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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H03H
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 取り消して特許、登録 H03H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H03H
管理番号 1373454
審判番号 不服2020-12386  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-03 
確定日 2021-05-11 
事件の表示 特願2018- 67583「可変バンドパスフィルタ」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月17日出願公開,特開2019-179996,請求項の数(3)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯

本願は,平成30年3月30日の出願であって,令和元年12月25日付けで拒絶理由通知がされ,令和2年3月6日に手続補正がされ,令和2年6月2日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和2年9月3日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和2年10月23日に前置報告がされ,令和3年1月15日に審判請求人から前置報告に対する上申がされたものである。


第2 補正の却下の決定

1.補正の却下の決定の結論

令和2年9月3日の手続補正(以下,「本件補正」という)を却下する。

2.補正の却下の決定の理由

(1)本件補正の内容

本件補正は,特許請求の範囲を

「 【請求項1】
固定インダクタンスを有する共振インダクタと可変キャパシタンスを有する共振コンデンサとを直列にそれぞれ備える2個の直列共振器と,2個の前記直列共振器を互いに結合する結合回路と,を備える可変バンドパスフィルタであって,
前記結合回路は,
2個の前記直列共振器が備える2個の前記共振インダクタが逆相で磁界結合されることにより構成される誘導性ジャイレータ結合回路と,
正のキャパシタンスを有するシャントコンデンサと,負のキャパシタンスを有し2個の前記直列共振器が備える2個の前記共振コンデンサにそれぞれ吸収される2個の信号線路コンデンサと,を備える容量性ジャイレータ結合回路と,
を備えることを特徴とする可変バンドパスフィルタ。
【請求項2】
前記誘導性ジャイレータ結合回路は,一方の前記直列共振器が備える一方の前記共振インダクタと同相で磁界結合される同相インダクタと,他方の前記直列共振器が備える他方の前記共振インダクタと逆相で磁界結合される逆相インダクタと,前記同相インダクタ及び前記逆相インダクタと直列接続される直列インダクタと,を備える,
ことを特徴とする,請求項1に記載の可変バンドパスフィルタ。
【請求項3】
前記誘導性ジャイレータ結合回路は,前記直列インダクタと並列接続される並列コンデンサ,をさらに備え,前記直列インダクタと前記並列コンデンサとの並列共振周波数は,前記誘導性ジャイレータ結合回路のインピーダンスと負荷インピーダンスとがマッチングする前記可変バンドパスフィルタの中心周波数と比べて,大きく設定される,
ことを特徴とする,請求項2に記載の可変バンドパスフィルタ。」

から

「 【請求項1】
固定インダクタンスを有する共振インダクタと可変キャパシタンスを有する共振コンデンサとを直列にそれぞれ備える2個の直列共振器と,2個の前記直列共振器を互いに結合する結合回路と,を備える可変バンドパスフィルタであって,
前記結合回路は,
2個の前記直列共振器が備える2個の前記共振インダクタが逆相で磁界結合されることにより構成される誘導性ジャイレータ結合回路と,
正のキャパシタンスを有するシャントコンデンサと,2個の前記直列共振器が備える2個の前記共振コンデンサと,により構成される容量性ジャイレータ結合回路と,
を備えることを特徴とする可変バンドパスフィルタ。
【請求項2】
前記誘導性ジャイレータ結合回路は,一方の前記直列共振器が備える一方の前記共振インダクタと同相で磁界結合される同相インダクタと,他方の前記直列共振器が備える他方の前記共振インダクタと逆相で磁界結合される逆相インダクタと,前記同相インダクタ及び前記逆相インダクタと直列接続される直列インダクタと,を備える,
ことを特徴とする,請求項1に記載の可変バンドパスフィルタ。
【請求項3】
前記誘導性ジャイレータ結合回路は,前記直列インダクタと並列接続される並列コンデンサ,をさらに備え,前記直列インダクタと前記並列コンデンサとの並列共振周波数は,前記誘導性ジャイレータ結合回路のインピーダンスと負荷インピーダンスとがマッチングする前記可変バンドパスフィルタの中心周波数と比べて,大きく設定される,
ことを特徴とする,請求項2に記載の可変バンドパスフィルタ。」

に補正しようとするものである。

(2)本件補正の適否の判断

本件補正は,請求項1に係る発明の「容量性ジャイレータ結合回路」について,「正のキャパシタンスを有するシャントコンデンサと,負のキャパシタンスを有し2個の前記直列共振器が備える2個の前記共振コンデンサにそれぞれ吸収される2個の信号線路コンデンサと,を備える容量性ジャイレータ結合回路」から,「正のキャパシタンスを有するシャントコンデンサと,2個の前記直列共振器が備える2個の前記共振コンデンサと,により構成される容量性ジャイレータ結合回路」に補正するものであるから,容量性ジャイレータ結合回路を構成するコンデンサについて,「負のキャパシタンスを有し(2個の前記直列共振器が備える2個の前記共振コンデンサ)にそれぞれ吸収される2個の信号線路コンデンサ」との事項を削除するものであるから,特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。

また,「負のキャパシタンスを有し2個の前記直列共振器が備える2個の前記共振コンデンサにそれぞれ吸収される2個の信号線路コンデンサ」については,下記第5で言及するように,記載は明瞭であるから,特許法第17条の2第5項第4号に規定する明瞭でない記載の釈明にも該当しない。
なお,本件補正が特許法第17条の2第5項第1号及び第3号を目的とするものでないことは明らかである。

したがって,特許法第17条の2第5項の各号に記載されるいずれの目的も有しない。

上記のように,本件補正は,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていないので,上記のとおり本件補正を却下する。


第3 原査定の概要

原査定(令和2年6月2日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(実施可能要件)この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

結合回路32において,どのようにして,具体的に実在する回路素子を用いて「負のキャパシタンス」を生成し,正のキャパシタンスを有するシャントコンデンサ+Ckと,負のキャパシタンスを有する信号線路コンデンサ-Ck,-Ckと,を備える容量性ジャイレータ結合回路として構成し,結合回路32を実現しているのかを,「物の発明」として特定できるように記載されておらず,出願時の技術常識に照らしても,補正後の請求項1に係る発明をどのように実施するか当業者が理解できない。

2.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

本願の補正後の請求項1は,「可変バンドパスフィルタ」という「物の発明」であるが,「正のキャパシタンスを有するシャントコンデンサと,負のキャパシタンスを有し2個の前記直列共振器が備える2個の前記共振コンデンサにそれぞれ吸収される2個の信号線路コンデンサと,を備える容量性ジャイレータ結合回路」と記載されているように,その発明特定事項を,「負のキャパシタンスを有する容量性ジャイレータ結合回路」という等価回路で表される設計方法により規定しており,当該請求項に係る発明を「物の発明」として明確に把握することができない。


第4 本願発明

本件補正は,上記「第2 補正の却下の決定」のとおり,却下された。
したがって,本願請求項1-3に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は,令和2年3月6日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
固定インダクタンスを有する共振インダクタと可変キャパシタンスを有する共振コンデンサとを直列にそれぞれ備える2個の直列共振器と,2個の前記直列共振器を互いに結合する結合回路と,を備える可変バンドパスフィルタであって,
前記結合回路は,
2個の前記直列共振器が備える2個の前記共振インダクタが逆相で磁界結合されることにより構成される誘導性ジャイレータ結合回路と,
正のキャパシタンスを有するシャントコンデンサと,負のキャパシタンスを有し2個の前記直列共振器が備える2個の前記共振コンデンサにそれぞれ吸収される2個の信号線路コンデンサと,を備える容量性ジャイレータ結合回路と,
を備えることを特徴とする可変バンドパスフィルタ。
【請求項2】
前記誘導性ジャイレータ結合回路は,一方の前記直列共振器が備える一方の前記共振インダクタと同相で磁界結合される同相インダクタと,他方の前記直列共振器が備える他方の前記共振インダクタと逆相で磁界結合される逆相インダクタと,前記同相インダクタ及び前記逆相インダクタと直列接続される直列インダクタと,を備える,
ことを特徴とする,請求項1に記載の可変バンドパスフィルタ。
【請求項3】
前記誘導性ジャイレータ結合回路は,前記直列インダクタと並列接続される並列コンデンサ,をさらに備え,前記直列インダクタと前記並列コンデンサとの並列共振周波数は,前記誘導性ジャイレータ結合回路のインピーダンスと負荷インピーダンスとがマッチングする前記可変バンドパスフィルタの中心周波数と比べて,大きく設定される,
ことを特徴とする,請求項2に記載の可変バンドパスフィルタ。」


第5 原査定の拒絶の理由についての判断

1.実施可能要件について

負のキャパシタンスをどのように実現するかについては,発明の詳細な説明(下線は当審で付与。)に

「【0022】
具体的には,誘導性ジャイレータ結合回路は,直列共振器31,31が備える共振インダクタLr,Lrが「逆相」で磁界結合(結合係数k)されることにより構成される。すると,シャントインダクタ-Mは,-M=-kLrとなり,信号線路インダクタ+M,+Mは,+M=+kLrとなる。そして,信号線路コンデンサ-Ck,-Ckは,共振コンデンサCr,Crに吸収され,シャントコンデンサ+Ckは,実在のコンデンサである。」

と記載されているように,負のキャパシタンスを有する信号線路コンデンサ-Ckは,共振コンデンサCrに吸収されるものである。
ここで,図7を参照すれば,共振コンデンサCrと信号線路コンデンサ-Ckは直列に接続されており,容量C1のコンデンサと容量C2のコンデンサが直列に接続された合成容量Cが1/C=1/C1+1/C2であることが技術常識であるから,共振コンデンサと信号線路コンデンサの合成容量が1/(1/Cr-1/Ck)となることは明らかである。
【図7】

そして,

「【0025】
ここで,結合回路32のインピーダンスZjoは,低周波数側の中心周波数f0では,容量性ジャイレータ結合回路のインピーダンスZj1の寄与を多く含む。そこで,結合回路32のインピーダンスZjoがかなり低い中心周波数f0でも負荷インピーダンスZlと整合するためには,容量性ジャイレータ結合回路でのCkが大きいことが望ましい。」

と記載されているように,Ckは大きいから,1/Cr-1/Ck>0,すなわち1/(1/Cr-1/Ck)>0となることは明らかである。

したがって,「負のキャパシタンス」は,共振コンデンサと直列に接続されていて吸収されるのであるから,容量性ジャイレータ結合回路が「負のキャパシタンスを有し2個の前記直列共振器が備える2個の前記共振コンデンサにそれぞれ吸収される2個の信号線路コンデンサ」を有することについて,発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に係る発明を容易に実施することができる程度に記載されている。

したがって,発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定する用件を満たしている。

2.明確性について

上記1.に記載したように,容量性ジャイレータの「負のキャパシタンス」を有する信号線路コンデンサは,「共振コンデンサに吸収される」のであるから,特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。


第6 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-04-20 
出願番号 特願2018-67583(P2018-67583)
審決分類 P 1 8・ 57- WY (H03H)
P 1 8・ 536- WY (H03H)
P 1 8・ 537- WY (H03H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 志津木 康▲高▼橋 徳浩  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 衣鳩 文彦
吉田 隆之
発明の名称 可変バンドパスフィルタ  
代理人 田中 真理  
代理人 岡田 賢治  
代理人 畑 雅明  
代理人 今下 勝博  

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