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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1373672
審判番号 不服2020-6607  
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-15 
確定日 2021-05-25 
事件の表示 特願2016- 10791「導電性反射型偏光フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月27日出願公開、特開2017-129812、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2016-10791号(以下、「本件出願」という。)は、平成28年1月22日を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 元年 9月 3日付け:拒絶理由通知書
令和 元年11月 8日 :意見書
令和 元年11月 8日 :手続補正書
令和 2年 2月10日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和 2年 5月15日 :審判請求書
令和 2年10月30日付け:拒絶理由通知書
令和 2年12月24日 :意見書
令和 2年12月24日 :手続補正書
(この手続補正書による補正を、以下「本件補正」という。)

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?5係る発明(令和元年11月8日にした手続補正後のもの)は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用例1:国際公開第2010/001763号

3 当合議体が通知した拒絶の理由
令和2年10月30日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由は、本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。

4 本願発明
本件出願の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
ワイヤグリッド偏光子と、
該ワイヤグリッド偏光子の少なくとも片側に配置され、該ワイヤグリッド偏光子を保護する保護層とを備え、
該保護層が、バインダー樹脂と金属性粒子とを含み、
該金属性粒子の一部が、該バインダー樹脂から構成される領域から突出している、
該バインダー樹脂から構成される領域の厚みが、0.15μm?10μmである、
ワイヤグリッド偏光子の金属細線からの導通が確保された導電性反射型偏光フィルム。
【請求項2】
前記金属性粒子の平均粒径Xと前記バインダー樹脂から構成される領域の厚みYとが、Y≦X≦20Yの関係を満たす、請求項1に記載の導電性反射型偏光フィルム。
【請求項3】
前記金属性粒子の平均一次粒径が、5nm?100μmである、請求項1または2に記載の導電性反射型偏光フィルム。
【請求項4】
前記金属性粒子の含有割合が、前記バインダー樹脂100重量部に対して、0.1重量部?20重量部である、請求項1から3のいずれかに記載の導電性反射型偏光フィルム。
【請求項5】
前記金属性粒子が、銀粒子である、請求項1から4のいずれかに記載の導電性反射型偏光フィルム。」

第2 当合議体の判断
1 引用例1の記載及び引用発明
(1) 引用例1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1(国際公開第2010/001763号)は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明を記載したものであるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は、光学部材及びグリッド偏光フィルムに関する。
背景技術
[0002] 表面に微細な凹凸構造を有する光学部材は、その構造に応じた特徴的な光学特性を示すことから、近年注目されている。例えば、表面に多数の微細な突起を設けることにより表面の反射を低減したモスアイと呼ばれる部材、及びサブ波長構造を利用した波長板などの光学部材が提案されている。しかしながら、光学部材の表面に構造が形成されていることから、耐擦傷性が悪いといった問題を有している。
[0003] 特許文献1(特開2003-302532号公報)では、微細な反射防止構造上に、ハードコート層を形成した反射防止部材が提案されている。しかしながら、この構成では耐擦傷性が十分とは言えず、光学部材として十分とは言えない。
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0004] 本発明の目的は、光学的に有用な微細構造を有し、且つ耐久性に優れた光学部材を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0005] 本発明者は上記課題に鑑み検討した結果、微細構造を被覆する層として、特定径の無機微粒子を含有する有機層を採用することにより上記課題を解決しうることを見出し、本発明を解決するに至った。即ち、本発明によれば、以下のものが提供される。
[0006]〔1〕 周期が900nm以下の凹凸構造を有する凹凸面を、その表面の少なくとも一部に有する凹凸基材、及び前記凹凸面上に設けられた保護層を有する光学部材であって、
前記保護層が、有機材料及び平均粒径100nm以下の無機微粒子を含むことを特徴とする、光学部材。
〔2〕 前記保護層の厚さが50nm以下である、前記光学部材。
〔3〕 前記凹凸構造が、平行に延びた畝状の構造である、前記光学部材。
〔4〕 前記凹凸基材が透明樹脂層及び前記畝に沿って延長する金属層を有する、前記光学部材。
・・・略・・・
〔6〕 前記光学部材からなるグリッド偏光フィルム。
発明の効果
[0007] 本発明の光学部材は、特徴的な光学特性を発揮しうる微細な構造を有しながら、耐擦傷性に優れるため、低反射部材、グリッド偏光子等の各種の光学部材として有用である。」

イ 「発明を実施するための最良の形態
[0009] 本発明の光学部材は、所定構造の凹凸基材、及び所定の成分を含む保護層を有する。
[0010]1.凹凸基材
(1-1.凹凸基材の材質)
凹凸基材の材質は、光学部材として機能しうる任意の材質、例えば入射した光の一部を反射又は透過させる材質とすることができる。具体的には、透明樹脂等の有機材料とすることが、光透過性能と加工の容易さの観点から好ましい。
・・・略・・・
[0022] 本発明において、凹凸基材は、上に説明した透明樹脂のみからなっていてもよく、透明樹脂に加えて他の材料と組み合わされて構成されていてもよい。例えば、後に詳述するグリッド偏光子のように、透明樹脂の層に加えて金属層を有し、これらの組み合わせにより構成されていてもよい。
[0023] (1-2.凹凸基材の形状)
本発明において、凹凸基材は、周期が900nm以下の凹凸構造を有する凹凸面を、その表面の少なくとも一部に有する。
[0024] ここで、凹凸構造の周期とは、凹凸面上の一方向に沿って観察した際に、複数の同一形状の凹凸が繰り返し現れる場合における、一つの凹凸の幅(即ち当該一方向に沿った長さ)ということを意味することができる。
・・・略・・・
[0025] 例えば、後に詳述する、図1及び図2に示す平行に延びた畝状の構造を有する凹凸基材310の場合、図2に示す凸部310Pが繰り返し現れる凹凸構造における周期は、矢印P2で示される距離となる。図2が、畝の延長方向に垂直な断面である場合において、図2で観察される凹凸形状の周期P2が900nm以下の場合、本発明の範疇に包含される。
・・・略・・・
[0031] 本発明において、凹凸構造の具体的な形状は、光学的な特性を発揮しうる様々な微細な構造とすることができるが、表面に多数の突起を有するモスアイ構造、構造複屈折波長板又は以下に詳述する、グリッド偏光子として機能しうる畝状の凹凸構造を例示することができる。
[0032] (1-3.畝状の凹凸構造)
前記畝状の凹凸構造は、凹凸基材の少なくとも一方の表面に略平行に並ぶ複数の畝を有するものである。畝の周期は、可視光線の波長よりも短いことが好ましい。該畝は、稜線が略直線状に延びるものである。畝の垂直断面形状は特に限定されないが、矩形、台形、菱形、山形などが挙げられる。
[0033] 畝の高さHは、好ましくは5?3000nm、より好ましくは20?1000nm、特に好ましくは50?300nmである。
畝間に形成される溝の幅は、好ましくは200nm以下、好ましくは20?100nmである。
畝の幅は、好ましくは25?300nmであり、畝(稜線)の長さは、好ましくは800nm以上である。
また、畝の中心間距離(ピッチ)即ち畝の周期P2は、好ましくは20?500nm、より好ましくは30?300nmである。
畝のアスペクト比(畝の高さ/畝の幅)は、好ましくは0.1?5.0、より好ましくは0.4?3.0、特に好ましくは0.8?2.0である。
[0034] 偏光分離性能などの光学特性を考慮すると、畝が略平行に周期的に(同一ピッチで)並んだものが好ましい。
・・・略・・・
[0036] 本発明において、畝状の凹凸構造は、上に述べた透明樹脂の層に加えて、畝の頂に在る金属層A及び/又は前記畝間に形成される溝の底に在る金属層Bによって構成することができる。かかる金属層A及び/又は金属層Bをさらに含むことにより、本発明の光学部材をグリッド偏光フィルムとすることができる。
[0037] グリッド偏光フィルムの金属層(グリッド線)に用いる材料としては、導電性のものが好ましく、具体的には、アルミニウム・・・略・・・等の金属が挙げられる。
・・・略・・・
[0038] 畝を有する透明樹脂基材にPVD法により金属層を形成させた場合、前記畝の頂および/または前記畝間に形成される溝の底に金属層が積層される。
[0039] 畝の頂に積層された金属層Aの形状は特に制限されず、通常は矩形、台形、円形、山形などである。金属層Aの厚さは耐擦傷性の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは30?100nm、特に好ましくは50?90nmである。前記範囲にすることにより、グリッド偏光フィルムの耐擦傷性を向上することができる。金属層Aの幅および長さは、通常、畝の頂面の形状にしたがってほぼ決まる。
[0040] 畝間に形成される溝の底に積層された金属層Bの形状は、特に制限されず、通常は矩形、台形、円形、山形などであるが、光学性能の観点から山形の形状が好ましい。金属層Bの厚さは、好ましくは100nm以下、より好ましくは30?90nm、特に好ましくは50?80nmである。金属層Bの幅および長さは、通常、溝の底面の形状にしたがってほぼ決まる。
・・・略・・・
[0043] 図1及び図2は、本発明における、透明樹脂層及び金属層を有する凹凸基材の一例を示す斜視図及び断面図である。図1及び図2に示す通り、矩形の畝310Pの頂部及び畝間部の両方に、それぞれ断面概略矩形の金属層311A及び311Bが積層された構造とすることができる。又は、図3に示す通り、畝間部の金属層311B2を、断面概略三角形の形状とすることもできる。かかる311B2のような断面形状の金属層は、金属層311Bの如く形成した金属層を、以下に詳述するエッチング等の手段により変形させることにより得ることができる。
・・・略・・・
[0055]2.保護層
本発明の光学部材は、前記凹凸基材の凹凸面上に設けられた保護層を有する。
保護層は、凹凸基材の凹凸面の少なくとも一部の上に設けることができるが、好ましくは凹凸面全面の上に設け、凹凸面を保護することができる。
[0056] 本発明において、保護層は、有機材料及び平均粒径100nm以下の無機微粒子を含むことができる。
[0057] (2-1.有機材料)
前記有機材料は、透明樹脂が好ましい。透明樹脂は、前述の透明樹脂基材を構成するものとして示した、熱硬化性樹脂、エネルギー線硬化性樹脂、およびこれらの混合物として用いることができる。
・・・略・・・
[0058] (2-2.無機微粒子)
本発明において、無機微粒子は、その粒径が、平均粒径として100nm以下、好ましくは5?100nmのものとすることができる。
本発明における平均粒径は、レーザー回折法、遠心沈降光透過法、X線透過法、電気的検知帯法、遮光法、超音波減衰分光法、画像処理法など、動的散乱法など一般的に知られる粒度分布の測定方法により各々求めることができるが、中でも、レーザー回折法、画像処理法および動的散乱法が好適に使用される。なお、本発明における平均粒径は、個数平均粒径を示す。無機微粒子は、平均粒径が100nm以下でかつアスペクト比が10以下であることが好ましく、平均粒径50nm以下でアスペクト比が5以下であることがさらに好ましい。無機微粒子として、上記の範囲にあるものを用いることにより、得られる樹脂組成物の透明性及び機械的強度を向上させることができる。
[0059] また、無機微粒子の粒径分布は、分散性の視点からなるべく狭いこと、すなわち単分散あるいは単分散に近いことが好ましい。
・・・略・・・
[0060] 無機微粒子は、金属単体からなる無機微粒子、又は金属の酸化物または硫化物からなる無機微粒子が挙げられるが、製造の観点から金属の酸化物もしくは硫化物からなる無機微粒子であることが好ましい。
[0061] 金属単体としては、Na、K、Mg、Ca、Ba、Al、Zn、Fe、Cu、Ti、Sn、In、W、Y、Sb、Mn、Ga、V、Nb、Ta、Ag、Au、Si、B、Bi、Mo、Ce、Cd、Be、Pb及びNiが好ましく、Al、Sn、Fe、In、Ti、Zn、Zr及びSiがさらに好ましい。また、二種類以上の金属を含む無機化合物を用いてもよい。
・・・略・・・
[0064] (2-3.保護層の特性)
凹凸基材の凹凸面上に形成した保護層の例を、図4に示す。図4は、図3に示す畝状の凹凸構造上に設けた保護層420を図示している。図4に示す例において、保護層420の厚さは凹凸構造の畝間の空隙の幅421G1の半分より十分に薄く、その結果、幅421G2の空隙を有した凹凸構造が、保護層420面上に形成されている。このように、保護層により凹凸構造を埋めることなく、保護層が凹凸構造に追従した形状とすることにより、凹凸構造の光学的性能を損ねることなく、凹凸構造を効果的に保護することが可能となる。
[0065] 保護層の平均厚さは、上記の通り凹凸構造の光学的性能を損ねることなく凹凸構造を保護するため、50nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは2?40nmである。なお、保護層の平均厚さとは、無機微粒子の一部が保護層表面から凸部として表れている場合は、かかる無機微粒子の凸部を除外した平均厚さである。保護層の厚さは、光学部材をウルトラミクロトーム等を用いて切断し、その断面を透過型電子顕微鏡等を用いて観察することにより測定できる。
・・・略・・・
また、保護層の平均厚さ(t)と、保護層に含まれる無機微粒子の平均直径(pd)との関係は、t:pd=1:1.01?1:10であることが、良好な保護特性を発揮する上で好ましく、さらにt:pd=1:1.04?1:7であることがさらに好ましい。上記関係において、保護層の平均厚さ(t)に比べて保護層に含まれる無機粒子の平均直径(Pd)が大きすぎると、無機粒子が欠落しやすくなり、長期耐久性が低下するため、好ましくない。また、保護層の平均厚さ(t)に比べて、保護層に含まれる無機微粒子の平均直径(Pd)が小さすぎると、耐擦傷性が低下するため好ましくない。
・・・略・・・
[0066] (2-4.保護層形成法)
本発明の保護層は、前記有機材料、無機粒子を有機溶剤に溶解、又は分散させた塗布液を、凹凸基材上に塗布し、乾燥、必要により硬化させることにより形成させることができる。
保護層を形成する凹凸基材は、保護層を均一に形成させるという観点から、保護層形成前に表面に残存する有機物を除去する工程(表面改質処理)を有することが好ましい。
・・・略・・・
[0067]3.本発明の光学部材の用途(本発明のグリッド偏光子)
本発明の光学部材は、その凹凸構造の光学的特性に対応した種々の用途に用いることができるが、好ましくは、グリッド偏光子として用いることができる。この場合、さらに好ましくは、凹凸基材として上で述べた畝状の凹凸構造を有するものを用い、グリッドの周期を所望の偏光性能を得られる幅とすることにより、グリッド偏光子として用いうる光学部材を得ることができる。さらに好ましくは、上で述べたエッチング処理を施し、図4に示すような断面構造を有するグリッド偏光子とすることにより、さらに良好な性能を付与することができる。
することができる。
実施例
[0068] 以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[0069] 下記実施例において、耐スクラッチ試験は下記の通り行なった。
(耐スクラッチ試験)
ガラス板上に、保護層を有する面を上にして試験サンプルを固定し、その上にプリズムシート(3M社製、BEFII)を、その構造体を有する面を下にして、プリズムシート上から荷璽200g/cm^(2)をかけて、ストローク幅25mm、速度30mm/sceで10往復プリズムシートを動かし、スクラッチ処理した。なお、試験サンプルがグリッド偏光フィルムの場合、試験サンプルの凹凸構造及びプリズムシートの構造体の長手方向が同じ向きになるように配置し、面に平行な方向かつ、構造体の長手方向と直角をなす方向にプリズムシートを動かし、スクラッチ処理した。スクラッチ処理後の表面において、無作為に2μm^(2)の面積で10箇所を抽出し、電解放出形走査電子顕微鏡S-4700(日立製作所製)で観察し、耐擦傷性試験後の凹凸構造の変化を以下の基準で評価した。
優良:凹凸構造が全く変化していない(変化していない観察点が、10/10)。
良:凹凸構造が全く変化していない観察点が、9/10?6/10。
中:凹凸構造が全く変化していない観察点が、5/10?3/10以上。
不可:凹凸構造が全く変化していない観察点が、2/10以下。」

ウ 「 請求の範囲
[請求項1] 周期が900nm以下の凹凸構造を有する凹凸面を、その表面の少なくとも一部に有する凹凸基材、及び前記凹凸面上に設けられた保護層を有する光学部材であって、
前記保護層が、有機材料及び平均粒径100nm以下の無機微粒子を含むことを特徴とする、光学部材。
[請求項2] 前記保護層の厚さが50nm以下である、請求項1に記載の光学部材。
[請求項3] 前記凹凸構造が、平行に延びた畝状の構造である、請求項1に記載の光学部材。
[請求項4] 前記凹凸基材が透明樹脂層及び前記畝に沿って延長する金属層を有する、請求項3に記載の光学部材。
・・・略・・・
[請求項6] 請求項1に記載の光学部材からなるグリッド偏光フィルム。」

エ 「[図1]



オ 「[図2]



カ 「[図4]



(2) 引用発明
上記(1)ウの「請求項の範囲」の記載からみて、引用例1には、[請求項1]及び[請求項3]の記載を引用する[請求項4]に係る「光学部材」の発明(以下、「引用発明」という。)として、次の発明が記載されているものと認められる。
「 周期が900nm以下の凹凸構造を有する凹凸面を、その表面の少なくとも一部に有する凹凸基材、及び前記凹凸面上に設けられた保護層を有する光学部材であって、
前記保護層が、有機材料及び平均粒径100nm以下の無機微粒子を含み、
前記凹凸構造が、平行に延びた畝状の構造であり、
前記凹凸基材が透明樹脂層及び前記畝に沿って延長する金属層を有する、光学部材。」

2 対比
(1) 対比
ア ワイヤグリッド偏光子
(ア) 引用発明の「凹凸基材」は、「平行に延びた畝状の構造であ」る、「周期が900nm以下の凹凸構造を有する」。また、引用発明の「凹凸基材」は、「前記畝に沿って延長する金属層を有する」。

(イ) 上記構成からみて、引用発明の「凹凸基材」は、「周期が900nm以下」の、すなわち複数の、「平行に延びた畝状の構造」に「沿って延長する」、複数の「金属層」からなる細線を有すると理解できる(当合議体注:この点は、引用例1の[0036]の「畝状の凹凸構造は、上に述べた透明樹脂の層に加えて、畝の頂に在る金属層A及び/又は前記畝間に形成される溝の底に在る金属層Bによって構成することができる。かかる金属層A及び/又は金属層Bをさらに含むことにより、本発明の光学部材をグリッド偏光フィルムとすることができる。」との記載からも理解できることである。)。ここで、本願発明でいう「ワイヤグリッド偏光子」とは、「ワイヤグリッド偏光子10は、基材11と基材11の少なくとも片側に形成された複数の金属細線12とを備える。」(本件出願の明細書の【0009】)ものである(当合議体注:通常の意味での「ワイヤグリッド偏光子」である。)。

(ウ)そうしてみると、引用発明の「凹凸基材」は、本願発明1の「ワイヤグリッド偏光子」に相当する。

イ 保護層
(ア) 引用発明の「光学部材」は、「周期が900nm以下の凹凸構造を有する凹凸面を、その表面の少なくとも一部に有する凹凸基材、及び前記凹凸面上に設けられた保護層を有する」。

(イ) 引用発明の「保護層」の「保護」との文言及び上記(ア)の設置場所からみて、引用発明の「保護層」は、「凹凸基材」の「凹凸面」側に配置され、「凹凸基材」を「保護」する機能を有することが理解できる。

(ウ) そうすると、引用発明の「保護層」は、本願発明1の「保護層」に相当する。また、引用発明の「保護層」は、本願発明1の「保護層」における、「ワイヤグリッド偏光子の少なくとも片側に配置され、該ワイヤグリッド偏光子を保護する」という要件を満たす。

ウ 金属性粒子
(ア) 引用発明の「保護層」は、「有機材料及び平均粒径100nm以下の無機微粒子を含」む。

(イ) 上記(ア)の構成からみて、引用発明の「有機材料」は、「無機微粒子」のバインダー樹脂として機能するものである(引用例1の[0066]の「本発明の保護層は、前記有機材料、無機粒子を有機溶剤に溶解、又は分散させた塗布液を、凹凸基材上に塗布し、乾燥、必要により硬化させることにより形成させることができる。」との記載からも理解できることである。)。また、引用発明の「無機微粒子」は、その文言のとおり「粒子」である。

(ウ) そうしてみると、引用発明の「有機材料」は、本願発明1の「バインダー樹脂」に相当する。また、引用発明の「無機微粒子」と、本願発明1の「金属性粒子」とは、「粒子」である点で共通する。さらに、引用発明の「保護層」と、本願発明1の「保護層」は、「バインダー樹脂と」「粒子とを含」む点において共通する。

エ 導電性反射型偏光フィルム
前記ア?ウ並びに引用発明及び本願発明の全体構成からみて、引用発明の「光学部材」と、本願発明1の「導電性反射型偏光フィルム」とは、「光学部材」である点で共通するといえる。
また、引用発明の「光学部材」と、本願発明1の「導電性反射型偏光フィルム」とは、「ワイヤグリッド偏光子と」、「保護層とを備え」る点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は、次の構成で一致する。
「ワイヤグリッド偏光子と、
該ワイヤグリッド偏光子の少なくとも片側に配置され、該ワイヤグリッド偏光子を保護する保護層とを備え、
該保護層が、バインダー樹脂と粒子とを含む、
光学部材。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は、次の点で相違する、又は一応相違する。
(相違点1)
「粒子」が、本願発明1は、「金属性」であり、「一部が、該バインダー樹脂から構成される領域から突出している」のに対して、引用発明は、「無機」と特定されるにとどまり、また、突出しているとは特定がなされていない点。
そして、「光学部材」が、本願発明1は、「ワイヤグリッド偏光子の金属細線からの導通が確保された」とされる、「導電性反射型偏光フィルム」であるのに対して、引用発明は、そのような特定がなされていない(「無機粒子」が金属性で突出しているとは限らないから導通が確保された導電性のものとは限らず、また、反射性かも、一応、明らかではない)点。

(相違点2)
本願発明1は、「該バインダー樹脂から構成される領域の厚みが、0.15μm?10μmである」のに対して、引用発明は、そのような特定がなされていない点。

3 判断
事案に鑑み、相違点2についてまず検討する。
ア 引用例1でいう「発明が解決しようとする課題」は、「光学的に有用な微細構造を有し、且つ耐久性に優れた光学部材を提供する」ことである(引用例1の[0004])。
また、引用例1でいう「発明」の「課題を解決するための手段」に関し、引用例1の[0005]?[0006]には、「微細構造を被覆する層として、特定径の無機微粒子を含有する有機層を採用することにより上記課題を解決しうることを見出し、本発明を解決するに至った。」、「即ち、本発明によれば、以下のものが提供される。・・・〔1〕 周期が900nm以下の凹凸構造を有する凹凸面を、その表面の少なくとも一部に有する凹凸基材、及び前記凹凸面上に設けられた保護層を有する光学部材であって、前記保護層が、有機材料及び平均粒径100nm以下の無機微粒子を含むことを特徴とする、光学部材。」との記載がある。
そうしてみると、引用発明の「保護層」が「平均粒径100nm以下の無機微粒子を含む」ことは、上記の「光学的に有用な微細構造を有し、且つ耐久性に優れた光学部材を提供する」との課題を解決するための必須の構成(技術的特徴)であると理解できる。
また、引用例1でいう「本発明」の上記課題における「耐久性」とは、引用例1の「背景技術」の[0002]?[0003]の記載からみて、「耐擦傷性」の意味も含むことが理解できる(当合議体注:引用例1でいう「本発明」の実施例([0068]?[0069])において、耐スクラッチ試験(耐擦傷性試験)を行い、試験後の凹凸構造の変化を評価していることからも理解できる。)。

イ ここで、引用発明の「保護層の特性」について、引用例1の[0065]には、「保護層の平均厚さは、上記の通り凹凸構造の光学的性能を損ねることなく凹凸構造を保護するため、50nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは2?40nmである。なお、保護層の平均厚さとは、無機微粒子の一部が保護層表面から凸部として表れている場合は、かかる無機微粒子の凸部を除外した平均厚さである。」、「保護層の平均厚さ(t)と、保護層に含まれる無機微粒子の平均直径(pd)との関係は、t:pd=1:1.01?1:10であることが、良好な保護特性を発揮する上で好ましく、さらにt:pd=1:1.04?1:7であることがさらに好ましい。」、「上記関係において、保護層の平均厚さ(t)に比べて保護層に含まれる無機粒子の平均直径(Pd)が大きすぎると、無機粒子が欠落しやすくなり、長期耐久性が低下するため、好ましくない。また、保護層の平均厚さ(t)に比べて、保護層に含まれる無機微粒子の平均直径(Pd)が小さすぎると、耐擦傷性が低下するため好ましくない。」との記載がある。
引用例1の[0065]の記載からは、引用発明の「保護層」の「平均厚さ(t)」と、「保護層に含まれる無機微粒子」の「平均直径(pd)」との関係は、「保護層」による「良好な保護特性」を発揮する上で、「t:pd=1:1.01?1:10」であることが好ましいこと、具体的には、「保護層」の「平均厚さ(t)」に比べて保護層に含まれる「無機粒子」の「平均直径」が大きすぎる(すなわち「t:pd」が「1:10」を超える)と、無機粒子が欠落しやすく、長期耐久性が低下するため、好ましくなく、保護層の平均厚さ(t)に比べて、保護層に含まれる無機微粒子の「平均直径」が小さすぎる(すなわち「t:pd」が「1:1.01」より小さくなる)と、耐擦傷性が低下するため好ましくないこと、が理解できる。

ウ 前記アで述べたとおり、引用発明は、「光学的に有用な微細構造を有し、且つ耐久性に優れた光学部材を提供する」との課題を解決するために、「保護層」が「平均粒径100nm以下の無機微粒子」を含むことを必須の構成とするものである(ここで、上記課題の「耐久性」は、「耐擦傷性」の意味も含む)。
してみると、引用発明を具体化する当業者は、前記イの[0065]の記載に基づき、無機微粒子が欠落し、長期耐久性が低下することがなく、また、耐擦傷性が低下することがないよう、無機微粒子の平均直径(pd)と、保護層の平均厚さ(t)(本願発明の「バインダー樹脂から構成される領域の厚み)」に相当)が、「t:pd=1:1.01?1:10」との関係を満たすように設定する。そして、上記関係からは、無機微粒子の平均直径(pd)が大きいほど、保護層の平均厚さ(t)の上限値(pd=t/1.01)が大きくなることが理解できるところ、引用発明において、無機微粒子の平均粒径(直径)を100nm(最大)としたとしても、保護層の平均厚さ(t)は最大でも99nm程度に留まる(当合議体注:仮に、引用発明において、保護層の平均厚さ(t)を150nm(0.15μm)以上とする(「t:pd」が「1:1.01」より小さくなる)と、保護層の平均厚さ(t)に比べて、保護層に含まれる無機微粒子の「平均直径」が小さすぎ、耐擦傷性が低下してしまい、「光学的に有用な微細構造を有し、且つ耐久性に優れた光学部材を提供する」との課題を解決することができなくなってしまう。)。
また、「周期が900nm以下の凹凸構造を有する」引用発明において、凹凸面(凹凸基材)の保護層の厚みを0.15μm?10μmとすることが周知技術であるともいえない(当合議体注:仮に、このような周知技術が存在していたとしても、「保護層」が「平均粒径100nm以下の無機微粒子を含む」ことを必須の構成とする引用発明において、課題が解決できなくなってしまう、厚みが0.15μm?10μmの保護層を採用しようとは、当業者は考えない。)。
そうしてみると、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるということはできない。

ウ 以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、たとえ当業者といえども、引用例1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。

4 本願発明2?本願発明5について
本願発明2?本願発明5は、本願発明1の構成に対して、さらに他の発明特定事項を付加してなる「導電性反射型偏光フィルム」である。
そうしてみると、上記3で示した理由と同様な理由により、これら発明についても、たとえ当業者といえども、引用例1に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるということができない。

第3 原査定の拒絶の理由について
前記「第2」で述べたとおりであるから、原査定の拒絶の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。

第4 当合議体が通知した拒絶の理由について
本件補正により、当合議体が通知した拒絶の理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由及び当合議体が通知した拒絶の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-05-07 
出願番号 特願2016-10791(P2016-10791)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 後藤 大思  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 福村 拓
河原 正
発明の名称 導電性反射型偏光フィルム  
代理人 籾井 孝文  

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