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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K
管理番号 1372366
審判番号 不服2020-13599  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-29 
確定日 2021-04-13 
事件の表示 特願2018-131309「光電式コードリーダ及び光学コードの読み取り方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月28日出願公開、特開2019- 49967、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成30年7月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年7月12日(以下,「優先日」という。) 欧州)の出願であって,令和1年10月24日付けで拒絶理由通知がされ,令和2年1月28日付けで意見書が提出されたが,令和2年5月28日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年9月29日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(令和2年5月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1-15に係る発明は,以下の引用文献1-4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2016-151800号公報
2.特開平6-139396号公報
3.特開平6-119480号公報
4.特開2008-21009号公報


第3 本願発明
本願請求項1ないし12に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は,令和2年9月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりのものである。

「【請求項1】
受信光から画像データを生成するための少なくとも1つの受光素子(24)と、前記画像データのコード領域(20)にコード情報を割り当てる分類器(30)が内部に実装された評価ユニット(26)とを備え、前記分類器(30)が機械学習用に構成されている光電式コードリーダ(10)、特にバーコードリーダにおいて、
前記分類器(30)が、機械学習によらない方法で作動する古典的デコーダ(28)で読み取られたコードに基づいて、教師あり学習の手法で訓練されること、
前記古典的デコーダ(28)が前記分類器(30)のトレーナーとして用いられること、
前記古典的デコーダ(28)が前記画像データを二値化する及び/又は前記画像データ内のエッジ位置を特定するように構成されていること、及び
前記分類器(30)が前記画像データのグレー値情報に基づいてコード領域(20)にコード情報を割り当てること
を特徴とするコードリーダ(10)。
【請求項2】
前記古典的デコーダ(28)が白黒画像情報を処理するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のコードリーダ(10)。
【請求項3】
前記分類器(30)がニューラルネットワーク又はサポートベクトルマシンを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコードリーダ(10)。
【請求項4】
前記分類器(30)がコード情報のコード領域(20)への各々の割り当ての信頼度も算定することを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のコードリーダ(10)。
【請求項5】
前記評価ユニット(26)がコード領域(20)を個々のコード要素に分割するように構成され、前記分類器(30)がその都度1つのステップで1つのコード要素だけをデコードすることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のコードリーダ(10)。
【請求項6】
前記評価ユニット(26)が開始記号及び/又は終了記号を前記古典的デコーダ(28)及び/又は前記分類器(30)の方法を用いて見つけ出し、その間にあるコード領域(20)を個々のコード要素に分割するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載のコードリーダ(10)。
【請求項7】
前記古典的デコーダ(28)も前記評価ユニット(26)内に実装されていることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載のコードリーダ(10)。
【請求項8】
前記評価ユニット(26)が、前記古典的デコーダ(28)と前記分類器(30)を用いてコード領域(20)の画像データにコード情報を割り当てることによりコードを読み取るように構成されていることを特徴とする請求項7に記載のコードリーダ(10)。
【請求項9】
前記分類器(30)が、前記古典的デコーダ(28)で読み取ることができなかった符号を読み取るためだけに利用されることを特徴とする請求項7又は8に記載のコードリーダ(10)。
【請求項10】
前記評価ユニット(26)が、前記画像データを貫通するように様々な線(34)についてコード情報をコード領域(20)へ割り当てる処理を繰り返した後、特に投票(Voting)により、部分的な結果を組み合わせて共通のコード内容を作るように構成されていることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載のコードリーダ(10)。
【請求項11】
前記評価ユニット(26)が、画像を跨いだコード読み取りを行うように構成され、該読み取りために、異なる時点に生成された画像データの間でコード領域(20)が追跡され、そうして複数回撮像されたコード領域(20)に対して各コード要素にコード情報が割り当てられた後、それらのコード情報が組み合わされてコード内容が作られることを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載のコードリーダ(10)。
【請求項12】
画像データから光学コード、特にバーコードを読み取るための方法であって、機械学習用に構成された分類器(30)を用いて前記画像データのコード領域(20)にコード情報を割り当てる方法において、
まず前記コードが機械学習によらない方法で作動する古典的デコーダ(28)を用いて読み取られること、及び、前記分類器(30)がその読み取られたコードに基づいて教師あり学習の手法で訓練されること、
前記古典的デコーダ(28)が前記分類器(30)のトレーナーとして用いられること、
前記古典的デコーダ(28)が、二値化された前記画像データ又は前記画像データ内のエッジ検出に基づいてコードを読み取ること、及び、前記分類器(30)が前記画像データのグレー値情報に基づいてコード領域(20)にコード情報を割り当てること
を特徴とする方法。」

第4 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
ア 本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された,特開2016-151800号公報(以下,これを「引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同じ。)

a 「【0016】
図1に示すように、第1実施形態のコード読取学習システムはコード読取装置1単体に適用されている。詳しくは、コード読取装置1は、使用者が手に持って使用するハンディターミナルのコード読取装置である。当該コード読取装置1は、例えば図1に示すバーコード3が印刷された伝票4を撮像して、バーコード3の読み取りを行うものである。なお、コード読取装置1の種類はこれに限られるものではなく、使用者の体に固定可能なウェアラブル式や、固定式であってもよい。ただし、本発明において読取対象とするバーコードは、複数のスペース及びバーをシンボルキャラクタとする1次元バーコードである。
【0017】
コード読取装置1は、図2に示すように、主として検知部11、撮像メモリ12、二値画像メモリ13、記憶部14、表示部15、操作部16、トリガスイッチ17、外部通信部18、電源部19、及び制御部20を備えている。電源部19を除いた各部は相互にデータ通信可能に接続されている。
【0018】
詳しくは、検知部11は、画像を撮像する撮像カメラ21と照明22とを含んでいる。撮像カメラ21は例えばCOMSセンサを用いた二次元カメラであり、図1の破線で示すように、コード読取装置1から一方向に向けて矩形の撮像範囲を撮像する。照明22は、暗所等でも撮像カメラ21によりコードシンボルを鮮明に撮像すべく、撮像カメラ21の撮像方向と同方向に投光し、撮像範囲を照らすものである。
【0019】
撮像メモリ12は、検知部11の撮像カメラ21で撮像した多値画像データを記憶する部分である。二値画像メモリ13は、撮像メモリ12に記憶されている多値画像データを二値化した二値画像データを記憶する部分である。なお、本実施形態では、白値(値0)と黒値(値1)の二値からなる二値画像データを用いるものとする。また、記憶部14は、各種情報を保存する部分であり、例えば、バーコードを復号するのに用いるデコード閾値等が保存されている。当該デコード閾値は基準値を有しており、デコード閾値は基準値から一定の範囲を規定する値となる。例えば、デコード閾値の初期値は、読取対象とするバーコードの規格に応じて規定されており、規格において規定されている理想的なバーコードのスペース及びバーの幅(シンボルキャラクタ幅ともいう)を基準値とする。なお、このシンボルキャラクタ幅は正規化されて、各シンボルキャラクタの比率に基づいて復号が行われる。
【0020】
表示部15は、図1にも示すようにコード読取装置1のモニタであり、コード読取装置1の動作メニューの案内や、コード読取装置1の状態、コード読取結果等を文字や図表等で使用者に閲覧可能に表示する部分である。操作部16は、図1に示すように複数のスイッチからなり、使用者が表示部15の表示に従って選択指示操作を行ったり、情報を入力したりする部分である。なお、操作部16はスイッチに限られずタッチパネルであってもよい。トリガスイッチ17は、検知部11における撮像の開始を指示するためのスイッチであり、例えば本実施形態では図1に示すように、コード読取装置1に設けられた押しボタン式のスイッチである。
【0021】
外部通信部18は、コード読取装置1と外部の管理サーバ等のコンピュータ装置との間で通信を行うためのものである。当該外部通信部18における通信方式は特に限定されるものではなく、例えば有線、赤外線、無線方式等でよい。電源部19は、一次電池又は二次電池からなり、コード読取装置1を動作するための電力源である。なお、外部から電力供給が行われる構成でもよい。
【0022】
制御部20は、コード読取装置1における演算処理を行うCPUからなり、基本ソフト及びアプリケーションソフトのプログラムに従って動作制御を行う。
【0023】
制御部20には抽出部23(コード抽出部)、復号部24、学習部25が含まれている。抽出部23は、検知部11にて撮像された画像内にある1次元バーコードを解析し、当該1次元バーコードのスペース及びバーのデータを抽出する。この1次元バーコードのスペース及びバーのデータとしては、例えばシンボルキャラクタ幅や各シンボルキャラクタの位置等の情報が含まれる。
【0024】
復号部24は、記憶部14に記憶されているデコード閾値を用いて、抽出部23にて抽出されたバーコードを復号(デコード)し、復号結果を表示部15に表示したり、外部通信部18を介して外部のコンピュータに送信したりする。
【0025】
学習部25は、復号部24にて用いたデコード閾値の基準値を教師データとし、当該教師データと抽出部23により抽出された各シンボルキャラクタ幅とを比較して、それぞれ対応するシンボルキャラクタ幅の差分を算出し、当該差分を減少させるように教師データ、即ち記憶部14に記憶されているデコード閾値の基準値の更新を行う。
【0026】
ここで図3を参照すると、コード読取装置1によるバーコード読み取りの動作フローが示されており、以下同フローに沿って、本実施形態のコード読取装置1の動作手順について説明する。
【0027】
まず、ステップS1において、制御部20は、コード読取装置1が工場出荷後初めて起動させた状態であるか否かを判別する。当該判別結果が真(Yes)である場合、即ち工場出荷後初めて起動(以下、初起動という)した場合は、ステップS2に進む。
【0028】
ステップS2において、制御部20は、コード読取装置1が初起動状態であるため、バーコードを復号するためのデコード閾値が何も設定されていないことから、デコード閾値の初期値として、記憶部14から読取対象とするバーコードの規格に沿ったデコード閾値を取得とする。
【0029】
一方、ステップS1において、初起動でなかった場合、即ち後述する学習処理が行われデコード閾値が更新されている場合には、ステップS3に進む。ステップS3において、制御部20は、更新されたデコード閾値を記憶部14から取得する。
【0030】
ステップS2又はS3においてデコード閾値を取得した後、制御部20はステップS4において、使用者のトリガスイッチ17の操作に応じて検知部11の撮像カメラ21により画像の撮像を行なう。撮像された画像データは、まず撮像メモリ12に記憶され、二値化されて後、二値画像メモリ13に記憶される。
【0031】
続くステップS5において、制御部20の抽出部23が二値画像データ内からバーコードを抽出できるか否かを判別する。当該判別結果が偽(No)である場合、即ち二値画像データからバーコードを抽出できなかった場合は、ステップS4に戻り再びトリガスイッチ17が操作されるのを待つ。一方、当該判別結果が真(Yes)である場合、即ち抽出部23がバーコードを抽出できた場合は次のステップS6に進む。
【0032】
ステップS6において、制御部20の復号部24は、上記ステップS2又はS3において取得したデコード閾値を用いて、抽出されたバーコードの復号が可能であるか否かを判別する。当該判別結果が偽(No)である場合、即ちデコード閾値の範囲外にあるシンボルキャラクタが存在した場合には、復号に失敗したとしてステップS7に進む。
【0033】
ステップS7において、制御部20は、例えば表示部15にエラー表示を出力し、使用者に手入力を促し、使用者による手入力が完了した後にステップS8に進む。
【0034】
また、上記ステップS6の判別結果が真(Yes)である場合、即ち抽出したバーコードの復号に成功した場合にも、ステップS8に進む。
【0035】
ステップS8においては、制御部20は復号結果又は手入力された結果を表示部15または外部通信部18に出力してステップS9に進む。
【0036】
ステップS9では、制御部20の学習部25が、ステップS6で用いたデコード閾値の基準値を教師データとした学習処理を行い、当該ルーチンをリターンする。

・・・中略・・・

【0039】
図4において例示しているバーコード3aは、シンボルキャラクタの幅が全て規格通りの理想的なバーコードである。つまり、当該バーコード3aの各シンボルキャラクタ幅及び余白マージン幅は、規格に沿ったデコード閾値の基準値である。以下では、この各基準値を、レフトマージン幅はα_(l)、ライトマージン幅はα_(r)、細スペース幅はβ_(s)、細バー幅はβ_(b)、太スペース幅はγ_(s)、太バー幅はγ_(b)とする。この規格に沿った各基準値は記憶部14に予め記憶されており、上述のステップS2のように初起動時には制御部20は当該基準値を教師データの初期値として取得する。
【0040】
そして、デコード閾値は各シンボルキャラクタの基準値に対して一定範囲を設けるように設定されている。例えば図4に示すように、レフトマージンのデコード閾値α_(lTH)は基準値α_(l)より大きい任意の値α_(lTH)(α_(lTH)>α_(l))とし、ライトマージンのデコード閾値は基準値α_(r)より大きい任意の値のα_(rTH)(α_(rTH)>α_(r))とする。抽出部23は、これらの余白マージンのデコード閾値以内の余白マージン幅を持つものを読取対象のバーコードとして識別し、これらの余白マージン間にある各シンボルキャラクタのデータを抽出する。

・・・中略・・・
【0046】
このようにして教師データの更新を繰り返し行っていくことで、抽出されるバーコードの各シンボルキャラクタと教師データとの差分は減少していく。例えば、プリンタの印刷品質に問題がある場合や、印刷面に凹凸があったり、湾曲していたり、汚れが生じていたりする場合や、使用者による使い方に癖がある場合で、一部のシンボルキャラクタの幅が規定の幅より狭まる又は拡がる傾向があったとしても、上述のような学習処理を行うことで教師データは使用環境に適合した値となっていくこととなる。これにより、復号不可能となる原因によらずに、バーコードの読取精度を向上させることができ、手入力を行う頻度を減少させることができる。



b 「【図2】




c 「【図3】




d 「【図4】



イ 上記aないしdの記載内容(特に,下線部を参照)からすると,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「検知部11,撮像メモリ12,二値画像メモリ13,記憶部14,表示部15,操作部16,トリガスイッチ17,外部通信部18,電源部19,及び制御部20を備えている,バーコード3の読み取りを行うコード読取装置1において,
検知部11は,画像を撮像する撮像カメラ21と照明22とを含み,また,撮像カメラ21はCOMSセンサを用いた二次元カメラであり,
撮像メモリ12は,検知部11の撮像カメラ21で撮像した多値画像データを記憶する部分であり,
二値画像メモリ13は,撮像メモリ12に記憶されている多値画像データを二値化した二値画像データを記憶する部分であり,
記憶部14は,各種情報を保存する部分であり,バーコードを復号するのに用いるデコード閾値が保存されおり,ここで,デコード閾値は基準値から一定の範囲を規定する値であって,
制御部20は,コード読取装置1における演算処理を行うCPUからなり,基本ソフト及びアプリケーションソフトのプログラムに従って動作制御を行うものであって,抽出部23(コード抽出部),復号部24,学習部25が含まれており,
抽出部23は,検知部11にて撮像された画像内にある1次元バーコードを解析し,当該1次元バーコードのスペース及びバーのデータとして,シンボルキャラクタ幅や各シンボルキャラクタの位置等の情報を抽出するものであり,
復号部24は,記憶部14に記憶されているデコード閾値を用いて,抽出部23にて抽出されたバーコードを復号(デコード)し,復号結果を表示部15に表示したり,外部通信部18を介して外部のコンピュータに送信したりするものであり,
学習部25は,復号部24にて用いたデコード閾値の基準値を教師データとし,当該教師データと抽出部23により抽出された各シンボルキャラクタ幅とを比較して,それぞれ対応するシンボルキャラクタ幅の差分を算出し,当該差分を減少させるように教師データ,即ち記憶部14に記憶されているデコード閾値の基準値の更新を行うものであって,
制御部20は,初起動時には,デコード閾値の初期値として,記憶部14から読取対象とするバーコードの規格に沿ったデコード閾値を取得し,次に,使用者のトリガスイッチ17の操作に応じて検知部11の撮像カメラ21により画像の撮像を行ない,撮像された画像データを,まず撮像メモリ12に記憶し,二値化した後に,二値画像メモリ13に記憶し,次に,抽出部23が二値画像データ内からバーコードを抽出し,復号部24が,取得したデコード閾値を用いて,抽出されたバーコードを復号し,次に,制御部20は,復号結果又は手入力された結果を表示部15または外部通信部18に出力し,さらに,学習部25が,デコード閾値の基準値を教師データとした学習処理を行い,
教師データの更新を繰り返し行っていくことで、抽出されるバーコードの各シンボルキャラクタと教師データとの差分は減少させ,復号不可能となる原因によらずに、バーコードの読取精度を向上させることができる,
コード読取装置1。」


2 引用文献2について
本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された,特開平6?139396号公報(以下,これを「引用文献2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 光学的手段により読み取ったバーコード・シンボルから成る信号波形をセンサにおいて光電変換し、この光電変換された前記信号波形を増幅したうえで複数の階調層より成るディジタル信号波形に変換し、学習機能を備えた階層形ニューラル・ネットワークより成るプログラムを格納したマイコンに前記ディジタル信号波形を入力させ、前記マイコンのプログラムの実行によりバーコード・シンボルのパターン認識を行うニューラル・ネットワークを用いたバーコード・シンボルの認識方法において、
前記マイコンに格納してある位相補正のプログラムによって前記ディジタル信号波形の位相を予め設定してある位相に補正しておき、さらに、前記マイコンに格納してあるニューラル・ネットワークにより成るプログラムの実行により、前記位相を補正したディジタル信号波形からバーコード・シンボルのパターン認識を行うことを特徴とするニューラル・ネットワークを用いたバーコード・シンボルの認識方法。」

3 引用文献3について
本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された,特開平6?119480号公報(以下,これを「引用文献3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0017】図10はファジィ推論を適用したデコード手段7の構成を示す構成図である。デコード手段7はファジィ推論処理部71、メンバーシップ関数記憶部72、ファジィ・ルール記憶部73と推論により得られた結果からデコード値を確定し記憶するデコード値確定部74とから構成される。本デコード手段により、補正後のデータが各ディジット単位でデコードされる。図11に入力のメンバーシップ関数を示す。図11には1つのメンバーシップ関数しか示していないが、同様のメンバーシップ関数が各ブロック毎に4個設定される。図11の横軸は入力値を表わし、縦軸は入力変数に属する度合(重み)を示す。入力値は補正されたバー幅のカウント値である。入力変数として各基準バーに相当するM1?M4が選ばれる。入力設定値は、基準バーM1からM4の大きさに準じて定められる。ファジィ推論によるデコードでは、通常想定される基準バーの幅を入力設定値とするのではなく、バー幅の読み取り誤差等の発生可能性に応じて各々の入力変数M1?M4に属する度合(重み)が変化しながら、隣接する入力変数相互間で重なりあうように設定される(例えばM1とM2では、カウント値13?17までが相互に重なっている)。これにより、それぞれの入力変数の重みに応じた出力がされる。図12に、出力のメンバーシップ関数を示す。図12の横軸は出力値を、縦軸は出力変数C0?C9の重みをそれぞれ示している。これら入力用メンバーシップ関数及び出力用メンバーシップ関数はメンバーシップ関数記憶部72に記憶される。ファジィ・ルール記憶部73には、入力のメンバーシップ関数M1?M4の組合せから出力値(デコード値)を推論するためのファジィ・ルール(以下ルールと言う)が記憶されている。ファジィ・ルールの例を図13に示す。例えば図13のルール1から、ブロック?がそれぞれM3M2M1M1であるときには、出力がC0となることがわかる。このルールは、バーコードの規格及び種類に応じて定められる。図13は、JANコードの奇数パリティ・コードのためのルールである。」

4 引用文献4について
本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された,特開2008?21009号公報(以下,これを「引用文献4」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0031】
バーコード認識装置は、S3及びS4で求めた所定数の走査ラインのデコード結果において、最大頻度のキャラクタ数を求め、これを入力されたバーコードのキャラクタ数であると判定する(S5)。図4の例では、11が最大頻度である。バーコード認識装置は、この最大頻度のキャラクタ数に対応する走査ラインを抽出し(S6)、それら抽出した走査ラインのデコード結果の間で、キャラクタごとにデコード結果の多数決を取る(S7)。S7の多数決では、デコード不可能(“?”)となったものは除き、デコードできたキャラクタ値の中で、最大数となるキャラクタ値を最終的に当該キャラクタのデコード結果とする。図4の例では、2?4番目の走査ラインのデコード結果について、キャラクタごとの多数決を取ることになる。左から1?5番目、7?11番目のキャラクタについては、多数決でデコード結果が1つに確定できる。例えば左から5番目のキャラクタは、“4”が3回、“2”が1回なので、デコード結果は“4”に決定される。」


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「多値画像データ」は,本願発明1の「画像データ」に相当する。
そして,引用発明の「撮像カメラ21」は,「画像を撮像」する「COMSセンサを用いた二次元カメラであ」り,バーコードからの受信光から「画像データ」を生成していることは明らかであるから,引用発明の「撮像カメラ21」は,本願発明1の「受信光から画像データを生成するための少なくとも1つの受光素子(24)」に相当する。
引用発明の「コード読取装置1」は,「バーコード3の読み取りを行う」ものであって,「照明22」と「撮像カメラ21」を含む「検知部11」と,「学習部25」を含む「制御部20を備え」るものであり、バーコード3を照明22によって照射し,その受信光からバーコード3の読み取りを行っているものと認められ,「コード読取装置1」は,光電式コードリーダ,特にバーコードリーダといえる。
さらに,引用発明の「学習部25は,復号部24にて用いたデコード閾値の基準値を教師データとし,当該教師データと抽出部23により抽出された各シンボルキャラクタ幅とを比較して,それぞれ対応するシンボルキャラクタ幅の差分を算出し,当該差分を減少させるように教師データ,即ち記憶部14に記憶されているデコード閾値の基準値の更新を行い」,「教師データの更新を繰り返し行っていくことで、抽出されるバーコードの各シンボルキャラクタと教師データとの差分は減少させ,復号不可能となる原因によらずに、バーコードの読取精度を向上させることができる」ものであるから,引用発明の「学習部25」は,機械学習用に構成され,また,画像データのコード領域にコード情報を割り当てることに関連する手段といえる。
してみると,引用発明の「学習部25」と,本願発明1の「画像データのコード領域(20)にコード情報を割り当てる分類器(30)」及び「機械学習用に構成されている」「分類器(30)」は,後記の点で相違するものの,“画像データのコード領域にコード情報を割り当てることに関連する手段”及び“機械学習用に構成されている関連する手段”の点で共通する。
また,引用発明の「制御部20」は,「学習部25」を含むものであるから,本願発明1の「評価ユニット」に対応する。
したがって,引用発明の「コード読取装置1」と,本願発明1の「受信光から画像データを生成するための少なくとも1つの受光素子(24)と、前記画像データのコード領域(20)にコード情報を割り当てる分類器(30)が内部に実装された評価ユニット(26)とを備え、前記分類器(30)が機械学習用に構成されている光電式コードリーダ、特にバーコードリーダ」とは,後記の点で相違するものの,“受信光から画像データを生成するための少なくとも1つの受光素子と,前記画像データのコード領域にコード情報を割り当てることに関連する手段が内部に実装された評価ユニットとを備え,前記関連する手段が機械学習用に構成されている光電式コードリーダ,特にバーコードリーダ”の点で共通する。

イ 引用発明では「抽出部23」が,「検知部11にて撮像された画像内にある1次元バーコードを解析し,当該1次元バーコードのスペース及びバーのデータとして,シンボルキャラクタ幅や各シンボルキャラクタの位置等の情報を抽出」し,さらに,「復号部24」が,「記憶部14に記憶されているデコード閾値を用いて,抽出部23にて抽出されたバーコードを復号(デコード)」するものである。
してみると,引用発明の「抽出部23」と「復号部24」を合わせたものは,バーコードのスペース及びバーのエッジ位置を特定し,その情報とデコード閾値を用いてバーコードをデコードするものであるから,いわゆる,機械学習によらない方法で作動する古典的デコーダといえる。
したがって,引用発明の「抽出部23」と「復号部24」を合わせたものは,本願発明1の「機械学習によらない方法で作動する古典的デコーダ(28)」及び「前記画像データ内のエッジ位置を特定するように構成されている」「前記古典的デコーダ」に相当する。

ウ そして,引用発明の「学習部25」は,「復号部24にて用いたデコード閾値の基準値を教師データとし,当該教師データと抽出部23により抽出された各シンボルキャラクタ幅とを比較して,それぞれ対応するシンボルキャラクタ幅の差分を算出し,当該差分を減少させるように教師データ,即ち記憶部14に記憶されているデコード閾値の基準値の更新を行」うものであるから,引用発明の「学習部25」は,「デコード閾値の基準値」を,「抽出部23」で読み取られた「バーコード」の「各シンボルキャラクタ幅」に基づき,教師あり学習の手法を行うものといえ,さらに,「抽出部23」が「学習部25」のトレーナーとして用いられているものと認められる。
したがって,引用発明と,本願発明1とは,後記の点で相違するものの,“関連する手段が,機械学習によらない方法で作動する古典的デコーダで読み取られたコードに基づいて,教師あり学習の手法を行うこと”,及び“前記古典的デコーダが関連する手段のトレーナーとして用いられること”の点で共通する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,以下の一致点と相違点とがある。

〈一致点〉
「受信光から画像データを生成するための少なくとも1つの受光素子と,前記画像データのコード領域にコード情報を割り当てることに関連する手段が内部に実装された評価ユニットとを備え,前記関連する手段が機械学習用に構成されている光電式コードリーダ,特にバーコードリーダにおいて,
前記関連する手段が,機械学習によらない方法で作動する古典的デコーダで読み取られたコードに基づいて,教師あり学習の手法を行うこと,
前記古典的デコーダが前記関連する手段のトレーナーとして用いられること,
前記古典的デコーダが前記画像データ内のエッジ位置を特定するように構成されている,
コードリーダ。」

〈相違点〉
「関連する手段」が,本願発明1では,「コード情報を割り当てる分類器」であり,また,「前記分類機が前記画像データのグレー値情報に基づいてコード領域にコード情報を割り当てる」ものであって,さらに,「手法を行うこと」が,「手法で訓練される」ことであるのに対して,引用発明では,「学習部25」はそのようなコードの割り当てを行っておらず,また,「デコード閾値」の学習を行うことである点。

(2)判断
相違点について検討する。
引用発明においては「復号部24」で,「バーコード」の「復号(デコード)」を行っており,「学習部25」で画像データのコード領域にコード情報を割り当てる理由が存在しない。
また,仮に,「学習部25」で画像データのコード領域にコード情報を割り当てたとしても,引用発明は,抽出されたシンボルキャラクタ幅や各シンボルキャラクタの位置等の情報と,デコード閾値に基づいてコード情報を割り当てるものであって,画像データのグレー値情報に基づいてコード領域にコード情報を割り当てるものとはならない。
さらに,引用文献2ないし4には,画像データのグレー値情報に基づいてコード領域にコード情報を割り当てる分類器,及びそのような分類器が学習されることは記載されていない。
したがって,本願発明1の相違点に係る構成が,引用発明及び引用文献2ないし4に記載の技術事項に基づき当業者が容易に構成し得たものであるとはいえない。
また,上記相違点に係る構成は,本願の優先日前に周知な構成ともいえない。
以上のとおりであるから,本願発明1が引用発明及び引用文献2ないし4に記載の技術事項に基づき当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし11について
本願発明2ないし11は,本願発明1を更に限定したものであるので,同様に,当業者であっても引用発明及び引用文献2ないし4に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明12について
本願発明12は,本願発明1の「コードリーダ」を「方法」の観点から記載したに過ぎないことから,同様に,当業者であっても引用発明及び引用文献2ないし4に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 原査定について
<特許法29条2項について>
審判請求時の補正により,本願発明1ないし12は上記第3に示したとおりのものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用発明(上記第4の引用文献1)及び引用文献2ないし4に記載の技術事項に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-03-26 
出願番号 特願2018-131309(P2018-131309)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 塚田 肇
山澤 宏
発明の名称 光電式コードリーダ及び光学コードの読み取り方法  
代理人 特許業務法人京都国際特許事務所  

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