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審決分類 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1372672
異議申立番号 異議2020-700076  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-13 
確定日 2021-02-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6559130号発明「構造体を型押しする方法および装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6559130号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?5]について訂正することを認める。 特許第6559130号の請求項1、3及び5に係る特許を維持する。 特許第6559130号の請求項2及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6559130号に係る出願は、2014年(平成26年)10月22日(パリ条約による優先権主張2013年11月29日、独国)の出願であって、その経緯は次のとおりである。
令和 元年 7月26日 : 特許登録(請求項数5)
令和 元年 8月14日 : 特許掲載公報の発行
令和 2年 2月13日 : 特許異議申立人による特許異議の申立て
(全請求項)
令和 2年 4月22日付け: 取消理由通知書
令和 2年 7月22日 : 特許権者による意見書・訂正請求書の提

令和 2年10月20日 : 特許異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和2年7月22日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲を次のとおり訂正しようとするものである(下線は、訂正箇所として、特許権者が付したものである。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項[1?5]についての訂正である。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記型押し用ペースト(6)を少なくとも部分的に硬化して当該型押し用ペースト(6)を型押しするステップと、を有する方法において」と記載されているのを、「前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ、前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させるステップと、前記部分的な硬化の停止後に、前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させて前記型押し用ペースト(6)を型押しするステップと、を有する方法において」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、5も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の方法。」とあるのを、「請求項1に記載の方法。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。」とあるのを、「請求項1または3に記載の方法。」に訂正する。

2 各訂正事項の訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された「前記型押し用ペースト(6)を少なくとも部分的に硬化して当該型押し用ペースト(6)を型押しするステップ」を、「前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ、前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させるステップと、前記部分的な硬化の停止後に、前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させて前記型押し用ペースト(6)を型押しするステップ」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 新規事項追加の有無
(ア)本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。
「図2cに示した第3プロセスステップでは、本発明による別の一様相、特に独立した別の一様相にしたがい、型押しスタンプ1の後面1rからの、特に型押し用ペースト6の緩やかな硬化が行われる。このために型押しスタンプ1は、ビーム源7の電磁ビーム8に対して透過である。特に好適な一実施形態では、型押し用ペースト6が少なくとも型押し構造体表面2oに沿って硬化した後、上記の緩やかな硬化が停止される。この緩やかな硬化により、各レンズ9のレンズ表面9oが硬化されるのに対し、ビーム源7から遠い側のレンズ底部9bはまだ粘性がありかつ成形可能であり、すなわち支持基板3によって成形して型押し可能である。」(【0059】)、

「図2dに示した本発明の第4プロセスステップでは、型押しスタンプ1と支持基板3との間の相対的な接近によって型押しが行われる。この際には、支持基板表面3oを向いておりかつ依然として粘性のある、各レンズ9の型押し用ペースト6が同時に成形される。」(【0060】)


(イ)このように、当該各段落には、第3プロセスステップにつき、(i)「型押しスタンプ1の後面1rからの、特に型押し用ペースト6の緩やかな硬化が行われる」こと、(ii)「型押し用ペースト6が少なくとも型押し構造体表面2oに沿って硬化」すること、(iii)その硬化の「後、上記の緩やかな硬化が停止される」ことが記載され、その後の第4プロセスステップにつき、(iv)「型押しスタンプ1と支持基板3との間の相対的な接近によって型押しが行われる」ことが記載されている。そして、訂正事項1のうち、「前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ」が上記(i)に対応し、「前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させる」が上記(ii)に対応し、「前記部分的な硬化の停止後に、前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させ」が上記(iii)及び(iv)に対応することが明らかである。
そうすると、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載された事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、新規事項を追加するものではない。

ウ 実質的拡張変更の有無
上記ア及びイに照らして、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無及び実質的拡張変更の有無
上記アに照らして、訂正事項2は、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3において、請求項1または2を引用していたのを、請求項1のみを引用するようにするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無及び実質的拡張変更の有無
上記アに照らして、訂正事項3は、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、本件訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無及び実質的拡張変更の有無
上記アに照らして、訂正事項4は、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は、本件訂正前の請求項5において、請求項1から4までのいずれか1項を引用していたのを、請求項1または3を引用するようにするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無及び実質的拡張変更の有無
上記アに照らして、訂正事項5は、新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和2年10月20日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)において、訂正事項1を含む本件訂正後の請求項1に係る発明が明確でないから、訂正事項1は訂正要件を満たしていない旨主張する。この点、訂正事項1が訂正要件を満たしていることは、上記2(1)で判断したとおりであるが、特許異議申立人にかかる主張は、訂正要件とは必ずしも関わらない事項をも含むから、後記第5の4において判断する。

4 訂正の適否についての小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?5]について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明の認定
本件訂正は、上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1?5に係る発明(以下「本件訂正発明1」?「本件訂正発明5」という。)は、本件訂正後の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

[本件訂正発明1]
「少なくとも1つの型押し構造体(2)を有する型押しスタンプ(1)によって、支持基板(3)上に少なくとも1つのマイクロ構造体またはナノ構造体を有する複数の個別レンズ(9)を型押しする方法であって、
前記型押しスタンプ(1)と前記支持基板(3)との間に、調量装置(4)を配置するステップと、
前記型押しスタンプ(1)の前記型押し構造体(2)を、前記調量装置(4)に対して重力方向(G)の向きで配向するステップと、
前記調量装置(4)を用いて、前記型押し構造体(2)内に、前記重力方向(G)に対して平行かつ逆向きに型押し用ペースト(6)を調量するステップと、
前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ、前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させるステップと、
前記部分的な硬化の停止後に、前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させて前記型押し用ペースト(6)を型押しするステップと、を有する方法において、
重力により、凸の型押し用ペースト表面(6o)を前記支持基板(3)の方向に形成し、
前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させることにより、前記凸の型押し用ペースト表面(6o)によって、前記支持基板(3)との、前記型押し用ペースト(6)の点接触接続が行われ、
前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)をさらに接近させることにより、前記支持基板(3)との、前記型押し用ペースト表面(6o)の接触接続面が連続して
拡大する、
ことを特徴とする方法。」

[本件訂正発明2]
(削除)

[本件訂正発明3]
「前記調量装置(4)を用い、前記型押し構造体(2)の対称軸(S)からずらして、前記型押し構造体(2)の縁部において、前記型押し用ペースト(6)を当該型押し構造体(2)内に入れる、
請求項1に記載の方法。」

[本件訂正発明4]
(削除)

[本件訂正発明5]
「前記調量装置(4)はノズル(5)を有することができる、請求項1または3に記載の方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?5に係る発明についての特許に対する令和2年4月22日付け取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、本件特許に係る出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(引用文献等一覧)
証拠番号は「第」及び「号証」を略して表記する。
1.特開2012-11720号公報(甲1)
2.米国特許第6027595号明細書(甲2)
3.国際公開第2007/003325号(甲4)
4.特表2007-531318号公報(甲5)
5.特開2012-183777号公報(甲6)
6.特開2002-285132号公報(甲7)

なお、特許異議申立人は、証拠方法として、上記のほか、特開2012-71489号公報(甲3)及び特開2011-64873号公報(甲8)を提出した。

2 引用文献の記載等
(1)甲1(特開2012-11720号公報)に記載された事項
ア 本件優先日の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲1には次の記載がある。
(ア)「【技術分野】」、
「本発明は、レンズの製造方法およびレンズの製造装置に係り、たとえば、金型に供給された紫外線硬化樹脂を硬化させて、レンズを製造するものに関する。」(【0001】)

(イ)「【発明が解決しようとする課題】」、
「ところで、上述した製法で製造したレンズ212は、紫外線硬化樹脂202が硬化するときの紫外線硬化樹脂202自体の収縮や紫外線硬化樹脂202内へのエアーの咬み込みによって、レンズ212に(レンズ212の凸部のたとえば頂上やこの近傍に)微細な凹状の欠陥214が発生する場合があるという問題がある。」(【0006】)、
「本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、紫外線硬化樹脂等を硬化させることにより製造されるレンズの製造方法およびレンズの製造装置において、欠陥が存在しないレンズを製造することを目的とする。」(【0007】)

(ウ)「【発明を実施するための形態】」、
「レンズ1は、感光性材料(たとえば紫外線硬化樹脂)を硬化させることによって形成されるものであり、感光性材料供給工程(紫外線硬化樹脂供給工程;紫外線硬化樹脂設置工程)S1と基板設置工程S3と感光性材料硬化工程(紫外線硬化樹脂硬化工程)S5とを経て製造されるものである(図2等参照)。」(【0014】)、
「紫外線硬化樹脂供給工程S1では、流動体状(粘度の高い液体状)の紫外線硬化樹脂3が、型(たとえば金型)5に形成されている凹部(キャビティ)7に供給される(図1(a)、(b)参照)。キャビティ7は、たとえば、平凸レンズ状の形成されており、金型5の1つの平面(たとえば下面)9で上方に凹んで形成されている。」(【0015】)、

「紫外線硬化樹脂供給工程S1での紫外線硬化樹脂3の供給は、たとえばディスペンサ等の装置を用い、流動体状の紫外線硬化樹脂3を金型5のキャビティ7の表面11に塗りつけるようにしてなされる。また、紫外線硬化樹脂供給工程S1での紫外線硬化樹脂3の供給は、流動体状の紫外線硬化樹脂3内とキャビティ7の表面11とに、流動体状の紫外線硬化樹脂3が非存在である部位(たとえば気泡)が存在しないようにしてなされる。」(【0016】)、
「紫外線硬化樹脂供給工程S1で供給される紫外線硬化樹脂3の体積は、キャビティ7の体積よりも僅かに大きい体積である。また、紫外線硬化樹脂供給工程S1で供給された紫外線硬化樹脂3は、表面張力等によって金型5(金型5のキャビティ7)に貼り付いており、たとえば、図1で示すように、金型5のキャビティ7型が下方に開口している状態であっても、重力によって金型5から離れ落下しないようになっている(垂れ落ちないようになっている)。」(【0017】)、
「具体例を掲げてさらに説明すると、流動体状の紫外線硬化樹脂3の粘度は、10,000cps(よく練った水飴程度の粘度)?30,000cps程度である。また、レンズ1は、たとえば、携帯電話のカメラに使用されるものであり、レンズ1の直径(円形状のキャビティ7の直径)は、上記粘度の流動体状の紫外線硬化樹脂3を供給しても、この供給された紫外線硬化樹脂3が張り付く程度の大きさになっている。」(【0018】)、
「基板設置工程S3では、紫外線硬化樹脂供給工程S1で紫外線硬化樹脂3が供給された後、金型5のキャビティ7を蓋するように(たとえば、キャビティ7が紫外線硬化樹脂3で満たされた平凸レンズ状の閉空間になるように)、金型5に基板13が設置される(図1(c)参照)。」(【0019】)、
「基板13は、感光性材料を硬化させる所定の波長帯域の電磁波が透過する材料で構成されている。すなわち、たとえば、基板13は、紫外線が透過する材料である石英ガラス等のガラスや合成樹脂で構成されている。」(【0020】)、
「また、基板13は、たとえば、平板状に形成されており、基板設置工程S3での基板13の設置は、基板13の厚さ方向の一方の面(上面)15が、金型5の下面9と平行になり、基板13の上面15が金型5の下面9に接するか、基板13の上面15が金型5の下面9からごく僅かに離反して対向するようにしてなされる(図1(c)、図3(a)参照)。」(【0021】)、

「また、紫外線硬化樹脂供給工程S1で供給された紫外線硬化樹脂3の体積がキャビティ7の体積よりも僅かに大きいので、基板13を設置する前は、紫外線硬化樹脂3が金型5のキャビティ7から僅かに盛り上がっている(図1(b)で示すように下方に僅かに凸になっている)。そして、基板設置工程S3で基板13を設置すると、金型5のキャビティ7からはみ出した僅かな量の紫外線硬化樹脂3が、金型5の外部で金型5と基板13との境界に沿ってリング状部位17になるのである(図1(c)、図3(a)参照)。」(【0022】)、
「次に、レンズ製造装置の動作について説明する。」(【0045】)、
「初期状態として、金型5が金型設置体に設置されており、基板13が基板設置体に設置されており、金型5と基板13とは所定の距離だけ離れており、紫外線発生装置19は、紫外線は発生しておらず。金型5のキャビティ7には、紫外線硬化樹脂3が供給されていないものとする(図1(a)参照)。」(【0046】)、
「上記初期状態において、レンズ製造装置の制御装置の制御の下、金型5のキャビティ7に流動体状の紫外線硬化樹脂3を供給する(図1(b)参照)。」(【0047】)、
「続いて、金型設置体を下降して基板設置体側に移動し、金型5を基板13に近づけて、金型5のキャビティ7を基板13で蓋をし、紫外線発生装置19で紫外線21を紫外線硬化樹脂3に照射し、紫外線硬化樹脂を硬化する(図1(c)参照)。」(【0048】)、
「続いて、金型設置体を上昇させて基板設置体から離し離型する(図1(d)参照)。」(【0049】)、
「また、図7で示すように、金型5aの複数のキャビティ7を設けておいて、一度に複数個のレンズ1を成型してもよい。」(【0070】)


イ 上記アによれば、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(なお、参考までに甲1発明の認定に用いた段落番号等を括弧内に付してある。以下同じ。)。
「紫外線硬化樹脂供給工程S1と基板設置工程S3と紫外線硬化樹脂硬化工程S5からなるレンズ1の製造方法であって、(【0014】)
紫外線硬化樹脂供給工程S1では、流動体状の紫外線硬化樹脂3が、金型5に形成されているキャビティ7に供給され、キャビティ7は、金型5の下面9で上方に凹んで形成され、(【0015】)
紫外線硬化樹脂供給工程S1での紫外線硬化樹脂3の供給は、ディスペンサを用いてなされ(【0016】)
紫外線硬化樹脂供給工程S1で供給される紫外線硬化樹脂3の体積は、キャビティ7の体積よりも僅かに大きい体積であり、(【0017】)
紫外線硬化樹脂供給工程S1で供給された紫外線硬化樹脂3は、表面張力等によって金型5のキャビティ7に貼り付いており、金型5のキャビティ7が下方に開口している状態であっても、重力によって金型5から離れ落下しないようになっており、(【0017】)
紫外線硬化樹脂3は、金型5のキャビティ7から下方に僅かに凸になっており、(【0022】)
基板設置工程S3では、紫外線硬化樹脂供給工程S1で紫外線硬化樹脂3が供給された後、金型5を基板13に近づけて、金型5のキャビティ7を基板13で蓋をし、紫外線発生装置19で紫外線21を紫外線硬化樹脂3に照射し、紫外線硬化樹脂を硬化し、(【0019】、【0048】)
金型5aの複数のキャビティ7を設けておいて、一度に複数個のレンズ1を成型する(【0070】
方法。」

(2)甲2(米国特許第6027595号明細書)に記載された事項
本件優先日の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲2には次の記載がある。
「1. Field of the Invention
The present invention is directed to a method of making optical replicas by stamping in liquid photoresist and the replicas formed thereby. The stamped photoresist may be used to further transfer the pattern into the substrate through photolithographic processes.」(第1欄第7-12行)(当審訳:本発明は、液体フォトレジストを打ち込むことによって光学レプリカを作製する方法、およびそれによって形成されたレプリカに関する。スタンプされたフォトレジストは、フォトリソグラフィープロセスを通じて、パターンを基板に転写するために使用される。)、
「As shown in FIG. 1, a layer of uncured photoresist 12 is applied to an embossing stamp 10. Excess photoresist 12 is removed from the embossing stamp 10 using, for example, a block 14 of, for example, PDMS. The embossing stamp 10 filled with the photoresist 12 is brought into contact with a substrate 16. Manual pressure alone is sufficient to achieve this contact. With the embossing stamp 10 still in place, the photoresist 12 is cured by, for example, exposure to actinic radiation, when the photoresist 12 is a negative photoresist, or by thermal processes when the photoresist 12 is a positive photoresist, such curing being known to those of skill in the art. The radiation, if used, can be delivered through either the embossing stamp 10 or the substrate 16. After the photoresist12 is cured, the embossing stamp 10 is removed, leaving the negative of the pattern in the embossing stamp 10 transferred in the photoresist 12 on the substrate 16. 」(第5欄第59行-第6欄第8行)(当審訳:図1に示すように、未硬化のフォトレジスト12の層がエンボス加工スタンプ10に塗布される。過剰のフォトレジスト12は、例えば、PDMSなどのブロック14を使用して、エンボス加工スタンプ10から除去される。フォトレジスト12が充填されたエンボス加工スタンプ10は、基板16と接触させられる。この接触を達成するには、手動圧力だけで十分である。エンボス加工スタンプ10が所定の位置にある状態で、フォトレジスト12は、例えば、フォトレジスト12がネガ型フォトレジストである場合、露光によって、またはフォトレジスト12がポジ型フォトレジストである場合、熱プロセスによって硬化される。このような硬化法は当業者に知られている。露光が使用される場合、光照射は、エンボス加工スタンプ10または基板16のいずれかを通して送達され得る。フォトレジスト12が硬化した後、エンボス加工スタンプ10は取り除かれると、フォトレジスト12に転写されたエンボス加工スタンプ10のパターンのネガが基板16に残る。)、

「Further, the application of the photoresist to the stamp allows the photoresist to be at least partially cured or solidified before bringing it into contact with the substrate. This solidification allows gases which are released during solidification to escape, avoiding attendant gas trapping problems associated therewith.」(第7欄第10-15行)(当審訳:さらに、スタンプへのフォトレジストの塗布により、フォトレジストを基板と接触させる前に、フォトレジストを少なくとも部分的に硬化または固化させることができる。この固化により、固化中に放出されるガスを逃がすことができ、それに関連したガストラップの問題を回避することができる。)

(3)甲3(特開2012-71489号公報)に記載された事項
本件優先日の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲3には次の記載がある。
「(硬化工程)
次に、図5Bに示すように、回転させた第1の型110の成形面に付着している樹脂Mに第2の型120の成形面を接触させていない状態で、制御部53が加熱部54を駆動することで、加熱部54から第1の型110の成形面に付着している樹脂Mに熱が供給され始める。樹脂Mは、図4で説明したように、加熱によって一旦粘度が低下して、粘度が最も低くなる時間を境に、粘度が上昇して硬化し始め、最終的に硬化する。」(【0046】)、

「(成形工程)
図5Cに示す成形工程では、硬化工程の際に、加熱により軟化された樹脂の粘度が最も低くなったとき(図4の時間t1)よりも後において、加熱部54によって樹脂Mを加熱しつつ、第2の型20の鍔部124が胴型31の下側の端部に接触させる。こうすることで、第1の型110の成形面に付着している樹脂Mが、第2の型120の成形面と第1の型110の成形面とで挟まれることにより、樹脂Mが第2の型120の成形面と第1の型110の成形面にならって変形する。そして、第2の型120及び第1の型110の各成形面に設けられている光学面成形部112,122で、レンズ1のレンズ部2の表裏の光学面が成形される。また、第2の型120及び第1の型110の各成形面の平坦部113,123で、レンズ1のフランジ部が成形される。そして、樹脂Mを変形させた状態で、加熱を行い、樹脂Mを完全に硬化させる。」(【0047】)


(4)甲4(国際公開第2007/003325号)に記載された事項
本件優先日の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲4には次の記載がある。
「In particular, the process of dosing a starting material for optical lenses, in particular ophthalmic lenses, e.g. contact lenses, into a female mould half, comprises in accordance with the instant invention the following steps of:
- positioning a dosing tip at a start position above the female mould half and close to the edge of or laterally outside that portion defining the lens-shaping surface,
- creating a continuous flow of starting material through the dosing tip into the female mould half,
- moving the dosing tip from the start position towards an end position in the region of the centre of the female mould half once the starting material has contacted the surface of the female mould half with the dosing tip being in the start position, wherein the continuous flow of starting material through the dosing tip and the movement of the dosing tip from the start position to its end position are controlled such, that a continuous bead of starting material is deposited on the surface of the female mould half and that the essential part of the overall volume of starting material dosed into the female mould half is deposited within the female mould half with the dosing tip being in the end position.」
(当審訳:特に、光学レンズ(特に眼科用レンズ、例えばコンタクトレンズ)のためのスタート材料を雌型モールド半体に供給するプロセスは、本発明に従って以下の工程からなる。
- 雌型モールド半部の上で、かつ、レンズ成形面を形成する部分の端部または横方向外側に近い位置に、供給チップを配置する工程と、
- 供給チップを介して雌型モールド半部に入るスタート材料の連続した流れを形成するステップ、
- 前記供給部先端が前記スタート位置にある状態で、前記スタート材料が前記雌型モールド半部に接触すると、前記スタート位置から前記雌型モールド半部の中央の領域にある終了位置に向けて前記供給部先端を移動する工程とを有し、
- 前記供給部先端を通る前記スタート材料の連続流れと、前記スタート位置から前記終了位置までの前記供給部先端の移動は、スタート材料の液滴が前記雌型モールド半部の表面に置かれ、前期雌型モールド半部に供給されたスタート材料の全量の大部分が、前記供給部先端を前記終了位置に位置させた状態で、前記雌型モールド半部内に置かれるように制御される工程。)


(5)甲5(特表2007-531318号公報)に記載された事項
本件優先日の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲5には次の記載がある
「図3Aに示すように、発光デバイスは、反射空洞115のほぼ中心点115mに位置付けされる。封入材料は、封入材料112が発光デバイス103の上に直接分配されないように、中心点115mから反射空洞115の側壁105の方にずれた点115dで分配装置200から分配することができる。発光デバイス103の上に直接封入材料112を分配すると、封入材料112が、発光デバイス103の構造を上から通過するときに、気泡の閉じ込めが起こることがある。しかし、本発明の他の実施形態では、片寄り分配(offset dispense)に加えて、または片寄り分配の代わりに、封入材料112が、発光デバイス103のダイの上に分配される。封入材料112の分配は、分配装置200の端部に封入材料112の液滴(bead)を形成し、この形成された液滴を反射空洞115および/または発光デバイス103と接触させて、分配装置からこの液滴を分配することを含むことができる。」(【0032】)


(6)甲6(特開2012-183777号公報)に記載された事項
本件優先日の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲6には次の記載がある
「次に、図7(A)に示すように、図5等に示す製造装置100を用いて、マスター型30の第1成形面31上方に第1の樹脂材料41bを配置する。その後、図7(B)に示すように、図5等に示す製造装置100を用いて、マスター型30の端面30bすなわち第1成形面31をサブマスター基板42の表面42aに形成された特定の凹部42cに対向するようにアライメントして配置し、サブマスター基板42の下方からマスター型30を押圧して、第1成形面31と凹部42cとが適当な間隔となるまで近接させる。ここで、第1の樹脂材料41bはマスター型30によって押圧され、凹部42cを満たすとともに、マスター型30の段差32の後退面32aとサブマスター基板42との対向部を満たす。この状態で、光源63によりUV光等の所定波長の光を照射し、間に挟まれた第1の樹脂材料41bを硬化させる。結果的に、マスター型30の第1成形面31が転写されかつ硬化した樹脂によって構成される樹脂層部分(樹脂レプリカ部)41dが形成される。この樹脂層部分41dは、例えば100μm程度の厚みを有する。次に、図7(C)に示すように、マスター型30から樹脂層部分41dとサブマスター基板42とを一体として離型する。これにより、マスター型30の端面30bすなわち第1成形面31を対向させた凹部42cを含む矩形領域において樹脂層部分41dが露出する。この樹脂層部分(樹脂レプリカ部)41dは、マスター型30の段差32を転写したものとして、本体の周囲に残膜部44を有する。また、樹脂層部分(樹脂レプリカ部)41dは、その表面として、第2成形面43の一部を構成する転写面要素43dを有する。この転写面要素43dは、マスター型30の第1成形面31上にn個の第1光学転写面31aが形成されている場合、これに対応してn個の第2光学転写面43aを有する。」(【0064】)


(7)甲7(特開2002-285132号公報)に記載された事項
本件優先日の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲7には次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】」、
「一方の部材と他方の部材を樹脂によって貼り合わせる方法であって、
少なくとも一方の部材に樹脂を霧状に噴霧することによって当該部材の貼合せ面に樹脂を付与した後、当該部材と他方の部材とを樹脂を介して貼り合わせることを特徴とする部材貼り合わせ方法。」(【請求項1】)

イ 「【発明の属する技術分野】」、
「本発明は、樹脂を介して複数の部材(例えば、平板)を貼り合わせるための部材貼り合わせ方法及びその装置に関する。例えば、光学的ローパスフィルタ、フレネルレンズ、マイクロレンズアレイ等の光学素子を製造する(特に、スタンパを用いて樹脂成形する)際に利用するのに最適な部材貼り合わせ方法及びその装置に関する。」(【0001】)

ウ 「(第8の実施形態)・・・」(【0060】)、
「次に、図18(a)?(e)は上記平板マイクロレンズアレイ31を用いてマイクロレンズアレイ素子を製造する工程を示す図である。まず、図18(a)に示すように、マイクロレンズアレイパターン36を下にして上記平板マイクロレンズアレイ31を配置し、噴霧部48によって平板マイクロレンズアレイ31の下面の一部又は全面に紫外線硬化樹脂からなる接着樹脂33を霧状に噴霧し、マイクロレンズアレイパターン36の微小な凹凸を接着樹脂33によって埋める。なお、この接着樹脂33は樹脂材料74とは屈折率の異なる透明樹脂である。」(【0065】)、

「ついで、図18(b)に示すように、ディスペンサのような樹脂付与部81のノズル82を上に向け、噴霧された接着樹脂33の上から樹脂付与部81によって平板マイクロレンズアレイ31の下面に当該樹脂と同じ接着樹脂33を少量だけ定量付着させ、平板マイクロレンズアレイ31の下面に接着樹脂33をつらら状に垂れ下がらせる。さらに、図18(c)に示すように、樹脂付与部81のノズル82を下方へ反転させ、同じ接着樹脂33をガラス基板32の上面に必要十分な量だけ滴下させる。」(【0066】)、
「この後、図18(d)に示すように、平板マイクロレンズアレイ31を下降させ、平板マイクロレンズアレイ31の下面をガラス基板32に押し付け、平板マイクロレンズアレイ31下面の接着樹脂33とガラス基板32上面の接着樹脂33を接触させて平板マイクロレンズアレイ31とガラス基板32との間に押し広げ、加圧により平板マイクロレンズアレイ31とガラス基板32の平行度を得る。ついで、図18(e)に示すように、ガラス基板32を通して紫外線ランプなどにより紫外線硬化型の接着樹脂33に紫外線を照射し、接着樹脂33を硬化させ、マイクロレンズアレイ素子を得る。」(【0067】)、
「この後、紫外線の後照射を行い、さらにマイクロレンズアレイ素子を85℃で1.2時間ベークして本硬化させる。このマイクロレンズアレイ素子は、セパレータ78を剥がすと粘着樹脂層79が露出するようになっており、この粘着樹脂層79によって液晶表示パネル等の表面に直接貼り付けることができるようになっている。」(【0068】)

3 本件訂正発明1について
(1)対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
ア 本件訂正発明1の「少なくとも1つの型押し構造体(2)を有する型押しスタンプ(1)によって、支持基板(3)上に少なくとも1つのマイクロ構造体またはナノ構造体を有する複数の個別レンズ(9)を型押しする方法」との特定事項について
(ア)甲1発明における「キャビティ7」、「金型5」及び「基板13」は、それぞれ、本件訂正発明1における「少なくとも1つの型押し構造体」、「型押しスタンプ」及び「支持基板」に相当する。
(イ)甲1発明は、「金型5aの複数のキャビティ7を設けておいて、一度に複数個のレンズ1を成型する」ものであるところ、当該「複数個のレンズ1」の各レンズは、本件訂正発明1の「個別レンズ」に相当する。また、甲1発明は、このようなものであるから、本件訂正発明1でいう「複数の個別レンズを型押しする方法」であるといえる。
(ウ)そうすると、甲1発明は、「少なくとも1つの型押し構造体を有する型押しスタンプによって、支持基板上に複数の個別レンズを型押しする」構成を備える。
しかしながら、甲1発明の(本件訂正発明1でいう)「複数の個別レンズ」は、「少なくとも1つのマイクロ構造体またはナノ構造体を有する」ものではない。

イ 本件訂正発明1の「前記型押しスタンプ(1)と前記支持基板(3)との間に、調量装置(4)を配置するステップと、前記型押しスタンプ(1)の前記型押し構造体(2)を、前記調量装置(4)に対して重力方向(G)の向きで配向するステップと、前記調量装置(4)を用いて、前記型押し構造体(2)内に、前記重力方向(G)に対して平行かつ逆向きに型押し用ペースト(6)を調量するステップと」との特定事項について
(ア)甲1発明における「金型5に形成されているキャビティ7に供給され」る「紫外線硬化樹脂3」は、本件訂正発明1における「型押し用ペースト」に相当する。そして、甲1発明において、「紫外線硬化樹脂3」は、「ディスペンサ」から供給されており、ここで、供給される「紫外線硬化樹脂3」の体積は、「キャビティ7の体積よりも僅かに大きい体積」となるように供給されているから、甲1発明の「ディスペンサ」は、本件訂正発明1の「調量装置」に相当する。
(イ)そうすると、甲1発明は「調量装置を用いて、型押し構造体内に、型押し用ペーストを調量するステップ」を備える。
しかしながら、甲1発明は、「ディスペンサ」(本件訂正発明1の「調量装置」に相当。)をどこに配置するのか不明であり、また、「ディスペンサ」からどのような向きで型押し構造体内に型押し用ペーストを調量するのかも不明である。

ウ 本件訂正発明1の「前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ、前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させるステップと、前記部分的な硬化の停止後に、前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させて前記型押し用ペースト(6)を型押しするステップと、を有する方法において、」との特定事項について
甲1発明は、「紫外線硬化樹脂3」が供給された「キャビティ7」に「蓋するように」「基板13が設置」され、「紫外線発生装置19で紫外線21を紫外線硬化樹脂3に照射し、紫外線硬化樹脂を硬化」するから、「前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させて前記型押し用ペースト(6)を型押しするステップ」を備えている。
しかしながら、甲1発明は、「前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ、前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させるステップ」を備えない。また、甲1発明は、「前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させて前記型押し用ペースト(6)を型押しするステップ」を備えるが、そのステップが「前記部分的な硬化の停止後」になされるものではない。

エ 本件訂正発明1の「重力により、凸の型押し用ペースト表面(6o)を前記支持基板(3)の方向に形成し」との特定事項について
(ア)甲1発明において、「キャビティ7」は「下方に開口」し、「キャビティ7」に供給された「紫外線硬化樹脂3」は、「表面張力等によって金型5のキャビティ7に貼り付いて」、「キャビティ7から下方に僅かに凸になって」いるところ、「紫外線硬化樹脂3」の「僅かに凸になって」いる部分は、本件訂正発明1の「凸の型押し用ペースト表面」に相当し、これは重力により形成されたものであることが明らかである。
そして、甲1発明では、「紫外線硬化樹脂3」が供給された「キャビティ7」に「蓋するように」「基板13が設置」されるから、「紫外線硬化樹脂3」の「僅かに凸になって」いる部分は、「基板13」の方向に形成されたものである。
(イ)そうすると、甲1発明は「重力により、凸の型押し用ペースト表面を支持基板の方向に形成」する構成を備えている。

オ 本件訂正発明1の「前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させることにより、前記凸の型押し用ペースト表面(6o)によって、前記支持基板(3)との、前記型押し用ペースト(6)の点接触接続が行われ、前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)をさらに接近させることにより、前記支持基板(3)との、前記型押し用ペースト表面(6o)の接触接続面が連続して拡大する」との特定事項について
(ア)甲1発明は、「金型5を基板13に近づけて、金型5のキャビティ7を基板13で蓋をし」ているから、「支持基板の方向に型押しスタンプを接近させる」構成を備えている。
そして、上記エのとおり、甲1発明は、「キャビティ7」に供給された「紫外線硬化樹脂3」が「下方に僅かに凸になって」いるから、「紫外線硬化樹脂3」は、「基板13」に接触するときに、まず「下方に僅かに凸になって」いる当該凸の先端部分が接触し、その後、接触面が拡大して、「紫外線硬化樹脂3」全体で接触することとなるのは、明らかである。
(イ)そうすると、甲1発明は「支持基板の方向に型押しスタンプを接近させることにより、凸の型押し用ペースト表面によって、支持基板との、型押し用ペーストの点接触接続が行われ、支持基板の方向に型押しスタンプをさらに接近させることにより、支持基板との、型押し用ペースト表面の接触接続面が連続して拡大する」構成を備えている。

カ 以上をまとめると、本件訂正発明1と甲1発明は、
「少なくとも1つの型押し構造体を有する型押しスタンプによって、支持基板上に複数の個別レンズを型押しする方法であって、
調量装置を用いて、型押し構造体内に、型押し用ペーストを調量するステップと、
型押し用ペーストを型押しするステップと、を有する方法において、
重力により、凸の型押し用ペースト表面を支持基板の方向に形成し、
支持基板の方向に型押しスタンプを接近させることにより、凸の型押し用ペースト表面によって、支持基板との、型押し用ペーストの点接触接続が行われ、
支持基板の方向に型押しスタンプをさらに接近させることにより、支持基板との、型押し用ペースト表面の接触接続面が連続して拡大する、方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「複数の個別レンズ」が、本件訂正発明1では、「少なくとも1つのマイクロ構造体またはナノ構造体を有する」ものであるのに対し、甲1発明ではそうではない点。

[相違点2]
「調量装置を用いて、型押し構造体内に、型押し用ペーストを調量する」際に、本件訂正発明1は「型押しスタンプと支持基板との間に、調量装置を配置するステップと、型押しスタンプの型押し構造体を、調量装置に対して重力方向の向きで配向するステップ」を備え、調量装置を用いて、型押し構造体内に、「重力方向に対して平行かつ逆向きに」型押し用ペーストを調量することが特定されているのに対し、甲1発明は、そうであるのか不明である点。

[相違点3]
「前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させて前記型押し用ペースト(6)を型押しするステップ」について、本件訂正発明1は、「前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ、前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させるステップ」を備え、その「部分的な硬化の停止後」に、当該「型押しするステップ」を行うのに対し、甲1発明は、そうではない点。

(2)相違点3の判断
事案にかんがみ、相違点3より判断する。
甲1発明は、エアー(ガス)による欠陥を課題としている(【0006】、【0007】)。そして、甲2には、型押し加工において、型押しを行う以前に、部分的に硬化することでガスを逃がすことが記載されている。
しかしながら、甲1及び甲2のいずれにも、相違点3に係る構成は記載も示唆もされていない。そして、相違点3に係る構成により、本件訂正発明1は、本件特許明細書等の【0020】のとおり、型押し用ペーストに位置限定的に硬化された縁部層を生じさせつつも、この位置限定的に硬化された縁部層によって反対側の型押し用ペーストの縁部層の成型が妨害または阻止されない、という格別の技術的意義を奏するものである。
よって、当業者といえども、甲1発明並びに甲1及び甲2に記載された技術的事項に基づいて、相違点3に係る構成を容易に想到するものとはいえない。
そして、取消理由通知書で提示された他の証拠である甲4?甲7をみても、上記の判断を左右するものではない。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲3に、樹脂Mを、型押しの前に部分的に硬化し、引き続いて完全に硬化することが開示されており、この技術的事項を甲1発明に適用することができる旨主張する(特許異議申立書第25頁下から8行?第26頁第5行)。
甲3の【0047】には、第1の型110の成形面に付着している樹脂Mが、加熱部54から熱が供給され、その樹脂の粘度が最も低くなったときよりも後において、第2の型120の成形面とで挟まれて、これらの成形面にならって変形することが記載されている。しかしながら、甲3は、当該樹脂Mを「前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ、前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させる」ことを開示するものではない。
よって、甲1発明に甲3に記載された技術的事項を適用することができたとしても、相違点3に係る構成に至らない。
したがって、特許異議申立人の主張は、上記(2)の判断を左右しない。

(4)小括
よって、相違点1及び相違点2について判断するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲1?甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本件訂正発明3及び5について
本件訂正発明3及び5は、本件訂正発明1をさらに減縮したものであるから、相違点3に係る構成を備えており、よって、上記3と同様に、甲1発明及び甲1?甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由等について
1 甲1に記載された発明に基づく新規性欠如
特許異議申立人は、本件訂正前の請求項1及び5に係る発明が甲1に記載された発明である旨主張する(特許異議申立書第20頁第8行?第21頁末行)が、上記第4で認定判断したとおり、本件訂正発明と甲1に記載された発明との間には相違点が存在し、この相違点は実質的である。
よって、特許異議申立人が主張する上記特許異議申立理由は成り立たない。

2 甲7に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如
特許異議申立人は、本件訂正前の請求項1に係る発明が、甲7に記載された発明(主引用発明)と甲1に記載された発明に基づいて進歩性を欠如する旨主張する(特許異議申立書第22頁7行?第24頁第11行)ので、以下検討する。
(1)甲7に記載された発明の認定
上記第4の2(7)で認定した甲7に記載された事項によれば、甲7には、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
「一方の部材と他方の部材を樹脂によって貼り合わせる方法であって、
少なくとも一方の部材に樹脂を霧状に噴霧することによって当該部材の貼合せ面に樹脂を付与した後、当該部材と他方の部材とを樹脂を介して貼り合わせる部材貼り合わせ方法であって、(【請求項1】)
マイクロレンズアレイパターン36を下にして上記平板マイクロレンズアレイ31を配置し、噴霧部48によって平板マイクロレンズアレイ31の下面の一部又は全面に紫外線硬化樹脂からなる接着樹脂33を霧状に噴霧し、マイクロレンズアレイパターン36の微小な凹凸を接着樹脂33によって埋め、(【0065】)、
ついで、ディスペンサのような樹脂付与部81のノズル82を上に向け、噴霧された接着樹脂33の上から樹脂付与部81によって平板マイクロレンズアレイ31の下面に当該樹脂と同じ接着樹脂33を少量だけ定量付着させ、平板マイクロレンズアレイ31の下面に接着樹脂33をつらら状に垂れ下がらせ、さらに、樹脂付与部81のノズル82を下方へ反転させ、同じ接着樹脂33をガラス基板32の上面に必要十分な量だけ滴下させ、(【0066】)
この後、平板マイクロレンズアレイ31を下降させ、平板マイクロレンズアレイ31の下面をガラス基板32に押し付け、平板マイクロレンズアレイ31下面の接着樹脂33とガラス基板32上面の接着樹脂33を接触させて平板マイクロレンズアレイ31とガラス基板32との間に押し広げ、加圧により平板マイクロレンズアレイ31とガラス基板32の平行度を得て、ついで、ガラス基板32を通して紫外線ランプなどにより紫外線硬化型の接着樹脂33に紫外線を照射し、接着樹脂33を硬化させ、マイクロレンズアレイ素子を得るものであり、(【0067】)
この後、紫外線の後照射を行い、さらにマイクロレンズアレイ素子を85℃で1.2時間ベークして本硬化させる、(【0068】)
平板マイクロレンズアレイ31からなる部材とガラス基板32からなる部材の貼り合わせ方法。」

(2)本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲7発明とを対比すると、両者は、少なくとも、上記第4の3(1)で認定した相違点3で相違する。
そして、甲7及び甲1に相違点3に係る構成が記載も示唆もされておらず、相違点3に係る構成に格別の技術的意義があることは、上記第4の3(2)で説示したとおりである。
したがって、本件訂正発明1は、甲7発明並びに甲7及び甲1に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
よって、特許異議申立人が主張する上記異議申立理由は成り立たない。

3 甲8に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如
特許異議申立人は、本件訂正前の請求項1に係る発明が、甲8(特開2011-64873号公報)に記載された発明(主引用発明)と甲1に記載された発明に基づいて進歩性を欠如する旨主張する(特許異議申立書第24頁12行?第25頁第21行)ので、以下検討する。
(1)甲8(特開2011-64873号公報)に記載された事項
ア 本件優先日の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲8には次の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】」、
「基板部と、該基板部に配列された複数のレンズ部とを有するウェハレベルレンズアレイを転写型により一体に成形するウェハレベルレンズアレイの製造方法であって、
前記転写型は、その表面に少なくとも前記複数のレンズ部に対応する複数の凹部を有し、
前記複数の凹部それぞれに該凹部の容量より多い量の樹脂を供給し、その状態で成形を行うことにより前記凹部より溢れた前記樹脂を一体とすることで前記基板部とするウェハレベルレンズアレイの製造方法。」(【請求項1】)、
「請求項1から6のいずれか1つに記載のウェハレベルレンズアレイの製造方法であって、
前記転写型は、転写面を対面させて対向配置される上型及び下型との一対で構成され、前記一対の型の側面を覆うように配置される胴型を備え、成形時に前記胴型によって前記上型と下型との間から樹脂が溢れることを防止するウェハレベルレンズアレイの製造方法。」(【請求項7】)、
「請求項1から7のいずれか1つに記載のウェハレベルレンズアレイの製造方法であって、
前記一対の型のそれぞれの転写面に設けられた前記凹部ごとに前記樹脂を供給するウェハレベルレンズアレイの製造方法。」(【請求項8】)

(イ)「図12は、基板部の両面にレンズ部を有するウェハレベルレンズアレイを成形する手順の別の例を説明する図である。この例では、図8A及び8Bのように、一対となる型102と型104とでウェハレベルレンズを成形するものとする。型102の複数のレンズ転写部102aのそれぞれには、既に説明したように樹脂10Rが供給される。型102に供給された樹脂10Rは、自重によってレンズ転写部102aの形状に倣って変形する。」(【0065】)、

「この例では型102の上方に配置される型104の各レンズ転写部104aにも樹脂10Rが供給される。型104に供給された樹脂10Rは、樹脂10R自体の粘性によって各レンズ転写部104aの表面に付着された状態である。」(【0066】)、
「型102と型104とを重ね合わすことで、レンズ転写部102aの樹脂10Rと型104のレンズ転写部104aの樹脂10Rとが接触して一体となる。そして、型102及び型104の圧力に応じて、樹脂10Rが所定の形状に変形する。このとき、型104のレンズ転写部104a側に供給された10Rが、各レンズ転写部104aの形状に倣って変形し、この際の樹脂10Rの流動によってレンズ転写部104aのエアが押し出されやすくなる。このため、型102のレンズ転写部102aにのみ樹脂10Rを供給する場合に比べて、より確実にエアの混入を防止することが可能である。」(【0067】)

イ 上記アによれば、甲8には次の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。
「基板部と、該基板部に配列された複数のレンズ部とを有するウェハレベルレンズアレイを転写型により一体に成形するウェハレベルレンズアレイの製造方法であって、
前記転写型は、その表面に少なくとも前記複数のレンズ部に対応する複数の凹部を有し、
前記複数の凹部それぞれに該凹部の容量より多い量の樹脂を供給し、その状態で成形を行うことにより前記凹部より溢れた前記樹脂を一体とすることで前記基板部とするウェハレベルレンズアレイの製造方法であって、(【請求項1】)、
前記転写型は、転写面を対面させて対向配置される上型及び下型との一対で構成され、前記一対の型の側面を覆うように配置される胴型を備え、成形時に前記胴型によって前記上型と下型との間から樹脂が溢れることを防止するものであり、(【請求項7】)、
前記一対の型のそれぞれの転写面に設けられた前記凹部ごとに前記樹脂を供給するものであって、(【請求項8】)
型102の複数のレンズ転写部102aのそれぞれには、樹脂10Rが供給され、(【0065】)
型102の上方に配置される型104の各レンズ転写部104aにも樹脂10Rが供給される、(【0066】)
ウェハレンズアレイの製造方法。」

(2)本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲8発明とを対比すると、両者は、少なくとも、上記第4の3(1)で認定した相違点3で相違する。
そして、甲8及び甲1には、相違点3に係る構成が記載も示唆もされておらず、また、上記第4の3(2)で説示したとおり、相違点3に係る構成には格別の技術的意義がある。
したがって、本件訂正発明1は、甲8発明並びに甲8及び甲1に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
よって、特許異議申立人が主張する上記異議申立理由は成り立たない。

4 特許異議申立人の意見書における主張について
(1)特許異議申立人は、本件訂正発明1には、「前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ」ることと、「前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させる」処理が含まれるが、そのような2つの硬化処理が含まれることは、本件特許の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許当初明細書等」という。)に記載も示唆もされておらず、2つの硬化処理の関係も不明瞭であり、仮に、前者の硬化が型押し用ペースト(6)を完全に硬化させる処理であるならば、後者の硬化はまったく意味のない処理である旨主張する。
ア そこで検討すると、本件訂正発明1には、「前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ、前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させるステップ」(以下「本件ステップ」という。)と特定されているところ、その前後の段落にも「ステップ」が特定されていることからみて、本件ステップにおいてなされている処理の数は1つとみるのが自然である。それを踏まえ、本件ステップに特定された「前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ」ること(以下「第1硬化文言」という。)と、「前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させる」こと(以下「第2硬化文言」という。)との関係をみると、それらの文言にも照らせば、第1硬化文言は硬化がどこから始まるのかを特定しており、第2硬化文言は硬化された状態を特定していると解される。
このような両者の関係からすれば、本件ステップは、第1硬化文言である「前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ」ることを実施した結果として、第2硬化文言である「前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させる」という状態が得られたことを意味していると解するのが相当である。

イ そして、上記アの理解は、本件ステップを説明する本件特許明細書等の記載である【0059】にも沿うものである。
すなわち、当該段落には、「図2cに示した第3プロセスステップでは、本発明による別の一様相、特に独立した別の一様相にしたがい、型押しスタンプ1の後面1rからの、特に型押し用ペースト6の緩やかな硬化が行われる。このために型押しスタンプ1は、ビーム源7の電磁ビーム8に対して透過である。特に好適な一実施形態では、型押し用ペースト6が少なくとも型押し構造体表面2oに沿って硬化した後、上記の緩やかな硬化が停止される。この緩やかな硬化により、各レンズ9のレンズ表面9oが硬化されるのに対し、ビーム源7から遠い側のレンズ底部9bはまだ粘性がありかつ成形可能であり、すなわち支持基板3によって成形して型押し可能である。」と記載されている。そうすると、当該段落は、「型押しスタンプ1の後面1rからの、特に型押し用ペースト6の緩やかな硬化が行われ」た結果として、「型押し用ペースト6が少なくとも型押し構造体表面2oに沿って硬化した」という状態が得られたという関係を記載しているものと解される。
そして、上記第2の2(1)イ(イ)で説示したとおり、当該段落の(i)「型押しスタンプ1の後面1rからの、特に型押し用ペースト6の緩やかな硬化が行われる」ことが、本件ステップのうち第1硬化文言である「前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ」ることに対応し、当該段落の(ii)「型押し用ペースト6が少なくとも型押し構造体表面2oに沿って硬化した」ことが、本件ステップのうち(第2硬化文言である「前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させる」ことに対応している。
このように、本件特許明細書等の【0059】も、第1硬化文言の内容を実施した結果として、第2硬化文言の状態が得られたことを特定していると解されるから、上記アの理解は、本件特許明細書等の記載にも沿う。

ウ 本件ステップは、以上のように解されるのであるから、硬化処理を2つ特定しているわけではなく、よって、その理解を前提に本件ステップが明確でないとする特許異議申立人の主張は、失当である。
さらに、上記イによれば、本件ステップは、本件特許明細書等にも記載されており、しかも、本件特許の願書に添付された明細書又は図面は、本件当初明細書等から補正されていないことからみて、本件特許当初明細書等にも記載されているといえる。

(2)特許異議申立人は、本件訂正発明1の「前記型押し用ペースト(6)を構造体(2)の後面(1r)から硬化させ」ること(第1硬化文言)について、本件特許明細書等には、構造体(2)の後面(1r)から表面(2o)に向かって電磁ビームを照射することにより、構造体(2)の表面に保持された型押し用ペースト(6)を硬化させる態様しか記載されておらず、どのようにして型押し用ペースト(6)を硬化させるか、必ずしも明確とはいえない旨主張する。
しかしながら、第1硬化文言である「前記型押し用ペースト(6)を構造体(2)の後面(1r)から硬化させ」るとの文言自体に特段不明確なところはなく、また、それに対応する本件特許明細書等の【0059】の「・・・型押しスタンプ1の後面1rからの、特に型押し用ペースト6の緩やかな硬化が行われる。このために型押しスタンプ1は、ビーム源7の電磁ビーム8に対して透過である。・・・」の記載についても、当業者が理解するのに特段の差し支えはない。
そうすると、第1硬化文言においてどのようにして型押し用ペースト(6)を硬化させるのかは、当業者であれば技術常識に照らして理解できるものといえる。

(3)特許異議申立人は、本件訂正発明1の「前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させる」こと(第2硬化文言)について、型押し構造体(2)に表面に保持されている型押し用ペースト(6)のある部分については硬化させるが別の部分については硬化させないという意味であるのか、それとも、型押し構造体(2)に接触している部分の型押し用ペースト(6)だけを硬化させる意味であるのか明らかでなく、前者の意味ならば、そのような意味は、本件特許当初明細書等に記載されていない旨主張する。
しかしながら、第2硬化文言である「前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させる」は、その文言からみて、硬化させられた場所が、「前記型押し構造体(2)の表面に沿っ」ていれば足りると解され、この理解は、本件訂正発明1がその後に特定する「前記部分的な硬化の停止後に、・・・前記型押し用ペースト(6)を型押しする」との記載に沿うし、本件特許明細書等の【0059】の「・・・特に好適な一実施形態では、型押し用ペースト6が少なくとも型押し構造体表面2oに沿って硬化した後、上記の緩やかな硬化が停止される。この緩やかな硬化により、各レンズ9のレンズ表面9oが硬化されるのに対し、ビーム源7から遠い側のレンズ底部9bはまだ粘性がありかつ成形可能であり、すなわち支持基板3によって成形して型押し可能である。」との記載からも首肯される。
そして、このように解される以上、上記特定に格別不明確なところがあるとはいえない。

(4)特許異議申立人は、本件訂正発明1の「前記部分的な硬化の停止後に、前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させ」ることについて、一般に、構造体に電磁ビームを照射して反対側にあるペーストを加熱硬化させる場合、電磁ビームの照射から徐々にペーストの硬化が始まり、電磁ビームの照射を停止してもすぐに硬化が停止するわけではないから、「硬化の停止後」とは、電磁ビームの照射が終了してから相当な時間が経過して硬化の進行が停止した後を意味するものとすれば、いつの時点をもって硬化の進行が停止したと判断すべきか、本件特許当初明細書等には記載されていない旨主張する。
しかしながら、本件訂正発明1では、「部分的な硬化の停止後」に、「前記型押しスタンプ(1)を接近させて前記型押し用ペースト(6)を型押し」していることに照らせば、「部分的な硬化の停止後」とは、少なくとも、「前記型押しスタンプ(1)を接近させて前記型押し用ペースト(6)を型押し」することが可能な時点であることを要すると解され、かつ、その理解で足りる。
したがって、特許異議申立人の主張によって、本件訂正発明1が明確でないことにはならない。

(5)特許異議申立人は、本件訂正発明1、3及び5は、甲1に記載された発明、甲2及び甲7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、上記第3で判断したとおりである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立書及び意見書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1、3及び5についての特許を取り消すことはできない。
本件訂正発明2及び4についての特許は、上記のとおり、本件訂正により削除されたため、これらに係る申立は、その対象が存在しないものとなり、よって、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
また、他に本件訂正発明1、3及び5についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの型押し構造体(2)を有する型押しスタンプ(1)によって、支持基板(3)上に少なくとも1つのマイクロ構造体またはナノ構造体を有する複数の個別レンズ(9)を型押しする方法であって、
前記型押しスタンプ(1)と前記支持基板(3)との間に、調量装置(4)を配置するステップと、
前記型押しスタンプ(1)の前記型押し構造体(2)を、前記調量装置(4)に対して重力方向(G)の向きで配向するステップと、
前記調量装置(4)を用いて、前記型押し構造体(2)内に、前記重力方向(G)に対して平行かつ逆向きに型押し用ペースト(6)を調量するステップと、
前記型押し用ペースト(6)を前記型押し構造体(2)の後面(1r)から硬化させ、前記型押し構造体(2)の表面に沿って部分的に硬化させるステップと、
前記部分的な硬化の停止後に、前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させて前記型押し用ペースト(6)を型押しするステップと、を有する方法において、
重力により、凸の型押し用ペースト表面(6o)を前記支持基板(3)の方向に形成し、
前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)を接近させることにより、前記凸の型押し用ペースト表面(6o)によって、前記支持基板(3)との、前記型押し用ペースト(6)の点接触接続が行われ、
前記支持基板(3)の方向に前記型押しスタンプ(1)をさらに接近させることにより、前記支持基板(3)との、前記型押し用ペースト表面(6o)の接触接続面が連続して拡大する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
前記調量装置(4)を用い、前記型押し構造体(2)の対称軸(S)からずらして、前記型押し構造体(2)の縁部において、前記型押し用ペースト(6)を当該型押し構造体(2)内に入れる、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
前記調量装置(4)はノズル(5)を有することができる、請求項1または3に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-01-28 
出願番号 特願2016-534902(P2016-534902)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 841- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 植木 隆和  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 山村 浩
吉野 三寛
登録日 2019-07-26 
登録番号 特許第6559130号(P6559130)
権利者 エーファウ・グループ・エー・タルナー・ゲーエムベーハー
発明の名称 構造体を型押しする方法および装置  
代理人 二宮 浩康  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 前川 純一  
代理人 上島 類  
代理人 山田 卓二  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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