• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
管理番号 1372747
異議申立番号 異議2020-700791  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-14 
確定日 2021-04-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6682793号発明「ポリアリーレンスルフィドおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6682793号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6682793号に係る出願(特願2015-192717号、以下「本願」ということがある。)は、平成27年9月30日に出願人東レ株式会社(以下、「特許権者」ということがある。)により特許出願されたものであり、令和2年3月30日に特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、特許掲載公報が令和2年4月15日に発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき令和2年10月14日に特許異議申立人尾田久敏(以下「申立人」という。)により、「特許第6682793号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。
(よって、本件特許異議の申立ては、特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許であるから、審理の対象外となる請求項はない。)

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし7が記載されている。
「【請求項1】
有機極性溶媒中、硫黄源とジハロゲン化芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する際に、反応系内の硫黄原子1モルに対し、下記一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物を、0.1モルを越え0.4モル以下、かつアルカリ金属水酸化物を、1.2モルを超え2.0モル以下の範囲内で反応させることを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【化1】

(式(A)中、Vはハロゲンを示し、Wはカルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基示す。)
【請求項2】
前記反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物を、反応系内の硫黄原子1モルに対し、0.2モルを越え0.35モル以下の範囲内で反応させることを特徴とする請求項1記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項3】
一般式(B)で表される構造を有し、官能基含有量が500μmol/g以上であって、融点が270℃以上であり、下記で定義される末端官能基率が85%以上であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド。
【化2】

(ここで、一般式(B)におけるWは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基であり、mは5以上の整数を表す。)
末端官能基率(%)=(官能基含有量(mol/g)/(1×2/数平均分子量(g/mol)))×100(%)
【請求項4】
塩素含有量が3500ppm以下であることを特徴とする請求項3に記載のポリアリーレンスルフィド。
【請求項5】
塩素含有量が1000ppm以下であることを特徴とする請求項4に記載のポリアリーレンスルフィド。
【請求項6】
重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度(Mw/Mn)が2.5以下であることを特徴とする請求項3?5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド。
【請求項7】
クロロホルム抽出成分が1重量%以上であることを特徴とする請求項3?6のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド。」
(以下、上記請求項1ないし7に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」ないし「本件発明7」といい、併せて「本件発明」ということがある。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第5号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件の請求項1ないし7の記載では、本件特許に係る明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明において、同各項記載の発明が記載したものではないから、本件の請求項1ないし7の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合せず、同法同条同項(柱書)に記載した要件を満たしていないものであって、本件の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項に規定される要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、いずれも取り消すべきものである。
取消理由2:本件の請求項1及び2に記載された事項で特定される各発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また、本件の請求項3ないし5に記載された事項で特定される各発明は、甲第2号証に記載された発明であって、いずれも特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由3:本件の請求項1及び2に記載された事項で特定される各発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明に基づいて、請求項3ないし7に記載された事項で特定される各発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて又は甲第2号証に記載された発明に基づき甲第3号証ないし甲第5号証に記載された発明を組み合わせることによって、いずれも当業者が容易に発明をすることができるものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開平4-292625号公報
甲第2号証:特開2003-138044号公報
甲第3号証:ネットワークポリマー、Vol.30、(2009)No.5、p.261-272
甲第4号証:Macromolecules,Vol.30,(1997)No.3,p.387-393
甲第5号証:国際公開2015/098916号
(以下、「甲1」ないし「甲5」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由についてはいずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、
と判断する。
以下、各取消理由につき検討するが、事案に鑑み、まず、取消理由1につき検討し、取消理由2及び3につき併せて検討する。

I.取消理由1について

1.本件発明の課題
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、ポリアリーレンスルフィド(以下「PAS」という。)及びその製造方法に係る本件の請求項1ないし7に係る発明の解決しようとする課題は、「PASが本来有する耐熱性を損なうことなく、ポリマー鎖末端に反応性官能基が多く導入された新規なPAS」の提供にあるものと認められる(【0009】)。

2.検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を更に検討すると、本件発明のPASを製造するにあたっては、有機極性溶媒中、硫黄源とジハロゲン化芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する際に、反応系内の硫黄原子1モルに対し、一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物を、0.1モルを越え0.4モル以下、かつアルカリ金属水酸化物を、1.2モルを超え2.0モル以下の範囲内で反応させており(【0028】?【0080】参照)、上記「一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物」につき「反応系内の硫黄原子1.00モル当たり・・モノハロゲン化化合物の使用量が0.10モルを越えると、得られるポリアリーレンスルフィドにおける反応性末端の導入が十分であり、一方で0.40モル以下であると分解反応を併発し、ポリアリーレンスルフィドの分子量が低下することはない他、原料コストが増えるなどの不利益もない」ことが記載される(【0043】)とともに、上記「アルカリ金属水酸化物」につき「反応系内の硫黄原子1.0モルに対し、1.2モルを超える範囲であると、生成PASが分解する傾向はなく、2.0モル以下であると、重合副生物量が多く生成するということはない」ことが記載されている(【0034】)。
さらに、本件特許明細書の実施例(比較例)に係る記載からみて、そのような製造方法を採用することによって、融点に代表される耐熱性の物性を低下させることなく、末端官能基率の改善が図られていることを看取することができる。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、請求項1に記載された事項を具備する製造方法によれば、耐熱性の物性を低下させることなく、末端官能基率の改善が図られているPASが提供されるという上記解決課題を解決できるであろうと認識することができるものといえる。
したがって、本件請求項1及び同項を引用する請求項2並びに請求項3及び同項を直接又は間接的に引用する請求項4ないし7の記載は、同各項に記載された事項で特定される発明につき、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。

3.申立人の主張について
申立人は本件特許異議の申立書(第12?14頁)において、
(a)請求項1に規定される「一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物」における「W」は、「カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基」であるところ、本願実施例で、「ポリマー鎖末端に反応性官能基が多く導入された」ことが確認されているのは、「モノハロゲン化化合物」の「W」が「カルボキシル基」である場合のみであって、「W」が「カルボキシル基」である場合に「ポリマー鎖末端に反応性官能基が多く導入された」ことが確認されているからといって、「W」が他の官能基である場合においても、「ポリマー鎖末端に反応性官能基が多く導入された」と解される技術的根拠は、明細書において何ら示されておらず、またそのように解しうる技術常識が存在するとはいえないから、「W」が「カルボキシル基」である場合以外のものが、「PASが本来有する耐熱性を損なうことなく、ポリマー鎖末端に反応性官能基が多く導入された新規なPASおよびその製造方法」を提供するとの課題を解決するものとなるのか否か、見当が付かず、「W」が「カルボキシル基」である場合以外を包含する請求項1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないこと
並びに、
(b)請求項3に規定されるPASの構造を表す「一般式(B)」における「W」は、「カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基」であるところ、本願実施例で「PASが本来有する耐熱性を損なうことなく」「PASを提供する」ことが確認されているのは「W」が「カルボキシル基」である場合のみであって、「W」が「カルボキシル基」である場合にPASが本来有する耐熱性を損なうことなく」「PASを提供する」ことが確認されているからといって、「W」が他の官能基である場合においても、「PASが本来有する耐熱性を損なうことなく」「PASを提供する」と解される技術的根拠は、明細書において何ら示されておらず、またそのように解しうる技術常識が存在するとはいえないから、「W」が「カルボキシル基」である場合以外のものが、「PASが本来有する耐熱性を損なうことなく、ポリマー鎖末端に反応性官能基が多く導入された新規なPASおよびその製造方法」を提供するとの課題を解決するものとなるのか否か、見当が付かず、「W」が「カルボキシル基」である場合以外を包含する請求項3の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないこと
の2点により、本件発明1及びそれを引用する本件発明2並びに本件発明3及びそれを直接又は間接的に引用する本件発明4ないし7は、いずれも本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない旨を主張している。
しかるに、上記(a)及び(b)の点につき併せて検討すると、本件特許明細書の段落【0039】?【0045】には、一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物であれば、請求項1に記載された割合で用いることによりPAS樹脂の末端に十分に導入されつつ分子量の低下がないことが記載されているのに対して、技術常識に照らしても、上記「一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物」又はPASの構造を表す「一般式(B)」における「W」につき、カルボキシル基以外の官能基である場合に「ポリマー鎖末端に反応性官能基が多く導入され」ることはないとすべき技術的要因が存するものとは認められないし、この点につき、申立人は論証を行っていない。
してみると、申立人が指摘する上記(a)及び(b)の点はいずれも採用することができない。

4.小括
以上を総合すると、本件の請求項1ないし7の記載は、同各項に係る発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができる。
よって、申立人が主張する取消理由1については理由がない。

II.取消理由2及び3について
上記取消理由2及び3はいずれも特許法第29条に係るものであるから、以下併せて検討する。

1.各甲号証に記載された事項並びに甲1及び甲2に記載された各発明
取消理由2及び3は、いずれも特許法第29条に係るものであるから、上記各甲号証に係る記載事項を確認し、甲1及び甲2に記載された各発明を認定する。

(1)甲1

ア.甲1に記載された事項
甲1には、「下記構造:

〔式中、Yは非活性化性基または不活性化性基で下記:

(式中、R’およびR”は水素または炭素原子が1ないし約15個のアルキル基で、Ar’は

である)である〕からなる末端基を有するアリーレンスルフィドポリマー。」(【請求項1】)、「(a)少なくとも1種の硫黄源、少なくとも1種の環状有機アミド、および少なくとも1種のジハロ芳香族化合物を接触させて、重合用混合物を生成させ、(b)該重合用混合物をアリーレンスルフィドポリマーを生成させるのに足る温度および時間の重合条件に付し、かつ(c)アリーレンスルフィドポリマーを回収することを含むアリーレンスルフィドポリマーを製造する方法であって、該方法を式:

〔式中、Xは臭素またはヨウ素、Yは非活性化性基または不活性化性基で、下記:

(式中、R’およびR”は水素または炭素原子が1ないし約15個のアルキル基で、Ar’は下記:

である)である〕を有する化合物の存在下で行う前記方法。」(【請求項3】)、「前記化合物対前記硫黄源のモル比が約0.002:1ないし約0.2:1である請求項3の方法。」(【請求項4】)及び「前記重合用混合物が、さらにアルカリ金属水酸化物を含む請求項3ないし請求項7のいずれか1つの項の方法。」(【請求項8】)がそれぞれ記載されている。
そして、甲1には、「本発明によって、アリーレンスルフィドポリマーの製造に用いることができる適当な硫黄源には、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、N-メチル-2-ピロリジンチオン、および硫化水素がある。さらに本発明によれば、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水酸化物の添加がないときに使用して良好な結果を収めることができるのに対し、他の適当な硫黄源はアルカリ金属水酸化物の添加がある場合に本発明の方法に用いることが好ましい。アルカリ金属水硫化物、およびN-メチル-2-ピロリジンチオンの場合には、アルカリ金属水酸化物の添加量は、一般にアルカリ金属水硫化物またはN-メチル-2-ピロリジンチオン1モル当り約0.3:1ないし約4:1、好ましくは約0.4:1ないし約2:1モルの範囲内にある。硫黄源として硫化水素を使用する場合には、アルカリ金属水酸化物の添加量は使用硫化水素1モル当り、通常約1.3:1ないし約5:1、好ましくは約1.4:1ないし約3:1モルの範囲内にある。」(【0052】)と記載されている。
さらに、甲1には、特許請求の範囲に記載された発明に係る実施例1、2及び5として、
「【0071】実施例1
本実施例は、PPS生成物に及ぼすヨードベンゼンの存在の影響を示す一連のPPSの重合を示す。第1のPPS重合実験はヨードベンゼンを添加しないで行った対照実験である。続く5種類の実験には異なる量のヨードベンゼンを添加した。
【0072】実験1では、1リットルのチタン製反応器に、約60重量パーセントのNaSHを含む水溶液として水硫化ナトリウム(NaSH)1.0g-モル、水酸化ナトリウム(NaOH)1.0g-モル、およびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)2.5g-モルを充填した。反応器の攪拌を開始し、反応器を窒素でパージした。反応器の温度が約150℃に上昇した後、反応器の温度を約205℃に上げながら脱水を行って水分を除去した。
【0073】反応器中の脱水混合物に1.01g-モルのp-ジクロロベンゼン(DCB)および1.0g-モルのNMPを添加した。反応器を235℃に加熱して、1時間保持した。次いで反応器を265℃に加熱して、265℃に2時間保持した。反応器の冷却後、反応器をあけて、内容物をワーリングブレンダー中で2-プロパノールのスラリーにした。懸濁液を濾過し、固体のポリマーを熱水(約80℃)で6回(約1リットル)洗った。洗浄したポリマーを真空オーブン中125℃で乾燥後、ポリマー1を94モルパーセントの収率で回収した。ポリマー1の押出速度は19.4g/10分であった。
【0074】DCBおよびNMPとともにヨードベンゼンを脱水混合物に加えた以外は実験1と同様な方法で重合実験2ないし6を行った。5実験において、ヨードベンゼンの量は0.004g-モルから0.100g-モルにわたった。表1にヨードベンゼンの量および本実施例の実験結果をまとめた。
【0075】

・・(中略)・・
【0077】実施例2
PPS生成物に及ぼすブロモベンゼンの影響を示すために別の系列のPPS重合実験を行った。実験7はブロモベンゼンを添加しないで行った対照実験で、実験8、9および10はブロモベンゼンを0.006ないし0.020g-モルの量で添加して行った本発明の実験である。
【0078】NaOHの量が1.01g-モルであった点を除けば実施例1に述べた方法と同様にしてすべての実験を行った。対照実験7はPPS生成物を94モルパーセントの収率で得、押出速度は23.9g/10分であった。実験8、9および10ではブロモベンゼンをDCBおよびNMPとともに脱水混合物に添加した。重合実験の結果を表2に要約する。
【0079】


及び
「【0087】実施例5
PPSの押出速度に及ぼすハロ芳香族カルボン酸塩の影響を調べるために二三のPPS重合実験を行った。重合実験は、実験18、19および20において、それぞれ1.03g-モルのNaOHならびに各々に0.020g-モルのp-クロロ安息香酸、p-ブロモ安息香酸、およびp-ヨード安息香酸を添加した以外は、実施例2に記したように行った。p-ハロ安息香酸を中和してp-ハロベンゾエートとするためにNaOHをさらに使用した。実験17はハロ安息香酸を添加しないで行った対照実験である。これらの実験結果(表5)から、p-クロロベンゾエートを用いて行ったかまたはハロベンゾエートを用いなかった実験と比べて、p-ブロモベンゾエートおよびp-ヨードベンゾエートは押出速度を著しく増加させたことがわかる。
【0088】

^( )」
が記載されている。(下線は、当審が付した。)

イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記記載(特に【請求項3】、【請求項4】及び【請求項8】の記載)からみて、
「(a)少なくとも1種の硫黄源、少なくとも1種の環状有機アミド、および少なくとも1種のジハロ芳香族化合物を接触させて、さらにアルカリ金属水酸化物を含む重合用混合物を生成させ、(b)該重合用混合物をアリーレンスルフィドポリマーを生成させるのに足る温度および時間の重合条件に付し、かつ(c)アリーレンスルフィドポリマーを回収することを含むアリーレンスルフィドポリマーを製造する方法であって、該方法を式:

〔式中、Xは臭素またはヨウ素、Yは非活性化性基または不活性化性基で、下記:

(式中、R’およびR”は水素または炭素原子が1ないし約15個のアルキル基で、Ar’は下記:

である)である〕を有する化合物の前記化合物対前記硫黄源のモル比が約0.002:1ないし約0.2:1である存在下で行う前記方法。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)及び
上記記載(特に実施例に係る記載の下線部)からみて、
「約60重量パーセントのNaSHを含む水溶液としての水硫化ナトリウム(NaSH)1.0g-モル、水酸化ナトリウム(NaOH)1.03g-モル、当該NaOHの一部で中和されてp-ハロベンゾエートとしてなるp-ハロ安息香酸0.020g-モル、1.01g-モルのp-ジクロロベンゼン(DCB)及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の合計3.5g-モルを加熱反応させてなるポリアリーレンスルフィドポリマーの製造方法。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているものといえる。

(2)甲2

ア.甲2に記載された事項
甲2には、
「(A)分子末端もしくは側鎖に特定の官能基Xを導入したPPS樹脂と、(B)同一分子内に炭素-炭素二重結合とPPS樹脂に導入された官能基Xと化学結合を形成し得る原子団を有する有機化合物の溶融混合物に、(C)炭素-炭素二重結合を有するシランカップリング剤で表面処理された無機充填剤、または、炭素-炭素二重結合を有するシランカップリング剤と無機充填剤を配合してなるPPS樹脂組成物を溶融成形し、電離放射線を照射したことを特徴とするPPS樹脂成形品。」(【請求項1】)が記載され、当該「(A)分子末端もしくは側鎖に特定の官能基Xを導入したPPS樹脂」の製造方法につき「分子末端にアミノ基を導入する方法としては、特開平4-220462号公報に記載されているように、アミノチオフェノールで重合末端を封止する方法や、PPS樹脂をビス(4-アミノフェニル)ジスルフィドのようなジスルフィド化合物と反応させる方法を例示できる。また、分子末端にカルボン酸基を導入する方法としては、特開平6-234887号公報、特開平7-48505号公報に記載されているように、PPS樹脂とチオリンゴ酸のようなカルボキシル基とメルカプト基を有する変性剤、2,2‘-ジチオジプロピオン酸のような両末端にカルボン酸基を有するジチオ化合物を二軸混合機内で溶融混練する方法等を例示」されている(【0009】)。
そして、甲2には、実施例(比較例)において、アミノ基を5モル%含むもの、カルボキシル基を2モル%含むもの、エポキシ基を10モル%含むもの及び酸無水物基を5モル%含むものである各PPS樹脂を使用することが記載されている(【表1】?【表3】)。

イ.甲2に記載された発明
甲2には、上記ア.の記載事項を総合すると、
「アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基又は酸無水物基を分子末端もしくは側鎖に2?10モル%含むPPS樹脂。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものといえる。

(3)甲3
甲3には、一定時間に重縮合反応した官能基の割合を反応度pとした場合(第261頁「2.2 分子量と反応度」の欄)、重量平均重合度Xwと数平均重合度Xnとの比で表される分子量分布Xw/Xnが、
Xw/Xn=1+p
となって、分子量分布が重合度の増大と共に大きくなり、反応度pが1で2となること(第262頁右欄?第263頁左欄、「2.5 分子量分布」の欄)が記載されている。

(4)甲4
甲4には、PPSの重合成長反応における実験的試験により求めた反応速度定数が、硫黄源と芳香族ハライドとの組合せにより異なったこと(第388頁「Table 1.」)、コンピュータモデルで使用されるPPS重合成長段階における反応速度定数が、硫黄源と芳香族ハライドとの組合せにより異なり、ゼロである場合があること(第388頁「Table 2.」)、コンピュータモデルで使用される反応中間体の分子内環化反応における反応速度定数が、反応中間体の種類により異なり、活性点間距離が中程度の適当な範囲では大きく、それ以外では小さいこと(第389頁「Table 3.」)、PPSの重合成長反応における実験的試験により求めた副反応に係る反応速度定数が、硫黄源と芳香族ハライドとの組合せにより異なったこと(第389頁「Table 4.」)、コンピュータモデルで使用されるPPS重合成長段階における副反応に係る反応速度定数が、硫黄源と芳香族ハライドとの組合せにより異なり、ゼロである場合があること(第389頁「Table 5.」)及びPPSの重合成長反応における実験的試験により求めたアレニウスの活性化エネルギーが、硫黄源と芳香族ハライドとの組合せにより異なったこと(第389頁「Table 6.」)がそれぞれ記載されている。

(5)甲5
甲5には、
「一般式(I)で表されるポリフェニレンスルフィド単位と、一般式(II)で表される芳香族ポリエステル単位を含むブロック共重合体であって、ポリフェニレンスルフィド単位の数平均分子量(Mn)が6,000以上かつ100,000以下の範囲であるポリフェニレンスルフィドブロック共重合体。

」([請求項1])

「前記一般式(I)で表されるポリフェニレンスルフィドを繰り返し構造とするポリフェニレンスルフィド(A)と、前記一般式(II)で表されるポリエステルを繰り返し構造とする芳香族ポリエステル(B)を加熱する請求項1・・記載のポリフェニレンスルフィドブロック共重合体の製造方法。」([請求項3])
で製造するにあたり、
「ポリフェニレンスルフィド(A)が下記一般式(III)で示されるポリフェニレンスルフィドであり、反応性末端構造Zがアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、シラノール基、アルコキシシラン基、もしくはそれらの誘導体から選ばれる反応性官能基末端構造である

」([請求項4])ものを使用することが記載されている。
そして、甲5には、ポリフェニレンスルフィド(A)の製造に係る参考例として、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)である分散度が1.62?2.62であるポリフェニレンスルフィド(A)が製造されたことが記載されている([0145]?[0153])。

2.本件の各発明に係る検討

(1)本件発明1について

ア.甲1発明1に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、
「有機極性溶媒中、硫黄源とジハロゲン化芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する際に、官能基を有するモノハロゲン化化合物及びアルカリ金属水酸化物を反応させることを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。」
で明らかに一致し、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点a1:「モノハロゲン化化合物」につき、本件発明1では「下記一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物・・
【化1】

(式(A)中、Vはハロゲンを示し、Wはカルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基示す。)」であるのに対して、甲1発明1では「式:

〔式中、Xは臭素またはヨウ素、Yは非活性化性基または不活性化性基で、下記:

(式中、R’およびR”は水素または炭素原子が1ないし約15個のアルキル基で、Ar’は下記:

である)である〕を有する化合物」である点
相違点a2:上記製造方法において反応させる各成分の割合につき、本件発明1では「反応系内の硫黄原子1モルに対し、下記一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物を、0.1モルを越え0.4モル以下、かつアルカリ金属水酸化物を、1.2モルを超え2.0モル以下の範囲内で反応させる」のに対して、甲1発明1では「式:(式及びその説明は省略)を有する化合物の前記化合物対前記硫黄源のモル比が約0.002:1ないし約0.2:1である存在下で行う」であり、硫黄源とアルカリ金属水酸化物との量比につき特定されていない点

(イ)検討

(イ-1)相違点a1について
上記相違点a1につき検討すると、甲1発明1における「式:・・を有する化合物」につき「Yは非活性化性基または不活性化性基である」であって、少なくとも遊離のカルボキシル基を含まない官能基であるのに対して、本件発明1における「一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物」では、あくまで遊離カルボキシル基などの「反応性官能基W」を有するものであって化学的傾向が異なるものであるから、当該官能基Wが非活性化基又は不活性化性基であるものとはいえず、その種別を異にするものであるから、上記相違点a1は実質的な相違点である。
また、甲1及び他の甲号証を検討しても、甲1発明1の方法において、上記「式:・・を有する化合物」として反応性官能基を有するものを代替使用すべき技術的要因となる事項が存するものとも認められない。
してみると、上記相違点a1は、実質的な相違点であるし、各甲号証の記載に照らしても、甲1発明1において、当業者が適宜なし得たことということもできない。

(イ-2)相違点a2について
上記相違点a2のうち、特に硫黄源とアルカリ金属水酸化物との量比につき検討すると、甲1には、硫黄源の種別に従い、硫黄源1モルあたり「約0.3:1ないし約4:1」又は「約1.3:1ないし約5:1」なる広範なモル比範囲で使用することが記載されてはいる(【0052】)が、上記甲1発明1において、硫黄源の硫黄原子1モルあたりアルカリ金属水酸化物を1.2?2.0なる限られたモル比範囲で使用することを動機付ける事項が存するものとは認められない。
また、甲1及び他の甲号証の記載に照らしても、甲1発明1において、アルカリ金属水酸化物の量を上記モル比で使用すべき技術的要因が存するものとも認められない。
してみると、上記相違点a2は、実質的な相違点であり、また、甲1発明1において、当業者が適宜なし得ることということもできない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明1と同一であるとはいえず、また、甲1発明1に基づいて各甲号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明することができたということもできない。

イ.甲1発明2に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における「N-メチル-2-ピロリドン(NMP)」、「水硫化ナトリウム(NaSH)」、「p-ジクロロベンゼン(DCB)」、「p-ハロ安息香酸」及び「水酸化ナトリウム(NaOH)」は、それぞれ、本件発明1における「有機極性溶媒」、「硫黄源」、「ジハロゲン化芳香族化合物」、「一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物」及び「アルカリ金属水酸化物」に相当する。
そして、甲1発明2において製造される「ポリアリーレンスルフィドポリマー」は、最終的な官能基の種別の点(本件発明1では、カルボキシル基などの「官能基W」であるのに対し、甲1発明2では「カルボキシレート基」である。)を除き、本件発明1において製造される「ポリアリーレンスルフィド」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明2とは、
「有機極性溶媒中、硫黄源とジハロゲン化芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する際に官能基を有するモノハロゲン化化合物及びアルカリ金属水酸化物を反応させることを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造方法。」
の点で一致し、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点a3:官能基を有するモノハロゲン化化合物」につき、本件発明1では「下記一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物・・
【化1】

(式(A)中、Vはハロゲンを示し、Wはカルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基示す。)」を使用しているのに対して、甲1発明2では「NaOHの一部で中和されてp-ハロベンゾエートとしてなるp-ハロ安息香酸」である点
相違点a4:本件発明1では「反応系内の硫黄原子1モルに対し、下記一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物を、0.1モルを越え0.4モル以下、かつアルカリ金属水酸化物を、1.2モルを超え2.0モル以下の範囲内で反応させる」のに対して、甲1発明2では「水硫化ナトリウム(NaSH)1.0g-モル」に対し、「水酸化ナトリウム(NaOH)1.03g-モル」及び「NaOHの一部で中和されてp-ハロベンゾエートとしてなるp-ハロ安息香酸0.020g-モル」を加熱反応させている点

(イ)検討

(イ-1)相違点a3について
上記相違点a3につき検討すると、甲1発明2における「NaOHの一部で中和されてp-ハロベンゾエートとしてなるp-ハロ安息香酸」における官能基Yは「カルボキレート」基なる「非活性化性基または不活性化性基である」のに対して、本件発明1における「一般式(A)で表される反応性官能基W」は、遊離カルボキシル基などのあくまで反応性を有する官能基であって化学的傾向が異なるものであるから、当該官能基Wが非活性化基又は不活性化性基であるものとはいえず、その種別を異にするものであるから、上記相違点a3は実質的な相違点である。
また、甲1及び他の甲号証を検討しても、甲1発明2の方法において、上記「NaOHの一部で中和されてp-ハロベンゾエートとしてなるp-ハロ安息香酸」に代えて反応性官能基Wを有するものを代替使用すべき技術的要因となる事項が存するものとも認められない。
してみると、上記相違点a3は、実質的な相違点であるし、各甲号証の記載に照らしても、甲1発明2において、当業者が適宜なし得たことということもできない。

(イ-2)相違点a4について
上記相違点a4につき検討すると、甲1発明2における「水硫化ナトリウム(NaSH)1.0g-モル」に対する「p-ハロ安息香酸0.020g-モル」及び「水酸化ナトリウム(NaOH)1.03g-モル」なるモル比は、それぞれ、本件発明1における「反応系内の硫黄原子1モルに対」する「一般式(A)で表される反応性官能基Wを有するモノハロゲン化化合物を、0.1モルを越え0.4モル以下」なる範囲及び「アルカリ金属水酸化物を、1.2モルを超え2.0モル以下の範囲」に含まれないことが明らかであるから、上記相違点a4は実質的な相違点である。
そして、甲1には、モノハロゲン化化合物の使用量につき「硫黄源を基準にしたモル比」で「化合物対硫黄源のモル比は約0.002:1ないし約0.2:1である」こと(【0046】)及びアルカリ金属水酸化物につき、硫黄源が水硫化ナトリウムなどのアルカリ金属水硫化物である場合、硫黄源1モルあたり「約0.3:1ないし約4:1」なる広範なモル比範囲で使用すること(【0052】)がそれぞれ記載されてはいるところ、甲1発明2の各成分の使用量につき、本件発明1における上記各範囲に増量すべきことを動機付ける事項が記載されていない。
また、他の甲号証の記載内容を検討しても、甲1発明2の上記各成分の使用量を本件発明1の各範囲に増量すべきことを動機付ける事項が記載されていない。
してみると、上記相違点a4は、甲1及び他の甲号証の記載に照らしたとしても、甲1発明2において、当業者が適宜なし得たことということはできない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明2と同一であるとはいえず、また、甲1発明2に基づいて各甲号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明することができたということもできない。

ウ.甲1に記載された発明に基づく検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明1又は甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基づいて、たとえ各甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明することができたということはできない。

(2)本件発明2について
本件発明1を引用する本件発明2につき甲1に記載された発明に基づき検討しても、上記(1)で説示したとおりの理由により、本件発明1は、甲1に記載された発明であるということができず、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできないのであるから、本件発明2についても、甲1に記載された発明であるということができず、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない

(3)本件発明3について

ア.対比
本件発明3と甲2発明とを対比すると、
「ポリアリーレンスルフィド。」
の点で明らかに一致し、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点b1:「ポリアリーレンスルフィド」につき、本件発明3では「一般式(B)で表される構造を有し、官能基含有量が500μmol/g以上であって、・・下記で定義される末端官能基率が85%以上である・・
【化2】

(ここで、一般式(B)におけるWは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、アセトアミド基、スルホン酸基、スルホンアミド基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルデヒド基、アセチル基、またはそれらの誘導体から選ばれる官能基であり、mは5以上の整数を表す。)
末端官能基率(%)=(官能基含有量(mol/g)/(1×2/数平均分子量(g/mol)))×100(%)」のに対して、甲2発明では「アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基又は酸無水物基を分子末端もしくは側鎖に2?10モル%含む」点
相違点b2:「ポリアリーレンスルフィド」につき、本件発明3では「融点が270℃以上であ」るのに対して、甲2発明では融点につき特定されていない点

イ.検討

(ア)相違点b1について
上記相違点b1につき検討すると、甲2には、甲2発明に係るPPS樹脂の分子量に係る事項が記載されていないから、甲2発明に係る「分子末端もしくは側鎖に2?10モル%含む」との「アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基又は酸無水物基」なる官能基量について、本件発明3における「官能基含有量」又は「末端基含有率」に有意に換算することができるものとは認められない。
してみると、相違点b1は実質的な相違点である。
さらに、上記各甲号証の記載を検討しても、甲2発明において、「官能基含有量」及び「末端基含有率」を本件発明3で規定されるものとすべき技術的要因となる事項が存するものとも認められない。
したがって、相違点b1は、甲2発明において、当業者が適宜なし得ることということもできない。

(イ)相違点b2について
上記相違点b2につき検討すると、本件明細書の実施例(比較例)に係る記載(【表1】)からみて、実施例1ないし3及び比較例1ないし3の場合には、融点が278ないし280℃のポリマーであるものの、比較例4及び5の場合は253℃又は259℃であって、PASポリマーであっても融点が280℃程度であるとは必ずしもいえないのであるから、甲2発明のPASポリマーが280℃程度の融点を有するものとはいえない。
してみると、上記相違点b2は実質的な相違点である。
そして、上記各甲号証の記載を検討しても、甲2発明のポリマーが、270℃以上の融点を有するべきであることを動機付ける事項が記載されているものとも認められない。
したがって、相違点b2は、甲2発明において、当業者が適宜なし得ることということもできない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、本件異議申立書(第30頁?第31頁)において、(a)官能基の導入率につき、PAS融点につきカルボキシル基である官能基Xを両末端にモル分率20モル%で有するPPS樹脂についてのモデル化学構造を前提として提示し、それに基づき「官能基含有量」及び「末端基含有率」を算出して、甲2発明が本件発明3に係る態様のものを含む旨主張し、また(b)PPS樹脂の融点につき、技術常識から280℃であるとして、甲2発明の融点280℃のポリマーが甲2に記載されているに等しい事項である旨主張している。
しかしながら、上記(a)の点につき検討すると、そもそも「カルボキシル基である官能基Xを両末端にモル分率20モル%で有するPPS樹脂」は、当審が甲2の記載に基づき認定した上記甲2発明にも該当しない程度の極めて極端なモル分率を有する場合であって、当該極端なモル分率を有する場合に「官能基含有量」及び「末端基含有率」につき本件発明3で規定された範囲に入るものとなるからといって、甲2発明であれば「官能基含有量」及び「末端基含有率」につき本件発明3で規定された範囲になることが確証付けられるものではない。
してみると、申立人の上記(a)の主張は、根拠を欠くものであって、採用することができない。
また、上記(b)の点につき検討すると、上記(イ)で説示したとおり、PASポリマー(PPS樹脂)であるからといって、融点280℃であるとすべき根拠はないのであるから、申立人の上記(b)の主張についても、根拠を欠くものであって、採用することができない。

ウ.小括
よって、本件発明は、甲2発明、すなわち甲2に記載された発明であるということはできないものであるとともに、甲2に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(4)本件発明4ないし7について
本件発明3を直接又は間接的に引用する本件発明4ないし7につき甲2に記載された発明に基づき検討しても、上記(3)で説示したとおりの理由により、本件発明3は、甲2に記載された発明であるということができず、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできないのであるから、本件発明4ないし7についても、甲2に記載された発明であるということができず、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない

(5)検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1及び2は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、本件発明3ないし7は、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3.取消理由2及び3に係るまとめ
よって、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものではなく、上記取消理由2及び3は、いずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-25 
出願番号 特願2015-192717(P2015-192717)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08G)
P 1 651・ 537- Y (C08G)
P 1 651・ 113- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐久 敬  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 安田 周史
橋本 栄和
登録日 2020-03-30 
登録番号 特許第6682793号(P6682793)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 ポリアリーレンスルフィドおよびその製造方法  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ