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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1372492
審判番号 不服2020-11530  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-19 
確定日 2021-03-26 
事件の表示 特願2017-550283「検査システム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月18日国際公開、WO2017/082142〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)11月2日(優先権主張 平成27年11月13日)を国際出願日とする出願であって、令和元年12月25日付けで拒絶理由が通知され、令和2年3月4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月14日付けで拒絶査定されたところ、同年8月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]

1 本件補正について

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。

「 【請求項1】
少なくとも一部に生体反応を行うための反応場を有する流路と、前記流路に連通するとともにピペットチップの先端部を収容可能な空間が設けられた液体吐出/吸引部と、を有するセンサーチップと、
前記センサーチップをセットして、SPFS法により前記生体反応を行うSPFS装置
と、
を備え、
前記SPFS装置は、
前記生体反応に用いられる反応用液を送液または吸引するためのポンプと、該ポンプに取り付けられた液体保持部としての前記ピペットチップと、を有し、前記ピペットチップを介してセンサーチップの流路に前記反応用液を流入および流出させる送液手段と、
前記流路内に流入した反応用液を温調する第1温調手段と、を少なくとも備えており、
前記送液手段により、前記流路内に流入した反応用液の少なくとも一部を前記流路の外へ流出させるとともに再び流入させて往復移動させる送液(往復送液)を行う検査システムであって、
前記ピペットチップは、
前記液体吐出/吸引部の空間に挿入される前記ピペットチップの先端部が少なくとも露出するように前記ピペットチップの一部だけがヒートブロックである第2温調手段で覆われており、
前記第2温調手段は、
前記往復送液中に、前記送液手段が液体を保持する部分(液体保持部)の温調を介して前記センサーチップの流路の外に流出した反応用液を温調し、
さらに前記第2温調手段は、
1回の往復送液における前記反応用液の温度の振れ幅の大きさが、第2温調を行わずに同1条件で往復送液をした場合よりも小さくなるように、前記反応用液の温度を調節する
検査システム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の令和2年3月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「 【請求項1】
少なくとも一部に生体反応を行うための反応場を有する流路が設けられたセンサーチップと、
前記センサーチップの流路に対して前記生体反応に用いられる反応用液を流入および流出させる送液手段と、
前記流路内に流入した反応用液を温調する第1温調手段と、を少なくとも備えており、
前記送液手段により、前記流路内に流入した反応用液の少なくとも一部を前記流路の外へ流出させるとともに再び流入させて往復移動させる送液(往復送液)を行う検査システムであって、
前記往復送液中に、前記送液手段が液体を保持する部分(液体保持部)の温調を介して前記センサーチップの流路の外に流出した反応用液を温調する第2温調手段を備え、
前記第2温調手段は、
1回の往復送液における前記反応用液の温度の振れ幅の大きさが、第2温調を行わずに同1条件で往復送液をした場合よりも小さくなるように、前記反応用液の温度を調節する
検査システム。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「センサーチップ」、「送液手段」及び「第2温調手段」について、それぞれ、上記のとおり限定を付加したものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項

ア 引用文献1について

(ア)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2015/064757号(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(なお、下線は当審において付与した。以下同様。)。

(引1a)
「[0006] 一般的に、1次反応および2次反応は、周囲の温度に依存して変化する。抗体を使用した場合、1次反応および2次反応は、室温より高い37℃前後で最も促進される。また、蛍光物質から放出される蛍光の強度も、蛍光物質の周囲の温度に依存して変化する。
[0007] しかしながら、特許文献1,2に記載の分析装置および分析方法では、反応場の温度が管理されていないため、1次反応、2次反応および蛍光検出の時の反応場の温度は、分析装置の設置環境に依存してしまう。よって、特許文献1,2の分析装置および分析方法では、周囲の温度に応じて、1次反応において被検出物質が捕捉体に捕捉される割合や、2次反応において被検出物質が蛍光標識される割合、蛍光検出時の蛍光強度が変化してしまうおそれがある。したがって、特許文献1,2に記載の分析装置および分析方法では、検体に含まれる被検出物質を高感度かつ定量的に検出することができないおそれがある。
[0008] 本発明の目的は、被検出物質を高感度かつ定量的に検出することができる、表面プラズモン共鳴を利用した検出装置を提供することである。また、本発明の別の目的は、この検出装置を用いた検出方法を提供することである。さらに、本発明の別の目的は、この検出装置に用いられる検出チップを提供することである。」

(引1b)
「[0015] (実施の形態1)
実施の形態1では、本発明に係る検出装置であるSPFS装置の一実施の形態について説明する。
[0016] まず、SPFS装置の概要について説明する。SPFS装置は、誘電体からなるプリズム上の金属膜に対して励起光を表面プラズモン共鳴が生じる角度で入射することで、金属膜表面上に局在場光(一般に「エバネッセント光」または「近接場光」とも呼ばれる)を発生させる。SPFS装置は、この局在場光により金属膜上に配置された被検出物質を標識する蛍光物質が選択的に励起され、蛍光物質から放出された蛍光の光量を検出することで、被検出物質の存在または量を検出する。
[0017] 図1は、実施の形態1に係るSPFS装置100の構成を示す模式図である。図1に示されるように、SPFS装置100は、励起光照射部110、光検出部120、加熱部130および制御部140を有する。SPFS装置100は、被検出物質の検出では、ホルダー150aに検出チップ150を装着した状態で使用される。そこで、検出チップ150について先に説明し、その後にSPFS装置100の各構成要素について説明する。
[0018] 図2は、検出チップ150の構成を示す図である。図2Aは、検出チップ150の斜視図であり、図2Bは、検出チップ150の長辺方向の断面図である。なお、図2Aでは、後述のヒートブロック131を破線で示している。図1および図2に示されるように、検出チップ150は、プリズム151、金属膜152、反応部153および基体154を有する。通常、検出チップ150は、検出ごとに交換される。検出チップ150の大きさは、特に限定されず、各辺の長さが数mm?数cm程度であることが好ましい。
・・・
[0023] 反応部153は、金属膜152の2つの面(表面および裏面)のうち、プリズム151が配置されていない面(表面)上に配置されている。反応部153は、被検出物質を捕捉するための1次抗体(捕捉体)を含み、被検出物質を捕捉する。1次抗体に捕捉された被検出物質は、蛍光物質で標識された2次抗体により蛍光標識される。このような状況において、反応部153は、金属膜152に励起光αが照射されることにより生じる局在場光により蛍光物質を励起して、蛍光γを放出させる。
[0024] 基体154は、金属膜152のプリズム151が配置されていない面(表面)上に配置されている。基体154は、上面166、側面167および下面168を有する。本実施の形態では、基体154は、反応部153を覆うように配置され、かつプリズム151の成膜面162より大きく形成された略板状の透明部材である。基体154の金属膜152に対向する面(下面168)には、流路溝171が形成されている。基体154は、例えば、接着剤による接着や、レーザー溶着、超音波溶着、クランプ部材を用いた圧着などにより金属膜152またはプリズム151に接合される。本実施の形態では、基体154は、金属膜152に接合されることにより、金属膜152と共に液体貯留部173を有する流路172を形成する。
[0025] 基体154は、流路溝171に加えて、流路溝171の一端に形成された第1貫通孔174と、流路溝171の他端に形成された第2貫通孔175とを有する。第1貫通孔174および第2貫通孔175は、それぞれ円柱形状である。流路溝171は、開口部が金属膜152により閉塞されることで流路172となる。また、第1貫通孔174および第2貫通孔175は、流路172の開口部が金属膜152により閉塞されることでそれぞれ流路172への注入口176および取出口177となる。注入口176には、送液部(図示省略)を接続することができる。
[0026] 検体の種類は、特に限定されない。検体の例には、血液や血清、血漿、尿、鼻孔液、唾液、便、体腔液(髄液、腹水、胸水)、これらの希釈液などが含まれる。また、検体に含まれる被検出物質の例には、核酸(一本鎖もしくは二本鎖のDNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)、ヌクレオシド、ヌクレオチドまたはそれらの修飾分子)、タンパク質(ポリペプチドまたはオリゴペプチド)、アミノ酸(修飾アミノ酸を含む)、糖質(オリゴ糖、多糖類または糖鎖)、脂質、またはこれらの修飾分子、複合体などが含まれる。被検出物質は、具体的には、AFP(αフェトプロテイン)などのがん胎児性抗原や、腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモンなどである。
・・・
[0028] 図1に示されるように、励起光αは、入射面161からプリズム151内に入射する。プリズム151内に入射した励起光αは、金属膜152に全反射角度(表面プラズモン共鳴が生じる角度)で入射する。このように金属膜152に対して励起光αを表面プラズモン共鳴が生じる角度で照射することで、金属膜152上に局在場光を発生させることができる。この局在場光により、金属膜152上に存在する被検出物質を標識する蛍光物質が励起され、蛍光γが出射される。SPFS装置100は、蛍光物質から放出された蛍光γの光量を検出することで、被検出物質の存在または量を検出する。
[0029] 次に、SPFS装置100の各構成要素について説明する。前述のとおり、SPFS装置100は、励起光照射部110、光検出部120、加熱部130および制御部140を有する。なお、特に図示しないが、SPFS装置100は、透明な筐体に覆われていてもよい。
[0030] 励起光照射部110は、励起光αを検出チップ150の金属膜152に向かって照射する。励起光αは、金属膜152で全反射されて反射光βとなる。励起光照射部110は、光源を有する。光源は、検出チップ150内の所定の点を中心に回動可能であり、金属膜152に対する励起光αの入射角を変えることができる。光源の種類は、特に限定されない。光源の例には、ガスレーザー、固体レーザーおよび半導体レーザーが含まれる。たとえば、励起光αは、波長200?1000nmのガスレーザー光または固体レーザー光、あるいは波長385?800nmの半導体レーザー光である。
[0031] 光検出部120は、金属膜152上から放出される蛍光γを検出する。光検出部120は、ホルダー150aに保持された検出チップ150の金属膜152のプリズム151と対向しない面に対向するように配置されている。光検出部120は、第1レンズ121、フィルター122、第2レンズ123および光センサー124を有する。
[0032] 第1レンズ121および第2レンズ123は、迷光の影響を受けにくい共役光学系を構成する。第1レンズ121と第2レンズ123との間を進行する光は、略平行光となる。第1レンズ121および第2レンズ123は、金属膜152上から出射される蛍光γを光センサー124の受光面上に結像させる。
[0033] フィルター122は、第1レンズ121および第2レンズ123の間に配置されている。フィルター122は、光センサー124による蛍光検出の精度および感度の向上に寄与する。フィルター122は、例えば、光学フィルターやカットフィルターなどである。光学フィルターの例には、減光(ND)フィルターやダイアフラムレンズなどが含まれる。カットフィルターは、外光(装置外の照明光)や励起光αの透過成分、迷光(励起光αの散乱成分)、プラズモン散乱光(励起光αを起源とし、検出チップ150表面の付着物などの影響で発生する散乱光)、各部材の自家蛍光などのノイズ成分を除去する。カットフィルターの例には、干渉フィルターや色フィルターなどが含まれる。
[0034] 光センサー124は、検出チップ150から放出され、フィルター122を透過した蛍光γを検出する。光センサー124は、例えば、超高感度の光電子増倍管や、多点計測が可能なCCDイメージセンサなどである。
[0035] 加熱部130は、基体154を介して液体貯留部173に貯留した反応場の液体を間接的に加熱する。加熱部130は、ヒートブロック131および熱源132を有する。ヒートブロック131は、基体154と接触状態または非接触状体で反応場の液体を後述する分析時の温度まで加熱する。本実施の形態では、ヒートブロック131は、直方体の形状であり、少なくとも加熱時において基体154に接触している。より具体的には、ヒートブロック131は、プリズム151を避けて基体154の下面168に接触しており、かつ流路172の幅方向の両端部に配置されている(図2A参照)。また、ヒートブロック131は、励起光照射部110から出射される励起光αの光路を避けて配置されている。なお、SPFS装置100は、温度センサーによって、反応場の液体の温度をモニターするようにしてもよい。
[0036] ヒートブロック131の材料は、基体154を加熱することができれば、特に限定されないが、熱伝導性のよい金属などであることが好ましい。ヒートブロック131の材料は、銅やアルミニウムなどである。ヒートブロック131の数や大きさは、特に限定されず、加熱する反応場の液体の量などによって、適宜設定すればよい。
[0037] これにより、ヒートブロック131は、SPFS装置100の機能を阻害することがない。また、基体154の他面も加熱する場合(図4A参照)と比較して、ユーザビリティー(火傷などの回避や検出チップ150の着脱など)を考慮した設計を簡単に行うことができる。また、ヒートブロック131が反応場に近接しないため、温度変化に伴う検出誤差が生じにくい。また、ヒートブロック131とプリズム151を接触させないため、プリズム151の内部応力、ひいては複屈折の発生を抑制して、良好な励起光偏光状態を維持することができる。
[0038] 熱源132は、制御部140と接続されており、ヒートブロック131を加熱する。ヒートブロック131と同様に、熱源132も、励起光照射部110から出射される励起光αの光路を避けて配置されている。すなわち、加熱部130は、励起光照射部110から出射される励起光αの光路を避けて配置されている。熱源132の種類は、特に限定されず、カートリッジヒーター、ラバーヒーター、セラミックヒーターなどの赤外線ヒーター、ペルチェ素子などが含まれる。熱源132の温度は、液体貯留部173内の反応場の液体を34?40℃の温度(分析時の温度)に加熱することができれば、特に限定されない。本実施の形態では、熱源132の温度は、40?50℃である。
[0039] 熱源132によって加熱されたヒートブロック131は、基体154を加熱する。そして、ヒートブロック131との接触位置(基体154の下面168)から伝導した熱は、基体154の全体に伝導される。このとき、基体154に伝わった熱は、流路172の液体貯留部173の液体に伝導される。これにより、加熱部130によって液体貯留部173内の反応場の液体が分析時の温度に加熱される。
[0040] 制御部140は、励起光照射部110、光検出部120および加熱部130を統括的に制御する。制御部140は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどを有する。
[0041] 次に、SPFS装置100の検出動作(本発明の実施の形態1に係る検出方法)について説明する。図3は、SPFS装置100の動作手順の一例を示すフローチャートである。
[0042] まず、SPFS装置100のホルダー150aに検出チップ150が設置される(S100)。このとき、検出チップ150は、下面168に加熱部130のヒートブロック131が接触するように設置される。
[0043] 次いで、制御部140は、熱源132を操作して、ヒートブロック131を加熱する(S110)。これにより、液体貯留部173内の反応場の液体を分析時の温度まで加熱する。本実施の形態では、分析時の反応場の液体の温度は、37℃であり、1次反応および2次反応の至適温度でもある。
[0044] 次いで、流路172に被検出物質を含む可能性がある検体を送液する(S120)。流路172内では、反応部153に固定されている捕捉体(1次抗体)に被検出物質を確実に捕捉させる(抗原抗体反応させる)ため、ポンプを駆動して検体を流路172内で往復させる。このとき、液体貯留部173内が分析時の温度と同じ温度に調整されているため、流路172(液体貯留部173)に送液された検体は、送液直後に分析時の温度まで加熱される。そして、検体に含まれる被検出物質は、確実に捕捉体(1次抗体)に捕捉される。この後、流路172内の検体は除去され、流路172内は洗浄液で洗浄される。
[0045] 次いで、蛍光物質で標識された2次抗体を含む試薬を流路172にポンプによって送液する(S130)。この場合も、流路172に送液された試薬は、送液直後に分析時の温度まで加熱される。そして、試薬に含まれる蛍光物質で標識された2次抗体は、確実に被検出物質に結合する。なお、検体および試薬を事前に混合して、被検出物質と2次抗体を予め結合させた状態で、液体を流路に送液してもよい。これにより、被検出物質が蛍光物質で標識される。この後、流路172内の試薬(標識液)は除去され、流路172内は洗浄液で洗浄される。
[0046] 次いで、励起光αが金属膜152に対して特定の入射角(図1参照)で入射するように、光源から検出チップ150に励起光αを照射する(S140)。そして、この局在場光により、反応部153上に捕捉された被検出物質を標識する蛍光物質が効率良く励起され、蛍光γが放出される。
[0047] 以上の手順により、検体の被検出物質の存在またはその量を検出することができる。」

(引1c)
「[0060] (実施の形態2)
実施の形態2に係るSPFS装置200は、試薬保管部250を有する点、試薬保管部250を加熱する第2加熱部230を有する点などにおいて、実施の形態1に係るSPFS装置100と異なる。そこで、主として実施の形態1に係るSPFS装置100と異なる部分について説明する。
[0061] 図7は、実施の形態2に係るSPFS装置200の構成を示す図である。図7に示されるように、実施の形態2に係るSPFS装置200は、励起光照射部110、光検出部120、第1加熱部130(実施の形態1における加熱部)、第2加熱部230、移動部280、送液部290および制御部240を有する。実施の形態1と同様に、SPFS装置200は、被検出物質の検出では、ホルダー150aに検出チップ350を装着した状態で使用される。そこで、検出チップ350について先に説明し、その後にSPFS装置200の各構成要素について説明する。
[0062] 図8は、実施の形態2に係る検出チップ350の長辺方向の断面図である。なお、図8では、第1基体354および第2基体254のハッチングを省略している。図8に示されるように、実施の形態2に係る検出チップ350は、実施の形態1における検出チップ150の構成要素に加え、試薬保管部250を有する。
[0063] 図8に示されるように、検出チップ350には、検出用ウェル273が配置されている。検出用ウェル273の底部には、反応部153が配置されている。試薬保管部250は、第2基体254および複数のウェル255を有する。第2基体254は、略板状の透明部材である。第2基体254は、第1基体354(実施の形態1の基体154)と一体として形成されている。
[0064] ウェル255は、上述した1次反応および2次反応に使用される検体や試薬を保管する。ウェル255は、第2基体254に形成されている。ウェル255の形状は、特に限定されない。ウェル255の形状は、保管する検体や試薬の量に応じて適宜設定されうる。
[0065] 図7に示されるように、第2加熱部230は、第2基体254を介して試薬保管部250に保管された液体を間接的に加熱する。第2加熱部230は、第2ヒートブロック231および第2熱源232を有する。第2ヒートブロック231は、第2基体254と接触状態または非接触状態で液体を所定の温度まで加熱する。本実施の形態では、第2ヒートブロック231は、少なくとも加熱時に第2基体254に接触している。より具体的には、第2ヒートブロック231は、ウェル255の下側に配置されている。また、第2熱源232は、第1熱源132(実施の形態1における熱源)と同じものを使用することができる。検出用ウェル273内の液体の温度と、ウェル255内の液体の温度との関係は、特に限定されない。たとえば、検出用ウェル273内の液体の温度およびウェル255内の液体の温度が、いずれも34?40℃であってもよい。また、検出用ウェル273内の液体の温度が、34?40℃であり、ウェル255内の液体の温度が20?30℃であってもよい。後者の場合、第2熱源232の温度は、20?35℃である。また、SPFS装置200が筐体に覆われている場合、筐体内の温度を安定化することができる。
[0066] 移動部280は、ステージ281と、ステージ281を移動させる移動機構282を有する。ステージ281は、例えば、平板状に形成されている。ステージ281の上には、第1加熱部130の第1ヒートブロック131(実施の形態1におけるヒートブロック)および第2加熱部230の第2ヒートブロック231が配置されている。そして、第1ヒートブロック131および第2ヒートブロック231が配置されたステージ281の上に、検出チップ350を配置する。
[0067] 移動部280は、検出チップ350を、測定位置(励起光照射部110によって励起光αが照射され、発生した蛍光γを光検出部120で検出する位置)と、送液位置(送液部290によって、検体または試薬を送液する位置)と、の間で移動させる。
[0068] 送液部290は、試薬保管部250に保管された検体または試薬を検出チップ350の検出用ウェル273に供給する。送液部290は、例えば、ピペット291およびポンプ292を有する。ポンプ292を駆動することで、検体または試薬の吸引および排出が定量的に行われる。
[0069] 制御部240は、励起光照射部110、光検出部120、第1加熱部130、第2加熱部230、移動部280および送液部290を統括的に制御する。
[0070] 次に、SPFS装置200の検出動作(本発明の実施の形態2に係る検出方法)について説明する。図9は、SPFS装置200の動作手順の一例を示すフローチャートである。
[0071] まず、SPFS装置200における検出チップ150の設置位置に位置するホルダー150aに検出チップ350が設置される(工程S200)。このとき、検出チップ350は、第1加熱部130の第1ヒートブロック131と、第2加熱部230の第2ヒートブロック231と接触するように設置される。
[0072] 次いで、制御部240は、第1熱源132および第2熱源232の電源を操作して、第1ヒートブロック131および第2ヒートブロック231を加熱する(工程S210)。これにより、試薬保管部250および液体貯留部173内の温度を反応場の液体と同じ温度まで加熱する。本実施の形態では、反応場の液体の温度は、37℃であり、1次反応および2次反応の至適温度でもある。
[0073] 次いで、制御部240は、移動機構282を操作して、検出チップ350を送液位置に移動させる(工程S220)。
[0074] 次いで、制御部240は、送液部290を操作して、試薬保管部250内の検体を検出チップ350の検出用ウェル273内に導入する(工程S230)。検出用ウェル273内では、反応部153に固定されている捕捉体(1次抗体)に被検出物質を確実に捕捉させる(抗原抗体反応)ため、ポンプ292を駆動して検体を検出用ウェル273内で攪拌させる。このとき、試薬保管部250および液体貯留部173内が分析温度と同じ温度に調整されているため、液体の温度が下がることなく、速やかに反応が進む。そして、検体に含まれる被検出物質は、確実に捕捉体(1次抗体)に捕捉される。この後、検出用ウェル273内の検体は除去され、検出用ウェル273内は洗浄液で洗浄される。
[0075] 次いで、制御部240は、送液部290を操作して、蛍光物質で標識された2次抗体を含む試薬(標識液)を検出チップ350の検出用ウェル273内に導入する(工程S240)。この場合も、検出用ウェル273に送液された試薬は、予め2次抗体と被検出物質とが反応する分析時の温度に加熱されているため、温度が下がることがない。そして、試薬に含まれる蛍光物質で標識された2次抗体は、確実に被検出物質に結合する。これにより、被検出物質が蛍光物質で標識される。この後、検出用ウェル273内の標識液は除去され、流路内は洗浄液で洗浄される。
[0076] 次いで、制御部240は、移動機構282を操作して、検出チップ350を送液位置から測定位置に移動させる(工程S250)。そして、励起光αが金属膜152に対して特定の入射角で入射するように、光源から検出チップ350に励起光αを照射する(工程S260)。
[0077] 以上の手順により、検体の被検出物質の存在またはその量を検出することができる。
[0078] 以上のように、実施の形態2に係るSPFS装置200は、試薬保管部250もさらに加熱しているため、実施の形態1に係るSPFS装置100と比較して、さらに被検出物質を高精度にかつ高感度に検出することができる。」

(引1d)図1


(引1e)図2


(引1f)図3


(引1g)図7


(引1h)図8


(イ) 引用文献1に記載の技術的事項
上記(ア)の記載及び図面から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 検出チップ350について
「実施の形態1における検出チップ150」は、[0023]?[0026]によれば、「血液」などの「検体に含まれる」「被検出物質を捕捉するための1次抗体(捕捉体)を含み、被検出物質を捕捉」し、「1次抗体に捕捉された被検出物質は、蛍光物質で標識された2次抗体により蛍光標識され、」「このような状況において、」「金属膜152に励起光αが照射されることにより生じる局在場光により蛍光物質を励起して、蛍光γを放出させる」「反応部153」「を覆うように配置され」た「液体貯留部173を有する流路172」と、「流路172への注入口176」と、を有するものである。
そして、「実施の形態2に係る検出チップ350」は、[0062]によれば、「実施の形態1における検出チップ150の構成要素に加え、試薬保管部250を有する」ものである。ここで、「試薬保管部250」には、[0068]によれば、「検体または試薬」が「保管され」る。
また、[0025]によれば、実施の形態1における検出チップ150の「注入口176には、送液部(図示省略)を接続することができ」、[0068]によれば、実施の形態2の「送液部290」は、「ピペット291およびポンプ292を有」することから、実施の形態2に係る検出チップ350は、流路172への注入口176の空間にピペット291の先端部が挿入され、「検体または試薬の吸引および排出が定量的に行われる」ものであることが分かる。
よって、実施の形態2に係る「検出チップ350」は、「検体または試薬」が「保管され」る「試薬保管部250」と、「血液」などの「検体に含まれる」「被検出物質を捕捉するための1次抗体(捕捉体)を含み、被検出物質を捕捉」し、「1次抗体に捕捉された被検出物質は、蛍光物質で標識された2次抗体により蛍光標識され、」「このような状況において、」「金属膜152に励起光αが照射されることにより生じる局在場光により蛍光物質を励起して、蛍光γを放出させる」「反応部153」「を覆うように配置され」た「液体貯留部173を有する流路172」と、「流路172への注入口176」と、を有し、注入口176の空間にピペット291の先端部が挿入され、「検体または試薬の吸引および排出が定量的に行われる」ものである。

b SPFS装置200について
「SPFS装置200」は、[0061]によれば、「励起光照射部110、光検出部120、第1加熱部130(実施の形態1における加熱部)、第2加熱部230、移動部280、送液部290および制御部240を有」し、「被検出物質の検出では、検出チップ350を装着した状態で使用される」ものである。

c SPFS装置200の各構成要素について

(a)送液部290について
上記aのとおり 「実施の形態2に係る検出チップ350は、実施の形態1における検出チップ150の構成要素に加え」るものであるから、「送液部290」は、[0068]、[0074]及び図7によれば、「ピペット291およびポンプ292を有」し、「ポンプ292を駆動することで」、「ポンプ292」に取り付けられた「ピペット291」を介して、「検出チップ350の」「液体貯留部173を有する流路172」(「液体貯留部173」を有する「検出用ウェル273」)」に、「試薬保管部250に保管された検体または試薬」の「吸引および排出が定量的に行われる」ものである。
また、「送液部290」は、[0044]によれば、「流路172内では、反応部153に固定されている捕捉体(1次抗体)に被検出物質を確実に捕捉させる(抗原抗体反応させる)ため、ポンプを駆動して検体を流路172内で往復させる」ものである。

(b)第1加熱部130について
「第1加熱部130(実施の形態1における加熱部)」は、[0035]によれば、「ヒートブロック131」「を有」し、「液体貯留部173に貯留した反応場の」「検体または試薬を」、「分析時の温度まで加熱する」ものである。

(c)第2加熱部230について
「第2加熱部230」は、[0065]によれば、「第2ヒートブロック231」「を有」し、「試薬保管部250に保管された」「検体または試薬を」、「所定の温度まで加熱する」ものである。

(ウ)引用文献1に記載された発明
上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、実施の形態2に関する、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 検体または試薬が保管される試薬保管部250と、血液などの検体に含まれる被検出物質を捕捉するための1次抗体(捕捉体)を含み、被検出物質を捕捉し、1次抗体に捕捉された被検出物質は、蛍光物質で標識された2次抗体により蛍光標識され、このような状況において、金属膜152に励起光αが照射されることにより生じる局在場光により蛍光物質を励起して、蛍光γを放出させる反応部153を覆うように配置された液体貯留部173を有する流路172と、流路172への注入口176と、を有し、注入口176の空間にピペット291の先端部が挿入され、検体または試薬の吸引および排出が定量的に行われる、検出チップ350と、
励起光照射部110、光検出部120、第1加熱部130、第2加熱部230、移動部280、送液部290および制御部240を有し、被検出物質の検出では、検出チップ350を装着した状態で使用されるSPFS装置200と、
を備え、
SPFS装置200は、
ピペット291およびポンプ292を有し、ポンプ292を駆動することで、ポンプ292に取り付けられたピペット291を介して、検出チップ350の液体貯留部173を有する流路172に、試薬保管部250に保管された検体または試薬の吸引および排出が定量的に行われる、送液部290であって、流路172内では、反応部153に固定されている捕捉体(1次抗体)に被検出物質を確実に捕捉させる(抗原抗体反応させる)ため、ポンプ292を駆動して検体を流路172内で往復させる、送液部290と、
ヒートブロック131を有し、液体貯留部173に貯留した反応場の検体または試薬を、分析時の温度まで加熱する第1加熱部130と、
第2ヒートブロック231を有し、試薬保管部250に保管された検体または試薬を、所定の温度まで加熱する第2加熱部230と、
を有する検出システム。」

イ 引用文献2について

(ア)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2004-61173号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(引2a)
「【0019】
摺動子13,14はそれぞれ支持部材24,25を介して第1ピペット28と第2ピペット29を搭載し、摺動子15は支持部材26を介してキャッチャ27を搭載する。なお、第1ピペット28は外周にピペットヒータ36を備え吸引した液体を42℃に加熱する。」

(引2b)
「【0040】
混合容器回転機構部
図4に示すように混合容器回転機構部44において、支持フレーム41上に設置された取付板84に円筒形の保持部材85が固定される。保持部材85には、中心に第2ホルダー86を上部から受入れる貫通孔がもうけられ、外周にフィルムヒータ87が巻き付けられている。」

(引2c)
「【0047】
試料調製装置による分析用試料の調製
まず、使用者は、図9に示す容器搭載部61の5つの第1ホルダー68の穴74の各々に、検体(例えば尿)を収容したチューブ(以下、検体チューブという)Tを装填すると共に、5つの空容器収容穴67の各々に空のチューブ(以下、空チューブという)Tを装填する。
【0048】
使用者はハンドル71を握って、容器搭載部61を図8に示す回転板62上に載置する。この際、図11に示す溝70に図8に示すガイドブロック63が挿入されるように、容器搭載部61を回転板62上で摺動させて押し込み、図6に示すように位置決めピン65を位置決め穴69へ圧縮スプリング64の付勢力により嵌入させる。それに伴って、容器搭載部61は突出部66に係止し、回転板62と同軸になるように位置決めされる。なお、容器搭載部61を回転板62から取りはずす場合には、この逆の動作を行えばよい。
【0049】
次に、次の工程(1)?(17)が自動的に行われる。
(1)ステッピングモータ45が時計方向に回転し、それに伴ってターンテーブル42が所定の初期位置から時計方向に回転する。そして、図2に示すように1つの検体チューブTとその両側の2つの空チューブTが直線L上に整列すると、ステッピングモータ45が停止する。この時、中央の検体チューブTを収容する第1ホルダー68は、図5に示すようにマグネットカップリング91と対向する。
【0050】
(2)次に、図1に示すステッピングモータ4と17が駆動し、図2の直線L上にある2本の空チューブTの内、右側の空チューブTをキャッチャ27が把持して混合容器回転機構部44の第2ホルダー86へ挿入する。この時、混合容器回転機構部44のフィルムヒータ87(図4)にはすでに通電が行われ、第2ホルダー86の温度が42℃に維持されている。
【0051】
(3)次に、ステッピングモータ4と17が駆動し、第2ホルダー86に空チューブTを残してキャッチャ27を第2ホルダー86から引き離す。
(4)次に、ステッピングモータ4と16が駆動して第1ピペット28を希釈液容器34に挿入し、340μLの希釈液を吸引してピペットヒータ36で42℃に加熱する。
(5)次に、ステッピングモータ4と16が駆動して第1ピペット28を図2の直線L上に存在する検体チューブTへ挿入する。この時、第1ピペット28は検体チューブTの軸から偏心した位置に保持される。
【0052】
(6)次に、ステッピングモータ45が反時計方向に所定時間だけ回転する。それによって、プーリ58が反時計方向に回転し、直線L上の検体チューブTも反時計方向に回転する。検体チューブTの回転中に、第1ピペット28は検体チューブT内の検体をくり返し吸引・吐出する。偏心した第1ピペット28に対する検体チューブTの回転動作と、第1ピペット28の吸引・吐出動作により検体が十分に撹拌される。
【0053】
(7)次に、第1ピペット28は、撹拌された検体を50μLだけ吸引し、先に吸引した340μLの希釈液と共に42℃に加熱する。
(8)次に、ステッピングモータ4,16が駆動し、第1ピペット28を検体チューブTから引き抜き、前記工程(2)で第2ホルダー86に挿入されている空チューブTへ挿入する。この時、第1ピペット28は挿入された空チューブTの軸から偏心した位置に保持される。
【0054】
(9)次に、第1ピペット28は、42℃に加熱された340μLの希釈液と50μLの検体とを空チューブTへ吐出する。それと同時にステッピングモータ45が所定時間だけ反時計方向に回転する。従って、希釈液と検体とを収容したチューブ(以下、混合チューブという)Tも軸中心に回転する。
混合チューブTの回転中に、第1ピペット28は吸引・吐出動作をくり返す。偏心した第1ピペット28に対する混合チューブTの回転動作と、第1ピペット28の吸引・吐出動作により、均一に8倍に希釈された希釈検体が調製される。
【0055】
(10)次に、ステッピングモータ4,16が駆動し、第1ピペット28を混合チューブTから引き抜く。
(11)次に、ステッピングモータ4,17が駆動し、第2ピペット29を混合チューブTへ挿入する。この時、第2ピペット29は混合チューブTの軸から偏心した位置に保持される。
【0056】
(12)次に、第2ピペット29は、後述する染色液容器から10μLの染色液を吸引して混合チューブTへ吐出する。これと同時にステッピングモータ45が所定時間だけ反時計方向に回転する。従って、混合チューブTも軸中心に回転する。混合チューブTの回転中に第2ピペット29は吸引・吐出動作をくり返す。偏心した第2ピペット29に対する混合チューブTの回転動作と、第2ピペット29の吸引・吐出動作により、希釈検体に染色液が均一に混合され、分析用試料が調製される。
なお、調製された分析試料は混合容器回転機構部44のフィルムヒータ87により42℃に保温されている。
【0057】
(13)次に、ステッピングモータ4と17が駆動して第2ピペット29を混合チューブTから引き抜く。
(14)次に、ステッピングモータ4と17が駆動して、キャッチャ27により混合チューブTを第2ホルダー86から引き抜き、第3ピペット48まで搬送し、第3ピペット48を混合チューブTへ挿入させる。そして、第3ピペット48は混合チューブ1から分析用試料を吸引する。
(15)次に、ステッピングモータ4と17が駆動して、キャッチャ27が空になった混合チューブTを容器廃棄部46の廃棄穴35へ挿入して廃棄する。
【0058】
(16)次に、ステッピングモータ4と17が駆動して、キャッチャ27が洗浄装置52の上部を把持して持ち上げ、第3ピペット48を洗浄装置52へ挿入させる。それによって、第3ピペットが洗浄される。
(17)次に、ステッピングモータ4,16,17が駆動して洗浄装置52を図1に示す位置に戻すと共に、第1ピペット28、第2ピペット29、キャッチャ27および水平移動プレート8を図1に示す位置に戻す。
次に、ステッピングモータ45が時計方向に回転すると、新しい検体チューブTと空チューブTが図2の直線L上に配置され、次の分析用試料の調製に備える。」

(引2d)図1


(引2e)図4

(イ) 引用文献2に記載の技術的事項
「第1ピペット28」は、【0019】及び図1によれば、第1ピペット28の先端部を除く「外周にピペットヒータ36を備え吸引した液体を42℃に加熱する」ものである。
この点を含めて上記(ア)の記載及び図面から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

「 分析用試料の試料調製装置であって、
第1ピペット28は、第1ピペット28の先端部を除く外周にピペットヒータ36を備え吸引した液体を42℃に加熱するものであり、
第1ピペット28は、撹拌された検体を50μLだけ吸引し、先に吸引した340μLの希釈液と共に42℃に加熱し、フィルムヒータ87により第2ホルダー86の温度が42℃に維持されている混合容器回転機構部44の第2ホルダー86へ挿入された空チューブTに、第1ピペット28は、42℃に加熱された340μLの希釈液と50μLの検体とを吐出し、その後、第1ピペット28は吸引・吐出動作をくり返すことにより、均一に8倍に希釈された希釈検体が調製される、試料調製装置。」

ウ 引用文献3について

(ア)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2011-99681号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(引3a)
「【0047】
図2に示すように、試薬分注機構300より吸引され、第1の反応部100の反応容器106に一旦吐出された血液凝固分析用の試薬は、一定時間放置され、第1の反応部100により37℃に昇温される。その後、試薬分注機構300により再度吸引されて第2の反応部200の反応容器206に吐出されるが、この再吸引から吐出までは、ヒータ304を稼動させて試薬を37℃に保温しながら行われる。なお、第1の反応部100の反応容器106には、希釈等を行う前処理液用の容器を含んでいてもよい。また、ヒータ304は、試薬が試薬容器208から吸引されて第1の反応部100の反応容器106に吐出されるまでの間も稼動させてもよい。
【0048】
このように、本発明の自動分析装置1では、血液凝固分析時に、恒温槽として機能する第1の反応部100にて血液凝固分析用の試薬を昇温させるので、試薬の量に影響されずに再現性良く昇温可能となる。
【0049】
また、試薬分注機構300のヒータ304で保温しながら吸引吐出するため、より安定した温度にて試薬の吐出が可能となり、温度管理が容易になる。
【0050】
さらに、1分注サイクル毎に試薬を吸引し、試薬分注機構内のヒータでのみ昇温させる方法と比較すると、ヒータへ与える熱量が少なくて済み、処理能力の向上を図ることができる。
【0051】
さらに、生化学分析時には試薬分注機構300のヒータ304を稼動させない一方、血液凝固分析時に稼動させることで、生化学分析時に要請される微量分注の精度が容易になる。したがって、試薬分注機構300の共用が可能となり、部品点数の削減、省スペース化が図れる。
【0052】
さらに、血液凝固分析単独の分析装置では、試薬の昇温のために恒温槽を設けた装置がなかったため、反応部が恒温槽としても機能する生化学分析のユニットと組み合わせたことにより、相乗的な効果が得られる。
【0053】
つづいて、試薬分注機構300の試薬分注プローブ302による試薬吸引方法を説明する。図3(a)?(c)は、試薬分注プローブの試薬吸引方法を説明する説明図である。
【0054】
まず、図3(a)に示すように、血液凝固分析用の試薬218を保温するヒータ304は、試薬分注プローブ302内に内蔵されており、その先端より上方から高さ方向所定域に亘って配置され、プローブ先端には配置されないようになっている。
【0055】
これにより、プローブ先端が温まらない構造となるので、温まった試薬分注プローブ302を試薬容器208に挿入しても、試薬218が劣化する懸念が解消できる。」

(引3b)図2


(イ) 引用文献3に記載の技術的事項
上記(ア)の記載及び図面から、引用文献3には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

「 血液凝固分析用の試薬218を保温するヒータ304は、試薬分注プローブ302内に内蔵されており、その先端より上方から高さ方向所定域に亘って配置され、プローブ先端には配置されないようになっており、試薬分注機構300のヒータ304で保温しながら吸引吐出するため、より安定した温度にて試薬の吐出が可能となり、温度管理が容易になる、自動分析装置1。」

エ 周知技術について
引用文献2及び3に記載の技術的事項(上記イ(イ)及びウ(イ)を参照。)によれば、ピペットチップを用いた検査システムにおいて、ピペットチップは、その先端部以外が加熱部で覆われており、加熱部によりピペットチップを加熱することで、ピペットチップ内に吸引された液体を所定温度に保持することは、周知技術であると認められる。

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「血液などの検体に含まれる被検出物質を捕捉する」「(抗原抗体反応させる)」「ための1次抗体(捕捉体)を含」む「反応部153を覆うように配置された液体貯留部173を有する流路172」は、本件補正発明の「少なくとも一部に生体反応を行うための反応場を有する流路」に相当する。

イ 引用発明の「流路172への注入口176」は、「注入口176の空間にピペット291の先端部が挿入され、検体または試薬の吸引および排出が定量的に行われる」ことから、本件補正発明の「前記流路に連通するとともにピペットチップの先端部を収容可能な空間が設けられた液体吐出/吸引部」に相当する。

ウ 上記ア及びイを踏まえると、引用発明の「血液などの検体に含まれる被検出物質を捕捉する」「(抗原抗体反応させる)」「ための1次抗体(捕捉体)を含」む「反応部153を覆うように配置された液体貯留部173を有する流路172」と、「流路172への注入口176」と、を有する「検出チップ350」は、本件補正発明の「少なくとも一部に生体反応を行うための反応場を有する流路と、前記流路に連通するとともにピペットチップの先端部を収容可能な空間が設けられた液体吐出/吸引部と、を有するセンサーチップ」に相当する。

エ 引用発明の「被検出物質の検出では、検出チップ350を装着した状態で使用されるSPFS装置200」は、本件補正発明の「前記センサーチップをセットして、SPFS法により前記生体反応を行うSPFS装置」に相当する。

オ 引用発明の「ポンプ292」は、「ポンプ292を駆動することで、」「検体または試薬の吸引および排出が定量的に行われる」から、本件補正発明の「前記生体反応に用いられる反応用液を送液または吸引するためのポンプ」に相当する。

カ 引用発明の「ピペット291」は、「ポンプ292を駆動することで、ポンプ292に取り付けられたピペット291を介して、」「検体または試薬の吸引および排出が定量的に行われる」から、液体である「検体または試薬」を保持するものといえる。そうすると、引用発明の「ピペット291」は、本件補正発明の「該ポンプに取り付けられた液体保持部としての前記ピペットチップ」に相当する。

キ 引用発明の「ピペット291を介して、検出チップ350の液体貯留部173を有する流路172に、試薬保管部250に保管された検体または試薬の吸引および排出が定量的に行われる」ことは、本件補正発明の「前記ピペットチップを介してセンサーチップの流路に前記反応用液を流入および流出させる」ことに相当する。

ク 上記オ?キを踏まえると、引用発明の「ピペット291およびポンプ292を有し」、「ピペット291を介して、検出チップ350の液体貯留部173を有する流路172に、試薬保管部250に保管された検体または試薬の吸引および排出が定量的に行われる」「送液部290」は、本件補正発明の「前記生体反応に用いられる反応用液を送液または吸引するためのポンプと、該ポンプに取り付けられた液体保持部としての前記ピペットチップと、を有し、前記ピペットチップを介してセンサーチップの流路に前記反応用液を流入および流出させる送液手段」に相当する。

ケ 引用発明の「液体貯留部173に貯留した反応場の検体または試薬を、分析時の温度まで加熱する」「第1加熱部130」は、本件補正発明の「前記流路内に流入した反応用液を温調する第1温調手段」に相当する。

コ 引用発明の「送液部290」により、「流路172内では、反応部153に固定されている捕捉体(1次抗体)に被検出物質を確実に捕捉させる(抗原抗体反応させる)ため、ポンプ292を駆動して検体を流路172内で往復させる」ことは、本件補正発明の「前記送液手段により、前記流路内に流入した反応用液の少なくとも一部を前記流路の外へ流出させるとともに再び流入させて往復移動させる送液(往復送液)を行う」ことに相当する。

サ 引用発明の「検出システム」は、本件補正発明の「検査システム」に相当する。

(4)一致点・相違点
上記(3)から、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「 少なくとも一部に生体反応を行うための反応場を有する流路と、前記流路に連通するとともにピペットチップの先端部を収容可能な空間が設けられた液体吐出/吸引部と、を有するセンサーチップと、
前記センサーチップをセットして、SPFS法により前記生体反応を行うSPFS装置と、
を備え、
前記SPFS装置は、
前記生体反応に用いられる反応用液を送液または吸引するためのポンプと、該ポンプに取り付けられた液体保持部としての前記ピペットチップと、を有し、前記ピペットチップを介してセンサーチップの流路に前記反応用液を流入および流出させる送液手段と、
前記流路内に流入した反応用液を温調する第1温調手段と、を少なくとも備えており、
前記送液手段により、前記流路内に流入した反応用液の少なくとも一部を前記流路の外へ流出させるとともに再び流入させて往復移動させる送液(往復送液)を行う検査システム。」

(相違点)
本件補正発明では、
「前記ピペットチップは、
前記液体吐出/吸引部の空間に挿入される前記ピペットチップの先端部が少なくとも露出するように前記ピペットチップの一部だけがヒートブロックである第2温調手段で覆われており、
前記第2温調手段は、
前記往復送液中に、前記送液手段が液体を保持する部分(液体保持部)の温調を介して前記センサーチップの流路の外に流出した反応用液を温調し、
さらに前記第2温調手段は、
1回の往復送液における前記反応用液の温度の振れ幅の大きさが、第2温調を行わずに同1条件で往復送液をした場合よりも小さくなるように、前記反応用液の温度を調節する」のに対し、
引用発明では、このような特定がない点。

(5)判断
上記相違点について検討する。

上記(2)エのとおり、ピペットチップを用いた検査システムにおいて、ピペットチップは、その先端部以外が加熱部で覆われており、加熱部によりピペットチップを加熱することで、ピペットチップ内に吸引された液体を所定温度に保持することは、周知技術である。
一方、引用発明(実施の形態2)は、「被検出物質を高精度にかつ高感度に検出する」([0008])という課題を解決するために、「液体貯留部173を有する流路172」を「加熱する」ことに加えて、「検体または試薬が保管される試薬保管部250」を「加熱する」ことで、「液体貯留部173を有する流路172」のみを「加熱する」場合(実施の形態1)と比べて、さらに被検出物質を高精度にかつ高感度に検出することができる([0078])という効果を奏するものであるから、引用発明において、さらに「被検出物質を高精度にかつ高感度に検出する」ことは、内在する課題であって、そのために、反応場所のみをヒートブロックで加熱した実施の形態1、液体の保管場所と反応場所とをヒートブロックで加熱した実施の形態2とした引用文献1の記載を考慮すると、液体の保管場所と反応場所の間の液体保持部である「ピペット291」をもヒートブロックで加熱することは、当業者であれば容易に着想し得ることである。
してみると、引用発明において、「ピペット291」を加熱するために上記周知技術を適用し、ピペット291(ピペットチップ)が、注入口176(液体吐出/吸引部)の空間に挿入される、ピペット291の先端部が少なくとも露出するように、ピペット291の一部だけがヒートブロックで覆われる構成とし、1回の往復送液における検体(反応用液)の温度の振れ幅の大きさが、ピペット291の加熱を行わずに同1条件で往復送液をした場合よりも小さくなるようにピペット291の加熱により検体の温度を温調することは、引用発明に上記周知技術を具体的に適用することに伴う設計事項といえることから、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1?3の記載から予測される範囲内のものにすぎず、顕著なものということはできない。

(6)請求人の主張について
請求人は審判請求書において、「引用文献1?4には具体的にどのようにして加温するのか、本願発明のSPFS装置を用いた検査システムのように、ピペットチップが、液体吐出/吸引部の空間に挿入されるピペットチップの先端部が少なくとも露出するようにピペットチップの一部だけがヒートブロックである第2温調手段で覆われる構成について、何ら開示ないし示唆さえされておりません。
また、このようなヒートブロックで温調を行った際に、1回の往復送液における反応用液の温度の振れ幅の大きさが、第2温調を行わずに同1条件で往復送液をした場合よりも小さくなるように第2温調手段により反応用液の温度を温調するようにし、目的の生体反応を生体反応に適した温度条件で行うことができるようにすることは、審査官殿の挙げられた引用文献1?4には開示ないし示唆がなされておりません。」と主張するが、当該主張については上記(5)で検討したとおりであるから、採用できない。

(7)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和2年3月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(2)に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献2、3)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2015/064757号
引用文献2:特開2004-61173号公報
引用文献3:特開2011-99681号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献及びその記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2(3)?(5)で検討した本件補正発明から、「センサーチップ」、「送液手段」及び「第2温調手段」について付加した限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、「センサーチップ」、「送液手段」及び「第2温調手段」について付加した限定を追加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(3)?(5)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-01-08 
結審通知日 2021-01-12 
審決日 2021-02-03 
出願番号 特願2017-550283(P2017-550283)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷 潮  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 信田 昌男
▲高▼見 重雄
発明の名称 検査システム  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

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