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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F28F
管理番号 1372065
審判番号 不服2019-15314  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-15 
確定日 2021-03-11 
事件の表示 特願2018- 65107「薬剤入りカプセルおよび空気処理装置の部品」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月10日出願公開、特開2019-174077〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年3月29日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和元年5月7日付けで拒絶の理由の通知
令和元年7月10日に意見書及び手続補正書の提出
令和元年9月2日付けで拒絶査定
令和元年11月15日に拒絶査定不服審判の請求
令和2年8月20日付けで当審における拒絶の理由の通知
令和2年10月26日に意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、令和元年7月10日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び願書に最初に添付された図面の記載によれば、特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
カプセル材(21,31,41)と、上記カプセル材(21,31,41)の内部に設けられ、特定の微生物の殺菌作用を有する薬剤(22,32,42)とを有し、上記カプセル材(21,31,41)は、上記特定の微生物によって生分解される材料で構成された被分解部(21a,31a,41a)を含む薬剤入りカプセル(20,30,40)を含む被膜(13)を備える
ことを特徴とする空気処理装置の部品。」

第3 令和2年8月20日付けで通知した拒絶の理由
当審において、令和2年8月20日付けで通知した拒絶の理由のうち、本願の請求項1に係る発明についての理由は、概略以下のとおりである。
<理由1(進歩性)について>
本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基いて、本願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1:特開2016-125698号公報
引用文献2:特表2005-527633号公報

第4 引用文献
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された引用文献1には、「熱交換器」に関し、次の記載がある。
なお、「・・・」は記載の省略を示し、下線は当審において付したものである。
「【0001】
本発明は、熱交換器に関し、より特定的には、防カビ効果および抗菌効果のうち少なくとも一方の薬剤効果を長期間にわたり有効にかつ持続的に発現させることが可能な熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和装置の室内機において、多数のアルミニウムフィンと伝熱管との組み合わせにより構成される熱交換器が用いられている。この熱交換器では、空気調和装置の冷房運転時に空気中の水分が凝縮してその凝縮水がフィン表面に付着し、湿潤状態となったフィン表面においてカビや細菌が繁殖する場合がある。そして、カビや細菌の代謝により室内に悪臭が発生する場合がある。
・・・
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、防カビ効果および抗菌効果のうち少なくとも一方の薬剤効果を長期間にわたり有効にかつ持続的に発現させることが可能な熱交換器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係る熱交換器(1)は、複数の熱交換フィン(10)および前記複数の熱交換フィン(10)に組付けられる伝熱管(11)を備えた熱交換器(1)である。前記熱交換フィン(10)は、基材(21)と、前記基材(21)上に形成される親水性皮膜(23)と、を備える。前記親水性皮膜(23)は、防カビ効果および抗菌効果のうち少なくとも一方の薬剤効果を有し、前記薬剤効果を発現させる時期が互いに異なる複数種類の薬剤粒子(30,31,32,33,34)を含む。前記複数種類の薬剤粒子(30,31,32,33,34)のうち少なくとも一種類の薬剤粒子(31,32,33,34)は、水に対する徐溶性を有するカプセル材(42,43,44,45)により表面が被覆された薬剤粒子(31,32,33,34)である。
【0008】
上記構成によれば、前記親水性被膜(23)に含まれる前記複数種類の薬剤粒子(30,31,32,33,34)を水に溶解させることにより、防カビ効果および抗菌効果のうち一方または両方の薬剤効果を発現させることができる。また前記複数種類の薬剤粒子(30,31,32,33,34)は、水に対する徐溶性を有するカプセル材(42,43,44,45)により表面が被覆された薬剤粒子(31,32,33,34)を含み、前記薬剤効果を互いに異なる時期に発現させることができる。これにより、長期間にわたり安定して前記薬剤効果を有効に発現させることができる。このように、前記熱交換器(1)によれば、防カビ効果および抗菌効果のうち少なくとも一方の薬剤効果を長期間にわたり有効にかつ持続的に発現させることができる。
【0009】
「水に対する徐溶性」とは、水に対して経年的に溶解する性質であって、水に対する溶解性および加水分解性の両方を含む。すなわち、水との接触により徐々にカプセル材が溶解する性質であり、その溶解進行度は年単位のゆっくりしたものである。
【0010】
上記熱交換器(1)において、前記複数種類の薬剤粒子(30,31,32,33,34)は、各々が前記カプセル材(42,43)により表面が被覆されており、各々の前記カプセル材(42,43)の厚みが互いに異なる薬剤粒子(31,32)を含んでいてもよい。
【0011】
上記構成によれば、前記カプセル材(42,43)の厚みを調整することにより、薬剤効果を発現させる時期を調整することができる。
【0012】
上記熱交換器(1)において、前記複数種類の薬剤粒子(30,31,32,33,34)は、各々が前記カプセル材(44,45)により表面が被覆されており、各々の前記カプセル材(44,45)の水に対する溶解速度または加水分解速度が互いに異なる薬剤粒子(33,34)を含んでいてもよい。
【0013】
上記構成によれば、前記カプセル材(44,45)の水に対する溶解速度または加水分解速度を調整することにより、薬剤効果を発現させる時期を調整することができる。
【0014】
上記熱交換器(1)において、水に対する溶解速度または加水分解速度が互いに異なる前記カプセル材(44,45)は、分子量が互いに異なる材料から構成されていてもよい。
【0015】
上記構成によれば、前記カプセル材(44,45)を構成する材料の分子量を変更することにより、前記カプセル材(44,45)の水に対する溶解速度または加水分解速度を適宜調整することができる。これにより、薬剤効果を発現させる時期を調整することができる。
【0016】
上記熱交換器(1)において、前記カプセル材(42,43,44,45)は、ヒドロキシル基を含む水溶性の樹脂材料またはエステル基を含む加水分解性の樹脂材料から構成されていてもよい。
【0017】
上記樹脂材料は、水に対する徐溶性を有する前記カプセル材(42,43,44,45)の材料として好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、防カビ効果および抗菌効果のうち少なくとも一方の薬剤効果を長期間にわたり有効にかつ持続的に発現させることが可能な熱交換器を提供することができる。」

「【0021】
(実施形態1)
まず、本発明の一実施形態である実施形態1について説明する。
【0022】
<熱交換器の構成>
まず、本実施形態における熱交換器1の全体構成について、図1を参照して説明する。上記熱交換器1は、空気調和装置の室内機に配置される室内熱交換器であって、複数の熱交換フィン10と、当該複数の熱交換フィン10に組付けられる伝熱管11と、を有する。
【0023】
伝熱管11は、内部に冷媒が流れる円筒状の金属管であって、一方端12および他方端13を有する。伝熱管11は一方端12において図示しない膨張弁側に接続され、他方端13において図示しない圧縮機側に接続されている。
【0024】
伝熱管11は、直線状に延びる複数の直線部11aと、U字状に湾曲した複数の屈曲部11bと、を有する。各直線部11aは互いに略平行にかつ所定の間隔を空けて配置されている。各屈曲部11bは、隣接する直線部11aを互いに接続する。伝熱管11は、直線部11aと屈曲部11bとが交互に配置されることで複数回曲折された構造となっている。
【0025】
熱交換フィン10は、熱交換器1において伝熱面積を増加させるための平板状の部材であって、アルミニウム板から構成される。熱交換フィン10は複数の孔部を有し、当該孔部に伝熱管11の直線部11aが挿通されている。これにより、複数の熱交換フィン10は、伝熱管11と一体化されている。熱交換フィン10は、直線部11aの延在方向に対して直交し、かつ当該延在方向において略等間隔に配置されている。
【0026】
<熱交換器の動作>
空気調和装置の冷房運転時には、膨張弁を通過した低温低圧の液冷媒が一方端12から伝熱管11内に流入し、一方で熱交換器1に室内空気が送られる。そして、熱交換器1において室内空気と液冷媒との熱交換が行われ、液冷媒が蒸発するとともに冷気が生成される。
【0027】
上記のように、冷房運転時には低温の液冷媒が伝熱管11内を流れるため、空気中に含まれる水分が凝縮し、熱交換フィン10の表面に凝縮水が付着する場合がある。このように湿潤状態となった熱交換フィン10の表面ではカビや細菌などが繁殖し易くなり、その結果室内に悪臭が発生する場合がある。これに対して、上記熱交換器1では、後述するように熱交換フィン10に防カビ性や抗菌性を付与することにより、悪臭の発生に対する対策がなされている。
【0028】
<熱交換フィンの構成>
次に、熱交換フィン10の構成について、図2を参照して説明する。図2は、熱交換フィン10の厚み方向に沿った断面構造を示している。熱交換フィン10は、平板状の基材21と、基材21の一方の主面21a上に形成された耐食皮膜22と、耐食皮膜22上に形成された親水性皮膜23と、を有する。
【0029】
基材21は、アルミニウムからなる平板状の部材である。基材21の厚みT1は、約100μmである。耐食皮膜22は、冷房運転時に発生する凝縮水による腐食から基材21を保護するための膜であり、ウレタン系樹脂からなる。耐食皮膜22の厚みT2は、約1μmである。なお、耐食皮膜22の材料は上記ウレタン系樹脂に替えて、アクリル系、エポキシ系の樹脂でも良い。親水性皮膜23は、熱交換フィン10の表面に濡れ性を付与し、凝縮水を均一な水膜としてすみやかに排出させるとともに、凝縮水による通風抵抗を低くするための膜であり、ポリビニルアルコールの親水性樹脂からなる。親水性皮膜23は、熱交換フィン10のフィン表面10aを含む。親水性皮膜23の厚みT3は、約1μmである。
【0030】
親水性皮膜23には、第1の薬剤粒子30、第2の薬剤粒子31および第3の薬剤粒子32の3種類の薬剤粒子が均一に含まれている。第1?第3の薬剤粒子30,31,32は、防カビ効果および抗菌効果を有し、水に溶解することで上記薬剤効果を発現する。具体的には、薬剤粒子30,31,32は、冷房運転時にフィン表面10aに付着し、親水性皮膜23内に浸透した凝縮水に溶解することで上記薬剤効果を発現する。
【0031】
薬剤粒子30,31,32は、ジンクピリチオン(ZPT)、2-(4-チアゾリル)ベンゾイミダゾール(TBZ)および2-ベンゾイミダゾールカルボン酸メチル(BCM)からなる群より選択されるいずれかの材料からなる。薬剤粒子30,31,32は、上記群から選択される同じ材料からなるものでもよいし、上記群から選択される互いに異なる材料からなるものでもよい。薬剤粒子30,31,32の粒子径は、親水性皮膜23の厚みT3以下であり、0.1μm以上1μm以下である。なお、本発明では、当初の粒子径が厚みT3よりも大きく、製造過程のプレスにより潰されて粒子径が厚みT3以下となる薬剤粒子が含まれてもよい。
【0032】
第1の薬剤粒子30は、粒子表面が露出した状態で親水性皮膜23に含まれている。第2の薬剤粒子31は、第1のカプセル材42により粒子表面が被覆された状態で親水性皮膜23に含まれている。第3の薬剤粒子32は、第2のカプセル材43により粒子表面が被覆された状態で親水性皮膜23に含まれている。
【0033】
カプセル材42,43は、水に対する徐溶性を有する材料からなる。具体的には、カプセル材42,43は、親水基であるヒドロキシル基を含む水溶性の樹脂材料であるポリビニルアルコールからなる。カプセル材42,43の厚みは、0.05μm以上0.2μm以下である。またカプセル材42,43は、上記水溶性の樹脂材料からなるものに限られず、ポリエステル系樹脂などのエステル基を含む加水分解性の樹脂材料からなるものでもよい。
【0034】
カプセル材42,43の各々は、同じ水溶性の樹脂材料からなり、その厚みが互いに異なっている。具体的には、第2のカプセル材43の厚みは、第1のカプセル材42の厚みよりも大きくなっている。なお、カプセル材42,43は、薬剤粒子31,32の粒子表面を完全に被覆するものでもよいし、多孔質体からなるものでもよい。カプセル材42,43が多孔質体からなる場合には、薬剤粒子31,32が水とより接触し易くなる。
【0035】
図3は、薬剤粒子30,31,32の各粒子径分布(頻度分布)を示している。図3のグラフにおいて、横軸は粒子径を示し、縦軸は粒子量(%)を示している。また薬剤粒子31,32の粒子径は、カプセル材42,43の厚みを含む全体の粒子径を意味する。
【0036】
図3のグラフに示すように、薬剤粒子30,31,32の各々は、粒子径が均一なものではなく所定の粒子径分布を有する。ここで、第1の薬剤粒子30において粒子量がピークとなる粒子径をD1、第2の薬剤粒子31において粒子量がピークとなる粒子径をD2、第3の薬剤粒子32において粒子量がピークとなる粒子径をD3とすると、D3>D2>D1の関係となる。また薬剤粒子30,31,32における粒子径の最大値は、親水性皮膜23の厚みT3(図2参照)よりも小さいことが好ましい。これにより、薬剤粒子30,31,32を親水性皮膜23内により埋め込むことができる。
【0037】
<熱交換フィンの作製方法>
次に、熱交換フィン10の作製手順について、図2を参照して説明する。まず、基材21ならびに耐食皮膜22および親水性皮膜23を形成するための塗装剤がそれぞれ準備される。親水性皮膜23の塗装剤には、薬剤粒子30,31,32が予め混入される。第2の薬剤粒子31は塗装剤に混入される前に第1のカプセル材42により表面が被覆され、また第3の薬剤粒子32も同様に第2のカプセル材43により表面が被覆される。カプセル材42,43は、相分離法などの方法を用いて薬剤粒子31,32の表面に形成される。
【0038】
次に、基材21の主面21a上に耐食皮膜22の塗装剤が塗布され、その後所定の乾燥処理が行われることで耐食皮膜22が形成される。続いて、薬剤粒子30,31,32を含む親水性皮膜23の塗装剤が耐食皮膜22上に塗布され、同様に乾燥処理を経て親水性皮膜23が形成される。このように、基材21の主面21a上に耐食皮膜22および親水性皮膜23が順に形成されることで熱交換フィン10が作製される。
【0039】
<熱交換器における薬剤効果の発現>
次に、上記熱交換器1における薬剤効果の発現(カプセル材42,43の徐溶性)について、図4を参照して説明する。図4は、上記熱交換器1が室内熱交換器として搭載された空気調和装置を継続的に使用した場合の薬剤粒子30,31,32の各状態の経年変化を示している。図4上段は、使用開始時における薬剤粒子30,31,32の各状態を示している。図4中段は、使用開始時からT1年経過後における薬剤粒子30,31,32の各状態を示している。図4下段は、使用開始時からT2年(T1年よりも長い)経過後における薬剤粒子30,31,32の各状態を示している。図4中の破線は、使用により消費された薬剤粒子30,31を示している。
【0040】
図4上段を参照して、使用開始時には薬剤粒子30,31,32の各々は親水性皮膜23(図2参照)内に残存している。第1の薬剤粒子30は表面が露出した状態であり、第2の薬剤粒子31は第1のカプセル材42により表面が被覆された状態であり、第3の薬剤粒子32は第2のカプセル材43により表面が被覆された状態である。そのため、使用開始時から一定の期間は、第1の薬剤粒子30が水に溶解することで防カビ効果および抗菌効果を発現する一方、カプセル化された薬剤粒子31,32は薬剤効果を発現しない。この期間中、カプセル材42,43は水中に溶解することで厚みが僅かずつ減少する。
【0041】
図4中段を参照して、使用開始時からT1年経過した時点では、第1の薬剤粒子30が完全に消費され、薬剤粒子31,32が残存する。また、第2の薬剤粒子31は表面が露出した状態となり、第3の薬剤粒子32は使用開始時(図4上段)よりも厚みが減少した第2のカプセル材43により表面が被覆された状態となる。そのため、T1年経過の時点から一定の期間は、第2の薬剤粒子31が水に溶解することで防カビ効果および抗菌効果を発現する一方、カプセル化された第3の薬剤粒子32は薬剤効果を発現しない。この期間中、第2のカプセル材43は水中に溶解することでさらに厚みが減少する。
【0042】
図4下段を参照して、使用開始時からT2年経過した時点では、第1の薬剤粒子30に続いて第2の薬剤粒子31も完全に消費され、第3の薬剤粒子32のみが残存する。また第2のカプセル材43も完全に消費され、第3の薬剤粒子32は表面が露出した状態となる。そのため、T2の経過の時点から一定の期間は、第3の薬剤粒子32が水に溶解することで防カビ効果および抗菌効果を発現する。このように、親水性皮膜23(図2参照)に含まれる3種類の薬剤粒子30,31,32が互いに異なる時期に薬剤効果を発現することにより、長期間にわたり防カビ効果および抗菌効果を有効にかつ持続的に発現させることができる。
【0043】
<作用効果>
次に、上記熱交換器1による作用効果について説明する。上記熱交換器1では、空気調和装置の冷房運転時にフィン表面10aに付着し、親水性皮膜23内に浸透した水に薬剤粒子30,31,32を溶解させることにより、防カビ効果および抗菌効果を発現させることができる。これにより、フィン表面10aにおけるカビや細菌の繁殖が抑制され、これらの代謝に起因した悪臭の発生を抑制することができる。
【0044】
ここで、上記熱交換器1とは異なりカプセル化されていない薬剤粒子のみが親水性皮膜に含まれる場合、使用開始時には水への溶解量が大きいため薬剤効果が大きくなる一方、溶解量が過剰になるため必要な年数だけ薬剤効果を持続することが困難である。これに対して、上記熱交換器1では、表面が露出した第1の薬剤粒子30と、互いに厚みが異なる第1および第2のカプセル材42,43により表面が被覆された第2および第3の薬剤粒子31,32とを用いることで、防カビ効果および抗菌効果を互いに異なる時期に発現させることができる。その結果、上記熱交換器1によれば、長期間にわたり防カビ効果および抗菌効果を有効かつ持続的に発現させることができる。」

「【0057】
<変形例>
次に、上記本実施形態に係る熱交換器の変形例について説明する。
【0058】
上記本実施形態において、親水性皮膜23には、薬剤効果を発現させる時期が互いに異なる複数種類の薬剤粒子が含まれていればよく、2種類の薬剤粒子が含まれていてもよいし、3種類を超える薬剤粒子が含まれていてもよい。また親水性皮膜23に含まれる複数種類の薬剤粒子の全てがカプセル材により表面が被覆されたものでもよいし、カプセル材により表面が被覆された薬剤粒子以外にカプセル材により表面が被覆されていない薬剤粒子が親水性皮膜23に含まれてもよい。
【0059】
上記本実施形態において、薬剤粒子30,31,32,33,34は防カビ効果および抗菌効果の両方を有する場合に限られず、防カビ効果および抗菌効果のうち一方の薬剤効果のみを有していてもよい。
【0060】
上記本実施形態において、薬剤粒子30,31,32,33,34が親水性皮膜23内にのみ含まれる場合(図2,5参照)に限られず、耐食皮膜22にも薬剤粒子30,31,32,33,34が含まれてもよい。また耐食皮膜22が省略され、基材21の主面21a上に直接親水性皮膜23が形成されてもよい。」





(2)上記(1)記載から認められること
ア 上記(1)(特に、段落0001及び0022並びに図1の記載)によれば、引用文献1には、空気調和装置の室内機に配置される熱交換器1が記載されている。

イ 上記(1)(特に、段落0022及び0028並びに図2の記載)によれば、熱交換器1は、親水性皮膜23を備えている。

ウ 上記(1)(特に、段落0030、0032及び0040並びに図2及び4の記載)によれば、親水性皮膜23は、防カビ効果及び抗菌効果を有する、カプセル化された第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子32を、防カビ効果及び抗菌効果を有する、粒子表面が露出した第1の薬剤粒子30とともに均一に含んでいる。

エ 上記(1)(特に、段落0010、0030及び0032並びに図2の記載)によれば、カプセル化された第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子32は、第1のカプセル材42及び第2のカプセル材43と、防カビ効果及び抗菌効果を有する、前記第1のカプセル材42により粒子表面が被覆される第2の薬剤粒子31及び前記第2のカプセル材43により粒子表面が被覆される第3の薬剤粒子32とを有している。

オ 上記(1)(特に、段落0033及び図2の記載)によれば、第1のカプセル材42及び第2のカプセル材43は、水に対する徐溶性を有する材料からなる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献1には、次の事項からなる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「第1のカプセル材42及び第2のカプセル材43と、防カビ効果及び抗菌効果を有する、前記第1のカプセル材42により粒子表面が被覆される第2の薬剤粒子31及び前記第2のカプセル材43により粒子表面が被覆される第3の薬剤粒子32とを有し、前記第1のカプセル材42及び前記第2のカプセル材43は、水に対する徐溶性を有する材料からなる、カプセル化された第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子32を、防カビ効果及び抗菌効果を有する、粒子表面が露出した第1の薬剤粒子30とともに均一に含む親水性皮膜23を備える空気調和装置の室内機に配置される熱交換器1。」

2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
当審において通知した拒絶の理由に引用された引用文献であって、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献2には、「抗菌性包装」に関し、次の記載がある。
「【0008】
本発明は、微生物によって分解されうる覆い中に包装された抗菌性物質に関する。
【0009】
そのような分解可能な覆い(カプセルとも呼ばれる)は好ましくは、炭水化物及び/又はタンパク質の包装からなり、ほとんどの微生物により基質として使用されることが出来るオリゴマー状の炭水化物及びポリマー状の炭水化物並びにタンパク質が好ましい。従って、使用されることが出来る炭水化物は、例えばグルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、アラビノース、マンノース、ガラクトース、ラクトース並びにこれらの糖類のオリゴマー及びポリマー、セルロース、デキストリン(例えばマルトデキストリン)、アガロース、アミロース、アミロペクチン及びガム(例えばグアール(guar))である。使用されることが出来るタンパク質は、アルブミン、オバルブミン、カゼイン、ミオシン、アクチン、グロブリン、ヘミン、ヘモグロビン、ミオグロビン及び小ペプチドである。好ましくは、DP2以上のオリゴマー状の炭水化物又はDP50以上のポリマー状の炭水化物が使用される。これらは、自然に生じるポリマー、例えばでんぷん(アミロース、アミロペクチン)、セルロース及びガム又はホスホリル化又は酸化によって形成されうるこれらの誘導体でありうる。包装材料とのよりよい適合性のために添加されることができる他のポリマーがまた使用されることができる(例えば、カプロラクトン)。タンパク質の場合、植物又は動物物質の加水分解から得られるタンパク質がまた使用されうる。
【0010】
本発明はさらに、包装された商品の微生物腐敗を防ぐための包装材料において、該材料が微生物によって分解されうる覆い中に包装された抗菌性物質を含むことを特徴とする包装材料に関する。
【0011】
該抗菌性物質は、糖及び/又はタンパク質の覆いを備えられ、そして包装材料上にカプセルとしてコーティングされる。
【0012】
該包装材料は好ましくは、例えば食物を包装するために既に使用されている材料で作られる。このための適切な材料は:パラフィン、ポリテトラフルオロエチレン、架橋された又は架橋されていないポリプロペン、ポリエテン、ポリプロピレン及びポリエチレン、エチレン-ビニルアルコールポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル及びポリアミドである。前記の一連の物からの幾つかの物質が、組合わされて、架橋され又は架橋されずに使用されうる。好ましくは、透明なフィルム若しくは箔、又は錫、ポーチ(pouche)、ガラス、ボール紙のためのコーティング、又はアルミニウム包装を形成することができる材料が使用される。エポキシフェノールコーティング又はオルガノゾルラッカーが、錫のために特に適切である。
【0013】
下記は抗菌性物質として使用されることができる:バクテリオシン(例えばナイシン及びペディオシン);金属又は金属誘導体(例えば金属酸化物、金属塩類、金属錯体又はアロイ);抗生物質(例えば、ペニシリン、エリスロマイシン、アンピシリン、イソニアジド、テトラサイクリン、スルホンアミド及びクロラムフェニコール);植物毒素(例えば、ディフェンシン、レクチン及び抗真菌タンパク質);エタノール:過酸化水素を生産する酵素(例えば、オキシダーゼ);有機酸(例えば、プロピオン酸及びプロピオナート誘導体、ソルビン酸及びソルベート誘導体、安息香酸及びベンゾエート誘導体、乳酸);二酢酸ナトリウム;硝酸ナトリウム;リゾチーム及び香辛料からの抗菌性物質が使用されうる。
【0014】
好ましくは、「食品等級」として認められている、すなわち如何なる健康ハザードもなしに消費されることができる抗菌性物質が使用される。そのような抗菌性物質は例えば、ハーブ及び/又は香辛料から得られうる。細菌性又は真菌性感染に対する防御のために植物により生産される抗菌性物質(例えば、ディフェンシン)がまた、使用可能である。最後に、食品中に既に入れられている(例えば、チーズの調製において)、真菌によって生産される抗菌性物質のカテゴリーが言及されるべきである。
【0015】
本発明の有利点は、微生物が存在し且つ活動している場所でのみ、抗菌性物質が放出されるということである。これは、微生物のない場合、環境(包装された材料、例えば食品)への抗菌性物質の移行が生じないだろうということ、及びまた、制御されるべき微生物が存在する場合、放出される抗菌性物質の量は最小に制限されるだろうということを意味する。これは、微生物腐敗が製品の貯蔵期間のための制限的要因である食料のために特に、該包装が使用されることを可能にする。これらは、腐敗しやすい食品、例えば食肉製品、チーズ、パン、ソース、マーガリン、サラダ、即席料理などである。さらに、本発明に従う包装はまた、一般に食品の包装において、及びまた、他の腐敗しやすい商品、例えば化粧品(油、軟膏及び石鹸を含む)、医薬などのために、また使用されることができる。
【0016】
抗菌性物質の選択は、包装を使用して包装される物質に依存することができる。一般に、食品包装では、食品の消費者の健康を害さない抗菌性物質だけが使用されるだろう。これは、例えば化粧品のパッケージングのために、潜在的に使用可能な、入手可能な抗菌性物質のより広い選択があることを意味する。
【0017】
微生物によって分解されることができる覆い中に包装された菌性物質の他の使用が、可能である。そのような包装された抗微生物性物質(特に、殺菌性の物質)が、殺菌性塗料において非常に良く使用されることができる。他の殺菌性塗料と比較される有利点は、理由がある場合にのみ抗菌性物質が放出される故に、本発明に従う塗料ははるかに長く活性を維持するということである。」

(2)引用文献2の記載事項
上記(1)によると、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2の記載事項」という。)が記載されているものと認める。
「包装された商品の微生物腐敗を防ぐための包装材料上に、分解可能な覆い中に包装された抗菌性物質がカプセルとしてコーティングされたものにおいて、前記覆いを微生物によって分解されることができるものとすることにより、微生物が存在し且つ活動している場所でのみ前記抗菌性物質が放出され、長く活性を維持するようにすること。」

第5 対比
本願発明(以下「前者」ともいう。)と引用発明(以下「後者」という。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者における「第1のカプセル材42及び第2のカプセル材43」は、前者における「カプセル材(21,31,41)」に相当し、同様に、「防カビ効果及び抗菌効果を有する」は「特定の微生物の殺菌作用を有する」に、「第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子32」は「薬剤(22,32,42)」に、「カプセル化された第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子32」は「薬剤入りカプセル(20,30,40)」に、「親水性皮膜23」は「被膜(13)」に、「空気調和装置の室内機に配置される熱交換器1」は「空気処理装置の部品」に、それぞれ相当する。

・後者の「防カビ効果及び抗菌効果を有する、前記第1のカプセル材42により粒子表面が被覆される第2の薬剤粒子31及び前記第2のカプセル材43により粒子表面が被覆される第3の薬剤粒子32」は、第2の薬剤粒子31が、第1のカプセル材42により粒子表面が被覆されることにより、第1のカプセル材42の内部に設けられることになり、また、第3の薬剤粒子32が、第2のカプセル材43により粒子表面が被覆されることにより、第2のカプセル材43に設けられることになるから、前者の「上記カプセル材(21,31,41)の内部に設けられ、特定の微生物の殺菌作用を有する薬剤(22,32,42)」に相当する。

・後者の「カプセル化された第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子32を、防カビ効果及び抗菌効果を有する、粒子表面が露出した第1の薬剤粒子30とともに均一に含む親水性皮膜23を備える」ことは、前者の「薬剤入りカプセル(20,30,40)を含む被膜(13)を備える」ことに相当する。

したがって、両者の間に次の一致点及び相違点が認められる。
[一致点]
「カプセル材と、上記カプセル材の内部に設けられ、特定の微生物の殺菌作用を有する薬剤とを有する薬剤入りカプセルを含む被膜を備える空気処理装置の部品。」

[相違点1]
本願発明では、「上記カプセル材(21,31,41)は、上記特定の微生物によって生分解される材料で構成された被分解部(21a,31a,41a)を含む」のに対して、引用発明では、「前記第1のカプセル材42及び前記第2のカプセル材43は、水に対する徐溶性を有する材料からなる」点(以下「相違点1」という。)。

第6 判断
1 相違点1の検討
上記相違点1について検討する
引用文献2の記載事項は、カプセル材を特定の微生物によって生分解される材料で構成された被分解部を含むものとすることにより、特定の微生物が繁殖していない状態で薬剤が放出されるのを抑制し、薬剤効果を長期にわたって発現させることができるものといえる。
そして、引用文献2の記載事項は、商品の包装材料上に限らず、物品表面上のカビや細菌等の微生物の繁殖を抑制する技術として認識できるものであり、当該技術の点で引用発明と共通しており、また、引用発明は、親水性皮膜23に含まれる複数種類の薬剤粒子の薬剤効果を互いに異なる時期に発現させることにより、薬剤効果を長期間にわたり有効にかつ持続的に発現させるものであり(引用文献1の段落0008)、引用文献2の記載事項と同様に、薬剤の長期的な放出を技術的課題としているから、引用発明において、薬剤の放出を更に長期化すべく引用文献2の記載事項を適用することに格別な困難性はない。
ここで、引用発明に引用文献2の記載事項を適用する際、引用発明における第1の薬剤粒子30、第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子は、空気調和装置の冷房運転時に空気中の水分が凝縮してその凝縮水がフィン表面に付着し、湿潤状態となったフィン表面においてカビや細菌が繁殖するため(引用文献1の段落0002)、カビや細菌等の微生物が繁殖しないように、最初に粒子表面が露出した第1の薬剤粒子30から薬剤が放出され、その後第1のカプセル材42により粒子表面が被覆される第2の薬剤粒子31及び第2のカプセル材43により粒子表面が被覆される第3の薬剤粒子32から薬剤が順次放出されて微生物の繁殖が長期に抑制された状態にされること、引用文献2の記載事項における分解可能な覆い中に包装された抗菌性物質が、微生物の繁殖が生じることを契機としてカプセルである覆いが分解されて放出され始めること、及び、引用発明において、複数種類の薬剤粒子の薬剤効果を発現させる時期を調整するためにカプセル材の材料を異ならせることが想定されていること(引用文献1の段落0012?0015)を考慮すると、引用発明において、均一に含まれる(すなわち、多数の)カプセル化された第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子32の一部のものについて、第1のカプセル材42及び第2のカプセル材43が特定の微生物によって生分解される材料で構成されたものとすることにより(残りの第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子32については、水に対する徐溶性を有する材料からなる第1のカプセル材42及び第2のカプセル材43のまま)、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

2 効果について
そして、本願発明1を全体としてみても、その奏する効果は、引用発明及び引用文献2の記載事項から、当業者が予測し得る範囲のものである。

3 請求人の主張について
(1)請求人は、令和2年10月26日に提出された意見書において、次の主張をする。
「(B)引用発明1-1には、段落0013において、各カプセル材が水により溶解することを前提の要件とし、各カプセル材の水に対する溶解速度または加水分解速度を調整することで、各カプセル材が水により溶解する時期を調整して、各カプセル材内の薬剤粒子の薬剤効果を発現させる時期を調整する旨記載されています。

(C)引用発明1-1には、各カプセル材が異なる要件で溶解するように構成すること(例えば、各カプセル材のうちの一つは水により溶解することとし、他の一つは微生物により溶解することとすること)については記載及び示唆されていません。また、各カプセル材が異なる要件で溶解するように構成すると、各カプセル材が溶解する時期を調整する(各カプセル材内の薬剤粒子の薬剤効果を発現させる時期を調整する)ことが困難となります。理由は、例えば、第1カプセル材を水により溶解する材料で構成し、第2カプセル材を微生物により溶解する材料で構成し、水と微生物とが水及び微生物の順番で発生するものと想定することで、第1カプセル材と第2カプセル材とが第1カプセル材及び第2カプセル材の順番で溶解するように各カプセル材の溶解時期を調整していたとしても、水及び微生物は、それぞれ独自のタイミングで発生することがあり、必ずしも水及び微生物の順番で発生するとはいえず、例えば、水及び微生物が逆の順番(微生物及び水の順番)で発生して、第1カプセル材と第2カプセル材とが調整していた順番とは逆の順番(第2カプセル材及び第1カプセル材の順番)で溶解すること、又は、水及び微生物が同時に発生して、第1カプセル材と第2カプセル材とが同時に溶解することもあり得るからです。このことからも、引用発明1-1においては、各カプセル材が溶解する時期を調整できるようにするために、各カプセル材が同じ要件(水)で溶解する構成を前提としており、各カプセル材が異なる要件で溶解する構成を排除していることは自明です。

(D)よって、審判官殿がご指摘の、引用発明1-1において、複数種類の薬剤粒子の薬剤効果を発現させる時期を調整するために各カプセル材の材料を異ならせることには、各カプセル材が同じ要件で溶解することを前提として各カプセル材の材料を異ならせる構成(各カプセル材が水により溶解することを前提とし、各カプセル材の水に対する溶解速度または加水分解速度が変わるように、各カプセル材の材料を異ならせる構成)は含まれていますが、各カプセル材が異なる要件で溶解するように各カプセル材の材料を異ならせる構成までは含まれていません。従って、引用発明1-1と引用文献2とでは、カプセル材が溶解する要件が異なっているので(引用発明1-1では水、引用文献2では微生物)、引用発明1-1発明において、引用文献2の記載事項を適用する動機がありません。よって、引用発明1-1発明において、引用文献2の記載事項を適用し、カプセル化された第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子32の一部のものについて、第1のカプセル材42及び第2のカプセル材43が特定の微生物によって生分解される材料で構成されたものとすることにより(残りの第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子32については、水に対する徐溶性を有する材料からなる第1のカプセル材42及び第2のカプセル材43のまま)、各カプセル材のうちのいずれかを本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえません。

(E)また、引用文献2は、食品、化粧品、医薬を対象としており(引用文献2の段落0015参照)、引用文献1-1、本願発明1の空気処理装置のような機械を対象とすることは記載及び示唆されていません。このことは、引用文献1-1に引用文献2を組み合わせる阻害要因となります。

(F)従って、上記(B)?(D)及び(E)の理由より、引用発明1-1及び引用文献2の記載に基づいて、当業者が容易に本願発明1をすることができません。よって、本願発明1の新規性及び進歩性は否定されないものと思料いたします。」(意見書1頁下から2行目?2頁下から6行目)

(2)上記主張の(B)については、引用発明はそもそも、各カプセル材(42、43)の厚みが同じものを含んでおり(引用文献1の段落0010)、各カプセル材の材料を異なるものとすることが想定されているから(引用文献1の段落0012?0015)、引用発明に引用文献2の記載事項を適用することが困難とする理由とはならない。
また、上記主張の(C)の「引用発明1-1においては、各カプセル材が溶解する時期を調整できるようにするために、各カプセル材が同じ要件(水)で溶解する構成を前提としており、各カプセル材が異なる要件で溶解する構成を排除していることは自明です。」について、引用文献1には各カプセル材が異なる要件で溶解する構成を排除する旨の記載はなく、必ずしも排除しているとはいえない。すなわち、引用発明の目的は「各カプセル材が溶解する時期を調整できるようにする」ことであり、「各カプセル材が異なる要件で溶解する構成」を採用しても、当該目的を果たすことができる。
また、(D)の「引用発明1-1発明において、引用文献2の記載事項を適用する動機がありません。」について、上記1で述べたとおり、引用発明と引用文献2の記載事項とは、物品表面上のカビや細菌等の微生物の繁殖を抑制する技術の点で共通しており、引用発明の目的に合致している限り、引用発明に引用文献2の記載事項を適用することができる。
そして、引用発明に引用文献2の記載事項を適用し、均一に含まれる(すなわち、多数の)カプセル化された第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子32の一部のものについて、第1のカプセル材42及び第2のカプセル材43が特定の微生物によって生分解される材料で構成されたものとすることについては、カビや細菌が繁殖するには、フィン表面の水分が必要であること(引用文献1の段落0002)を考慮すると、粒子表面が露出した第1の薬剤粒子30、水に対する徐溶性を有する材料からなる第1のカプセル材42により粒子表面が被覆される第2の薬剤粒子31及び水に対する徐溶性を有する材料からなる第2のカプセル材43により粒子表面が被覆される第3の薬剤粒子32の各薬剤が順次消耗され尽くした後においても、特定の微生物によって生分解される材料で構成されたカプセル材で粒子表面が被覆される第2の薬剤粒子31及び第3の薬剤粒子32から薬剤が放出されるように調整することが可能であるから、困難であるとはいえない。
さらに、(E)の「引用文献2は、食品、化粧品、医薬を対象としており(引用文献2の段落0015参照)、引用文献1-1、本願発明1の空気処理装置のような機械を対象とすることは記載及び示唆されていません。このことは、引用文献1-1に引用文献2を組み合わせる阻害要因となります。」について、「食品、化粧品、医薬を対象としており」「機械を対象とすることは記載及び示唆されてい」ないとしても、機械を対象とすることを積極的に否定しているものではないから、引用文献1-1に引用文献2を組み合わせる阻害要因とまではいえない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

4 まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-12-24 
結審通知日 2021-01-05 
審決日 2021-01-22 
出願番号 特願2018-65107(P2018-65107)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F28F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石黒 雄一  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 山田 裕介
槙原 進
発明の名称 薬剤入りカプセルおよび空気処理装置の部品  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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