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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1372658
異議申立番号 異議2020-700047  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-30 
確定日 2021-01-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6554344号発明「粘着シートおよび表示体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6554344号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6554344号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6554344号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年6月30日に特願2015-131941号として特許出願され、令和1年7月12日に特許権の設定登録がされ、同年7月31日に特許掲載公報が発行され、その請求項1?8に係る発明の特許に対し、令和2年1月30日に高橋麻衣子(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。

令和2年 3月25日付け 取消理由通知
令和2年 5月25日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
令和2年 7月28日付け 訂正請求があった旨の通知
令和2年 8月27日 意見書(特許異議申立人)
令和2年 9月15日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和2年11月24日 意見書(特許権者)

第2 訂正の適否
1 本件訂正請求の内容
令和2年5月25日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は、「特許第6554344号の特許請求の範囲を、本訂正請求に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求める。」というものであり、その内容は以下の訂正事項1からなるものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材とを貼合するための粘着シートであって、
前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材は、少なくとも貼合される側の面に、酸化されていない金属を主成分とする金属電極を有し、
前記粘着シートは、粘着性組成物を熱架橋してなる硬化前粘着剤層を有し、
前記粘着性組成物が、
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)と、
活性エネルギー線硬化性成分(C)と
を含有し、
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを10質量%以上、35質量%以下含有する
ことを特徴とする粘着シート。」
とあるのを、
「少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材とを貼合するための粘着シートであって、
前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材は、少なくとも貼合される側の面に、酸化されていない金属を主成分とする金属電極を有し、
前記粘着シートは、粘着性組成物を熱架橋してなる硬化前粘着剤層を有し、
前記粘着性組成物が、
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)と、
活性エネルギー線硬化性成分(C)と
を含有し、
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを10質量%以上、35質量%以下含有し、
前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)により前記金属電極のマイグレーションを防止・抑制する
ことを特徴とする粘着シート。」に訂正する。
当該請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?8についても同様に訂正する。

2 検討
(1)一群の請求項について
訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1について、請求項2?8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?8に対応する本件訂正後の請求項1?8は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
従って、訂正事項1による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとになされたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0010】(以後【0010】という。その他の段落についても同様。)の「特にメルカプト基を有するシランカップリング剤(B)の作用により…電極におけるマイグレーションを効果的に防止・抑制することができる」との記載に基づき、訂正前の「35質量%以下含有する」との記載部分を「35質量%以下含有し、前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)により前記金属電極のマイグレーションを防止・抑制する」との記載に改めるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
そして、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)」が「電極におけるマイグレーションを効果的に防止・抑制」する作用を有するものであることを明瞭にしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
また、訂正事項1は、メルカプト基を有するシランカップリング剤が「金属電極のマイグレーションを防止・抑制」する作用を奏するものであることを明瞭にしただけのものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。

(3)特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであることについて
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1?8に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。

3 まとめ
以上総括するに、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明
本件訂正は上記のとおり認められたところ、特許第6554344号の請求項1?8に係る発明(以下「本件訂正発明1」?「本件訂正発明8」ともいい、まとめて「本件訂正発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材とを貼合するための粘着シートであって、
前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材は、少なくとも貼合される側の面に、酸化されていない金属を主成分とする金属電極を有し、
前記粘着シートは、粘着性組成物を熱架橋してなる硬化前粘着剤層を有し、
前記粘着性組成物が、
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)と、
活性エネルギー線硬化性成分(C)と
を含有し、
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを10質量%以上、35質量%以下含有し、
前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)により前記金属電極のマイグレーションを防止・抑制する
ことを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)は、メルカプト基含有オリゴマー型シランカップリング剤であることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)を構成する有機ケイ素化合物のメルカプト基当量は、100g/モル以上、1000g/モル以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記粘着性組成物中における前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)の含有量は、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上、5質量部以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着性組成物中における前記活性エネルギー線硬化性成分(C)の含有量は、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.5質量部以上、50質量部以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記粘着性組成物は、さらに架橋剤(D)を含有することを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記粘着シートは、2枚の剥離シートを備えており、
前記硬化前粘着剤層は、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持されている
ことを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項8】
少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、
第2の表示体構成部材と、
前記第1の表示体構成部材および前記第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に、酸化されていない金属を主成分とする金属電極を有し、
前記粘着剤層が、請求項1?7のいずれか一項に記載の粘着シートの硬化前粘着剤層を、活性エネルギー線の照射により硬化させたものであることを特徴とする表示体。」

第4 令和2年9月15日付の取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要

1 本件特許の請求項1?8に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由とその概要は、次のとおりである。

理由3(進歩性)本件特許の請求項1?8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 理由3(進歩性)で引用する刊行物
刊行物1:特開2015-10198号公報(異議申立人が提出した甲第1号証)
刊行物3:特開2008-166314号公報(異議申立人が提出した参考資料1)

第5 令和2年9月15日付の取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由についての当審の判断

1 理由3(進歩性)について
(1)本件訂正発明
本件訂正発明は、第3に記載のとおりである。
(2)証拠一覧
理由3において採用する証拠は、第4の2に記載のとおりである。
(3)証拠の記載事項
刊行物1、3には、それぞれ、次の記載がある。

ア 刊行物1 の記載事項
摘記1a:請求項1?2、6?9、12
「【請求項1】
重量平均分子量が20万?90万であり、重合体を構成するモノマー単位として、水酸基を有するモノマーを15?30質量%含有し、カルボキシル基を有するモノマーを含有しない(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、
活性エネルギー線硬化性成分(B)と、
架橋剤(C)と
を含有する粘着性組成物を熱架橋してなる厚さ50?400μmの粘着剤層を有する粘着シート。
【請求項2】
前記粘着性組成物中における前記活性エネルギー線硬化性成分(B)の含有量は、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対して1?50質量部であることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
…(中略)…
【請求項6】
前記粘着シートは、2枚の剥離シートを備えており、
前記粘着剤層は、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持されている
ことを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項7】
2枚の硬質板と、
前記2枚の硬質板に挟持される粘着剤層と
を備えた積層体であって、
前記粘着剤層は、請求項1?6のいずれか一項に記載の粘着シートの粘着剤層を、活性エネルギー線の照射により硬化させたものである
ことを特徴とする積層体。
【請求項8】
前記硬質板の少なくとも1つは、前記粘着剤層側の面に段差を有することを特徴とする請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記段差は、印刷層の有無による段差であることを特徴とする請求項8に記載の積層体。
…(中略)…
【請求項12】
前記2枚の硬質板の一方が、表示体モジュールまたはその一部であり、
前記2枚の硬質板の他方が、前記粘着剤層側の面に額縁状の段差を有する保護板であることを特徴とする請求項7?9のいずれか一項に記載の積層体。」

摘記1b:【0001】、【0009】?【0010】、【0025】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化性の粘着剤層を有する粘着シート、および当該粘着シートの粘着剤層を使用して得られる積層体に関するものである。
…(中略)…
【0009】
一方、上記のような粘着剤層は、透明導電膜や金属配線などに貼付される場合もある。この場合、粘着剤がカルボン酸を含有すると、具体的には粘着主剤がカルボキシル基を含有すると、透明導電膜や金属配線を腐食させたり、透明導電膜の抵抗値を変化させるといった問題が生じる。したがって、かかる用途で用いられる粘着剤においては、カルボン酸フリーであることが要求される。しかしながら、通常、カルボン酸フリーの粘着剤では、所望の粘着力を確保することが難しく、十分な耐久性を得ることはより困難である。
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、カルボキシル基を実質的に含有しない粘着主剤を使用し、段差追従性に優れるとともに、耐湿熱白化性および耐久性にも優れる粘着剤層を有する粘着シートおよび積層体を提供することを目的とする。
…(中略)…
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る粘着シートの粘着剤層は、段差追従性に優れ、活性エネルギー線照射後には耐湿熱白化性および耐久性にも優れる。かかる粘着シートを使用して得られた積層体においては、粘着剤層側に段差があっても、粘着剤層がその段差に追従するため、段差近傍に浮きや気泡等のないものとなる。また、上記積層体における活性エネルギー線照射後の粘着剤層は、耐湿熱白化性および耐久性にも優れる。さらに、上記粘着剤層を透明導電膜や金属配線などに貼付する場合にも、透明導電膜や金属配線を腐食させたり、透明導電膜の抵抗値を変化させることを抑制することができる。」

摘記1c:【0057】?【0058】、【0064】?【0067】、【0099】
「【0057】
(3)架橋剤(C)
粘着性組成物Pは、架橋剤(C)を含有することで、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を架橋して三次元網目構造を形成し、得られる粘着剤の凝集力を向上させる。また、活性エネルギー線照射後には、当該粘着剤に耐久性を付与することもできる。
【0058】
架橋剤(C)としては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が有する反応性基(モノマー単位である水酸基含有モノマーの水酸基)と反応するものであればよく、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。上記の中でも、水酸基との反応性に優れたイソシアネート系架橋剤を使用することが好ましい。なお、架橋剤(C)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
…(中略)…
【0064】
(5)各種添加剤
粘着性組成物Pには、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えばシランカップリング剤、帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、屈折率調整剤などを添加することができる。
【0065】
特に耐久性を改善する観点から、粘着性組成物Pには、添加剤としてシランカップリング剤が添加されることが好ましい。シランカップリング剤としては、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物であって、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)との相溶性がよいものが好ましい。
また、粘着シート1が光学用途の場合には、光透過性を有するシランカップリング剤が好適である。
【0066】
かかるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有ケイ素化合物、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、あるいはこれらの少なくとも1つと、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有ケイ素化合物との縮合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
シランカップリング剤の添加量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対して0.01?1.0質量部であることが好ましく、特に0.05?0.5質量部であることが好ましい。
…(中略)…
【0099】
なお、上記ガラス板やプラスチック板の片面または両面には、各種の機能層(透明導電膜、金属層、シリカ層、ハードコート層、防眩層等)が設けられていてもよいし、金属配線が形成されていてもよいし、光学部材が積層されていてもよい。本実施形態における粘着剤層11は、カルボン酸フリーであるため、被着体に酸によって腐食等の不具合が生じるものがあったとしても、当該不具合を抑制することができる。」

摘記1d:【0117】?【0119】、【0121】?【0122】
「【実施例】
【0117】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0118】
〔実施例1〕
1.(メタ)アクリル酸エステル共重合体の調製
アクリル酸2-エチルヘキシル60質量部、メタクリル酸メチル20質量部およびアクリル酸2-ヒドロキシエチル20質量部を共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を調製した。この(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の分子量を後述する方法で測定したところ、重量平均分子量70万であった。
【0119】
2.粘着性組成物の調製
上記工程(1)で得られた(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部(固形分換算値;以下同じ)と、活性エネルギー線硬化性成分(B)としてのポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学社製,製品名「NKエステルA-400」)5質量部と、イソシナネート系の架橋剤(C)としてのトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製,製品名「コロネートL」)0.23質量部と、シランカップリング剤としての3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製,製品名「KBM-403」)0.2質量部と、光重合開始剤(D)としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製,製品名「イルガキュア184」)0.5質量部とを混合し、十分に撹拌して、メチルエチルケトンで希釈することにより、固形分濃度33質量%の粘着性組成物の塗布溶液を得た。
…(中略)…
【0121】
3.粘着シートの製造
得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET752150」)の剥離処理面に、乾燥後の厚さが100μmになるようにナイフコーターで塗布したのち、100℃で4分間加熱処理して塗布層を形成した。同様に、得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET382120」)の剥離
処理面に、乾燥後の厚さが100μmになるようにナイフコーターで塗布したのち、100℃で4分間加熱処理して塗布層を形成した。
【0122】
次いで、上記で得られた塗布層付きの重剥離型剥離シートと、上記で得られた 塗布層付きの軽剥離型剥離シートとを、両塗布層が互いに接触するように貼合し、23℃、50%RHの条件下で7日間養生することにより、重剥離型剥離シート/粘着剤層(厚さ:200μm)/軽剥離型剥離シートの構成からなる粘着シートを作製した。なお、粘着剤層の厚さは、JIS K7130に準拠し、定圧厚さ測定器(テクロック社製,製品名「PG-02」)を使用して測定した値である。」

イ 刊行物3の記載事項
摘記3a:【0014】、【0016】
「【0014】
以下、本発明の封止用エポキシ樹脂組成物について説明する。 本発明の封止用エポキシ樹脂組成物は含硫黄元素化合物を含むものである。含硫黄元素化合物としては、特に限定するものではないが、メルカプト基を有する化合物、又は温度60℃、相対湿度60%以上の高温高湿下でメルカプト基を有する化合物を生成する化合物が好ましく、含硫黄元素シランカップリング剤、下記一般式(1)で表される化合物がより好ましい。これら硫黄元素を含有する化合物を樹脂組成物中に添加することで、銀がマイグレーションする際に、銀イオンをAg_(2)Sの不導体に変換しマイグレーションを抑えることが可能となるものである。…
【0016】
本発明の封止用エポキシ樹脂組成物で用いられる含硫黄元素シランカップリング剤は、特に構造に制限はないが、例えば、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルファン等があげられる。含硫黄元素シランカップリング剤の配合割合に関しては特に制限はないが、好ましくは樹脂組成物中に0.05重量%以上0.5重量%以下、更に好ましくは0.1重量%以上0.3重量%以下の範囲である。上記下限値を下回わらない範囲であれば、十分なマイグレーション抑止効果が発揮される。また、上記上限値を超えない範囲であれば、揮発分増大による成形品ボイドの発生を抑えることができる。」

4 刊行物1に記載された発明
刊行物1の請求項1(摘記1a)には、「重量平均分子量が20万?90万であり、重合体を構成するモノマー単位として、水酸基を有するモノマーを15?30質量%含有し、カルボキシル基を有するモノマーを含有しない(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、活性エネルギー線硬化性成分(B)と、架橋剤(C)とを含有する粘着性組成物を熱架橋してなる厚さ50?400μmの粘着剤層を有する粘着シート。」の発明が記載されている。また、刊行物の【0065】(摘記1c)には、特に耐久性を改善する観点から、粘着剤組成物に添加剤としてシランカップリング剤が添加されることが好ましいことが記載されており、【0118】(摘記1d)の実施例1においては、具体的に3-グリシドキシトリメトキシシランのようなシランカップリング剤を添加した例が記載されている。
そして、当該粘着シートについて、請求項12(摘記1a)には、「表示体モジュールまたはその一部である硬質板」と「粘着剤層側の面に額縁状の段差を有する保護板である硬質板」との貼合に用いることが記載されている。
また、【0009】(摘記1b)に粘着剤層を金属配線に貼付することが記載されているところ、当該金属配線とは、【0099】(摘記1c)の記載からみて、硬質板の表面に設けられているものと認められる。
さらに、【0058】(摘記1c)には、架橋剤はイソシアネート系架橋剤が好ましいことが記載されている。
そうすると、刊行物1には、「重量平均分子量が20万?90万であり、重合体を構成するモノマー単位として、水酸基を有するモノマーを15?30質量%含有し、カルボキシル基を有するモノマーを含有しない(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、活性エネルギー線硬化性成分(B)と、イソシアネート系架橋剤(C)とシランカップリング剤を含有する粘着性組成物を熱架橋してなる厚さ50?400μmの粘着剤層を有する粘着シートであって、当該粘着シートは表示体モジュールまたはその一部である硬質板と、粘着剤層側の面に額縁状の段差を有する保護板である硬質板との貼合に用いられ、硬質板の粘着剤層側には金属配線が設けられている、粘着シート。」(以下、この発明を「引用発明1」という)が記載されているといえる。

5 本件訂正発明1について
(1)対比
引用発明1の「重量平均分子量が20万?90万であり、重合体を構成するモノマー単位として、水酸基を有するモノマーを15?30質量%含有し、カルボキシル基を有するモノマーを含有しない(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)」は、本件訂正発明1の「当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを10質量%以上、35質量%以下含有する」「(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)」に相当する。
引用発明1の「活性エネルギー線硬化性成分(B)」は、本件訂正発明1の「活性エネルギー線硬化性成分(C)」に相当する。
引用発明1の「(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、活性エネルギー線硬化性成分(B)と、…を含有する粘着性組成物を熱架橋してなる…粘着剤層を有する粘着シート」は、本件訂正発明1の「(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、…、活性エネルギー線硬化性成分(C)とを含有」する「粘着性組成物を熱架橋してなる硬化前粘着剤層を有」する「粘着シート」に相当する。
引用発明1の「粘着剤層側の面に額縁状の段差を有する保護板である硬質板」、「表示体モジュールまたはその一部である硬質板」はそれぞれ、本件訂正発明1の「少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材」、「第2の表示体構成部材」に相当する。また、引用発明1の「硬質板の粘着剤層側には金属配線が設けられている」ことは、「金属配線」とは酸化されていない金属の配線を通常意味することから、本件訂正発明1の「前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材は、少なくとも貼合される側の面に、酸化されていない金属を主成分とする金属電極を有」することに相当する。

してみると、本件訂正発明1と引用発明1とは、
「少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材とを貼合するための粘着シートであって、前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材は、少なくとも貼合される側の面に、酸化されていない金属を主成分とする金属電極を有し、前記粘着シートは、粘着性組成物を熱架橋してなる硬化前粘着剤層を有し、前記粘着性組成物が、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、活性エネルギー線硬化性成分(C)とシランカップリング剤を含有し、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを10質量%以上、35質量%以下含有することを特徴とする粘着シート。」
である点において一致し、以下の点において相違が認められる。

(相違点1)
本件訂正発明1の粘着性組成物は「メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)」を含有し、「メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)により金属電極のマイグレーションを防止・抑制する」するものであるのに対して、引用発明1の粘着性組成物はシランカップリング剤を含むものの、特に「メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)」を添加するものでなく、当該メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)により「金属電極のマイグレーションを防止・抑制」したものでない点

(2)判断
相違点1について検討する。
刊行物1の摘記1c【0066】には、粘着性組成物に添加するシランカップリング剤として「ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有ケイ素化合物、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、あるいはこれらの少なくとも1つと、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有ケイ素化合物との縮合物」など、種々のものが例示されているが、上記の化合物群から、特に、「3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有ケイ素化合物」などのメルカプト基を有するシランカップリング剤を選択することについては記載も示唆もされていない。
また、刊行物3の摘記3aには、半導体素子と、該半導体素子を固定するダイパッドと、複数のリードを封止するためのエポキシ樹脂組成物なる技術分野において、含硫黄元素シランカップリング剤を樹脂組成物中に添加することで、銀がマイグレーションする際に、銀イオンをAg_(2)Sの不導体に変換しマイグレーションを抑えることが可能となることが記載されていると認められるものの、刊行物1に記載の発明は、携帯電話機やタブレット端末等の各種モバイル電子機器のディスプレイにおいて、保護パネルと表示体モジュールとの間の空隙を埋めるために用いられる粘着性組成物である一方で、刊行物3に記載の発明は、半導体素子と、該半導体素子を固定するダイパッドと、複数のリードを封止するためのエポキシ樹脂組成物であるから、両者の属する技術分野は異なるものである。
そして、刊行物1には、マイグレーションを防止・抑制するという課題について記載も示唆もされていないところ、刊行物1に記載の発明において、シランカップリング剤を選択するに際して、刊行物3に記載される半導体素子と、該半導体素子を固定するダイパッドと、複数のリードを封止するためのエポキシ樹脂組成物なる異なる技術分野に属する発明を参酌の上で、マイグレーション防止のために、メルカプト基を有するシランカップリング剤を選択することは、当業者にとっても容易に着想し得たものであるとはいえない。
したがって、本件訂正発明1は、刊行物1に記載された発明及び刊行物3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

6 本件訂正発明2?8について
本件訂正発明2?8は、本件発明1の構成を更に特定したものである。したがって、本件訂正発明1が刊行物1に記載された発明及び刊行物3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、その余の点を論ずるまでもなく、本件訂正発明2?8は、刊行物1に記載された発明及び刊行物3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 令和2年9月15日付の取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議の申立理由及び証拠

1 概要
令和2年9月15日付の取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議の申立理由、その概要及び証拠は以下のとおりである。

(1)
理由A.(新規性)本件出願の請求項1及び4?8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由B.(進歩性)本件特許の請求項1?8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)証拠
理由Aは、主たる刊行物として甲第1号証(刊行物1)を引用するものである。
理由Bは、主たる刊行物として甲第1号証(刊行物1)、従たる刊行物として以下の甲第2?4号証(それぞれ甲2?甲4とする)を引用するものである。

甲2:特開2015-10192号公報
甲3:特開2010-24292号公報
甲4:国際公開第2013/61938号

(3)証拠の記載事項
甲2、4には、それぞれ、次の記載がある。

ア 甲2の記載事項
摘記甲2a:【請求項1】
「重量平均分子量が100万?250万であり、重合体を構成するモノマー単位として、水酸基を有するモノマーと、芳香環を有するモノマーと、カルボキシル基を有するモノマーとを含有する(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、 イソシアネート系架橋剤(B)と、 メルカプト基を有するシランカップリング剤(C)と、 活性エネルギー線硬化性成分(D)とを含有し、 前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、前記水酸基を有するモノマーを1?5質量%含有し、前記芳香環を有するモノマーを5?30質量%含有し、前記カルボキシル基を有するモノマーを0.1?0.8質量%含有する粘着性組成物。」
摘記甲2b:【0053】
「(3)シランカップリング剤(C)
本実施形態におけるシランカップリング剤(C)はメルカプト基を有する。このメルカプト基は、イソシアネート系架橋剤(B)のイソシアネート基と容易に反応する。前述した通り、粘着性組成物Pを硬化させた粘着剤では、シランカップリング剤(C)のアルコキシシリル基は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)から適切な距離、すなわちイソシアネート系架橋剤(B)における複数のイソシアネート基の相互間の距離をもって、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)にぶら下がった形となると推定される。このように、アルコキシシリル基が、(架橋された)(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)から適切な距離をもって存在することにより、優れたカップリング効果が発揮され、それにより、得られる粘着剤は、接着性に優れ、高温条件下や湿熱条件下でも、接着耐久性に優れたものとなる。この効果は、粘着剤の貼付対象がガラスや金属等の無機材料の場合に、特に顕著に発揮される。」

イ 甲4の記載事項
摘記甲4a:[請求項1]
「非架橋性(メタ)アクリル酸エステル単位(a1)及び架橋性官能基を有するアクリル単量体単位(a2)を含有するベースポリマー(A)と、重合性不飽和基を少なくとも1つ有する単量体(B)と、熱により前記ベースポリマー(A)と反応する架橋剤(C)と、活性エネルギー線の照射により前記単量体(B)の重合反応を開始させる重合開始剤(D)と、溶剤(E)と、を含有する粘着組成物を加熱により半硬化させた粘着剤を含む粘着剤層(X)を備える粘着シート。」

摘記甲4b:[0040]
「[任意成分]
粘着剤組成物は、任意に、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の他の成分を含有してもよい。該他の成分としては、粘着剤用の添加剤として公知の成分、例えば酸化防止剤、金属腐食防止剤、粘着付与剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系化合物等の光安定剤等のなかから必要に応じて選択できる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。これら酸化防止剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
金属腐食防止剤としては、粘着剤の相溶性や効果の高さから、ベンゾリアゾール系樹脂が好ましい。
粘着付与剤として、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、クマロンインデン系樹脂、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂、フェノール系樹脂、石油樹脂などが挙げられる。
シランカップリング剤としては、例えば、メルカプトアルコキシシラン化合物(例えば、メルカプト基置換アルコキシオリゴマー等)などが挙げられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物などが挙げられる。ただし、完全硬化時の活性エネルギー線に紫外線を用いる場合は、重合反応を阻害しない範囲で添加する必要がある。」

2 理由Aについて
(1)甲1号証(刊行物1)を主な引用例とする理由について
甲第1号証に記載の発明と、本件訂正発明1とを対比すると、第5の5の(1)のとおり、両者は相違点1で相違している。したがって、本件訂正発明1及び本件訂正発明1を直接または間接的に引用する本件訂正発明4?8は、甲第1号証に記載された発明ではない。

3 理由Bについて
(1)甲1号証(刊行物1)を主な引用例とする理由について
甲第1号証に記載の発明と、本件訂正発明1とを対比すると、第5の5の(1)のとおり、両者は相違点1で相違している。

また、甲2の摘記甲2aには、重量平均分子量が100万?250万であり、重合体を構成するモノマー単位として、水酸基を有するモノマーと、芳香環を有するモノマーと、カルボキシル基を有するモノマーとを含有する(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、イソシアネート系架橋剤(B)と、メルカプト基を有するシランカップリング剤(C)と、活性エネルギー線硬化性成分(D)とを含有し、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、前記水酸基を有するモノマーを1?5質量%含有する粘着性組成物が記載されており、摘記甲2bには、粘着剤の、接着性や高温湿熱条件下での接着耐久性を改善するためにメルカプト基を有するシランカップリング剤(C)を添加することが記載され、摘記甲4aには、非架橋性(メタ)アクリル酸エステル単位(a1)及び架橋性官能基を有するアクリル単量体単位(a2)を含有するベースポリマー(A)と、重合性不飽和基を少なくとも1つ有する単量体(B)と、熱により前記ベースポリマー(A)と反応する架橋剤(C)と、活性エネルギー線の照射により前記単量体(B)の重合反応を開始させる重合開始剤(D)と、溶剤(E)と、を含有する粘着組成物を加熱により半硬化させた粘着剤を含む粘着剤層(X)を備える粘着シートが記載され、摘記甲4bには、粘着剤組成物に(粘着組成物)添加する任意成分として、メルカプトアルコキシシラン化合物が記載されている。

しかしながら、第5の5の(2)で検討した様に、刊行物1には、マイグレーションを防止・抑制するという課題については記載も示唆もされていないし、甲2?4のいずれにも、メルカプト基を有するシランカップリング剤やメルカプトアルコキシシラン化合物を添加することによって、マイグレーションを防止・抑制することができることについては記載されていないところ、刊行物1に記載の発明において、シランカップリング剤を選択するに際して、マイグレーション防止のために、甲2や、甲4に記載されるメルカプト基を有するシランカップリング剤を選択することは、当業者にとっても容易に着想し得たものであるとはいえない。
したがって、本件訂正発明1は、甲1?4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 申立人の意見書における主張について
申立人は、令和2年8月27日付の意見書において、本件訂正発明1においては、「前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)により前記金属電極のマイグレーションを防止・抑制する」との要件が追加されているが、「前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)により前記金属電極のマイグレーションを防止・抑制する」との要件は、本件訂正発明1に期待されている効果を単に記載したものに過ぎず、請求項1に係る発明の構成を具体的に限定するものではなく、当該訂正は「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当しない旨、また、本件訂正発明1?8は、甲第1号証に記載された発明であり、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうる発明である旨を主張している。
しかしながら、第2の2の(2)のアで検討したように、「前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)により前記金属電極のマイグレーションを防止・抑制する」との要件は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正でなく、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正であり、訂正要件違反ではない。
また、本件訂正発明は、第6の2で検討したように、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、第5の1?6及び第6の3で検討したように、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到しうる発明であるともいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由又は特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材とを貼合するための粘着シートであって、
前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材は、少なくとも貼合される側の面に、酸化されていない金属を主成分とする金属電極を有し、
前記粘着シートは、粘着性組成物を熱架橋してなる硬化前粘着剤層を有し、
前記粘着性組成物が、
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)と、
活性エネルギー線硬化性成分(C)と
を含有し、
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを10質量%以上、35質量%以下含有し、
前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)により前記金属電極のマイグレーションを防止・抑制する
ことを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)は、メルカプト基含有オリゴマー型シランカップリング剤であることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)を構成する有機ケイ素化合物のメルカプト基当量は、100g/モル以上、1000g/モル以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記粘着性組成物中における前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)の含有量は、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上、5質量部以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着性組成物中における前記活性エネルギー線硬化性成分(C)の含有量は、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.5質量部以上、50質量部以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記粘着性組成物は、さらに架橋剤(D)を含有することを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記粘着シートは、2枚の剥離シートを備えており、
前記硬化前粘着剤層は、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持されている
ことを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項8】
少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、
第2の表示体構成部材と、
前記第1の表示体構成部材および前記第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に、酸化されていない金属を主成分とする金属電極を有し、
前記粘着剤層が、請求項1?7のいずれか一項に記載の粘着シートの硬化前粘着剤層を、活性エネルギー線の照射により硬化させたものである
ことを特徴とする表示体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-01-05 
出願番号 特願2015-131941(P2015-131941)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 能宏  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 木村 敏康
古妻 泰一
登録日 2019-07-12 
登録番号 特許第6554344号(P6554344)
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 粘着シートおよび表示体  
代理人 早川 裕司  
代理人 早川 裕司  
代理人 村雨 圭介  
代理人 村雨 圭介  

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