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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1372769
異議申立番号 異議2020-700486  
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-14 
確定日 2021-04-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6631506号発明「正極合剤および非水電解質二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6631506号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6631506号の請求項1?4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2015年(平成27年)2月24日(優先権主張 平成26年2月27日)を国際出願日とする出願であって、令和1年12月20日にその特許権の設定登録がなされ、令和2年1月15日に特許掲載公報が発行され、その後、同年7月14日付けで特許異議申立人実川栄一郎(以下、「申立人」という。)より請求項1?4(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、同年9月30日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年11月27日受付(書留番号071/933)で特許権者より意見書が提出され、その後、同年12月21日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年12月23日付けで申立人より上申書が提出され、当該取消理由(決定の予告)に対して、令和3年2月19日付けで特許権者より意見書が提出されたものである。

2 本件発明
(1)本件発明1?4
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
リチウム基準の作動電圧もしくは初期の結晶相転移に伴う電圧が4.5V以上である正極活物質を含有する非水電解質二次電池の正極合材であって、嵩密度が0.1g/cm^(3)以下、結晶子サイズが10?40Å、ヨウ素吸着量が1?150mg/g、揮発分が0.1%以下、金属不純物が20ppm以下であるカーボンブラックと、正極活物質とを含有することを特徴とする正極合剤。
【請求項2】
前記正極活物質が、Li(M1_(x)Mn_(2-x))O_(4)(但し、0<x<1、M1:Cr、Co、Ni、Cu)、LiM2VO_(4)(M2:Co、Ni)、yLi_(2)MnO_(3)・(1-y)LiM3O_(2)(但し、0<y<1、M3:Ni、Co、Mn、Fe、Ti)、LiCoPO_(4)から選ばれる1種または2種以上である請求項1に記載の正極合剤。
【請求項3】
正極合剤中のカーボンブラックの含有量が1?20質量%である請求項1又は2に記載の正極合剤。
【請求項4】
請求項1?3の何れかに記載の正極合剤を用い、リチウム基準の作動電圧もしくは初期の結晶相転移に伴う電圧が4.5V以上である非水電解質二次電池。」

3 令和2年9月30日付けで通知された取消理由、及び、令和2年12月21日付けで通知された取消理由(決定の予告)の概要
令和2年9月30日付けで通知された取消理由、及び、令和2年12月21日付けで通知された取消理由(決定の予告)の概要は、両者同様の取消理由であり、概ね以下のとおりである。
本件特許についての出願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載は、請求項1の「嵩密度が0.1g/cm^(3)以下、結晶子サイズが10?40Å、ヨウ素吸着量が1?150mg/g、揮発分が0.1%以下、金属不純物が20ppm以下であるカーボンブラック」をどのように製造するかについて、
その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないため、請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

4 上記3以外の異議申立理由
申立人は、上記3以外の異議申立理由として、次の証拠を挙げた上で、下記(1)及び(2)の異議申立理由を主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2007-5148号公報
甲第2号証:「デンカブラック(登録商標)」の製品情報
(https://www.denka.co.jp/product/detail_00025/)
甲第3号証:特開2018-8828号公報
甲第4号証:特開2014-22039号公報
甲第5号証:特開昭60-197962号公報
甲第6号証:特開2012-234772号公報
甲第7号証:国際公開第2010/035871号
甲第8号証:特開2014-194901号公報
甲第9号証:新井啓哲「カーボンブラックの製法と特性」炭素TANSO No.223,p232-243(2006)
甲第10号証:特開昭56-100863号公報
(以下、「甲第1号証」?「甲第10号証」を「甲1」?「甲10」という。)

なお、上記甲1?甲10のうち、甲2は、出力日が本件特許について出願の優先日後である2020年7月10日であり、また、甲3、甲8は、本件特許について出願の優先日後に公開されたものである。

(1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

・請求項1、3、4について
理由(1)
刊行物:甲1

・請求項1?4について
理由(1)
刊行物:甲6

・請求項1、3、4について
理由(2)
刊行物:甲1及び甲7

・請求項1?4について
理由(2)
刊行物:甲6及び甲7

・請求項2について
理由(2)
刊行物:甲1及び甲6

・請求項2について
理由(2)
刊行物:甲1、甲6及び甲7

5 当審の判断
5-1 特許法第36条第4項第1号について(上記3の理由)
(1)本件明細書の記載
本件明細書には、次の記載がある。
「【0021】
本発明におけるカーボンブラックの製造方法は特に限定されるものではないが、アセチレンガスを12m^(3)/時、酸素ガスを9m^(3)/時、水素ガスを0.5m^(3)/時の条件で混合し、カーボンブラック製造炉(炉全長5m、炉直径0.5m)の炉頂に設置されたノズルから噴霧し、炉内温度1800℃以上(好ましくは1800?2400℃)にて、アセチレンの熱分解および燃焼反応を利用した製造方法によって得ることが出来る。」
「【0039】
カーボンブラックからの揮発分は以下の通り規定した。即ち、カーボンブラックを3torrの真空下、950℃で10分間保持したときの重量減少分と規定した。」

(2)甲号証及び参考資料の記載
ア 甲8の記載
甲8には、次の記載がある。
「【0014】
本発明で使用されるカーボンブラックは、JIS K 6221(1982年)法で測定された揮発成分が0.2%以下のものである。カーボンブラックの揮発成分としては、原料由来の未分解品、カーボンブラックの表面官能基等がある。これら揮発成分は電極作製時の塗布電極の乾燥工程でガス発生より平滑な電極表面が得られず、電池内部で電気化学的な反応でもガスを発生して電池性能を劣化させる可能性がある。揮発成分が0.2%を超えるとその傾向が強く、0.2%以下が好ましい。」
「【0025】
実施例1
アセチレンガスを12m^(3)/時、酸素ガスを9m^(3)/時、水素ガスを0.5m^(3)/時の条件で混合し、カーボンブラック製造炉(炉全長5m、炉直径0.5m)の炉頂に設置されたノズルから噴霧し、アセチレンの熱分解及び燃焼反応を利用してサンプルAを製造した。カーボンブラックの一次粒子の平均粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、10000倍の写真の縦横比を変えずに、150%拡大し、粒子100個の直径で最大となる値を実測し、その平均値を求めた。また、揮発分はJISK6217-4(当審注:「JIS K 6221(1982年)」(甲8の【0014】参照。)の誤記であると認められる。)を用いて測定した。カーボンブラックにサンプルA(一次粒子の平均粒子径:18nm、揮発分:0.18%)を、結着剤であるポリフッ化ビニリデンと酸化物の正極活物質であるLiCoO_(2)(累積50%粒子径:13μm)を加え、脱泡混合機で正極スラリーを作製した。」

イ 甲9の記載





」(第235頁右欄第1行?第236頁左欄第9行)

ウ 甲10の記載
甲10には、次の記載がある。
「通常アセチレンの熱分解炉としては生成したアセチレンブラックを含むアセチレンの分解物を円滑に排出するために垂直炉を使用されている。原料アセチレンは炉の上部から炉内に供給され、熱分解されてアセチレンブラックと水素ガスとを生成する。この際発生する多量の分解熱によってその後逐次供給されるアセチレンの熱分解反応が継続される。アセチレンの熱分解は約800℃以上の温度で行なわれるが、高構造で電気抵抗率などのすぐれた品質のアセチレンブラックを得るためには温度1700?2400℃好ましくは1900?2300℃にする必要がある。」(第2頁左上欄第5?17行)

エ 参考資料2の記載
特許権者が、令和2年11月27日受付の意見書とともに提出した参考資料2(日本工業規格「ゴム用カーボンブラック試験方法 JIS K 6221?1982」(以下、「参考資料2」という。))には、次の記載がある。




オ 特許権者が、令和3年2月19日付け意見書とともに提出した乙第1号証(山内源一「アセチレンブラックの研究(第1報)(電池用ブラックとしての諸性質に就いて)」,炭素,4巻4号,p153-163(1954)」(以下、「乙1」という。))には、次の記載がある。
「2.試料及び試験方法
本報告に述べる試料はその見掛比重を異にする一連の電池用試作品として作つたものであるが,これらのものと市販されている数種の国産及び外国産のアセチレンブラックについての比較試験を行つた。各試料は試験前に一ように110?120℃で1.5時間乾燥して使用した。各種の性質についての試験には最も信頼すべき方法を用い,その試験方法の良否については二,三の検討を行つた。以下に試験方法を述べる。
・・・(略)・・・
(2)揮発分
従来の落し蓋付きのルツボを使用して電気炉内で常圧加熱(常圧法と名づける)を行うのでは,得られる揮発分の値が常に大きく,しかも再現性が極めて少ない。これは明らかにブラックの燃焼によつて示されるものである。そこで本実験では1×1×9ccの白金ボートに試料を入れ,それに白金の蓋をして石英管中に挿入し真空度2mmHgの減圧にして白金電気炉で950±10℃ まで30分間で上げ,その温度を10分間保持しそれから30分間に100℃ まで下げて採り出し冷却後秤量した。この方法を真空法と名づけることにするが,この場合の値は極めて再現性良く,全く燃焼は見られない。」(第154頁左欄第6行?第32行)
「3.試験結果及びその考察
・・・(略)・・・
(2)灰分及び揮発分
・・・(略)・・・また原料アセチレンガスの粗製及び精製した場合のブラックの揮発分を区別してTable 1及びFig.2に示した。従来の揮発分の試験方法は主として石炭類に適用さるべきものであるが,この常圧法を使用するとアセチレンブラックのような有孔性の大きなものに対しては多少の燃焼は避けられないことである。ここに使用した試料の揮発分を常圧法で測定するとほとんどのものが約2%になる。Fig.2に示した揮発分は既述せる真空法によつて測定したものであるが,見掛比重の大きいものは揮発分多く約1.5%に達し最低は約0.6%である。」(第155頁左欄第25行?右欄下から4行)




(第156頁上部)

(3)判断
ア 本件発明1は、「嵩密度が0.1g/cm^(3)以下、結晶子サイズが10?40Å、ヨウ素吸着量が1?150mg/g、揮発分が0.1%以下、金属不純物が20ppm以下であるカーボンブラック」「を含有する」ものである。

イ そして、本件明細書には、上記アのカーボンブラックの製造方法、及び、カーボンブラックの揮発分の測定方法について、上記(1)のとおり記載されている。

ウ 一方、甲8には、カーボンブラックの製造方法について、上記(2)のアのとおり記載されている。

エ ここで、製造方法について、上記(1)の方法と上記(2)のアの方法とを対比すると、ガスの流量の条件について両者は同一であるものの、上記(1)の製造方法は「炉内温度1800℃以上(好ましくは1800?2400℃)」であるのに対し、上記(2)のアの製造方法は炉内温度が不明である。

オ しかしながら、甲9、甲10(上記(2)のイ及びウ参照。)によれば、カーボンブラックを熱分解により製造する際の炉内温度として、1800?2400℃は、一般的に採用されている温度であり、上記(2)のアのカーボンブラックの製造方法においても、上記(1)の製造方法と同程度の温度条件で行われていると考えられる。

カ また、揮発分の測定方法について、上記(1)の方法と上記(2)のアの方法(すなわち、上記(2)のエの方法)とを対比すると、前者は、3torrの真空下、950℃で10分間保持したときの重量減少分であるのに対し、後者は、950±25℃で正確に7分間加熱したときの質量減少分であり、圧力は常圧下であると考えられる。

キ そうすると、製造方法については、上記(1)の方法と上記(2)のアの方法との間にほとんど条件の相違はない一方で、揮発分の測定方法については、両者の温度条件はほとんど違いがないものの、圧力と加熱時間が、上記(1)の方法は、真空下10分間の加熱であるのに対し、上記(2)のアの方法は、常圧下7分間の加熱である点で相違がある。

ク ここで、乙1(上記(2)のオ参照。)には、アセチレンブラックの揮発分の測定について、常圧法で測定すると約2%となるのに対し、真空度2mmHgの減圧下で測定したところ、約0.6?約1.5%であった(上記(2)のオの「3.試験結果及びその考察」の「(2)灰分及び揮発分」参照。)ことが記載されている。すなわち、アセチレンブラックの揮発分の測定について、真空下で測定するよりも常圧下で測定した方が揮発分が高くなっている。

ケ そして、上記(2)のアの記載によれば、常圧下で測定する上記(2)のアの方法で得られたカーボンブラックの揮発分は0.18%であり、この記載および上記クの検討からすると、真空下で測定する上記(1)の方法により得られるカーボンブラックの揮発分は、0.18%より少なくなると考えられる。

コ そうすると、本件明細書に記載された上記(1)の製造方法により、「揮発分が0.1%以下」の点を含む上記アの条件を満たすカーボンブラックを製造し得ると考えられる。

サ よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1?4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるいえる。

5-2 特許法第29条第1項第3号、及び、同法同条第2項について(上記4の(1)及び(2)の理由)
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、甲1記載の発明の認定に関連する箇所に、当審で下線を付した。
「【0058】
このようにして得られる本発明の非水電解質二次電池の正極は、リチウム金属基準で4.2?4.5Vといった電圧まで充電しても安定しており、このような電圧のうち、より高電圧での充電を行うことで、更なる高容量化が達成できる。」
「【0061】
実施例1
<正極の作製>
正極活物質には、Li_(1.00)Mn_(0.34)Ni_(0.33)Co_(0.33)O_(2)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(マンガン・コバルト置換ニッケル酸リチウム)[すなわち、上記一般式(1)におけるδが0]を用いた。このリチウム遷移金属複合酸化物は、平均粒径が10μm、BET比表面積が0.25m^(2)/gであり、上記の方法によって測定した中和滴定量(B)は2.0mlであった。
【0062】
上記のリチウム遷移金属複合酸化物と、アセチレンブラック[導電助剤、電気化学工業株式会社製「デンカブラック(商品名)」、粉状品、平均1次粒径(電子顕微鏡法):40nm、BET比表面積:65m^(2)/g、DBP吸油量:180cc/100g]と、PVDFのNMP溶液とを、固形分質量比98:1;1の比率で混合し、溶剤であるNMPを加えて、エム・テクニック社製の「クレアミックス CLM0.8(商品名)」を用いて、回転数:10000min^(-1)で30分間処理を行い、ペースト状の混合物とした。この混合物に、溶剤であるNMPを更に加えて、回転数:10000min^(-1)で15分間処理を行い、正極合剤含有組成物を調製した。
【0063】
上記の正極合剤含有組成物を、集電体であるアルミニウム箔(厚み:15μm)の両面に塗布し、120℃で12時間真空乾燥を施し、更にプレス処理を施して、集電体の両面に、厚みが52μmの正極合剤層を有する正極を作製した。上記の方法によって求めたプレス処理後の正極合剤層の密度は、3.40g/cm^(3)であった。また、この正極における中和滴定量(A)を上記の方法によって測定した。結果を表1に示す。
【0064】
<負極の作製>
天然黒鉛:97.5質量%、SBR:1.5質量%、およびカルボキシメチルセルロース(増粘剤):1質量%を、水を用いて混合してスラリー状の負極合剤含有組成物を調製した。この負極合剤含有組成物を、集電体である銅箔(厚み:8μm)の両面に塗布し、120℃で12時間真空乾燥を施し、更にプレス処理を施して、集電体の両面に、厚みが63μmの負極合剤層を有する負極を作製した。正極合剤層の密度測定方法と同じ方法で求めたプレス処理後の負極合剤層の密度は、1.65g/cm^(3)であった。
【0065】
<電極体の作製>
上記の正極と負極とを、間にセパレータを挟んで重ね合わせ、これらを巻き取って電極体を作製した。セパレータには、厚みが18μmのポリエチレン製多孔膜を用いた。
【0066】
<非水電解液の調製>
ECとMECとDECの混合溶媒(体積比が1:1:1)に、1mol/lの濃度でLiPF_(6)を溶解させて非水電解液(非水電解質)を調製した。
【0067】
<電池の組み立て>
上記の電極体および非水電解液を用いて、角形非水電解質二次電池を組み立てた。組み立て方法は、まず、上記電極体の各端面に集電板を溶接により接合した。次に、集電板のリード部を蓋体に取り付けられている電極端子集電機構と接続した。その後、正極缶の内部に電極体を収容して、正極缶の開口部に蓋体を溶接固定した。最後に蓋体に設けられた注液孔から正極缶内に非水電解液を注入して、厚さ4mm、幅34mm、高さ50mmで、図3に示す構造で、図4に示す外観の角形非水電解質二次電池を作製した。」
「【0081】
<放電容量>
実施例1?3および比較例1?3の電池について、4.4V充電からの放電容量を測定した。測定においては、まず、0.2Aで4.4Vまで定電流充電を行い、その後、電流値が0.02Aとなるまで定電圧充電を行った。次に、0.2Aで3.0Vまで定電流放電を行って、電池容量(放電容量)を求めた。なお、充電後の正極の電位は、リチウム金属基準で4.3Vとなった。」

(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)によれば、甲1の実施例1に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「リチウム遷移金属複合酸化物の正極活物質と、アセチレンブラック[導電助剤、電気化学工業株式会社製「デンカブラック(商品名)」、粉状品と、PVDFのNMP溶液とを、混合し、調製した正極合剤含有組成物であって、
該正極合剤含有組成物を用いて組み立てた角形非水電解質二次電池が、0.2Aで4.4Vまで定電流充電を行うことができる正極合剤含有組成物。」

イ また、上記(1)によれば、甲1の実施例1に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1電池発明」という。)が記載されていると認められる。
「甲1発明の正極合剤含有組成物を用いて組み立てた角形非水電解質二次電池。」

(3)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「デンカブラック
・・・(略)・・・
デンカブラックの用途
・・・(略)・・・
電子部品用材料
<デンカブラック>はアセチレンガスを原料としているため、高純度のカーボンブラックであり、硫黄分や金属分など不純物が極めて少ないため、電子材料用素材として大変優れています。シリコンゴムの導電化では、架橋阻害が少なく良好な導電性を示します。
・・・(略)・・・
デンカブラックのグレード
<デンカブラック>は形状によって、【粉状品】、【プレス品】、【粒状品】の3種類のグループに分けられます。」
「物性値一覧(各数値は規格値ではなく、代表値を示したものです。)

プレス品
粉状品 粒状品
50% 100% FX-35 HS-100
<一次粒子形態、結晶性>
平均粒径(nm) 35 36 36 23 48 35
比表面積(m^(2)/g) 68 65 65 133 39 69
ヨウ素吸着量(mg/g)92 88 88 180 52 93
<一般物性>
かさ密度(g/ml) 0.04 0.08 0.13 0.05 0.15 0.25
塩酸吸液量(mg/5g) 16.8 15.8 13.7 25.8 10.4 14.0
電気抵抗率(Ω・cm)0.21 0.20 0.20 0.25 0.14 0.19

プレス品
粉状品 粒状品
50% 100% FX-35 HS-100
灰分(%) 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01
水分(%) 0.04 0.04 0.04 0.08 0.04 0.03
粗粒分(ppm) <10 <10 <10 <10 <10 <1
ph 9?10 9?10 9?10 9?10 9?10 9?10」

(4)甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「【実施例】
【0026】
実施例1
カーボンブラック製造炉(炉長3m、炉直径0.5m)の炉頂に設置された二重管ノズルの内筒(内径37m、外径43.5mm)からアセチレンガスを15m^(3)/h、外筒(内径55mm)から酸素ガスを5m^(3)/h(噴射速度1.56m/s)の条件で噴霧し、アセチレンの熱分解反応を利用してカーボンブラックを製造した。
得られたカーボンブラックについて、以下の物性を測定した。評価結果を表1に示す。
(1)比表面積(SSA):JIS K6217-2に従い測定した。
(2)DBP吸収量(DBP):JIS K6217-4に従い測定した。
(3)165MPaで4回圧縮した後の比表面積(CSSA):JIS K6217-4附属書A(圧縮試料の作製方法)に従い試料を作製し、JIS K6217-2に従い測定した。
(4)圧縮DBP吸収量(CDBP):JIS K 6217-4に従い測定した。
(5)結晶子サイズLc:X線回折装置(Brucker社製「D8ADVANCE」)により、CuKα線を用いて測定範囲2θ=10?40゜、スリット幅0.5゜の条件でX線回折を行った。測定角度の校正にはX線標準用シリコン(三津和化学薬品社製金属シリコン)を用いた。得られた(002)面の回折線を用いて、Scherrerの式:Lc(Å)=(K×λ)/(β×cosθ)により結晶子サイズLcを求めた。ここでKは形状因子定数0.9、λはX線の波長1.54Å、θは(002)回折線吸収バンドにおける極大値を示す角度、βは(002)回折線吸収バンドにおける半価幅(ラジアン)である。
(6)揮発分:JIS K6221に従い測定した。」
「【0030】
比較例1
市販のカーボンブラック(電気化学工業社製「デンカブラック粉状」)を用いて電極スラリー及び正極を作製し、評価した。評価結果を表1と2に示す。」
「【0033】
【表1】




(5)甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
「〔発明の実施例〕
次に本発明を実施例、比較例で説明する。
先ず、高純度アセチレンブラックの製造方法について示す。
本発明使用の高純度アセチレンブラックI
・・・(略)・・・
本発明使用の高純度アセチレンブラックII
・・・(略)・・・ 本発明で使用する高純度アセチレンブラックと市販の導電性カーボンブラックを表1に示す。」(第3頁左下欄第3行?右下欄最終行)



ここで比較試料のカーボンブラックは、
比較試料I:アセチレンブラック 当社製 デンカブラック
II:日本EC社製ファーネスブラック、商品名 ケッチェンEC
III:キャボット社製ファーネスブラック、商品名 CSX150A2
<測定法>
(1)平均粒径:電子顕微鏡を用いて測定
(2)比表面積:カンタソーブ法(使用ガス 窒素ガス)により測定
(3)塩酸吸液量:JIS K-1469による
(4)灰 分:JIS K-1469による
(5)金属不純物含有量:カーボンブラック中の金属不純物を塩酸抽出、蒸発乾固したものを原子吸光分析にて定量。」(第4頁上欄:本来の記載は左に90度回転しているが、ここでは、右に90度回転させて記載した。また、(1)?(5)は、実際は丸囲み数字。)

(6)甲6の記載
甲6には、次の記載がある。なお、甲6記載の発明の認定に関連する箇所に、当審で下線を付した。
「【0091】
・・・(略)・・・
[比較例1]
<リチウム遷移金属系化合物の製造方法>
Li_(2)CO_(3)、Ni(OH)_(2)、Mn_(3)O_(4)、CoOOHを、Li:Ni:Mn:Co=0.715:0.264:0.195:0.150のモル比となるように秤量し、混合した後、これに純水を加えてスラリーを調製した。このスラリーを攪拌しながら、循環式媒体攪拌型湿式粉砕機を用いて、スラリー中の固形分をメジアン径0.49μmに粉砕した。
【0092】
次に、このスラリー(固形分含有量38重量%)を、二流体ノズル型スプレードライヤー(大川原化工機(株)製:LT-8型)を用いて噴霧乾燥した。この時の乾燥ガスとして空気を用い、乾燥ガス導入量は60L/min、スラリー供給量は11g/minとした。また、乾燥入り口温度は150℃とした。スプレードライヤーにより噴霧乾燥して得られた粒子状粉末、約5gをアルミナ製るつぼに仕込み、空気雰囲気下、850℃で4時間仮焼成後、1050℃で8時間本焼成(昇温速度5℃/min)を行った。解砕して、組成が0.4Li_(2)MnO_(3)・0.6Li_(0.91)Ni_(0.45)Mn _(0.31)Co_( 0.25)O _(2)のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を得た。なお、Liと酸素についての組成分析の結果を、表-1に示す。
【0093】
<リチウム二次電池用正極の作製方法>
上記方法で作製した正極材(リチウム遷移金属系化合物)粉末150mgに対し、導電助剤としてカーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状品」)40mgを入れ、乳鉢中で混合した。この混合物に、更にバインダーとしPTFE(三井・デュポンフルオロケミカル株式会社製「6-J」)を10mg入れ、乳鉢中で更に混合した。得られたバインダーを含む混合物を引き伸ばした後、9mmφの径に打ち抜き正極とした。ここで、正極の重量は6.5?7.5mgの範囲になるように調整した。
【0094】
この正極を120℃で14時間真空乾燥して評価用の正極とした。
<リチウム二次電池の作製方法>
得られた正極をアルミニウムメッシュに載せ、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/3/4(体積比)の混合液を溶媒とした1mol/L-LiPF_(6)電解液と、セパレータとしてポリプロピレンセパレータと、対極としてリチウム金属箔とを用い、ドライルーム内(露点-60℃以下)でCR2032型コイン電池(リチウム二次電池)を作製した。
【0095】
<レート特性評価>
1/15C(200mAh/gを1Cとして計算)の電流密度でリチウム対極に対して4.8Vまで充電し、更に、4.8Vの一定電圧で電流値が1/50Cになるまで充電し、正極中からリチウムを脱離した後、1/15C、1/2Cまたは1Cの電流密度でリチウム対極に対して2.0Vまで放電を行ない、放電容量を得た。結果を表-1に示す。」

(7)甲6に記載された発明
ア 上記(6)によれば、甲6の比較例1に注目すると、甲6には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物からなる正極材に対し、導電助剤としてカーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状品」)を混合し、更にバインダーとしPTFEを混合して得られた混合物であって、
該混合物から得た正極と、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/3/4(体積比)の混合液を溶媒とした1mol/L-LiPF_(6)電解液と、対極としてリチウム金属箔とを用いて作製したリチウム二次電池が、リチウム金属箔に対して4.8Vまで充電し得る混合物。」

イ また、上記(6)によれば、甲6の比較例1に注目すると、甲6には、次の発明(以下、「甲6電池発明」という。)が記載されていると認められる。
「甲6発明の混合物から得た正極と対極としてリチウム金属箔とを用いて作製したリチウム二次電池。」

(8)甲7の記載
甲7には、次の記載がある。なお、甲7に記載された事項の認定に関連する箇所に、当審で下線を付した。
「[0006]カーボンブラックは、その製造方法や使用する原料により含まれる不純物の種類や量が異なるが、例えば汎用的なカーボンブラック製造法であるファーネス法のうちガスファーネス法で製造したケッチェンブラックには鉄が15?60ppm程度含まれる。本発明の方法によれば、鉄の含有量を2?10ppm程度にまで低減することができる。・・・(略)・・・本発明の方法により得られる精製カーボンブラックは金属含有量が少ないため、特に二次電池の正極や負極の電極材料としての使用に適する。
発明を実施するための最良の形態
[0007]〔カーボンブラック〕
カーボンブラックは、一般に、天然ガス、アセチレン、アセチル、芳香族炭化水素油などを熱分解、不完全燃焼などさせてえられる微細な球状粒子の集合体であり、その製法には、ファーネス法、チャンネル法、サーマル法などがある。カーボンブラックは通常不純物として痕跡量の金属を含む。含まれる金属やその量は原料や製造方法により異なるが、鉄、ニッケル、バナジウムが主に含まれる。
本発明ではカーボンブラックとして、鉄の含有量が100ppm以下である公知の各種カーボンブラックが使用でき、例えば通常入手可能なファーネスブラックを用いることができる。
[0008]本発明の方法によれば、鉄の含有量が100ppm以下、特に50ppm以下、更に特に30ppm以下、更に特に20ppm以下にまで低減された高純度のカーボンブラックを原料とした場合に、鉄の含有量を更に低減することができる。本発明の製造方法において原料として使用できる鉄含有量が低減されたカーボンブラックは、例えば、金属分の少ない原料油から製造されるか、或いは、鉄含有量の多いカーボンブラックを公知の方法、例えば水、キレート剤または酸の水溶液で洗浄することにより製造される。本発明によると、鉄の含有量を、10ppm以下、好ましくは7ppm以下、さらには5ppm以下にまで低減することができる。なお、本発明の効果を十分に得るためには、鉄含有量が10ppmを超えるカーボンブラックを原料として使用することが好ましい。
カーボンブラックとしては、粒状にする前の状態のもの、例えば水性分散液の状態のものも使用することができる。なお、鉄含有量はカーボンブラック水性分散液の固形分(乾燥重量)に対する量として示す。水性分散液の状態のものを原料とする場合は、カーボンブラック水性分散液をろ過、水分量が2%程度になるまで乾燥した後、鉄含有量を測定する。乾燥は100?150℃の温度で、常圧で24時間程度放置することで行うことが出来る。
商業的に入手できるカーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラックインターナショナル社製「ケッチェンブラックEC300J」、「ケッチェンブラックEC600JD」等が挙げられる。」
「[0016]本発明により精製したカーボンブラックは、各種電池の電極材料としても適用できる。例えば、リチウムイオン二次電池の正極に適用する場合、活物質、結着剤とカーボンブラックを混合し適当な溶媒に分散せしめた後、集電体上に塗布して乾燥後プレスすることにより正極を作成することができる。本発明の製造方法により得られる精製カーボンブラックは金属分がより低減化されるため、二次電池の発火などの危険性を低減できる。」
「実施例
[0017]実施例及び比較例で用いた溶媒、カーボンブラック、ICP分析用塩酸及び有機酸を以下に示す。
[0018][表1]


[0019](2)評価方法
(2.1)金属量測定:高周波誘導結合プラズマ法
関東化学(株)製原子吸光分析用塩酸10mL、純水190mLを混合して成る希塩酸水溶液(以下、希塩酸A)と、同塩酸20mL、純水180mLを混合して成る希塩酸水溶液(以下、希塩酸B)を調製した。続いて希塩酸A 200mLとカーボンブラック10gとをねじ口ビン(500mL)に加え、卓上振とう機により150rpmで1.5時間攪拌した後、メンブレンフィルター(1μm)を用いて減圧濾過により固液分離を行なった。フィルター上に残ったカーボンブラックを30mLの純水で洗浄して得られた濾液を500mLのビーカーに移し、300℃で1.5時間加熱して残りが10mL程度になるまで蒸発させた後、25mLのメスフラスコに移し、希塩酸溶液Bで希釈したものをプラズマ原子発光分光(ICP)法にかけることによって行った。ICP分析装置としては、Optima5300 DV(株式会社パーキンエルマージャパン)を用いた。
なお、原料として用いたカーボンブラック中の含有量は鉄15ppm(ケッチェンブラックEC300J)あるいは鉄45ppm(ケッチェンブラックEC600JD)であり、ニッケル、バナジウム、銅、クロム含有量はいずれも検出限界以下であった。」
「[0022]実施例1?3
1リットルビーカーに純水940g(23℃)を加えた後、ホモミキサー(350rpm)で攪拌しながら有機酸10gを少量ずつ加えていき、全量を添加した段階で、カーボンブラック(ケッチェンブラックEC300J)50g(乾燥重量)を加え、そのままの温度でホモミキサー(1000rpm)で30分間攪拌した後、得られたカーボンブラック水分散液をNo.5Cの濾紙を用いて減圧濾過により固液分離を行った。濾紙上に残ったウェット状のカーボンブラックに1000gの純水を加えて再びホモミキサー(350rpm)で30分間攪拌した後、減圧濾過により固液分離を行い、得られたカーボンブラックを150℃で24時間乾燥することにより、高純度のカーボンブラック粉末を得た。」
「結果を下記表2から表4に示す。
[0025][表2]



(9)甲7に記載された事項
上記(8)より、甲7には次の事項が記載されていると認められる。
「ガスファーネス法で製造したケッチェンブラックの鉄の含有量を15ppmまで低減し、ニッケル、バナジウム、銅、クロム含有量はいずれも検出限界以下とする事項。」

(10)甲1を主引例とした場合
(10-1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「リチウム遷移金属複合酸化物の正極活物質」、「アセチレンブラック[導電助剤、電気化学工業株式会社製「デンカブラック(商品名)」、粉状品]」、「角形非水電解質二次電池」、「正極合剤含有組成物」は、それぞれ本件発明1の「正極活物質」、「カーボンブラック」、「非水電解質二次電池」、「正極合剤」に相当する。

イ 上記アによれば、本件発明1と甲1発明とは、
「非水電解質二次電池の正極合材であって、カーボンブラックと、正極活物質とを含有する正極合剤。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点1)
「正極活物質」について、本件発明1は、「リチウム基準の作動電圧もしくは初期の結晶相転移に伴う電圧が4.5V以上である」ものであるのに対し、甲1発明は、「正極合剤含有組成物を用いて組み立てた角形非水電解質二次電池が、0.2Aで4.4Vまで定電流充電を行うことができる」点。
(相違点2)
「カーボンブラック」の「嵩密度」について、本件発明1は「0.1g/cm^(3)以下」であるのに対し、甲1発明は、「アセチレンブラック[導電助剤、電気化学工業株式会社製「デンカブラック(商品名)」、粉状品]」の嵩密度が不明である点。
(相違点3)
「カーボンブラック」の「結晶子サイズ」について、本件発明1は「10?40Å」であるのに対し、甲1発明は、「アセチレンブラック[導電助剤、電気化学工業株式会社製「デンカブラック(商品名)」、粉状品]」の結晶子サイズが不明である点。
(相違点4)
「カーボンブラック」の「ヨウ素吸着量」について、本件発明1は「1?150mg/g」であるのに対し、甲1発明は、アセチレンブラック[導電助剤、電気化学工業株式会社製「デンカブラック(商品名)」、粉状品]のヨウ素吸着量が不明である点。
(相違点5)
「カーボンブラック」の「揮発分」について、本件発明1は「0.1%以下」であるのに対し、甲1発明は、「アセチレンブラック[導電助剤、電気化学工業株式会社製「デンカブラック(商品名)」、粉状品]」の揮発分が不明である点。
(相違点6)
「カーボンブラック」の「金属不純物」の含有量について、本件発明1は「20ppm以下」であるのに対し、甲1発明は、「アセチレンブラック[導電助剤、電気化学工業株式会社製「デンカブラック(商品名)」、粉状品]」の金属不純物の含有量が不明である点。

ウ 事案に鑑み、まず、上記相違点6について検討する。

エ 甲5の表1(上記(5)参照。)には、「カーボンブラック」の「モース硬度3以上の金属不純物の含有量(ppm)」が示されており、「比較試料I:アセチレンブラック 当社製 デンカブラック」について、「モース硬度3以上の金属不純物の含有量(ppm)」の総量が8ppmよりも小さいことが記載されている。

オ しかしながら、甲2(上記(3)参照。)にも示されているとおり、「デンカブラック」には、「粉状品」に加えて「プレス品」、「粒状品」が存在し、さらに、「プレス品」には、「50%」、「100%」、「FX-35」、「HS-100」の4種類のものが存在するから、上記エの「アセチレンブラック 当社製 デンカブラック」が、甲1発明の「アセチレンブラック[導電助剤、電気化学工業株式会社製「デンカブラック(商品名)」、粉状品]」と同一のものであるかが不明である。

カ また、仮に、上記エの「アセチレンブラック 当社製 デンカブラック」が、甲1発明の「アセチレンブラック[導電助剤、電気化学工業株式会社製「デンカブラック(商品名)」、粉状品]」と同一のものであったとしても、本件明細書には、「カーボンブラックの金属不純物は、・・・(略)・・・Fe、Ni、Cr、Cuの濃度の和である」(【0040】)と記載されているところ、甲5の表1(上記(5)参照。)には、「カーボンブラック」の「モース硬度3以上の金属不純物の含有量(ppm)」としてCuについて記載されていない。
そうすると、上記エの「アセチレンブラック 当社製 デンカブラック」にどの程度のCuが含まれているかが不明であるから、上記エの「アセチレンブラック 当社製 デンカブラック」、すなわち、甲1発明の「アセチレンブラック[導電助剤、電気化学工業株式会社製「デンカブラック(商品名)」、粉状品]」が、本件発明1の「金属不純物が20ppm以下である」との発明特定事項を含むか否かが不明である。

キ したがって、上記相違点6は実質的な相違点である。

ク よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。

ケ また、甲7には、次の事項が記載されている(上記(9)参照。)。
「ガスファーネス法で製造したケッチェンブラックの鉄の含有量を15ppmまで低減し、ニッケル、バナジウム、銅、クロム含有量はいずれも検出限界以下とする事項。」

コ しかしながら、甲1発明は、正極の導電助剤として「アセチレンブラック[導電助剤、電気化学工業株式会社製「デンカブラック(商品名)」」を用いた発明であって、上記キでも検討したとおり、「デンカブラック(商品名)」の金属不純物の含有量を少なくする動機を見いだせないものである。

サ また、カーボンブラックに含有される不純物はその製造方法によって異なると考えられるところ、甲1発明の「デンカブラック(商品名)」はアセチレン法によって製造されたものであるのに対し、甲7に記載されたケッチェンブラックはガスファーネス法で形成されたものであって、両者の元々の金属不純物含有量は異なると考えられるから、甲1発明において、甲7に記載された上記コの事項を適用する動機がない。

シ したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(10-2)本件発明2について
ア 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであって、甲1発明と比較して、少なくとも、上記相違点6で相違するものであるから、甲1発明及び甲6に記載された事項、または、甲1発明、甲6に記載された事項及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(10-3)本件発明3について
ア 本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであって、甲1発明と比較して、少なくとも、上記相違点6で相違するものであるから、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(10-4)本件発明4について
ア 本件発明4と甲1電池発明とを対比すると、少なくとも、上記相違点6で相違するものであるから、本件発明4は、甲1電池発明であるとはいえないし、甲1電池発明及び甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(11)甲6を主引例とした場合
(11-1)本件発明1について
本件発明1と甲6発明とを対比する。
ア 甲6発明の「リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物からなる正極材」、「カーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状品」)」、「混合物」は、それぞれ本件発明1の「正極活物質」、「カーボンブラック」、「正極合剤」に相当する。
また、甲6発明の「リチウム二次電池」は、「エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/3/4(体積比)の混合液を溶媒とした1mol/L-LiPF_(6)電解液」を「用いて作製し」たものであるから、本件発明1の「非水電解質二次電池」に相当する。

イ 甲6発明の「混合物から得た正極と、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/3/4(体積比)の混合液を溶媒とした1mol/L-LiPF_(6)電解液と、対極としてリチウム金属箔とを用いて作製したリチウム二次電池が、リチウム金属箔に対して4.8Vまで充電し得る」事項は、本件発明1の「リチウム基準の作動電圧もしくは初期の結晶相転移に伴う電圧が4.5V以上である正極活物質を含有する」事項に相当する。

ウ 上記ア、イによれば、本件発明1と甲6発明とは、
「リチウム基準の作動電圧もしくは初期の結晶相転移に伴う電圧が4.5V以上である正極活物質を含有する非水電解質二次電池の正極合材であって、カーボンブラックと、正極活物質とを含有する正極合剤。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点7)
「カーボンブラック」の「嵩密度」について、本件発明1は「0.1g/cm^(3)以下」であるのに対し、甲6発明の「カーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状品」)」の嵩密度が不明である点。
(相違点8)
「カーボンブラック」の「結晶子サイズ」について、本件発明1は「10?40Å」であるのに対し、甲6発明の「カーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状品」)」の結晶子サイズが不明である点。
(相違点9)
「カーボンブラック」の「ヨウ素吸着量」について、本件発明1は「1?150mg/g」であるのに対し、甲6発明の「カーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状品」)」のヨウ素吸着量が不明である点。
(相違点10)
「カーボンブラック」の「揮発分」について、本件発明1は「0.1%以下」であるのに対し、甲6発明の「カーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状品」)」の揮発分が不明である点。
(相違点11)
「カーボンブラック」の「金属不純物」の含有量について、本件発明1は「20ppm以下」であるのに対し、甲6発明の「カーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状品」)」の金属不純物の含有量が不明である点。

エ 事案に鑑み、まず、上記相違点11について検討する。

オ 甲5の表1(上記(5)参照。)には、「カーボンブラック」の「モース硬度3以上の金属不純物の含有量(ppm)」が示されており、「比較試料I:アセチレンブラック 当社製 デンカブラック」について、「モース硬度3以上の金属不純物の含有量(ppm)」の総量が8ppmよりも小さいことが記載されている。

カ しかしながら、甲2(上記(3)参照。)にも示されているとおり、「デンカブラック」には、「粉状品」に加えて「プレス品」、「粒状品」が存在し、さらに、「プレス品」には、「50%」、「100%」、「FX-35」、「HS-100」の4種類のものが存在するから、上記オの「アセチレンブラック 当社製 デンカブラック」が、甲6発明の「カーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状品」)」を示すものであるかが不明である。

キ また、仮に、上記オの「アセチレンブラック 当社製 デンカブラック」が、甲6発明の「カーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状品」)」と同一のものであったとしても、本件明細書には、「カーボンブラックの金属不純物は、・・・(略)・・・Fe、Ni、Cr、Cuの濃度の和である」(【0040】)と記載されているところ、甲5の表1(上記(5)参照。)には、「カーボンブラック」の「モース硬度3以上の金属不純物の含有量(ppm)」としてCuについて記載されていない。
そうすると、上記オの「アセチレンブラック 当社製 デンカブラック」にどの程度のCuが含まれているかが不明であるから、上記オの「アセチレンブラック 当社製 デンカブラック」、すなわち、甲6発明の「カーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状品」)」が、本件発明1の「金属不純物が20ppm以下である」との発明特定事項を含むか否かが不明である。

ク したがって、上記相違点11は実質的な相違点である。

ケ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲6発明であるとはいえない。

コ また、甲7には、次の事項が記載されている(上記(9)参照。)。
「ガスファーネス法で製造したケッチェンブラックの鉄の含有量を15ppmまで低減し、ニッケル、バナジウム、銅、クロム含有量はいずれも検出限界以下とする事項。」

サ しかしながら、甲6発明は、正極の導電助剤として「カーボンブラック(電気化学工業株式会社製「デンカブラック粉状品」)」を用いた発明であって、上記クでも検討したとおり、「デンカブラック粉状品」の金属不純物の含有量を少なくする動機がない。

シ また、カーボンブラックに含有される不純物はその製造方法によって異なると考えられるところ、甲6発明の「デンカブラック粉状品」はアセチレン法によって製造されたものであるのに対し、甲7に記載されたケッチェンブラックはガスファーネス法で形成されたものであって、両者の元々の金属不純物含有量は異なると考えられるから、甲6発明において、甲7に記載された上記コの事項を適用する動機がない。

ス したがって、本件発明1は、甲6発明及び甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(11-2)本件発明2について
ア 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであって、甲6発明と比較して、少なくとも、上記相違点11で相違するものであるから、甲6発明であるとはいえないし、甲6発明及び甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(11-3)本件発明3について
ア 本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであって、甲6発明と比較して、少なくとも、上記相違点11で相違するものであるから、甲6発明であるとはいえないし、甲6発明及び甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(11-4)本件発明4について
ア 本件発明4と甲6電池発明とを対比すると、少なくとも、上記相違点11で相違するものであるから、甲6電池発明であるとはいえないし、甲6電池発明及び甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

6 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?4に係る特許は、令和2年9月30日付けで通知された取消理由、令和2年12月21日付けで通知された取消理由(決定の予告)、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-04-05 
出願番号 特願2016-505228(P2016-505228)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 利永子  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 土屋 知久
磯部 香
登録日 2019-12-20 
登録番号 特許第6631506号(P6631506)
権利者 戸田工業株式会社 デンカ株式会社
発明の名称 正極合剤および非水電解質二次電池  
代理人 清水 義憲  
代理人 中塚 岳  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 中塚 岳  

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