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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C04B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C04B |
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管理番号 | 1371720 |
異議申立番号 | 異議2020-700910 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-11-26 |
確定日 | 2021-02-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6702238号発明「水硬性組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6702238号の請求項1?4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6702238号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成29年3月14日に特許出願され、令和2年5月11日にその特許権の設定登録がされ、令和2年5月27日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?4に係る特許に対して、令和2年11月26日に特許異議申立人浜俊彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 2 本件特許発明 本件特許の請求項1?4の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ボーグ式で算出されるC_(3)Sが50?65質量%、C_(2)Sが15?25質量%、C_(3)Aが9?12質量%、及びC_(4)AFが8?11質量%であり、C_(3)S中にM1相を36質量%以下含み、JCAS I-01に準拠して測定したフリーライムの含有量が0.8質量%以下であるセメントクリンカと、スラグ粉とを含み、前記スラグ粉の含有量が全質量を基準として5質量%以上49質量%以下である、水硬性組成物。 【請求項2】 全質量を基準としてSO_(3)量が1.0?3.0質量%である、請求項1に記載の水硬性組成物。 【請求項3】 ブレーン比表面積が3500cm^(2)/g以上である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。 【請求項4】 前記スラグ粉の含有量が全質量を基準として5質量%を超えて49質量%以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載の水硬性組成物。」 3 申立理由の概要 申立人は、以下の甲第1号証?甲第8号証を提出し、本件特許発明1?4は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。 (1)申立理由1 本件特許発明1?4は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2 本件特許発明1?4は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項、及び、周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)申立理由3 特許権者が審査段階で提出した令和2年2月10日付けの意見書で示した見解及び甲第8号証の記載によれば、セメントクリンカにおけるC_(3)S中のM1相の含有量は、クリンカ焼成時の熱履歴の情報、Na、S、Pの含有の有無、及び、その他成分の情報が無ければ、本願出願時の当業者の技術常識をもってしても推測することは不可能であること、並びに、特許権者自身による特許出願である甲第6号証(当審注:甲第4号証の誤記と認める。)の実施例には、MgO含有量が一定でもM1相の含有量が変動したり、MgO含有量が高いときにM1相の含有量が多くなるなど、本件特許明細書の段落【0019】の記載と異なる傾向が記載されているため、本件特許明細書におけるMgO添加量によるM1相の含有量の調整には、前提条件が必要といえるところ、そのような前提条件は一切記載されていないことから、本件特許明細書の記載のみでは、M1相の含有量を本件特許発明1の数値範囲内とするためには、当業者の過度な試行錯誤が要求されるものであって、本件特許明細書の記載は実施可能要件を充足しない。 よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (証拠方法) 甲第1号証 セメントの常識、社団法人セメント協会、2004年、第1 4頁、第20?21頁 甲第2号証 蛍光X線分析用セメント標準物質No.9高炉セメントの分 析データ、2020年11月20日 甲第3号証 蛍光X線分析用セメント標準物質601B証明書、一般社団 法人セメント協会、2014年10月 甲第4号証 特開2012-25635号公報 甲第5号証 大野麻衣子他、セメント品質予測システムの拡張と適用、 Cement Science and Concrete Technology、2014年2月 25日、第67巻、第108?115頁 甲第6号証 高炉セメント、太平洋セメント株式会社、2013年2月 甲第7号証 中川裕太他、高エーライト系混合セメントの流動性に及ぼす 遊離石灰と混合材の影響、Cement Science and Concrete Technology、2016年3月31日、第69巻、第10? 16頁 甲第8号証 市川牧彦、セメントの強さ、色に関連したクリンカー構成鉱 物のキャラクターとプロセス条件、名古屋工業大学学術機関 リポジトリ[オンライン]、1997年、第1?102頁、 インターネット<URL:http://doi.org/10.11501/3124686> 4 甲号証の記載事項及び甲1発明について (1)甲第1号証の記載事項 「4.6 セメントの規格と品質 セメントのJIS規格には、下記のように試験方法を規定するもの4種類、セメントの品質を規定するもの5種類の合計9規格がある。 ・・・ これらのうち、品質規格を整理すると表1-8のようになる。また、セメントの品質の代表的な例を表1-9および表1-10に示す。 ・・・ 」 (第20?21頁) (2)甲1発明について 上記(1)の記載事項を「普通ポルトランドセメント」に注目して整理すると、甲第1号証には、 「化学成分として、SiO_(2)を21.06%、Al_(2)O_(3)を5.15%、Fe_(2)O_(3)を2.80%、CaOを64.17%、MgOを1.46%、SO_(3)を2.02%、Na_(2)Oを0.28%、K_(2)Oを0.42%、TiO_(2)を0.26%、P_(2)O_(5)を0.17%、MnOを0.08%、Clを0.006%含有する、普通ポルトランドセメント。」 の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 5 申立理由1及び2に対する判断 (1)本件特許発明1について ア 甲1発明との対比 甲1発明の「普通ポルトランドセメント」は、本件特許発明1の「水硬性組成物」に相当する。 また、甲1発明の化学成分の各成分含有量を、本件明細書の段落【0013】に記載されたボーグ式を用いて鉱物組成に換算すると、C_(3)S量が56.75%(=4.07×64.17%-7.60×21.06%-6.72×5.15%-1.43×2.80%-2.85×2.02%)、C_(2)S量が17.66%(=2.87×21.06%-0.754×56.75%)、C_(3)A量が8.92%(=2.65×5.15%-1.69×2.80%)、C_(4)AF量が8.51%(=3.04×2.80%)になるから、甲1発明は、本件特許発明1の「ボーグ式で算出されるC_(3)Sが50?65質量%、C_(2)Sが15?25質量%、C_(3)Aが9?12質量%、及びC_(4)AFが8?11質量%であ」る「セメントクリンカ」を含むことを満足する。 そうしてみると、本件特許発明1と甲1発明とは、 「ボーグ式で算出されるC_(3)Sが50?65質量%、C_(2)Sが15?25質量%、C_(3)Aが9?12質量%、及びC_(4)AFが8?11質量%であるセメントクリンカを含む、水硬性組成物。」 の点で一致し、以下の相違点1?3で相違している。 (相違点1) 本件特許発明1のセメントクリンカは、「C_(3)S中にM1相を36質量%以下」含有しているのに対して、甲1発明では、その点が明らかでない点。 (相違点2) 本件特許発明1のセメントクリンカは、「JCAS I-01に準拠して測定したフリーライムの含有量が0.8質量%以下」であるのに対して、甲1発明では、その点が明らかでない点。 (相違点3) 本件特許発明1では、「スラグ粉の含有量が全質量を基準として5質量%以上49質量%以下」となるように「スラグ粉」を含有しているのに対して、甲1発明では、その点が明らかでない点。 イ 相違点についての検討 (ア)まず、相違点1が実質的なものかどうかを検討する。 甲第2号証は、「蛍光X線分析用セメント標準物質No.9高炉セメントの分析データ」について記載されたものであり、特許法第120条で準用する同法第151条でさらに準用する民事訴訟法第228条第4項でいう私文書に該当するところ、甲第2号証には、本人又はその代理人の署名又は押印がないから、甲第2号証が真正に成立したものと直ちに認めることはできず、そのように認めるに足りる証拠も見当たらない。そのため、甲第2号証を証拠として採用しない。仮に、甲第2号証を証拠として採用したとしても、甲第2号証には、「甲第2号証(当審注:甲第3号証の誤記と認める。)に示される蛍光X線分析用セメント標準物質No.9高炉セメントについて、特許6702238号明細書の記載に準拠して、セメントクリンカの鉱物組成を測定しました。」(第1頁第3?4行)と記載されているように、甲第2号証の第2頁の表Bに記載された「M1/C_(3)S」は、甲第3号証に記載された「蛍光X線分析用セメント標準物質No.9高炉セメント」のC_(3)S中のM1相の含有量(M1/C_(3)S)を示すものであるし、また、当該「蛍光X線分析用セメント標準物質No.9高炉セメント」が、甲1発明の「普通ポルトランドセメント」を用いたものであることを示す証拠もないから、甲1発明におけるセメントクリンカのC_(3)S中のM1相の含有量が、甲第2号証に記載された数値であるとはいえない。 また、甲第4号証の段落【0017】には、「M1相は、C_(3)Sの7種の結晶多形の一つをなす相であり、単斜晶系の結晶構造を示す。・・・クリンカー原料の焼成中には、まずR相が生成し、冷却後には、M1相及びM3相が存在し、ごくまれにM1相及びM3相と比較して極微量のT2相が生成される場合もある。また、従来、C_(3)S中のM1相の含有量は、概ね20?30質量%程度であったが、このような含有量のM1相を含むようなセメントクリンカーは、収縮低減性能が十分ではなかった。」と記載されているものの、その特許請求の範囲には、「C_(3)Sが結晶多形としてM1相を40質量%以上含有する・・・セメントクリンカーと石膏とを含む・・・普通ポルトランドセメント・・・の規格に適合する・・・セメント組成物」と記載されていることからして、普通ポルトランドセメントであれば、セメントクリンカのC_(3)S中のM1相の含有量が20?30質量%程度に必ずなっているとはいえないため、甲第4号証の記載を参酌しても、甲1発明におけるセメントクリンカのC_(3)S中のM1相の含有量が「36質量%以下」になっているとはいえない。 さらに、甲第5号証?甲第8号証をみても、甲1発明のセメントクリンカが「C_(3)S中にM1相を36質量%以下」含有していることを裏付ける証拠はない。 したがって、相違点1は実質的なものである。 (イ)次に、相違点1に係る本件特許発明1の構成の容易想到性を検討すると、甲1発明は、前記4(1)に摘示したとおり、セメントのJIS規格の品質の代表的な例として示されたものであって、セメントクリンカの鉱物組成中の結晶多形含有量の調整を目的とするものでなく、当該結晶多形含有量を変更する動機付けはないから、甲第3号証?甲第8号証に記載された技術的事項(甲第2号証に記載された技術的事項を含めても同じ。以下同様。)を参酌しても、甲1発明において、C_(3)S中のM1相の含有量が36質量%以下となるように調整することは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。 したがって、相違点1に係る本件特許発明1の構成は容易想到の事項でもない。 (ウ)上記(ア)及び(イ)のとおりであるから、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第3号証?甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)本件特許発明2?4について 本件特許発明2?4は、本件特許発明1を引用するものであって、本件特許発明1の特定事項を含むものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第3号証?甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)小括 以上で検討したとおりであるから、申立理由1及び2に理由はない。 6 申立理由3に対する判断 (1)実施可能要件適合性 甲第8号証には、「標準原料を異なる昇温速度で焼成したクリンカー中のエーライトのM_(3)相の割合および粒径の変化を図2に示す。M_(3)相の割合は、昇温速度の上昇とともに少なくとも50℃/minまでは減少し続け、図3に見られるように複屈折の低いM_(1)相を結晶の中心部にもつ累帯結晶の増加と対応した。」(第38頁第7?10行)、「図4は標準原料に少量成分を添加することによって、クリンカー中のそれらの濃度を変えた場合のM_(3)相比率の変化を示したものである。少量成分は、各陽性元素のモル濃度が等しくなるように添加した。この図では、各陽性元素の増加分がクリンカー100g当たりのモル数により示されている。クリンカー原料の1000℃から1600℃までの昇温速度は、30℃/min一定とした。図から明らかなように、MgとNaの増加はM_(3)相の生成を促進し、PおよびS、特に前者はM_(1)相の増加を促した。」(第41頁第2?7行)、及び、「標準クリンカーの場合と比較すると、昇温速度にかかわりなく、MgおよびNaの増加はM_(3)相の生成を、PおよびSの増加はM_(1)相の生成を促した。」(第44頁第6?7行)と記載されていることからして、セメントクリンカにおけるC_(3)S中のM1相の含有量は、セメントクリンカ焼成時の熱履歴や、セメントクリンカ中のMg、Na、S及びPのそれぞれの濃度に影響を受けるものの、熱履歴や他の成分添加量を一定にしていれば、1つの成分の添加量によって調整できることは、当該技術分野における技術常識といえる。 そこで検討するに、本件明細書の発明の詳細な説明には、「石灰石、珪石、石炭灰、粘土、建設発生土、汚泥、鉄源、高炉スラグ等の各原料を、JIS R5210の普通ポルトランドセメントの規格を満たし、かつ、C_(3)S中のM1相が表1に示す組成を有するように配合した。C_(3)S中のM1相の含有量(M1/C_(3)S)の調整は、酸化マグネシウム(MgO)の添加量によって行なった。配合した原料を電気炉に入れて、30分間、1000℃で第1の焼成を行った後、1000℃から1450℃まで30分かけて昇温させ、更に15分間、1450℃で焼成し、焼成後、急冷して、表1に示す鉱物組成を有する普通ポルトランドセメントクリンカを得た。」(段落【0031】)と記載され、一定の熱履歴条件下で、MgOの添加量によって、C_(3)S中のM1相の含有量の調整を行うことが記載されている。 そして、上記技術常識を踏まえると、C_(3)S中のM1相の含有量に影響のあるMgO以外の成分の添加量を一定にしつつ、MgOの添加量のみで、C_(3)S中のM1相の含有量の調整を行っていることは明らかであるから、当業者であれば、発明の詳細な説明の上記記載をみれば、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1?4を実施することができるものといえる。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものと認められる。 (2)申立人の主張について 申立人は、セメントクリンカにおけるC_(3)S中のM1相含有量は、クリンカ焼成時の熱履歴の情報、Na,S,Pの含有の有無、並びに、その他成分の情報が無ければ、本願出願時の当業者の技術常識をもってしても推測することは不可能であること、及び、本件特許明細書におけるMgO添加量によるM1相の含有量の調整には、前提条件が必要といえるところ、そのような前提条件は一切記載されていないことを根拠として、実施可能要件違反を主張している(上記3(3)参照)。 しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、熱処理条件以外の前提の明示はないものの、上記(1)で検討したとおり、技術常識を踏まえれば、C_(3)S中のM1相の含有量に影響のあるMgO以外の成分の添加量を一定としていることは明らかである。 そして、熱処理条件やC_(3)S中のM1相の含有量に影響のあるMgO以外の成分の添加量が一定であれば、MgOの特定添加量におけるC_(3)S中のM1相の含有量を基準にして、MgOの添加量の増減量によるC_(3)S中のM1相の含有量は、当業者であれば推測することができるものといえる。 よって、申立人の上記主張は採用できない。 (3)小括 以上で検討したとおりであるから、申立理由3に理由はない。 7 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-02-16 |
出願番号 | 特願2017-48773(P2017-48773) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C04B)
P 1 651・ 121- Y (C04B) P 1 651・ 113- Y (C04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大塚 晴彦、末松 佳記、村岡 一磨、小川 武 |
特許庁審判長 |
日比野 隆治 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 金 公彦 |
登録日 | 2020-05-11 |
登録番号 | 特許第6702238号(P6702238) |
権利者 | 住友大阪セメント株式会社 |
発明の名称 | 水硬性組成物 |
代理人 | 大谷 保 |