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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61N
管理番号 1371714
異議申立番号 異議2019-700499  
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-24 
確定日 2021-01-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6442697号発明「ホウ素中性子捕捉療法システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6442697号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6442697号の請求項1-3、5-10に係る特許を維持する。 特許第6442697号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6442697号(以下「本件特許」という。)の請求項1-10に係る特許についての出願は、平成30年12月7日にその特許権の設定登録がされ、同月26日に特許掲載公報が発行された。
令和1年6月24日に特許異議申立人桜井裕(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされたところ、その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和1年10月 9日付け 取消理由通知
12月10日 特許権者による意見書の提出
令和2年 3月31日付け 取消理由通知(決定の予告)
6月 2日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
7月20日 申立人による意見書の提出

第2 訂正の請求
1 訂正の内容
令和2年6月2日付け訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6442697号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-10について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、請求項4のすべての特定事項を付加する、すなわち、請求項1の「位置調整機構と、」に続けて、改行し、「前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、」を挿入する。さらに、請求項1の「前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構により変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部と」との記載を、「前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部と」に訂正する。
(請求項1の記載を直接的もしくは間接的に引用する請求項2、3、5-10も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8における、「請求項4に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。」を「請求項1に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の段落【0006】における「位置調整機構と、」に続けて、「前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、」を挿入する。さらに、「前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構により変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部と」との記載を、「前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部と」に訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0007】における「位置調整機構と、」に続けて、「前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、」を挿入する。さらに、「前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構により変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部とを、」との記載を、「前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部とを、」に訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0010】を削除する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0014】における、「前記第4発明に従属する本第8発明の」を「前記第1発明に従属する本第8発明の」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項1は、訂正前の請求項1に、当該請求項1を引用する請求項4の「前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、」との中性子線の照射方向に対する照射台の角度を調整するための構成を付加するものであって、特許請求の範囲を減縮するものである。
(イ)さらに、訂正事項1は、訂正前の請求項1の「制御部」が、「3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる」際の具体的な制御内容について、「前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させる」ことを特定するものであって、特許請求の範囲を減縮するものである。
(ウ)そして、訂正事項1は、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、3、5-10についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
(エ)よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、訂正前の請求項4の発明特定事項を請求項1に付加するものであり、また、訂正前の請求項1の「制御部」による「3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる」際の具体的制御内容を特定するものであるところ、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、3、5-10について発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、訂正前の請求項4の発明特定事項を請求項1に付加するものであるとともに、願書に添付した明細書の「前記中性子線照射装置14における中性子線照射口14oに対して前記照射台16の位置決めを行う機構として、位置調整機構34、第1角度調整機構36、及び第2角度調整機構38を備えている。前記位置調整機構34は、相互に直交する3つの軸(並進軸)それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置14の照射口14oに対する前記照射台16の位置を変化させる。」(【0027】)との記載、「前記3次元診断装置18による診断に係る、前記被験者固定載置部22上における患部の中心(例えば、腫瘍中心)の位置座標(例えば、xyz座標)及び前記被験者8の姿勢に関する情報(例えば、ピッチング角及びローテーション角に相当する情報)が、前記制御部60(照射台16の制御システム)に対して出力される。」(【0049】)、「図10は、この位置合わせの様子を概略的に示す図である。先ず、前記3次元診断装置18による撮影に係る撮像基準点(例えば、CT原点)が、前記水平方向レーザ68a、68bの表示位置を結ぶ直線と、その直線に垂直な直線であって前記垂直方向レーザ70の表示位置を通る直線との交点(以下、レーザポインタ交点という)に合致するように、前記位置調整機構34等により前記照射台16が移動させられる。次に、前記撮像基準点に対応して付された目印(マーキング)と、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70による表示位置との照合が行われ、位置がずれている場合には、前記位置調整部62による例えば人的な操作により位置調整が行われる。次に、前記3次元診断装置18による診断において出力された前記被験者8の姿勢に関する情報に基づいて、前記第1角度調整機構36及び前記第2角度調整機構38により、前記中性子線照射口14oに対する前記照射台16のピッチング角及びローリング角が変更される。以上の位置調整により、前記制御部60に出力されたデータ上における前記患部の中心位置が、前記レーザポインタ交点に合致するように前記照射台16が移動させられる。次に、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置と、前記患部に対応して前記被験者8の体に付された目印(マーキング)の位置との照合が行われ、位置がずれている場合には、前記位置調整部62による例えば人的な操作により位置調整が行われる。すなわち、前記目印の付された位置との誤差が、規定の許容範囲内に収まるように、前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38の少なくとも1つにより調整が行われる。好適には、この位置調整に係るピッチング角及びローリング角の中心(回転中心)は、前記レーザポインタ交点とされる。」(【0051】)との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項(同法第184条の19の規定により読み替える括弧書きの規定を含む)に適合する。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、訂正前の請求項4の記載を削除するものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、上記訂正事項1により、訂正前の請求項4の発明特定事項を請求項1に付加したことに応じて、請求項8が従属する請求項を請求項4から請求項1に変更することにより従属関係を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項3は、訂正前の請求項4の発明特定事項を請求項1に付加したことに応じて、請求項8が従属する請求項を請求項4から請求項1に変更することにより従属関係を整合させるものであるところ、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アの理由から明らかなように、訂正事項3は、訂正前の請求項4の発明特定事項を請求項1に付加したことに応じて、請求項8が従属する請求項を請求項4から請求項1に変更することにより従属関係を整合させるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項(同法第184条の19の規定により読み替える括弧書きを含む)に適合する。

(4)訂正事項4-7について
ア 訂正の目的について
訂正事項4-7は、訂正事項1-3により訂正前の請求項1、4、8が訂正されることに伴って、対応する願書に添付した明細書の段落【0006】、【0007】、【0010】及び【0014】の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項4-7は、訂正事項1-3により訂正前の請求項1、4、8が訂正されることに伴って、対応する願書に添付した明細書の記載を整合させるものであるから、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項4-7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アの理由から明らかなように、訂正事項4-7は、訂正事項1-3により訂正前の請求項1、4、8が訂正されることに伴って、対応する願書に添付した明細書の記載を整合させるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

(5)一群の請求項、及び、願書に添付した明細書の訂正に係る請求項について
訂正前の請求項1-10について、請求項2-10はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1-10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正事項4-7は、当該一群の請求項を対象とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合する。

3 まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項並びに同条第9項の規定によって準用する第126条第4項、第5項(同法第184条の19の規定により読み替える括弧書きの規定を含む)及び第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1-3、5-10に係る発明(以下「本件発明1-3、5-10」という。これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1-3、5-10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

【請求項1】
中性子線遮蔽に覆われた室内に中性子線照射装置を備え、該中性子線照射装置により被験者のホウ素化合物が取り込まれた患部に対して中性子線を照射することで治療を行うホウ素中性子捕捉療法システムであって、
前記被験者を載置した状態で固定する被験者固定載置部と、
前記被験者における前記患部の位置を検出する3次元診断装置と、
前記中性子線照射装置に対して位置決めされる照射台と、
相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる位置調整機構と、
前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、
前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部と
を、備えたことを特徴とするホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項2】
前記被験者が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部を、前記3次元診断装置と前記照射台との間で移乗させる移乗装置を備えた
請求項1に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項3】
前記3次元診断装置による前記患部の位置の検出に際して、前記被験者固定載置部に載置され且つ固定された前記被験者に付された、前記検出に係る位置座標に対応する目印に基づいて、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構により変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させる位置調整部を備えた
請求項1又は2に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記被験者固定載置部及び前記照射台は、前記被験者固定載置部が前記照射台に移乗させられた際に相互に対面させられる部分に、相互に嵌合させられる嵌合構造を備えた
請求項1から4の何れか1項に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項6】
前記3次元診断装置は、前記被験者の体内の画像を撮影する装置であり、
前記目印の素材には、前記3次元診断装置により撮影された前記画像上において、前記被験者固定載置部の主要素材と前記目印とが十分に区別される素材が用いられる
請求項3に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項7】
前記移乗装置として、前記被験者固定載置部を載置した状態で搬送する搬送装置を備え、
該搬送装置は、
前記被験者固定載置部を保持し、且つ該被験者固定載置部を前記3次元診断装置又は前記照射台に移乗させた後に引き抜くことができる保持部を備え、
前記搬送装置に設けられた昇降機構、前記3次元診断装置に設けられた昇降機構、又は前記位置調整機構を用いて、前記被験者が固定された前記被験者固定載置部を、前記搬送装置と前記3次元診断装置又は前記照射台との間で移乗させる
請求項2に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項8】
前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置に対して、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置が必要十分に整合していることを確認するための表示を行う位置表示部と、
該位置表示部による表示に基づいて、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置に対する、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、及び前記第2角度調整機構の少なくとも1つにより調整を行う位置調整部と
を、備えた
請求項1に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項9】
前記3次元診断装置は、前記被験者の体内の画像を撮影する装置であり、
前記位置表示部は、前記3つの軸の方向に対応する座標系に対して、前記3次元診断装置による前記画像の撮像基準点が必要十分に整合していることを確認するための表示を行うものであり、
前記位置調整部は、前記位置表示部による表示に基づいて、前記照射台における前記3
つの軸の方向に対応する座標系に対する、前記3次元診断装置による前記画像の撮像基準点の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように調整を行うものである
請求項8に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項10】
前記照射台は、前記中性子線照射装置から照射される中性子線により放射化された場合において、中性子線暴露による放射化の度合いが炭素繊維強化プラスチックと同等かそれ以下である材料から構成されたものである
請求項1から9の何れか1項に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。

第4 取消理由の概要
当審が取消理由通知に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである。
本件発明1-3、5-10は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<刊行物>
甲第1号証: 熊田博明外2名、“原子炉による医療照射のための患者セッティングシステムの開発”、日本原子力学会和文論文誌、社団法人日本原子力学会、2002年3月25日発行、第1巻、第1号、p.59-68
甲第2号証:特開2012-148026号公報
甲第4号証:特開2000-167072号公報
追加引用例:国際公開第2013/146373号

取消理由について
本件発明1-3、5-10は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証、甲第4号証、追加引用例に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。また、「甲第1号証に記載された発明」、「甲第2号証に記載された事項」等を、それぞれ「甲1発明」、「甲2記載事項」等という。)

第5 取消理由についての判断
1 刊行物の記載及び刊行物に記載された発明
(1)甲1
甲1には、「原子炉による医療照射のための患者セッティングシステムの開発」に関し、Fig.1-12、table1-5とともに、以下の事項が記載されている。

ア 「I . 緒言
ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy: BNCT)は,腫瘍細胞に選択的に集まるボロン化合物を患者に投与し,患部に中性子ビームを照射することにより,^(10)B(n, α) ^(7)Li 反応を起こし腫瘍細胞のみを破壊する治療法である。」(59頁左欄1-6行)

イ 「JCDSは,医療画像であるCT,MRI画像により患者頭部3次元モデルを作成し,モンテカルロコードMCNP-4Bによって頭部内の照射線量を計算するソフトウェアである。JCDSによる線量計算を基に,患者の症例に合致した最適な照射条件を決定する。
事前評価に基づくBNCTを実施には,高精度な計算による線量評価,的確な照射条件の決定とともに,その条件の正確な再現が要求される。すなわちJCDSによって最適な照射条件を導いても,この照射条件が実際のBNCTにおいて再現されていなければ,事前評価どおりのBNCT照射を行うことができない。特に頭部の照射位置条件(ビ-ムに対する頭部の距離,角度,脳表面照射位置)は,患者の患部領域,正常組織,脳内深部にある重要組織への照射線量を評価して決定しているため,実際のBNCT照射時にこの位置条件を正確に再現しなければ,患部に適切な線量を照射することができない。・・・本研究は,JCDSによって決定された照射条件において,特に重要な頭部の照射位置条件の再現について検討し,正確かつ迅速な患者のセッティングを可能にするシステムの開発を目的としている。」(59頁右欄下から2行-60頁左欄26行)

ウ 「II.患者セッティングシステム
1.患者セッティングに要求される事項
事前評価に基づくBNCT実施においては,JCDSによって決定された照射位置に患者を固定のためのシステム開発が必要である。この患者のセッティングに要求される事項について,以下のとおり検討を行った。
(1)照射位置条件の正確な再現
Fig.1は,JCDSによる事前評価に基づくBNCT実施の手順を示している。JCDSを使用して,ビームの線質,頭部の照射位置等の計算条件を設定して線量計算を行い,最適な照射条件を導く。このときのJCDS上の頭部位置(ビーム孔に対する距離,角度,脳表面照射位置)が照射位置条件として設定されることとなる。この照射位置条件は,JCDS上の仮想3次元空間内のビーム孔に対する頭部位置(Ideal Position: I.P.)と実際の照射室内のビーム孔に対する位置(Real Position: R.P.)を一致させることにより,再現される。」(60頁右欄7-23行)

エ 「2.患者セッティング手法
患者セッティングに要求される事項を踏まえ,我々は患者を照射位置に固定する「患者セッティングシステム」の開発を行った。この患者セッティングシステムはJCDSで決定された照射位置条件を正確に再現するために用いられるものであり,JCDSと組み合わせて開発を行う必要があった。患者セッティングシステムに適用されているセッティング手法を手順に従って以下に述べる。Fig.2は,患者セッティングシステムによる患者の照射位置への固定手順の概略を示している。
(1)JCDSでの位置情報出力
JCDSによって決定された頭部照射位置(I.P.)と実際の照射室内のR.P.を一致させるためは,JCDS上の頭部位置が実際の照射室内のどの位置であるかを認識する必要がある。このため,JCDSに患者の位置情報を出力する機能を追加した。Fig.3はJCDSによる頭部位置情報の出力画面を示している。JCDSの仮想3次元空間に対して,ビーム孔の中心を基点(0,0,0)とし,炉心からビームの照射方向をX, 鉛直方向をY, 水平方向をZとし(Fig.4参照),この座標系における頭部モデル上の任意点の3次元座標を出力するようにした。この頭部3次元モデル上の任意点を位置合せ基準点として使用し,実際のセッティングを行う。この位置合せ基準点は,JCDSの頭部3次元モデル(およびCT,MRI等の医療画像)に対して,実際の患者の外観から確認可能な場所を設定する必要があり,Fig.3の例では,鼻根部,右目尻,右耳,鼻尖を位置合せ基準点として設定している。この位置情報出力例では,それぞれの位置合せ基準点の3次元座標を出力するとともに,頭部3次元モデル上にビームの中心軸線,鼻尖と鼻根部とを結ぶ直線,右耳と鼻根部とを結ぶ直線を表示している。

(2)セッティングシミュレーション
照射室での患者照射位置固定を迅速かつ円滑に行うために,事前にセッティングのシミュレーションを行うこととした。この事前のシミュレーションをまず開頭術前に実施することにより,
(1) 照射室でのセッティングを簡便に行うためのマーキングを患者に施すことができる。
(2) 患部周辺にドレープ,リチウム・ヘルメット等がないため患者の顔が十分に確認できる。
(3) 患者は遠隔麻酔ではなく通常の麻酔によって管理されているため負担が小さい。
(4) 照射時の患者の頭部位置,体位,照射台の位置等を事前に把握しておくことができる。
といった利点がある。
このシミュレーション後,患者の体位,頭部位置は,照射用の体位から,開頭手術に最適な体位に変更されることとなる。よって開頭術後,患者を照射室へ移送する前に,再びシミュレーションを実施し,照射用の体位を再現することとする。この術後のシミュレーションにより,患部が曝露した状態(実際の照射状態)での照射野を確認できるとともに,あらかじめ患者の体位を照射用体位にしておくことにより,照射室内でのセッティングを迅速に行うことができる。この術後の照射用体位の再現は,開頭前のシミュレーションによって頭部位置,患者体位,照射台の位置が把握できているため,短時間で実施することができる。
このシミュレーションは,後述する患者セッティングシミュレータを使って実現される。Fig.5はシミュレータの概略図であり,Fig.6はシミュレータに照射台を接続した写真である。このシミュレータには,次項のレーザー光による位置合せ手法,ビーム中心軸線マーキングを実施できる機能を備えており,患者をシミュレータ上のビーム孔に対する照射位置にセッティングすることができる。」(61頁左欄下から11行-62頁左欄末行)

オ 「患者セッティングシステムでは,上記のことを考慮した上で,JCDSが出力した位置合せ基準点をレーザー光によって垂直方向,水平方向からを指示し,患者頭部の基準点に対応する部位とレーザー光を合わせることにより,患者を照射位置に導く手法を採用した。まず患者の上方から垂直に3点以上の位置合せ基準点をレーザー光で指示し,このレーザー光と患者の基準点部位を一致させる。これによりビーム孔に対する患者の水平面上の位置が決まる。この状態で患者の側面から水平に1点以上の位置合せ基準点をレーザー光で指示し,この指示点と患者の部位を合わせることにより,患者の垂直(高さ)位置を合せることができる。この手法により患者頭部位置を3次元空間上に一義的に固定することが可能となる。(Fig.4のX-Z平面図とX-Y平面図参照)。シミュレータには,この手法を可能とする垂直,水平方向からのレーザー光発生装置が複数取り付けられている。Fig.7は,頭部ファントムに対してレーザー光による位置合せ手法を行っている様子である。

(4)ビーム中心軸線マーキング
レーザー光による位置合せ手法によって,患者はシミュレータ上の照射位置にセッティングされている。シミュレータには,ビームの中心軸線(Y=0,Z=0)を垂直方向,水平方向からレーザー光によって示することもできるため,照射位置に導かれた患者の頭部表面には,ビーム中心軸線の位置が示されている。この状態で患者頭部に対してビーム中心軸線のマーキングを施す。照射室内には,ビームの中心軸線を垂直,水平方向から指示するレーザー光発生装置を設置している(Fig.8)。照射室における患者セッティングでは, 頭部のマーキングと照射室内レーザー光を一致させることにより,シミュレーション時の照射位置が再現され,患者を照射条件に決定された照射位置(I.P.)に簡便にセッティングすることができる。Fig.9はシミュレーションによってビーム中心軸線がマーキングされた頭部ファントムを照射位置ヘセッティングしている様子である。」(63頁右欄10行-64頁左欄12行)

カ 「3.セッティングシステムのための機器
セッティング手法を実行するために開発,整備した機器について以下に述べる。
(1)患者セッティングシミュレータ
事前のセッティングシミュレーションを実施するために,セッティングシミュレータを開発した。Fig.5はシミュレータの概略図であり,Fig.6はシミュレータに照射台を接続した写真である。シミュレータは,照射室内ビーム孔周辺を模擬した筐体,照射室壁面形状を模擬したプレート,複数のレーザー光発生装置および照射台接続ジグによって構成されている。シミュレータは実際の照射室内の諸条件を模擬するとともに,レーザー光位置指示手法によって患者のセッティングを実施するための機能を備えている。
(a) レーザー光発生装置
セッティングシミュレーションには,レーザー光による位置合せ手法を使い患者セッティングを実行するため,シミュレータの上面部,左右側面部にそれぞれ,上面3個と左右2個ずつの十字線レーザー光発生装置が取り付けられている。このレーザー光発生装置は患者頭部範囲内の任意の位置に移動できるとともに,十字線の角度を変えることができる。これらの十字線レーザー光発生装置によって,患者セッティングに必要な位置合せ基準点とビーム中心軸線を垂直方向,水平方向からの指示することができる。
シミュレーションを介したI.P.とR.P.の間接的な再現,患者の表皮の動き,ヘッド・フレームの剛性,実際の照射室内セッティング等を考慮し,医師側の要求する患者の位置合せ精度5mm以下を実現するため,シミュレータのレーザー光の指示精度は1mm以下とした。
Fig.7は,頭部ファントムによるシミュレーションにおいて,頭部ファントムの鼻根部,右耳,鼻尖を垂直方向から,右耳を水平方向から指示するとともに,ビームの中心軸線を指示している様子である。
(b) 模擬ビーム孔,照射壁プレート,照射台接続冶具
シミュレータには,照射室で患者のセッティングをシミュレーションするため,実際のビーム孔に設定可能な4種類のビームコリメータ(φ100, 120, 150, 200)が模擬されている。また,照射室内の壁面形状を模擬したプレートをシミュレータに取り付け,照射台接続ジグによって照射台を連結することにより,照射室内の照射台の可動範囲を把握でき,事前に照射台の位置,患者の照射体位を決定することができる。
(2)照射室内ビーム中心軸指示装置
Fig.8に,照射室内のビーム孔周辺の様子を示す。照射室内の天井部と左右の壁には垂直,水平方向からビーム中心軸を表示する十字線レーザー光照射装置が設置されている。このレーザー光の指示精度も1mm以下としている。
(3)油圧駆動照射台,照射台旋回装置
照射台上の患者を円滑に照射位置に誘導するため,照射台は油圧駆動により天板を多軸で移動させることができるようになっている。照射室内のビーム孔壁面には照射台を乗せてビーム孔を中心として旋回できる「照射台旋回装置」が設置されている。旋回装置と油圧駆動により照射台上の患者を円滑に照射位置に導くことができる。Fig.11は照射台の概略図と照射室内での照射台旋回装置による照射台可動範囲を示している。」(64頁右欄下から5行-65頁右欄18行)。

キ 「(2)迅速性等に関する評価
患者セッティングシステム使用以前では,開頭術後,目視により照射位置を決定し,患者をできるだけ照射体位に固定し,照射室へ移送していた。しかし実際のビーム孔に対してセッティングを行っている際に,照射台可動範囲等により患者固定体位の変更を余儀なくされたこともあった。患者セッティングシステムを適用した照射位置固定では,シミュレーションにより患者は事前に照射体位に固定されており,また照射台の角度,高さ等の位置情報も把握できているため,シミュレーション時の照射台の状態を再現するだけで照射位置へ誘導することが可能となった。最後に患者に施されているマーキングと照射室内レーザー光を微調整によって合わせることで,従来の患者固定方法と同等以上の短時間でセッティングを行うことが可能となった。また,照射室内で患者の体位,頭部位置を変更することもなく,手際の良いセッティングを実施することが可能となった。」(67頁右欄19行-35行)

a 摘記事項アの「ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy: BNCT)は,腫瘍細胞に選択的に集まるボロン化合物を患者に投与し,患部に中性子ビームを照射することにより,^(10)B(n, α) ^(7)Li 反応を起こし腫瘍細胞のみを破壊する治療法である。」との記載、摘記事項イの「JCDSは,医療画像であるCT,MRI画像により患者頭部3次元モデルを作成し,モンテカルロコードMCNP-4Bによって頭部内の照射線量を計算するソフトウェアである。JCDSによる線量計算を基に,患者の症例に合致した最適な照射条件を決定する。・・・本研究は,JCDSによって決定された照射条件において,特に重要な頭部の照射位置条件の再現について検討し,正確かつ迅速な患者のセッティングを可能にするシステムの開発を目的としている。」との記載、さらに中性子線照射装置は中性子線遮蔽に覆われた室内に設置されることは技術常識であることから、甲第1号証に記載された発明は、中性子線遮蔽に覆われた室内に中性子線照射装置を備え、該中性子線照射装置により患者のホウ素化合物が取り込まれた患部に対して中性子線を照射することで治療を行うホウ素中性子捕捉療法に用いる装置であることが理解できる。

b 摘記事項イの「JCDSは,医療画像であるCT,MRI画像により患者頭部3次元モデルを作成し,モンテカルロコードMCNP-4Bによって頭部内の照射線量を計算するソフトウェアである。JCDSによる線量計算を基に,患者の症例に合致した最適な照射条件を決定する。」との記載、摘記事項ウの「JCDSを使用して,ビームの線質,頭部の照射位置等の計算条件を設定して線量計算を行い,最適な照射条件を導く。このときのJCDS上の頭部位置(ビーム孔に対する距離,角度,脳表面照射位置)が照射位置条件として設定されることとなる。この照射位置条件は,JCDS上の仮想3次元空間内のピーム孔に対する頭部位置(Ideal Position: I.P.)と実際の照射室内のビーム孔に対する位置(Real Position: R.P.)を一致させることにより,再現される。」との記載から、甲第1号証に記載された発明は、患者における患部の位置を検出するCTと、CTの画像に基づき患者頭部の照射位置条件を決定するJCDSとを備えるといえる。

c また、摘記事項カの「(3)油圧駆動照射台,照射台旋回装置
照射台上の患者を円滑に照射位置に誘導するため,照射台は油圧駆動により天板を多軸で移動させることができるようになっている。照射室内のビーム孔壁面には照射台を乗せてビーム孔を中心として旋回できる「照射台旋回装置」が設置されている。旋回装置と油圧駆動により照射台上の患者を円滑に照射位置に導くことができる。Fig.11は照射台の概略図と照射室内での照射台旋回装置による照射台可動範囲を示している。」との記載及びFig.11の図示内容からみて、甲第1号証に記載された発明は、照射台の天板と、中性子線照射装置に対して位置決めされる照射台と、相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置とを備え、天板を設置した前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置により変化させるものであることが理解できる。

d 摘記事項エの「患者セッティングに要求される事項を踏まえ,我々は患者を照射位置に固定する「患者セッティングシステム」の開発を行った。この患者セッティングシステムはJCDSで決定された照射位置条件を正確に再現するために用いられるものであり,JCDSと組み合わせて開発を行う必要があった。・・・照射室での患者照射位置固定を迅速かつ円滑に行うために,事前にセッティングのシミュレーションを行うこととした。この事前のシミュレーションをまず開頭術前に実施することにより,・・・(4) 照射時の患者の頭部位置,体位,照射台の位置等を事前に把握しておくことができる。
といった利点がある。
このシミュレーション後,患者の体位,頭部位置は,照射用の体位から,開頭手術に最適な体位に変更されることとなる。よって開頭術後,患者を照射室へ移送する前に,再びシミュレーションを実施し,照射用の体位を再現することとする。この術後のシミュレーションにより,患部が曝露した状態(実際の照射状態)での照射野を確認できるとともに,あらかじめ患者の体位を照射用体位にしておくことにより,照射室内でのセッティングを迅速に行うことができる。この術後の照射用体位の再現は,開頭前のシミュレーションによって頭部位置,患者体位,照射台の位置が把握できているため,短時間で実施することができる。」との記載及び摘記事項オの「照射室における患者セッティングでは頭部のマーキングと照射室内レーザー光を一致させることにより,シミュレーション時の照射位置が再現され,患者を照射条件に決定された照射位置(I.P.)に簡便にセッティングすることができる。」との記載からみて、甲第1号証に記載された発明は、JCDSで決定された照射位置条件を、施療室内での開頭術前のセッティングシミュレーションにおいて再現するとともに、開頭術後、患者を照射室へ移送する前に、再びシミュレーションを実施して照射用の体位を再現するものであるから、照射室において照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置を制御する制御部は、施療室内でのセッティングシミュレーション時において再現された前記患者頭部の照射位置条件を再び照射室において再現するものであることが理解できる。

e さらに、摘記事項エの「このシミュレーション後,患者の体位,頭部位置は,照射用の体位から,開頭手術に最適な体位に変更されることとなる。よって開頭術後,患者を照射室へ移送する前に,再びシミュレーションを実施し,照射用の体位を再現することとする。この術後のシミュレーションにより,患部が曝露した状態(実際の照射状態)での照射野を確認できるとともに,あらかじめ患者の体位を照射用体位にしておくことにより,照射室内でのセッティングを迅速に行うことができる。」との記載、摘記事項カの「照射台上の患者を円滑に照射位置に誘導するため,照射台は油圧駆動により天板を多軸で移動させることができるようになっている。」との記載及び摘記事項キの「患者セッティングシステムを適用した照射位置固定では,シミュレーションにより患者は事前に照射体位に固定されており,また照射台の角度,高さ等の位置情報も把握できているため,シミュレーション時の照射台の状態を再現するだけで照射位置へ誘導することが可能となった。・・・また,照射室内で患者の体位,頭部位置を変更することもなく,手際の良いセッティングを実施することが可能となった。」との記載からみて、甲第1号証に記載された発明では、患者は、天板の上で照射用体位に固定されること、施療室内での開頭術後のシミュレーション時において、患者の体位を照射用体位とし、その後患者を固定したまま照射室に移送して、中性子線の照射を実施するものであることが理解できる。

摘記事項ア-キ、認定事項a-eを踏まえると、甲1には、次の甲1発明が記載されている。

「中性子線遮蔽に覆われた室内に中性子線照射装置を備え、該中性子線照射装置により患者のホウ素化合物が取り込まれた患部に対して中性子線を照射することで治療を行うホウ素中性子捕捉療法に用いる装置であって、
前記患者を、その上で照射用体位に固定する天板と、
前記患者における前記患部の位置を検出するCTと、
前記CTの画像に基づき患者頭部の照射位置条件を決定するJCDSと、
前記中性子線照射装置に対して位置決めされる照射台と、
相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置とを備え、
天板を設置した前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置により変化させることで、施療室内でのセッティングシミュレーション時において再現された前記患者頭部の照射位置条件を再び照射室において再現する制御部と
を、備え、
前記施療室内での開頭術後のシミュレーション時において、患者の体位を照射用体位とし、その後患者を固定したまま照射室に移送して、中性子線の照射を実施するホウ素中性子捕捉療法システム。」

(2)甲2
「【0013】
患者位置設定方法の概略を、図2を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態1による患者位置設定方法の概略を説明する図である。図2(a)は準備室における患者15の位置決めを説明する図であり、図2(b)は患者15の搬送を説明する図であり、図2(c)は治療室における患者15の位置決め状態の再現を説明する図である。まず、患者15は、準備室にて、天板5に搭載され駆動装置9(9a)で高精度の位置決めを行う(位置情報決定手順)。
【0014】
患者台2(2a)は、着脱自在な天板5を複数の天板固定具6(6a、6b、6c、6d、図3(c)参照)により駆動装置9(9a)の天板支持部3(3a)に固定された状態である。患者15を患者台2(2a)の天板5に搭載して固定具4を取付け、レーザポインタによる粗据付などのセッティングを行う。次に、患者15の精密な位置決めを行う。準備室ではCT装置やX線撮像装置が設置されている。CT装置のCT画像またはX線撮像装置のX線画像を用いて、治療計画を作成する際に用いた基準CT画像の患部に合うように、駆動装置9(9a)の各軸方向を設定するモータを駆動して患者の位置決めを行う。準備室で位置決めされ、決定された患者台2(2a)の駆動装置パラメータは、ネットワークを通じて、治療室の患者台2(2b)に転送される。
【0015】
ここで、準備室の患者台2(2a)による位置決めは、治療室の患者台2(2b)におけるアイソンセンタを基準にして行われる。すなわち、準備室の患者台2aの駆動装置パラメータは、準備室の患者台2aにおける天板5上のアイソセンタが、治療室の患者台2bにおける天板5上のアイソセンタと一致するように調整されているか、または、準備室の患者台2aの駆動装置パラメータは、準備室の患者台2aにおける天板5上のアイソセンタが、治療室の患者台2bにおける天板5上のアイソセンタと一致するように、転送される駆動装置パラメータのデータをオフセット調整する。
【0016】
次に、患者15は天板5に固定された状態を保持したまま、天板5と共に搬送装置20により搬送される(患者搬送手順)。図2(b)に示すように、患者15が患者固定具4で固定された天板5を搬送装置20に載せて、治療室へ搬送する。図2(b)は、準備室から治療室へ向かう廊下等の床16(16c)を搬送して場合を示している。
【0017】
次に、患者15は、天板5に固定された状態を保持したまま、治療室の患者台2(2b)の駆動装置9(9b)に移動され、他の治療台2(2a)で位置決めされた状態を再現する(位置決め状態再現手順)。患者15は、天板5に固定された状態のまま、搬送装置20から治療室の患者台2(2b)の駆動装置9(9b)の天板支持部3(3b)に設置され、天板支持部3(3a、3b)と天板5に設けられた位置決め部により、天板5と天板支持部3(3b)の相対位置が再現される。天板5は、複数の天板固定具6(6a、6b、6c、6d)により駆動装置9(9b)の天板支持部3(3a)に固定される。その後、駆動装置9(9b)は、準備室で位置決めされた患者台2(2a)の駆動装置パラメータを取り込む。駆動装置9(9b)は、各軸方向を設定するモータを駆動して、天板5及び患者15を準備室で高精度に位置決めされた位置状態に再現する。位置決め状態が再現された後に、粒子線照射装置の照射ノズル1から荷電粒子線ビーム10を、患者15の患部に照射する。なお、位置決め部については後述する。」

「【0034】
その後、駆動装置9(9b)は、準備室で位置決めされた患者台2(2a)の駆動装置パラメータを、ネットワークを通じて取得する。取得した駆動装置パラメータに基づいて、駆動装置9(9b)は、各軸方向を設定するモータを駆動して、天板5及び患者15を準備室で高精度に位置決めされた位置状態に再現する。位置決め状態が再現された後に、粒子線照射装置の照射ノズル1から荷電粒子線ビーム10を、患者15の患部に照射する。
【0035】
実施の形態1の患者位置設定装置70は、位置決め用の部屋(準備室等)にて患部の位置を着脱自在な天板5に対して固定された患者15を、搬送装置20により固定状態を保ったまま、治療用の部屋(治療室)に移動させ、治療用の部屋に配置された患者台2の駆動装置9に天板5を移し替えることができる。駆動装置9に配置された天板固定穴13を用いて天板支持部3に天板5を固定することで、位置決め用の部屋での患者の患部位置を駆動装置9に対して高い精度で再現することが可能となる。すなわち、着脱自在な天板5と駆動装置9により構成される患者台2に対して、位置決め用の部屋での患者の患部位置を治療用の部屋においても高い精度で再現することが可能となる。位置決め用の部屋で位置決めされた患者台2(2a)の駆動装置パラメータを、ネットワークを通じて取得し、取得した駆動装置パラメータに基づいて、治療用の部屋の駆動装置9(9b)の各軸方向を設定するので、天板5及び患者15を位置決め用の部屋で高精度に位置決めされた位置状態に再現することができる。すなわち、実際に放射線を照射する際に用いる治療用の部屋の患者台2以外で患者15の位置決めを行い、患者台2の天板5に対する患者15の位置決めされた状態を保持して治療用の部屋に移動させ、治療用の部屋にて患者15の位置決め状態を再現することにより、患者15の位置設定を行うことができる。」

甲2(特に、【0013】-【0017】参照。)には、CT装置が設置された準備室から粒子線照射装置が設置された治療室に患者を搬送する際に、着脱自在な天板5に患者を搭載した上で、患者の精密な位置決めを行った後、患者は天板5に固定された状態で、天板5と共に搬送装置20により治療室に搬送され、治療室においても、患者は天板5に固定された状態のまま、搬送装置20から治療室の患者台2bに設置すること(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

(3)甲4
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、機構系の絶対精度に依存せずに、体幹部内で動き回る腫瘍の位置を実時間で、かつ自動的に算出し、腫瘍に対して選択的に大線量の照射を正確に行い、正常組織への被爆を低減できる、X線、電子線、陽子線、重粒子線等の動体追跡照射装置及びこれを用いた位置決め方法に関するものである。」

「【0030】図1において、15はライナック、16は該ライナック15より照射される治療ビーム、17は患者体内の腫瘍に埋め込まれた直径1?2mm程度のAu,Pt,或いはIr等の人体に害が少なく、かつX線の吸収が大きい材質からなる球状の腫瘍マーカ、18は体内にある腫瘍、19は患者、20はCFRP等X線吸収の少ない材質でできた天板を備えた治療台である。」

(4)追加引用例
「[0006]・・・中性子捕捉療法では、治療開始前に患部に照射する中性子の中性子線量が予め決められている。上記した従来の装置では、照射精度の向上が図られているものの、照射される部位によっては、直方体形状のコリメータと患者との間に一定の間隔が生じる。そのため、コリメータを通った中性子が、患者の体表に到達するまでに散逸する場合がある。その場合、患部以外の組織に照射される中性子線量が増えてしまう。また、時間あたりに患部に照射される中性子線量が不足することとなり、所定の中性子線量を患部に照射するのに時間を要してしまう。」

2 本件発明1についての判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点1)
中性子線照射装置の照射口と照射台との位置関係を調整するための機構に関して、本件発明1が、相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる位置調整機構に加えて、前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構を備えているのに対し、甲1発明は、相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置を備えるものの、さらに第1角度調整機構、および、第2角度調整機構を備えているか、明らかでない点。

(相違点2)
制御部による、被験者における患部の位置と中性子線の位置とを整合させるための中性子線照射装置の照射口と照射台との位置関係の調整について、本件発明1は、被験者固定載置部上における3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、位置調整機構、第1角度調整機構、および、第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、被験者固定載置部が移乗された前記照射台における3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させるものであるのに対し、甲1発明は、施療室内でのセッティングシミュレーション時において再現された患者頭部の照射位置条件を再び照射室において再現するために、天板を設置した照射台における3つの軸それぞれの方向に関する位置を、照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置により変化させるものであって、その具体的な調整については明らかでない点。

(相違点3)
制御部が、本件発明1では、患部の位置と中性子線の位置とを整合させ、且つ患部を照射口に対して可及的に接近させるものであるのに対して、甲1発明では、施療室内でのセッティングシミュレーション時において再現された患者頭部の照射位置条件を再び照射室において再現するものであって、患部を照射口に対して可及的に接近させるものであるか否か明らかでない点。

事案に鑑み、まず相違点2から検討する。
甲1発明は、施療室内でのセッティングシミュレーション時において再現された患者頭部の照射位置条件を再び照射室において再現するために、天板を設置した照射台における3つの軸それぞれの方向に関する位置を、照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置により変化させるものであるところ、より詳細には、上記摘記事項ウの「・・・事前評価に基づくBNCT実施においては,JCDSによって決定された照射位置に患者を固定のためのシステム開発が必要である。この患者のセッティングに要求される事項について,以下のとおり検討を行った。
(1)照射位置条件の正確な再現
Fig.1は,JCDSによる事前評価に基づくBNCT実施の手順を示している。JCDSを使用して,ビームの線質,頭部の照射位置等の計算条件を設定して線量計算を行い,最適な照射条件を導く。このときのJCDS上の頭部位置(ビーム孔に対する距離,角度,脳表面照射位置)が照射位置条件として設定されることとなる。この照射位置条件は,JCDS上の仮想3次元空間内のビーム孔に対する頭部位置(Ideal Position: I.P.)と実際の照射室内のビーム孔に対する位置(Real Position: R.P.)を一致させることにより,再現される。」との記載、上記摘記事項エの「(1)JCDSでの位置情報出力
JCDSによって決定された頭部照射位置(I.P.)と実際の照射室内のR.P.を一致させるためは,JCDS上の頭部位置が実際の照射室内のどの位置であるかを認識する必要がある。このため,JCDSに患者の位置情報を出力する機能を追加した。Fig.3はJCDSによる頭部位置情報の出力画面を示している。JCDSの仮想3次元空間に対して,ビーム孔の中心を基点(0,0,0)とし,炉心からビームの照射方向をX, 鉛直方向をY, 水平方向をZとし(Fig.4参照),この座標系における頭部モデル上の任意点の3次元座標を出力するようにした。この頭部3次元モデル上の任意点を位置合せ基準点として使用し,実際のセッティングを行う。この位置合せ基準点は,JCDSの頭部3次元モデル(およびCT,MRI等の医療画像)に対して,実際の患者の外観から確認可能な場所を設定する必要があり,Fig.3の例では,鼻根部,右目尻,右耳,鼻尖を位置合せ基準点として設定している。この位置情報出力例では,それぞれの位置合せ基準点の3次元座標を出力するとともに,頭部3次元モデル上にビームの中心軸線,鼻尖と鼻根部とを結ぶ直線,右耳と鼻根部とを結ぶ直線を表示している。
(2)セッティングシミュレーション
照射室での患者照射位置固定を迅速かつ円滑に行うために,事前にセッティングのシミュレーションを行うこととした。・・・
このシミュレーション後,患者の体位,頭部位置は,照射用の体位から,開頭手術に最適な体位に変更されることとなる。よって開頭術後,患者を照射室へ移送する前に,再びシミュレーションを実施し,照射用の体位を再現することとする。この術後のシミュレーションにより,患部が曝露した状態(実際の照射状態)での照射野を確認できるとともに,あらかじめ患者の体位を照射用体位にしておくことにより,照射室内でのセッティングを迅速に行うことができる。この術後の照射用体位の再現は,開頭前のシミュレーションによって頭部位置,患者体位,照射台の位置が把握できているため,短時間で実施することができる。
このシミュレーションは,後述する患者セッティングシミュレータを使って実現される。Fig.5はシミュレータの概略図であり,Fig.6はシミュレータに照射台を接続した写真である。このシミュレータには,次項のレーザー光による位置合せ手法,ビーム中心軸線マーキングを実施できる機能を備えており,患者をシミュレータ上のビーム孔に対する照射位置にセッティングすることができる。」との記載、上記摘記事項オの「患者セッティングシステムでは,上記のことを考慮した上で,JCDSが出力した位置合せ基準点をレーザー光によって垂直方向,水平方向からを指示し,患者頭部の基準点に対応する部位とレーザー光を合わせることにより,患者を照射位置に導く手法を採用した。まず患者の上方から垂直に3点以上の位置合せ基準点をレーザー光で指示し,このレーザー光と患者の基準点部位を一致させる。これによりビーム孔に対する患者の水平面上の位置が決まる。この状態で患者の側面から水平に1点以上の位置合せ基準点をレーザー光で指示し,この指示点と患者の部位を合わせることにより,患者の垂直(高さ)位置を合せることができる。この手法により患者頭部位置を3次元空間上に一義的に固定することが可能となる。(Fig.4のX-Z平面図とX-Y平面図参照)。シミュレータには,この手法を可能とする垂直,水平方向からのレーザー光発生装置が複数取り付けられている。Fig.7は,頭部ファントムに対してレーザー光による位置合せ手法を行っている様子である。
(4)ビーム中心軸線マーキング
レーザー光による位置合せ手法によって,患者はシミュレータ上の照射位置にセッティングされている。シミュレータには,ビームの中心軸線(Y=0,Z=0)を垂直方向,水平方向からレーザー光によって示することもできるため,照射位置に導かれた患者の頭部表面には,ビーム中心軸線の位置が示されている。この状態で患者頭部に対してビーム中心軸線のマーキングを施す。照射室内には,ビームの中心軸線を垂直,水平方向から指示するレーザー光発生装置を設置している(Fig.8)。照射室における患者セッティングでは, 頭部のマーキングと照射室内レーザー光を一致させることにより,シミュレーション時の照射位置が再現され,患者を照射条件に決定された照射位置(I.P.)に簡便にセッティングすることができる。Fig.9はシミュレーションによってビーム中心軸線がマーキングされた頭部ファントムを照射位置ヘセッティングしている様子である。」との記載を踏まえると、甲1発明においては、JCDS上の頭部位置を示す照射位置条件を再現するため、JCDSの仮想3次元空間の座標系において、複数の位置合わせ基準点を設定し、施療室内でのシミュレーション時にシミュレータに設置されたレーザー光と患者頭部の複数の位置合わせ基準点とを一致させ、患者頭部に対しビーム中心軸線のマーキングを施した上で、患者を照射室に移動して、頭部に施されたマーキングと照射室内に設置されたビーム中心軸線を指示する照射室内レーザー光を一致させることにより、シミュレーション時の照射位置が再現され、患者を照射位置条件に決定された照射位置にセッティングすることが開示されているものの、中性子線照射装置の照射口と照射台との位置関係を調整するための機構の制御に関して、甲1には、上記摘記事項カに「(3)油圧駆動照射台,照射台旋回装置
照射台上の患者を円滑に照射位置に誘導するため,照射台は油圧駆動により天板を多軸で移動させることができるようになっている。照射室内のビーム孔壁面には照射台を乗せてビーム孔を中心として旋回できる「照射台旋回装置」が設置されている。旋回装置と油圧駆動により照射台上の患者を円滑に照射位置に導くことができる。Fig.11は照射台の概略図と照射室内での照射台旋回装置による照射台可動範囲を示している。」と記載されているのみで具体的に記載されておらず、相違点2に係る「被験者固定載置部上における3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、位置調整機構、第1角度調整機構、および、第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、被験者固定載置部が移乗された前記照射台における3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させる」点は開示されておらず、また甲2、4、追加引用例にも開示されていない。さらに、この点が本件特許に係る出願時の技術常識であったとの証拠もない。
よって、甲1発明において、上記相違点2の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものということはできない。
そして、本件発明1は、被験者固定載置部上における3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、位置調整機構、第1角度調整機構、および、第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、被験者固定載置部が移乗された前記照射台における3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させるものであるから、照射台の位置決めをいわゆる自動的に照射室内において行うことが可能であり、あらかじめシミュレーションを行う必要がないという効果を奏するものである。
そうすると、上記相違点1及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2、4、追加引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

申立人は、令和2年7月20日付けの意見書において、上記相違点2に関し、患部の位置を整合させる場合、3次元診断装置における患部の位置座標を基に照射室における患部の位置座標を対比することで、正確な照射位置を決定することは甲1にも実質的に開示されており、さらに対比結果に基づいて各位置調整機構の作動量を決めることも当然の技術的事項であって、また位置決めを自動で行うことは医療分野のみならず、あらゆる分野において周知慣用手段である旨主張する。
しかしながら、相違点2の被験者固定載置部上における3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、位置調整機構、第1角度調整機構、および、第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、被験者固定載置部が移乗された前記照射台における3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させる点は、甲1、2、4、追加引用例には開示されておらず、また本件特許に係る出願時の技術常識であったということもできないことは上述のとおりである。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

3 本件発明2、3、5-10について
本件発明2、3、5-10は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記2のとおり、本件発明1は甲1発明及び甲2、4、追加引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3、5-10も甲1発明及び甲2、4、追加引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 まとめ
以上のとおり、本件発明1-3、5-10は、甲1発明及び甲2、4、追加引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
したがって、本件発明1-3、5-10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号違反(特許異議申立書16頁12行-18頁22行、19頁18行-20頁22行、22頁5-23行、24頁10行-26頁4行)
本件発明1、3、6、8、9は、甲1発明と実質的に同一であるから、本件発明1、3、6、8、9は特許法第29条第1項第3号の規定に違反し、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)特許法第29条第2項違反(特許異議申立書22頁24行-24頁9行)
本件発明7は、甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明7は特許法第29条第2項の規定に違反し、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲3 特公昭60-19251号公報

2 上記特許異議申立理由についての判断
(1)上記第5 2のとおり、本件発明1と甲1発明とは相違点1-3で相違し、少なくとも相違点2は実質的なものと認められるから、本件発明1は、甲1発明であるということはできない。
また、本件発明3、6、8、9は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記のとおり、本件発明1は、甲1発明であるということはできないから、本件発明3、6、8、9も甲1発明であるということはできない。

(2)上記第5 3のとおり、本件発明7は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明1は甲1発明及び甲2、4、追加引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲3には、看護設備に関し、「先ず第1図?第3図により患者搬送用クレーンについて説明すると、1は搬送時患者を上に乗せる多数のフオーク、2,3,4は同フオーク1を固定している側板、6は片持ちのフオーク1を上下に移動させるためのモータで、5はその上下移動のガイドである。7は前後方向移動レールで、フオーク1は前後方向駆動モータ8によってローラ9を介し前記レール7に沿って前後方向に移動できるようになっている。13は左右方向移動用レール12を有するレール本体であり、フオーク1は左右方向駆動モータ10によりローラ11を介しレール12に沿って左右方向に移動できるようになっている。14は前記側板2,4の角度を変えるためのモータ、15はモータ14と側板2,4とを結ぶワイヤである。」(第2欄9-23行)、「さてフオーク1に乗った患者は用便の際には便器18の上まで、モータ10の駆動によりローラ11がレール12上を第3図の右方向に転動してフオーク1が搬送されることにより運ばれ、モ-夕6の駆動によりフオーク1は下降し、患者は便器18の上に乗ることができる。便器18にはフオーク1との干渉を避けるため必要に応じ部分的に切欠き18′を入れてある。」(第3欄15-22行)との記載はあるものの、上記第5 2の相違点2に係る本件発明1の構成を何ら開示していないことは明らかである。
したがって、本件発明7も甲1発明並びに甲2-4、追加引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 小括
以上のとおり、本件発明1、3、6、8、9は特許法第29条第1項第3号に該当するものでなく、また本件発明7は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでない。
したがって、本件発明1、3、6-9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1-3、5-10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1-3、5-10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、上記第2のとおり、本件訂正が認められることにより、請求項4は削除され、本件特許の請求項4についての本件特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
よって、本件特許の請求項4についての本件特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ホウ素中性子捕捉療法システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者のホウ素化合物が取り込まれた患部或いは患部を含む広領域に対して中性子線を照射することで治療を行うホウ素中性子捕捉療法システムに関する。
【背景技術】
【0002】
被験者が載置される被験者載置部と、その被験者載置部を搬送する搬送装置とを、備えたストレッチャが知られている。斯かるストレッチャにおいては、被験者が載置された被験者載置部を前記搬送装置により搬送した後、その被験者載置部を前記搬送装置上から他の場所に移動させる場合がある。このような移動を簡便なものとする技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載されたストレッチャ等における載置台のスライド機構がその一例である。この技術によれば、搬送装置により載置台をベッド付近まで移動させた後、スライド機構によりその載置台をベッド中央部まで簡便に移動させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-105746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、中性子線を用いて癌等を治療する医療用装置が開発され、実際の治療に用いられている。斯かるホウ素中性子捕捉療法では、中性子線を照射する装置と被験者の身体との相対位置関係が治療部位の決定に関わるため、その位置決めに高い精度が要求されることに加え、治療対象となる被験者の患部に中性子線の照射口を可能な限り接近させることが求められる。更に、CTスキャナをはじめとする3次元診断装置により前記被験者における前記患部の位置検出を行った後、中性子線照射装置への移乗を行う際に、簡便且つ高い精度で前記位置決め等を実現することが求められる。しかし、前記従来の技術では、斯かるホウ素中性子捕捉療法に特有の要請を十分に満たすことができなかった。すなわち、ホウ素中性子捕捉療法に際して十分な精度で位置決めを行う技術は、未だ開発されていないのが現状である。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、ホウ素中性子捕捉療法に際して十分な精度で位置決めを行うホウ素中性子捕捉療法システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、中性子線遮蔽に覆われた室内に中性子線照射装置を備え、その中性子線照射装置により被験者の患部に対して中性子線を照射することで治療を行うホウ素中性子捕捉療法システムであって、前記被験者を載置した状態で固定する被験者固定載置部と、前記被験者における前記患部の位置を検出する3次元診断装置と、前記中性子線照射装置に対して位置決めされる照射台と、相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる位置調整機構と、前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部とを、備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
前記第1発明によれば、前記被験者を載置した状態で固定する被験者固定載置部と、前記被験者における前記患部の位置を検出する3次元診断装置と、前記中性子線照射装置に対して位置決めされる照射台と、相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる位置調整機構と、前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部とを、備えたものであることから、ホウ素中性子捕捉療法に特有の要請を十分に満たすことができる。すなわち、ホウ素中性子捕捉療法に際して十分な精度で位置決めを行うホウ素中性子捕捉療法システムを提供することができる。
【0008】
前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、前記被験者が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部を、前記3次元診断装置と前記照射台との間で移乗させる移乗装置を備えたものである。このようにすれば、ホウ素中性子捕捉療法に際して簡便な移乗を実現すると共に十分な精度で位置決めを行うことができる。
【0009】
前記第1発明又は第2発明に従属する本第3発明の要旨とするところは、前記3次元診断装置による前記患部の位置の検出に際して、前記被験者固定載置部に載置され且つ固定された前記被験者に付された、前記検出に係る位置座標に対応する目印に基づいて、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構により変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させる位置調整部を備えたものである。このようにすれば、ホウ素中性子捕捉療法に際して簡便且つ十分な精度で位置決めを行うことができる。
【0010】
(削除)
【0011】
前記第1発明から第4発明の何れかに従属する本第5発明の要旨とするところは、前記被験者固定載置部及び前記照射台は、前記被験者固定載置部が前記照射台に移乗させられた際に相互に対面させられる部分に、相互に嵌合させられる嵌合構造を備えたものである。このようにすれば、前記照射台に対する前記被験者固定載置部の位置を簡便且つ高い精度で定めることができる。
【0012】
前記第3発明に従属する本第6発明の要旨とするところは、前記3次元診断装置は、前記被験者の体内の画像を撮影する装置であり、前記目印の素材には、前記3次元診断装置により撮影された前記画像上において、前記被験者固定載置部の主要素材と前記目印とが十分に区別される素材が用いられるものである。このようにすれば、簡便且つ実用的な態様でホウ素中性子捕捉療法に係る位置決めを行うことができる。
【0013】
前記第2発明に従属する本第7発明の要旨とするところは、前記移乗装置として、前記被験者固定載置部を載置した状態で搬送する搬送装置を備え、その搬送装置は、前記被験者固定載置部を保持し、且つその被験者固定載置部を前記3次元診断装置又は前記照射台に移乗させた後に引き抜くことができる保持部を備え、前記搬送装置に設けられた昇降機構、前記3次元診断装置に設けられた昇降機構、又は前記位置調整機構を用いて、前記被験者が固定された前記被験者固定載置部を、前記搬送装置と前記3次元診断装置又は前記照射台との間で移乗させるものである。このようにすれば、前記被験者が固定された前記被験者固定載置部を、簡便且つ実用的な態様で、前記搬送装置と前記3次元診断装置又は前記照射台との間で移乗させることができる。
【0014】
前記第1発明に従属する本第8発明の要旨とするところは、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置に対して、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置が必要十分に整合していることを確認するための表示を行う位置表示部と、その位置表示部による表示に基づいて、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置に対する、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、及び前記第2角度調整機構の少なくとも1つにより調整を行う位置調整部とを備えたものである。このようにすれば、簡便且つ実用的な態様でホウ素中性子捕捉療法に係る位置決めを行うことができる。
【0015】
前記第8発明に従属する本第9発明の要旨とするところは、前記3次元診断装置は、前記被験者の体内の画像を撮影する装置であり、前記位置表示部は、前記3つの軸の方向に対応する座標系に対して、前記3次元診断装置による前記画像の撮像基準点が必要十分に整合していることを確認するための表示を行うものであり、前記位置調整部は、前記位置表示部による表示に基づいて、前記照射台における前記3つの軸の方向に対応する座標系に対する、前記3次元診断装置による前記画像の撮像基準点の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように調整を行うものである。このようにすれば、簡便且つ実用的な態様でホウ素中性子捕捉療法に係る位置決めを行うことができる。
【0016】
前記第1発明から第9発明の何れかに従属する本第10発明の要旨とするところは、前記照射台は、前記中性子線照射装置から照射される中性子線により放射化された場合において、中性子線暴露による放射化の度合いが炭素繊維強化プラスチックと同等かそれ以下である材料から構成されたものである。このようにすれば、前記照射台の材料として、中性子線により放射化し難い、或いは放射化したとしてもその放射化を十分小さな値に抑制できる材料を用いることで、患者及び医療従事者の被曝を可及的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好適な実施例であるホウ素中性子捕捉療法システムの構成の一例を概略的に説明する図である。
【図2】図1の治療システムに備えられた3次元診断装置により被験者の患部の位置が検出される様子を概略的に説明する図である。
【図3】図1の治療システムに備えられた照射台の構成を詳しく説明する斜視図である。
【図4】図1の治療システムに備えられた照射台、搬送装置、及び被験者固定載置部の構成を詳しく説明する斜視図である。
【図5】図1の治療システムに備えられた照射台、搬送装置、及び被験者固定載置部の構成を詳しく説明する斜視図である。
【図6】図1の治療システムに備えられた照射台、搬送装置、及び被験者固定載置部の構成を詳しく説明する斜視図である。
【図7】図1の治療システムに備えられた照射台の位置が変化させられる様子を例示する斜視図である。
【図8】図7に示す状態から、被験者固定載置部と照射台との嵌合位置がずらされ、y軸方向に関してオフセットされた様子を例示している。
【図9】図2の3次元診断装置により撮影される3次元画像における1断面に相当する画像を例示する図である。
【図10】図1の治療システムに備えられた中性子線照射装置による中性子線の照射に際しての位置合わせの様子を概略的に示す図である。
【図11】図3の照射台の位置調整に係る各部の移動速度を例示する図である。
【図12】図3の照射台の位置調整に係る各部のパルス数を例示する図である。
【図13】図3の照射台の位置調整において、yz軸方向に係るステップ量が一定である場合のz軸座標及びz軸方向の速度を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明に用いる図面において、各部の寸法比等は必ずしも正確には描かれていない。
【実施例】
【0019】
図1は、本発明の好適な実施例であるホウ素中性子捕捉療法システム10(以下、単に治療システム10という)の構成の一例を概略的に説明する図である。図1に示すように、本実施例の治療システム10は、例えば、中性子線遮蔽に覆われた室12内に、中性子線照射装置14及び照射台16を備えている。前記室12外に、3次元診断装置18を備えている。前記室12内外を移動し得る搬送装置20を備えている。
【0020】
前記治療システム10は、前記中性子線照射装置14により被験者8(図2等を参照)の患部或いは患部を含む広領域に対して中性子線を照射することで治療を行う。前記中性子線照射装置14は、例えば、前記被験者8に対して鉛直上方或いは水平方向等から中性子線を照射する公知の装置である。前記治療システム10による治療では、例えば、治療対象となる前記被験者8の体内に予めホウ素化合物が注入される。患部にホウ素が集積する一定時間の後に、患部或いは患部を含む広領域に対して前記中性子線照射装置14から中性子線が照射されると、その中性子線がホウ素に捕獲される。中性子線を捕獲したホウ素から発生させられるアルファ線等により、前記被験者8における腫瘍等の治療が行われる。すなわち、本実施例の治療システム10は、前記中性子線照射装置14により被験者8の患部に対して中性子線を照射することで、公知のホウ素中性子捕捉療法を実行する。
【0021】
前記治療システム10による治療では、前記中性子線照射装置14による前記被験者8に対する中性子線の照射に先立って、前記3次元診断装置18により、前記被験者8における患部の位置が検出される。前記3次元診断装置18は、前記被験者8の体内の画像を撮影する装置であり、好適には、前記被検体8の体に対して多方向からX線を照射し、その体を透過してきたX線を検出器で検出して、透過X線量の情報をコンピュータで処理して3次元画像として再構成する公知のX線CT(Computed Tomography)装置である。前記3次元診断装置18は、公知の磁気共鳴(MRI;Magnetic Resonance Imaging)装置等であってもよいが、本実施例においては、前記3次元診断装置18としてX線CT装置を備えた治療システム10について説明する。
【0022】
前記治療システム10は、その治療システム10による前記被験者8の治療において、その被験者8を載置した状態で固定する被験者固定載置部22を備えている。この被験者固定載置部22は、後述する図4等に示すように、平面視において矩形状(長方形状)である平板状の部材(天板)であり、例えば、矩形状の部材の周縁部に、被験者が載置される上面22a側に向かって突出する縁部が設けられている。すなわち、前記被験者固定載置部22は、換言すれば、平面視において矩形状である上面のない箱状部材である。前記治療システム10による前記被験者8の治療において、好適には、前記被験者8は、仰臥の状態で前記被験者固定載置部22に載置され、図示しない所定の固定具によりその被験者固定載置部22に固定される。そのように前記被験者固定載置部22に載置され且つ固定された前記被験者8に対して、前記3次元診断装置18による患部の位置の検出、前記3次元診断装置18と前記中性子線照射装置14との間の前記被験者8の移動、及び前記中性子線照射装置による前記被験者の患部に対する中性子線の照射等が行われる。
【0023】
前記照射台16は、中性子線により放射化し難い、或いは放射化したとしてもその放射化を十分小さな値に抑制できる単一材料或いは複合材料から構成されたものである。例えば、炭素繊維強化プラスチック(例えば、カーボン繊維を合成樹脂で硬化させたもの)等の材料から構成されている。斯かる材料から構成されることで、前記照射台16は、好適には、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線により放射化された場合において、1時間あたりの従事者の被曝(線量当量)が最大でも20mSv以下とされる。本実施例において、従事者とは、前記中性子線照射装置14による前記被験者8に対する中性子線の照射に際して、前記室12内において作業に従事する者であり、例えば、診療放射線技師、医師、或いは看護師等である。前記従事者は、例えば、前記中性子線照射装置14による前記被験者8に対する中性子線の照射に際して、前記被験者8が載置された前記被験者固定載置部22を前記搬送装置20から前記照射台16へ移乗させる、その照射台16付近で前記中性子線の照射に関する各種操作を行う、中性子線の照射が行われた後、前記被験者8が載置された前記被験者固定載置部22を前記照射台16から前記搬送装置20へ移乗させる等の作業に従事する。前述のような従事者を想定した場合において、例えば、前記照射台16を、前記中性子線照射装置14における照射口14oの至近距離に位置させ、その照射口14oから1時間中性子線の照射を行った場合において、前記照射台16の表面における放射化が、前記従事者の1時間あたりの被曝に換算して最大でも20mSv以下の範囲に収まる材料が選択されて用いられる。
【0024】
図2は、前記3次元診断装置18により前記被験者8の患部の位置が検出される様子を概略的に説明する図である。この図2に示すように、前記3次元診断装置18は、例えば、基台24と、その基台24に対して1方向(図2に示す例ではy軸方向)に移動させられつつ前記3次元画像を撮影する自走式撮像部26と、前記3次元画像の撮影に際して前記被験者8(被験者8が固定された被験者固定載置部22)が載置される寝台28とを、備えている。前記寝台28は、好適には、平面視において矩形状であり、その長手方向が図2に示すy軸方向となるように設けられている。前記3次元診断装置18は、前記寝台28を前記基台24に対して図2に示すy軸方向にスライド移動させるスライド機構30と、前記寝台28を前記基台24に対して図2に示すz軸方向に昇降移動させる昇降機構32とを、備えている。
【0025】
前記3次元診断装置18による3次元画像の撮影に際して、前記被験者8は、頭足方向が前記基台24に対する前記自走式撮像部26の移動方向(すなわち図2に示すy軸方向)となるように前記寝台28に仰臥させられる。すなわち、前記被験者固定載置部22に仰臥の状態で載置され且つ固定された前記被験者8の頭足方向が前記基台24に対する前記自走式撮像部26の移動方向となるように、前記被験者8が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部22が前記寝台24に載置され、前記自走式撮像部26による3次元画像の撮影が行われる。
【0026】
図3は、前記照射台16の構成を説明する斜視図である。前記照射台16は、前記室12内における前記中性子線照射装置14の近傍に設置され、その中性子線照射装置14における中性子線の照射口14oに対して位置決めされる。図3に示すように、前記照射台16は、平面視において矩形状(長方形状)である平板状の部材であり、好適には、平面視において前記被験者固定載置部22と略同じ形状に形成されたものである。前記照射台16は、例えば、炭素繊維強化プラスチック等の材料で構成されている。
【0027】
前記中性子線照射装置14における中性子線照射口14oに対して前記照射台16の位置決めを行う機構として、位置調整機構34、第1角度調整機構36、及び第2角度調整機構38を備えている。前記位置調整機構34は、相互に直交する3つの軸(並進軸)それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置14の照射口14oに対する前記照射台16の位置を変化させる。図3においては、前記3つの軸を相互に直交するx、y、z軸で示している。z軸方向が鉛直方向に相当する。前記位置調整機構34は、例えば、前記中性子線照射装置14の照射口14oに対する前記照射台16の位置を図3に示すy軸方向及びz軸方向に移動させるy-z移動用アーム40と、前記中性子線照射口14oに対する前記照射台16の位置を図3に示すx軸方向に移動させるx軸移動用可動軸42とを、備えている。
【0028】
前記第1角度調整機構36は、前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台16の角度を変化させる。例えば、図3に示すx軸と平行な軸を中心として、前記中性子線照射口14oからの中性子線の照射方向に対する前記照射台16の角度を変化させるピッチング角調整軸44を備えている。前記第1角度調整機構36による回転中心となる軸は、例えば、平面視(z軸方向に視た場合)において前記照射台16の長手方向の中央に位置するx軸に平行な軸であって、その照射台16よりもz軸方向に所定高さに位置する軸である。本実施例において、前記第1角度調整機構36により調整される角度をピッチング角という。換言すれば、前記照射台16は、前記第1角度調整機構36により前記軸まわりに回転させられることで、前記中性子線の照射方向に対するピッチング角が変化させられるように構成されている。
【0029】
前記第2角度調整機構38は、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線照射口14oからの中性子線の照射方向に対する前記照射台16の角度を変化させる。例えば、図3に示すy軸と平行であるローテーション角調整軸46を中心として、前記中性子線照射口14oからの中性子線の照射方向に対する前記照射台16の角度を変化させる。本実施例において、ローテーション角調整軸46を中心とする角度をローテーション角という。換言すれば、前記照射台16は、前記ローテーション角調整軸46を中心として回転させられることで、前記中性子線の照射方向に対するローテーション角が変化させられるように構成されている。
【0030】
前述のように、前記照射台16は、前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38を備えていることで、前記中性子線照射装置14の照射口14oに対する前記照射台16のx、y、z軸方向の位置をそれぞれ変化させられると共に、x軸に平行な軸まわりのピッチング角及びy軸に平行な軸まわりのローテーション角を変化させられるように構成されている。好適には、図3に示すように、床面と前記照射台16との間に、その床面側から前記照射台16側に向かって、前記y-z軸移動用アーム40、前記x軸移動用可動軸42、前記ピッチング角調整軸44、前記ローテーション角調整軸46の順に積み上げられている。これらy-z軸移動用アーム40等は、例えば、後述する制御部60から供給される指令に従って電動モータ等により発生させられる動力により駆動され、前記照射台16の移動を実現する。前記照射台16の上面板16aと前記ローテーション角調整軸46とは機械的に連結されている。
【0031】
図4?図8は、前記照射台16、前記搬送装置20、及び前記被験者固定載置部22の構成を詳しく説明する斜視図である。図4等に示すように、前記被験者固定載置部22及び前記照射台16は、前記被験者固定載置部22が前記照射台16に載置された際に相互に対面させられる部分に、相互に嵌合させられる嵌合構造を備えている。すなわち、前記照射台16は、前記上面板16aから突出して設けられた、その上面板16aの短軸方向(すなわち、図4に示すx軸方向)に長手状である複数の突出部48を備えている。前記被験者固定載置部22の下面には、前記複数の突出部48と嵌合させられる位置に、前記被験者固定載置部22の短軸方向(すなわち、図4に示すx軸方向)に長手状である複数の溝部50を備えている。前記被験者固定載置部22が前記照射台16に載置された際に、前記照射台16に形成された前記突出部48と、前記被験者固定載置部22に形成された前記溝部50とが相互に嵌合させられることで、前記照射台16に対する前記被験者固定載置部22の位置が定められる。前記突出部48及び前記溝部50が何れも前記被験者固定載置部22及び前記照射台16の短軸方向に長手状に構成されていることで、少なくとも前記照射台16に対する前記被験者固定載置部22の長軸方向(図4に示すy軸方向)の移動が抑制される。図8を用いて後述するように、前記突出部48と前記溝部50との嵌合位置をずらすことで、図4に示すy軸方向に関して、前記被験者固定載置部22を前記照射台16に対してオフセットできるように構成されている。
【0032】
図4においては、前記被験者固定載置部22が前記搬送装置20に載置された様子を例示している。本実施例において、前記搬送装置20は、前記被験者8が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部22を、前記3次元診断装置18と前記照射台16との間で搬送すると共に移乗させる移乗装置として機能する。図4等に示すように、前記搬送装置20は、前記被験者固定載置部22を載置した状態で保持し、且つその被験者固定載置部22を前記3次元診断装置18又は前記照射台16に移乗させた後に引き抜くことができるフォーク状の保持部52と、複数の車輪を備え、それら車輪の転動により床面上において前記搬送装置20を移動させるキャスタ部54とを、備えている。前記搬送装置20は、前記保持部52に載置された前記被験者固定載置部22を昇降させる昇降機構を備えたものであってもよい。前記搬送装置20は、その搬送装置20に設けられた昇降機構、前記3次元診断装置18に設けられた前記昇降機構32、又は前記位置調整機構34を用いて、前記被験者8が固定された前記被験者固定載置部22を、前記搬送装置20と前記3次元診断装置18又は前記照射台16との間で移乗させる。
【0033】
以下、図4?図6を用いて、前記被験者固定載置部22の、前記搬送装置20から前記照射台16への移乗について説明する。図4?図8においては、便宜上、前記被験者8が載置されていない前記被験者固定載置部22を図示しているが、前記治療システム10による実際の治療においては、前記被験者8が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部22に関して、以下に説明するような移乗が行われる。前述のように、図4においては、前記被験者固定載置部22が前記搬送装置20に載置された様子を例示している。この状態においては、前記キャスタ部54により前記搬送装置20が床面上を移動させられ、前記保持部52に保持された前記被験者固定載置部22の搬送が行われる。
【0034】
図5は、前記搬送装置20の搬送により、前記被験者固定載置部22が前記照射台16の鉛直上方に移動させられた様子を例示している。換言すれば、前記保持部52により保持された前記被験者固定載置部22の鉛直下方に、前記照射台16が位置させられた様子を例示している。ここで、図5に示すように、前記照射台16の上面板16aに形成された前記突出部48と、前記被験者固定載置部22の下面に形成された前記溝部50とが、相互に対応する位置となるように、前記照射台16に対する前記被験者固定載置部22のx軸方向及びy軸方向の位置が調整される。この状態から、前記位置調整機構34により、前記照射台16がz軸方向に上昇させられると、前記照射台16が前記被験者固定載置部22を持ち上げ、前記搬送装置20の保持部52に対して前記被験者固定載置部22が離隔させられる。
【0035】
図6は、前記被験者固定載置部22の、前記搬送装置20から前記照射台16への移乗が完了した様子を例示している。前記照射台16が前記被験者固定載置部22を持ち上げ、前記搬送装置20の保持部52に対して前記被験者固定載置部22が離隔させられた状態から、前記搬送装置20が図6に示すx軸方向に移動(退避)させられると、前記保持部52が前記被験者固定載置部22の下側から引き抜かれる。この際、前記照射台16の上面板16aに形成された前記突出部48と、前記被験者固定載置部22の下面に形成された前記溝部50とが、相互に対応する位置とされていたことで、図6に示すように、前記突出部48と前記溝部50とが相互に嵌合させられる。
【0036】
図7は、前記被験者固定載置部22を載置した前記照射台16の位置が、前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38により変化させられる様子を例示する斜視図である。図8は、図7に示す状態から、前記突出部48と前記溝部50との嵌合位置がずらされ、y軸方向に関して前記被験者固定載置部22が前記照射台16に対してオフセットされた様子を例示している。図7及び図8においては、区別のために前記複数の溝部50を、溝部50a、50b、50c、50d、50eで示している。図7及び図8に示すように、前記照射台16に載置された前記被験者固定載置部22は、締結部56により前記照射台16に対して固定される。図7に示す状態は、y軸方向に関して前記被験者固定載置部22の前記照射台16に対するオフセットが行われていない状態(y軸オフセット=0mm)を例示している。y軸方向における前記複数の溝部50相互の間隔(すなわち、前記複数の突出部48相互の間隔)が300mmである場合、前記突出部48と前記溝部50との嵌合位置を1つ分ずらす(例えば、図7において溝部50cと嵌合させられていた突出部48に、溝部50dが嵌合させられる位置とする)と、前記被験者固定載置部22が前記照射台16に対して300mmオフセット(y軸方向の位置が変更)される。
【0037】
図7及び図8では、前記中性子線照射装置14における中性子線照射口14aの中心位置をCirで示している。前記被験者固定載置部22が前記照射台16に対してオフセットされると、前記被験者固定載置部22における、前記中性子線照射口14aの中心位置がy軸方向に移動させられる。例えば、図7に示す状態では、前記中性子線照射口14aの中心位置Cirが前記溝部50bと50cとの間とされているが、その状態から前記突出部48と前記溝部50との嵌合位置を1つ分ずらすオフセットが行われた図8に示す状態では、前記中性子線照射口14aの中心位置Cirが前記溝部50cと50dとの間とされている。すなわち、前記被験者固定載置部22が前記照射台16に対して300mmオフセットされることで、前記被験者固定載置部22に対する前記中性子線照射口14aの中心位置Cirは、y軸方向に関して逆方向に300mm移動させられる。換言すれば、前記被験者固定載置部22に載置され且つ固定された被験者8に対する前記中性子線照射口14aの中心位置Cirが、y軸方向に関して移動させられる。このようにして、前記被験者8を前記被験者固定載置部22に載置した状態で固定したまま、前記前記突出部48と前記溝部50との嵌合位置をずらすことで、前記被験者8に対する前記中性子線照射口14aの中心位置Cirを調整することができる。
【0038】
図1に示すように、前記治療システム10は、制御部60を備えている。この制御部60は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより前記治療システム10に係る各種制御を実行する。前記制御部60は、例えば、着脱式のハンディターミナルを備えており、そのハンディターミナルが前記中性子線照射装置14による中性子線の照射に際しては取り外され、前記室12外へ持ち出せるように構成されている。前記制御部60は、例えば、前記中性子線照射装置14の作動及び前記3次元診断装置18の作動を制御する。前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38の少なくとも1つにより、前記中性子線照射装置14の中性子線照射口14oに対する前記照射台16の位置を変化させる制御を実行する。具体的には、前記被験者固定載置部22が移乗された前記照射台16における前記3つの軸(図3等に示すx、y、z軸)それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構34により変化させる制御を行う。前記被験者固定載置部22が移乗された前記照射台16におけるピッチング角を、前記ピッチング角調整軸44により変化させる制御を行う。前記被験者固定載置部22が移乗された前記照射台16におけるローテーション角を、前記ローテーション角調整軸46により変化させる制御を行う。以上の制御により、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記中性子線照射口14oに対して可及的に接近させる制御を行う。
【0039】
図1に示すように、前記3次元診断装置18は、その3次元診断装置18による前記3次元画像の撮影に係る座標系に対応する位置を確認するための表示を行う1対の水平方向レーザ64a、64b、及び垂直方向レーザ66を備えている。これら水平方向レーザ64a、64b及び垂直方向レーザ66は、必ずしも前記3次元診断装置18に一体的に備えられたものでなくともよく、前記3次元診断装置18が設置された室内に、その3次元診断装置18とは別体として備えられたものであってもよい。前記中性子線照射装置14は、その中性子線照射装置14における前記中性子線照射口14oから照射される中性子線の位置を確認するための表示を行う1対の水平方向レーザ68a、68b、及び垂直方向レーザ70を備えている。これら水平方向レーザ68a、68b及び垂直方向レーザ70は、必ずしも前記中性子線照射装置14に一体的に備えられたものでなくともよく、前記中性子線照射装置14が設置された室12内に、その中性子線照射装置14とは別体として備えられたものであってもよい。本実施例において、前記3次元診断装置18に備えられた前記1対の水平方向レーザ64a、64b及び垂直方向レーザ66、及び前記中性子線照射装置14に備えられた前記1対の水平方向レーザ68a、68b及び垂直方向レーザ70は、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置に対して、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置が必要十分に整合していることを確認するための表示を行う位置表示部に対応する。
【0040】
前記3次元診断装置18に備えられた前記水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66は、好適には、前記寝台28(被験者8)に対する位置を変更できる可動式の装置であり、前記制御部60等の制御装置によりその位置が制御される。好適には、後述する図9に併せて示すように、前記水平方向レーザ64a、64bの垂直方向の位置(z軸方向の位置)が変化させられると共に、前記垂直方向レーザ66の水平方向の位置(x軸方向の位置)が変化させられる。
【0041】
図9は、前記3次元診断装置18により撮影される3次元画像における1断面に相当する画像を例示する図である。図9においては、撮影された前記被験者8の体における前記位置表示部による表示位置を併せて例示している。前記1対の水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66は、前記3次元診断装置18による前記被験者8に係る3次元画像の撮影に際して、その被験者8の体に対してレーザ光を照射させることで、前記3次元画像の撮影に係る座標系に対応する位置を表示させる。図9においては、前記水平方向レーザ64aによる表示を位置72aで、前記水平方向レーザ64bによる表示を位置72bで、前記垂直方向レーザ66による表示を位置74でそれぞれ示している。前記3次元診断装置18による前記3次元画像の撮影に際して、前記1対の水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66により前記被験者8の体に表示される位置72a、72b、74は、前記3次元診断装置18の撮影に係る原点(例えばCT原点)Octに対応している。図9においては、前記検出に係る座標系を一点鎖線で示している。例えば、前記1対の水平方向レーザ64a、64bによる表示位置72a、72bを相互に結んだ直線と、その直線に垂直な直線であって前記垂直方向レーザ66による表示位置74を通る直線との交点が、前記3次元診断装置18の撮影に係る原点Octに相当する。
【0042】
前記3次元診断装置18により撮影された3次元画像において、前記被験者8の患部が検出されると、その患部の治療を行うための中性子線の照射領域を定めることができる。すなわち、検出された患部に対応して、前記中性子線照射装置14による治療計画を立てることができる。この治療計画においては、前記被験者8の体に対する、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の照射位置及び照射方向が決定される。前述のように、前記中性子線照射装置14は、好適には、前記被験者8に対して鉛直上方から中性子線を照射させる装置であるが、前記中性子線照射装置14における前記中性子線照射口14oに対する前記被験者8の体の位置及び角度等を変化させることで、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の照射位置及び照射方向を変化させることができる。
【0043】
図9においては、前記3次元画像における腫瘍中心位置Ccaを星印で示すと共に、その腫瘍中心位置Ccaにおける治療を効果的に行うための中性子線の位置に対応する前記水平方向レーザ68aによる表示を位置76aで、前記水平方向レーザ68bによる表示を位置76bで、前記垂直方向レーザ70による表示を位置78でそれぞれ示している。前記1対の水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70は、前記中性子線照射装置14による前記被験者8に対する中性子線の照射に際して、その被験者8の体に対してレーザ光を照射させることで、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置を表示させる。すなわち、前記1対の水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置76a、76b、78は、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の、前記被験者8の体に対する照射位置及び照射方向に対応している。従って、前記3次元診断装置18により撮影された3次元画像に基づいて、前記中性子線照射装置14による治療計画が立てられ、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の照射位置及び照射方向が決定されると、その中性子線の照射位置及び照射方向に対応して、前記1対の水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置76a、76b、78が定まる。図9においては、前記中性子線の位置に対応する座標系を二点鎖線で示している。
【0044】
前記3次元診断装置18により撮影された3次元画像に基づいて、前記中性子線照射装置14による治療計画が立てられ、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の照射位置及び照射方向が決定された場合、前記制御部60は、前記被験者8における前記水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66による表示位置72a、72b、74が、前記中性子線照射装置14による治療に際しての前記被験者8における前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70による表示位置76a、76b、78と一致するように、前記水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66の位置を制御する。すなわち、前記水平方向レーザ64a、64bそれぞれのz軸方向の位置を変更すると共に、前記垂直方向レーザ66のx軸方向の位置を変更し、レーザ光の照射を行う。この態様によれば、前記3次元診断装置18による診断において、検出された患部の位置に対応してその位置が変更された前記水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66の表示位置に目印を付すことで、前記中性子線照射装置14による治療に際して前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により表示されるべき位置を簡便に示すことができる。
【0045】
以上に説明したように、前記3次元診断装置18に備えられた前記1対の水平方向レーザ64a、64b及び垂直方向レーザ66、及び前記中性子線照射装置14に備えられた前記1対の水平方向レーザ68a、68b及び垂直方向レーザ70は、前記照射台16における前記3つの軸の方向に対応する座標系に対して、前記3次元診断装置18により撮影された前記3次元画像の撮像基準点が必要十分に整合していることを確認するための表示を行うものである。前記治療システム10による前記被験者8の治療において、好適には、前記3次元診断装置18による前記被験者8に係る3次元画像の撮影に際して、前記1対の水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66により前記被験者8の体に表示された前記位置72a、72b、74に、マーカ等により目印(マーキング)が付される。この目印は、好適には、人的な作業により付されるものであるが、例えば前記被験者8の体に予めレーザ光に反応して色が変わる素材を塗布しておく等の方法により、人的な作業を要することなく付されるものであってもよい。前記目印の素材には、好適には、前記3次元診断装置18により撮影された前記3次元画像上において、前記被験者固定載置部22の主要素材と前記目印とが十分に区別される素材が用いられる。
【0046】
前記治療システム10による前記被験者8の治療において、好適には、前記中性子線照射装置14による中性子線の照射に先立ち、前記3次元診断装置18により撮影された3次元画像に基づく患部の位置に対応して、前記中性子線照射装置14における前記1対の水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示されるべき前記位置76a、76b、78に、マーカ等により目印が付される。この目印の素材は、前記3次元診断装置18による診断に係る目印と同じ素材によるものであってもよいが、好適には、その材料と少なくとも視覚的に十分に区別される素材が用いられる。
【0047】
図1に示すように、前記制御部60は、位置調整部62を備えている。この位置調整部62は、前記制御部60に機能的に備えられたものであってもよいし、その制御部60とは別体の制御装置として備えられたものであってもよい。前記位置調整部62は、前記3次元診断装置18による前記患部の位置の検出に際して前記被験者8に付された、前記検出に係る位置座標に対応する目印に基づいて、前記被験者固定載置部22が移乗された前記照射台16における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構34により変化させることで、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置とを整合させる。
【0048】
前記位置調整部62は、好適には、前記中性子線照射装置14における前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示されるべき位置76a、76b、78に付された目印に基づいて、前記中性子線照射装置14による実際の治療に際して、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置が、前記目印の付された位置と合致するように位置調整を行う。具体的には、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置と、前記目印の付された位置との誤差が、規定の許容範囲内に収まるように、前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38の少なくとも1つにより調整を行う。すなわち、前記照射台16における前記3つの軸の方向に対応する座標系に対する、前記3次元診断装置18による前記3次元画像の撮像基準点の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように調整を行う。前記位置調整部62による調整は、好適には、施術者が前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置と、前記目印の付された位置とのずれを視覚的に確認しつつ人的な操作により行われるものであるが、撮像装置により前記被験者8の体を撮影し、撮影された画像における前記目印が付された位置とレーザ光の照射位置とが合致するように自動的に調整を行うものであってもよい。
【0049】
以下、前記治療システム10による具体的な治療の一例を詳細に説明する。前記治療システム10による治療では、先ず、前記3次元診断装置18により前記被験者8の体内の3次元画像が撮影され、その3次元画像に基づいて治療計画が立てられる。前記3次元診断装置18による診断では、先ず、前記3次元診断装置18における寝台28に前記被験者固定載置部22が載置される。次に、その被験者固定載置部22の上に被験者8が仰臥させられると共に、専用の固定具にて前記被験者固定載置部22に固定される。次に、前記水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66により、前記被験者8の体に対して前記3次元診断装置18の撮影開始位置(例えば、CT原点)が表示され、その表示された位置72a、72b、74に目印(マーキング)が付される。次に、前記3次元診断装置18により撮影された3次元画像から患部(例えば、腫瘍)の輪郭が抽出され、その患部の中心座標及び中性子線照射角度等の、治療に係る中性子線の位置が決定される。次に、決定された中性子線の位置に対応して、前記制御部60により、前記水平方向レーザ64a、64b及び前記垂直方向レーザ66の位置が変化させられる。これにより、前記被験者8の体表面における中性子線入射位置及び照射軸に直交する左右側面から見た腫瘍中心位置72a、72b、74(すなわち、中性子線照射装置14による治療に際しての位置76a、76b、78)が表示される。この3箇所に、新たに目印(マーキング)が付される。次に、前記3次元診断装置18による診断に係る、前記被験者固定載置部22上における患部の中心(例えば、腫瘍中心)の位置座標(例えば、xyz座標)及び前記被験者8の姿勢に関する情報(例えば、ピッチング角及びローテーション角に相当する情報)が、前記制御部60(照射台16の制御システム)に対して出力される。
【0050】
前記3次元診断装置18による診断に続いて、前記被験者8が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部22が、その被験者8が固定された状態のまま、前記3次元診断装置18から前記照射台16へ前記搬送装置20により搬送され、移乗させられる。先ず、前記3次元診断装置18における前記寝台28のy軸方向及びz軸方向の位置が、前記スライド機構30及び前記昇降機構32により移乗用の位置に移動させられる。次に、前記搬送装置20が移動させられ、フォーク状の前記保持部52が、前記被験者固定載置部22における溝部50と前記寝台28との隙間に挿し込まれる。次に、前記昇降機構32により前記寝台28がz軸方向に下降させられ、前記被験者固定載置部22が前記搬送装置20の保持部52により保持された状態とされる。次に、前記被験者固定載置部22を載置した状態で前記搬送装置20が、前記中性子線照射装置14が設置された前記室12へ移動させられる。次に、前記制御部60にて、前記3次元診断装置18による診断において出力された座標値、及び前記照射台16に対する前記被験者固定載置部22のy軸方向のオフセット位置が確認される。次に、確認されたオフセット位置に対応して、前記保持部52により保持された前記被験者固定載置部22が、前記照射台16の上方に位置させられる。次に、前記位置調整機構34により、前記照射台16がz軸方向に上昇させられる。これにより、前記被験者固定載置部22が前記照射台16上に載置され、前記突出部48と前記溝部50とが前記オフセット位置において嵌合した状態とされる。次に、前記搬送装置20が移動させられ、フォーク状の前記保持部52が前記被験者固定載置部22の下方から引き抜かれた後、前記室12外へ退出(退避)させられる。
【0051】
前記搬送装置20による前記被験者固定載置部22の前記照射台16への移乗に続いて、前記被験者8の体に付された目印(マーキング)と、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70による表示位置とに基づいて、前記中性子線照射装置14による中性子線の照射に係る位置合わせが行われる。図10は、この位置合わせの様子を概略的に示す図である。先ず、前記3次元診断装置18による撮影に係る撮像基準点(例えば、CT原点)が、前記水平方向レーザ68a、68bの表示位置を結ぶ直線と、その直線に垂直な直線であって前記垂直方向レーザ70の表示位置を通る直線との交点(以下、レーザポインタ交点という)に合致するように、前記位置調整機構34等により前記照射台16が移動させられる。次に、前記撮像基準点に対応して付された目印(マーキング)と、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70による表示位置との照合が行われ、位置がずれている場合には、前記位置調整部62による例えば人的な操作により位置調整が行われる。次に、前記3次元診断装置18による診断において出力された前記被験者8の姿勢に関する情報に基づいて、前記第1角度調整機構36及び前記第2角度調整機構38により、前記中性子線照射口14oに対する前記照射台16のピッチング角及びローリング角が変更される。以上の位置調整により、前記制御部60に出力されたデータ上における前記患部の中心位置が、前記レーザポインタ交点に合致するように前記照射台16が移動させられる。次に、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置と、前記患部に対応して前記被験者8の体に付された目印(マーキング)の位置との照合が行われ、位置がずれている場合には、前記位置調整部62による例えば人的な操作により位置調整が行われる。すなわち、前記目印の付された位置との誤差が、規定の許容範囲内に収まるように、前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38の少なくとも1つにより調整が行われる。好適には、この位置調整に係るピッチング角及びローリング角の中心(回転中心)は、前記レーザポインタ交点とされる。
【0052】
前記中性子線照射装置14による中性子線の照射に係る位置合わせに続いて、その中性子線照射装置14による中性子線の照射すなわちホウ素中性子捕捉療法が行われる。先ず、前記位置調整部62による例えば人的な操作により、前記照射台16がz軸方向に上昇させられ、前記被験者8の患部が前記中性子線照射口14oに対して可及的に接近させられる。次に、前記制御部60におけるハンディターミナルが取り外され、そのハンディターミナルと共に施術者が前記室12外へ退出(退避)させられる。次に、前記中性子線照射装置14により前記被験者8の患部に対して中性子線の照射が行われる。次に、前記搬送装置20が前記室12内へ移動させられ、前記第1角度調整機構36及び前記第2角度調整機構38等により、前記照射台16が水平に戻される。次に、前記被験者固定載置部22の下方にフォーク状の前記保持部52が挿し込まれる位置に前記搬送装置20が移動させられ、前記位置調整機構34により前記照射台16がz軸方向に下降させられる。これにより、前記被験者固定載置部22が前記搬送装置20の保持部52により保持された状態とされる。そして、前記被験者8が固定された前記被験者固定載置部22が、前記室12の外へ搬送される。
【0053】
以下、前記中性子線照射装置14による中性子線の照射に係る位置合わせ制御のアルゴリズムについて、(1)式?(13)式等を参照しつつ詳しく説明する。以下の説明は、あくまで好適な制御の一例を示すものであり、他のアルゴリズムによって同様の位置合わせ制御が実現されるものであってもよい。先ず、治療計画として、前記被験者固定載置部22上におけるCT原点及び腫瘍中心(患部中心)のxyz座標と、治療姿勢に係る情報とが与えられる。例えば、CT原点の座標として(Xct,Yct,Zct)、腫瘍中心の座標として(Xiso,Yiso,Ziso)、ピッチング角としてP0、ローリング角としてR0、及びy軸オフセット量として300×S等の情報が与えられる。
【0054】
次に、前記被験者固定載置部22に係る座標系(以下、天板座標系という)から、前記照射台16に係る座標系(以下、照射台座標系)への変換が行われる。照射台座標系から見た天板座標系の原点は、例えば(-200,300×S-850,187.75)である。従って、原点の平行移動を次の(1)式で、座標の定義が異なるために変換することを目的としたx軸まわりの90°回転を次の(2)式でそれぞれ定義すると、天板座標系におけるCT原点Mは、照射台座標系において次の(3)式のように表される。
【数1】

【数2】

【数3】

【0055】
次に、CT原点に対応する位置への前記照射台16の移動について考える。前記中性子線照射装置14による中性子線の照射時における前記照射台16の床面からの高さを1200mmとすると、照射台座標系から見たレーザポインタ交点Lは、例えば(0,500,521)である。このLを次の(4)式のように定義すると、CT原点Mをレーザポインタ交点Lへ合致させるように平行移動させる際のxyz軸制御目標値は、L-Mと表される。CT原点に対応する位置への前記照射台16の移動では、前記位置調整機構34により、その照射台16における各軸に関する位置が、この値に対応する位置に移動させられる。
【数4】

【0056】
次に、CT原点に対応する位置への前記照射台16の手動による位置調整について考える。前記照射台16におけるローテーション角調整軸46(以下、R軸という)の回転中心は、例えば原点と同じ高さとされる。前記照射台16におけるピッチング角調整軸44(以下、P軸という)の回転中心は、例えば原点から118mm鉛直上方とされている。ここで、C=(0,0,118)とし、照射台座標における各軸に係る移動を同次変換行列として次のように定義する。すなわち、平行移動を次の(5)式で、R軸回転を次の(6)式で、P軸回転を次の(7)式で、それぞれ定義すると、CT原点の手動調整にて(X1,Y1,Z1,P1,R1)の補正を実施した後のCT原点Maは、次の(8)式で表される。ここで、CT原点の計画位置からのxyz座標の誤差(Ma-M)及び角度の誤差P1、R1は、主に天板座標系のパターン認識や、前記被験者固定載置部22と前記照射台16との嵌合精度(突出部48と溝部50との嵌合に係る精度)の誤差として解釈できる。
【数5】

【数6】

【数7】

【数8】

【0057】
次に、腫瘍中心に対応する位置への前記照射台16の移動について考える。制御軸原点位置が(0,0,0,0,0)である場合の計画位置としての腫瘍中心Nは、CT原点Mと同様に、次の(9)式で表される。手動調整により、CT原点について(X1,Y1,Z1,P1,R1)の移動を行った結果として、実際の腫瘍中心が指示データ上の座標Nに位置することになる場合、この腫瘍中心に対応する座標Nを照射台原位置のときの座標に一旦戻すと、その腫瘍中心の座標Naは次の(10)式で表される。次に、この腫瘍中心Naをレーザポインタ交点Lへ合わせるときの姿勢、すなわちピッチング角P0+P1、ローテーション角R0+R1へ回転させた座標Nbは、次の(11)式で表される。P軸及びR軸に係る回転後の腫瘍中心Nbをレーザポインタ交点Lへ平行移動する際のxyz軸制御目標値は、L-Nbとなる。
【数9】

【数10】

【数11】

【0058】
次に、腫瘍中心に対応する位置への前記照射台16の手動による位置調整について考える。手動調整により、腫瘍中心の座標について(X2,Y2,Z2,P2,R2)の補正を行った場合、手動調整後の腫瘍中心Ncは、次の(12)式で表される。ここで、腫瘍中心のxyz座標の誤差(Nc-Nb)及び角度の誤差P2、R2は、主にP軸及びR軸の姿勢変更に対する前記被験者8の体位のぶれや、前記照射台16のたわみ等による誤差と解釈できる。
【数12】

【0059】
以上のようにして算出される位置への前記照射台16の移動では、先ず、前記位置調整機構34により、前記照射台16がz軸方向に上昇させられる。このz軸方向の上昇に係る制御目標値は、前記被験者8の体を前記中性子線照射口14oに可及的に接近させつつ、前記被験者8の体が前記中性子線照射口14oに接触しない高さとする必要がある。具体的には、前記中性子線照射口14oが床面から1500mm、照射台座標でz=821mmである場合、(a)腫瘍中心Ncが前記中性子線照射口14oから100mm下方となる位置、(b)前記被験者固定載置部22における四隅の最高点が前記中性子線照射口14oから200mm下方となる位置の、何れか低い方が制御目標値として設定される。好適には、前記腫瘍中心Ncは、そのz軸成分により規制される。例えば、z軸制御目標値Zmaxが、721からNcのz成分を引いた値よりも小さくなるように、すなわちZmax<721-(Ncのz成分)となるように規制される。前記腫瘍中心Ncは、前記被験者固定載置部22における四隅の最高点により規制される。例えば、原位置のときの四隅の座標Aは(±230,±1000+300×S,281)であり、P角及びR角回転後の座標Aaは、次の(13)式で表される。z軸制御目標値Zmaxが、621から4つのAaのz成分のうち最高点に相当する値よりも小さくなるように、すなわちZmax<621-(4つのAaのz成分のうち最高点)となるように規制される。
【数13】

【0060】
上記のようにして前記位置調整機構34による前記照射台16の移動が行われた後、前記位置調整部62により、前記照射台16の手動による位置調整が行われ、前記中性子線照射口14oに対する前記照射台16の位置及び前記被験者固定載置部22に固定された被験者8の姿勢が最終決定される。例えば、施術者の手動操作により、前記被験者8の体が前記中性子線照射口14oに可及的に接近する位置まで前記照射台16が上昇させられる。更に、前記3つの軸方向、P軸及びR軸まわりの回転方向の位置調整が行われ、前記被験者固定載置部22に固定された被験者8の姿勢が最終決定される。この手動調整にて(X3,Y3,Z3,P3,R3)の補正が実行される。
【0061】
以上の制御において、好適には、前記制御部60に備えられた記憶部に、制御に係る情報がログとして記憶される。例えば、所定の記憶媒体に読み込まれたデータ、CT原点の手動調整値(X1,Y1,Z1,P1,R1)、腫瘍中心の手動調整値(X2,Y2,Z2,P2,R2)、最終調整値(X3,Y3,Z3,P3,R3)、及び位置決め手順の各ステップを実行した日時等の情報が記憶される。
【0062】
図11は、前記照射台16の位置調整に係る各部の移動速度を、図12は、前記照射台16の位置調整に係る各部のパルス数を、それぞれ例示する図である。図13は、前記照射台16の位置調整において、yz軸方向に係るステップ量が一定である場合のz軸座標及びz軸方向の速度を例示する図である。図13に示すように、z軸方向の移動では、可動範囲の上方と下方とで、yz軸の動きに対応する昇降速度が約4倍程度異なる。z軸方向の高さによらずyz軸の速度を一定とする場合、前記被験者8の体がレーザポインタ交点付近となる高さ(例えば、z=200mm)で、他の軸に近い速度となるようにパルス数が設定される。z軸方向の移動に関しては、yz1、yz2のパルス数設定が整数となるような1:αの比率で設定すると、積算誤差によるy軸移動量が小さい。例えば、yz1:yz2=37:237が最適な比である。前記照射台16と前記搬送装置20との移乗における自動昇降動作においては、比較的低速でのz軸方向の移動が求められるため、それ以外の位置調整に係るz軸方向の移動速度の1/3程度の速度とされる。このようにして、前記照射台16の位置調整に係る各部の移動速度及びパルス数として、図11及び図12に示すような値が好適な値として設定される。
【0063】
本実施例によれば、前記被験者8を載置した状態で固定する被験者固定載置部22と、前記被験者8における患部の位置を検出する3次元診断装置18と、中性子線照射装置14に対して位置決めされる照射台16と、相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置14の中性子線照射口14oに対する前記照射台16の位置を変化させる位置調整機構34と、前記被験者固定載置部22が移乗された前記照射台16における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構34により変化させることで、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記中性子線照射口14oに対して可及的に接近させる制御部60とを、備えたものであることから、ホウ素中性子捕捉療法に特有の要請を十分に満たすことができる。すなわち、ホウ素中性子捕捉療法に際して十分な精度で位置決めを行うホウ素中性子捕捉療法システム10を提供することができる。
【0064】
前記被験者8が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部22を、前記3次元診断装置18と前記照射台16との間で移乗させる移乗装置としての搬送装置20を備えたものであるため、ホウ素中性子捕捉療法に際して簡便な移乗を実現すると共に十分な精度で位置決めを行うことができる。
【0065】
前記3次元診断装置18による前記患部の位置の検出に際して、前記被験者固定載置部22に載置され且つ固定された前記被験者8に付された、前記検出に係る位置座標に対応する目印に基づいて、前記被験者固定載置部22が移乗された前記照射台16における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構34により変化させることで、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置とを整合させる位置調整部62を備えたものであるため、ホウ素中性子捕捉療法に際して簡便且つ十分な精度で位置決めを行うことができる。
【0066】
前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台16の角度を変化させる第1角度調整機構36と、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台16の角度を変化させる第2角度調整機構38とを、備えたものであるため、より簡便且つ高い精度でホウ素中性子捕捉療法に係る位置決めを行うことができる。
【0067】
前記被験者固定載置部22及び前記照射台16は、前記被験者固定載置部22が前記照射台16に移乗させられた際に相互に対面させられる部分に、相互に嵌合させられる嵌合構造としての突出部48及び溝部50を備えたものであるため、前記照射台16に対する前記被験者固定載置部22の位置を簡便且つ高い精度で定めることができる。
【0068】
前記3次元診断装置18は、前記被験者8の体内の画像を撮影する装置であり、前記目印の素材には、前記3次元診断装置18により撮影された前記画像上において、前記被験者固定載置部22の主要素材と前記目印とが十分に区別される素材が用いられるものであるため、簡便且つ実用的な態様でホウ素中性子捕捉療法に係る位置決めを行うことができる。
【0069】
前記移乗装置として、前記被験者固定載置部22を載置した状態で搬送する搬送装置20を備え、その搬送装置20は、前記被験者固定載置部22を保持し、且つその被験者固定載置部22を前記3次元診断装置18又は前記照射台16に移乗させた後に引き抜くことができる保持部52を備え、前記搬送装置20に設けられた昇降機構、前記3次元診断装置18に設けられた昇降機構32、又は前記位置調整機構34を用いて、前記被験者8が固定された前記被験者固定載置部22を、前記搬送装置20と前記3次元診断装置18又は前記照射台16との間で移乗させるものであるため、前記被験者8が固定された前記被験者固定載置部22を、簡便且つ実用的な態様で、前記搬送装置20と前記3次元診断装置18又は前記照射台16との間で移乗させることができる。
【0070】
前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置に対して、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置が必要十分に整合していることを確認するための表示を行う位置表示部としての水平方向レーザ64a、64b、垂直方向レーザ66等と、その位置表示部による表示に基づいて、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線の位置に対する、前記3次元診断装置18により検出された前記被験者8における前記患部の位置の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように、前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38の少なくとも1つにより調整を行う位置調整部62とを備えたものであるため、簡便且つ実用的な態様でホウ素中性子捕捉療法に係る位置決めを行うことができる。
【0071】
前記位置表示部は、前記3つの軸の方向に対応する座標系に対して、前記3次元診断装置18による前記画像の撮像基準点が必要十分に整合していることを確認するための表示を行うものであり、前記位置調整部62は、前記位置表示部による表示に基づいて、前記照射台16における前記3つの軸の方向に対応する座標系に対する、前記3次元診断装置18による前記画像の撮像基準点の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように調整を行うものであるため、簡便且つ実用的な態様でホウ素中性子捕捉療法に係る位置決めを行うことができる。
【0072】
前記照射台16は、前記中性子線照射装置14から照射される中性子線により放射化された場合において、1時間あたりの従事者の被曝が最大でも20mSv以下の材料から構成されたものであるため、前記照射台16の材料として、中性子線により放射化し難い、或いは放射化したとしてもその放射化を十分小さな値に抑制できる材料を用いることで、患者及び医療従事者の被曝を可及的に抑制することができる。
【0073】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0074】
例えば、前述の実施例において、前記被験者8は、仰臥の状態で前記被験者固定載置部22に載置されるものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記被験者8は、横臥や腹臥等の臥位で前記被験者固定載置部22に載置延いては固定されるものであってもよい。前述の実施例において、前記3次元診断装置18は、前記基台24に対して1方向に移動させられつつ前記3次元画像を撮影する自走式撮像部26を備えたものであったが、本発明に用いられる3次元診断装置は、必ずしも自走式撮像部を備えたものでなくともよく、前記被験者8における患部の位置を検出する種々の3次元診断装置が用いられる。前述の実施例では特に言及していないが、本発明のホウ素中性子捕捉療法における中性子線としては、特定のエネルギを有する生体に安全な中性子線が好適に用いられる。
【0075】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0076】
8:被験者、10:ホウ素中性子捕捉療法システム、12:室、14:中性子線照射装置、14o:中性子線照射口、16:照射台、18:3次元診断装置、20:搬送装置(移乗装置)、22:被験者固定載置部、34:位置調整機構、36:第1角度調整機構、38:第2角度調整機構、48:突出部(嵌合構造)、50:溝部(嵌合構造)、52:保持部、60:制御部、62:位置調整部、64a、64b:水平方向レーザ(位置表示部)、66:垂直方向レーザ(位置表示部)、68a、68b:水平方向レーザ(位置表示部)、70:垂直方向レーザ(位置表示部)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子線遮蔽に覆われた室内に中性子線照射装置を備え、該中性子線照射装置により被験者のホウ素化合物が取り込まれた患部に対して中性子線を照射することで治療を行うホウ素中性子捕捉療法システムであって、
前記被験者を載置した状態で固定する被験者固定載置部と、
前記被験者における前記患部の位置を検出する3次元診断装置と、
前記中性子線照射装置に対して位置決めされる照射台と、
相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる位置調整機構と、
前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、
前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部と
を、備えたことを特徴とするホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項2】
前記被験者が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部を、前記3次元診断装置と前記照射台との間で移乗させる移乗装置を備えた
請求項1に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項3】
前記3次元診断装置による前記患部の位置の検出に際して、前記被験者固定載置部に載置され且つ固定された前記被験者に付された、前記検出に係る位置座標に対応する目印に基づいて、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構により変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させる位置調整部を備えた
請求項1又は2に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記被験者固定載置部及び前記照射台は、前記被験者固定載置部が前記照射台に移乗させられた際に相互に対面させられる部分に、相互に嵌合させられる嵌合構造を備えた
請求項1から4の何れか1項に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項6】
前記3次元診断装置は、前記被験者の体内の画像を撮影する装置であり、
前記目印の素材には、前記3次元診断装置により撮影された前記画像上において、前記被験者固定載置部の主要素材と前記目印とが十分に区別される素材が用いられる
請求項3に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項7】
前記移乗装置として、前記被験者固定載置部を載置した状態で搬送する搬送装置を備え、
該搬送装置は、
前記被験者固定載置部を保持し、且つ該被験者固定載置部を前記3次元診断装置又は前記照射台に移乗させた後に引き抜くことができる保持部を備え、
前記搬送装置に設けられた昇降機構、前記3次元診断装置に設けられた昇降機構、又は前記位置調整機構を用いて、前記被験者が固定された前記被験者固定載置部を、前記搬送装置と前記3次元診断装置又は前記照射台との間で移乗させる
請求項2に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項8】
前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置に対して、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置が必要十分に整合していることを確認するための表示を行う位置表示部と、
該位置表示部による表示に基づいて、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置に対する、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、及び前記第2角度調整機構の少なくとも1つにより調整を行う位置調整部と
を、備えた
請求項1に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項9】
前記3次元診断装置は、前記被験者の体内の画像を撮影する装置であり、
前記位置表示部は、前記3つの軸の方向に対応する座標系に対して、前記3次元診断装置による前記画像の撮像基準点が必要十分に整合していることを確認するための表示を行うものであり、
前記位置調整部は、前記位置表示部による表示に基づいて、前記照射台における前記3
つの軸の方向に対応する座標系に対する、前記3次元診断装置による前記画像の撮像基準点の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように調整を行うものである
請求項8に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項10】
前記照射台は、前記中性子線照射装置から照射される中性子線により放射化された場合において、中性子線暴露による放射化の度合いが炭素繊維強化プラスチックと同等かそれ以下である材料から構成されたものである
請求項1から9の何れか1項に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-12-25 
出願番号 特願2014-120054(P2014-120054)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61N)
P 1 651・ 113- YAA (A61N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮下 浩次  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 栗山 卓也
内藤 真徳
登録日 2018-12-07 
登録番号 特許第6442697号(P6442697)
権利者 フジデノロ株式会社 株式会社CICS
発明の名称 ホウ素中性子捕捉療法システム  
代理人 池田 光治郎  
代理人 池田 光治郎  
代理人 池田 治幸  
代理人 池田 治幸  
代理人 池田 光治郎  
代理人 池田 治幸  

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