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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1372242
審判番号 不服2018-798  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-22 
確定日 2021-04-06 
事件の表示 特願2013- 81957「リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月27日出願公開,特開2014-203804,請求項の数(7)〕についてした平成31年 2月12日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成31年(行ケ)第10040号,令和 2年 7月 2日判決言渡し)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年 4月10日の出願であって,その手続の経緯は次のとおりである。

平成29年 2月 8日付 拒絶理由通知
同 年 4月11日 意見書,手続補正書の提出
同 年 7月31日付 拒絶理由通知
同 年10月 5日 意見書,手続補正書の提出
同 年10月20日付 拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年 1月22日 審判請求書の提出
同 年 3月 5日 手続補正書の提出
(審判請求書における請求の理由を補正するもの)
同 年 9月27日付 拒絶理由通知
同 年11月30日 意見書,手続補正書の提出
平成31年 2月12日付 審決(以下「原審決」という。)
(結論:本件審判の請求は,成り立たない。)
平成31年 3月28日 審決に対する訴えの提起
令和 2年 7月 2日 判決言渡し
(主文:1 特許庁が不服2018-000798号事件について平成31年2月12日にした審決を取り消す。2 訴訟費用は被告の負担とする。)
同 年11月 2日付 当審による拒絶理由通知
令和 3年 1月 8日 意見書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)は,平成30年11月30日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載される,次のとおりのものである。

「【請求項1】
正極活物質、結着材および導電助剤を含む正極であって、
前記結着材は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を有するヨウ素価が20mg/100mg以下である水素化ジエン系ポリマーを含み、
前記導電助剤は平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが0.60>(3σ/Av)>0.50であり、比表面積が600m^(2)/g以上であり、高純度であり、平均直径(Av)が3?30nmであるカーボンナノチューブを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項2】
水溶性高分子を含むことを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
前記正極活物質の一次粒子の平均粒子径は、0.1?100μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
前記結着材は、アクリル酸エステルモノマー単位または/およびメタクリル酸エステルモノマー単位を有する重合体であって、乳化重合することにより得られる前記重合体を含むことを特徴とする請求項1?3の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
前記結着材は、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位と、アクリル酸エステルモノマー単位または/およびメタクリル酸エステルモノマー単位とを有する粒子状結着材であって、乳化重合することにより得られる前記粒子状結着材を含み、
前記粒子状結着材の平均粒子径は50?2000nmであることを特徴とする請求項1?4の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
前記水素化ジエン系ポリマーにおけるα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、前記水素化ジエン系ポリマーに含まれる全単量体単位中、10?40重量%であることを特徴とする請求項1?5の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項7】
請求項1?6の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池。」

第3 原査定及び原審決の理由並びに当審による拒絶理由の概要
1 当審による拒絶理由
本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 原審決の理由
本願の請求項1に係る発明は,本願の出願前に日本国内または外国において,頒布された引用文献1に記載された発明と引用文献2及び引用文献3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 原査定の理由
本願の請求項1?8に係る発明(平成30年11月30日に提出の手続補正書によって補正される前のもの。以下,各々「補正前発明1」?「補正前発明8」という。)は,本願の出願前に日本国内または外国において,頒布された引用文献1に記載された発明と引用文献4(原査定では引用文献2と称している。)及び引用文献3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 引用文献
(1)引用文献1 特開2012-221672号公報
(2)引用文献2 特許第4621896号公報
(3)引用文献3 特開2013-8485号公報
(4)引用文献4 国際公開第2006/011655号
なお,引用文献4は,引用文献2に係る国際出願の国際公開である。

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1には,原審決が認定したとおり,次の記載がある(下線は当審による。以下同じ。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の正極に用いる導電剤であって、直径が0.5?10nmであり、長さが10μm以上であるカーボンナノチューブを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池正極用導電剤。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池正極用導電剤。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの炭素純度は、重量基準で99.9%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池正極用導電剤。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブは、水分散された状態で安定であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池正極用導電剤。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池正極用導電剤と、正極活物質とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項6】
前記正極活物質は、オリビン構造を有するリチウム酸化物であることを特徴とする請求項5記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項7】
前記正極活物質は、オリビンマンガンであることを特徴とする請求項5記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブの含有量は、重量基準で0.1?0.6%であることを特徴とする請求項5?7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項9】
請求項5?8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料と、バインダとを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極合剤。
【請求項10】
請求項9記載のリチウムイオン二次電池用正極合剤を集電体に塗工した構成を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項11】
正極と、負極と、セパレータと、電解液とを含むリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、請求項10記載のリチウムイオン二次電池用正極であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」

「【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池において正極に混合する導電剤の量を低減し、容量を大きくし、高出力における容量の劣化を抑制することができる。」

「【0016】
本発明は、高出力で放電する際の容量の劣化を抑制するリチウムイオン二次電池正極用導電剤及びこれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池正極用導電剤並びにこれを用いた正極材料、正極合剤、正極及びリチウムイオン二次電池について説明する。
【0018】
前記リチウムイオン二次電池正極用導電剤は、リチウムイオン二次電池の正極(又は正極合剤)に用いる導電剤であって、直径が0.5?10nmであり、長さが10μm以上であるカーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)を含むことを特徴とする。
【0019】
ここで、正極合剤は、正極活物質と、導電剤と、バインダとを含むものである。また、正極は、正極合剤を集電体に塗工した構成を有する。
【0020】
なお、本発明は、直径が小さく、長さが大きいカーボンナノチューブの新たな用途を見出したものである。すなわち、上記の寸法を有するカーボンナノチューブをリチウムイオン二次電池正極用導電剤に適用したものである。
【0021】
前記リチウムイオン二次電池正極用導電剤において、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであることが望ましい。
【0022】
前記リチウムイオン二次電池正極用導電剤において、カーボンナノチューブの炭素純度は、重量基準で99.9%以上であることが望ましい。カーボンナノチューブの炭素純度が99.9%以上であれば、導電剤としての添加重量が極少量で済み、電池の充放電における短絡や、容量劣化が起きにくい。
【0023】
前記リチウムイオン二次電池正極用導電剤において、カーボンナノチューブは、水分散された状態(水に分散された状態)で安定(保存可能)であることが望ましい。
【0024】
前記正極材料(リチウムイオン二次電池用正極材料)は、前記リチウムイオン二次電池正極用導電剤と、正極活物質とを含むことを特徴とする。
【0025】
前記正極材料において、正極活物質は、オリビン構造を有するリチウム酸化物であることが望ましい。
【0026】
前記正極材料において、正極活物質は、オリビンマンガンであることが望ましい。
【0027】
前記正極材料において、カーボンナノチューブの含有量は、重量基準で0.1?0.6%であることが望ましい。
【0028】
前記正極合剤(リチウムイオン二次電池用正極合剤)は、前記正極材料と、バインダとを含むことを特徴とする。
【0029】
前記正極(リチウムイオン二次電池用正極)は、前記正極合剤を集電体に塗工した構成を有することを特徴とする。
【0030】
前記リチウムイオン二次電池は、前記正極と、負極と、セパレータと、電解液とを含むものである。
【0031】
以上の構成により、電池の容量を大きくすることができ、容量の劣化を抑制することができる。そして、大型化しても安全性が高く、寿命が長い電池を提供することができる。」

「【0046】
正極活物質は、特に限定されるものではないが、オリビン型結晶構造を有する正極活物質が望ましい。オリビン型結晶構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMnPO_(4))は、更に好ましい。」

「【実施例1】
【0155】
(正極の作製)
まず、正極活物質の作成方法を説明する。
【0156】
酢酸リチウム・二水和物〔Li(CH_(3)COO)・2H_(2)O〕と、酢酸マンガン・四水和物〔Mn(CH_(3)COO)_(2)・4H_(2)O〕と、リン酸二水素アンモニウム〔NH_(4)H_(2)PO_(4)〕とをモル比で1:1:1となるように秤量し、これらを溶媒である純水に溶かし、原料混合液を調製した。次いで、得られた原料混合液に、ゲル化剤であるグリコール酸〔C_(2)H_(4)O_(3)〕を酢酸リチウム・二水和物:グリコール酸=1:5のモル比となるように添加し、得られた組成物を大気中600℃で焼成を行うことにより、LiMnPO_(4)を合成し、正極活物質とした。
【0157】
この正極活物質と導電剤であるCNTとが重量比で94.8:0.20となるようにCNT分散液を正極活物質に加え、マグネチックスターラで撹拌混合した。正極活物質とCNT分散液との混合溶液は、減圧下における加熱乾燥又は空気中における加熱乾燥により水分を除去して粉末状にし、その後、100℃で2時間真空乾燥して、CNT含有正極材(正極材料)とした。
【0158】
CNT含有正極材と結着剤であるPVDFとが重量比で95:5となるようにPVDFの濃度が12重量%であるNMP溶液を混合してペーストを作製した。本実施例において用いたCNTの長さ(全長)の平均値は、約1mmである。
【0159】
このペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔に塗布した後、80℃で乾燥した。
【0160】
その後、120℃で真空乾燥した後、合剤層の多孔質度が35%となるようにプレスし、正極とした。
【0161】?【0163】(略)
【0164】
(電池の充放電評価)
上記のように作製した電池は、電流密度0.5mA/cm^(2)の定電流で、充電電圧4.3V、放電電圧2Vで3サイクル充放電を行った(初期充放電)。その後、電流密度を0.5mA/cm^(2)の定電流で、充電電圧4.3Vまで充電し、電流密度を8mA/cm^(2)で2Vまで放電させた際の放電容量を測定した(4サイクル目)。次に、電流密度を0.5mA/cm^(2)の定電流で、充電電圧4.3Vまで充電し、電流密度を13mA/cm^(2)で2Vまで放電させた際の放電容量を測定した(5サイクル目)。
【0165】
上記の初期充放電における3サイクル目の放電容量を基準(分母)として、放電の電流密度8mA/cm^(2)(4サイクル目)及び13mA/cm^(2)(5サイクル目)における放電容量の割合を算出し、それぞれ、8mA/cm^(2)及び13mA/cm^(2)の容量維持率(%)とした。
【実施例2】
【0166】
正極を作製する際、正極活物質と導電剤であるCNTとが重量比で94.9:0.10となるようにCNT分散液を正極活物質に加えて混合したこと以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、測定を行った。
【実施例3】
【0167】
正極を作製する際、正極活物質と導電剤であるCNTとが重量比で93.95:0.050となるようにCNT分散液を正極活物質に加えて混合し、CNTを含む正極材料を得た後、PVDFを混合する際に導電補助剤としてアセチレンブラック(AB)を正極活物質とCNTとABとが重量比で93.95:0.050:1.0となるように混合したこと以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、測定を行った。
【0168】
本実施例は、CNT以外に少量の導電補助剤を添加することにより、容量維持率の高い正極合剤を作製することができることを示している。
【実施例4】
【0169】
正極を作製する際、正極活物質と導電剤であるCNTとが重量比で94.5:0.50となるようにCNT分散液を正極活物質に加えて混合したこと以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、測定を行った。
【0170】?【0175】(略)
【0176】【表1】



(2)上記(1)の摘記のうち,段落【0016】によれば,引用文献1には,高出力で放電する際の容量の劣化を抑制するリチウムイオン二次電池用正極用導電剤が記載されており,段落【0018】,【0020】?【0022】,請求項1?3によれば,当該リチウムイオン二次電池用正極用導電剤は,直径が0.5?10nmであり,長さが10μm以上であり,炭素純度が重量基準で99.9%以上である,単層カーボンナノチューブを含むものである。
また,段落【0019】,【0026】,【0029】,請求項5,7,10によれば,引用文献1には,オリビンマンガンである正極活物質と,上記で述べたリチウムイオン二次電池用正極用導電剤と,バインダとを含む,リチウムイオン二次電池用正極が記載されている。

(3)上記(2)を総合すると,引用文献1には,原審決が認定し,判決が是認したとおり,次の引用発明が記載されているといえる。
[引用発明]
「正極活物質と,バインダと,導電剤とを含むリチウムイオン二次電池用正極であって,
前記正極活物質はオリビンマンガンであり,
前記導電剤は,直径が0.5?10nmであり,長さが10μm以上であり,炭素純度が99.9%以上である,単層カーボンナノチューブを含む,
リチウムイオン二次電池用正極」

2 引用文献2
引用文献2には,原審決が認定したとおり,次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積;800?2500m^(2)/g、及び蛍光X線測定による純度;98%以上を備えることを特徴とする単層カーボンナノチューブ。
【請求項2】
前記単層カーボンナノチューブは、中心サイズ;1?4nmを備えることを特徴とする請求項1に記載の単層カーボンナノチューブ。
【請求項3】
前記単層カーボンナノチューブは、中心サイズ;1.5?4nmを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の単層カーボンナノチューブ
【請求項4】
比表面積が800m^(2)/g以上1300m^(2)/g以下であり未開口の請求項1から3のいずれか一項に記載の単層カーボンナノチューブ。
【請求項5】
比表面積が1600m^(2)/g以上2500m^(2)/g以下であり開口している請求項1から3のいずれか一項に記載の単層カーボンナノチューブ。
【請求項6】
金属触媒の厚さを制御して該金属触媒を基板上に設ける工程と、
前記金属触媒からカーボンナノチューブを反応雰囲気ガス中で炭素源として炭素化合物を用いて、かつ反応雰囲気中に水蒸気、酸素、オゾン、もしくは、低級アルコール、一酸化炭素、二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物、またはこれらの混合ガスを添加して気相成長法により所定の方向に配向させて比表面積;800?2500m^(2)/gの生成物を得る工程と、
を備えることを特徴とする単層カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項7】
前記気相成長時の温度は、その下限値を触媒を失活させる副次生成物を酸化剤により除去できる温度とし、上限値をカーボンナノチューブが前記酸化剤により酸化されない温度とする特徴とする請求項6記載の単層カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の単層カーボンナノチューブの製造方法で作られた単層カーボンナノチューブを前記基板から剥離して得られたことを特徴とする配向単層カーボンナノチューブ精製物。」

「【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、カーボンナノチューブ(CNT)およびその製造方法、応用に関するものであり、さらに詳しくは従来にない高純度化、高比表面積化、ラージスケール化、パターニング化を達成したカーボンナノチューブおよびその製造方法、応用に関するものである。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、この出願の発明は、以上のような背景から、従来にみられない高純度、高比表面積のカーボンナノチューブ(特に配向した単層カーボンナノチューブ・バルク構造体)およびその製造方法・装置を提供することを課題としている。」

「【0025】
先ず、この出願の第〔1〕から第〔5〕の発明の単層カーボンナノチューブについて述べる。
【0026】
この出願の発明の単層カーボンナノチューブは、蛍光X線法で測定した純度が98%以上、好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.9%以上であることを特徴とするものである。
ここで、この明細書でいう純度とは、蛍光X線を用いた元素分析結果より計測された純度である(以下、同様)。
【0027】
この単層カーボンナノチューブは、たとえば上記した第〔6〕および第〔7〕の発明の方法により製造することができる。そして得られた単層カーボンナノチューブは、上記のように純度が高いものである。その純度は98%以上であるが、好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上である。精製処理を行わない場合には、成長直後(as-grown)での純度が最終品の純度となる。必要に応じて、精製処理を行ってもよい。
【0028】
また、この出願の発明の単層カーボンナノチューブは、比表面積が600m^(2)/g以上1300m^(2)/g以下、より好ましくは600m^(2)/g以上1300m^(2)/g以下、さらに好ましくは800m^(2)/g以上1200m^(2)/g以下である未開口のものであるか、もしくは、比表面積が1600m^(2)/g以上2500m^(2)/g以下、より好ましくは1600m^(2)/g以上2500m^(2)/g以下、さらに好ましくは1800m^(2)/g以上2300m^(2)/g以下の開口したものである。このような非常に大きい比表面積を有する単層カーボンナノチューブは従来なかったもので、この出願の発明により初めて得られたものである。」

「【0052】
この出願の発明の方法で製造される垂直配向単層カーボンナノチューブの高さ(長さ)は用途に応じてその好ましい範囲は異なるが、下限については好ましくは10μm、さらに好ましくは20μm、特に好ましくは50μmであり、上限については特に制限はないが、実使用の観点から、好ましくは2.5mm、さらに好ましくは1cm、特に好ましくは10cmである。
【0053】
この出願の発明の方法で製造した単層カーボンナノチューブは、その純度において従来のCVD法で製造した単層カーボンナノチューブと顕著なる相違がある。すなわち、この出願の発明の方法で製造した単層カーボンナノチューブは、98%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上の高純度のものである。しかも基板上に成長させた場合には、基板または触媒から容易に剥離させることができる。単層カーボンナノチューブを剥離させる方法および装置としては、先に述べた方法が採用される。」

「【0077】
更に、この出願の発明の配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体中の単層カーボンナノチューブ(フィラメント)のサイズは、0.8?6nmの広いサイズ分布を示し、また中心サイズは1?4nmである。サイズ分布、中心サイズは触媒を調製することにより制御することも可能である。
【0078】
この単層カーボンナノチューブ(フィラメント)のサイズ分布評価は高分解能電子顕微鏡により行うことができる。すなわち、電子顕微鏡写真から一つ一つの単層カーボンナノチューブのサイズを計測し、ヒストグラムを作成し、作成したヒストグラムからそのサイズ分布を算出することができる。サイズ分布評価の一例を図9に示す。図9から配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体中の単層カーボンナノチューブは1?4nmの広いサイズ分布を示し、また中心サイズは3nmであることが確認された。」

「【0113】
この出願の発明に係る単層カーボンナノチューブ、複数の単層カーボンナノチューブからなり、高さが10μm以上の配向単層カーボンナノチューブおよび複数の単層カーボンナノチューブからなり、形状が所定形状にパターニングされている配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体は、超高純度、超熱伝導性、高比表面積、優れた電子・電気的特性、光学特性、超機械的強度、超高密度などの様々な物性・特性を有することから、種々の技術分野や用途へ応用することができる。特に、ラージスケール化された垂直配向バルク構造体およびパターニングされた垂直配向バルク構造体は、以下のような技術分野に応用することができる。」

「【0122】
〔実施例1〕
以下の条件において、CVD法によりカーボンナノチューブを成長させた。
炭素化合物 :エチレン;供給速度50sccm
雰囲気(ガス)(Pa):ヘリウム、水素混合ガス;供給速度1000sccm
圧力1大気圧
水蒸気添加量(ppm):300ppm
反応温度(℃):750℃
反応時間(分):10分
金属触媒(存在量):鉄薄膜;厚さ1nm
基板:シリコンウェハー
なお、基板上への触媒の配置はスパッタ蒸着装置を用い、厚さ1nmの鉄金属を蒸着することにより行った。
以上の条件で反応時間と垂直配向単層カーボンナノチューブの成長の様子(高さ)との関係を調べた。その結果を図24に示す。
また、比較のため、水蒸気を添加しないこと以外は上記と同様にして、垂直配向単層カーボンナノチューブの成長の様子を調べた(従来CVD法)。2分後と15分後の結果を図25に示す。
その結果、従来CVD法で垂直配向単層カーボンナノチューブを成長させた場合には数秒で触媒が活性を失い、2分後には成長が止まったのに対し、水蒸気を添加した実施例1の方法では、図25で示すように長時間成長が持続し、実際には30分程度の成長の継続が見られた。また、実施例1の方法の垂直配向単層カーボンナノチューブの成長速度は従来法のものの約100倍程度で極めて速いことがわかった。また、実施例1の方法の垂直配向単層カーボンナノチューブには触媒やアモルファスカーボンの混入は認められず、その純度は未精製で99.98%であった。一方、従来法で得られた垂直配向カーボンナノチューブはその純度が測定できるほどの量が得られなかった。この結果より、CVD法における垂直配向単層カーボンナノチューブの成長に関して水蒸気添加による優位性が確認された。」

「【図9】



「【図24】



3 引用文献3
引用文献3には,原審決が認定したとおり,次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用正極に関し、さらに詳しくはリチウムイオン二次電池などに用いられる優れたピール強度とサイクル特性を有する二次電池用正極に関する。また本発明は、かかる二次電池用正極を有する二次電池に関する。」

「【発明の効果】
【0018】
本発明の二次電池用正極は、特定の正極活物質と特定のバインダーを用いることにより、正極内において正極活物質が均一に分散する。また、本発明の二次電池用正極は優れたピール強度を有する。その結果、該正極を用いた二次電池は、広い温度範囲(例えば20?60℃)において、充放電電位を高くしても、優れたサイクル特性を示す。」

「【0020】
(正極活物質)
二次電池用正極に用いる正極活物質は、リチウム金属に対する正極活物質の充電平均電圧が3.9V以上であり、リチウムイオンの吸蔵放出可能なリチウム含有複合金属酸化物が用いられる。上記充電平均電圧を3.9V以上とすることで、高電位まで電位を走査することにより得られる二次電池のエネルギー密度に優れる。なお、本発明において、充電平均電圧は、定電流法によって、二次電池を上限電圧まで充電し、その際のリチウムの脱離が起こっている電位(プラトー)をいう。なお、上限電圧は、該電圧を超えると電池の膨張、発熱が起こるおそれがあり、安全性確保の限界になる電圧をいう。」

「【0023】
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、LiyMcPO_(4)(式中、Mcは平均酸化状態が3+である1つ以上の遷移金属、Mc=Mn,Co等、0≦y≦2)であらわされるオリビン型燐酸リチウム化合物が挙げられる。MnまたはCoは他の金属で一部置換されていてもよく、置換しうる金属としてはFe,Cu,Mg,Zn,V,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Si,B及びMoなどが挙げられる。リチウム金属に対する正極活物質の電位が3?5.2Vの領域で充放電を行った場合における、これらの材料の充電平均電圧は4.0?4.8V程度、理論容量は165?170mAh/gを示す。
【0024】?【0025】(略)
【0026】
上記活物質の中でも、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物であるLiMaO_(2)とLi_(2)MnO_(3)の固溶体、スピネル構造のLiNi_(0.5)Mn_(1.5)O_(4)、オリビン型構造のLiCoPO_(4)やLiMnPO_(4)等の活物質を用いることが好ましい。」

「【0029】
(バインダー)
バインダーは、ニトリル基を有する重合単位、及び炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位を含んでなる。
【0030】
バインダーを構成する重合体中にニトリル基を有する重合単位を含むことで、正極活物質層を形成するための正極スラリー中における正極活物質の分散性が向上し、スラリーを長期間安定状態で保存することができる。この結果、均一な正極活物質層の製造が容易になる。また、リチウムイオンの伝導性が良好となるため、電池内における内部抵抗を小さくし、電池の出力特性を向上させることができる。
【0031】
バインダー中の前記ニトリル基を有する重合単位の含有割合は2?50質量%、好ましくは5?30質量%、より好ましくは10?25質量%である。バインダー中のニトリル基を有する重合単位の含有割合が多すぎると、電解液への溶解性があがり、特に高温サイクル試験において、電池のサイクル特性が劣る。また、ニトリル基を有する重合単位の含有割合が少なすぎると、正極活物質の分散性に劣り、良好な正極スラリーを得ることができずに、得られる正極の均一性が低下する。その結果正極の抵抗が上がることにより、さらにはそれを用いた電池のサイクル特性に劣る。
【0032】
バインダーを構成する重合体における、直鎖アルキレン構造単位の炭素数は4以上であり、好ましくは4?16、さらに好ましくは4?12の範囲である。
【0033】
バインダーを構成する重合体中に、非極性の直鎖アルキレン構造単位を導入することで、正極を形成するためのスラリー(正極スラリー)中に必要に応じて添加される導電性付与剤の分散性が向上し、均一な正極の製造が容易になる。また、電極内に均一に導電性付与剤が分散することにより、導電ネットワークが取りやすくなることで内部抵抗が低減し、結果としてこの電極を用いた電池のサイクル特性、出力特性が向上する。また、所定以上の鎖長の直鎖アルキレン構造単位を導入することで、正極の電解液に対する膨潤性が適正化され、電池特性の向上が図られる。
【0034】?【0037】(略)
【0038】
バインダーのヨウ素価は、3?60mg/100mgであり、好ましくは3?30mg/100mg、より好ましくは8?10mg/100mgである。バインダーのヨウ素価が60mg/100mgを超えると、バインダーに含まれる不飽和結合により酸化電位での安定性が低く電池の高温サイクル特性に劣る。また逆に、バインダーのヨウ素価が3mg/100mg未満であると、バインダーの柔軟性が低下する。その結果、電極を捲回・プレス時に電極の欠け、粉落ち等により正極活物質の一部が脱離しうる。粉落ち等が発生すると、脱離した塊(正極活物質)がセパレーターの破損・正極/負極間のショート等の原因となり、安全性、長期特性に劣る。バインダーのヨウ素価が上記範囲にあることにより、高電位に対してバインダーが化学構造的に安定であり、長期サイクルにおいても電極構造を維持することができ、高温サイクル特性に優れる。ヨウ素価はJIS K6235;2006に従って求められる。」

「【0041】
以下、本発明に用いるバインダーの製造方法について説明する。
ニトリル基を有する重合単位を導く単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0042】
バインダー中への直鎖アルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、共役ジエン単量体単位を導入後にこれを水素添加する方法が簡便であり、好ましい。
【0043】?【0057】(略)
【0058】
直鎖アルキレン構造単位を、共役ジエン単量体単位の導入後にこれを水素添加して形成する場合、水素添加する方法は特に限定されない。水素添加反応により、上記重合法により得られた不飽和重合体(ニトリル基を有する重合単位及び共役ジエン単量体単位を含んでなる重合体)中の共役ジエン単量体単位に由来する炭素-炭素不飽和結合のみを選択的に水素化し、本発明に用いるバインダーを得ることができる。また、水素添加反応により、本発明に用いるバインダーのヨウ素価を上述した範囲とすることができる。本発明に用いるバインダーは、親水性基を有する水素化アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(以下において「水添NBR」と記載することがある。)が好ましい。」

「【0109】
導電性付与材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。黒鉛などの炭素粉末、各種金属のファイバーや箔などが挙げられる。導電性付与材を用いることにより、正極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、特にリチウムイオン二次電池に用いる場合に放電負荷特性を改善することができる。」

「【実施例】
【0145】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。実施例および比較例において、各種物性は以下のように評価する。
【0146】?【0150】(略)
【0151】
<電池特性:高温サイクル特性>
10セルのハーフセルコイン型リチウムイオン二次電池を60℃雰囲気下、0.2Cの定電流法によって4.3?5Vに充電し、3.0Vまで放電する充放電を、50サイクル繰り返した。50サイクル終了時の電気容量と5サイクル終了時の電気容量の比(%)で表される充放電容量保持率を求め、これを高温サイクル特性の評価基準とし、以下の基準で評価する。この値が大きいほど高温サイクル特性に優れることを示す。
A:60%以上
B:50%以上60%未満
C:40%以上50%未満
D:30%以上40%未満
E:20%以上30%未満
F:20%未満
【0152】?【0181】(略)
【0182】【表1】



4 引用文献4
引用文献4は,引用文献2に係る国際出願の国際公開であり,上記2に摘記したものの外,原査定が認定したとおり,次の記載がある。
「そこで、この出願の発明は、以上のような背景から、従来にみられない高純度、高比表面積のカーボンナノチューブ(特に配向した単層カーボンナノチューブ・バルク構造体)およびその製造方法・装置を提供することを課題としている。
また、この出願の発明は、上記提案方法におけるヒドロキシルアミンのような特殊な有機物を使用することなく、簡便な手段によって、金属触媒の寿命を延長させ、高い成長速度で効率的なカーボンナノチューブの成長を実現し、量産性にもすぐれたカーボンナノチューブおよびその製造方法・装置を提供することを別の課題としている。
また、この出願の発明は、高純度であり、高い比表面積を持ち、かつ長さあるいは高さの飛躍的なラージスケール化を達成した配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体およびその製造方法・装置を提供することを別の課題としている。
さらに、この出願の発明は、パターニング化を達成した配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体およびその製造方法・装置を提供することを別の課題としている。
また、この出願の発明は、上記高純度、高比表面積のカーボンナノチューブおよび上記高純度、高比表面積でかつ長さあるいは高さの飛躍的なラージスケール化を達成した配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体さらには上記パターニング化を達成した配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体をナノ電子デバイス、ナノ光学素子やエネルギー貯蔵等への応用を別の課題としている。
この出願は、上記の課題を解決するものとして以下の発明を提供する。」
(明細書第4頁1?21行)

第5 当審の判断
1 当審による拒絶理由について
(1)本願特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりであり,請求項1?7に記載される発明はいずれも,リチウムイオン二次電池用正極を構成する導電助剤に含まれるカーボンナノチューブが,平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが0.60>(3σ/Av)>0.50であることを特徴とするものである。

(2)これに対し,本願明細書の発明の詳細な説明の記載(段落【0027】,【0029】,【0155】?【0156】実施例1,【0169】実施例2)によれば,(3σ/Av)はカーボンナノチューブの直径分布を表すこと,0.60>(3σ/Av)>0.20を満たすカーボンナノチューブであれば特に制限なく使用することができるが,特許第4621896号公報に記載されているスーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブ(以下「SGCNT」という。)が好ましいこと,及び,上記特許公報の実施例1,2の方法により製造したカーボンナノチューブSGCNT-1及びSGCNT-2の(3σ/Av)が,各々,0.58及び0.56であったことを理解することができる。

(3)また,当審による拒絶理由通知に対する意見書に引用された,本願の出願前に係る文献の記載(国際公開第2004/071654号:明細書第2頁6?9行,第9頁7?12行,ACS NANO,Vol.3,No.1,pp.108-114(2009),国際公開2011/108492号:段落[0008])よりみて,カーボンナノチューブの製造に使用する触媒微粒子とカーボンナノチューブの外径分布との関係が知られており,触媒微粒子の直径及び及び直径分布,触媒担持膜や触媒の層厚及びこれらの均一性を制御し,製造されるカーボンナノチューブの外径分布範囲を変動させることによって,所望の外径分布範囲を有するカーボンナノチューブを得ることは技術常識であったことを理解することができる。

(4)そうすると,当業者であれば,本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願出願当時の技術常識を参酌して,触媒微粒子の直径及び直径分布,触媒担持膜や触媒の層厚及びこれらの均一性を制御することにより,過度の試行錯誤を要することなく,平均粒径(Av)と直径分布(3σ)とが0.60>(3σ/Av)>0.50であるカーボンナノチューブを製造することができるといえる。

2 原審決の理由について
(1)本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「バインダ」及び「導電材」は,それぞれ,本願発明1の「結着材」及び「導電助剤」に相当する。そのことによって,引用発明の「正極活物質と,バインダと,導電剤とを含むリチウムイオン二次電池用正極」は,本願発明1の「正極活物質、結着材および導電助剤を含む正極」に相当する。

イ 「導電助剤」に関し,本願発明1と引用発明とは,「カーボンナノチューブ」を含む点で一致する。

ウ 「導電助剤」が含む「カーボンナノチューブ」の「純度」に関し,本願発明1は「高純度」であることが特定されている。
この点について,本願明細書の段落【0029】の「本発明に用いるカーボンナノチューブは、0.60>(3σ/Av)>0.20を満たすカーボンナノチューブであれば特に制限なく使用することができるが、日本国特許第4,621,896号公報(略)に記載されているスーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブ(以下、「SGCNT」ということがある)が好ましく」との記載で引用されている特許第46211896号(本審決中で引用されている引用文献2)の例えば請求項1には,カーボンナノチューブの純度が98%以上であることが記載されているから,本願発明1の「高純度」とは,具体的には,「98%以上」のことを意味すると認められる。
そして,このとおり認められることは,審判請求人による,平成30年11月30日付け意見書における「なお、審判官が拒絶理由通知書において引用した引用文献2の記載から、高純度であることは98%以上の純度を有するものであります。」との主張とも整合するものである。
これに対し,引用発明の「カーボンナノチューブ」は,「炭素純度が重量基準で99.9%以上である」から,「純度」は98%以上である。
したがって,両発明は,「カーボンナノチューブ」が「高純度」である点で一致する。

エ そうすると,本願発明1と引用発明とは,原審決が認定し,判決が是認したとおり,次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「正極活物質、結着材および導電助剤を含む正極であって、
前記導電助剤は、高純度であるカーボンナノチューブを含む、リチウムイオン二次電池用正極」である点。

(相違点1)
「導電助剤」が含む「カーボンナノチューブ」に関し,本願発明1は,「平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが0.60>(3σ/Av)>0.50であり、比表面積が600m^(2)/g以上であり、高純度であり、平均直径(Av)が3?30nmである」のに対し,引用発明は,「高純度」ではあるものの,
「平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが0.60>(3σ/Av)>0.50であ」るかどうかが不明であり,また,
「比表面積が600m^(2)/g以上であ」るかどうかが不明であり,さらに,
「平均直径(Av)が3?30nmである」かどうかが不明である点。

(相違点2)
「結着材」に関し,本願発明1は,「α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を有するヨウ素価が20mg/100mg以下である水素化ジエン系ポリマーを含」むのに対し,引用発明は,そのような「ポリマー」を含むことが特定されていない点。

(2)相違点1について検討する。
ア 引用文献2に関し,上記第4の2の摘記(特に,請求項1,段落【0011】,【0052】,【0077】,【0078】,【0122】実施例1,図9の記載)からみて,引用文献2の実施例1のカーボンナノチューブ(以下「実施例1CNT」という。)は,比表面積,純度及び平均直径については,本願発明1の規定を満たす。

イ しかしながら,引用文献2のいずれの箇所にも,「平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが0.60>(3σ/Av)>0.50」であることについては,記載も示唆もされていない。むしろ,判決の指摘(第19頁6?10行)を踏まえると,図9には,単層カーボンナノチューブのサイズ分布評価の一例が記載されているが,この例の(3σ/Av)は0.91であり,「0.60>(3σ/Av)>0.50」を満たさないものである。

ウ よって,引用文献2の実施例1CNTは,本願発明1の「平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが0.60>(3σ/Av)>0.50であり、比表面積が600m^(2)/g以上であり、高純度であり、平均直径(Av)が3?30nmであるカーボンナノチューブ」に相当するものとはいえないから,相違点1について,引用文献2に記載された事項を引用発明に適用して本願発明1の特定事項に想到することは,当業者といえども容易になし得たこととはいえない。

エ(ア)なお,原審決は,引用文献2の実施例1CNTの製造条件(段落【0122】)と,本願明細書に実施例1として記載されたカーボンナノチューブの製造条件(段落【0155】)とは,製造条件において全く同じであるから,得られるカーボンチューブについても,各種物性値が同じ値になる旨を認定したものである。

(イ)これに対し,判決は,引用文献2の実施例1CNTは,触媒の配置について,スパッタ蒸着装置を用い,厚さ1nmの鉄金属を蒸着することにより行ったものであるところ,このような条件が記載されていない場合と比べて同じ物性値を示すとはいえない旨(判決第20頁14行?第21頁5行),また,記載された製造条件が製造条件のすべてであるとはいえないことや,記載された製造条件さえ同一であれば記載されていない製造条件が違っていても,得られた物質の物性値が同一になるとはいえないことは,技術常識として,当然に想定し得る事柄なのであるから,これを明細書の記載に基づかないものであるということはできない旨(判決第21頁6?11行)を説示して,(当該説示を本願明細書に適用した場合,本願発明1?7に係る発明の開示要件,特に,「平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが0.60>(3σ/Av)>0.50」の「カーボンナノチューブ」を含む「導電助剤」の開示が,技術常識を参酌しても十分であるといえるかどうかはともかく,)原審決の上記認定には誤りがあるとしたものである。

(ウ)そして,審決を取り消す旨の判決の拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最判平4.4.28,昭63(行ツ)10審決取消請求事件,民集46巻4号245頁)ものであるところ,原審決を取り消した判決は,上述の事実認定を基礎とするものであるから,これに反する認定は,拘束力に反し,採用できない。

(3)したがって,相違点2について検討するまでもなく,本願発明1は,引用文献1に記載された発明,及び,引用文献2,3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

(4)本願発明2?7は,本願発明1を直接又は間接的に引用して技術的に特定したものであるから,引用文献1に記載された発明との対比において,少なくとも上記(1)摘記の相違点1,2を有する。
そして,相違点1についての検討結果は上記(2)のとおりであるから,本願発明2?7も同様の理由により,引用文献1に記載された発明,及び,引用文献2,3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 原査定の理由について
(1)上記第3のとおり,原査定と原審決とは,引用文献1及び引用文献3が共通し,また,引用文献2と引用文献4とは,同じ出願に係る特許公報と国際公開との関係にあり,開示内容が共通するから,原査定と原審決とは,証拠方法が実質的に同じであるといえる。

(2)そして,原査定の引用文献1に関して,引用文献1に記載された発明から当業者が容易に想到することができないことは,上記2(1)?(3)で検討したとおりである。

(3)なお,次のア?ウのとおり,原査定の判断によっても,上記(2)を覆すに足りる根拠は見いだせない。
ア 引用文献1に記載のカーボンナノチューブの製造方法は,本願の実施例で用いている製造方法に近いものであるから,3σ/Avを測定すれば,本願発明1が特定している数値範囲内に入るものとなっている蓋然性が高い旨の判断については,上記2(2)での検討を踏まえると,引用文献1に記載された発明に係るカーボンナノチューブにおいて,そのような蓋然性が高いとまでいうことはできない。

イ 仮にそうでないとしても,3σ/Avの値を上記数値範囲内に入るものとすることは,当業者が適宜なし得たことである(意見書を参照しても,これらの点に関する具体的な反論は記載されていない。)旨の判断については,本願明細書が引用する引用文献2の実施例1CNTですら,物性値が同じになるとは限らないのであるから,引用文献1に記載された発明に係るカーボンナノチューブにおいて,3σ/Avの値を制御することを当業者が適宜なし得たことであるとまでいうことはできない。

ウ また,引用文献1に記載された発明において,平均直径と直径分布を調整し,カーボンナノチューブとして,量産性等に優れるという引用文献4に記載された発明の方法で得られたものを用い,相違点を解消することは,当業者が容易になし得たことである旨の判断については,量産性等に優れるという観点から,平均直径と直径分布を調整し,3σ/Avの値を本願発明1の数値範囲内に入るものとする動機付けを見いだすことができず,当業者が容易になし得たことであるとまでいうことはできない。

4 当審の判断についてのまとめ
以上のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないということはできず,また,本願発明1?7は,引用文献1に記載された発明,及び,引用文献2?4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,原査定の理由,原審決の理由及び当審による拒絶理由のいずれによっても本願を拒絶することはできず,また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-03-15 
出願番号 特願2013-81957(P2013-81957)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (H01M)
P 1 8・ 121- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 浅野 裕之宮田 透  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 平塚 政宏
村川 雄一
発明の名称 リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池  
代理人 水間 章子  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 塚中 哲雄  

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