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審決分類 |
審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 G02B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1373600 |
審判番号 | 不服2020-8761 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-24 |
確定日 | 2021-05-18 |
事件の表示 | 特願2015-256560「偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月11日出願公開、特開2016-126345、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特願2015-256560号(以下「本件出願」という。)は、平成27年12月28日(先の出願に基づく優先権主張 平成26年12月26日)の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和元年 9月13日付け:拒絶理由通知書 令和元年11月15日提出:意見書 令和元年11月15日提出:手続補正書 令和2年 3月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和2年 6月24日提出:審判請求書 令和2年 6月24日提出:手続補正書 令和2年12月25日付け:拒絶理由通知書 令和3年 1月12日提出:意見書 令和3年 1月12日提出:手続補正書 第2 本件発明 本件出願の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、令和3年1月12日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるところ、本件発明1は、以下のとおりのものである。 「 第1保護フィルム、第1接着剤層、偏光フィルム、第2接着剤層、及び第2保護フィルムをこの順に含み、 前記第1接着剤層は前記第1保護フィルム及び前記偏光フィルムに接しており、前記第2接着剤層は前記偏光フィルム及び前記第2保護フィルムに接しており、 前記第1接着剤層のガラス転移温度が39℃以上60℃未満であり、前記第2接着剤層のガラス転移温度が60℃以上200℃以下であり、 前記第1保護フィルムが(メタ)アクリル樹脂から構成され、前記第2保護フィルムがポリオレフィン系樹脂又はセルロースエステル系樹脂から構成される、偏光板。」 なお、本件発明2?5は、本件発明1の「偏光板」に対してさらに他の発明特定事項を付加したものである。 第3 先願明細書等の記載事項及び先願発明 1 先願明細書等の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、先の出願の日前の他の特許出願であって、先の出願後に出願公開がされた特願2013-134648号(特開2015-11094号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。 (1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 偏光子(1)の両面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に活性エネルギー線を照射してなる硬化物層により形成された接着剤層(2a)および(2b)を介して、それぞれ面に透明保護フィルム(3a)および(3b)が設けられている偏光フィルムにおいて、 片面の接着剤層(2a)は、ガラス転移温度が-60℃?30℃未満であり、 かつ前記接着剤層(2a)を形成する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、硬化性成分としてラジカル重合性化合物を含有しており、ラジカル重合性化合物の全量を100重量%としたとき、多官能ラジカル重合性化合物(A)の割合が、5重量%を超え50重量%以下であり、 他の片面に接着剤層(2b)は、ガラス転移温度が30℃以上であることを特徴とする偏光フィルム。 ・・・省略・・・ 【請求項17】 前記透明保護フィルム(3a)が環状ポリオレフィン樹脂フィルムまたはフッ化ポリスチレンフィルムであること特徴とする請求項1?16のいずれかに記載の偏光フィルム。 【請求項18】 前記透明保護フィルム(3b)がアクリル樹脂フィルム、環状ポリオレフィン樹脂フィルムまたはポリエステル樹脂フィルムであること特徴とする請求項1?17のいずれかに記載の偏光フィルム。」 (2)「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、偏光子と透明保護フィルムとを活性エネルギー線硬化型接着剤組成物により形成されて接着剤層を介して積層した偏光フィルムおよびその製造方法に関する。当該偏光フィルムはこれ単独で、またはこれを積層した光学フィルムとして液晶表示装置(LCD)、有機EL表示装置、CRT、PDPなどの画像表示装置を形成しうる。 ・・・省略・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかし、特許文献1乃至3に記載の偏光フィルムでは、接着剤層が高Tgであるため、衝撃が与えられるような落下試験においてハガレが生じるため、耐久性において十分ではなかった。また、接着剤層を形成する活性エネルギー線硬化型接着剤は、偏光子への接着性を確保するために、当該接着剤組成物の大半にヒドロキシエチルアクリルアミドやアクリロイルモルホリン等の親水性モノマーを用いる場合が多いため耐水性も十分とはいえなかった。また、特許文献4では、接着剤層が低Tgであるため、当該低Tgの接着剤層を偏光子と両面の透明保護フィルムに使用した場合には、加熱、凍結サイクル試験(ヒートショックサイクル試験)時の偏光子のクラックが発生する問題があった。 【0008】 本発明は、ヒートショッククラックの発生を防止することができ、落下試験でのハガレに対する耐久性が良好で、かつ耐水性が良好な偏光フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。 【0009】 さらに本発明は、前記偏光フィルムを用いた光学フィルム、さらには前記偏光フィルムまたは光学フィルムを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を下記偏光フィルム等により、上記課題を解決できることを見出だし本発明を完成するに到った。 【0011】 即ち本発明は、偏光子(1)の両面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に活性エネルギー線を照射してなる硬化物層により形成された接着剤層(2a)および(2b)を介して、それぞれ面に透明保護フィルム(3a)および(3b)が設けられている偏光フィルムにおいて、 片面の接着剤層(2a)は、ガラス転移温度が-60℃?30℃未満であり、 かつ前記接着剤層(2a)を形成する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、硬化性成分としてラジカル重合性化合物を含有しており、ラジカル重合性化合物の全量を100重量%としたとき、多官能ラジカル重合性化合物(A)の割合が、5重量%を超え50重量%以下であり、 他の片面に接着剤層(2b)は、ガラス転移温度が30℃以上であることを特徴とする偏光フィルム、に関する。 ・・・省略・・・ 【0023】 前記偏光フィルムにおいて、前記透明保護フィルム(3a)が環状ポリオレフィン樹脂フィルムまたはフッ化ポリスチレンフィルムであることが好ましい。また、前記透明保護フィルム(3b)がアクリル樹脂フィルム、環状ポリオレフィン樹脂フィルムまたはポリエステル樹脂フィルムであることが好ましい。 ・・・省略・・・ 【発明の効果】 【0036】 本発明の偏光フィルムは、偏光子(1)の両面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物から形成された接着剤層を介して透明保護フィルムが設けられているが、片面では、所定量の多官能ラジカル重合性化合物(A)を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物により、ガラス転移温度(以下、Tgともいう)が-60℃?30℃未満の低Tgの接着剤層(2a)を介して透明保護フィルム(3a)が設けられており、一方、他の片面では、ガラス転移温度が60℃以上の高Tgの接着剤層(2b)を介して透明保護フィルム(3b)が設けられている。高Tgの接着剤層(2b)では偏光子(1)と透明保護フィルム(3a)および(3b)とのヒートショッククラックの発生を防止することができ、また、低Tgの接着剤層(2a)では、落下試験でのハガレに対する耐久性、耐水性が良好になり、前記が良好で、かつ耐水性が良好になる。このように、本発明の偏光フィルムでは、偏光子(1)の両側で、異なるガラス転移温度の接着剤層(2a)および(2b)を設けることにより、ヒートショッククラックの発生を防止することができ、かつ、落下試験でのハガレに対する耐久性が良好で、かつ耐水性が良好な偏光フィルムを提供することができる。」 (3)「【発明を実施するための形態】 【0038】 本発明の偏光フィルムの実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。 【0039】 図1乃至図4は、本発明の偏光フィルムの一実施形態を示す断面図である。図1に示す偏光フィルムは、偏光子(1)の片面に接着剤層(2a)を介して透明保護フィルム(3a)が設けられており、偏光子(1)の他の片面には接着剤層(2b)を介して透明保護フィルム(3b)が設けられている。接着剤層(2a)および(2b)は、いずれも、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に活性エネルギー線を照射してなる硬化物層により形成されている。 【0040】 また、前記接着剤層(2a)は、ガラス転移温度が-60℃?30℃未満であり、かつ前記接着剤層(2a)を形成する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、硬化性成分としてラジカル重合性化合物を含有する。当該接着剤層(2a)は落下試験でのハガレに対する耐久性が良好で、かつ耐水性が良好である。接着剤層(2a)のガラス転移温度は、-40℃?0℃であるのが好ましく、より好ましくは-30℃?-5℃、特に好ましくは-30℃?-10℃であるのが、落下試験でのハガレに対する耐久性が良好で、かつ耐水性が良好である。 【0041】 前記接着剤層(2b)は、ガラス転移温度が30℃以上であり、偏光子(1)と透明保護フィルム(3b)とが、接着剤層(2b)を介して強固に接着しており、耐久性が良好であり、ヒートショッククラックの発生を防止することができる。「ヒートショッククラック」とは、例えば偏光子が収縮する際、延伸方向に裂ける現象を意味し、これを防止するためには、ヒートショック温度範囲(-40℃?60℃)で偏光子の膨張・収縮を抑制することが重要である。接着剤層(2b)は、ヒートショック温度範囲での接着剤層の急激な弾性率変化を抑制し、偏光子に作用する膨張・収縮力を低減することができるため、ヒートショッククラックの発生を防止することができる。接着剤層(2b)は、ガラス転移温度が30℃以上になるように選択されるが、さらには60℃以上であることが好ましく、さらには70℃以上、さらには80℃以上であることが好ましい。一方、接着剤層(2b)のガラス転移温度が高くなりすぎると偏光板の屈曲性が低下することから、接着剤層(2b)のガラス転移温度は300℃以下、さらには240℃以下、さらには180℃以下にすることが好ましい。また、前記接着剤層(2a)のガラス転移温度と前記接着剤層(2b)のガラス転移温度は、これらのガラス転移温度の差が60℃以上になるように、本発明の効果の点で好ましい。 【0042】 本発明の偏光フィルムは、偏光子(1)の片面に接着剤層(2a)を介して透明保護フィルム(3a)が設けられており、偏光子(1)の他の片面には接着剤層(2b)を介して透明保護フィルム(3b)が設けられていれば、前記透明保護フィルム(3a)および透明保護フィルム(3b)のいずれか一方の側に、更に接着剤層を介して透明保護フィルム(3c)が設けられていてもよい。図2では、図1の偏光フィルムにおける透明保護フィルム(3a)の側に、更に透明保護フィルム(3c)が設けられており、図3では、図1の偏光フィルムにおける透明保護フィルム(3b)の側に、更に透明保護フィルム(3c)が設けられている。前記透明保護フィルム(3c)の積層に用いられる接着剤層としては、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に活性エネルギー線を照射してなる硬化物層により形成された接着剤層(2a´)が好適である。接着剤層(2a´)は、前記接着剤層(2a)と同様のものを用いることができる。透明保護フィルム(3c)としては、透明保護フィルム(3a)または透明保護フィルム(3b)と同様のフィルムを用いることができる。なお、図2、図3では、接着剤層(2a´)を介して透明保護フィルム(3c)が1枚設けられているが、本発明の偏光フィルムの前記透明保護フィルム(3a)および透明保護フィルム(3b)のいずれか一方の側には、例えば、接着剤層(2a´)と透明保護フィルム(3c)を組み合わせて、透明保護フィルム(3c)を2枚以上積層することができる。 ・・・省略・・・ 【0164】 前記透明保護フィルム(3a)としては、位相差設計やフィルム強度の点から環状ポリオレフィン樹脂フィルムまたはフッ化ポリスチレンフィルムを用いることが好ましい。前記透明保護フィルム(3b)としては、コストや汎用性の点からアクリル樹脂フィルム、環状ポリオレフィン樹脂フィルムまたはポリエステル樹脂フィルムを用いることが好ましい。」 (4)図1 2 引用発明 上記1の記載に基づけば、先願明細書等の【0039】?【0041】、図1には、偏光フィルムの一実施形態として、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。 「 偏光子(1)の片面に接着剤層(2a)を介して透明保護フィルム(3a)が設けられており、偏光子(1)の他の片面には接着剤層(2b)を介して透明保護フィルム(3b)が設けられ、 前記接着剤層(2a)は、ガラス転移温度が-60℃?30℃未満であり、前記接着剤層(2b)は、ガラス転移温度が30℃以上、300℃以下である、 偏光フィルム。」 第4 当合議体の判断 1 本件発明1 (1)対比 本件発明1と先願発明とを対比する。 ア 偏光フィルム 先願発明の「偏光フィルム」は、「偏光子(1)の片面に接着剤層(2a)を介して透明保護フィルム(3a)が設けられており、偏光子(1)の他の片面には接着剤層(2b)を介して透明保護フィルム(3b)が設けられ」たものである。 上記構成からみて、先願発明の「偏光子(1)」は、本件発明1の「偏光フィルム」に相当する。 イ 第1接着剤層、第2接着剤層 先願発明の「接着剤層(2a)」及び「接着剤層(2b)」は、それぞれ、「ガラス転移温度が-60℃?30℃未満であり」及び「ガラス転移温度が30℃以上、300℃以下である」。 これに対して、本件発明1の「第1接着剤層」及び「第2接着剤層」は、それぞれ、「ガラス転移温度が39℃以上60℃未満であり」及び「ガラス転移温度が60℃以上200℃以下であ」ることから、本件発明1においては、ガラス転移温度の低いほうの接着剤層を第1接着剤層とし、ガラス転移温度の高いほうの接着剤層を第2接着剤層としている。 そうしてみると、先願発明の「接着剤層(2a)」及び「接着剤層(2b)」は、それぞれ、本件発明1の「第1接着剤層」及び「第2接着剤層」に相当する。 ウ 第1保護フィルム、第2保護フィルム 上記アの構成からみて、先願発明の「透明保護フィルム(3a)」及び「透明保護フィルム(3b)」は、それぞれ、「接着剤層(2a)」及び「接着剤層(2b)」に接しているといえる。 これに対して、本件発明1は、「前記第1接着剤層は前記第1保護フィルム及び前記偏光フィルムに接しており、前記第2接着剤層は前記偏光フィルム及び前記第2保護フィルムに接して」いることから、本件発明1においては、「第1保護フィルム」及び「第2保護フィルム」は、それぞれ、「第1接着剤層」及び「第2接着剤層」に接している。 そうしてみると、先願発明の「透明保護フィルム(3a)」及び「透明保護フィルム(3b)」は、それぞれ、本件発明1の「第1保護フィルム」及び「第2保護フィルム」に相当する。 エ 第1接着層、第2接着層、第1保護フィルム、第2保護フィルム、偏光子 上記ア?ウより、先願発明の「接着剤層(2a)」は、「透明保護フィルム(3a)」及び「偏光子(1)」に接しており、「接着剤層(2b)」は、「偏光子(1)」及び「透明保護フィルム(3b)」に接しているといえる。 そうしてみると、先願発明の「接着剤層(2a)」は、本件発明1の「第1接着剤層」の「前記第1保護フィルム及び前記偏光フィルムに接しており」との要件を満たし、先願発明の「接着剤層(2b)」は、本件発明1の「第2接着剤層」の「前記偏光フィルム及び前記第2保護フィルムに接しており」との要件を満たす。 オ 偏光板 上記ア?エを総合すると、先願発明の「偏光フィルム」は、本件発明1の「偏光板」に相当する。 また、上記アの構成からみて、先願発明の「偏光フィルム」は、「透明保護フィルム(3a)」、「接着剤層(2a)」、「偏光子(1)」、「接着剤層(2b)」及び「透明保護フィルム(3b)」をこの順に含むといえる。 そうしてみると、先願発明の「偏光フィルム」は、本件発明1の「偏光板」の「第1保護フィルム、第1接着剤層、偏光フィルム、第2接着剤層、及び第2保護フィルムをこの順に含み」との要件を満たす。 (2)一致点及び相違点 以上より、本件発明1と先願発明とは、 「 第1保護フィルム、第1接着剤層、偏光フィルム、第2接着剤層、及び第2保護フィルムをこの順に含み、 前記第1接着剤層は前記第1保護フィルム及び前記偏光フィルムに接しており、前記第2接着剤層は前記偏光フィルム及び前記第2保護フィルムに接している、偏光板。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 「第1接着剤層のガラス転移温度」及び「第2接着剤層のガラス転移温度」が、本件発明1は、それぞれ「39℃以上60℃未満」及び「60℃以上200℃以下」であるのに対して、先願発明は、それぞれ「-60℃?30℃未満」及び「30℃以上、300℃以下」である点。 (相違点2) 「第1保護フィルム」及び「第2保護フィルム」が、本件発明1は、それぞれ「(メタ)アクリル樹脂」及び「ポリオレフィン系樹脂又はセルロースエステル系樹脂」「から構成される」のに対して、先願発明は、そのように特定されていない点。 (3)判断 本件出願の【0051】には、「第1保護フィルム10と第2保護フィルム20の組み合わせの一例は、ガラス転移温度がより小さい第1接着剤層15を介して貼合される第1保護フィルム10が(メタ)アクリル樹脂から構成され、ガラス転移温度がより大きい第2接着剤層25を介して貼合される第2保護フィルム20がポリオレフィン系樹脂又はセルロースエステル系樹脂から構成される組み合わせである。このように、第1保護フィルム10と第2保護フィルム20とを比較したとき、機械物性(破断応力)のより低い保護フィルムをガラス転移温度のより低い第1接着剤層15を介して偏光フィルム30に積層することにより、加工性をより高めることができる。」と記載されている。 上記記載に基づくと、上記相違点1?相違点2に係る本件発明1の構成は、加工性をより高めるための、ひとまとまりの構成ということになる。 そこで、まず、上記相違点1について検討し、次に、上記相違点1及び相違点2について、まとめて検討する。 ア 相違点1について まず、先願明細書等には、接着剤層(2a)のガラス転移温度を39℃以上60℃未満とすることは、記載も示唆もない。 そして、先願明細書の【0040】には、「また、前記接着剤層(2a)は、ガラス転移温度が-60℃?30℃未満であり、かつ前記接着剤層(2a)を形成する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、硬化性成分としてラジカル重合性化合物を含有する。当該接着剤層(2a)は落下試験でのハガレに対する耐久性が良好で、かつ耐水性が良好である。接着剤層(2a)のガラス転移温度は、-40℃?0℃であるのが好ましく、より好ましくは-30℃?-5℃、特に好ましくは-30℃?-10℃であるのが、落下試験でのハガレに対する耐久性が良好で、かつ耐水性が良好である。」と記載されている。上記記載からは、接着剤層(2a)のガラス転移温度は、30℃よりも低くすることが好ましく、30℃を越えるものは、むしろ除外されるものと読み取れる。このことは、先願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載からも確認できる。 したがって、上記相違点1は、課題解決のための具体的手段における微差であるということができない。 イ 相違点1及び相違点2について 次に、先願明細書等には、[A]機械物性のより低い(メタ)アクリル樹脂から構成される透明保護フィルム(3a)が、ガラス転移温度がより小さい第1接着剤層を介して偏光フィルムに貼合されるとともに、[B]機械物性のより高いポリオレフィン系樹脂又はセルロースエステル系樹脂から構成される透明保護フィルム(3b)が、ガラス転移温度がより大きい第2接着剤層を介して偏光フィルムに貼合される構成とすることは、記載も示唆もない。むしろ、先願明細書の【0164】には、「前記透明保護フィルム(3a)としては、位相差設計やフィルム強度の点から環状ポリオレフィン樹脂フィルムまたはフッ化ポリスチレンフィルムを用いることが好ましい。前記透明保護フィルム(3b)としては、コストや汎用性の点からアクリル樹脂フィルム、環状ポリオレフィン樹脂フィルムまたはポリエステル樹脂フィルムを用いることが好ましい。」と記載されている。上記記載において、ガラス転移温度がより小さい「接着剤層(2a)」を介して貼合される透明保護フィルム(3a)が(メタ)アクリル樹脂から構成されるとともに、ガラス転移温度がより大きい「接着剤層(2b)」を介して貼合される透明保護フィルム(3b)がポリオレフィン樹脂フィルム又はセルロースエステル系樹脂から構成される組み合わせは、想定されていないものである(当合議体注:上記【0164】には、上記[A]及び[B]とは逆の組み合わせが記載されている。)。このことは、先願明細書の特許請求の範囲の請求項17及び18の記載からも確認できる。 したがって、上記相違点1及び相違点2の接着剤層及び保護フィルムの組み合わせは、課題解決のための具体的手段における微差であるということができない。 (4)小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、先願明細書等に記載された発明と同一であるということができない。 2 本件発明2?5について 本件発明2?5は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?5も、本件発明1と同じ理由により、先願明細書等に記載された発明と同一であるということができない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 1 原査定の拒絶の概要 原査定の概要は、理由1(拡大先願)本件出願の請求項1、3?9に係る発明は、先の出願の日前の他の特許出願であって、先の出願後に公開された特願2013-134648号(特開2015-11094号)の先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者が他の特許出願に係る上記の発明をした者と同一でなく、また本件出願時において、本件出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法29条の2の規定により、特許を受けることができない、というものである。 2 原査定についての判断 上記第4で述べたように、本件発明1?5は、先願発明と同一であるということができない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第6 当合議体が通知した拒絶の理由について 令和3年1月12日に提出された手続補正書により補正されたので、当合議体が通知した拒絶の理由は解消された。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-04-22 |
出願番号 | 特願2015-256560(P2015-256560) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(G02B)
P 1 8・ 16- WY (G02B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 薄井 義明、後藤 大思 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
関根 洋之 井口 猶二 |
発明の名称 | 偏光板 |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |