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審決分類 審判 一部無効 発明同一  F16B
管理番号 1373558
審判番号 無効2020-800040  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-04-10 
確定日 2021-04-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第6484872号発明「交差部支持金具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6484872号の請求項1ないし4、7及び8に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
特許第6484872号(以下、「本件特許」という。)は、平成30年3月1日の出願であって、その請求項1ないし10に係る発明について平成31年3月1日に特許権の設定登録がなされたものである。
本件特許無効審判の手続の経緯は、次のとおりである。
令和 2年 4月10日 審判請求書提出
令和 2年10月 7日付け 書面審理通知
令和 2年10月14日付け 審決の予告
なお、請求人 因幡電機産業株式会社(以下、「請求人」という。)が提出した審判請求書に対して、被請求人 株式会社昭和コーポレーション(以下、「被請求人」という。)に期間を指定して答弁を求めたが、何ら応答がなかったため、本件の審理は、職権により書面審理とし、令和2年10月7日付けで、請求人及び被請求人に書面審理通知を通知した。
また、審決の予告に対して、被請求人から何ら応答がなかった。

2.本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4、7及び8に記載された発明(以下、「本件発明1?4、7及び8」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
垂下された吊部材と振止部材との2本の棒状体を交差状に連結するために、垂下された吊部材を配設する配設機構を設けた第1部材と、振止部材を配設する配設機構を設けた第2部材と、同一形状である第1部材と第2部材の間に介在させてそれぞれの配設機構とともに垂下された吊部材又は振止部材を挟み込む第3部材と、を重ね合わせ、緊締用に形成される挿通孔を介して軸支可能な緊締具で緊締するとともに、
第1部材及び第2部材を第3部材側へ付勢作用を及ぼす付勢部材(弾性部材)を備えることを特徴とした交差部支持金具。
【請求項2】
垂下された吊部材に設けられる振止部材どうしの2本の棒状体を交差状に連結するために、一方の振止部材を配設する配設機構を設けた第1部材と、他方の振止部材を配設する配設機構を設けた第2部材と、同一形状である第1部材と第2部材の間に介在させてそれぞれの配設機構とともに振止部材を挟み込む第3部材と、を重ね合わせ、緊締用に形成される挿通孔を介して軸支可能な緊締具で緊締するとともに、
第1部材及び第2部材を第3部材側へ付勢作用を及ぼす付勢部材(弾性部材)を備えることを特徴とした交差部支持金具。
【請求項3】
第1部材と第2部材又は/及び第3部材に配設機構への垂下された吊部材又は振止部材の差し込みを補助する補助機構を備えることを特徴とした請求項1又は2記載の交差部支持金具。
【請求項4】
第3部材が、1枚又は2枚以上であることを特徴とした請求項1から3のいずれかに記載の交差部支持金具。
【請求項7】
第1部材又は第2部材に締結具の共回りを防止する共回り防止手段を備えることを特徴とした請求項1から6のいずれかに記載の交差部支持金具。
【請求項8】
第1部材及び/又は第2部材の配設機構の内側又は/及び端面に垂下された吊部材又は振止部材と係合する係合手段を備えることを特徴とした請求項1から7のいずれかに記載の交差部支持金具。」

3.請求人の主張
請求人は、「特許第6484872号の請求項1?4、7及び8に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めており、審判請求書において主張する無効理由1?3は、次のとおりである。
(1)無効理由1
本件発明1?4、7及び8は、出願後に発行された、先願に係る他の特許出願の特許公開公報に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由2
本件発明1?4、7及び8は、本件の出願前に日本国内において公然実施された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(3)無効理由3
本件発明1?4、7及び8は、本件の出願前に日本国内において公然実施された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

そして、請求人は証拠方法として、検甲第1号証の検証を申し出るとともに、甲第1?12号証を提出した。
<証拠方法>
検甲第1号証 :クロスロックCタイプ ボルト固定式 FL-C
甲第1号証 :特開2019-90513号公報
甲第2号証 :ヒーバック&アール ジャパン 2018 報告書
https://www.jraia.or.jp/hvac/pdf/hvac_report2018.pdf
甲第3号証の1:「HVAC&R JAPAN 出展製品紹介」、因幡電工事業部
甲第3号証の2:ヒーバック製品紹介パンフレット 納品書
甲第4号証 :HVAC&R JAPAN 2018の出展ブースの写真
甲第5号証 :HVAC&R JAPAN 2018の出展品の施工サンプルの写真
甲第6号証 :「クロスロックCタイプ ボルト固定式 FL-C」の製品チラシ
甲第7号証の1:件名「RE:FL-1方最終図面送付」の電子メールの印刷物
甲第7号証の2:甲第7号証の1の添付ファイルの印刷物
甲第7号証の3:甲第7号証の1の添付ファイルの印刷物
甲第7号証の4:甲第7号証の1の添付ファイルの印刷物
甲第8号証の1:件名「FL-1方向 型番決定」の電子メールの印刷物
甲第8号証の2:クロスロックCタイプ ボルト固定式 FL-Cの設計図面(組図)
甲第8号証の3:クロスロックCタイプ ボルト固定式 FL-Cの部品の設計図面(ナット側用挟み金具)
甲第8号証の4:クロスロックCタイプ ボルト固定式 FL-Cの部品の設計図面(円形ベース金具)
甲第9号証の1:「稟議書 件名:ボルト固定式振れ止め金具 1方向タイプ金型作成の件」
甲第9号証の2:クロスロックCタイプ ボルト固定式 FL-Cの金型作成に関する注文書控
甲第10号証 :「クロスロック ボルト固定式 FL-V」の製品チラシ
甲第11号証 :クロスロック ボルト固定式 FL-Vの部品の設計図面(挟み金具)
甲第12号証 :クロスロックCタイプ ボルト固定式 FL-Cの金型の納品書

なお、甲第1号証は、本件の出願に対して先の出願となる特願2017-221194号(以下「先願」という。)の公開公報であるが、出願から公開公報発行までの間に手続補正がなされていないことを当審で確認した。よって、甲第1号証は上記先願の出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「先願の当初明細書等」という。)を示すものとして取り扱う。

4.無効理由1について
(1)甲第1号証に記載された事項及び甲1発明1?6
甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付したものである。以下同様。)

「【請求項1】
第一ボルトと第二ボルトとを連結するボルト連結具であって、
第一狭着部材と、第二狭着部材と、連結ボルトと、弾性部材と、を備え、
前記連結ボルトの締結によって、他部材と前記第一狭着部材との間に前記第一ボルトが狭着固定されるとともに、他部材と前記第二狭着部材との間に前記第二ボルトが狭着固定され、
前記弾性部材が、前記連結ボルトの緩締め状態で前記第一狭着部材と前記第二狭着部材とを互いに近接させるように付勢するべく、前記連結ボルトに装着されているボルト連結具。
【請求項2】
前記第一狭着部材との間に前記第一ボルトを狭着固定する前記他部材と、前記第二狭着部材との間に前記第二ボルトを狭着固定する前記他部材とが、板材で構成された共通のベース部材であり、
前記第一狭着部材と前記第二狭着部材とが前記ベース部材における互いに反対側の面に配設されている請求項1に記載のボルト連結具。
【請求項3】
前記ベース部材が、前記第一狭着部材及び前記第二狭着部材が配設されるベース本体部と、前記第一ボルトを前記第一狭着部材の配設面へと案内するガイド部と、を有する請求項2に記載のボルト連結具。
・・・(省略)・・・
【請求項5】
前記第一狭着部材が、前記第一ボルトを当該第一ボルトの固定部位へと案内するガイド部を有する請求項1から4のいずれか一項に記載のボルト連結具。」

「【0001】
本発明は、2本のボルトを連結するボルト連結具に関する。」

「【0007】
本発明に係るボルト連結具は、
第一ボルトと第二ボルトとを連結するボルト連結具であって、
第一狭着部材と、第二狭着部材と、連結ボルトと、弾性部材と、を備え、
前記連結ボルトの締結によって、他部材と前記第一狭着部材との間に前記第一ボルトが狭着固定されるとともに、他部材と前記第二狭着部材との間に前記第二ボルトが狭着固定され、
前記弾性部材が、前記連結ボルトの緩締め状態で前記第一狭着部材と前記第二狭着部材とを互いに近接させるように付勢するべく、前記連結ボルトに装着されている。
【0008】
この構成によれば、1つの連結ボルトを締結するだけで、第一狭着部材を用いて第一ボルトを狭着固定するとともに、第二狭着部材を用いて第二ボルトを狭着固定することができる。第一狭着部材及び第二狭着部材は、連結ボルトが締結される前の緩締め状態で当該連結ボルトを軸として回動自在なので、第一ボルトと第二ボルトとが様々な角度で交差する場合にも対応可能である。よって、第一ボルトと第二ボルトとを容易に連結することができる。また、連結ボルトが締結される前の緩締め状態で、連結ボルトに装着される弾性部材の付勢力により、第一ボルトと第二ボルトとを同時に仮止めすることができる。このため、作業者は、連結対象の2本ボルトをしっかりと支える必要がなく、他の操作に集中して作業を行うことができる。よって、この点からも、第一ボルトと第二ボルトとを容易に連結することができる。
【0009】
以下、本発明の好適な態様について説明する。但し、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0010】
一態様として、
前記第一狭着部材との間に前記第一ボルトを狭着固定する前記他部材と、前記第二狭着部材との間に前記第二ボルトを狭着固定する前記他部材とが、板材で構成された共通のベース部材であり、
前記第一狭着部材と前記第二狭着部材とが前記ベース部材における互いに反対側の面に配設されていることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、共通のベース部材の両側に第一狭着部材と第二狭着部材とを配設しつつ1つの連結ボルトを締結するだけで第一ボルト及び第二ボルトをそれぞれ狭着固定でき、第一ボルトと第二ボルトとを容易に連結することができる。その際、共通のベース部材を間に介することで、当該ベース部材に対する第一ボルトの仮止めと第二ボルトの仮止めとを、別々に、それぞれ安定的に行うことができる。さらに、第一狭着部材との間に第一ボルトを狭着固定するための部材と、第二狭着部材との間に第二ボルトを狭着固定するための部材とを共用させることで、それぞれ専用の部材を用いる場合に比べて、部品点数を少なく抑えて低コスト化を図ることができる。
【0012】
一態様として、
前記ベース部材が、前記第一狭着部材及び前記第二狭着部材が配設されるベース本体部と、前記第一ボルトを前記第一狭着部材の配設面へと案内するガイド部と、を有することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、ベース部材のガイド部の案内機能により、ベース本体部における第一狭着部材の配設面側に第一ボルトを誘導することができ、第一ボルトを容易に狭着固定することができる。
・・・(省略)・・・
【0016】
一態様として、
前記第一狭着部材が、前記第一ボルトを当該第一ボルトの固定部位へと案内するガイド部を有することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、第一狭着部材のガイド部の案内機能により、ベース部材と第一狭着部材の固定部位との間に第一ボルトを容易に誘導することができる。よって、第一ボルトを容易に狭着固定することができる。」

「【0024】
ボルト連結具の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態のボルト連結具1は、2本のボルトを連結するための器具である。本実施形態では、吊ボルトPと振止ボルトQとを連結するボルト連結具1を例として説明する。なお、以下の説明で参照する平面図及び断面図においては、理解を容易化する目的で、第一狭着部材20と第二狭着部材30とが互いに逆向きの位置関係となるように描いている。
【0025】
図1に、構造体に吊設機器Eを吊り下げ支持する支持構造を示す。本支持構造は、構造体から垂設された吊ボルトPを吊設機器Eに固定してなる。なお、構造体は例えばコンクリート製の天井スラブや梁等であって良く、吊設機器Eは例えばケーブルラックや照明機器、空調機器の室内機等であって良い。
【0026】
互いに隣り合う吊ボルトPどうしの間に、それらに交差する姿勢で振止ボルトQが配置されている。ボルト連結具1は、吊ボルトPと、その隣に位置する吊ボルトPに対して交差姿勢で配設される振止ボルトQとを連結する。本実施形態では、吊ボルトPが「第一ボルト」に相当し、振止ボルトQが「第二ボルト」に相当する。
【0027】
図2?図5に示すように、本実施形態のボルト連結具1は、ベース部材10と、第一狭着部材20と、第二狭着部材30と、連結ボルト40と、弾性部材50とを備えている。連結ボルト40により、第一狭着部材20がベース部材10に取り付けられているとともに、第二狭着部材30がベース部材10に取り付けられている。第一狭着部材20と第二狭着部材30とは、ベース部材10における互いに反対側の面に配設されている。第一狭着部材20がベース部材10の第一面10aに配設され、第二狭着部材30が、ベース部材10における第一面10aとは反対側の第二面10bに配設されている。連結ボルト40には、弾性部材50が装着されている。
【0028】
ベース部材10は、第一狭着部材20及び第二狭着部材30を取り付けるための共通の基材である。本実施形態のベース部材10は、例えば金属製の板材で構成されている。ベース部材10は、ベース本体部11とガイド部16とを有する。ベース本体部11は、第一狭着部材20及び第二狭着部材30の固定部を提供する部位である。ベース本体部11は、円板状に形成されている。ベース本体部11の中心部には、連結ボルト40の軸部42が挿通可能な挿通孔12が形成されている。また、ベース本体部11には、挿通孔12を取り囲むように厚み方向の一方側(本例では第二面10b側)に突出する環状突起13が形成されている。ベース部材10が環状突起13を有することで、当該ベース部材10のメッキ処理をガラメッキ(バレルメッキ)で行う場合にも、ベース部材10どうしの貼り付きが生じにくい。
・・・(省略)・・・
【0030】
ガイド部16は、ベース本体部11の周方向の一部の領域において径方向に突出するように形成されている。ベース本体部11とガイド部16とは一体的に形成されている。ベース本体部11は、全体として(環状突起13及び規制部14以外の部分が)平板状に形成されており、ガイド部16は、全体として平板状のベース本体部11に対して傾斜するように屈曲形成されている。ベース本体部11とガイド部16との傾斜角度(なす角)は、例えば120°?150°であって良く、本実施形態では135°程度に設定されている。ガイド部16は、連結対象の吊ボルトPを、ベース部材10における第一狭着部材20の配設面である第一面10aへと案内する役割を果たす。
・・・(省略)・・・
【0032】
第一狭着部材20は、他部材であるベース部材10との間に吊ボルトPを狭着固定するための部材である。第一狭着部材20は、例えば金属製の板材で構成されている。第一狭着部材20は、狭着本体部21と湾曲部26とリブ部29とを有する。狭着本体部21は、ベース部材10に重ね合わされて当該ベース部材10への固定部となる部位である。狭着本体部21は、矩形状領域と半円状領域とが組み合わされてなるD字状に形成されている。狭着本体部21の中心部には、連結ボルト40の軸部42が挿通可能な挿通孔22が形成されている。また、狭着本体部21には、挿通孔22を取り囲むように環状突起13が形成されている。環状突起13は、ベース部材10とは反対側に向かって突出するように形成されている。
【0033】
環状突起23の内側には、連結ボルト40に螺合されるナット45の回り止め部24が設けられている。本実施形態では、環状突起23自体は円環状に形成されているとともに、その内側には、ナット45の外形形状に対応する多角形状(本例では六角形状)の凹部が形成されている。この多角形状の凹部により、回り止め部24が構成されている。このような回り止め部24を環状突起23に有することで、連結ボルト40の締結操作時に、ナット45が供回りするのを防止することができる。
【0034】
湾曲部26は、D字状の狭着本体部21における矩形状領域から、半円状領域とは反対側に延出している。狭着本体部21と湾曲部26とは一体的に形成されている。本実施形態では、湾曲部26は、平面視形状がおよそ180°の中心角を有する円弧状となる湾曲板部として形成されている。湾曲部26は、吊ボルトPの外面に概ね沿うように湾曲している。湾曲部26は、吊ボルトPを包囲する状態で当該吊ボルトPを実際に固定する部位であり、「第一狭着部材における第一ボルトの固定部位」に相当する。
【0035】
湾曲部26の内面には、吊ボルトPのネジ部に係止される係止突起27が突出形成されている。吊ボルトPに対して軸方向の複数箇所で係止可能なように、複数の係止突起27が分散して設けられている。このような係止突起27を有することで、吊ボルトPに対するボルト連結具1の位置ズレを抑制することができる。
・・・(省略)・・・
【0037】
リブ部29における湾曲部26の先端側の角部は、角の尖った先鋭状ではなく、平面視で丸みを帯びたR状に形成されている。このリブ部29のR状の角部は、吊ボルトPを湾曲部26(これは、第一狭着部材20における吊ボルトPの固定部位である)へと案内する機能を果たす。すなわち、リブ部29のR状の角部により、吊ボルトPを湾曲部26へと案内する、第一狭着部材20のガイド部29Aが構成されている。
【0038】
第二狭着部材30は、他部材であるベース部材10との間に振止ボルトQを狭着固定するための部材である。第二狭着部材30は、第一狭着部材20と同様、例えば金属製の板材で構成されている。本実施形態では、第二狭着部材30は、第一狭着部材20と同一形状に形成されている。第二狭着部材30は、狭着本体部31と湾曲部36とリブ部39とを有する。これらは、一体的に形成されている。
【0039】
D字状の狭着本体部31には、挿通孔32と環状突起33とが形成されている。環状突起33の内側には、多角形状(本例では六角形状)の凹部が形成されている。振止ボルトQの外面に概ね沿うように湾曲した湾曲部36の内面には、振止ボルトQのネジ部に係止される係止突起37が突出形成されている。狭着本体部31の一部と湾曲部36の全部に亘って形成されたリブ部29における湾曲部36の先端側の角部はR状に形成されており、当該R状の角部により、第二狭着部材30のガイド部39Aが構成されている。ガイド部39Aは、振止ボルトQを湾曲部36(これは、第二狭着部材30における振止ボルトQの固定部位である)へと案内する機能を果たす。
【0040】
連結ボルト40は、螺合されるナット45と協働して、ベース部材10、第一狭着部材20、及び第二狭着部材30を連結する。連結ボルト40は、第一狭着部材20と第二狭着部材30との間にベース部材10を挟んだ状態で、ナット45と協働して、これらを一体的に連結する。連結ボルト40は、第二狭着部材30側から、軸部42が第二狭着部材30の挿通孔32、ベース部材10の挿通孔12、及び第一狭着部材20の挿通孔22を順に貫通し、第一狭着部材20側でナット45に螺合される。そして、連結ボルト40とナット45とが締結されたとき、ワッシャー43を介して、連結ボルト40の頭部41とナット45との間に、ベース部材10、第一狭着部材20、及び第二狭着部材30が連結固定される。なお、ワッシャー43は、第二狭着部材30の環状突起33よりも大径のものを用いる。
【0041】
上述したように、第一狭着部材20は、ベース部材10との間に吊ボルトPを狭着固定し、第二狭着部材30は、ベース部材10との間に振止ボルトQを狭着固定する。すなわち、本実施形態のボルト連結具1は、共通のベース部材10を用いつつ、連結ボルト40の締結によって、ベース部材10と第一狭着部材20との間に吊ボルトPを狭着固定するとともに、ベース部材10と第二狭着部材30との間に振止ボルトQを狭着固定する。
【0042】
本実施形態のボルト連結具1において、連結ボルト40に弾性部材50が装着されている。弾性部材50としては、コイルばねが用いられており、より具体的には、軸方向の位置に応じてコイル径が次第に変化する円錐コイルばねが用いられている。弾性部材50は、第二狭着部材30に対してベース部材10及び第一狭着部材20とは反対側で、連結ボルト40の軸部42に装着されている。弾性部材50は、第二狭着部材30と連結ボルト40の頭部41との間に、連結ボルト40の頭部41側にワッシャー43を介する状態で、連結ボルト40に装着されている。また、弾性部材50は、定常状態(外力が作用していない状態)に比べて圧縮された状態で、連結ボルト40に装着されている。
【0043】
連結ボルト40に装着された圧縮状態の弾性部材50は、連結ボルト40の緩締め状態で、第一狭着部材20と第二狭着部材30とを互いに近接させるように付勢する。すなわち、弾性部材50は、連結ボルト40の緩締め状態で、ナット45によって背面側から支持された第一狭着部材20に対して、ベース部材10を介して第二狭着部材30を押圧付勢することで、第一狭着部材20と第二狭着部材30とを互いに近接させる。なお、「連結ボルト40の緩締め状態」とは、連結ボルト40の軸部42にナット45が螺合され、かつ、完全には締結されていない状態である。湾曲部26に吊ボルトPが収容された状態の第一狭着部材20にベース部材10を押圧付勢するとともに、湾曲部36に振止ボルトQが収容された状態の第二狭着部材30をベース部材10に押圧付勢することで、吊ボルトPと振止ボルトQとを同時に仮止めすることができる。
【0044】
本実施形態のボルト連結具1は、ベース部材10、第一狭着部材20、第二狭着部材30、連結ボルト40、及び弾性部材50の全てが仮組された状態(仮組状態)で施工することができる。なお、ボルト連結具1の仮組状態は、ワッシャー53及び弾性部材50が装着された連結ボルト40が、ベース部材10、第一狭着部材20、及び第二狭着部材30を貫通して緩締め状態となっている状態である。なお、ボルト連結具1の仮組状態では、連結ボルト40の軸部42を軸として、ベース部材10及びそれに姿勢保持された第一狭着部材20に対して、第二狭着部材30が、ベース部材10のガイド部16と干渉しない範囲で、回動自在に連結される。上述したように、ガイド部16の大きさが第一狭着部材20の幅と同程度又はそれ以下であれば、第二狭着部材30の可動範囲(すなわち、対応可能な振止ボルトQの設置角度範囲)を大きく確保できて好ましい。
・・・(省略)・・・
【0049】
吊ボルトPと振止ボルトQとを同時に仮止めした後は、作業者は、両手を自由に使える状態で、連結ボルト40の締結操作を行うことができる。よって、吊ボルトPと振止ボルトQとの連結作業を容易に行うことができる。このとき、圧縮状態の弾性部材50は、第二狭着部材30及びベース部材10を介して第一狭着部材20をナット45側に付勢し、当該ナット45が第一狭着部材20の環状突起23に形成された回り止め部24に係止する。このため、連結ボルト40の締結操作時に、ナット45の供回りを自動的に防止することができ、吊ボルトPと振止ボルトQとの連結作業をさらに容易に行うことができる。
【0050】
連結ボルト40を締め増して完全に締結すると、図8に示すように、連結ボルト40の軸部42とナット45との間に、ワッシャー53、第二狭着部材30、ベース部材10、及び第一狭着部材20が緊締された状態となる。このとき、本実施形態では、ベース部材10の環状突起13が、第二狭着部材30の環状突起33の背面側の窪みに収まるように構成されている。このため、ベース部材10のベース本体部11と第二狭着部材30の狭着本体部31とが広い範囲で面接触しており、ベース部材10と第二狭着部材30とで振止ボルトQを安定的に狭着固定することができる。
・・・(省略)・・・
【0052】
しかも、第一狭着部材20と第二狭着部材30とが同一形状に形成され、環状突起23,33の内側の多角形状の凹部が、第一狭着部材20側ではナット45の回り止めのために利用され、第二狭着部材30側では弾性部材50の収納のために利用される。よって、部品の共通化によって製造コストを低減しつつ、吊ボルトPと振止ボルトQとの連結作業を容易化することができるとともに、それらを安定的に固定することができる。」

「【0058】
(6)上記の実施形態では、第一狭着部材20と第二狭着部材30とが1つのベース部材10を共用する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば第一狭着部材20及び第二狭着部材30に対して、それぞれ専用のベース部材が設けられても良い。すなわち、連結ボルト40の締結によって、第一ベース部材と第一狭着部材20との間に吊ボルトPを狭着固定するとともに、第一ベース部材とは別部材からなる第二ベース部材と第二狭着部材30との間に振止ボルトQを狭着固定しても良い。
・・・(省略)・・・
【0062】
(10)上記の実施形態では、ボルト連結具1が吊ボルトPと振止ボルトQとを連結する構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば互いに隣り合う吊ボルトPどうしの間に2本の振止ボルトQが互いに交差しかつ吊ボルトPに交差する姿勢で配置されている場合に、それら2本の振止ボルトQどうしを連結するのにボルト連結具1を用いても良い。この場合、2本の振止ボルトQの一方が「第一ボルト」に相当し、他方が「第二ボルト」に相当する。また、3本以上のボルトを連結するのに、本実施形態のボルト連結具1を一部改変して用いても良い。」

【図2】?【図4】から、ベース部材10は1枚の板材であることを看取しうる。

なお、段落【0039】の「リブ部29」は「リブ部39」の誤記と認める。
また、上記摘記中の「狭着」は、その技術的意義からみて、「挟着」の誤記と認める。

段落【0037】及び【0039】の記載並びに【図6】及び【図7】の記載から、ガイド部29A、39Aは、吊ボルトPまたは振止ボルトQを湾曲部26、36に案内するものと認められる。
上記ア?カの記載及び【図1】?【図8】の記載からみて、甲第1号証には次の6つの発明(以下、「甲1発明1?6」という。)が記載されていると認められる。
〔甲1発明1〕
「構造体から垂設された吊ボルトPと吊ボルトPに対して交差姿勢で配設される振止ボルトQとの2本のボルトを連結するために、垂設された吊ボルトPを固定する湾曲部26を設けた第一挟着部材20と、振止ボルトQを固定する湾曲部36を設けた第二挟着部材30と、同一形状である第一挟着部材20と第二挟着部材30とが互いに反対側の面に配設され、第一挟着部材20の湾曲部26との間に吊ボルトPを挟着固定し、第二挟着部材30の湾曲部36との間に振止ボルトQを挟着固定するベース部材10とを、第二挟着部材30の挿通孔32、ベース部材10の挿通孔12、及び第一挟着部材20の挿通孔22を順に貫通して軸部42を軸として回動自在に連結される連結ボルト40とナット45とで締結するとともに、
連結ボルト40に圧縮状態で装着され、吊ボルトPが収容された状態の第一挟着部材20にベース部材10を押圧付勢するとともに、振止ボルトQが収容された状態の第二挟着部材30をベース部材10に押圧付勢する、弾性部材50を備えるボルト連結具1。」
〔甲1発明2〕
「互いに隣り合う吊ボルトPどうしの間に互いに交差する姿勢で配置されている2本の振止ボルトQどうしを連結するために、一方の振止ボルトQを固定する湾曲部26を設けた第一挟着部材20と、他方の振止ボルトQを固定する湾曲部36を設けた第二挟着部材30と、同一形状である第一挟着部材20と第二挟着部材30とが互いに反対側の面に配設され、それぞれの湾曲部26、36との間に振止ボルトQを挟着固定するベース部材10とを、第二挟着部材30の挿通孔32、ベース部材10の挿通孔12、及び第一挟着部材20の挿通孔22を順に貫通して軸部42を軸として回動自在に連結される連結ボルト40とナット45とで締結するとともに、
連結ボルト40に圧縮状態で装着され、吊ボルトPが収容された状態の第一挟着部材20にベース部材10を押圧付勢するとともに、振止ボルトQが収容された状態の第二挟着部材30をベース部材10に押圧付勢する、弾性部材50を備えるボルト連結具1。」
〔甲1発明3〕
「第一挟着部材20のリブ部29における湾曲部26の先端側の角部と、第二挟着部材30のリブ部39における湾曲部36の先端側の角部とは、それぞれR状に形成され、連結対象の吊ボルトPまたは振止ボルトQを湾曲部26、36へと案内するガイド部29A、39Aを構成し、ベース部材10には、連結対象の吊ボルトPまたは振止ボルトQを湾曲部26、36へと案内するガイド部16が形成された、甲1発明1または甲1発明2のボルト連結具1。」
〔甲1発明4〕
「ベース部材10は1枚の板材である、甲1発明1?3のいずれかのボルト連結具1。」
〔甲1発明5〕
「第一挟着部材20及び第二挟着部材30にナット45の供回りを防止する回り止め部24が設けられている、甲1発明1?4のいずれかのボルト連結具1。」
〔甲1発明6〕
「第一挟着部材20及び第二挟着部材30の湾曲部26、36の内面に構造体から垂設された吊ボルトPのネジ部又は振止ボルトQのネジ部に係止される係止突起27、37を備える、甲1発明1?5のいずれかのボルト連結具1。」

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
後者の「構造体から垂設された吊ボルトP」及び「吊ボルトPに対して交差姿勢で配設される振止ボルトQ」は、前者の「垂下された吊部材」及び「振止部材」にそれぞれ相当し、後者の「2本のボルトを連結」することは、前者の「2本の棒状体を交差状に連結する」ことに相当する。
後者の「垂設された吊ボルトPを固定する湾曲部26」は、前者の「垂下された吊部材を配設する配設機構」に相当し、後者の湾曲部26を設けた「第一挟着部材20」は、前者の配設機構を設けた「第1部材」に相当する。同様に、後者の「振止ボルトQを固定する湾曲部36」及び「第二挟着部材30」は、前者の「振止部材を配設する配設機構」及び「第2部材」に相当する。
後者の「同一形状である第一挟着部材20と第二挟着部材30とが互いに反対側の面に配設され」ることは、前者の「同一形状である第1部材と第2部材の間に介在させ」ることに相当し、後者の「それぞれの湾曲部26、36との間に吊ボルトPまたは振止ボルトQを挟着固定する」ことは、前者の「それぞれの配設機構とともに垂下された吊部材又は振止部材を挟み込む」ことに相当し、後者の「ベース部材10」は、前者の「第3部材」に相当する。
後者の「第二挟着部材30の挿通孔32、ベース部材10の挿通孔12、及び第一挟着部材20の挿通孔22」は、連結ボルト40の軸部42が貫通し、ナット45とともに三者を締結する孔であるので、前者の「緊締用に形成される挿通孔」に相当し、後者の挿通孔32、挿通孔12、及び挿通孔22を「順に貫通」することは、前者の第一挟着部材20と第二挟着部材30とベース部材10とを「重ね合わせ」た構成に相当する。
後者の「軸部42を軸として回動自在に連結される連結ボルト40とナット45」は、前者の「軸支可能な緊締具」に相当する。
後者の「締結する」ことは、前者の「緊締する」ことに相当する。
後者の第一挟着部材20と第二挟着部材30とベース部材10とを、「第二挟着部材30の挿通孔32、ベース部材10の挿通孔12、及び第一挟着部材20の挿通孔22を順に貫通して軸部42を軸として回動自在に連結される連結ボルト40とナット45とで締結する」ことは、前者の第1部材と第2部材と第3部材とを「重ね合わせ、緊締用に形成される挿通孔を介して軸支可能な緊締具で緊締する」ことに相当する。
後者の「吊ボルトPが収容された状態の第一挟着部材20にベース部材10を押圧付勢するとともに、振止ボルトQが収容された状態の第二挟着部材30をベース部材10に押圧付勢する」ことは、前者の「第1部材及び第2部材を第3部材側へ付勢作用を及ぼす」ことに相当し、後者の「連結ボルト40に圧縮状態で装着され」た「弾性部材50」は、前者の「付勢部材(弾性部材)」に相当する。
後者の「ボルト連結具1」は、その機能からみて、前者の「交差部支持金具」に相当する。
そうすると、両者は、
「垂下された吊部材と振止部材との2本の棒状体を交差状に連結するために、垂下された吊部材を配設する配設機構を設けた第1部材と、振止部材を配設する配設機構を設けた第2部材と、同一形状である第1部材と第2部材の間に介在させてそれぞれの配設機構とともに垂下された吊部材又は振止部材を挟み込む第3部材と、を重ね合わせ、緊締用に形成される挿通孔を介して軸支可能な緊締具で緊締するとともに、
第1部材及び第2部材を第3部材側へ付勢作用を及ぼす付勢部材(弾性部材)を備える交差部支持金具。」
である点で一致し、相違する点はない。
よって、本件発明1は、先願の当初明細書等に記載された発明である。

イ 本件発明2について
本件発明2と甲1発明2とを対比する。
後者の「互いに隣り合う吊ボルトPどうしの間に互いに交差する姿勢で配置されている2本の振止ボルトQ」は、前者の「垂下された吊部材に設けられる振止部材」に相当し、後者の「交差する姿勢で配置されている2本の振止ボルトQどうしを連結する」ことは、前者の「振止部材どうしの2本の棒状体を交差状に連結する」ことに相当する。
後者の「一方の振止ボルトQを固定する湾曲部26」は、前者の「一方の振止部材を配設する配設機構」に相当し、後者の湾曲部26を設けた「第一挟着部材20」は、前者の配設機構を設けた「第1部材」に相当する。同様に、後者の「他方の振止ボルトQを固定する湾曲部36」及び「第二挟着部材30」は、前者の「他方の振止部材を配設する配設機構」及び「第2部材」に相当する。
後者の「同一形状である第一挟着部材20と第二挟着部材30とが互いに反対側の面に配設され」ることは、前者の「同一形状である第1部材と第2部材の間に介在させ」ることに相当し、後者の「それぞれの湾曲部26、36との間に振止ボルトQを挟着固定する」ことは、前者の「それぞれの配設機構とともに振止部材を挟み込む」ことに相当し、後者の「ベース部材10」は、前者の「第3部材」に相当する。
後者の「第二挟着部材30の挿通孔32、ベース部材10の挿通孔12、及び第一挟着部材20の挿通孔22」は、連結ボルト40の軸部42が貫通し、ナット45とともに三者を締結する孔であるので、前者の「緊締用に形成される挿通孔」に相当し、後者の挿通孔32、挿通孔12、及び挿通孔22を「順に貫通」することは、前者の第一挟着部材20と第二挟着部材30とベース部材10とを「重ね合わせ」た構成に相当する。
後者の「軸部42を軸として回動自在に連結される連結ボルト40とナット45」は、前者の「軸支可能な緊締具」に相当する。
後者の「締結する」ことは、前者の「緊締する」ことに相当する。
後者の第一挟着部材20と第二挟着部材30とベース部材10とを、「第二挟着部材30の挿通孔32、ベース部材10の挿通孔12、及び第一挟着部材20の挿通孔22を順に貫通して軸部42を軸として回動自在に連結される連結ボルト40とナット45とで締結する」ことは、前者の第1部材と第2部材と第3部材とを「重ね合わせ、緊締用に形成される挿通孔を介して軸支可能な緊締具で緊締する」ことに相当する。
後者の「吊ボルトPが収容された状態の第一挟着部材20にベース部材10を押圧付勢するとともに、振止ボルトQが収容された状態の第二挟着部材30をベース部材10に押圧付勢する」ことは、前者の「第1部材及び第2部材を第3部材側へ付勢作用を及ぼす」ことに相当し、後者の「連結ボルト40に圧縮状態で装着され」た「弾性部材50」は、前者の「付勢部材(弾性部材)」に相当する。
後者の「ボルト連結具1」は、その機能からみて、前者の「交差部支持金具」に相当する。
そうすると、両者は、
「垂下された吊部材に設けられる振止部材どうしの2本の棒状体を交差状に連結するために、一方の振止部材を配設する配設機構を設けた第1部材と、他方の振止部材を配設する配設機構を設けた第2部材と、同一形状である第1部材と第2部材の間に介在させてそれぞれの配設機構とともに振止部材を挟み込む第3部材と、を重ね合わせ、緊締用に形成される挿通孔を介して軸支可能な緊締具で緊締するとともに、
第1部材及び第2部材を第3部材側へ付勢作用を及ぼす付勢部材(弾性部材)を備える交差部支持金具。」
である点で一致し、相違する点はない。
よって、本件発明2は、先願の当初明細書等に記載された発明である。

ウ 本件発明3について
本件発明3と甲1発明3とを対比する。
後者の「第一挟着部材20のリブ部29における湾曲部26の先端側の角部」の「ガイド部29A」と「第二挟着部材30のリブ部39における湾曲部36の先端側の角部」の「ガイド部39A」とは、「連結対象の吊ボルトPまたは振止ボルトQを湾曲部26、36へと案内する」ものであるので、後者の「第一挟着部材20のリブ部29における湾曲部26の先端側の角部と、第二挟着部材30のリブ部39における湾曲部36の先端側の角部とは、それぞれR状に形成され、連結対象の吊ボルトPまたは振止ボルトQを湾曲部26、36へと案内するガイド部29A、39Aを構成」することは、前者の「第1部材と第2部材」「に配設機構への垂下された吊部材又は振止部材の差し込みを補助する補助機構を備える」ことに相当する。
また、後者の「ベース部材10には、連結対象の吊ボルトPまたは振止ボルトQを湾曲部26、36へと案内するガイド部16が形成された」ことは、前者の「第3部材に配設機構への垂下された吊部材又は振止部材の差し込みを補助する補助機構を備える」ことに相当する。
そうすると、両者は、
「第1部材と第2部材又は/及び第3部材に配設機構への垂下された吊部材又は振止部材の差し込みを補助する補助機構を備える本件発明1又は2の交差部支持金具。」
である点で一致し、相違する点はない。
よって、本件発明3は、先願の当初明細書等に記載された発明である。

エ 本件発明4について
本件発明4と甲1発明4とを対比する。
前者の「第3部材が、1枚又は2枚以上である」ことは、第3部材が1枚であることと複数枚であることのどちらかを選択できると解されるので、後者の「ベース部材10は1枚の板材である」ことは、前者の「第3部材が、1枚又は2枚以上である」ことに相当する。
そうすると、両者は、
「第3部材が、1枚又は2枚以上である本件発明1から3のいずれかの交差部支持金具。」
である点で一致し、相違する点はない。
なお、後者のベース部材10を、単に板材を2枚以上重ねて1のベース部材10とすることは、設計上の微差といえる。
よって、本件発明4は、先願の当初明細書等に記載された発明である。

オ 本件発明7について
本件発明7と甲1発明5とを対比する。
後者の「ナット45の供回りを防止する回り止め部24」は、前者の「締結具の共回りを防止する共回り防止手段」に相当する。
後者の「甲1発明1?4のいずれかのボルト連結具1」は、前者の「請求項1から6のいずれかに記載の交差部支持金具」のうちの「請求項1から4のいずれかに記載の交差部支持金具」に相当し、すなわち「本件発明1から4のいずれかの交差部支持金具」に相当する。
そうすると、両者は、
「第1部材又は第2部材に締結具の共回りを防止する共回り防止手段を備える本件発明1から4のいずれかの交差部支持金具。」
である点で一致し、相違する点はない。
よって、本件発明7は、先願の当初明細書等に記載された発明である。

カ 本件発明8について
本件発明8と甲1発明6とを対比する。
後者の「構造体から垂設された吊ボルトPのネジ部又は振止ボルトQのネジ部に係止される係止突起27、37」は、前者の「垂下された吊部材又は振止部材と係合する係合手段」に相当するので、後者の「第一挟着部材20及び第二挟着部材30の湾曲部26、36の内面に構造体から垂設された吊ボルトPのネジ部又は振止ボルトQのネジ部に係止される係止突起27、37を備える」ことは、前者の「第1部材及び/又は第2部材の配設機構の内側又は/及び端面に垂下された吊部材又は振止部材と係合する係合手段を備える」ことに相当する。
後者の「甲1発明1?5のいずれかのボルト連結具1」は、前者の「請求項1から7のいずれかに記載の交差部支持金具」のうちの「請求項1から4及び7のいずれかに記載の交差部支持金具」に相当し、すなわち「本件発明1から5のいずれかの交差部支持金具」に相当する。
そうすると、両者は、
「第1部材及び/又は第2部材の配設機構の内側又は/及び端面に垂下された吊部材又は振止部材と係合する係合手段を備える本件発明1から5のいずれかの交差部支持金具。」
である点で一致し、相違する点はない。
よって、本件発明8は、先願の当初明細書等に記載された発明である。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1?4、7及び8は、先願の当初明細書等に記載された発明であり、かつ、本件特許の出願人はその出願時において、先願の出願人と同一ではなく、発明者も同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求項1?4、7及び8に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、請求人の主張する無効理由2及び3について検討するまでもなく無効理由1により、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-02-05 
結審通知日 2021-02-10 
審決日 2021-02-26 
出願番号 特願2018-36905(P2018-36905)
審決分類 P 1 123・ 161- Z (F16B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 熊谷 健治  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 平田 信勝
杉山 健一
登録日 2019-03-01 
登録番号 特許第6484872号(P6484872)
発明の名称 交差部支持金具  
代理人 特許業務法人R&C  
代理人 岩田 敏  

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