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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02G
管理番号 1371981
審判番号 不服2020-1029  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-24 
確定日 2021-03-10 
事件の表示 特願2016-516768「接合した閉合機構を有する巻かれたテキスタイルスリーブおよびその作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 4日国際公開,WO2014/193924,平成28年 9月15日国内公表,特表2016-528859〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2014年5月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年5月28日(以下,「優先日」という。),アメリカ合衆国,2014年5月28日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成28年1月26日に特許法第184条の4第1項の規定による明細書,請求の範囲,及び,図面(図面の中の説明に限る。)の日本語による翻訳文が提出され,平成29年5月23日に出願審査の請求がなされるとともに手続補正がなされ,平成30年5月23日付けで拒絶理由が通知され,その指定期間内である同年8月22日に意見書とともに誤訳訂正書が提出され,これに対し,平成31年1月28日付けで最後の拒絶理由が通知され,その指定期間内である同年4月15日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,令和1年9月18日付けで,平成31年4月15日付けの手続補正を却下する決定がなされるとともに拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされ,これに対し,令和2年1月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ,同年3月31日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告がなされ,同年7月22日及び8月25日に,それぞれ上申書が提出されたものである。


第2 令和2年1月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和2年1月24日にされた手続補正(以下,「本件手続補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件手続補正について
(1)本件手続補正後の特許請求の範囲の記載
本件手続補正により,特許請求の範囲の請求項1(以下,「補正後の請求項1」という。)の記載は,次のとおり補正された。(下線は,補正箇所を示すために当審で付加した。)

「 【請求項1】
細長い部材を保護するための巻き可能なテキスタイルスリーブであって、
対向内層端部の間に長手方向に沿って延在する対向内層縁部を有する内層を備え、前記対向内層縁部は、前記内層の内層幅によって互いに横方向に離間され、
対向外層端部の間に長手方向に沿って延在する対向外層縁部を有する外層を備え、前記対向外層縁部は、前記外層の外層幅によって互いに横方向に離間され、
前記内層と前記外層との間に挟持され、前記内層を前記外層に接合する熱溶融型粘着性中間層を備え、前記熱溶融型粘着性中間層は、前記内層縁部の両方を越えて延在することによって、前記熱溶融型粘着性中間層の一対の露出領域を形成し、
前記露出領域は、前記外層に接合し、かつ前記外層を巻かれた筒状構造に維持するように溶融されることが可能である、巻き可能なテキスタイルスリーブ。」

(2)本件手続補正による補正前の特許請求の範囲の記載
本件手続補正前の,平成30年8月22日に提出された誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1(以下,「補正前の請求項1」という。)の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
細長い部材を保護するための巻き可能なテキスタイルスリーブであって、
対向内層端部の間に長手方向に沿って延在する対向内層縁部を有する内層を備え、前記対向内層縁部は、前記内層の内層幅によって互いに横方向に離間され、
対向外層端部の間に長手方向に沿って延在する対向外層縁部を有する外層を備え、前記対向外層縁部は、前記外層の外層幅によって互いに横方向に離間され、
前記内層と前記外層との間に挟持され、前記内層を前記外層に接合する熱溶融型粘着性中間層を備え、前記熱溶融型粘着性中間層は、前記内層縁部の少なくとも一方を越えて延在することによって、前記熱溶融型粘着性中間層の露出領域を形成し、
前記露出領域は、前記外層に接合し、かつ前記外層を巻かれた筒状構造に維持するように溶融されることが可能である、巻き可能なテキスタイルスリーブ。」

2 補正の適否
本件手続補正による補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「内層縁部の少なくとも一方」及び「熱溶融型粘着性中間層の露出領域」について,上記1(1)に記載したとおり限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項1に記載される発明(以下,「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか,すなわち,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である独国実用新案第202007012475号明細書(2009年2月12日公開。以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。




(当審訳:[0002]自動車の分野では,ケーブルセットはしばしば接着テープを巻き付けられ,特に,テキスタイル接着テープは,純粋な結束機能に加え,摩耗からの導管の保護や,がたつきや振動による騒音の緩和などの数多くの追加機能を果たしている。布製の接着テープのみならず,様々な種類のフリース接着テープ,フィルム接着テープ,発泡接着テープの使用が広まっている。)




(当審訳:[0012]両方の保持体は,有利には,異なる材料からなるものとすることもできる。たとえば,第1の保持体及び/又は第2の保持体は,フィルム,フィルム複合材料,又は,布,特にポリエステル布又はポリアミド布,あるいはフリースからなるものとすることができる。その場合,決まった望ましい特性を得られるように,有利には,材料経済的な観点をも考慮し,決まった保持体の組み合わせを選ぶことができる。)



・・・(中略)・・・


(当審訳:[0016]それに際し,Fig.1-4は,それぞれ,第1-4の実施形態の発明に係る接着テープの構造の横断面図を示している。Fig.5及びFig.6は,それぞれの使用例における,すなわち,細長い物のための覆いを製造した後の発明に係る接着テープの2つの実施形態を示している。
・・・(中略)・・・
[0018]まずFig.1に具体的に示されるとおり,発明に係る接着テープ1は,とりわけ自動車産業向けのケーブル巻付けテープであるが,テープ形状の第1の保持体2を含んでおり,第1の保持体2は,自己接着性の接着層3を少なくとも一方の側に取り付けられており,接着層3は,とりわけ付着接着剤からなる。
[0019]発明に即しては,接着層3の上に第2の保持体4が積層されており,第2の保持体4は,第1の保持体2の幅B2より短い幅B4である。
[0020]発明に係るテープのいくつかの実施例は,すべてこの同じ基本構造を示す。しかしながら,これらの実施例は,第1の保持体に比較しての第2の保持体4の層の詳細に関し,及び,第2の保持体4の実施において,異なっている。
[0021]Fig.1に即した第1の実施においては,第2の保持体4は,一つの側端K4において第1の保持体2の一つの側端K2と同一平面上に伸びており,ここにおいて,第1の保持体2は,接着層3とともに,第2の保持体4のもう一つの側端K4に向かって張出部5において張り出している。これにより,細長い物を覆う際に,接合部として用いられる接着領域が有利に形成される。内部では,覆いは全く接着されない。
[0022]Fig.2に即した第2の実施においては,第1の保持体2は,接着層3とともに,第2の保持体4の側端K4に向かって両側において張り出している。特に,第2の保持体4はここにおいて,第1の保持体2の縦に伸びる中央軸又は中央面X-Xに対し対称またはとりわけ非対称に配置することができる。非対称に配置した場合,小さい方の張出部5bは,巻き付け対象の物のプレフィックスのために用いることができ,他方,大きい方の張出部は,第1の実施において記載したように,接合部として機能することができる。)




(Fig.2から,接着テープ1は,第1の保持体2,第2の保持体4,接着層3から構成される態様,接着層3は,第2の保持体4と第1の保持体2の間に挟まれている態様,及び,第1の保持体2の側端K2は,第1の保持体2の幅B2で互いに横方向に離間され,第2の保持体4の側端K4は,第2の保持体4の幅B4で互いに横方向に離間されている態様を読みとることができる。
さらに,接着層3に,張出部5aと張出部5bが形成されている態様を読み取ることができる。)




(当審訳:[0029]Fig.6は,Fig.2の実施形態に沿った発明に係る接着テープ1から製造された覆い1aを示す。存在している両方の張出部の1つである張出部5aは,螺旋状に巻き付けられた接着テープ1の外側に位置して接合しており,他方,もう1つの張出部5bは,内部に位置し,細長い物8に固定するよう作用する。)





(Fig.6から,覆い1aにおいて,覆い1aを構成する接着テープ1の第1の保持体2及び第2の保持体4は,それぞれ外側及び内側に位置する態様,及び,張出部5aは,外側に位置する第1の保持体2に接合し,覆い1aを構成する接着テープ1の第1の保持体2を巻かれた筒状に構成するように接合されている態様を読みとることができる。
さらに,覆い1aを構成する接着テープ1の第1の保持体2及び第2の保持体4のそれぞれは,巻付けの周方向に延びる端部を有している態様を読み取ることができる。)

(イ)上記(ア)の記載について検討すると,次のとおりである。
A [0002]の記載から,ケーブルセットに巻き付けられるテキスタイル接着テープは,摩耗からの保護の機能を果たすものであるといえる。
また,[0016]の記載から,接着テープ1は,細長い物のための覆いを製造するためのものであるといえる。
以上を総合すると,接着テープ1は,細長い物を保護するための覆いを製造するためのものであるといえる。

B Fig.2及びFig.6の記載を総合すると,第1の保持体2及び第2の保持体4は,巻付けの周方向,すなわち,Fig.2に記載される第1の保持体2の「側端K2」及び第2の保持体4の「側端K4」に対して垂直方向に延びる端部をそれぞれ有していることが認められる。
さらに,Fig.2に記載される第1の保持体2の「側端K2」及び第2の保持体4の「側端K4」は,Fig.6の記載から,上記第1の保持体2の「側端K2」及び第2の保持体4の「側端K4」に対して垂直方向に延びる端部の間に,長手方向に沿って延在するものであることが認められる。

C [0022]及びFig.2の記載から,第1の保持体2は,接着層3とともに,第2の保持体4の側端K4に向かって両側において張り出すことにより,接着層3に張出部5a及び張出部5bを形成していることが認められる。

D [0029]及びFig.2,6の記載から,接着テープ1から製造された覆い1aにおいて,覆い1aを構成する接着テープ1の第1の保持体2及び第2の保持体4は,それぞれ外側及び内側に位置し,存在している両方の張出部の1つである張出部5aは,螺旋状に巻き付けられた接着テープ1の外側に位置して第1の保持体2に接合し,覆い1aを構成する接着テープ1の第1の保持体2を巻かれた筒状に構成するように接合されていることが認められる。

(ウ)上記(ア)の記載及び上記(イ)での検討から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「 接着テープ1であって,

接着テープ1は,細長い物を保護するための覆いを製造するためのものであり,
接着テープ1は,とりわけ自動車産業向けのケーブル巻付けテープであり,

接着テープ1は,第1の保持体2,第2の保持体4,接着層3から構成され,
接着層3は,第2の保持体4と第1の保持体2の間に挟まれており,
第1の保持体2の側端K2は,第1の保持体2の幅B2で互いに横方向に離間され,第2の保持体4の側端K4は,第2の保持体4の幅B4で互いに横方向に離間され,

第1の保持体2及び第2の保持体4は,第1の保持体2の側端K2及び第2の保持体4の側端K4に対して垂直方向に延びる端部をそれぞれ有し,
第1の保持体2の側端K2及び第2の保持体4の側端K4は,第1の保持体2の側端K2及び第2の保持体4の側端K4に対して垂直方向に延びる端部の間に,長手方向に沿って延在するものであり,

第1の保持体2は,自己接着性の接着層3を少なくとも一方の側に取り付けられており,接着層3は,とりわけ付着接着剤からなり,
接着層3の上に第2の保持体4が積層されており,

第2の保持体4は,第1の保持体2の幅B2より短い幅B4であり,
第1の保持体2は,接着層3とともに,第2の保持体4の側端K4に向かって両側において張り出すことにより,接着層3に張出部5a及び張出部5bを形成しており,

第1の保持体2及び/又は第2の保持体4は,布,特にポリエステル布又はポリアミド布からなるものとすることができ,

接着テープ1から製造された覆い1aにおいて,覆い1aを構成する接着テープ1の第1の保持体2及び第2の保持体4は,それぞれ外側及び内側に位置し,存在している両方の張出部の1つである張出部5aは,螺旋状に巻き付けられた接着テープ1の外側に位置して第1の保持体2に接合し,覆い1aを構成する接着テープ1の第1の保持体2を巻かれた筒状に構成するように接合されている,

接着テープ1。」

イ 引用文献5
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特表2002-510775号公報(2002年4月9日公表。以下「引用文献5」という。)には,図面とともに,次の記載がある。

「【0011】
本発明によれば、前記保護外装は、二つの織物層を備える実質的に2層の巻回ストリップ材として構成され、その場合、前記巻回ストリップ材は、不織布からなる保護される対象物に対して内側の織物層と、縦編成ベロア材から成る保護される前記対象物に対して外側の織物層とを有する。前記二つの織物層は、接着結合によって互いに接着され、その接着剤は、例えば熱によって活性化が可能な不織布又は膜として、好ましくは小部分に塗布される。両織物層は、合成繊維、特にポリアミド又はポリエステルから形成され、前記不織布は、好ましくはニードルパンチ不織布である。縦編成ベロア材として構成される前記外側織物層は、好ましくは編み裏経糸とこの裏経糸に編み込まれた表経糸とを有し、前記表経糸が前記材料又は織物層から外方に突出するラフニング加工された(roughened-up)ベロアルーブを形成している縦編成ベロア材である。このようなラフニング加工されたループベロア材は、ベルクロ式ストリップ材として使用される所謂マッシュルーム(mushroom)ストリップ材用の合せ部材として知られている。但し、本発明によれば、前記ラフニング加工されたベロアループは、通常とは異なる高さに形成される。」

「【0014】
本発明による保護外装1(図1)は、保護される対象物に対して、この対象物側に配置された不織布から成る織物布又は織物層2と、この層2上で前記対象物と反対側に配置された縦編成ベロア材から成る織物布又は織物層3と、これら両層2,3の間に配設されて、これらを互いに結合する接着結合部4とを有する。前記対象物側に於いて、前記層2は、その全表面に渡って接着結合層5を有する。」

「【0023】
前記両繊維層2,3は、それらの間に配設されて積層構造を形成する接着剤又は接着層4によって積層されている。前記接着層4は、前記不織布2の片面と前記縦編成ベロア材3の第1ガイドバー9との間に、ベロア材3のループ13が、前記不織布層2から離間して、又はそれから離間して外方に向くように配置される。前記接着剤又は接着層4は、噴霧接着剤、接着フィルム、例えば粉末状の分散性接着剤、接着ペースト、又はステープルファイバ接着ネットワーク等から構成することができる。前記接着ボンドは、両層間の全領域に渡って塗布されるのではなく、これら二つの織物層間の一部領域を未接着状態に残すように塗布されることが好ましい。これは、例えば、孔が打ち抜き形成された接着フィルム、又は、粉によって覆われた又は粉が分散される表面がマスク、例えば穴明きマスクによって被覆される粉等分散性接着剤によって行うことが可能である。この穴明きマスクを取り除くと、これによって、その粉を塗布された領域と粉を塗布されていない領域とが形成される。更に、接着ペーストを小滴状に塗布したり、或いはパターン、例えばドット状パターンを作り出すその他の方法で塗布することが可能である。ステープルファイバ接着不織布、又は細かいステープルファイバ接着ネットワークを使用する場合には、このステープルファイバ接着ネットワークの構造中の広い隙間によって、両織物層間に非結合領域を確実に形成される。この接着結合工程は、好ましくは、熱によって活性化可能な熱可塑性接着剤を使用して行われ、その場合、その接着剤は、適切なフレキシビリティと弾性とを可能にする温度依存粘度を有するものとすることができる。該接着剤は、この接着剤が、そこに固定されるべく両織物層の接着結合の領域に浸透することが可能なように塗布されるべきである。接着剤は、車輌構造での使用のために適合される必要があるかもしれず、又特に、例えば105℃以下の温度でその強度を保持しなければならない。接着剤を両織物層に固定する工程中に於いて、織物層への浸透を確保すべきであるが、接着剤は、縦編成ベロアの第1バー9への接着、又は、それの第1バー9への固定のみを行うべきである。」

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「接着テープ1」は,「細長い物を保護するための覆いを製造するためのものであ」ることから,スリーブであるといえる。
また,引用発明は,「接着テープ1は,第1の保持体2,第2の保持体4,接着層3から構成され」るところ,引用発明の「接着テープ1」は,「第1の保持体2及び第2の保持体4」から構成されるものであるといえ,また,引用発明の当該「第1の保持体2及び第2の保持体4」は,「布,特にポリエステル布又はポリアミド布からなるものとすることができ」るものであることから,結局,引用発明の「接着テープ1」は,「布,特にポリエステル布又はポリアミド布から」構成されるといえ,よって,「テキスタイル」であるといえる。
してみれば,引用発明の「接着テープ1」は,「テキスタイルスリーブ」であるといえるから,本件補正発明の「テキスタイルスリーブ」に相当する。

加えて,引用発明の「接着テープ1」は,「細長い物を保護するための覆いを製造するためのものであ」り,当該「細長い物」は,本件補正発明の「細長い部材」に相当するから,引用発明の「接着テープ1」は,“細長い部材を保護するための”ものであるといえる。
さらに,引用発明の「接着テープ1」,「とりわけ自動車産業向けのケーブル巻付けテープである」から,“巻き可能な”ものであることが明らかである。
したがって,本件補正発明の「テキスタイルスリーブ」と引用発明の「接着テープ1」とは,さらに,“細長い部材を保護するための巻き可能なテキスタイルスリーブ”である点において一致する。

(イ)引用発明の「第1の保持体2」及び「第2の保持体4」は,接着テープ1から製造された覆い1aにおいて,「第1の保持体2」が外側に,「第2の保持体4」が内側にそれぞれ位置することになることから,本件補正発明の「外層」及び「内層」にそれぞれ相当する。
また,引用発明の「第1の保持体2」及び「第2の保持体4」は,「第1の保持体2の側端K2及び第2の保持体4の側端K4に対して垂直方向に延びる端部をそれぞれ有」するものであるところ,当該「第1の保持体2の側端K2」「に対して垂直方向に延びる端部」及び「第2の保持体4の側端K4に対して垂直方向に延びる端部」が,本件補正発明の「対向外層端部」及び「対向内層端部」に相当する。
さらに,引用発明の第1の保持体2の「側端K2」及び第2の保持体4の「側端K4」は,「第1の保持体2の側端K2及び第2の保持体4の側端K4に対して垂直方向に延びる端部の間に,長手方向に沿って延在するものであ」るから,それぞれ本件補正発明の「対向外層端部の間に長手方向に沿って延在する対向外層縁部」及び「対向内層端部の間に長手方向に沿って延在する対向内層縁部」に相当する。
したがって,本件補正発明の「内層」と引用発明の「第2の保持体4」とは,“対向内層端部の間に長手方向に沿って延在する対向内層縁部を有する内層”である点において一致する。
また,本件補正発明の「外層」と引用発明の「第1の保持体2」とは,“対向外層端部の間に長手方向に沿って延在する対向外層縁部を有する外層”である点において一致する。

(ウ)さらに,引用発明の「第1の保持体2の側端K2」は,「第1の保持体2の幅B2で互いに横方向に離間され」,また,引用発明の「第2の保持体4の側端K4」は,「第2の保持体4の幅B4で互いに横方向に離間され」ている。
そして,上記「第1の保持体2の幅B2」及び「第2の保持体4の幅B4」は,上記(イ)での検討も踏まえると,それぞれ本件補正発明の「外層の外層幅」及び「内層の内層幅」に相当する。
よって,上記(イ)での検討も踏まえると,本件補正発明の「対向内層縁部」と引用発明の「側端K4」とは,“前記内層の内層幅によって互いに横方向に離間され”る点において一致する。
また,上記(イ)での検討も踏まえると,本件補正発明の「対向外層縁部」と引用発明の「側端K2」とは,“前記外層の外層幅によって互いに横方向に離間され”る点において一致する。

(エ)引用発明の「接着層3」は,「第2の保持体4と第1の保持体2の間に挟まれて」いることから,第2の保持体4と第1の保持体2の間に位置する「中間層」であるといえる。よって,本件補正発明の「熱溶融型粘着性中間層」と引用発明の「接着層3」とは,後記する点で相違するものの,「中間層」である点において共通する。
また,引用発明は,「保持体2は,自己接着性の接着層3を少なくとも一方の側に取り付けられており,接着層3は,とりわけ付着接着剤からなり,」「接着層3の上に第2の保持体4が積層されて」いることから,引用発明の「接着層3」は,第2の保持体4を第1の保持体2に接合するものであることが明らかである。
よって,引用発明の「接着層3」は,「第2の保持体4」と「第1の保持体2」の間に挟まれ,「第2の保持体4」を「第1の保持体2」に接合する中間層であるといえるから,本件補正発明の「熱溶融型粘着性中間層」と引用発明の「接着層3」とは,上記(イ)での検討を踏まえると,後記する点で相違するものの,“前記内層と前記外層との間に挟持され、前記内層を前記外層に接合する中間層”である点において共通する。

(オ)引用発明は,「第2の保持体4は,第1の保持体2の幅B2より短い幅B4であり,」「第1の保持体2は,接着層3とともに,第2の保持体4の側端K4に向かって,両側において張り出すことにより,接着層3に張出部5a及び張出部5bを形成して」いるものであるところ,当該「張出部5a」及び「張出部5b」は,第2の保持体4の側に向かって露出している「露出領域」であることが明らかである。よって,引用発明の「張出部5a」及び「張出部5b」は,本件補正発明の「露出領域」に相当する。
また,引用発明の「張出部5a及び張出部5b」は,「第1の保持体2は,接着層3とともに,第2の保持体4の側端K4に向かって,両側において張り出すことにより,」「接着層3に」形成されるものであるところ,一対のものであるといえる。
してみると,引用発明の「接着層3」は,第2の保持体4の側端K4の両方を越えて延在することによって,接着層3の一対の張出部5a及び張出部5bを形成しているといえるから,本件補正発明の「熱溶融型粘着性中間層」と引用発明の「接着層3」とは,上記(イ)での検討も踏まえると,“前記内層縁部の両方を越えて延在することによって、前記中間層の一対の露出領域を形成し”ている点において,さらに一致する。

(カ)引用発明の「接着テープ1」は,「第1の保持体2,第2の保持体4,接着層3から構成され」るものであるところ,「第1の保持体2」を備え,「第2の保持体4」を備え,「接着層3」を備えるものであるといえるから,本件補正発明の「テキスタイルスリーブ」と引用発明の「接着テープ1」とは,上記(ア)?(オ)での検討を踏まえると,“内層を備え、外層を備え、中間層を備え”る点において一致する。

(キ)引用発明は,「存在している両方の張出部の1つである張出部5aは,螺旋状に巻き付けられた接着テープ1の外側に位置して第1の保持体2に接合し」ているものであるから,引用発明の「張出部5a」は,「第1の保持体2」に接合されていることが明らかである。
また,引用発明の,上記「張出部5a」は,「覆い1aを構成する接着テープ1の第1の保持体2を巻かれた筒状に構成するように接合されている」ものである。そして,本件補正発明の「前記露出領域」も,「前記外層を巻かれた筒状構造に維持するように溶融されることが可能である」ところ,当該溶融されることによって,「前記外層を巻かれた筒状構造に維持するように『接合』されることが可能である」といえるものである。
よって,本件補正発明の「露出領域」と引用発明の「張出部5a」とは,上記(イ)での検討も踏まえると,後記する点で相違するものの,“前記外層に接合し、かつ前記外層を巻かれた筒状構造に維持するように接合されることが可能である”点において一致する。

イ 以上から,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違する。

<一致点>
「 細長い部材を保護するための巻き可能なテキスタイルスリーブであって、
対向内層端部の間に長手方向に沿って延在する対向内層縁部を有する内層を備え、前記対向内層縁部は、前記内層の内層幅によって互いに横方向に離間され、
対向外層端部の間に長手方向に沿って延在する対向外層縁部を有する外層を備え、前記対向外層縁部は、前記外層の外層幅によって互いに横方向に離間され、
前記内層と前記外層との間に挟持され、前記内層を前記外層に接合する中間層を備え、前記中間層は、前記内層縁部の両方を越えて延在することによって、前記中間層の一対の露出領域を形成し、
前記露出領域は、前記外層に接合し、かつ前記外層を巻かれた筒状構造に維持するように接合されることが可能である、巻き可能なテキスタイルスリーブ。」

<相違点1>
中間層は,本件補正発明においては,「熱溶融型粘着性中間層」であるのに対して,引用発明においては,「自己接着性の」接着層3である点。

<相違点2>
本件補正発明の「露出領域」は,外層に接合し,溶融されることが可能であるのに対し,引用発明の「張出部5a」は,第1の保持体2に接合されるものであるものの,溶融されることが可能であるとの特定はなされていない点。

(4)判断
ア 相違点について
事案に鑑み,相違点1及び相違点2について,まとめて検討する。
2つの織物層を接着層によって接着して積層する保護外層の技術分野において,当該接着層として,熱によって活性化が可能な熱可塑性接着剤を用いることは,例えば引用文献5に記載されるように,本願の優先日前における周知技術であった。
引用発明も,2つの織物層を接着層によって接着して積層する保護外層の技術分野に属するものであるところ,上記周知技術を採用することにより,引用発明の自己接着性の接着層3に換えて,熱によって活性化が可能な熱溶融型粘着性の接着層を用いる構成とし,張出部5aを第1の保持体2に溶融されることが可能であるように構成することは,当業者が通常の創作能力を発揮することにより容易になし得たことである。
したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用文献5に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

イ 上申書における請求人の主張について
請求人は,令和2年8月25日付け上申書(第2頁)において,
「(ア)しかしながら、引用文献1および2のいずれにも、本願請求項1に係る発明のように、「内層と外層との間に挟持され、内層を外層に接合する熱溶融型粘着性中間層であって、熱溶融型粘着性中間層が内層縁部の両方を越えて延在することによって熱溶融型粘着性中間層の一対の露出領域を形成し、熱溶融型粘着性中間層の一対の露出領域が外層に接合し、かつ外層を巻かれた筒状構造に維持するように溶融されることが可能であること」につきましては記載も示唆もされていません。
(イ)引用文献1は、接着層3が使用されるまで露出されることを防止するため、剥離フィルム6を備えた感圧接着剤からなる接着層3を開示しています。したがいまして、接着層3を露出させることが望まれるとき、剥離フィルム6は除去されます。
本願請求項1に係る発明の熱溶融型粘着性中間層は、剥離フィルム6を用いる必要がありませんので、製造工程を簡略化し、製造にかかるコストを低減することができます。
(ウ)引用文献2には、当業者が引用文献1を変更して本願請求項1に係る発明を想到することにつきまして何ら記載されていません。引用文献2には、接着層4が外側層3を内側層2に接着させるために用いられていますが、引用文献1には既に接着剤層3が中間層であることが既に記載されていますので、仮に、当業者が引用文献2の記載に接したと致しましても、当業者は、引用文献1に記載の発明を変更することの利益を見い出すことができません。」(当審注:(ア)?(ウ)の節番号は,以下での検討の便宜上,当審が付加した。また,上記引用記載中の「引用文献2」は,本審決における「引用文献5」と同じ文献である。)
と述べつつ,本件補正発明が進歩性を有する旨主張している。

上記述べるところについて検討すると,次のとおりである。

まず,(ア)の事項について,請求人が主張するとおり,「内層と外層との間に挟持され、内層を外層に接合する熱溶融型粘着性中間層であって、熱溶融型粘着性中間層が内層縁部の両方を越えて延在することによって熱溶融型粘着性中間層の一対の露出領域を形成し、熱溶融型粘着性中間層の一対の露出領域が外層に接合し、かつ外層を巻かれた筒状構造に維持するように溶融されることが可能であること」との事項全体は,引用文献1及び引用文献5のいずれにも,文献単体としては記載されていない。しかしながら,引用発明において引用文献5(引用文献2)に記載される周知技術を採用することは当業者が容易になし得たことであり,そのように構成された発明において,上記の事項全体が構成されることになることは,上記アで検討したとおりである。

次に,(イ)の事項について検討すると,引用発明において引用文献5に記載される周知技術を採用することにより,引用発明の自己接着性の接着層3に換えて,熱によって活性化が可能な熱溶融型粘着性の接着層を用いる構成となることは,上記アで検討したとおりであるが,そのようにして構成された発明においては,もはや自己接着性の接着層3は用いられないのであるから,剥離フィルム6を用いる必要がなくなることも明らかである。そして,その結果,製造工程を簡略化し,製造にかかるコストを低減することができるとの効果がもたらされることも,特段格別のものではなく,当業者が予測できた範囲内のものにすぎない。

さらに,(ウ)の事項について検討すると,上記アで検討したとおり,2つの織物層を接着層によって接着して積層する保護外層の技術分野において,当該接着層として熱によって活性化が可能な熱可塑性接着剤を用いることは,引用文献5に記載されるように,本願の優先日前において周知技術であったが,当業者は,かような周知技術に関する知識を有する者であり,引用文献5自体に,当該周知技術を引用発明に適用することについて記載されていないとしても,そのような適用を行うことは,当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内の事項にすぎない。そして,当業者が当該周知技術の適用を行うことを妨げる事情も特段見当たらない。
また,請求人が,「引用文献2には、接着層4が外側層3を内側層2に接着させるために用いられていますが、引用文献1には既に接着剤層3が中間層であることが既に記載されていますので、仮に、当業者が引用文献2の記載に接したと致しましても、当業者は、引用文献1に記載の発明を変更することの利益を見い出すことができません。」と述べるところについて,(イ)の事項についての検討で述べたとおり,引用発明において引用文献5に記載される周知技術を採用することは,引用発明の自己接着性の接着層3全体を,熱によって活性化が可能な熱溶融型粘着性の接着層に置換することを意味するところ,一体如何なる反論を意図するものであるのか必ずしも判然としないが,かような置換によりもたらされる「剥離フィルム6を用いる必要がありませんので、製造工程を簡略化し、製造にかかるコストを低減することができ」るとの効果が当業者の予測の範囲内であることは,上記(イ)の事項についての検討で述べたとおりである。

したがって,請求人の上記主張は,いずれも失当であるから,採用できない。

3 本件手続補正についてのむすび
以上のとおり,本件手続補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1 本願発明
令和2年1月24日にされた手続補正は,上記第2のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年8月22日に提出された誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-25に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願の請求項1-25に係る発明は,本願の優先日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった次の引用文献1に記載された発明及び引用文献2-5に記載された事項に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1.独国実用新案第202007012475号明細書
引用文献2.特開2006-335395号公報
引用文献3.実願昭62-102020号(実開昭64-8798号)のマイクロフィルム
引用文献4.特開昭50-5921号公報
引用文献5.特表2002-510775号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献5の記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,上記第2の[理由]1(1)で検討した本件補正発明から,「内層縁部」及び「露出領域」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3)-(4)で検討したとおり,引用発明及び引用文献5に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用文献5に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび

以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-09-29 
結審通知日 2020-10-06 
審決日 2020-10-21 
出願番号 特願2016-516768(P2016-516768)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 正典  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 ▲はま▼中 信行
山崎 慎一
発明の名称 接合した閉合機構を有する巻かれたテキスタイルスリーブおよびその作製方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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