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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正  C12N
審判 全部申し立て 発明同一  C12N
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
管理番号 1372697
異議申立番号 異議2020-700032  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-17 
確定日 2021-02-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6545621号発明「遺伝子産物の発現を変更するためのCRISPR-Cas系および方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6545621号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1?24〕について訂正することを認める。 特許第6545621号の請求項1?24に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6545621号の請求項1?24に係る特許についての出願は、平成25年12月12日(パリ条約による優先権主張 2012年12月12日 米国(US)、2013年1月2日 米国(US)、2013年3月15日 米国(US)、2013年6月17日 米国(US)、2013年7月2日 米国(US)、2013年10月15日 米国(US))に出願され、令和1年6月28日にその特許権の設定登録がされ、令和1年7月17日に特許公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 1月17日 特許異議申立人岡ヤエ子による請求項1?24に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年 3月18日付け 取消理由通知書
令和2年 7月22日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、令和2年7月22日付け訂正請求に対して、特許異議申立人は意見書を提出しなかった。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年7月22日付け訂正請求書において特許権者が請求する訂正(以下、「本件訂正」という。)は、一群の請求項[1?24]について訂正事項1及び2の訂正を求める、次のとおりのものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し」と記載されているのを、「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロとスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており」に訂正する。
請求項1を引用する請求項2?24も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0084】に「標的配列がPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ);すなわち、CRISPR複合体により認識される短い配列と会合するはずであることが考えられる。」と記載されているのを、「標的配列がPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ);すなわち、CRISPR複合体により認識される短い配列と関連付けられているはずであることが考えられる。」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、「標的配列」と「PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列」との関係を、「会合し」から「隣接しており」に訂正するものである。
ここで、「PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列」は、その名のとおり、プロトスペーサーすなわち標的配列に隣接するモチーフであって、標的配列と会合するものではないことが技術常識であるし、明細書(段落【0132】及び【0145】)及び図面(図1及び2)にもその旨記載されている。このとおり、訂正前請求項1の「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し」は、誤りであって、本来、「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており」の意味を表示するものと客観的に認めることができるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものといえ、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、「標的配列」と「PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列」との関係を、「会合するはずである」から「関連付けられているはずである」に訂正するものである。
ここで、本件の出願当初明細書(国際出願PCT/US2013/074743、国際公開第2014/093661号)の、訂正事項2に係る部分に対応する部分には、「without wishing to be bound by theory, it is believed that the target sequence should be associated with a PAM (protospacer adjacent motif) ; that is, a short, sequence recognized by the CRISPR complex」と記載されており、「associated with」が「会合」と翻訳されたことがわかる。しかし、「PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列」は、その名のとおり、プロトスペーサーすなわち標的配列に隣接するモチーフであって、標的配列と会合するものではないことが技術常識であるし、出願当初明細書の上記部分以外の「associated with」(段落[0021]、[0106]、[0111]等)は、本件特許明細書においてすべて「関連」と翻訳されている(段落【0020】、【0086】、【0108】等)。このとおり、訂正事項2に係る部分に対応する部分の「associated with」は、「会合」ではなく「関連」と翻訳すべきものであったことが明らかであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものといえ、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。したがって、訂正後の請求項[1?24]について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1?24に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?24に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系であって、
a)1つ以上のエンジニアリングされたCRISPR-Cas系ガイドRNAをコードする1つ以上のヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、前記ガイドRNAが、真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし、前記ガイドRNAが、単一転写産物中にガイド配列、tracrメイト配列及びtracr配列を含むキメラRNAであり、前記tracr配列が、40以上のヌクレオチドの長さを含む、第1の調節エレメント;
b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;
を含む1つ以上のベクターを含み;
成分(a)及び(b)が、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置し、
それによって、真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し;並びに、前記Cas9タンパク質及び前記1つ以上のガイドRNAは、いっしょに天然に存在しない、
CRISPR-Casベクター系。
【請求項2】
前記tracr配列が、67ヌクレオチドの長さを含む、請求項1に記載の系。
【請求項3】
前記tracr配列が、75ヌクレオチドの長さを含む、請求項1に記載の系。
【請求項4】
前記tracr配列が、89ヌクレオチドの長さを含む、請求項1に記載の系。
【請求項5】
前記Cas9タンパク質が、核局在化シグナル(NLS)を含む、請求項1?4のいずれか一項に記載の系。
【請求項6】
前記Cas9タンパク質が、触媒ドメインにおいて1つ以上の突然変異を含み、その結果、前記突然変異Cas9タンパク質が、前記ポリヌクレオチドの1の鎖を開裂する能力を欠き、ニッカーゼである、請求項1?5のいずれか一項に記載の系。
【請求項7】
前記1つ以上のベクターが、1つ以上のウイルスベクターを含む、請求項1?6のいずれか一項に記載の系。
【請求項8】
前記1つ以上のウイルスベクターが、1つ以上のレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴又は単純ヘルペスウイルスベクターを含む、請求項7に記載の系。
【請求項9】
前記Cas9タンパク質が、RuvC I、RuvC II又はRuvC III触媒ドメインにおいて1つ以上の突然変異を含む、請求項1?8のいずれか一項に記載の系。
【請求項10】
前記Cas9タンパク質が、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(SpCas9)タンパク質の位置ナンバリングに対して、D10A、H840A、N854A及びN863Aからなる群から選択される突然変異を含む、請求項1?8のいずれか一項に記載の系。
【請求項11】
前記tracr配列と前記tracrメイト配列との間のハイブリダイゼーションが、二次構造を有する転写物をもたらす、請求項1に記載の系。
【請求項12】
前記二次構造が、ヘアピンを含む、請求項11に記載の系。
【請求項13】
前記真核細胞が、哺乳動物細胞である、請求項1?12のいずれか一項に記載の系。
【請求項14】
前記哺乳動物細胞が、ヒト細胞である、請求項13に記載の系。
【請求項15】
前記Cas9タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列が、真核細胞における発現のためにコドン最適化されている、請求項1?14のいずれか一項に記載の系。
【請求項16】
修復テンプレートが、前記開裂ポリヌクレオチド中に挿入される、請求項1?15のいずれか一項に記載の系。
【請求項17】
(a)及び(b)が、同じベクター上に存在する、請求項1?16のいずれか一項に記載の系。
【請求項18】
(a)及び(b)が、異なるベクター上に存在する、請求項1?16のいずれか一項に記載の系。
【請求項19】
前記Cas9タンパク質が、ヌクレアーゼである、請求項1?5、7、8、及び11?18のいずれか一項に記載の系。
【請求項 20】
真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列を変更する方法であって、請求項1?19のいずれか一項に記載の系を前記真核細胞中に導入することを含み、前記ガイドRNAが、前記標的配列にハイブリダイズし、前記方法は、治療法によるヒト又は動物の身体の治療のための方法ではなく、人間の生殖系列の遺伝的同一性を改変するためのプロセスではなく、前記系をヒト体内の細胞中に導入する工程を含まない、方法。
【請求項 21】
真核細胞のポリヌクレオチドの少なくとも1つの遺伝子産物の発現を変更する方法であって、請求項1?19のいずれか一項に記載の系を前記真核細胞中に導入することを含み、前記ポリヌクレオチドが、標的配列を含有し、前記ガイドRNAが、前記標的配列にハイブリダイズし、前記方法は、治療法によるヒト又は動物の身体の治療のための方法ではなく、人間の生殖系列の遺伝的同一性を改変するためのプロセスではなく、前記系をヒト体内の細胞中に導入する工程を含まない、方法。
【請求項22】
a)部位特異的遺伝子ノックアウトのための;
b)部位特異的ゲノム編集のための;
c)DNA配列特異的干渉のための;又は
d)多重化ゲノムエンジニアリングのための;
請求項1?19のいずれか一項に記載の系の使用であって、
前記使用が、人間の生殖系列の遺伝的同一性を改変するためのプロセスを含まず;及び 前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり;又は(ii)治療法によるヒト又は動物の身体の治療のための方法ではなく、前記系をヒト体内の細胞中に導入する工程を含まない、使用。
【請求項23】
前記使用が、外因性テンプレートポリヌクレオチドとの相同組換えによって前記開裂標的ポリヌクレオチドを修復することをさらに含み、前記修復が、前記標的ポリヌクレオチドの1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失又は置換を含む突然変異をもたらす、請求項22の使用。
【請求項24】
非ヒトトランスジェニック動物又はトランスジェニック植物の製造における、請求項1?19のいずれか一項に記載の系の使用であって、前記使用が、治療法による動物の身体の治療のための方法ではない、使用。」
(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」等という。これらをまとめて「本件発明」ということもある。)

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?24に係る特許に対して、当審が令和2年3月18日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項1の「前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し」は、技術的に正確でない記載であり、当該記載を含む請求項1及び請求項1を引用する請求項2?24は、特許を受けようとする発明が明確でないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 当審の判断
上記第3のとおり、本件訂正の訂正事項1により、請求項1の「前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し」は、「前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており」と、技術的に正確な記載に訂正され、その結果、請求項1?24において特許を受けようとする発明が明確となった。
したがって、上記取消理由は理由がない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
訂正前の請求項1?24に係る特許に対して、異議申立人が申し立てたが、当審が取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次の通りである。

(1)特許異議申立理由1(新規事項追加)
請求項1の「それによって、真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、」は、平成29年1月13日付け手続補正書により追加されたものである。上記記載は、請求項1における「前記ポリヌクレオチドを改変」すなわち、DNA二本鎖切断に至るまでのステップであると解されるが、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「出願当初明細書等」という。)には、請求項1の「真核細胞におけるインビボ」という特定条件化でのDNA二本鎖切断に至るまでのステップは記載されていないから、請求項1の上記記載は、新たな技術的事項を追加するものである。
したがって、平成29年1月13日付け手続補正書でした補正は、出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである。

(2)特許異議申立理由2(明確性要件違反)
本件特許は、次のア及びイの点で、特許請求の範囲の請求項1及びそれを引用する請求項2?24、請求項22及びそれを引用する請求項23の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1には、「真核細胞におけるインビボ」とある。「インビボ」とは、生体内のことを指すが、どの範囲までを生体とするかについて共通の技術常識は存在しないから、定義がない以上、組織を生体とするかどうかなど、その範囲が明確でない。
したがって、請求項1及びそれを引用する請求項2?24において特許を受けようとする発明が明確でない。
イ 請求項22には、「請求項1?19のいずれか一項に記載の系の使用であって、・・・前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり」と記載されているが、請求項1には、「真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進」することが記載されているから、請求項22の「前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり」とはどのような態様を指すものであるか、明確でない。
したがって、請求項22及びそれを引用する請求項23において特許を受けようとする発明が明確でない。

(3)特許異議申立理由3(甲5に基づく新規性進歩性欠如)
ア 本件特許の優先日
本件発明1の発明特定事項「b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;を含む1つ以上のベクターを含み;」に関して、本件特許の第1?3優先明細書(甲1?3)には、「第2の調節エレメント」が核局在配列を有する場合は記載されているが、有さない場合については記載されていない。核局在配列を有さない場合は、第4優先明細書(甲4)で初めて記載された事項である。
また、本件発明1の発明特定事項「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」に関しても、本件特許の第1?3優先明細書には記載がなく、第4優先明細書で初めて記載された。
したがって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2?24は、第1?3優先権主張の利益を享受することができず、それらの新規性等の判断基準日は、第4優先日(2013年6月17日)である。

イ 甲5に基づく新規性進歩性欠如
本件発明1?24は、本件特許の第4優先日(2013年6月17日)よりも前の2013年1月3日に発行された甲5に記載された発明であるか、又は、当該発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同条第2項の規定により、特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(4)特許異議申立理由4(甲6に基づく新規性進歩性欠如)
上記(3)アのとおり、本件発明1及びそれを引用する本件発明2?24は、第1?3優先権主張の利益を享受することができず、それらの新規性等の判断基準日は、第4優先日(2013年6月17日)である。
そして、本件発明1?24は、本件特許の第4優先日(2013年6月17日)よりも前の2013年3月4日に発行された甲6に記載された発明であるか、又は、当該発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同条第2項の規定により、特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(5)特許異議申立理由5(甲7に基づく進歩性欠如)
本件発明1?24は、本件特許の第1優先日(2012年12月12日)よりも前の2012年6月28日に発行された甲7に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(6)特許異議申立理由6(甲8に基づく新規性進歩性欠如)
上記(3)アのとおり、本件発明1及びそれを引用する本件発明2?24は、第1?3優先権主張の利益を享受することができず、それらの新規性等の判断基準日は、第4優先日(2013年6月17日)である。
そして、本件発明1?24は、本件特許の第4優先日(2013年6月17日)よりも前の2013年1月29日に発行された甲8に記載された発明であるか、又は、当該発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同条第2項の規定により、特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(7)特許異議申立理由7(甲9に基づく新規性進歩性欠如)
上記(3)アのとおり、本件発明1及びそれを引用する本件発明2?24は、第1?3優先権主張の利益を享受することができず、それらの新規性等の判断基準日は、第4優先日(2013年6月17日)である。
そして、本件発明1?24は、本件特許の第4優先日(2013年6月17日)よりも前の2013年3月26日に発行された甲9に記載された発明であるか、又は、当該発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同条第2項の規定により、特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(8)特許異議申立理由8(甲10に基づく拡大先願)
本件発明1?24は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲10出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(9)証拠方法
甲1:米国特許仮出願第61/736,527号明細書(2012年12月12日出願)
甲2:米国特許仮出願第61/748,427号明細書(2013年1月2日出願)
甲3:米国特許仮出願第61/791,409号明細書(2013年3月15日出願)
甲4:米国特許仮出願第61/835,931号明細書(2013年6月17日出願)
甲5:Science, vol.339, pp.823-826 (Published online 3 January 2013) & Supplementary Materials
甲6:Nucleic Acids Research, vol.41, pp.4336-4343 (Published online 4 March 2013)
甲7:Science, vol.337, pp.816-821 (Published online 28 June 2012) & Supplementary Materials
甲8:Nature Biotechnol., vol.31, pp.227-229 (Published online 29 January 2013) & Supplementary Materials
甲9:Cell Research, vol.23, pp.465-472 (Published online 26 March 2013) & Supplementary information
甲10:国際公開第2013/176772号
甲11:Science, vol.339, pp.819-823 (Published online 3 January 2013)
甲12:Science, vol.337, pp.808-809 (17 August 2012)
甲13:Cell Research, vol.23, pp.15-17 (Published online 4 September 2012)
甲14:Proc.Natl.Acad.Sci.USA., vol.93, pp.3094-3098 (1996)

2 当審の判断
(1)特許異議申立理由1(新規事項追加)について
ア 本件特許の出願当初の明細書及び図面の記載事項
本件特許の出願当初(PCT/US2013/074743)の明細書及び図面には次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、対応する日本語出願の公表公報である特表2016-500262号公報の記載に基づく翻訳で示し、記載箇所もその段落番号等で示す。)
(当初-ア) 「一部の実施形態において、tracr配列およびtractメイト配列は、単一転写物内に含有され、その結果、2つの間のハイブリダイゼーションが二次構造、例えば、ヘアピンを有する転写物を産生する。ヘアピン構造において使用される好ましいループ形成配列は、4ヌクレオチド長であり、最も好ましくは、配列GAAAを有する。・・・このようなヘアピン構造の例示的説明を、図11Bの下方位置に提供し、最後の「N」およびループの上流の5’側の配列の部分は、tracrメイト配列に対応し、ループの3’側の配列の部分は、tracr配列に対応する。」(段落【0063】)
(当初-イ) 「例示的なII型CRISPR系は、4つの遺伝子Cas9、Cas1、Cas2、およびCsn1のクラスター、ならびに2つの非コードRNAエレメント、tracrRNAおよび非反復配列の短いストレッチ(スペーサー、それぞれ約30bp)により間隔が空いている反復配列の特徴的アレイ(ダイレクトリピート)を含有する化膿性連鎖球菌(Streptococcuspyogenes)SF370からのII型CRISPR遺伝子座である。この系において、ターゲティングされるDNA二本鎖切断(DSB)を4つの連続ステップにおいて生成する(図2A)。第1に、2つの非コードRNA、プレcrRNAアレイおよびtracrRNAがCRISPR遺伝子座から転写される。第2に、tracrRNAがプレcrRNAのダイレクトリピートにハイブリダイズし、次いでそれが個々のスペーサー配列を含有する成熟crRNAにプロセシングされる。第3に、成熟crRNA:tracrRNA複合体がCas9を、crRNAのスペーサー領域とプロトスペーサーDNAとの間のヘテロ二本鎖形成を介してプロトスペーサーおよび対応するPAMからなるDNA標的に指向する。最後に、Cas9は、PAMの上流の標的DNAの開裂を媒介してプロトスペーサー内でDSBを創成する(図2A)。この例は、このRNAプログラマブルヌクレアーゼ系を適応させて真核細胞の核中のCRISPR複合体活性を指向する例示プロセスを記載する。」(段落【0132】)
(当初-ウ) 「図11は、SpCas9をリプログラミングして哺乳動物細胞中の複数のゲノム遺伝子座をターゲティングすることができることのさらなる説明を提供する。図11Aは、下線付き配列により示される5つのプロトスペーサーの局在を示すヒトEMX1遺伝子座の模式図を提供する。図11Bは、プレcrRNAおよびtracrRNAのダイレクトリピート領域間のハイブリダイゼーションを示すプレcrRNA/trcrRNA複合体の模式図(上図)および20bpのガイド配列、ならびにヘアピン構造にハイブリダイズしている部分ダイレクトリピートおよびtracrRNA配列からなるtracrメイトおよびtracr配列を含むキメラRNA設計の模式図(下図)を提供する。ヒトEMX1遺伝子座中の5つのプロトスペーサーにおけるCas9媒介開裂の効力を比較するSurveyorアッセイの結果を、図11Cに説明する。プロセシングされたプレcrRNA/tracrRNA複合体(crRNA)またはキメラRNA(chiRNA)のいずれかを使用してそれぞれのプロトスペーサーをターゲティングする。」(段落【0148】)
(当初-エ) 「

」(図2A)
(当初-オ) 「

」(図11)

イ 判断
本件特許の出願当初の図2Aには、天然の化膿性連鎖球菌のCRISPR遺伝子座にコードされるCRISPR系の作用機序として、CRISPR遺伝子座から転写されプロセシングされて生じた成熟crRNA:tracrRNA複合体が、CRISPR遺伝子座から発現したCas9タンパク質とCRISPR複合体を形成すること、CRISPR複合体中のcrRNAのスペーサー領域と標的DNAのプロトスペーサーとの間の二本鎖形成により、CRISPR複合体が標的DNA上に指向されること、CRISPR複合体中のCas9タンパク質が標的DNAの開裂を媒介することが記載されている(上記(当初-イ)、(当初-エ))。また、図11Bには、ガイド配列、tracrメイトRNA及びtracr配列を含むキメラRNAの構造が記載され(上記(当初-ア)、(当初-オ))、図11Cには、図11Aに記載されたヒトEMX1遺伝子座のプロトスペーサー1?5のいずれかを標的とするガイド配列を有するキメラRNA(chiRNA)とSpCas9を哺乳動物細胞に適用することにより、プロトスペーサー1及び5を標的とした場合に、それぞれ5.6%及び3.3%で、プロセシングされたプレcrRNA:tracrRNA複合体(crRNA)と同様のインデルが生じたことが記載されている(上記(当初-ウ)、(当初-オ))。
ここで、上記図11の実験の「哺乳動物細胞」、「ヒトEMX1遺伝子座のプロトスペーサー1?5」、「キメラRNA」、「SpCas9」及び「インデル」は、それぞれ、本件特許の請求項1の「真核細胞」、「真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列」、「キメラRNA」、「II型Cas9タンパク質」及び「ポリヌクレオチドを改変」に該当する。そして、上記図11及びその説明には、キメラRNAによる「インデル」(ポリヌクレオチドの改変)が引き起こされた機序については記載されていないものの、用いたキメラRNAは、化膿性連鎖球菌等の天然のCRISPR系のRNA成分のうちの必要部分である、crRNAに由来するガイド配列及びtracrメイト配列と、tracr配列の部分配列とを連結してなるものであり(上記(当初-オ)の特にB)、しかも、上記図11の実験で、crRNA:tracrRNA複合体を用いたときと同様の「インデル」(ポリヌクレオチドの改変)がキメラRNAにより引き起こされたのであるから、その機序は、上記図2Aの作用機序と同様であることが自明である。
このとおり、本件特許の請求項1の「それによって、真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、」は、出願当初明細書の図11の実験において哺乳動物細胞に適用されたCRISPR系について、同図2Aに記載された天然のCRISPR系から自明な作用機序を記載したものにすぎないから、出願当初明細書等の記載から自明な事項であり、新たな技術的事項を追加するものとはいえない。
したがって、特許異議申立理由1は理由がない。

(2)特許異議申立理由2(明確性要件違反)について
ア 上記理由アについて
請求項1は、上記第3のとおり、「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系であって、
a)1つ以上のエンジニアリングされたCRISPR-Cas系ガイドRNAをコードする1つ以上のヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、前記ガイドRNAが、真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし、前記ガイドRNAが、単一転写産物中にガイド配列、tracrメイト配列及びtracr配列を含むキメラRNAであり、前記tracr配列が、40以上のヌクレオチドの長さを含む、第1の調節エレメント;
b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;
を含む1つ以上のベクターを含み;
成分(a)及び(b)が、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置し、
それによって、真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し;並びに、前記Cas9タンパク質及び前記1つ以上のガイドRNAは、いっしょに天然に存在しない、
CRISPR-Casベクター系。」
というものである(下線は、当審による。)。
ここで、異議申立人が指摘する「真核細胞におけるインビボ」とは、文理上、「前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現」が行われる場のことと解される。
そして、上記下線部の記載から、「前記ガイドRNA」は、「真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズ」するものであって、「前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現」は、「前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、・・・前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」という作用を発揮するものであるから、ガイドRNA及びCas9タンパク質は、真核細胞中でCRISPR複合体を形成してポリヌクレオチドを改変するものであると理解できる。
また、上記「(a)」及び「(b)」のとおり、「ガイドRNAをコードする1つ以上のヌクレオチド配列」及び「Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列」は「ベクター」に含まれており、ベクターとは、外来遺伝物質を別の細胞に人為的に運ぶために利用される核酸分子を意味することが技術常識であるから、「ガイドRNAをコードする1つ以上のヌクレオチド配列」及び「Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列」はベクターにより真核細胞内に導入され、真核細胞内で「前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現」が行われると理解できる。
このとおり、異議申立人が指摘する「真核細胞におけるインビボ」、すなわち「前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現」が行われる場とは、真核細胞内であることが明らかである。
したがって、請求項1の「真核細胞におけるインビボ」は、その範囲が不明確であるということはできない。

イ 上記理由イについて
請求項22には、「請求項1?19のいずれか一項に記載の系の使用」の発明が記載され、「前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり」との記載は、請求項1?19のいずれか一項に記載の「CRISPR-Casベクター系」の「使用」の態様を特定するものであると解すべきである。ここで、請求項1?19に記載の「CRISPR-Casベクター系」は、請求項1の「前記ガイドRNAが、真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし」及び「真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写」の記載に照らすと、真核細胞に作用するものであることが明らかであるから、請求項22の「前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり」とは、請求項1?19のいずれか一項に記載の「CRISPR-Casベクター系」が「インビトロ若しくはエクスビボ」に存在する真核細胞に対して使用されることを意味すると優に理解できる。
したがって、請求項22の「前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり」の態様は不明確とはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、特許異議申立理由2は、理由がない。

(3)本件特許の優先日について
異議申立人は、異議申立理由3、4、6及び7の前提として、本件発明1の構成要件「b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;を含む1つ以上のベクターを含み;」及び「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」は第1?3優先明細書に記載されていないから、本件発明は第1?3優先権主張の利益が享受できず、新規性進歩性等の判断基準日は早くとも第4優先日である旨主張するので、以下に検討する。

ア 本件第1優先明細書(甲1)の記載事項
本件第1優先明細書(甲1)には、次の事項が記載されている。(英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)
(甲1-ア) 「1またはそれ以上のベクターを含むベクター系であって、ここで系は、
a.tracrメイト配列に作動可能に連結された第1の調節エレメント、及びtracrメイト配列の上流にガイド配列を挿入するための1つ又は複数の挿入部位を含み、ここで、発現されると、ガイド配列は真核細胞の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、ここでCRISPR複合体は、(1)標的配列にハイブリダイズするガイド配列、及び(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合したCRISPR酵素を含み、
b. 核局在化配列を含む前記CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に連結された第2の調節エレメント
を含む。」(第277頁特許請求の範囲の請求項1)
(甲1-イ) 「7. CRISPR酵素がII型 CRISPR系酵素である、請求項1記載のベクター系。」(第277頁特許請求の範囲の請求項7)
(甲1-ウ) 「8. CRISPR酵素がCas9酵素である、請求項1記載のベクター系。」(第277頁特許請求の範囲の請求項8)
(甲1-エ) 「一部の実施形態において、tracr配列およびtractメイト配列は、単一転写物内に含有され、その結果、2つの間のハイブリダイゼーションが二次構造、例えば、ヘアピンを有する転写物を産生する。ヘアピン構造において使用される好ましいループ形成配列は、4ヌクレオチド長であり、最も好ましくは、配列GAAAを有する。・・・このようなヘアピン構造の例示的説明を、図12Bの下方位置に提供し、最後の「N」およびループの上流の5’側の配列の部分は、tracrメイト配列に対応し、ループの3’側の配列の部分は、tracr配列に対応する。」(段落[0067])
(甲1-オ) 「例示的なII型CRISPR系は、4つの遺伝子Cas9、Cas1、Cas2、およびCsn1のクラスター、ならびに2つの非コードRNAエレメント、tracrRNAおよび非反復配列の短いストレッチ(スペーサー、それぞれ約30bp)により間隔が空いている反復配列の特徴的アレイ(ダイレクトリピート)を含有する化膿性連鎖球菌(Streptococcuspyogenes)SF370からのII型CRISPR遺伝子座である。この系において、ターゲティングされるDNA二本鎖切断(DSB)を4つの連続ステップにおいて生成する(図2A)。第1に、2つの非コードRNA、プレcrRNAアレイおよびtracrRNAがCRISPR遺伝子座から転写される。第2に、tracrRNAがプレcrRNAのダイレクトリピートにハイブリダイズし、次いでそれが個々のスペーサー配列を含有する成熟crRNAにプロセシングされる。第3に、成熟crRNA:tracrRNA複合体がCas9を、crRNAのスペーサー領域とプロトスペーサーDNAとの間のヘテロ二本鎖形成を介してプロトスペーサーおよび対応するPAMからなるDNA標的に指向する。最後に、Cas9は、PAMの上流の標的DNAの開裂を媒介してプロトスペーサー内でDSBを創成する(図1A)。この例は、このRNAプログラマブルヌクレアーゼ系を適応させて真核細胞の核中のCRISPR複合体活性を指向する例示プロセスを記載する。」(段落[00150])
(甲1-カ) 「図12は、SpCas9をリプログラミングして哺乳動物細胞中の複数のゲノム遺伝子座をターゲティングすることができることのさらなる説明を提供する。図12Aは、下線付き配列により示される5つのプロトスペーサーの局在を示すヒトEMX1遺伝子座の模式図を提供する。図12Bは、プレcrRNAおよびtracrRNAのダイレクトリピート領域間のハイブリダイゼーションを示すプレcrRNA/trcrRNA複合体の模式図(上図)および20bpのガイド配列、ならびにヘアピン構造にハイブリダイズしている部分ダイレクトリピートおよびtracrRNA配列からなるtracrメイトおよびtracr配列を含むキメラRNA設計の模式図(下図)を提供する。ヒトEMX1遺伝子座中の5つのプロトスペーサーにおけるCas9媒介開裂の効力を比較するSurveyorアッセイの結果を、図12Cに説明する。プロセシングされたプレcrRNA/tracrRNA複合体(crRNA)またはキメラRNA(chiRNA)のいずれかを使用してそれぞれのプロトスペーサーをターゲティングする。」(段落[00178])

(甲1-キ) 「

」(図1A)
(甲1-ク) 「

」(図12)

イ 構成要件「b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;を含む1つ以上のベクターを含み;」について
本件第1優先明細書の上記(甲1-ア)に記載された「ベクター系」は、本件発明1の「ベクター系」に相当し、上記(甲1-ア)に「b.」として記載されたとおり、「第2の調節エレメント」は、「CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に連結された」ものである。そして、上記(甲1-ウ)には、上記(甲1-ア)の「CRISPR酵素」が「Cas9酵素」である場合が記載され、「Cas9酵素」は、上記(甲1-イ)に記載されたようなII型のものであることが広く知られていたから、本件第1優先明細書には、II型Cas9酵素をコードする配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含む1つ以上のベクターを含むベクター系、すなわち、本件発明1の構成要件「b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;を含む1つ以上のベクターを含み;」が記載されているといえる。
異議申立人は、本件第1優先明細書には、「II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント」として、核局在配列を有する場合しか記載されていないから、核局在配列を有さない場合をも含む「II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント」は、第1優先権主張の利益を享受することができない旨主張する。
しかし、核局在配列は、「II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列」とも「第2の調節エレメント」とも異なる別個の構成成分であって、その存在の有無が「第2の調節エレメント」が「II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している」ことに影響を及ぼすものではない。したがって、核局在配列の有無は、本件第1優先明細書に、II型Cas9酵素をコードする配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含む1つ以上のベクターを含むベクター系が記載されている事実を左右しないから、異議申立人の上記主張は失当である。

ウ 構成要件「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」について
本件発明1の上記構成要件は、上記第2のとおり、訂正事項1により、「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」と訂正された。
本件第1優先明細書の図1Aには、天然の化膿性連鎖球菌のCRISPR系の作用機序、すなわち、成熟crRNA、プロセシングされたtracrRNA及びCas9からなる複合体が、PAM配列と隣接したプロトスペーサー(標的配列)を認識して、Cas9により標的DNAの二本鎖切断(DSB)が引き起こされることが記載されている(上記(甲1-オ)、(甲1-キ))。また、図12Bには、ガイド配列、tracrメイトRNA及びtracr配列を含むキメラRNAの構造が記載され、図12Cには、当該キメラRNAを用いて図12Aに記載されたヒトEMX1遺伝子座のプロトスペーサー配列を標的としたCas媒介開裂の実験結果が記載されているところ、PAMに隣接したプロトスペーサー(1)を標的とした場合に、5.6%で、プロセシングされたプレcrRNA:tracrRNA複合体(crRNA)と同様のインデルが生じたことが記載されている(上記(甲1-カ)、(甲1-ク))。そして、上記図12及びその説明には、キメラRNAによるインデル(ポリヌクレオチドの改変)が引き起こされた機序については記載されていないものの、用いたキメラRNAは、化膿性連鎖球菌等の天然のCRISPR系のRNA成分のうちの必要部分である、crRNAに由来するガイド配列及びtracrメイト配列と、tracr配列の部分配列とを連結してなるものであり(上記(甲1-ク)の特にB)、しかも、上記図12の実験で、crRNA:tracrRNA複合体を用いたときと同様のインデル(ポリヌクレオチドの改変)がキメラRNAにより引き起こされたのであるから、その機序は、上記図1Aの作用機序と同様であることが自明である。
したがって、本件第1優先明細書には、本件発明1の構成要件「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」という事項が記載されているといえる。

エ 小括
以上のとおりであるから、異議申立人が指摘する本件発明1の構成要件「b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;を含む1つ以上のベクターを含み;」及び「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」は、いずれも本件第1優先明細書に記載されており、本件発明は第1優先権主張の利益を享受できるものであるから、その新規性進歩性等の判断基準日は第1優先日(2012年12月12日)である。

(4)特許異議申立理由3(甲5に基づく新規性進歩性欠如)について
上記(3)のとおり、本件発明は第1優先権主張の利益を享受できるものであって、その新規性進歩性等の判断基準日は第1優先日である。
これに対して、甲5は、本件第1優先日である2012年12月12日よりも後の2013年1月3日に発行された刊行物であるから、本件発明が新規性進歩性を欠如することの根拠とすることはできない。
したがって、特許異議申立理由3は理由がない。

(5)特許異議申立理由4(甲6に基づく新規性進歩性欠如)について
上記(3)のとおり、本件発明は第1優先権主張の利益を享受できるものであって、その新規性進歩性等の判断基準日は第1優先日である。
これに対して、甲6は、本件第1優先日である2012年12月12日よりも後の2013年3月4日に発行された刊行物であるから、本件発明が新規性進歩性を欠如することの根拠とすることはできない。
したがって、特許異議申立理由4は理由がない。

(6)特許異議申立理由5(甲7に基づく新規性進歩性欠如)について
ア 甲7の記載事項
本件第1優先日よりも前に発行された学術論文である甲7には、次の事項が記載されている。(英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)
(甲7-ア) 「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)系は、侵入する核酸の抑制を誘導するために、CRISPRRNA(crRNA)を利用するウイルスやプラスミドに対する獲得免疫を、細菌や古細菌に提供するものである。この系の一部分において、成熟crRNAが、トランス活性化crRNA(tracrRNA)と塩基対を組むことで、標的DNAに二本鎖切断を導入するようにCRISPR関連タンパク質Cas9を誘導する2つのRNAからなる構造を形成することを示す。このデュアル-tracrRNA:crRNAは、一本鎖RNAキメラとして設計されたときも、配列特異的なCas9による二本鎖DNA切断を誘導する。私たちの研究は、部位特異的DNA切断のためにデュアル-RNAを使用するエンドヌクレアーゼのファミリーを明らかにし、RNAでのプログラムが可能なゲノム編集のためにこのシステムを利用する可能性を強調する。」(第816頁要約)
(甲7-イ) 「ここで私たちは、II型の系において、Cas9タンパク質が、標的二本鎖DNAを切断するために、活性化tracrRNAと標的指向crRNAの間の塩基対構造を必要とする酵素ファミリーを構成するものであることを示す。位置特異的切断は、標的であるプロトスペーサーDNAとcrRNAの間の塩基対を形成する相補性と、標的DNAの領域に並置される短いモチーフ[プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる]により定められる場所で生じる。私たちの研究は、さらに、Cas9エンドヌクレアーゼファミリーが単一のRNA分子でプログラムされて特定のDNA部位を切断できることを示している。これにより、ゲノムのターゲティングと編集のために二本鎖DNA破壊を生成するシンプルで多用途のRNA指向システムを開発する可能性が高まる。」(第816頁中欄第25行?右欄第3行)
(甲7-ウ) 「tracrRNAの全長が位置特異的なCas9に触媒されるDNA切断において必要かどうかを決定するために、全長の成熟(42ヌクレオチドの)crRNAと、5’あるいは3’末端を欠く様々な切断型のtracrRNAを用いて再構成されたCas9-tracrRNA:crRNA複合体を試験した。・・・野生型配列のヌクレオチド23から48を保持する大幅に切断された型のtracrRNAが、頑強なデュアルRNA誘導性のCas9に触媒されるDNA切断を支持することができた(図3A・・・)。」(第818頁左欄下から5行?中欄第8行)
(甲7-エ) 「図3 Cas9に触媒される標的DNAの切断は、tracrRNAの活性化ドメインを必要とし、crRNAのシード配列により制御される。(A)Cas9-tracrRNA:crRNA複合体は、42ヌクレオチド長のcrRNA-sp2と切断型のtracrRNA構成体を用いて再構築され、図1Bと同様に切断活性についてアッセイされた。・・・(C)Cas9仲介性DNA切断を誘導することができるtracrRNAとcrRNAの最小領域(青い陰が付された領域)。

」(第818頁図3)
(甲7-オ) 「私たちは、標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造を含む2つのバージョンのキメラRNAを設計した。・・・プラスミドDNAを用いた切断アッセイにおいて、長い方のキメラRNAは、切断tracrRNA:crRNA複合体を用いた場合に観察された場合と同じような挙動でCas9によるDNA切断を誘導できることを観察によって確認した(図5B及び図S14、A及びC)。短い方のキメラRNAは、このアッセイでは効果的に機能せず、tracrRNA:crRNA塩基対相互作用を超えた5?12位のヌクレオチドが効率的なCas9結合及び/又は標的認識に重要であることが確認された。短いdsDNAを基質として用いる切断アッセイでも同様の結果が得られ、標的DNAの切断部位の位置が二重tracrRNA:crRNAをガイドとして用いた場合の観察結果と同一であることがさらに示された(図5C及び図S14、B及びC)。」(第820頁左欄第5行?第29行)
(甲7-カ) 「図5 Cas9は、tracrRNAとcrRNAの特徴を組み合わせた単一のエンジニアリングされたRNA分子を使用して、プログラムすることができる。
(A)(上)II型CRISPR/Casシステムにおいて、Cas9は、活性化しているtracrRNA及び標的化crRNAにより形成される2つのRNA構造により誘導されて、部位特異的に標的となった二本鎖DNAを切断する。(下)crRNAの3’末端をtracrRNAの5’末端に融合することにより生成されたキメラRNA。(B)プロトスペーサー4標的配列と野生型PAMを備えるプラスミドが、tracrRNA(4-89):crRNA-sp4複合体によって、あるいは、crRNAの3’末端をGAAAテトラループとともにtracrRNAの5’末端に付加することで設計されインビトロ転写されたキメラRNAによってプログラムされたCas9による切断の標的となった。切断反応はXmnIによる制限マッピングにより分析された。キメラRNAAとBの配列は、DNA標的指向配列(黄色)、crRNAリピート由来配列(オレンジ)、そしてtracrRNA由来配列(水色)とともに示される。(C)プロトスペーサー4二本鎖DNA切断反応は図1Bのように行った。



(甲7-キ) 「図S14 デュアル-tracrRNA:crRNAを模した一本鎖キメラRNAにガイドされたCas9はプロトスペーサーDNAを切断する。図5を参照。・・・


(甲7-ク) 「ジンク-フィンガーヌクレアーゼや転写活性化様エフェクターヌクレアーゼは、ゲノムを操作するために設計された人工酵素として、大きな関心を集めた。私たちは、遺伝子ターゲティングとゲノム編集への応用に向けた大きな潜在能力をもたらし得るRNAによりプログラムされたCas9に基づく代替的な手法を提案する。」(第820頁右欄第2行?第9行)
(甲7-ケ) 「プラスミドDNA切断アッセイ
・・・未処理の、あるいは制限酵素処理により鎖状化されたプラスミドDNA(30 0ng(?8nM))は、精製されたCas9タンパク質(50-500nM)とtracrRNA:crRNA複合体(50-500nM、 1:1)とともに、Cas9プラスミド切断緩衝液(20mM HEPES pH7.5、 150mM KCl、 0.5mM DTT、 0.1mM EDTA)中で、10mM MgCl2を加えて、あるいは加えずに、37℃で60分間インキュベートした。」(SUPPLEMENTARY MATERIALS AND METHODS)

イ 甲7発明の認定
上記(甲7-ア)、(甲7-イ)、(甲7-オ)、(甲7-カ)、(甲7-ク)から、甲7では、CRISPR-Cas系を構成するtracrRNAとcrRNAに基づいて設計されたキメラRNAとII型Cas9タンパク質を用いたCRISPR-Cas系により、緩衝液中でPAM配列に隣接する標的配列が開裂されることが実験により確認されている。よって、甲7には、Cas9タンパク質及び前記1つ以上のキメラRNAが、いっしょに天然に存在しないCRISPR-Cas系が記載されているといえる。また、図5Bに示されたキメラAは、上述のキメラRNAの1つの態様であり、tracrRNA由来の26ヌクレオチドの長さの配列を有するものであるから、甲7には以下の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)系であって、
a)tracrRNAとcrRNAに基づいて設計されたキメラRNAであって、前記キメラRNAは、緩衝液中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし、前記キメラRNAは、標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造を含む、キメラRNAであるキメラAと、
b)II型Cas9タンパク質、
を含み、
前記tracrRNAが、26のヌクレオチドの長さを有し、
前記緩衝液中で前記Cas9タンパク質及び前記キメラRNAが、前記標的配列においてCRISPR複合体を形成して前記標的配列を開裂し、
前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、
前記Cas9タンパク質及び前記キメラRNAが、いっしょに天然に存在しない、
CRISPR-Cas系。」

ウ 対比
本件発明1の「ガイド配列」に関して、本件明細書の段落【0060】には、「一般に、ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズし、標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向するために標的ポリヌクレオチド配列との十分な相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列である」と記載されている。
また、本件発明1の「tracr配列及びtracrメイト配列」に関して、本件 明細書の段落【0019】には、「CRISPR複合体は、前記ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列は、次いでtracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に結合している」、段落【0017】には、「一部の実施形態において、CRISPR酵素は、Cas9酵素である」、段落【0063】には、「一部の実施形態において、tracr配列およびtractメイト配列(当審注:「tracrメイト配列」の誤記と認める。引用部分について以下同じ。)は、単一転写物内に含有され、その結果、2つの間のハイブリダイゼーションが二次構造、例えば、ヘアピンを有する転写物を産生する。ヘアピン構造において使用される好ましいループ形成配列は、4ヌクレオチド長であり、最も好ましくは、配列GAAAを有する」と記載されている。
これらの記載からみて、本件発明1の「tracr配列」と「tracrメイト配列」は、互いにハイブリダイズして、「ガイド配列」や「Cas9」とともに、「CRISPR複合体」を形成するものであり、「tracr配列」と「tracrメイト配列」が単一転写物内に含有される場合は、互いにハイブリダイゼーションすることでヘアピン構造を形成するものといえる。
一方、甲7発明の「キメラRNA」も、「標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造」を含むものであって、Cas9タンパク質と複合体を形成し、「標的認識配列」が「標的配列にハイブリダイズする」ことで「前記標的配列の開裂する」ものである。
よって、甲7発明の「a)tracrRNAとcrRNAに基づいて設計されたキメラRNAであって、前記キメラRNAは、・・・ポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし、前記キメラRNAは、標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造を含む、キメラRNAであるキメラA」は、本件発明1の「標的配列にハイブリダイズし」「ガイド配列、tracrメイト配列及びtracr配列を含むキメラRNA」である「エンジニアリングされたCRISPR-Cas系ガイドRNA」に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲7発明とは、
「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)系であって、
a)1つ以上のエンジニアリングされたCRISPR-Cas系ガイドRNAであって、前記ガイドRNAが、ポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし、前記ガイドRNAが、ガイド配列、tracrメイト配列及びtracr配列を含むキメラRNAである、ガイドRNA;
b)II型Cas9タンパク質;
を含み、
前記Cas9タンパク質及び前記ガイドRNAが前記標的配列においてCRISPR複合体を形成し、
前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、
前記Cas9タンパク質及び前記1つ以上のガイドRNAが、いっしょに天然に存在しない、
CRISPR-Cas系。」
である点で一致し、次の相違点1?4で相違する。
[相違点1]
本件発明1は、「ガイドRNAが、真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズ」し、「真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進」するのに対して、甲7発明では、「キメラRNAは、緩衝液中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズ」し、「前記緩衝液中で前記Cas9タンパク質及び前記キメラRNAが、前記標的配列においてCRISPR複合体を形成」する点。
[相違点2]
本件発明1は、「前記ポリヌクレオチドを改変」するのに対して、甲7発明では、「前記標的配列を開裂」するにとどまる点。
[相違点3]
本件発明1は、CRISPR-Cas系ガイドRNAを「コードする1つ以上のヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメント」と、II型Cas9タンパク質を「コードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント」を含む「1つ以上のベクターを含み;成分(a)及び(b)が、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置」する、CRISPR-Cas「ベクター」系であるのに対して、甲7発明は、「キメラRNA」と「Cas9タンパク質」とを含むCRISPR-Cas系である点。
[相違点4]
tracr配列が、本件発明1は、「40以上のヌクレオチドの長さを含む」のに対して、甲7発明は、「26のヌクレオチドの長さを有し」ている点。

エ 判断
まず、上記相違点4について検討すると、甲7には、全長成熟crRNA(cr-RNA-sp2)と、5’又は3’末端で配列が欠如した様々な切断型のtracrRNAを組み合わせて再構成された二本鎖のCas9-tracrRNA:crRNA複合体を用いた試験において、天然配列のヌクレオチド23-48(tracr配列のヌクレオチド長は26)を共通に保持したtracrRNA(4-89、15-89、23-89、15-53、23-53、及び23-48)がCas9によるDNA切断に有効であることが示されている(甲7-エ)。
また、tracrRNA:crRNAは一本鎖のキメラRNAに設計でき(甲7-ア)、tracr配列のヌクレオチド長が26(天然配列のヌクレオチド23-48)の長いキメラAが、二本鎖のtracrRNA:crRNA複合体を用いた場合と同じような挙動でCas9によるDNA切断を誘導したこと、他方、tracr配列のヌクレオチド長が18(天然配列のヌクレオチド23-40)の短いキメラBの場合には、DNA切断を誘導できなかったこと(甲7-オ、甲7-カ)が示されている。
以上の甲7の実験結果に接した本件優先日の当業者は、26ヌクレオチド長よりも短いtracr配列は、Cas9の開裂効果が劣ることから、Cas9タンパク質による標的配列の開裂には、少なくとも天然配列のヌクレオチド23-48を保持した26ヌクレオチド長のtracr配列を含む必要があることは理解するといえる。しかし、甲7には、26ヌクレオチドより長いtracr配列の方が好ましいことを示す記載は見当たらないし、本件優先日当時、tracr配列の長さが大きければ大きいほど好ましいという技術常識が存在したとも認めることができない。
一方、本件明細書の図16及び図17には、ヒト細胞中のゲノムのEMX1遺伝子座のプロトスペーサー1?3、PVALB遺伝子座のプロトスペーサー4及び5を標的とした場合に、tracr配列の長さが45及び63のキメラRNA(それぞれ「+67」及び「+85」と表示されたもの)は、tracr配列の長さが26のキメラRNA(「+48」と表示されたもの)よりもゲノム改変効率が高いことが具体的データにより示され、これらの結果について段落【0162】には「EMX1およびPVALB遺伝子座中の5つ全ての標的について、tracr配列長さの増加に伴うゲノム改変効率の一貫した増加が観察された」と記載されている。
そうすると、甲7の記載や本件優先日の技術常識を勘案しても、ゲノムの改変効率を向上させる観点で、甲7発明のtracr配列の長さについて、甲7に具体的に開示されている26から40以上に変更することを、当業者が動機付けられていたということはできない。また、tracr配列の長さを40以上に設定するという技術手段を採用することで、真核細胞におけるゲノム改変効率が向上するという効果を当業者が予測できたと認めることもできない。
したがって、相違点4に係る本件発明1の構成要件、すなわち「tracr配列が、40以上のヌクレオチドの長さを含む」とすることは、甲7の記載や本件優先日の技術常識を参酌しても、当業者が容易に想到し得たとはいえないものである。

オ 異議申立人の主張について
異議申立人は、相違点4に関して、甲7の図5Cに示された、(i)crRNA(42nt)とtracrRNA(23-48)の併用よりも、それらを連結してなるキメラAの方が高いDNA切断活性を示したこと、及び、(ii)tracrRNA(23-48)及びtracrRNA(23-89)のそれぞれを同一のcrRNAと併用した場合、tracrRNAが長い方(23-89)が高いDNA切断活性を示したこと、に基づけば、当業者であれば、より高いDNA切断活性を得る目的で、キメラRNAを用い、それに含まれるtracrRNAに由来する配列の3’側配列を伸ばすことを容易に想到し得る旨主張する。
しかし、上記(i)に関しては、図5Cにおいて、crRNA(42nt)及びtracrRNA(23-48)の併用の場合とキメラAを用いた場合とで、後者の方がDNA切断活性が高いと判断できるほど明確な差があるわけではない。実際、甲7本文でも、図5Cの結果に関して、「長い方のキメラRNAは、切断tracrRNA:crRNA複合体を用いた場合に観察された場合と同じような挙動でCas9によるDNA切断を誘導できることを観察によって確認した(図5B及び図S14、A及びC)。短い方のキメラRNAは、このアッセイでは効果的に機能せず、tracrRNA:crRNA塩基対相互作用を超えた5?12位のヌクレオチドが効率的なCas9結合及び/又は標的認識に重要であることが確認された。短いdsDNAを基質として用いる切断アッセイでも同様の結果が得られ・・・(図5C及び図14、B及びC)」(甲7-オ)のとおり、crRNA(42nt)とtracrRNA(23-48)の併用と、それらを連結してなるキメラAを用いた場合とは、「同じような挙動」と考察されているにすぎない。また、図5と同様の実験の結果を示す図S14においても、crRNA(sp1又はsp2)とtracrRNA(23-48)の併用の場合と、それらを連結してなるキメラAを用いた場合とでは、同等のDNA切断活性が示されている(甲7-キのB)。したがって、異議申立人が指摘する上記(i)は、甲7から導き出される事項であるとはいえない。
また、上記(ii)に関しても、図5Cにおいて、crRNA(42nt)及びtracrRNA(23-48)の併用の場合とcrRNA(42nt)及びtracrRNA(23-89)の併用の場合とで、後者の方がDNA切断活性が高いと判断できるほど明確な差があるわけではない。実際、甲7本文では、図5Cの結果に関して、crRNA及びtracrRNAの併用の場合のtracrRNAに着目した考察は記載されていない(甲7-オ)。また、図5と同様の実験の結果を示す図S14においては、crRNA(sp2)と併用するtracrRNAが長い方(23-89)が短い方(23-48)よりもDNA切断活性が低いと読み取れるデータも記載されている(甲7-キのBの右図)。したがって、異議申立人が指摘する上記(ii)も、甲7から導き出される事項であるとはいえない。
このとおり、異議申立人の上記主張は、その前提(上記(i)及び(ii))において失当であるから、採用することはできない。

カ 小括
以上のとおりであるから、相違点1?3について検討するまでもなく、本件発明1は甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。また、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?24についても同様である。
したがって、特許異議申立理由5は理由がない。

(7)特許異議申立理由6(甲8に基づく新規性進歩性欠如)について
上記(3)のとおり、本件発明は第1優先権主張の利益を享受できるものであって、その新規性進歩性等の判断基準日は第1優先日である。
これに対して、甲8は、本件第1優先日である2012年12月12日よりも後の2013年1月29日に発行された刊行物であるから、本件発明が新規性進歩性を欠如することの根拠とすることはできない。
したがって、特許異議申立理由6は理由がない。

(8)特許異議申立理由7(甲9に基づく新規性進歩性欠如)について
上記(3)のとおり、本件発明は第1優先権主張の利益を享受できるものであって、その新規性進歩性等の判断基準日は第1優先日である。
これに対して、甲9は、本件第1優先日である2012年12月12日よりも後の2013年3月26日に発行された刊行物であるから、本件発明が新規性進歩性を欠如することの根拠とすることはできない。
したがって、特許異議申立理由7は理由がない。

(9)特許異議申立理由8(拡大先願)について
ア 上記(3)のとおり、本件発明は第1優先権主張の利益を享受することができるものであるから、その拡大先願についての判断基準日は、第1優先日である2012年12月12日である。
一方、2013年3月15日に出願された甲10出願は、4つの優先権主張を伴うものであるところ、第1優先日(2012年5月25日)及び第2優先日(2012年10月19日)が本件第1優先日よりも前であるから、甲10出願の当初明細書等と甲10第1優先明細書(米国特許仮出願61/652、086号)又は第2優先明細書(米国特許仮出願61/716、256号)とに共通して記載された発明が本件発明と同一である場合には、特許異議申立理由8は理由があることになる。この観点から、以下、検討する。

イ 甲10出願の当初明細書等の記載事項
甲10出願(PCT/US2013/032589)の出願当初の明細書及び図面には次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、対応する日本語出願の公表公報である特表2015-523856号公報の記載に基づく翻訳で示し、記載箇所もその段落番号等で示す。また、下線は当審にて付記したものである。)
(甲10-ア) 「【請求項12】
(i)
(a)標的DNA内の配列に対し相補的なヌクレオチド配列を含む第一セグメント;および
(b)部位特異的修飾ポリペプチドと相互作用する第二セグメント
を含むDNA標的化RNAをコードするヌクレオチド配列;並びに
(ii)
(a)前記DNA標的化RNAと相互作用するRNA結合部位;および
(b)部位特異的酵素活性を示す活性部位であって、酵素活性の部位が前記DNA標的化RNAによって決定される、活性部位
を含む前記部位特異的修飾ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列
を含む、組み換え発現ベクター。」(特許請求の範囲の請求項12)
(甲10-イ) 「【請求項122】
宿主細胞において標的DNAの転写を選択的に調節する方法であって、前記宿主細胞に、
a)
i)前記標的DNA内の標的配列に対し相補的なヌクレオチド配列を含む第一セグメント;
ii)部位特異的ポリペプチドと相互作用する第二セグメント;および
iii)安定性制御配列
を含むDNA標的化RNA、または前記DNA標的化RNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸;並びに
b)
i)前記DNA標的化RNAと相互作用するRNA結合部位;および
ii)低減されたエンドデオキシリボヌクレアーゼ活性を示す活性部位
を含む変異型Cas9部位特異的ポリペプチド、または前記変異型Cas9部位特異的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸
を導入することを含み、
前記DNA標的化RNAおよび前記変異型Cas9ポリペプチドが前記細胞内で複合体を形成し、前記複合体が前記細胞内の標的DNAの転写を選択的に調節する、上記方法。」(特許請求の範囲の請求項122)
(甲10-ウ) 「【請求項130】
前記宿主細胞が真核細胞である、請求項122に記載の方法。」(特許請求の範囲の請求項130)
(甲10-エ) 「【請求項140】
前記DNA標的化RNAが単一分子DNA標的化RNAである、請求項122に記載の方法。」(特許請求の範囲の請求項140)
(甲10-オ) 【図9】二つの種からの例示tracrRNA(活性化RNA)およびcrRNA(標的化RNA)配列を示す。・・・また、標的化RNAおよび活性化RNAの特色を組み込む単一分子DNA標的化RNAの設計も示される。」(段落【0033】)
(甲10-カ) 「


(甲10-キ) 「主題のDNA標的化RNAは単一RNA分子(単一RNAポリヌクレオチド)であり、「単一分子DNA標的化RNA」、「単一誘導RNA」、または「sgRNA」と称される。」(段落【0080】)
(甲10-ク) 「実施例2:ヒト細胞でのRNAプログラムゲノム編集
下で提供されるデータは、Cas9がヒト細胞の核に発現および局在し得るここと、およびCas9がヒト細胞内で単一誘導RNA(「sgRNA」;Cas9結合およびDNA標的化部位認識の双方に必要な特色を含む)と集合することを示す。これら複合体は、二重鎖切断を形成し得、Cas9およびsgRNAの双方を必要とする活性である、sgRNA配列に相補的な部位におけるゲノムDNAにおける非相同性末端結合(NHEJ)修復を刺激し得る。RNA配列の3’末端における伸展は、生細胞のDNA標的活性を強化する。・・・
【0508】 生細胞内でのCas9:sgRNA集合を強化する手段として、次に、誘導RNAの推定Cas9結合領域を伸展する効果を試験した。CLTA1sgRNAの二つの新しいバージョンを、crRNAとtracrRNAとの間の塩基対形成相互作用を模倣する6または12の塩基対をらせん体にさらに含むように設計した(図31A)。さらに、S.ピオゲネスtracrRNAの天然配列を基に、誘導RNAの3’末端を五つのヌクレオチドで伸展した[9]。U6またはH1PolIIIプロモーターのいずれかの制御下でこれらの3’伸長sgRNAをコードするベクターを、Cas9-HA-NLS-GFP発現ベクターと一緒に細胞に形質移入し、部位特異的ゲノム切断を、Surveyorアッセイを用いて試験した(図31B)。結果によって、切断は、Cas9およびCLTA1sgRNAの双方を必要とするが、Cas9またはsgRNAのいずれかが単独で発現された場合には起こらなかったことが確認された。さらに、Cel-1ヌクレアーゼ切断によって検知された通り、NHEJの実質的に増大した頻度を観察し、一方で、対照ZFN対で得られたNHEJ変異誘発の頻度は大きく変わらなかった。
【0509】 図31は、sgRNA構築物の3’伸展が部位特異的NHEJ媒介性変異誘発を強化することを示す。(A)CLTA1sgRNA発現のための構築物(上)を、本来のCas9結合配列(v1.0)または4個の塩基対で伸展されたdsRNA二重鎖(v2.1)もしくは10個の塩基対で伸展されたdsRNA二重鎖(v2.2)を含む転写物を生成するように設計した。(B)Cas9および/またはCLTAsgRNAv1.0、v2.1またはv2.2を発現するHEK293T細胞から単離されたゲノムDNAのSurveyorヌクレアーゼアッセイ。CLTA座位を標的とするために以前使用されたZFN構築物[10]を、非相同性末端結合によるDSB誘導性DNA修復を検知するための陽性対照として使用した。」(段落【0495】?【0509】)
(甲10-ケ) 「

」(図31A)
(甲10-コ) 「

」(図31B)

ウ 判断
上記(甲10-ア)?(甲10-オ)のとおり、甲10出願の当初明細書等には、本件発明と同様のCRISPR-Cas系が記載されている。また、実施例2には、ヒト細胞中のゲノムを標的とする、3’側の長さの異なる3種類のsgRNA(甲10-ケのv1.0、v2.1及びv2.2)を用いた実験が記載され、このうちv2.2のtracr配列部分の長さが41であること(甲10-ケ)から、甲10出願の当初明細書等の実施例2には、本件発明1の構成要件「前記ガイドRNAが、単一転写産物中にガイド配列、tracrメイト配列及びtracr配列を含むキメラRNAであり、前記tracr配列が、40以上のヌクレオチドの長さを含む」が記載されているといえる。また、実施例2の結果(甲10-コ)に基づいて「sgRNA構築物の3’伸展が部位特異的NHEJ媒介性変異誘発を強化することを示す。」(甲10-コ)という考察が記載されており、tracr配列が長いほど部位特異的変異誘発が強化されるという技術思想も読み取れる。
しかしながら、甲10出願の当初明細書等の実施例2は、甲10第1優先明細書にも甲10第2優先明細書にも、記載されていない。また、甲10出願の当初明細書等と甲10第1優先明細書又は甲10第2優先明細書に共通して記載されたsgRNAは、上記(甲10-カ)のストレプトコッカス・ピオゲネスの配列に基づく、tracr配列の長さが26ヌクレオチドのもの(甲10第1優先明細書の図9A、甲10第2優先明細書の図9A)及びリステリア・イノキュアの配列に基づく、tracr配列の長さが27ヌクレオチドのもの(甲10第1優先明細書の図9B、甲10第2優先明細書の図9B)のみであって、甲10第1優先明細書及び甲10第2優先明細書には、tracr配列の長さが40ヌクレオチド以上のsgRNAは具体的に記載されていないし、tracr配列部分の長さに着目すること、ましてtracr配列部分の長さを長くすることによりDNA標的活性(部位特異的NHEJ媒介性変異誘発)を強化するという技術思想は表れていない。
したがって、本件発明と同一の発明が、甲10出願の当初明細書等と甲10第1優先明細書又は第2優先明細書とに共通して記載されているということはできないから、特許異議申立理由8は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1?24に係る特許を取り消すことはできない。
他に請求項1?24に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
遺伝子産物の発現を変更するためのCRISPR-Cas系および方法
【技術分野】
【0001】
関連出願および参照による組み込み
本出願は、それぞれ2013年7月2日および2013年10月15日に出願された、それぞれBroad参照BI-2011/008Aを有する、標題CRISPR-CAS SYSTEMS AND METHODS FOR ALTERING EXPRESSION OF GENE PRODUCTSの米国仮特許出願第61/842,322号明細書および米国特許出願第14/054,414号明細書の優先権を主張する。それぞれBroad参照BI-2011/008/WSGR整理番号44063-701.101、BI-2011/008/WSGR整理番号44063-701.102、Broad参照BI-2011/008/VP整理番号44790.02.2003およびBI-2011/008/VP整理番号44790.03.2003を有する米国仮特許出願第61/736,527号明細書、同第61/748,427号明細書、同第61/791,409号明細書および同第61/835,931号明細書の優先権も主張され、これらは全て標題SYSTEMS METHODS AND COMPOSITIONS FOR SEQUENCE MANIPULATIONであり、それぞれ2012年12月12日、2013年1月2日、2013年3月15日および2013年6月17日に出願されたものである。
米国仮特許出願第61/758,468号明細書;同第61/769,046号明細書;同第61/802,174号明細書;同第61/806,375号明細書;同第61/814,263号明細書;同第61/819,803号明細書および同第61/828,130号明細書が参照され、それぞれ、標題ENGINEERING AND OPTIMIZATION OF SYSTEMS,METHODS AND COMPOSITIONS FOR SEQUENCE MANIPULATIONであり、それぞれ、2013年1月30日;2013年2月25日;2013年3月15日;2013年3月28日;2013年4月20日;2013年5月6日および2013年5月28日に出願されたものである。それぞれ2013年6月17日に出願された米国仮特許出願第61/835,936号明細書、同第61/836,127号明細書、同第61/836,101号明細書、同第61/836,080号明細書、および同第61/835,973号明細書も参照される。
【0002】
上記の出願、ならびにそれらの出願においてまたはそれらの審査中に引用される全ての文献(「出願引用文献」)およびその出願引用文献において引用または参照される全ての文献、ならびに本明細書において引用または参照される全ての文献(「本明細書引用文献」)、および本明細書引用文献において引用または参照される全ての文献は、本明細書においてまたは本明細書に参照により組み込まれる任意の文献において挙げられる任意の製品に関する任意の製造業者の指示書、説明書、製品仕様書、および製品シートと一緒に、参照により本明細書に組み込まれ、本発明の実施において用いることができる。より具体的には、全ての参照文献は、それぞれの個々の文献が個別具体的に参照により組み込まれることが示されるような程度で参照により組み込まれる。
【0003】
本発明は、一般に、クラスター化等間隔短鎖回分リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)(CRISPR)およびその成分に関するベクター系を使用し得る配列ターゲティング、例えば、ゲノム摂動または遺伝子編集を含む遺伝子発現の制御に使用される系、方法および組成物に関する。
【0004】
連邦政府により資金提供された研究に関する記述
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)により助成されたNIHパイオニアアワードDP1MH100706のもと政府支援によりなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0005】
ゲノムシーケンシング技術および分析法の近年の進歩により、多様な範囲の生物学的機能および疾患に関連する遺伝因子を分類およびマッピングする技能が顕著に加速されている。正確なゲノムターゲティング技術は、個々の遺伝子エレメントの選択的摂動を可能とすることにより因果的遺伝子変異の体系的なリバースエンジニアリングを可能とするため、ならびに合成生物学、バイオテクノロジーおよび医薬用途を進歩させるために必要とされる。ゲノム編集技術、例えば、デザイナー亜鉛フィンガー、転写アクチベーター様エフェクター(TALE)、またはホーミングメガヌクレアーゼがターゲティングされるゲノム摂動の産生に利用可能であるが、安価で、設定が容易で、スケーラブルで、真核ゲノム内の複数位置をターゲティングしやすい新たなゲノムエンジニアリング技術が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】 米国特許第4,873,316号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多彩な用途の配列ターゲティングのための代替的で堅牢な系および技術が差し迫って必要とされている。本発明は、この必要性に対処し、関連する利点を提供する。CRISPR/CasまたはCRISPR-Cas系(両方の用語は、本出願全体にわたり互換的に使用される)は特異的配列をターゲティングするためにカスタム化タンパク質の生成を要求しないが、単一Cas酵素を短鎖RNA分子によりプログラミングして特異的DNA標的を認識させることができ、換言すると、Cas酵素は、前記短鎖RNA分子を使用して特異的DNA標的にリクルートすることができる。ゲノムシーケンシング技術および分析法のレパートリーへのCRISPR-Cas系の付加により方法論が顕著に簡易化され、多様な範囲の生物学的機能および疾患に関連する遺伝因子を分類およびマッピングする技能が加速される。有害効果を有さずにゲノム編集にCRISPR-Cas系を有効に利用するため、特許請求される本発明の態様であるそれらのゲノムエンジニアリングツールのエンジニアリングおよび最適化の態様を理解することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、本発明は、1つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変する方法であって、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子を含有し、発現する細胞中に、Casタンパク質およびDNA分子をターゲティングする1つ以上のガイドRNAを含み得るエンジニアリングされた天然に存在しないCRISPR-Cas系を導入し、それにより1つ以上のガイドRNAが、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座をターゲティングし、Casタンパク質が、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座を開裂し、それにより1つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変することを含み得;Casタンパク質およびガイドRNAは、一緒に天然に存在しない方法を提供する。本発明は、2つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変することができることを包含する。本発明は、ガイドRNAが、tracr配列に融合しているガイド配列を含むことをさらに包含する。好ましい実施形態において、細胞は、真核細胞であり、より好ましい実施形態において、細胞は、哺乳動物細胞であり、さらにより好ましい実施形態において、哺乳動物細胞は、ヒト細胞である。本発明は、Casタンパク質が1つ以上の核局在化シグナル(NLS)を含み得ることも包含する。一部の実施形態において、Casタンパク質は、II型CRISPR系酵素である。一部の実施形態において、Casタンパク質は、Cas9タンパク質である。一部の実施形態において、Cas9タンパク質は、肺炎連鎖球菌(S.pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)、またはS.サーモフィラス(S.thermophilus)Cas9であり、それらの生物に由来する突然変異Cas9を含み得る。タンパク質は、Cas9ホモログまたはオルソログであり得る。一部の実施形態において、Casタンパク質は、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されている。一部の実施形態において、Casタンパク質は、標的配列の局在における1または2つの鎖の開裂を指向する。本発明のさらなる態様において、遺伝子産物の発現を減少させ、遺伝子産物はタンパク質である。本発明は、細胞中への導入が、ウイルス粒子、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションまたはコンジュゲーションを含み得る送達系によることを包含する。
【0009】
別の態様において、本発明は、1つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変する方法であって、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子を含有し、発現する細胞中に、a)1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座中の標的配列とハイブリダイズする1つ以上のCRISPR-Cas系ガイドRNAに作動可能に結合している第1の調節エレメント、b)Casタンパク質に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含み、成分(a)および(b)は、系の同一または異なるベクター上にあり、それによりガイドRNAは、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座をターゲティングし、Casタンパク質は、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座を開裂し、それにより1つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変し;Casタンパク質およびガイドRNAは、一緒に天然に存在しない1つ以上のベクターを含み得るエンジニアリングされた天然に存在しないベクター系を導入することを含む方法を提供する。本発明は、2つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変することができることを包含する。本発明は、ガイドRNAが、tracr配列に融合しているガイド配列を含むことをさらに包含する。好ましい実施形態において、細胞は、真核細胞であり、より好ましい実施形態において、細胞は、哺乳動物細胞であり、さらにより好ましい実施形態において、哺乳動物細胞は、ヒト細胞である。本発明は、系のベクターが1つ以上のNLSをさらに含み得ることも包含する。一部の実施形態において、Casタンパク質は、II型CRISPR系酵素である。一部の実施形態において、Casタンパク質は、Cas9タンパク質である。一部の実施形態において、Cas9タンパク質は、肺炎連鎖球菌(S.pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)、またはS.サーモフィラス(S.thermophilus)Cas9であり、それらの生物に由来する突然変異Cas9を含み得る。タンパク質は、Cas9ホモログまたはオルソログであり得る。一部の実施形態において、Casタンパク質は、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されている。一部の実施形態において、Casタンパク質は、標的配列の局在における1または2つの鎖の開裂を指向する。本発明のさらなる態様において、遺伝子産物の発現を減少させ、遺伝子産物はタンパク質である。本発明は、細胞中への導入が、ウイルス粒子、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションまたはコンジュゲーションを含み得る送達系によることを包含する。
【0010】
本発明はまた、a)1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座中の標的配列とハイブリダイズする1つ以上のCRISPR-Cas系ガイドRNAに作動可能に結合している第1の調節エレメント、b)Casタンパク質に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含み、成分(a)および(b)は、系の同一または異なるベクター上にあり、それによりガイドRNAは、細胞中の1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座をターゲティングし、Casタンパク質は、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座を開裂し、それにより1つ以上の遺伝子産物の発現が変更または改変され;Casタンパク質およびガイドRNAは、一緒に天然に存在しない1つ以上のベクターを含み得るエンジニアリングされた天然に存在しないベクター系を提供する。本発明は、2つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変することができることを包含する。本発明は、ガイドRNAが、tracr配列に融合しているガイド配列を含むことをさらに包含する。好ましい実施形態において、細胞は、真核細胞であり、より好ましい実施形態において、細胞は、哺乳動物細胞であり、さらにより好ましい実施形態において、哺乳動物細胞は、ヒト細胞である。本発明は、系のベクターが1つ以上のNLSをさらに含み得ることも包含する。一部の実施形態において、Casタンパク質は、II型CRISPR系酵素である。一部の実施形態において、Casタンパク質は、Cas9タンパク質である。一部の実施形態において、Cas9タンパク質は、肺炎連鎖球菌(S.pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)、またはS.サーモフィラス(S.thermophilus)Cas9であり、それらの生物に由来する突然変異Cas9を含み得る。タンパク質は、Cas9ホモログまたはオルソログであり得る。一部の実施形態において、Casタンパク質は、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されている。一部の実施形態において、Casタンパク質は、標的配列の局在における1または2つの鎖の開裂を指向する。本発明のさらなる態様において、遺伝子産物の発現を減少させ、遺伝子産物はタンパク質である。本発明は、細胞中への導入が、ウイルス粒子、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションまたはコンジュゲーションを含み得る送達系によることを包含する。
【0011】
さらに別の態様において、本発明は、Casタンパク質および細胞中の1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座をターゲティングする1つ以上のガイドRNAを含み得、Casタンパク質は、1つ以上の遺伝子産物をコードするDNA分子のゲノム遺伝子座を開裂し、それにより1つ以上の遺伝子産物の発現が変更または改変され;Casタンパク質およびガイドRNAは、一緒に天然に存在しないエンジニアリングされたプログラマブルな天然に存在しないCRISPR-Cas系を提供する。本発明は、2つ以上の遺伝子産物の発現を変更または改変することができることを包含する。本発明は、ガイドRNAが、tracr配列に融合しているガイド配列を含むことをさらに包含する。好ましい実施形態において、細胞は、真核細胞であり、より好ましい実施形態において、細胞は、哺乳動物細胞であり、さらにより好ましい実施形態において、哺乳動物細胞は、ヒト細胞である。本発明は、CRISPR-Cas系が1つ以上のNLSをさらに含み得ることも包含する。一部の実施形態において、Casタンパク質は、II型CRISPR系酵素である。一部の実施形態において、Casタンパク質は、Cas9タンパク質である。一部の実施形態において、Cas9タンパク質は、肺炎連鎖球菌(S.pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)、またはS.サーモフィラス(S.thermophilus)Cas9であり、それらの生物に由来する突然変異Cas9を含み得る。タンパク質は、Cas9ホモログまたはオルソログであり得る。一部の実施形態において、Casタンパク質は、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されている。一部の実施形態において、Casタンパク質は、標的配列の局在における1または2つの鎖の開裂を指向する。本発明のさらなる態様において、遺伝子産物の発現を減少させ、遺伝子産物はタンパク質である。本発明は、細胞中への導入が、ウイルス粒子、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションまたはコンジュゲーションを含み得る送達系によることを包含する。
【0012】
一態様において、本発明は、1つ以上のベクターを含むベクター系を提供する。一部の実施形態において、系は、(a)tracrメイト配列および1つ以上のガイド配列をtracrメイト配列の上流に挿入するための1つ以上の挿入部位に作動可能に結合している第1の調節エレメント(ガイド配列は、発現された場合、真核細胞中の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、CRISPR複合体は、(1)標的配列にハイブリダイズされるガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズされるtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む);ならびに(b)核局在化配列を含む前記CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含み;成分(a)および(b)は、系の同一または異なるベクター上にある。一部の実施形態において、成分(a)は、第1の調節エレメントの制御下でtracrメイト配列の下流のtracr配列をさらに含む。一部の実施形態において、成分(a)は、第1の調節エレメントに作動可能に結合している2つ以上のガイド配列をさらに含み、2つ以上のガイド配列のそれぞれは、発現された場合、真核細胞中の異なる標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向する。一部の実施形態において、系は、第3の調節エレメント、例えば、ポリメラーゼIIIプロモーターの制御下でtracr配列を含む。一部の実施形態において、tracr配列は、最適にアラインされた場合にtracrメイト配列の長さに沿って少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%の配列相補性を示す。最適アラインメントの決定は、当業者の技能の範囲内である。例えば、公開および市販のアラインメントアルゴリズムおよびプログラム、例えば、限定されるものではないが、ClustalW、matlabにおけるSmith-Waterman、Bowtie、Geneious、BiopythonおよびSeqManが存在する。一部の実施形態において、CRISPR複合体は、真核細胞の核中の検出可能な量の前記CRISPR複合体の蓄積をドライブするために十分な強度の1つ以上の核局在化配列を含む。理論により拘束されるものではないが、核局在化配列は、真核生物中のCRISPR複合体活性に必要でないが、そのような配列を含めることにより、特に核中の核酸分子のターゲティングに関して系の活性が向上すると考えられる。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、II型CRISPR系酵素である。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、Cas9酵素である。一部の実施形態において、Cas9酵素は、肺炎連鎖球菌(S.pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)、またはS.サーモフィラス(S.thermophilus)Cas9であり、それらの生物に由来する突然変異Cas9を含み得る。酵素は、Cas9ホモログまたはオルソログであり得る。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されている。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列の局在における1つまたは2つの鎖の開裂を指向する。一部の実施形態において、第1の調節エレメントは、ポリメラーゼIIIプロモーターである。一部の実施形態において、第2の調節エレメントは、ポリメラーゼIIプロモーターである。一部の実施形態において、ガイド配列は、少なくとも15、16、17、18、19、20、25ヌクレオチド、または10?30、もしくは15?25、もしくは15?20ヌクレオチド長である。一般に、および本明細書全体で、用語「ベクター」は、それが結合した別の核酸を輸送し得る核酸分子を指す。ベクターとしては、限定されるものではないが、一本鎖、二本鎖、または部分二本鎖の核酸分子;1つ以上の自由末端を含み、自由末端を含まない(例えば、環状)核酸分子;DNA、RNA、またはその両方を含む核酸分子;および当技術分野において公知の他の種々のポリヌクレオチドが挙げられる。あるタイプのベクターは、「プラスミド」であり、それは、付加DNAセグメントを例えば標準分子クローニング技術により挿入することができる環状二本鎖DNAループを指す。別のタイプのベクターは、ウイルスベクターであり、それにおいてウイルス由来DNAまたはRNA配列がウイルス(例えば、レトロウイルス、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、複製欠損アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)中へのパッケージングのためにベクター中に存在する。ウイルスベクターとしては、宿主細胞中への形質移入のためにウイルスにより担持されるポリヌクレオチドも挙げられる。あるベクターは、それが導入された宿主細胞中で自己複製し得る(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーマル哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーマル哺乳動物ベクター)は、宿主細胞中への導入時に宿主細胞のゲノム中にインテグレートされ、それにより宿主ゲノムとともに複製される。さらに、あるベクターは、それが作動的に結合している遺伝子の発現を指向し得る。このようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と称される。組換えDNA技術において有用な一般的な発現ベクターは、プラスミドの形態であることが多い。
【0013】
組換え発現ベクターは、宿主細胞中の核酸の発現に好適な形態の本発明の核酸を含み得、そのことは、組換え発現ベクターが、発現に使用すべき宿主細胞に基づき選択することができ、発現させるべき核酸配列に作動的に結合している1つ以上の調節エレメントを含むことを意味する。組換え発現ベクターのうち、「作動可能に結合している」は、目的ヌクレオチド配列が調節エレメントに、そのヌクレオチド配列の発現(例えば、インビトロ転写/翻訳系またはベクターが宿主細胞中に導入された場合、宿主細胞中で)を可能とするように結合していることを意味するものとする。
【0014】
用語「調節エレメント」は、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーム進入部位(IRES)、および他の発現制御エレメント(例えば、転写終結シグナル、例えば、ポリアデニル化シグナルおよびポリU配列)を含むものとする。このような調節エレメントは、例えば、Goeddel,GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)に記載されている。調節エレメントとしては、多くのタイプの宿主細胞中のヌクレオチド配列の構成的発現を指向するものおよびある宿主細胞中でのみヌクレオチド配列の発現を指向するもの(例えば、組織特異的調節配列)が挙げられる。組織特異的プロモーターは、主として所望の目的組織、例えば、筋肉、神経細胞、骨、皮膚、血液、特異的臓器(例えば、肝臓、膵臓)、または特定の細胞タイプ(例えば、リンパ球)中で発現を指向し得る。調節エレメントは、時間依存的様式、例えば、細胞周期依存的または発生段階依存的様式の発現も指向し得、それは、組織または細胞タイプ特異的であってもなくてもよい。一部の実施形態において、ベクターは、1つ以上のpolIIIプロモーター(例えば、1、2、3、4、5つ、またはそれよりも多いpolIIIプロモーター)、1つ以上のpolIIプロモーター(例えば、1、2、3、4、5つ、またはそれよりも多いpolIIプロモーター)、1つ以上のpolIプロモーター(例えば、1、2、3、4、5つ、またはそれよりも多いpolIプロモーター)、またはそれらの組合せを含む。polIIIプロモーターの例としては、限定されるものではないが、U6およびH1プロモーターが挙げられる。polIIプロモーターの例としては、限定されるものではないが、レトロウイルスのラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(場合により、RSVエンハンサーを有する)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(場合により、CMVエンハンサーを有する)[例えば、Boshart et al,Cell,41:521-530(1985)参照]、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、およびEF1αプロモーターが挙げられる。用語「調節エレメント」により、エンハンサーエレメント、例えば、WPRE;CMVエンハンサー;HTLV-IのLTR中のR-U5’セグメント(Mol.Cell.Biol.,Vol.8(1),p.466-472,1988);SV40エンハンサー;およびウサギβ-グロビンのエキソン2と3との間のイントロン配列(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,Vol.78(3),p.1527-31,1981)も包含される。発現ベクターの設計は、形質転換すべき宿主細胞の選択、所望の発現レベルなどのような因子に依存し得ることが当業者により認識される。ベクターを宿主細胞中に導入し、それにより本明細書に記載の核酸によりコードされる転写物、融合タンパク質またはペプチドを含むタンパク質、またはペプチド(例えば、クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)転写物、タンパク質、酵素、それらの突然変異体、それらの融合タンパク質など)を産生することができる。
【0015】
有利なベクターとしては、レンチウイルスおよびアデノ随伴ウイルスが挙げられ、そのようなベクターのタイプは、特定のタイプの細胞のターゲティングのために選択することもできる。
【0016】
一態様において、本発明は、(a)tracrメイト配列および1つ以上のガイド配列をtracrメイト配列の上流に挿入するための1つ以上の挿入部位に作動可能に結合している第1の調節エレメント(ガイド配列は、発現された場合、真核細胞中の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、CRISPR複合体は、(1)標的配列にハイブリダイズされるガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズされるtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む);ならびに/または(b)核局在化配列を含む前記CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含む真核宿主細胞を提供する。一部の実施形態において、宿主細胞は、成分(a)および(b)を含む。一部の実施形態において、成分(a)、成分(b)、または成分(a)および(b)は、宿主真核細胞のゲノム中に安定的にインテグレートされている。一部の実施形態において、成分(a)は、第1の調節エレメントの制御下でtracrメイト配列の下流のtracr配列をさらに含む。一部の実施形態において、成分(a)は、第1の調節エレメントに作動可能に結合している2つ以上のガイド配列をさらに含み、2つ以上のガイド配列のそれぞれは、発現された場合、真核細胞中の異なる標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向する。一部の実施形態において、真核宿主細胞は、前記tracr配列に作動可能に結合している第3の調節エレメント、例えば、ポリメラーゼIIIプロモーターをさらに含む。一部の実施形態において、tracr配列は、最適にアラインされた場合にtracrメイト配列の長さに沿って少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%の配列相補性を示す。酵素は、Cas9ホモログまたはオルソログであり得る。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されている。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列の局在における1つまたは2つの鎖の開裂を指向する。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、DNA鎖開裂活性を欠く。一部の実施形態において、第1の調節エレメントは、ポリメラーゼIIIプロモーターである。一部の実施形態において、第2の調節エレメントは、ポリメラーゼIIプロモーターである。一部の実施形態において、ガイド配列は、少なくとも15、16、17、18、19、20、25ヌクレオチド、または10?30、もしくは15?25、もしくは15?20ヌクレオチド長である。一態様において、本発明は、記載の実施形態のいずれかによる真核宿主細胞を含む非ヒト真核生物;好ましくは、多細胞真核生物を提供する。他の態様において、本発明は、記載の実施形態のいずれかによる真核宿主細胞を含む真核生物;好ましくは、多細胞真核生物を提供する。これらの態様の一部の実施形態における生物は、動物;例えば、哺乳動物であり得る。また、生物は、節足動物、例えば、昆虫であり得る。生物は、植物でもあり得る。さらに、生物は、真菌であり得る。
【0017】
一態様において、本発明は、本明細書に記載の成分の1つ以上を含むキットを提供する。一部の実施形態において、キットは、ベクター系およびキットの使用指示書を含む。一部の実施形態において、ベクター系は、(a)tracrメイト配列および1つ以上のガイド配列をtracrメイト配列の上流に挿入するための1つ以上の挿入部位に作動可能に結合している第1の調節エレメント(ガイド配列は、発現された場合、真核細胞中の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、CRISPR複合体は、(1)標的配列にハイブリダイズされるガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズされるtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む);ならびに/または(b)核局在化配列を含む前記CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含む。一部の実施形態において、キットは、系の同一または異なるベクター上にある成分(a)および(b)を含む。一部の実施形態において、成分(a)は、第1の調節エレメントの制御下でtracrメイト配列の下流のtracr配列をさらに含む。一部の実施形態において、成分(a)は、第1の調節エレメントに作動可能に結合している2つ以上のガイド配列をさらに含み、2つ以上のガイド配列のそれぞれは、発現された場合、真核細胞中の異なる標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向する。一部の実施形態において、系は、前記tracr配列に作動可能に結合している第3の調節エレメント、例えば、ポリメラーゼIIIプロモーターをさらに含む。一部の実施形態において、tracr配列は、最適にアラインされた場合にtracrメイト配列の長さに沿って少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%の配列相補性を示す。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、真核細胞の核中の検出可能な量の前記CRISPR酵素の蓄積をドライブするために十分な強度の1つ以上の核局在化配列を含む。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、II型CRISPR系酵素である。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、Cas9酵素である。一部の実施形態において、Cas9酵素は、肺炎連鎖球菌(S.pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)またはS.サーモフィラス(S.thermophilus)Cas9であり、それらの生物に由来する突然変異Cas9を含み得る。酵素は、Cas9ホモログまたはオルソログであり得る。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されている。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列の局在における1つまたは2つの鎖の開裂を指向する。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、DNA鎖開裂活性を欠く。一部の実施形態において、第1の調節エレメントは、ポリメラーゼIIIプロモーターである。一部の実施形態において、第2の調節エレメントは、ポリメラーゼIIプロモーターである。一部の実施形態において、ガイド配列は、少なくとも15、16、17、18、19、20、25ヌクレオチド、または10?30、もしくは15?25、もしくは15?20ヌクレオチド長である。
【0018】
一態様において、本発明は、真核細胞中の標的ポリヌクレオチドを改変する方法を提供する。一部の実施形態において、方法は、CRISPR複合体を標的ポリヌクレオチドに結合させて前記標的ポリヌクレオチドの開裂を生じさせ、それにより標的ポリヌクレオチドを改変することを含み、CRISPR複合体は、前記標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列は、次いでtracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に結合している。一部の実施形態において、前記開裂は、前記CRISPR酵素により標的配列の局在における1つまたは2つの鎖を開裂することを含む。一部の実施形態において、前記開裂は、標的遺伝子の転写の減少をもたらす。一部の実施形態において、方法は、外因性テンプレートポリヌクレオチドとの相同組換えにより前記開裂標的ポリヌクレオチドを修復することをさらに含み、前記修復は、前記標的ポリヌクレオチドの1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む突然変異をもたらす。一部の実施形態において、前記突然変異は、標的配列を含む遺伝子から発現されるタンパク質中の1つ以上のアミノ酸変化をもたらす。一部の実施形態において、方法は、1つ以上のベクターを前記真核細胞に送達することをさらに含み、1つ以上のベクターは、CRISPR酵素、tracrメイト配列に結合しているガイド配列、およびtracr配列の1つ以上の発現をドライブする。一部の実施形態において、前記ベクターを対象中の真核細胞中に送達する。一部の実施形態において、前記改変を、細胞培養物中の前記真核細胞中で行う。一部の実施形態において、方法は、前記改変前に前記真核細胞を対象から単離することをさらに含む。一部の実施形態において、方法は、前記真核細胞および/またはそれに由来する細胞を前記対象に戻すことをさらに含む。
【0019】
一態様において、本発明は、真核細胞中のポリヌクレオチドの発現を改変する方法を提供する。一部の実施形態において、方法は、CRISPR複合体をポリヌクレオチドに結合させ、その結果、前記結合が前記ポリヌクレオチドの発現の増加または減少をもたらすことを含み;CRISPR複合体は、前記ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列は、次いでtracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に結合している。一部の実施形態において、方法は、1つ以上のベクターを前記真核細胞に送達することをさらに含み、1つ以上のベクターは、CRISPR酵素、tracrメイト配列に結合しているガイド配列、およびtracr配列の1つ以上の発現をドライブする。
【0020】
一態様において、本発明は、突然変異疾患遺伝子を含むモデル真核細胞を生成する方法を提供する。一部の実施形態において、疾患遺伝子は、疾患を有し、または発症するリスクの増加に関連する任意の遺伝子である。一部の実施形態において、方法は、(a)1つ以上のベクターを真核細胞に導入すること(1つ以上のベクターは、CRISPR酵素、tracrメイト配列に結合しているガイド配列、およびtracr配列の1つ以上の発現をドライブする)および(b)CRISPR複合体を標的ポリヌクレオチドに結合させて前記疾患遺伝子内の標的ポリヌクレオチドの開裂を生じさせ(CRISPR複合体は、(1)標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズされるtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む)、それにより、突然変異疾患遺伝子を含むモデル真核細胞を生成することを含む。一部の実施形態において、前記開裂は、前記CRISPR酵素により標的配列の局在における1つまたは2つの鎖を開裂することを含む。一部の実施形態において、前記開裂は、標的遺伝子の転写の減少をもたらす。一部の実施形態において、方法は、外因性テンプレートポリヌクレオチドとの相同組換えにより前記開裂標的ポリヌクレオチドを修復することをさらに含み、前記修復は、前記標的ポリヌクレオチドの1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む突然変異をもたらす。一部の実施形態において、前記突然変異は、標的配列を含む遺伝子から発現されるタンパク質中の1つ以上のアミノ酸変化をもたらす。
【0021】
一態様において、本発明は、疾患遺伝子に関連する細胞シグナリングイベントをモジュレートする生物活性剤を開発する方法を提供する。一部の実施形態において、疾患遺伝子は、疾患を有し、または発症するリスクの増加に関連する任意の遺伝子である。一部の実施形態において、方法は、(a)試験化合物を、記載の実施形態のいずれか1つのモデル細胞と接触させること;および(b)前記疾患遺伝子中の前記突然変異に関連する細胞シグナリングイベントの低減または増大を示すリードアウトの変化を検出し、それにより、前記疾患遺伝子に関連する前記細胞シグナリングイベントをモジュレートする前記生物活性剤を開発することを含む。
【0022】
一態様において、本発明は、tracrメイト配列の上流のガイド配列を含む組換えポリヌクレオチドであって、ガイド配列は、発現された場合、真核細胞中に存在する対応する標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向する組換えポリヌクレオチドを提供する。一部の実施形態において、標的配列は、真核細胞中に存在するウイルス配列である。一部の実施形態において、標的配列は、原癌遺伝子または癌遺伝子である。
【0023】
一態様において、本発明は、1つ以上の細胞中の遺伝子中の1つ以上の突然変異を導入することにより1つ以上の細胞を選択する方法であって、1つ以上のベクターを細胞中に導入すること(1つ以上のベクターは、CRISPR酵素、tracrメイト配列に結合しているガイド配列、tracr配列、および編集テンプレートの1つ以上の発現をドライブし;編集テンプレートは、CRISPR酵素開裂を停止させる1つ以上の突然変異を含む);編集テンプレートと、選択すべき細胞中の標的ポリヌクレオチドとを相同組換えさせること;CRISPR複合体を標的ポリヌクレオチドに結合させて前記遺伝子内の標的ポリヌクレオチドの開裂を生じさせ(CRISPR複合体は、(1)標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズされるtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、標的ポリヌクレオチドへのCRISPR複合体の結合は、細胞死を誘導する)、それにより、1つ以上の突然変異が導入された1つ以上の細胞の選択を可能とすることを含む方法を提供する。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、II型CRISPR系酵素である。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、Cas9タンパク質である。一部の実施形態において、Cas9タンパク質は、肺炎連鎖球菌(S.pneumoniae)、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)、またはS.サーモフィラス(S.thermophilus)Cas9であり、それらの生物に由来する突然変異Cas9を含み得る。酵素は、Cas9ホモログまたはオルソログであり得る。一部の実施形態において、酵素は、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されている。一部の実施形態において、酵素は、標的配列の局在における1または2つの鎖の開裂を指向する。好ましい実施形態において、CRISPR酵素は、Cas9である。本発明の別の好ましい実施形態において、選択すべき細胞は、真核細胞であり得る。本発明の態様により、選択マーカーもカウンターセレクション系を含み得る2ステッププロセスも要求せずに規定の細胞の選択が可能となる。
【0024】
本発明の態様は、内因性ゲノム中の部位特異的遺伝子ノックアウトを包含した:本発明は、亜鉛フィンガーおよびTALエフェクターをベースとする部位特異的ヌクレアーゼ技術の使用と比べて有利である。それというのも、これは複雑な設計を要求せず、これを使用して同一ゲノム内の複数の遺伝子を同時にノックアウトすることができるためである。さらなる態様において、本発明は、部位特異的ゲノム編集を包含する。本発明は、天然または人工部位特異的ヌクレアーゼまたはリコンビナーゼの使用と比べて有利である。それというのも、これは部位特異的二本鎖切断を導入してターゲティングされるゲノム遺伝子座における相同組換えを促進し得るためである。別の態様において、本発明は、DNA配列特異的干渉を包含する。本発明を使用して有害DNAベース生物、例えば、微生物、ウイルス、またはさらには癌性細胞のゲノムを、これらの生物のゲノム中の特異的部位における切断の直接的な導入により不活性化することができる。本発明は、本発明のCRISPR-Cas系を複数の配列特異的CRISPRスペーサーエレメントまたはガイド配列の使用を通してゲノム中の複数の部位に容易にターゲティングさせることができるため、多重化ゲノムエンジニアリングのための方法および組成物を提供する。
【0025】
したがって、本発明の目的は、任意の既に公知の生成物、その生成物の作製方法、またはその生成物の使用方法を本発明に包含することではなく、したがって、本出願人らは、その権利を保有し、任意の既に公知の生成物、作製方法、または使用方法の放棄を本明細書に開示する。本発明は、USPTO(米国特許法第112条、第1段落)またはEPO(欧州特許条約第83条)の記載要件および実施可能要件を満たさない任意の生成物、方法、または生成物の作製または生成物の使用方法を、本発明の範囲に包含しないものとし、したがって、本出願人らは、その権利を保有し、任意の既に記載の生成物、その生成物の作製方法、またはその生成物の使用方法の放棄を本明細書に開示することがさらに留意される。
【0026】
本開示および特に特許請求の範囲および/または段落において、「含む(comprises)」、「含んだ(comprised)」、「含む(comprising)」などのような用語は、米国特許法に帰属する意味を有し得;例えば、それらは、「含む(includes)」、「含んだ(included)」、「含む(including)」などを意味し得;「本質的に?からなる(consisting essentially of)」および「本質的に?からなる(consists essentially of)」のような用語は、米国特許法に帰属する意味を有し、例えば、それらは、明示的に記述されない構成要素を許容するが、先行技術に見出され、または本発明の基本もしくは新規特徴に影響する構成要素を排除することが留意される。これらのおよび他の実施形態は、以下の詳細な説明により開示され、またはそれから明らかであり、それにより包含される。
【0027】
本発明の新規特徴を、特に添付の特許請求の範囲を用いて記載する。本発明の特徴および利点のより良好な理解は、本発明の原理が利用される説明的な実施形態を記載する以下の詳細な説明、および付属の図面を参照することにより得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】CRISPR系の模式的モデルを示す。化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)からのCas9ヌクレアーゼ(黄色)を、20ntガイド配列(青色)および足場(赤色)からなる合成ガイドRNA(sgRNA)によりゲノムDNAにターゲティングする。必要な5’-NGGプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM;マゼンタ)のすぐ上流のDNA標的(青色)とのガイド配列塩基対、およびCas9は、PAMの約3bp上流の二本鎖切断(DSB)(赤色三角)を媒介する。
【図2A】例示的CRISPR系、考えられる作用機序、真核細胞中の発現のための例示的適応、ならびに核局在化およびCRISPR活性を評価する試験の結果を示す。図2Cは、配列番号23?24をそれぞれ出現の順に開示する。図2Eは、配列番号25?27をそれぞれ出現の順に開示する。図2Fは、配列番号28?32をそれぞれ出現の順に開示する。
【図2B】例示的CRISPR系、考えられる作用機序、真核細胞中の発現のための例示的適応、ならびに核局在化およびCRISPR活性を評価する試験の結果を示す。図2C
は、配列番号23?24をそれぞれ出現の順に開示する。図2Eは、配列番号25?27をそれぞれ出現の順に開示する。図2Fは、配列番号28?32をそれぞれ出現の順に開示する。
【図2C】例示的CRISPR系、考えられる作用機序、真核細胞中の発現のための例示的適応、ならびに核局在化およびCRISPR活性を評価する試験の結果を示す。図2Cは、配列番号23?24をそれぞれ出現の順に開示する。図2Eは、配列番号25?27をそれぞれ出現の順に開示する。図2Fは、配列番号28?32をそれぞれ出現の順に開示する。
【図2D】例示的CRISPR系、考えられる作用機序、真核細胞中の発現のための例示的適応、ならびに核局在化およびCRISPR活性を評価する試験の結果を示す。図2Cは、配列番号23?24をそれぞれ出現の順に開示する。図2Eは、配列番号25?27をそれぞれ出現の順に開示する。図2Fは、配列番号28?32をそれぞれ出現の順に開示する。
【図2E】例示的CRISPR系、考えられる作用機序、真核細胞中の発現のための例示的適応、ならびに核局在化およびCRISPR活性を評価する試験の結果を示す。図2Cは、配列番号23?24をそれぞれ出現の順に開示する。図2Eは、配列番号25?27をそれぞれ出現の順に開示する。図2Fは、配列番号28?32をそれぞれ出現の順に開示する。
【図2F】例示的CRISPR系、考えられる作用機序、真核細胞中の発現のための例示的適応、ならびに核局在化およびCRISPR活性を評価する試験の結果を示す。図2Cは、配列番号23?24をそれぞれ出現の順に開示する。図2Eは、配列番号25?27をそれぞれ出現の順に開示する。図2Fは、配列番号28?32をそれぞれ出現の順に開示する。
【図3A】例示的標的についてのSpCas9特異性の評価の結果を示す。図3Aは、配列番号33、26および34?44をそれぞれ出現の順に開示する。図3Cは、配列番号33を開示する。
【図3B】例示的標的についてのSpCas9特異性の評価の結果を示す。図3Aは、配列番号33、26および34?44をそれぞれ出現の順に開示する。図3Cは、配列番号33を開示する。
【図3C】例示的標的についてのSpCas9特異性の評価の結果を示す。図3Aは、配列番号33、26および34?44をそれぞれ出現の順に開示する。図3Cは、配列番号33を開示する。
【図3D】例示的標的についてのSpCas9特異性の評価の結果を示す。図3Aは、配列番号33、26および34?44をそれぞれ出現の順に開示する。図3Cは、配列番号33を開示する。
【図4A】例示的ベクター系および真核細胞中の相同組換えの指向におけるその使用についての結果を示す。図4Eは、配列番号45を開示する。図4Fは、配列番号46?47をそれぞれ出現の順に開示する。図4Gは、配列番号48?52をそれぞれ出現の順に開示する。
【図4B】例示的ベクター系および真核細胞中の相同組換えの指向におけるその使用についての結果を示す。図4Eは、配列番号45を開示する。図4Fは、配列番号46?47をそれぞれ出現の順に開示する。図4Gは、配列番号48?52をそれぞれ出現の順に開示する。
【図4C】例示的ベクター系および真核細胞中の相同組換えの指向におけるその使用についての結果を示す。図4Eは、配列番号45を開示する。図4Fは、配列番号46?47をそれぞれ出現の順に開示する。図4Gは、配列番号48?52をそれぞれ出現の順に開示する。
【図4D】例示的ベクター系および真核細胞中の相同組換えの指向におけるその使用についての結果を示す。図4Eは、配列番号45を開示する。図4Fは、配列番号46?47をそれぞれ出現の順に開示する。図4Gは、配列番号48?52をそれぞれ出現の順に開
示する。
【図4E】例示的ベクター系および真核細胞中の相同組換えの指向におけるその使用についての結果を示す。図4Eは、配列番号45を開示する。図4Fは、配列番号46?47をそれぞれ出現の順に開示する。図4Gは、配列番号48?52をそれぞれ出現の順に開示する。
【図4F】例示的ベクター系および真核細胞中の相同組換えの指向におけるその使用についての結果を示す。図4Eは、配列番号45を開示する。図4Fは、配列番号46?47をそれぞれ出現の順に開示する。図4Gは、配列番号48?52をそれぞれ出現の順に開示する。
【図4G】例示的ベクター系および真核細胞中の相同組換えの指向におけるその使用についての結果を示す。図4Eは、配列番号45を開示する。図4Fは、配列番号46?47をそれぞれ出現の順に開示する。図4Gは、配列番号48?52をそれぞれ出現の順に開示する。
【図5】プロトスペーサー配列(それぞれ、出現の順に配列番号16、15、14、53?58、18、17および59?63)の表を提供し、ヒトおよびマウスゲノム中の遺伝子座に対する例示的な化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)およびS.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR系をベースに設計されたプロトスペーサー標的についての改変効率結果を対応するPAMとともにまとめる。細胞を、Cas9およびプレcrRNA/tracrRNAまたはキメラRNAのいずれかにより形質移入し、形質移入から72時間後に分析した。インデルパーセントを、示される細胞系からのSurveyorアッセイ結果に基づき算出した(全てのプロトスペーサー標的についてN=3、誤差は標準誤差、N.D.は、Surveyorアッセイを使用して検出不可能を示し、N.T.は、本試験において試験しなかったことを示す)。
【図6A】Cas9媒介遺伝子ターゲティングについての異なるtracrRNA転写物の比較を示す。図6Aは、配列番号64?65をそれぞれ出現の順に開示する。
【図6B】Cas9媒介遺伝子ターゲティングについての異なるtracrRNA転写物の比較を示す。図6Aは、配列番号64?65をそれぞれ出現の順に開示する。
【図6C】Cas9媒介遺伝子ターゲティングについての異なるtracrRNA転写物の比較を示す。図6Aは、配列番号64?65をそれぞれ出現の順に開示する。
【図7】二本鎖切断誘導微小挿入および欠失の検出のためのsurveyorヌクレアーゼアッセイの模式図を示す。
【図8】真核細胞中のCRISPR系エレメントの発現のための例示的バイシストロニック発現ベクターを示す。図8Aは、配列番号66?68をそれぞれ出現の順に開示する。図8Bは、配列番号69?71をそれぞれ出現の順に開示する。
【図9】ヒトゲノム中の隣接化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)SF370遺伝子座1PAM(NGG)(図9A)と、S.サーモフィラス(S.thermophilus)LMD9遺伝子座2PAM(NNAGAAW)(図9B)との間の距離のヒストグラム;および染色体(Chr)ごとのそれぞれのPAMについての距離(図9C)を示す。
【図10A】例示的CRISPR系、真核細胞中の発現のための例示的適応、およびCRISPR活性を評価する試験の結果を示す。図10Bは、配列番号72?73をそれぞれ出現の順に開示する。図10Cは、配列番号74を開示する。
【図10B】例示的CRISPR系、真核細胞中の発現のための例示的適応、およびCRISPR活性を評価する試験の結果を示す。図10Bは、配列番号72?73をそれぞれ出現の順に開示する。図10Cは、配列番号74を開示する。
【図10C】例示的CRISPR系、真核細胞中の発現のための例示的適応、およびCRISPR活性を評価する試験の結果を示す。図10Bは、配列番号72?73をそれぞれ出現の順に開示する。図10Cは、配列番号74を開示する。
【図10D】例示的CRISPR系、真核細胞中の発現のための例示的適応、およびCRISPR活性を評価する試験の結果を示す。図10Bは、配列番号72?73をそれぞれ出現の順に開示する。図10Cは、配列番号74を開示する。
【図11】哺乳動物細胞中のゲノム遺伝子座のターゲティングのためのCRISPR系の例示的操作を示す。図11Aは、配列番号75を開示する。図11Bは、配列番号76?78をそれぞれ出現の順に開示する。
【図12】哺乳動物細胞中のcrRNAプロセシングのノザンブロット分析の結果を示す。図12Aは、配列番号79を開示する。
【図13】ヒトPVALBおよびマウスTh遺伝子座中のプロトスペーサーの例示的選択を示す。図13Aは、配列番号80を開示する。図13Bは、配列番号81を開示する。
【図14】ヒトEMX1遺伝子座中のS.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR系の例示的プロトスペーサーおよび対応するPAM配列標的を示す。図14は、配列番号74を開示する。
【図15】Surveyor、RFLP、ゲノムシーケンシング、およびノザンブロットアッセイに使用されたプライマーおよびプローブについての配列(それぞれ出現の順に配列番号82?93)の表を提供する。
【図16A】キメラRNAを有するCRISPR系の例示的操作および真核細胞中の系活性についてのSURVEYORアッセイの結果を示す。図16Aは、配列番号94を開示する。
【図16B】キメラRNAを有するCRISPR系の例示的操作および真核細胞中の系活性についてのSURVEYORアッセイの結果を示す。図16Aは、配列番号94を開示する。
【図16C】キメラRNAを有するCRISPR系の例示的操作および真核細胞中の系活性についてのSURVEYORアッセイの結果を示す。図16Aは、配列番号94を開示する。
【図17】真核細胞中のCRISPR系活性についてのSURVEYORアッセイの結果のグラフ表示を示す。
【図18】UCSCゲノムブラウザを使用するヒトゲノム中の一部の化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9標的部位の例示的可視化を示す。図18は、配列番号95?173をそれぞれ出現の順に開示する。
【図19A】大型Cas9(約1400アミノ酸)の3つの群および小型Cas9(約1100アミノ酸)の2つの群を含むCas9の5つの科を明らかにする系統発生分析の円形表示を示す。
【図19B】大型Cas9(約1400アミノ酸)の3つの群および小型Cas9(約1100アミノ酸)の2つの群を含むCas9の5つの科を明らかにする系統発生分析の円形表示を示す。
【図19C】大型Cas9(約1400アミノ酸)の3つの群および小型Cas9(約1100アミノ酸)の2つの群を含むCas9の5つの科を明らかにする系統発生分析の円形表示を示す。
【図19D】大型Cas9(約1400アミノ酸)の3つの群および小型Cas9(約1100アミノ酸)の2つの群を含むCas9の5つの科を明らかにする系統発生分析の円形表示を示す。
【図20A】大型Cas9(約1400アミノ酸)の3つの群および小型Cas9(約1100アミノ酸)の2つの群を含むCas9の5つの科を明らかにする系統発生分析の線形表示を示す。
【図20B】大型Cas9(約1400アミノ酸)の3つの群および小型Cas9(約1100アミノ酸)の2つの群を含むCas9の5つの科を明らかにする系統発生分析の線形表示を示す。
【図20C】大型Cas9(約1400アミノ酸)の3つの群および小型Cas9(約1100アミノ酸)の2つの群を含むCas9の5つの科を明らかにする系統発生分析の線形表示を示す。
【図20D】大型Cas9(約1400アミノ酸)の3つの群および小型Cas9(約1100アミノ酸)の2つの群を含むCas9の5つの科を明らかにする系統発生分析の線
形表示を示す。
【図20E】大型Cas9(約1400アミノ酸)の3つの群および小型Cas9(約1100アミノ酸)の2つの群を含むCas9の5つの科を明らかにする系統発生分析の線形表示を示す。
【図20F】大型Cas9(約1400アミノ酸)の3つの群および小型Cas9(約1100アミノ酸)の2つの群を含むCas9の5つの科を明らかにする系統発生分析の線形表示を示す。
【図21A】相同組換えを介するゲノム編集を示す。(a)RuvC I触媒ドメイン中のD10A突然変異を有するSpCas9ニッカーゼの模式図。(b)センスまたはアンチセンス一本鎖オリゴヌクレオチドのいずれかを修復テンプレートとして使用するヒトEMX1遺伝子座における相同組換え(HR)を表す模式図。上方の赤色矢印は、sgRNA開裂部位を示し;ゲノタイピングのためのPCRプライマー(表JおよびK)を右側パネルに矢印として示す。図21Cは、配列番号174?176、174、177および176をそれぞれ出現の順に開示する。(c)HRにより改変された領域の配列。d、EMX1標的1遺伝子座における野生型(wt)およびニッカーゼ(D10A)SpCas9媒介インデルについてのSURVEYORアッセイ(n=3)。矢印は、予測断片サイズの位置を示す。
【図21B】相同組換えを介するゲノム編集を示す。(a)RuvC I触媒ドメイン中のD10A突然変異を有するSpCas9ニッカーゼの模式図。(b)センスまたはアンチセンス一本鎖オリゴヌクレオチドのいずれかを修復テンプレートとして使用するヒトEMX1遺伝子座における相同組換え(HR)を表す模式図。上方の赤色矢印は、sgRNA開裂部位を示し;ゲノタイピングのためのPCRプライマー(表JおよびK)を右側パネルに矢印として示す。図21Cは、配列番号174?176、174、177および176をそれぞれ出現の順に開示する。(c)HRにより改変された領域の配列。d、EMX1標的1遺伝子座における野生型(wt)およびニッカーゼ(D10A)SpCas9媒介インデルについてのSURVEYORアッセイ(n=3)。矢印は、予測断片サイズの位置を示す。
【図21C】相同組換えを介するゲノム編集を示す。(a)RuvC I触媒ドメイン中のD10A突然変異を有するSpCas9ニッカーゼの模式図。(b)センスまたはアンチセンス一本鎖オリゴヌクレオチドのいずれかを修復テンプレートとして使用するヒトEMX1遺伝子座における相同組換え(HR)を表す模式図。上方の赤色矢印は、sgRNA開裂部位を示し;ゲノタイピングのためのPCRプライマー(表JおよびK)を右側パネルに矢印として示す。図21Cは、配列番号174?176、174、177および176をそれぞれ出現の順に開示する。(c)HRにより改変された領域の配列。d、EMX1標的1遺伝子座における野生型(wt)およびニッカーゼ(D10A)SpCas9媒介インデルについてのSURVEYORアッセイ(n=3)。矢印は、予測断片サイズの位置を示す。
【図21D】相同組換えを介するゲノム編集を示す。(a)RuvC I触媒ドメイン中のD10A突然変異を有するSpCas9ニッカーゼの模式図。(b)センスまたはアンチセンス一本鎖オリゴヌクレオチドのいずれかを修復テンプレートとして使用するヒトEMX1遺伝子座における相同組換え(HR)を表す模式図。上方の赤色矢印は、sgRNA開裂部位を示し;ゲノタイピングのためのPCRプライマー(表JおよびK)を右側パネルに矢印として示す。図21Cは、配列番号174?176、174、177および176をそれぞれ出現の順に開示する。(c)HRにより改変された領域の配列。d、EMX1標的1遺伝子座における野生型(wt)およびニッカーゼ(D10A)SpCas9媒介インデルについてのSURVEYORアッセイ(n=3)。矢印は、予測断片サイズの位置を示す。
【図22A】SpCas9のための単一ベクター設計を示す。図22Aは、配列番号178?180をそれぞれ出現の順に開示する。図22Bは、配列番号181を開示する。
【図22B】SpCas9のための単一ベクター設計を示す。図22Aは、配列番号17
8?180をそれぞれ出現の順に開示する。図22Bは、配列番号181を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書における図面は、説明目的のためのものにすぎず、必ずしも一定の縮尺で描画されるものではない。
【0030】
用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」は、互換的に使用される。これらは、任意の長さのヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドのいずれか、またはそれらのアナログのポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有し得、既知または未知の任意の機能を遂行し得る。以下のものは、ポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子または遺伝子断片のコードまたは非コード領域、連鎖分析から定義される遺伝子座(遺伝子座)、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、短鎖干渉RNA(siRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝鎖ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意配列の単離DNA、任意配列の単離RNA、核酸プローブ、およびプライマー。ポリヌクレオチドは、1つ以上の改変ヌクレオチド、例えば、メチル化ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログを含み得る。ヌクレオチド構造の改変は、存在する場合、ポリマーの集合前または後に与えることができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分により中断することができる。ポリヌクレオチドは、重合後に例えば標識成分とのコンジュゲーションによりさらに改変することができる。
【0031】
本発明の態様において、用語「キメラRNA」、「キメラガイドRNA」、「ガイドRNA」、「単一ガイドRNA」および「合成ガイドRNA」は、互換的に使用され、ガイド配列、tracr配列およびtracrメイト配列を含むポリヌクレオチド配列を指す。用語「ガイド配列」は、標的部位を規定するガイドRNA内の約20bp配列を指し、用語「ガイド」または「スペーサー」と互換的に使用することができる。用語「tracrメイト配列」も、用語「ダイレクトリピート」と互換的に使用することができる。例示的なCRISPR-Cas系を図1に示す。
【0032】
本明細書において使用される用語「野生型」は、当業者により理解される当技術分野の用語であり、突然変異体またはバリアント形態から区別される天然状態で生じるままの生物、株、遺伝子または特徴の典型的な形態を意味する。
【0033】
本明細書において使用される用語「バリアント」は、天然状態で生じるものから逸脱するパターンを有する品質の提示を意味すると解釈すべきである。
【0034】
用語「天然に存在しない」または「エンジニアリングされた」は、互換的に使用され、人工の関与を示す。この用語は、核酸分子またはポリペプチドを指す場合、核酸分子またはポリペプチドが、それらが天然状態で天然に会合し、または天然状態で見出される少なくとも1つの他の成分を少なくとも実質的に含まないことを意味する。
【0035】
「相補性」は、古典的ワトソン-クリックまたは他の非古典的タイプのいずれかによる別の核酸配列との水素結合を形成する核酸の能力を指す。相補性パーセントは、第2の核酸配列との水素結合(例えば、ワトソン-クリック塩基対形成)を形成し得る核酸分子中の残基の割合を示す(例えば、10のうち5、6、7、8、9、10は、50%、60%、70%、80%、90%、および100%の相補性である)。「完全に相補的」は、核酸配列の全ての連続残基が第2の核酸配列中の同一数の連続残基と水素結合することを意味する。本明細書において使用される「実質的に相補的」は、8、9、10、11、12
、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、またはそれよりも多いヌクレオチドの領域に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、もしくは100%である相補性の程度を指し、またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする2つの核酸を指す。
【0036】
本明細書において使用されるハイブリダイゼーションのための「ストリンジェントな条件」は、標的配列に対する相補性を有する核酸が、標的配列と優位にハイブリダイズし、非標的配列と実質的にハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は、一般に、配列依存的であり、多数の因子に応じて変動する。一般に、配列が長ければ、配列がその標的配列と特異的にハイブリダイズする温度が高い。ストリンジェントな条件の非限定的な例は、Tijssen(1993),Laboratory Techniques In Biochemistry And Molecular Biology-Hybridization With Nucleic Acid Probes Part I,Second Chapter“Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assay”,Elsevier,N.Y.に詳述されている。
【0037】
「ハイブリダイゼーション」は、1つ以上のポリヌクレオチドが反応してヌクレオチド残基の塩基間の水素結合を介して安定化される複合体を形成する反応を指す。水素結合は、ワトソン・クリック塩基対形成、フーグスティーン結合により、または任意の他の配列特異的様式で生じ得る。複合体は、二本鎖構造を形成する2つの鎖、多重鎖複合体を形成する3つ以上の鎖、単一の自己ハイブリダイズする鎖、またはそれらの任意の組合せを含み得る。ハイブリダイゼーション反応は、より広範なプロセス、例えば、PCRの開始、または酵素によるポリヌクレオチドの開裂におけるステップを構成し得る。所与の配列とハイブリダイズし得る配列は、所与の配列の「相補鎖」と称される。
【0038】
本明細書において使用される「発現」は、ポリヌクレオチドがDNAテンプレートから(例えば、mRNAまたは他のRNA転写物に)転写されるプロセスおよび/または転写されたmRNAが続いてペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に翻訳されるプロセスを指す。転写物およびコードされるポリペプチドは、集合的に「遺伝子産物」と称することができる。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現は、真核細胞中のmRNAのスプライシングを含み得る。
【0039】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書において、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すために互換的に使用される。ポリマーは、直鎖または分枝鎖であり得、それは、改変アミノ酸を含み得、それは、非アミノ酸により中断されていてよい。この用語は、改変、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または任意の他の操作、例えば、標識成分とのコンジュゲーションを受けたアミノ酸ポリマーも包含する。本明細書において使用される用語「アミノ酸」は、グリシンおよびDまたはL光学異性体の両方を含む天然および/または非天然または合成アミノ酸、ならびにアミノ酸アナログおよびペプチド模倣体を含む。
【0040】
用語「対象」、「個体」、および「患者」は、本明細書において脊椎動物、好ましくは、哺乳動物、より好ましくは、ヒトを指すために互換的に使用される。哺乳動物としては、限定されるものではないが、ネズミ、サル、ヒト、家畜、競技動物、および愛玩動物が挙げられる。インビボで得られ、またはインビトロで培養される生物学的実体の組織、細胞およびそれらの子孫も包含される。
【0041】
用語「治療剤(therapeutic agent)」、「治療可能薬剤」または「治療剤(treatment agent)」は、互換的に使用され、対象への投与時にいくつかの利益効果を付与する分子または化合物を指す。利益効果としては、診断測定の使用可能性;疾患、症状、障害、または病的状態の改善;疾患、症状、障害または病態の軽減またはその発症の予防;および一般には疾患、症状、障害または病的状態の中和が挙げられる。
【0042】
本明細書において使用される「治療」もしくは「治療する」または「緩和する」または「改善する」は、互換的に使用される。これらの用語は、利益または所望の結果、例として、限定されるものではないが、治療利益および/または予防利益を得るためのアプローチを指す。治療利益は、治療中の1つ以上の疾患、病態、または症状の任意の治療関連改善またはそれらに対する効果を意味する。予防利益については、疾患も、病態も、症状もこれまで顕在化し得なかった場合であっても、組成物を特定の疾患、病態、もしくは症状の発症リスクのある対象に、または疾患の生理学的症状の1つ以上を報告する対象に投与することができる。
【0043】
用語「有効量」または「治療有効量」は、利益または所望の結果を生じさせるために十分な薬剤の量を指す。治療有効量は、治療される対象および病状、対象の体重および年齢、病状の重症度、投与様式などの1つ以上に応じて変動し得、それらは当業者が容易に決定することができる。この用語は、本明細書に記載のイメージング法のいずれか1つによる検出のための画像を提供する用量にも当てはまる。規定の用量は、選択される特定の薬剤、遵守すべき投与レジメン、他の化合物との組合せで投与するか否か、投与のタイミング、イメージングすべき組織、およびそれが担持される物理的送達系の1つ以上に応じて変動し得る。
【0044】
本発明の実施は、特に記載のない限り、当業者の技能の範囲内である免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクスおよび組換えDNAの慣用の技術を用いる。Sambrook,Fritsch and Maniatis,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,2nd edition(1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausubel,et al.eds.,(1987));シリーズMETHODS IN ENZYMOLOGY(Academic Press,Inc.):PCR 2:A PRACTICAL APPROACH(M.J.MacPherson,B.D.Hames and G.R.Taylor eds.(1995))、Harlow and Lane,eds.(1988)ANTIBODIES,A LABORATORY MANUAL、およびANIMAL CELL CULTURE(R.I.Freshney,ed.(1987))参照。
【0045】
本発明のいくつかの態様は、1つ以上のベクターを含むベクター系、またはベクター自体に関する。ベクターは、原核または真核細胞中のCRISPR転写物(例えば、核酸転写物、タンパク質、または酵素)の発現のために設計することができる。例えば、CRISPR転写物は、細菌細胞、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを使用)、酵母細胞、または哺乳動物細胞中で発現させることができる。好適な宿主細胞は、Goeddel,GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)にさらに考察されている。あるいは、組換え発現ベクターをインビトロで、例えばT7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを使用して転写および翻訳させることができる。
【0046】
ベクターは、原核細胞中に導入し、その中で増殖させることができる。一部の実施形態
において、原核生物を使用して真核細胞中に導入すべきベクターのコピーを増幅し、または真核細胞中に導入すべきベクターの産生における中間ベクターとして使用される(例えば、ウイルスベクターパッケージング系の一部としてプラスミドを増幅)。一部の実施形態において、原核生物を使用してベクターのコピーを増幅し、1つ以上の核酸を発現させ、例えば、宿主細胞または宿主生物への送達のための1つ以上のタンパク質の資源を提供する。原核生物中のタンパク質の発現は、大腸菌(Escherichia coli)中で、融合または非融合タンパク質のいずれかの発現を指向する構成的または誘導的プロモーターを含有するベクターを用いて実施されることが最も多い。融合ベクターは、多数のアミノ酸をそれにコードされるタンパク質に、例えば、組換えタンパク質のアミノ末端に付加する。このような融合ベクターは、1つ以上の目的、例えば、(i)組換えタンパク質の発現の増加;(ii)組換えタンパク質の溶解度の増加;および(iii)親和性精製におけるリガンドとして作用することによる組換えタンパク質の精製の支援を果たし得る。融合発現ベクターにおいて、タンパク質分解開裂部位を融合部分および組換えタンパク質の接合部に導入して融合タンパク質の精製後に融合部分からの組換えタンパク質の分離を可能とすることが多い。このような酵素、およびそのコグネート認識配列としては、Xa因子、トロンビンおよびエンテロキナーゼが挙げられる。例示的融合発現ベクターとしては、pGEX(Pharmacia Biotech Inc;Smith and Johnson,1988.Gene 67:31-40)、pMAL(New England Biolabs,Beverly,Mass.)およびpRIT5(Pharmacia,Piscataway,N.J.)が挙げられ、それぞれ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質、またはプロテインAを標的組換えタンパク質に融合する。
【0047】
好適な誘導的非融合大腸菌(E.coli)発現ベクターの例としては、pTrc(Amrann et al.,(1988)Gene 69:301-315)およびpET 11d(Studier et al.,GENE EXPRESSION TECHNOLOGY:METHODS IN ENZYMOLOGY 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)60-89)が挙げられる。
【0048】
一部の実施形態において、ベクターは、酵母発現ベクターである。酵母の出芽酵母(Saccharomyces cerivisae)中の発現のためのベクターの例としては、pYepSec1(Baldari,et al.,1987.EMBO J.6:229-234)、pMFa(Kuijan and Herskowitz,1982.Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultz et al.,1987.Gene 54:113-123)、pYES2(Invitrogen Corporation,San Diego,Calif.)、およびpicZ(InVitrogen Corp,San Diego,Calif.)が挙げられる。
【0049】
一部の実施形態において、ベクターは、バキュロウイルス発現ベクターを使用して昆虫細胞中のタンパク質発現をドライブする。培養昆虫細胞(例えば、SF9細胞)中のタンパク質の発現に利用可能なバキュロウイルスベクターとしては、pAcシリーズ(Smith,et al.,1983.Mol.Cell.Biol.3:2156-2165)およびpVLシリーズ(Lucklow and Summers,1989.Virology 170:31-39)が挙げられる。
【0050】
一部の実施形態において、ベクターは、哺乳動物発現ベクターを使用して哺乳動物細胞中の1つ以上の配列の発現をドライブし得る。哺乳動物発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed,1987.Nature 329:840)およびpMT2PC(Kaufman,et al.,1987.EMBO J.6:187-195)が挙げられる。哺乳動物細胞中で使用される場合、発現ベクター制御機能は、典型的には、1つ以上の調節エレメントにより提供される。例えば、一般に使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2型、サイトメガロウイルス、シミアンウイルス40、ならびに本明細書に開示の他のものおよび当技術分野において公知のものに由来する。原核および真核細胞の両方のために他の好適な発現系については、例えば、Chapters 16 and 17 of Sambrook,et al.,MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL.2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989参照。
【0051】
一部の実施形態において、組換え哺乳動物発現ベクターは、特定の細胞タイプ中の核酸の発現を優先的に指向し得る(例えば、組織特異的調節エレメントを使用して核酸を発現させる)。組織特異的調節エレメントは、当技術分野において公知である。好適な組織特異的プロモーターの非限定的な例としては、アルブミンプロモーター(肝臓特異的;Pinkert,et al.,1987.Genes Dev.1:268-277)、リンパ系特異的プロモーター(Calame and Eaton,1988.Adv.Immunol.43:235-275)、特にT細胞受容体のプロモーター(Winoto and Baltimore,1989.EMBO J.8:729-733)および免疫グロブリン(Baneiji,et al.,1983.Cell 33:729-740;Queen and Baltimore,1983.Cell 33:741-748)、神経細胞特異的プロモーター(例えば、ニューロフィラメントプロモーター;Byrne and Ruddle,1989.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:5473-5477)、膵臓特異的プロモーター(Edlund,et al.,1985.Science 230:912-916)、および乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター;米国特許第4,873,316号明細書および欧州特許出願公開第264,166号明細書)が挙げられる。発生制御プロモーター、例えば、ネズミhoxプロモーター(Kessel and Gruss,1990.Science 249:374-379)およびα-フェトタンパク質プロモーター(Campes and Tilghman,1989.Genes Dev.3:537-546)も包含される。
【0052】
一部の実施形態において、調節エレメントは、CRISPR系の1つ以上のエレメントの発現をドライブするようにCRISPR系の1つ以上のエレメントに作動可能に結合している。一般に、CRISPR(クラスター化等間隔短鎖回分リピート)は、SPIDR(スペーサー散在型ダイレクトリピート(SPacer Interspersed Direct Repeat))としても公知であり、通常、特定の細菌種に特異的であるDNA遺伝子座のファミリーを構成する。CRISPR遺伝子座は、大腸菌(E.coli)中で認識された区別されるクラスの散在型短鎖配列リピート(SSR)(Ishino et al.,J.Bacteriol.,169:5429-5433[1987];およびNakata et al.,J.Bacteriol.,171:3553-3556[1989])および関連遺伝子を含む。類似の散在型SSRが、ハロフェラックス・メディテラネイ(Haloferax mediterranei)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、アナベナ属(Anabaena)、および結核菌(Mycobacterium tuberculosis)中で同定されている(Groenen et al.,Mol.Microbiol.,10:1057-1065[1993];Hoe et al.,Emerg.Infect.Dis.,5:254-263[1999];Masepohl et al.,Biochim.Biophys.Acta 1307:26-30[1996];およびMojica et al.,Mol.Microbiol.,17:85-93[1995]参照)。CRISPR遺伝子座は、典型的には他のSSRとリピートの構造が異なり、それは短鎖等間隔リピート(SRSR)と称されている(Janssen et al.,OMICS J.Integ.Biol.,6:23-33[2002];およびMojica et al.,Mol.Microbiol.,36:244-246[2000])。一般に、リピートは、実質的に一定の長さを有するユニーク介入配列により等間隔とされているクラスターで生じる短いエレメントである(Mojica et al.,[2000]、前掲)。リピート配列は株間で高度に保存されているが、散在型リピートの数およびスペーサー領域の配列は、典型的には、株ごとに異なる(van Embden et al.,J.Bacteriol.,182:2393-2401[2000])。CRISPR遺伝子座は、40を超える原核生物中で同定されており(例えば、Jansen et al.,Mol.Microbiol.,43:1565-1575[2002];およびMojica et al.,[2005]参照)、例として、限定されるものではないが、アエロパイラム属(Aeropyrum)、パイロバキュラム属(Pyrobaculum)、スルフォロバス属(Sulfolobus)、アーケオグロバス属(Archaeoglobus)、ハロカーキュラ属(Halocarcula)、メタノバクテリウム属(Methanobacterium)、メタノコッカス属(Methanococcus)、メタノサルシナ属(Methanosarcina)、メタノパイラス属(Methanopyrus)、パイロコッカス属(Pyrococcus)、ピクロフィラス属(Picrophilus)、サーモプラズマ属(Thermoplasma)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、アキフェックス属(Aquifex)、ポーフィロモナス属(Porphyromonas)、クロロビウム属(Chlorobium)、サーマス属(Thermus)、バシラス属(Bacillus)、リステリア属(Listeria)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、クロストリジウム属(Clostridium)、サーモアナエロバクター属(Thermoanaerobacter)、マイコプラズマ属(Mycoplasma)、フソバクテリウム属(Fusobacterium)、アザーカス属(Azarcus)、クロモバクテリウム属(Chromobacterium)、ネイセリア属(Neisseria)、ニトロソモナス属(Nitrosomonas)、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)、ジオバクター属(Geobacter)、ミクソコッカス属(Myxococcus)、カンピロバクター属(Campylobacter)、ウォリネラ属(Wolinella)、アシネトバクター属(Acinetobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、エシェリキア属(Escherichia)、レジオネラ属(Legionella)、メチロコッカス属(Methylococcus)、パスツレラ属(Pasteurella)、フォトバクテリウム属(Photobacterium)、サルモネラ属(Salmonella)、キサントモナス属(Xanthomonas)、エルシニア属(Yersinia)、トレポネーマ属(Treponema)、およびサーモトガ属(Thermotoga)である。
【0053】
一般に、「CRISPR系」は、集合的に、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現またはその活性の指向に関与する転写物および他のエレメント、例として、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNAまたは活性部分tracrRNA)、tracrメイト配列(内因性CRISPR系に関して「ダイレクトリピート」およびtracrRNAによりプロセシングされる部分ダイレクトリピートを包含)、ガイド配列(内因性CRISPR系に関して「スペーサー」とも称される)、またはCRISPR遺伝子座からの他の配列および転写物を指す。一部の実施形態において、CRISPR系の1つ以上のエレメントは、I型、II型、またはIII型CRISPR系に由来する。一部の実施形態において、CRISPR系の1つ以上のエレメントは、内因性CRISPR系を含む特定の生物、例えば、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)に由来する。一般に、CRISPR系は、標的配列(内因性CRISPR系に関してプロトスペーサーとも称される)におけるCRISPR複合体の形成を促進するエレメントを特徴とする。CRISPR複合体の形成に関して、「標的配列」は、ガイド配列が相補性を有するように設計される配列を指し、標的配列とガイド配列との間のハイブリダイゼーションがCRISPR複合体の形成を促進する。完全相補性は必ずしも要求されず、但し、ハイブリダイゼーションを引き起こし、CRISPR複合体の形成を促進するために十分な相補性が存在することを条件とする。標的配列は、任意のポリヌクレオチド、例えば、DNAまたはRNAポリヌクレオチドを含み得る。一部の実施形態において、標的配列は、細胞の核または細胞質中に局在している。一部の実施形態において、標的配列は、真核細胞のオルガネラ、例えば、ミトコンドリアまたはクロロプラスト内に存在し得る。標的配列を含むターゲティングされる遺伝子座中への組換えに使用することができる配列またはテンプレートは、「編集テンプレート」または「編集ポリヌクレオチド」または「編集配列」と称される。本発明の態様において、外因性テンプレートポリヌクレオチドを編集テンプレートと称することができる。本発明の一態様において、組換えは、相同組換えである。
【0054】
典型的には、内因性CRISPR系に関して、CRISPR複合体の形成(標的配列にハイブリダイズされ、1つ以上のCasタンパク質と複合体形成しているガイド配列を含む)は、標的配列中または付近(例えば、それから1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、またはそれよりも多い塩基対内)の一方または両方の鎖の開裂をもたらす。理論により拘束されるものではないが、tracr配列は、野生型tracr配列の全部または一部(例えば、野生型tracr配列の約または約20、26、32、45、48、54、63、67、85、またはそれよりも多い数を超えるヌクレオチド)を含み得、またはそれからなっていてよく、例えば、ガイド配列に作動可能に結合しているtracrメイト配列の全部または一部とのtracr配列の少なくとも一部に沿うハイブリダイゼーションによりCRISPR複合体の一部も形成し得る。一部の実施形態において、tracr配列は、ハイブリダイズし、CRISPR複合体の形成に関与するためにtracrメイト配列に対する十分な相補性を有する。標的配列と同様に、完全相補性は必要とされず、但し、機能的であるために十分な相補性が存在することを条件とすることが考えられる。一部の実施形態において、tracr配列は、最適にアラインされた場合、tracrメイト配列の長さに沿って少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%の配列相補性を有する。一部の実施形態において、CRISPR系の1つ以上のエレメントの発現をドライブする1つ以上のベクターを宿主細胞中に導入し、その結果、CRISPR系のエレメントの発現が1つ以上の標的部位におけるCRISPR複合体の形成を指向する。例えば、Cas酵素、tracrメイト配列に結合しているガイド配列、およびtracr配列は、それぞれ別個のベクター上の別個の調節エレメントに作動可能に結合させることができる。あるいは、同一または異なる調節エレメントから発現されるエレメントの2つ以上を単一ベクター中で合わせることができ、CRISPR系の任意の成分を提供する1つ以上の追加のベクターは第1のベクター中に含まれない。単一ベクター中で合わせるCRISPR系エレメントは、任意の好適な配向で配置することができ、例えば、あるエレメントを第2のエレメントに対して5’側(の上流)にまたは3’側(の下流)に局在化することができる。あるエレメントのコード配列は、第2のエレメントのコード配列の同一または逆鎖上で局在化し、同一または逆向きで配向させることができる。一部の実施形態において、単一のプロモーターは、CRISPR酵素をコードする転写物、ならびに1つ以上のイントロン配列内に埋め込まれているガイド配列、tracrメイト配列(場合により、ガイド配列に作動可能に結合している)、およびtracr配列(例えば、それぞれが異なるイントロン中に、2つ以上が少なくとも1つのイントロン中に、または全部が単一のイントロン中に存在する)の1つ以上の発現をドライブする。一部の実施形態において、CRISPR酵素、ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列は、同一のプロモーターに作動可能に結合してお
り、それから発現される。SpCas9の単一ベクター構築物を図22に示す。
【0055】
一部の実施形態において、ベクターは、1つ以上の挿入部位、例えば、制限エンドヌクレアーゼ認識配列(「クローニング部位」とも称される)を含む。一部の実施形態において、1つ以上の挿入部位(例えば、約または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多い数を超える挿入部位)は、1つ以上のベクターの1つ以上の配列エレメントの上流および/または下流に局在している。一部の実施形態において、ベクターは、tracrメイト配列の上流、および場合によりtracrメイト配列に作動可能に結合している調節エレメントの下流の挿入部位を含み、その結果、挿入部位中へのガイド配列の挿入後および発現時にガイド配列が真核細胞中の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向する。一部の実施形態において、ベクターは、2つ以上の挿入部位を含み、それぞれの挿入部位は、それぞれの部位におけるガイド配列の挿入を可能とするために2つのtracrメイト配列間に局在している。このような配置において、2つ以上のガイド配列は、単一ガイド配列の2つ以上のコピー、2つ以上の異なるガイド配列、またはそれらの組合せを含み得る。複数の異なるガイド配列を使用する場合、単一発現構築物を使用して細胞内の複数の異なる対応する標的配列に対するCRISPR活性をターゲティングすることができる。例えば、単一ベクターは、約または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、またはそれよりも多い数を超えるガイド配列を含み得る。一部の実施形態において、約または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多い数を超えるそのようなガイド配列含有ベクターを提供し、場合により細胞に送達することができる。
【0056】
一部の実施形態において、ベクターは、CRISPR酵素、例えば、Casタンパク質をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している調節エレメントを含む。Casタンパク質の非限定的な例としては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1およびCsx12としても公知)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、それらのホモログ、またはそれらの改変バージョンが挙げられる。これらの酵素は公知であり;例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9タンパク質のアミノ酸配列は、SwissProtデータベース中にアクセッション番号Q99ZW2のもと見出すことができる。一部の実施形態において、非改変CRISPR酵素は、DNA開裂活性を有し、例えば、Cas9である。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、Cas9であり、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)または肺炎連鎖球菌(S.pneumoniae)からのCas9であり得る。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列の局在における、例えば、標的配列内および/または標的配列の相補鎖内の一方または両方の鎖の開裂を指向する。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、標的配列の最初または最後のヌクレオチドからの約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、100、200、500、またはそれよりも多い塩基対内の一方または両方の鎖の開裂を指向する。一部の実施形態において、ベクターは、対応する野生型酵素に対して突然変異しているCRISPR酵素をコードし、その結果、突然変異CRISPR酵素は、標的配列を含有する標的ポリヌクレオチドの一方または両方の鎖を開裂する能力を欠く。例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)からのCas9のRuvC I触媒ドメイン中のアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9を両方の鎖を開裂するヌクレアーゼからニッカーゼ(一本鎖を開裂する)に変換する。Cas9をニッカーゼに変える突然変異の他の例としては、限定されるものではないが、H840A、N854A、およびN863Aが挙げられる。本発明の態様において、ニッカーゼは
、相同組換えを介するゲノム編集に使用することができる。例えば、図21は、相同組換えを介するゲノム編集を示す。図21(a)は、RuvCI触媒ドメイン中のD10A突然変異を有するSpCas9ニッカーゼの模式図を示す。(b)修復テンプレートとしてのセンスまたはアンチセンス一本鎖オリゴヌクレオチドのいずれかを使用するヒトEMX1遺伝子座における相同組換え(HR)を表す模式図。(c)HRにより改変された領域の配列。d、EMX1標的1遺伝子座における野生型(wt)およびニッカーゼ(D10A)SpCas9媒介インデルについてのSURVEYORアッセイ(n=3)。矢印は、予測断片サイズの位置を示す。
【0057】
一部の実施形態において、Cas9ニッカーゼは、ガイド配列、例えば、DNA標的のセンスおよびアンチセンス鎖をそれぞれターゲティングする2つのガイド配列との組合せで使用することができる。この組合せにより、両方の鎖をニック形成し、それを使用してNHEJを誘導することが可能となる。本出願人らは、突然変異原性NHEJの誘導における2つのニッカーゼ標的(すなわち、同一局在であるがDNAの異なる鎖にターゲティングされるsgRNA)の効力を実証した(データ示さず)。単一ニッカーゼ(単一sgRNAを有するCas9-D10A)は、NHEJを誘導し、インデルを創成し得ないが、本出願人らは、二重ニッカーゼ(同一局在における異なる鎖にターゲティングされるCas9-D10Aおよび2つのsgRNA)がヒト胚性幹細胞(hESC)中でそれを行い得ることを示した。効率は、hESC中でヌクレアーゼ(すなわち、D10突然変異を有さない通常のCas9)の約50%である。
【0058】
さらなる例として、Cas9の2つ以上の触媒ドメイン(RuvC I、RuvC II、およびRuvC III)を突然変異させて全てのDNA開裂活性を実質的に欠く突然変異Cas9を産生することができる。一部の実施形態において、D10A突然変異を、H840A、N854A、またはN863A突然変異の1つ以上と組み合わせて全てのDNA開裂活性を実質的に欠くCas9酵素を産生する。一部の実施形態において、CRISPR酵素は、突然変異酵素のDNA開裂活性がその非突然変異形態に対して約25%、10%、5%、1%、0.1%、0.01%、またはそれよりも小さい数未満である場合、全てのDNA開裂活性を実質的に欠くとみなす。他の突然変異は有用であり得;Cas9または他のCRISPR酵素は、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)以外の種からのものである場合、対応するアミノ酸の突然変異は、類似効果を達成するように作製することができる。
【0059】
一部の実施形態において、CRISPR酵素をコードする酵素コード配列は、特定の細胞、例えば、真核細胞中の発現のためにコドン最適化されている。真核細胞は、特定の生物、例えば、哺乳動物、例として、限定されるものではないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、または非ヒト霊長類のものまたはそれに由来し得る。一般に、コドン最適化は、天然配列の少なくとも1つのコドン(例えば、約または約1、2、3、4、5、10、15、20、25、50、またはそれよりも多い数を超えるコドン)を、その宿主細胞の遺伝子中で使用されるより高頻度または最も高頻度のコドンにより置き換える一方、天然アミノ酸配列を維持することにより目的宿主細胞中の発現の向上のために核酸配列を改変するプロセスを指す。種々の種は、特定のアミノ酸のあるコドンについて特定のバイアスを示す。コドンバイアス(生物間のコドン使用頻度の差)は、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳の効率と相関することが多く、このことは、次いで、とりわけ、翻訳されるコドンの特性および特定のトランスファーRNA(tRNA)分子の利用可能性に依存的であると考えられる。細胞中で選択されるtRNAの優位性は、一般に、ペプチド合成において最も高頻度で使用されるコドンの反映である。したがって、遺伝子は、コドン最適化に基づき所与の生物中の最適な遺伝子発現のために調整することができる。コドン使用頻度表は、例えば、「コドン使用頻度データベース」において容易に入手可能であり、これらの表は、多数の手法で適応させることができる。Nakamura,Y.,et al.“Codon usage tabulated from the international DNA sequence databases:status for the year 2000”Nucl.Acids Res.28:292(2000)参照。特定の宿主細胞中の発現のために特定の配列をコドン最適化するためのコンピュータアルゴリズムも入手可能であり、例えば、Gene Forge(Aptagen;Jacobus,PA)も入手可能である。一部の実施形態において、CRISPR酵素をコードする配列中の1つ以上のコドン(例えば、1、2、3、4、5、10、15、20、25、50、またはそれよりも多い、または全てのコドン)は、特定のアミノ酸について最も高頻度で使用されるコドンに対応する。
【0060】
一般に、ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズし、標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向するために標的ポリヌクレオチド配列との十分な相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列である。一部の実施形態において、ガイド配列とその対応する標的配列との間の相補性の程度は、好適なアラインメントアルゴリズムを使用して最適にアラインされた場合、約または約50%、60%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%、またはそれよりも大きい数を超える。最適なアラインメントは、配列をアラインするための任意の好適なアルゴリズムを使用して決定することができ、その非限定的な例としては、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burrows-Wheeler Transformをベースとするアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、ClustalW、Clustal X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies,ELAND(Illumina,San Diego,CA)、SOAP(soap.genomics.org.cnにおいて入手可能)、およびMaq(maq.sourceforge.netにおいて入手可能)が挙げられる。一部の実施形態において、ガイド配列は、約または約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75、またはそれよりも大きい数を超えるヌクレオチド長である。一部の実施形態において、ガイド配列は、約75、50、45、40、35、30、25、20、15、12、またはそれよりも小さい数未満のヌクレオチド長である。標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向するガイド配列の能力は、任意の好適なアッセイにより評価することができる。例えば、CRISPR複合体を形成するために十分なCRISPR系の成分、例として、試験すべきガイド配列は、対応する標的配列を有する宿主細胞に、例えば、CRISPR配列の成分をコードするベクターによる形質移入により提供することができ、次いで標的配列内の優先的開裂を例えば本明細書に記載のSurveyorアッセイにより評価する。同様に、標的ポリヌクレオチド配列の開裂は、試験管中で標的配列、CRISPR複合体の成分、例として、試験すべきガイド配列および試験ガイド配列とは異なる対照ガイド配列を提供し、試験および対照ガイド配列反応間の標的配列における結合または開裂の比率を比較することにより評価することができる。他のアッセイが考えられ、当業者はそれを認識する。
【0061】
ガイド配列は、任意の標的配列をターゲティングするように選択することができる。一部の実施形態において、標的配列は、細胞のゲノム内の配列である。例示的な標的配列としては、標的ゲノム中でユニークなものが挙げられる。例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9について、ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMNNNNNNNNNNNNXGGのCas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNNXGG(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれでもよい)は、ゲノム中の単一発生を有する。ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMMNNNNNNNNNNNXGGの化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNXGG(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれであってもよい)は、ゲノム中の単一発生を有する。S.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR1Cas9について、ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMNNNNNNNNNNNNXXAGAAW(配列番号1)のCas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNNXXAGAAW(配列番号2)(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれであってもよく;Wは、AまたはTである)は、ゲノム中の単一発生を有する。ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMMNNNNNNNNNNNXXAGAAW(配列番号3)のS.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR1Cas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNXXAGAAW(配列番号4)(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれであってもよく;Wは、AまたはTである)は、ゲノム中の単一発生を有する。化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9について、ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMNNNNNNNNNNNNXGGXGのCas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNNXGGXG(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれであってもよい)は、ゲノム中の単一発生を有する。ゲノム中のユニーク標的配列としては、フォームMMMMMMMMMNNNNNNNNNNNXGGXGの化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9標的部位を挙げることができ、NNNNNNNNNNNXGGXG(Nは、A、G、T、またはCであり;Xは、いずれであってもよい)は、ゲノム中の単一発生を有する。これらの配列のそれぞれにおいて、「M」は、A、G、T、またはCであり得、配列をユニークと同定するにあたり考慮する必要はない。
【0062】
一部の実施形態において、ガイド配列は、ガイド配列内の二次構造の程度を低減させるように選択される。二次構造は、任意の好適なポリヌクレオチドフォールディングアルゴリズムにより決定することができる。一部のプログラムは、最小ギブス自由エネルギーの算出をベースとする。1つのこのようなアルゴリズムの例は、mFoldであり、Zuker and Stiegler(Nucleic Acids Res.9(1981),133-148)により記載されている。別の例示的フォールディングアルゴリズムは、セントロイド構造予測アルゴリズムを使用するInstitute for Theoretical Chemistry at the University of Viennaにより開発されたオンラインウェブサーバーRNAfoldである(例えばA.R.Gruber et al.,2008,Cell 106(1):23-24;およびPA Carr and GM Church,2009,Nature Biotechnology 27(12):1151-62参照)。さらなるアルゴリズムは、参照により本明細書に組み込まれる米国仮特許出願第61/836,080号明細書(代理人整理番号44790.11.2022;Broad参照番号BI-2013/004A)に見出すことができる。
【0063】
一般に、tracrメイト配列は、(1)対応するtracr配列を含有する細胞中でtracrメイト配列によりフランキングされているガイド配列の切り出し;および(2)標的配列におけるCRISPR複合体の形成(CRISPR複合体は、tracr配列にハイブリダイズされるtracrメイト配列を含む)の1つ以上を促進するためにtracr配列との十分な相補性を有する任意の配列を含む。一般に、相補性の程度は、2つの配列の短い方の長さに沿うtracrメイト配列およびtracr配列の最適なアラインメントに準拠する。最適なアラインメントは、任意の好適なアラインメントアルゴリズムにより決定することができ、二次構造、例えばtracr配列またはtracrメイト配列内の自己相補性をさらに説明し得る。一部の実施形態において、2つの短い方の長さに沿ったtracr配列とtracrメイト配列との間の相補性の程度は、最適にアラインされた場合、約または約25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97.5%、99%、またはそれよりも大きい数を超える。tracr配列とtracrメイト配列との間の最適なアラインメントの例示的説明を図10Bおよび11Bに提供する。一部の実施形態において、tracr配列は、約または約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50、またはそれよりも大きい数を超えるヌクレオチド長である。一部の実施形態において、tracr配列およびtractメイト配列は、単一転写物内に含有され、その結果、2つの間のハイブリダイゼーションが二次構造、例えば、ヘアピンを有する転写物を産生する。ヘアピン構造において使用される好ましいループ形成配列は、4ヌクレオチド長であり、最も好ましくは、配列GAAAを有する。しかしながら、代替配列であり得るようにより長いまたは短いループ配列を使用することができる。配列は、好ましくは、ヌクレオチドトリプレット(例えば、AAA)、および追加のヌクレオチド(例えば、CまたはG)を含む。ループ形成配列の例としては、CAAAおよびAAAGが挙げられる。本発明の一実施形態において、転写物または転写されるポリヌクレオチド配列は、少なくとも2つ以上のヘアピンを有する。好ましい実施形態において、転写物は、2、3、4または5つのヘアピンを有する。本発明の別のさらなる実施形態において、転写物は、多くとも5つのヘアピンを有する。一部の実施形態において、単一転写物は、転写終結配列をさらに含み;好ましくは、これはポリT配列、例えば、6つのTヌクレオチドである。このようなヘアピン構造の例示的説明を、図11Bの下方位置に提供し、最後の「N」およびループの上流の5’側の配列の部分は、tracrメイト配列に対応し、ループの3’側の配列の部分は、tracr配列に対応する。ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列を含む単一ポリヌクレオチドのさらなる非限定的な例は、以下のとおりであり(5’から3’に列記)、「N」は、ガイド配列の塩基を表し、第1の小文字のブロックは、tracrメイト配列を表し、第2の小文字のブロックは、tracr配列を表し、最後のポリT配列は、転写ターミネーターを表す:
【化1】

一部の実施形態において、配列(1)から(3)は、S.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR1からのCas9との組合せで使用される。一部の実施形態において、配列(4)から(6)は、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)からのCas9との組合せで使用される。一部の実施形態において、tracr配列は、tracrメイト配列を含む転写物と別個の転写物である(例えば、図11Bの上図に説明されるもの)。
【0064】
一部の実施形態において、CRISPR酵素は、1つ以上の異種タンパク質ドメイン(
例えば、CRISPR酵素の他の約または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれよりも多い数を超えるドメイン)を含む融合タンパク質の一部である。CRISPR酵素融合タンパク質は、任意の追加のタンパク質配列、および場合により任意の2つのドメイン間のリンカー配列を含み得る。CRISPR酵素に融合させることができるタンパク質ドメインの例としては、限定されるものではないが、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、ならびに以下の活性:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写放出因子活性、ヒストン修飾活性、RNA開裂活性および核酸結合活性の1つ以上を有するタンパク質ドメインが挙げられる。エピトープタグの非限定的な例としては、ヒスチジン(His)タグ、V5タグ、FLAGタグ、インフルエンザヘマグルチニン(HA)タグ、Mycタグ、VSV-Gタグ、およびチオレドキシン(Trx)タグが挙げられる。レポーター遺伝子の例としては、限定されるものではないが、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)ベータ-ガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および自己蛍光タンパク質、例として、青色蛍光タンパク質(BFP)が挙げられる。CRISPR酵素は、DNA分子に結合し、または他の細胞分子に結合するタンパク質またはタンパク質の断片、例として、限定されるものではないが、マルトース結合タンパク質(MBP)、S-タグ、Lex A DNA結合ドメイン(DBD)融合物、GAL4DNA結合ドメイン融合物、および単純ヘルペスウイルス(HSV)BP16タンパク質融合物をコードする遺伝子配列に融合させることができる。CRISPR酵素を含む融合タンパク質の一部を形成し得る追加のドメインは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20110059502号明細書に記載されている。一部の実施形態において、タグ化CRISPR酵素を使用して標的配列の局在を同定する。
【0065】
本発明の一態様において、限定されるものではないが、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)ベータ-ガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および自己蛍光タンパク質、例として、青色蛍光タンパク質(BFP)が挙げられるレポーター遺伝子を、細胞中に導入して遺伝子産物の発現の変更または改変を計測するマーカーとして機能する遺伝子産物をコードすることができる。本発明のさらなる実施形態において、遺伝子産物をコードするDNA分子を、ベクターを介して細胞中に導入することができる。本発明の好ましい実施形態において、遺伝子産物は、ルシフェラーゼである。本発明のさらなる実施形態において、遺伝子産物の発現を減少させる。
【0066】
一部の態様において、本発明は、1つ以上のポリヌクレオチド、例えば、または本明細書に記載の1つ以上のベクター、その1つ以上の転写物、および/またはそれから転写された1つもしくはタンパク質を宿主細胞に送達することを含む方法を提供する。本発明は、DNAベースのゲノムのターゲティングされる改変を可能とするための基本的なプラットフォームとして機能する。これは、多くの送達系、例として、限定されるものではないが、ウイルス、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションおよびコンジュゲーションと調和し得る。一部の態様において、本発明は、そのような細胞により産生された細胞、およびそのような細胞を含み、またはそれから産生された生物(例えば、動物、植物、または真菌)をさらに提供する。一部の実施形態において、ガイド配列との組合せの(および場合によりそれと複合体形成している)CRISPR酵素を細胞に送達する。慣用のウイルスおよび非ウイルスベース遺伝子移入法を使用して核酸を哺乳動物細胞または標的組織中に導入することができる。このような方法を使用してCRISPR系の成分をコードする核酸を培養物中の細胞に、または宿主生物中に投与することができる。非ウイルスベクター送達系としては、DNAプラスミド、RNA(例えば、本明細書に記載のベクターの転写物)、ネイキッド核酸、および送達ビヒクル、例えば、リポソームと複合体形成している核酸が挙げられる。ウイルスベクター送達系としては、細胞への送達後にエピソーム性またはインテグレートされるゲノムを有するDNAおよびRNAウイルスが挙げられる。遺伝子療法手順の概要については、Anderson,Science 256:808-813(1992);Nabel&Felgner,TIBTECH 11:211-217(1993);Mitani&Caskey,TIBTECH 11:162-166(1993);Dillon,TIBTECH 11:167-175(1993);Miller,Nature 357:455-460(1992);Van Brunt,Biotechnology 6(10):1149-1154(1988);Vigne,Restorative Neurology and Neuroscience 8:35-36(1995);Kremer&Perricaudet,British Medical Bulletin 51(1):31-44(1995);Haddada et al.,in Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Boehm(eds)(1995);およびYu et al.,Gene Therapy 1:13-26(1994)参照。
【0067】
核酸の非ウイルス送達の方法としては、リポフェクション、ヌクレオフェクション、マイクロインジェクション、遺伝子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、ネイキッドDNA、人工ビリオン、および薬剤により向上されるDNAの取り込みが挙げられる。リポフェクションは、例えば、米国特許第5,049,386号明細書、同第4,946,787号明細書;および同第4,897,355号明細書)に記載されており、リポフェクション試薬は、市販されている(例えば、Transfectam(商標)およびLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに好適なカチオンおよび中性脂質としては、Felgner、国際公開第91/17424号パンフレット;国際公開第91/16024号パンフレットのものが挙げられる。送達は、細胞(例えば、インビトロまたはエクスビボ投与)または標的組織(例えば、インビボ投与)に対するものであり得る。
【0068】
脂質:核酸複合体、例として、ターゲティングされるリポソーム、例えば、免疫脂質複合体の調製は、当業者に周知である(例えば、Crystal,Science 270:404-410(1995);Blaese et al.,Cancer Gene Ther.2:291-297(1995);Behr et al.,Bioconjugate Chem.5:382-389(1994);Remy et al.,Bioconjugate Chem.5:647-654(1994);Gao et al.,Gene Therapy 2:710-722(1995);Ahmad et al.,Cancer Res.52:4817-4820(1992);米国特許第4,186,183号明細書、同第4,217,344号明細書、同第4,235,871号明細書、同第4,261,975号明細書、同第4,485,054号明細書、同第4,501,728号明細書、同第4,774,085号明細書、同第4,837,028号明細書、および同第4,946,787号明細書参照)。
【0069】
核酸の送達のためのRNAまたはDNAウイルスベース系の使用は、ウイルスを体内の規定の細胞にターゲティングし、ウイルスペイロードを核に輸送する高度に進化したプロセスを利用する。ウイルスベクターは、患者に直接投与することができ(インビボ)、またはそれらを使用してインビトロで細胞を治療することができ、場合により、改変された細胞を患者に投与することができる(エクスビボ)。慣用のウイルスベース系としては、遺伝子移入のためのレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴および単純ヘルペスウイルスベクターを挙げることができる。宿主ゲノム中のインテグレーションは、レトロウイルス、レンチウイルス、およびアデノ随伴ウイルス遺伝子移入法について考えられ、挿入されたトランス遺伝子の長期発現をもたらすことが多い。さらに、高い形質導入効率が多くの異なる細胞タイプおよび標的組織において観察されている。
【0070】
レトロウイルスの向性は、外来エンベロープタンパク質を取り込むことにより変え、標的細胞の潜在的な標的集団を拡大することができる。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞に形質導入または感染し、典型的には、高ウイルス力価を産生し得るレトロウイルスベクターである。したがって、レトロウイルス遺伝子移入系の選択は、標的組織に依存する。レトロウイルスベクターは、6?10kbまでの外来配列のためのパッケージング能を有するシス作用長鎖末端リピートを含む。最小シス作用LTRは、ベクターの複製およびパッケージングに十分であり、次いでそれを使用して治療遺伝子を標的細胞中にインテグレートして恒久的なトランス遺伝子発現を提供する。広く使用されるレトロウイルスベクターとしては、ネズミ白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)をベースとするもの、またはそれらの組合せが挙げられる(例えば、Buchscher et al.,J.Virol.66:2731-2739(1992);Johann et al.,J.Virol.66:1635-1640(1992);Sommnerfelt et al.,Virol.176:58-59(1990);Wilson et al.,J.Virol.63:2374-2378(1989);Miller et al.,J.Virol.65:2220-2224(1991);PCT/US94/05700号明細書参照)。一過的発現が好ましい用途においては、アデノウイルスベース系を使用することができる。アデノウイルスベースベクターは、多くの細胞タイプにおいて極めて高い形質導入効率を示し得、細胞分裂を要求しない。このようなベクターについて、高い力価および発現のレベルが得られている。このベクターは、比較的単純な系で大量に産生することができる。例えば、核酸およびペプチドのインビトロ産生において、ならびにインビボおよびエクスビボ遺伝子療法手順のためにアデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターを使用して細胞に標的核酸を形質導入することもできる(例えば、West et al.,Virology 160:38-47(1987);米国特許第4,797,368号明細書;国際公開第93/24641号パンフレット;Kotin,Human Gene Therapy 5:793-801(1994);Muzyczka,J.Clin.Invest.94:1351(1994)参照。組換えAAVベクターの構築は、多数の刊行物、例として、米国特許第5,173,414号明細書;Tratschin et al.,Mol.Cell.Biol.5:3251-3260(1985);Tratschin,et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072-2081(1984);Hermonat&Muzyczka,PNAS 81:6466-6470(1984);およびSamulski et al.,J.Virol.63:03822-3828(1989)に記載されている。
【0071】
典型的には、パッケージング細胞を使用して宿主細胞に感染し得るウイルス粒子を形成する。このような細胞としては、アデノウイルスをパッケージングする293細胞、およびレトロウイルスをパッケージングするψ2細胞またはPA317細胞が挙げられる。遺伝子療法において使用されるウイルスベクターは、通常、核酸ベクターをウイルス粒子中にパッケージングする細胞系を産生することにより生成する。ベクターは、典型的には、パッケージングおよび後続の宿主中へのインテグレーションに要求される最小ウイルス配列を含有し、他のウイルス配列は、発現させるべきポリヌクレオチドのための発現カセットにより置き換えられている。欠損ウイルス機能は、典型的には、パッケージング細胞系によりトランスで供給する。例えば、遺伝子療法において使用されるAAVベクターは、典型的には、宿主ゲノム中へのパッケージングおよびインテグレーションに要求されるAAVゲノムからのITR配列のみを有する。ウイルスDNAは、他のAAV遺伝子、すなわち、repおよびcapをコードするが、ITR配列を欠くヘルパープラスミドを含有する細胞系中にパッケージングされる。細胞系は、ヘルパーとしてのアデノウイルスにより感染させることもできる。ヘルパーウイルスは、AAVベクターの複製およびヘルパープラスミドからのAAV遺伝子の発現を促進する。ヘルパープラスミドは、ITR配列の欠如に起因して顕著な量でパッケージングされない。アデノウイルスによる汚染は、例えば、アデノウイルスがAAVよりも感受性である熱処理により低減させることができる。核酸を細胞に送達する追加の方法は、当業者に公知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20030087817号明細書参照。
【0072】
一部の実施形態において、宿主細胞を、本明細書に記載の1つ以上のベクターにより一過的にまたは非一過的に形質移入する。一部の実施形態において、細胞を、それが対象中で天然に生じるままで形質移入する。一部の実施形態において、形質移入される細胞を対象から採取する。一部の実施形態において、細胞は、対象から採取された細胞、例えば、細胞系に由来する。組織培養のための広範な細胞系は、当技術分野において公知である。細胞系の例としては、限定されるものではないが、C8161、CCRF-CEM、MOLT、mIMCD-3、NHDF、HeLa-S3、Huh1、Huh4、Huh7、HUVEC、HASMC、HEKn、HEKa、MiaPaCell、Panc1、PC-3、TF1、CTLL-2、C1R、Rat6、CV1、RPTE、A10、T24、J82、A375、ARH-77、Calu1、SW480、SW620、SKOV3、SK-UT、CaCo2、P388D1、SEM-K2、WEHI-231、HB56、TIB55、Jurkat、J45.01、LRMB、Bcl-1、BC-3、IC21、DLD2、Raw264.7、NRK、NRK-52E、MRC5、MEF、Hep G2、HeLa B、HeLa T4、COS、COS-1、COS-6、COS-M6A、BS-C-1サル腎臓上皮、BALB/3T3マウス胚線維芽細胞、3T3Swiss、3T3-L1、132-d5ヒト胎児線維芽細胞;10.1マウス線維芽細胞、293-T、3T3、721、9L、A2780、A2780ADR、A2780cis、A172、A20、A253、A431、A-549、ALC、B16、B35、BCP-1細胞、BEAS-2B、bEnd.3、BHK-21、BR293、BxPC3、C3H-10T1/2、C6/36、Cal-27、CHO、CHO-7、CHO-IR、CHO-K1、CHO-K2、CHO-T、CHO Dhfr-/-、COR-L23、COR-L23/CPR、COR-L23/5010、COR-L23/R23、COS-7、COV-434、CML T1、CMT、CT26、D17、DH82、DU145、DuCaP、EL4、EM2、EM3、EMT6/AR1、EMT6/AR10.0、FM3、H1299、H69、HB54、HB55、HCA2、HEK-293、HeLa、Hepa1c1c7、HL-60、HMEC、HT-29、Jurkat、JY細胞、K562細胞、Ku812、KCL22、KG1、KYO1、LNCap、Ma-Mel1-48、MC-38、MCF-7、MCF-10A、MDA-MB-231、MDA-MB-468、MDA-MB-435、MDCK II、MDCK II、MOR/0.2R、MONO-MAC6、MTD-1A、MyEnd、NCI-H69/CPR、NCI-H69/LX10、NCI-H69/LX20、NCI-H69/LX4、NIH-3T3、NALM-1、NW-145、OPCN/OPCT細胞系、Peer、PNT-1A/PNT2、RenCa、RIN-5F、RMA/RMAS、Saos-2細胞、Sf-9、SkBr3、T2、T-47D、T84、THP1細胞系、U373、U87、U937、VCaP、Vero細胞、WM39、WT-49、X63、YAC-1、YAR、およびそれらのトランスジェニック変種が挙げられる。細胞系は、当業者に公知の種々の資源から入手可能である(例えば、American Type Culture Collection(ATCC)(Manassus,Va.)参照)。一部の実施形態において、本明細書に記載の1つ以上のベクターにより形質移入された細胞を使用して1つ以上のベクター由来配列を含む新たな細胞系を樹立する。一部の実施形態において、本明細書に記載のCRISPR系の成分により一過的に形質移入され(例えば、1つ以上のベクターの一過的形質移入、またはRNAによる形質移入により)、CRISPR複合体の活性を通して改変された細胞を使用して改変を含有するがあらゆる他の外因性配列を欠く細胞を含む新たな細胞系を樹立する。一部の実施形態において、本明細書に記載の1つ以上のベクターにより一過的にまたは非一過的に形質移入された細胞、またはそのような細胞に由来する細胞系を、1つ以上の試験化合物の評価において使用する。
【0073】
本発明の態様は、疾患の遺伝子変動の研究のための哺乳動物細胞の同質遺伝子系統の生成に関する。本発明のさらなる態様は、トランスジェニックまたはウイルス媒介送達のいずれかの遺伝子改変動物モデルの生成に関する。本発明はまた、生物医学的、農業的、および工業的に有用な産物の生成のための微生物、細胞、植物、動物または合成生物のゲノム改変を包含する。さらに別の態様において、本発明は、遺伝子療法を包含する。本発明は、ゲノムの理解、例えば、遺伝子ノックアウト研究のための生物学的研究ツールとして使用することができる。本発明は、ゲノムのDNA内容物を編集および書き換える基本的能力、ならびにDNAベース生物のターゲティングされる不活性化に依存する多くの他の方法および組成物に関する。本発明はまた、細菌感染、ウイルス感染などの規定の株をターゲティングする治療剤として使用することができる。
【0074】
一部の実施形態において、本明細書に記載の1つ以上のベクターを使用して非ヒトトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物を産生する。一部の実施形態において、トランスジェニック動物は、哺乳動物、例えば、マウス、ラット、またはウサギである。ある実施形態において、生物または対象は、植物である。ある実施形態において、生物または対象または植物は、藻類である。トランスジェニック植物および動物を産生する方法は、当技術分野において公知であり、一般に、例えば、本明細書に記載の細胞形質移入の方法から出発する。トランスジェニック植物、特に作物および藻類と同様にトランスジェニック動物も提供される。トランスジェニック動物または植物は、疾患モデルの提供を除く用途において有用であり得る。これらとしては、例えば、野生型において通常見られるよりも高いタンパク質、炭水化物、栄養素またはビタミンレベルの発現を通す食物または飼料生産を挙げることができる。これに関して、トランスジェニック植物、特に豆類および塊茎、ならびに動物、特に哺乳動物、例えば家畜(ウシ、ヒツジ、ヤギおよびブタ)、さらには家禽および食用昆虫が好ましい。
【0075】
トランスジェニック藻類または他の植物、例えば、セイヨウアブラナは、例えば、植物油またはバイオ燃料、例えば、アルコール(特にメタノールおよびエタノール)の産生において特に有用であり得る。これらは、油またはバイオ燃料産業において使用される高レベルの油またはアルコールを発現または過剰発現するようにエンジニアリングすることができる。
【0076】
一態様において、本発明は、インビボ、エクスビボまたはインビトロであり得る真核細胞中の標的ポリヌクレオチドを改変する方法を提供する。一部の実施形態において、方法は、ヒトまたは非ヒト動物または植物(微細藻類を含む)から細胞または細胞の集団をサンプリングし、1つまたは複数の細胞を改変することを含む。培養は、任意の段階においてエクスビボで行うことができる。1つまたは複数の細胞は、非ヒト動物または植物(微細藻類を含む)中に再導入することもできる。
【0077】
一態様において、本発明は、真核細胞中の標的ポリヌクレオチドを改変する方法を提供する。一部の実施形態において、方法は、CRISPR複合体を標的ポリヌクレオチドに結合させて前記標的ポリヌクレオチドの開裂を生じさせ、それにより、標的ポリヌクレオチドを改変することを含み、CRISPR複合体は、前記標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列は、次いでtracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に結合している。
【0078】
一態様において、本発明は、真核細胞中のポリヌクレオチドの発現を改変する方法を提供する。一部の実施形態において、方法は、CRISPR複合体をポリヌクレオチドに結合させ、その結果、前記結合が前記ポリヌクレオチドの発現の増加または減少をもたらすことを含み;CRISPR複合体は、前記標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列は、次いでtracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に結合している。
【0079】
作物ゲノミクスの近年の進歩とともに、CRISPR-Cas系を使用して効率的でコスト効率の良い遺伝子編集および操作を実施する技能により、産生の改善および形質の向上のためにそのようなゲノムを形質転換するための単一および多重化遺伝子操作の迅速な選択および比較が可能となる。これに関して、米国特許および刊行物:米国特許第6,603,061号明細書-Agrobacterium-Mediated Plant Transformation Method;米国特許第7,868,149号明細書-Plant Genome Sequences and Uses Thereofおよび米国特許出願公開第2009/0100536号明細書-Transgenic Plants with Enhanced Agronomic Traitsが参照され、これらのそれぞれの全ての内容および開示は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。本発明の実施において、Morrell et al“Crop genomics:advances and applications”Nat Rev Genet.2011 Dec 29;13(2):85-96の内容および開示も参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0080】
植物において、病原体は宿主特異的であることが多い。例えば、トマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum f.sp.lycopersici)は、トマト萎凋病を引き起こすが、トマトのみを攻撃し、カーネーション萎凋病菌(F.oxysporum f.dianthii)コムギ黒さび病菌(Puccinia graminis f.sp.tritici)はコムギのみを攻撃する。植物は、ほとんどの病原体に抵抗するための既存および誘導的防御を有する。植物生成にわたる突然変異および組換えイベントは、特に病原体が植物よりも高頻度で繁殖する場合に感受性を生じさせる遺伝子変異をもたらす。植物において、非宿主耐性が存在し得、例えば、宿主および病原体は不適合性である。水平耐性、例えば、典型的には、多くの遺伝子により制御される病原体の全ての種に対する部分耐性および垂直耐性、例えば、典型的には、少数の遺伝子により制御される病原体の一部の種に対するが他の種に対するものでない完全耐性も存在し得る。遺伝子対遺伝子レベルにおいて、植物および病原体は、一緒に進化し、あるものの遺伝子変化は他の変化と均衡を保つ。したがって、自然変動を使用して、育種者は、収穫高、品質、均一性、耐寒性、耐性に最も有用な遺伝子を組み合わせる。耐性遺伝子の資源としては、天然または外来種、在来種、野生植物類縁種、および誘導突然変異、例えば、植物材料を突然変異誘発剤により処理することが挙げられる。本発明を使用して、植物育種者に、突然変異を誘導するための新たなツールを提供する。したがって、当業者は、耐性遺伝子の資源のゲノムを分析し、所望の特徴または形質を有する品種において本発明を用いて耐性遺伝子の出現を従来の突然変異誘発剤よりも正確に誘導し、したがって、植物育種プログラムを加速および改善することができる。
【0081】
一態様において、本発明は、上記方法および組成物に開示のエレメントのいずれか1つ以上を含有するキットを提供する。一部の実施形態において、キットは、ベクター系およびキットの使用指示書を含む。一部の実施形態において、ベクター系は、(a)tracrメイト配列およびガイド配列をtracrメイト配列の上流に挿入するための1つ以上の挿入部位に作動可能に結合している第1の調節エレメント(ガイド配列は、発現された場合、真核細胞中の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、CRISPR複合体は、(1)標的配列にハイブリダイズされるガイド配列、および(2)tracr配列にハイブリダイズされるtracrメイト配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む);ならびに/または(b)核局在化配列を含む前記CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含む。エレメントは、個々にまたは組合せで提供することができ、任意の好適な容器、例えば、バイアル、ボトル、またはチューブ中で提供することができる。一部の実施形態において、キットは、1つ以上の言語の、例えば、2つ以上の言語の指示書を含む。
【0082】
一部の実施形態において、キットは、本明細書に記載のエレメントの1つ以上を利用するプロセスにおいて使用される1つ以上の試薬を含む。試薬は、任意の好適な容器中で提供することができる。例えば、キットは、1つ以上の反応または貯蔵緩衝液を提供し得る。試薬は、特定のアッセイにおいて使用可能な形態で、または使用前に1つ以上の他の成分の添加を要求する形態(例えば、濃縮物または凍結乾燥形態)で提供することができる。緩衝液は、任意の緩衝液、例として、限定されるものではないが、炭酸ナトリウム緩衝液、重炭酸ナトリウム緩衝液、ホウ酸緩衝液、Tris緩衝液、MOPS緩衝液、HEPES緩衝液、およびそれらの組合せであり得る。一部の実施形態において、緩衝液はアルカリ性である。一部の実施形態において、緩衝液は、約7から約10のpHを有する。一部の実施形態において、キットは、ガイド配列および調節エレメントを作動可能に結合させるためのベクター中への挿入のためのガイド配列に対応する1つ以上のオリゴヌクレオチドを含む。一部の実施形態において、キットは、相同組換えテンプレートポリヌクレオチドを含む。
【0083】
一態様において、本発明は、CRISPR系の1つ以上のエレメントを使用する方法を提供する。本発明のCRISPR複合体は、標的ポリヌクレオチドを改変する有効な手段を提供する。本発明のCRISPR複合体は、広範な有用性、例として、非常に多数の細胞タイプ中の標的ポリヌクレオチドの改変(例えば、欠失、挿入、転座、不活性化、活性化)を有する。したがって、本発明のCRISPR複合体は、例えば、遺伝子療法、薬物スクリーニング、疾患診断、および予後における幅広い用途範囲を有する。例示的CRISPR複合体は、標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含む。ガイド配列は、次いでtract配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に結合している。
【0084】
CRISPR複合体の標的ポリヌクレオチドは、真核細胞に対して内因性または外因性である任意のポリヌクレオチドであり得る。例えば、標的ポリヌクレオチドは、真核細胞の核中に残留するポリヌクレオチドであり得る。標的ポリヌクレオチドは、遺伝子産物(例えば、タンパク質)をコードする配列または非コード配列(例えば、調節ポリヌクレオチドまたはジャンクDNA)であり得る。理論により拘束されるものではないが、標的配列がPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ);すなわち、CRISPR複合体により認識される短い配列と関連付けられているはずであることが考えられる。PAMについての正確な配列および長さの条件は、使用されるCRISPR酵素に応じて異なるが、PAMは、典型的には、プロトスペーサー(すなわち、標的配列)に隣接する2?5塩基対配列である。PAM配列の例を以下の実施例セクションに挙げ、当業者は、所与のCRISPR酵素について使用されるさらなるPAM配列を同定することができる。
【0085】
CRISPR複合体の標的ポリヌクレオチドとしては、それぞれBroad参照番号BI-2011/008/WSGR整理番号44063-701.101およびBI-2011/008/WSGR整理番号44063-701.102を有する米国仮特許出願第61/736,527号明細書および同第61/748,427号明細書(両方とも、標題SYSTEMS METHODS AND COMPOSITIONS FOR SEQUENCE MANIPULATION、それぞれ2012年12月12日および2013年1月2日に出願、これらの全ての内容は参照により全体として本明細書に組み込まれる)に列記の多数の疾患関連遺伝子およびポリヌクレオチドならびにシグナリング生化学経路関連遺伝子およびポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0086】
標的ポリヌクレオチドの例としては、シグナリング生化学経路に関連する配列、例えば、シグナリング生化学経路関連遺伝子またはポリヌクレオチドが挙げられる。標的ポリヌクレオチドの例としては、疾患関連遺伝子またはポリヌクレオチドが挙げられる。「疾患関連」遺伝子またはポリヌクレオチドは、非疾患対照の組織または細胞と比較して患部組織に由来する細胞中で異常なレベルにおいてまたは異常な形態で転写または翻訳産物を生じさせている任意の遺伝子またはポリヌクレオチドを指す。これは、異常に高いレベルにおいて発現されるようになる遺伝子であり得;これは、異常に低いレベルにおいて発現されるようになる遺伝子であり得、発現の変化は、疾患の発生および/または進行と相関する。疾患関連遺伝子は、疾患の病因を直接担い、または疾患の病因を担う遺伝子と連鎖不平衡をなす突然変異または遺伝子変異を有する遺伝子も指す。転写または翻訳される産物は、既知または未知のものであり得、正常または異常レベルにおけるものであり得る。
【0087】
疾患関連遺伝子およびポリヌクレオチドの例は、McKusick-Nathans Institute of Genetic Medicine,Johns Hopkins University(Baltimore,Md.)およびNational Center for Biotechnology Information,National Library of Medicine(Bethesda,Md.)から入手可能であり、ワールドワイドウェブから入手可能である。
【0088】
疾患関連遺伝子およびポリヌクレオチドの例を表AおよびBに列記する。疾患特異的情報は、McKusick-Nathans Institute of Genetic Medicine,Johns Hopkins University (Baltimore,Md.)およびNational Center for Biotechnology Information,National Library of Medicine(Bethesda,Md.)から入手可能であり、ワールドワイドウェブから入手可能である。シグナリング生化学経路関連遺伝子およびポリヌクレオチドの例を表Cに列記する。
【0089】
これらの遺伝子および経路中の突然変異は、不適切なタンパク質の産生または機能に影響する不適切な量のタンパク質をもたらし得る。遺伝子、疾患およびタンパク質のさらなる例は、2012年12月12日に出願された米国仮特許出願第61/736,527号明細書および2013年1月2日に出願された同第61/748,427号明細書から参照により本明細書に組み込まれる。このような遺伝子、タンパク質および経路は、CRISPR複合体の標的ポリヌクレオチドであり得る。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
【表7】

【0097】
【表8】

【0098】
【表9】

【0099】
【表10】

【0100】
【表11】

【0101】
【表12】

【0102】
【表13】

【0103】
【表14】

【0104】
【表15】

【0105】
【表16】

【0106】
【表17】

【0107】
本発明の実施形態は、遺伝子のノックアウト、遺伝子の増幅ならびにDNAリピート不安定性および神経学的疾患に関連する特定の突然変異の修復に関連する方法および組成物にも関する(Robert D.Wells,Tetsuo Ashizawa,Genetic Instabilities and Neurological Diseases,Second Edition,Academic Press,Oct 13,2011-Medical)。規定の態様のタンデムリピート配列が20を超えるヒト疾患を担うことが見出されている(New insights into repeat instability:role of RNA・DNA hybrids.McIvor EI,Polak U,Napierala M.RNA Biol.2010 Sep-Oct;7(5):551-8)。CRISPR-Cas系を利用してゲノム不安定性のこれらの異常を補正することができる。
【0108】
本発明のさらなる態様は、ラフォラ病に関連することが同定されているEMP2AおよびEMP2B遺伝子の異常の補正のためのCRISPR-Cas系の利用に関する。ラフォラ病は、青年期において癲癇性発作として始まり得る進行性ミオクローヌス癲癇を特徴とする常染色体劣性病態である。この疾患の数例は、未だ同定されていない遺伝子の突然変異により引き起こされ得る。この疾患は、発作、筋痙攣、歩行困難、認知症、および最終的に死亡を引き起こす。現在、疾患進行に対して有効であることが証明されている治療は存在しない。癲癇に関連する他の遺伝子異常を、CRISPR-Cas系によりターゲティングすることもでき、基礎となる遺伝学は、Genetics of Epilepsy and Genetic Epilepsies,Giuliano Avanzini,Jeffrey L.Noebelsにより編集,Mariani Foundation Paediatric Neurology:20;2009)にさらに記載されている。
【0109】
本発明のさらに別の態様において、CRISPR-Cas系を使用し、Genetic Diseases of the Eye,Second Edition,Elias I.Traboulsiにより編集,Oxford University Press,2012にさらに記載されているいくつかの遺伝子突然変異から生じる眼の異常を補正することができる。
【0110】
本発明のいくつかのさらなる態様は、米国国立衛生研究所のウェブサイト(health.nih.gov/topic/GeneticDisordersにおけるウェブサイト)上にトピックサブセクションGenetic Disordersのもとでさらに記載されている広範な遺伝子疾患に関連する異常の補正に関する。遺伝子脳疾患としては、限定されるものではないが、副腎白質ジストロフィー、脳梁欠損症、アイカルディ症候群、アルパース病、アルツハイマー病、バース症候群、バッテン病、CADASIL、小脳変性症、ファブリー病、ゲルストマン-ストロイスラー-シャインカー病、ハンチントン病および他のトリプレットリピート病、リー病、レッシュ-ナイハン症候群、メンケス病、ミトコンドリアミオパチーならびにNINDSコルポセファリーが挙げられる。これらの疾患は、米国国立衛生研究所のウェブサイト上にサブセクションGenetic Brain Disordersのもとでさらに記載されている。
【0111】
一部の実施形態において、病態は、新形成である。病態が新形成であり得る一部の実施形態において、ターゲティングすべき遺伝子は、表Aに列記のもののいずれかであり得る(この場合、PTENなど)。一部の実施形態において、病態は、加齢黄斑変性症であり得る。一部の実施形態において、病態は、統合失調症であり得る。一部の実施形態において、病態は、トリヌクレオチドリピート障害であり得る。一部の実施形態において、病態は、脆弱性X症候群であり得る。一部の実施形態において、病態は、セクレターゼ関連障害であり得る。一部の実施形態において、病態は、プリオン関連障害であり得る。一部の実施形態において、病態は、ALSであり得る。一部の実施形態において、病態は、薬物嗜好であり得る。一部の実施形態において、病態は、自閉症であり得る。一部の実施形態において、病態は、アルツハイマー病であり得る。一部の実施形態において、病態は、炎症であり得る。一部の実施形態において、病態は、パーキンソン病であり得る。
【0112】
パーキンソン病に関連するタンパク質の例としては、限定されるものではないが、α-シヌクレイン、DJ-1、LRRK2、PINK1、パーキン、UCHL1、シンフィリン-1、およびNURR1が挙げられる。
【0113】
嗜好関連タンパク質の例としては、例えば、ABATを挙げることができる。
【0114】
炎症関連タンパク質の例としては、例えば、Ccr2遺伝子によりコードされる単球走化性タンパク質-1(MCP1)、Ccr5遺伝子によりコードされるC-Cケモカイン受容体5型(CCR5)、Fcgr2b遺伝子によりコードされるIgG受容体IIB(FCGR2b、CD32とも称される)、またはFcer1g遺伝子によりコードされるFcイプシロンR1g(FCER1g)タンパク質を挙げることができる。
【0115】
心血管疾患関連タンパク質の例としては、例えば、IL1B(インターロイキン1、ベータ)、XDH(キサンチンデヒドロゲナーゼ)、TP53(腫瘍タンパク質p53)、
PTGIS(プロスタグランジンI2(プロスタサイクリン)シンターゼ)、MB(ミオグロビン)、IL4(インターロイキン4)、ANGPT1(アンジオポエチン1)、ABCG8(ATP結合カセット、サブファミリーG(WHITE)、メンバー8)、またはCTSK(カテプシンK)を挙げることができる。
【0116】
アルツハイマー病関連タンパク質の例としては、例えば、VLDLR遺伝子によりコードされる超低密度リポタンパク質受容体タンパク質(VLDLR)、UBA1遺伝子によりコードされるユビキチン様修飾因子活性化酵素1(UBA1)、またはUBA3遺伝子によりコードされるNEDD8活性化酵素E1触媒サブユニットタンパク質(UBE1C)を挙げることができる。
【0117】
自閉症スペクトラム障害に関連するタンパク質の例としては、例えば、BZRAP1遺伝子によりコードされるベンゾジアゼピン受容体(末梢性)関連タンパク質1(BZRAP1)、AFF2遺伝子(MFR2とも称される)によりコードされるAF4/FMR2ファミリーメンバー2タンパク質(AFF2)、FXR1遺伝子によりコードされる脆弱性X精神遅滞常染色体ホモログ1タンパク質(FXR1)、またはFXR2遺伝子によりコードされる脆弱性X精神遅滞常染色体ホモログ2タンパク質(FXR2)を挙げることができる。
【0118】
黄斑変性症に関連するタンパク質の例としては、例えば、ABCR遺伝子によりコードされるATP結合カセットサブファミリーA(ABC1)メンバー4タンパク質(ABCA4)、APOE遺伝子によりコードされるアポリポタンパク質Eタンパク質(APOE)、またはCCL2遺伝子によりコードされるケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド2タンパク質(CCL2)を挙げることができる。
【0119】
統合失調症に関連するタンパク質の例としては、NRG1、ErbB4、CPLX1、TPH1、TPH2、NRXN1、GSK3A、BDNF、DISC1、GSK3B、およびそれらの組合せを挙げることができる。
【0120】
腫瘍抑制に関与するタンパク質の例としては、例えば、ATM(毛細血管拡張性運動失調症変異)、ATR(毛細血管拡張性運動失調症およびRad3関連)、EGFR(上皮成長因子受容体)、ERBB2(v-erb-b2赤芽球性白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ2)、ERBB3(v-erb-b2赤芽球性白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ3)、ERBB4(v-erb-b2赤芽球性白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ4)、Notch1、Notch2、Notch3、またはNotch4を挙げることができる。
【0121】
セクレターゼ障害に関連するタンパク質の例としては、例えば、PSENEN(プレセニリンエンハンサー2ホモログ(線虫(C.elegans)))、CTSB(カテプシンB)、PSEN1(プレセニリン1)、APP(アミロイドベータ(A4)前駆体タンパク質)、APH1B(咽頭前部欠損1ホモログB(線虫(C.elegans)))、PSEN2(プレセニリン2(アルツハイマー病4))、またはBACE1(ベータ部位APP開裂酵素1)を挙げることができる。
【0122】
筋萎縮性側索硬化症に関連するタンパク質の例としては、SOD1(スーパーオキシドジスムターゼ1)、ALS2(筋萎縮性側索硬化症2)、FUS(fused in sarcoma)、TARDBP(TAR DNA結合タンパク質)、VAGFA(血管内皮成長因子A)、VAGFB(血管内皮成長因子B)、およびVAGFC(血管内皮成長因子C)、およびそれらの任意の組合せを挙げることができる。
【0123】
プリオン疾患に関連するタンパク質の例としては、SOD1(スーパーオキシドジスム
ターゼ1)、ALS2(筋萎縮性側索硬化症2)、FUS(fused in sarcoma)、TARDBP(TAR DNA結合タンパク質)、VAGFA(血管内皮成長因子A)、VAGFB(血管内皮成長因子B)、およびVAGFC(血管内皮成長因子C)、およびそれらの任意の組合せを挙げることができる。
【0124】
プリオン障害における神経変性病態に関連するタンパク質の例としては、例えば、A2M(アルファ-2-マクログロブリン)、AATF(アポトーシス拮抗転写因子)、ACPP(前立腺酸性ホスファターゼ)、ACTA2(大動脈平滑筋アクチンアルファ2)、ADAM22(ADAMメタロペプチダーゼドメイン)、ADORA3(アデノシンA3受容体)、またはADRA1D(アルファ-1Dアドレナリン受容体についてのアルファ-1Dアドレナリン作動性受容体)を挙げることができる。
【0125】
免疫不全症に関連するタンパク質の例としては、例えば、A2M[アルファ-2-マクログロブリン];AANAT[アリールアルキルアミンN-アセチルトランスフェラーゼ];ABCA1[ATP結合カセットサブファミリーA(ABC1)、メンバー1];ABCA2[ATP結合カセットサブファミリーA(ABC1)、メンバー2];またはABCA3[ATP結合カセットサブファミリーA(ABC1)、メンバー3]を挙げることができる。
【0126】
トリヌクレオチドリピート障害に関連するタンパク質の例としては、例えば、AR(アンドロゲン受容体)、FMR1(脆弱性X精神遅滞1)、HTT(ハンチントン)、またはDMPK(筋緊張性異栄養症タンパク質キナーゼ)、FXN(フラタキシン)、ATXN2(アタキシン2)が挙げられる。
【0127】
神経伝達障害に関連するタンパク質の例としては、例えば、SST(ソマトスタチン)、NOS1(一酸化窒素シンターゼ1(神経型))、ADRA2A(アドレナリン作動性アルファ-2A受容体)、ADRA2C(アドレナリン作動性アルファ-2C受容体)、TACR1(タキキニン受容体1)、またはHTR2c(5-ヒドロキシトリプタミン(セロトニン)受容体2C)が挙げられる。
【0128】
神経発達関連配列の例としては、例えば、A2BP1[アタキシン2結合タンパク質1]、AADAT[アミノアジピン酸アミノトランスフェラーゼ]、AANAT[アリールアルキルアミンN-アセチルトランスフェラーゼ]、ABAT[4-アミノ酪酸アミノトランスフェラーゼ]、ABCA1[ATP結合カセットサブファミリーA(ABC1)メンバー1]、またはABCA13[ATP結合カセットサブファミリーA(ABC1)メンバー13]が挙げられる。
【0129】
本発明の系により治療可能な好ましい病態のさらなる例は、以下のものから選択することができる:アルカルディ-グティエール症候群;アレキサンダー病;アラン-ハーンドン-ダッドリー症候群;POLG関連障害;アルファ-マンノシドーシス(IIおよびIII型);アルストレム症候群;アンジェルマン症候群;毛細血管拡張性運動失調症;神経セロイドリポフスチン症;ベータ-セラサミア;両側性視神経委縮症および(幼児型)視神経委縮症1型;網膜芽腫(両側性);カナバン病;脳・眼・顔・骨格症候群1[COFS1];脳腱黄色腫症;コルネリア・デ・ラング症候群;MAPT関連障害;遺伝性プリオン病;ドラベ症候群;早期発症型家族性アルツハイマー病;フリードライヒ運動失調症[FRDA];フリンス症候群;フコシドーシス;福山型先天性筋ジストロフィー;ガラクトシアリドーシス;ゴーシェ病;有機酸血症;血球貪食性リンパ組織球症;ハッチンソン-ギルフォード早老症候群;ムコリピドーシスII型;幼児遊離シアル酸蓄積症;PLA2G6関連神経変性症;ジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群;接合型表皮水疱症;ハンチントン病;クラッベ病(幼児型);ミトコンドリアDNA関連リー症候群およびNARP;レッシュ-ナイハン症候群;LIS1関連滑脳症;ロウ症候群;メープルシロップ尿症;MECP2重複症候群;ATP7A関連銅輸送障害;LAMA2関連筋ジストロフィー;アリールスルファターゼA欠損症;ムコ多糖症I、IIまたはIII型;ペルオキシソーム形成異常症、ツェルウェーガー症候群スペクトラム;脳の鉄蓄積症を伴う神経変性症;酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症;ニーマン-ピック病C型;グリシン脳症;ARX関連障害;尿素サイクル異常症;COL1A1/2関連骨形成不全症;ミトコンドリアDNA欠失症候群;PLP1関連障害;ペリー症候群;フェラン-マクダーモット症候群;グリコーゲン蓄積症II型(ポンペ病)(幼児型);MAPT関連障害;MECP2関連障害;肢根型点状軟骨異形成症1型;ロバーツ症候群;サンドホフ病;シンドラー病1型;アデノシンデアミナーゼ欠損症;スミス-レムリ-オピッツ症候群;脊髄性筋萎縮症;幼児期発症型脊髄小脳失調症;ヘキソサミニダーゼA欠損症;致死性異形成1型;コラーゲンVI型関連障害;アッシャー症候群I型;先天性筋ジストロフィー;ウォルフ-ヒルシュホーン症候群;リソソーム酸リパーゼ欠損症;ならびに色素性乾皮症。
【0130】
明らかなとおり、本発明の系を使用して任意の目的ポリヌクレオチド配列をターゲティングすることができることが想定される。本発明の系を使用して有用に治療することができる病態または疾患の一部の例を上記表に含め、それらの病態に現在関連する遺伝子の例もその表に提供する。しかしながら、例示される遺伝子は排他的なものではない。
【実施例】
【0131】
以下の実施例を、本発明の種々の実施形態を説明する目的のために挙げ、それらは本発明をいかなる様式にも限定することを意味しない。本実施例は、本明細書に記載の方法とともに、目下好ましい実施形態の代表例であり、例示であり、本発明の範囲に対する限定を意図するものではない。特許請求の範囲の範囲により定義される本発明の趣旨に包含されるその変更および他の使用は、当業者が行う。
【0132】
実施例1:真核細胞の核中のCRISPR複合体活性
例示的なII型CRISPR系は、4つの遺伝子Cas9、Cas1、Cas2、およびCsn1のクラスター、ならびに2つの非コードRNAエレメント、tracrRNAおよび非反復配列の短いストレッチ(スペーサー、それぞれ約30bp)により間隔が空いている反復配列の特徴的アレイ(ダイレクトリピート)を含有する化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)SF370からのII型CRISPR遺伝子座である。この系において、ターゲティングされるDNA二本鎖切断(DSB)を4つの連続ステップにおいて生成する(図2A)。第1に、2つの非コードRNA、プレcrRNAアレイおよびtracrRNAがCRISPR遺伝子座から転写される。第2に、tracrRNAがプレcrRNAのダイレクトリピートにハイブリダイズし、次いでそれが個々のスペーサー配列を含有する成熟crRNAにプロセシングされる。第3に、成熟crRNA:tracrRNA複合体がCas9を、crRNAのスペーサー領域とプロトスペーサーDNAとの間のヘテロ二本鎖形成を介してプロトスペーサーおよび対応するPAMからなるDNA標的に指向する。最後に、Cas9は、PAMの上流の標的DNAの開裂を媒介してプロトスペーサー内でDSBを創成する(図2A)。この例は、このRNAプログラマブルヌクレアーゼ系を適応させて真核細胞の核中のCRISPR複合体活性を指向する例示プロセスを記載する。
【0133】
細胞培養および形質移入
ヒト胚腎臓(HEK)細胞系HEK293FT(Life Technologies)を、10%のウシ胎仔血清(HyClone)、2mMのGlutaMAX(Life Technologies)、100U/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシンが補給されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で37℃において5%のCO_(2)インキュベーションで維持した。マウスneuro2A(N2A)細胞系(ATCC)を、5%のウシ胎仔血清(HyClone)、2mMのGlutaMAX(Life Technologies)、100U/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシンが補給されたDMEMにより、37℃、5%のCO_(2)で維持した。
【0134】
HEK293FTまたはN2A細胞を24ウェルプレート(Corning)中に、形質移入1日前に1ウェル当たり200,000個の細胞の密度において播種した。Lipofectamine2000(Life Technologies)を製造業者の推奨プロトコルに従って使用して細胞を形質移入した。24ウェルプレートのそれぞれのウェルについて、合計800ngのプラスミドを使用した。
【0135】
ゲノム改変についてのSurveyorアッセイおよびシーケンシング分析 HEK293FTまたはN2A細胞を、上記プラスミドDNAにより形質移入した。形質移入後、細胞を37℃において72時間インキュベートしてからゲノムDNAを抽出した。ゲノムDNAは、QuickExtractDNA抽出キット(Epicentre)を製造業者のプロトコルに従って使用して抽出した。手短に述べると、細胞をQuickExtract溶液中で再懸濁させ、65℃において15分間および98℃において10分間インキュベートした。抽出されたゲノムDNAを直ちに処理または-20℃において貯蔵した。
【0136】
それぞれの遺伝子についてのCRISPR標的部位周囲のゲノム領域をPCR増幅し、QiaQuick Spin Column(Qiagen)を製造業者のプロトコルに従って使用して産物を精製した。合計400ngの精製PCR産物を2μlの10×TaqポリメラーゼPCR緩衝液(Enzymatics)と混合し、超純水で20μlの最終容量とし、リアニーリングプロセスに供してヘテロ二本鎖形成を可能とした:95℃において10分間、-2℃/秒における傾斜で95℃から85℃、-0.25℃/秒における85℃から25℃、および25℃において1分間維持。リアニーリング後、産物をSurveyorヌクレアーゼおよびSurveyorエンハンサーS(Transgenomics)により製造業者の推奨プロトコルに従って処理し、4?20%のNovex TBEポリアクリルアミドゲル(Life Technologies)上で分析した。ゲルをSYBR Gold DNA染色(Life Technologies)により30分間染色し、Gel Docゲルイメージングシステム(Bio-rad)によりイメージングした。定量は、開裂したDNAの率の尺度としての相対バンド強度に基づくものであった。図7は、このSurveyorアッセイの模式的説明を提供する。
【0137】
相同組換えの検出のための制限断片長多型アッセイ
HEK293FTおよびN2A細胞を、プラスミドDNAにより形質移入し、37℃において72時間インキュベートしてから上記のとおりゲノムDNAを抽出した。相同組換え(HR)テンプレートのホモロジーアーム外側のプライマーを使用して標的ゲノム領域をPCR増幅した。PCR産物を1%のアガロースゲル上で分離し、MinElute GelExtraction Kit(Qiagen)により抽出した。精製産物をHindIII(Fermentas)により消化し、6%のNovex TBEポリアクリルアミドゲル(Life Technologies)上で分析した。
【0138】
RNA二次構造予測および分析
RNA二次構造予測は、Institute for Theoretical Chemistry at the University of Viennaにおいて開発されたオンラインウェブサーバーRNAfoldを使用し、セントロイド構造予測アルゴリズムを使用して実施した(例えば、A.R.Gruber et al.,2008,Cell 106(1):23-24;およびPA Carr and GM Church,2009,Nature Biotechnology 27(12):1151-62参照)。
【0139】
RNA精製
HEK293FT細胞を上記のとおり維持および形質移入した。細胞をトリプシン処理により回収し、次いでリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で洗浄した。トータル細胞RNAをTRI試薬(Sigma)により製造業者のプロトコルに従って抽出した。抽出されたトータルRNAをNaonodrop(Thermo Scientific)を使用して定量し、同一濃度に正規化した。
【0140】
哺乳動物細胞中のcrRNAおよびtracrRNA発現のノザンブロット分析
RNAを等容量の2×ローディング緩衝液(Ambion)と混合し、95℃に5分間加熱し、氷上で1分間冷蔵し、次いで8%の変性ポリアクリルアミドゲル(SequaGel,National Diagnostics)上に、少なくとも30分間のゲルのプレラン後にロードした。試料を40W限界において1.5時間電気泳動した。その後、RNAをHybond N+メンブレン(GE Healthcare)に300mAにおいてセミドライ転写装置(Bio-rad)中で室温において1.5時間転写した。Stratagene UV CrosslinkerのStratalinker(Stratagene)上のオートクロスリンクボタンを使用してRNAをメンブレンに架橋させた。メンブレンをULTRAhyb-オリゴハイブリダイゼーション緩衝液(Ambion)中で回転させながら42℃において30分間プレハイブリダイズさせ、次いでプローブを添加し、一晩ハイブリダイズさせた。プローブはIDTに発注し、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England Biolabs)を用いて[ガンマ-^(32)P]ATP(Perkin Elmer)により標識した。メンブレンを予備加温(42℃)された2×SSC、0.5%のSDSにより1分間1回洗浄し、次いで42℃において30分間2回洗浄した。メンブレンを蛍光スクリーンに室温において1時間または一晩曝露させ、次いでphosphorimager(Typhoon)によりスキャンした。
【0141】
細菌CRISPR系構築および評価
tracrRNA、Cas9、およびリーダーを含むCRISPR遺伝子座エレメントを、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)SF370ゲノムDNAから、ギブソン・アセンブリ(Gibson Assembly)のためのフランキングホモロジーアームを用いてPCR増幅した。2つのBsaI IIS型部位を2つのダイレクトリピート間に導入してスペーサーの容易な挿入を促進した(図8)。Gibson Assembly Master Mix(NEB)を使用してPCR産物をEcoRV消化pACYC184中にtetプロモーターの下流でクローニングした。Csn2の最後の50bpは除き、他の内因性CRISPR系エレメントは除外した。相補的オーバーハングを有するスペーサーをコードするオリゴ(Integrated DNA Technology)をBsaI消化ベクターpDC000(NEB)中にクローニングし、次いでT7リガーゼ(Enzymatics)によりライゲートしてpCRISPRプラスミドを生成した。哺乳動物細胞中のPAM発現を有するスペーサーを含有するチャレンジプラスミド(図6Aに説明される発現構築物、図6Bに示されるSurveyorアッセイの結果により決定された機能性を有する)。転写開始部位を+1として標識し、転写ターミネーターおよびノザンブロットによりプロービングされる配列も示す。プロセシングされたtracrRNAの発現もノザンブロットにより確認した。図6Cは、長鎖または短鎖tracrRNA、ならびにSpCas9およびDR-EMX1(1)-DRを担持するU6発現構築物により形質移入された293FT細胞から抽出されたトータルRNAのノザンブロット分析の結果を示す。左および右側のパネルは、それぞれSpRNアーゼIIIを用いず、または用いて形質移入された293FT細胞からのものである。U6は、ヒトU6snRNAをターゲティングするプローブによりブロットされたローディング対照を示す。短鎖tracrRNA発現構築物の形質移入は、十分なレベルのプロセシング形態のtracrRNA(約75bp)をもたらした。極めて少量の長鎖tracrRNAがノザンブロット上で検出される。
【0142】
正確な転写開始を促進するため、RNAポリメラーゼIIIベースU6プロモーターを選択してtracrRNAの発現をドライブした(図2C)。同様に、U6プロモーターベース構築物を開発して2つのダイレクトリピート(DR、用語「tracrメイト配列」にも包含される;図2C)によりフランキングされている単一スペーサーからなるプレcrRNAアレイを発現させた。最初のスペーサーは、大脳皮質の発達におけるキー遺伝子であるヒトEMX1遺伝子座中の33塩基対(bp)標的部位(30bpのプロトスペーサーと、Cas9のNGG認識モチーフを満たす3bpのCRISPRモチーフ(PAM)配列)をターゲティングするように設計した(図2C)。
【0143】
哺乳動物細胞中のCRISPR系(SpCas9、SpRNアーゼIII、tracrRNA、およびプレcrRNA)の異種発現がターゲティングされる哺乳動物染色体の開裂を達成し得るか否かを試験するため、HEK293FT細胞をCRISPR成分の組合せにより形質移入した。哺乳動物核中のDSBは部分的には、インデルの形成をもたらす非相同末端結合(NHEJ)経路により修復されるため、Surveyorアッセイを使用して標的EMX1遺伝子座における潜在的な開裂活性を検出した(図7)(例えば、Guschin et al.,2010,Methods Mol Biol 649:247参照)。4つ全てのCRISPR成分の同時形質移入は、プロトスペーサーの最大5.0%の開裂を誘導し得た(図2D参照)。SpRNアーゼIIIを除く全てのCRISPR成分の同時形質移入も、プロトスペーサーの最大4.7%のインデルを誘導し、このことはcrRNA成熟を支援し得る内因性哺乳動物RNアーゼ、例えば、関連DicerおよびDrosha酵素などが存在し得ることを示唆した。残り3つの成分のいずれかを除去すると、CRISPR系のゲノム開裂活性は停止する(図2D)。標的遺伝子座を含有するアンプリコンのサンガーシーケンシングにより開裂活性を確認し;43個のシーケンシングされたクローンのうち5つの突然変異アレル(11.6%)が見出された。種々のガイド配列を使用する同様の実験は、29%と高いインデル割合を生じさせた(図3?6、10、および11参照)。これらの結果は、哺乳動物細胞中の効率的なCRISPR媒介ゲノム改変のための3成分系を定義する。開裂効率を最適化するため、本出願人らは、tracrRNAの異なるアイソフォームが開裂効率に影響するか否かも試験し、この例示的系において、短鎖(89bp)転写物形態のみがヒトEMX1ゲノム遺伝子座の開裂を媒介し得ることを見出した(図6B)。
【0144】
図12は、哺乳動物細胞中のcrRNAプロセシングの追加のノザンブロット分析を提供する。図12Aは、2つのダイレクトリピートによりフランキングされている単一スペーサー(DR-EMX1(1)-DR)についての発現ベクターを示す模式図を説明する。ヒトEMX1遺伝子座プロトスペーサー1をターゲティングする30bpのスペーサー(図6参照)およびダイレクトリピート配列を、図12Aの下方の配列中に示す。線は、逆相補配列を使用してEMX1(1)crRNA検出のためのノザンブロットプローブを生成する領域を示す。図12Bは、DR-EMX1(1)-DRを担持するU6発現構築物により形質移入された293FT細胞から抽出されたトータルRNAのノザンブロット分析を示す。左および右側のパネルは、それぞれSpRNアーゼIIIを用いず、または用いて形質移入された293FT細胞からのものである。DR-EMX1(1)-DRは、SpCas9が存在する場合のみ成熟crRNAにプロセシングされ、短鎖tracrRNAはSpRNアーゼIIIの存在に依存的でなかった。形質移入293FTトータルRNAから検出された成熟crRNAは、約33bpであり、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)からの39?42bpの成熟crRNAよりも短かった。これらの結果は、CRISPR系を真核細胞中に移植し、リプログラミングして内因性哺乳動物標的ポリヌクレオチドの開裂を促進することができることを実証する。
【0145】
図2は、本実施例に記載の細菌CRISPR系を説明する。図2Aは、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)SF370からのCRISPR遺伝子座1およびこの系によるCRISPR媒介DNA開裂の提案される機序を示す模式図を説明する。ダイレクトリピート-スペーサーアレイからプロセシングされた成熟crRNAは、Cas9を、相補的プロトスペーサーおよびプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)からなるゲノム標的に指向する。標的-スペーサー塩基対形成時、Cas9は標的DNA中の二本鎖切断を媒介する。図2Bは、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)Cas9(SpCas9)およびRNアーゼIII(SpRNアーゼIII)の、哺乳動物核中への輸送を可能とするための核局在化シグナル(NLS)によるエンジニアリングを説明する。図2Cは、構成的EF1aプロモーターによりドライブされるSpCas9およびSpRNアーゼIIIならびに正確な転写開始および終結を促進するためのRNAPol3プロモーターU6によりドライブされるtracrRNAおよびプレcrRNAアレイ(DR-スペーサー-DR)の哺乳動物発現を説明する。十分なPAM配列を有するヒトEMX1遺伝子座からのプロトスペーサーを、プレcrRNAアレイ中のスペーサーとして使用する。図2Dは、SpCas9媒介少数挿入および欠失についてのsurveyorヌクレアーゼアッセイを説明する。SpCas9を、SpRNアーゼIII、tracrRNA、およびEMX1標的スペーサーを担持するプレcrRNAアレイを用いてまたは用いずに発現させた。図2Eは、標的遺伝子座とEMX1ターゲティングcrRNAとの間の塩基対形成の模式的表示、ならびにSpCas9開裂部位に隣接する微小欠失を示す例示的クロマトグラムを説明する。図2Fは、種々の微小挿入および欠失を示す43個のクローンアンプリコンのシーケンシング分析から同定された突然変異アレルを説明する。点線は、欠失塩基を示し、アラインされず、またはミスマッチの塩基は挿入または突然変異を示す。スケールバー=10μm。
【0146】
3成分系をさらに簡略化するため、ステム-ループを介して成熟crRNA(ガイド配列を含む)を部分tracrRNAに融合させて天然crRNA:tracrRNA二本鎖を模倣するキメラcrRNA-tracrRNAハイブリッド設計を適応させ得る。同時送達効率を増加させるため、形質移入細胞中のキメラRNAおよびSpCas9の同時発現をドライブするバイシストロニック発現ベクターを創成した。並行して、バイシストロニックベクターを使用してプレcrRNA(DR-ガイド配列-DR)をSpCas9とともに発現させてcrRNAへのプロセシングを誘導し、tracrRNAを別個に発現させた(図11Bの上図および下図を比較)。図8は、hSpCas9を有するプレcrRNAアレイ(図8A)またはキメラcrRNA(図8B中のガイド配列挿入部位の下流およびEF1αプロモーターの上流の短い線により表わされる)のためのバイシストロニック発現ベクターの模式的説明を提供し、種々のエレメントの局在およびガイド配列挿入の場所を示す。図8B中のガイド配列挿入部位の局在周囲の拡大された配列は、部分DR配列(GTTTTAGAGCTA)(配列番号11)および部分tracrRNA配列(TAGCAAGTTAAAATAAGGCTAGTCCGTTTTT)(配列番号12)も示す。ガイド配列は、アニールされたオリゴヌクレオチドを使用してBbsI部位間に挿入することができる。オリゴヌクレオチドについての配列設計を図8の模式的説明の下方に示し、適切なライゲーションアダプターを示す。WPREは、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメントを表す。キメラRNA媒介開裂の効率を、上記の同一のEMX1遺伝子座をターゲティングすることにより試験した。Surveyorアッセイおよびアンプリコンのサンガーシーケンシングの両方を使用して、本出願人らは、キメラRNA設計がヒトEMX1遺伝子座の開裂を約4.7%の改変比率で促進することを確認した(図3)。
【0147】
真核細胞中のCRISPR媒介開裂の一般化可能性を、ヒトEMX1およびPVALB、ならびにマウスTh遺伝子座中の複数部位をターゲティングするキメラRNAを設計することによりヒトおよびマウス細胞の両方において追加のゲノム遺伝子座をターゲティングすることにより試験した。図13は、いくつかの追加のターゲティングされるヒトPVALB(図13A)およびマウスTh(図13B)遺伝子座中のプロトスペーサーの選択を説明する。遺伝子座およびそれぞれの最後のエキソン内の3つのプロトスペーサーの局在の模式図を提供する。下線付き配列は、30bpのプロトスペーサー配列およびPAM配列に対応する3’末端における3bpを含む。センスおよびアンチセンス鎖上のプロトスペーサーを、それぞれDNA配列の上方および下方に示す。ヒトPVALBおよびマウスTh遺伝子座についてそれぞれ6.3%および0.75%の改変比率が達成され、このことは複数の生物にわたる異なる遺伝子座の改変におけるCRISPR系の幅広い適用可能性を実証した(図5)。開裂はキメラ構築物を使用してそれぞれの遺伝子座について3つのスペーサーのうち1つについてのみ検出された一方、同時発現されるプレcrRNA配置を使用した場合、全ての標的配列が27%に達するインデル生成の効率で開裂された(図6および13)。
【0148】
図11は、SpCas9をリプログラミングして哺乳動物細胞中の複数のゲノム遺伝子座をターゲティングすることができることのさらなる説明を提供する。図11Aは、下線付き配列により示される5つのプロトスペーサーの局在を示すヒトEMX1遺伝子座の模式図を提供する。図11Bは、プレcrRNAおよびtracrRNAのダイレクトリピート領域間のハイブリダイゼーションを示すプレcrRNA/trcrRNA複合体の模式図(上図)および20bpのガイド配列、ならびにヘアピン構造にハイブリダイズしている部分ダイレクトリピートおよびtracrRNA配列からなるtracrメイトおよびtracr配列を含むキメラRNA設計の模式図(下図)を提供する。ヒトEMX1遺伝子座中の5つのプロトスペーサーにおけるCas9媒介開裂の効力を比較するSurveyorアッセイの結果を、図11Cに説明する。プロセシングされたプレcrRNA/tracrRNA複合体(crRNA)またはキメラRNA(chiRNA)のいずれかを使用してそれぞれのプロトスペーサーをターゲティングする。
【0149】
RNAの二次構造は分子間相互作用に重要であり得るため、最小自由エネルギーおよびボルツマン加重構造アンサンブルに基づく構造予測アルゴリズムを使用してゲノムターゲティング実験に使用される全てのガイド配列の推定二次構造を比較した(例えば、Gruber et al.,2008,Nucleic Acids Research,36:W70参照)。分析により、ほとんどの場合、キメラcrRNAコンテクスト中の有効なガイド配列は二次構造モチーフを実質的に含まない一方、無効なガイド配列は標的プロトスペーサーDNAとの塩基対形成を妨害し得る内部二次構造を形成する可能性がより高いことが明らかになった。したがって、スペーサー二次構造の変動性は、キメラcrRNAを使用する場合にCRISPR媒介干渉の効率に影響し得ることが考えられる。
【0150】
SpCas9のためのさらなるベクター設計を図22に示し、それはガイドオリゴのための挿入部位に結合しているU6プロモーター、およびSpCas9コード配列に結合しているCbhプロモーターを取り込む単一発現ベクターを説明する。図22bに示されるベクターは、H1プロモーターに結合しているtracrRNAコード配列を含む。
【0151】
細菌アッセイにおいて、全てのスペーサーが効率的なCRISPR干渉を促進した(図3C)。これらの結果は、哺乳動物細胞中のCRISPR活性の効率に影響する追加の因子が存在し得ることを示唆する。
【0152】
CRISPR媒介開裂の特異性を調査するため、哺乳動物ゲノム中のプロトスペーサー開裂に対するガイド配列中の単一ヌクレオチド突然変異の効果を、単一点突然変異を有する一連のEMX1ターゲティングキメラcrRNAを使用して分析した(図3A)。図3Bは、異なる突然変異体キメラRNAと対形成した場合のCas9の開裂効率を比較するSurveyorヌクレアーゼアッセイの結果を説明する。PAMの5’側の最大12bpの単一塩基ミスマッチは、SpCas9によるゲノム開裂を実質的に停止させた一方、さらなる上流位置に突然変異を有するスペーサーは元のプロトスペーサー標的に対する活性を保持した(図3B)。PAMの他、SpCas9は、スペーサーの最後の12bp内の単一塩基特異性を有する。さらに、CRISPRは、同一EMX1プロトスペーサーをターゲティングするTALEヌクレアーゼ(TALEN)のペアと同程度に効率的にゲノム開裂を媒介し得る。図3Cは、EMX1をターゲティングするTALENの設計を示す模式図を提供し、図3Dは、TALENおよびCas9の効率を比較するSurveyorゲルを示す(n=3)。
【0153】
エラープローンNHEJ機序を通した哺乳動物細胞中のCRISPR媒介遺伝子編集を達成するための成分のセットを樹立したため、相同組換え(HR)、ゲノム中の正確な編集を作製するための高フィデリティ遺伝子修復経路を刺激するCRISPRの能力を試験した。野生型SpCas9は、NHEJおよびHRの両方を通して修復され得る部位特異的DSBを媒介し得る。さらに、SpCas9のRuvC I触媒ドメイン中のアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)をエンジニアリングしてヌクレアーゼをニッカーゼに変換し(SpCas9n;図4Aに説明)(例えば、Sapranausaks et al.,2011,Nucleic Acids Research,39:9275;Gasiunas et al.,2012,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,109:E2579参照)、その結果、ニック形成されたゲノムDNAが高フィデリティ相同性組換え修復(HDR)を受ける。Surveyorアッセイにより、SpCas9nはEMX1プロトスペーサー標的におけるインデルを生成しないことを確認した。図4Bに説明されるとおり、EMX1ターゲティングキメラcrRNAとSpCas9との同時発現は標的部位中のインデルを生じさせた一方、SpCas9nとの同時発現は生じさせなかった(n=3)。さらに、327個のアンプリコンのシーケンシングは、SpCas9nにより誘導されるいかなるインデルも検出しなかった。同一の遺伝子座を選択し、HEK293FT細胞をEMX1をターゲティングするキメラRNA、hSpCas9またはhSpCas9n、およびプロトスペーサー付近に制限部位のペア(HindIIIおよびNheI)を導入するためのHRテンプレートにより同時形質移入することによりCRISPR媒介HRを試験した。図4Cは、HR方針の模式的説明を、組換え場所の相対局在およびプライマーアニーリング配列(矢印)とともに提供する。SpCas9およびSpCas9nは、実際、EMX1遺伝子中へのHRテンプレートのインテグレーションを触媒した。標的領域のPCR増幅とそれに続くHindIIIによる制限消化により、予測断片サイズ(図4Dに示される制限断片長多型ゲル分析中の矢印)に対応する開裂産物が明らかになり、SpCas9およびSpCas9nは類似レベルのHR効率を媒介した。本出願人らは、ゲノムアンプリコンのサンガーシーケンシングを使用してHRをさらに確認した(図4E)。これらの結果は、哺乳動物ゲノム中のターゲティングされる遺伝子挿入を促進するためのCRISPRの有用性を実証する。野生型SpCas9の14bp(スペーサーからの12bpおよびPAMからの2bp)の標的特異性を考慮すると、ニッカーゼの利用可能性は、一本鎖分解物がエラープローンNHEJ経路のための基質でないため、オフターゲット改変の可能性を顕著に低減させ得る。
【0154】
アレイスペーサーを有するCRISPR遺伝子座の天然アーキテクチャーを模倣する発現構築物(図2A)を構築して多重化配列ターゲティングの可能性を試験した。EMX1およびPVALBターゲティングスペーサーのペアをコードする単一のCRISPRアレイを使用して、両方の遺伝子座における効率的な開裂が検出された(図4F、crRNAアレイの模式的設計および開裂の効率的な媒介を示すSurveyorブロットの両方を示す)。119bpにより間隔が空いているEMX1内の2つの標的に対するスペーサー
を使用する同時DSBを通したより大きいゲノム領域のターゲティングされる欠失も試験し、1.6%の欠失効力(182個のアンプリコンのうち3つ;図4G)が検出された。このことは、CRISPR系が単一ゲノム内の多重化編集を媒介し得ることを実証する。
【0155】
実施例2:CRISPR系改変および代替例
配列特異的DNA開裂をプログラミングするためにRNAを使用する技能は、種々の研究および産業用途のための新たなクラスのゲノムエンジニアリングツールを定義する。CRISPR系のいくつかの態様は、CRISPRターゲティングの効率および多用途性を増加させるようにさらに改善することができる。最適なCas9活性は、哺乳動物核中に存在するものよりも高いレベルにおけるフリーMg^(2+)の利用可能性に依存し得(例えば、Jinek et al.,2012,Science,337:816参照)、プロトスペーサーのすぐ下流のNGGモチーフについての優先性は、ヒトゲノム中で平均12bpごとでターゲティング能を制限する(図9、ヒト染色体配列のプラスおよびマイナス鎖の両方を評価)。これらの拘束の一部は、微生物メタゲノムにわたるCRISPR遺伝子座の多様性を利用することにより克服することができる(例えば、Makarova et al.,2011,Nat Rev Microbiol,9:467参照)。他のCRISPR遺伝子座を、実施例1に記載のものと同様の方法により哺乳動物細胞環境中に移植することができる。例えば、図10は、CRISPR媒介ゲノム編集を達成するための哺乳動物細胞中の異種発現のためのストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)LMD-9のCRISPR1からのII型CRISPR系の適応を説明する。図10Aは、S.サーモフィラス(S.thermophilus)LMD-9のCRISPR1の模式的説明を提供する。図10Bは、S.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR系のための発現系の設計を説明する。ヒトコドン最適化hStCas9を、構成的EF1αプロモーターを使用して発現させる。tracrRNAおよびcrRNAの成熟バージョンを、U6プロモーターを使用して発現させて正確な転写開始を促進する。成熟crRNAおよびtracrRNAからの配列を説明する。crRNA配列中の小文字「a」により示される単一塩基を使用してRNApolIII転写ターミネーターとして機能するポリU配列を除去する。図10Cは、ヒトEMX1遺伝子座ターゲティングするガイド配列を示す模式図を提供する。図10Dは、Surveyorアッセイを使用する標的遺伝子座中のhStCas9媒介開裂の結果を示す。RNAガイドスペーサー1および2は、それぞれ14%および6.4%を誘導した。これらの2つのプロトスペーサー部位における生物学的複製物にわたる開裂活性の統計分析も図5に提供する。図14は、ヒトEMX1遺伝子座中のS.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR系の追加のプロトスペーサーおよび対応するPAM配列標的の模式図を提供する。2つのプロトスペーサー配列を強調し、NNAGAAWモチーフを満たすそれらの対応するPAM配列を対応する強調配列に対して3’側で下線を付けることにより示す。両方のプロトスペーサーは、アンチセンス鎖をターゲティングする。
【0156】
実施例3:試料標的配列選択アルゴリズム
規定のCRISPR酵素についての所望のガイド配列長およびCRISPRモチーフ配列(PAM)に基づきインプットDNA配列の両方の鎖上の候補CRISPR標的配列を同定するためのソフトウェアプログラムを設計する。例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)からのCas9についての標的部位は、PAM配列NGGを用いて、インプット配列およびインプットの逆相補鎖の両方の上の5’-N_(x)-NGG-3’を探索することにより同定することができる。同様に、S.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR1のCas9についての標的部位は、PAM配列NNAGAAWを用いて、インプット配列およびインプットの逆相補鎖の両方の上の5’-N_(x)-NNAGAAW-3’を探索することにより同定することができる。同様に、S.サーモフィラス(S.thermophilus)CRISPR3のCas9についての標的部位は
、PAM配列NGGNGを用いて、インプット配列およびインプットの逆相補鎖の両方の上の5’-N_(x)-NGGNG-3’を探索することにより同定することができる。N_(x)中の値「x」は、プログラムにより固定し、または使用者により規定することができ、例えば、20である。
【0157】
DNA標的部位のゲノム中の複数の発生は、非特異的ゲノム編集をもたらし得るため、全ての潜在的な部位を同定した後、プログラムは配列が関連参照ゲノム中で出現する回数に基づき配列をフィルタリング除去する。配列特異性が「シード」配列、例えば、PAM配列自体を含め、PAM配列から5’側の11?12bpにより決定されるそれらのCRISPR酵素について、フィルタリングステップはシード配列に基づき得る。したがって、追加のゲノム遺伝子座における編集を回避するため、結果を関連ゲノム中のシード:PAM配列の発生数に基づきフィルタリングする。使用者に、シード配列の長さを選択させることができる。使用者に、フィルタ通過の目的のためにゲノム中のシード:PAM配列の発生数を規定させることもできる。デフォルトは、ユニーク配列をスクリーニングすることである。フィルトレーションレベルは、シード配列の長さおよびゲノム中の配列の発生数の両方を変えることにより変更する。プログラムは、さらにまたは代替的に、同定された標的配列の逆相補鎖を提供することにより、報告された標的配列に相補的なガイド配列の配列を提供し得る。ヒトゲノム中の一部の標的部位の例示的可視化を図18に提供する。
【0158】
配列選択を最適化する方法およびアルゴリズムのさらなる詳細は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第61/064,798号明細書(代理人整理番号44790.11.2022;Broad参照番号BI-2012/084)に見出すことができる。
【0159】
実施例4:複数のキメラcrRNA-tracrRNAハイブリッドの評価
本実施例は、異なる長さの野生型tracrRNA配列を取り込むtracr配列を有するキメラRNA(chiRNA;ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列を単一転写物中で含む)について得られた結果を記載する。図16aは、キメラRNAおよびCas9のためのバイシストロニック発現ベクターの模式図を説明する。Cas9はCBhプロモーターによりドライブされ、キメラRNAはU6プロモーターによりドライブされる。キメラガイドRNAは、からなる。示される種々の位置においてトランケートされたtracr配列(下方の鎖の最初の「U」から転写物の末端に及ぶ)に結合している20bpのガイド配列(N)からなる。ガイドおよびtracr配列は、tracrメイト配列GUUUUAGAGCUA(配列番号13)と、それに続くループ配列GAAAにより離隔している。ヒト遺伝子座EMX1およびPVALB遺伝子座におけるCas9媒介インデルについてのSURVEYORアッセイの結果を、それぞれ図16bおよび16cに説明する。矢印は、予測SURVEYOR断片を示す。chiRNAをそれらの「+n」表記により示し、crRNAは、ガイドおよびtracr配列が別個の転写物として発現されるハイブリッドRNAを指す。トリプリケートで実施されたこれらの結果の定量を、図17aおよび17bにヒストグラムにより示し、それぞれ図16bおよび16cに対応する(「N.D.」は、インデルが検出されなかったことを示す)。プロトスペーサーIDおよびそれらの対応するゲノム標的、プロトスペーサー配列、PAM配列、および鎖局在を表Dに提供する。ガイド配列は、ハイブリッド系における別個の転写物の場合、プロトスペーサー配列全体に相補的であるように、またはキメラRNAの場合、下線部にのみ相補的であるように設計した。
【0160】
【表18】

【0161】
ガイド配列を最適化するためのさらなる詳細は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第61/836,127号明細書(代理人整理番号44790.08.2022;Broad参照BI-2013/004G)に見出すことができる。
【0162】
最初に、ヒトHEK293FT細胞中のEMX1遺伝子座内の3つの部位をターゲティングした。それぞれのchiRNAのゲノム改変効率は、DNA二本鎖切断(DSB)および非相同末端結合(NHEJ)DNA損傷修復経路によるその後続の修復から生じる突然変異を検出するSURVEYORヌクレアーゼアッセイを使用して評価した。chiRNA(+n)と表記される構築物は、野生型tracrRNAの最大+n個のヌクレオチドがキメラRNA構築物中に含まれることを示し、nについては48、54、67、および85の値が使用される。野生型tracrRNAのより長い断片を含有するキメラRNA(chiRNA(+67)およびchiRNA(+85))は、3つ全てのEMX1標的部位におけるDNA開裂を媒介し、特にchiRNA(+85)は、ガイドおよびtracr配列を別個の転写物中で発現する対応するcrRNA/tracrRNAハイブリッドよりも顕著に高いレベルのDNA開裂を実証した(図16bおよび17a)。ハイブリッド系(別個の転写物として発現されるガイド配列およびtracr配列)を検出可能な開裂を生じなかったPVALB遺伝子座中の2つの部位も、chiRNAを使用してターゲティングした。chiRNA(+67)およびchiRNA(+85)は、2つのPVALBプロトスペーサーにおける顕著な開裂を媒介し得た(図16cおよび17b)。EMX1およびPVALB遺伝子座中の5つ全ての標的について、tracr配列長さの増加に伴うゲノム改変効率の一貫した増加が観察された。いかなる理論によっても拘束されるものではないが、tracrRNAの3’末端により形成される二次構造は、CRISPR複合体形成の比率の向上における役割を担い得る。
【0163】
実施例5:Cas9多様性
CRISPR-Cas系は、細菌から古細菌にわたる多様な種により用いられる侵入外因性DNAに対する適応免疫機序である。II型CRISPR-Cas9系は、CRISPR遺伝子座中への外来DNAの「獲得」を担うタンパク質をコードする遺伝子のセット、およびDNA開裂機序の「実行」をコードする遺伝子のセットからなり;これらは、DNAヌクレアーゼ(Cas9)、非コードトランス活性化crRNA(tracrRNA)、およびダイレクトリピートによりフランキングされている外来DNA由来スペーサーのアレイ(crRNA)を含む。Cas9による成熟時、tracRNAおよびcrRNA二本鎖は、Cas9ヌクレアーゼをスペーサーガイド配列により規定される標的DNA配列にガイドし、開裂に要求され、それぞれのCRISPR-Cas系に特異的な標的DNA中の短鎖配列モチーフ付近のDNAの二本鎖切断を媒介する。II型CRISPR-Cas系は、細菌界全体にわたり見出されており、Cas9タンパク質配列およびサイズ、tracrRNAおよびcrRNAダイレクトリピート配列、それらのエレメントのゲノム構成、および標的開裂のためのモチーフ要件は高度に多様である。ある種は、複数の
区別されるCRISPR-Cas系を有し得る。
【0164】
本出願人らは、公知のCas9との配列相同性および公知のサブドメイン、例として、HNHエンドヌクレアーゼドメインおよびRuvCエンドヌクレアーゼドメイン[Eugene KooninおよびKira Makarovaからの情報]とオルソロガスな構造に基づき同定された細菌種から207個の推定Cas9を評価した。このセットのタンパク質配列保存に基づく系統発生分析により、大型Cas9(約1400アミノ酸)の3つの群および小型Cas9(約1100アミノ酸)の2つの群を含むCas9の5つのファミリーが明らかになった(図19および20A?F参照)。
【0165】
Cas9のさらなる詳細およびニッカーゼまたはDNA結合タンパク質に変換するためのCas9酵素の突然変異および変更された機能性を有するCas9の使用は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第61/836,101号明細書および同第61/835,936号明細書(それぞれ代理人整理番号44790.09.2022および4790.07.2022ならびにBroad参照BI-2013/004EおよびBI-2013/004F)に見出すことができる。
【0166】
実施例6:Cas9オルソログ
本出願人らは、Cas9オルソログを分析して関連PAM配列および対応するキメラガイドRNAを同定した。PAMの拡大セットを有することは、ゲノムにわたるより広いターゲティングを提供し、ユニーク標的部位の数も顕著に増加させ、ゲノム中の特異性の増加レベルを有する新規Cas9を同定する潜在性を提供する。
【0167】
Cas9オルソログの特異性は、ガイドRNAとそのDNA標的との間のミスマッチを許容するそれぞれのCas9の能力を試験することにより評価することができる。例えば、SpCas9の特異性は、開裂効率に対するガイドRNA中の突然変異の効果を試験することにより特性決定された。ガイド配列と標的DNAとの間の単一または複数のミスマッチを用いてガイドRNAのライブラリーを作製した。これらの知見に基づき、SpCas9についての標的部位を以下の指針に基づき選択することができる。
【0168】
特定の遺伝子を編集するためのSpCas9特異性を最大化するため、潜在的な「オフターゲット」ゲノム配列が以下の4つの拘束に従うように目的遺伝子座内の標的部位を選択すべきである:第1に、これらに、5’-NGGまたはNAG配列のいずれかを有するPAMが続くべきでない。第2に、標的配列とのこれらの全配列類似性は、最小化されるべきである。第3に、最大数のミスマッチが、オフターゲット部位のPAM近位領域内に存在すべきである。最後に、最大数のミスマッチが連続的であり、または4塩基未満で離れているべきである。
【0169】
類似の方法を使用して他のCas9オルソログの特異性を評価し、標的種のゲノム内の特異的標的部位の選択のための基準を確立することができる。上記のとおり、このセットのタンパク質配列保存に基づく系統発生分析により、大型Cas9(約1400アミノ酸)の3つの群および小型Cas9(約1100アミノ酸)の2つの群を含むCas9の5つのファミリーが明らかになった(図19および20A?F参照)。Casオルソログに関するさらなる詳細は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第61/836,101号明細書および同第61/835,936号明細書(それぞれ、代理人整理番号44790.09.2022および4790.07.2022ならびにBroad参照BI-2013/004EおよびBI-2013/004F)に見出すことができる。
【0170】
実施例7:植物遺伝子をターゲティングおよび操作するためのCas9を使用する植物(微細藻類)のエンジニアリング
Cas9を送達する方法
【0171】
方法1:本出願人らは、構成的プロモーター、例えば、Hsp70A-Rbc S2またはベータ2-チューブリンの制御下でCas9を発現するベクターを使用してCas9およびガイドRNAを送達する。
【0172】
方法2:本出願人らは、構成的プロモーター、例えば、Hsp70A-Rbc S2またはベータ2-チューブリンの制御下でCas9およびT7ポリメラーゼを発現するベクターを使用してCas9およびT7ポリメラーゼを送達する。ガイドRNAは、ガイドRNAをドライブするT7プロモーターを含有するベクターを使用して送達する。
【0173】
方法3:本出願人らは、Cas9mRNAおよびインビトロで転写されたガイドRNAを藻類細胞に送達する。RNAは、インビトロで転写させることができる。Cas9mRNAは、Cas9についてのコード領域およびCas9mRNAの安定化を確保するためのCop1からの3’UTRからなる。
【0174】
相同組換えのため、本出願人らは、追加の相同組換え修復テンプレートを提供する。
【0175】
ベータ-2チューブリンプロモーターの制御下でCas9の発現をドライブするカセットと、それに続くCop1の3’UTRについての配列。
【化2】

【化3】

【化4】

【0176】
ベータ-2チューブリンプロモーターの制御下でT7ポリメラーゼの発現をドライブするカセットと、それに続くCop1の3’UTRについての配列:
【化5】

【化6】

【0177】
T7プロモーターによりドライブされるガイドRNAの配列(T7プロモーター、Nは、ターゲティング配列を表す):
【化7】

【0178】
遺伝子送達:
Chlamydomonas Resource Centerからのコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)株CC-124およびCC-125を、エレクトロポレーションに使用する。エレクトロポレーションプロトコルは、GeneArt Chlamydomonas Engineeringキットからの標準的な推奨プロトコルに従う。
【0179】
また、本出願人らは、Cas9を構成的に発現するコナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)の系統を生成する。このことは、pChlamy1(PvuIを使用して線形化)を使用し、ハイグロマイシン耐性コロニーを選択することにより行うことができる。Cas9を含有するpChlamy1についての配列を以下に示す。遺伝子ノックアウトを達成するためのこの手法において、ガイドRNAのためのRNAを送達することが必要なだけである。相同組換えのため、本出願人らは、ガイドRNAおよび線形化相同組換えテンプレートを送達する。
【0180】
pChlamy1-Cas9:
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【0181】
全ての改変コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)細胞について、本出願人らは、PCR、SURVEYORヌクレアーゼアッセイ、およびDNAシーケンシングを使用して良好な改変を確認した。
【0182】
本発明の好ましい実施形態を本明細書において示し、記載したが、そのような実施形態が例として提供されるにすぎないことは当業者に明らかである。当業者は目下、多数のバリエーション、変更、および置換を本発明から逸脱せずに行う。本明細書に記載の本発明の実施形態の種々の代替例を本発明の実施において用いることができることを理解されるべきである。以下の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義し、それらの特許請求の範囲の範囲内の方法および構造ならびにそれらの均等物は、特許請求の範囲により包含されるものとする。
【0183】
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系であって、
a)1つ以上のエンジニアリングされたCRISPR-Cas系ガイドRNAをコードする1つ以上のヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、前記ガイドRNAが、真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし、前記ガイドRNAが、単一転写産物中にガイド配列、tracrメイト配列及びtracr配列を含むキメラRNAであり、前記tracr配列が、40以上のヌクレオチドの長さを含む、第1の調節エレメント;
b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;
を含む1つ以上のベクターを含み;
成分(a)及び(b)が、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置し、
それによって、真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し;並びに、前記Cas9タンパク質及び前記1つ以上のガイドRNAは、いっしょに天然に存在しない、
CRISPR-Casベクター系。
【請求項2】
前記tracr配列が、67ヌクレオチドの長さを含む、請求項1に記載の系。
【請求項3】
前記tracr配列が、75ヌクレオチドの長さを含む、請求項1に記載の系。
【請求項4】
前記tracr配列が、89ヌクレオチドの長さを含む、請求項1に記載の系。
【請求項5】
前記Cas9タンパク質が、核局在化シグナル(NLS)を含む、請求項1?4のいずれか一項に記載の系。
【請求項6】
前記Cas9タンパク質が、触媒ドメインにおいて1つ以上の突然変異を含み、その結果、前記突然変異Cas9タンパク質が、前記ポリヌクレオチドの1の鎖を開裂する能力を欠き、ニッカーゼである、請求項1?5のいずれか一項に記載の系。
【請求項7】
前記1つ以上のベクターが、1つ以上のウイルスベクターを含む、請求項1?6のいずれか一項に記載の系。
【請求項8】
前記1つ以上のウイルスベクターが、1つ以上のレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴又は単純ヘルペスウイルスベクターを含む、請求項7に記載の系。
【請求項9】
前記Cas9タンパク質が、RuvC I、RuvC II又はRuvC III触媒ドメインにおいて1つ以上の突然変異を含む、請求項1?8のいずれか一項に記載の系。
【請求項10】
前記Cas9タンパク質が、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(SpCas9)タンパク質の位置ナンバリングに対して、D10A、H840A、N854A及びN863Aからなる群から選択される突然変異を含む、請求項1?8のいずれか一項に記載の系。
【請求項11】
前記tracr配列と前記tracrメイト配列との間のハイブリダイゼーションが、二次構造を有する転写物をもたらす、請求項1に記載の系。
【請求項12】
前記二次構造が、ヘアピンを含む、請求項11に記載の系。
【請求項13】
前記真核細胞が、哺乳動物細胞である、請求項1?12のいずれか一項に記載の系。
【請求項14】
前記哺乳動物細胞が、ヒト細胞である、請求項13に記載の系。
【請求項15】
前記Cas9タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列が、真核細胞における発現のためにコドン最適化されている、請求項1?14のいずれか一項に記載の系。
【請求項16】
修復テンプレートが、前記開裂ポリヌクレオチド中に挿入される、請求項1?15のいずれか一項に記載の系。
【請求項17】
(a)及び(b)が、同じベクター上に存在する、請求項1?16のいずれか一項に記載の系。
【請求項18】
(a)及び(b)が、異なるベクター上に存在する、請求項1?16のいずれか一項に記載の系。
【請求項19】
前記Cas9タンパク質が、ヌクレアーゼである、請求項1?5、7、8、及び11?18のいずれか一項に記載の系。
【請求項20】
真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列を変更する方法であって、請求項1?19のいずれか一項に記載の系を前記真核細胞中に導入することを含み、前記ガイドRNAが、前記標的配列にハイブリダイズし、前記方法は、治療法によるヒト又は動物の身体の治療のための方法ではなく、人間の生殖系列の遺伝的同一性を改変するためのプロセスではなく、前記系をヒト体内の細胞中に導入する工程を含まない、方法。
【請求項21】
真核細胞のポリヌクレオチドの少なくとも1つの遺伝子産物の発現を変更する方法であって、請求項1?19のいずれか一項に記載の系を前記真核細胞中に導入することを含み、前記ポリヌクレオチドが、標的配列を含有し、前記ガイドRNAが、前記標的配列にハイブリダイズし、前記方法は、治療法によるヒト又は動物の身体の治療のための方法ではなく、人間の生殖系列の遺伝的同一性を改変するためのプロセスではなく、前記系をヒト体内の細胞中に導入する工程を含まない、方法。
【請求項22】
a)部位特異的遺伝子ノックアウトのための;
b)部位特異的ゲノム編集のための;
c)DNA配列特異的干渉のための;又は
d)多重化ゲノムエンジニアリングのための;
請求項1?19のいずれか一項に記載の系の使用であって、
前記使用が、人間の生殖系列の遺伝的同一性を改変するためのプロセスを含まず;及び 前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり;又は(ii)治療法によるヒト又は動物の身体の治療のための方法ではなく、前記系をヒト体内の細胞中に導入する工程を含まない、使用。
【請求項23】
前記使用が、外因性テンプレートポリヌクレオチドとの相同組換えによって前記開裂標的ポリヌクレオチドを修復することをさらに含み、前記修復が、前記標的ポリヌクレオチドの1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失又は置換を含む突然変異をもたらす、請求項22の使用。
【請求項24】
非ヒトトランスジェニック動物又はトランスジェニック植物の製造における、請求項1?19のいずれか一項に記載の系の使用であって、前記使用が、治療法による動物の身体の治療のための方法ではない、使用。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-02-04 
出願番号 特願2015-547555(P2015-547555)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C12N)
P 1 651・ 537- YAA (C12N)
P 1 651・ 113- YAA (C12N)
P 1 651・ 161- YAA (C12N)
P 1 651・ 561- YAA (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 池上 文緒  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 長井 啓子
小暮 道明
登録日 2019-06-28 
登録番号 特許第6545621号(P6545621)
権利者 ザ・ブロード・インスティテュート・インコーポレイテッド マサチューセッツ・インスティトュート・オブ・テクノロジー
発明の名称 遺伝子産物の発現を変更するためのCRISPR-Cas系および方法  
代理人 乾 裕介  
代理人 今井 優仁  
代理人 中岡 起代子  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 本阿弥 友子  
代理人 酒迎 明洋  
代理人 酒迎 明洋  
代理人 中岡 起代子  
代理人 山田 康太  
代理人 本阿弥 友子  
代理人 乾 裕介  
代理人 乾 裕介  
代理人 中岡 起代子  
代理人 矢野 恵美子  
代理人 鈴木 佑一郎  
代理人 矢野 恵美子  
代理人 今井 優仁  
代理人 堀内 一成  
代理人 本阿弥 友子  
代理人 今井 優仁  
代理人 酒迎 明洋  
代理人 山田 康太  
代理人 鈴木 佑一郎  
代理人 堀内 一成  
代理人 鈴木 佑一郎  
代理人 堀内 一成  
代理人 矢野 恵美子  
代理人 山田 康太  

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