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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A44C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A44C
管理番号 1372982
審判番号 不服2020-12383  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-03 
確定日 2021-03-12 
事件の表示 特願2019-224135「イヤリング」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,令和元年12月12日(優先権主張 令和元年12月10日)の出願であって,その手続の経緯は,以下のとおりである。
令和2年 5月25日付け:拒絶理由通知書
令和2年 6月11日 :意見書,手続補正書の提出
令和2年 8月 4日付け:拒絶査定
令和2年 9月 3日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和2年10月 8日 :手続補正書(請求の理由の補正)の提出

第2 令和2年9月3日提出の手続補正書による補正についての却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年9月3日提出の手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正により,特許請求の範囲の請求項1-5の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「【請求項1】
先端を耳当部とし,後端側にて共通軸によって軸着されている一対の湾曲した装飾部材のうち,一方側は一箇所にて軸着されている基部を備え,他方側は基部の両側にて軸着されている一対の脚部を備えており,基部及び脚部の双方又は何れか一方は,共通軸を中心として回動自在状態であって,基部と脚部との間にそれぞれ一対のワッシャーを共通軸に軸着した状態にて介在させ,かつ共通軸に対し,少なくとも回動自在状態にある基部及び/又は脚部側に配置されている各ワッシャーを加締めているイヤリングであって,基部の両外側及び脚部の両内側にそれぞれ形成した凹部に各ワッシャーを当接し合う状態にて収容しており,相向かい合う二対のワッシャーが相互に接触すると共に,耳当部による耳に対する当接に際し,基部と脚部との間にて形成された回動角度が上記加締め及び上記接触による摩擦抵抗によって維持されており,各ワッシャーが円形以外の平面形状であって,円形以外の形状を形成している各凹部の周囲壁と接触しているイヤリング。
【請求項2】
各ワッシャーの平面形状及びワッシャーが接触する凹部の周壁の形状がハート形であることを特徴とする請求項1記載のイヤリング。
【請求項3】
各ワッシャーの平面形状及びワッシャーが接触する凹部の周壁の形状が楕円形又はひし形であることを特徴とする請求項1記載のイヤリング。
【請求項4】
二対のワッシャー同士が接触し合う表面に,それぞれ点在した凹凸面を形成することを特徴とする請求項1,2,3の何れか一項に記載のイヤリング。
【請求項5】
二対のワッシャー同士の当接表面にそれぞれライン状の凹凸面を形成することを特徴とする請求項1,2,3の何れか一項に記載のイヤリング。」
(2)本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,これらを「当初明細書等」という。)に記載された事項
当初明細書等には,凹部について,円形以外の平板形状を有するワッシャーを収容する点は記載されているものの(【0032】,【0059】等参照。),凹部の周囲壁の形状については記載されていない。また,図4は基本構成を説明する側断面図であるので(【0031】参照。),ある断面において,ワッシャーが凹部に接触することは記載されているものの,凹部の周囲壁の形状については記載されていない。
そうすると,本件補正により追加された,請求項1の「各ワッシャーが円形以外の平面形状であって,円形以外の形状を形成している各凹部の周囲壁と接触している」構成,請求項2の「ワッシャーが接触する凹部の周壁の形状がハート形である」構成,及び請求項3の「ワッシャーが接触する凹部の周壁の形状が楕円形又はひし形である」構成は,当初明細書等には記載されていない。
(3)そして,上記補正により追加された事項は,当初明細書等には記載がなく,当初明細書等から自明でもないから,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。
したがって,本件補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2 まとめ
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

3 前記2のとおり,請求項1-3についての本件補正は,新規事項を追加する補正であるが,仮に,円形以外の平板形状を有するワッシャーを収容する凹部の周囲壁を,前記円形以外の形状にすることが当初明細書等から自明であり,新規事項を追加する補正にはあたらないとして,以下に,予備的に検討する。
(1)本件補正の目的について
ア 本件補正の特許請求の範囲
本件補正による特許請求の範囲の請求項1-5の記載は,前記1(1)のとおりである。
イ 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,令和2年6月11日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1-10の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
先端を耳当部とし,後端側にて共通軸によって軸着されている一対の湾曲した装飾部材のうち,一方側は一箇所にて軸着されている基部を備え,他方側は基部の両側にて軸着されている一対の脚部を備えており,基部及び脚部の双方又は何れか一方は,共通軸を中心として回動自在状態であって,基部と脚部との間にそれぞれ一対のワッシャーを共通軸に軸着した状態にて介在させ,かつ共通軸に対し,少なくとも回動自在状態にある基部及び/又は脚部側に配置されている各ワッシャーを加締めているイヤリングであって,基部の両外側及び脚部の両内側にそれぞれ形成した凹部に各ワッシャーを当接し合う状態にて収容しており,相向かい合う二対のワッシャーが相互に接触すると共に,耳当部による耳に対する当接に際し,基部と脚部との間にて形成された回動角度が上記加締め及び上記接触による摩擦抵抗によって維持されており,各ワッシャーが円形以外の平面形状であるイヤリング。
【請求項2】
各ワッシャーの平面形状がハート形であることを特徴とする請求項1記載のイヤリング。
【請求項3】
各ワッシャーの平面形状が楕円形又はひし形であることを特徴とする請求項1記載のイヤリング。
【請求項4】
二対のワッシャー同士が接触し合う表面に,それぞれ点在した凹凸面を形成することを特徴とする請求項1,2,3の何れか一項に記載のイヤリング。
【請求項5】
二対のワッシャー同士の当接表面にそれぞれライン状の凹凸面を形成することを特徴とする請求項1,2,3の何れか一項に記載のイヤリング。
【請求項6】
回動自在である基部及び/又は脚部を,収容しているワッシャーと共に共通軸に対して加締めていることを特徴とする請求項1,2,3,4,5の何れか一項に記載のイヤリング。
【請求項7】
基部及び脚部の何れか一方が共通軸に固着されており,かつ当該何れか一方に収容されているワッシャーを共通軸に対して加締めていないことを特徴とする請求項1,2,3,4,5の何れか一項に記載のイヤリング。
【請求項8】
湾曲した装飾部材の主成分が金又は銀であると共に,ワッシャーがステンレス,又は金を主成分とし,白金族金属を非主成分として混入することによって白色を呈している貴金属を素材としていることを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7の何れか一項に記載のイヤリング。
【請求項9】
共通軸の中心位置の両側におけるワッシャーの最大幅が4.0mmであることを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7,8の何れか一項に記載のイヤリング。
【請求項10】
ワッシャーの厚みが0.1mm?0.3mmであり,基部及び脚部に設けられた凹部の深さが0.05mm?0.25mmであることを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9の何れか一項に記載のイヤリング。」
ウ 本件補正のうち,請求項1についての補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である,各ワッシャーが「円形以外の形状を形成している各凹部の周囲壁と接触している」ことを限定するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明1」という。)が特許出願の際,独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下に検討する。

ア 本件補正発明1について
本件補正発明1は,前記1(1)の請求項1に記載されたとおりである。

イ 引用文献1に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に示され,本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1である,特開2000-229007号公報には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。
(ア)「【請求項1】 一方の装飾体の一端に耳たぶ当接部と他端に一対の取付脚部を形成し,他方の装飾体の一端に耳たぶ当接部と他端に前記取付脚部に挟まる被挟着部を形成し,前記取付脚部と被挟着部とを軸材にて回転可能に軸着してなるイヤリングであって,当該軸材を囲んで前記取付脚部及び被挟着部よりも硬質の摺動部材を少なくともいずれかの側に固着したことを特徴とするイヤリング。
【請求項2】 被挟着部の取付脚部と対向する面に摺動部材を固着した請求項1記載のイヤリング。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はクリップ式イヤリングに関するものである。」
(ウ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本出願人はかかる課題を解決するために特願平9ー108119号にて新たなイヤリングを提案し,広く採用されるに至っている。本発明はかかる提案の更なる改良にかかるものであり,イヤリングとしての性能の向上と共に,製造過程での作業性を向上させたものである。」
(エ)「【0009】主装飾体1には一対の取付脚部3,4が備えられ,これと対向して副装飾体2には前記取付脚部3,4間に嵌り合う被挟着部5が備えられているる。そしてこれらに開けられた貫通孔6,7にピン8を挿通しこの部位を加締めるが,この例では,被挟着部5に貫通孔7を囲んで各部材(K-18)よりも硬度の高い厚さ0.15mmのステンレス製の摺動部材9を固着してなるものである。従って,イヤリングの主装飾体1及び副装飾体2との軸着に当たり,これら材質よりも硬度の高い材質である摺動部材9を少なくとも一方の面に固着して軸着し,この部位を加締めたものである。尚,符号10は主装飾体1及び副装飾体2の耳たぶ当接部である。」
(オ)「【0010】以上のように本発明にあっては,主装飾体1と副装飾体2との軸着にあって,軸着部位に硬質の摺動部材を固着し,軟らかいもの同士の接触をさけることによって意外にも摩耗や変形が避けられたものであり,イヤリングとして長い期間の使用に耐えられるものとなったものである。かかる摺動部材9の固着手段は特に制限されるものではないが,通常はロウつけあるいは接着剤似て固着するものである。」
(カ)「【0011】本発明のイヤリングにあって,主装飾体側に取付脚部3,4を,副装飾体側には被挟着部5を備えた例を示したが,これが逆に備えられたものであってもよいことは勿論であり,取付脚部3,4側に摺動部材9を固着することも可能であることは言うまでもない。
又,取付脚部3,4側及び被挟着部5側の両側に摺動部材9を固着してもよいことは勿論である。」
(キ)「【0012】本発明の変形例としては,図5にて示すように被挟着部5の表面に環状の凹部11を形成してこの凹部11内に摺動部材9を嵌め込んで固着することも考えられる。」
(ク)図1には,以下の事項が図示されている。


(ケ)図2には,以下の事項が図示されている。


(コ)図3には,以下の事項が図示されている。


(サ)図5には,以下の事項が図示されている。


(シ)前記(ク)より,主装飾体1及び副装飾体2は,ともに,全体に曲がった形状であり,一端を耳たぶ当接部10とし,他端側にてピン8によって軸着されていることがわかる。
(ス)前記(ク),(ケ)より,副装飾体2側は,被挟着部5の一箇所にて軸着されており,主装飾体1側は,取付脚部3,4が被挟着部5の両側にて軸着されていることがわかる。
(セ)前記(エ)の「従って,イヤリングの主装飾体1及び副装飾体2との軸着に当たり,これら材質よりも硬度の高い材質である摺動部材9を少なくとも一方の面に固着して軸着し,この部位を加締めたものである。」との記載,及び前記(オ)の「以上のように本発明にあっては,主装飾体1と副装飾体2との軸着にあって,軸着部位に硬質の摺動部材を固着し,」との記載から,イヤリングの主装飾体1及び副装飾体2とピン8との軸着において,摺動部材9を,被挟着体5の軸着部位に固着して軸着し,この部位を加締めていることから,取付脚部3,4及び被挟着部5とともに摺動部材9も加締められているといえる。
(ソ)そして,イヤリングとして,耳を挟持するとともに耳を開放するという両機能を達成するには,取付脚部3,4と被挟着部5の双方又は何れか一方はピン8を中心として回動自在状態でなければいけないことは明らかである。
(タ)前記(カ)の「取付脚部3,4側及び被挟着部5側の両側に摺動部材9を固着してもよいことは勿論である。」との記載から,摺動部材9は取付脚部3,4の両内側及び被挟着部5の両外側に設けられているといえる。
(チ)そうすると,前記(セ)?(タ)より,被挟着部5側の両外側及び取付脚部3,4側の両内側にそれぞれ摺動部材9をピン8に軸着した状態にて固着させ,かつピン8に対し,少なくとも回動自在状態にある被挟着部5側の両外側及び取付脚部3,4側の両内側に配置されている各摺動部材9を加締めているといえる。
(ツ)前記(オ)の「かかる摺動部材9の固着手段は特に制限されるものではないが」との記載,及び前記(キ),(コ)から,摺動部材9の固着に関して,固着される側の表面に環状の凹部11を形成してこの凹部11内に摺動部材9を嵌め込んで固着する固着手段によってなされているといえる。そして,前記固着手段は摺動部材9を凹部11に嵌め込んでいるので,前記摺動部材9は,前記凹部11の周囲壁と接触していることは明らかである。
(テ)そうすると,前記(タ),(ツ)より,摺動部材9は取付脚部3,4の両内側及び被挟着部5の両外側にそれぞれ設けられ,前記取付脚部3,4の両内側及び前記被挟着部5の両外側にそれぞれ形成した凹部11に,前記摺動部材9を嵌め込んで固着しているといえる。
(ト)摺動部材9は,「摺動」する部材であり(摺動:滑らせて動かすこと。[デジタル大辞泉(小学館)]),前記(ケ)に示される各部材の位置関係から,摺動部材9は,ピン8の軸方向において,前記摺動部材9が固着される部材とは反対側の隣り合う部材と接触し,両者の間には接触による摩擦抵抗が発生していることは明らかである。
(ナ)前記(テ),(ト)より,取付脚部3,4の両内側及び被挟着部5の両外側にそれぞれ設けられた摺動部材9は,向かい合う摺動部材9が互いに接触し,接触による摩擦抵抗が発生しているといえる。
(ニ)そうすると,前記(セ),(ナ)より,耳たぶ当接部10によって耳を挟む際に,取付脚部3,4と被挟着部5とがなす角度は,ピン8に対する摺動部材9の加締め及び向かい合う摺動部材9の間に働く摩擦抵抗によって維持されているといえる。
(ヌ)前記(テ)より,摺動部材9は,凹部11に嵌め込んで固着しているので,摺動部材9が凹部11の周囲壁と接触しているといえる。また,前記(コ)より,摺動部材9の平面形状は円形であるといえ,前記(キ)の「環状の凹部11」という記載から凹部11の平面形状は環状であるといえるので,前記(ツ),(テ)より,各摺動部材9が円形の平面形状であって,環状の形状を形成している各凹部11の周囲壁と接触しているといえる。

したがって,上記の記載及び図面の記載から見て,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(引用発明)
「一端を耳たぶ当接部10とし,他端側にてピン8によって軸着されている全体に曲がった形状の主装飾体1及び副装飾体2のうち,副装飾体2側は被挟着部5を備え,被挟着部5の一箇所にて軸着されており,主装飾体1側は被挟着部5の両側にて軸着されている取付脚部3,4を備えており,被挟着部5及び取付脚部3,4の双方又は何れか一方は,ピン8を中心として回動自在状態であって,被挟着部5側の両外側及び取付脚部3,4側の両内側にそれぞれ摺動部材9をピン8に軸着した状態にて固着させ,かつピン8に対し,少なくとも回動自在状態にある被挟着部5側の両外側及び取付脚部3,4側の両内側に配置されている各摺動部材9を加締めているイヤリングであって,被挟着部5の両外側及び取付脚部3,4の両内側にそれぞれ形成した凹部11に各摺動部材9を嵌め込んで固着しており,被挟着部5の両外側及び取付脚部3,4の両内側にそれぞれ配置された向かい合う摺動部材9が互いに接触すると共に,耳たぶ当接部10によって耳を挟む際に,被挟着部5と取付脚部3,4とがなす角度が上記加締め及び上記向かい合う摺動部材9の間に働く摩擦抵抗によって維持されており,各摺動部材9が円形の平面形状であって,環状の形状を形成している各凹部11の周囲壁と接触しているイヤリング。」

ウ 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由に示され,本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2である,国際公開第2017/119452号には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。

(ア)「[0017] 以下,この発明の装身具の挟着構造をイヤリングに適用した場合の実施の形態を図面に基いてより詳しく説明する。
図1ないし図6に示す実施例において,1は主装飾体であり,2は耳たぶ挟着部としての副装飾体であって,その全体形状はほぼ同じ円弧状で,組み付けた状態ではリング状をなし,この例では前面側にダイヤモンド等からなる宝石13が取り付けてある。もちろん,両者はいずれの側を耳たぶの表側に向けて装着してもよい。なお素材としてはともに金(K-18等)やプラチナ,銀等が使用可能である。
前記主装飾体1の連結部分には一対の取付脚部3,4が一体に備えられ,これと対向して副装飾体2の連結部分には前記取付脚部3,4間に嵌り合う取付基部5が一体に形成されている。
[0018] そして,これらに開けられた貫通孔6,7にピン8を挿通し,この部位を加締めることとなるが,この際,取付脚部3,4と取付基部5との間に,厚さ0.05?0.25mm,好ましくは厚さ0.15mmのステンレス製等の,クッション性のある3枚以上の金属板材9を介して加締めたものである。
前記金属板材9の厚さを0.05?0.25mmの範囲のものとした理由は,0.05mm以下の場合にその弾性が生かせなくなってしまうためである。また0.25mm以上の場合には,金属板材9そのものの弾性がなくなってしまうためである。
金属板材9は3枚以上であればよいが,3枚であっても経済性や組み付けの作業性等には問題がなく,挟着力の持続性を勘案すれば3枚とすることが望ましい。
なお,符号10,11は主装飾体1および副装飾体2の端面に形成した耳当部である。
[0019] この実施例においては,前記金属板材9の面積は,図5および図6に示すように,前記一対の取付脚部3,4と取付基部5の輪郭内に収容される広さに形成されており,しかも一対の取付脚部3,4と取付基部5に接する両端の金属板材9をそれぞれ取付脚部3,4と取付基部5に強固に結合させてある。もちろん,前記金属板材9の面積が前記一対の取付脚部3,4と取付基部5の輪郭内に収容される広さを越えても,取付脚部3,4と取付基部5とに強固に結合できれば何ら問題はない。
このような結合方法としては,軸部を構成するピン8部分を加締める際に両側の硬質である金属板材9がそれより軟質素材の使われている取付脚部3,4と取付基部5に食い込むようにすることができる。また,両側の金属板材9の取付脚部3,4と取付基部5に接する面を粗面化したり,両側の金属板材9の外周面等に突起やバリを形成しておくこともできる。
[0020] また,前記金属板材9が円形の場合であっても,打ち抜き等の際に真円になることはほとんどなく,その変形によって金属板材9をそれぞれ取付脚部3,4と取付基部5に強固に結合させ,かつ取付脚部3,4と取付基部5とが相対的に回動する際に一緒に回ってしまうことが防止できる。もちろん,金属板材9が四角等の多角形の場合には供廻り(ともまわり)を確実に防止することができる。
そして,一方の主装飾体1と他方の挟着部材2とにそれぞれ形成された取付脚部3,4と取付基部5とが相対的に回動する際,前記3枚以上の各金属板材9の係合面に重点的に負荷がかかるようになっている。」

(イ)そうすると,引用文献2には,以下の事項が記載されている。
「一対の取付脚部3,4の両内側面及び取付基部5の両外側面のそれぞれに金属板材9を結合した構成を備えたイヤリングにおいて,前記金属板材9を真円ではなく四角等の多角形の形状にすることで,前記取付脚部3,4と前記取付基部5が相対的に回動する際に,前記金属板材9の供廻りを防止するという事項」

エ 対比
本件補正発明1と引用発明とを,その機能に照らして対比すると,引用発明の「一端」,「耳たぶ当接部10」,「他端」,「ピン8」,「主装飾体1及び副装飾体2」,「副装飾体2」,「被挟着部5」,「主装飾体1」,「取付脚部3,4」,「摺動部材9」,「凹部11」,は,それぞれ,本願補正発明1の「先端」,「耳当部」,「後端」,「共通軸」,「装飾部材」,「(装飾部材のうち)一方」,「基部」,「(装飾部材のうち)他方」,「脚部」,「ワッシャー」,「凹部」に相当する。
引用発明の「全体に曲がった形状」は,本件補正発明1の「湾曲した」に相当し,引用発明の「主装飾体1」と「副装飾体2」は,前記イ(ク)より対をなしているので,引用発明の「全体に曲がった形状の主装飾体1及び副装飾体2のうち,」は,本件補正発明1の「一対の湾曲した装飾部材のうち,」に相当する。
また,引用発明の「副装飾体2側は被挟着部5を備え,被挟着部5の一箇所にて軸着されており,」は,「副装飾体2側は一箇所にて軸着されている被挟着部5を備え,」と同義であるので,引用発明の「副装飾体2側は被挟着部5を備え,被挟着部5の一箇所にて軸着されており,」は,本件補正発明1の「一方側は一箇所にて軸着されている基部を備え,」に相当する。
引用発明の「取付脚部3,4」は対をなしているので,引用発明の「取付脚部3,4」は,前記したように本件補正発明1の「脚部」に相当し,かつ「一対の脚部」に相当する。
引用発明は,被挟着部5側の両外側及び取付脚部3,4側の両内側にそれぞれ摺動部材9を固着させているので,被挟着部5と取付脚部3,4との間にそれぞれ対になる摺動部材9が挟まっている状態であることから,引用発明の「被挟着部5側の両外側及び取付脚部3,4側の両内側にそれぞれ摺動部材9をピン8に軸着した状態にて固着させ」という事項は,本件補正発明1の「基部と脚部との間にそれぞれ一対のワッシャーを共通軸に軸着した状態にて介在させ」という事項に相当する。
引用発明は,摺動部材9を凹部11に嵌め込んで固着しているので,凹部11に摺動部材9を当接し合う状態にて収容していることは明らかであるから,引用発明の各摺動部材9を「嵌め込んで固着しており」という事項は,本件補正発明1の各ワッシャーを「当接し合う状態にて収容しており」という事項に相当する。
そして,引用発明において,向かい合う摺動部材9は,被挟着部5の両外側及び取付脚部3,4の両内側にそれぞれ配置されているので,引用発明の「被挟着部5の両外側及び取付脚部3,4の両内側にそれぞれ配置された向かい合う摺動部材9が互い接触する」という事項は,本件補正発明1の「相向かい合う二対のワッシャーが相互に接触する」という事項に相当し,引用発明の「耳たぶ当接部10によって耳を挟む際に」という事項は,本件補正発明1の「耳当部による耳に対する当接に際し」という事項に相当する。
また,引用発明において,被挟着部5と取付脚部3,4はピン8を中心に回動するので,引用発明の「被挟着部5と取付脚部3,4とがなす角度」は,本件補正発明1の「基部と脚部との間にて形成された回動角度」に相当し,引用発明の「上記向かい合う摺動部材9の間に働く」摩擦抵抗は,本件補正発明1の「上記接触による」摩擦抵抗に相当する。
引用発明において,摺動部材9の円形の平面形状と,凹部11の環状の形状とは,それぞれの周囲で接触するものであって,互いに対応する形状であるといえるから,引用発明の「各摺動部材9が円形の平面形状であって,環状の形状を形成している各凹部11の周囲壁と接触している」という事項と,本件補正発明1の「各ワッシャーが円形以外の平面形状であって,円形以外の形状を形成している各凹部の周囲壁と接触している」という事項とは,「各ワッシャーが平面形状であって,該平面形状に対応する形状を形成している各凹部の周囲壁と接触している」点において共通している。
そうすると,本件補正発明1と引用発明とは,次の点で一致し,相違する。
(一致点)
「先端を耳当部とし,後端側にて共通軸によって軸着されている一対の湾曲した装飾部材のうち,一方側は一箇所にて軸着されている基部を備え,他方側は基部の両側にて軸着されている一対の脚部を備えており,基部及び脚部の双方又は何れか一方は,共通軸を中心として回動自在状態であって,基部と脚部との間にそれぞれ一対のワッシャーを共通軸に軸着した状態にて介在させ,かつ共通軸に対し,少なくとも回動自在状態にある基部及び脚部側に配置されている各ワッシャーを加締めているイヤリングであって,基部の両外側及び脚部の両内側にそれぞれ形成した凹部に各ワッシャーを当接し合う状態にて収容しており,相向かい合う二対のワッシャーが相互に接触すると共に,耳当部による耳に対する当接に際し,基部と脚部との間にて形成された回動角度が上記加締め及び上記接触による摩擦抵抗によって維持されており,各ワッシャーが平面形状であって,該平面形状に対応する形状を形成している各凹部の周囲壁と接触しているイヤリング。」

(相違点)
本件補正発明1は,各ワッシャーが「円形以外」の平面形状であって,「円形以外」の形状を形成している各凹部の周囲壁と接触しているのに対し,引用発明は,各摺動部材9が「円形」の平面形状であって,「環状」の形状を形成している各凹部11の周囲壁と接触している点。

オ 判断
(ア)相違点について
引用発明は,被挟着部5と取付脚部3,4とがなす角度を,互いに接触する摺動部材9の摩擦抵抗によって維持するものであるから,前記角度の維持という効果を達成するために,前記被挟着部5及び取付脚部3,4に形成された凹部11内で,前記摺動部材9が回転しないように固着することは,引用発明における当然の課題である。
一方,前記ウ(イ)より,引用文献2には,一対の取付脚部3,4の両内側面及び取付基部5の両外側面のそれぞれに金属板材9を強固に結合した構成を備えたイヤリングにおいて,前記金属板材9を真円ではなく四角等の多角形の形状にすることで,前記取付脚部3,4と前記取付基部5が相対的に回動する際に,前記金属板材9の供廻りを防止するという事項が記載されている。
そうすると,引用発明において,凹部11内で摺動部材9が回転することを防止するために,引用文献2に記載された事項に基づいて,前記摺動部材9の外形を四角等の多角形の形状,すなわち,円形以外の平面形状とすることは当業者が容易に想到し得たことであり,また,引用発明において,前記摺動部材9の外形を円形以外の平面形状とする際,前記摺動部材9の前記凹部11に対する回転を拘束するために,前記凹部11の周囲壁の形状を,前記摺動部材9の平面形状に合うように,前記円形以外の平面形状とすることに格別の困難性はない。
なお,2部材の回転角度を固定する構成として,2部材のそれぞれに固定された一対の摺動部材を備え,前記一対の摺動部材の摩擦抵抗によって前記2部材の相対位置を維持する機構において,前記摺動部材の外形を円形以外の平面形状とし,前記摺動部材が収容される部分の周囲壁を前記摺動部材と同じ円形以外の形状として,前記摺動部材が前記収容される部分に対して供廻りしないようにした構成は,機械分野一般において周知でもある(例えば,実願平2-28266号(実開平3-117117号)のマイクロフィルムの明細書5ページ第15行-第18行,6ページ第12行-第19行,7ページ第1行-第5行,第6図に記載された第1の摩擦部材3と保持部材2を参照,特開2004-169870号公報の【0011】-【0013】,図8に記載された制動部材の周面突起44,保持リング内周面の凹み48を参照。)。

したがって,引用発明において,引用文献2に記載された事項に基づいて,相違点に係る本件補正発明1の構成を備えるようにすることは当業者が容易になし得たことである。

(イ)また,本件補正発明1の奏する作用効果をみても,引用発明及び引用文献2に記載された事項から予測される範囲内のものであって,格別顕著なものでもない。

(ウ)審判請求人の主張について
審判請求人は,令和2年10月8日提出の手続補正書で補正された審判請求書の請求の理由及び令和2年6月11日提出の意見書において,おおむね,以下の主張をしている。
a 引用文献1は,凹部11を形成し,各摺動部材9を収容することの技術的メリットを全く開示していないため,引用文献1は,決して被挟着部5の両外側及び取付脚部3,4の両内側にて凹部11を形成した上で各摺動部材9を当接し合う状態にて収容することまで示唆していない(審判請求の理由の三.1.(一)参照。)。
b 引用文献1は,各摺動部材が当接し合うような状態について全く開示しておらず,【0009】記載のように,摺動部材9の軸尺における加締めによって回動状態を維持し,耳たぶへの挟着力を発揮している(審判請求の理由の三.1.(二)参照。)。
c 引用文献1の凹部は円形であり,引用文献2は,凹部を採用すること自体なんら開示及び示唆されていないため,引用文献1と同2を結合したところで,多角形状の凹部11を採用することによって供廻りを防止する構成を導出することはできない(審判請求の理由の三.1.(三)参照。)。
d 両側のワッシャーが供に凹部11内に嵌め込まれている場合には,両側のワッシャーに対して十分な加締めを実現することができない(意見書の一.1.(三)参照。)。

以下,上記主張について検討する。
aに関して,引用文献1には,ロウつけあるいは接着による固定手段が,摺動部材9を凹部11に嵌め込んで固定する固着手段に対して有利な効果を奏することについて記載されていない。そして,【0012】の記載は,固着手段として,単に,ロウつけあるいは接着剤にて固着する手段の変形例として,摺動部材9を凹部11に嵌め込んで固定する固着手段を示すものであり,【0010】,【0012】等の記載から,ロウつけあるいは接着剤にて固着する手段と摺動部材9を凹部11に嵌め込んで固定する固着手段とを同等の固着手段として扱っていると考えられる。
そうすると,【0011】の取付脚部3,4側及び被挟着部5側の両側に摺動部材9を固着した構成において,摺動部材9を固着する部位によって固着手段を変更する特段の理由がなければ,通常,作業性等を考慮して,同じ固着手段を用いる方が自然であり,前記摺動部材9を固着する手段として摺動部材9を凹部11に嵌め込んで固定する固着手段を採用した場合,全ての摺動部材9を同じ固着手段で固定することは自然なことである。
bに関して,摺動部材9は,その部材の名称が示すように「摺動」する部材である(摺動:滑らせて動かすこと。[デジタル大辞泉(小学館)])ことから,隣接する部材の表面を滑る,すなわち,隣接する部材と当接し合うような状態に配置される部材であると考えられる。
そして,イヤリングにおいて重要視される挟着力の保持の観点から,主装飾体1と副装飾体2の連結部分において,取付脚部3,4と被挟着部5の間に摺動部材9が隣接する部材と当接しないようにする隙間を設けることは,当業者であれば,通常,行わないことである。
そうすると,引用文献1の【0011】の取付脚部3,4側及び被挟着部5側の両側に摺動部材9を固着した構成においては,隣接する摺動部材9は当接し合うような状態であると解するのが相当である。
cに関して,上記(ア)で検討したとおり,引用発明において,引用文献2に記載された事項に基づいて,摺動部材9の外形を円形以外の平面形状とすることは当業者が容易に想到し得たことであり,それに応じて,凹部11の周囲壁の形状を,前記摺動部材9の円形以外の平面形状に合うように,前記円形以外の平面形状とすることは当業者が通常行うことである。
dに関して,摺動部材9を凹部11に嵌め込んで固着する固着手段を採用した場合は,摺動部材9をロウつけあるいは接着剤にて固着する手段等を採用した場合に比べて達成し得る最大の加締め力は小さい可能性があるとしても,引用文献1には,実施例として摺動部材9を凹部11に嵌め込んで固定した変形例が記載され,加締め力について不足する旨等の記載もないことから,摺動部材9を凹部11に嵌め込んで固定する固着手段においても,引用発明において必要とされる加締め力は十分に得られているものと認められる。

(エ)したがって,本件補正発明1は,引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

カ 以上のとおりであるから,本件補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際,独立して特許を受けることができない。

(3)請求項1-3についての本件補正が新規事項を追加する補正に該当しないものであるとしても,本件補正発明1は,特許出願の際,独立して特許を受けることができないから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年9月3日提出の手続補正書による手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-10に係る発明は,令和2年6月11日提出の手続補正書による手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された,前記第2 3(1)イに記載のとおりのものであると認められる。以下,請求項1に係る発明を「本願発明1」という。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明1は,本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1,2に記載された発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。
(引用文献)
引用文献1:特開2000-229007号公報
引用文献2:国際公開第2017/119452号

3 引用文献に記載された事項
引用文献1,2に記載された事項は,前記第2 3(2)イ,ウのとおりである。

4 対比及び判断
本願発明1は,前記第2 3(2)で検討した本件補正発明1における,各ワッシャーが「円形以外の形状を形成している各凹部の周囲壁と接触している」との発明特定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明1が,前記第2 3(2)に記載したとおり,引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明1も,引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明1(請求項1に係る発明)は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-12-25 
結審通知日 2021-01-05 
審決日 2021-01-20 
出願番号 特願2019-224135(P2019-224135)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A44C)
P 1 8・ 575- Z (A44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 粟倉 裕二  
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 山本 健晴
小川 恭司
発明の名称 イヤリング  
代理人 赤尾 直人  

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