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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F |
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管理番号 | 1372489 |
審判番号 | 不服2020-4756 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-04-07 |
確定日 | 2021-03-26 |
事件の表示 | 特願2015-215705「感光性樹脂組成物,ドライフィルム,プリント配線板,及び感光性樹脂組成物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開,特開2017- 90490〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2015-215705号(以下「本件出願」という。)は,平成27年11月2日に出願された特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。 令和 元年 8月20日付け:拒絶理由通知書 令和 元年10月28日付け:意見書 令和 元年10月28日付け:手続補正書 令和 元年12月25日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和 2年 4月 7日付け:審判請求書 令和 2年 4月 7日付け:手続補正書 2 本願発明 本件出願の請求項1に係る発明は,令和2年4月7日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの,次のものである(以下「本願発明」という。)。なお,上記補正では請求項1は補正されていない。 「カルボキシル基含有樹脂(A)と, エチレン性不飽和結合を一分子中に少なくとも一つ有する不飽和化合物(B)と, 光重合開始剤(C)と, エポキシ化合物(D)とを含有し, 前記カルボキシル基含有樹脂(A)が,下記式(1)で示され,式(1)中,R_(1)?R_(8)は各々独立に水素,炭素数1?5のアルキル基又はハロゲンであるビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物(a1)と,不飽和基含有カルボン酸(a2)との反応物である中間体と,酸無水物との反応物であるカルボキシル基含有樹脂(A1)を含有し,前記カルボキシル基含有樹脂(A1)の重量平均分子量が1000?5000の範囲内であり, 前記カルボキシル基含有樹脂(A)に対する前記不飽和化合物(B)の含有量が,21?40質量%であり, 前記エポキシ化合物(D)が,結晶性エポキシ樹脂を含有する感光性樹脂組成物。 【化1】 3 原査定の拒絶の理由 本願発明についての原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本件出願前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献2:特開2001-354735号公報 引用文献5:特開2003-165830号公報 (当合議体注:引用文献2及び引用文献5は,いずれも主引用例である。) 第2 当合議体の判断 1 引用文献2を主引用例とした場合について (1) 引用文献2の記載 ア 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,新規な光重合性不飽和化合物,その製造方法及びそれを用いたアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物に関する。 …省略… 【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明は,このような事情のもとで,上記のような欠点がなく,分子量の制御が容易な光重合性不飽和化合物,このものを効率よく製造する方法,及び該光重合性不飽和化合物を含み,プリベーク後には塗膜がスティッキングフリーとなり,光照射後における硬化膜が耐熱性,透明性,密着性,硬度,耐薬品性等に優れ,かつ弱アルカリ水溶液で現像可能であると共に,適当な溶液粘度になるように粘度調整が容易な感放射線性樹脂組成物を提供することを目的としてなされたものである。 【0004】 【課題を解決するための手段】本発明者らは,前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果,ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシアクリレートをテトラカルボン酸二無水物と反応させることによりオリゴマーとした後に,ジカルボン酸無水物で末端水酸基を封鎖する,2段階反応を用いることにより,前記欠点がなく,分子量の制御が容易なカルボキシル基を有する新規な光重合性不飽和化合物が得られること,そして,この光重合性不飽和化合物と,エポキシ基を有する化合物と,光重合開始剤及び/又は光増感剤を含む組成物が,感放射線性樹脂組成物として,その目的に適合し得ることを見出し,この知見に基づいて本発明を完成するに至った。」 イ 「【0005】 【発明の実施の形態】本発明の光重合性不飽和化合物は,一般式[1] 【化18】 (式中,X,Y,Z及びnは前記と同じ意味をもつ)で表される新規な化合物であって,両末端の水酸基がジカルボン酸無水物により封鎖された構造を有し,該ジカルボン酸無水物残基を重合鎖内に実質上有していない。これに対し,公知の前記一般式[6]の光重合性不飽和化合物は,ジカルボン酸無水物残基を重合鎖内に有すると共に,末端水酸基がジカルボン酸無水物により封鎖されているとは限らない。また,製造方法も,下記の本発明方法とは異なるものである。前記一般式[1]で表される光重合性不飽和化合物は,以下に示す本発明方法に従えば,極めて効率よく製造することができる。本発明方法においては,まず,式[2] 【化19】 で表されるエポキシ化合物に常法に従いアクリル酸を反応させて,式[3] 【化20】 で表されるアクリル酸エステル誘導体を製造する。上記式[2]で表されるエポキシ化合物は,例えばビスフェノールフルオレンにエピクロルヒドリンなどのエピハロヒドリンを反応させることにより,容易に得ることができる。次に,このようにして得られた式[3]で表されるアクリル酸エステル誘導体に,適当な溶媒中において,一般式[4] 【化21】 (式中のZは前記と同じ意味をもつ)で表されるテトラカルボン酸二無水物を反応させたのち,さらに一般式[5] 【化22】 (式中のYは前記と同じ意味をもつ)で表されるジカルボン酸無水物を反応させる。 …省略… 【0006】…省略…ジカルボン酸無水物とテトラカルボン酸二無水物との割合は,モル比で,通常1:99?90:10,好ましくは5:95?80:20の範囲で選定される。ジカルボン酸無水物の割合が,全酸無水物の1モル%未満では樹脂粘度が高くなり作業性が悪くなるだけではなく,分子量が大きくなりすぎるために,未露光部が現像液に対して溶解せず,目的のパターンが得られない。また,ジカルボン酸無水物の割合が,全酸無水物の90モル%を超えると分子量が小さいため,プリベーク後の塗膜にスティッキングが残る問題が生じる。 …省略… 【0007】本発明の一般式[1]で表される光重合性不飽和化合物の分子量及び酸価は,前記反応工程において,式[3]で表されるアクリル酸エステル誘導体に,一般式[4]で表されるテトラカルボン酸二無水物を反応させる際に,反応条件を制御し,一般式[1]におけるnの値を変えることによって,実質上制御することができる。なお,このnは1?20の範囲の整数である。次に,本発明のアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物は,(A)前記一般式[1]で表される光重合性不飽和化合物と,(B)エポキシ基を有する化合物と,(C)光重合開始剤及び/又は光増感剤を含むものである。 …省略… 【0008】…省略…本発明の樹脂組成物においては,必要に応じ,(D)成分として,光で重合することのでさるモノマーやオリゴマーをその使用目的の物性にあわせて含有させることができる。…省略…この(D)成分のモノマーやオリゴマーは,粘度調整剤あるいは光架橋剤として作用するものであり,その使用量は,本発明の樹脂組成物の性質を損なわない範囲で適宜選択することができるが,通常は,上記モノマー及びオリゴマーの少なくとも一種を,(A)成分の光重合性不飽和化合物100重量部に対して50重量部以下の範囲で配合される。このモノマーやオリゴマーの使用量が50重量部を超えるとプリベーク後のスティッキング性に問題か出てくる。 【0009】本発明の感放射線性樹脂組成物には,本発明の目的が損なわれない範囲で,必要に応じて,例えばエポキシ基硬化促進剤,熱重合禁止剤,酸化防止剤,密着助剤,界面活性剤,消泡剤等の添加剤を配合させることができる。 …省略… 【0010】本発明の感放射線性樹脂組成物は,前記(A)成分,(B)成分,(C)成分及び必要に応じて用いられる(D)成分やその他添加剤を,通常有機溶剤に溶解し,均一に混合することにより,調製することができる。 …省略… 【0011】…省略…本発明の感放射線性樹脂組成物の溶液を基板に塗布する方法としては,ディッピング法,スプレー法の他,ローラーコーター,スリットコーター,バーコーター,スピンナーを用いる等のいずれの方法をも採用することができる。これらの方法によって,樹脂組成物溶液を1?30μm程度の厚さに塗布した後,溶剤を除去すれば被膜が形成される。 …省略… 【0012】基板上に設けられた該樹脂組成物からなる感光層を,上記放射線を用いて選択露光したのち,現像液を用いて現像処理し,放射線の未照射部分を除去することにより,薄膜のパターニングが行われる。 …省略… 【0013】アルカリ現像後,耐アルカリ性を向上させるために,加熱してエポキシ硬化処理を施すことが望ましい。 …省略… 【0014】 【実施例】次に,本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが,本発明は,これらの例によってなんら限定されるものではない。」 ウ 「実施例1 500mL四つ口フラスコ中に,ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂235g(エポキシ当量235)とテトラメチルアンモニウムクロライド110mg,2,6-ジ-tertブチル-4-メチルフェノール100mg及びアクリル酸72.0gを仕込み,これに25mL/分の速度で空気を吹き込みながら90?100℃で加熱溶解した。次に,溶液が白濁した状態のまま徐々に昇温し,120℃に加熱して完全溶解させた。ここで溶液は次第に透明粘稠になったがそのまま撹拌を継続した。この間,酸価を測定し,1.0mgKOH/g未満になるまで加熱撹拌を続けた。酸価が目標に達するまで12時間を要した。そして室温まで冷却し,無色透明で固体状の式[3]で表されるビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレートを得た。次いで,このようにして得られた上記のビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート600gを加えて溶解した後,ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物80.5g及び臭化テトラエチルアンモニウム1gを混合し,徐々に昇温して110?115℃で4時間反応させた。酸無水物基の消失を確認した後,1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸38.0gを混合し,90℃で6時間反応させ,一般式[1]の化合物1(式中のY/Zモル比=50.0/50.0)を得た。酸無水物の消失はIRスペクトルにより確認した。 …省略… 【0015】実施例3 実施例1で製造したビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gを用い,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート600gを加えて溶液とした後,ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物48.3g及び臭化テトラエチルアンモニウム1gを混合し,徐々に昇温して110?115℃で4時間反応させた。酸無水物基の消失を確認した後,1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸68.4gを混合し,90℃で6時間反応させ,一般式[1]の化合物3(式中のY/Zモル比=67.0/33.0)を得た。酸無水物の消失はIRスペクトルにより確認した。 …省略… 【0016】 …省略… 実施例1?4で得られた化合物1?4及び比較例1?3で得られた化合物5?7について製造時の当量比及び性状を第1表に示す。 【0017】 【表1】 …省略… 【0018】 …省略… 実施例5?10及び比較例4,5 実施例1?4及び比較例1,2で得られた光重合性不飽和化合物(化合物1?6)を用い,第2表に示す配合組成のレジスト溶液を調製した。 【0019】 【表2】 【0020】 【表3】 【0021】(注) 1)テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂:油化シェル社製,商品名「エピコートYX-4000」,エポキシ当量193 2)イルガキュア-907:チバスペシャリティケミカルズ社製 …省略… 【0023】 【表4】 【0024】第3表の結果から明らかなように,実施例5?10は目的の物性を達成できた。しかし,比較例4のようにY/Z=0.8/99.2のモル比では樹脂の分子量が大きくなりすぎるために,未露光部が現像液に対して溶解せず,目的のパターンが得られない。また,比較例5のようにY/Z=95/5のモル比では,比較例4とは逆に樹脂の分子量が小さくなりすぎるために,プリベーク後のスティッキング現象が著しく,塗膜乾燥性に問題が残る。以上の結果より,本発明の感放射線性樹脂相成物は,耐熱性,透明性,密着性,硬度,耐溶剤性,耐アルカリ性等に優れた保護膜を提供できることが判明した。 【0025】 【発明の効果】本発明の光重合性不飽和化合物は,新規な化合物であって,様々な用途に好適に用いられるアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物における光重合性成分などとして有用である。この光重合性不飽和化合物を用いた本発明の感放射線性樹脂組成物は,従来のものでは達成できなかった耐熱性,透明性に優れたアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物である。したがって,本発明の樹脂組成物によると,プリベーク後に塗膜がスティッキングフリーとなり,密着露光が可能になり解像度のアップにつながるという利点もある。しかも,本発明の感放射線性樹脂組成物は,硬化膜が耐酸性,耐アルカリ性,耐溶剤性,表面硬度等にも優れているので,ソルダーレジスト等の永久保護マスクの用途等に有用であるばかりでなく,プリント配線板関連のエッチングレジストや層間絶縁材料,感放射線性接着剤,塗料,スクリーン印刷用の感光液やレジストインキ等の幅広い分野に使用することができる。」 (2) 引用発明 ア 引用発明2A 引用文献2の【0019】【表2】には,実施例6として,「光重合性不飽和化合物としての化合物1が20.0質量部,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが8.6質量部,テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェル社製「エピコートYX-4000])が4.4質量部,ミヒラーケトンが0.2質量部,イルガキュアー907が1.2質量部,セロソルブアセテートが65.6質量部からなるレジスト溶液」が記載されている。 そうしてみると,引用文献2には,次の発明が記載されている(以下「引用発明2A」という。)。なお,本願発明との対比を考慮し,「化合物1」の製造方法については簡潔に記載し,樹脂酸価及び数平均分子量については【0017】【表1】の記載を参照する。 「 光重合性不飽和化合物としての化合物1が20.0質量部,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが8.6質量部,テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェル社製「エピコートYX-4000])が4.4質量部,ミヒラーケトンが0.2質量部,イルガキュアー907が1.2質量部,セロソルブアセテートが65.6質量部からなるレジスト溶液であって, 化合物1は,以下の製造方法により製造されたものである, レジスト溶液。 <化合物1の製造方法> ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂235g(エポキシ当量235)とアクリル酸72.0gを,酸価が1.0mgKOH/g未満になるまで反応させ,ビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレートを得, 得られたビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gとベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物80.5gを反応させ,酸無水物基の消失を確認した後,1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸38.0gを反応させて,樹脂酸価が100mgKOH/g,数平均分子量が3700である化合物1を製造した。」 イ 同様に,引用文献2(【0015】,【0017】【表1】及び【0020】【表3】)には,実施例9として,次の発明も記載されている(以下「引用発明2B」という。)。 「 光重合性不飽和化合物としての化合物3が20.0質量部,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが8.6質量部,テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェル社製「エピコートYX-4000])が4.4質量部,ミヒラーケトンが0.2質量部,イルガキュアー907が1.2質量部,セロソルブアセテートが65.6質量部からなるレジスト溶液であって, 化合物3は,以下の製造方法により製造されたものである, レジスト溶液。 <化合物3の製造方法> ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂235g(エポキシ当量235)とアクリル酸72.0gを,酸価が1.0mgKOH/g未満になるまで反応させ,ビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレートを得, 得られたビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gとベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物48.3gを反応させ,酸無水物基の消失を確認した後,1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸68.4gを反応させて,樹脂酸価が100.6mgKOH/g,数平均分子量が1000未満である化合物3を製造した。」 (3) 対比 本願発明と引用発明2Aを対比すると,以下のとおりとなる。 ア カルボキシル基含有樹脂(A) 引用発明2Aの「光重合性不飽和化合物としての化合物1」は,「ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂235g(エポキシ当量235)とアクリル酸72.0gを,酸価が1.0mgKOH/g未満になるまで反応させ,ビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレートを得」,「得られたビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gとベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物80.5gを反応させ,酸無水物基の消失を確認した後,1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸38.0gを反応させて」得られた,「樹脂酸価が100mgKOH/g」の樹脂である。 上記製造工程及びその樹脂酸価からみて,引用発明2Aの「光重合性不飽和化合物としての化合物1」は,「樹脂酸価が100mgKOH/g」に対応する量の,カルボキシル基を含有する樹脂である。 そうしてみると,引用発明2Aの「光重合性不飽和化合物としての化合物1」は,本願発明の「カルボキシル基含有樹脂(A)」に相当する。 イ 不飽和化合物(B) 引用発明2Aの「レジスト溶液」は,「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」を含有する。 ここで,「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は,その化合物名からみて,エチレン性不飽和結合を一分子中に6つ有する化合物である。 そうしてみると,引用発明2Aの「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は,本願発明の,「エチレン性不飽和結合を一分子中に少なくとも一つ有する」とされる,「不飽和化合物(B)」に相当する。 ウ 光重合開始剤(C) 引用発明2Aの「レジスト溶液」は,「ミヒラーケトン」及び「イルガキュアー907」を含有する。 ここで,「ミヒラーケトン」及び「イルガキュアー907」が光重合開始剤であることは,技術常識である。 そうしてみると,引用発明2Aの「ミヒラーケトン」及び「イルガキュアー907」は,いずれも本願発明の「光重合開始剤(C)」に相当する。 エ エポキシ化合物(D) 引用発明2Aの「レジスト溶液」は,「テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェル社製「エピコートYX-4000」)」を含有する。 ここで,「テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェル社製「エピコートYX-4000」)」は,その製品名からみて,結晶性のエポキシ樹脂である(例:特開平4-288317号公報の【0007】)。 そうしてみると,引用発明2Aの「テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェル社製「エピコートYX-4000」)」は,本願発明の,「結晶性エポキシ樹脂を含有する」とされる,「エポキシ化合物(D)」に相当する。 オ 感光性樹脂組成物 上記ア?エの対比結果を考慮すると,引用発明2Aの「レジスト溶液」は,本願発明の「感光性樹脂組成物」に相当する。また,引用発明2Aの「レジスト溶液」は,本願発明の「感光性樹脂組成物」における,「ルボキシル基含有樹脂(A)と」,「不飽和化合物(B)と」,「光重合開始剤(C)と」,「エポキシ化合物(D)とを含有し」という要件を満たす。 カ カルボキシル基含有樹脂(A1) 引用発明2Aの「光重合性不飽和化合物としての化合物1」は,前記アで述べたものである。 そうしてみると,引用発明2Aの「ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂」は,本願発明の「式(1)」において,「R_(1)?R_(8)」が「水素」である「ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物(a1)」に該当する。同様に,引用発明2Aの「アクリル酸」,「ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物」及び「1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸」は,それぞれ本願発明の「不飽和基含有カルボン酸(a2)」,「酸無水物」及び「酸無水物」に該当する。そして,引用発明2Aの「光重合性不飽和化合物としての化合物1」と本願発明の「カルボキシル基含有樹脂(A)」とは,「下記式(1)で示され,式(1)中,R_(1)?R_(8)は各々独立に水素,炭素数1?5のアルキル基又はハロゲンであるビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物(a1)と,不飽和基含有カルボン酸(a2)との反応物である中間体と,酸無水物との反応物であるカルボキシル基含有樹脂(A1)を含有し」ている点で共通する。 (4) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明2Aは,次の構成で一致する。 「カルボキシル基含有樹脂(A)と, エチレン性不飽和結合を一分子中に少なくとも一つ有する不飽和化合物(B)と, 光重合開始剤(C)と, エポキシ化合物(D)とを含有し, 前記カルボキシル基含有樹脂(A)が,下記式(1)で示され,式(1)中,R_(1)?R_(8)は各々独立に水素,炭素数1?5のアルキル基又はハロゲンであるビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物(a1)と,不飽和基含有カルボン酸(a2)との反応物である中間体と,酸無水物との反応物であるカルボキシル基含有樹脂(A1)を含有し, 前記エポキシ化合物(D)が,結晶性エポキシ樹脂を含有する感光性樹脂組成物。」 イ 相違点 本願発明と引用発明2Aは,以下の点で相違する。 (相違点1) 「カルボキシル基含有樹脂(A1)」が,本願発明は,「重量平均分子量が1000?5000の範囲内であ」るのに対して,引用発明2Aは,「数平均分子量が3700である」点。 (相違点2) 「感光性樹脂組成物」が,本願発明は,「前記カルボキシル基含有樹脂(A)に対する前記不飽和化合物(B)の含有量が,21?40質量%であ」であるのに対して,引用発明2Aは,「43%」と計算される点。 (当合議体注:8.6÷20.0=0.43。) (5) 判断 ア 相違点1について 引用文献2の【0003】,【0004】,【0006】,【0017】【表1】,【0019】【表2】及び【0024】の記載からみて,引用発明2Aの「化合物1」は,適切なY/Z比の範囲内で,設計変更可能なものと理解される。すなわち,引用文献5には,数平均分子量が「3700」である引用発明2Aの「化合物1」に加え,数平均分子量が「5000」よりも十分小さい「1000未満」である,引用発明2Bの「化合物3」も実際に開示されている。 そうしてみると,例えば,【0006】の記載を参考に,レジスト溶液の作業性や未露光部の現像性を重視した当業者が,引用発明2Aの「化合物1」を,その数平均分子量を小さく(例:1000程度に)なるように変更することは,引用文献2の記載が示唆する範囲内の事項といえる。また,このように設計変更したものは,「重量平均分子量」が「数平均分子量」よりも大きめの値となるものであるとしても,「重量平均分子量が1000?5000の範囲内であ」る蓋然性が極めて高いといえる。 イ 相違点2について 引用文献5の【0008】の記載からは,引用発明2Aの「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」を増量すると,プリベーク後のスティッキング性に問題か出てくる可能性があることが理解される。 そうしてみると,前記アで述べたとおり,レジスト溶液の作成時の作業性や未露光部の現像性を重視しつつ,プリベーク後のスティッキング性を懸念した(両者の両立を図る)当業者ならば,引用発明2Aの「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」の減量を試みる(1割減,2割減…と試みる)といえる。 (当合議体注:この場合,現像性との両立を考慮する当業者が,「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」の分量を,本願発明で特定された下限値を下回る程度にまで大幅に減量するような調整を行うことは想定し難いといえる。) そうしてみると,引用発明2Aの「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」の分量を「21?40質量%」の範囲内とすることは,当業者における通常の創意工夫の範囲内のものである。 (6) 発明の効果について 本件出願の明細書の【0014】の記載からみて,本願発明の効果は,「ビスフェノールフルオレン骨格を有するカルボキシル基含有樹脂を含有しながら,優れた現像性を備える感光性樹脂組成物…が得られる。」というものと考えられる。 しかしながら,このような効果は,引用発明2Aが具備する効果であるか,少なくとも,前記(3)で挙げた引用文献2の記載から当業者が予測可能な範囲を超えないものである。 (7) 請求人の主張について 請求人は,審判請求書の4.において,追加合成例を示すとともに,本願発明は顕著な効果を奏すると主張する。 しかしながら,前記(5)で挙げた引用文献5の記載を考慮すると,請求人が主張する効果が,当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるとまではいえない。 なお,本願発明の「式(1)」のR_(1)?R_(8)は,全て炭素数5のアルキル基であっても構わないものであり,また,その繰り返し数(式(7)の「n」)にも(重量平均分子量が5000を超えない限り)制限がないものである。さらに,本願発明の「カルボキシル基含有樹脂(A)」は,「カルボキシル基含有樹脂(A1)」以外のカルボキシル基含有樹脂を含んでいても構わないものである。加えて,本願発明の「不飽和化合物(B)」は,単官能であっても構わない。そうしてみると,本願発明は,請求人が主張するような顕著な効果を奏するものとまでは認められない。 2 引用文献5を主引用例とした場合について (1) 引用文献5の記載 原査定の拒絶の理由において引用された引用文献5(特開2003-165830号公報)は,本件出願前に,日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,新規な光重合性不飽和樹脂,その製造方法及びそれを用いたアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物に関する。 …省略… 【0014】 【発明が解決しようとする課題】本発明は,このような事情のもとで,上記のような欠点がなく,分子量の制御が容易な光重合性不飽和樹脂,このものを効率よく製造する方法,及び該光重合性不飽和樹脂を含み,プリベーク後には塗膜がスティッキングフリーとなり,光照射後における硬化膜が耐熱性(加熱処理後の膜収縮が小さい),透明性,密着性,硬度,耐薬品性(アルカリ溶液浸漬後の膜収縮が小さい)等に優れ,かつ弱アルカリ水溶液で現像可能であると共に,適当な溶液粘度になるように粘度調整が容易な感放射線性樹脂組成物を提供することを目的としてなされたものである。 【0015】 【課題を解決するための手段】本発明者らは,前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果,ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ(メタ)アクリレートをテトラカルボン酸二無水物と反応させることによりオリゴマーとした後に,ジカルボン酸無水物で末端水酸基を封鎖する,2段階反応を用いることにより,前記欠点がなく,分子量の制御が容易なカルボキシル基を有する新規な光重合性不飽和樹脂が得られること,そして,この光重合性不飽和樹脂と,エポキシ基を有する化合物と,光重合開始剤を含む組成物が,感放射線性樹脂組成物として,その目的に適合し得ることを見出し,この知見に基づいて本発明を完成するに至った。 …省略… 【0036】 【発明の実施の形態】本発明の光重合性不飽和樹脂は,一般式(1): 【0037】 【化19】 【0038】(式中,X,Y,Z及びnは,前記の通りである)で表され,数平均分子量が1500以上である新規な樹脂(以下,本発明の樹脂ということがある)である。この樹脂は,例えば,詳細には後述するが,(メタ)アクリル酸エステル誘導体とテトラカルボン酸二無水物(残基がZ)を反応させ,次いで,ジカルボン酸無水物(残基がY)を,ジカルボン酸無水物とテトラカルボン酸二無水物とがモル比で1:99?65:35の割合となるように添加して反応させて得られる。」 (当合議体注:Xは次の一般式(2)で表される基である。 ) イ 「【0040】前記一般式(1)で表される光重合性不飽和樹脂は,以下に示す方法に従って,極めて効率よく製造することができる。まず,一般式(3): 【0041】 【化20】 【0042】で表されるエポキシ化合物(3)を準備する。 …省略… 【0044】次に,この一般式(3)のエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて,一般式(4) 【0045】 【化21】 【0046】で表される(メタ)アクリル酸エステル誘導体が得られる。一般式(3)で表されるエポキシ化合物は,単独で用いてもよいし,2種以上を組み合わせて用いてもよい。また,アクリル酸とメタクリル酸を組合せて用いてもよい。 【0047】次に,得られた一般式(4)で表される(メタ)アクリル酸エステル誘導体と,一般式(5): 【0048】 【化22】 【0049】(式中,Zは前記と同じである)で表されるテトラカルボン酸二無水物を適切な溶媒中において,反応させる。 【0050】この反応が終了した後に,この反応生成物と,一般式(6): 【0051】 【化23】 【0052】(式中,Yは前記と同じである)で表されるジカルボン酸無水物とを,適当な溶媒中で反応させる。 【0053】この反応において,反応に使用するジカルボン酸無水物とテトラカルボン酸二無水物とがモル比で1:99?65:35の割合となるように添加して反応させることが必要である。好ましくは5:95?60:40の割合であり,さらに好ましくは,5:99?50:50である。すなわち,添加する全酸無水物中のジカルボン酸は1モル%?65モル%であることが必要である。ジカルボン酸無水物の割合が全酸無水物の1モル%未満では,分子量が大きくなり,樹脂粘度が高くなる傾向にある。樹脂粘度が高いとレジスト溶液の作成時の作業性が悪くなる,分子量が大きいと,塗膜にした時に未露光部の樹脂が現像液に溶解せず,現像したときに目的のパターンが得られないという問題が生じやすくなる。また,ジカルボン酸無水物の割合が,全酸無水物の65モル%を超えると,得られる樹脂の分子量が小さくなり,プリベーク後の塗膜にスティッキングが残るという問題,あるいは,耐熱性または耐溶剤性に問題が生じるおそれがある。 …省略… 【0062】次に,本発明のアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物は,(A)本発明の光重合性不飽和樹脂に,(B)エポキシ基を有する化合物と,(C)光重合開始剤を配合することにより得られる。 …省略… 【0068】本発明の樹脂組成物においては,必要に応じ,(D)成分として,光で重合することのでさるモノマーやオリゴマーをその使用目的の物性にあわせて含有させることができる。 …省略… 【0069】この(D)成分であるモノマーあるいはオリゴマーは,粘度調整剤あるいは光架橋剤として作用するものであり,必要に応じて,本発明の樹脂組成物の性質を損なわない範囲で配合される。通常は,上記モノマー及びオリゴマーの少なくとも一種を,(A)成分の光重合性不飽和樹脂100重量部に対して50重量部以下の範囲で配合される。このモノマーあるいはオリゴマーの使用量が50重量部を超えるとプリベーク後のスティッキング性に問題か出てくる。 【0070】本発明の感放射線性樹脂組成物には,本発明の目的が損なわれない範囲で,必要に応じて,例えばエポキシ基硬化促進剤,熱重合禁止剤,酸化防止剤,密着助剤,界面活性剤,消泡剤等の添加剤が配合される。 …省略… 【0076】本発明の感放射線性樹脂組成物は,前記(A)成分,(B)成分,(C)成分及び必要に応じて用いられる(D)成分あるいはその他添加剤を,通常有機溶剤に溶解し,均一に混合することにより,調製することができる。 …省略… 【0079】本発明の感放射線性樹脂組成物の溶液を基板に塗布する方法としては,ディッピング法,スプレー法の他,ローラーコーター,スリットコーター,バーコーター,スピンナーを用いる方法等のいずれの方法をも採用することができる。これらの方法によって,樹脂組成物溶液を1?30μm程度の厚さに塗布した後,溶剤を除去すれば被膜が形成される。 …省略… 【0081】基板上に設けられた該樹脂組成物からなる感光層を,上記放射線を用いて選択露光したのち,現像液を用いて現像処理し,放射線の未照射部分を除去することにより,薄膜のパターニングが行われる。 …省略… 【0086】アルカリ現像後,耐アルカリ性を向上させるために,加熱してエポキシ硬化処理を施すことが望ましい。 …省略… 【0093】 【実施例】次に,本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが,本発明は,これらの例によってなんら限定されるものではない。」 ウ 「【0094】(実施例1:樹脂1の製造)500mL四つ口フラスコ中に,ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂235g(エポキシ当量235)とテトラメチルアンモニウムクロライド110mg,2,6-ジ-tertブチル4-メチルフェノール100mg及びアクリル酸72.0gを仕込み,これに25mL/分の速度で空気を吹き込みながら90?100℃で加熱溶解した。次に,溶液が白濁した状態のまま徐々に昇温し,120℃に加熱して完全溶解させた。ここで溶液は次第に透明粘桐になったがそのまま攪拌を継続した。この間,酸価を測定し,1.0mgKOH/g未満になるまで加熱攪拌を続けた。酸価が目標に達するまで12時間を要した。そして室温まで冷却し,無色透明で固体状の式(4)で表されるビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレートを得た。 【0095】次いで,このようにして得られた上記のビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート600gを加えて溶解した後,ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物80.5g及び臭化テトラエチルアンモニウム1gを混合し,徐々に昇温して110?115℃で4時間反応させた。酸無水物基の消失を確認した後,1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸38.0gを混合し,90℃で6時間反応させ,一般式(1)で表される樹脂1(式中,Y/Zモル比=50.0/50.0)を得た。酸無水物の消失はIRスペクトルにより確認した。 …省略… 【0097】(実施例3:樹脂3の製造)実施例1で製造したビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gを用い,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート600gを加えて溶液とした後,ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物67.6g及び臭化テトラエチルアンモニウム1gを混合し,徐々に昇温して110?115℃で4時間反応させた。酸無水物基の消失を確認した後,1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸48.6gを混合し,90℃で6時間反応させ,一般式(1) で表される樹脂3(式中,Y/Zモル比=60/40)を得た。酸無水物の消失はIRスペクトルにより確認した。 …省略… 【0101】(比較例1:樹脂6の製造)実施例1で製造したビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gを用い,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート600gを加えて溶液とした後,ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物102.3g及び臭化テトラエチルアンモニウム1gを混合し,徐々に昇温して110?115℃で4時間反応させた。酸無水物基の消失を確認した後,1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸0.5gを混合し,90℃で6時間反応させ,一般式(1)で表される樹脂6を得た。しかし,この樹脂6は,式中,Y/Zモル比=0.8/99.2であり,本発明の範囲には入らない樹脂である。酸無水物の消失はIRスペクトルにより確認した。 …省略… 【0105】実施例1?5で得られた樹脂1?5及び比較例1?4で得られた樹脂6?9について製造時の当量比及び性状を表1に示す。 【0106】 【表1】 …省略… 【0110】(実施例6?12及び比較例5?8)実施例1?5及び比較例1?4で得られた光重合性不飽和樹脂(樹脂1?9)を用い,表2に示す配合組成のレジスト溶液を調製した。なお,実施例13は樹脂1(ビスフェノールフルオレン型樹脂)と樹脂5(ビスクレゾールフルオレン型樹脂)との1:1組成物である。 【0111】 【表2】 【0112】なお,使用したテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂は,油化シェル社製,商品名「エピコートYX-4000」,エポキシ当量193である。またイルガキュアー907は,チバスペシャリティケミカルズ社製である。 …省略… 【0122】 【表3】 (当合議体注:【表3】中の比較例6?比較例9は,それぞれ比較例5?比較例8の誤記である。) 【0123】なお,比較例5は現像時に未露光部が溶解せずパターニングができなかったため,以降の評価を中止した。 【0124】表3の結果から明らかなように,実施例6?12の樹脂は目的の物性を達成できた。また,実施例13の樹脂1(ビスフェノールフルオレン型樹脂)と樹脂5(ビスクレゾールフルオレン型樹脂)との組成物も,良好な物性を達成できた。しかし,比較例5のように,Y/Z=0.8/99.2のモル比では,樹脂の分子量が大きくなりすぎるために,未露光部が現像液に対して溶解せず,目的のパターンが得られない。また,比較例6のように,Y/Z=75/25のモル比では,比較例5とは逆に樹脂の分子量が小さくなりすぎるために,キュアベーク後の膜厚変化,さらにポストベーク後の溶剤浸漬後の膜厚変化が著しく,耐熱性,耐溶剤性に劣る。 【0125】以上の結果より,本発明の感放射線性樹脂組成物は,耐熱性,透明性,密着性,硬度,耐溶剤性,耐アルカリ性等に優れた保護膜を提供できることが判明した。 【0126】 【発明の効果】本発明の光重合性不飽和樹脂は,様々の用途に好適に用いられるアルカリ可溶型感放射線性樹脂組成物における光重合性成分などとして有用である。 【0127】本発明の感放射線性樹脂組成物は,この光重合性不飽和樹脂を含み,従来の樹脂の比べて耐熱性,透明性に優れた塗膜を形成できる。また,プリベーク後の塗膜はスティッキングフリーとなって,密着露光が可能となり,解像度のアップにつながるという利点もある。しかも,加熱して得られる硬化膜は耐酸性,耐アルカリ性,耐溶剤性,表面硬度等にも優れているので,ソルダーレジスト等の永久保護マスクの用途等に有用であるばかりでなく,プリント配線板関連のエッチングレジストや層間絶縁材料,感放射線性接着剤,塗料,スクリーン印刷用の感光液やレジストインキ等の幅広い分野に使用することができる。」 (2) 引用発明 ア 引用発明5A 引用文献5の【0111】【表2】には,実施例7として,「光重合性不飽和樹脂としての樹脂1が20.0質量部,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが8.6質量部,テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェル社製「エピコートYX-4000」)が4.4質量部,ミヒラーケトンが0.2質量部,イルガキュアー907が1.2質量部,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが65.6質量部からなるレジスト溶液」が記載されている。 そうしてみると,引用文献5には,次の発明が記載されている(以下「引用発明5A」という。)。なお,本願発明との対比を考慮し,「樹脂1」の製造方法については簡潔に記載し,樹脂酸価及び数平均分子量については【0106】【表1】の記載を参照する。 「 光重合性不飽和樹脂としての樹脂1が20.0質量部,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが8.6質量部,テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェル社製「エピコートYX-4000」)が4.4質量部,ミヒラーケトンが0.2質量部,イルガキュアー907が1.2質量部,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが65.6質量部からなるレジスト溶液であって, 樹脂1は,以下の製造方法により製造されたものである, レジスト溶液。 <樹脂1の製造方法> ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂235g(エポキシ当量235)とアクリル酸72.0gを,酸価が1.0mgKOH/g未満になるまで反応させ,ビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレートを得, 得られたビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gとベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物80.5gを反応させ,酸無水物基の消失を確認した後,1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸38.0gを反応させて,樹脂酸価が100mgKOH/g,数平均分子量が3700である樹脂1を製造した。」 イ 引用発明5B 同様に,引用文献5(【0097】,【0106】【表1】及び【0111】【表2】)には,実施例10として,次の発明も記載されている(以下「引用発明5B」という。)。 「 光重合性不飽和樹脂としての樹脂3が20.0質量部,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが8.6質量部,テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェル社製「エピコートYX-4000」)が4.4質量部,ミヒラーケトンが0.2質量部,イルガキュアー907が1.2質量部,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが65.6質量部からなるレジスト溶液であって, 樹脂3は,以下の製造方法により製造されたものである, レジスト溶液。 <樹脂3の製造方法> ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂235g(エポキシ当量235)とアクリル酸72.0gを,酸価が1.0mgKOH/g未満になるまで反応させ,ビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレートを得, 得られたビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gとベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物67.6gを反応させ,酸無水物基の消失を確認した後,1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸48.6gを反応させて,樹脂酸価が97.8mgKOH/g,数平均分子量が1800である樹脂3を製造した。」 (3) 対比 本願発明と引用発明5Aを対比すると,以下のとおりとなる。 ア カルボキシル基含有樹脂(A) 引用発明5Aの「光重合性不飽和樹脂としての樹脂1」は,「ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂235g(エポキシ当量235)とアクリル酸72.0gを,酸価が1.0mgKOH/g未満になるまで反応させ,ビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレートを得」,「得られたビスフェノールフルオレン型エポキシアクリレート307.0gとベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物80.5gを反応させ,酸無水物基の消失を確認した後,1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸38.0gを反応させて」得られた,「樹脂酸価が100mgKOH/g」の樹脂である。 上記製造工程及びその樹脂酸価からみて,引用発明5Aの「光重合性不飽和樹脂としての樹脂1」は,「樹脂酸価が100mgKOH/g」に対応する量の,カルボキシル基を含有する樹脂である。 そうしてみると,引用発明5Aの「光重合性不飽和樹脂としての樹脂1」は,本願発明の「カルボキシル基含有樹脂(A)」に相当する。 イ 不飽和化合物(B) 引用発明5Aの「レジスト溶液」は,「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」を含有する。 ここで,「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は,その化合物名からみて,エチレン性不飽和結合を一分子中に6つ有する化合物である。 そうしてみると,引用発明5Aの「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は,本願発明の,「エチレン性不飽和結合を一分子中に少なくとも一つ有する」とされる,「不飽和化合物(B)」に相当する。 ウ 光重合開始剤(C) 引用発明5Aの「レジスト溶液」は,「ミヒラーケトン」及び「イルガキュアー907」を含有する。 ここで,「ミヒラーケトン」及び「イルガキュアー907」が光重合開始剤であることは,技術常識である。 そうしてみると,引用発明5Aの「ミヒラーケトン」及び「イルガキュアー907」は,いずれも本願発明の「光重合開始剤(C)」に相当する。 エ エポキシ化合物(D) 引用発明5Aの「レジスト溶液」は,「テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェル社製「エピコートYX-4000」)」を含有する。 ここで,「テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェル社製「エピコートYX-4000」)」は,その製品名からみて,結晶性のエポキシ樹脂である(例:特開平4-288317号公報の【0007】)。 そうしてみると,引用発明5Aの「テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(油化シェル社製「エピコートYX-4000」)」は,本願発明の,「結晶性エポキシ樹脂を含有する」とされる,「エポキシ化合物(D)」に相当する。 オ 感光性樹脂組成物 上記ア?エの対比結果を考慮すると,引用発明5Aの「レジスト溶液」は,本願発明の「感光性樹脂組成物」に相当する。また,引用発明5Aの「レジスト溶液」は,本願発明の「感光性樹脂組成物」における,「ルボキシル基含有樹脂(A)と」,「不飽和化合物(B)と」,「光重合開始剤(C)と」,「エポキシ化合物(D)とを含有し」という要件を満たす。 カ カルボキシル基含有樹脂(A1) 引用発明5Aの「光重合性不飽和樹脂としての樹脂1」は,前記アで述べたものである。 そうしてみると,引用発明5Aの「ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂」は,本願発明の「式(1)」において,「R_(1)?R_(8)」が「水素」である「ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物(a1)」に該当する。同様に,引用発明5Aの「アクリル酸」,「ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物」及び「1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸」は,それぞれ本願発明の「不飽和基含有カルボン酸(a2)」,「酸無水物」及び「酸無水物」に該当する。そして,引用発明5Aの「光重合性不飽和樹脂としての樹脂1」と本願発明の「カルボキシル基含有樹脂(A)」とは,「下記式(1)で示され,式(1)中,R_(1)?R_(8)は各々独立に水素,炭素数1?5のアルキル基又はハロゲンであるビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物(a1)と,不飽和基含有カルボン酸(a2)との反応物である中間体と,酸無水物との反応物であるカルボキシル基含有樹脂(A1)を含有し」ている点で共通する。 (4) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明5Aは,次の構成で一致する。 「カルボキシル基含有樹脂(A)と, エチレン性不飽和結合を一分子中に少なくとも一つ有する不飽和化合物(B)と, 光重合開始剤(C)と, エポキシ化合物(D)とを含有し, 前記カルボキシル基含有樹脂(A)が,下記式(1)で示され,式(1)中,R_(1)?R_(8)は各々独立に水素,炭素数1?5のアルキル基又はハロゲンであるビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物(a1)と,不飽和基含有カルボン酸(a2)との反応物である中間体と,酸無水物との反応物であるカルボキシル基含有樹脂(A1)を含有し, 前記エポキシ化合物(D)が,結晶性エポキシ樹脂を含有する感光性樹脂組成物。」 イ 相違点 本願発明と引用発明5Aは,以下の点で相違する。 (相違点1) 「カルボキシル基含有樹脂(A1)」が,本願発明は,「重量平均分子量が1000?5000の範囲内であ」るのに対して,引用発明5Aは,「数平均分子量が3700である」点。 (相違点2) 「感光性樹脂組成物」が,本願発明は,「前記カルボキシル基含有樹脂(A)に対する前記不飽和化合物(B)の含有量が,21?40質量%であ」であるのに対して,引用発明5Aは,「43%」と計算される点。 (当合議体注:8.6÷20.0=0.43。) (5) 判断 ア 相違点1について 引用文献5の【0014】,【0015】,【0036】?【0038】,【0053】,【0106】【表1】,【0111】【表2】及び【0124】の記載からみて,引用発明5Aの「樹脂1」は,適切なY/Z比の範囲内で,設計変更可能なものと理解される。すなわち,引用文献5には,数平均分子量が「3700」である引用発明5Aの「樹脂1」に加え,数平均分子量が「5000」よりも十分小さい「1800」である,引用発明5Bの「樹脂3」も実際に開示されている。 そうしてみると,例えば,【0053】の記載を参考に,レジスト溶液の作成時の作業性や未露光部の現像性を重視した当業者が,引用発明5Aの「樹脂1」を,その数平均分子量が1500程度まで小さくなるように変更することは,引用文献5の記載が示唆する範囲内の事項といえる。また,このように設計変更したものは,「重量平均分子量」が「数平均分子量」よりも大きめの値となるものであるとしても,「重量平均分子量が1000?5000の範囲内であ」る蓋然性が極めて高いといえる。 イ 相違点2について 引用文献5の【0069】の記載からは,引用発明5Aの「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」を増量すると,プリベーク後のスティッキング性に問題か出てくる可能性があることが理解される。 そうしてみると,前記アで述べたとおり,レジスト溶液の作成時の作業性や未露光部の現像性を重視しつつ,プリベーク後のスティッキング性を懸念した(両者の両立を図る)当業者ならば,引用発明5Aの「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」の減量を試みる(1割減,2割減…と試みる)といえる。 (当合議体注:この場合,現像性との両立を考慮する当業者が,「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」の分量を,本願発明で特定された下限値を下回る程度にまで大幅に減量するような調整を行うことは想定し難いといえる。) そうしてみると,引用発明5Aの「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」の分量を「21?40質量%」の範囲内とすることは,当業者における通常の創意工夫の範囲内のものである。 (6) 発明の効果について 本件出願の明細書の【0014】の記載からみて,本願発明の効果は,「ビスフェノールフルオレン骨格を有するカルボキシル基含有樹脂を含有しながら,優れた現像性を備える感光性樹脂組成物…が得られる。」というものと考えられる。 しかしながら,このような効果は,引用発明5Aが具備する効果であるか,少なくとも,前記(3)で挙げた引用文献5の記載から当業者が予測可能な範囲を超えないものである。 (7) 請求人の主張について 請求人は,審判請求書の4.において,追加合成例を示すとともに,本願発明は顕著な効果を奏すると主張する。 しかしながら,前記(5)で挙げた引用文献5の記載を考慮すると,請求人が主張する効果が,当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるとまではいえない。 なお,本願発明の「式(1)」のR_(1)?R_(8)は,全て炭素数5のアルキル基であっても構わないものであり,また,その繰り返し数(式(7)の「n」)にも(重量平均分子量が5000を超えない限り)制限がないものである。さらに,本願発明の「カルボキシル基含有樹脂(A)」は,「カルボキシル基含有樹脂(A1)」以外のカルボキシル基含有樹脂を含んでいても構わないものである。加えて,本願発明の「不飽和化合物(B)」は,単官能であっても構わない。そうしてみると,本願発明は,請求人が主張するような顕著な効果を奏するものとまでは認められない。 (8) 備考 引用発明5Aに替えて,引用発明5Bを引用発明としても,結果は同じである。 すなわち,本願発明と引用発明5Bを対比すると,両者は,次の点で相違する。 (相違点2’) 「感光性樹脂組成物」が,本願発明は,「前記カルボキシル基含有樹脂(A)に対する前記不飽和化合物(B)の含有量が,21?40質量%であ」であるのに対して,引用発明5Bは,「43%」と計算される点。 しかしながら,引用文献5の【0069】の記載からは,引用発明の「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」を増量すると,プリベーク後のスティッキング性に問題か出てくる可能性があることが理解される。そうしてみると,プリベーク後のスティッキング性を特に懸念した当業者ならば,引用発明5Bの「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」の減量を試みる(1割減,2割減…と試みる)といえる。 そうしてみると,引用発明5Bの「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」の分量を「21?40質量%」の範囲内とすることもまた,当業者における通常の創意工夫の範囲内のものである。 発明の効果等,その余の点については,引用発明5Aの場合と同様である。 第3 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用文献2又は引用文献5に記載された発明に基づいて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-01-08 |
結審通知日 | 2021-01-12 |
審決日 | 2021-02-02 |
出願番号 | 特願2015-215705(P2015-215705) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03F)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川口 真隆 |
特許庁審判長 |
里村 利光 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 植前 充司 |
発明の名称 | 感光性樹脂組成物、ドライフィルム、プリント配線板、及び感光性樹脂組成物の製造方法 |
代理人 | 坂口 武 |
代理人 | 仲石 晴樹 |
代理人 | 坂口 武 |
代理人 | 仲石 晴樹 |
代理人 | 竹尾 由重 |
代理人 | 竹尾 由重 |
代理人 | 西川 惠清 |
代理人 | 西川 惠清 |
代理人 | 北出 英敏 |
代理人 | 水尻 勝久 |
代理人 | 北出 英敏 |
代理人 | 水尻 勝久 |