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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1372678
異議申立番号 異議2020-700342  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-18 
確定日 2021-02-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6607335号発明「熱可塑性樹脂組成物及び成形品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6607335号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6607335号の請求項1-6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯及び証拠方法
1 手続の経緯
特許第6607335号(請求項の数9。以下、「本件特許」という。)は、平成31年4月25日(優先権主張:平成30年7月11日、平成31年1月23日)を国際出願日とする特許出願(特願2019-536113号)に係るものであって、令和元年11月1日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和元年11月20日である。)。
その後、令和2年5月18日に、本件特許の請求項1?6に係る特許に対して、特許異議申立人である後藤高志(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年 5月18日 特許異議申立書
同年 7月27日付け 取消理由通知書
同年 9月 4日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年10月29日 意見書(申立人)

2 証拠方法
(1)申立人が異議申立書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開2016-216556号公報
甲第2号証:特許第5806326号
甲第3号証:国際公開2012/176533号
甲第4号証:特開2014-080564号公報
甲第5号証:特許第4876377号
甲第6号証:特許第4094164号
甲第7号証:特許第5482498号
甲第8号証:特開2018-062665号公報
甲第9号証:特開2006-082267号公報
(以下、「甲第1号証」?「甲第9号証」を、それぞれ「甲1」?「甲9」という。)

(2)特許権者が令和2年9月4日に提出した意見書に添付した参考資料は、以下のとおりである。

参考資料1:日本複合材料学会誌、2007年、Vol.33、No.4、pp.141?149
参考資料2:ECS03T-571,ECS03 951EWの安全データシート、整理番号:EC-16J
参考資料3:CSG 3PA-820Sの安全データシート、発行番号:F156-156
参考資料4:REFG-315の安全データシート、整理番号:SDS-336FG01-J9
参考資料5:MEG160FY-M03の安全データシート、整理番号:SDS-336FF-M03-J2


第2 訂正の適否についての判断
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和2年9月4日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?9について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。また、本件願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

1 訂正の内容
・訂正事項1
訂正前の請求項1に「ガラス充填剤(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物」と記載されているのを、「Eガラスよりなるガラス充填剤(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物」と訂正する。
また、本件訂正前の請求項2?9は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?9は、一群の請求項であり、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?9〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された発明特定事項である「ガラス充填剤(C)」について、「Eガラスよりなるガラス充填剤(C)」とその種類について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されたガラス充填剤(C)の種類を、本件明細書の段落【0050】におけるさらに好ましいものに特定するものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3 独立特許要件
(1)請求項1?6について
訂正事項1に係る訂正のうち、本件特許異議の申立てがされている請求項1?6については、独立特許要件の検討を要しない。

(2)請求項7?9について
訂正事項1に係る訂正のうち、本件特許異議の申立てがされていない請求項7?9について検討する。
上記2で検討したとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項7?9に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由を発見しない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5?7項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?9に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項1?9に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明9」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
ビスフェノールAを出発原料とする粘度平均分子量が13,000?22,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂成分と、Eガラスよりなるガラス充填剤(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25?65質量部、ポリエステル樹脂(B)を75?35質量部含み、該熱可塑性樹脂成分100質量部に対してガラス充填剤(C)を10?45質量部含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ガラス充填剤(C)が、扁平率1.5?8の断面形状を持つガラス繊維と、平均厚みが0.1?10μmのガラスフレークのいずれか一方又は双方であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【請求項4】
該成形品の全表面の30%以上の面積を占める成形品表面の表面粗さRaが0.1μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の成形品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるシート。
【請求項6】
厚みが0.2?2mmであることを特徴とする請求項5に記載のシート。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を、キャビティ表面にセラミックス層を具備する金型で射出成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を、キャビティ表面側から、金属層、次いで熱硬化性樹脂層を具備する金型で射出成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を射出成形して成形品を製造する方法であって、急速加熱冷却金型を用い、金型キャビティ表面温度が130℃以上のときに射出工程を行い、金型キャビティ表面温度が80℃以下のときに型開き工程を行うことを特徴とする成形品の製造方法。」


第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。

・取消理由1
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲9、引例A?Bに記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書で申立てた取消理由の概要は、以下に示すとおりである。

・申立理由1-1
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲4、5、9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

・申立理由1-2
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲4?7、9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

・申立理由1-3
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲3に記載された発明及び甲4、5、8、9に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。


第5 当審の判断
当審は、当審が通知した取消理由1及び申立人が申し立てた申立理由1-1?1-3によっては、いずれも、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 甲1?9及び引例A?Bの記載事項
(1)甲1の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先権主張日前に頒布された甲1には、下記の事項が記載されている。

ア「【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)45?55重量%及びポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂(B)55?45重量%からなる樹脂成分100重量部に対して、リン系酸化防止剤(C)0.02?2重量部を含有してなることを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物。
・・・
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。」

イ「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述の諸問題を解決した、すなわち、ポリカーボネート樹脂組成物が本来有する優れた透明性を損なう事なく、所望の剛性感を有し、優れた表面硬度を備えたポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂に特定のポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂を配合する事により、驚くべきことに、ポリカーボネート樹脂本来の透明性を損なう事なく、所望の衝撃強度を有し、かつ表面硬度を著しく改善できることを新規に知見し、本発明を完成するに至った。」

ウ「【0013】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0014】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類が挙げられる。
【0015】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′-ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0016】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、2,4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-エタンおよび2,2-ビス-〔4,4-(4,4′-ジヒドロキシジフェニル)-シクロヘキシル〕-プロパンなどが挙げられる。
【0017】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000?100000、より好ましくは12000?30000、さらに好ましくは14000?26000の範囲である。また、かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0018】
ポリカーボネート樹脂(A)の配合量は、45?55重量%である。55重量%を越えると曲げ剛性に劣り、45重量%未満では表面硬度に劣ることから好ましくない。より好ましい配合量は、48?52重量%である。
【0019】
本発明にて使用されるポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂(B)は、特許第3432830号公報に開示されている。これからなる成形品は単独で使用された場合であっても、透明性を有し、対応力亀裂性を持ち、又、強度、剛性、耐衝撃性及び加水分解抵抗性を含む優れた物理学的性質を有している。
【0020】
ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂はテレフタル酸及び/またはその誘導体90?40モル%、好ましくは85?52モル%、さらに好ましくは83?53モル%と、追加の二塩基酸10?60モル%、好ましくは15?48モル%、さらに好ましくは17?48モル%からの反復単位を含んでおり、かつグリコール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノールからの反復単位を含んでいるものを用いることが出来る。
【0021】
テレフタル酸の誘導体としては、テレフタル酸のジアルキルエステルジアリールエステル等が挙げられ、例えば、ジメチルテレフタレート、ジエチルテレフタレート等を用いることが出来る。
【0022】
追加の二塩基酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、スチルベンジカルボン酸等、またはこれらの2種以上の組み合わせを用いる事が出来る。シクロヘキサンジカルボン酸としては1、3-及び/又は1、4シクロヘキサンジカルボン酸を用いることが出来る。追加の二塩基酸の代わりにメチルエステルのような低級アルキルエステルを使用することも出来る。
【0023】
グリコール成分は、炭素数が好ましくは2?20の1種又は、それ以上の追加の脂肪族または脂環式グリコールをさらに含むことが出来る。これらの他のグリコールはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール及び2、2、4、4-テトラメチルシクロブタンジオールからなる群から選ばれることが出来る。エチレングリコールが特に好ましい。
【0024】
より詳しくは、酸成分としてジメチルテレフタレートを含み、グリコール成分として1,4-シクロヘキシレンジメタノール及び2,2,4,4-テトラメチルシクロブタンジオールを含むコポリエステル樹脂であることが望ましい。
【0025】
又、このポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂としては、溶液100mL中にポリマー0.5gを含む60/40フェノール/テトラクロロエタン溶液中で測定したインヘレント粘度が0.4?1.1dL/gであることが好ましい。
【0026】
このポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂は、分枝剤を使用して合成されたものを用いる事も出来る。分枝剤としては例えば無水トリメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸二無水物、トリメシン酸、ヘミメリット酸、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、 1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ソルビトール、1,1,4,4-テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、ジペンタエリトリトールなどを少量(1.5モル%未満)使用する事も出来る。
【0027】
ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂は公知の溶融相または固相重合法を用いて容易に製造出来る。これらは回分法でも連続法でも製造出来る。これらの方法の例は米国特許第4,256,861号明細書、同第4,539,390号明細書及び同第2,901,466号明細書に開示されており、直接縮合による製造もエステル交換による製造も含む。
【0028】
ポリ(1,4-シクロヘキシレンジエチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂の市販例としては、下記のイーストマン・ケイカル社製のトライタンシリーズ(例えば、耐熱99℃(HDT:0.45MPa)のグレード;TX1001:TX1000の射出成形用グレード、TX1500HF:TX1000の高流動グレード、TX2000:耐熱109℃(HDT:0.45MPa)のグレード、TX2001:TX2000の射出成形用グレードを挙げることが出来る。」

エ「【0035】
更に、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に各種の樹脂、酸化防止剤、蛍光増白剤、顔料、染料、カーボンブラック、充填材、離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、軟化材、展着剤(流動パラフィン、エポキシ化大豆油等)、難燃剤、有機金属塩等の添加剤、を配合しても良い。」

オ「【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲においては、任意に変更乃至改変して実施することができる。なお、特に断りのない限り、実施例中の「%」及び「部」は、それぞれ重量基準に基づく「重量%」及び「重量部」を示す。
【0038】
使用した原料の詳細は以下のとおりである。
1.ポリカーボネート樹脂(A):
ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
住化スタイロンポリカーボネート社製 カリバー200-20、粘度平均分子量 19000、以下、「PC」と略記
2.ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル (B):
イーストマン・ケイカル社製 トライタンTX1001 以下、「PE」と略記
3.リン系酸化防止剤(C):
クラリアントジャパン社製P-EPQ 以下「AO」と略記
【0039】
(ポリカーボネート樹脂組成物ペレットの作成)
前述の各種配合成分を表1に示す配合比率にて、二軸押出機(神戸製鋼所製KTX37)を用いて、溶融温度260℃にて混練し、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。得られたポリカーボネート樹脂組成物はポリカーボネート樹脂及び他原料の混合物を第一フィーダー(原料供給口)から押出機バレル内に供給し、樹脂を十分に、溶融混練を行い、ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを得た。
【0040】
(成形品の曲げ弾性率の評価)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ100?120℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J-100E-C5)を用いて設定温度260℃、射出圧力1600kg/cm2にてISO試験法に準じた厚み4mmの試験片を作成し、得られた試験片を用いてISO 178に準じ曲げ弾性率(剛性)を測定し、曲げ弾性率が1900MPa以上を良好とした。
【0041】
(光線透過率、黄色度測定用試験片の作成方法)
得られた各種ペレットを100?120℃で4時間乾燥した後に、射出成形機(日本製鋼所製J-100SAII)を用いて280℃、射出圧力1200Kg/cm^(2)にて色度、透過率および曇価率測定用試験片(90x50x3mm)を作成した。
【0042】
(光線透過率、黄色度の評価方法)
村上色彩研究所製ヘーズメーターHM-150を用いて光線透過率を測定した。全光線透過率Ttが89.5%以上を良好とした。また、村上色彩研究所製CMS-35SPを用いて黄色度の測定を行った。黄色度YIが3以下を良好とした。結果を表1および表2に示した。
【0043】
(表面硬度の評価方法)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ100?120℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J-100E-C5)を用いて設定温度260℃、射出圧力1600kg/cm2にて平板(90mm×150mm×3mm)を作成した。得られた試験片を用いてJIS K5600-5-4に準じ、東洋精機製鉛筆硬度測定機形式NPを用いて鉛筆硬度を測定した。鉛筆硬度はF以上を良好とした。
【0044】
【表1】

【0045】
実施例1?3に示すように、本発明の構成要件を満足するものについては、要求性能を全て満たしていた。
【0046】
一方、比較例1?4に示すように、本発明の構成要件を満足しないものについては、それぞれ次のとおり欠点を有していた。
比較例1は、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂(PE)の配合量が規定量よりも少ない場合で、鉛筆硬度が不良となった。
比較例2は、リン系酸化防止剤(AO)が規定量よりも少ない場合で、黄色度が不良となった。
比較例3は、リン系酸化防止剤(AO)が規定量よりも多い場合で、黄色度が不良となった。
比較例4は、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂(PE)の配合量が規定量よりも多い場合で、曲げ弾性率が不良となった。」

(2)甲2の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先権主張日前に頒布された甲2には、下記の事項が記載されている。

ア「【請求項1】
ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂とを含み、
前記ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂が、酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)を含み、グリコール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)および2,2,4,4-テトラメチル-シクロブタンジオール(TMCD)を含むコポリエステル樹脂であり、
前記ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂を60重量%?95重量%含み、前記ポリカーボネート樹脂を5重量%?40重量%含み、
前記ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂と前記ポリカーボネート樹脂との溶融粘度比((ポリカーボネート樹脂の溶融粘度)/(ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂の溶融粘度))が、280℃、剪断速度10(sec^(-1))で、2.0以上であり、
前記ポリカーボネート樹脂のMFR値(300℃、1.2kg)が15g/10min未満である、樹脂組成物。」

イ「【0018】
発明が解決しようとしている第一の課題は、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂に、他の樹脂を加えてポリマーアロイ化して樹脂組成物を提供し、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂の問題点である耐候性及び低温の耐衝撃性を有していると同時に、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステルが有している耐薬品性、常温での耐衝撃性を維持している特性の新規な樹脂組成物を提供することである。」

ウ「【0044】
(第1の実施形態)
本発明の一実施形態としては、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂とを含み、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂を60重量%?95重量%含み、ポリカーボネート樹脂を5重量%?40重量%含む、樹脂組成物である。
【0045】
本発明による樹脂組成物は、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂を、60?95重量%で用いる。この値は、例えば、65重量%以上でもよく、70重量%以上でもよく、75重量%以上であってもよい。また、90重量%以下でもよく、85重量%以下でもよく、80重量%以下であってもよい。
【0046】
また、ポリカーボネート樹脂を、5?40重量%で用いる。この値は、例えば、10重量%以上でもよく、15重量%以上でもよく、20重量%以上であってもよい。また、35重量%以下でもよく、30重量%以下でもよく、25重量%以下であってもよい。
【0047】
樹脂組成物は、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂のみからなってもよく、また、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の樹脂成分が含まれてもよい。さらに、任意の添加剤が含まれてもよい。
【0048】
ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂では問題とされてきた耐候性及び低温の耐衝撃性が低下する特性を改善して、耐候性及び低温の耐衝撃性に優れるとともに、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステルが有している耐薬品性、常温での耐衝撃性を維持している新規な樹脂組成物を得ることができる。
【0049】
また、本発明による樹脂組成物は、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂本来の優れた耐薬品性とともに、透明性を維持することができる。これによって、透明な材料への応用が広がる。」

エ「【0065】
ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂としてトライタン「TX1000」(トライタン一般グレード、イーストマン・ケミカル社製)を100重量%?50重量%まで、一方のポリカーボネート樹脂としてポリカーボネート「302-4」(標準グレード、住化スタイロンポリカーボネート株式会社製)を0?50重量%まで変化させた試験片について各試験を行った結果について、後述する実施例の表3を参照して説明する。
・・・
【0093】
ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂としてトライタン「TX1000」(一般グレード、イーストマン・ケミカル社製)を80重量%、一方のポリカーボネート樹脂としてポリカーボネート「302-4」(標準グレード、住化スタイロンポリカーボネート株式会社製)を20重量%とする合計100重量部に紫外線吸収剤(ベンゾオキサジン系化合物;サイテック社製サイアソーブUV-3638(2,2’-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン))および加水分解防止剤(カルボジイミド系化合物;日清紡ケミカル株式会社製LA-1(ポリ(4,4’-メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド))を合計で0.0?7.0重量部添加した試験片について各試験を行った結果について、後述する実施例の表4を参照して説明する。」

オ「【0114】
試験に使用するポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート「302-4」(標準グレード、住化スタイロンポリカーボネート株式会社製)、ポリカーボネート「E2000UR」(押出用一般ポリカーボネート、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)、ポリカーボネート「S2000U」(標準グレード、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)、ポリカーボネート「302-15」(標準グレード、住化スタイロンポリカーボネート株式会社製)である。」

カ「【0122】
本発明で用いるポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂としては、酸成分がテレフタル酸及び/またはその誘導体90?40モル%、好ましくは85?52モル%、さらに好ましくは83?53モル%と、追加の二塩基酸10?60モル%、好ましくは15?48モル%、さらに好ましくは17?48モル%からの反復単位を含んでおり、且つグリコール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノールからの反復単位を含んでいるものを用いることができる。」

キ「【0126】
グリコール成分は、炭素数が好ましくは2?20の1種またはそれ以上の追加の脂肪族または脂環式グリコールをさらに含むことができる。これらの他のグリコールは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール及び2,2,4,4,-テトラメチルシクロブタンジオールからなる群から選ばれることができる。エチレングリコールが特に好ましい。」

ク「【0139】
ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物と、カーボネート前駆体とを反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性の芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体を用いることができる。」

ケ「【0148】
ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)としては、2×10^(4)?3×10^(4)であることが好ましい。」

コ「【実施例】
【0197】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
以下の実施例を通して、使用した成分は以下の通りである。
トライタン「TX1001」:ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂、イーストマン・ケミカル社製、通常グレードのトライタン。トライタン射出一般グレードである。
トライタン「TX1000」:ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂、イーストマン・ケミカル社製。
PC「E2000UR」:ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、低流度グレード。押出用一般ポリカーボネートである。
PC「302-4」:ポリカーボネート樹脂、住化スタイロンポリカーボネート株式会社製、低流度グレード。
PC「S2000U」:ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、中流度グレード。
PC「302-15」:ポリカーボネート樹脂、住化スタイロンポリカーボネート株式会社製、高流度グレード。
紫外線吸収剤「UV-3638」:サイテック社製サイアソーブUV-3638。
加水分解防止剤「LA-1」:カルボジライト「LA-1」、日清紡ケミカル株式会社製。
【0198】
また、以下の実施例では、特に説明のない限り、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂としてトライタンとポリカーボネート樹脂としてPCとをポリマーアロイ化する工程は、各樹脂を容器に投入し、150?180rpmで攪拌しながら、温度270?280℃で溶融して混練して押し出した。
【0199】
<1.樹脂組成物の配合量の試験>
以下に、トライタン「TX1001」及びPC「E2000UR」を用いて特定の割合でポリマーアロイ化を行い、得られた樹脂組成物について試験を行った。以下にその内容を示す。結果を表1に示す。
【0200】
(比較例1)
トライタン「TX1001」及びPC「E2000UR」を100対0(重量比)の割合でポリマーアロイ化を行って、得られた組成物について各種の試験を行った。
【0201】
(実施例1)
トライタン「TX1001」及びPC「E2000UR」を90対10(重量比)の割合でポリマーアロイ化を行って、得られた組成物について各種の試験を行った。
【0202】
(実施例2)
トライタン「TX1001」及びPC「E2000UR」を80対20(重量比)の割合でポリマーアロイ化を行って、得られた組成物について各種の試験を行った。
【0203】
(実施例3)
トライタン「TX1001」及びPC「E2000UR」を70対30(重量比)の割合でポリマーアロイ化を行って、得られた組成物について各種の試験を行った。
【0204】
(実施例4)
トライタン「TX1001」及びPC「E2000UR」を70対30(重量比)の割合で、この合計100重量部に対して紫外線吸収剤「UV-3638」を0.5重量部及び加水分解防止剤「LA?1」を0.25重量部を添加してポリマーアロイ化を行って、得られた組成物について各種の試験を行った。
【0205】
(実施例5)
トライタン「TX1001」及びPC「E2000UR」を70対30(重量比)の割合で、この合計100重量部に対して紫外線吸収剤「UV-3638」を0.5重量部及び加水分解防止剤「LA?1」を0.25重量部、及び白色顔料(酸化チタン)2重量部を添加してポリマーアロイ化を行って、得られた組成物について各種の試験を行った。
【0206】
【表1】

【0207】
<2.樹脂組成物の耐薬品性の試験>
(実施例6)
試験試料として、トライタン「TX1001」及びPC「E2000UR」を70対30(重量比)の割合でポリマーアロイ化を行って得られた樹脂組成物を用意した。この試験試料を用いて、水酸化ナトリウム(10重量%水溶液)、硝酸(40重量%水溶液)、エタノール、水溶性切削油であるネオスクリアカット(10重量%水溶液)、シリンダー洗浄剤であるヘンケルジャパン株式会社製ヘンケルP3(3重量%水溶液)による耐薬品試験を行った。ネオスクリアカットは株式会社ネオス製「HS-33A」である。
【0208】
耐薬品試験では、試験試料を用いてダンベル型2mm厚みの試験片を作製し、定ひずみ約0.5%、浸漬条件は3時間、N数は3(結果は平均値)とし、環境応力割れ試験を行った。評価基準を以下に示す。その他の条件は、上記した「(7)環境応力割れ試験」に従った。
【0209】
浸漬前後の試験片の引張破断伸び(%)を求め、以下の基準にしたがって評価した。引張破断伸び(%)は、引張破断伸び(%)=(浸漬後の値)/(浸漬前の値)×100で求めた。
◎:85%以上
○:70%以上85%未満
△:30%以上70%未満
×:30%未満、破断しているため引張試験実施できず
白化、黄変、曇りは評価を1段階下げる
【0210】
(比較例2)
比較例として、PC「E2000UR」100重量%の樹脂組成物について同様に試験を行った。
【0211】
結果を表2に示す。表2では、実施例6の樹脂組成物を「アロイ」と表記し、比較例2のPC100重量%の樹脂組成物を「PC」と表記する。
【0212】
【表2】

【0213】
<3.樹脂の溶融粘度比の試験>
[樹脂種類]
試験に使用した樹脂の種類を以下に示す。
CPE:トライタン「TX1000」:通常のグレードのトライタン。
PC1:PC「302-4」:低流度グレード。300℃、1.2kgにおけるMFR値が4g/10minのポリカーボネート。
PC2:PC「E2000UR」:低流度グレード。300℃、1.2kgにおけるMFR値が5g/10minのポリカーボネート。
PC3:PC「S2000U」:中流度グレード。300℃、1.2kgにおけるMFR値が15g/10minのポリカーボネート。
PC4:PC「302-15」:高流度グレード。300℃、1.2kgにおけるMFR値が15g/10minのポリカーボネート。
【0214】
[樹脂の溶融粘度比の測定]
上記各樹脂について溶融粘度を測定した。樹脂の溶融粘度は、「プラスチック?キャピラリーレオメータ及びスリットダイレオメータによるプラスチックの流れ特性試験方法(JISK7199)」に基づいて測定した。使用した試験機の概略断面図を図10に示す。
【0215】
試料となる樹脂ペレットを試験機のバレルに入れ、規定の温度(280℃)に達するまで予熱したあと、ピストンを一定速度で動かし樹脂を押し出した。このときのピストンの速度と内圧より、樹脂のせん断速度および溶融粘度を求めた。なお、L=10.0mm、D=φ1.0mmのキャピラリーダイを用いた。
【0216】
測定した結果を図11に示す。図11は、剪断速度に対する溶融粘度を示すグラフである。この結果から、CPE(トライタン)に対する各PC1?4の溶融粘度比((PC樹脂の溶融粘度)/(CPEの溶融粘度))を求め、図12に示す。図12は、剪断速度に対する溶融粘度比を示すグラフである。
【0217】
図12に示す通り、CPE(トライタン)に対する各PC1?4の溶融粘度比は、280℃、剪断速度10(sec^(-1))で、PC1で4.9、PC2で3.4、PC3で2.1、PC4で1.8であった。
【0218】
<A.樹脂組成物の種類と配合割合、添加剤についての試験>
以下の実施例を通じて使用した成分は、以下の通りである。
(1)CPE:酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)を含み、グリコール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)および2,2,4,4-テトラメチル-シクロブタンジオール(TMCD)を含むコポリエステル樹脂、イーストマン・ケミカル社製、通常グレードのトライタン。トライタン「TX1000」。
(2)PC1:MFR値(300℃、1.2kg)が4.0の一般的なポリカーボネート樹脂。PC「302-4」。
(3)PC2:MFR値(300℃、1.2kg)が5.0の一般的なポリカーボネート樹脂。PC「E2000UR」。
(4)PC3:MFR値(300℃、1.2kg)が10.0の一般的なポリカーボネート樹脂。PC「S2000U」。
(5)PC4:MFR値(300℃、1.2kg)が15.0の一般的なポリカーボネート樹脂。PC「302-15」。
(6)紫外線吸収剤:ベンゾオキサジン系化合物、サイテック社製サイアソーブUV-3638(2,2’-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)。
(7)水分解防止剤:カルボジイミド系化合物、日清紡ケミカル株式会社製LA-1(ポリ(4,4’-メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド))。
【0219】
「面衝撃試験および耐薬品性試験」
(実施例A1)
CPEとPC1(5重量%)の混合物よってつくられた試験片による面衝撃試験および耐薬品性試験の結果である。
【0220】
(実施例A2)
CPEとPC1(20重量%)の混合物よってつくられた試験片による面衝撃試験および耐薬品性試験の結果である。
【0221】
(実施例A3)
CPEとPC1(30重量%)の混合物よってつくられた試験片による面衝撃試験および耐薬品性試験の結果である。
【0222】
(実施例A4)
CPEとPC1(40重量%)の混合物よってつくられた試験片による面衝撃試験および耐薬品性試験の結果である。
【0223】
(比較例A1)
CPE単体よってつくられた試験片による面衝撃試験および耐薬品性試験の結果である。
【0224】
(比較例A2)
CPEとPC1(3重量%)の混合物よってつくられた試験片による面衝撃試験および耐薬品性試験の結果である。
【0225】
(比較例A3)
CPEとPC1(50重量%)の混合物よってつくられた試験片による面衝撃試験および耐薬品性試験の結果である。
【0226】
上記した面衝撃試験および耐薬品性試験の結果を表3に示す。これらの試験方法は、上記した通りである。
【0227】
【表3】

【0228】
「耐候性試験前後のシャルピー衝撃試験」
(実施例A5)
CPEとPC1(30重量%)の混合物に、この混合物100重量部に対し、紫外線吸収剤を0.05重量部、加水分解防止剤を0.05重量部、両者の合計0.10重量部が添加されてつくられた試験片による耐候性試験前後のシャルピー衝撃試験の結果である。
【0229】
(実施例A6)
CPEとPC1(30重量%)の混合物に、この混合物100重量部に対し、紫外線吸収剤を0.50重量部、加水分解防止剤を0.50重量部、両者の合計1.00重量部が添加されてつくられた試験片による耐候性試験前後のシャルピー衝撃試験の結果である。
【0230】
(実施例A7)
CPEとPC1(30重量%)の混合物に、この混合物100重量部に対し、紫外線吸収剤を1.00重量部、加水分解防止剤を1.00重量部、両者の合計2.00重量部が添加されてつくられた試験片による耐候性試験前後のシャルピー衝撃試験の結果である。
【0231】
(実施例A8)
CPEとPC1(30重量%)の混合物に、この混合物100重量部に対し、紫外線吸収剤を3.00重量部、加水分解防止剤を3.00重量部、両者の合計6.00重量部が添加されてつくられた試験片による耐候性試験前後のシャルピー衝撃試験の結果である。
【0232】
(参考例A1)
紫外線吸収剤および加水分解防止剤を含まないCPEとPC1(30重量%)の混合物によってつくられた試験片による耐候性試験前後のシャルピー衝撃試験の結果である。
【0233】
(参考例A2)
CPEとPC1(30重量%)の混合物に、この混合物100重量部に対し、紫外線吸収剤を3.50重量部、加水分解防止剤を3.50重量部、両者の合計7.00重量部が添加されてつくられた試験片による耐候性試験前後のシャルピー衝撃試験の結果である。
【0234】
(実施例A9)
CPEとPC1(30重量%)の混合物に、この混合物100重量部に対し、紫外線吸収剤のみ2.00重量部が添加されてつくられた試験片による耐候性試験前後のシャルピー衝撃試験の結果である。
【0235】
(実施例A10)
CPEとPC1(30重量%)の混合物に、この混合物100重量部に対し、加水分解防止剤のみ2.00重量部が添加されてつくられた試験片による耐候性試験前後のシャルピー衝撃試験の結果である。
【0236】
上記した耐候性試験前後のシャルピー衝撃試験の結果を表4に示す。この試験方法は、上記した通りである。
【0237】
【表4】

【0238】
「耐薬品性試験」
(実施例A11)
CPEとPC1(30重量%)の混合物よってつくられた試験片による耐薬品性試験の結果である。
【0239】
(実施例A12)
CPEとPC2(30重量%)の混合物よってつくられた試験片による耐薬品性試験の結果である。
【0240】
(実施例A13)
CPEとPC3(30重量%)の混合物よってつくられた試験片による耐薬品性試験の結果である。
【0241】
(参考例A3)
CPEとPC4(30重量%)の混合物よってつくられた試験片による耐薬品性試験の結果である。
【0242】
上記した耐薬品性試験の結果を表5に示す。この試験方法は、上記した通りである。
【0243】
【表5】

【0244】
<B.ヘルメット衝撃吸収性試験・耐貫通性試験>
以下の実施例を通じて使用した成分は、以下の通りである。
トライタン「TX1000」:ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂、トライタン射出一般グレード、イーストマン・ケミカル社製。
ポリカーボネート「302-4」:ポリカーボネート樹脂、標準グレード、住化スタイロンポリカーボネート株式会社製。
紫外線吸収剤UV-3638:ベンゾオキサジン系化合物、サイテック社製サイアソーブUV-3638(2,2’-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)。
加水分解防止剤LA-1:カルボジイミド系化合物、日清紡ケミカル株式会社製LA-1(ポリ(4,4’-メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)。
酸化チタン:顔料。
【0245】
ヘルメット衝撃吸収性試験・耐貫通性試験の評価方法は、上記した試験方法に従った。評価結果を表6に示す。
【0246】
(実施例B1)
トライタン「TX1000」80重量%、ポリカーボネート「302-4」20重量%(合計100重量部)に対して、さらに紫外線吸収剤UV-3638を0.5重量部、加水分解防止剤LA-1を0.5重量部、顔料として酸化チタン2重量部を含む樹脂組成物を調整した。この樹脂組成物により射出成形した産業用ヘルメットシェル(以下、シェルともいう。)を作製した。このシェルを用いて、MP型の産業用ヘルメット(ミドリ安全株式会社製SC-MPC RA)の試験を行った。表6より、8つ全ての試験結果が合格であった。
【0247】
(実施例B2)
トライタン「TX1000」80重量%、ポリカーボネート「302-4」20重量%(合計100重量部)に対して、さらに紫外線吸収剤UV-3638を0.5重量部、加水分解防止剤LA-1を0.5重量部含む樹脂組成物を調整した。この樹脂組成物により射出成形した透明つばを作製した。
【0248】
次に、トライタン「TX1000」80重量%、ポリカーボネート「302-4」20重量%(合計100重量部)に対して、さらに紫外線吸収剤UV-3638を0.5重量部、加水分解防止剤LA-1を0.5重量部、顔料として酸化チタン2重量部を含む樹脂組成物を調整した。この樹脂組成物により射出成形したシェルを作製した。
【0249】
このシェルに上記した透明つばをインサート成形により取り付けた。このシェルを用いて、欧米型のクリアバイザー付き産業用ヘルメット(SC-11PCL RA)の試験を行った。表6より、8つ全ての試験結果が合格であった。
【0250】
(実施例B3)
トライタン「TX1000」80重量%、ポリカーボネート「302-4」20重量%(合計100重量部)に対して、さらに紫外線吸収剤UV-3638を0.5重量部、加水分解防止剤LA-1を0.5重量部含む樹脂組成物を調整した。この樹脂組成物により射出成形した透明つばを作製した。
【0251】
次に、トライタン「TX1000」80重量%、ポリカーボネート「302-4」20重量%(合計100重量部)に対して、さらに紫外線吸収剤UV-3638を0.5重量部、加水分解防止剤LA-1を0.5重量部、顔料として酸化チタン2重量部を含む樹脂組成物を調整した。この樹脂組成物により射出成形したシェルを作製した。
【0252】
このシェルに上記した透明つばをインサート成形により取り付けた。このシェルを用いて、シールド面内蔵型の産業用ヘルメット(SC-15PCLVS RA KP)の試験を行った。表6より、8つ全ての試験結果が合格であった。
【0253】
(比較例B1)
トライタン「TX1000」100重量部に対して、さらに紫外線吸収剤UV-3638を0.5重量部、加水分解防止剤LA-1を0.5重量部、顔料として酸化チタン2重量部を含む樹脂組成物を調整した。この樹脂組成物により射出成形したシェルを作製した。このシェルを用いて、MP型の産業用ヘルメット(ミドリ安全株式会社製SC-MPC RA)の試験を行った。表6より、低温暴露後のヘルメット衝撃吸収性試験:飛来・落下用及び低温暴露後のヘルメット衝撃吸収性試験:墜落時保護用では、試験の際にシェルが大きく破損したため不合格であった。
【0254】
表6に示す通り、各実施例では、
トライタン「TX1000」80重量%、ポリカーボネート「302-4」20重量%を主成分とする樹脂組成物から作製された産業用ヘルメットシェルを使用する産業用ヘルメットは、その形状によらず全ての試験項目に合格した。このことから、本発明の樹脂組成物により労働安全衛生法規格検定の合格性能を有する産業用ヘルメットを作製可能だといえる。
【0255】
対して、比較例では、トライタン「TX1000」100重量部を主成分とする樹脂組成物から作製された産業用ヘルメットシェルを使用する産業用ヘルメットは、低温暴露後のヘルメット衝撃吸収性試験:飛来・落下用及び低温暴露後のヘルメット衝撃吸収性試験:墜落時保護用で不合格であった。このことから、比較例の樹脂組成物により労働安全衛生法規格検定の合格性能を有する産業用ヘルメットを作製不可能だといえる。
【0256】
【表6】



(3)甲3の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先権主張日前に頒布された甲3には、下記の事項が記載されている。

ア「【請求項1】
(A)共重合ポリエステル系樹脂と(B)芳香族ポリカーボネート系樹脂とのポリマーアロイからなるカード用シートであって、
前記ポリマーアロイを構成する前記(A)共重合ポリエステル系樹脂は、(a)テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位と(b)1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(I)、及び2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール単位(II)を主とするグリコール単位とからなり、
前記1,4-シクロヘキサンジメタノール単位(I)と2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール単位(II)との割合が、前記(I)/前記(II)=80?50/20?50モル%であり、
前記(A)共重合ポリエステル系樹脂のガラス転移温度が90℃以上であり、
更に、前記ポリマーアロイを構成する前記(A)共重合ポリエステル系樹脂と前記(B)芳香族ポリカーボネート系樹脂との割合が、前記(A)共重合ポリエステル系樹脂20?80質量%、前記(B)芳香族ポリカーボネート系樹脂80?20質量%であるカード用シート。」

イ「【0027】
[1]本発明のカード用シートの構成材料:
本発明のカード用シートは、(A)共重合ポリエステル系樹脂(以下、PCT系樹脂と略する)と(B)芳香族ポリカーボネート系樹脂(以下、PC系樹脂と略する)とのポリマーアロイからなるカード用シートである。
【0028】
(ポリマーアロイを構成するPCT系樹脂)
ここで、ポリマーアロイを構成する前記PCT系樹脂は、(a)テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位と(b)CHDM(I)、及びTMCB(II)を主とするグリコール単位とからなり、かつ、CHDM(I)とTMCB(II)とが、(I)/(II)=80?50/20?50モル%、好ましくは(I)/(II)=70?50/30?50モル%である。CHDM(I)の割合が、多くなり過ぎる(80モル%を超える)と、結晶生成が生じてくることによりシートに異方性がみられるようになり好ましくない。また、接着性等の問題点が生じ不都合である。逆に、CHDM(I)の割合が、少な過ぎる(50モル%未満)と、耐熱性がより向上する反面、柔軟性が低下し、また耐衝撃強さも低下してくるようになる。要するに、(I)と(II)のモル割合が、前記した範囲を外れると、透明性、耐熱性と耐衝撃性が劣るようになる。また、他のシートとの良好な加熱融着性が得られない。更に(I)と(II)のモル割合が、前記した範囲を外れたポリマーアロイにレーザー光エネルギー吸収体を含ませてなる樹脂組成物から形成されるカード用シートは、コントラストが高いレーザーマーキングを得ることが困難になる。
・・・
【0031】
(ポリマーアロイを構成するPC系樹脂)
本発明のポリマーアロイを構成する、もう一方の成分であるPC系樹脂としては、好ましくは、透明なPC系樹脂が使用される。使用されるPC系樹脂は特に制限はないが、ISO1133に準じて測定したメルトボリュームレイトが4?30cm^(3)/10分のものが好適に使用できる。メルトボリュームレイトが4cm^(3)/10分未満のPC系樹脂と前記PCT系樹脂とのポリマーアロイからなるカード用シートは、シートのタフネス性が向上するという点では意味はあるものの、成形加工性が劣ることから、実際の使用に難があるため好ましくない。また、メルトボリュームレイトが30cm^(3)/10分を超えると、カード用シートのタフネス性に劣ることから、好ましくない。
【0032】
更に、このPC系樹脂としては、例えば、商品名「タフロンFN2200A」、「タフロンFN2500A」(出光興産製)が商業的に入手可能なものとして挙げられる。このPC系樹脂も、上記PCT系樹脂と同様に、上記したような特性を有するものであれば、上記以外のグレードの市販品や合成品も使用することができる。
【0033】
(ポリマーアロイを構成するPCT系樹脂とPC系樹脂の配合割合)
更に、ポリマーアロイを構成するガラス転移温度が90℃以上のPCT系樹脂とPC系樹脂との配合割合は、PCT系樹脂20?80質量%に対して、PC系樹脂80?20質量%とすることが必要であり、PC系樹脂の混合比率が20質量%未満では、耐熱性、及びタフネス性が劣り、好ましくない。また、このポリマーアロイにレーザー光エネルギー吸収体を配合し、レーザー発色機能を付与する場合には、レーザー発色性に劣るため好ましくない。また、PCT系樹脂が20質量%未満では、カードを構成する他のシートと真空プレス機による加熱プレス積層工程において低温での加熱融着性に劣る。より好ましくはPCT系樹脂30?70質量%に対してPC系樹脂70?30質量%である。」

ウ「【0036】
(カード用シートの厚さ)
更に、本発明のカード用シートは、厚さが50?400μmの厚さに形成されることが望ましい。」

エ「【0058】
更に、本発明のカード用シートを構成するポリマーアロイには、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、カードの耐光劣化性を抑制する目的で、紫外線吸収剤、光安定剤を配合することもできる。また、その他の添加剤等を配合することもできる。」

オ「【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例、及び比較例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、以下の実施例、及び比較例における「部」、及び「%」は特に断りのない限り、「質量部」、及び「質量%」を意味する。また、実施例、及び比較例における各種の評価、測定は、下記方法により実施した。
【0066】
(オーバーシートA?Fの透明性、耐熱性、及び耐衝撃性)
プラスチックカードのオーバーシートとして用いることを目的とし、実施例1?2、及び比較例1?4で製造したオーバーシートA?Fにつき、透明性、耐熱性、及び耐衝撃性を下記のようにして調べた。それらの結果を表1、及び表2に、実施例1?2、及び比較例1?4として示した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
[1]オーバーシートの透明性:
オーバーシートの全光線透過率を、分光光度計EYE7000(マクベス社製)により測定し、以下の判定基準で評価した。
○:全光線透過率80%以上、透明性に優れる。
△:全光線透過率60%以上80%未満、透明性が良好。
×:全光線透過率60%未満、透明性に劣る。
【0070】
[2]オーバーシートの耐熱性:
オーバーシートビカット軟化温度(JIS K7206)に準拠して測定し、以下の判定基準で評価した。
○:ビカット軟化温度140℃以上
△:ビカット軟化温度100℃以上、140℃未満
×:ビカット軟化温度90℃未満
【0071】
[3]オーバーシートの耐衝撃性:
オーバーシートの引張衝撃強度(ISO 8256)準拠して測定し、以下の判定基準で評価した。
○:引張衝撃強度2500KJ/cm^(2)以上
△:引張衝撃強度1500以上2500KJ/cm^(2)未満
×:引張衝撃強度1500KJ/cm^(2)未満
【0072】
(プラスチックカード用多層積層体の離型性、気泡抜け性、加熱融着性、レーザー印字性)
実施例1?2、及び比較例1?4で製造したオーバーシートA?F、実施例3?4、及び比較例5?8で製造したコアシートG?Lを、表1、及び表2に示すような構成となるように積層してプラスチックカード用多層積層体を得た。これらのプラスチックカード用多層積層体の離型性、気泡抜け性、加熱融着性、レーザー印字性を下記の評価方法にて評価し、表1、及び表2に示した。
【0073】
[4]プラスチックカード用多層積層体の離型性:
実施例1?2、及び比較例1?4で得たオーバーシートA?F、実施例3?4、及び比較例5?8で得たコアシートG?Lを、表1、及び表2に記載したような配置構成にて2枚のクロムメッキ鋼板(金型)で挟んだ。ついで、加熱プレス温度160℃、プレス圧力3.923MPa(40Kgf/cm^(2))にて10分間保持(加熱加圧)した。その後、室温まで冷却した後、クロムメッキ鋼板で挟んだ試料をクロムメッキ鋼板ごと取り出した。クロムメッキ鋼板から試料を引き剥がした際の離型性を評価した。
○:金型から多層積層体を容易に取り出すことができる、金型に付着物が全く見られない。離型性がきわめて良好である。
△:金型に多層積層体がわずかに付着し、剥がして取り出すことはできるが、最外側に位置するオーバーシート表面に傷の発生がみられ、使用することができない。離型性に劣る。
×:金型に多層積層体が付着し取り出すことができない、無理に取り出そうとすると、破れ、目的とするカード用多層積層体を得ることができない。離型性にきわめて劣る。
【0074】
[5]プラスチックカード用多層積層体の気泡抜け性
前記のように加熱プレス成形後の多層積層体中の残存気泡状態を観察して、下記のようにして気泡抜け性を評価した。
○:多層積層体中に気泡が全くみられない、気泡抜け性にきわめて優れる。
×:多層積層体中に気泡が残存、フクレ等の不具合が生じている。気泡抜け性に劣る。
【0075】
[6]プラスチックカード用多層積層体の加熱融着性:
前記のように加熱プレス成形後の多層積層体を構成するオーバーシート間、コアシート間、オーバーシートとコアシート間にカッター刃を軽く差し入れることにより加熱融着性を観察した。
○:カッター刃を軽く差し入れても全く剥離は全くみられない、加熱融着性が良好である。
×:カッター刃を軽く差し入れると剥離が一部、又は全面にわたって発生、加融着性に劣る。
【0076】
[7]プラスチックカード用多層積層体におけるオーバーシート表面の光沢:
前記のように加熱プレス成形後の多層積層体の最外側に位置するオーバーシート表面の光沢状態を目視観察し、以下の判定基準で評価した。
○:光沢良好、視認性に優れる。
△:やや光沢劣る、視認性が良好である。
×:光沢不足(劣る)、視認性に劣る。
【0077】
[8]プラスチックカード用多層積層体のレーザー印字性:
前記のように加熱プレス成形後の多層積層体表面に、Nd・YVO_(4)レーザー(レーザーテクノロジー社製 LT-100SA及びロフィンシナール社製 RSM103D)を使用し、400mm/secのレーザー照射速度にて、レーザー光エネルーを照射し、レーザーマーキングによる印字を行った。生地色と印字部とのコントラストの良否、オーバーシート表面の破壊等の異常の有無を下記のようにして判定した。
○:コントラスト比3以上、オーバーシート表面に破壊は全くみられない、オーバーシートを構成する樹脂の焼けもみられない、レーザー印字性にきわめて優れる。
△:コントラスト比2?3未満、オーバーシート表面に破壊がみられる、樹脂焼けはみられない、レーザー印字性良好。
×:コントラスト比2未満及び/又はオーバーシート表面に破壊がみられる、また樹脂焼けがみられる、レーザー印字性に劣る。
【0078】
(実施例1)オーバーシートA:
非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastman Tritan FX200」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=119℃)(PCTと略する)とポリカーボネート(商品名「タフロンFN2200A」、出光興産社製、メルトボリュームレイト=12cm^(3)/10min.)(PCと略する)のポリマーアロイ(ブレンド比率(質量)=PC/PCT=70/30)を用い、かつ、前記ポリマーアロイ100部に、滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASF社製)0.2部、レーザー光エネルギー吸収体として、カーボンブラックを0.0020部配合した。Tダイ押出法によりシートの厚さが100μmで、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施しプラスチックカード用のオーバーシートAを得た。
【0079】
(実施例2)オーバーシートB:
非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastman Tritan FX100」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=110℃)(PCTと略する)とポリカーボネート(商品名「タフロンFN2200A」、出光興産社製、メルトボリュームレイト=12cm^(3)/10min.)(PCと略する)のポリマーアロイ(ブレンド比率(質量)=PC/PCT=70/30)を用い、かつ、前記ポリマーアロイ100部に滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASF社製)0.2部、レーザー光エネルギー吸収体として、カーボンブラックを0.0020部配合した。Tダイ押出法によりシートの厚さが100μm、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施しプラスチックカード用のオーバーシートBを得た。
【0080】
(比較例1)オーバーシートC:
非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastar コポリエステル6763」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=80℃)(PETG(1)と略する)とポリカーボネート(商品名「タフロンFN2200A」出光興産社製、メルトボリュームレイト=12cm^(3)/10min.)(PCと略する)のポリマーアロイ(ブレンド比率(質量)=PC/PETG(1)=70/30)を用い、かつ、前記ポリマーアロイ100部に滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASF社製)0.2部、レーザー光エネルギー吸収体として、カーボンブラックを0.0020部を配合した。Tダイ押出法によりシートの厚さが100μm、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施しプラスチックカード用のオーバーシートCを得た。
【0081】
(比較例2)オーバーシートD:
非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastman Tritan FX200」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=119℃)(PCTと略する)を用い、かつ、前記PCT100部に、滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASF社製)0.2部、レーザー光エネルギー吸収体として、カーボンブラックを0.0020部を配合した。Tダイ押出法によりシートの厚さが100μm、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施しプラスチックカード用のオーバーシートDを得た。
【0082】
(比較例3)オーバーシートE:
非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastar コポリエステル6763」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=80℃)(PETG(1)と略する)を用い、かつ、前記PETG(1)100部に、滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010、」、BASF社製)0.2部、レーザー光エネルギー吸収体として、カーボンブラックを0.0020部配合した。Tダイ押出法によりシートの厚さが100μm、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施しプラスチックカード用のオーバーシートEを得た。
【0083】
(比較例4)オーバーシートF:
芳香族ポリカーボネート樹脂(商品名「タフロンFN2200A」、出光興産社製、メルトボリュームレイト=12cm^(3)/10min.)(PCと略する)を用い、かつ、前記PC100部に、滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASF社製)0.2部、エネルギー吸収体として、カーボンブラックを0.0020部配合した。Tダイ押出法によりシートの厚さが100μm、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施しプラスチックカード用のオーバーシートFを得た。
【0084】
(実施例3)コアシートG:
非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastman Tritan FX200」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=119℃)(PCTと略する)とポリカーボネート(商品名「タフロンFN2200A」、出光興産社製、メルトボリュームレイト=12cm^(3)/10min.)(PCと略する)のポリマーアロイ(ブレンド比率(質量)=PC/PCT=70/30)を用い、かつ、前記ポリマーアロイ100部に、滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASF社製)0.2部、白色系顔料として、酸化チタンを20部配合した。Tダイ押出法によりシートの厚さが200μm、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施しプラスチックカード用のコアシートGを得た。
【0085】
(実施例4)コアシートH:
非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastman Tritan FX100」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=110℃)(PCTと略する)とポリカーボネート(商品名「タフロンFN2200A」、出光興産社製、メルトボリュームレイト=12cm^(3)/10min.)(PCと略する)のポリマーアロイ(ブレンド比率(質量)=PC/PCT=70/30)を用い、かつ、前記ポリマーアロイ100部に滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASF社製)0.2部、白色系顔料として、酸化チタンを20部配合した。Tダイ押出法によりシートの厚さが200μm、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施しプラスチックカード用のコアシートHを得た。
【0086】
(比較例5)コアシートI:
非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastar コポリエステル6763」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=80℃)(PETG(1)と略する)とポリカーボネート(商品名「タフロンFN2200A」出光興産社製、メルトボリュームレイト=12cm^(3)/10min.)(PCと略する)のポリマーアロイ(ブレンド比率(質量)=PC/PETG(1)=70/30)を用い、かつ、前記ポリマーアロイ100部に滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASF社製)0.2部、白色系顔料として、酸化チタンを20部配合した。Tダイ押出法によりシートの厚さが200μm、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施しプラスチックカード用のコアシートIを得た。
【0087】
(比較例6)コアシートJ:
非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastman Tritan FX200」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=119℃)(PCTと略する)を用い、かつ、前記PCT100部に、滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASF社製)0.2部、白色系顔料として、酸化チタンを20部配合した。Tダイ押出法によりシートの厚さが200μm、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施しプラスチックカード用のコアシートJを得た。
【0088】
(比較例7)コアシートK:
非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastar コポリエステル6763」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=80℃)(PETG(1)と略する)を用い、かつ、前記PETG(1)100部に、滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010、」、BASF社製)0.2部、白色系顔料として、酸化チタンを20部配合した。Tダイ押出法によりシートの厚さが200μm、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施しプラスチックカード用のコアシートKを得た。
【0089】
(比較例8)コアシートL:
芳香族ポリカーボネート樹脂(商品名「タフロンFN2200A」、出光興産社製、メルトボリュームレイト=12cm^(3)/10min.)(PCと略する)を用い、かつ、前記PC100部に、滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASF社製)0.2部、白色系顔料として、酸化チタンを20部配合した。Tダイ押出法によりシートの厚さが200μm、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施しプラスチックカード用のコアシートLを得た。
【0090】
(考察)
表1に示すように、実施例1、2のオーバーシートA、Bは、透明性、耐熱性及び耐衝撃性に優れる。更に、実施例1のオーバーシートAと、実施例3のコアシートGとを用いてプラスチックカード用多層積層体を成形した場合、実施例2のオーバーシートBと、実施例4のコアシートHとを用いてプラスチックカード用多層積層体を成形した場合、加熱プレス積層工程における金型からの離型性、気泡抜け性に優れ、各層間の加熱融着性、表面光沢、及びレーザー印字性に優れるものであった。
【0091】
これに対して、表2の比較例1は、オーバーシートCに、PC/非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastar コポリエステル6763」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=80℃)=70/30を使用したために、オーバーシートの耐熱性、及び耐衝撃性が劣る。また、比較例2は、オーバーシートDに、非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastman Tritan FX200」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=119℃)を使用したために、比較例1と同様に、オーバーシートの耐熱性、及び耐衝撃性が劣り、更に、コアシートJとのプラスチックカード用多層積層体を成形した際には、加熱プレス積層工程における金型からの離型性、気泡抜け性に劣り、レーザー印字性にも劣るものであった。比較例3はオーバーシートEに、非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastar コポリエステル6763」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=80℃)を使用したために、比較例1、2と同様に、オーバーシートの耐熱性、及び耐衝撃性が劣り、更に、コアシートKとのプラスチックカード用多層積層体を成形した際には、加熱プレス積層工程における金型からの離型性、気泡抜け性に劣り、レーザー印字性にも劣るものであった。比較例4はオーバーシートFに、芳香族ポリカーボネート樹脂(商品名「タフロンFN2200A」、出光興産社製、メルトボリュームレイト=12cm^(3)/10min.)を使用したために、オーバーシートの透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れる反面、コアシートLとのプラスチックカード用多層積層体を成形した際には、加熱プレス積層工程における加熱融着性に劣り、表面光沢にも劣るものであった。」

(4)甲4の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先権主張日前に頒布された甲4には、下記の事項が記載されている。

ア「【0002】
熱可塑性樹脂の機械的特性を向上させるための手段として、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状充填材を配合することが一般的に知られており、近年はプラスチックの高性能化(高剛性、軽量化など)に対する要求の高度化から、炭素繊維を用いた繊維強化樹脂組成物を得る例が多く見られる。」

イ「【0089】
本発明で用いられる炭素繊維(C)以外の充填材(E)としては、特に限定されるものでないが、繊維状、非繊維状の充填材を使用することができる。繊維状の充填材として具体的には、ガラス繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、ワラステナイト、アルミナシリケートなどの繊維状、ウィスカー状充填材が挙げられる。非繊維状の充填材として具体的には、タルク、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイトなどの珪酸塩、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、セラミックビ-ズ、窒化ホウ素、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスフレーク、ガラス粉、ガラスバルーン、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材、およびモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母等の膨潤性雲母に代表される層状珪酸塩が挙げられる。層状珪酸塩は層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換された層状珪酸塩であってもよく、有機オニウムイオンとしてはアンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが挙げられる。またこれらはシラン系、チタネート系などのカップリング剤、その他表面処理剤で処理されていることが好ましく、エポキシシラン、アミノシラン系のカップリング剤で処理されている場合が優れた機械的特性を発現できるため特に好ましい。
【0090】
本発明における充填材(E)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)および熱可塑性樹脂(B)の合計100重量部に対し、1?100重量部が好ましい。充填材(E)の配合量が1重量部以上であれば、補強効果をより向上させることができる。充填材(E)の配合量は2重量部以上が好ましく、3重量部以上がより好ましい。一方、充填材(E)の配合量が100重量部以下の場合、機械強度や外観をより向上させることができる。充填材(E)の配合量は75重量部以下が好ましく、50重量部以下がより好ましい。」

ウ「【0109】
(E)充填材
<E1>顆粒タルクHT-7000(ハリマ化成株式会社製)を使用した。
<E2>ガラス繊維ECS03-350(セントラル硝子(株)製)を使用した。」

(5)甲5の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先権主張日前に頒布された甲5には、下記の事項が記載されている。

ア「【0021】
扁平ガラス繊維フィラメントについては、短径が3?20μm(更には4?15μm)で、長径が6?100μm(更には15?80μm)で、且つ扁平率が2?10(更には3?8)の範囲のものが好適である。ここで、図4を参照して「短径」、「長径」及び「扁平率」を説明する。図4に示すように、「長径」及び「短径」は、扁平ガラス繊維フィラメント20に外接する最小面積の長方形Rを想定したときに、その長方形Rの長辺Raの長さA(繊維断面の最長寸法に相当)、及び、短辺Rbの長さBにそれぞれ相当する。また、「扁平率」は、長辺の長さと短辺の長さの比(A/B)で示される。」

イ「【0023】
なお、「扁平」には非円形状のものが含まれ、例えば、扁平ガラス繊維フィラメント20には、断面形状が楕円形状、長径方向に直線部を有する長円形状、図5の断面図に示すような繭型のガラス繊維フィラメントなどが含まれる。本発明では、扁平ガラス繊維フィラメントがペレット中に複数配列されるときに、それぞれの扁平ガラス繊維フィラメントの長径がほぼ同一方向に向くように重なり合って配列しやすい。断面が繭型の扁平ガラス繊維フィラメント20についても同様であり、図6の断面図に示すように、へこみ部とふくらみ部とが組み合わされた集合状態になりやすい。扁平ガラス繊維フィラメントの断面形状は成型品の熱可塑性樹脂の種類や要求特性により適宜選定することができる。」

ウ「【0027】
扁平ガラス繊維含有ペレットには好適な扁平ガラス繊維フィラメントの含有量(以下「ガラス含有量」という。)が存在する。このガラス含有量は扁平ガラス繊維含有ペレットの全重量を基準として、好適には10?60質量%であり、更には30?50質量%である。ガラス含有量が10質量%未満ではガラス繊維による補強効果が充分でなく成型品の強度が低下することがある。ガラス含有量が60質量%を超える場合は、樹脂含浸性が低下し、成型品の強度が低下することがある。」

(6)甲6の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先権主張日前に頒布された甲6には、下記の事項が記載されている。

ア「【0026】
(実施例1)
ポリカーボネート樹脂基材層としてポリカーボネート樹脂:カリバー302-4(平均分子量:28,000、住友ダウ社製、商品名)と、耐候性樹脂層としてポリカーボネート樹脂:カリバー302-4(前出)100重量部に対し、紫外線吸収剤:チヌビン1577(チバガイギー社製、商品名)10重量部を混合した組成物とを各々の押出機により金型温度280℃で溶融混練し、溶融物を押出しダイの手前のアダプターで合流させ基材層の厚さを0.7mm、耐候性樹脂層の厚さを50μmになるように吐出量とダイの調整を行った。」

(7)甲7の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先権主張日前に頒布された甲7には、下記の事項が記載されている。

ア「【0108】
パネル本体の成形材料としてはポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアプラスチックス社製;商品名「ユーピロン(登録商標)S2000UR」)を使用した。その粘度平均分子量(Mv)は24,500、線膨張係数は6.5×10^(-5)[/℃]であった。3mm厚みの100mm×100mm平板の130℃×2Hr収縮率S_(1)は0.08%、曲げ弾性率F_(1)は2300MPaである。」

(8)甲8の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先権主張日前に頒布された甲8には、下記の事項が記載されている。

ア「【0069】
・・・
・「タフロンFN2200A」(商品名、出光興産株式会社製、p-t-ブチルフェノールを末端基に有するビスフェノールAポリカーボネート、粘度数55.6、粘度平均分子量Mv=21,300)」

(9)甲9の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先権主張日前に頒布された甲9には、下記の事項が記載されている。

ア「【請求項1】
樹脂成分と、該樹脂成分と屈折率が実質的に一致するガラス繊維とが配合された成形材料を用い、
金型のキャビティ表面の温度を前記樹脂成分の熱変形温度以上に加熱した状態で、前記成形材料を前記キャビティ内に射出し、所定量の前記成形材料の射出が完了したら前記金型のキャビティ表面を冷却させる、透明な成形品の製造方法。
【請求項2】
成形品の表面に、前記ガラス繊維の存在しないスキン層を形成する、請求項1に記載の透明な成形品の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂成分は芳香族ポリカーボネートである、請求項1または2に記載の透明な成形品の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス繊維は前記樹脂成分に屈折率を実質的に一致させた高屈折率ガラスからなる、請求項1?3のいずれか1項に記載の透明な成形品の製造方法。」

イ「【0008】
そこで本発明の目的は、ガラス繊維を配合した樹脂成形品の高い透明性が得られ、しかも、そのために金型温度を十分に高温にしても、取り出し時の成形品の変形が起こらず、かつ成形サイクルが短くて作業効率がよく製造コストが低い、透明な成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の透明な成形品の製造方法は、樹脂成分と、樹脂成分と屈折率が実質的に一致するガラス繊維とが配合された成形材料を用い、金型のキャビティ表面の温度を樹脂成分の熱変形温度以上に加熱した状態で、成形材料をキャビティ内に射出し、所定量の成形材料の射出が完了したら金型のキャビティ表面を冷却させることを特徴とする。
【0010】
本発明の製造方法によると、表面が平滑で透明性の高い成形品を得ることができる。すなわち、成形品の表面に、ガラス繊維の存在しないスキン層を形成することによって、成形品の表面にガラス繊維が露出せず、乱反射が防げることによって、高い透明性が達成できる。」

ウ「【0018】
本実施形態の成形材料は、従来から一般的な芳香族ポリカーボネートに、高屈折率ガラス繊維(例えば旭ファイバーグラス株式会社製グラスロンチョップドストランド)を配合したものである。このガラス繊維は、480?680nmの波長範囲における芳香族ポリカーボネートの屈折率(1.600?1.580程度)とほぼ一致する屈折率(1.600?1.580程度)を有するように調節されたものである(図3参照)。そして、芳香族ポリカーボネートが60?99重量%、高屈折率ガラス繊維が1?40重量%の割合で配合されている(好ましくは高屈折率ガラス繊維の割合を5?30重量%とする)。
・・・
【0020】
以上説明した通り、本実施形態では、ポリカーボネートと、ポリカーボネートと屈折率が実質的に一致するガラス繊維とが適切な割合で配合された成形材料を用い、例えば特許文献3に開示されているように、金型1,2の流路6に加熱媒体を供給してキャビティ表面1a,2aを熱変形温度以上、かつ加熱分解温度以下の温度に加熱した状態で射出し、射出完了後に金型1,2の流路6に冷却媒体を供給してキャビティ表面1a,2aを成形品が変形しない温度まで急激に冷却する、いわゆるヒートサイクル成形法を実施することによって、表面にガラス繊維が露出せず表面が平滑である、透明性が高く外観が良好な成形品が短時間で効率よく得られる。」

エ「【実施例】
【0024】
次に、本発明の具体的な実施例と、それらと対比させるための比較例について説明する。
【0025】
[実施例1]
本実施例では、一般的な鋼材(NAK80)からなり、型締め時に199mm×79mm×2mmの平板状直方体のキャビティ3を形成可能であり、このキャビティ3と射出装置10とを接続するサイドゲート4を有し、キャビティ表面1a,2aが鏡面状である金型装置を用いている。そして、成形材料として、480nm?680nmの波長範囲における屈折率が1.600?1.580の芳香族ポリカーボネートと、480nm?680nmの波長範囲における屈折率が1.600?1.580の高屈折率ガラスからなる直径15μmのガラス繊維とを、図示しない二軸押出機によって、芳香族ポリカーボネートが80重量%、ガラス繊維が20重量%となるように配合混錬したものを用いた。
【0026】
そして、ヒートサイクル成形法によって、金型1,2のキャビティ表面1a,2aを芳香族ポリカーボネートの熱変形温度以上、かつ加熱分解温度以下である150℃に加熱して、成形材料の射出および保圧工程を行い、その後、キャビティ表面1a,2aの温度を成形品が変形しない80℃に下げて、型1,2を開いて成形品を取り出して、ガラス繊維で補強された透明成形品を得た。この透明成形品の光学的性質を表1に示す。なお、光学的性質は、ASTN(American Society for Testing and Materials)の規格D1003に基づいて測定した結果である。
【0027】
【表1】

【0028】
この実施例1から明らかなように、屈折率が実質的に一致するガラス繊維を配合したポリカーボネートを、ヒートサイクル成形法によって射出成形すると、成形品表面にガラス繊維が露出せず、透明性に優れた成形品が得られた。
【0029】
[比較例1]
実施例1と同様な金型装置と成形材料を用いて、金型1,2のキャビティ表面1a,2aの温度を芳香族ポリカーボネートの熱変形温度以下の120℃に固定し、射出完了後も冷却することなく120℃に保って成形品を製造した。この成形品の光学的特性も表1に示している。
【0030】
本比較例では、金型1,2を熱変形温度以下の120℃までしか加熱していないため、キャビティ内の樹脂成分が比較的早く固化してしまい、樹脂成分の流れによってガラス繊維を成形品の中央部側に十分引き込むことができない。従って、成形品の表面にガラス繊維が露出しているため、成形品の表面が粗くなり乱反射が発生するため透明性が低い。一方、120℃まで加熱された金型は、成形材料の射出完了後に冷却されないので(自然冷却されるだけであるので)、成形品の固化に時間がかかり、成形効率が悪い。
【0031】
これに対して、実施例1では、金型1,2を熱変形温度以上の150℃まで加熱しているため、キャビティ3内の樹脂成分の固化速度が遅く、樹脂成分の流れによってガラス繊維が成形品の中央部側に引き込まれる。従って、成形品の表面にガラス繊維の存在しないスキン層が形成され、成形品の表面が平滑で乱反射が発生しないため非常に透明性が高い。しかも、150℃まで加熱された金型は、成形材料の射出完了後に直ちに冷却されるので、成形品が短時間で固化し、成形効率が良い。しかも、成形品表面には、ガラス繊維は露出していないが、スキン層の下層にはガラス繊維が存在するため、成形品全体の強度は高い。」

(10)引例A(特開平09-165506号公報)の記載事項
当審が引用した、本件特許の優先権主張日前に頒布された引例Aには、下記の事項が記載されている。

ア「【請求項1】 粘度平均分子量が12,000?50,000の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、該芳香族ポリカーボネート樹脂との屈折率の差が0.015以下であるガラス繊維1?100重量部および数平均分子量が2,000?100,000のポリカプロラクトン1?30重量部を配合し混練してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。」

イ「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、射出成形時の成形性、流動性に優れ、高剛性で、しかも透明性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。」

ウ「【0009】本発明におけるガラス繊維としては、粘度平均分子量12,000?50,000の芳香族ポリカーボネート樹脂との屈折率の差が0.015以下のガラス繊維である。ガラス繊維は、通常、芳香族ポリカーボネート樹脂に使用されるEガラスを構成する組成成分からB_(2)O_(3)、F_(2)成分を除き、MgO,TiO_(2)、ZnO等の成分の割合を増加したものである。市販されている該当するガラス繊維として、旭ファイバーガラス(株)のECRガラス(屈折率1.59)がある。
【0010】ガラス繊維は、樹脂とガラス繊維の親和性を増し密着性を増大して空隙形成による不透明化要因を排除、低減化するために、シランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理されているものが好ましい。シランカップリング剤としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系等がある。これらの中では、アミノシラン系のものが好ましい。
【0011】本発明におけるガラス繊維の配合量は、粘度平均分子量が12,000?50,000の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、1?100重量部である。1重量部未満では、製品の剛性を上げるのに不十分であり、100重量部を越えると、成形性が低下し、良好な透明性の成型品が得られにくい。ガラス繊維の配合量は、剛性と透明性との兼ね合いの点より、好ましくは1?80重量部である。」

エ「【0020】更に、本発明を損なわない範囲で、周知の種々の添加剤を用いることが出来る。例えば、高屈折率のガラスフレークやガラスビーズ等の補強剤、少量のシリカ、アルミナ、炭酸カルシュウム等の充填剤、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、蜜鑞、シリコンオイル等の離型剤、各種可塑剤、そして、ヒンダードフェノール系、亜燐酸エステル系、硫黄含有エステル化合物系等の酸化防止剤、ハロゲン化合物、燐酸化合物等の難燃剤、紫外線吸収剤あるいは耐候性付与剤等を含有しても良い。また透明性を損なわない範囲で各種のポリマー、例えば、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、PET、PBT等のポリエステル系樹脂、芳香族ナイロン、半芳香族ナイロン等の各種ナイロン、ポリスチレン系樹脂、ポリアリレート、アイオノマー樹脂、フェノキシ樹脂、等を含有しても良い。」

オ「【0025】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、最終的に得られた樹脂組成物または比較例の樹脂組成物は射出成形によって成形片を成形した後、下記の試験方法により性能評価を行った。
【0026】1)機械的性質
引張強度は、ASTM D638によって測定した。曲げ強度、曲げ弾性率は、ASTM D790によって測定した。
2)Haze、全光線透過率(Ttと略記する。)
厚さ3mmの円盤状成形品について、ヘーズメーター(スガ試験機株式会社 商品名HGM-2DP)を使用して測定した。
【0027】
実施例および比較例で用いた原料の詳細は次の通りである。
1)芳香族ポリカーボネート樹脂 PC(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製 ユーピロンS-3000 粘度平均分子量21,000 屈折率1.585)
2)ガラス繊維
高屈折率ガラス繊維 旭ファイバーガラス(株)製チョップドストランド ECRガラス;屈折率1.579、平均繊維径 16μ
ガラス繊維 旭ファイバーガラス(株)製チョップドストランド Eガラス:FT-105;屈折率1.555、平均繊維径 13μ
3)ポリカプロラクトン(PCLと略記する。) ダイセル化学工業(株)製Placcel H1P 数平均分子量10,000、Placcel H4 数平均分子量40,000
4)触媒
チタニュウムテトラブトキシド(モノマー) TBTと略記、和光純薬(株)品
酢酸亜鉛 和光純薬(株)品
酢酸第一スズ 関東化学(株)品
三酸化アンチモン 和光純薬(株)品
5)熱安定剤 旭電化(株)製 アデカスタブPEP-36
【0028】〔実施例1?7〕芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリカプロラクトン、エステル交換触媒、熱安定剤を、表-1に記載した量配合し、タンブラーで十分混合した後、ベント付き二軸押出機(東芝機械(株)製TEM-35)の第一シュートより供給し、高屈折率のガラス繊維を、表-1に記載した量、押出機途中の第二シュートより供給して270℃で溶融混練、ペレット化した。得られたペレットを、120℃で6時間乾燥後、270℃で射出成形を行い物性試験片を得た。機械的性質として、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率を、光学特性として、Haze、全光線透過率を測定した。測定結果を表-1に示す。
【0029】〔実施例8〕芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリカプロラクトン、熱安定剤を、表-1に記載した量配合し、タンブラーで十分混合した後、ベント付き二軸押出機(東芝機械(株)製TEM-35)の第一シュートより供給し、高屈折率のガラス繊維を、表-1に記載した量、押出機途中の第二シュートより供給して270℃で溶融混練、ペレット化した。得られたペレットを、120℃で6時間乾燥後、270℃で射出成形を行い物性試験片を得た。機械的性質として、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率を、光学特性として、Haze、全光線透過率を測定した。測定結果を表-1に示す。
【0030】〔比較例1?3〕芳香族ポリカーボネート樹脂および熱安定剤を、表-1に記載した量配合後、ベント付き二軸押出機(東芝機械(株)製TEM-35)の第一シュートより供給し、ガラス繊維を、表-1に記載した量、押出機途中の第二シュートより供給して270℃で溶融混練、ペレット化した。得られたペレットを、120℃で6時間乾燥後、270℃で射出成形を行い物性試験片を得た。機械的性質として、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率を、光学特性として、Haze、全光線透過率を測定した。測定結果を表-1に示す。
【0031】
【表1】



(11)引例B(特開2002-020610号公報)の記載事項
当審が引用した、本件特許の優先権主張日前に頒布された引例Bには、下記の事項が記載されている。

ア「【請求項1】 (a)ポリカーボネート樹脂65?95質量%、(b)屈折率が1.570?1.600であるガラス3?20質量%、(c)可塑剤2?15質量%からなるポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】 (a)ポリカーボネート樹脂75?90質量%、(b)屈折率が1.570?1.600であるガラス5?15質量%、(c)可塑剤5?10質量%からなる請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】 3mm厚射出成形板におけるヘーズが40以下である請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】 (b)成分のガラスが、ガラス繊維、ガラスフレーク及びガラスパウダーから選ばれる少なくとも一種である請求項1?3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】 (c)成分の可塑剤が、リン系化合物、高級脂肪酸エステル及びポリカプロラクトンから選ばれる請求項1?4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】 請求項1?5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる射出成形品。
【請求項7】 射出成形品が電気・電子部品である請求項6記載の射出成形品。」

イ「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記状況に鑑みなされたもので、簡便な方法で、透明性、剛性の優れた射出成形品が得られるガラスを含むポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とするものである。」

ウ「【0015】次いで、前記ポリカーボネート樹脂に配合する(b),(c)成分について順次説明する。
(b)ガラス
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を構成する(b)成分は、屈折率(nD )が1.570?1.600の範囲のガラスであれば、様々な種類あるいは形態のものを使用できる。ここで、nD が1.570未満あるいは1.600を超えると、樹脂組成物の透明性が損なわれ好ましくない。このようなガラスの組成としては、例えば、SiO_(2) 55?60質量%、Al_(2) O_(3) 10?12質量%、CaO20?25質量%、MgO0?5質量%、TiO_(2) 0?5質量%、ZnO0?5質量%、Na_(2) O0.1?5質量%,K_(2) O0.1?5質量%からなる組成のものが挙げられる。また、形態としては、例えば、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスパウダー等を用いることができ、これらは単独でも二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、樹脂強化用に広く用いられているガラス繊維は、含アルカリガラス、低アルカリガラス、無アルカリガラスのいずれであってもよい。そして、その繊維長は0.05?8mm、好ましくは2?6mm、繊維径は3?30μm、好ましくは5?25μmである。また、ガラス繊維の形態は、特に制限はなく、例えば、ロービング、ミルドファイバー、チョップストランド等各種のものが挙げられる。これらのガラス繊維は単独でも二種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、これらのガラスは、樹脂との親和性を高めるために、アミノシラン系,エポキシシラン系,ビニルシラン系,メタクリルシラン系等のシラン系カップリング材、クロム錯化合物、ホウ素化合物等で表面処理されたものであってもよい。このようなガラスの好適例としては、旭ファイバーグラス社製のECRガラスが挙げられる。
【0016】上記(b)成分のガラスの割合は、
(a),(b),(c)成分全体基準で、3?20質量%、好ましくは5?15質量%である。3質量%未満であると、剛性が不十分であり、20質量%を超えると、透明性や衝撃強度が低下し好ましくない。」

エ「【0024】
【実施例】次いで、実施例および比較例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
〔実施例1?5および比較例1?4〕第1表に示す配合割合において、各成分を混合し、50mm単軸押出し機(中谷社製、NVC50)にて280℃で溶融混練してペレット化した。次に、得られたペレットを、45トン射出成形機(東芝機械社製,IS45PV)を用いて射出成形して30×40mmで厚み3mmの試験片及び物性測定用試験片、ウエルド評価試験片を得た。得られた試験片について下記の要領で物性を評価し、その結果を第1表に示す。
【0025】なお、用いた原材料および物性評価方法を次に示す。
〔原材料〕
(a)ポリカーボネート樹脂
a-1:ビスフェノールAを原料とし、メルトフローレート(MFR)〔JIS K 7210に準拠、温度300℃、荷重11.77N〕が20g/10分であり、かつ粘度平均分子量が19,000であるポリカーボネート樹脂〔出光石油化学社製:タフロンA1900〕
a-2:ビスフェノールAを原料とするポリカーボネートとPDMS(ポリジメチルシラン)の共重合体、PDMS含有量3質量%、粘度平均分子量17,500
(b)ガラス材
b-1:ECRガラス(ガラスファイバー、nD =1.579、旭ファイバーグラス社製)、繊維径13μm、繊維長3mm
b-2:TA-409C(ガラスファイバー、nD =1.545、旭ファイバーグラス社製)、繊維径13μm、繊維長3mm
(c)可塑剤
c-1:PFR〔レゾルシノール(ジフェニルホスフェート),大八化学工業社製〕
c-2:トリフェニルホスフェート
c-3:ペンタエリスリトールテトラステアレート
c-4:ポリカプロラクトン,プラクセルH4(ダイセル化学工業社製)
【0026】〔物性評価方法〕
曲げ弾性率:JIS K 7203に準拠(MPa)
IZOD衝撃強度:JIS K 7110(23℃,3.2mm)に準拠(kJ/m^(2) )
MFR:JIS K 7210(温度300℃、荷重11.77N)に準拠(g/10分)
YI:JIS K 7105に準拠
ヘーズ:JIS K 7105(3mm)に準拠
製品外観:○良好,△ウエルドが若干目立つ,×ウエルドが目立ち、フローマークあり
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】



2 取消理由1について
(1)甲1発明
甲1には、上記1(1)ア?ウ,オの記載、特にオの実施例1の記載からみて、以下の発明が記載されていると認める。
「ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂(住化スタイロンポリカーボネート社製 カリバー200-20、粘度平均分子量 19000)45重量部、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル(イーストマン・ケイカル社製 トライタンTX1001)55重量部、リン系酸化防止剤(クラリアントジャパン社製P-EPQ)0.04重量部を混練して得たポリカーボネート樹脂組成物」(以下、「甲1発明1」という。)
同様に、甲1の特にオの実施例2,3の記載からみて、それぞれ以下の発明が記載されていると認める。
「ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂(住化スタイロンポリカーボネート社製 カリバー200-20、粘度平均分子量 19000)50重量部、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル(イーストマン・ケイカル社製 トライタンTX1001)50重量部、リン系酸化防止剤(クラリアントジャパン社製P-EPQ)0.04重量部を混練して得たポリカーボネート樹脂組成物」(以下、「甲1発明2」という。)
「ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂(住化スタイロンポリカーボネート社製 カリバー200-20、粘度平均分子量 19000)55重量部、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル(イーストマン・ケイカル社製 トライタンTX1001)45重量部、リン系酸化防止剤(クラリアントジャパン社製P-EPQ)2重量部を混練して得たポリカーボネート樹脂組成物」(以下、「甲1発明3」という。)

(2)本件発明1について
ア 甲1発明1との対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂(住化スタイロンポリカーボネート社製 カリバー200-20、粘度平均分子量 19000)」は、本件発明1の「ビスフェノールAを出発原料とする粘度平均分子量が13,000?22,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)」に相当し、甲1発明1の「ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル(イーストマン・ケイカル社製 トライタンTX1001)」は、1,4-シクロヘキサンジメタノール以外のジオール単位として2,2,4,4,-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールを含むポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂であるから(例えば、特開2015-151544号公報の【0050】参照。)、本件発明1の「テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)」に相当する。
また、甲1発明1の上記ポリカーボネート樹脂は、その配合量が上記コポリエステルとの合計100重量部中45重量部であることから、本件発明1の「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25? 65質量部」の範囲を満たし、甲1発明1の上記コポリエステルは、その配合量が上記ポリカーボネート樹脂との合計100重量部中55重量部であることから、本件発明1の「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリエステル樹脂(B)を75?35質量部」の範囲を満たす。
そうすると、本件発明1と甲1発明1は、「ビスフェノールAを出発原料とする粘度平均分子量が13,000?22,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂成分を含む熱可塑性樹脂組成物であって、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25?65質量部、ポリエステル樹脂(B)を75?35質量部含む熱可塑性樹脂組成物」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、「熱可塑性樹脂成分100重量部に対してEガラスよりなるガラス充填剤(C)を10?45質量部含む」のに対し、甲1発明1はそのような特定がない点。

イ 甲1発明2?3との対比
甲1発明2?3は、甲1発明1と樹脂成分の配合割合が異なるものであるが、甲1発明2?3における各配合量も、本件発明1の「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25?65質量部、ポリエステル樹脂(B)を75?35質量部」の範囲を満たす。
そうすると、本件発明1と甲1発明2?3は、上記アで示したものと同一の一致点、相違点を有するものである。

ウ 判断
上記相違点1について検討する。
本件発明1は、ポリカーボネート樹脂にガラス繊維等のガラス充填剤を充填したガラス強化熱可塑性組成物における透明性を改善することを発明の課題とし(本件明細書の段落【0008】参照)、上記「第3」で示したとおり、概略、成分(A)?(C)を含む熱可塑性樹脂組成物であり、成分(B)を含むことにより、樹脂マトリクスの屈折率をガラス充填剤の屈折率に近づけることができる、その結果、両者の屈折率差が小さくなることで透明性を改善できることが記載されている(本件明細書の段落【0009】、【0045】)。
このように、本件発明1において、ポリカーボネート樹脂に、成分(B)であるテレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂を配合することにより、Eガラス(屈折率:1.558程度、参考資料1の表2参照)よりなるガラス充填剤との屈折率差を小さくし、透明性を改善するという課題を解決できることが記載され、シート等により適切に適用できることが記載されている。

一方、甲1発明1?3は、ポリカーボネート樹脂組成物が本来有する優れた透明性を損なう事なく、所望の剛性感を有し、優れた表面硬度を備えることを課題とし(上記1(1)イ)、甲1には、これらの課題が解決できたことが具体的なデータとともに記載されている(上記1(1)オ)。ここで、甲1には、ポリカーボネート樹脂組成物に各種の充填材を配合しても良いことが記載されているが(上記(1)エ)、ガラス充填剤の明示はない。また、ポリカーボネート樹脂及びポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂からなる樹脂成分の屈折率に関する記載もない。さらに、甲1発明1?3は、ポリカーボネート樹脂にポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂を配合することにより、衝撃強度、表面硬度を改善するという課題を解決するものであり(上記1(1)イ)、上記樹脂成分と上記充填材の屈折率を同程度とすることで優れた透明性のポリカーボネート樹脂組成物にしようとする課題もない。

加えて、甲9には、芳香族ポリカーボネートと、該芳香族ポリカーボネートと屈折率が実質的に一致する高屈折ガラス繊維とが配合された透明性の高い成形材料が記載され(上記1(9)ア?エ)、引例Aには、粘度平均分子量が12,000?50,000の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、該芳香族ポリカーボネート樹脂との屈折率の差が0.015以下である、Eガラスを構成する組成成分からB_(2)O_(3)、F_(2)成分を除き、MgO,TiO_(2)、ZnO等の成分の割合を増加したガラス繊維1?100重量部を配合し混練してなる、剛性、透明性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が記載され(上記1(10)ア?オ)、引例Bには、(a)ポリカーボネート樹脂65?95質量%、(b)屈折率が1.570?1.600であるガラス3?20質量%、(c)可塑剤2?15質量%からなる、透明性、剛性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が記載されている(上記1(11)ア?エ)。
このように、甲9及び引例A?Bに記載された技術的事項は、通常のポリカーボネート樹脂の屈折率に合わせて高屈折率ガラスを用いることで透明性等を改善するものであるから、甲1発明1?3において、甲9及び引例A?Bの記載から、周知技術としてガラス充填剤を加えること、樹脂成分とガラス充填剤の屈折率差を小さくすれば透明性が改善することは容易に想到できるといえるとしても、屈折率が1.558程度であるEガラスを加えることまで容易に想到することができたとはいえない。

そうすると、いくら甲9及び引例A?Bに、ポリカーボネート樹脂にガラス充填剤を配合することが記載されていたとしても、甲1発明1?3において、Eガラスよりなるガラス充填剤を配合する動機づけがあるとはいえない。
よって、相違点1を構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

エ 申立人の主張
申立人は、令和2年10月29日提出の意見書において、「甲9、引例Aおよび引例Bは、Eガラスよりなるガラス充填剤は透明性が低下するため好ましくないことを記載しています。しかしながら、これは、樹脂組成物中の樹脂の屈折率との関係性から、ガラス充填剤を適切に選択すべきことに言及しているのであって、甲1の樹脂組成物(すなわち、「テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)」の添加により屈折率が低下した樹脂組成物)において、Eガラスよりなるガラス充填剤が不適当であると理解すべきではないことは、明らかです。
樹脂組成物中の樹脂の屈折率に近いガラス繊維を用いることを記載する甲9、引例Aおよび引例Bに基づけば、ポリエステル樹脂(B)の添加により屈折率が低下した甲1の樹脂組成物において、透明性の向上を図るには、ガラス充填剤としては、特殊な高屈折率ガラス繊維よりも、むしろ、屈折率が低く汎用のEガラスよりなるガラス充填剤が、当然に用いられます。また、透明性の向上に着目しなかったとしても、ガラス充填剤として、汎用のEガラスを採用することに、何らの困難性もありません。」旨主張している。
しかしながら、甲1には、ポリカーボネート樹脂とポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステルからなる樹脂成分を含有するポリカーボネート樹脂組成物について、ガラス充填剤を添加することは記載されておらず、また、上記ウで述べたとおり、甲9及び引例A?Bからは、屈折率の低い樹脂成分に合わせて、屈折率が低いEガラスを用いることにより透明性を向上させる動機付けは存在しないから、いくら甲9及び引例A?Bの記載をみても、甲1発明1?3において、Eガラスよりなるガラス充填剤を含ませる構成を導くことはできない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

オ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲9、引例A?Bに記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、上記(2)で述べた理由と同じ理由により、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由1によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由通知において採用しなかった申立人がした申立理由について
(1)申立理由1-1について
ア 甲1発明
甲1発明1?3については、上記2(1)で述べたとおりである。

イ 本件発明1について
(ア)甲1発明1?3との対比
甲1発明1?3との対比については、上記2(2)ア及びイで述べたとおりである。
以下に相違点を再掲する。

<相違点1>
本件発明1は、「熱可塑性樹脂成分100重量部に対してEガラスよりなるガラス充填剤(C)を10?45質量部含む」のに対し、甲1発明1?3はそのような特定がない点。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。
甲1には、ポリカーボネート樹脂とポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステルからなる樹脂成分を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物が記載され(上記1(1)ア)、さらに、透明性を損なうことのないポリカーボネート樹脂組成物を得ることを課題の1つとすること(上記1(1)イ)、ポリカーボネート樹脂組成物に各種の充填材を配合しても良いこと(上記1(1)エ)が記載されているものの、充填材としてガラス充填剤の明示はなく、また、屈折率に関する記載もない。さらに、甲1発明1?3は、ポリカーボネート樹脂に特定のポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂を配合することで衝撃強度、表面硬度を改善することを目的とするものであり(上記1(1)イ)、上記樹脂成分と上記充填材の屈折率を同程度とすることで優れた透明性のポリカーボネート樹脂組成物にしようとする課題もない。
また、甲4には、炭素繊維を用いた繊維強化樹脂組成物が記載され(上記1(4)ア)、さらに、炭素繊維以外の充填材としてガラス繊維を使用できること(上記1(4)イ)が記載されている。
しかしながら、甲4に記載の樹脂組成物は、炭素繊維を含むことから透明性に優れるものとは考え難く、また、甲4には、屈折率に関する記載、Eガラスに関する記載もない。
そうすると、いくら甲4の記載をみても、甲1発明1?3において、Eガラスよりなるガラス充填剤を含ませる構成を導くことはできない。

(ウ)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、「所望の剛性感を有し、優れた表面硬度を備えたポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品を提供することを課題とする甲1発明において、周知技術、あるいは、甲第4号証に記載の事項に基づき、充填材としてガラス充填剤を用い、その配合量を本件特許発明1の如く設定することは、当業者が容易に想到し得ることである。」旨主張している。
しかしながら、上記(イ)で述べたとおり、甲1には、屈折率に関する記載はなく、樹脂成分と充填材の屈折率を同程度とすることで優れた透明性のポリカーボネート樹脂組成物にしようとする課題も記載されていない。また、甲4にも、屈折率に関する記載、Eガラスに関する記載はなく、いくら甲4の記載をみても、甲1発明1?3において、Eガラスよりなるガラス充填剤を含ませる構成を導くことはできない。さらに、甲1に記載された発明において、Eガラスよりなるガラス充填剤を含ませることが周知技術とはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(エ)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、上記イで述べた理由と同じ理由により、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1-1によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。

(2)申立理由1-2について
ア 甲2発明
甲2には、上記1(2)ア?ク,コの記載、特に実施例3の記載からみて、以下の発明が記載されていると認める。
「トライタン「TX1001」(ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂、イーストマン・ケミカル社製)及びPC「E2000UR」(ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)を70対30(重量比)の割合でポリマーアロイ化を行って得られた組成物」(以下、「甲2発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「PC「E2000UR」(ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)」は、本件発明1の「ビスフェノールAを出発原料とする粘度平均分子量が13,000?22,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)」と、「ポリカーボネート樹脂」である限りにおいて一致する。
甲2発明の「トライタン「TX1001」(ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂、イーストマン・ケミカル社製)」は、1,4-シクロヘキサンジメタノール以外のジオール単位として2,2,4,4,-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールを含むポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂であるから(例えば、特開2015-151544号公報の【0050】参照。)、本件発明1の「テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)」に相当する。
また、甲2発明の上記ポリカーボネート樹脂は、その配合量が上記コポリエステルとの合計100重量部中30重量部であることから、本件発明1の「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25? 65質量部」の範囲を満たし、甲2発明の上記コポリエステルは、その配合量が上記ポリカーボネート樹脂との合計100重量部中70重量部であることから、本件発明1の「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリエステル樹脂(B)を75?35質量部」の範囲を満たす。
そうすると、本件発明1と甲2発明は、「ポリカーボネート樹脂(A)と、テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂成分を含む熱可塑性樹脂組成物であって、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25?65質量部、ポリエステル樹脂(B)を75?35質量部含む熱可塑性樹脂組成物」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2>
ポリカーボネート樹脂について、本件発明1は、「ビスフェノールAを出発原料とする粘度平均分子量が13,000?22,000の芳香族ポリカーボネート樹脂」であるのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。

<相違点3>
本件発明1は、「熱可塑性樹脂成分100重量部に対してEガラスよりなるガラス充填剤(C)を10?45質量部含む」のに対し、甲2発明はそのような特定がない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点3についてから検討する。
甲2には、ポリカーボネート樹脂とポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂とを含む樹脂組成物が記載され(上記1(2)ア)、さらに、透明性を維持することができること、樹脂組成物に任意の添加剤が含まれてもよいこと(上記1(2)ウ)が記載されているものの、添加剤としてガラス充填剤の明示はなく、また、屈折率に関する記載もない。さらに、甲2には、上記樹脂と上記添加剤の屈折率を同程度とすることで優れた透明性の樹脂組成物にしようとする課題についての記載もない。
また、甲4には、炭素繊維を用いた繊維強化樹脂組成物が記載され(上記1(4)ア)、さらに、炭素繊維以外の充填材としてガラス繊維を使用できること(上記1(4)イ)が記載されている。
しかしながら、甲4に記載の樹脂組成物は、炭素繊維を含むことから透明性に優れるものとは考え難く、また、甲4には、屈折率に関する記載、Eガラスに関する記載もない。
そうすると、いくら甲4の記載をみても、甲2発明において、Eガラスよりなるガラス充填剤を含ませる構成を導くことはできない。

(ウ)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、「ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂に、他の樹脂を加えてポリマーアロイ化して樹脂組成物を提供し、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステル樹脂の問題点である耐候性及び低温の耐衝撃性を有していると同時に、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)コポリエステルが有している耐薬品性、常温での耐衝撃性を維持している特性の新規な樹脂組成物を提供することを課題とする甲2発明において、周知技術、あるいは、甲第4号証に記載の事項に基づき、添加剤としてガラス充填剤を用い、その配合量を本件特許発明1の如く設定することは、当業者が容易に想到し得ることである。」旨主張している。
しかしながら、上記(イ)で述べたとおり、甲2には、屈折率に関する記載はなく、樹脂と添加剤の屈折率を同程度とすることで優れた透明性のポリカーボネート樹脂組成物にしようとする課題についての記載もない。また、甲4にも、屈折率に関する記載、Eガラスに関する記載はなく、いくら甲4の記載をみても、甲2発明において、Eガラスよりなるガラス充填剤を含ませる構成を導くことはできない。さらに、甲2に記載された発明において、Eガラスよりなるガラス充填剤を含ませることが周知技術とはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(エ)小括
以上のとおり、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、上記イで述べた理由と同じ理由により、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1-2によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。

(3)申立理由1-3について
ア 甲3発明
甲3には、上記1(2)ア?オの記載、特に実施例1の記載からみて、以下の発明が記載されていると認める。
「非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastman Tritan FX200」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=119℃)(PCTと略する)とポリカーボネート(商品名「タフロンFN2200A」、出光興産社製、メルトボリュームレイト=12cm^(3)/10min.)(PCと略する)のポリマーアロイ(ブレンド比率(質量)=PC/PCT=70/30)を用い、かつ、前記ポリマーアロイ100部に、滑剤として、ステアリン酸モノグリセライド(商品名「リケマールS-100」、理研ビタミン社製)0.2部、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASF社製)0.2部、レーザー光エネルギー吸収体として、カーボンブラックを0.0020部配合し、Tダイ押出法によりシートの厚さが100μmで、平均表面粗さ(Ra)が1?3μmになるように両面マット加工を施したプラスチックカード用のオーバーシートA」(以下、「甲3発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「ポリカーボネート(商品名「タフロンFN2200A」、出光興産社製、メルトボリュームレイト=12cm^(3)/10min.)」は、p-t-ブチルフェノールを末端基に有するビスフェノールAポリカーボネート(粘度平均分子量Mv=21,300)であるから(例えば、上記1(8)ア参照)、本件発明1の「ビスフェノールAを出発原料とする粘度平均分子量が13,000?22,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)」に相当する。
甲3発明の「非結晶性共重合ポリエステル(商品名「Eastman Tritan FX200」、イーストマンケミカル社製、ガラス転移温度=119℃)」は、テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位と、1,4-シクロヘキサンジメタノール単位及び2,2,4,4-テトラメチルシクロブタン-1,3-ジオール単位を主とするグリコール単位とからなるPCT樹脂であるから(上記1(3)ア及びイ)、本件発明1の「テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明は、「ビスフェノールAを出発原料とする粘度平均分子量が13,000?22,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂成分を含む熱可塑性樹脂組成物」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4>
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中のポリカーボネート樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)の配合量について、本件発明1は、それぞれ「25?65質量部」、「75?35質量部」であるのに対し、甲3発明は、それぞれ「70質量部」、「30質量部」である点。

<相違点5>
本件発明1は、「熱可塑性樹脂成分100重量部に対してEガラスよりなるガラス充填剤(C)を10?45質量部含む」のに対し、甲3発明はそのような特定がない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点5についてから検討する。
甲3には、非結晶性共重合ポリエステル系樹脂と芳香族ポリカーボネート系樹脂とのポリマーアロイからなるカード用シートが記載され(上記1(3)ア)、さらに、高い透明性を有すること(上記1(3)イ)、ポリマーアロイに添加剤等を配合できること(上記1(3)エ)が記載されているものの、添加剤としてガラス充填剤の明示はなく、また、屈折率に関する記載もない。さらに、甲3には、上記ポリマーアロイと上記添加剤の屈折率を同程度とすることで優れた透明性の樹脂組成物にしようとする課題についての記載もない。
また、甲4には、炭素繊維を用いた繊維強化樹脂組成物が記載され(上記1(4)ア)、さらに、炭素繊維以外の充填材としてガラス繊維を使用できること(上記1(4)イ)が記載されている。
しかしながら、甲4に記載の樹脂組成物は、炭素繊維を含むことから透明性に優れるものとは考え難く、また、甲4には、屈折率に関する記載、Eガラスに関する記載もない。
そうすると、いくら甲4の記載をみても、甲3発明において、Eガラスよりなるガラス充填剤を含ませる構成を導くことはできない。

(ウ)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、「耐衝撃性に優れるカード用シートを提供することを課題とする甲3発明において、周知技術、あるいは、甲第4号証に記載の事項に基づき、添加剤としてガラス充填剤を用い、その配合量を本件特許発明1の如く設定することは、当業者が容易に想到し得ることである。」旨主張している。
しかしながら、上記(イ)で述べたとおり、甲3には、屈折率に関する記載はなく、ポリマーアロイと添加剤の屈折率を同程度とすることで優れた透明性のポリカーボネート樹脂組成物にしようとする課題についての記載もない。また、甲4にも、屈折率に関する記載、Eガラスに関する記載はなく、いくら甲4の記載をみても、甲3発明において、Eガラスよりなるガラス充填剤を含ませる構成を導くことはできない。さらに、甲3に記載された発明において、Eガラスよりなるガラス充填剤を含ませることが周知技術とはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(エ)小括
以上のとおり、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 本件発明2?6について
本件発明2?6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、上記イで述べた理由と同じ理由により、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1-3によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由1及び申立人が申し立てた申立理由1-1?1-3によっては、請求項1?6に係る本件特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールAを出発原料とする粘度平均分子量が13,000?22,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、テレフタル酸残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール残基を含むポリエステル樹脂(B)とを含有する熱可塑性樹脂成分と、Eガラスよりなるガラス充填剤(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部中にポリカーボネート樹脂(A)を25?65質量部、ポリエステル樹脂(B)を75?35質量部含み、該熱可塑性樹脂成分100質量部に対してガラス充填剤(C)を10?45質量部含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ガラス充填剤(C)が、扁平率1.5?8の断面形状を持つガラス繊維と、平均厚みが0.1?10μmのガラスフレークのいずれか一方又は双方であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【請求項4】
該成形品の全表面の30%以上の面積を占める成形品表面の表面粗さRaが0.1μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の成形品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるシート。
【請求項6】
厚みが0.2?2mmであることを特徴とする請求項5に記載のシート。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を、キャビティ表面にセラミックス層を具備する金型で射出成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を、キャビティ表面側から、金属層、次いで熱硬化性樹脂層を具備する金型で射出成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を射出成形して成形品を製造する方法であって、急速加熱冷却金型を用い、金型キャビティ表面温度が130℃以上のときに射出工程を行い、金型キャビティ表面温度が80℃以下のときに型開き工程を行うことを特徴とする成形品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-01-28 
出願番号 特願2019-536113(P2019-536113)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三原 健治  
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 安田 周史
佐藤 健史
登録日 2019-11-01 
登録番号 特許第6607335号(P6607335)
権利者 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
発明の名称 熱可塑性樹脂組成物及び成形品の製造方法  
代理人 重野 隆之  
代理人 重野 隆之  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 剛  

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