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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G01N 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G01N 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G01N |
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管理番号 | 1372770 |
異議申立番号 | 異議2020-700520 |
総通号数 | 257 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-05-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-07-28 |
確定日 | 2021-04-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6637114号発明「マイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法およびキット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6637114号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6637114号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)8月22日(優先権主張 平成25年8月23日)を国際出願日とする特願2015-532927号の一部を平成30年6月12日に新たな特許出願としたものであって、令和元年12月27日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月29日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和2年 7月28日 :特許異議申立人 中村和男(以下、「申立人」 という。)による請求項1ないし8に係る特許 に対する特許異議の申立て 同年11月 9日付け:取消理由通知 令和3年 1月14日 :特許権者による意見書の提出 同年 2月10日付け:申立人に対する審尋 同年 3月17日 :申立人による回答書の提出 第2 本件発明 本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ請求項の番号に従って「本件発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 (本件発明1) 「【請求項1】 マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体と第二の抗体とを用いたサンドイッチ式免疫測定法からなるマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法であって、前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であり、被検試料として生体試料が用いられ、前記第一の抗体及び第二の抗体が、前記免疫学的検出法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える検出法。」 (本件発明2) 「【請求項2】 前記サンドイッチ式免疫測定法が、ELISA法又はイムノクロマトグラフィー測定法である、請求項1に記載の検出法。」 (本件発明3) 「【請求項3】 前記第一の抗体及び第二の抗体の何れか一方を担体に固定しておく請求項1または2に記載の検出法。」 (本件発明4) 「【請求項4】 マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体と第二の抗体とを少なくとも備えてなるマイコプラズマ・ニューモニエのサンドイッチ式免疫測定キットであって、前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であり、被検試料として生体試料が用いられ、前記第一の抗体及び第二の抗体が、前記サンドイッチ式免疫測定キットを用いて菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えるサンドイッチ式免疫測定キット。」 (本件発明5) 「【請求項5】 前記サンドイッチ式免疫測定が、ELISA法又はイムノクロマトグラフィー測定法である、請求項4に記載のサンドイッチ式免疫測定キット。」 (本件発明6) 「【請求項6】 マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体と第二の抗体と膜担体とを少なくとも備え、前記第一の抗体は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第二の抗体は適当な標識物質で標識され、かつ、前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように用意されてなる、マイコプラズマ・ニューモニエ検出イムノクロマトグラフィーテストストリップであって、前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であり、被検試料として生体試料が用いられ、前記第一の抗体及び第二の抗体が、前記イムノクロマトグラフィーテストストリップを用いて菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えるイムノクロマトグラフィーテストストリップ。」 (本件発明7) 「【請求項7】 前記第二の抗体は金属コロイドまたはラテックスで標識されている請求項6に記載のイムノクロマトグラフィーテストストリップ。」 (本件発明8) 「【請求項8】 前記膜担体がニトロセルロース膜である請求項7に記載のイムノクロマトグラフィーテストストリップ。」 第3 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 請求項1ないし8に係る特許に対して、当審が令和2年11月9日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (取消理由1)(サポート要件) 発明の詳細な説明において感度が開示されているモノクローナル抗体の組合せは、クローンBLA-001を第一の抗体とし、クローンBLA-002を第二の抗体とする組合せのみであり、他のモノクローナル抗体を組み合わせた場合の検出感度は不明であるから、「第一の抗体及び第二の抗体」が、「サンドイッチ式免疫測定法」において「菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」ことを発明特定事項として含む請求項1ないし8に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができるとは認められない。 したがって、請求項1ないし8に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。 よって、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (取消理由2)(実施可能要件) 請求項1ないし8に記載された発明の「サンドイッチ式免疫測定法」において「菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」「第一の抗体及び第二の抗体」として、発明の詳細な説明には、第一の抗体をクローンBLA-001、第二の抗体をクローンBLA-002とする組合せのみが記載されている。 しかしながら、発明の詳細な説明には、これらの抗体の寄託に関する記載はなく、第三者から入手することができるともいえず、生成するためには当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要するものと認められることから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし8に記載された発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。 よって、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 2 発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線は当審で付加した。)。 「【0034】 被験試料中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出するための本発明のイムノクロマトグラフィー測定法は、公知のイムノクロマトグラフィーテストストリップの構成に準拠して容易に実施できる。 一般に、かかるイムノクロマトグラフィーテストストリップは、抗原の第一の抗原決定基にて抗体抗原反応可能な第一の抗体と、前記抗原の第二の抗原決定基にて抗体抗原反応可能で且つ標識された第二の抗体と、膜担体とを少なくとも備え、前記第一の抗体は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第二の抗体は前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように配置されて構成される。第一の抗体および第二の抗体は、上述のように、それぞれポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であっても良いが、少なくとも何れか一方がモノクローナル抗体であることが好ましい。通常は、第一の抗体及び第二の抗体は「ヘテロ」の組み合わせで用いられ、すなわち、抗原上の位置および構造の何れもが異なる各抗原決定基をそれぞれ認識する第一の抗体及び第二の抗体が組み合わせて用いられる。しかしながら、第一の抗原決定基と第二の抗原決定基は抗原上の位置が異なっていれば構造的に同一であってもよく、その場合、第一の抗体および第二の抗体は「ホモ」の組み合わせのモノクローナル抗体であってよく、すなわち、第一の抗体および第二の抗体の両方に同一のモノクローナル抗体が使用できる。 ・・・ 【0046】 (実施例1:組換えP30タンパク質の発現と精製) マイコプラズマ・ニューモニエM129株のP30タンパク質のアミノ酸配列をDDBJ(国立遺伝学研究所データベース)より入手した。前記P30タンパク質のアミノ酸配列から、膜貫通ドメインを除いた細胞外領域である配列番号2に示すアミノ酸配列(AA74-274)を特定し、対応する遺伝子配列を合成した。His-tag発現用ベクターであるpET302/NT-Hisを制限酵素EcoRIで切断した後、脱リン酸化処理としてアルカリフォスファターゼにより処理し、前記遺伝子配列と混合し、DNALigationKitVer.2(タカラバイオ)を用いてライゲーション反応をおこなった。目的遺伝子を組み込んだ組換えP30プラスミドを組換え蛋白発現用宿主E.coliBL(DE3)pLysS(Novagen)に導入した。導入菌をLB寒天平板培地で培養し、得られたコロニーをLB液体培地で培養した。さらに1mMIPTG(タカラバイオ)を添加して組換えP30タンパク質の発現を誘導した後、E.coli回収した。回収した菌を可溶化バッファー[0.5%TrironX-100(sigma)、10mMImidazole、20mMPhosphateおよび0.5MNaCl(pH7.4)(Amersham)]に再浮遊し、超音波処理により可溶化した後、組換えP30タンパク質をHistrapKit(Amersham)を用いて精製した。この精製タンパク質をリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと称する)に対して透析し、目的の組換えP30タンパク質とした。 【0047】 (実施例2:組換えP30タンパク質に対するモノクローナル抗体の作出) 実施例1で得られた組換えP30タンパク質を免疫用抗原として、組換えP30タンパク質に対するモノクローナル抗体(以下、抗P30抗体と称する)を作出した。モノクローナル抗体の作出は常法に従っておこなった。・・・ 【0048】 (実施例3:モノクローナル抗体の調製) ・・・ 最終的にP30タンパク質に対するモノクローナル抗体産生細胞が5クローン得られた。これらのモノクローナル抗体のイムノグロブリンアイソタイプは全てIgG_(1)であった。 ・・・ 【0052】 (実施例4:抗P30抗体と抗P1抗体の反応性の比較検討) 実施例3により得られた抗P30抗体及び比較例2で得られた抗P1抗体の反応性を確認した。参考例1にて調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株及びFH株、マイコプラズマ・ジェニタリウムの菌液を所定濃度にて固相化したマイクロプレートに、実施例2及び比較例2にて作製した各抗体を添加し、室温にて1時間反応させた。次にウェル内の溶液を吸引除去し、洗浄後、ビオチン標識抗マウス抗体を反応させた。1時間の反応の後、ウェル内の溶液を吸引除去し洗浄した後、アビジン標識ホースラディッシュペルオキシダーゼを添加し反応させた。その後、発色基質として3,3‘,5,5’-テトラメチルベンジン(TMBZ)溶液を添加し反応させ、2規定の硫酸により反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Biorad)にて主波長450nmにて測定した。結果を表1から表3に示す。 【0053】 【表1】 【0054】 【表2】 【0055】 【表3】 【0056】 表1から明らかなように、実施例2にて作製された抗P30抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株のいずれにも高い反応性を示し、陰性対照のマイコプラズマ・ジェニタリウムに対しては交差反応しないことを確認した。 また表2および表3から明らかなように、比較例2にて作製した抗P1抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエのM129株とFH株に対し、いずれか一方に反応性が偏る抗体であることが示された。反応性の偏りはP1遺伝子型によるものであり、P1遺伝子型によるP1タンパク質のアミノ酸配列の相違がモノクローナル抗体の反応性に表れている可能性が高い。また陰性対照としたマイコプラズマ・ジェニタリウムに対する若干の交差反応性を認めた。 したがって、P30タンパク質はマイコプラズマ・ニューモニエにおいて共通して保存されており、かつ、特異的なタンパク質であることが示され、さらにP30タンパク質を特異的に認識するモノクローナル抗体を取得した。 【0057】 (実施例5:抗P30抗体を用いたイムノクロマトグラフィーテストストリップの作製) (1)抗P30抗体の調製 実施例3で得られたハイブリドーマBLA-001およびBLA-002をマウス腹腔に接種し得られた腹水それぞれを、さらに常法によりプロテインGを用いたIgG精製を行い、抗P30抗体とした。 ・・・ 【0059】 (3)白金-金コロイド標識抗P30抗体溶液の調製 白金ー金コロイド標識する抗P30抗体として、上記(1)で得られたクローンBLA-002を用い、下記の手順で白金-金コロイド標識を行った。 ・・・ 【0060】 (4)マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップの作製 (4-1)マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質と白金?金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位 幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3として用意した。抗P30抗体1.0mg/mlが含有されてなる溶液0.5μlを、このクロマト展開用膜担体3におけるクロマト展開開始点側の末端から7.5mmの位置にライン状に塗布して、これを室温で乾燥し、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質と白金ー金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位31とした。この塗布用抗P30抗体として、上記(1)で得られたクローンBLA-001を用いた。 (4-2)白金ー金コロイド標識抗体含浸部材 5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布に、白金-金コロイド標識抗体溶液37.5μlを含浸せしめ、これを室温で乾燥させて白金ー金コロイド標識抗体含浸部材2とした。 (4-3)イムノクロマトグラフィーテストストリップの作製 上記クロマト展開用膜担体3、上記標識抗体含浸部材2の他に、試料添加用部材5として綿布と、吸収用部材4として濾紙を用意した。そして、これらの部材を用いて、図1と同様のイムノクロマトグラフィーテストストリップを作製した。 【0061】 (5)試験 参考例1で得られたマイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株の培養菌液を検体抽出液で希釈して、所定濃度に調製し、被検試料とした。そして、被検試料120μlを用いて上記(4)で得られたテストストリップの試料添加用部材5にマイクロピペットで滴下してクロマト展開し、室温で15分放置後、上記捕捉部位31で捕捉されたP30タンパク質と白金ー金コロイド標識抗体との複合体の捕捉量を肉眼で観察した。捕捉量は、その量に比例して増減する黒色の呈色度合いを肉眼で-(着色なし)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)、+++(顕著な着色)の5段階に区分して判定した。 その結果を表4に示す。表4から明らかなように、2種の抗P30抗体を使用したイムノクロマトグラフィー測定法により、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質を検出できることがわかった。またBlankにおける非特異的呈色も確認されなかった。 【0062】 【表4】 ・・・ 【0064】 (実施例6:P30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップとP1タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップの反応性比較試験) 参考例1にて調製したマイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株の培養菌液を、検体抽出液にて所定濃度に調製し、被検試料とした。各イムノクロマトグラフィーテストストリップに、被検試料120μlを試料添加用部材5にマイクロピペットでそれぞれ滴下してクロマト展開し、室温で15分間放置後、捕捉部位31で捕捉された抗原と白金-金コロイド標識抗体との複合体を肉眼で観察して判定を行った。捕捉量は、その量に比例して増減する黒色の呈色度合いを肉眼で-(着色なし)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)、+++(顕著な着色)の5段階に区分して判定した。結果を表5に示す。 【0065】 【表5】 【0066】 表5から明らかなように、P30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップを用いた場合、M129株では1×10^(7)CFU/ml、FH株では1×10^(6)CFU/mlで顕著な呈色を示し、M129株では1×10^(6)CFU/ml、FH株では1×10^(5)CFU/mlで明確な呈色を示した。一方、P1タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップを用いた場合には、M129株では1×10^(8)CFU/ml、FH株では1×10^(7)CFU/mlにて明確な呈色を示した。 【0067】 表5の結果から明らかなように、同じ呈色強度を示した被検試料の菌濃度を比較した結果、P30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップが、P1タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップに対し、M129株およびFH株との反応性において100倍の検出感度差があることが示された。以上の結果より、抗P30抗体を用いた、P30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップにより、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度かつ特異的に検出することが可能であることが示された。」 3 当審の判断 (1)取消理由2(実施可能要件)について 事案に鑑み、最初に実施可能要件について検討する。 ア 本件発明1ないし8は、「第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であり」、「前記第一の抗体及び第二の抗体」が、「サンドイッチ式免疫測定」(イムノクロマトグラフィー)において「菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」こと(以下「本件抗体条件」という。)を発明特定事項として含んでいる。 そのため、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明1ないし8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるためには、本件抗体条件を満たす抗体の組合せを製造又は第三者から入手できるように記載されていることが必要である。 そこで、本件特許の発明の詳細な説明が、本件抗体条件を満たす抗体の組合せを再現性をもって取得することができるように記載されているか、以下検討する。 イ 発明の詳細な説明の記載から、以下のことが読み取れる。 (ア)マイコプラズマ・ニューモニエM129株のP30タンパク質のアミノ酸配列から、膜貫通ドメインを除いた細胞外領域である配列番号2に示すアミノ酸配列(AA74-274)を特定して、対応する遺伝子配列を合成し、組換えP30タンパク質を得て(【0046】)、常法に従って組換えP30タンパク質に対するモノクローナル抗体を作出し(【0047】)、P30タンパク質に対するモノクローナル抗体産生細胞が5クローン得られた(【0048】)こと。 (イ)クローンBLA-001ないし005(【0053】)は、上記(ア)の5クローンに対応するモノクローナル抗体である(【0052】)こと。 (ウ)クローンBLA-001ないし005は、マイクロプレートを用いた反応試験(【0052】)において、所定濃度にて固相化したマイコプラズマ・ニューモニエのM129株及びFH株のいずれにも高い反応性を示した(【0053】、【0056】)こと。 (エ)クローンBLA-002を標識抗体(第二の抗体)とし(【0059】)、クローンBLA-001を捕捉抗体(第一の抗体)としたイムノクロマトグラフィーテストストリップ(【0060】)に対して、マイコプラズマ・ニューモニエのM129株の培養菌液の希釈液を被検試料として呈色試験(【0061】)をした結果、菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製した被検試料に対して明確な着色(+)、菌濃度1×10^(7)(CFU/mL)に調製した被検試料に対して顕著な着色(++)を呈した(【0062】)こと。 ウ 上記イ(ア)ないし(ウ)から、発明の詳細な説明には、マイコプラズマ・ニューモニエのM129株に対して高い反応性を示すモノクローナル抗体を産生する細胞が5クローン得られたことが開示されており、発明の詳細な説明に記載されたモノクローナル抗体の製造方法により、再現性をもって同様の反応性を示すモノクローナル抗体を取得することができるといえる。 エ そして、上記イ(エ)から、クローンBLA-001を第一の抗体とし、クローンBLA-002を第二の抗体とする組合せ(以下「本件抗体組合せ」という。)は、サンドイッチ式免疫測定法であるイムノクロマトグラフィー測定法において、菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えており、本件抗体条件を満たすものである。 オ ここで、発明の詳細な説明に、本件抗体条件を満たす抗体の組合せが複数組得られたことが開示されていれば、発明の詳細な説明に記載された製造方法により、本件抗体条件を満たす抗体の組合せを再現性をもって取得することができるといえるが、発明の詳細な説明には、本件抗体組合せ以外のP30タンパク質に対する抗体組合せによるサンドイッチ式免疫測定法に関する試験結果は記載されておらず、それにより得られる検出感度に関して明記する記載もない。 カ サンドイッチ式免疫測定法における検出感度は、捕捉抗体(第一の抗体)と標識抗体(第二の抗体)の組合せにより変化し、単独で反応性が高い抗体同士の組合せが、必ずしも高い検出感度をもたらすものではないというのが、本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識である。 そして、発明の詳細な説明には、クローンBLA-001ないし005の抗原決定基の抗原上の位置及び構造を特定できる記載はないから、クローンBLA-001ないし005が、それぞれ単独でマイコプラズマ・ニューモニエのM129株に対して反応性を有する旨の記載をもって直ちに、クローンBLA-001ないし005を第一の抗体及び第二の抗体として任意に組み合わせたサンドイッチ式免疫測定法の全てが、本件抗体条件を満たすとはいえない。 キ しかしながら、発明の詳細な説明には、本件抗体組合せが、本件抗体条件を満たす唯一の組合せであるとも、最も好ましい又は検出感度が高い組合せであるとも記載されてはいない。 そして、段落【0052】?【0056】の実施例4でクローンBLA-001ないし005のマイコプラズマ・ニューモニエのM129株等に対する反応試験を行い、続く段落【0057】?【0062】の実施例5でクローンBLA-001を第一の抗体とし、クローンBLA-002を第二の抗体とするイムノクロマトグラフィーの反応試験を行っており、【表1】に示された実施例4の結果では、クローンBLA-001ないし005のマイコプラズマ・ニューモニエのM129株に対する反応性に顕著な差異はなく、実施例5で使用されたモノクローナル抗体がクローンBLA-001及び002と、5種の抗体のうち最初の2種であることから、本件抗体組合せは、特別な組合せではなく、本件抗体条件を満たす単なる例示であると解することもできる。 ク 事実、特許権者が提出した乙第1号証の実験成績証明書には、 「本願明細書の【0060】(4)マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップの作製に準拠し、2-1で示したBLA-001からBLA-005の抗P30抗体を用いた反応性評価を実施した。 判定基準は本願明細書の【0064】に準拠し、マイコプラズマ・ニューモニエのM129株の培養菌液を、検体抽出液にて1×10^(6)CFU/mLおよび1×10^(7)CFU/mLに調製し、被検試料とした。各イムノクロマトグラフィーテストストリップに、被検試料120μlを試料添加用部材5にマイクロピペットでそれぞれ滴下してクロマト展開し、室温で15分間放置後、捕捉部位31で捕捉された抗原と白金-金コロイド標識抗体との複合体を肉眼で観察して判定を行った。捕捉量は、その量に比例して増減する黒色の呈色度合いを肉眼で-(着色なし)、士(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)の5段階に区分して判定した。 」 と記載され、その実験結果は、本件抗体組合せの他にも、クローンBLA-004を標識抗体(第二の抗体)とし、クローンBLA-005を捕捉抗体(第一の抗体)とする組合せなど、菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液に対して本件抗体組合せと同等の着色を示す組合せがあることを示している。 ケ してみると、本件特許の発明の詳細な説明は、本件抗体条件を満たす抗体の組合せを複数取得することができるように、すなわち再現性をもって取得することができるように記載したものでないとまではいえない。 コ したがって、取消理由通知に記載した取消理由2(実施可能要件)によっては、本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 (2)取消理由1(サポート要件)について ア 上記(1)で検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、本件抗体条件を満たす抗体の組合せを再現性をもって取得することができるように記載したものでないとまではいえない。 イ そのため、発明の詳細な説明に開示された本件抗体条件を満たす抗体の組合せは、本件抗体組合せのみであるとはいえない。 ウ そうすると、本件発明1ないし8が、本件抗体条件により第1の抗体及び第2の抗体を特定していることをもって、本件発明1ないし8が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるとはいえない。 エ したがって、取消理由通知に記載した取消理由1(サポート要件)によっては、本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 (3)令和3年3月17日提出の回答書における申立人の主張について ア 申立人は、上記回答書において、サポート要件及び実施可能要件について概ね以下の主張をする。 (ア)「『前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体』が800個程度存在するエピトープのうちのどのエピトープを認識するかについては記載されていない。 本件特許明細書の実施例4には、用いた抗P30モノクローナル抗体として、BLA-001、BLA-002、BLA-003、BLA-004及びBLA-005が記載されているが(表1)、これらのモノクローナル抗体が配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のどのエピトープを認識するかについては記載されていない。 従って、エピトープが特定されないと、『前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体』と特定できるまで、本件明細書に開示された内容を拡張又は一般化することはできない。 よって、本件特許発明1?8は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」(回答書第2頁下から5行?第3頁8行) (イ)「単独の抗体が、『前記第一の抗体及び第二の抗体が、前記免疫学的検出方法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える』か否かについては、本件特許明細書の実施例には記載されていない。 従って、『前記第一の抗体及び第二の抗体が、前記免疫学的検出方法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える』と特定できるまで、本件明細書に開示された内容を拡張又は一般化することはできない。 よって、本件特許発明1?8は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」(回答書第3頁16?24行) (ウ)「理論上、『配列番号2のアミノ酸配列』は、P30タンパク質の74番目のアミノ酸から274番目のアミノ酸からなる領域であり、201個のアミノ酸からなる。一般的なエピトープが5?8個程度のアミノ酸配列からなるところ、タンパク質は立体構造を有するが、直鎖状のアミノ酸配列であると仮定すると、エピトープとなり得るアミノ酸の部分配列は、800個程度存在することとなる。800個の部分配列のすべてがエピトープとなり得るのではなく、限られた数の部分配列がエピトープとなり得る。 従って、『前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体』が800個程度存在するエピトープのうちのどのエピトープを認識するかについては記載されていない。 本件特許明細書の実施例4には、用いた抗P30モノクローナル抗体として、BLA-001、BLA-002、BLA-003、BLA-004及びBLA-005が記載されているが(表1)、これらのモノクローナル抗体が配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のどのエピトープを認識するかについては記載されていない。 したがって、本件の特許明細書は、当業者が、本件特許発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。」 イ 当審の判断 (ア)上記ア(ア)の主張について 本件特許の発明の詳細な説明には、マイコプラズマ・ニューモニエM129株のP30タンパク質のアミノ酸配列から、膜貫通ドメインを除いた細胞外領域である配列番号2に示すアミノ酸配列(AA74-274)を特定して、対応する遺伝子配列を合成し、組換えP30タンパク質を得て(【0046】)、常法に従って組換えP30タンパク質に対するモノクローナル抗体を作出し(【0047】)、P30タンパク質に対するモノクローナル抗体産生細胞が5クローン得られた(【0048】)ことが記載されている。 本件特許の発明の詳細な説明には、モノクローナル抗体の作出に用いた組換えP30タンパク質が、配列番号2に示すアミノ酸配列(AA74-274)のうちの特定の部分アミノ酸配列に対応したものであることは記載されていないから、本件特許発明1?8が配列番号2に示すアミノ酸配列(AA74-274)内におけるエピトープとなる部分アミノ酸配列を特定していないことをもって、本件特許発明1?8が発明の詳細な説明に記載したものでないということはできない。 したがって、回答書における申立人の上記ア(ア)の主張は採用できない。 (イ)上記ア(イ)の主張について 申立人が主張するように、本件特許の発明の詳細な説明には、単独の抗体を第一の抗体及び第二の抗体として用いた場合に、サンドイッチ式免疫測定法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えることは明記されていない。 しかしながら、上記(1)で検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、本件抗体条件を満たす抗体の組合せを複数取得することができるように、すなわち再現性をもって取得することができるように記載したものでないとまではいえないから、単独の抗体を第一の抗体及び第二の抗体として用いた場合を含み得ることをもって、本件特許発明1?8が発明の詳細な説明に記載したものでないということはできない。 したがって、回答書における申立人の上記ア(イ)の主張は採用できない。 (ウ)上記ア(ウ)の主張について 上記(1)で検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、本件抗体条件を満たす抗体の組合せを複数取得することができるように、すなわち再現性をもって取得することができるように記載したものでないとまではいえないから、配列番号2に示すアミノ酸配列(AA74-274)内におけるエピトープとなる部分アミノ酸配列を開示していないことをもって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が、本件特許発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないということはできない。 したがって、回答書における申立人の上記ア(ウ)の主張は採用できない。 第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許法第29条第2項(進歩性)について (1)申立人は、以下の甲第1号証ないし甲第5号証を提出し、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証又は甲第5号証に記載された事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである旨主張する。 甲第1号証:特開2013-72663号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:アルフレッサファーマ株式会社が製造販売元である「咽頭拭い液中のマイコプラズマ抗原検出用 プライムチェック(登録商標)マイコプラズマ抗原 (Sタイプ) 免疫クロマトグラフィー」の添付文書、平成25年5月作成)(以下「甲2」という。) 甲第3号証: 2012年12月15日(以下「甲3」という。) 甲第4号証:CNKIのウェブページ、URL:http://www.cnki.net(以下「甲4」という。) 甲第5号証:Rama Chaudhry et al.,“Adhesion proteins of Mycoplasma pneumoniae”,Frontiers in Bioscience 12,2007年1月1日,p.690-699(以下「甲5」という。) なお、甲4は、甲3の公知日を証明するために提出された証拠である。 (2)甲号証の記載事項 ア 甲1について (ア)甲1には、以下の記載がある(下線は当審で付加した。甲号証の記載について以下同様。)。 (甲1-ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的な抗体を含む、マイコプラズマ・ニューモニエ検出用のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。 【請求項2】 前記マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原が、マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質である、請求項1に記載のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。 【請求項3】 前記マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的である第一の抗体および第二の抗体、ならびに膜担体を備え、 該第一の抗体が、該膜担体に固定されて検出部位を構成し、 該第二の抗体が、標識物質で標識されており、かつ該検出部位とは離れた位置に、該膜担体中を移動可能に配置されている、 請求項1または2に記載のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。 【請求項4】 前記標識物質が不溶性粒状物質である、請求項3に記載のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。 【請求項5】 前記不溶性粒状物質が、着色合成高分子粒子または金属コロイド粒子である、請求項4に記載のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。 【請求項6】 前記イムノクロマトグラフィー試験デバイスがマイコプラズマ・ニューモニエ感染診断用であり、生体由来材料またはその前処理物を検体とする、請求項1から5のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。 【請求項7】 前記生体由来材料が、咽頭拭い液または鼻腔吸引液である、請求項6に記載のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。」 (甲1-イ)「【0027】 マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異的な抗体、例えば、抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質抗体は、必要に応じて、常法に従って標識物質により標識し、標識抗体とすることができる。標識物質としては、不溶性粒状物質が好ましい。不溶性粒状物質としては、例えば寒天、アガロース、架橋アガロース、架橋アルギン酸、架橋グアガム、セルロースエステル類(ニトロセルロース、カルボキシルセルロースなど)、ゼラチン、架橋ゼラチン、天然または合成の樹脂およびその誘導体(ラテックス、ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリレート、スチレン-メタクリレート共重合体、ポリグリシジルメタクリレート、アクロレイン-エチレングリコールジメタクリレート共重合体など)、ガラス(活性化ガラスなど)、無機材料(シリカゲル、カオリン、タルク、シリカ-アルミナ、アルミナ、硫酸バリウムなど)からなる粒子を色素分子、蛍光分子、磁気粒子などで標識して得られる着色粒子、金属コロイド粒子(金、銀、銅、鉄、白金、パラジウム、またはこれらの混合物(金-白金、金-銀、鉄-白金、パラジウム-白金などの混合物)のコロイド粒子)、赤血球などが挙げられる。好ましくは、上記の合成高分子を色素分子で標識して得られる着色合成高分子粒子、金属コロイド粒子などである。変化を目視で簡便かつ迅速に観察できる粒子が好ましい。不溶性粒状物質としては、粒子の粒径は、好ましくは15?100nm、より好ましくは30?80nmである。」 (甲1-ウ)「【0032】 イムノクロマトグラフィー試験デバイスは、好ましくは、第一の抗体および第二の抗体、ならびに膜担体を備える。第一の抗体および第二の抗体はともに、マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原、例えば、マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質に対して特異的であり、該第一の抗体は、該膜担体に固定されて検出部位を構成し、該第二の抗体は、標識物質で標識されており、かつ該検出部位とは離れた位置に、該膜担体中を移動可能に配置されている。第一の抗体および第二の抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエ由来のタンパク質抗原に対して特異性の異なる抗体、例えば、別個の異なる抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質抗体であることが好ましい。第一の抗体は、上記の「捕捉抗体」に対応し、そして第二の抗体は、上記の「標識抗体」に対応する。「検出部位」とは、膜担体上に固定された第一の抗体の捕捉抗体によって検体抗原-標識抗体複合体を捕捉し、抗原の存在を検出する部位をいう。」 (甲1-エ)「【0041】 膜担体は、静電作用、疎水相互作用のような物理的作用によりタンパク質を結合でき、かつ検体、検体抗原-標識抗体複合体、対照用標識物質(好ましくは、検体抗原と結合していない標識抗体)などを展開できる材質が好ましい。膜担体の材質としては、ニトロセルロース、ナイロン(例えば、カルボキシル基やアルキル基を置換基として有してもよいアミノ基が導入された修飾ナイロン)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、セルロースアセテートなどが挙げられる。」 (甲1-オ)「【実施例】 【0060】 ( 施例1:イムノクロマトグラフィー試験デバイスの作製) (1-1.標識担持部材の調製) 抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)を5mMリン酸緩衝液(pH7.4)で0.05mg/mLの濃度になるように希釈した。金コロイド懸濁液(田中貴金属工業社製:平均粒子径60nm)0.5mLに0.1mLの50mMリン酸緩衝液(pH7.4)を加えて混和した後、上記希釈した抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体溶液0.1mLをさらに加え、室温にて10分間静置した。静置後の溶液に、10mMリン酸緩衝液で希釈した10質量%のウシ血清アルブミン(BSA)溶液0.1mLを加え、十分撹絆した後、8000×gにて15分間遠心分離した。上清を除去した後、残渣にpH7.4の10mMリン酸緩衝液を1mL加え、超音波破砕機を用いてコロイド状物をよく分散させた後、8000×gにて15分間遠心分離した。再度、上清を除去し、残渣にpH7.4の10mMリン酸緩衝液を加えて超音波破砕機にてよく分散させ、標識抗体溶液とした。この標識抗体溶液を幅16mm×長さ100mmのグラスファイバー製パッド(ミリポア社製:GFCP203000)に均一に添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、標識担持部材を得た。 【0061】 (1-2.検出部位および対照部位を備えたニトロセルロース膜担体の調製) 上記1-1の標識抗体溶液の作製に用いたものとは異なる抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)を、5質量%のイソプロピルアルコールを含むリン酸緩衝液(pH7.4)で1.3mg/mLの濃度になるように希釈し、検出部位固定用抗体溶液として調製した。この検出部位固定用抗体溶液を、長さ25cm×幅2.5cmのニトロセルロース膜(ミリポア社製:HF120)の長軸側の一端(この端を展開方向の上流側端、反対側を下流側端とする)から1cm離れた位置に、抗体塗布機(BioDot社製)を用いて1μL/cmの塗布量で線状に塗布した。さらに、ニトロセルロース膜の上流側端から1.5cm離れた位置に、抗マウスIgG抗体を1mg/mLの濃度になるように希釈した対照部位固定用抗体溶液を、抗体塗布機(BioDot社製)を用いて1μL/cmの塗布量で線状に塗布した。塗布後、42℃にて60分間乾燥させ、検出部位および対照部位を備えたニトロセルロース膜担体を得た。 【0062】 (1-3.イムノクロマトグラフィー試験デバイスの作製) 上記1-2のニトロセルロース膜担体の抗体塗布面(この面を上面とする)の反対側(この面を下面とする)に、プラスチック製バッキングシートを接着した。次いで、上記1-1の標識担持部材を上記ニトロセルロース膜の上面に、ニトロセルロース膜の上流側端が2mm重なるように配置して貼り付け、さらに幅5mm×長さ23mmのグラスファイバー製サンプルパッド(ポール社製:8000006801)を、標識担持部材の上面に2mm重なるように配置して貼り付けた。さらに、幅5mm×長さ25mmの吸収パッド(ポール社製)を、上記ニトロセルロース膜担体の上面に、ニトロセルロース膜担体の下流側端が15mm重なるように貼り付けた。最後に、長軸方向に沿って5mmずつ切断し、イムノクロマトグラフィー試験デバイスを得た。 【0063】 (実施例2:鼻腔吸引液検体からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出) 臨床的にマイコプラズマ・ニューモニエの感染が疑われる患者から、常法どおりに鼻腔吸引液を採取した。採取した鼻腔吸引液各検体の一部を、本イムノクロマトグラフィー試験具を用いるマイコプラズマ・ニューモニエの検出(「イムノクロマト判定」)に用いた。 【0064】 滅菌した綿棒を鼻腔吸引液に浸漬した後に引き上げ、チューブ内に分注した検体抽出液に浸し、攪拌した。チューブの外部から綿棒を摘み、数回しごいて検体をよく搾り出した後、綿棒を取り出した。これにより、検体が調製された。次いで、チューブに付属のフィルターメンブレン付きノズルキャップを装着した。チューブの中ほどを摘み、実施例1のイムノクロマトグラフィー試験デバイスに、液状検体3滴(120μL)を滴下にて添加し、15分間静置し、その後、判定を行った。なお、上記綿棒および検体抽出液は、アデノウイルスの検査キット「プライムチェックアデノ」(アルフレッサファーマ株式会社製)に付属のものを用いた。また、チューブおよびフィルター付きノズルキャップは、インフルエンザAおよびBの検査キット「チェックFluA・B」(アルフレッサファーマ株式会社製)に付属のものを用いた。 【0065】 判定は、対照部位に赤紫色の発色が認められた場合を有効とし、さらに検出部位にも赤紫色の発色が認められた場合を陽性と判定した。対照部位に赤紫色の発色が認められたが、検出部位に発色が認められなかった場合を陰性と判定した。結果を表1に示す。 【0066】 同じ患者の鼻腔吸引液各検体の別の一部を、PCR判定のための検体として用いた。PCRによるマイコプラズマ・ニューモニエ遺伝子検出は、Jensen JSら、Acta Pathologica, Microbiologica et Immunologica Scandinavica、第97巻、1046-1048頁、1989年に記載の手順にしたがって行った。PCRの測定機器および測定試薬には、DNAサーマルサイクラー(Perkin-Elmer-Cetus社製、型式PJ2000)およびAmliTaq DNA Polymerase(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いた。PCR判定の結果を併せて、表1に示す。 【0067】 【表1 】 【0068】 表1に示されるように、いずれの検体においても、イムノクロマト判定とPCR判定との結果が一致していた。」 (イ)上記(甲1-オ)の段落【0060】の記載から、標識担持部材は、金コロイドで標識した抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)である標識抗体の溶液を、グラスファイバー製パッドに添加して乾燥させたものであることが読み取れる。 (ウ)上記(甲1-オ)の段落【0061】の記載から、検出部位固定用抗体は、標識担持部材に含まれる金コロイドで標識した抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)とは異なる、抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)であることが読み取れる。 (エ)上記(イ)及び(ウ)を踏まえると、上記(甲1-ア)ないし(甲1-オ)の記載から、甲1には、 「 イムノクロマトグラフィー試験デバイスを用いるマイコプラズマ・ニューモニエの検出方法であって、 イムノクロマトグラフィー試験デバイスは、ニトロセルロース膜担体の抗体塗布面(この面を上面とする)の反対側(この面を下面とする)に、プラスチック製バッキングシートを接着し、標識担持部材をニトロセルロース膜の上面に、ニトロセルロース膜の上流側端が2mm重なるように配置して貼り付け、長さ23mmのグラスファイバー製サンプルパッドを、標識担持部材の上面に2mm重なるように配置して貼り付け、長さ25mmの吸収パッドを、ニトロセルロース膜担体の上面に、ニトロセルロース膜担体の下流側端が15mm重なるように貼り付けたものであり、 標識担持部材は、金コロイドで標識した抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)である標識抗体の溶液を、グラスファイバー製パッドに添加して乾燥させたものであり、 ニトロセルロース膜担体は、検出部位固定用抗体溶液を、2.5cmのニトロセルロース膜の一端(この端を展開方向の上流側端、反対側を下流側端とする)から1cm離れた位置に線状に塗布し、ニトロセルロース膜の上流側端から1.5cm離れた位置に対照部位固定用抗体溶液を線状に塗布して乾燥させた検出部位及び対照部位を備えたものであり、 検出部位固定用抗体は、標識担持部材に含まれる金コロイドで標識した抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)とは異なる、抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)であり、 臨床的にマイコプラズマ・ニューモニエの感染が疑われる患者から、常法どおりに鼻腔吸引液を採取し、滅菌した綿棒を鼻腔吸引液に浸漬した後、検体抽出液に浸して検体を調整し、イムノクロマトグラフィー試験デバイスに、液状検体3滴(120μL)を滴下にて添加し、15分間静置し、対照部位に赤紫色の発色が認められた場合を有効とし、さらに検出部位にも赤紫色の発色が認められた場合を陽性と判定する、方法。」 の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 イ 甲2について (ア)甲2には、以下の記載がある(表記上の制約から、丸囲み付きの数字は「○1」のように記載する。)。 (甲2-ア)第1頁左欄11?45行 「【形状・構造等(キットの構成)】 1.テストプレート ・抗Mycoplasma pneumoniaeモノクローナル抗体(マウス) ・金コロイド標識抗Mycoplasma pneumoniaeモノクローナル抗体(マウス) 2.検体抽出液 ・緩衝剤他 3.付属品 ・ノズル(フィルター付き) 4.同梱品 FLOQスワブ 50257CS01-E(滅菌綿棒) 【使用目的】 咽頭拭い液中のMycoplasma pneumoniae抗原の検出(マイコプラズマ感染の診断の補助) 【測定原理】 本品は, 免疫クロマトグラフィーを測定原理としたM.pneumoniae抗原の検出用試薬です。 テストプレート内のメンブレン上には抗M.pneumoniaeモノクローナル抗体(マウス)が固定化してあり,また,金コロイド標識抗M.pneumoniaeモノクローナル抗体(マウス)を含むパッドがセットされています。 試料滴下部に滴下された試料中のM.pneumoniae抗原は,金コロイド標識抗M.pneumoniaeモノクローナル抗体(マウス)と反応した後,メンブレン上を移動し,判定部に固定化された抗M.pneumoniaeモノクローナル抗体(マウス)と結合して,試料中のM.pneumoniae抗原を介した3者のサンドイッチ複合体を形成します。この複合体を形成することにより,判定ラインが赤?赤紫色を呈し,試料中のM.pneumoniae抗原を検出します。 確認ラインは,滴下された試料と反応しなかった金コロイド標識抗体がメンブレン上を移動し,判定部に固定化された抗マウス免疫グロブリン抗体(ヤギ)と結合します。この複合体を形成することにより確認ラインが赤?赤紫色を呈し,展開が正常に進んだことを確認します。 【操作上の注意】 1.操作法等 1)検体として,咽頭拭い液を使用します。」 (甲2-イ)第1頁右欄28行?第2頁左欄8行 「【用法・用量(操作方法)】 1.試薬の調整方法 すべての試薬はそのまま使用して下さい。 本品を冷蔵庫などで保管していた場合は,すべての試薬を冷蔵庫から取り出してしばらく放置し,室内温度(15?30℃)に戻してから使用して下さい。 2.操作方法 1)次の方法で検体を採取し,試料を調製します。 ○1 キット同梱の滅菌綿棒を口腔から咽頭にしっかり挿入し,咽頭後壁,口蓋扁桃を中心に表面をなぞるようにして,M.pneumoniaeが付着している粘膜細胞や粘液成分をできるだけたくさん採取します。 採取時は,唾液に触れないように注意して下さい。検体に唾液が混入するとラインが薄くなる場合があります。 ○2 検体抽出液を飛び散らせないように検体抽出容器のアルミシールをはがします。 ○3 検体を採取した滅菌綿棒を検体抽出液に浸し,滅菌綿棒を回しながら上下に動かして数回撹拌します。その後,滅菌綿棒を引き出します。この液体を試料とします。 2)使用直前にテストプレートを袋から取り出し,平らなところに置きます。 3)試料の入った検体抽出容器にノズル(フィルター付き)をしっかりと挿人し取り付けます。 4)検体抽出容器をつまみ,試料3滴(90?170μL)をテストプレートの試料滴下部に垂直に滴下します。 5)多湿の条件を避け,室内温度(15?30℃)で5?15分後にテストプレートの判定部に出現する赤?赤紫色のラインの有無により判定を行います。」 (甲2-ウ)第3頁左欄23?25行(表は除く) 「4)テストプレートに使用されているメンブレンの材質はニトロセルロースです。ニトロセルロースは撚焼性が高いので,熱源や火気付近では操作しないで下さい。」 (イ)甲2の記載における「Mycoplasma pneumoniae」及び「M.pneumoniae」は、「マイコプラズマ・ニューモニエ」を表す。 (ウ)上記(イ)を踏まえると、上記(甲2-ア)ないし(甲2-ウ)の記載から、甲2には、 「 咽頭拭い液中のマイコプラズマ・ニューモニエ抗原を検出する方法であって、 免疫クロマトグラフィーを測定原理とし、 テストプレート内のメンブレン上には抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体(マウス)が固定化してあり,また,金コロイド標識抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体(マウス)を含むパッドがセットされており、 テストプレートに使用されているメンブレンの材質はニトロセルロースであり、 滅菌綿棒を口腔から咽頭にしっかり挿入し,咽頭後壁,口蓋扁桃を中心に表面をなぞるようにして,マイコプラズマ・ニューモニエが付着している粘膜細胞や粘液成分をできるだけたくさん採取し、検体を採取した滅菌綿棒を検体抽出液に浸し,滅菌綿棒を回しながら上下に動かして数回撹拌し、その後,滅菌綿棒を引き出し、この液体を試料とし、 試料3滴(90?170μL)をテストプレートの試料滴下部に垂直に滴下し、 試料滴下部に滴下された試料中のマイコプラズマ・ニューモニエ抗原は,金コロイド標識抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体(マウス)と反応した後,メンブレン上を移動し,判定部に固定化された抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体(マウス)と結合して,試料中のマイコプラズマ・ニューモニエ抗原を介した3者のサンドイッチ複合体を形成し、この複合体を形成することにより,判定ラインが赤?赤紫色を呈し、テストプレートの判定部に出現する赤?赤紫色のラインの有無により判定を行うものである、 咽頭拭い液中のマイコプラズマ・ニューモニエ抗原を検出する方法。」 の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 ウ 甲3について 甲3は、マイコプラズマ・ニューモニエのイムノアッセイにおけるコドン最適化技術とその応用に関する文献であり、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質の全長は825bpであり、274アミノ酸残基のみを含む短いタンパク質をコードしていること(第37頁1?3行)、最初の22アミノ酸残基を削除して抗原セグメントの23-274aa配列を標的配列として、抗原活性を有する融合抗原が得られたこと(第37頁6?10行、第63頁1?6行)、及び、P30タンパク質はマイコプラズマ感染の免疫診断のための抗原となり得ること(第45頁2?5行)が開示されている。 エ 甲5について 甲5は、マイコプラズマ・ニューモニエの接着タンパク質に関する文献であり、P30タンパク質が細胞接着タンパク質であること(第691頁右欄下から21?17行)、抗30kDaアドヘシンモノクローナル抗体は、細胞接着タンパク質をブロックすること(第692頁右欄下から7?4行)、及び、P30タンパク質のカルボキシ末端に3種類の反復配列が含まれていること(第693頁左欄8?13行)が開示されている。 (3)当審の判断 ア 本件発明1について (ア)甲1発明を主引用発明とする場合 a 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (a)甲1発明の「検出部位固定用抗体」である「抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)」と、本件発明1の「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体」とは、「マイコプラズマ・ニューモニエのタンパク質に対する第一の抗体」で共通する。 (b)甲1発明の「標識抗体」である「金コロイドで標識した抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)」の「抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)」と、本件発明1の「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する」「第二の抗体」とは、「マイコプラズマ・ニューモニエのタンパク質に対する第二の抗体」で共通する。 (c)甲1発明の「イムノクロマトグラフィー試験デバイスを用いるマイコプラズマ・ニューモニエの検出方法」は、本件発明1の「サンドイッチ式免疫測定法からなるマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法」に相当する。 (d)甲1発明の「検出部位固定用抗体は、標識担持部材に含まれる金コロイドで標識した抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)とは異なる、抗マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質モノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)であり」と、本件発明1の「前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であり」とは、「前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であり」で共通する。 (e)甲1発明の「液状検体」は、「臨床的にマイコプラズマ・ニューモニエの感染が疑われる患者から、常法どおりに鼻腔吸引液を採取し、滅菌した綿棒を鼻腔吸引液に浸漬した後、検体抽出液に浸して検体を調整し」たものであるから、甲1発明の「液状検体3滴(120μL)を滴下にて添加し」は、本件発明1の「被検試料として生体試料が用いられ」を満たす。 b そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「マイコプラズマ・ニューモニエのタンパク質に対する第一の抗体と第二の抗体とを用いたサンドイッチ式免疫測定法からなるマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法であって、前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であり、被検試料として生体試料が用いられる、検出法。」 の発明である点で一致し、次の点において相違する。 (相違点1) マイコプラズマ・ニューモニエのタンパク質に対する第一の抗体及び第二の抗体について、本件発明1においては、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するP30タンパク質に対するモノクローナル抗体であって、サンドイッチ式免疫測定法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えるのに対し、甲1発明においては、P1タンパク質に対する異なるモノクローナル抗体(セントラルリサーチ株式会社製)であって、イムノクロマトグラフィーにおいて菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えることは特定されていない点。 c 上記相違点1について検討する。 (a)甲3には、P30タンパク質はマイコプラズマ感染の免疫診断のための抗原となり得ることが記載されている。 また、タンパク質をサンドイッチ式免疫測定法で検出する際に、そのタンパク質の特定のフラグメントを免疫源として用いて得られた2つの抗体を用いることは、従来周知な事項である。 (b)しかしながら、甲3及び5は、いずれもサンドイッチ式免疫測定法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えるP30タンパク質に対するモノクローナル抗体の組み合わせを開示するものではない。 また、サンドイッチ式免疫測定法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えるP30タンパク質に対するモノクローナル抗体の組み合わせが、本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識であったとも認められない。 (c)そうすると、仮にマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対するモノクローナル抗体をマイコプラズマ・ニューモニエを検出するイムノクロマトグラフィーに用いることを想起し得たとしても、上記相違点1に係る第一の抗体及び第二の抗体であるモノクローナル抗体が「サンドイッチ式免疫測定法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」という本件発明1の発明特定事項は、甲1、3及び5に触れた当業者といえども、容易になし得たものとまではいえない。 (d)したがって、本件発明1は、甲1発明、甲3及び5に記載された事項並びに周知な事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (イ)甲2発明を主引用発明とする場合 a 本件発明1と甲2発明とを対比する。 (a)甲2発明の「テストプレート内のメンブレン上に」「固定化してあ」る「抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体(マウス)」と、本件発明1の「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体」とは、「マイコプラズマ・ニューモニエに対する第一の抗体」で共通する。 (b)甲2発明の「金コロイド標識抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体(マウス)」の「抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体(マウス)」と、本件発明1の「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する」「第二の抗体」とは、「マイコプラズマ・ニューモニエに対する第二の抗体」で共通する。 (c)甲2発明の「免疫クロマトグラフィーを測定原理とし」た「咽頭拭い液中のマイコプラズマ・ニューモニエ抗原を検出する方法」は、本件発明1の「サンドイッチ式免疫測定法からなるマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法」に相当する。 (d)甲2発明の「テストプレート内のメンブレン上に」「固定化し」た抗体が「抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体(マウス)」であり、「パッド」が「含む」「金コロイド標識」抗体が「抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体(マウス)」であることと、本件発明1の「前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であ」ることとは、「前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、マイコプラズマ・ニューモニエのエピトープを認識するモノクローナル抗体であ」ることで共通する。 (e)甲2発明の「試料」は「滅菌綿棒を口腔から咽頭にしっかり挿入し,咽頭後壁,口蓋扁桃を中心に表面をなぞるようにして,マイコプラズマ・ニューモニエが付着している粘膜細胞や粘液成分をできるだけたくさん採取し、検体を採取した滅菌綿棒を検体抽出液に浸し,滅菌綿棒を回しながら上下に動かして数回撹拌し、その後,滅菌綿棒を引き出し、この液体を試料とし」たものであるから、甲2発明の「試料3滴(90?170μL)をテストプレートの試料滴下部に垂直に滴下し」は、本件発明1の「前記被検試料が生体試料であり」を満たす。 b そうすると、本件発明1と甲2発明とは、 「マイコプラズマ・ニューモニエに対する第一の抗体と第二の抗体とを用いたサンドイッチ式免疫測定法からなるマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法であって、前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、マイコプラズマ・ニューモニエのエピトープを認識するモノクローナル抗体であり、被検試料として生体試料が用いられる、検出法。」 の発明である点で一致し、次の点において相違する。 (相違点2) マイコプラズマ・ニューモニエに対する第一の抗体及び第二の抗体について、本件発明1においては、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するP30タンパク質に対するモノクローナル抗体であって、サンドイッチ式免疫測定法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えるのに対し、甲2発明においては、抗マイコプラズマ・ニューモニエモノクローナル抗体(マウス)であって、免疫クロマトグラフィーにおいて菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えることは特定されていない点。 c 上記相違点2について検討する。 (a)甲3には、P30タンパク質はマイコプラズマ感染の免疫診断のための抗原となり得ることが記載されている。 また、タンパク質をサンドイッチ式免疫測定法で検出する際に、そのタンパク質の特定のフラグメントを免疫源として用いて得られた2つの抗体を用いることは、従来周知な事項である。 (b)しかしながら、甲3及び5は、いずれもサンドイッチ式免疫測定法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えるP30タンパク質に対するモノクローナル抗体の組み合わせを開示するものではない。 また、サンドイッチ式免疫測定法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えるP30タンパク質に対するモノクローナル抗体の組み合わせが、本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識であったとも認められない。 (c)そうすると、仮にマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対するモノクローナル抗体をマイコプラズマ・ニューモニエを検出する免疫クロマトグラフィーに用いることを想起し得たとしても、上記相違点2に係る第一の抗体及び第二の抗体であるモノクローナル抗体が「サンドイッチ式免疫測定法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」という本件発明1の発明特定事項は、甲2、3及び5に触れた当業者といえども、容易になし得たものとまではいえない。 (d)したがって、本件発明1は、甲2発明、甲3及び5に記載された事項並びに周知な事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件発明2及び3について 本件発明1を更に限定した発明である本件発明2及び3も、本件発明1の「第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であり」、「前記第一の抗体及び第二の抗体が」、「サンドイッチ式免疫測定法」「において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明又は甲2発明、甲3及び5に記載された事項並びに周知な事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明4及び5について 本件発明1を実施するためのサンドイッチ式免疫測定キットに相当する本件発明4及び5は、本件発明1の「第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であり」、「前記第一の抗体及び第二の抗体が」、「サンドイッチ式免疫測定法」「において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」に対応する構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明又は甲2発明、甲3及び5に記載された事項並びに周知な事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 本件発明6ないし8について 本件発明1を実施するためのイムノクロマトグラフィーテストストリップに相当する本件発明6ないし8は、本件発明1の「第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であり」、「前記第一の抗体及び第二の抗体が」、「サンドイッチ式免疫測定法」「において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」に対応する構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明又は甲2発明、甲3及び5に記載された事項並びに周知な事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 オ 小括 したがって、申立人の主張する進歩性に係る取消理由によっては、本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について (1)申立人の主張する実施可能要件に係る取消理由の概略は、以下のとおりである。 ア 甲第3号証にP1タンパク質及びP30タンパク質のカルボキシ末端アミノ酸配列は55?67%の相同性を有する旨の記載があることから、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープのうち多くはP30タンパク質とP1タンパク質における共通のエピトープであると予測される。 したがって、本件特許発明の「第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体」であるモノクローナル抗体は、P30タンパク質特異的なモノクローナル抗体だけではなく、P1タンパク質にも反応するモノクローナル抗体を含んでいる。 発明の詳細な説明の段落【0056】及び【0078】の記載によれば、P30タンパク質に対して特異的なモノクローナル抗体を用いた場合に、P1タンパク質に対するモノクローナル抗体に比較して、より特異的かつ高感度でマイコプラズマ・ニューモニエを検出し得るのであるから、「配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体」であるモノクローナル抗体のうち、P1タンパク質にも反応するモノクローナル抗体では、本件特許発明の効果を奏することはできないはずである。すなわち、本件特許発明の効果を奏することができるモノクローナル抗体は、「配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体」であるモノクローナル抗体の中でも、P1タンパク質とP30タンパク質の共通のエピトープを認識しないモノクローナル抗体に限定される。 すなわち、「配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体」であるモノクローナル抗体の中には、本件特許発明の効果を奏することができないモノクローナル抗体も含まれている。 明細書で効果が確認されているモノクローナル抗体の組合せは標識抗体としてBLA-002を用い、捕捉部位用抗体としてBLA-001を用いた場合のみである。これらのモノクローナル抗体の具体的なエピトープは不明であるが、実施例の記載から考えて、これらのモノクローナル抗体を組み合わせて用いた場合のみ、効果が確認できる。しかしながら、BLA-001及び BLA-002は明細書に入手可能に記載されておらず、これらの抗体を組み合わせて用いることは不可能である。 したがって、本件の特許明細書は、当業者が本件発明1ないし8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。 イ 「配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体」であるモノクローナル抗体のすべてが「前記測定法(サンドイッチ式免疫測定法)において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」モノクローナル抗体であるとは言えない。 実施例6によれば、標識抗体としてBLA-002を用い、捕捉部位用抗体としてBLA-001を用いた場合に、「前記測定法において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度」を達成できている。しかしながら、BLA-001及び BLA-002は明細書に入手可能に記載されておらず、これらの抗体を組み合わせて用いることは不可能である。 したがって、本件の特許明細書は、当業者が本件発明1ないし8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。 (2)当審の判断 ア 本件発明1ないし8は、P1タンパク質に対するモノクローナル抗体を用いた場合よりも、特異的かつ高感度でマイコプラズマ・ニューモニエを検出し得ることを、その解決しようとする課題とするものではなく、発明特定事項とするものではない。 また、本件発明1ないし8は、「配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体」であるモノクローナル抗体のすべての組合せが、「前記測定法(サンドイッチ式免疫測定法)において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」ことを発明特定事項とするものではない。 イ そして、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし8で特定される抗体の組合せを複数取得することができるように、すなわち再現性をもって取得することができるように記載したものでないとまではいえないことは、上記第3の3(1)で検討したとおりである。 ウ したがって、申立人の主張する実施可能要件に係る取消理由によっては、本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (1)申立人の主張するサポート要件に係る取消理由の概略は、以下のとおりである。 請求項1には「前記第一の抗体及び第二の抗体が、前記測定法(サンドイッチ式免疫測定法)において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」ために、抗体をどのように選択するのか具体的な記載がなく、本件特許明細書にも記載されていない。 したがって、選択方法が開示されていないと、「前記第一の抗体及び第二の抗体が、前記測定法(サンドイッチ式免疫測定法)において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」と特定できるまで、本件特許明細書に開示された内容を拡張又は一般化することはできない。 よって、本件発明1ないし8は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 (2)当審の判断 ア 「前記第一の抗体及び第二の抗体が、前記測定法(サンドイッチ式免疫測定法)において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」ために、抗体をどのように選択するのかが、特許請求の範囲又は明細書に記載されていないこと自体が、「前記第一の抗体及び第二の抗体が、前記測定法(サンドイッチ式免疫測定法)において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」ことがサポートされていない理由となるものではない。 イ 申立人がいう「選択」が、「生産」の意味であるとしても、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし8で特定される抗体の組合せを複数取得することができるように、すなわち再現性をもって取得することができるように記載したものでないとまではいえないことは、上記第3の3(1)で検討したとおりである。 ウ したがって、申立人の主張するサポート要件に係る取消理由によっては、本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 エ なお、「前記第一の抗体及び第二の抗体が、前記測定法(サンドイッチ式免疫測定法)において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」かどうかは、菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を試料とするサンドイッチ式免疫測定法を行うことにより確認し得ることは明らかである。 4 特許法第36条第6項第2号(明確性)について (1)申立人の主張する明確性に係る取消理由の概略は、以下のとおりである。 請求項1には、「前記第一の抗体及び第二の抗体が、前記測定法(サンドイッチ式免疫測定法)において菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」ために、抗体をどのように選択するのか具体的な記載がなく、本件特許明細書にも記載されていないから、本件発明1ないし8は明確でない。 (2)当審の判断 ア 本件発明1ないし8は、「マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体」及び「第二の抗体」について、「第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であり」、サンドイッチ式免疫測定法において「菌濃度1×10^(6)(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備える」ことを特定しているものであって、「第一の抗体」及び「第二の抗体」を単一の組合せのものに特定するものではない。 イ そのため、「第一の抗体」及び「第二の抗体」の選択の仕方が特定されていないことをもって、本件発明1ないし8が明確でないとはいえない。 ウ したがって、申立人の主張する明確性に係る取消理由によっては、本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠並びに取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-03-31 |
出願番号 | 特願2018-112308(P2018-112308) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(G01N)
P 1 651・ 121- Y (G01N) P 1 651・ 536- Y (G01N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 磯田 真美 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
森 竜介 渡戸 正義 |
登録日 | 2019-12-27 |
登録番号 | 特許第6637114号(P6637114) |
権利者 | 株式会社タウンズ |
発明の名称 | マイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法およびキット |
代理人 | 井出 正威 |