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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A62C
審判 全部申し立て 2項進歩性  A62C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A62C
審判 全部申し立て 特174条1項  A62C
管理番号 1372764
異議申立番号 異議2020-701004  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-23 
確定日 2021-04-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6713496号発明「消防用ホース」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6713496号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6713496号の請求項1ないし4の特許に係る出願は、平成30年3月2日に特許出願され、令和元年10月18日付けで拒絶理由が通知され、令和元年12月5日に意見書の提出及び手続補正がされ、令和2年5月12日付けで特許査定され、令和2年6月5日にその特許権の設定登録がされ、令和2年6月24日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和2年12月23日に特許異議申立人中谷浩美(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1ないし4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
織物からなるジャケットを有する消防用ホースであって、前記織物が、綾織部および杉綾織部をホース長さ方向に並べて配置してなり、前記綾織部が順綾目構造または逆綾目構造を有し、前記杉綾織部が順綾目構造および逆綾目構造を有し、ホースを扁平に潰した平面部の略中央に、前記杉綾織部が配置されてなり、前記杉綾織部の経糸が、第1の糸および第2の糸からなり、(1)前記第1の糸が、前記綾織部の経糸と同じ糸であり、前記第2の糸が、前記第1の糸とは異なる着色糸であること、または(2)前記第1の糸が、前記綾織部の経糸とは異なる着色糸であり、前記第2の糸が、前記第1の糸および前記綾織部の経糸とは異なる着色糸であること、を特徴とする消防用ホース。
【請求項2】
前記織物が、前記綾織部および杉綾織部を、ホース長さ方向に2列ずつ交互に有する請求項1記載の消防用ホース。
【請求項3】
前記ホースを扁平に潰したとき、その表裏の平面部の略中央に、前記杉綾織部が配置されてなる請求項1または2に記載の消防用ホース。
【請求項4】
前記杉綾織部の周方向長さの合計が、前記ホースの周囲長の20%?80%である請求項1?3のいずれかに記載の消防用ホース。

第3.申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、甲第1号証ないし甲第6号証(以下、「甲1ないし甲6」という。)を証拠として添付するとともに、以下の理由により、本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべきである旨を主張している。

《理由1》
本件発明1ないし4は、甲1に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)及び甲2ないし甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。(申立書4頁、7頁20行ないし16頁14行)
甲1.「ゴルフ場専用ホース ジェットホース(登録商標) スーパーイーグル・イーグル」パンフレット,芦森工業株式会社
甲2.特開2004-132443号公報
甲3.特開2017-189239号公報
甲4.特開平7-198071号公報
甲5.新村出編,「広辞苑 第七版」,株式会社岩波書店,平成30年1月12日,p.93,p.1552

《理由2》
令和元年12月5日の手続補正により本件発明1の「綾織部」について、「前記綾織部が順綾目構造を有し」との記載を「前記綾織部が順綾目構造または逆綾目構造を有し」との記載に変更した補正において、前記「または」は択一記載であるが、綾織部の全部が順綾目構造、逆綾目構造のいずれかだけであることは、本件特許の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されていないから、前記補正は新規事項を追加する補正であり、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものである。(申立書5頁、16頁15行ないし17頁4行)

《理由3》
本件発明1の「前記綾織部が順綾目構造または逆綾目構造を有し」における「または」は択一記載であるが、綾織部の全部が順綾目構造、逆綾目構造のいずれかだけであることは、本件特許の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されていないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した発明ではなく、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものである。(申立書5頁、17頁5行ないし11行)

第4.当審の判断
1.理由1について
(1)甲1ないし甲5の記載
ア.甲1について
(ア)表頁右下には次の写真が掲載されている。



(イ)裏頁右上には次の図が掲載されている。



(ウ)裏頁には次の記載がある。
a.「ジェットホース『スーパーイーグル』『イーグル』」は、『ジェットホース』ブランドで世界の消防業界をリードしつづける消防用ホースのトップメーカー芦屋工業(株)が開発した、日本ではじめての本格的ゴルフ場用ホースです。
ゴルフ場における使用条件を知りつくした当社が、性能に美観を加味して才色兼備のホースに仕上げました。ノズルをつけての散水用や、スプリンクラー設備の配管用ホースとしてご利用下さい。」(裏頁左上)
b.「1 軽量・コンパクトでナイスハンドリング
杉綾織ジャケットとうすくても耐久性にすぐれたエンプラライニングを採用することで、ホースの巻くずれ防止と軽量・コンパクト化をはかり、すぐれたハンドリング(取扱い)性を実現しました。一秒を争う渇水期にもす早い作業が可能です。」(裏頁左中)
c.「2 芝にやさしく、傷・摩耗や炎天下に強い
しなやかですべりの良い杉綾織ジャケットは芝にやさしく、そして耐摩耗性にすぐれた特殊加工糸と耐候性にすぐれた二重エンプラライニングが摩耗や外傷、炎天下での使用に耐えるタフなホースを作りました。スーパーイーグルは傷みやすい耳部を補強し、さらに耐摩耗性を高めています。」(裏頁左中)
d.「4 芝に映えるレッドラインブルー
鮮やかなブルーのカラーと黄又は赤のラインが目じるしです。ゴルフ場の芝の緑にひときわ映える美観を重視しました。」(裏頁左下)
e.「この内容は平成8年2月現在のものです。
製品は改良のため予告なく仕様を変更することがあります。」(裏頁右下)
f.「9603-003SL」(裏頁右下)

イ.甲2について
本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
ホース本体の長手方向端部の一方に連結具のオス金具を取り付け、他方にメス金具を取り付けた消防用ホースにおいて、前記メス金具側を指し示す形状にした発光性塗料からなるマークを前記ホース本体の長手方向に沿って列状に付着した消防用ホース。
【請求項2】
ホース本体の長手方向端部の一方に連結具のオス金具を取り付け、他方にメス金具を取り付けた消防用ホースにおいて、発光性物質を配合した合成繊維を前記ホース本体の長手方向に沿って前記メス金具側を指し示す形状のマーク又は織柄に織り込んだ消防用ホース。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は消防用ホースに関し、更に詳しくは、ビル火災等において暗闇状態になった屋内から屋外へ脱出する誘導手段として機能するようにした消防用ホースに関する。」
(ウ)「【0012】
ホース本体の表面に付着するマーク又は織り込むマークは、矢印のように方向性を有する形状にしたものとする。或いは、織り込む場合は、ホース本体の織柄として、例えば、杉綾などの方向性を有する形状にしたものでもよい。しかも、そのマーク又は織柄はホース本体表面において、必ず消防用ホースの端部に取り付けられたメス金具側を指し示すように配置するようにする。」
(エ)「【0021】
本発明の消防用ホースは、図1に示すように、ホース本体10の長手方向の両端部の一方に連結金具のオス金具11を取り付け、他方にメス金具12を取り付けて構成されている。ホース本体10の表面には、長手方向の全長に渡り発光性塗料からなるマーク3が列状に配列するように付着している。マーク3としては、発光性物質を配合した合成繊維をホース本体10に織り込んで形成したものであってもよい。或いは、マークがホース本体10の全面に織柄として織り込まれていたものでもよい。」
(オ)「【0024】
マーク3の形状は、方向性を示すものであれば特に限定されない。図1及び図2に示す実施形態では、マーク3の形状が三角形の矢形であるが、そのほか、例えば、図4(A)?(F)に示すような形状のものを例示することができる。マークの大きさは矢形が視認可能であれば特に限定されない。例えば、幅5?50mm、長さ10?100mm程度であるものが好ましい。」
(カ)「【0026】
マーク3が蛍光塗料の塗布或いは蛍光性物質を混合した合成繊維の織り込みからなる場合は、もちろん図2のようにホース本体10の縁部に設けてもよいが、図3に例示するように、偏平に折り畳んだホース本体10の平面部に設けてもよい。」

ウ.甲3について
本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
たて糸とよこ糸とで斜文線を有する縦斜文織構造の筒状に織られたジャケットを有する消防用ホースであって、
第1の色に着色した第1の糸と未着色の素地の糸とを前記たて糸として1本ずつ交互に複数列配列して構成された第1の斜線模様部と、
前記ジャケットの周方向に前記第1の斜線模様部の一方の端部に続けて前記第1の糸と前記素地の糸とを前記たて糸として2本ずつ交互に複数列配列して構成された第1の擬似斜線模様部と、
を備えることを特徴とする消防用ホース。
【請求項2】
前記第1の色と異なる第2の色に着色した第2の糸と前記素地の糸とをたて糸として1本ずつ交互に複数列配列して構成された第2の斜線模様部と、
前記ジャケットの周方向に前記第1の斜線模様部に対して前記第1の擬似斜線模様部が配置された側と反対側の前記第2の斜線模様部の端部に続けて前記第2の糸と前記素地の糸とを前記たて糸として2本ずつ交互に複数列配列して構成された第2の擬似斜線模様部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載された消防用ホース。」
(イ)「【0008】
ところで、特許文献1では、マークを織柄として織り込むことが記載されているが、どのように織り込むか具体的に示されていない。通常の場合、特殊な織り機が必要であり、コストがかかるだけでなく、マークを形成するための糸を織り込むため、部分的にホースの強度が変わってしまう。また、特許文献2や特許文献3では、ホースのジャケットに合成樹脂製の縦色線やマークを貼り付けることが記載されているが、ホースは建屋内を引き回されることによって擦れるので、縦色線やマークが傷みやすく、確認しづらくなることも有る。
【0009】
そこで、本発明は、低コストで製造でき、かつ、一部分を見て退避方向が容易にわかる消防用ホースを提供する。」
(ウ)「【0019】
本実施形態では、たて糸3の一部を第1の色に着色した第1の糸3Aに置き換えて、第1の斜線模様部31Aと第1の擬似斜線模様部33Aとを形成し、この第1の斜線模様部31A及び第1の擬似斜線模様部33Aで第1のパターン30Aを構成している。同様に、たて糸3の一部を第2の色に着色した第2の糸3Bに置き換えて、第2の斜線模様部31Bと第2の擬似斜線模様部33Bとを形成し、この第2の斜線模様部31B及び第2の擬似斜線模様部33Bで第2のパターン30Bを構成している。さらに、本実施形態では、第1のパターン30Aと第2のパターン30Bの間に、複数本のたて糸3を第3の色に着色した第3の糸3Cに置き換えて構成される識別表示部30Cを有している。なお、本実施形態のジャケット11において、第1の糸3A、第2の糸3B、第3の糸3C以外のたて糸3は、未着色の素地の糸3Zで構成される。なお、未着色の素地の糸3Zは、一般的に白色である。」

エ.甲4について
本件特許の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】 筒状の布製のホース本体の内面にゴム又は樹脂のコート層を被覆し、収納時に扁平状態にして折り畳むか又は螺旋状に巻き込むようにするホースにおいて、前記ホース本体の織組織を平織と綾織とを長手方向に並列に織り込んで構成したホース。」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、布製ホース本体からなる消防用、灌漑用、散水用等のホースに関する。」
(ウ)「【0012】本発明において、ホース本体を構成するための綾織の織組織としては、特に限定されないが、好ましくは、1/2綾、2/2綾、1/3綾、杉綾などを使用することができる。また、ホースが扁平状態のとき、その地部分が全幅に占める割合としては、40?60%にすることが望ましい。なお、前述した実施例は、いずれも消防用ホースの場合について説明したが、本発明は灌漑用、散水用など他の用途にも幅広く適用することができる。」

オ.甲5について
甲5には、以下の記載がある。
(ア)「あや・おり【綾織】(丸一)経糸_(たていと)と緯糸_(よこいと)が交差する点が斜めになる織り方。また、その技法で織った織物。」(93頁)
(イ)「すぎ・あや【杉綾】杉綾織の略。-・おり【杉綾織】杉の葉のような山形に綾織した服地。」(1552頁)

(2)本件発明1について
ア.甲1発明
上記(1)ア.(ウ)e.及びf.に摘記した記載からみて、甲1は、本件特許の出願前である、平成8年に頒布されたパンフレットであることが推認される。
また、上記(1)ア.(ア)及び(イ)の図示内容と(ウ)b.及びc.に摘記した記載からみて、甲1に記載の「ゴルフ場専用ホース」は、織物からなるジャケットを有するものであって、前記織物が、複数の杉綾織の部分をホース長さ方向に並べて配設してなるものであることが把握される。
さらに、上記(1)ア.(ア)及び(イ)の図示内容と(ウ)d.に摘記した記載からみて、上記「ゴルフ場専用ホース」は、ブルー色であって、ホース長さ方向に黄又は赤のラインが設けられたものであることが把握される。
以上を踏まえると、甲1には以下の甲1発明が記載されているといえる。
《甲1発明》
織物からなるジャケットを有するゴルフ場専用ホースであって、前記織物が、複数の杉綾織の部分をホース長さ方向に並べて配設してなるブルー色であり、ホース長さ方向に黄又は赤のラインが設けられた、ゴルフ場専用ホース。

なお、申立人は、申立書8頁9ないし12行で、上記(1)ア.(ア)の写真には、「・・・素地が青色であって、幅方向中央に黄色破線を含む赤色のラインが施され、当該ラインに対して上下で平行して、杉綾織部の綾目の変曲部分に沿って赤色破線状のラインが施されていることが示されている。」と説明しているが、上記(1)ア.(ア)の写真からは、前記「赤色破線状のライン」が施されている箇所が、杉綾織部の綾目の変曲部分となっていることは明確には視認できない。
ゆえに、申立人が、申立書12頁22行ないし13頁10行で主張する甲1発明は、上記説明を前提としたものであり、採用できない。

イ.甲1発明との対比、一致点、相違点
甲1発明の「ゴルフ場専用ホース」と本件発明1の「消防用ホース」とは、「ホース」という限りにおいて一致するものである。
甲1発明の「複数の杉綾織の部分」に関し、上記(1)オ.(ア)及び(イ)に摘記した、甲5の記載を踏まえると、杉の葉のような山形に綾織したものである、杉綾織の部分は、経糸と緯糸が交差する点が、一方向(順方向)に斜めになる、綾織と、経糸と緯糸が交差する点が、他方向(逆方向)に斜めになる、綾織とが並べて配設されたものと解することができ、さらに、杉綾織の部分は、前記経糸と緯糸が交差する点が斜めになって見える線(いわゆる「綾目」)が一方向(順方向)の綾目構造と、前記「綾目」が他方向(逆方向)の綾目構造と、を有しているといえるから、甲1発明の「複数の杉綾織の部分をホース長さ方向に並べて配設してなる」は、本件発明1の「綾織部および杉綾織部をホース長さ方向に並べて配置してなり、前記綾織部が順綾目構造または逆綾目構造を有し、前記杉綾織部が順綾目構造および逆綾目構造を有し」に相当する。
そして、「複数の杉綾織の部分をホース長さ方向に並べて配設してなる」甲1発明は、ホースを扁平に潰した際には、平面部の略中央に、前記杉綾織の部分が配置され得るものである。
以上を踏まえると、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

《一致点》
織物からなるジャケットを有するホースであって、前記織物が、綾織部および杉綾織部をホース長さ方向に並べて配置してなり、前記綾織部が順綾目構造または逆綾目構造を有し、前記杉綾織部が順綾目構造および逆綾目構造を有し、ホースを扁平に潰した平面部の略中央に、前記杉綾織部が配置されてなる、ホース。

《相違点》
本件発明1は、ホースが「消防用ホース」であって、「杉綾織部の経糸が、第1の糸および第2の糸からなり、(1)前記第1の糸が、前記綾織部の経糸と同じ糸であり、前記第2の糸が、前記第1の糸とは異なる着色糸であること、または(2)前記第1の糸が、前記綾織部の経糸とは異なる着色糸であり、前記第2の糸が、前記第1の糸および前記綾織部の経糸とは異なる着色糸である」のに対し、甲1発明は、ホースが「ゴルフ場専用ホース」であって、「ブルー色であり、ホース長さ方向に黄又は赤のラインが設けられた」ものである点。

ウ.相違点の検討
まず、甲1発明は、上記ア.(ウ)a.、c.及びd.に摘記した甲1の記載から、ゴルフ場専用に開発されたホースであると解されるところ、たとえ、上記ア.(ウ)a.に摘記した「消防用ホースのトップメーカー芦屋工業(株)が開発した」との甲1の記載や上記エ.(イ)及び(ウ)に摘記した甲4の記載からみて、消防用ホースの技術分野と散水用のホースの技術分野は近隣する技術分野同士であって、甲1には甲1発明をゴルフ場にしか使用できない旨の記載もないから、消防用に転用することに困難性がないとしても、ゴルフ場専用に開発されたホースである甲1発明を、実際に、消防用ホースに転用する動機となる事実を示す証拠は発見しておらず、申立人もそのような証拠を示していない。
また、上記(1)イ.(ウ)に摘記した甲2の記載から、杉綾の織り込みで、消防用ホースの方向性を示す矢印を形成することが把握され、上記(1)ウ.(ア)及び(ウ)に摘記した甲3の記載から、経糸の色を素地の糸と異なる色にすることや経糸の色を2色とすることが把握されるとしても、上記甲2及び甲3の記載は、ゴルフ場専用ホースの発明である甲1発明において、「ホース長さ方向に並べて配設」された「複数の杉綾織の部分」のうちの一つの杉綾織の部分の経糸を、第1の糸および第2の糸とし、さらに、(1)前記第1の糸を、前記一つの杉綾織部分に隣り合う杉綾織の部分の経糸と同じ糸とし、前記第2の糸を、前記第1の糸とは異なる着色糸とするか、または(2)前記第1の糸を、前記一つの杉綾織部分に隣り合う杉綾織の部分の経糸とは異なる着色糸とし、前記第2の糸を、前記第1の糸および前記一つの杉綾織部分に隣り合う杉綾織の部分の経糸とは異なる着色糸とするようにその構成を変更すること直接的に示す記載ではないし、これを示唆する記載でもない。
さらに、上記(1)エ.(ア)ないし(ウ)に摘記した甲4の記載や上記(1)オ.(ア)及び(イ)に摘記した甲5の記載も、甲1発明において、上記のようにその構成を変更することを記載したものではなく、これを示唆する記載でもない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲5の記載に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の発明特定事項の全てを含み、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲2ないし甲5の記載に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(4)理由1のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号の規定には該当せず、理由1によって取り消されるべきものとすることはできない。

2.理由2について
綾織には、「綾目」が一方向(順方向、例えば、右上がり方向)の綾目構造と、前記「綾目」が他方向(逆方向、例えば、右下がり方向)の綾目構造の双方があり得ることが技術常識であるところ、本件特許の出願当初の明細書の段落【0014】には以下の記載がある。
「図1は、消防用ホースのジャケットを構成する織物10について、ホース長さ方向の一部を切り取り、更に消防用ホースを扁平にした時の一方の縁部(耳部)に沿って切り、展開したときの模式図である。織物10は、綾織部1および杉綾織部2をホース長さ方向に並べ、ホース周方向に交互に配置されている。杉綾織部2は逆V字形の模様に描かれ、その頂点が示す方向が、水源側の方向であり脱出方向となる。図示の例は、消防用ホースの表側および裏側の略中央部(腹部)に杉綾織部2が配置され、合計2列の杉綾織部2が形成される。杉綾織部2の数は好ましくは1列から5列、より好ましくは1列から3列、更に好ましくは2列であるとよい。周方向に間隔をあけて配置される杉綾織部2の間には、綾織部1が配置される。」(下線は当審にて付与。)
この記載及び上記技術常識を踏まえると、本件特許の出願当初の明細書には、「綾織部および杉綾織部をホース長さ方向に並べて配置」してなる「消防用ホース」として、杉綾織部2が1列であり、この杉綾織部2に並べて配置される綾織部1も1列となり、結果的に綾織部1の全部が一方向(順方向、例えば、右上がり方向)の綾目構造となるもの、または、前記綾織部1の全部が他方向(逆方向、例えば、右下がり方向)の綾目構造となるものが、実質的に記載されていたといえる。
ゆえに、令和元年12月5日の手続補正により本件発明1の「綾織部」について、「前記綾織部が順綾目構造を有し」との記載を「前記綾織部が順綾目構造または逆綾目構造を有し」との記載に変更した補正は、本件特許の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内においてしたものであって、新たな技術的事項を導入したものとはいえない。
したがって、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第1号の規定には該当せず、理由2によって取り消されるべきものとすることはできない。

3.理由3について
まず、理由3は、「本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した発明ではない」ことを前提とする理由であるから、理由3における「特許法第36条第4項第1号の規定」は誤記であって、正しくは、「特許法第36条第6項第1号の規定」であると解される。
しかし、本件特許明細書の段落【0014】には、上記2.で示した本件特許の出願当初の明細書の段落【0014】と全く同じ記載があるから、本件発明1の「前記綾織部が順綾目構造または逆綾目構造を有し」について、綾織部の全部が順綾目構造、逆綾目構造のいずれかだけであることは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、実質的に記載されているといえる。
ゆえに、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。
また、仮に、上記「特許法第36条第4項第1号の規定」は誤記ではないとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】ないし【0023】には、当業者が本件発明1ないし4の実施をすることができる程度に明確かつ十分な説明が記載されていると認められるから、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものでもない。
以上のとおり、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第4号の規定には該当せず、理由3によって取り消されるべきものとすることはできない。

第5.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-03-23 
出願番号 特願2018-37322(P2018-37322)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A62C)
P 1 651・ 536- Y (A62C)
P 1 651・ 55- Y (A62C)
P 1 651・ 537- Y (A62C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 二之湯 正俊  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 高島 壮基
渡邊 豊英
登録日 2020-06-05 
登録番号 特許第6713496号(P6713496)
権利者 帝国繊維株式会社
発明の名称 消防用ホース  
代理人 清流国際特許業務法人  
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