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審決分類 |
審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1373766 |
審判番号 | 不服2020-8494 |
総通号数 | 258 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-06-18 |
確定日 | 2021-05-06 |
事件の表示 | 特願2018-148146「映像コンテンツ媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月14日出願公開、特開2019- 40659〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2017年(平成29年)8月23日を国際出願日とする特願2018-529307号の一部を平成30年8月7日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 1年 8月 5日付け:拒絶理由通知 同年12月17日 :意見書の提出、手続補正 令和 2年 3月18日付け:拒絶査定 同年 6月18日 :拒絶査定不服審判請求 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和1年12月17日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりのものである。 なお、各構成の符号A?Fは、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成A?構成Fと称する。 (本願発明) 【請求項1】 A 映像ストリームと、メニューまたは字幕等のグラフィック情報を記録する映像コンテンツ媒体であり、 B 前記映像ストリームの少なくとも1つが広輝度域映像であり、 C 輝度調整機能に使用する調整値が変化しない静的メタデータと、前記調整値が変化する動的メタデータとを有し、 D 前記静的メタデータと前記映像ストリームに付随する前記動的メタデータとを切り替える際の遷移時間を示すグラフィック遷移時間情報と、前記グラフィック情報とを一緒に格納し、 E 映像再生装置に読み込まれて前記映像ストリームおよび前記グラフィック情報が再生されるとともに、 F 前記映像再生装置に、 グラフィック合成の際に行う輝度調整において、前記動的メタデータに基づくピーク輝度情報から前記静的メタデータに基づくピーク輝度情報に、前記遷移時間で指定された時間をかけて切り替えさせる、 A 映像コンテンツ媒体。 第3 原査定の理由 令和2年 3月18日付け拒絶査定の理由の概要は以下の通りである。 (発明該当性)この出願の請求項1に記載されたものは、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。 記 請求項1に係る映像コンテンツ媒体は、「映像ストリーム」、「グラフィック情報」、「静的メタデータ」、「動的メタデータ」、「グラフィック遷移時間情報」という、「映像コンテンツ媒体」に記録されたデータが含むデータ要素の内容を定義したものにすぎない。 また、手続補正により補正された請求項1の、 「映像再生装置に読み込まれて前記映像ストリームおよび前記グラフィック情報が再生されるとともに、 前記映像再生装置に、 グラフィック合成の際に行う輝度調整において、前記動的メタデータに基づくピーク輝度情報から前記静的メタデータに基づくピーク輝度情報に、前記遷移時間で指定された時間をかけて切り替えさせる、」 という事項は、依然として、再生装置における処理を規定しているにすぎない。 したがって、請求項1に係る映像コンテンツ媒体は、全体としてみて、人為的な取決めに止まるから、自然法則を利用した技術思想の創作ではなく、「発明」に該当しない。 よって、本願の請求項1に係る発明は、依然として、特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができない。 第4 判断 1.本願発明の「映像コンテンツ媒体」の発明特定事項について (1)「映像コンテンツ媒体」に記録される情報の構成 本願発明の「映像コンテンツ媒体」に記録される情報は、「映像ストリーム」(構成A)と、「メニューまたは字幕等のグラフィック情報」(構成A)と、「輝度調整機能に使用する調整値が変化しない静的メタデータ」(構成C)、「前記調整値が変化する動的メタデータ」(構成C)と、「前記静的メタデータと(中略)前記動的メタデータとを切り替える際の遷移時間を示すグラフィック遷移時間情報」(構成D)である。 また、「前記映像ストリームの少なくとも1つが広輝度域映像であり」(構成B)、「動的メタデータ」は「前記映像ストリームに付随する」ものであり、「グラフィック遷移時間情報」と「前記グラフィック情報」とは一緒に格納される(構成D)。 (2)「映像コンテンツ媒体」に関連する情報処理 本願発明の「映像コンテンツ媒体」は、「映像再生装置に読み込まれて前記映像ストリーム及び前記グラフィック情報が再生される」ものであり(構成E)、「前記映像再生装置に、グラフィック合成の際に行う輝度調整において、前記動的メタデータに基づくピーク輝度情報から前記静的メタデータに基づくピーク輝度情報に、前記遷移時間で指定された時間をかけて切り替えさせる」(構成F)ものである。 そうすると、本願発明の「映像コンテンツ媒体」に関連する情報処理は、『映像コンテンツ媒体が映像再生装置に読み込まれて、映像ストリーム及びグラフィック情報が再生される』という情報処理と、『前記映像再生装置に、グラフィック合成の際に行う輝度調整において、前記動的メタデータに基づくピーク輝度情報から前記静的メタデータに基づくピーク輝度情報に、前記遷移時間で指定された時間をかけて切り替えさせる』という情報処理であるといえる。 2.発明該当性についての判断 2-1.「映像コンテンツ媒体」に記録された情報について まず、本願発明の「映像コンテンツ媒体」に記録された情報について検討する。 (1)「映像コンテンツ媒体」に記録された情報が「プログラム」であるかどうかについて 本願発明の「映像コンテンツ媒体」に記録された情報である、「映像ストリーム」、「グラフィック情報」、「静的メタデータ」、「動的メタデータ」、「グラフィク遷移時間情報」は、上記1(1)のとおりであり、これらの情報は、コンピュータが果たす複数の機能を、コンピュータに対する指定であって、一の結果を得ることが出来るように組み合わされたものとして、手順ないし機能実現手段として特定したものではなく、特許法第2条第4項における「プログラム」ではない。 (2)「映像コンテンツ媒体」に記録された情報のデータ構造について (2-1)本願発明の「映像コンテンツ媒体」に記録された情報は、上記1(1)のとおりであって、「少なくとも1つが広輝度域映像」である「映像ストリーム」、「グラフィック情報」、「静的メタデータ」、「動的メタデータ」、「静的メタデータと動的メタデータとを切り替える際の遷移時間を示すグラフィック遷移時間情報」からなり、「動的メタデータ」は「映像ストリームに付随する」ものであり、「グラフィック遷移時間情報」は「グラフィック情報」と「一緒に格納」される。 (2-2)すなわち、本願発明の「映像コンテンツ媒体」に記録された情報は、 ・「動的メタデータ」は「映像ストリームに付随する」という、 また、 ・「グラフィック遷移時間情報」は「グラフィック情報」と「一緒に格納される」という、 データ要素間の関係を有しているといえる。 (2-3)上記(2-1)、(2-2)を総合すると、本願発明の「映像コンテンツ媒体」に記録された情報は、「動的メタデータ」が「映像ストリームに付随する」という事項と、「グラフィック遷移時間情報」が「グラフィック情報」と「一緒に格納」されるという事項のそれぞれにおいて、データ要素間の関係を有しているという点で「データ構造」を有するものということができる。 (3)「映像コンテンツ媒体」に記録された情報が「プログラムに準ずる」データ構造を有しているかどうかについて (3-1)本願発明の「映像コンテンツ媒体」に関連する情報処理は、上記1(2)のとおりであり、構成E及び構成Fにより特定される情報処理である。 すなわち、 ・映像コンテンツ媒体が映像再生装置に読み込まれて、映像ストリーム及びグラフィック情報が再生される情報処理、 ・映像再生装置に、グラフィック合成の際に行う輝度調整において、前記動的メタデータに基づくピーク輝度情報から前記静的メタデータに基づくピーク輝度情報に、前記遷移時間で指定された時間をかけて切り替えさせる情報処理、 である。 (3-2)そうすると、本願発明において、「動的メタデータ」と「映像ストリーム」が有するデータ要素間の関係、及び「グラフィック遷移時間情報」と「グラフィック情報」が有するデータ要素間の関係、により定められる情報処理とは、 (i)映像再生装置に読み込まれて映像ストリームおよびグラフィック情報が再生されること、 (ii)映像再生装置に、グラフィック合成の際に行う輝度調整において、動的メタデータに基づくピーク輝度情報から静的メタデータに基づくピーク輝度情報に、グラフィック遷移時間情報により示される遷移時間で指定された時間をかけて切り替えさせること、 である。 (3-3)ここで、上記(3-2)(i)について、映像再生装置に読み込まれて映像ストリームおよびグラフィック情報が再生されることは、上記(2-3)のデータ要素間の関係に基づく「データ構造」と関連するものではない。 また、上記(3-2)(ii)について、上記(2-3)のデータ要素間の関係に基づく「データ構造」が有するデータ要素間の関係により定まる情報処理は、グラフィック情報と動的メタデータとグラフィック遷移時間、というデータ要素のうち、グラフィック遷移時間情報とグラフィック情報が一緒に格納されていることに基づいて、グラフィック合成の際に行う輝度調整において、動的メタデータに基づくピーク輝度情報が用いられて、グラフィック付随時間情報により示される遷移時間に基づく切り替え処理が行われるという程度に過ぎないものである。 (3-4)そうすると、本願発明の「映像コンテンツ媒体」に記録された情報のデータ要素間の関係によるデータ構造は、切り替え処理に用いられる演算対象である、グラフィック情報と動的メタデータとグラフィック遷移時間、というデータ要素のうち、その一部である、グラフィック遷移時間情報とグラフィック情報、が一緒に格納されていることを示すのみであり、当該データ要素間の関係が、コンピュータに対する指令が一の結果を得ることができるように組み合わされたプログラムに類似する性質を有しているとはいえず、すなわち、何ら電子計算機による処理を規定するものではなく、プログラムに準ずるものではない。 (3-5)したがって、本願発明の「映像コンテンツ媒体」に記録された情報は、特許法第2条第4項に規定された「プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう)その他電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの」ということはできない。 2-2.「映像コンテンツ媒体」について 次に、これらの情報が記録された「映像コンテンツ媒体」について検討する。 本願発明の「映像コンテンツ媒体」は、上記2-1の(2-3)のように、「動的メタデータ」が「映像ストリームに付随する」という事項と、「グラフィック遷移時間情報」が「グラフィック情報」と「一緒に格納」されるという事項のそれぞれにおいて、データ要素間の関係を有しているという点で、「データ構造」を有する情報を記録しているものということができる。 また、本願発明の「映像コンテンツ媒体」に基づく情報処理は、上記2-1の(3-2)のように、(i)映像再生装置に読み込まれて映像ストリームおよびグラフィック情報が再生されること、(ii)グラフィック合成の際に行う輝度調整において、動的メタデータに基づくピーク輝度情報から静的メタデータに基づくピーク輝度情報に、グラフィック遷移時間情報により示される遷移時間で指定された時間をかけて切り替えさせること、であるといえる。 しかしながら、上記2-1の(3-4)のとおり、本願発明のデータ要素間の関係によるデータ構造は、プログラムに準ずる構造を有しているとはいえず、当該データ要素間の関係が、コンピュータに対する指令が一の結果を得ることができるように組み合わされたプログラムに類似する性質を有しているとはいえず、プログラムに準ずるものとはいえない。 したがって、本願発明の「映像コンテンツ媒体」は、特許法第2条第4項に規定する「プログラム」または「プログラムに準ずるもの」を記録したものを特定していない。 2-3.小活 以上のことから、本願発明は、全体としてみて、「データ構造」に基づく情報処理を具体的に特定するものではなく、「人為的な取決め」を記載したにとどまるものであって、特許法第2条柱書きにおける「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではなく、特許法第29条第1項柱書きに規定する「発明」に該当しない。 3.審判請求書の主張について 請求人は、令和2年6月18日の審判請求書の「<本願発明が特許されるべき理由>」において、 「特許請求の範囲に記載された本願発明は、「前記映像再生装置に、グラフィック合成の際に行う輝度調整において、前記動的メタデータに基づくピーク輝度情報から前記静的メタデータに基づくピーク輝度情報に、前記遷移時間で指定された時間をかけて切り替えさせる」映像コンテンツ媒体でございます。 したがって、やはり、特許請求の範囲に記載された本願発明は、「映像コンテンツ媒体」自体が、コンピュータによる情報処理を規定しており、かつ、「映像コンテンツ媒体」として、プログラムに類似する性質を有するものであると考えられるため、「発明」に該当致します」 と主張している。 しかしながら、上記2-1の(2-1)、2-2において判断したとおり、本願の請求項1において、本願発明の「映像コンテンツ媒体」は、映像ストリーム、グラフィック情報、静的メタデータ、映像ストリームに付随する動的メタデータ、静的メタデータと動的メタデータとを切り替える際の遷移時間を示し、グラフィック情報と一緒に格納されるグラフィック遷移時間情報、を格納していることを定めたものである。 本願発明の「映像コンテンツ媒体」に関連する情報処理については、上記2-1の(3-1)、2-2のとおりであって、「映像ストリーム及びグラフィック情報が再生される」処理、及び「グラフィック合成の際に行う輝度調整において、前記動的メタデータに基づくピーク輝度情報から前記静的メタデータに基づくピーク輝度情報に、前記遷移時間で指定された時間をかけて切り替えさせる」処理である。 そして、当該コンテンツ媒体に格納され、当該処理を行うときに供される情報は、上記2-1の(3-3)、2-2のとおりであって、グラフィック遷移情報とグラフィック情報が一緒に格納されていることが特定されているという程度にすぎない。 そうすると、上記2-1の(3-4)、2-2のとおり、上記の「映像コンテンツ媒体」に格納された情報のデータ構造が、コンピュータに対する指令が一の結果を得るように組み合わされたプログラムに類似する性質を有していない、すなわち、何ら電子計算機による処理を規定するものではなく、特許法第2条第4項に規定された「プログラム」または「プログラムに準ずるもの」ということはできない。 以上のことから、上記2-3のとおり、本願発明は、全体としてみて、「データ構造」に基づく情報処理を具体的に特定するものではなく、「プログラム」または「プログラムに準ずるもの」ということはできず、「人為的な取決め」を記載したにとどまるものであって、特許法第2条柱書きにおける「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではなく、特許法第29条第1項柱書きに規定する「発明」に該当しない。 したがって、請求人の審判請求書による上記主張は、採用することができない。 4.まとめ 以上のとおりであるから、本願請求項1の「映像コンテンツ媒体」は、「情報の単なる提示」を行うものであるから、特許法第2条第1項における「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではなく、特許法第29条第1項柱書でいう「発明」に該当しない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-02-26 |
結審通知日 | 2021-03-02 |
審決日 | 2021-03-19 |
出願番号 | 特願2018-148146(P2018-148146) |
審決分類 |
P
1
8・
1-
Z
(G11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 斎藤 眞 |
特許庁審判長 |
清水 正一 |
特許庁審判官 |
五十嵐 努 川崎 優 |
発明の名称 | 映像コンテンツ媒体 |
代理人 | 吉竹 英俊 |
代理人 | 有田 貴弘 |