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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1372753
異議申立番号 異議2020-700539  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-30 
確定日 2021-04-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6673396号発明「電池用包装材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6673396号の請求項1ないし19に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6673396号の請求項1?19に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2015年(平成27年)2月18日(優先権主張 平成26年2月18日)を国際出願日とする特願2016-504122号の一部を平成30年5月9日に新たな特許出願(特願2018-90553号。以下「本願」という。)としたものであって、令和2年3月9日に特許権の設定登録がなされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、令和2年7月30日に特許異議申立人 濱野安土(以下、「申立人」という。)により全請求項について特許異議の申立て(甲第1?6号証添付)がなされ、同年12月21日付けで取消理由が通知され、令和3年2月22日に特許権者より意見書(乙第1?3号証添付)が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?19に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明19」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定される以下のものである。
ただし、請求項17については、請求項1を引用する場合を独立形式で記載したものを当審で併記した。

【請求項1】
少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、
前記基材層は、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、
前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である、電池用包装材料。
【請求項2】
前記Aと、前記Bが、A<Bの関係を充足する、請求項1に記載の電池用包装材料。
【請求項3】
前記Aが、A≧1.8であり、かつ、前記Bが、B≧2.3である、請求項1または2に記載の電池用包装材料。
【請求項4】
前記金属層の少なくとも一方の面に耐酸性皮膜を備える、請求項1?3のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項5】
前記耐酸性皮膜には、前記金属層の表面1m2当たり、クロムが0.5mg以上50mg以下含まれる、請求項4に記載の電池用包装材料。
【請求項6】
前記基材層のMDの方向における引張破断伸度が、80%以上150%以下である、請求項1?5のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項7】
前記基材層のTDの方向における引張破断伸度が、70%以上150%以下である、請求項1?6のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項8】
前記基材層のMDの方向における引張破断強度が、190MPa以上350MPa以下である、請求項1?7のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項9】
前記基材層のTDの方向における引張破断強度が、220MPa以上400MPa以下である、請求項1?8のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項10】
前記基材層のMDの方向における5%伸長時の応力が、50MPa以上110MPa以下である、請求項1?9のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項11】
前記基材層のTDの方向における5%伸長時の応力が、40MPa以上?100MPa以下である、請求項1?10のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項12】
前記基材層のMDの方向における50%伸長時の応力が、100MPa以上210MPa以下である、請求項1?11のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項13】
前記基材層のTDの方向における50%伸長時の応力が、130MPa以上270MPa以下である、請求項1?12のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項14】
前記基材層が、ポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂の少なくとも一方により構成されている、請求項1?13のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項15】
前記金属層が、アルミニウム箔により構成されている、請求項1?14のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項16】
二次電池用の包装材料である、請求項1?15のいずれかに記載の電池用包装材料。
【請求項17】
少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、請求項1?16のいずれかに記載の電池用包装材料を用いて収容されている、電池。
【請求項17】(請求項1を引用する場合の独立形式請求項を当審で併記する。)
少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、
前記基材層は、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、
前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である、電池用包装材料を用いて収容されている、電池。
【請求項18】
少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、
前記基材層が、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)がA+B≧3.5の関係を充足し、
前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である積層体の、電池用包装材料としての使用。
【請求項19】
電池の製造方法であって、
少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子を電池用包装材料で収容する工程を含み、
前記電池用包装材料として、
少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、
前記基材層が、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を 、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)がA+B≧3.5の関係を充足し、
前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0であるものを用いる、電池の製造方法。

第3 特許異議申立てについて
申立人は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載された大略以下の理由により、本件特許を取り消すべきである旨を主張した。

<申立理由1>(申立書12?14頁「(4)3)(I)」、申立書15頁「(4)3)(III)」)
本件発明1?3、6?13は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?6号証等に記載された周知の技術に基いて、当該技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<申立理由2>(申立書14頁?15頁「(4)3)(II)」、申立書15頁「(4)3)(III)」)
本件発明4、5、14?19は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許はこの規定に違反してされたものなので、同法第113条第2号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<申立理由3>(申立書16頁?17頁「(4)4)(I)」)
本願の願書に添付された明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に本件発明が記載されたものとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<申立理由4>(申立書17頁「(4)4)(II)」)
本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証 : 特開2013-22773号公報
甲第2号証 : 特開2011-138793号公報
甲第3号証 : 特開2012-14998号公報
甲第4号証 : 特開2012-216509号公報
甲第5号証 : 特開2005-116322号公報
甲第6号証 : 特開2004-296174号公報
以下、「甲第1号証」?「甲第6号証」を、それぞれ「甲1」?「甲6」と記載することがある。

第4 取消理由について
当審は、上記申立理由1、2、4は採用せず、上記申立理由3について採用して取消理由とし、以下の「1.取消理由の概要 ア?オ」に記載の内容で通知した。

1.取消理由の概要
ア 請求項1に係る発明は、「少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体」の「基材層」として、「MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0」であることを特定事項(以下、「特定事項X」という。)としている。

イ 「基材層」について、本件特許明細書には、【0022】にその材質について記載され、【0021】に上記の請求項1に記載の「A」「B」を計算するための「MD方向の50%及び5%伸長時の応力」「TD方向の50%及び5%伸長時の応力」について記載され、【0023】に「MD方向の引張破断強度」「TD方向の引張破断強度」が記載され、【0024】に「MD方向の引張破断伸度」「TD方向の引張破断伸度」が記載されている。

ウ しかしながら、それらに記載されたことから、どのようにすれば、請求項1に記載の「積層体」に特定事項Xのような物性を有せしめることができるのかについて、本件特許明細書中に説明を見いだせず、また、特定事項Xを有することが技術常識であるとも認められないので、その結果として、請求項1?19に係る発明を当業者が実施することができない。

エ この点を例えば実験例で見れば、【表1】(【0071】)において、「実施例1」と「比較例1」とは「基材層」の樹脂フィルムが共に「2軸延伸ナイロンフィルム15μm」で同じであり、「実施例2」と「実施例4」とは「基材層」の樹脂フィルムが共に「2軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム12μm」で同じであるが、各々で物性(「引張破断強度[MPa]」等)が異なっており、商品名が記載されておらず市販品であるかも不明なので、同一樹脂フィルムであるにもかかわらず物性が異なる理由が不明であり、特定事項Xを調整する手法が不明である。

オ 以上から、本件特許明細書中には、請求項1に記載の「積層体」に特定事項Xのような物性を有せしめる手法について理解できるような記載を見いだせず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に本件発明が記載されたものとはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。

2.特許権者の主張
上記1.の内容の取消理由通知に対して、特許権者は以下の乙第1?3号証を添付した令和3年2月22日付け意見書で概ね次のように主張している。

ア 基材層に用いられる樹脂フィルムの応力値(すなわち機械的強度)は、樹脂フィルムの配向や分子量などによって調整できることは、当業者にとって技術常識である。

イ 例えば、乙第1号証(P-295頁右欄下から10?5行)には「配向と諸特性との関係については、古くから多くの研究が行われてきている。具体例として、表5に各種フィルムの未延伸フィルムと二軸延伸フィルムの特性を並べて示す。延伸効果をまとめると、次のようである。(A)引張り強度、弾性率、衝撃強さは配向によって大きくなる。」と記載されており、上記表5は次のものである。



ウ 上記Table5(表5)で、例えば「ポリエチレンテレフタレート(PET)」「ナイロン6」に着目し、その「引張強さ」、「引張弾性率」をみると、「BO(2軸延伸)」の値は、「NO(未延伸)」の値より大きくなるという変化がみてとれる。

(当審注1)表5からは、他の樹脂であっても、PETやナイロンと同様の傾向のあることが読み取れる。
(当審注2)本件特許明細書【表1】では「ポリエチレンテレフタレート(PET)」「ナイロン6」に加えて「ポリブチレンテレフタレート(PBT)」の実施例があり、乙1の上記表5にPBTはないが、両者は、PETの「?(CH_(2))_(2)-」が、PBTでは「?(CH_(2))_(4)-」になっている点でのみ異なるものであり、PBTが二軸延伸されたときの「引張強さ」「引張弾性率」の傾向は、PETと大きく異なることはないと推測される。

エ ウの変化は、本件特許明細書【図3】において、「二軸延伸(BO)」することで配向を変化させることで、「B」状態から「A」状態へと「SSカーブ」(応力と歪みの関係)を変えることができることを意味するから、特定事項Xのような物性は、例えば、樹脂を「二軸延伸(BO)」することで得ることができ、その調整が可能であるといえる。

オ また、例えば、乙第2号証(T-215頁左欄4?5行)には、「延伸条件の相違によって延伸フィルムの性質が変わる・・・」ことが記載され、上記エの調整は、例えば「延伸条件」を変えることで可能であるものといえる。
(当審注3:「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。)

カ さらに、例えば、乙第3号証(1309頁15?18行)には、「同じ原料プラスチックから作られたフィルムでもいろいろな強さや性質がある理由の一端がこのことからも理解できる。強いフィルムを得るためには、結晶化度を大きくし、配向させ、分子量を大きくし、分子間力の大きな原料プラスチックを使用するなどが考えられる。」と記載されていることから、「配向させ」ること(延伸させること)のみでなく、他の条件を調整しても、より機械的に強いものに調整できることが理解される。

キ すなわち、特定事項Xのような物性を有せしめる手法について本件特許明細書に直接の記載がなくても、「電池用包装材料」の「基材層」の物性を「特定事項X」のように設定することは、例えば乙第1?3号証に記載されるように、当業者にとって技術常識といえる手段により可能であるといえる。

<証拠方法>
乙第1号証 : 特集 高分子フィルムの成膜技術、南 智幸、SEN-I GAKKAISHI(繊維と工業)、 Vol.41、No.9(1985)、P-290?P-301頁
乙第2号証 : ナイロン6湿熱法二軸延伸フィルムの機械的性質と分子配向挙動、松本喜代一外2名、SEN-I GAKKAISHI(繊維と工業)、 Vol.31、No.6(1975)、T-213?T-220頁
乙第3号証 : 包装技術便覧、社団法人日本包装技術協会、1995年7月1日第1版第1刷発行、1306?1309頁

3.取消理由についての判断
上記特許権者の主張は、当審において首肯され得るものである。
すなわち、実際に、本件特許明細書の【表1】(【0071】)に記載の実施例1?4、比較例1?2の「基材層1」が製造されているし、「電池用包装材料」の「基材層」の物性を「特定事項X」のように設定する具体的な手法は本件特許明細書に明示こそないが、上記「2.」で説明されるように、延伸条件や分子量の変化等の、当業者にとって技術常識といえる手段により、本件特許明細書【図3】に記載される所望のSSカーブを有する「基材層」を設定でき、「特定事項X」の「A+B」を設定できるといえるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に本件発明が記載されたものいえる。
したがって、上記1.の取消理由(申立理由3)は解消された。

第5 取消理由として通知されなかった申立理由について
取消理由として通知しなかった申立理由は、上記「第3」の「申立理由1」「申立理由2」「申立理由4」であり、以下検討する。

1.申立理由4について(サポート要件)
(1)申立理由4の概要
本件発明1の技術的特徴となる「基材層」については、本件特許明細書に、「【0022】基材層1を形成する素材については、絶縁性を備えており、かつ、上記の関係を充足するものであることを限度として特に制限されるものではない。基材層1を形成する素材としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、珪素樹脂、フェノール樹脂、及びこれらの混合物や共重合物等の樹脂フィルムが挙げられる。これらの中でも、好ましくはポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられ、より好ましくは2軸延伸ポリエステル樹脂、2軸延伸ポリアミド樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。また、ポリアミド樹脂としては、具体的には、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。」と説明されている。(下線は当審で付与した。)
しかし、実施例では、「基材層」として「2軸延伸ポリアミドフィルム(2軸延伸ナイロンフィルム)」「2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」「2軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム」しか示されておらず、その他の樹脂について記載がなく、その他の樹脂であっても効果があるのか確認できていない。
したがって、本件発明1及び直接又は間接的に本件発明1を引用する本件発明2?17、本件発明1と同じ技術的特徴となる「基材層」を特定事項として有する本件発明18,19は、当業者が本件出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

(2)当審の判断
本件発明の独立項である請求項1、18、19及び本件特許明細書【0020】【0021】には「基材層は、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である」こと(「特定事項X」である。上記「第4 1.ア」参照。)が記載され、特定事項Xを備えることにより、「【0018】・・・例えば図3の電池用包装材料の成形時における応力とひずみとの関係を示す模式図の線Aで表されるように、応力-ひずみ曲線の降伏点付近における応力変化が緩やかになるため、接着層2を介して基材層1と積層されている金属層3の変形(伸び)を緩やか変化させることができる。このため、電池用包装材料の成形時において、金属層3を金型の形状に適度に追従させることができ、ピンホールやクラック等の発生が抑制され・・・」るものであるといえる。
そして、「【0022】基材層1を形成する素材については、絶縁性を備えており、かつ、上記の関係を充足するものであることを限度として特に制限されるものではない。」と明記され、【表1】(【0071】)から特定事項Xが満たされていれば「ピンホール及びクラックの発生率[%]」は微少であることが明らかである。
すなわち、「基材層1」は絶縁性と上記特定事項Xの関係が満たされれば、本件発明の課題が解決されることから、【0022】に記載される樹脂は本件発明で使用される樹脂の例示にすぎず、実施例で記載された上記3種類の樹脂についても例示に過ぎないから、それら以外の樹脂について効果確認ができていないことをもって、ただちに本件発明がサポートされないとはいえない。
また、【0022】に記載される実施例の上記3種類以外の樹脂で、絶縁性を有し且つ上記特定事項Xの関係を満たす樹脂を用いると、「電池用包装材料」の「ピンホール及びクラック発生率」が高いことが立証されているわけでもない。
以上から、本件発明1及び直接又は間接的に本件発明1を引用する本件発明2?17、本件発明1と同じ技術的特徴となる「基材層」を特定事項として有する本件発明18,19は、当業者が本件出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものではなく、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえる。
したがって、本件発明1?19は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載されたものといえるものであり、同法第36条第6項第1号の規定に適合するので、同発明に係る特許は取り消されるべきものでない。

2.申立理由1,2について(進歩性要件)
異議申立書には、概略、上記第3の「<申立理由1>」、「<申立理由2>」のように記載されており、これらは、a)甲第1号証に記載された発明を主引例として甲第2号証に記載された発明を適用する、又は、b)甲第2号証に記載された発明を主引例として甲第1号証に記載された発明を適用する、c)必要に応じて上記a)、b)において共に甲第3?6号証に記載の周知技術を勘案する、という申立理由であると解されるので、次の(1)のようにして検討する。
なお、容易想到性の判断は、上記a)、b)共に本件の全ての請求項に係る発明について行うものとする。

(1)検討手法について
事案に鑑み、以下の手法(ア?エ)で申立理由1,2について網羅的に検討する。

ア 本件発明1?19は、各発明の末尾によって、A「電池用包装材料」(本件発明1?16)、B「電池」(本件発明17)、C「電池用包装材料としての使用」(本件発明18)、D「電池の製造方法」(本件発明19)に区分することができる。A?Dは便宜上当審で付与した。

イ 甲第1号証の記載から、本件発明1の記載に則して引用発明1Aを、本件発明17の記載に則して引用発明1Bを、本件発明18の記載に則して引用発明1Cを、本件発明19の記載に則して引用発明1Dを認定し、
甲第2号証の記載から、本件発明1の記載に則して引用発明2Aを、本件発明17の記載に則して引用発明2Bを、本件発明18の記載に則して引用発明2Cを、本件発明19の記載に則して引用発明2Dを認定し、甲第3?6号証に記載の技術手段をそれぞれ認定する。

ウ 本件発明1と引用発明1Aとを対比し、甲第2号証に記載の技術手段について検討し、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?16について検討し、
本件発明17と引用発明1Bとを対比し、甲第2号証に記載の技術手段について検討し、
本件発明18と引用発明1Cとを対比し、甲第2号証に記載の技術手段について検討し、
本件発明19と引用発明1Dとを対比し、甲第2号証に記載の技術手段について検討する。
また、上記検討において、甲第3?6号証に記載の技術手段についても検討する。

エ 本件発明1と引用発明2Aとを対比し、甲第1号証に記載の技術手段について検討し、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?16について検討し、
本件発明17と引用発明2Bとを対比し、甲第1号証に記載の技術手段について検討し、
本件発明18と引用発明2Cとを対比し、甲第1号証に記載の技術手段について検討し、
本件発明19と引用発明2Dとを対比し、甲第1号証に記載の技術手段について検討する。
また、上記検討において、甲第3?6号証に記載の技術手段についても検討する。

(2)甲第1、2号証に記載の発明の認定
下線部は強調のため当審で付記したものである。
(2-1)甲第1号証(特開2013-22773号公報)について
<1>甲第1号証の記載
甲第1号証には以下の記載がある。
1ア 「【0002】
二軸延伸ナイロンフィルムは、強度や耐衝撃性、耐ピンホール性等に優れるため、重量物包装や水物包装など大きな強度負荷が掛かる用途に多く用いられている。
ここで、従来、深絞り成形や張り出し成形等の成形用の包材に、ナイロンを使用する技術が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。」
「【0004】
【特許文献1】特開2004-74795号公報
【特許文献2】特開2004-98600号公報」

1イ 「【0006】
そこで、本発明の目的は、シール基材とのラミネート後に優れた冷間成形性を付与できる冷間成形用二軸延伸ナイロンフィルム、およびそれを用いたラミネートフィルム、およびそのラミネートフィルムを冷間成形してなる成形体を提供することにある。」

1ウ 「【0011】
・・・本実施形態に係る二軸延伸ナイロンフィルム(以下、「ONyフィルム」ともいう。)は、ナイロン6(以下、「Ny6」ともいう)を原料とする未延伸原反フィルムを二軸延伸し、所定の温度で熱処理(熱固定)して形成したものである。このように未延伸原反フィルムを二軸延伸することで、耐ピンホール性、耐衝撃性に優れたONyフィルムが得られる。」

1エ 「【0012】
本実施形態において、ONyフィルムの4方向(MD方向、TD方向、45°方向、135°方向)における引張破断までの伸び率、応力比(σ_(max)/σ_(min))、および引張破断強度σ_(b)は、当該ONyフィルムについて引張試験(試料幅15mm、標点間距離50mm、引張速度100mm/min)を実施し、これにより得られた応力-ひずみ曲線に基づいて求める。・・・
図1、2において、縦軸はONyフィルムの引張応力σ(MPa)を示し、横軸はONyフィルムのひずみε(ε=Δl/l、l:フィルムの初期長さ、Δl:フィルムの増加長)を示す。ONyフィルムの引張試験を実施すると、ひずみεの増加に伴い、引張応力σが略一次関数的に増加し、所定のひずみにおいて引張応力σの増加傾向が大きく変化する。本発明ではこの点を降伏点と呼ぶ。そして、ひずみεが更に増加すると、これに伴い引張応力σも増加し、所定のひずみεに至ると、フィルムが破断する。図1、2は、このような応力-ひずみ曲線を、4方向(MD方向、TD方向、45°方向、135°方向)の各々について示したものである。」

1オ 「【0020】
〔ラミネートフィルムの構成〕
本実施形態のラミネートフィルムは、上記したONyフィルムの少なくともいずれか一方の面に、1層あるいは2層以上の他のラミネート基材を積層して構成される。具体的に、他のラミネート基材としては、例えばアルミニウム層やアルミニウム層を含むフィルム等が挙げられる。
一般に、アルミニウム層を含むラミネートフィルムは、冷間成形の際にアルミニウム層においてネッキングによる破断が生じ易いため冷間成形に適していない。この点、本実施形態のラミネートフィルムによれば、上記したONyフィルムが優れた成形性、耐衝撃性および耐ピンホール性を有するため、冷間での張出し成形や深絞り成形等の際に、アルミニウム層の破断を抑制でき、包材におけるピンホールの発生を抑制できる。したがって、ラミネートフィルムの総厚みが薄い場合でも、シャープな形状かつ高強度の成形体が得られる。」

1カ 「【0023】
本実施形態のラミネートフィルムに使用するアルミニウム層としては、純アルミニウムまたはアルミニウム-鉄系合金の軟質材からなるアルミ箔を使用することができる。この場合、アルミニウム箔には、ラミネート性能を向上する観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等によるアンダーコート処理、あるいはコロナ放電処理等の前処理を施してから、ONyフィルムに積層することが好ましい。」

1キ 「【0025】
・・・
さらに、上記実施形態では、ONyフィルムにアルミニウム層等を積層したラミネート包材を例示したが、これに限定されず、本発明のラミネート包材としては、さらにシーラント層や帯電防止層、印刷層、バリア層、強度補強層などの種々の機能層を積層したものも挙げられる。」

1ク 「【0035】
〔評価方法〕
(引張試験)
ONyフィルムの引張試験は、インストロン社製5564型を使用し、試料幅15mm、標点間距離50mm、100mm/minの引張速度で実施した。
ONyフィルムのMD方向/TD方向/45°方向/135°方向のそれぞれについて破断するまで測定を行った。各方向について得られた応力-ひずみ曲線に基づいて、各方向の破断伸び率、各方向の破断強度σ_(b)、各方向のひずみ0.5における引張応力値σ_(0.5)、および、4方向のσ_(0.5)の最大値(σ_(max))と最小値(σ_(min))との比率σ_(max)/σ_(min)を求めた。なお図1、2は、各々実施例1、2のONyフィルムを用いたときの応力-ひずみ曲線である。」

1ケ 【表1】(【0037】)


1コ 【図1】

<2>甲第1号証に記載された発明の認定
-a-引用発明1Aの認定
i)甲1の記載事項1オから、甲1には、「ONyフィルムの少なくともいずれか一方の面に、1層あるいは2層以上の他のラミネート基材を積層して構成される」ものが記載され、「他のラミネート基材」として「アルミニウム層」が挙げられている。
ii)また、同1キから「ONyフィルムにアルミニウム層等を積層したラミネート包材を例示したが、これに限定されず、本発明のラミネート包材としては、さらにシーラント層・・・を積層したものも挙げられる。」ことから、甲1には、「ONyフィルム」、「アルミニウム層」、「シーラント層」が積層された「ラミネート包材」が記載されているといえる。
iii)同1カには、「アルミニウム箔には、ラミネート性能を向上する観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等によるアンダーコート処理」が施されることが記載されるから、甲1には、「ONyフィルム」、「シランカップリング剤によるアンダーコート処理」層、「アルミニウム層」、「シーラント層」が積層された「ラミネート包材」が記載されているといえる。
ここで、同1ウから、「ONyフィルム」は「二軸延伸ナイロンフィルム」である。
iv)同1エ、クから、図1(同1コ)には、実施例1において、ONyフィルムの4方向(MD方向、TD方向、45°方向、135°方向)における引張試験を実施した結果が示されており、図1において、縦軸はONyフィルムの引張応力σ(MPa)を示し、横軸はONyフィルムのひずみε(ε=Δl/l、l:フィルムの初期長さ、Δl:フィルムの増加長)を示す。
v)同1ケの【表1】と同1コの【図1】から、「50%伸長時」は「ε=Δl/l=0.5」、
「5%伸長時」は「ε=Δl/l=0.05」であり、【表1】、【図1】において、実施例1の「ε=0.5」、「ε=0.05」の引張応力値に注目すると、
「MD方向における50%伸長時の応力値」は「135MPa」
「MD方向における 5%伸長時の応力値」は「 70MPa」
「TD方向における50%伸長時の応力値」は「195MPa」
「TD方向における 5%伸長時の応力値」は「 40MPa」であることがみてとれる。
すると、
「MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値A」は、A=135/70=1.93≧1.5であり、
「TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値B」は、B=195/40=4.88≧2.0
したがって、A+B=1.93+4.88=6.81≧3.5である。
vi)以上から、本件発明1の記載に則して整理すれば、甲1には次の発明(以下、「引用発明1A」という。)が記載されていると認められる。

=引用発明1A=
「二軸延伸ナイロンフィルム、シランカップリング剤によるアンダーコート処理層、アルミニウム層、シーラント層の積層されたものからなり、
二軸延伸ナイロンフィルムは、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B(=6.81)≧3.5の関係を充足し、
前記Aが、A(=1.93)≧1.5であり、かつ、前記Bが、B(=4.88)≧2.0である、ラミネート包材。」

-b-引用発明1Bの認定
i)甲1の記載事項1イには「ラミネートフィルムを冷間成形してなる成形体」が記載され、「ラミネートフィルム」は「ラミネート包材」であり、同1アによれば、何らかの被収容物を収容した物品となすのに使用されていることも明らかである。
ii)以上から、本件発明17の記載に則して整理すれば、甲1には次の発明(以下、「引用発明1B」という。)が記載されていると認められる。

=引用発明1B=
「被収容物が、
二軸延伸ナイロンフィルム、シランカップリング剤によるアンダーコート処理層、アルミニウム層、シーラント層の積層されたものからなり、
二軸延伸ナイロンフィルムは、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B(=6.81)≧3.5の関係を充足し、
前記Aが、A(=1.93)≧1.5であり、かつ、前記Bが、B(=4.88)≧2.0である、ラミネート包材を用いて収容されている、物品。」

-c-引用発明1Cの認定
i)甲1の記載事項1ア、1イ、1キによれば、「ラミネート包材」は「ラミネートフィルム」の包装材としての使用を意味し、何らかの被収容物を収容するのに使用されているものといえる。
ii)以上から、本件発明18の記載に則して整理すれば、甲1には次の発明(以下、「引用発明1C」という。)が記載されていると認められる。

=引用発明1C=
「二軸延伸ナイロンフィルム、シランカップリング剤によるアンダーコート処理層、アルミニウム層、シーラント層の積層されたものからなり、
二軸延伸ナイロンフィルムは、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B(=6.81)≧3.5の関係を充足し、
前記Aが、A(=1.93)≧1.5であり、かつ、前記Bが、B(=4.88)≧2.0である、ラミネートフィルムの、ラミネート包材としての使用。」

-d-引用発明1Dの認定
i)甲1の記載事項1ア、1イ、1キによれば、「ラミネート包材」を用いて何らかの被収容物を収容した物品とするための当該物品の製造方法も甲1には記載されているといえる。
ii)以上から、本件発明19の記載に則して整理すれば、甲1には次の発明(以下、「引用発明1D」という。)が記載されていると認められる。

=引用発明1D=
「物品の製造方法であって、
被収容物をラミネート包材で収容する工程を含み、
前記ラミネート包材として、
二軸延伸ナイロンフィルム、シランカップリング剤によるアンダーコート処理層、アルミニウム層、シーラント層の積層されたものからなり、
二軸延伸ナイロンフィルムは、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B(=6.81)≧3.5の関係を充足し、
前記Aが、A(=1.93)≧1.5であり、かつ、前記Bが、B(=4.88)≧2.0であるものを用いる、物品の製造方法。」

(2-2)甲第2号証(特開2011-138793号公報)について
<1>甲第2号証の記載
甲第2号証には以下の記載がある。
2ア 「【0002】
・・・積層体からなるパウチ内にポリマー電池本体を収納するポリマー電池の開発がなされている。ポリマー電池は、リチウム2次電池ともいわれ、高分子ポリマー電解質を持ち、リチウムイオンの移動で電流を発生する電池といわれ、正極・負極活物質が高分子ポリマーからなるものを含むものである。リチウム電池の構成は、正極集電材(アルミ、ニッケル)/正極活性物質層(金属酸化物、カーボンブラック、金属硫化物、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子正極材料からなる)/電解質層/(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、炭酸ジメチル、エチレンメチルカーボネート等のカーボネート系電解液、リチウム塩からなる無機固体電解質、ゲル電解質等からなる/負極活性物質層(リチウム金属、合金、カーボン、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子負極材料/負極集電材(銅、ニッケル、ステンレス)及び、それらを包装する外装体からなる。」

2イ 「【0003】
・・・ヒートシール性を有する最内層樹脂の選択と、前記トレイを成形する際の、成形性のよい積層体が求められていた。本発明は、ポリマー電池を収納するケースに用いる包装材料として、水蒸気その他のガスバリア性に優れ、また、耐突き刺し性等をはじめ機械的強度があり、また高温においても使用可能であり、電解液に対しても安定した積層体を提供するものである。」
「【発明の効果】【0005】本発明のポリマー電池用包装材料による形成されるパウチタイプの外装体により、ポリマー電池自体がフレキシビリティをもち、金属缶を用いるより軽量化が可能となり、かつ、トータル層厚を薄くすることができ、電池として省スペース化が可能となった。特に、ポリマー電池用包装材料としてバリア性に優れ、該バリア性を長期に維持し得ることができ、耐熱性、耐寒性、耐内容物性等に優れた包装材料とすることができた。」

2ウ 「【0007】
・・・図1は、本発明のポリマー電池用包装材料の実施例を示す、(a)基本的層構成・・・」

2エ 「【0008】
本発明の課題について、本発明者らは鋭意研究の結果、多層構造からなる包装材料であって、次に説明する各材質からなる積層体とすることによって本発明の課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに到った。・・・そして、前記積層体は、基本的には、最外層/バリア層/最内層の3層からなり、また、バリア層と最内層との間に中間層を設けた4層構成としてもよい。図1(a)は、前記4層タイプの積層体を示している。」

2オ 「【0009】
本発明における積層体10の前記最外層11は、延伸ポリエステル又は延伸ナイロンからなるが、この時、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。またナイロンとしてはポリアミド系樹脂、すなわち、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,6とナイロン6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアトジパミド(MXD6)等の結晶性ナイロンおよび非晶性ナイロンが挙げられる。」

2カ 「【0011】
本発明においては、最外層11は耐ピンホール性および電池の外装体とした時のハードとの絶縁性を向上させるために積層化することも可能である。その場合、最外層11が2層以上の樹脂層を少なくとも一つ含み、各層の厚みが6μm以上、好ましくは12から25μmである。最外層11を積層化する例としては、図示はしないがつぎの1)?3)が挙げられる。
1)延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
2)延伸ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン
3)延伸ナイロン/ポリエチレン」

2キ 「【0013】
前記バリア層12は・・・耐ピンホールをもたせるために厚さ15μm以上のアルミニウム・・・が挙げられるが、バリア層として好ましくは20?80μmの軟質アルミニウムとする。ピンホールの発生をさらに改善し、ポリマー電池の外装体のタイプをエンボスタイプとする際、エンボス部におけるクラック等の発生のないものとするために・・・バリア層として用いるアルミニウムの材質が、鉄含有量が0.3?9.0%・・・とすることによって、鉄を含有しないアルミニウムと比較して、アルミニウムの展延性がよく、積層体として折り曲げによるピンホールの発生がすくなくなり、かつ前記エンボスタイプの外装体のためのエンボス時の側壁部の形成も容易にできることを見いだした。」

2ク 「【0014】
さらに、本発明者らは、ポリマー電池の電解質と水分との反応で生成するフッ化水素酸(化学式:HF)により、アルミニウム表面の溶解、腐食を防止し、かつ、アルミニウム表面の接着性(濡れ性)を向上させ、積層体形成時のアルミニウムと最内層との接着力の安定化を図る課題に対して、アルミニウム表面に耐酸性皮膜の形成および保護層の形成、そして前記各技術を複合して実施することによって前記課題の解決に顕著な効果のあることを見いだした。
【0015】
アルミニウム表面に設ける耐酸性改質皮膜としては、リン酸塩系、クロム酸系の皮膜が挙げられる。リン酸塩系としては、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸カルシウム、リン酸クロムであり、クロム酸系としては、クロム酸クロム等である。」

2ケ 「【0022】
さらに、最内層14はパウチタイプ、エンボスタイプともに熱溶着法により電極タブをサンドイッチした状態で密封系を形成する。・・・最内層を多層化することにより、前記課題に効果のあることを見いだし本発明を完成するに到った。・・・」

2コ 「【0026】
・・・前記ドライラミネーションをする場合であって、前記バリア層よりも外側における積層においては、通常のドライラミネート接着剤を用いて積層してもよい。ただし、バリア層よりも最内層側においてドライラミネーションをする場合には後述のような組成の接着剤を用いることが好ましい。」

2サ 「【0034】
<略称>
・・・熱ラミネーション:TL、ドライラミネーション:DL・・・」

2シ 【図1】(a)

2ス 「【0135】
1 ポリマー電池
2 ポリマー電池本体
3 電極
4 外装体
5 ヒートシール部
5f 背シール部
6 底材
7 蓋材
8 エンボス部
9 フランジ部
10 積層体(包装材料)
11 最外層
12 バリア層
13 中間層
14 最内層
15 保護層
16 熱接着性タブ材
TR 表面処理層
DL ドライラミネート層
TL 熱ラミネート層」

<2>甲第2号証に記載された発明の認定
-a-引用発明2Aの認定
i)甲第2号証の記載事項2ウ、2エから、甲2には、最外層/バリア層/中間層/最内層の4層からなる積層体で構成される「ポリマー電池用包装材料」が記載されており、その層構成は同2シの【図1】(a)に記載されており、ここで、同図には「中間層13」(同2ス参照)が記載されているが同層は同2エから必須ではなく、最外層/バリア層/最内層の3層の積層体でもよいとされている。
ii)同2ス、2シの【図1】(a)から、「ポリマー電池用包装材料」は、上記i)に記載した4層以外の層も含むものであり、中間層は必須の層ではないことを勘案すると、
「最外層11」、「ドライラミネート層DL-1」、「バリア層12」、「表面処理層TR」、「ドライラミネート層DL-2」、「最内層14a、14b」からなる積層体で構成される「ポリマー電池用包装材料」が甲2には記載されているといえる。
iii)ここで、同2シの【図1】(a)には、同2ケから多層化されている「最内層14a,14b」が記載されているが、両層合わせて「最内層」といえる。
iv)同2オから「最外層11」は「延伸ナイロン」層であるといえる。
v)同2キ、2クから、「表面処理層TR」が表面に設けられた「バリア層12」は、「耐酸性改質皮膜」を有する「アルミニウム」層であるといえる。
vi)同2コから、「バリア層12」の外側(「最外層11」の側)と内側(「最内層」の側)にある「ドライラミネート層DL-1」、「ドライラミネート層DL-2」は、いずれも「接着剤層」であるといえる。
vii)以上から、本件発明1の記載に則して整理すれば、甲2には次の発明(以下、「引用発明2A」という。)が記載されていると認められる。

=引用発明2A=
「延伸ナイロン層(11)、接着剤層(DL-1)、耐酸性改質皮膜(TR)を有するアルミニウム層(12)、接着剤層(DL-2)、最内層(14)からなる積層体で構成されるポリマー電池用包装材料。」

-b-引用発明2Bの認定
i)甲2の記載事項2アから、「ポリマー電池用包装材料」は、少なくとも正極、負極、電解質を備えるリチウム2次電池の本体が収容されてリチウム2次電池とされるのに用いられるものである。
ii)すると、本件発明17の記載に則して整理すれば、甲2には次の発明(以下、「引用発明2B」という。)が記載されていると認められる。

=引用発明2B=
「少なくとも正極、負極、電解質を備えるリチウム2次電池の構成が、
延伸ナイロン層(11)、接着剤層(DL-1)、耐酸性改質皮膜(TR)を有するアルミニウム層(12)、接着剤層(DL-2)、最内層(14)からなる積層体で構成されるポリマー電池用包装材料を用いて収容されている、リチウム2次電池。」

-c-引用発明2Cの認定
i)甲2の記載事項2アから、「ポリマー電池用包装材料」は、リチウム2次電池の本体が収容されるのに使用されているものである。
ii)すると、本件発明18の記載に則して整理すれば、甲2には次の発明(以下、「引用発明2C」という。)が記載されていると認められる。

=引用発明2C=
「延伸ナイロン層(11)、接着剤層(DL-1)、耐酸性改質皮膜(TR)を有するアルミニウム層(12)、接着剤層(DL-2)、最内層(14)からなる積層体の、ポリマー電池用包装材料としての使用。」

-d-引用発明2Dの認定
i)甲2の記載事項2アから、甲2には、少なくとも正極、負極、電解質を備えるリチウム2次電池の本体が「ポリマー電池用包装材料」に収容されて、リチウム2次電池が製造される方法が記載されているといえる。
ii)すると、本件発明19の記載に則して整理すれば、甲2には次の発明(以下、「引用発明2D」という。)が記載されていると認められる。

=引用発明2D=
「リチウム2次電池の製造方法であって、
少なくとも正極、負極、電解質を備えるリチウム2次電池の本体をポリマー電池用包装材料で収容する工程を含み、
前記ポリマー電池用包装材料として、
延伸ナイロン層(11)、接着剤層(DL-1)、耐酸性改質皮膜(TR)を有するアルミニウム層(12)、接着剤層(DL-2)、最内層(14)からなる積層体を用いる、リチウム2次電池の製造方法。」

(3)甲第3?6号証に記載の技術手段
甲第3?6号証には、いずれにもリチウムイオン二次電池用の積層構造の外装材が記載され、当該積層構造は、本件発明の「基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体」にあたるものであるが、本件発明の「基材層は、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である」という物性を有することは記載も示唆もなく、また、電池の当該外装材と食品や医療品等の物品の包装容器との互換性について記載も示唆もない。

(4)引用発明1Aを主引例とする場合の検討
(4-1)本件発明1について
<1>本件発明1と引用発明1Aとの対比
ア 引用発明1Aの「二軸延伸ナイロンフィルム」、「シランカップリング剤によるアンダーコート処理層」、「アルミニウム層」、及び「積層されたもの」は、それぞれ本件発明1の「基材層」、「接着層」、「金属層」、及び「順次積層された積層体」に相当する。

イ 引用発明1Aの「二軸延伸ナイロンフィルムは、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B(=6.81)≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A(=1.93)≧1.5であり、かつ、前記Bが、B(=4.88)≧2.0である」であることは、本件発明1の「前記基材層は、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である」ことに相当する。

ウ 本件発明1は「電池用包装材料」であり、引用発明1Aは「ラミネート包材」であり、両者は、「包装材料」である点で一致する。

エ 以上から、本件発明1と引用発明1Aとは次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)「少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、前記基材層は、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である、包装材料。」である点。
(相違点)「包装材料」の用途について、本件発明1は「電池用」であるのに対して、引用発明1Aでは明らかでない点。

<2>相違点の検討
ア 本件特許明細書には「【0001】本発明は、成形時にピンホールやクラックが生じ難く、優れた成形性を備える電池用包装材料に関する。」、「【0060】・・・本発明の電池用包装材料は、正極、負極、電解質等の電池素子を密封して収容するための包装材料として使用される。」、「【0009】本発明の主な目的は、少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層されたフィルム状の積層体からなる電池用包装材料において、成形時にクラックやピンホールが生じ難く、優れた成型性を備えさせる技術を提供することにある。」と記載されている。
よって、本件発明1の「電池用包装材料」は、「電池素子を密封して収容するための包装材料として使用」されるものであり、その解決すべき課題は「成形時にクラックやピンホールが生じ難」い「優れた成型性」の提供にあるといえる。

イ これに対して、甲第1号証の記載事項1ア((2)(2-1)<1>)には、「【0002】二軸延伸ナイロンフィルムは、強度や耐衝撃性、耐ピンホール性等に優れるため、重量物包装や水物包装など大きな強度負荷が掛かる用途に多く用いられている。ここで、従来、深絞り成形や張り出し成形等の成形用の包材に、ナイロンを使用する技術が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。」、「【0004】【特許文献1】特開2004-74795号公報 【特許文献2】特開2004-98600号公報」と記載され、同1イには「【0006】そこで、本発明の目的は、シール基材とのラミネート後に優れた冷間成形性を付与できる冷間成形用二軸延伸ナイロンフィルム、およびそれを用いたラミネートフィルム、およびそのラミネートフィルムを冷間成形してなる成形体を提供することにある。」と記載されている。

ウ ここで、上記イの【特許文献1】【特許文献2】について、特許文献1の「冷間成形加工品及びその製造方法」についての発明は「飲料容器、ヨーグルト容器、ポーション容器、カップ麺等の食品用容器や、使い捨てタイプの医療用品等を充填する合成樹脂製容器」(【0002】)を発明の具体的な用途とするものであり、特許文献2の「深絞り成形用複合シート」についての発明は「主に食品の深絞り軟質ガスパック包装に好適に使用できる複合シート」(【0001】)を発明の具体的な用途とする発明である。
甲1の上記イの記載や上記従来例としてあげられた特許文献1、2の記載に鑑みると、引用発明1Aの「ラミネート包材」は、食品や医療品等の比較的重量のある物品の包装容器として用いられることを前提とする発明であるといえる。

エ そして、上記ア?ウから理解されるように、本件発明1と引用発明1Aとで、解決すべき課題は、「積層体(ラミネート材)の包装材料」におけるピンホール等の生じない良好な成形性の点で共通しているとはいえる。

オ しかし、本件発明1は、上記アでみたように、「電池素子を密封して収容するための包装材料として使用」されるもので、通常はそのような電池素子は重量が問題となるようなことはない。
また、そもそも食品や医療品等の物品の包装容器と、電子装置である電池素子の包装材料とでは、全く技術分野が異なり、殊に電池素子として必須の電解質には人体に有害な物が少なくないことを考慮すれば、たとえ両者が共通の物性を要するとしても、当業者であれば、両者に互換性があるとは通常は考えないといえる。

カ そこで上記オの見解について、甲第2号証に記載の技術手段に基いて検討する。
甲第2号証には、引用発明2Aが技術手段として記載されていると認められる((2)(2-2)<2>?a?)ところ、引用発明2Aは「ポリマー電池用包装材料」に関する発明であり、食品や医療品等の物品の包装容器を電子装置である電池素子の包装材料に用い得ることは甲第2号証には記載も示唆もされておらず、甲第2号証に記載の技術手段に基いて引用発明1Aを「電池用包装材料」に用いるようにすることは困難といえる。

キ また、上記オの点で、甲第3?6号証に記載の技術手段を勘案しても、食品や医療品等の物品の包装容器を、電子装置である電池素子の包装材料として用い得ることの記載も示唆も見いだせないことから、上記相違点は実質的なものであり、また、引用発明1Aの用途を電池素子に変更することが、当業者にとって容易に想到し得るものともいえない。

<3>結言
以上から、本件発明1は、引用発明1A及び甲2?6号証に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4-2)本件発明2?16について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?16については、引用発明1Aと対比すると、少なくとも本件発明1と引用発明1Aとの相違点((4-1)<1>エ)と同じ相違点を有し、上記「(4-1)<2>」と同様に、当該相違点は実質的なものであり、当業者が容易になし得ることでもない。
したがって、本件発明2?16は、引用発明1A及び甲2?6号証に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4-3)本件発明17について
<1>本件発明17と引用発明1Bとの対比
ア 引用発明1Bの「被収容物」と本件発明17の「少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子」とは、「被収容物」である点で一致する。

イ 引用発明1Bの「二軸延伸ナイロンフィルム、シランカップリング剤によるアンダーコート処理層、アルミニウム層、シーラント層の積層されたもの」は、本件発明17の「少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体」に相当する。

ウ 引用発明1Bの「二軸延伸ナイロンフィルムは、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B(=6.81)≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A(=1.93)≧1.5であり、かつ、前記Bが、B(=4.88)≧2.0であるラミネート包材」と、本件発明17の「前記基材層は、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である、電池用包装材料」とは、「前記基材層は、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である、包装材料」の点で一致する。

エ 引用発明1Bの「収容されている、物品」と、本件発明17の「収容されている、電池」とは、「収容されている、物品」である点で一致する。

オ 以上から、本件発明17と引用発明1Bとは次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)「被収容物が、
少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、
前記基材層は、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、
前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である、包装材料を用いて収容されている、物品。」である点。
(相違点1)「被収容物」について、本件発明17では「少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子」であるのに対して、引用発明1Bでは特定されていない点。
(相違点2)「包装材料」の用途について、本件発明1は「電池用」であるのに対して、引用発明1Bでは特定されていない点。
(相違点3)「物品」について、本願発明17では「電池」であるのに対して、引用発明1Bでは特定されていない点。

<2>相違点の検討
事案に鑑み相違点2について検討する。
相違点2は実質的に本件発明1と引用発明1Aとの相違点((4-1)<1>エ)と同じ相違点であるから、上記「(4-1)<2>」と同様に、当該相違点は実質的なものであり、当業者が容易になし得ることでもない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明17は、引用発明1B及び甲2?6号証に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4-4)本件発明18について
<1>本件発明18と引用発明1Cとの対比
ア 引用発明1Cの「二軸延伸ナイロンフィルム、シランカップリング剤によるアンダーコート処理層、アルミニウム層、シーラント層の積層されたものからなり、二軸延伸ナイロンフィルムは、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B(=6.81)≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A(=1.93)≧1.5であり、かつ、前記Bが、B(=4.88)≧2.0である、ラミネートフィルム」は、本件発明18の「少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、前記基材層が、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)がA+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である積層体」に相当する。

イ 引用発明1Cの「ラミネート包材としての使用」と本件発明18の「電池用包装材料としての使用」は、「包装材料としての使用」の点で一致する。

ウ 以上から、本件発明18と引用発明1Cとは次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)「少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、
前記基材層が、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)がA+B≧3.5の関係を充足し、
前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である積層体の、包装材料としての使用。」の点。
(相違点)「包装材料」の用途について、本件発明1は「電池用」であるのに対して、引用発明1Cでは特定されていない点。

<2>相違点の検討
相違点は実質的に本件発明1と引用発明1Aとの相違点((4-1)<1>エ)と同じ相違点であるから、上記「(4-1)<2>」と同様に、当該相違点は実質的なものであり、当業者が容易になし得ることでもない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明18は、引用発明1C及び甲2?6号証に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4-5)本件発明19について
<1>本件発明19と引用発明1Dとの対比
ア 本件発明19の「電池の製造方法」と引用発明1Dの「物品の製造方法」とは、「物品の製造方法」である点で一致する。

イ 本件発明19の「少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子を電池用包装材料で収容する工程を含」む点と、引用発明1Dの「被収容物をラミネート包材で収容する工程を含」む点とは、「被収容物を包装材料で収容する工程を含」む点で一致する。

ウ 本件発明19の「前記電池用包装材料として、少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、前記基材層が、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を 、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)がA+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0であるものを用いる」点と、引用発明1Dの「前記ラミネート包材として、二軸延伸ナイロンフィルム、シランカップリング剤によるアンダーコート処理層、アルミニウム層、シーラント層の積層されたものからなり、二軸延伸ナイロンフィルムは、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B(=6.81)≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A(=1.93)≧1.5であり、かつ、前記Bが、B(=4.88)≧2.0であるものを用いる」点とでは、「前記包装材料として、少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、前記基材層が、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を 、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)がA+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0であるものを用いる」点で一致する。

エ 以上から、本件発明19と引用発明1Dとは次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)「物品の製造方法であって、
被収容物を包装材料で収容する工程を含み、
前記包装材料として、
少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなり、
前記基材層が、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を 、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)がA+B≧3.5の関係を充足し、
前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0であるものを用いる、物品の製造方法。」である点。
(相違点1)「被収容物」について、本件発明19では「少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子」であるのに対して、引用発明1Dでは特定されていない点。
(相違点2)「包装材料」の用途について、本件発明1は「電池用」であるのに対して、引用発明1Dでは特定されていない点。
(相違点3)「物品」について、本願発明19では「電池」であるのに対して、引用発明1Dでは特定されていない点。

<2>相違点の検討
事案に鑑み相違点2について検討する。
相違点2は実質的に本件発明1と引用発明1Aとの相違点((4-1)<1>エ)と同じ相違点であるから、上記「(4-1)<2>」と同様に、当該相違点は実質的なものであり、当業者が容易になし得ることでもない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明19は、引用発明1D及び甲2?6号証に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)引用発明2Aを主引例とする場合の検討
(5-1)本件発明1について
<1>本件発明1と引用発明2Aとの対比
ア 本件特許明細書には「【0052】[接着層5]本発明の電池用包装材料において、接着層5は、金属層3とシーラント層4を強固に接着させために、これらの間に必要に応じて設けられる層である。」と記載されるから、本件発明1の「金属層、及びシーラント層」の間には「接着層」が存在し得るものといえる。

イ 本件特許明細書には「【0015】・・・本発明の電池用包装材料において、基材層1が最外層になり、シーラント層4は最内層になる。即ち、電池の組み立て時に、電池素子の周縁に位置するシーラント層4同士が熱溶着して電池素子を密封することにより、電池素子が封止される。」と記載され、甲第2号証の記載事項2ケに「【0022】さらに、最内層14はパウチタイプ、エンボスタイプともに熱溶着法により電極タブをサンドイッチした状態で密封系を形成する。」と記載され、これらの記載から、引用発明2Aの「最内層」と本件発明1の「シーラント層」は、共に、最内層であり熱溶着して密封するから、引用発明2Aの「最内層」は本件発明1の「シーラント層」に相当する。

ウ すると、引用発明2Aの「延伸ナイロン層」、「接着剤層」、「耐酸性改質皮膜を有するアルミニウム層、接着剤層、最内層」で「構成される積層体」は、それぞれ本件発明1の「基材層」、「接着層」、「金属層、及びシーラント層」が「順次積層された積層体」に相当する。

エ 本件特許明細書には「【0062】・・・本発明の電池用包装材料の好適な適用対象として、リチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池が挙げられる。」と記載され、甲2の記載事項2アには「ポリマー電池は、リチウム2次電池ともいわれ、高分子ポリマー電解質を持ち、リチウムイオンの移動で電流を発生する電池といわれ、正極・負極活物質が高分子ポリマーからなるものを含むものである。」と記載されるから、引用発明2Aの「ポリマー電池用包装材料」は、本件発明1の「電池用包装材料」に相当する。

オ よって、本件発明1と引用発明2Aとは次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)「少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなる、電池用包装材料。」である点。
(相違点)本件発明1は、「前記基材層は、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である」物性を有する(以下、「本件物性」という。)のに対して、引用発明2Aでは当該物性について不明な点。

<2>相違点の検討
ア 甲第2号証には、上記本件物性について記載も示唆もないので、甲第1号証をみると、同号証には、本件物性を有する引用発明1Aが技術手段として記載されている((2)(2-1)<2>?a?)と認められるが、引用発明1Aにおいて、当該物性を有する「ラミネート包材」は電池用ではない。
つまり、引用発明2Aに引用発明1Aを適用できるか否かは、「ラミネート包材」を電池用という用途に用い得るか否かという点が問題となるので、結局のところ上記「(4)(4-1)<1>エ」で検討した相違点の問題に帰着し、それは同<2>でみたように結論される。
すなわち、引用発明2Aは「ポリマー電池用包装材料」に関する発明であり、引用発明1Aは食品や医療品等の物品の包装容器に関する発明だから、人体に有害であってはならない材料の用いられる食品や医療品等の物品の包装容器に用いることができるからといって、用途の全く異なる電子装置である電池素子の包装材料に用いて、直ちに電子装置である電池素子の包装材料として適切に機能し得るとまではいうことはできない。

イ また、上記<1>オの相違点で、甲第3?6号証に記載の技術手段を勘案しても、食品や医療品等の物品の包装容器を、電子装置である電池素子の包装材料として用い得ることの記載も示唆も見いだせないことから、上記相違点は実質的なものであり、また、当業者が容易に互換できるものともいえない。

<3>結言
以上から、本件発明1は、引用発明2A及び甲1、3?6号証に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5-2)本件発明2?16について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?16については、引用発明2Aと対比すると、少なくとも本件発明1と引用発明2Aとの相違点((5-1)<1>オ)と同じ相違点を有し、上記「(5-1)<2>」と同様に、当該相違点は実質的なものであり、当業者が容易になし得ることでもない。
したがって、本件発明2?16は、引用発明2A及び甲1、3?6号証に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5-3)本件発明17について
<1>本件発明17と引用発明2Bとの対比
ア 引用発明2Bの「少なくとも正極、負極、電解質を備えるリチウム2次電池の本体」は本件発明17の「少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子」に相当する。

イ 引用発明2Bの「リチウム2次電池の本体」が「延伸ナイロン層、接着剤層、耐酸性改質皮膜を有するアルミニウム層、接着剤層、最内層からなる積層体で構成されるポリマー電池用包装材料を用いて収容されている、リチウム2次電池」は、本件発明17の「電池素子」が「少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からな」る「電池用包装材料を用いて収容されている、電池」に相当する。

ウ よって、本件発明17と引用発明2Bとは次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)「少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子が、少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなる電池用包装材料を用いて収容されている、電池。」
(相違点)本件発明17は、「前記基材層は、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である」物性を有する(「本件物性」)のに対して、引用発明2Bでは当該物性について不明な点。

<2>相違点の検討
この相違点は実質的に本件発明1と引用発明2Aとの相違点((5-1)<1>オ)と同じ相違点であるから、上記「(5-1)<2>」と同様に、当該相違点は実質的なものであり、当業者が容易になし得ることでもない。
したがって、本件発明17は、引用発明2B及び甲1、3?6号証に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5-4)本件発明18について
<1>本件発明18と引用発明2Cとの対比
ア 上記「(5-1)<1>イ、ウ」から、引用発明2Cの「延伸ナイロン層」、「接着剤層」、「耐酸性改質皮膜を有するアルミニウム層、接着剤層、最内層からなる積層体」は、それぞれ本件発明18の「基材層」、「接着層」、「金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体」に相当する。

イ 上記「(5-1)<1>エ」から、引用発明2Cの「ポリマー電池用包装材料」は、本件発明1の「電池用包装材料」に相当する。

ウ よって、本件発明18と引用発明2Cとは次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)「少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなる電池用包装材料としての使用。」
(相違点)本件発明18は、「前記基材層が、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である」物性を有する(「本件物性」)のに対して、引用発明2Cでは当該物性について不明な点。

<2>相違点の検討
この相違点は実質的に本件発明1と引用発明2Aとの相違点((5-1)<1>オ)と同じ相違点であるから、上記「(5-1)<2>」と同様に、当該相違点は実質的なものであり、当業者が容易になし得ることでもない。
したがって、本件発明18は、引用発明2C及び甲1、3?6号証に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5-5)本件発明19について
<1>本件発明19と引用発明2Dとの対比
ア 上記「(5-1)<1>イ?エ」から、引用発明2Dの「延伸ナイロン層」、「接着剤層」、「耐酸性改質皮膜を有するアルミニウム層、接着剤層、最内層」、「からなる積層体」は、それぞれ本件発明19の「基材層」、「接着層」、「金属層、及びシーラント層」、「順次積層された積層体」に相当し、引用発明2Dの「ポリマー電池用包装材料」は、本件発明19の「電池用包装材料」に相当する。

イ すると、本件発明19と引用発明2Dとは次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)電池の製造方法であって、
少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子を電池用包装材料で収容する工程を含み、
前記電池用包装材料として、
少なくとも、基材層、接着層、金属層、及びシーラント層が順次積層された積層体からなるものを用いる、電池の製造方法。
(相違点)本件発明19は、「前記基材層が、MD方向における50%伸長時の応力値を、MD方向における5%伸長時の応力値で除した値Aと、TD方向における50%伸長時の応力値を、TD方向における5%伸長時の応力値で除した値Bとの和(A+B)が、A+B≧3.5の関係を充足し、前記Aが、A≧1.5であり、かつ、前記Bが、B≧2.0である」物性を有する(「本件物性」)のに対して、引用発明2Dでは当該物性について不明な点。

<2>相違点の検討
この相違点は実質的に本件発明1と引用発明2Aとの相違点((5-1)<1>オ)と同じ相違点であるから、上記「(5-1)<2>」と同様に、当該相違点は実質的なものであり、当業者が容易になし得ることでもない。
したがって、本件発明19は、引用発明2D及び甲1、3?6号証に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)申立理由1、2についての結言
以上から、本件発明1?19は、甲第1号証?甲第6号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができるものとはいえない。
したがって、申立理由1、2は採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、請求項1?19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-03-29 
出願番号 特願2018-90553(P2018-90553)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 536- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉川 潤  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
中澤 登
登録日 2020-03-09 
登録番号 特許第6673396号(P6673396)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 電池用包装材料  
代理人 田中 順也  
代理人 水谷 馨也  

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