ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項2号公然実施 H01M 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M |
---|---|
管理番号 | 1371723 |
異議申立番号 | 異議2020-700584 |
総通号数 | 256 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-08-11 |
確定日 | 2021-02-26 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第6648400号発明「端子用樹脂フィルム、それを用いたタブ及び蓄電デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6648400号の請求項1?12に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件の特許第6648400号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?12に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成26年11月10日の出願であって、令和 2年 1月20日にその特許権の設定登録がされ、同年 2月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1に係る特許について、令和 2年 8月11日に特許異議申立人である小島 早奈実(以下、「申立人A」という。)により特許異議の申立てがされ、また、その請求項1?12(全請求項)に係る特許について、令和 2年 8月12日に特許異議申立人である松山 徳子(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 なお、申立人Aからは、令和 2年12月17日に上申書が提出されている。 第2 特許異議の申立てについて 1 本件特許発明 本件特許の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明12」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 蓄電デバイスを構成する金属端子の一部の外周面を覆うための端子用樹脂フィルムであって、 JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであり、 前記金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの前記端子用樹脂フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに、Lが1?5mmとなるように用いられる、端子用樹脂フィルム。 【請求項2】 2以上の層が積層された多層構造を有し、前記2以上の層のうちの少なくとも1層として、融点が200℃以上の樹脂を含む耐熱層を備える、請求項1に記載の端子用樹脂フィルム。 【請求項3】 前記耐熱層が、前記融点が200℃以上の樹脂として、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂及びポリアミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項2に記載の端子用樹脂フィルム。 【請求項4】 2以上の層が積層された多層構造を有し、前記2以上の層のうちの少なくとも1層として、架橋構造を有する樹脂を含む架橋層を備える、請求項1?3のいずれか一項に記載の端子用樹脂フィルム。 【請求項5】 2以上の層が積層された多層構造を有し、前記2以上の層のうちの少なくとも1層として、フィラー及び繊維からなる群より選択される少なくとも一種を含む強化層を備える、請求項1?4のいずれか一項に記載の端子用樹脂フィルム。 【請求項6】 2以上の層が積層された多層構造を有し、前記2以上の層のうちの少なくとも1層として、ブロックポリプロピレン及びホモポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも一種を含む層を備える、請求項1?5のいずれか一項に記載の端子用樹脂フィルム。 【請求項7】 3以上の層が積層された多層構造を有し、前記3以上の層のうちの最外層以外の少なくとも1層として、ブロックポリプロピレン及びホモポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも一種を含む中間層を備える、請求項1?6のいずれか一項に記載の端子用樹脂フィルム。 【請求項8】 示差走査熱量計により測定される溶融時の吸熱量が80mJ/g以下である、請求項1?7のいずれか一項に記載の端子用樹脂フィルム。 【請求項9】 動的粘弾性測定における、120℃での引張貯蔵弾性率をE1とし、25℃での引張貯蔵弾性率をE2としたときに、E1/E2の値が1/20以上である、請求項1?8のいずれか一項に記載の端子用樹脂フィルム。 【請求項10】 インフレーション成型により製膜されたものである、請求項1?9のいずれか一項に記載の端子用樹脂フィルム。 【請求項11】 金属端子と、該金属端子の一部の外周面を覆うように配置された請求項1?10のいずれか一項に記載の端子用樹脂フィルムと、を備え、 前記金属端子からの前記端子用樹脂フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに、Lが1?5mmである、タブ。 【請求項12】 請求項11に記載のタブを備える蓄電デバイス。」 2 異議申立理由の概要 (1)申立人Aは、証拠方法として、後記する甲第1、2号証を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 ア 申立理由A-1(新規性) 本件特許発明1は、甲第1号証に示されるとおり、本願出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第2号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。 イ 申立理由A-2(進歩性) 本件特許発明1は、甲第1号証に示されるとおりの、本願出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。 ウ 申立理由A-3(新規性) 本件特許発明1は、甲第2号証に示されるとおり、本願出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第2号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。 エ 申立理由A-4(進歩性) 本件特許発明1は、甲第2号証に示されるとおりの、本願出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:2013年1月に製造されたアイフォン5C(iphone 5C)の電池ケース 甲第2号証:2013年7月に製造されたアイポッドタッチ(ipod touch)の電池ケースの分割写真 (なお、申立人Aが提出した上記甲第1、2号証を、以下、それぞれ「甲A1」、「甲A2」という。) (2)また、申立人Bは、証拠方法として、後記する甲第1?6号証を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1?12に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 ア 申立理由B-1(新規性) 本件特許発明1?3、6?9、11、12は、甲第1号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。 イ 申立理由B-2(進歩性) 本件特許発明1?3、6?9、11、12は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。 ウ 申立理由B-3(進歩性) 本件特許発明3、4は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。 エ 申立理由B-4(進歩性) 本件特許発明1、8?10は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。 オ 申立理由B-5(新規性) 本件特許発明1、6?12は、甲第4号証に記載された発明であるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。 カ 申立理由B-6(進歩性) 本件特許発明1、6?12は、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。 キ 申立理由B-7(進歩性) 本件特許発明1?5は、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により、取り消されるべきものである。 ク 申立理由B-8(サポート要件) 本件特許発明1?12において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求している。 したがって、本件特許発明1?12は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号により、取り消されるべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:特開2012-22821号公報 甲第2号証:国際公開第2012/063764号 甲第3号証:特開2014-132538号公報 甲第4号証:特開2012-238454号公報 甲第5号証:国際公開第2014/061403号 甲第6号証:特開2008-103315号公報 (なお、申立人Bが提出した上記甲第1?6号証を、以下、それぞれ「甲B1」?「甲B6」という。) 3 当審の判断 (1)本件特許明細書等の記載 本願の願書に添付した明細書及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)には、以下の記載がある(下線は当審が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、端子用樹脂フィルム、それを用いたタブ及び蓄電デバイスに関する。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 端子用樹脂フィルムの上記はみ出し部は、金属端子に端子用樹脂フィルムを融着後、冷却するまでの間に垂れて変形してしまうという問題がある。この垂れを防ぐために、融着後、はみ出し部を固定した状態で冷却する方法もあるが、作業の効率化の観点から、融着後、はみ出し部を固定せずに空冷するだけで垂れのないタブを作製できることが求められている。そして、はみ出し部が垂れてしまうと、ハンドリング性が悪くなるほか、タブシーラントの肩部(はみ出し部の端部)を用いてタブリードの位置決めを行う際に、位置決め精度が低下し、場合によってはセンサーが反応しなくなるという問題がある。更に、上記はみ出し部が変形していると、蓄電デバイス作製時に端子用樹脂フィルムにクラックが生じ、ショートが発生する場合がある。このような端子用樹脂フィルムのはみ出し部の垂れの抑制について、これまで十分な検討がなされていなかった。また、端子用樹脂フィルムは、リール状に巻き取った状態で流通及び使用されるため、巻き取り時に折れ、シワ及びクラック等が生じることがなく、良好な巻き取り性を有していることも要求される。 【0008】 本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、端子用樹脂フィルムを金属端子に融着後、冷却するまでの間に、端子用樹脂フィルムのはみ出し部が変形することを抑制することができるとともに、巻き取り性も良好である端子用樹脂フィルム、それを用いたタブ及び蓄電デバイスを提供することを目的とする。」 ウ 「【課題を解決するための手段】 【0009】 上記目的を達成するために、本発明は、蓄電デバイスを構成する金属端子の一部の外周面を覆うための端子用樹脂フィルムであって、動的粘弾性測定における120℃での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaである、端子用樹脂フィルムを提供する。 【0010】 上記端子用樹脂フィルムによれば、120℃での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであるという構成を備えることにより、端子用樹脂フィルムを金属端子に融着後、冷却するまでの間に、端子用樹脂フィルムのはみ出し部が垂れて変形することを十分に抑制することができるとともに、端子用樹脂フィルムをリール状に巻き取る際に、折れ、シワ及びクラック等の発生を抑制でき、良好な巻き取り性を実現することができる。また、端子用樹脂フィルムのはみ出し部の変形を抑制できることから、蓄電デバイス作製時に、はみ出し部の変形に起因したクラックが端子用樹脂フィルムに生じることを抑制することができ、金属端子と包装材との間でショートが発生することを防ぐことができる。更に、端子用樹脂フィルムのはみ出し部の変形を抑制できることから、蓄電デバイス作製時のハンドリング性が向上するとともに、タブの位置決め精度も向上する。」 エ 「【0020】 本発明はまた、金属端子と、該金属端子の一部の外周面を覆うように配置された上記本発明の端子用樹脂フィルムと、を備えるタブを提供する。かかるタブは、上記本発明の端子用樹脂フィルムを用いているため、端子用樹脂フィルムのはみ出し部の変形が抑制されたものとなり、蓄電デバイス作製時に、はみ出し部の変形に起因したクラックが端子用樹脂フィルムに生じることを抑制することができ、金属端子と包装材との間でショートが発生することを防ぐことができる。更に、上記タブは、蓄電デバイス作製時のハンドリング性及び位置決め精度が良好となる。 【0021】 本発明のタブは、上記金属端子からの上記端子用樹脂フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに、Lが1mm以上であってもよい。はみ出し部の幅Lが1mm以上であると、はみ出し部が垂れにより変形しやすいが、本発明によれば、はみ出し部の幅Lが1mm以上であっても垂れの発生を十分に抑制することができる。また、はみ出し部の幅Lが1mm以上であると、タブと包装材との密着性が向上するという利点がある。 【0022】 本発明は更に、上記本発明のタブを備える蓄電デバイスを提供する。かかる蓄電デバイスは、上記本発明のタブを用いているため、金属端子と包装材との間でのショートの発生が十分に抑制されたものとなる。」 オ 「【発明の効果】 【0023】 本発明によれば、端子用樹脂フィルムを金属端子に融着後、冷却するまでの間に、端子用樹脂フィルムのはみ出し部が変形することを抑制することができるとともに、巻き取り性も良好である端子用樹脂フィルム、それを用いたタブ及び蓄電デバイスを提供することができる。」 カ 「【0026】 図1は、本発明の実施の形態に係る蓄電デバイスの概略構成を示す斜視図である。図1では、蓄電デバイス10の一例として、リチウムイオン二次電池を例に挙げて図示し、以下の説明を行う。なお、図1に示す構成とされたリチウムイオン二次電池は、電池パック、或いは電池セルと呼ばれることがある。 【0027】 図1に示した蓄電デバイス10は、リチウムイオン二次電池であり、蓄電デバイス本体11と、包装材13と、一対の金属端子14(タブリード)と、端子用樹脂フィルム16(タブシーラント)と、を有する。 【0028】 蓄電デバイス本体11は、充放電を行う電池本体である。包装材13は、蓄電デバイス本体11の表面を覆うと共に、端子用樹脂フィルム16の一部と接触するように配置されている。」 キ 「【0039】 図3は、図1に示す端子用樹脂フィルム及び金属端子のA-A線方向の断面図である。図3において、図1に示す構造体と同一構成部分には、同一符号を付す。 【0040】 図1及び図3に示すように、一対(図1の場合、2つ)の金属端子14は、金属端子本体14-1と、腐食防止層14-2と、を有する。一対の金属端子本体14-1のうち、一方の金属端子本体14-1は、蓄電デバイス本体11の正極と電気的に接続されており、他方の金属端子本体14-1は、蓄電デバイス本体11の負極と電気的に接続されている。一対の金属端子本体14-1は、蓄電デバイス本体11から離間する方向に延在しており、その一部が包装材13から露出されている。一対の金属端子本体14-1の形状は、例えば、平板形状とすることができる。」 ク 「【0045】 図3に示すように、端子用樹脂フィルム16は、金属端子14の一部の外周面を覆うように配置されている。本実施形態において、端子用樹脂フィルム16は、金属端子14の外周側面と接触する第1の最外層31と、包装材13と接触する第2の最外層32と、第1の最外層31と第2の最外層32との間に配置された中間層33と、が積層された構成とされている。なお、端子用樹脂フィルム16は、1層又は2層で構成されていてもよく、4層以上で構成されていてもよい。 【0046】 第1の最外層31は、金属端子14の外周面を覆うように配置されることで、金属端子14の周方向を封止すると共に、端子用樹脂フィルム16と金属端子14とを密着させる機能を有する。 【0047】 第1の最外層31の構成材料としては特に限定されないが、例えば、接着性に優れた樹脂を用いることが好ましい。第1の最外層31を構成する樹脂材料としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、又は、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸等をグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂等を用いることができる。 ・・・ 【0056】 第2の最外層32は、包装材13と融着されることで、包装材13内部を密封する機能を有する。第2の最外層32は、包装材13との密着性の観点から、上述した第1の最外層31と同様の構成とすることが好ましい。 【0057】 中間層33は、第1の最外層31と第2の最外層32との間に配置されている。中間層33は、一方の面が第1の最外層31で覆われており、他方の面が第2の最外層32で覆われている。 【0058】 中間層33の構成は特に限定されないが、端子用樹脂フィルム16の120℃での引張貯蔵弾性率を10MPa?1000MPaの範囲内に調整し得る構成を有していることが好ましい。特に、第1の最外層31及び第2の最外層32をポリオレフィンランダムコポリマー又はその酸変性物により形成した場合、上記引張貯蔵弾性率は低くなる傾向があるため、中間層33は上記引張貯蔵弾性率を高め得る構成を有していることが好ましい。そのため、中間層33は、ブロックポリプロピレン及びホモポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも一種を含む層であることが好ましい。」 ケ 「【0086】 上述した積層構造を有する端子用樹脂フィルム16は、動的粘弾性測定(DMA:Dynamic Mechanical Analysis)における120℃での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaである。ここで、上記引張貯蔵弾性率は、JIS K7244-4(プラスチック-動的機械特性の試験方法 引張振動-非共振法)に準拠して測定される値であり、具体的には、端子用樹脂フィルム16を幅10mm、長さ20mmに切断した試験片について、動的粘弾性装置を用いて、温度120℃、周波数1Hzの条件で測定される値(引張貯蔵弾性率E’)である。この測定方法は、試験片の上下端を保持して正弦波を加え、その応答から粘弾性を測定する方法である。この引張貯蔵弾性率が10MPa以上であると、端子用樹脂フィルム16を金属端子14に融着後、冷却するまでの間に、端子用樹脂フィルム16のはみ出し部に垂れが生じることを十分に抑制することができる。一方、この引張貯蔵弾性率が1000MPa以下であると、端子用樹脂フィルム16は十分な弾性変形領域を有することとなり、端子用樹脂フィルム16をリール状に巻き取る際に、折れ、シワ及びクラック等の発生を抑制でき、良好な巻き取り性を実現できる。これらの効果をより十分に得る観点から、端子用樹脂フィルム16の120℃での引張貯蔵弾性率は、20MPa?900MPaであることが好ましく、30MPa?500MPaであることがより好ましい。フィルムの測定方向としては、MD(流れ)方向、TD(幅)方向が一般的であるが、MD・TDの少なくとも一方、好ましくは両方が上記範囲に含まれることがより好適である。 【0087】 ここで、図4は、端子用樹脂フィルム16を金属端子14に融着してなるタブ20を示す図である。図4(a)ははみ出し部16aが変形していない状態のタブ20を示す斜視図であり、図4(b)は図4(a)のB-B線方向の断面図であり、図4(c)ははみ出し部16aに垂れが生じて変形した状態のタブ20を示す断面図である。上述した通り、端子用樹脂フィルム16の120℃での引張貯蔵弾性率が10MPa未満であると、図4(c)に示すようにはみ出し部16aに垂れが生じる。この垂れは、はみ出し部の幅Lが大きくなるほど発生しやすく、幅Lが1mm以上である場合に垂れが発生しやすい。本発明によれば、はみ出し部の幅Lが1mm以上であっても、垂れの発生を十分に抑制することができる。また、はみ出し部の幅Lが3mm以上である場合、特に垂れの発生が顕著となるが、その場合でも本発明によれば垂れの発生を十分に抑制することができる。また、はみ出し部の幅Lが1mm以上、特には3mm以上であると、タブ20と包装材13との密着性が向上するという利点がある。垂れの発生は、図4(c)に示した変形量Dにより評価することができる。変形量Dは、変形したはみ出し部16aの下面の上端d1と下端d2との高さの差により求めることができる。変形量Dが大きくなると、蓄電デバイス作製時に端子用樹脂フィルム16に応力が加わりやすくなるためクラックが生じ、金属端子14と包装材13との間の絶縁性が確保できずにショートが発生しやすくなる。特に、はみ出し部の幅Lに対する変形量Dの比(D/L)が0.5以上であると、蓄電デバイスのショートの発生率が上昇する傾向がある。」 コ 「【0105】 また、端子用樹脂フィルム16は、1層又は2層で構成されていてもよい。 【0106】 端子用樹脂フィルム16が1層(単層)構造である場合、当該1層は、上述した第1の最外層31と同様の構成とすることができる。この場合、端子用樹脂フィルム16の120℃での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaの範囲内となるように、比較的高融点のポリオレフィンランダムコポリマー又はその酸変性物を用いることが好ましい。また、端子用樹脂フィルム16の120℃での引張貯蔵弾性率を向上させる観点から、単層構造の場合の1層には、フィラー及び繊維からなる群より選択される少なくとも一種を含有させてもよい。 【0107】 端子用樹脂フィルム16が2層構造である場合、金属端子14と接触する側を第1の最外層、包装材13と接触する側を第2の最外層として、第1の最外層は上述した第1の最外層31と同様の構成とし、第2の最外層は上述した第2の最外層32又は中間層33と同様の構成とすることができる。端子用樹脂フィルム16の120℃での引張貯蔵弾性率を向上させる観点から、2層構造の場合の第2の最外層は、上述した中間層33と同様の構成とすることが好ましい。また、端子用樹脂フィルム16の120℃での引張貯蔵弾性率を向上させる観点から、2層構造の場合の第2の最外層には、フィラー及び繊維からなる群より選択される少なくとも一種を含有させてもよい。」 サ 「【0109】 (実施例1) <タブの作製> 図3を参照して、実施例1のタブ(言い換えれば、金属端子14(タブリード)及び一対の端子用樹脂フィルム16(タブシーラント)よりなる構造体)の作製方法について説明する。 【0110】 始めに、金属端子本体14-1として、幅が5mm、長さが20mm、厚さが100μmのアルミニウム製の薄板部材を準備した。次いで、該アルミニウム製の薄板部材の表面に対してノンクロム系表面処理を実施して、腐食防止層14-2(ノンクロム系表面処理層)を形成することで、アルミニウム製の薄板部材、及びノンクロム系表面処理層を含む金属端子14を作製した。 【0111】 次に、端子用樹脂フィルム16を以下の通り作製した。端子用樹脂フィルム16の作製に当たり、第1の最外層に融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレン(エチレン含有量:4質量%、重量平均分子量(Mw):16万、MFR:7g/10min、無水マレイン酸をグラフト変性)を用い、中間層に融点162℃のブロック系ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:1質量%、重量平均分子量:22万、MFR:1g/10min)を用い、第2の最外層に第1の最外層と同一の融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレンを用いた。 【0112】 次いで、住友重機モダン社製のインフレーション式フィルム押出製造装置(Co-OI型)に、第1の最外層の母材、中間層の母材、及び第2の最外層の母材をセットし、該フィルム押出製造装置により、上記3つの母材を押し出すことで積層フィルム(端子用樹脂フィルム16の母材となるフィルム)を作製した。このとき、上記積層フィルムは、第1の最外層の厚さが33μm、中間層の厚さが34μm、第2の最外層の厚さが33μmとなるように形成した。また、第1の最外層の母材、中間層の母材、及び第2の最外層の母材の溶融温度は210℃とし、ブロー比を2.2とした。 【0113】 次いで、上記積層フィルムを切断することで、幅が11mmで、長さが5mmとされた端子用樹脂フィルム16を作製した。作製した端子用樹脂フィルム16について、25℃及び120℃での引張貯蔵弾性率、及び、溶融時の吸熱量を測定した。引張貯蔵弾性率は、JIS K7244-4に準拠し、端子用樹脂フィルム16を幅10mm、長さ30mmに切断した試験片(厚さは各実施例及び比較例の厚さ)をチャック間距離20mmで保持し、動的粘弾性装置(SII社製、商品名:DMS6100)を用いて、温度120℃、周波数1Hzの条件で測定した値である。溶融時の吸熱量は、示差走査熱量計(SII社製、商品名:DSC6220)により、走査速度10℃/min、測定温度領域80℃?170℃の範囲での吸熱ピークの面積から吸熱量を求め、試料(端子用樹脂フィルム16)の質量で除した値である。 【0114】 その後、2枚の端子用樹脂フィルム16間に、金属端子14を挟み込み、2枚の端子用樹脂フィルム16を200℃、0.3MPaで5秒間加熱加圧し、金属端子14と2枚の端子用樹脂フィルム16とを熱融着させることで、金属端子14及び2枚の端子用樹脂フィルム16よりなるタブ(端子用樹脂フィルム16のはみ出し部の幅L:3mm)を作製した。このとき、端子用樹脂フィルム16は、第1の最外層が金属端子14側となるように配置した。 ・・・ 【0116】 (実施例3) 端子用樹脂フィルム16の寸法を幅15mm、長さ5mmとし、タブにおける端子用樹脂フィルム16のはみ出し部の幅Lを5mmとした以外は実施例2と同様にして、タブを作製した。」 シ 「【表1】 」 ス 「【表2】 」 セ 「【0137】 (巻き取り性の評価試験) 端子用樹脂フィルム16の巻き取り性を、以下の方法で評価した。実施例及び比較例と同様の方法で、幅500mmの長尺の端子用樹脂フィルム16(積層フィルム又は単層フィルム)を作製し、それを3インチコアに張力120Nで300m巻き取った。巻き取り後の端子用樹脂フィルム16について、折れ、シワ及びクラックの有無を目視にて観察し、折れ、シワ及びクラックのいずれも確認されずフィルム品質に変化がなかったものを「A」、折れ、シワ及びクラックのいずれかでも一つでも確認されたものを「B」と評価した。結果を表3に示す。 【0138】 (垂れの評価試験) 実施例及び比較例で作製したタブについて、端子用樹脂フィルム16の垂れを以下の方法で評価した。金属端子14に端子用樹脂フィルム16を熱融着した直後のタブについて、その金属端子14と端子用樹脂フィルム16との積層部分を金属端子14の幅と同程度の幅を有する台の上に載せることで支持し、25℃で10分間空冷した。このように、はみ出し部16aが台上から外れるようにタブを支持することで、冷却中にはみ出し部16aが台の高さよりも低い位置まで垂れることができるようにした。空冷後、図4(c)に示すように、垂れによるはみ出し部16aの変形量D(変形したはみ出し部16aの下面の上端d1と下端d2との高さの差)を測定した。結果を表3に示す。 【0139】 (絶縁性の評価試験) <評価用電池パックの作製> ・・・ 【0142】 <絶縁性の評価> 評価用電池パックを100検体準備し、耐電圧・絶縁抵抗試験機(菊水電子工業株式会社製、商品名:TOS9201)を用いて、評価用電池パックを構成する金属端子14と包装材13との間の絶縁性を測定した。該絶縁性の測定は、上記100検体に対して行い、ショートが発生した検体の数を測定した。結果を表3に示す。」 ソ 「【表3】 」 タ 「【0144】 表3に示した結果から明らかなように、実施例1?13では、変形量が低減され、ショートの発生がなく、巻き取り性も良好であった。これに対し、比較例1?6では変形量が大きくショートの発生が多かった。また、比較例7では、巻き取り性が劣っていた。」 チ 「【図1】 」 ツ 「【図3】 」 テ 「【図4】 」 (2)甲各号証の記載、及び引用発明 ア 甲A1の内容、及び引用発明 (ア)甲A1の内容 申立人Aが令和 2年 8月11日付け特許異議申立書に添付して提出した甲A1に係る電池ケースの分割写真には、以下のとおりの記載がある。 「 」(ここで、左上の写真を「写真1a」、右上の写真を「写真1b」、右下の写真を「写真1c」という。) (イ)引用発明 a 上記(ア)に摘記した甲A1に係る電池ケースの分割写真も参照すれば、甲A1に係る電池ケースについて、以下の事項が見て取れる。 (a)写真1aによれば、電池ケースの外面の一方に「01/2013」、他方に「Li-ion」と記載されていることから、当該電池ケースに係る電池パックが、2013年1月に製造されたものであり、ケース内に収容された電池がリチウムイオン電池であること。 (b)写真1bによれば、電池ケースの一端面に2つの金属端子が設けられていること。 (c)写真1b、1cによれば、上記(b)の2つの金属端子の外周面の一部がフィルム状の部材で覆われていること。 (d)写真1bによれば、上記(c)のフィルム状の部材のうち、○1?○4で示された箇所に注目すると(なお、本決定では○付き数字を○1のように記載する。以下同様。)、上記(b)の2つの金属端子が並ぶ方向と平行な当該金属端子の幅方向において、上記2つの金属端子それぞれの両端面からそれぞれ約2mmはみ出していること。 b なお、甲A1の上記フィルム状の部材は、上記(d)のとおりの約2mmはみ出している部分において、完全に折れ曲がる等、大きく変形した状態とはなっていないものの、垂れが生じているか否かは不明である。 c そこで、上記a、bを総合勘案し、そのフィルム状の部材に着目すると、甲A1からは次の発明が認定できる。 「電池を電池ケース内に収容した電池パックに用いられるフィルム状の部材であって、 上記電池パックは、2013年1月に製造されたものであり、 上記電池ケース内に収容された電池が、リチウムイオン電池であり、 上記電池ケースの一端面に2つの金属端子が設けられており、 上記2つの金属端子の外周面の一部が上記フィルム状の部材で覆われており、 上記フィルム状の部材は、上記2つの金属端子が並ぶ方向と平行な当該金属端子の幅方向において、上記2つの金属端子それぞれの両端面からそれぞれ約2mmはみ出している、 フィルム状の部材。」(以下、「甲A1発明」という。) イ 甲A2の記載、及び引用発明 (ア)甲A2の記載 甲A2には、以下の記載がある。 「 」(ここで、上記5つの写真を、その配置に応じて、 「写真2a」、「写真2b」、 「写真2c」、 「写真2e」 「写真2d」、という。) (イ)引用発明 a 上記(ア)に摘記した記載からは、甲A2に係る電池ケースについて、以下の事項が見て取れる。 (a)写真2a、2bによれば、それぞれ、電池ケースの外面の一方に「07/2013」、他方に「Li-ion」と記載されていることから、当該電池ケースに係る電池パックが、2013年7月に製造されたものであり、ケース内に収容された電池がリチウムイオン電池であること。 (b)写真2c、2d、2eによれば、電池ケースの一端面に2つの金属端子が設けられていること。 (c)写真2cによれば、上記(b)の2つの金属端子の外周面の一部が灰白色のフィルム状の部材で覆われていること。 (d)写真2cによれば、上記(c)のフィルム状の部材のうち、○1?○4で示された箇所に注目すると、上記(b)の2つの金属端子が並ぶ方向と平行な当該金属端子の幅方向において、上記2つの金属端子それぞれの両端面からそれぞれ約1mmはみ出していること。 b なお、甲A2の上記フィルム状の部材は、上記(d)のとおりの約1mmはみ出している部分において、完全に折れ曲がる等、大きく変形した状態とはなっていないものの、垂れが生じているか否かは不明である。 c そこで、上記a、bを総合勘案し、そのフィルム状の部材に着目すると、甲A2からは次の発明が認定できる。 「電池を電池ケース内に収容した電池パックに用いられるフィルム状の部材であって、 上記電池パックは、2013年7月に製造されたものであり、 上記電池ケース内に収容された電池が、リチウムイオン電池であり、 上記電池ケースの一端面に2つの金属端子が設けられており、 上記2つの金属端子の外周面の一部が上記フィルム状の部材で覆われており、 上記フィルム状の部材は、上記2つの金属端子が並ぶ方向と平行な当該金属端子の幅方向において、上記2つの金属端子それぞれの両端面からそれぞれ約1mmはみ出している、 フィルム状の部材。」(以下、「甲A2発明」という。) ウ 甲B1の記載、及び引用発明 (ア)甲B1の記載 本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B1には、「二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。 a 「【請求項1】 二次電池の正極または負極に接続された金属端子を被覆する単層または積層された二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムにおいて、 前記樹脂フィルムを構成する少なくとも1層の樹脂のメルトフローレートが7g/10min以下であることを特徴とする二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム。」 b 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、架橋の様な工程の追加を必要とせず、リードとシーラントの熱接着時の形状安定性を向上させるとともに、接着性も確保可能な二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムの提供を目的とする。」 c 「【0018】 図4は、タブの一例の断面図である。接着層41および耐熱層42が交互に積層されてなる本発明のシーラントにより、リード43が被覆されている。」 d 「【実施例1】 【0020】 図3に示したような、耐熱層32を接着層31で挟んだ3層構成のフィルムを作成した。耐熱層32はホモポリマーのポリプロピレンを用いた。融点は160℃であり、MFRは3g/10minである。接着層31はポリプロピレンに無水マレイン酸をグラフト変性させた樹脂を使用した。融点は140℃であり、MFRは耐熱層32と同様に3g/10minである。上記樹脂を用いた耐熱層32の厚みを40μmとし、接着層31の1層あたりの厚みを30μmとして、総厚100μmのシーラントを押し出し成型にて作成した。上記各シーラントを9mm×20mmに切出し、2枚のシーラントでリードをはさみ、加圧しながらフィルムとリードとを190℃、3秒で熱接着してタブを製作した。リードは軟質アルミニウムで、寸法は5mm×30mm、厚みは100μmを用いた。」 e 「【図3】 」 f 「【図4】 」 (イ)引用発明 そこで、上記(ア)に摘記した記載を総合勘案し、特に、実施例1の図3に示される3層構成(31/32/31)のフィルムが、甲B1の請求項1に係る「金属端子被覆樹脂フィルム」の実施例であり、この3層構成の金属端子樹脂フィルムは、図4においてタブ43を被覆する3層構成(41/42/41)のシーラントとして使用され得るものであること、また、耐熱層32は耐熱層42に相当し、接着層31は接着層41に相当することを考慮すると、図4のタブに適用された実施例1のフィルムが想定できることから、甲B1には、次の発明が記載されていると認められる。 「二次電池の正極または負極に接続された金属端子を被覆する積層された二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムであって、 上記樹脂フィルムは、耐熱層32、42を接着層31、41で挟んだ3層構成のフィルムであり、 上記耐熱層32、42は、融点が160℃であり、MFRが3g/10minである、ホモポリマーのポリプロピレンを用いたものであり、 上記接着層31、41は、融点が140℃であり、MFRが3g/10minである、ポリプロピレンに無水マレイン酸をグラフト変性させた樹脂を用いたものであり、 上記耐熱層32、42の厚みを40μmとし、上記接着層31、41の1層あたりの厚みを30μmとして、総厚100μmのシーラントを押し出し成型にて作成し、上記各シーラントを9mm×20mmに切出し、 2枚の上記シーラントで、寸法5mm×30mm、厚み100μmの軟質アルミニウムのリードをはさみ、加圧しながらフィルムとリードとを190℃、3秒で熱接着してタブを製作するためのシーラントとして使用され得る、 上記二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム。」(以下、「甲B1発明」という。) エ 甲B2の記載、及び引用発明 (ア)甲B2の記載 本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B2には、「封止フィルムの製造方法および封止フィルム」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。 a 「[0001] 本発明は、袋体に収納される二次電池やキャパシタ等の発電要素の電極を封止する封止フィルムの製造方法および封止フィルムに関する。」 b 「[0009] 上記背景に鑑みてなされた本発明は、入手の容易な材料を用いて、電極の厚み方向の周囲に隙間なく樹脂を回り込ませることが容易で、かつ簡素な工程で耐熱層と電極接着層を高い接着強度で直接積層が可能な、耐熱性と封止性に優れた封止フィルムの製造方法およびこの製造方法による封止フィルムを提供する。」 c 「[0017] 以下、実施の形態に基づいて、本発明を詳しく説明する。 図1は、本発明の封止フィルム1の概略構成を示す断面図である。 図2は、図1に示す封止フィルム1を、袋体のラミネートフィルム20と電極11との間に介在させて溶着した状態を示し、電極11の長手方向に沿う断面図である。 図3Aは、図1に示す封止フィルム1を、電極11に接着した封止フィルム付電極10を示す斜視図である。図3Bは、同封止フィルム付電極10を示す電極11の長手方向に直交する方向での断面図である。 [0018] 本発明の封止フィルム1は、袋体に収納される発電要素の電極と袋体の端縁との間に挟み込まれる。このフィルムの基本的な層構成は、図1および図2に示すように、電極接着層2と耐熱層3が積層された少なくとも2層からなる積層構造を有する。本形態例の封止フィルム1は、基本的な層構成の耐熱層3に、さらに袋体の最内層のシーラント22と熱溶着されるシーラント4が直接積層されている。・・・」 d 「[0044] 以下に示す樹脂を用いて表1に示す封止フィルム1の実施例および比較例を作製した。 樹脂A:ランダムPPに無水マレイン酸をグラフト重合した無水マレイン酸変性PP(MFR2.4g/10分(230℃)、融点143℃) 樹脂B 樹脂B-1:エチレン比率48mol%のEVOH(MFR15g/10分(230℃)、融点160℃) 樹脂B-2:エチレン比率32mol%のEVOH(MFR3.6g/10分(230℃)、融点183℃) 樹脂B-3:ナイロン6 (相対粘度3.37、融点220℃) 樹脂B-4:ナイロン6 (相対粘度4.08、融点220℃) 樹脂B-5:グリシジルメタクリレート含有率6wt%のE-GMA共重合体(MFR3g/10分(190℃)、融点105℃) 樹脂D 樹脂D-1:ランダムPPに無水マレイン酸をグラフト重合した無水マレイン酸変性PP(MFR7.5g/10分(230℃)、融点135℃) 樹脂D-2:ランダムPPに無水マレイン酸をグラフト重合した無水マレイン酸変性PP(MFR7.0g/10分(230℃)、融点140℃) 樹脂E:ブロックPP(MFR2.3g(230℃)/10分、融点163℃) [0045]<実施例1?15> 樹脂Aと樹脂Bとを表1に示す配合比で押出機のホッパーに入れ、表1に示す押出温度で樹脂Cに変性させつつ押し出し、別の押出機から押し出した樹脂Dと共押出Tダイ内で積層して封止フィルム1の実施例1?15をキャスト成形した。 表1の層構成の欄が3層の実施例においては、共押出キャスト成形に際し、さらに別の押出機から樹脂Eを押し出して共押出積層した。また、表1の着色剤の欄が3部の実施例においては、樹脂Aと樹脂Bを配合するに際し、PPベースの顔料マスターバッチ3重量部を加えた。 樹脂Dと樹脂Eの押出温度は、いずれも240℃とした。 [0046] この様にして、40μmの電極接着層2と表1の耐熱層の欄に示す厚みの耐熱層3からなる2層構造の積層フィルムと20μmのシーラント4が積層された3層構造の積層フィルムを成形した。この積層フィルムを幅25mmにスリットし、封止フィルム1の実施例1?15を作製した。」 e 「[0048] 」 f 「[請求項8] 袋体に収納される発電要素の電極と袋体の端縁との間に挟み込まれる封止フィルムであって、 カルボン酸がグラフト重合された酸変性ポリオレフィン樹脂Aと樹脂Aのカルボキシル基と反応しうる官能基を有する樹脂Bの両者を溶融して混練することで、樹脂Aのカルボキシル基と樹脂Bの官能基とを化学結合させて変性させた樹脂Cからなる耐熱層が、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂Dからなる電極接着層に直接積層された積層構造を有する封止フィルム。」 g 「[図2] 」 h 「[図3A] 」 i 「[図3B] 」 j 上記h、iの記載からすると、電極11の一部の外周面が一対の封止フィルム1、1で覆われるとともに、上記封止フィルム1、1の端部が上記電極11の端部から所定寸法はみ出していることが見て取れる。 (イ)引用発明 そこで、上記(ア)に摘記した記載等を総合勘案し、特に実施例11に着目すると、甲B2には、次の発明が記載されていると認められる。 「袋体に収納される発電要素の電極11と袋体のラミネートフィルム20の端縁との間に挟み込まれる封止フィルム1であって、 上記封止フィルム1は、ランダムPPに無水マレイン酸をグラフト重合した無水マレイン酸変性PP(MFR2.4g/10分(230℃)、融点143℃)の樹脂Aと、樹脂Aのカルボキシル基と反応しうる官能基を有する融点220℃のナイロン6である樹脂B-3の両者を溶融して混練することで、樹脂Aのカルボキシル基と樹脂Bの官能基とを化学結合させて変性させた樹脂Cからなる耐熱層3が、ランダムPPに無水マレイン酸をグラフト重合した無水マレイン酸変性PP(MFR7.5g/10分(230℃)、融点140℃)の樹脂D-1からなる電極接着層2に直接積層され、さらにシーラント4が積層された3層構造を有し、 上記電極11の一部の外周面が一対の封止フィルム1、1で覆われるとともに、上記封止フィルム1、1の端部が上記電極11の端部から所定寸法はみ出している、 封止フィルム。」(以下、「甲B2発明」という。) オ 甲B3の記載、及び引用発明 (ア)甲B3の記載 本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B3には、「二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムおよびその製造方法ならびに電池パック」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。 a 「【請求項1】 二次電池の正極または負極に接続される金属端子を被覆する積層された二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムであって、 前記樹脂フィルムを構成する少なくとも1層の樹脂のメルトフローレートを0.1g/10min以上2.5g/10min以下の範囲内としたことを特徴とする二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム。」 b 「【0001】 本発明は、加熱時の形状安定性と接着性に優れ、絶縁性も確保できる二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムおよびその製造方法ならびにその二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムを用いた電池パックに関する。」 c 「【発明が解決しようとする課題】 【0011】 そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、リード端部の充填性、密着性、絶縁性、シーラントの形状維持性を確保できる、総合的に性能の優れた二次電池用金属端子被覆樹脂フィルムの提供を目的とする。」 d 「【0023】 以下、本発明の実施形態に係るタブ20について詳細に説明する。図3(a)、(b)は、タブ20の一例を示す断面図である。図3(a)、(b)に示すように、タブ20は、3層構成のシーラント24とリード金属層26とが耐腐食保護層25を介して接着されている。ここで、リード金属層26と耐腐食保護層25とを含んだ部材をリード27と呼ぶ。シーラント24は、リード27から遠い方からシーラントスキン層(以下、単に「スキン層」ともいう。)21、シーラントコア層(以下、単に「コア層」ともいう。)22、シーラントスキン層(以下、単に「スキン層」ともいう。)23となっている。」 e 「【実施例】 【0041】 以下に本発明の実施例を示すが、これに限定されるわけではない。実施例、比較例の共通条件を以下に示す。 (1)タブ20の作製 リード27としては、幅5mm、長さ30mm、厚さ100μmのものを用いた。材質は、正極をアルミニウム、負極をニッケルとした。正負極とも、ノンクロム系表面処理を行った。 シーラント24の組成、膜厚等は各実施例で詳細に示すが、寸法としては幅15mm、長さ10mmのものを用いた。シーラント24、リード27、シーラント24の順に積層し、融着温度150℃、融着時間10secにて融着を行った。」 f 「【0043】 [実施例1] スキン層Aとスキン層Bを同一のものを用い、2種3層のインフレーション押し出し(以下、「インフレ法」ともいう。)にて、シーラントを作製した。ここで、スキン層A、Bは、上述の実施形態のスキン層21、23に対応するものである。スキン層A、BにMFR15g/10min、融点140℃の酸変性ポリプロピレン(PPa)を用い、コア層にMFR1.0g/10min、融点160℃のポリプロピレン(PP)を用いた。溶融温度を210℃、ブロー比を2.2とし、膜厚が45/60/45μm(スキン層A/コア層/スキン層B)の総厚150μmとなるように製膜を行った。」 g 「【図3】 」 (イ)引用発明 そこで、上記(ア)に摘記した記載を総合勘案し、特に、タブ20を作製するために用いられる実施例1のシーラントに着目すると、甲B3には、次の発明が記載されていると認められる。 「リード金属層26と耐腐食保護層25とを含んだ部材であるリード27に接着されてタブ20を作製するために用いられる3層構成のシーラント24であって、 上記リード27は、二次電池の正極または負極に接続される金属端子であり、幅5mm、長さ30mm、厚さ100μmのものを用い、 上記シーラント24は、スキン層A、BにMFR15g/10min、融点140℃の酸変性ポリプロピレン(PPa)を用い、コア層にMFR1.0g/10min、融点160℃のポリプロピレン(PP)を用いて、溶融温度を210℃、ブロー比を2.2とし、膜厚が45/60/45μm(スキン層A/コア層/スキン層B)の総厚150μmとなるように2種3層のインフレーション押し出しにより製膜を行って作製したものであり、 幅15mm、長さ10mmの寸法の上記シーラント24を用い、 上記シーラント24、上記リード27、上記シーラント24の順に積層し、融着温度150℃、融着時間10secにて融着を行ってタブを作製するために用いられる、 上記シーラント24。」(以下、「甲B3発明」という。) カ 甲B4の記載、及び引用発明 (ア)甲B4の記載 本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B4には、「二次電池用電極端子」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。 a 「【0009】 本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、製造コストの増加を招くことなく、水分に対する密封性を確保することが可能な二次電池用電極端子を提供することを目的とする。」 b 「【0018】 以下、本発明の実施形態に係る二次電池用電極端子30(以下、単に電極端子30と称する。)について図面を参照して詳細に説明する。 図1に示すように、電極端子30は、包装材10(図2参照)の内部に封止された電池要素(図示)省略から電力を取り出す役割を有するものである。この電極端子30はその一部が包装材10の外部に露出するように該包装材10によって電池要素と一体的に封止されている。 ・・・ 【0037】 <二次電池用電極端子> 本実施形態の電極端子30は上記包装材10の内層16が電極端子30に接触するように該包装材10によって挟持された状態で電池要素ごと包装材10内に封止される。なお、包装材10は熱接着されることによって電極端子30を封止する。 この電極端子30は、電池要素に電気的に接続された金属端子31と、該金属端子31を挟持する一対の樹脂フィルム35と、これら一対の樹脂フィルム35を互いに接着する樹脂封止層34とを備えている。 ・・・ 【0043】 <樹脂フィルム> 樹脂フィルム35は、金属端子31を該金属端子31の延在方向に直交する方向、即ち、金属端子31の厚み方向両側から挟み込むようにして一対が設けられており、金属端子31の形状に従って屈曲した形状をなしている。これら一対の樹脂フィルム35は、金属端子31の厚み方向の寸法の略中間位置において、金属端子31の幅方向に延びる面を境界として互いに接着されている。」 c 「【0053】 <電極端子の作成方法> 上述した電極端子30を作成するには、まず、金属端子31の厚み方向両側に一対の樹脂フィルム35を配置するとともに、一対の樹脂フィルム35同士が接着する部分に樹脂封止層34を配置する。その後、加熱板によって金属端子31の厚み方向両側から樹脂フィルム35ごと挟み込み、一対の樹脂フィルム35を樹脂封止層34を介して接着させることで、これら一対の樹脂フィルム35内に金属端子31を封止する。」 d 「【実施例】 【0061】 以下に本発明の実施例を示すが、これに限定されるわけではない。 【0062】 <サンプル共通条件> 金属端子31として、幅60mm、長さ50mm、厚み0.15mm、0.2mmのアルミ製の金属端子31を使用した。この金属端子31の端面にはバリ取りのみを実施し、R面取りやテーパー処理は行っていない。 樹脂フィルム35における接着樹脂層32としては融点が140℃、メルトフローレート(MFR)が14g/10minであるマレイン酸変性ポリプロピレンを用いた。接着樹脂層32の厚みは40μmとし、外寸を80mm×15mmとした。 【0063】 耐熱樹脂層33としては融点が160℃、MFRが1.0g/10minであるブロックポリプロピレンを用いた。この耐熱樹脂総の厚みは60μmとし、外寸を接着樹脂層32と同じく80mm×15mmとした。 これらの接着樹脂層32と耐熱樹脂層33をインフレ法により接着樹脂層32/耐熱樹脂層33/接着樹脂層32の順に積層し、総厚100μmの樹脂フィルム35とした。 樹脂封止層34は接着樹脂層32と同じ樹脂にてTダイ押出し成型にて作成した。寸法は10mm×15mmに切り出した。 【0064】 <サンプル作成方法> 金属端子31の幅方向両側に樹脂封止層34を配置するとともに金属端子31の厚み方向両側にこれら金属端子31及び樹脂封止層34を覆うように樹脂フィルム35を配置し、その後、熱圧着装置にて熱接着を行った。熱接着時の圧力は1MPa、温度は190℃、処理時間は5秒、凹部間距離は60.2mmとし、加圧部間の距離は金属端子31と樹脂フィルム35とを合わせた総厚よりも5μm小さく設定した。なお、マージン部36の加圧部間距離は調整可能とされている 【0065】 実施例1では、金属端子31の厚み方向の寸法を0.2mmとし、耐熱樹脂層33のMFRを5g/10minとし、さらに、マージン部36の総厚を0.23mmとした。この際、マージン部36の厚みの金属端子31から離間する方向に向かって1mm当たりの変化量を0.17mmとした。」 e 「【図1】 」 (イ)引用発明 そこで、上記(ア)に摘記した記載を総合勘案し、特に、金属端子を挟み込むように互いに接着される実施例1の樹脂フィルムに着目すると、甲B4には、次の発明が記載されていると認められる。 「包装材10の内部に封止された電池要素から電力を取り出す役割を有する二次電池用電極端子30が備える樹脂フィルム35であって、 上記電極端子30は、電池要素に電気的に接続された金属端子31と、該金属端子31をその延在方向に直交する方向、すなわち金属端子31の厚み方向両側から挟持する一対の上記樹脂フィルム35と、これら一対の樹脂フィルム35を互いに接着する樹脂封止層34とを備え、 上記金属端子31として、幅60mm、長さ50mm、厚み0.20mmのアルミ製の金属端子31が用いられ、 上記樹脂フィルム35は、融点が140℃、メルトフローレート(MFR)が14g/10minであるマレイン酸変性ポリプロピレンを用い、厚みが40μm、外寸が80mm×15mmの接着樹脂層32と、融点が160℃、MFRが5g/10minであるブロックポリプロピレンを用い、厚みが60μm、外寸80mm×15mmの耐熱樹脂層33とを、インフレ法により接着樹脂層32/耐熱樹脂層33/接着樹脂層32の順に積層し、総厚100μmとしたものであり、 上記一対の樹脂フィルム35が互いに接着されてなる総厚0.23mmのマージン部36の厚みの上記金属端子31から離間する方向に向かって1mm当たりの変化量が、0.17mmである、 上記樹脂フィルム35。」(以下、「甲B4発明」という。) キ 甲B5の記載 本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B5には、「積層フィルム」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。 (ア)「[請求項1] 環状オレフィン系樹脂を主成分とするA層の少なくとも片面に、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂を主成分とするB層を有する、積層フィルム。 ・・・ [請求項5] 120℃における貯蔵弾性率が101MPa以上3,000MPa以下であり、170℃における貯蔵弾性率が100MPa以下である、請求項1?4のいずれかに記載の積層フィルム。」 (イ)「[0129] (貯蔵弾性率) 本発明の積層フィルムは、加工適性、成型性の観点から、120℃における貯蔵弾性率が101MPa以上3,000MPa以下であることが好ましい。120℃における貯蔵弾性率を101MPa以上とすることで、例えば機能性樹脂層をコーティング後に乾燥したり、金属蒸着加工を行う工程において、フィルムの変形等を生じさせず、良好な加工適性が得られる。特に、コーティング後の乾燥温度を高温に設定することで、乾燥時のライン速度を速くすることができ、加工コストを低減できるメリットを有する。120℃における貯蔵弾性率は高いほど寸法安定性が優れるため好ましいが、3,000MPaより高くしようとすると成型性が低下してしまう場合がある。さらに高い寸法安定性、成型性を両立させるためには、120℃における貯蔵弾性率は500MPa以上3,000MPa以下であればより好ましく、1,000MPa以上3,000MPa以下であれば最も好ましい。 [0130] 本発明の積層フィルムにおいて、120℃における貯蔵弾性率を上記101MPa以上3,000MPa以下の範囲とする方法としては、A層のガラス転移温度を調整する方法などが挙げられる。」 ク 甲B6の記載 本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲B6には、「扁平型電気化学セル金属端子部密着用接着シート」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。 (ア)「【請求項1】 熱接着性を有するポリオレフィン系樹脂からなる内層と金属箔からなるバリアー層とを少なくとも備えた包装材により、正極および負極を備えた電気化学素子を収納すると共に前記正極および負極に各々接続された金属端子を外側に突出した状態で挟持して周縁熱接着部で密封した扁平型電気化学セルの金属端子取出部における前記内層と前記金属端子との間に介在させる扁平型電気化学セル金属端子部密封用接着性シートであって、 該扁平型電気化学セル金属端子部密封用接着性シートは繊維質シートまたは多孔質シートを前記内層及び金属端子と接着性を有する酸変性ポリオレフィン系樹脂層で被覆したものであることを特徴とする扁平型電気化学セル金属端子部密封用接着性シート。 【請求項2】 前記繊維質シートが天然繊維、または、200℃以上の融点を有する合成樹脂製の化学繊維からなることを特徴とする請求項1に記載の扁平型電気化学セル金属端子部密封用接着性シート。」 (イ)「【0008】 具体的に説明すると図5に示すように電解質を注入する前のリチウム電池本体30から前記包装体の外部に金属端子31〔図3(b)、図4(b)参照〕が突設され、たとえば、該金属端子31の両面に上記した酸変性ポリオレフィン系樹脂単層からなる金属端子部密封用接着性シート1’が仮着シールにより固定される。そして、プレス成形して凹部を形成した図4(a)に示す積層体Aの前記凹部に前記リチウム電池本体30を収納すると共に、別途用意したシート状の前記積層体A(図示せず)で前記凹部を被覆して前記リチウム電池本体30の前記金属端子31を備える周縁を含む3つの周縁を熱接着して後に、1つの未接着部の周縁から電解質を注入し、その後に前記未接着部を熱接着して密封することにより図4(b)に示すリチウム電池10となる。 【0009】 ところで、前記リチウム電池10の前記金属端子31は前記接着性シート1’を備えた部位で前記包装体(前記積層体A)に挟持された状態で熱接着される。このとき、前記金属端子31はその厚さが少なくとも50μm程度、巾としては少なくとも2.5mm程度ある。・・・ 【0010】 また、この問題を改善するため、前記金属端子31の両面に用いる前記接着性シート1’として、耐熱性樹脂フィルムの両面を、電池包装材の内面フィルムにヒートシール可能なフィルムで被覆した3層構成の積層フィルムからなる電池端子用被覆材(上記、金属端子部密封用接着性シートに対応。)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。」 (ウ)「【発明が解決しようとする課題】 【0011】 そこで本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、正極および負極の各々に接続された金属端子を外側に突出した状態で挟持して周縁熱接着部で密封した内層に熱接着性を有するポリオレフィン系樹脂(一般ポリオレフィン系樹脂)と金属箔からなるバリアー層とを少なくとも備えた包装体において、前記包装体のアルミニウム等の金属箔からなるバリアー層と金属端子との短絡を防止して安定した状態で密封することができると共に、層間接着強度(以下、ラミネート強度と呼称する)の強く、水分の浸入による電池性能の低下の虞の低い扁平型電気化学セル金属端子部密封用接着性シートを提供することである。」 (エ)「【図5】 」 (3)申立理由A-1、A-2について ア 本件特許発明1について (ア)本件特許発明1と甲A1発明とを対比する。 a 甲A1発明の「リチウムイオン電池」である「電池」、及び「金属端子」は、本件特許発明1の「蓄電デバイス」、及び「金属端子」に相当する。 b 甲A1発明の「フィルム状の部材」は、金属端子の外周面の一部を覆うためのものであるから、本件特許発明1の「端子用樹脂フィルム」と「金属端子の一部の外周面を覆うための」ものである「端子用」「フィルム」である点で共通する。 c 甲A1発明の「フィルム状の部材」が「2つの金属端子が並ぶ方向と平行な当該金属端子の幅方向において、上記2つの金属端子それぞれの両端面からそれぞれ約2mmはみ出している」点は、本件特許発明1の「端子用樹脂フィルム」が「金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの・・・はみ出し部の長さをLとしたときに、Lが1?5mmとなるように用いられる」点と共通する。 d そうすると、本件特許発明1と甲A1発明とは、次の点で一致する。 (一致点A1) 「蓄電デバイスを構成する金属端子の一部の外周面を覆うための端子用フィルムであって、前記金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの前記端子用フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに、Lが1?5mmとなるように用いられる、端子用フィルム。」 e 一方で、本件特許発明1と甲A1発明とは、次の点で相違する。 (相違点A1-1) 端子用フィルムの材質が、本件特許発明1では「樹脂」であるのに対し、甲A1発明では樹脂か否か不明な点。 (相違点A1-2) 本件特許発明1の「端子用樹脂フィルム」は、「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るのに対し、甲A1発明の「フィルム状の部材」の「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率」は不明である点。 (イ)相違点についての判断 そこで、事案に鑑み、上記(相違点A1-2)について検討する。 a 本願出願時の技術常識に照らしても、「フィルム状の部材」であれば必ず「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るとはいえないことから、上記(相違点A1-2)は実質的な相違点といえる。 b この点について、申立人Aは、「(1-2)構成Bについて 副本に添付した下側右写真(当審注:写真1cのこと)に赤丸で示されたように、金属端子の一部の外周面を覆った樹脂フィルムに垂れが生じていない。」(令和 2年 8月11日付け特許異議申立書第5頁第12?14行)と主張し、さらに、「甲第1号証には、本件特許発明1における構成Bが記載され」(同特許異議申立書第6頁第16?17行)と主張しているが、そもそも甲第1号証の「フィルム状の部材」に「垂れが生じていない」か否かは不明であり、また、仮に申立人Aが主張するように上記「フィルム状の部材」に「垂れ」が生じているとしても、当該「フィルム状の部材」が一概に「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るものであるといえないことは、明らかである。 c また、申立人Aは、令和 2年12月17日提出の上申書において、甲第1号証と同様に本件特許出願前に製造された甲第1号証-1(2013年11月に製造されたアイフォン5C(iphone 5C)の電池ケースに係る端子用樹脂フィルムに関連して、甲第1号証-5の試験用サンプルNo.1をはじめとする試験用サンプルNo.1?No.7のタブフィルムの引張貯蔵弾性率を「JIS K7244-4に準拠し動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件」で測定した結果、全ての試験用サンプルの引張貯蔵弾性率が42.5?151.5MPaの範囲内であったことを根拠として、「甲第1号証-1に係る電池ケースの端子用樹脂フィルムの引張貯蔵弾性率の値も上述した試験用サンプルNo.1?7の引張貯蔵弾性率の値と同程度であることは確実であり、本件特許発明1の構成Bに係る引張貯蔵弾性率の範囲は、本件特許出願時において周知であることが分か」り、「甲第1号証に係る端子用樹脂フィルムの引張貯蔵弾性率は、本件特許発明の出願時の周知技術である本件特許発明1に規定の範囲内にあることは明らかで」ある旨主張している。 しかしながら、甲第1号証に係る「フィルム状の部材」とは別の物である上記試験用サンプルNo.1?No.7のタブフィルムの引張貯蔵弾性率が42.5?151.5MPaの範囲内であるからといって、甲第1号証に係る「フィルム状の部材」の引張貯蔵弾性率の値も同程度であると断言することはできず、ましてや、この測定結果のみから、本件特許発明1の構成Bに係る引張貯蔵弾性率の範囲が、本願出願時において周知であるとは到底いえない。 よって、申立人Aによる上記主張は採用しない。 d したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲A1によっては、本願出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明とはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第1項第2号の規定に違反してされたものとはいえない。 e また、本願出願時の技術常識や申立人Aの上申書における上記主張を考慮しても、甲A1発明が上記(相違点A1-2)に係る「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るとの構成を備えるようにする動機付けを見い出せないのに加えて、上記(1)サ?タに摘記した本件特許発明の実施例の記載から、本件特許発明1が上記(相違点A1-2)に係る特定事項を備えていることにより、「変形量が低減され、ショートの発生がなく、巻き取り性も良好であ」るという、甲A1発明から予測し得ない有利な効果を奏することが実証されているといえる。 f したがって、本件特許発明1は、甲A1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (4)申立理由A-3、A-4について ア 本件特許発明1について (ア)本件特許発明1と甲A2発明とを対比する。 a 甲A2発明の「リチウムイオン電池」である「電池」、及び「金属端子」は、本件特許発明1の「蓄電デバイス」、及び「金属端子」に相当する。 b 甲A2発明の「フィルム状の部材」は、「金属端子の外周面の一部」を「覆」うためのものであるから、本件特許発明1の「端子用樹脂フィルム」と「金属端子の一部の外周面を覆うための」ものである「端子用」「フィルム」である点で共通する。 c 甲A2発明の「フィルム状の部材」が「2つの金属端子が並ぶ方向と平行な当該金属端子の幅方向において、上記2つの金属端子それぞれの両端面からそれぞれ約1mmはみ出している」点は、本件特許発明1の「端子用樹脂フィルム」が「金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの・・・はみ出し部の長さをLとしたときに、Lが1?5mmとなるように用いられる」点と共通する。 d そうすると、本件特許発明1と甲A2発明とは、次の点で一致する。 (一致点A2) 「蓄電デバイスを構成する金属端子の一部の外周面を覆うための端子用フィルムであって、前記金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの前記端子用フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに、Lが1?5mmとなるように用いられる、端子用フィルム。」 e 一方で、本件特許発明1と甲A2発明とは、次の点で相違する。 (相違点A2-1) 端子用フィルムの材質が、本件特許発明1では「樹脂」であるのに対し、甲A2発明では樹脂か否か不明な点。 (相違点A2-2) 本件特許発明1の「端子用樹脂フィルム」は、「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るのに対し、甲A2発明の「フィルム状の部材」の「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率」は不明である点。 (イ)相違点についての判断 そこで、事案に鑑み、上記(相違点A2-2)について検討する。 a 本願出願時の技術常識に照らしても、「フィルム状の部材」であれば必ず「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るとはいえないことから、上記(相違点A2-2)は実質的な相違点といえる。 b この点について、申立人Aは、「(2-2)構成Bについて 下側左写真(当審注:写真2dのこと)に赤丸で示されたように、金属端子の一部の外周面を覆った樹脂フィルムに垂れが生じていない。」(令和 2年 8月11日付け特許異議申立書第6頁第3?5行)と主張し、さらに、「甲第2号証には、本件特許発明1における構成Bが記載され」(同特許異議申立書第7頁第11?12行)と主張しているが、そもそも甲第2号証の「フィルム状の部材」に「垂れが生じていない」か否かは不明であり、また、仮に申立人Aが主張するように上記「フィルム状の部材」に「垂れ」が生じているとしても、当該「フィルム状の部材」が一概に「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るものであるといえないことは、明らかである。 c したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲A2によっては、本願出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明とはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第1項第2号の規定に違反してされたものとはいえない。 d また、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲A2発明が上記(相違点A2-2)に係る「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るとの構成を備えるようにする動機付けを見い出せないのに加えて、上記(1)サ?タに摘記した本件特許発明の実施例の記載から、本件特許発明1が上記(相違点A2-2)に係る特定事項を備えていることにより、「変形量が低減され、ショートの発生がなく、巻き取り性も良好であ」るという、甲A2発明から予測し得ない有利な効果を奏することが実証されているといえる。 e したがって、本件特許発明1は、甲A2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (5)申立理由B-1、B-2について ア 本件特許発明1について (ア)本件特許発明1と甲B1発明とを対比する。 a 甲B1発明の「二次電池」、及び「二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム」は、本件特許発明1の「蓄電デバイス」、及び「端子用樹脂フィルム」に相当する。 b 甲B1発明の「リード」ないし「金属端子」は、本件特許発明1の「金属端子」に相当する。 c 甲B1発明において、「二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム」から「9mm×20mm」に切出された2枚の「シーラント」で「寸法5mm×30mm、厚み100μmの軟質アルミニウムのリードをはさみ、加圧しながらフィルムとリードとを190℃、3秒で熱接着して」「タブ」が製作されている点は、上記「リード」の一部の外周面が「シーラント」で覆われるとともに、当該「シーラント」が、上記「リード」の両端面からそれぞれ2mm程度([9mm-5mm]/2=2mm)はみ出した構造を備えたものといえることから、本件特許発明1の「端子用樹脂フィルム」が、「前記金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの前記端子用樹脂フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに、Lが1?5mmとなるように用いられる」点と共通する。 d そうすると、本件特許発明1と甲B1発明とは、次の点で一致する。 (一致点B1) 「蓄電デバイスを構成する金属端子の一部の外周面を覆うための端子用フィルムであって、前記金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの前記端子用フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに、Lが1?5mmとなるように用いられる、端子用フィルム。」 e 一方で、本件特許発明1と甲B1発明とは、次の点で相違する。 (相違点B1-1) 本件特許発明1の「端子用樹脂フィルム」は、「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るのに対し、甲B1発明の「二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム」の「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率」は不明である点。 (イ)相違点についての判断 そこで、上記(相違点B1-1)について検討する。 a この点について、申立人Bは、「甲第1号証の「耐熱層32」と本件特許明細書に記載の「中間層」とは、樹脂の種類が一致し、MFR、融点もほぼ同じである。・・・甲第1号証に記載の「接着層31」と本件特許明細書に記載の「第1の最外層」及び「第2の最外層」とは、樹脂の種類及び融点が一致する。・・・以上より、甲第1号証の実施例1に記載のシーラントは、本件特許発明1に係る端子用樹脂フィルムと材料、融点及びMFRが共通するものであるため、甲第1号証の実施例1に記載のシーラントが本件特許発明1の構成Bを満たす蓋然性は極めて高い。」(令和 2年 8月12日付け特許異議申立書第41頁下から1行?第42頁第15行)と主張しているので、まず、この主張について検討する。 b 上記(1)サに摘記したとおり、本件特許明細書等の【0111】には、実施例1について、「端子用樹脂フィルム16の作製に当たり、第1の最外層に融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレン(エチレン含有量:4質量%、重量平均分子量(Mw):16万、MFR:7g/10min、無水マレイン酸をグラフト変性)を用い、中間層に融点162℃のブロック系ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:1質量%、重量平均分子量:22万、MFR:1g/10min)を用い、第2の最外層に第1の最外層と同一の融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレンを用いた。」と記載されており、この記載からは、実施例1に係る「端子用樹脂フィルム」を構成する「第1の最外層」及び「第2の最外層」が「融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレン(エチレン含有量:4質量%、重量平均分子量(Mw):16万、MFR:7g/10min、無水マレイン酸をグラフト変性)」を用いて形成されたものであり、また、「中間層」が「融点162℃のブロック系ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:1質量%、重量平均分子量:22万、MFR:1g/10min)」を用いて形成されたものと認められる。 c 一方、上記(2)ウ(ア)dに摘記したとおり、甲B1の【0020】には、実施例1について、「耐熱層32を接着層31で挟んだ3層構成のフィルムを作成した。耐熱層32はホモポリマーのポリプロピレンを用いた。融点は160℃であり、MFRは3g/10minである。接着層31はポリプロピレンに無水マレイン酸をグラフト変性させた樹脂を使用した。融点は140℃であり、MFRは耐熱層32と同様に3g/10minである。」と記載されており、この記載からは、実施例1に係る「3層構成のフィルム」を構成する「接着層31」が「融点は140℃であり、MFRは耐熱層32と同様に3g/10minである」「ポリプロピレンに無水マレイン酸をグラフト変性させた樹脂」を用いて形成されたものであり、「耐熱層32」が「融点は160℃であり、MFRは3g/10minである」「ホモポリマーのポリプロピレン」を用いて形成されたものと認められる。 d そこで、本件特許明細書等における「実施例1」の上記「第1の最外層」及び「第2の最外層」の材料と、甲B1における「実施例1」の上記「接着層31」の材料とを比較すると、両者は、ポリプロピレンに無水マレイン酸をグラフト変性させた樹脂であり、融点が140℃である点では共通するものの、前者のMFRが「7g/10min」であるのに対して、後者のMFRが「3g/10min」である点や、後者のエチレン含有量及び重量平均分子量が不明な点で、同じ材料であるとはいえない。 e また、本件特許明細書等における「実施例1」の上記「中間層」の材料と、甲B1における「実施例1」の上記「耐熱層32」の材料とを比較すると、両者は、ポリプロピレン系の樹脂であって、融点が概ね160℃である点では共通するものの、前者が「ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの」であって、「PE含有量:1質量%、重量平均分子量:22万」であり、さらにMFRが「1g/10min」であるのに対して、後者は、「ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散し」ているか否か、PE含有量、及び重量平均分子量がいずれも不明であるのに加えて、MFRが「3g/10min」である点で、同じ材料であるとはいえない。 f したがって、申立人Bの「甲第1号証の実施例1に記載のシーラントが本件特許発明1の構成Bを満たす蓋然性は極めて高い。」との主張は採用できない。 g また、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲B1発明の「二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム」が、「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るといえる根拠を見い出せない。 h よって、上記(相違点B1-1)は実質的な相違点といえるから、本件特許発明1は、甲B1に記載された発明とはいえず、同発明に係る特許が、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものとはいえない。 i また、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲B1発明が上記(相違点B1-1)に係る「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るとの構成を備えるようにする動機付けを見い出せないのに加えて、上記(1)サ?タに摘記した本件特許発明の実施例の記載から、本件特許発明1が上記(相違点B1-1)に係る特定事項を備えていることにより、「変形量が低減され、ショートの発生がなく、巻き取り性も良好であ」るという、甲B1発明から予測し得ない有利な効果を奏することが実証されているといえる。 j したがって、本件特許発明1は、甲B1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 イ 本件特許発明2、3、6?9、11、12について 本件特許発明2、3、6?9、11、12は、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えたものであり、上記ア(イ)h、jのとおり、本件特許発明1が甲B1に記載された発明とはいえず、また、甲B1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、本件特許発明1と同様の理由により、甲B1に記載された発明とはいえず、また、甲B1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件特許発明1?3、6?9、11、12は、甲B1に記載された発明とはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものとはいえない。 また、本件特許発明1?3、6?9、11、12は、甲B1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (6)申立理由B-3について ア 本件特許発明3について (ア)本件特許発明3と甲B2発明とを対比する。 a 甲B2発明の「発電要素」、「電極11」、及び「封止フィルム1」は、本件特許発明3の「蓄電デバイス」、「金属端子」、及び「端子用樹脂フィルム」に相当する。 b 甲B2発明において、「上記電極11の一部の外周面が一対の封止フィルム1、1で覆われる」点は、本件特許発明3の「端子用樹脂フィルム」が「蓄電デバイスを構成する金属端子の一部の外周面を覆うための」ものである点と共通する。 c 甲B2発明の「上記封止フィルム1、1の端部が上記電極11の端部から所定寸法はみ出している」点は、本件特許発明3の「前記金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの前記端子用樹脂フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに」Lが所定寸法となるように用いられる点に対応する。 d 甲B2発明の「ランダムPPに無水マレイン酸をグラフト重合した無水マレイン酸変性PP(MFR2.4g/10分(230℃)、融点143℃)の樹脂Aと、樹脂Aのカルボキシル基と反応しうる官能基を有する融点220℃のナイロン6である樹脂B-3を溶融して混練することで、樹脂Aのカルボキシル基と樹脂Bの官能基とを化学結合させて変性させた樹脂Cからなる耐熱層3」は、本件特許発明3の「融点が200℃以上の樹脂」として「ポリアミド樹脂」を含む「耐熱層」に相当し、また、甲B2発明の「封止フィルム1」が上記「耐熱層3」と「ランダムPPに無水マレイン酸をグラフト重合した無水マレイン酸変性PP(MFR7.5g/10分(230℃)、融点140℃)の樹脂Dからなる電極接着層2」とが「直接積層され、さらにシーラント4が積層された3層構造を有」する点は、本件特許発明3の「端子用樹脂フィルム」が、「2以上の層が積層された多層構造を有し、前記2以上の層のうちの少なくとも1層として、融点が200℃以上の樹脂を含む耐熱層を備える」点に相当する。 e そうすると、本件特許発明3と甲B2発明とは、次の点で一致する。 (一致点B2) 「蓄電デバイスを構成する金属端子の一部の外周面を覆うための端子用樹脂フィルムであって、前記金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの前記端子用樹脂フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに、Lが所定寸法となるように用いられる、端子用樹脂フィルムであり、 上記端子用樹脂フィルムは、2以上の層が積層された多層構造を有し、前記2以上の層のうちの少なくとも1層として、融点が200℃以上の樹脂を含む耐熱層を備えるものであり、 上記耐熱層が、前記融点が200℃以上の樹脂として、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂及びポリアミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含む、 端子用樹脂フィルム。」 f 一方で、本件特許発明3と甲B2発明とは、次の点で相違する。 (相違点B2-1) 本件特許発明3の「端子用樹脂フィルム」は、「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るのに対し、甲B2発明の「封止フィルム1」の「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率」は不明である点。 (相違点B2-2) 端子用樹脂フィルムのはみ出し部の長さをLについて、本件特許発明3では、「1?5mm」となるように用いられるのに対し、甲B2発明では、どの程度の寸法か不明である点。 (イ)相違点についての判断 そこで、事案に鑑み、上記(相違点B2-1)について検討する。 a 上記(5)ア(イ)a?hで検討したとおり、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲B1に記載された発明の「二次電池用金属端子被覆樹脂フィルム」が、「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るとはいえないから、甲B2発明に組み合わせるべき、相違点B2-1に係る本件特許発明3の特定事項は、甲B1には記載されていない。 b そして、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲B2発明が上記(相違点B2-1)に係る「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るとの構成を備えるようにする動機付けを見い出せないのに加えて、上記(1)サ?タに摘記した本件特許発明の実施例の記載から、本件特許発明3が上記(相違点B2-1)に係る特定事項を備えていることにより、「変形量が低減され、ショートの発生がなく、巻き取り性も良好であ」るという、甲B2発明から予測し得ない有利な効果を奏することが実証されているといえる。 c したがって、上記(相違点B2-2)について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲B2発明及び甲B1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 イ 本件特許発明1、2、4について 本件特許発明4は、本件特許発明3の発明特定事項を全て備えたものであり、上記ア(イ)cのとおり、本件特許発明3が、甲B2発明及び甲B1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許発明3と同様の理由により、甲B2発明及び甲B1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、本件特許発明1、2も、甲B2発明と上記(相違点B2-1)で相違するものであるから、本件特許発明3と同様の理由により、甲B2発明及び甲B1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件特許発明3、4は、甲B2発明及び甲B1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (7)申立理由B-4について ア 本件特許発明1について (ア)本件特許発明1と甲B3発明とを対比する。 a 甲B3発明の「二次電池」、「二次電池の正極または負極に接続される金属端子であ」る「リード27」、及び「シーラント24」は、本件特許発明1の「蓄電デバイス」、「金属端子」、及び「端子用樹脂フィルム」に相当する。 b 甲B3発明において、「上記リード27」として、「幅5mm、長さ30mm、厚さ100μmのものを用い」、上記「シーラント24」として、「幅15mm、長さ10mmの寸法の」ものを用い、「上記シーラント24、上記リード27、上記シーラント24の順に積層し、融着温度150℃、融着時間10secにて融着を行って」「タブ」が作製されている点は、上記「リード27」の一部の外周面が「シーラント24」で覆われるとともに、当該「シーラント24」が、上記「リード27」の両端面からそれぞれ5mm程度([15mm-5mm]/2=5mm)はみ出した構造を備えたものといえることから、本件特許発明1の「端子用樹脂フィルム」が、「前記金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの前記端子用樹脂フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに、Lが1?5mmとなるように用いられる」点と共通する。 c そうすると、本件特許発明1と甲B3発明とは、次の点で一致する。 (一致点B3) 「蓄電デバイスを構成する金属端子の一部の外周面を覆うための端子用樹脂フィルムであって、前記金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの前記端子用樹脂フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに、Lが1?5mmとなるように用いられる、端子用樹脂フィルム。」 d 一方で、本件特許発明1と甲B3発明とは、次の点で相違する。 (相違点B3-1) 本件特許発明1の「端子用樹脂フィルム」は、「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るのに対し、甲B3発明の「シーラント24」の「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率」は不明である点。 (イ)相違点についての判断 そこで、上記(相違点B3-1)について検討する。 a 甲B3発明における「シーラント24」を構成する「MFR15g/10min、融点140℃の酸変性ポリプロピレン(PPa)」(スキン層A、B)、及び「MFR1.0g/10min、融点160℃のポリプロピレン(PP)」(コア層)は、本願出願時の技術常識を考慮しても、「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るとはいえない。 b そして、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲B3発明が上記(相違点B3-1)に係る「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るとの構成を備えるようにする動機付けを見い出せないのに加えて、上記(1)サ?タに摘記した本件特許発明の実施例の記載から、本件特許発明1が上記(相違点B3-1)に係る特定事項を備えていることにより、「変形量が低減され、ショートの発生がなく、巻き取り性も良好であ」るという、甲B3発明から予測し得ない有利な効果を奏することが実証されているといえる。 c したがって、本件特許発明1は、甲B3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 イ 本件特許発明8?10について 本件特許発明8?10は、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えたものであり、上記ア(イ)cのとおり、本件特許発明1が、甲B3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許発明1と同様の理由により、甲B3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件特許発明1、8?10は、甲B3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (8)申立理由B-5、B-6、B-7について ア 本件特許発明1について (ア)本件特許発明1と甲B4発明とを対比する。 a 甲B4発明の「電池要素」、「二次電池用電極端子30」が備える「金属端子31」、及び「樹脂フィルム35」は、本件特許発明1の「蓄電デバイス」、「金属端子」、及び「端子用樹脂フィルム」に相当する。 b 甲B4発明において、「融点が140℃、メルトフローレート(MFR)が14g/10minであるマレイン酸変性ポリプロピレンを用い、厚みが40μm、外寸が80mm×15mmの接着樹脂層32と、融点が160℃、MFRが5g/10minであるブロックポリプロピレンを用い、厚みが60μm、外寸80mm×15mmの耐熱樹脂層33とを、インフレ法により接着樹脂層32/耐熱樹脂層33/接着樹脂層32の順に積層し、総厚100μmとしたものであ」る「一対の」「樹脂フィルム35」が、「幅60mm、長さ50mm、厚み0.20mmのアルミ製の金属端子31」を、「その延在方向に直交する方向、すなわち金属端子31の厚み方向両側から挟持」して「互いに接着されてなる」「総厚0.23mmのマージン部36」が形成されている点は、上記「金属端子31」の一部の外周面が「樹脂フィルム35」で覆われるとともに、当該「樹脂フィルム35」が、上記「金属端子31」の両端面からそれぞれ10mm程度([80mm-60mm]/2=10mm)はみ出した構造を備えたものといえることから、本件特許発明1の「端子用樹脂フィルム」が、「前記金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの前記端子用樹脂フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに、Lが1?5mmとなるように用いられる」点と、上記「はみ出し部」の長さLが所定寸法である点で共通する。 c そうすると、本件特許発明1と甲B4発明とは、次の点で一致する。 (一致点B4) 「蓄電デバイスを構成する金属端子の一部の外周面を覆うための端子用樹脂フィルムであって、前記金属端子の一部の外周面を覆った時の前記金属端子からの前記端子用樹脂フィルムのはみ出し部の長さをLとしたときに、Lが所定寸法となるように用いられる、端子用樹脂フィルム。」 d 一方で、本件特許発明1と甲B4発明とは、次の点で相違する。 (相違点B4-1) 本件特許発明1の「端子用樹脂フィルム」は、「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るのに対し、甲B4発明の「樹脂フィルム35」の「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率」は不明である点。 (相違点B4-2) 端子用樹脂フィルムのはみ出し部の長さをLについて、本件特許発明1では、「1?5mm」となるように用いられるのに対し、甲B4発明では、10mm程度である点。 (イ)相違点についての判断 そこで、事案に鑑み、上記(相違点B4-1)について検討する。 a この点について、申立人Bは、「甲第4号証の実施例1の「耐熱樹脂層33」は、融点が160℃、MFRが1.0g/10minのブロックポリプロピレンであるのに対し、本件特許明細書の実施例1における「中間層」は、融点が162℃、MFRが1g/10minのブロック系ポリプロピレンである。すなわち、甲第4号証の「耐熱樹脂層33」と本件特許明細書の「中間層」とは、材料及びMFRが一致し、融点もほぼ同じである。また、甲第4号証の実施例1の「接着樹脂層32」は、融点が140℃、MFRが14g/10minのマレイン酸変性ポリプロピレンであるのに対し、本件特許明細書の実施例1における「第1の最外層」及び「第2の最外層」は、融点が140℃、MFRが7g/10minのランダム系酸変性ポリプロピレン(エチレン含有量:4重量%、重量平均分子量(Mw):16万、MFR:7g/10min、無水マレイン酸をグラフト変性)である。すなわち、甲第4号証の「接着樹脂層32」と本件特許明細書の「第1の最外層」及び「第2の最外層」とは、材料及び融点が一致する一方でMFRが相違する。しかしながら、甲第4号証の「接着樹脂層32」のMFRは、本件特許明細書の[0053]に記載の好ましい範囲「0.5?15g/10min」に含まれる。以上より、甲第4号証の実施例1に記載の樹脂フィルム35は、本件特許発明1における構成Bである「動的粘弾性測定における120℃での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaである」を満たす蓋然性が極めて高い。」(令和 2年 8月12日付け特許異議申立書第49頁第1?19行)と主張しているので、まず、この主張について検討する。 b 上記(1)サに摘記したとおり、本件特許明細書等の【0111】には、実施例1について、「端子用樹脂フィルム16の作製に当たり、第1の最外層に融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレン(エチレン含有量:4質量%、重量平均分子量(Mw):16万、MFR:7g/10min、無水マレイン酸をグラフト変性)を用い、中間層に融点162℃のブロック系ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:1質量%、重量平均分子量:22万、MFR:1g/10min)を用い、第2の最外層に第1の最外層と同一の融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレンを用いた。」と記載されており、この記載からは、実施例1に係る「端子用樹脂フィルム」を構成する「第1の最外層」及び「第2の最外層」が「融点140℃のランダム系酸変性ポリプロピレン(エチレン含有量:4質量%、重量平均分子量(Mw):16万、MFR:7g/10min、無水マレイン酸をグラフト変性)」を用いて形成されたものであり、また、「中間層」が「融点162℃のブロック系ポリプロピレン(ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの、PE含有量:1質量%、重量平均分子量:22万、MFR:1g/10min)」を用いて形成されたものと認められる。 c 一方、甲B4発明の「接着樹脂層32」は、「融点が140℃、メルトフローレート(MFR)が14g/10minであるマレイン酸変性ポリプロピレン」を用い、「厚みが40μm、外寸を80mm×15mm」であり、同じく「耐熱樹脂層33」は、「融点が160℃、MFRが5g/10minであるブロックポリプロピレン」を用い、「厚みが60μm、外寸80mm×15mm」であり、これらの接着樹脂層32と耐熱樹脂層33を「インフレ法により接着樹脂層32/耐熱樹脂層33/接着樹脂層32の順に積層し、総厚100μm」の「樹脂フィルム35」としたものである。 d そこで、本件特許明細書等における「実施例1」の上記「第1の最外層」及び「第2の最外層」の材料と、甲B4発明における上記「接着樹脂層32」の材料とを比較すると、両者は、マレイン酸変性ポリプロピレンであり、融点が140℃である点では共通するものの、前者のMFRが「7g/10min」であるのに対して、後者のMFRが「14g/10min」である点や、後者のエチレン含有量及び重量平均分子量が不明な点で、同じ材料であるとはいえない。 e また、本件特許明細書等における「実施例1」の上記「中間層」の材料と、甲B4発明における上記「耐熱樹脂層33」の材料とを比較すると、両者は、ブロック系ポリプロピレンであって、融点が概ね160℃である点では共通するものの、前者が「ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散したもの」であって、「PE含有量:1質量%、重量平均分子量:22万」であるのに対して、後者は、「ホモPP中にEPR及びPEが島状に分散し」ているか否か、PE含有量、及び重量平均分子量がいずれも不明である点で、同じ材料であるとはいえない。 f したがって、申立人Bの「甲第4号証の実施例1に記載の樹脂フィルム35は、本件特許発明1における構成Bである「動的粘弾性測定における120℃での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaである」を満たす蓋然性が極めて高い。」との主張は採用できない。 g また、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲B4発明の「樹脂フィルム35」が、「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るといえる根拠を見い出せない。 h よって、上記(相違点B4-1)は実質的な相違点といえるから、本件特許発明1は、甲B4に記載された発明とはいえず、同発明に係る特許が、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものとはいえない。 i また、上記(2)キ、クに摘記した甲B5、甲B6の記載、及び本願出願時の技術常識を考慮しても、甲B4発明が上記(相違点B4-1)に係る「JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであ」るとの構成を備えるようにする動機付けを見い出せないのに加えて、上記(1)サ?タに摘記した本件特許発明の実施例の記載から、本件特許発明1が上記(相違点B4-1)に係る特定事項を備えていることにより、「変形量が低減され、ショートの発生がなく、巻き取り性も良好であ」るという、甲B4発明及び甲B5、甲B5の記載事項から予測し得ない有利な効果を奏することが実証されているといえる。 j したがって、本件特許発明1は、甲B4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、甲B4発明及び甲B5、甲B6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 イ 本件特許発明2?12について 本件特許発明2?12は、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えたものであり、上記ア(イ)h、jのとおり、本件特許発明1が甲B4に記載された発明とはいえず、また、甲B4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえず、さらに、甲B4発明及び甲B5、甲B6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、本件特許発明1と同様の理由により、甲B4に記載された発明とはいえず、また、甲B4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえず、さらに、甲B4発明及び甲B5、甲B6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件特許発明1、6?12は、甲B4に記載された発明とはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものとはいえない。 また、本件特許発明1?12は、甲B4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえず、甲B4発明及び甲B5、甲B6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 (9)申立理由B-8について ア 本件特許明細書等の【0008】(上記(1)イ参照)の記載からすると、本件特許発明が解決しようとする課題は、「端子用樹脂フィルムを金属端子に融着後、冷却するまでの間に、端子用樹脂フィルムのはみ出し部が変形することを抑制することができるとともに、巻き取り性も良好である端子用樹脂フィルム、それを用いたタブ及び蓄電デバイスを提供すること」にあるといえる。 イ そして、上記(1)ウ?テに摘記した本件特許明細書等の記載からすると、発明の詳細な説明において、上記アの課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲は、蓄電デバイスを構成する金属端子の一部の外周面を覆うための端子用樹脂フィルムであって、動的粘弾性測定における120℃での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaである、端子用樹脂フィルムを採用することであるといえる。 ウ 一方、上記1のとおり、本件特許発明1?12は、本件特許の請求項1に記載された「蓄電デバイスを構成する金属端子の一部の外周面を覆うための端子用樹脂フィルムであって、JIS K7244-4に準拠した動的粘弾性測定における温度120℃、周波数1Hzの条件での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaであり、・・・端子用樹脂フィルム」との特定事項を備えたものであるから、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものではない。 エ したがって、本件特許発明1?12において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段は反映されており、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものではない。 オ よって、本件特許発明1?12は、発明の詳細な説明に記載したものであり、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 カ なお、申立人Bは、令和 2年 8月12日付け特許異議申立書の「(オ)理由E(請求項1?12)」(第53頁下から1行?第60頁第4行)において、下記(ア)?(ク)の点を根拠にして、本件特許発明1?12は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、サポート要件を満たしていない旨主張している。 (ア)本件特許発明の課題は、巻き取り性も良好である端子用樹脂フィルムを提供することであるところ、「巻き取り性」とは、通常、フィルムを常温(25℃)で巻き取るときに評価を行うものであるため、常温(25℃)での引張貯蔵弾性率も規定すべきであるのに、本件特許発明1?12の端子用樹脂フィルムは、常温(25℃)における引張貯蔵弾性率が規定されていない点。 (イ)本件特許発明の課題は、金属端子の両面から同じ材料からなる端子用樹脂フィルムで覆うように配置されたタブとしたときに、解決できたものであることは明らかであるのに、本件特許発明1?12は、金属端子の両面から同じ材料からなる端子用樹脂フィルムで覆うように配置されたタブであることが特定されていない点。 (ウ)本件特許発明1?12に規定する120℃で引張貯蔵弾性率が「10MPa以上35MPa未満」、特に「10MPa」では、はみ出し部の変形量は極めて大きな値になると予測されるが、本件特許発明の課題を解決できるか否か不明な点。 (エ)はみ出し部の垂れは、はみ出し部の長さLだけではなく、当該はみ出し部の長さに対し垂直な方向の長さ及び厚さ、すなわち、端子用樹脂フィルムが金属端子の外周をどれだけの量覆っているかによっても変化することは明らかであるところ、本件特許発明1?12には、はみ出し部の長さLに対して垂直な方向の長さが0.1mmと極めて短い場合や、厚みが10mmと極めて厚い場合のように、実施例1と同じような結果となることがあり得ない場合が含まれており、どの程度の量で金属端子を覆っていれば垂れの発生が抑制できるのか不明である点。 (オ)はみ出し部の長さが上下で異なるように端子用樹脂フィルムで金属端子の一部の外周面を覆った場合、垂れの発生の状態が大きく変化することは明らかであるところ、本件特許発明1?12では、どのような状態で金属端子の一部の外周面を端子用樹脂フィルムで覆うことで垂れの発生が抑制できるのか不明である点。 (カ)金属端子の上下から挟持して形成されたはみ出し部の厚みが対称(シンメトリー)でないと、垂れの発生を抑制する効果が変化してしまうことは明らかであるところ、本件特許発明1?12には、金属端子の上下から挟持して形成されたはみ出し部の厚みについて規定されておらず、どのようなはみ出し部が金属端子の上下から挟持して形成されることで垂れの発生が抑制できるのか不明である点。 (キ)本件特許明細書の実施例に係るはみ出し部の変形量の上限は「1.10mm」であるから、当該実施例の結果より「はみ出し部の変化量の上限は1.10mm」であることが必須の構成であり、当該構成についても規定すべきであるところ、本件特許発明1?12は、そのような構成について規定されていない点。 (ク)本件特許明細書の実施例におけるはみ出し部の長さは「3mm」(実施例1、2、4?13)と「5mm」(実施例3)のみであり、(本件特許発明1?12に含まれる)はみ出し部の長さが「1mm以上3mm未満」の場合であってもはみ出し部の長さが「3mm」や「5mm」の場合と同様に所望の効果が得られるか否か不明である点。 キ そこで、上記カの主張について検討するに、本件特許明細書等の実施例1?13と比較例1?7についての記載(【0109】?【0144】:上記(1)サ?タ参照)からすると、蓄電デバイスを構成する金属端子の一部の外周面を覆うための端子用樹脂フィルムであって、動的粘弾性測定における120℃での引張貯蔵弾性率が10MPa?1000MPaである端子用樹脂フィルムを採用するという、本件特許発明1の特定事項を備えることにより、上記アの課題が解決されることは十分に実証されているといえる。 そして、上記カ(ア)?(ク)において指摘されるように、本件特許発明1?12には、実施例1?13以外の様々な態様が含まれるとしても、これら実施例1?13以外の態様では上記アの課題が解決できないとの合理的な疑いが生じているとはいえない。 ク したがって、申立人Bによる上記カの主張は採用しない。 4 むすび 以上のとおりであるから、申立人Aによる特許異議の申立ての理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできず、申立人Bによる特許異議の申立ての理由によっても、請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-02-15 |
出願番号 | 特願2014-228119(P2014-228119) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M) P 1 651・ 121- Y (H01M) P 1 651・ 112- Y (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小森 重樹 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
村川 雄一 粟野 正明 |
登録日 | 2020-01-20 |
登録番号 | 特許第6648400号(P6648400) |
権利者 | 凸版印刷株式会社 |
発明の名称 | 端子用樹脂フィルム、それを用いたタブ及び蓄電デバイス |
代理人 | 鈴木 洋平 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 黒木 義樹 |