織布は、不織布の長手方向および幅方向の引張強力がともに10N/15mm以上であることが好ましく、より好ましくは12N/15mm以上、さらに好ましくは14N/15mm以上とすることにより、電池に衝撃負荷がかかってもセパレータの破断や損傷が発生することを防ぐことができる。また引張強力は大きいことが好ましい態様であるが、過度に接着を強化して繊維間の融着が進行し、風合いが硬いものになることを防ぐため、引張強力は好ましくは300N/15mm以下、より好ましくは200N/15mm以下である。」

エ.「【0036】本発明のメルトブロー不織布は、不織布を構成する繊維の平均単繊維径が0.1?10μmであることが好ましい。平均単繊維径を好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、さらに好ましくは6μm以下とすることにより、不織布の目付の均一性を向上させ、捕集効率に優れるフィルターとすることができる。また、電池セパレータとして使用する際にはピンホールの発生を防ぎ、かつ部分的に電気抵抗が増加することを防ぐことができる。」

オ.「【0038】本発明のメルトブロー不織布は、不織布の厚さが0.12?0.35mmであることが好ましい。不織布の厚さを好ましくは0.35mm以下、より好ましくは0.32mm以下、さらに好ましくは0.30mm以下とすることにより、電池の内部抵抗の増加を抑えるとともに、電池内部でセパレータが電極を強く圧迫することを抑制し、電池に衝撃負荷がかかった際に電極を損傷することを防ぐことができる。また、厚さを好ましくは0.12mm以上、より好ましくは0.14mm以上、さらに好ましくは0.18mm以上とすることにより、セパレータと電極の密着性を向上させ、高温下で長時間使用しても保液性を維持することができる。」

カ.「【0054】これらの中でも、ポリフェニレンスルフィド樹脂およびポリエステル樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂は、繊維の曳糸性に優れている一方、製布後の不織ウェブは熱寸法安定性が非常に低いという課題があるが、本発明のメルトブロー不織布の製造方法を用いることにより熱寸法安定性を付与することでき、高温下での使用が可能となる好ましい態様の一例である。」

キ.「【0091】(不織布の物性)熱処理後の不織布の見掛け密度は0.24g/cm^(3)であり、引張強力はタテ方向が60.2N/15mmで、ヨコ方向が44.3N/15mmであり、通気量は3.8cc/cm^(2)/秒であり、表面粗さは非捕集ネット面が1.17μmで、捕集ネット面が1.36μmであった。また、学振型摩擦試験の前後で試験片の表面状態に変化は見られなかった。」

(2)訂正事項2

訂正事項2による訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項2による本件訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3

訂正事項3による訂正は、請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項3による本件訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4

訂正事項4は、本件訂正前の請求項4が本件訂正前の請求項1?3のいずれか一項を引用するものであったところ、上記訂正事項2及び3に係る訂正に伴い、引用する請求項を削除するものであるとともに、請求項4と、請求項4が引用する他の請求項との関係を整理するものであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

そして、訂正事項4による本件訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項5

訂正事項5による訂正は、請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項5による本件訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項6

訂正事項6による訂正は、請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項6による本件訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(7)訂正事項7

訂正事項7は、本件訂正前の請求項7が本件訂正前の請求項1?6のいずれか一項を引用するものであったところ、上記訂正事項2、3、5及び6に係る訂正に伴い、引用する請求項を削除するものであるとともに、請求項7と、請求項7が引用する他の請求項との関係を整理するものであるから、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

そして、訂正事項7による本件訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

4.小括

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。

第3.訂正後の本件発明

本件訂正請求により訂正された請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

[本件発明1]
「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布であって、不織布を構成する繊維の平均単繊維径が0.1?10μmであり、前記不織布が、200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下であり、前記不織布の長手方向および幅方向の引張強力がともに44.3N/15mm以上300N/15mm以下であり、前記不織布の厚さが0.12?0.35mmであり、さらに、見掛け密度が0.1?0.4g/cm^(3)であり、かつ少なくともシート片面のKES表面粗さが0.1μm以上1.2μm以下であることを特徴とするメルトブロー不織布。」

[本件発明2]
「(削除)」

[本件発明3]
「(削除)」

[本件発明4]
「シート両面のKES表面粗さが1.6μm以下である請求項1に記載のメルトブロー不織布。」

[本件発明5]
「(削除)」

[本件発明6]
「(削除)」

[本件発明7]
「請求項1または4に記載のメルトブロー不織布を用いてなる不織布電池セパレータ。」

第4.取消理由通知に記載した取消理由について

1.取消理由の概要

訂正前の請求項1?7に係る特許に対して、当審が令和2年7月1日付けで、特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)本件特許は、特許請求の範囲が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

<引用例>
引用例1:特開2008-81893号公報(甲第2号証)
引用例2:特開平10-325059号公報(当審で新たに示す引用例)
引用例3:特開平2-87460号公報(甲第7号証)

2.当審の判断

(1)特許法第36条第6項第1号について

ア.「熱処理による通気量の極端な低下を発生させることな」いという点について

本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「通気量」の具体的な測定方法として、段落【0078】に「(12)不織布の通気量(cc/cm^(2)/秒):JIS L1913(2010年)フラジール形法に準じて、15cm角にカットした繊維シート10枚を、テクステスト社製の通気性試験機FX3300を用いて、試験圧力125Paで測定した。得られた値の平均値から、小数点以下第二位を四捨五入して通気量とした。」と記載されている。
そして、具体的な実施例及び比較例として、段落【0083】?【0097】、【0108】?【0111】、【0112】の【表1】に、実施例1のメルトブロー不織布の樹脂の主成分がポリフェニレンスルフィドであり、厚さが0.27mmであり、見かけ密度が0.30g/cm^(3)であり、通気量が14.1cc/cm^(2)/秒である点が、実施例2のメルトブロー不織布の樹脂の主成分がポリフェニレンスルフィドであり、厚さが0.22mmであり、見かけ密度が0.36g/cm^(3)であり、通気量が13.2cc/cm^(2)/秒である点が、実施例3のメルトブロー不織布の樹脂の主成分がポリフェニレンスルフィドであり、厚さが0.85mmであり、見かけ密度が0.24g/cm^(3)であり、通気量が3.8cc/cm^(2)/秒である点が、実施例4のメルトブロー不織布の樹脂の主成分がポリフェニレンスルフィドであり、厚さが0.27mmであり、見かけ密度が0.30g/cm^(3)であり、通気量が15.5cc/cm^(2)/秒である点が、実施例5のメルトブロー不織布の樹脂の主成分がポリエチレンテレフタレートであり、厚さが0.36mmであり、見かけ密度が0.36g/cm^(3)であり、通気量が11.0cc/cm^(2)/秒である点が、比較例1のメルトブロー不織布の樹脂の主成分がポリフェニレンスルフィドであり、厚さが0.37mmであり、見かけ密度が0.22g/cm^(3)であり、通気量が18.4cc/cm^(2)/秒である点が、比較例4のメルトブロー不織布の樹脂の主成分がポリフェニレンスルフィドであり、厚さが0.10mmであり、見かけ密度が0.80g/cm^(3)であり、通気量が3.1cc/cm^(2)/秒である点がそれぞれ記載されており、段落【0115】には、「本発明のメルトブロー不織布は、・・・比較例4のカレンダー加工を施した不織布と比較して通気量が高かった。」点が記載されている。
上記各実施例及び比較例からは、確かに、「見かけ密度」が比較例4よりも小さい実施例1?5が、比較例4よりも通気量が高いことがわかる。しかしながら、上記段落【0078】に記載された測定方法を考慮すれば、メルトブロー不織布の「通気量」は、単に「見かけ密度」だけでなく、不織布の「厚さ」や繊維の「繊維径」も影響するものであることは本件特許出願の優先権主張の日より前において技術常識であり、このことは、本件特許明細書において、例えば主成分がポリフェニレンスルフィドである点で共通する一方で、見かけ密度が他の実施例1,2,4より小さいにも関わらず、不織布の厚さと繊維の平均繊維径とが他の実施例1,2,4よりも大きい実施例3が、他の実施例1,2,4と比較して通気量の値が小さくなっていることからも明らかである。
また、メルトブロー不織布の「見かけ密度」が同じでも、樹脂の成分が異なれば樹脂自体の比重も異なり、結果として「通気量」が異なることも本件特許出願の優先権主張の日より前において技術常識であり、このことは、本件特許明細書において、例えば厚さと見かけ密度がほぼ等しい一方で、主成分がポリエチレンテレフタレートとポリフェニレンスルフィドとで異なる実施例5と比較例1とで、通気量の値が異なっていることからも明らかである。
そうすると、「熱処理による通気量の極端な低下を発生させる」という課題を解決するためには、単にメルトブロー不織布の見かけ密度の数値範囲だけでなく、不織布を構成する繊維の具体的な主成分に応じて、見かけ密度、不織布の厚さ、及び繊維の繊維径を特定することが必要であると認められるところ、本件発明1、4及び7は、本件訂正により、不織布を構成する繊維の具体的な主成分として「ポリフェニレンスルフィド樹脂」を特定すると共に、不織布を構成する繊維の平均単繊維径として「0.1?10μm」、200℃の温度における乾熱収縮率として「2%以下」、不織布の長手方向及び幅方向の引張強力として「ともに44.3N/15mm以上300N/15mm以下」、不織布の厚さとして「0.12?0.35mm」、シート片面のKES表面粗さとして「0.1μm以上1.2μm以下」を特定するものとなった。

イ.「熱寸法安定性に優れた」という点について

本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落【0112】の【表1】において、実施例1?5の熱収縮率が「0」%である点が、段落【0143】の【表3】には、実施例6?10の乾熱収縮率が「0」%であり、比較例5の乾熱収縮率が「80」%である点が記載されており、段落【0146】には、「本発明のメルトブロー不織布は、比較例5の熱処理を施していない不織布と比較して熱寸法安定性に優れて」いる点が記載されている。
一方、本件訂正前の請求項2において、「200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下である」点が特定されているものの、本件訂正前の請求項1、及び本件訂正前の請求項2を引用しない本件訂正前の請求項3?7においては、熱収縮率の上限値については特段特定されていないから、例えば本件特許明細書の「比較例5」のような熱寸法安定性に優れていないものを含み得るものであった。
そうすると、本件訂正前の請求項1及び本件訂正前の請求項2を引用しない本件訂正前の請求項3?7に係る発明は、「熱寸法安定性に優れた」という課題を解決できないものを含むことが明らかであったところ、本件訂正により、本件発明1、4及び7は、200℃の温度における乾熱収縮率として「2%以下」を特定するものとなった。

以上より、本件発明1、4及び7は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものではない。

ウ.小括

以上のとおり、本件発明1、4及び7は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、訂正特許請求の範囲の請求項1、4及び7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。

(2)特許法第29条第2項について

ア.引用例の記載

(ア)引用例1には、以下の事項が記載されている。

a.「【請求項1】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる耐熱性メルトブロー不織布であって、平均繊維径が1?20μm、目付が5?120g/m^(2)、通気度が1?400cc/cm^(2)/sec、厚みが0.05?1.0mm、引張強度が2?50N/25mm及び引張伸度が1?100%である物性を有することを特徴とするメルトブロー不織布。」

b.「【請求項4】
請求項1又は2に記載のメルトブロー不織布を用いてなることを特徴とする耐熱性及び引張強度に優れる電池セパレータ。」

c.「【0014】
2.ポリエーテルエーテルケトン製のメルトブロー不織布
本発明のポリエーテルエーテルケトン製の不織布は、メルトブロー法によって得られるメルトブロー不織布である。
メルトブロー法として、公知(例えば、特許文献1参照。)の方法、すなわち、熱可塑性樹脂(例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂、PPS)を単軸押出機で溶融し、・・・。」

d.「【0029】
(1)目付:試料長さ方向から、100×100mmの試験片を採取し、水分平衡状態の重さを測定し、1m^(2)当たりの目付重量に換算して求めた。
(2)厚み:試料長さ方向より、100×100mmの試験片を採取し、ダイヤルシックネスゲージで測定した。
(3)通気度:試料長さ方向から、100×100mmの試験片を採取し、JIS L1096「一般織物試験方法」の「通気性A法(フラジール形法)」に準拠し、フラジール型試験機を用いて測定した。
(4)最大孔径:ASTM E128に準拠し、常盤製作所製ポアーサイズ試験機を用いて測定した。試験容器に試料を設置し、その上側にエタノールを満たし、下側より0.4kg/cm^(2)Gの空気圧を与え、エタノール中に気泡の発生する圧力を求め、予め標準試料で求めた検量線から孔径に換算した。
(5)引張強度、引張伸度:JIS L1085「不織布しん地試験方法」の「引張強さ及び伸び率」に準拠し、つかみ間隔100mm、引張速度300mm/分にて測定した。
(6)繊維径:試験片の任意な5箇所を電子顕微鏡で5枚の写真撮影を行い、1枚の写真につき20本の繊維の直径を測定し、これら5枚の写真について行い、合計100本の繊維径を平均して求めた。
(7)寸法変化率:20cm角の不織布試料の中心及び端に10cmの線を引き、200℃に設定したオーブンで5分間加熱後、線長を測定し、その変化率は、100%の場合は、熱収縮が起きていないことを表す。
(8)製造時の切れ:巻取りの際に不織布が切れてしまうかどうかを表す。」

e.「【0034】
【表1】



以上を総合し、特に段落【0034】【表1】の実施例2に注目すると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなるメルトブロー不織布であって、メルトブロー不織布を構成する繊維の平均繊維径が6.8μmであり、200℃に設定したオーブンで5分間加熱後の寸法変化率が100%であり熱収縮が起きておらず、引張強度が41.4N/25mmであり、厚みが170μmであり、目付が50.1g/m^(2)であるメルトブロー不織布、及び当該メルトブロー不織布を用いた電池セパレータ。」

(イ)引用例2には、以下の事項が記載されている。

a.「【0002】
【従来の技術】従来から、様々な不織布が提案されているが、表面が十分に平滑な不織布は提案されていない。この表面の平滑性が不十分な不織布は他の素材との密着性が悪いため、他の素材との複合化する場合に問題のあることがあった。また、例えば、不織布を角型電池のセパレータとして使用する場合には、電極を不織布と接触させ、滑らせながら挿入して角型電池を製造するが、不織布表面の平滑性が不十分であると、電極が不織布に引っ掛かって挿入性が悪く、しかも不織布を損傷してしまうという問題があるように、表面の平滑性が不十分な不織布は他の素材との接触移動性が悪いという問題があった。」

b.「【0006】
【発明の実施の形態】本発明の不織布は少なくとも片表面における表面粗さが4.5μm以下と、表面の平滑性に優れている。そのため、他の素材との密着性や接触移動性に優れている。この表面粗さとは厚さの平均偏差のことであり、カトーテック(株)製のKES-FB4により測定することができる。好ましい表面粗さは4μm以下であり、より好ましい表面粗さは3.5μm以下であり、更に好ましい表面粗さは3μm以下であり、最も好ましい表面粗さは2.5μm以下である。なお、KES-FB4による測定は、接触子として0.5mm径のピアノ線を用い、0.1cm/秒の速度で2cm移動させて行う。」

以上を総合し、引用例2には、以下の記載事項(以下、「引用例2記載事項」という。)が記載されている。

「不織布を角型電池のセパレータとして使用する場合に、不織布表面の平滑性が不十分であると、電極が不織布に引っ掛かって挿入性が悪く、しかも不織布を損傷してしまうという問題があることから、不織布の少なくとも片表面における、カトーテック(株)製のKES-FB4により測定される表面粗さを、最も好ましくは2.5μm以下とすることで、表面の平滑性に優れているものとした点。」

(ウ)引用例3には、以下の事項が記載されている。

a.「【特許請求の範囲】
(1)合成繊維の不織布からなる電池セパレーターであり、該合成繊維は、少なくともその表面が改質されていて該繊維表面に高分子鎖と結合した酸素含有官能基及び/または窒素含有官能基を有し、かつ該官能基の表面密度がX線照射による電子分光法(ESCA)による測定で求められる原子数比O_(1s)/C_(1s)、N_(1s)/C_(1s)の少なくとも一方の値において非改質物よりも0.02以上増加してなることを特徴とする電池セパレーター。
(2)合成繊維の平均繊維径が5μm以下であることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載の電池セパレーター。
(3)不織布がバインダーを含まないものであることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載の電池セパレーター。
(4)不織布がメルトブロー法によって製造されたものであることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載の電池セパレーター。
(5)不織布がポリエステル繊維からなることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載の電池セパレーター。
(6)不織布がポリアミド繊維からなることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載の電池セパレーター。
(7)不織布が含イオウ高分子繊維からなることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載の電池セパレーター。
(8)繊維表面の酸素含有官能基及び/または窒素含有官能基が、プラズマ処理によって生成されてなることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載の電池セパレーター。」

b.「該不織布を構成する繊維に用いられる素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン等の含イオウ高分子などを用いることができるが、特にポリエステル、ポリアミド、含イオウ高分子を用いることが本発明の効果も大きいことから好ましい。」(3ページ左下欄9?17行)

以上を総合し、引用例3には、以下の事項(以下、「引用例3記載事項」という。)が記載されている。

「合成繊維の不織布からなる電池セパレーターにおいて、不織布をメルトブロー法によって製造されたものとすること、及び不織布を構成する繊維に用いられる素材として、ポリエステルやポリフェニレンスルフィドなどを用いることができること。」

イ.本件発明1について

(ア)対比

本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「メルトブロー不織布」は、本件発明1の「不織布」、「メルトブロー不織布」に相当し、引用発明1の「ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる耐熱性メルトブロー不織布」は、「樹脂からなるメルトブロー不織布」の限りにおいて、本件発明1の「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布」と一致する。
そして、引用発明1の「平均繊維径が6.8μm」は、本件発明1の「平均単繊維径が0.1?10μm」の範囲内にあり、以下同様に、「200℃に設定したオーブンで5分間加熱後の寸法変化率が100%であり熱収縮が起きておらず」は、乾熱収縮率が0%であると解されるから、「200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下」の範囲内に、「厚みが170μm」は、換算すると0.17mmであるから、「厚さが0.12?0.35mm」の範囲内に、「目付が50.1g/m^(2)」は、厚み170μmと共に換算すると0.29g/cm^(3)であるから、「見掛け密度が0.1?0.4g/cm^(3)」の範囲内にある。

よって、本件発明1と引用発明1は以下の点で一致する。

「樹脂からなる不織布を構成する繊維の平均単繊維径が0.1?10μmであり、前記不織布が、200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下であり、前記不織布の厚さが0.12?0.35mmであり、さらに、見掛け密度が0.1?0.4g/cm^(3)であるメルトブロー不織布。」

そして、本件発明1と引用発明1は、以下の点で相違する。

<相違点1>

樹脂からなるメルトブルー不織布について、本件発明1は、「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする」のに対し、引用発明1は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる点。

<相違点2>

不織布の引張強力について、本件発明1は、「長手方向および幅方向の引張強力がともに44.3N/15mm以上300N/15mm以下」であるのに対し、引用発明1は、41.4N/25mmであり、引張りの方向が明らかではなく、試験片の幅が異なる点。

<相違点3>

本件発明1は、「少なくともシート片面のKES表面粗さが0.1μm以上1.2μm以下である」のに対し、引用発明1は、そのように特定されていない点。

(イ)相違点についての検討

<相違点1>について検討する。

引用例1には、上記の第4.2.(2)ア.(ア)に示した事項に加えて、以下の事項が記載されている。

a.「【背景技術】
【0002】
従来から、ポリオレフィン、特にポリプロピレンのメルトブロー不織布は、その特性を生かし、各種のフィルター濾材や、電池用セパレータ、電解コンデンサー用セパレータ、キャパシター用セパレータ等に使用されている。特にリチウム電池(一次、二次)においては、有機溶媒に不溶で電解質や電極活物質に安定なセパレータとして多用されている。
しかしながら、一般に、電池内部および外部で短絡が起きた場合、大電流が放電され、それによりジュール熱や化学反応熱により、セパレータが熱溶融したり破損したりして、正負電極が直接ショートする結果、内部ショートが拡大し、多量の熱を周囲に放出し、多量のガスが噴出する恐れがあるという問題があった。このような問題点を解決するためには、イオンが通らなくすることによって電流を遮断する機能であるシャットダウン機能や、セパレータ自身の収縮や溶融しない機能を有することが望まれていた。
このような観点から、従来からセパレータとして用いられているポリプロピレンのメルトブロー不織布は、ポリプロピレンの融点が160?180℃程度であるため、高温での長時間使用において、セパレータの溶解による短絡がおこりやすかった。」

b.「【0004】
このような耐熱性に優れ、高温での処理が可能な電池セパレータとして、ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いたメルトブロー不織布が提案され(例えば、特許文献1?3参照。)、高温下における非溶融性電池セパレータなどとして、種々の電池に用いられるようになってきている。
また、ポリフェニレンスルフィド樹脂以外の耐熱性樹脂を用いたメルトブロー不織布として、特定のポリアミドからなるメルトブロー不織布が提案され(例えば、特許文献4、5参照。)、さらに、ポリメチルペンテンのメルトブロー不織布も提案されている(例えば、特許文献6参照。)
【0005】
しかしながら、例えば、ポリフェニレンスルフィド不織布のセパレータは、融点が250?280℃程度であり、鉛フリーはんだリフロー処理においては、セパレータの溶解による短絡が懸念されている。
そのため、鉛フリーはんだリフロー処理の際にも、処理が十分可能な、耐熱性に優れたメルトブロー不織布からなる電池セパレータが強く求められている。・・・。
【0006】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、鉛フリーはんだリフロー処理しても、セパレータが融解または破損せず、電極がショートすることなく、薄膜化に充分対応できる上、耐熱性及び引張強度に優れた、ポリエーテルエーテルケトン樹脂のメルトブロー不織布を用いた電池セパレータ及びその製造方法を提供することにある。」

c.「【0014】
・・・。メルトブロー法として、公知(例えば、特許文献1参照。)の方法、すなわち、熱可塑性樹脂(例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂、PPS)を単軸押出機で溶融し、・・・。」

d.「【0035】
表1から明らかなように、本発明のポリエーテルエーテルケトン製のメルトブロー不織布は、従来のPPS不織布に比べて、引張強度に優れた電池セパレータにすることができる。・・・。」

上記の記載を鑑みれば、引用発明1では、従来のポリフェニレンスルフィド不織布を用いたセパレータにおいて有していた、鉛フリーはんだリフロー処理において発生するセパレータの溶解という課題を解決するために、不織布の素材としてポリフェニレンスルフィド樹脂に代えてポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いるものであるから、引用発明1は、メルトブロー不織布を構成する繊維について、ポリエーテルエーテルケトン樹脂に代えてポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることに阻害事由がある。
そうすると、仮に、引用例3記載事項が本件特許の出願前に周知であったとしても、引用発明1において上記阻害事由があるから、引用発明1において、<相違点1>に係る本件発明1の構成とすることが容易になし得るものであるとはいえない。

そして本件発明1は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布において、不織布を構成する繊維の平均単繊維径、200℃の温度における乾熱収縮率、長手方向及び幅方向の引張強力、厚さ、見掛け密度、KES表面粗さを特定することにより、
「熱処理による通気量の極端な低下を発生させることなく、高温下での使用においても熱収縮がなく、地合が良好で波打ちや表面凹凸のないメルトブロー不織布を得ることができ、また、本発明のメルトブロー不織布は、表面の耐摩耗性やダスト払い落し性および逆洗性に優れており、電池セパレータやフィルター等の産業用途への利用が可能となる。」(段落【0028】)
という格別の作用効果を奏するものである。

したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

ウ.本件発明2、3、5、6について

本件発明2、3、5、6は、本件訂正により削除されたので、本件発明2、3、5、6に係る特許異議の申立ては却下されるべきものである。

エ.本件発明4及び7について

本件発明4及び7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様の理由から、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

オ.小括

以上のとおり、本件発明1、4及び7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、訂正特許請求の範囲の請求項1、4及び7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。

第5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

<甲号証一覧>
甲第1号証:特開2014-47449号公報
甲第2号証:特開2008-81893号公報
甲第3号証:特開2006-249119号公報
甲第4号証:特開2009-844号公報
甲第5号証:国際公開第2014/046094号パンフレット
甲第6号証:特開平7-279024号公報
甲第7号証:特開平2-87460号公報
甲第8号証:特開2004-348984号公報
甲第9号証:特開2006-161235号公報
甲第10号証:特開2005-120535号公報
甲第12号証:特開平6-158504号公報
以下、甲第1号証等を「甲1」等という。

1.申立人の主張する申立理由のうち、取消理由として採用しなかった理由

(1)甲1を主たる引用例とした場合

ア.理由1-1(特許法第29条第1項第3号)
本件訂正前の請求項1、2、4?6に係る発明は、甲1に記載された発明(以下、「甲1発明」という。以下同様。)であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明である。

イ.理由1-2(特許法第29条第2項)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は、甲1発明及び甲2?10、12発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。

(2)甲3を主たる引用例とした場合

ア.理由3-1(特許法第29条第1項第3号)
本件訂正前の請求項1?3、5に係る発明は、甲3発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明である。

イ.理由3-2(特許法第29条第2項)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は、甲3発明及び甲1、2、4?10、12発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。

(3)甲4を主たる引用例とした場合

ア.理由4-1(特許法第29条第1項第3号)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲4発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明である。

イ.理由4-2(特許法第29条第2項)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は、甲4発明及び甲1?3、5?10、12発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。

(4)甲5を主たる引用例とした場合

ア.理由5-1(特許法第29条第1項第3号)
本件訂正前の請求項1?4、6?7に係る発明は、甲5発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明である。

イ.理由5-2(特許法第29条第2項)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は、甲5発明及び甲1?4、6?10、12発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。

(5)甲6を主たる引用例とした場合

ア.理由6-1(特許法第29条第1項第3号)
本件訂正前の請求項1、4、5、7に係る発明は、甲6発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明である。

イ.理由6-2(特許法第29条第2項)
本件訂正前の請求項1?7に係る発明は、甲6発明及び甲1?5、7?10、12発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。

2.上記主張についての検討

(1)理由1-1(特許法第29条第1項第3号)について

ア.甲1の記載

(ア)「【請求項1】
不織布を含む吸音材であって、該不織布が、連続繊維で構成され、かつ下記要件を全て満足することを特徴とする吸音材。
(a)不織布の表面粗さRaが20μm以下
(b)不織布を構成する連続繊維の平均繊維直径が0.1?5μm
(c)不織布の平均見掛け密度が0.13?1.24g/cm^(3)
(d)不織布の空隙率が10?90%」

(イ)「【0011】
以下、(a)?(d)の各要件について詳述する。本発明においては、(a)不織布の表面粗さRaが20μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下であることが肝要である。本発明は、不織布の表面粗さRaを20μm以下とすることで、不織布表面での音波の乱反射を抑制する一方、反射せずに透過する音波の割合を高め、効果的に音を不織布内に閉じ込め音を減衰させることができ、高い吸音性の実現できることを見出したものである。よって、該表面粗さRaが20μmより大きいと吸音性能が低下し好ましくない。一方、表面粗さRaはあまり低すぎても、気体の通過する連続孔の量が低減し、吸音性能が低下するため、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μ以上、さらに好ましくは3μ以上である。
【0012】
また、本発明においては、(b)不織布を構成する連続繊維の平均繊維直径が0.1?5μmであり、好ましくは0.3?4μm、より好ましくは0.4?3μm、さらに好ましくは0.6?3μmである。平均繊維直径が0.1μm未満の場合は、得られる不織布の強力が小さく、破損し易くなる。一方、平均繊維直径が5μmを超える場合は、不織布を構成する繊維の比表面積が小さくなり、目的とする吸音性能が得られなくなってしまう。また、本発明においては、平均繊維直径を上記範囲とし、不織布にカレンダー加工等を行い、表面粗さを前記のようにコントロールすることが容易になる。これにより、表面粗さの適正化により音を封じ込める効果と繊維の比表面積が向上していることの効果が相まって、高い吸音特性を発揮することができる。なお、本発明の不織布を構成する繊維の平均繊維直径は、不織布の電子顕微鏡写真で確認することのできる繊維の直径を意味し、具体的には100本の繊維の巾を計測して得ることができる。
【0013】
本発明においては、(c)不織布の見かけ密度が0.14?1.24g/cm^(3)であり、好ましくは0.21?1.1g/cm^(3)、より好ましくは0.27?0.97g/cm^(3)である。不織布の見掛け密度が0.14g/cm^(3)未満では、外圧がかかった時に、厚みの低下し易い傾向にあり、取扱い性が悪い。一方、不織布の見掛け密度が1.24g/cm^(3)を越えると、所望の厚みを得るのに、繊維集積量を多くする必要があり、硬くなって、吸音材を設置するときの柔軟性に欠け、また、不経済である。」

(ウ)「【0017】
本発明に使用する不織布の200℃での乾熱収縮率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1.75%以下、さらに好ましくは1.5%以下である。これは、乾熱収縮率が2%より大きいと、高温で使用される環境下においてもシワの発生が起こり易く、吸音材として用いた場合、吸音性能が低下する傾向にある。
【0018】
本発明に用いる連続繊維としては、・・・ポリフェニレンサルファイド繊維、・・・等を挙げることができ、これらの一種を、又は二種以上を組み合わせて使用することができる。・・・。
【0019】
本発明に用いる不織布は、目付が、好ましくは300g/m^(2)以下、より好ましくは200g/m^(2)以下、さらに好ましくは180g/m^(2)以下、厚みが、好ましくは10mm以下、好ましくは5mm以下、さらに好ましくは1mm以下、特に好ましくは0.5mm以下の吸音材としたときその性能を顕著に発揮し、かかる薄い吸音材であるにも関わらず、高い吸音特性を達成することができる。但し、不織布が薄すぎても十分な空隙率を確保することができないため吸音性能が低下し、かつ取扱い性も悪くなる傾向にあり、不織布の目付は、好ましくは5g/m^(2)以上、より好ましくは10g/m^(2)以上、さらに好ましくは5g/m^(2)以上であり、厚みは、好ましくは0.010mm以上、より好ましくは0.050mm以上、さらに好ましくは0.10mm以上である。」
【0020】
本発明の吸音材として使用される不織布の製造方法については、例えば有機繊維を用いる場合、メルトブローン法、そのポリマー溶液の紡糸によって得ることができる。その好適な製造方法としては、メルトブロー法、有機ポリマー溶液をバーストさせ細繊化する爆裂紡糸技術(WO02/052070記載)や、特開2005-200779号公報のエレクトロスピニング法などが挙げられる。また、アラミドなどの耐熱性ポリマーを使用する場合、溶融性ポリマーで行われているメルトブローン技術を改良した、効果的に細繊化する技術(US6013223)が、本発明の不織布を製造するのに適用できる。本製造方法によれば、ポリマー溶液を吐出させる紡糸装置のノズルの同心円上に設置された圧空吐出孔から圧空を吐出させて、ポリマー溶液を伸張し細化させるが、このノズルの孔径を変更することにより、構成する繊維の繊維径を調整することができる。・・・。」

以上を総合し、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。

「ポリフェニレンサルファイド繊維一種からなる不織布であって、不織布を構成する連続繊維の平均繊維直径が0.1?5μmであり、好ましくは0.3?4μm、より好ましくは0.4?3μm、さらに好ましくは0.6?3μmであり、不織布の200℃での乾熱収縮率は好ましくは2%以下、より好ましくは1.75%以下、さらに好ましくは1.5%以下であり、不織布の厚みは好ましくは0.010mm以上、より好ましくは0.050mm以上、さらに好ましくは0.10mm以上であり、見かけ密度が0.14?1.24g/cm^(3)であり、好ましくは0.21?1.1g/cm^(3)、より好ましくは0.27?0.97g/cm^(3)であり、不織布の表面粗さRaが20μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下であって、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μ以上、さらに好ましくは3μ以上であることを特徴とするメルトブロー法により製造される不織布。」

イ.本件発明1について

訂正前の請求項3は、甲1を主たる引用例として特許法第29条第1項第3号の申立てがされたものではない。
そして、本件発明1は、本件訂正により、本件訂正前の請求項3に係る発明を技術的に限定した発明であるから、甲1を主たる引用例として特許法第29条第1項第3号に該当する旨の申立てがされたものではない。

以下、念のため、検討する。

(ア)対比

本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ポリフェニレンサルファイド繊維一種からなる不織布」は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とするものであると認められるから、本件発明1の「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布」に相当し、甲1発明は、段落【0020】を参照すると、ポリマー溶液を吐出させる紡糸装置のノズルの同心円上に設置された圧空吐出孔から圧空を吐出させて、ポリマー溶液を伸張し細化させるものであり、当該製造方法による繊維は単繊維であると認められるから、甲1発明の「平均繊維直径」は、本件発明1の「平均単繊維径」に相当し、以下同様に、「200℃での乾熱収縮率は2%以下」は「200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下」に、「見かけ密度」は「見掛け密度」に、「メルトブロー法により製造される不織布」は「メルトブロー不織布」にそれぞれ相当する。
そして、甲1発明の「平均繊維直径が0.1?5μmであり、好ましくは0.3?4μm、より好ましくは0.4?3μm、さらに好ましくは0.6?3μm」は、本件発明1の「0.1?10μm」の範囲内にある。

よって、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致する。

<一致点1>

「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布であって、不織布を構成する繊維の平均単繊維径が0.1?10μmであり、前記不織布が、200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下であるメルトブロー不織布。」

そして、本件発明1と甲1発明は、以下の点で相違する。

<相違点1-1>

本件発明1は、「前記不織布の長手方向および幅方向の引張強力がともに44.3N/15mm以上300N/15mm以下」であるのに対し、甲1発明は、明らかでない点。

<相違点1-2>

不織布の厚さについて、本件発明1は、「0.12?0.35mm」であるのに対し、甲1発明は、好ましくは0.010mm以上、より好ましくは0.050mm以上、さらに好ましくは0.10mm以上である点。

<相違点1-3>

見掛け密度について、本件発明1は、「0.1?0.4g/cm^(3)」であるのに対し、甲1発明は、0.14?1.24g/cm^(3)であり、好ましくは0.21?1.1g/cm^(3)、より好ましくは0.27?0.97g/cm^(3)である点。

<相違点1-4>

本件発明1は、「少なくともシート片面のKES表面粗さが0.1μm以上1.2μm以下」であるのに対し、甲1発明は、不明である点。

(イ)相違点についての検討

少なくとも<相違点1-1>及び<相違点1-4>は、形式的な相違点ではなく明らかに実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1発明ではない。

ウ.本件発明2、3、5、6について

本件発明2、3、5、6は、本件訂正により削除されたので、本件発明2、3、5、6に係る特許異議の申立ては却下されるべきものである。

エ.本件発明4及び7について

本件発明4及び7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明4及び7と甲1発明とを対比すると、少なくとも<相違点1-1>?<相違点1-4>で相違する。
よって、本件発明4及び7は、甲1発明ではない。

(2)理由1-2(特許法第29条第2項)について

ア.甲1の記載

甲1に記載された事項、及び甲1発明については、上記第5.2.(1)ア.で述べたとおりである。

イ.本件発明1について

(ア)対比

上記第5.2.(1)イ.(ア)のとおり、本件発明1と甲1発明は<一致点1>で一致し、<相違点1-1>?<相違点1-4>で相違するものである。

(イ)相違点についての検討

事案に鑑み、まず<相違点1-1>及び<相違点1-4>について検討する。
甲1発明において、KES表面粗さ、および長手方向および幅方向の引張強力を調整することは、すなわち不織布の構造自体を特定することに帰着するものであるが、甲1発明には、当該KES表面粗さおよび引張強力を本件発明1に特定されるような値とすることにより、不織布の構造自体を特定する記載も示唆もない。
また、仮に、申立人が異議申立書の第13頁第21行目?第14頁第5行目において主張するように、甲1発明の表面粗さRaの数値を、本件発明1と同様の方法で測定し、KES表面粗さとして換算した際、その値が甲1発明の表面粗さRaの値よりも大きく算出されるものであるとした場合、甲1発明における表面粗さRaの下限値である1μmをKES表面粗さとして換算すると、1μmよりも大きな値となる。
一方、本件発明1のKES表面粗さは、0.1μm以上1.2μm以下であり、甲1発明のKES表面粗さは、当該本件発明1のKES表面粗さの範囲から外れる可能性があるが、わずかながらも重複する可能性もある。
他方で、甲1発明における吸音性の低下という課題に鑑みれば、甲1発明の少なくともシート片面のKES表面粗さ(20μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下であって、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μ以上、さらに好ましくは3μ以上)を、0.1μm以上1.2μm以下とすることは大きな変更を伴うものであり、こうすることの合理的理由もないから、阻害事由があるといわざるを得ない。

そして本件発明1は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布において、不織布を構成する繊維の平均単繊維径、200℃の温度における乾熱収縮率、長手方向及び幅方向の引張強力、厚さ、見掛け密度、KES表面粗さを特定することにより、
「熱処理による通気量の極端な低下を発生させることなく、高温下での使用においても熱収縮がなく、地合が良好で波打ちや表面凹凸のないメルトブロー不織布を得ることができ、また、本発明のメルトブロー不織布は、表面の耐摩耗性やダスト払い落し性および逆洗性に優れており、電池セパレータやフィルター等の産業用途への利用が可能となる。」(段落【0028】)
という格別の作用効果を奏するものである。

したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2?10、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

ウ.本件発明2、3、5、6について

本件発明2、3、5、6は、本件訂正により削除されたので、本件発明2、3、5、6に係る特許異議の申立ては却下されるべきものである。

エ.本件発明4及び7について

本件発明4及び7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様の理由から、甲1発明及び甲2?10、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(3)理由3-1(特許法第29条第1項第3号)について

ア.甲3の記載

(ア)「【請求項1】
溶融液晶性全芳香族ポリエステル繊維からなるメルトブローン不織布に熱硬化性樹脂を含浸してなるプリプレグであって、該メルトブローン不織布を構成する繊維の繊維径分布CV(%)値が20?50%、平均繊維径が3?15μmであり、かつ該メルトブローン不織布を構成する繊維が節状部および/または屈曲部を5箇所/mm^(2)以上有することを特徴とするプリプレグ。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、耐磨耗性の高いプリプレグを提供することを目的とし、さらには半導体ウェハ、ハードディスク等の被研磨物を保持して研磨するにあたって被研磨物の表面や外周面にスクラッチが付きにくく、特に研磨時の寿命の長い研磨用キャリア等を提供することを目的とする。」

(ウ)「【0052】【表2】



以上を総合し、特に段落【0052】【表2】の実施例1?4、6に注目すると、甲3には、以下の甲3発明が記載されている。

「溶融液晶性全芳香族ポリエステル繊維からなるメルトブローン不織布であって、メルトブローン不織布を構成する繊維の平均繊維径が4.2?13.6μmであり、MD方向の破断強度が78?102N/5cm、CD方向の破断強度が38?89N/5cmであり、不織布の厚さが0.177?0.212mmであり、密度が0.33?0.40g/cm^(3)であるメルトブローン不織布。」

イ.本件発明1について

訂正前の請求項6は、甲3を主たる引用例として特許法第29条第1項第3号の申立てがされたものではない。
そして、本件発明1は、本件訂正により、本件訂正前の請求項6に係る発明を技術的に限定した発明であるから、甲3を主たる引用例として特許法第29条第1項第3号に該当する旨の申立てがされたものではない。

以下、念のため、検討する。

(ア)対比

本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「メルトブローン不織布」は、本件発明1の「不織布」、「メルトブロー不織布」に相当する。
そして、甲3発明の「溶融液晶性全芳香族ポリエステル繊維からなるメルトブローン不織布」は、「樹脂からなるメルトブロー不織布」の限りにおいて、本件発明1の「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる」「メルトブロー不織布」と一致する。
さらに、甲3発明の「不織布の厚さが0.177?0.212mm」は「前記不織布の厚さが0.12?0.35mm」の範囲内にあり、同様に、「密度が0.33?0.40g/cm^(3)」は「見掛け密度が0.1?0.4g/cm^(3)」の範囲内にある。

よって、本件発明1と甲3発明は、以下の点で一致する。

<一致点3>

「樹脂を主成分とする繊維からなる不織布であって、前記不織布の厚さが0.12?0.35mmであり、さらに、見掛け密度が0.1?0.4g/cm^(3)であるメルトブロー不織布。」

そして、本件発明1と甲3発明は、以下の点で相違する。

<相違点3-1>

不織布の繊維について、本件発明1は、「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする」のに対し、甲3発明は、溶融液晶性全芳香族ポリエステル繊維からなる点。

<相違点3-2>

不織布を構成する繊維について、本件発明1は「平均単繊維径が0.1?10μm」であるのに対し、甲3発明は、平均繊維径が4.2?13.6μmである点。

<相違点3-3>

本件発明1は、「200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下」であるのに対し、甲3発明は、明らかでない点。

<相違点3-4>

本件発明1は、「前記不織布の長手方向および幅方向の引張強力がともに44.3N/15mm以上300N/15mm以下」であるのに対し、甲3発明は、MD方向の破断強度が78?102N/5cm、CD方向の破断強度が38?89N/5cmである点。

<相違点3-5>

本件発明1は、「少なくともシート片面のKES表面粗さが0.1μm以上1.2μm以下」であるのに対し、甲3発明は、明らかでない点。

(イ)相違点についての検討

少なくとも<相違点3-1>は、形式的な相違点ではなく明らかに実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲3発明ではない。

ウ.本件発明2、3、5、6について

本件発明2、3、5、6は、本件訂正により削除されたので、本件発明2、3、5、6に係る特許異議の申立ては却下されるべきものである。

エ.本件発明4及び7について

本件発明4及び7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明4及び7と甲3発明とを対比すると、少なくとも<相違点3-1>?<相違点3-5>で相違する。
よって、本件発明4及び7は、甲3発明ではない。

(4)理由3-2(特許法第29条第2項)について

ア.甲3の記載

甲3に記載された事項、及び甲3発明については、上記第5.2.(3)ア.で述べたとおりである。

イ.本件発明1について

(ア)対比

上記第5.2.(3)イ.(ア)のとおり、本件発明1と甲3発明は<一致点3>で一致し、<相違点3-1>?<相違点3-5>で相違するものである。

(イ)相違点についての検討

<相違点3-1>について検討する。
甲3発明の研磨用キャリアは、段落【0008】を参照すると、溶融液晶性全芳香族ポリエステル繊維を基材に用いることにより、高い剛性、寸法安定性、耐摩耗性及びスクラッチの付きにくさ等の性能を保持しつつ、これに加えて寿命の長い研磨用キャリアを提供するものであるから、大前提となる溶融液晶性全芳香族ポリエステル繊維を、本件発明1において特定されるようなポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維とすることは、阻害事由があるといわざるを得ない。

そして本件発明1は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布において、不織布を構成する繊維の平均単繊維径、200℃の温度における乾熱収縮率、長手方向及び幅方向の引張強力、厚さ、見掛け密度、KES表面粗さを特定することにより、
「熱処理による通気量の極端な低下を発生させることなく、高温下での使用においても熱収縮がなく、地合が良好で波打ちや表面凹凸のないメルトブロー不織布を得ることができ、また、本発明のメルトブロー不織布は、表面の耐摩耗性やダスト払い落し性および逆洗性に優れており、電池セパレータやフィルター等の産業用途への利用が可能となる。」(段落【0028】)
という格別の作用効果を奏するものである。

したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲1、2、4?10、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

ウ.本件発明2、3、5、6について

本件発明2、3、5、6は、本件訂正により削除されたので、本件発明2、3、5、6に係る特許異議の申立ては却下されるべきものである。

エ.本件発明4及び7について

本件発明4及び7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様の理由から、甲3発明及び甲1、2、4?10、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(5)理由4-1(特許法第29条第1項第3号)について

ア.甲4の記載

(ア)「【請求項1】
第1層の熱可塑性合成繊維層と、第2層の極細繊維層と、第3層の熱可塑性合成繊維層とを、熱圧着で積層一体化された積層不織布からなる印刷基材であって、該積層不織布の表面層の単繊維同志が融着状態で、相互に押し潰されて表面が平滑であり、かつ該積層不織布の平均みかけ密度が0.3?0.9g/cm^(3)、KES表面粗さが1μm以下、厚みが0.03?0.2mmであることを特徴とする印刷用基材。
【請求項2】
前記第1層及び第3層を構成する繊維の平均繊維径が10?30μm、第2層の平均繊維径7μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の印刷用基材。
【請求項3】
前記第1層および第3層を構成する熱可塑性合成繊維層がポリエステル系繊維またはポリエステル系共重合体からなることを特徴とする請求項1または2記載の印刷用基材。」

以上を総合し、甲4には、以下の甲4発明が記載されている。

「第1層の熱可塑性合成繊維層と、第2層の極細繊維層と、第3層の熱可塑性合成繊維層とを、熱圧着で積層一体化された積層不織布からなる印刷基材であって、該積層不織布の表面層の単繊維同志が融着状態で、相互に押し潰されて表面が平滑であり、かつ該積層不織布の平均みかけ密度が0.3?0.9g/cm^(3)、KES表面粗さが1μm以下、厚みが0.03?0.2mmであり、前記第1層及び第3層を構成する繊維の平均繊維径が10?30μm、第2層の平均繊維径7μm以下であり、前記第1層および第3層を構成する熱可塑性合成繊維層がポリエステル系繊維またはポリエステル系共重合体からなる積層不織布。」

イ.本件発明1について

(ア)対比

本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「ポリエステル系繊維またはポリエステル系共重合体からなる積層不織布」は、樹脂を主成分とする繊維という限りにおいて、本件発明1の「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維」に相当し、甲4発明の「積層不織布」は、本件発明1の「不織布」に相当する。

よって、本件発明1と甲4発明は、以下の点で一致する。

<一致点4>

「樹脂を主成分とする繊維からなる不織布。」

そして、本件発明1と甲4発明は、以下の点で相違する。

<相違点4-1>

不織布の繊維について、本件発明1は、「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする」のに対し、甲4発明は、ポリエステル系繊維またはポリエステル系共重合体からなる点。

<相違点4-2>

不織布の繊維径について、本件発明1は、「平均単繊維径が0.1?10μm」であるのに対し、甲4発明は、第1層及び第3層を構成する繊維の平均繊維径が10?30μm、第2層の平均繊維径が7μm以下である点。

<相違点4-3>

本件発明1は、「200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下」であるのに対し、甲4発明は、明らかでない点。

<相違点4-4>

本件発明1は、「不織布の長手方向および幅方向の引張強力がともに44.3N/15mm以上300N/15mm以下」であるのに対し、甲4発明は、そのように特定されていない点。

<相違点4-5>

不織布の厚さについて、本件発明1は、「0.12?0.35mm」であるのに対し、甲4発明は、0.03?0.2mmである点。

<相違点4-6>

本件発明1は、「見掛け密度が0.1?0.4g/cm^(3)」であるのに対し、甲4発明は、平均みかけ密度が0.3?0.9g/cm^(3)である点。

<相違点4-7>

少なくともシート片面のKES表面粗さについて、本件発明1は、「0.1μm以上1.2μm以下」であるのに対し、甲4発明は、1μm以下である点。

<相違点4-8>

本件発明1は、メルトブロー不織布であるのに対し、甲4発明は、積層不織布である点。

(イ)相違点についての検討

少なくとも<相違点4-2>は、形式的な相違点ではなく明らかに実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲4発明ではない。

ウ.本件発明2、3、5、6について

本件発明2、3、5、6は、本件訂正により削除されたので、本件発明2、3、5、6に係る特許異議の申立ては却下されるべきものである。

エ.本件発明4及び7について

本件発明4及び7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明4及び7と甲4発明とを対比すると、少なくとも<相違点4-1>?<相違点4-8>で相違する。
よって、本件発明4及び7は、甲4発明ではない。

(6)理由4-2(特許法第29条第2項)について

ア.甲4の記載

甲4に記載された事項、及び甲4発明については、上記第5.2.(5)ア.で述べたとおりである。

イ.本件発明1について

(ア)対比

上記第5.2.(5)イ.(ア)のとおり、本件発明1と甲4発明は<一致点4>で一致し、<相違点4-1>?<相違点4-8>で相違するものである。

(イ)相違点についての検討

事案に鑑み、まず<相違点4-2>について検討する。
甲4発明は、段落【0006】を参照すると、隠蔽性、耐熱性、インキの馴染み性などに優れた印刷用基材とすることを課題とし、繊維径の異なる多層構造が一体となって1つの不織布を構成するものである。そして、第1層及び第3層を構成する繊維の平均繊維径を10?30μm、第2層の平均繊維径を7μm以下とすることにより課題を解決するものであって、不織布全体における平均繊維径を調整することを念頭に置いたものではないから、甲4発明において、不織布全体の平均単繊維径を調整すること、及びその値を、本件発明1において特定されるような0.1?10μmの範囲内とすることに阻害事由があるといわざるを得ない。

そして本件発明1は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布において、不織布を構成する繊維の平均単繊維径、200℃の温度における乾熱収縮率、長手方向及び幅方向の引張強力、厚さ、見掛け密度、KES表面粗さを特定することにより、
「熱処理による通気量の極端な低下を発生させることなく、高温下での使用においても熱収縮がなく、地合が良好で波打ちや表面凹凸のないメルトブロー不織布を得ることができ、また、本発明のメルトブロー不織布は、表面の耐摩耗性やダスト払い落し性および逆洗性に優れており、電池セパレータやフィルター等の産業用途への利用が可能となる。」(段落【0028】)
という格別の作用効果を奏するものである。

したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲1?3、5?10、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

ウ.本件発明2、3、5、6について

本件発明2、3、5、6は、本件訂正により削除されたので、本件発明2、3、5、6に係る特許異議の申立ては却下されるべきものである。

エ.本件発明4及び7について

本件発明4及び7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様の理由から、甲4発明及び甲1?3、5?10、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(7)理由5-1(特許法第29条第1項第3号)について

ア.甲5の記載

(ア)「【0051】
より好ましい態様においては、積層不織布が、2種類の層から構成された3層構造からなり、更に好ましくは、その3層構造が、不織布層(II)、不織布層(I)及び不織布層(II)をこの順で積層した構造である。不織布層(I)の極細繊維の繊維径は0.1μm以上4.0μm未満であると好ましく、不織布層(II)の繊維の繊維径が4.0μm以上30.0μm以下であると好ましい。」

(イ)「【0054】
本実施形態において、不織布の厚さは、10?50μmであることが好ましい。不織布の厚さが10μm以上であれば、短幅にスリットされた不織布の強度が高くなる傾向にあり、スリットの際の不良率が少なくなる。また、その厚さが10μm以上であれば、電池又はキャパシタを製造する際に、電極間の間隔をより十分保持することができ、電極同士の物理的接触を更に抑制できる。一方、不織布の厚さが50μm以下であれば、両電極とセパレータとを巻回した時の厚さが大きくなり過ぎず、電子部品としてより小型の製品を得ることができる。この意味で、不織布の厚さは、より好ましくは、10?30μmである。なお、本明細書における厚さは、JIS L-1906に準拠して測定できる。」

(ウ)「【0057】
本実施形態において、不織布の見掛け密度は、0.17?0.80g/cm^(3)が好ましい。見かけ密度が0.17g/cm^(3)以上であることにより、不織布の繊維量がより密になり、電池の組立又はスラリー塗工などにおいて、不織布の破断が抑制される。また、電極で発生するバリに対する耐性が更に高まり、局所的な短絡を一層有効に防止できる。一方、見かけ密度0.80g/cm^(3)以下であることにより、繊維量が不織布内部で過密にならないので、繊維による電解質透過の阻害を抑制でき、電池性能の低下を防止することができる。このような観点から、見掛け密度は、0.17?0.80g/cm^(3)が好ましく、より好ましくは0.20?0.75g/cm^(3)であり、更に好ましくは0.25?0.70g/cm^(3)である。」

(エ)「【0067】
・・・。熱可塑性合成長繊維とは、熱可塑性合成樹脂(例えば、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(PET、PBT、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等)及びその誘導体、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等)及びその誘導体、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン612(N612)等のポリアミド系樹脂及びその誘導体;ポリオキシメチレンエーテル系樹脂(POM等)、PEN、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のポリケトン系樹脂、TPI等の熱可塑性ポリイミド樹脂、又は、これらの樹脂を主体とする共重合体もしくはそれらの混合物などの樹脂)からなる連続長繊維をいう。・・・。」

(オ)「【0129】
本実施形態に係るセパレータの厚さは、10?60μmであることが好ましく、より好ましくは10?50μmであり、更に好ましくは15?40μmであり、特に好ましくは20?30μmである。セパレータの厚さは、機械的強度の観点、及び、正負極を隔離し短絡を抑制するという観点から、10μm以上であると好ましい。また、電池としての出力密度を高め、エネルギー密度の低下を抑制する観点から、セパレータの厚さは60μm以下であると好ましい。」

(カ)「【0210】
得られたスラリー中に、スパンボンド法により作製された不織布層(以下、「スパンボンド不織布層」という。)(繊維径12μm)/メルトブロウン法により作製された不織布層(以下、「メルトブロウン不織布層」という。)(繊維径1.7μm)/スパンボンド不織布層(繊維径12μm)の積層構造を有する、空隙率が64%であり、平均流量孔径が9.1μmであるポリエチレンテレフタレート(PET)製の不織布Aを通し、引き上げ塗布によりスラリーを不織布Aに塗布した。その後、所定の間隔を有するギャップの間を通し、更に、80℃のオーブンで乾燥して溶媒を除去して、セパレータを得た。」

以上を総合し、甲5には、以下の甲5発明が記載されている。

「ポリフェニレンサルファイドを主体とする繊維からなる不織布であって、不織布層(I)の極細繊維の繊維径は0.1μm以上4.0μm未満であり、不織布層(II)の繊維の繊維径が4.0μm以上30.0μm以下であって、不織布の厚さが10?50μm、より好ましくは、10?30μmであり、さらに、見掛け密度は、0.17?0.80g/cm^(3)が好ましく、より好ましくは0.20?0.75g/cm^(3)であり、更に好ましくは0.25?0.70g/cm^(3)であるメルトブロウン不織布。」

イ.本件発明1について

訂正前の請求項5は、甲5を主たる引用例として特許法第29条第1項第3号の申立てがされたものではない。
そして、本件発明1は、本件訂正により、本件訂正前の請求項5に係る発明を技術的に限定した発明であるから、甲5を主たる引用例として特許法第29条第1項第3号に該当する旨の申立てがされたものではない。

以下、念のため、検討する。

(ア)対比

本件発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「ポリフェニレンサルファイドを主体とする繊維」は、本件発明1の「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維」に相当し、同様に、「見掛け密度」は「見掛け密度」に、「メルトブロウン不織布」は、「不織布」、「メルトブロー不織布」に相当する。

よって、本件発明1と甲5発明は、以下の点で一致する。

<一致点5>

「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなるメルトブロー不織布。」

そして、本件発明1と甲5発明は、以下の点で相違する。

<相違点5-1>

不織布の繊維径について、本件発明1は、「平均単繊維径が0.1?10μm」であるのに対し、甲5発明は、不織布層(I)の極細繊維の繊維径は0.1μm以上4.0μm未満であり、不織布層(II)の繊維の繊維径が4.0μm以上30.0μm以下である点。

<相違点5-2>

本件発明1は、「200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下」であるのに対し、甲5発明は、明らかでない点。

<相違点5-3>

本件発明1は、「前記不織布の長手方向および幅方向の引張強力がともに44.3N/15mm以上300N/15mm以下」であるのに対し、甲5発明は、明らかでない点。

<相違点5-4>

不織布の厚さについて、本件発明1は、「0.12?0.35mm」であるのに対し、甲5発明は、10?50μm、より好ましくは、10?30μmである点。

<相違点5-5>

見掛け密度について、本件発明1は、「0.1?0.4g/cm^(3)」であるのに対し、甲5発明は、0.17?0.80g/cm^(3)が好ましく、より好ましくは0.20?0.75g/cm^(3)であり、更に好ましくは0.25?0.70g/cm^(3)である点。

<相違点5-6>

本件発明1は、「少なくともシート片面のKES表面粗さについて0.1μm以上1.2μm以下」であるのに対し、甲5発明は、明らかでない点。

(イ)相違点についての検討

少なくとも<相違点5-4>は、形式的な相違点ではなく明らかに実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲5発明ではない。

ウ.本件発明2、3、5、6について

本件発明2、3、5、6は、本件訂正により削除されたので、本件発明2、3、5、6に係る特許異議の申立ては却下されるべきものである。

エ.本件発明4及び7について

本件発明4及び7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明4及び7と甲5発明とを対比すると、少なくとも<相違点5-1>?<相違点5-6>で相違する。
よって、本件発明4及び7は、甲5発明ではない。

(8)理由5-2(特許法第29条第2項)について

ア.甲5の記載

甲5に記載された事項、及び甲5発明については、上記第5.2.(7)ア.で述べたとおりである。

イ.本件発明1について

(ア)対比

上記第5.2.(7)イ.(ア)のとおり、本件発明1と甲5発明は<一致点5>で一致し、<相違点5-1>?<相違点5-6>で相違するものである。

(イ)相違点についての検討

事案に鑑み、まず<相違点5-4>について検討する。
甲5発明は、段落【0129】を参照すると、機械的強度の観点、及び短絡をより確実に抑制するという観点から、不織布の厚さを10μm以上、すなわち0.01mm以上とし、また、電気化学素子としての出力密度を高め、エネルギー密度の低下を抑制する観点から、不織布の厚さを60μm以下、すなわち0.06mm以下とするものであり、さらに段落【0054】を参照すると、不織布の厚さが50μm以下であれば、両電極とセパレータとを巻回した時の厚さが大きくなり過ぎず、電子部品としてより小型の製品を得ることができるものであるから、甲5発明において、不織布の厚さを、本件発明1において特定されるような0.12?0.35mmとすることには阻害事由があるといわざるを得ない。

そして本件発明1は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布において、不織布を構成する繊維の平均単繊維径、200℃の温度における乾熱収縮率、長手方向及び幅方向の引張強力、厚さ、見掛け密度、KES表面粗さを特定することにより、
「熱処理による通気量の極端な低下を発生させることなく、高温下での使用においても熱収縮がなく、地合が良好で波打ちや表面凹凸のないメルトブロー不織布を得ることができ、また、本発明のメルトブロー不織布は、表面の耐摩耗性やダスト払い落し性および逆洗性に優れており、電池セパレータやフィルター等の産業用途への利用が可能となる。」(段落【0028】)
という格別の作用効果を奏するものである。

したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明及び甲1?4、6?10、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

ウ.本件発明2、3、5、6について

本件発明2、3、5、6は、本件訂正により削除されたので、本件発明2、3、5、6に係る特許異議の申立ては却下されるべきものである。

エ.本件発明4及び7について

本件発明4及び7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様の理由から、甲5発明及び甲1?4、6?10、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(9)理由6-1(特許法第29条第1項第3号)について

ア.甲6の記載

(ア)「【請求項1】
エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体から主としてなる平均繊維直径が1?10μmの繊維が相互に接着してなる不織布であって、目付が10?50g/m^(2) 、見掛け密度が0.15?0.9g/cm^(3) であることを特徴とする電池セパレーター。
【請求項2】
不織布がメルトブロー不織布からなることを特徴とする請求項1に記載の電池セパレーター。」

(イ)「【0010】
本発明の電池セパレーターは、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる平均繊維直径が1?10μmの繊維が相互に接着してなる不織布で構成される。なお、本発明の効果を損しない範囲で他の組成からなる繊維が含まれていてもよい。好ましくは、全ての繊維がエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体からなるものである。
【0011】
本発明の電池セパレーターを構成する不織布は、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる繊維でないと、耐薬品性、耐熱性、ヒートシール性が得られず、さらに繊維が相互に接着した構造の不織布でなければ、耐薬品性、耐熱性、電解液保持性が得られない。」

上記(ア)の記載より、甲6には、以下の甲6発明が記載されている。

「エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体から主としてなる平均繊維直径が1?10μmの繊維が相互に接着してなる不織布であって、目付が10?50g/m^(2) 、見掛け密度が0.15?0.9g/cm^(3)であるメルトブロー不織布。」

イ.本件発明1について

訂正前の請求項6は、甲6を主たる引用例として特許法第29条第1項第3号の申立てがされたものではない。
そして、本件発明1は、本件訂正により、本件訂正前の請求項6に係る発明を技術的に限定した発明であるから、甲6を主たる引用例として特許法第29条第1項第3号に該当する旨の申立てがされたものではない。

以下、念のため、検討する。

(ア)対比

本件発明1と甲6発明とを対比すると、甲6発明の「エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体から主としてなる」「不織布」は、樹脂を主成分とする繊維からなる不織布という限りにおいて、本件発明1の「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布」に相当し、甲6発明は、段落【0024】を参照すると、メルトブロー口金より紡糸しながら、270℃の加熱空気で細繊維化し、口金吐出孔より5cmの距離に設置された捕集コンベア上に捕集したものであり、当該製造方法による繊維は単繊維であると認められるから、甲6発明の「平均繊維直径」は、本件発明1の「平均単繊維径」に相当し、同様に、「見掛け密度」は「見掛け密度」に、「メルトブロー不織布」は、「メルトブロー不織布」に相当する。
そして、甲6発明の「平均繊維直径が1?10μm」は、本件発明1の「平均単繊維径が0.1?10μm」の範囲内にある。

よって、本件発明1と甲6発明は、以下の点で一致する。

<一致点6>

「樹脂を主成分とする繊維からなる不織布であって、不織布を構成する繊維の平均単繊維径が0.1?10μmであるメルトブロー不織布。」

そして、本件発明1と甲6発明は、以下の点で相違する。

<相違点6-1>

不織布の繊維について、本件発明1は、「ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする」のに対し、甲6発明は、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる点。

<相違点6-2>

本件発明1は、「200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下」であるのに対し、甲6発明は、明らかでない点。

<相違点6-3>

本件発明1は、「前記不織布の長手方向および幅方向の引張強力がともに44.3N/15mm以上300N/15mm以下」であるのに対し、甲6発明は、明らかでない点。

<相違点6-4>

本件発明1は、「前記不織布の厚さが0.12?0.35mm」であるのに対し、甲6発明は、不織布の厚さが明記されていない点。

<相違点6-5>

見掛け密度について、本件発明1は、「0.1?0.4g/cm^(3)」であるのに対し、甲6発明は、「0.15?0.9g/cm^(3)」である点。

<相違点6-6>

本件発明1は、「少なくともシート片面のKES表面粗さが0.1μm以上1.2μm以下」であるのに対し、甲6発明は、明らかでない点。

(イ)相違点についての検討

少なくとも<相違点6-1>は、形式的な相違点ではなく明らかに実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲6発明ではない。

ウ.本件発明2、3、5、6について

本件発明2、3、5、6は、本件訂正により削除されたので、本件発明2、3、5、6に係る特許異議の申立ては却下されるべきものである。

エ.本件発明4及び7について

本件発明4及び7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明4及び7と甲6発明とを対比すると、少なくとも<相違点6-1>?<相違点6-6>で相違する。
よって、本件発明4及び7は、甲64発明ではない。

(10)理由6-2(特許法第29条第2項)について

ア.甲6の記載

甲6に記載された事項、及び甲6発明については、上記第5.2.(9)ア.で述べたとおりである。

イ.本件発明1について

(ア)対比

上記第5.2.(9)イ.(ア)のとおり、本件発明1と甲6発明は<一致点6>で一致し、<相違点6-1>?<相違点6-6>で相違するものである。

(イ)相違点についての検討

<相違点6-1>について検討する。
甲6発明は、段落【0011】を参照すると、耐薬品性、耐熱性、ヒートシール性を備えさせるために、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる繊維から不織布を構成するものであるから、大前提となるエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる繊維を、本件発明1において特定されるようなポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維とすることは、阻害事由があるといわざるを得ない。

そして本件発明1は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布において、不織布を構成する繊維の平均単繊維径、200℃の温度における乾熱収縮率、長手方向及び幅方向の引張強力、厚さ、見掛け密度、KES表面粗さを特定することにより、
「熱処理による通気量の極端な低下を発生させることなく、高温下での使用においても熱収縮がなく、地合が良好で波打ちや表面凹凸のないメルトブロー不織布を得ることができ、また、本発明のメルトブロー不織布は、表面の耐摩耗性やダスト払い落し性および逆洗性に優れており、電池セパレータやフィルター等の産業用途への利用が可能となる。」(段落【0028】)
という格別の作用効果を奏するものである。

したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明及び甲1?5、7?10、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

ウ.本件発明2、3、5、6について

本件発明2、3、5、6は、本件訂正により削除されたので、本件発明2、3、5、6に係る特許異議の申立ては却下されるべきものである。

エ.本件発明4及び7について

本件発明4及び7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様の理由から、甲6発明及び甲1?5、7?10、12に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

6.小括

以上のとおりであるから、申立人のかかる主張は、採用することができない。

第6.むすび

以上のとおりであるから、本件発明1、4及び7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができず、また、他に本件発明1、4及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

そして、本件発明2、3、5、6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする繊維からなる不織布であって、不織布を構成する繊維の平均単繊維径が0.1?10μmであり、前記不織布が、200℃の温度における乾熱収縮率が2%以下であり、前記不織布の長手方向および幅方向の引張強力がともに44.3N/15mm以上300N/15mm以下であり、前記不織布の厚さが0.12?0.35mmであり、さらに、見掛け密度が0.1?0.4g/cm^(3)であり、かつ少なくともシート片面のKES表面粗さが0.1μm以上1.2μm以下であることを特徴とするメルトブロー不織布。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
シート両面のKES表面粗さが1.6μm以下である請求項1に記載のメルトブロー不織布。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
請求項1または4に記載のメルトブロー不織布を用いてなる不織布電池セパレータ。
【請求項8】
熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる不織ウェブを、表面が平滑で可とう性を有する素材からなるベルトからなる2組のベルトコンベアの間に挟み込んで搬送し、搬送路の少なくとも一部に、前記2組のベルトコンベアの一方または両方の表面温度が前記熱可塑性樹脂の冷結晶化温度以上でかつ融点-3℃以下に加熱された熱処理ゾーンを有し、前記熱処理ゾーンで前記不織ウェブの両面にベルトコンベアが接触して前記不織ウェブを加熱する工程を有することを特徴とするメルトブロー不織布の製造方法。
【請求項9】
ベルトのベック平滑度が0.5秒以上である請求項8記載のメルトブロー不織布の製造方法。
【請求項10】
不織ウェブの搬送速度が0.1?10m/分である請求項8または9記載のメルトブロー不織布の製造方法。
【請求項11】
熱処理ゾーンにおける不織ウェブとベルトコンベアの接触時間が3秒以上である請求項8?10のいずれかに記載のメルトブロー不織布の製造方法。
【請求項12】
不織布を構成する繊維の主成分がポリフェニレンスルフィド樹脂またはポリエステル樹脂である請求項8?11のいずれかに記載のメルトブロー不織布の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-24 
出願番号 特願2016-545482(P2016-545482)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (D04H)
P 1 652・ 113- YAA (D04H)
P 1 652・ 537- YAA (D04H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 石井 孝明
特許庁審判官 横溝 顕範
村山 達也
登録日 2019-08-30 
登録番号 特許第6575523号(P6575523)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 メルトブロー不織布およびその製造方法  
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